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LNG取引条件の変化に関する調査eneken.ieej.or.jp/data/pdf/1170.pdfIEEJ:2005 年10 月掲載 2 る。 一方、規制緩和による需要の不確実性や調達価格低減圧力の高まりを受け、従来は買主

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∗LNG 取引条件の変化に関する調査

3. LNG 取引条件の変化

産業研究ユニット 石油・ガスグループ 研究員 寒川 裕之

従来の LNG 取引は、閉鎖的、硬直的なものであったが、近年の規制緩和の進展、LNG プ

ロジェクトコストの低減、LNG フローの多様化を受けて各種の変化が生じている。以下、

(1)当事者 (2)契約期間 (3)取引数量 (4)受渡条件 (5)入札制度 の 5 点について変

化を整理する。

(1)当事者

近年の LNG 市場では、「売主/買主事業者」の取引が拡大しており、これによって LNG の

流動性向上や新規参入が促進されている。また、アジアにおいては、従来「日本買主コン

ソーシアム」として LNG を共同購入していた日本の買主間で利害の相違が生じはじめてお

り、コンソーシアムが形成しづらい環境となっている。

①「売主/買主事業者」の取引拡大

近年、BG、Shell、BP、ExxonMobil、三菱商事、伊藤忠商事など、従来は売主であった事

業者が、自らが参画している LNG 生産プロジェクトの買主として長期契約を締結する事例

が発生している。これらの事例は、各事業者が、LNG 事業においてビジネスチャンスが拡

大すると予測していることもあるが、一方で 2 章において述べたように規制緩和によって

既存買主の将来需要が不確実になり、買主がプロジェクトの立ち上げに慎重になる中で、

上流資産を有する事業者が資産を早期に現金化するために、自ら買主となって LNG 生産プ

ロジェクトを立ち上げているという側面もあると思われる。その際、こうした企業が受入

基地の容量を確保しているアメリカやイギリスの天然ガス市場は非常に高い流動性を持っ

ており、輸入者は一定の価格変動リスクを負うことにはなるものの、これらの取引市場に

LNG を持ち込むことで比較的容易に LNG を販売することが可能であり、結果として数量リ

スクをほとんど負わずにすむこともこれらの事象を後押ししていると思われる。さらに、

規制緩和が進む現在、電力・ガス事業者といった伝統的な買主は市場の要請に即した柔軟

な契約条件を求める傾向があるが、売主が単独でこれに応えることには限界があり、商社

が介在することでリスク回避効果を生むことが歓迎されるようになってきていることもあ

る。なお、こうした契約においては、買主は実需要を持っていないため、SPA が規定する

範囲において、利益の最大化を目指してより価格の高い市場に LNG を振り向けることとな

∗本報告は、平成 16 年度に経済産業省から受託して実施した受託研究の一部である。この度、経済産業省

の許可を得て公表できることとなった。経済産業省関係者のご理解・ご協力に謝意を表するものである。

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る。

一方、規制緩和による需要の不確実性や調達価格低減圧力の高まりを受け、従来は買主

であった事業者が、より有利な契約条件の獲得や上流事業におけるコスト構造の把握を目

的として LNG 生産プロジェクトに参画し、当該プロジェクトから LNG を購入する事例も発

生している。

こうした「売主/買主事業者」による自社契約の増加により、伝統的な LNG 取引のように

単一の液化基地から単一の受入基地だけでなく、複数の液化基地から複数の受入基地に

LNG が輸送されることが起こり得ることが予想される(表 3-1)。

表 3-1 「売主/買主事業者」の主な参画事例

(出所)日本エネルギー経済研究所作成

しかし、LNG 市場は以前より流動化しつつあるもののいまだ硬直的であり、LNG 取引はそ

の遂行に様々な制約や不測の事態が存在する不確実性の高いビジネスである。例えば、2000

年から 2001 年にかけて大量の余剰 LNG 生産能力が生じたが、利用可能な LNG 船が少なかっ

たため、RasGas などは LNG を販売することができなかった。また、2003 年から 2004 年に

は LNG 船が新規に建造されて輸送能力に余裕はできたものの、インドネシアの生産量減少

などにより LNG の余剰がなくなり、LNG 船の稼動率が低下するという事態になっている。

さらに、2005 年から 2006 年には大西洋において多数の新規 LNG 生産プロジェクトが稼動

するが、受入基地容量が不足していることから北米東海岸に供給できる LNG 量には限界が

ある。具体的な参入失敗例としては、Sempra が 2001 年に LNG 取引に進出を計画し 40 カー

事業者名自社購入契約量

(万トン/年)液化基地

(出資/自社契約への供給)受入基地

(出資/キャパシティ保有)

ExxonMobil 2,600 RasGas, Qatargas IIMilford Haven(South Hook),Rovigo, Zeebrugge,Gulf of Mexico

Shell 1,215Nigeria LNG, Sakhalin II,Qatargas 4

Cove Point, Elba Island,Gulf Landing, Costa Azul,Altamira, Hazira

BP 298 Altantic LNGBilbao, Isle of Grain,広東省深圳

Total 984Snohvit, Nigeria LNG, Yemen,Qatargas II

Fos-sur-Mer 2,Altamira, Hazira

ConocoPhillips 750 Qatargas 3 Freeport

BG 845Atlantic LNG, Nigeria LNG,Egyptian LNG,Equatorial Guinea

Lake Charles, Elba Island,Brindisi,Milford Haven(Doragon)

三菱商事 80 Qalhat LNG Freeport東京電力 200 Darwin 富津, 袖ヶ浦, 東扇島, 根岸東京ガス 100 Darwin 袖ヶ浦, 扇島, 根岸

Gaz de France 484 Snohvit, Egyptian LNGFos-sur-Mer, Montoir,Fos-sur-Mer 2

Union Fenosa 480 Damietta, Qalhat LNG Sagunto, Reganosa

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ゴ分の売買契約を取り付けたが、LNG 船の確保ができなかったために取引を諦めている。

このように、ベースとなる LNG 取引を持たない事業者がビジネスを成立させることは難

しい一方、既存の LNG 取引について広範な経営資源(液化基地・LNG 船・受入基地容量な

ど)あるいは LNG 取引ノウハウを有している場合は、LNG 取引は収益性の高いビジネスと

なる。以下に主な事業者の動向を整理する。

A.BGの動向 広範な LNG 経営資源を持つ「売主/買主事業者」の典型例が BG である。BG は Shell、BP、

ExxonMobil に比して小規模な事業者であるが、大西洋に多様な LNG 経営資源を持つという

明確な戦略を持っており、トリニダード・トバゴやエジプトに液化基地権益を持つととも

に北米東海岸の Lake Charles や Elba Island に受入基地容量を確保している。さらに、大

西洋の両側で柔軟な取引を行うためにイタリアの Brindisi に新規受入基地の建設を計画

するとともにイギリスの Dragon LNG 受入基地の容量を確保し、北米東海岸 Rhode Island

の Providence の新規受入基地計画にも関与している。また、赤道ギニアの新規 LNG 基地の

全量を FOB で購入する契約を締結し、Nigeria LNG とも余剰 LNG を購入する契約を締結し

ている(ただし、BG はこれら 2液化基地の権益は保有していない)。LNG 船についても保有

または傭船によって 8隻を確保し、現在新規に 7隻を発注中である。このような多様な経

営資源を活用することでBGは大西洋において最も好ましい市場にLNGを供給することがで

きる(図 3-1)。

図 3-1 BG の LNG 経営資源の分布図

(出所)Gas Strategies 資料より日本エネルギー経済研究所作成

液化基地

受入基地

Lake Charles

Providence

Elba Island

Dragon LNG

Brindisi

Egyptian LNG

Atlantic LNG

Nigerian LNG

Equatorial Guinea

※建設中・計画中のものを含む

※Equatorial Guinea ・ Nigerian LNG については権益保有はなし(売買契約の締結のみ)

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B.三菱商事の動向 日本の事業者としては、三菱商事が活発に事業展開を行っている。同社は 1969 年のアラ

スカから日本への LNG 輸入に関係して以来、30 年以上にわたって LNG に関係したビジネス

を行っている。従来は、①日本近くのカントリーリスクの少ない国で ②ノウハウを持つ

国際石油企業と組み ③リスクの少ない液化事業に特化し ④信用リスクのほとんどない

電力・ガス会社を相手に ⑤投資リターンと輸入代行手数料で稼ぐというビジネスを行っ

てきたが、近年では①日本近くのカントリーリスクの少ない国での新規ガス田の減少 ②

今後 LNG 需要が伸びるのは北米・欧州・中国・インドであり、国内需要は頭打ち という

状況にある。そのため、既存のアジア太平洋に加え、大西洋における LNG 取引の拡大も睨

んだよりグローバルなビジネス展開を図っている。

具体的には、2004 年 6 月にオマーンの Qalhat LNG と 2006 年から 15 年間に亘り、80 万

トン/年の LNG を購入する売買契約を締結している。受渡条件は FOB であり、輸送は 2004

年 7 月に同社と Oman Shipping Company、商船三井が参画して建造する LNG 船を使用する

予定である。また、受入側として Texas 州 Freeport LNG 受入基地の使用契約を締結し、2009

年 1 月から年間約 100 万トンの LNG 再気化を行い、再気化した天然ガスは現地の電力会社

などを中心に三菱商事が独自に販売する予定である。さらに、ConocoPhillips と共同で

California 州 LongBeach に 500 万トン/年の受入能力を持つ基地を建設することを検討中

である(図 3-2)。

図 3-2 三菱商事の LNG ビジネス展開

(出所)三菱商事ホームページ等より日本エネルギー経済研究所作成

C.Shell の動向

Shell は、従来から広範な上流権益を有していたが、近年、北米東海岸の既存 LNG 受入

Oman LNG

(80 万トン/年購入) Qalhat LNG

Freeport LongBeach

Malaysia LNG Tangguh LNG

Brunei LNG

SakhalinⅡ

液化基地

受入基地

NWS

※建設中・計画中のものを含む

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基地である Cove Point の容量の 1/3 を確保し、また、メキシコ西海岸に建設が計画されて

いる Costa Azul、メキシコ東海岸の Altamira に参画するなど、下流事業への進出を強め

ている。Shell の事業展開における特徴は、自らが権益を持つ LNG 生産プロジェクトにお

ける「Wedge Volume」(液化基地稼動の初期に長期契約向けに必要な分以上に生産された

LNG:詳細は 3(3)②を参照)を自ら購入し、市場に供給する手法を採用していることで

ある。これが成功すれば高収益であるだけでなく、LNG 生産プロジェクトの収益性が向上

するため、より良い条件の長期契約を買主に提案できる。NWS 第 4 トレインの初期容量に

ついての契約や SakhalinⅡからの初期容量を北米に供給するのが典型的な例である。

②日本の買主によるコンソーシアムの困難化

日本では、電力、ガス市場の規制緩和の進展に伴い各買主の利害が一致しなくなること

が多くなったため、電力会社、ガス会社がその垣根を越えて一体となって交渉することで

購買力を高める「日本買主コンソーシアム」が組みにくくなり、NWS 拡張プロジェクトの

契約交渉以降、買主個別交渉による契約締結が一般的となっている。

今後、規制緩和が進展すれば各社が契約において力点を置くポイント(契約期間の短縮

を重視するか、価格を重視するか、下方弾力性の拡大を重視するか等)が更に異なってく

るため、この傾向は今後も継続すると思われる。ただし、日本の買主の中には比較的小規

模な事業者も多いため、今後の契約締結・更改時に厳しい環境に置かれる可能性があるこ

とも否定できない。

(2)契約期間

従来の LNG 取引契約は、20 年以上にわたる長期契約が一般的であったが、近年の各国に

おける規制緩和の進展などを受け、短中期契約の締結やスポット取引の拡大が進んでいる。

しかし、短中期契約・スポット取引を合わせても総取引量に占める比率は決して多くはな

く、新規プロジェクトについては例外なく長期契約を締結している。したがって、今後も

太宗は長期契約であり、短中期契約・スポット取引はその補完的位置づけにとどまると思

われる。なお、ここでは、1 年超~10 年程度の期間の取引を短中期契約、1 年未満の取引

をスポット取引として整理する。

①短中期契約

A.アジアの最近の動向 前章で述べてきたとおり、日本では、規制緩和に伴い電力・ガス事業に対する新規参入

が認められたため、既存の電力・ガス会社は下方弾力性の範囲を超える需要脱落リスクに

晒されるようになった。そのため、将来の Take or Pay リスク(需要がないにもかかわら

ず LNG の引き取りを求められ、引き取れない場合でも支払いを求められるリスク)に備え

て、短中期契約の締結、あるいは数量オプション権の獲得などの取り組みを行っている。

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具体的には、東京電力・東京ガスのコンソーシアムと Malaysia LNG との契約では、短期数

量と呼ばれる一部数量について、買主が 4年間の引取数量を各年度別に任意に決定できる。

また、東京電力と SakhalinⅡとの契約では、契約上は 20 年の長期契約であるが、買主が

数量オプション権を獲得し一部数量について事実上の短期化を実現している。これは、規

制緩和の進展が短中期契約の締結を促進している事例である。

韓国では、KOGAS の LNG 独占輸入権の見直しが進んでいる。現在のところ自家消費ある

いは発電事業者に限定して LNG の輸入を認める方向になっているが、最終的なあり方は決

まっておらず、KOGAS はこれら規制緩和の影響を予測することが出来ない。そのため、KOGAS

は長期契約を締結することが出来ず、足元の需要増加に対してはスポット取引および

Malaysia LNG Ⅲ(Tiga)、NWS と各 7年の中期契約、Malaysia LNG Ⅲ(Tiga)、RasGas と

の 4年の短期契約などにより対応してきた1。これらは、日本と異なり、規制緩和の停滞が

結果として短中期契約の締結に繋がっている事例である。しかし、安定供給の観点からは

長期契約が存在することが望ましいため、2005 年 2 月には SakhalinⅡ、Malaysia LNG Ⅲ

(Tiga)、Yemen と長期契約の HOA を締結するなど、長期契約締結へ向けて動いている。

なお、台湾では短中期契約の締結は特に行われていない。

表 3-2 アジア向けの主な短中期契約(短期数量・数量オプションによるものを含む)

(出所)日本エネルギー経済研究所作成

B.欧州の最近の動向 比較的新規参入が進んでいるスペイン市場向けとしては、主に新規参入者と中東の売主

との短中期契約が複数存在する(表 3-3)。

フランス・イタリアでは、現在までのところ短中期契約を締結した実績はないが、フラ

ンスにおける Gaz de France の天然ガス輸入の独占制度は 2003 年 1 月の法令によって廃止

されており、今後の新規参入次第ではあるが、これら両国においても短中期契約のニーズ

が発生する可能性はある。

1 これらの短中期契約は、期間が短いだけでなく、その供給が夏季に 30%、冬季に 70%、あるいは冬季の

みの供給のように時期によって供給量を大幅に変えることになっている点が特徴的である。

プロジェクト 買主 期間 数量 備考(年) (万トン/年)

Malaysia LNG 東京電力・東京ガス 15 (2003~2018) 740 短期数量SakhalinⅡ 東京電力 20 (2007~2029) 150 数量オプションNWS KOGAS 7 (2003~2010) 50Malaysia LNGⅢ(Tiga) KOGAS 7 (2003~2010) 150RasGas KOGAS 4(2004~2008) 282/4年Malaysia LNGⅢ(Tiga) KOGAS 4(2004~2008) 384/4年NWS拡張 Shell 5 (2004~2009) 370/5年

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表 3-3 欧州における主な短中期契約

(出所)日本エネルギー経済研究所作成

C.北米の最近の動向 アメリカでは、天然ガス市場の流動性が非常に高い、巨大な地下貯蔵設備を有する、長

期契約において仕向地変更(輸送費等の追加費用は発生する)が可能なことが一般的であ

るなどの理由から、買主は需要脱落リスクを負うことがほとんどない。そのため、短中期

契約よりもむしろスポット取引による機動的な対応が志向されており、現在までのところ

短中期契約を締結した実績はない。

D.今後の動向 ⅰ.アジア・欧州(イギリスを除く)の今後の動向 アジア、欧州(イギリスを除く)では、規制緩和に伴い需要脱落リスクに晒されている

既存買主には短中期契約のニーズがある。しかし、短中期契約は買主にとって供給安定性

の阻害要因であり、最終供給保障義務を負っている既存の電力・ガス事業者は特にそのリ

スクに敏感である。また、新規プロジェクトの場合は、新規液化・受入基地の投資回収あ

るいは LNG 受入基地の容量確保のために長期契約を必要とする。

一方、売主としては、短中期契約はオプション権の付与を含めて投資回収の不安定要素

であり、基本的には望ましいものではない。しかるに売主が上記の短中期契約やオプショ

ン権付与に応じたのは、売主側に①かなり古いプロジェクトでインフラ償却が進んでいた

こと ②設計能力以上の生産力を持ち、余剰の LNG を生産できたこと ③全量の売買契約確

保前にプロジェクトを立ち上げており買主確保のニーズが強かったことなどの事情があっ

たからである。これらの事象は今後も生じると思われるが、その規模は限定的であろう。

したがって、アジア、欧州(イギリスを除く)においては、短中期契約は既存契約の更

改や余剰生産力を持つ液化プロジェクトを中心に今後も一定の範囲で発生するが、数量的

にはそれが契約の主流となることはなく、あくまで補完的な位置づけにとどまると思われ

る。

なお、欧州では、EU がガス市場の自由化を促進する上で Take or Pay 条項付きの長期契

約が仕向地条項と並んで競争の創出を阻害しているとして産ガス国に対して撤廃を求め、

主要な産ガス国と対立してきたが、最近になって EU は長期契約については産ガス国側の主

プロジェクト 買主 期間 数量 備考(年) (万トン/年)

ADGAS BP 4 (2002~2005) 75 スペイン向けOmanLNG Shell Western 5 (2002~2007) 70 スペイン向けOmanLNG BP 6 (2004~2010) 400/6年 スペイン向けOmanLNG Union Fenosa 2 (2004~2005) 130/2年Qatargas Gas Natural 8 (2001~2009) 560/8年 2012まで延長Qatargas Gas Natural 5 (2002~2007) 350/5年 2012まで延長Qatargas BP 3 (2003~2006) 75 スペイン向け

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張を認める方向に転換しつつあり、これを理由として EU 域内において長期契約が撤廃され

る状況には至らないと思われる。

ⅱ.北米(東海岸・西海岸)・イギリス・中国・インドの今後の動向 北米(東海岸・西海岸)、イギリス、中国、インドでは、新規液化・受入基地の投資回収

のため、あるいは受入基地の容量を長期に確保するために長期契約を必要としている。し

たがって、短中期契約は少ないであろう。また、アメリカやイギリスのように天然ガス取

引が発達している市場では、短中期契約よりも機動的なスポット取引が活用される傾向が

あるため、その点からも短中期契約は少なくなるであろう。

②スポット取引 A.全体的傾向

世界の LNG 取引におけるスポット取引の比率は 1998 年までは低調に推移していたが、

1999 年以降大幅に増加を続けており、2003 年の LNG 取引に占めるスポット取引の割合は

8.7%まで拡大している(表 3-4)。

表 3-4 世界の LNG 取引に占めるスポット取引の比率推移

(出所)PETROSTRATEGIES, 2004 年 7 月 26 日

この背景には、1998 年頃までは売主が LNG 余剰分を供給したいという要望と買主の短期

的な需要増分を確保したいという要望が合致して成立していたものが、1999 年以降、北米

の天然ガス価格高騰と LNG フローの多様化により、アメリカやスペインの LNG 輸入量が急

激に増大したことがある。また、日本の買主がインドネシアからの供給削減や原子力発電

問題によってスポット取引による調達を余儀なくされたことや、韓国において需要の季節

変動への対応をスポット取引で行ったことも取引量の増加につながった(図 3-3、表 3-5)。

95 96 97 98 99 00 01 02 03スポット比率 3.5% 2.3% 1.5% 1.9% 3.9% 5.5% 7.8% 7.8% 8.7%

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図 3-3 スポット取引量・スポット比率の推移

(出所)PETROSTRATEGIES, 2004 年 7 月 26 日、Natural Gas in the World, Cedigaz より日本エネルギー経

済研究所作成

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

95 96 97 98 99 00 01 02 03

0.0%

1.0%

2.0%

3.0%

4.0%

5.0%

6.0%

7.0%

8.0%

9.0%

10.0%アメリカ

トルコ

プエルトリコ

ポルトガル

ベルギー

イタリア

フランス

スペイン

台湾

韓国

日本

スポット比率

(MMcm)

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表 3-5 スポット取引量の推移

(出所)PETROSTRATEGIES, 2004 年 7 月 26 日、Natural Gas in the World, Cedigaz より日本エネルギー経済研

究所作成

なお、これらのスポット取引の契約項目は長期契約と大差はないと言われている。その

ため、後述のようにスポット取引の主要事項について事前に決定しておく契約が一般化し

てきているが、いまだ取引にはかなりの時間がかかる模様である。

B.アジア太平洋(北米西海岸を含む)

ⅰ.最近の動向

日本の買主は長期契約によって需要に見合った供給を確保しており、スポット取引は主

に何らかの緊急事態によって需要・供給が大幅に変動した場合に活用されている。近年の

<輸入国> 単位:MMcm

95 96 97 98 99 00 01 02 03 03スポット率 03総輸入

日本 75 150 280 150 320 2,230 315 2,835 3.6% 79,770

韓国 900 675 75 305 1,470 1,870 1,790 225 0.9% 26,230

台湾 75 75 1.0% 7,480

アジア太平洋 975 825 280 75 455 1,790 4,175 2,105 3,135 2.8% 113,480

スペイン 1,050 980 985 825 1,685 1,430 2,290 4,155 2,755 18.3% 15,040

フランス 865 225 75 75 525 1,170 75 0.8% 9,870

イタリア 115 540 480 375 275 450 8.2% 5,520

ベルギー 150 150 265 0.0% 3,150

ポルトガル 75 0.0% 850

ギリシャ 0.0% 550

トルコ 225 75 575 300 0.0% 4,990

アメリカ 225 300 525 1,660 3,725 3,235 3,420 8,340 58.1% 14,350

ドミニカ 0.0% 300

プエルトリコ 50 0.0% 740

大西洋 2,290 1,505 1,285 2,040 4,260 5,785 6,575 9,335 11,620 21.0% 55,360

合計 3,265 2,330 1,565 2,115 4,715 7,575 10,750 11,440 14,755 8.7% 168,840

<輸出国> 単位:MMcm

95 96 97 98 99 00 01 02 03 03スポット率 03総輸出

インドネシア 525 600 280 380 1,180 1,915 150 150 0.4% 35,660

マレーシア 225 75 75 75 525 680 685 2.9% 23,390

ブルネイ 75 205 0.0% 9,670

オーストラリア 665 265 300 375 300 450 225 300 300 2.9% 10,520

アメリカ 0.0% 1,640

アジア太平洋 1,490 940 580 375 755 1,705 2,665 1,335 1,135 1.4% 80,880

アブダビ 1,425 1,390 75 340 650 635 315 1,205 150 2.1% 7,110

オマーン 600 825 2,275 1,400 15.2% 9,210

カタール 385 950 1,595 1,975 2,715 2,085 1,635 8.5% 19,190

中東 1,425 1,390 460 1,290 2,245 3,210 3,855 5,565 3,185 9.0% 35,510

アルジェリア 350 600 450 1,330 1,375 2,360 2,665 3,650 13.0% 28,000

ナイジェリア 370 1,290 530 1,950 16.5% 11,790

リビア 0.0% 750

トリニダッド 385 915 580 1,345 4,945 41.5% 11,910

大西洋 350 0 600 450 1,715 2,660 4,230 4,540 10,545 20.1% 52,450

合計 3,265 2,330 1,640 2,115 4,715 7,575 10,750 11,440 14,865 8.8% 168,840

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例では、2001 年にインドネシアからの供給中断に伴い東北電力が、2002 年から 2003 年に

かけて原子力発電所の稼動停止に伴い東京電力が比較的多量のスポット取引を行っている。

しかし、いずれの場合もわが国の LNG 輸入量に占める割合は 3%程度である。

韓国では、夏季と冬季の季節間需要格差が大きく、冬季の需要に対応するためにスポッ

ト取引を活用してきた。また、前述のように規制緩和の停滞から長期契約の締結が出来な

かったため、1995~1996 年、あるいは 2000 年以降、増大する需要に対して大量のスポッ

ト取引で対応せざるを得ず、2001 年にはスポット取引比率が 8.6%まで拡大した。しかし、

冬季に重点的に供給を受ける MalaysiaLNG Ⅲや NWS との 7年契約によって一定の対応が図

れたため、2003 年のスポット取引比率は 0.86%と大幅に減少している。

台湾では2001年と2003年に1カーゴづつのスポット取引による輸入が行われているが、

数量としては非常に限定的である。このうち、2001 年の分については原子力発電所のトラ

ブルのために急遽 LNG が必要になり、台湾近郊を航行していた大阪ガス向けの LNG の融通

を受けたものである。

なお、日本、台湾の買主は自社の余剰 LNG を韓国に融通することが多いが、これらは統

計上スポット取引とみなされていない可能性がある。

図 3-4 アジアの輸入国におけるスポット取引率の推移

(出所)PETROSTRATEGIES, 2004 年 7 月 26 日、Natural Gas in the World, Cedigaz より日本エネルギー経

済研究所作成

ⅱ.今後の動向 スポット取引が成立するためには、スポット取引向けに余剰の LNG が供給されることが

大前提であるが、通常、液化基地は設計能力より 10%程度の余剰生産力を持つため、数量

的に限定的ではあるが、今後もスポット取引向けの LNG の供給が期待できる。しかし、ス

ポット取引は機動的な調達が可能であり、市場環境によっては安価な LNG を調達できる可

0%

1%

2%

3%

4%

5%

6%

7%

8%

9%

10%

95 96 97 98 99 00 01 02 03

日本 韓国 台湾

IEEJ:2005 年 10 月掲載

12

能性がある反面、不安定であるという欠点を持つ。現時点では需給の逼迫感が強く、アジ

アの買主はスポット取引での安定的な調達が困難であるという認識を持ちつつあるため、

いかに規制緩和によって需要に不確実性が増しているとはいえ、国内生産ガスや輸入パイ

プラインガスという代替供給手段をほとんど持たない環境下で電力、ガスの供給義務を持

つ買主が長期契約を削減して大々的にスポット取引を活用するということは考えにくい。

また、買主の需要が想定より伸びなかった場合に下方弾力性を行使せずに買主自らがスポ

ット取引で売却することも考えられるが、そのためには LNG 船の手配と売主の同意が必要

であり、アジア太平洋の LNG フローの多様化は限定的であることを考えると、これも大規

模なものにはならないであろう。韓国においても、前述の Malaysia LNG Ⅲ(Tiga)や NWS

との 7年契約以外に KOGAS が冬季に重点を置いた 4年契約を締結し、2005 年 2 月には長期

契約の HOA を締結したほか、季節変動に対応するための貯蔵設備を大幅に増強するなど、

スポット取引に過度に依存する状況からの脱却を志向している。

今後、国内生産ガスまたは輸入パイプラインガスという代替供給手段を持つ北米西海岸

において LNG 受入基地が稼働した場合、アジアと北米西海岸の天然ガス価格差を利用した

裁定取引を行うことができる。しかし、アジア向けの LNG を北米西海岸に持ち込むには仕

向地条項が障害になる上、LNG 受入基地の容量を確保するとともに LNG 船を手配せねばな

らず、両市場の価格差でこのコストを回収することは近い将来においてはかなり難しいと

思われる。また、北米西海岸向けの LNG をアジアに供給することも、アジアの買主のニー

ズが少ないため数量的には大規模なものにはならないであろう。

したがって、近い将来におけるアジア太平洋のスポット取引は、気温、原子力発電所の

稼動停止などに代表される突発的な需要の増加やインドネシアに代表される供給不足に伴

う緊急調達面での活用が中心となり、規模としては限定的なものにとどまると予想される。

中長期的には、アジアの各国における規制緩和の進展や仕向地条項の緩和などにより LNG

市場の流動性が増し、かつ北米西海岸向けの LNG 数量が増加してくれば、活発な取引が起

こり得る。その場合、北米西海岸向けの LNG は日本の買主にとっては(価格が北米の天然

ガス価格に連動する点を除いては)容易に調達可能な代替 LNG であるため、長期契約分を

削減してその分をスポット取引により調達しようと動く可能性がある。しかし、中国、イ

ンドなど新興需要国における LNG 需要が増大すれば、買主が長期契約志向を強めることが

予想されるため、スポット取引拡大に対する抑止効果となるであろう。

なお、インドネシアからの供給減少がアジアにおけるスポット取引拡大の一因となった

ことは既に述べたが、インドネシアは解決策の一つとして、カタール・マレーシア・ブル

ネイ・オマーンとともに LNG 輸出の相互融通体制の構築を目指している。2005 年の発足を

目指しており、今後、アルジェリア・イランが加わる可能性がある。協力方法の詳細は未

定であるが、特定国がガス田の枯渇・操業上のトラブル・労使紛争などによって供給不足

に陥った場合、五カ国の閣僚クラスによる緊急会議を招集し、輸出契約不履行などの危険

IEEJ:2005 年 10 月掲載

13

を回避するため、他のメンバー国が可能な範囲で迅速に LNG を提供する枠組みになる模様

である。旗振り役となったインドネシアの Purnomo 鉱物資源エネルギー大臣によれば、こ

の体制は OPEC と性格が異なり、生産調整や価格維持を目的としたものではないとのことで

ある。

ⅲ.スポット取引利用のための環境整備 数量的には限定的なものの、緊急時におけるスポット取引の有効性は認知されており、

アジアの買主は迅速なスポット取引のために各種契約を締結している。これらは、名称は

それぞれ違うが、いずれもスポット取引の履行に必要な諸条件(価格、数量、調達時期以

外の契約条件)について予め合意しておき、実際の取引時には購入数量および価格等を確

認して最終合意するものである。この中では、東北電力と Oman LNG とのマスター契約が長

期契約の実績がない事業者間での契約である点が特徴的である(表 3-6)。

表 3-6 アジアの買主が締結したスポット取引のための契約

(出所)中部電力、東京ガス、東北電力 Press Release より日本エネルギー経済研究所作成

B.大西洋(欧州・北米東海岸) ⅰ.最近の動向 欧州で LNG のスポット取引を継続的に活用しているのはスペインである。スペインでは、

トリニダード・トバゴからの LNG を北米東海岸に供給し、代わりにアルジェリアや中東か

らスポット取引で代替 LNG を調達する裁定取引も行われており、スポット取引量の増加を

促している。また、Bilbao、Serrablo などに約 2.1Bcm もの天然ガス貯蔵設備があり、夏

場に比較的安価な LNG をスポット取引で調達して余剰分を貯蔵設備に備蓄しておくという

ことも行われている。

フランス向けのスポット取引は低調であり、1995、1996 年にアルジェリアの Skikda 液

化基地の改修に伴い生産量が低下した際にスポット取引を活用した事例、および 2002 年に

オマーンの要望で余剰分を引き取った事例など特殊な要因に基づくものである。これは、

10.8Bcm と年間ガス消費量の 25.4%に相当する地下貯蔵設備を持つ上、消費量に占める LNG

の比率がスペインに比して低いため(フランス:約 23% スペイン:約 63%)、輸入パイプ

ラインガスからの供給を変動させることで需要変動に対応することができ、需給調整のた

めのスポット取引の必要性が少ないためと思われる。また、Gaz de France の LNG 基地の

利用料金体系は少量利用に向かないものであり、LNG のスポット取引を利用した新規参入

締結年月 売主 買主 契約名

2001.11 Malaysia LNG 中部電力 LNG調達に関する基本協定

2004.2 Oman LNG 東京ガス スポットFOB受渡に関するマスターアグリーメント

2004.10 Oman LNG 東北電力 LNGマスター契約

IEEJ:2005 年 10 月掲載

14

が困難なことも一因であろう。

ベルギー、イタリアにおいても、フランスと類似する理由からスポット取引は低調であ

り、欧州ではスペイン以外は総じてスポット取引は少ない状態である。

アメリカではスポット取引が急増している。これは、欧州との価格差が大きいことから

余剰の LNG の大半がアメリカに引き寄せられているものと思われる。特に、2000 年以降、

BP、Shell、BG が LNG 基地の受入容量を確保して積極的に北米に LNG を引き取るようにな

っている。

図 3-5 大西洋の輸入国におけるスポット取引率の推移

(出所)PETROSTRATEGIES, 2004 年 7 月 26 日、Natural Gas in the World, Cedigaz より日本エネルギー経

済研究所作成

ⅱ.今後の動向 大西洋には、今後スポット取引を活発化させる 2つの要因がある。一つは LNG フローの

多様化と北米・欧州の天然ガス価格差の継続である。Gas Strategies の予想によれば、今

後も北米の天然ガス価格は$4~5/MMBtu の高値で推移し、一方、欧州の天然ガス価格は供

給過剰によって弱含む見通しである。この場合、多様化しつつある LNG フローを利用し、

裁定取引による利益獲得を狙ったスポット取引が活発に行われると思われる。もう一つは

欧州大陸の規制緩和によって、買主の長期契約分の LNG 引き取りに不確実性が増すことで

ある。買主は引き取りできない長期契約の LNG を天然ガス市場が発達しているアメリカに

販売しようと試みると予想されるため、これによるスポット取引も増加していくであろう。

なお、将来的にイギリスで LNG 受入基地が稼動し、スポット取引向けに受入容量を使用で

きる場合には、イギリスも余剰 LNG の受入先として期待することができる。

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

95 96 97 98 99 00 01 02 03

スペイン フランス イタリア ベルギー アメリカ

IEEJ:2005 年 10 月掲載

15

(3)取引数量

従来の LNG 取引では、買主に Take or Pay 条項によって高度の引取義務が課せられてい

たが、国内で市場独占を許されていた買主はそれに対応することができていた。しかし、

各国において進展している電力・ガス市場の規制緩和によって、買主の需要は不確実性が

増している。そのため、輸入パイプラインガスや地下貯蔵設備を持たず、これらを含めた

需給調整ができないアジアの買主は、下方弾力性の拡大を含めた各種の契約上の工夫をす

ることでこれら需要の不確実性に対応しようとしている。

①Take or Pay

A.アジア向け契約 アジア向けの契約では、新規プロジェクトの増加に伴い Take or Pay 条項による引取義

務は緩和される傾向にある。当初下方弾力性は約 10%まで拡大され、最近の契約事例では

約 15%が一般的であるが、なかには 25%という契約も存在する。なお、1.(2).③で述べた「累

積上限」については最近の契約では約 80%まで拡大している。

なお、東京電力・東京ガスのコンソーシアムと Malaysia LNG との契約では、短期数量と

呼ばれる一部数量について、買主が 4年間の引取数量を各年度別に任意に決定できる。こ

れは、結果として下方弾力性の拡大と同様の効果を生んでいる(図 3-6)。

図 3-6 短期数量による下方弾力性拡大効果のイメージ図

(出所)日本エネルギー経済研究所作成

また、下方弾力性の行使にあたっての事前通知の期限は、従来は契約年の開始前であっ

たものが行使前 3ヶ月前までなど緩和されてきているが、事前通知は依然として必要であ

る。これは、LNG 船を効率的に運航するためには引取量の変更に伴って運航スケジュール

を変更する必要があるからである。

<通常の契約> <東京電力・東京ガスとMalaysia LNGとの契約>

下方弾力性10%(10万トン/年)

下方弾力性10%(9万トン/年)

引取義務部分(90万トン/年)

短期数量(10万トン/年)

引取義務部分(81万トン/年)

数量を買主が任意に設定⇒10万トン/年を削減と仮定 下方弾力性19%と同じ効果

(19万トン/100万トン)

IEEJ:2005 年 10 月掲載

16

B.欧州向け契約 欧州向けの契約では、下方弾力性が 10~15%の輸入パイプラインガスと競合する必要が

あるため、LNG の下方弾力性は当初の約 2.5%から約 10%まで拡大してきた。しかし、LNG

フローの多様化に伴い天然ガス市場が発達しているアメリカで天然ガスが売却できるよう

になったため、最近の契約では 0~2.5%までと縮小する傾向にある。また、下方弾力性行

使のための事前通知については、アジア向け同様、3 ヶ月前までに行うなど短縮されてき

ているが、LNG 船の手配のために依然として事前通知は必要である。この点、事後通知で

良い輸入パイプラインガスと比較して制限がある。

C.北米向け契約 アメリカでは天然ガス市場の流動性が非常に高く、市場価格での売却は常に可能である。

そのため、Take or Pay 条項が付されている場合の下方弾力性は 0%(全量引き取り)であ

る。

D.今後の動向 LNG フローが多様化しつつある大西洋(欧州・北米東海岸)向けの契約では、天然ガス

市場が発達しているアメリカ、将来的にはイギリスに販売することで数量リスクを低減で

きるため、下方弾力性は縮小されるか 0%となる傾向が続くであろう。

アジアでは今後、規制緩和あるいはエネルギー間競合によって買主の引き取りに不確実

性が増していくため、買主に下方弾力性拡大のニーズは強い。その中で 2010 年前後から大

量の既存契約が更改期を迎えることもあり、今後一定の範囲で下方弾力性の拡大は続くと

思われる。しかし中国、インドの需要が大幅に拡大すれば需給が逼迫し下方弾力性を縮小

させる圧力となるであろう。

図 3-7 各市場における下方弾力性の動向

(出所)Gas Strategies 資料より日本エネルギー経済研究所作成

下方弾力性(%)

20

アジア太平洋

15 欧州

北米

10

5

0

黎明期 最近の契約 今後の動向

中国、インドの需要次第

IEEJ:2005 年 10 月掲載

17

②需要の増減への対応 需要の増減に対する柔軟性としては、欧州・北米ではまず地下貯蔵設備を活用した対応

であり、アジアでは既に述べたスポット取引と Take or Pay 条項における下方弾力性の拡

大が有力な手段であるが、ここではそれ以外の手段について各市場の状況を検証する。

A.アジア アジアでは、規制緩和の進展(日本)あるいは停滞(韓国)によって買主の将来需要が

不確実になる一方、市場での天然ガス需要は漸増を続けている。また、ここ数年はインド

ネシアからの LNG 供給減少、原子力発電所の停止に伴う LNG 火力発電所の稼働など、機動

的な対応を必要とする事態が相次いでいる。そのため、買主は売主との交渉において各種

の権利を獲得するように努めており、近年の契約では数量オプション権、「Slow build up

(後述)」を獲得している。また、買主は既存売主との関係を利用して追加 LNG の供給を獲

得している。

ⅰ.数量オプション権

需要脱落への対応手段として、数量オプション権がある。数量オプション権は、市場環

境が明らかになるまで買主が購入の決定を留保できる権利であり、2003 年以降幾つかの

LNG 売買契約で付与されている。また、KOGAS が SakhalinⅡ、Malaysia LNG Ⅲ(Tiga)、

Yemen と締結した HOA も 50~70 万トン/年のオプション権が付与されていると言われてい

る(表 3-7)。

表 3-7 主な数量オプション権付きの LNG 売買契約

(出所)東京電力、東京ガス Press Release 等より日本エネルギー経済研究所作成

売主 買主 数量 期間 オプション権の内容(万トン/年)

Malaysia LNG(Tiga)東京ガス東邦ガス大阪ガス

<長期数量>東京ガス:34東邦ガス:22大阪ガス:12<単年数量>3社計:48

20年(2004-2024)

買主3社合計で44万トンのオプション数量あり。ただし、売主の供給余力等を条件とする。

Malaysia LNG東京電力東京ガス

東京電力:480東京ガス:260

15年(2003-2018)

契約数量のうち、東京電力70万トン、東京ガス50万トンについては最大引取量であり、各社が各々4年間の引取数量を各年度別に任意に決定する。

Malaysia LNG(Tiga) KOGAS 2007年

(2003-2010)数量のうち50万トン/年は買主オプション。

SakhalinⅡ

Tangguh LNG K Power 6020年

(2006-2026)2010年まで20万トンの追加購入オプションあり。

SakhalinⅡ

Malaysia LNG(Tiga) KOGAS 15020年

(2008-2028)※HOA最大50万トン/年の買主オプションあり。

Yemen LNG KOGAS 13020年

(2008-2028)※HOA最大70万トン/年の買主オプションあり。

東京電力 15022年

(2007-2029)買主オプション数量あり(数量は未公表)。

KOGAS 15020年

(2008-2028)※HOA最大50万トン/年の買主オプションあり。

IEEJ:2005 年 10 月掲載

18

ただし、オプション数量の行使期間は一般的に契約締結後 1~2年以内であり、行使しな

い場合は失効する。また、LNG 供給を要求する 3 年以上前に行使する必要がある。そのた

め、需要脱落リスクに対する数量オプション権の効果は限定的である。

ⅱ.Slow build up(漸増契約)

漸増していく需要への対応手段として、「Slow build up」がある。「Slow build up」は、

契約数量を漸増させていく契約であり、これによって漸増していく需要に適切に対応する

ことができる。しかし、「Slow build up」は売主の投資回収率全体に大きな影響を及ぼす

液化基地稼動当初数年の収益性を低下させるため、売主が応じるとすれば当初数年におけ

る生産力と契約量との差である「Wedge Volume(生産能力と契約量との差が楔型になるた

めこう呼ばれる)」を販売する目処が立っている場合である(図 3-8)。

図 3-8 Slow build up と Wedge Volume のイメージ図

(出所)日本エネルギー経済研究所作成

SakhalinⅡプロジェクトでは、東京電力との売買契約において「立ち上がり期間」とし

て「Slow build up」が取り入れられている。一方、Shell は自らが買主になって Sakhalin

Ⅱプロジェクトにおける「Wedge Volume」を買い取る契約を締結しており、これは北米西

海岸やアジアの買主にスポット取引で販売することを予定していると思われる。

ⅲ.既存売主に対する追加供給の要請

特定ソースからの供給減少、原子力発電所の停止、寒波などの予期せぬ事態に伴い、買

主が売主に緊急の追加供給を要請する場合がある。本来、年間契約引取数量に対する「上

方弾力性」は売主にとって「努力義務」的なものであり、必ずしも契約上の拘束力の強い

ものではないが、これまでは売主が結果として余剰 LNG を有していたため、買主の追加供

給要請に応じることができていた。この際、買主は長期契約の実績のある売主に対して追

加供給を要請し、売主は長期契約と同一の条件・価格で追加カーゴを販売するのが一般的

である。

また、アジアの特徴として買主が売主との間に構築している関係の強さがあげられる。

インドネシアからの LNG 供給が減少した際に、買主がスポット取引で LNG を代替調達した

だけでなく、売主である Pertamina も他ソースからスポット取引で LNG を調達して買主に

生産能力

Slow build upによる契約数量

2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010

Wedge Volume

IEEJ:2005 年 10 月掲載

19

供給するという対応を行った。さらに、Pertamina が販売する LNG 価格については長期契

約と同一とされた。

なお、今後北米西海岸の LNG 受入基地が立ち上がった場合、パイプラインガス(国内生

産または輸入パイプラインガス)という代替供給手段を持つ北米西海岸向けの LNG をアジ

アに振り向けることは容易であるため、価格を問わなければアジアの買主が緊急の追加供

給を得ることは以前より容易になるであろう。

B.欧州 欧州では、需要の増大に対応する手段としては、輸入パイプラインガスや貯蔵設備から

の追加供給がある。輸入パイプラインガスは一般に LNG より追加供給要求に対する柔軟性

が高く、買主の要望に応じて約 10%までの追加供給が可能である。

また、需要脱落した分は貯蔵設備を利用するほか、多様化しつつある LNG フローを利用

してアメリカに売却することで対応している。

C.北米 北米は巨大な貯蔵設備を持ち、天然ガス取引市場が発達しているため、需要脱落・需要

増大に対しては市場で天然ガスを売買することで対応している。

(4)受渡条件

従来の LNG 取引には一般的に仕向地条項が付されていたため、仮に受渡条件が FOB で輸

送が買主の管理下にあっても、契約で規定された仕向地以外では受け渡しをできなかった。

この制約は昨今 LNG フローが多様化しつつある大西洋、特に欧州で問題となり、一定の見

直しが進んでいる。また、従来、LNG 輸送を買主に委ねてきた日本、台湾の買主の間で、

LNG 輸送を自社の管理下に置こうという動きが見られる。

①仕向地条項

A.アジア太平洋(北米西海岸を含む) アジア太平洋では、数少ない例2を除いて仕向地条項は依然として付与されており、仕向

地を変更する余地は少ない。また、北米西海岸向けの LNG 売買契約については、仕向地の

制限が一部緩和されているものの、買主が仕向地を変更する権利は限定的(全量の仕向地

を自由に変更できるわけではない)であり、大幅な仕向地の変更のためには売主と買主の

合意が必要である。これは、今後のアジア太平洋の両岸における裁定取引への障害となる

であろう。

なお、今後は北米西海岸との裁定取引のため、あるいは規制緩和の影響でアジアの買主

2 東京ガスが自ら参画している Darwin LNG と締結した売買契約には仕向地条項が付されていないと言わ

れている。

IEEJ:2005 年 10 月掲載

20

の引き取り不確実性が増すため、買主による仕向地制限の緩和要求が強まることが予想さ

れる。

B.欧州 欧州では、欧州委員会が天然ガス(輸入パイプラインガスと LNG)輸入についての「長

期契約(Take or Pay 条項付き)」と「仕向地条項」は、競争の創出を阻害しローマ協定(Treaty

of Rome)に違反すると主張し、売主に対してその撤廃を要求した。これに対し、ロシアの

Gazprom、アルジェリアの Sonatrach など主要な産ガス国事業者は、ガスプロジェクトは巨

額の投資を必要とし、長期契約による資金回収の保証がない場合プロジェクトが立ち上が

らず、結果として供給不安を招くことになる。また、LNG フローが多様化しつつあるため、

買主がガスを転売することを認めれば本来生産者が得られるべき利益を買主が不当に得る

ことになると主張して対立してきた。

「長期契約」については欧州委員会がこれを容認する姿勢を見せており、解決に向かっ

ているが、仕向地条項の撤廃についての各産ガス国の対応は以下のとおり分かれている3。

ナイジェリア(Nigerian LNG)は、欧州への輸出距離でアルジェリア等と比して不利が

あり、かつ第 4・5 トレイン拡張計画の販売先を確保する必要があったため、2002 年 12 月

に、欧州企業向けの既存・新規の売買契約から仕向地条項を削除することで欧州委員会と

合意した。また、同時に、既存契約において Profit-sharing 条項を採用していないこと、

および今後の契約においても採用しないことを明らかにしている。

アルジェリア産ガスでは、パイプラインガスの売買契約については以前から仕向地条項

は付与されていない。LNG に関しては、仕向地条項を盛り込まなければ買主が転売益を得

ることになるとして Sonatrach が反対の姿勢を崩していないが、一方で仕向地条項を撤廃

する代わりに Profit-sharing 条項を導入することを提言するなど妥協点を探っている。最

近になって、Sonatrach と欧州委員会が、仕向地条項の撤廃と Profit-sharing 条項の導入

で合意に達したとも言われている。

また、最近のトリニダード・トバゴ、ナイジェリア、エジプトからの売買契約やオマー

ン、カタール、アブダビの売主から BP や Shell への短中期契約では、仕向地は規定されて

いるものの、売主と買主が利益配分を行うならば、仕向地の変更が可能である。アルジェ

リア産についても利益配分を行う前提であれば Sonatrach の同意を得られると思われるた

め、欧州企業向けの売買契約では仕向地条項の撤廃と Profit-sharing 条項の導入が既成事

実化していると言える。

3 LNG には関係ないが、ロシアは、Gazprom が 2003 年 1 月に今後締結される契約に限り、かつ仕向地の変

更に伴う価格変更は認めないとの条件付きで仕向地条項を撤廃することを承諾した。さらに、同年 10 月

に Eni、11 月には OMV とのガス契約における仕向地条項の撤廃で合意するなど進展が見られる。

IEEJ:2005 年 10 月掲載

21

C.北米(東海岸) 北米東海岸向けの LNG 売買契約では、仕向地が規定されているが、一般的に変更につい

て買主の大幅な裁量権が認められているため、結果として仕向地条項が付されていないの

と同じである。

②受渡条件

A.アジア アジアでは、日本では規制緩和によって買主に LNG 調達コストの低減圧力が増している

こと、LNG 船のコストが低減していること、韓国、中国、インドなどの各国において買主

が自ら LNG 船を保有しようとしていることから、各国において FOB 化が進展しており、1995

年以降に締結された LNG 売買契約の受渡条件の 87%は FOB である(表 3-8)。

表 3-8 アジアにおける受渡条件の変化

(出所)Gas Strategies

また、日本では、東京電力、東京ガス、大阪ガスが 100%自社所有の LNG 船によって LNG

輸送を行うほか、広島ガスが LNG 船の一部所有を開始するなど、LNG 輸送を買主自らが管

理しようという動きが見られ、こうした事象の背景にも LNG 船コストの低減があると思わ

れる。なお、LNG 船の活用方針については、東京ガス、大阪ガスがスポット取引を行うこ

とを前提に LNG 船の稼動率を低めに設定しているのに対して、東京電力は配船計画の範囲

内で余剰能力が生じた場合にスポット取引によってその有効活用を図るというスタンスで

あると言われており、取り組みには温度差がある模様である。

さらに、台湾でも、CPC がカタールからの LNG 輸送用に、同社(45%)、造船会社(30%)、

カタールの輸送会社(25%)が所有権を持つコンソーシアムを設立して共同で LNG 船 4 隻の

建造、運行スケジュール管理、保守管理を行うことを計画している。

B.欧州

欧州では、受渡条件の傾向に変化はなく、アルジェリア、リビア、トリニダード・トバ

ゴ産は FOB であり、ナイジェリア産は Ex-Ship である。欧州における変化としては、「売主

/買主事業者」の取引により受渡条件の区分が曖昧になっていることが挙げられる。例えば、

トリニダード・トバゴの Atlantic LNG 第 2・第 3 トレインの権益は BP、BG、Repsol が所

有しているが、生産される LNG の一部の買主は BG である。また、Egyptian LNG の第 2 ト

レインでは、BG が中心となって液化基地を建設し、生産される LNG はやはり BG が購入す

FOB Ex-Ship

1994年以前 14% 86%

1995年以降 87% 13%

IEEJ:2005 年 10 月掲載

22

る。これらの事例においては、Ex-Ship と FOB を区別することにはあまり意味を持たない。

C.北米 北米東海岸向けでは、アルジェリア、トリニダード・トバゴ産の長期契約は FOB であり、

ナイジェリア産の長期契約は Ex-Ship である。なお、北米向けも欧州同様に「売主/買主事

業者」の取引が拡大しており、FOB と Ex-Ship の区別が曖昧になっている。BG や BP は FOB

で LNG を購入しているが、一般的に販売先は北米に保有している自らの販売子会社である。

③スワップ取引 LNG フローの多様化が限定的なアジアでは、主に需給の調整のためにスワップ取引が用

いられている。大西洋では輸送距離の短縮のためのスワップ取引なども実例があり、実現

までには様々な課題はあるが、今後アジアでも同様の取引が行われる可能性がある。以下

にこれまでに行われたスポット取引事例およびアジアにおける輸送距離短縮のためのスワ

ップ取引の可能性を整理する。

A.需給調整のためのスワップ取引 ⅰ.中部電力と CPC

2000 年 8 月、中部電力は CPC と LNG のスワップ取引について基本合意した(2005 年まで

の期限付き)。このスワップ取引は、CPC がインドネシアから長期契約で購入している LNG

のうち 24 万トン(4カーゴ)を中部電力が引取り、CPC は同量の LNG を 2005 年を目処に買

い戻すというものである。

この取引が成立した背景には、CPC が建設中の海底ガスパイプラインの完工が大幅に遅

れ、予定していた LNG 火力発電所に供給ができなくなったために余剰 LNG を抱えていたこ

と、中部電力でも猛暑による電力需要の増加に加えて渇水により水力発電所の発電量が低

下していたことがある。また、売主である Pertamina の合意と協力が得られたことも取引

成立の重要なポイントである。

ⅱ.東北電力と KOGAS

2003 年 4 月、東北電力は KOGAS と「LNG 調達等に係わる相互協力協定」を締結した。同

協定の内容は①非常時、緊急時における LNG の相互融通についての協議 ②LNG の需要変動

等に対応するためのLNGの引取り調整についての協議 ③LNG契約スキームや配船スキーム

等両社のメリットにつながる新たなアイディアについての共同検討 ④LNG 調達等に関す

る情報交換 となっており、スワップ取引を視野に入れた内容となっている。

ⅲ.中部電力と KOGAS

2003 年 8 月、中部電力と KOGAS は、両社にとって共通の売主である Pertamina の協力の

IEEJ:2005 年 10 月掲載

23

もと、LNG の季節間スワップ取引を実施することを発表した。中部電力は夏季が LNG の需

要期となり、KOGAS は暖房需要が大きいため冬季が需要期となるため、この需要期の違い

を踏まえて両社が 2003 年度の需給状況等を勘案し合意したものである(表 3-9)。

表 3-9 中部電力と KOGAS の季節間スワップの概要

(出所)中部電力 Press Release 2003 年 8 月 11 日

ⅳ.その他の事例

上記の事例以外にも日本の買主、KOGAS、CPC の間でスワップ取引が行なわれた事例は散

見される。また、ヒアリングによれば、同一プロジェクトから LNG を購入している日本国

内の買主同士では、相互の協議および売り手との合意のもとで、カーゴの融通(スワップ

取引)が行なわれている模様である。

B.LNG 引取義務履行のためのスワップ取引

ⅰ.Enel と Gaz de France

1992 年に Nigeria LNG と Enel は LNG 売買契約を締結した。契約数量は 259 万トン/年、

契約期間は1999年から 2019年までとなっており、1999年 10月から契約が発効している。

ただし、本契約はフランスの Gaz de France とのスワップ取引となっている。当初 Enel

はイタリア北東部 Monfalcone に LNG 輸入基地建設を計画していたが、環境問題による住民

投票によってこれが拒否されたため建設を断念し、本契約を破棄しようとしたが Nigeria

LNG が認めず、仲裁裁判を起こした。これに対し Enel は、Gaz de France とスワップ取引

の交渉を行い、1997 年 12 月、Gaz de France が Enel の LNG(3.5Bcm/年)を Montoir 基地

(フランス、Gaz de France 所有の LNG 受入基地)で受け取り、一方、Enel は、Gaz de France

向けであった Snam の Panigaglia 基地で Gaz de France のアルジェリア産 LNG(当初 Fos

向け)を 1.5Bcm/年、オーストリアとスロバキア間の国境にある Baumgarten でロシアから

の輸入パイプラインガスを 2Bcm/年引き受けることで合意した(図 3-9)。

2003年夏季 2003年冬季 隻数

中部電力KOGASの代わりに中部電力が引取り(+1隻)

KOGASのために1隻引取り権利放棄(-1隻)

±0

KOGAS中部電力のために1隻引取り権利放棄(-1隻)

中部電力の代わりにKOGASが引取り(+1隻)

±0

備考・取引量60,000トン・8月に知多基地入港予定

・取引量60,000トン・KOGASは引取り時期として12月を希望

IEEJ:2005 年 10 月掲載

24

図 3-9 Enel-Gaz de France のスワップ取引概念図

(出所)Gas Strategies

C.輸送距離短縮のためのスワップ取引 ⅰ.Gas Natural と Tractebel

スペインの Gas Natural(当初売主はアルジェリアの Sonatrach)とアメリカの Tractebel

LNG North America(当初売主はトリニダード・トバコの Atlantic LNG)は、元々の航路

がアルジェリアから北米東海岸、トリニダード・トバコからスペインである 2つの売買契

約を締結していたが、それぞれの売主、買主合意のもと、トリニダード・トバコから北米

東海岸、アルジェリアからスペインへと変更した(図 3-10)。

図 3-10 Gas Natural と Tractebel のスワップ取引イメージ図

(出所)日本エネルギー経済研究所作成

輸送費は変動するため一概には言えないが、以下の World Gas Intelligence(2002.7.17)

Everett

Arzew

Heulva

Point Fortin

スワップ取引前

スワップ取引後

IEEJ:2005 年 10 月掲載

25

による輸送費を適用すると、この取引によって$0.51/MMBtu の輸送費が低減されると思わ

れる。

Arzew-Everett $0.50/MMBtu

Point Fortin-Huelva $0.52/MMBtu 合計 $1.02/MMBtu

Arzew-Huelva $0.17/MMBtu

Point Fortin-Everett $0.34/MMBtu 合計 $0.51/MMBtu

本事例が成立した背景には、2売買契約の売主・買主の 4事業者が長期契約の締結や LNG

基地の権益保有を通じて相互に密接な関係を有していたため、比較的利害関係の調整が容

易に進んだことがあると思われる4。なお、先に述べたように Sonatrach は仕向地条項の撤

廃と引き換えに Profit-sharing 条項の導入を求めており、Sonatrach が本スワップ取引に

合意したということは何らかの形で Sonatrach に利益が分配されていることが推察される。

ⅱ.アジア太平洋における輸送距離短縮を目的としたスワップ取引の展望 輸送距離短縮のためのスワップ取引は現在のところアジア太平洋では実現していないが、

以下のように幾つかのパターンが考えられる。 ア.中東・日本・東南アジア・インドにおけるスワップ取引 <スワップ取引前の輸送路> <スワップ取引後の輸送路> 中東⇒日本 東南アジア⇒日本 東南アジア⇒インド 中東⇒インド 輸送距離短縮効果:片道約 11,000km 往復約 22,000km

図 3-11 輸送距離短縮のためのスワップ取引イメージ

(出所)日本エネルギー経済研究所作成

4 Sonatrach は Tractebel LNG North America の親会社である Tractebel、Gas Natural(Enagas)の双方

と LNG 長期売買契約を締結している、Tractebel は Atlantic LNG の権益を保有している

スワップ取引前

スワップ取引後

IEEJ:2005 年 10 月掲載

26

イ.アラスカ・日本・Sakhalin・北米西海岸におけるスワップ取引

<スワップ取引前の輸送路> <スワップ取引後の輸送路>

アラスカ⇒日本 アラスカ⇒北米西海岸

Sakhalin⇒北米西海岸 Sakhalin⇒日本

輸送距離短縮効果:片道約 8, 000km 往復約 16,000km

図 3-12 輸送距離短縮のためのスワップ取引イメージ

(出所)日本エネルギー経済研究所作成

以上は典型的な例であり、オーストラリアやインドネシアの新規液化プロジェクトを絡

めれば非常に多数のパターンが考えられる。しかし、これらの取引の実現へ向けては以下

のように困難な課題があるのが実態であり、それ故に現在までのところ実例が生じていな

いとも言えるであろう。

・売主、買主間で得られる利益の分配方法について合意すること

・LNG の熱量格差が問題にならないこと

・取引に伴って発生する余剰 LNG 船が活用できること

④バックホール

バックホールとは、LNG を輸送した帰路に荷を積んで輸送することである。考えられる

事例としては、以下のものがある。

<バックホール取引前の輸送路> <バックホール取引後の輸送路>

中東⇒日本 中東⇒日本⇒東南アジア⇒インド⇒中東

東南アジア⇒インド

輸送距離短縮効果:往復約 13,000km

スワップ取引前

スワップ取引後

IEEJ:2005 年 10 月掲載

27

図 3-13 バックホール取引イメージ

(出所)日本エネルギー経済研究所作成

バックホールの場合、想定されるコスト低減効果が輸送距離短縮を目的としたスワップ

取引ほどは望めない。また、関与者が倍増するため、LNG 船運用の柔軟性が低下する恐れ

があり、実際に活用されている例は多くない。

(5)入札制度

①長期・短中期契約における入札制度 従来の LNG 供給ソース選定プロセスは、買主が数少ない LNG 生産プロジェクト候補の中

から稼動時期や供給ソースの多様化などの条件を踏まえて予め対象プロジェクトを選択し

た上で当該プロジェクトの売主と諸条件を詰めていく方式であったため、複数の潜在供給

者を必要とする入札制度の採用は困難であった。これに対し、1990 年代後半以降は LNG 生

産プロジェクトコストの低減などを受けプロジェクト候補が増加したため、入札という新

しい手法の活用が可能になった。

なお、入札制度の難しい点は、買主は受入基地の建設を決定しない限り確実に購入する

という約束はできず、売主も最終投資判断をしなければ確実に販売するという約束ができ

ないことである。そのため、入札は供給者選択の初期の選択段階で利用され、その後より

詳細な交渉が行われるのが一般的である。

以下に長期契約における主な入札制度活用事例を整理する。

A.中国広東省深圳の LNG 受入プロジェクト

2001 年 11 月、中国広東省深圳の LNG 受入プロジェクトにおいて入札が実施された。第 1

段階の選定として指名競争入札が行われ、2002 年 1 月にオーストラリア(代表として

Australia LNG Pty.)、インドネシア(同 BP Gas Marketing Ltd.)、カタール(同 Ras Laffan

Liquefied Natural Gas Co.)が候補として選定された。その後、第 2段階として第 1段階

IEEJ:2005 年 10 月掲載

28

で選定された交渉相手と具体的な交渉に入り、2002 年 8 月に最終的な供給者が Australian

LNG に選定され、NWS から供給されると発表された。2002 年 10 月、契約数量は 330 万トン

/年、契約期間 25 年、供給開始は 2005 年の SPA が締結されている。

入札にあたって提示された条件は以下のとおりである。

ⅰ.LNG 価格=0.0525×JCC+A(FOB ベース)という価格フォーミュラの Aについて提案

すること。

ⅱ.JCC が$15~25/MMBtu のプライスバンドによる上限・下限付きの価格フォーミュラで

あること。

ⅲ.Take or Pay による引取率は非常に高率(下方弾力性は小さい)で季節変動はなし。

当時、LNG が供給過剰であり、提示された条件が柔軟性より価格を重視したものであっ

たため、中国側の要求に沿った形で、原油価格の影響が抑制され、かつ全体的な価格水準

も下がった非常に有利な価格を獲得したと伝えられている。なお、NWS は第 1 段階の入札

では最低価格を提示したわけではなかった模様5であるが、中国側は価格以外の要素も加味

して選定したものと思われる。

B.台湾大潭発電所向け LNG 購入・LNG 受入基地建設プロジェクト

台湾では、天然ガス需要の増大および大潭(Tatan)における新規火力発電所計画を受けて、

政府が第 2LNG 受入基地の建設を計画された。台湾電力は政府の指示により、大潭発電所へ

の LNG 供給者を入札方式で決定することとなり、2001 年に 1月と 8月の 2度入札が行なわ

れたが、応札者が 2社だけであり、規定の 3社に満たないとの理由から流札され、2003 年

に再度入札が行われた。2003 年の入札にあたって提示された条件は以下のとおりである。

ⅰ.2008 年 1 月までに同発電所へガス供給を開始し、以降 25 年間にわたって LNG 換算

170 万トン/年を供給すること。

ⅱ.LNG 受入基地や再ガス化装置, 大潭発電所までのパイプライン整備等の責任を負う

こと。

入札には、CPC、Tung Ting Gas Corp.、Shell、United Resources が参加し、2003 年 7

月に CPC(LNG 供給元は RasGas)が落札した。また、2004 年 6 月には CPC が、新規 LNG 受

入基地の建設場所を台中港とすることを正式決定し、同年 7月には石川島播磨重工業・東

亜建設工業など日台 4社連合との建設請負契約を締結している 。この入札では、買主は非

常に有利な条件を獲得していると伝えられている。

C.KOGAS 短期冬季限定 LNG 売買契約

2004年8月、KOGASは2004年冬季からの冬季限定のLNG売買契約について入札を実施し、

同月締め切った。入札にあたって提示された条件は以下のとおりである。

5 最低価格を提示したのはインドネシアであったと推測されている。

IEEJ:2005 年 10 月掲載

29

ⅰ.供給は冬季(10 月~3月)100%。

ⅱ.数量は以下のとおり。

2004 年 150 万トン/年

2005 年 120 万トン/年+30 万トン/年(オプション)

2006~2007 年 220 万トン/年+30 万トン/年(オプション)

ⅲ.受渡条件は Ex-Ship が基本だが、FOB でも可。

有力と見られていた RasGas と Malaysia LNG Ⅲ(Tiga)のほか、複数から問い合わせが

あった模様であるが、契約交渉に至ったのは RasGas と Malaysia LNG Ⅲ(Tiga)だけであ

った。交渉の結果、RasGas が 4 年間で 384 万トン(64 カーゴ)、Malaysia LNG Ⅲ(Tiga)

が 4年間で 282 万トン(47 カーゴ)を供給することで合意している。この入札にあたって

KOGAS は相当の低価格を期待していた模様であるが、2004 年、2005 年は LNG のスポット市

場がタイトであり、また、韓国の LNG 需要が急増していることから、売主が価格で譲歩し

た可能性は少ないと見られている。

D.インド Dabhol プロジェクト

Enron が中心となってインド Dabhol で LNG 受入基地および発電所建設・運用、都市ガス

供給を行うプロジェクトを進め、Oman LNG、ADGAS と SPA も締結済みであったが、2001 年

12 月に Enron が自社の会計上の問題から破産に追い込まれたため、プロジェクトは中断さ

れている。本プロジェクトでも LNG 供給者の選択には入札が利用された。

E.トルコ Aliaga 受入基地プロジェクト

1996 年、トルコはエジプトと LNG 輸出についての基本合意に達し、Izmir 近郊の Aliaga

に LNG 受入基地を建設する計画を進めてきた。LNG 供給者の選択にあたって入札の活用を

検討したが、想定より国内の天然ガス需要が伸びず、既に需要想定より多くの天然ガス(輸

入パイプラインガス+LNG)の売買契約を締結してしまっており、LNG 受入基地の建設計画

そのものが破棄されたものと思われる。

F.中国電力の水島基地向け

2004年に中国電力が水島基地向けの60万トン/年のLNG調達について入札を行ったと言

われている。

G.KOGAS 長期 LNG 売買契約

2004 年 9 月、KOGAS は長期契約の入札を公表した。入札にあたって提示された条件は以

下のとおりである。(契約は同一の内容の 3本立て)。

ⅰ.数量は 150 万トン/年+50 万トン/年(オプション)。

ⅱ.供給開始は 2008 年 1 月から、ただし 2009 年からの開始も可。

IEEJ:2005 年 10 月掲載

30

ⅲ.下方弾力性は 10%、下方弾力性の累積上限は年間契約引取数量の 100%。

ⅳ.数量の 5%まで韓国外への販売を認めること。

ⅴ.夏冬の供給数量が 50:50 の場合と 30:70 の場合の 2通りの価格を提示すること。

ⅵ.FOB と Ex-Ship の 2 通りの価格を提示すること。

ⅶ.価格フォーミュラは LNG 価格=0.05×JCC+A で、JCC が$15~25/MMBtu のプライス

バンドによる上限・下限付き

ⅷ.ガス産業の規制緩和次第によっては契約主体が他の韓国企業になることもある

2005 年 2 月、政府は SakhalinⅡ、Malaysia LNG Ⅲ(Tiga)、Yemen と期間 20 年の HOA

を締結した。この HOA では、買主に数量オプション権が付与された上、3 契約中 2 契約に

ついては夏冬の供給数量が 30:70 であるという有利な条件にかかわらず、価格は従来契約

分と比較して 35~40%低下し、また、原油価格による変動幅が抑制されていると言われて

いる。

中国広東省深圳の事例が成功を収めたために入札制度が大いに注目を集めたが、2004 年

の KOGAS の短期契約入札では価格面ではそれほどの成果をあげていないと言われ、KOGAS

の長期契約入札においても有利な条件を獲得してはいるものの、それが入札によるもので

あるか、市場環境によるものであるかの判断は難しい。なぜなら、過去の事例から入札が

買主にとって有効に機能するには、①複数の供給元がある ②既存の生産者に余剰の LNG

生産力がある ③買主も売主の事情に合わせて供給時期などについて融通が利かせられる

などの条件が整うことが望ましいことが分かるが、これらの条件が揃っている場合、複数

プロジェクトを相手とした相対交渉によっても有利な条件を引き出すことができる可能性

が高いからである。したがって、入札制度の効果を評価するには日本の買主の動向を含め、

今後の更なる事例蓄積を待つ必要があると思われる。なお、新規 LNG 生産プロジェクトは

確実な供給が約束できず、新規 LNG 受入基地プロジェクトも確実な購入が約束できない点

が本質的には入札に適さないことは明らかである。

②スポット取引における入札制度

スポット取引では、条件が時期・数量・価格と比較的単純であり、供給元も複数存在す

ることが多いため、入札が活用されることが多い。また、スポット取引においては買主が

実施する入札以外に、売主が「最も高く買ってくれる買主に売る」という売り入札を実施

することもある。

(6)既存のパイプラインガス市場と LNG 取引との関係

本節では、欧州・北米のような既存のパイプラインガス(国内生産または輸入パイプラ

インガス)の存在と LNG 取引との関係を整理する。関係の一つは裁定取引の活発化による

ビジネスチャンスの創出であり、このチャンスは今後 LNG フローが多様化していくことで

IEEJ:2005 年 10 月掲載

31

更に大きなものとなることが予想される。もう一つは需要増減リスクの回避効果であり、

これはパイプラインガス(国内生産または輸入パイプラインガス)が、突発的な需要の増

減や規制緩和によって生じる LNG 需要の不確実性に対して緩衝材としての役割を果たすと

いうものである。

①裁定取引の活発化

LNG 市場における裁定取引とは、需要地における天然ガスの価格差を利用して利ざやを

稼ぐものであり、最も典型的な例は大西洋の両岸での天然ガス価格差を利用するケースで

ある。例えば、欧州における天然ガス価格が 3 ドル/MMBtu、北米東海岸における天然ガス

価格が5ドル/MMBtuの場合に、当初欧州向けであったLNGを仮に輸送コストを1ドル/MMBtu

追加で負担しても北米東海岸に供給し、欧州においては別途代替のガスを調達すれば、1

ドル/MMBtu の利益を稼ぐことができるというものである(図 3-14)。

図 3-14 裁定取引の概念図

(出所)日本エネルギー経済研究所作成

裁定取引を成立させるためには、LNG の供給を減らされる需要地においては代替の天然

ガス(国内生産または輸入パイプラインガス、あるいは LNG)を調達できること、または

代替の天然ガスなしでも支障がないことが前提となる(その他、需要地間での天然ガス価

格差、仕向地条項の緩和、柔軟な LNG 船の手配などが必要)。

したがって、現時点のアジアのように代替の天然ガスの調達が困難な需要地においては

実現することが難しく、裁定取引は、主にその両岸に LNG 基地を持ち、両岸ともパイプラ

インガス(国内生産または輸入パイプラインガス)という代替の天然ガス調達手段がある

大西洋において発生している。

天然ガス価格:3 ドル/MMBtu

天然ガス価格:5 ドル/MMBtu

仕向地を欧州から北米東海岸に変更

欧州ではガスを代替調達

IEEJ:2005 年 10 月掲載

32

既に述べたとおり、大西洋市場では仕向地条項が緩和される傾向にあり、北米の天然ガ

ス市場は流動性が非常に高く、かつ大量の貯蔵設備を持つため、LNG 受入基地の容量を確

保して持ち込みさえすれば、常時大量の取引が可能である。2000 年前半までは北米での天

然ガス価格が 3ドル/MMBtu 以下であったため裁定取引の機会はなかったが、2000 年後半か

ら 2001 年前半や 2003 年以降のように、北米の天然ガス価格が 4~6ドル/MMBtu、場合によ

っては 7ドル/MMBtu を超え、欧州の LNG 価格が 2~4ドル/MMBtu の局面では、当初欧州向

けであった LNG が北米東海岸に供給される事態が多く発生している。

例えば、Atlantic LNG のトレイン 1からの LNG の 60%は FOB で Cabot(現 Tractebel)に

販売(主に Everett 基地に供給)し、40%は FOB で Gas Natural に販売してスペインに供給

するはずであったが、Gas Natural は夏場のスペインにおける需要が不十分で LNG の引き

取りに支障を来たすことを懸念しており、一方北米においては価格を問わなければ幾らで

も LNG を販売することができたため、Gas Natural は Cabot と協議した結果、LNG を北米6と

スペインのいずれにも供給できることで合意した。結果として北米の価格は高値で推移し、

スペインでは天然ガスが供給過剰気味であったため、スペインに供給されたカーゴはほと

んどない状態であった(図 3-15)。

図 3-15 米国とスペインの天然ガス価格差と Atlantic LNG からの到着カーゴ数

(出所)Gas Strategies

Gas Strategies の予想では、今後も北米の天然ガス価格は 4~5ドル/MMBtu の高値で推

移し、一方、欧州の天然ガス価格は供給過剰によって弱含むと見通しである。この場合、

中東あるいはアフリカの大半の液化基地から北米へ輸送する際に発生する追加輸送コスト

6 北米への供給は Everett か Lake Charles 向けであるが、一般的に Everett の価格が Lake Charles より

高いので、Everett に優先的に供給して残りを Lake Charles に供給することになると思われる。

0

500000

1000000

1500000

2000000

2500000

A M J J A S O N D J F M A M J J A S O N D J F M A M J J A S O N D J F M A M J J A S O N D J F M A M J J A S O N D

1999 2000 2001 2002 2003

cubi

c m

etre

s LN

G

-2.00

-1.00

0.00

1.00

2.00

3.00

4.00

5.00

$/M

MB

tu

USA Spain HH-Spain Differential

IEEJ:2005 年 10 月掲載

33

は 1ドル/MMBtu 未満のため、今後も欧州から北米へ多くの LNG が流れることになると思わ

れる。

このように、パイプラインガス(国内生産または輸入パイプラインガス)の存在は LNG

市場に対して新しいビジネスチャンスを創出しており、今後 LNG フローが多様化していく

ことでこのチャンスは更に大きなものとなることが予想される。

なお、今後、パイプラインガス(国内生産または輸入パイプラインガス)を持つ北米西

海岸において受入基地が稼動し、北米西海岸に向けて一定量の LNG 供給が行われるように

なると、アジアの状況にも変化が生じる。アジアの LNG 価格が北米の天然ガス価格を大き

く上回る場合に北米西海岸向けの LNG をアジアに供給することは、大半の場合は輸送距離

が短縮され、かつ北米西海岸においては代替の天然ガス(国内生産または輸入パイプライ

ンガス)を調達できるため、比較的容易である。そのため、2004 年に締結された BP(Tangguh)

と Sempra の LNG 売買契約には、「BP は Sempra に対価を支払うことで一部数量を他の市場

へ持っていくことが許される」という裁定取引を前提としたと思われる内容が含まれてい

る。

ただし、北米の天然ガス価格がアジアのLNG価格を大きく上回る場合にアジア向けのLNG

を北米西海岸に供給するためには、北米西海岸の LNG 受入基地容量確保、柔軟な LNG 船の

手配、仕向地条項の緩和、代替の LNG 調達など、克服すべき課題が多く実現は難しいと思

われる。

図 3-16 アジアと北米西海岸との裁定取引の可否

(出所)日本エネルギー経済研究所作成

②需要増減リスクの回避効果

パイプラインガス(国内生産または輸入パイプラインガス)とその貯蔵施設の存在は、

LNG の需要の不確実性に対する緩衝材としての役割を果たしている。仮に寒波などによっ

て天然ガスの需要が想定以上に増加した場合、LNG の代わりにパイプラインガス(国内生

産または輸入パイプラインガス)を代替調達することで対応できるため、高価なスポット

アジア価格>北米西海岸価格の場合の裁定取引

(LNGの流れは北米西海岸向け⇒アジア向けに変更)

①輸送距離は短縮される場合が多い 実現は容易②北米西海岸では代替の天然ガスを調達できる

③仕向地条項が緩和されている売買契約がある

北米西海岸価格>アジア価格の場合の裁定取引

(LNGの流れはアジア向け⇒北米西海岸向けに変更)

①LNG受入基地容量の確保は長期契約が基本のため、短期の容量確保が困難 実現には②輸送距離が大幅に伸びる場合が多いため、柔軟なLNG船の手配が必要 課題が多い③代替のLNG調達、または代替LNGなしで対応することが必要

④仕向地条項が付されているため、売主の同意が必要

IEEJ:2005 年 10 月掲載

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LNG の調達を余儀なくされる可能性が小さく、新規契約締結の際に Slow build up や数量

オプション権を盛り込む必要性も少ない。また、規制緩和に伴い想定以上に需要が脱落し

たとしても、受入容量の制約はあるものの、アメリカ、イギリスという天然ガスの流動性

が高い市場に LNG を持ち込んで売却することで需要脱落リスクを回避することもでき、結

果として新規契約の際の下方弾力性縮小などに繋がっている。

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