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液晶(Liquid crystal)
固体と液体の中間的な状態であり、生体膜の基本構造となる脂質二重層膜は液晶の1つと見做すことが出来る。実際に脂質分子集合体は液晶の相構造である。ネマティック相(Nematic phase )やスメクティック相(Smectic phase)などとの相関も示されている。
ネマティック相 スメクティック相
脂質二重層膜が流動相に転移して取る相を液晶相(liquid crystalline phase)
と呼んでいる。
均一状態 (Homogeneous) 相分離状態 (Phase-separated)
凍結活断電子顕微鏡で観察された流動相(J)とリップル相(B)の相分離
GHetero-GHomo<0 GHetero-GHomo>0
リン脂質の二重層膜の相分離(Phase separation)
・相転移は異なる相構造の間を温度変化などで協同的に移行する現象であるが、異なる相構造が共存して存在することがある。 このとき、異なる相(phase)の間に相平衡が存在しており、相分離の状態は相図として表現で
きる。 リン脂質二重膜では脂質2成分系での相分離が広く研究されている。 生体膜は脂質の多成分系であるが、相分離の存在が観察されておりこれは生体膜内に不均一な領域を形成させることから、その物性の相違により生体膜の機能制御が行われていると推測されている。
Ca2+によるDPPC/DPPA(2:1)2成分系の相分離
Ca2+/DPPA比
2成分が混合した単一の相転移ピークを示す
転移エンタルピーが減少する
DPPC が低温側にDPPAが高温側に分離する
DPPCの転移が出現しDPPAの転移は測定温度外に移行する
示差走査熱量計(DSC)による観察
相転移温度が大きく異なる脂質2成分系の相分離
相転移温度
DMPC:23℃
DSPC:54℃
DMPCとDSPCは混合性(Miscibility)が低いために相分離している。
断熱示差走査微少熱量計(Privalov DASM4)
0 10 20 30 40 50 60 70
DMPC/DSPC DMPC DSPC
Temperature [ C]
2成分系の相図(A成分とB成分の組成比と温度との関係)
左図は二硫化炭素(CS2)とベンゼン(C6H6)の2成分系の相図である。L
は液相(liquid)、Gは気相(gas)、L+G
は液相と気相の共存相である。気相線の高温側は気相、液相線の低温側は液相である。P点の組成で温度を上昇させるとA点で気相の生成
か始まり、その時の気相の各成分の組成はA’点から垂線を横軸に下
ろした点になる。液相の組成は温度の上昇につれて液相線から垂線を横軸に下ろした点を移動する。また、その時の気相の組成はA’点
から気相線を移動する点から垂線を横軸に下ろした点になる。
沸点
二硫化炭素 46.5 ℃
ベンゼン 80.1 ℃
気相
液相
理想2成分系ではA成分の液相での化学ポテンシャルは
非理想的な混合に対する相図の計算
[Lee, A.G. (1978) Biochim. Biophys. Acta 507, 433-444 ]
liquid
AA
ideal
A xRT ln0
2成分が固相で完全にimmiscibleと仮定すれば凝固点を表す次の式が導かれる。
TTR
Hx
A
Aliquid
A
11ln
非理想的な混合に対する化学ポテンシャルのギブス自由エネルギー項は
A
EAA
x
GxG 1 であり, G=G ideal +GE と考えれば
(GEは混合の過剰自由エネルギー)
A
EAE
ideal
AAx
GxG
1 となる。もし、2成分が液相で完全にimmiscibleと仮定す
れば
A
Eliquid
AE
A
Aliquid
Ax
GxG
RTTTR
Hx 1
111ln
また、もし、液相で混合が理想的であれば、同じmol fractionが他の温度Tideal で実現され、
となる。
idealA
Aliquid
ATTR
Hx
11ln である。 よって、上の2式から
TTR
H
x
GxG
RT ideal
A
A
Eliquid
AE
111
1を得る。 ここで、一般的な近似として
liquid
A
liquid
A
liquid
B
liquid
AE xxxxG 100
この式は、液相での理想性からの変位を考慮に入れた相図の計算を可能にしている。
・液相および固相で混合が非理想な場合
固相での化学ポテンシャルは
を得る。
20
,0 1ln solid
A
solidsolid
A
solid
A
solid
A xxRT
20
,0 1ln solid
A
solidsolid
A
solid
B
solid
B xxRT
固相での化学ポテンシャルは 20
,0 1ln liquid
A
liquidliquid
A
liquid
A
liquid
A xxRTx
20
,0 1ln liquid
A
liquidliuid
A
liquid
B
liquid
B xxRTx
液相と固相において、それぞれ平衡が成立しているので各相の化学ポテンシャルが等しくなり
TTR
H
RT
xx
TTx
x
A
A
solid
A
solidliquid
A
liquid
A
solid
A
liquid
A 11)1()1(11ln
2
0
2
0 と
TTR
H
RT
xx
x
x
B
B
solid
A
solidliquid
A
liquid
solid
A
liquid
A 11)()(
1
1ln
2
0
2
0
が導かれる。この2式を連立方程式とし、TA、TB、ρ0を与えて数値計算により解を求めれば、相図が得られる。
次に、パラメーターρ0 の意味を考える。過剰モルギブス自由エネルギーexcess molar Gibbs free energyをGE =HE -TSE と定義すると GE =0のとき、理想溶液ideal solution HE =0のとき、athermal solution SE =0のとき、regular solution である。
athermal solution のとき、Wilson (1964) J. Am. Chem. Soc. 86, 127-130 によればA分子の周囲にB分子を見いだす確率とA分子を見いだす確率の比は、
AB
A
BAAAB
A
B
AA
AB
Fx
x
RT
EE
x
x
RT
Ex
RT
Ex
x
x
B
A
A
B
AA
AB
exp
exp
exp
νA ,νB :pure A, B のモル体積である。
athermal solution のFlory-Huggins 理論 (1942) J. Chem. Phys. 10, 51-61によると GE =RTΣxi ln(φi /xi )
φi : i成分の体積分率 volume fraction of i
xi : i成分のモル分率 mol fraction of I であり、Wilsonはこれらの体積分率を実験的に局所体積分率local volume fraction,fA ,fB で再定義し
最終的には、対称性からFAB=FBAとしてもよいことも用て、そのとき、
xA =xB =1/2 では 14
exp2 0 RT
FAB となる。
これはimmiscibilityの程度を表すρ0から2成分系において、ある分子の隣に同種の分子を見出すが、異種の分子を見出すかの確率を求められることを示している。
DPPC/DPPAの2成分系相図 理論計算と実測
Fatty acid composition [%]
Smooth area Rough area
C14:0 9.3 > 6.1
C16:0 24.4 > 19.3
C18:0 1.3 1.6
C16:1 8.4 8.0
C18:1 17.6 < 19.3
C18:2 14.7 < 19.0
C18:3 11.3 < 15.5
DPPCを加えた培地で39.5 ℃で培養したTetrahymena 細胞を15 ℃に低温シフトさせた時の小胞体膜内の膜蛋白質分布
(凍結割断電子顕微鏡観察 X60,000))
テトラヒメナ細胞の小胞体膜での相分離と相分離領域の脂肪酸構成
膜蛋白質が少ない領域(Smooth area)と多く含む領域(Rough area)を密度勾配遠心により分離し、それぞれの脂肪酸酸組成を分析した。
生体膜は多様な分子種を含み物理的・化学的な因子の変化が相分離を誘起する。
Rough area
Smooth area
蛍光偏光異方性(偏光解消)の測定系の装置の配置図
Monochromator
Monochromator
Polarizer
Ver
tic
al(p
ara
llel)
Horizontal(perpendicular)
IVH
IVV
Lightsource
Vertical
polari
zer
Anisotropy: r =IVV-G・IVH
IVV+2G・IVHG=
IHV
IHH偏光板を挿入したときの補正係数
垂直方向で励起し、垂直方向の蛍光発光(IVV)と水平方
向の蛍光発光(IVH)を測定する。
rI I
I I
parallel perpendicular
parallel perpendicular
2
1
r r0
1
1 3
RTk3
R4 3
DkT
R6
蛍光の偏光解消法(回転拡散の測定)
蛍光偏光異方性(定常状態励起法)
Iparallel:入射光の偏光と平行な偏光子からの蛍光強度 Iperpendicular:入射光の偏光と垂直な偏光子からの蛍光強度 蛍光の偏光解消を惹起する因子 1) 蛍光分子の吸収モーメントAと発光モーメントEの溶液内での分布
・T/ηに依存しない 2) 蛍光分子の回転ブラウン運動 ・T/η に比例して増大する 3) 蛍光分子間の励起エネルギー移動
・蛍光分子の濃度を低下させると減少する
Perrin-Weberの式 r0:絶対温度0Kまたは粘性無限大でのrの値
τ:蛍光寿命(パルス光励起などの方法で求める) ρ:分子の回転緩和時間
Einsteinの関係 ρ:回転緩和時間 k:ボルツマン定数
η:溶媒の局所粘度 T:絶対温度
R:蛍光プローブ分子の半径
拡散係数DのStokes-Einstein equation k:ボルツマン定数
T:絶対温度
η:溶媒の粘度
R:拡散する分子の半径
DPH (1,6-diphenyl-1,3,5-hexatriene)の構造と脂質二重層膜中での分布と配向
Excitation peak = 359 nm
Emission peak = 426 nm
0
0.05
0.1
0.15
0.2
0.25
0.3
0.35
0 10 20 30 40 50 60
Temperature [℃]
Ani
sotr
opy
of
DP
H
DPPCリポソーム中のDPH分子の蛍光偏光異方性の温度変化
0 5 10 15 20 25
0
5
10
15
20
16:0 desaturase
18:1desaturase
18:0desaturase
Des
atur
ase
acri
vity
[nm
ol/m
in/m
g p
rote
in]
Time after shift to 15 C [h]
39.5 ℃ から15 ℃へ培養温度を低下させたときのTetrahymena細胞の温度適応変化
Time after shift to 15 ℃ [h]
Sw
imm
ing v
eloci
ty [
μm
/sec
]
遊泳速度の変化
脂肪酸不飽和化酵素活性の変化
脂肪酸組成の変化
スピンラベル法とDPH偏光異方性は温度シフト後の膜流動性の増加を示した。
神経系による制御は迅速であるのに対して、ホルモン系(液性系)は緩慢で持続的である。
標的細胞は受容体に結合したリガンド(ホルモンor神経伝達
物質)で信号を受けることではホルモン系と神経系で差がない。
リガンド(刺激)
受容体(受容)
標的細胞
(変換・伝達)
核 (応答)
情報処理素子
受容体(receptor)の4つのタイプ
イオンチャンネル型
G-タンパク質共役型
チロシンリン酸化型
核移行型
受容体には構造の相補性により特異的なアゴニストが結合する。
Agonist: ホルモン、神経伝達物質など
シグナル伝達の経路では情報を伝えるとき伝達経路が相互に他の経路と影響しあうクロストークになっている。
Cyclic AMP (cAMP)を2次伝達物質とする細胞内情報伝達機構
リガンド:ホルモン
受容体
形質膜
核
cAMPに応答する要素
細胞の機能制御分子:サイクリックAMP (CyclicAMP, cAMP)
アデニル酸シクラーゼがATP をcAMPに変換し機能させるが、ホスホジエステラーゼでAMPとし、機能を失わせる。
高cAMPではグリ
コーゲンを分解しグルコースを生成する代謝系(Glycolysis)の酵素が活性化される。
低cAMPではグル
コースからグリコーゲンを生成する代謝系(Glycogenesis)が活性化される。
無益回路(futile cycle): 逆方向の代謝経路が存在し、ATPが消費されるだけの回路であるが、迅速な代謝応答と発熱による恒常性の維持と考えられる。
αGDP
β γ
αGTP
αGDP
β γ
Adrenalin
Adrenalinreceptor
Inactive form
αGDP
β γ
Recep
tor
ActivationAdeny
late
cycla
se
Adrenalinreceptor
Adre
nalinrec
eptor
Active form
Adenylate
cyclase
Ade
nylate
cyc
lase
α
Adre
nalinrec
eptor
GTP
(例)アドレナリンの受容体への結合と
アデニル酸シクラーゼの活性化
1)アドレナリン(adrenalin)が構造の相補性で認識され、アドレナリン受容体(receptor)
に結合する。
2)受容体の構造変化でG蛋白質のβ、γサブユニットが分離する。
3)αサブユニットを結合した受容体が生体
膜内を拡散し、アデニル酸シクラーゼ(adenylate cyclase)と接触して活性化させる。
生体膜内で分子の衝突により反応が進行するとき、全体の反応過程は分子の拡散速度が律速しており、拡散制御過程と呼ばれる。
生体膜の機能に見る拡散制御過程
シクラーゼを不活性化した細胞からアドネラリン
受容体を可溶化し取り出す。
アドネラリン受容体の存在しない細胞にアドネラリン受容体を移植する
シクラーゼを
不活性化した細胞
アドネラリン受容体の存在しない細胞に融合させる
Receptor+Cyclase
Cyclase
Receptor
Receptor
Cyclase
拡散と分子の衝突
衝突頻度
kb:diffusion-controlled bimolecular rate constant [C]:分子(粒子)の濃度
・実際に反応に至る速度 kq は γ:反応効率 kb:bimolecular rate constant
Smoluchowski equation
NA:Avogadro's number
Rf , Rq :それぞれ衝突分子と被衝突分子の半径
Df , Dq :それぞれ衝突分子と被衝突分子の拡散係数
collision bk [C]
k kq b
kN
R + R D + DbA
f q f q4
1000
生体膜の機能に見る拡散制御過程
生体膜内での分子の衝突ごとに確実に反応が進行するとき、全体の反応過程は分子の拡散速度が律速しており、拡散制御過程と呼ばれる。サイクリックAMP系の情報伝達機構で生体膜の粘度による機能制御が示されている。
[Hanski, E., Rimon, G. and Levitzki, A. (1979) Biochemistry 18, 846-853]
・ 七面鳥の赤血球膜にシス・バクセン酸(cis-vaccenic acid ,C18:1⊿7 )を
添加して膜の粘度を変化させ、アデニル酸シクラーゼの活性化を調べた。 粘度は25℃での測定で6ポアズから4ポアズまで低下した。βアドレナレリン受容体の拡散定数は25℃で4.0×10-11 から9.0×10-10 cm2/secまで増加した。
v=k[cyclase][Receptor] : シクラーゼを活性化する速度
c
aNR
RNk
AT
TAobserved
1
4
42/1
観測される速度定数kobservedは生体膜の粘度ηに反比例する。
k1
HR + E → (HR・E) + E’