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胃・食道重積 gastroesophageal intussusception内視鏡の挿入時には重積は解除 胃を尾側方向へ牽引し、胃瘻チューブを設置 胃と腹壁の固定を行い、重積再発の予防 施述後から速やかに症状は改善し、吐出・悪心は消失した 術後78日目の胃瘻チューブ抜去後も良好な経過をたどっている 胃粘膜が反転し、食道内に重積 mix 16歳(推定) 去勢雄 主訴 :頻回の吐出、食欲不振 現病歴 5日前から 他院にて点滴治療の後紹介来院 既往歴 :数年前から食事後に時折嘔吐 半年前から鼻腔狭窄音 予防歴 :なし 生活環境 :屋内・外 食事 :ドライフード、缶詰 CBC :白血球数(35800/μl)、分葉核好中球数(32399/μl血液化学検査 血液凝固系検査 BW 3.7kg BCS 2/5 体温 37.4悪心あり 口内炎(-) 食道尾側から胃噴門部にかけて 透過性の低下した領域 上部消化管造影実施時に誤嚥した造影剤 両腎構造不明瞭 腹腔内明らかな異常なし 麻酔による噴門部の弛緩と陽圧換気による 胃・食道重積の緩和 本症例における吐出の原因は胃・食道重積によるものと考えられた。胃・食道重積を生じた 原因は不明であるが、加齢による食道裂孔部や噴門部の緩み、鼻閉症状による胸腔内圧 の低下、嘔吐による腹腔内圧の上昇などが関連しているものと推察した。 本症例では無麻酔でCT 撮影が診断に有用であったが、麻酔をかけた際には噴門部の緩み や胸腔内圧の上昇などにより、重積が一時的に解除されていたため、麻酔下のCTでは診断 ができなかった可能性もある。 胃食道重積の治療は開腹下で、外科的に重積の整復および再発防止のための胃固定・食 道裂孔部の縫縮を行う手技が一般的である(1)。過去の1例報告では、胃食道重積を外科的 に整復した後に、PEGによる胃固定を行うことで良好な経過を得られている(2)本症例においては、内視鏡と PEG による胃固定を行うことで、低侵襲で病態を 改善することができた。 1 例のみの報告で本手技の有用性について論じることは できないが、外科的整復を行う前に試みる価値はあるのではないかと考えた。 (1)Theresa WF, Cheryl SH, Donald AH, et al. スモールアニマルサージェリー. 若尾義人,田中茂男, 多川政弘監訳. Inter Zoo. 2005. pp353-355 (2)Nivia IM, Wesley C, Gregory CT, et al. Intermittent gastroesophageal intussusception in a Cat With idiopathic megaesophagus. Journal of the American Animal Hospital Association 2001 May-Jun;37(3):234-7. 食道内で造影剤往復. 胃内に入っても食道内に戻る様子あり. 重積部横断面 食道矢状断面 食道粘膜反転部 肝臓 肝臓 食道粘膜反転部 造影剤 上部消化管造影実施時に誤嚥した造影剤 :特異所見なし :特異所見なし 噴門部の消失および食道粘膜の 反転を認める 腫瘤性病変・食道裂孔ヘルニアは 確認されなかった ※無麻酔CTのため、体軸からずれた 画像となっている ・処置前 ・麻酔導入 ・内視鏡挿入 ・胃瘻チューブ(PEGチューブ)設置

mix 16 !!!胃・食道重積 gastroesophageal intussusception!!!胃・食道重積 (gastroesophageal intussusception) 内視鏡の挿入時には重積は解除 胃を尾側方向へ牽引し、胃瘻チューブを設置!

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  •      胃・食道重積 (gastroesophageal intussusception)

    内視鏡の挿入時には重積は解除

    胃を尾側方向へ牽引し、胃瘻チューブを設置  胃と腹壁の固定を行い、重積再発の予防  

    施述後から速やかに症状は改善し、吐出・悪心は消失した  術後78日目の胃瘻チューブ抜去後も良好な経過をたどっている

    胃粘膜が反転し、食道内に重積  

    mix 16歳(推定) 去勢雄    

     主訴    :頻回の吐出、食欲不振   現病歴    :5日前から              他院にて点滴治療の後紹介来院

         既往歴    :数年前から食事後に時折嘔吐               半年前から鼻腔狭窄音   予防歴    :なし   生活環境  :屋内・外   食事    :ドライフード、缶詰  

     CBC       :白血球数(35800/μl)、分葉核好中球数(32399/μl)  血液化学検査    血液凝固系検査

     BW  3.7kg BCS  2/5 体温  37.4℃  悪心あり 口内炎(-)

    食道尾側から胃噴門部にかけて  透過性の低下した領域

    上部消化管造影実施時に誤嚥した造影剤

     両腎構造不明瞭  腹腔内明らかな異常なし

    麻酔による噴門部の弛緩と陽圧換気による胃・食道重積の緩和

    •  本症例における吐出の原因は胃・食道重積によるものと考えられた。胃・食道重積を生じた原因は不明であるが、加齢による食道裂孔部や噴門部の緩み、鼻閉症状による胸腔内圧の低下、嘔吐による腹腔内圧の上昇などが関連しているものと推察した。

    •  本症例では無麻酔でCT撮影が診断に有用であったが、麻酔をかけた際には噴門部の緩みや胸腔内圧の上昇などにより、重積が一時的に解除されていたため、麻酔下のCTでは診断ができなかった可能性もある。

    •  胃食道重積の治療は開腹下で、外科的に重積の整復および再発防止のための胃固定・食道裂孔部の縫縮を行う手技が一般的である(1)。過去の1例報告では、胃食道重積を外科的に整復した後に、PEGによる胃固定を行うことで良好な経過を得られている(2)。  

       本症例においては、内視鏡とPEGによる胃固定を行うことで、低侵襲で病態を   改善することができた。1例のみの報告で本手技の有用性について論じることは  できないが、外科的整復を行う前に試みる価値はあるのではないかと考えた。

    (1)Theresa WF, Cheryl SH, Donald AH, et al. スモールアニマルサージェリー. 若尾義人,田中茂男, 多川政弘監訳.  Inter Zoo. 2005. pp353-355 (2)Nivia IM, Wesley C, Gregory CT, et al. Intermittent gastroesophageal intussusception in a Cat With idiopathic megaesophagus. Journal of the American Animal Hospital Association 2001 May-Jun;37(3):234-7.

    食道内で造影剤往復.  胃内に入っても食道内に戻る様子あり.    

    重積部横断面

    食道矢状断面

    右 左

    食道粘膜反転部

    肝臓

    肝臓

    食道粘膜反転部

    造影剤

    上部消化管造影実施時に誤嚥した造影剤

    :特異所見なし  :特異所見なし  

    •  噴門部の消失および食道粘膜の  反転を認める

    •  腫瘤性病変・食道裂孔ヘルニアは 確認されなかった

      ※無麻酔CTのため、体軸からずれた      画像となっている

    ・処置前

    ・麻酔導入

    ・内視鏡挿入

    ・胃瘻チューブ(PEGチューブ)設置