Upload
tranthu
View
217
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
土砂移動と地形形成プロセスのモデル化:そのレビューと展望
Modeling of sediment transport and morphological processes in rivers:
reviews and prospects
北海道大学 泉 典洋
2015年10月19日河川・海岸の土砂水理に関するワークショップ
今日のメニューこれまでのレビュー• 掃流砂• 小規模河床波(デューン,アンチデューン)• 中規模河床波(バー)• 蛇行流路• 自律形成河道• 水路群の形成
これからの展望• 土砂輸送量式の精緻化• 乱流モデルの精緻化• 植生などバイオコントロールの地形形成への影響の解明• 総合化
土砂水理学の父 Felix Exner
Exner方程式 (1920)
流砂量qbが河床高さηの関数で表されるとすれば
qb,ηはηに関する増加関
数であるので河床高さが高いほど早く伝搬する!デューンは時間とともに上流側が緩やかで下流側が急な形状になる.
非線形波動方程式
Exner (1920)に掲載されたオリジナルスケッチ
時間
土砂水理学の母 Ralph A. Bagnold?Bagnold仮説と流砂量式(1957)
掃流砂量公式
• Meyer, Peter & Muller (1948): 実験式
• Einstein (1950): 確率モデル
• Brown (1950): 実験式
• Bagnold (1957): Bagnold仮説に基づく理論式
• 佐藤・吉川・芦田 (1958): 揚力主体の理論式
• 篠原・椿 (1959): 実験式
• 芦田・道上 (1972): Bagnold式の発展形
• 中川・辻本 (1975): Einstein式の発展形
• Engelund & Fredsoe (1976): 芦田・道上式に酷似
小規模河床波のレジームシフト
Lower Regime Flat Bed Ripples
Ripples and DunesDunes
Upper Regime Flat Bed
Antidunes Chutes and pools (cyclic steps)
小規模河床波の理論研究史
• デューンとアンチデューン
– Kennedy (1963): ポテンシャルフローモデルを使った線形安定解析
– Hayashi (1970): Kennedyの理論をさらに発展
– Engelund (1970), Smith (1970): 定せん断層近似のせん断流モデルを使った線形安定解析
– Richards (1980): 混合距離モデルと乱流エネルギー方程式を用いた線形安定解析
– Yamaguchi and Izumi (2002, 2003, 2005): Engelundモデルを使った弱非線形安定解析
– Colombini (2004): 混合距離モデルを使った線形安定解析
– Izumi (2007): 混合距離モデルを使った弱非線形安定解析
– Colombini and Stocchino (2008): 混合距離モデルを使った弱非線形安定解析
• サイクリックステップ (shoot and pool)– Parker and Izumi (2000): 粘着性土砂の場合の非線形解析
– Sun and Parker (2004): 非粘着性土砂の場合の非線形解析
– Balmforth and Vakil (2012): サイクリックステップと転波列の非線形解析
河床不安定現象の概念
射流
常流
•水面と河床面はほぼ同位相
•流速と土砂輸送量は河床波の頂部で大きい
•水面と河床面はほぼ逆位相
•流速と土砂輸送量は河床波の谷部で大きい
水面と河床は逆位相流砂量と河床は同位相
フェーズリード⇓波高は成長下流へ伝搬⇓
発達中のデューン ,流下アンチデューン
水面と河床は同位相流砂量と河床は逆位相
フェーズラグ⇓波高は成長上流へ伝搬⇓
発達中の遡上アンチデューン
Engelundの線形安定解析 (1970)
Reynolds平均を取ったNavier-Stokes方程式
浮遊砂の移流拡散方程式
Reynolds応力テンソル
連続式
流れの定式化
流砂量と河床変化の定式化
浮遊砂巻上量
掃流砂量
全流砂量
Exner 方程式
定せん断層近似
底面せん断力
渦動粘性係数 を一定と仮定
安定性ダイアグラム
Yamaguchi and Izumi (2002, 2003, 2005)の弱非線形安定解析
• Engelundの定せん断層モデルを用いた弱非線形安定解析.掃流砂のみ考慮 (2002)
• 浮遊砂の影響を考慮 (2003)• 圧力勾配の影響を考慮 (2005)• 平坦床とデューンのレジーム間では亜臨界分岐
が発生.ヒステリシスが発生する可能性を示唆
水位ー流量曲線に見られるヒステリシス
From Simons & Richardson 流速係数
利根川川俣地点
全せん断力と有効せん断力
全せ
ん断
力
有効せん断力
Engelund & Hansen (1967)
層流ー乱流遷移時に見られるヒステリシス現象
平面Poiseuille流れの場合,層流から乱流に遷移する臨界レイノルズ数6000程度であるが,乱
流から層流に遷移する臨界レイノルズ数はそれよりずっと小さい.
層流 乱流
層流 乱流
R=5700
R~500
線形振幅方程式
0
解
線形安定解析と弱非線形安定解析
複素振幅平面
亜臨界分岐 (subcritical bifurcation)超臨界分岐 (supercritical bifurcation)
00
非線形振幅方程式(Landau方程式) 平衡解
Landau定数λ1が負のとき,λ0 > 0の領域に平衡な安定解が存在
Landau定数λ1が正のとき,λ0 < 0の領域に不安定な平衡解が存在
超臨界分岐と亜臨界分岐の概念図
R R
超臨界分岐 亜臨界分岐
安定な平衡状態
新たな安定な平衡状態
安定な平衡状態
局所的安定な平衡状態
新たな安定な平衡状態
デューンー平坦床遷移において予想される分岐ダイアグラム
Froude数
実際は複素振幅平面
増幅率展開法を用いた弱非線形解析
cc FFF 2ν−=臨界Froude数Fcのごく近傍,微小パラメータν2Fcだけ離れ
た範囲に注目.そこでは増幅率はνのオーダーである.全ての変数をνで展開してνの3次まで求めるとLandau方程式が得られる.
弱非線形安定解析から得られるLandau定数
圧力勾配の影響を無視 圧力勾配の影響を考慮
超臨界分岐 亜臨界分岐
圧力勾配(剥離)の影響を入れると亜臨界分岐(ヒステリシス)が現れる!
Guy et. alの実験で観測される解の二価性
Dunes
Flat bed
(19<C-1<21)C-1=20 C-1=21
Froude数が0.78-0.95付近でデューン河床と平坦床の両方が現れる!
Colombiniの線形安定解析 (2004)
Reynolds応力テンソル
流れのモデル
渦動粘性係数
混合距離
掃流層モデル
掃流層の存在を仮定.
掃流砂は河床面ではなく,掃流層上面のせん断力を用いて評価
安定性ダイアグラム
掃流砂量を河床上のせん断力で評価した場合
掃流砂量を掃流層上面のせん断力で評価した場合
Colombini and Stocchino (2008)の弱非線形安定解析
• 混合距離乱流モデルを用いた弱非線形安定解析
• Colombini独自の掃流層モデルを適用
• デューン-平坦床遷移は超臨界分岐.アンチデューン平坦床遷移は亜臨界分岐
• Landau方程式から平衡振幅を算出.実験と比較.しかし一致は必ずしも良くない.
果たして,デューン-平坦床遷移は超臨界分岐か,はたまた亜臨界分岐か?!
• ある水理条件が与えられたとき,どのような横断面形状および水深,川幅の河道が安定的に維持されるか?
• 側岸侵食による川幅拡大や土砂堆積による縮小が起きないのはどのような河道断面か?
• 側岸侵食と河道断面維持のメカニズムとは?
動的平衡河道-直線河道-
自律形成河道の研究史
• Regime論 (Kennedy 1894, Lindley 1919, Lacey 1930)
• 流路の水理幾何学 (Leopold & Maddock 1953)• 礫床直線河道の安定横断面形状 (Parker 1978,
池田ら 1986, Ikeda et al. 1988, 泉・池田 1989, Ikeda & Izumi 1990)
• 砂床直線河道の安定横断面形状 (Parker 1978, 泉・池田 1991, Ikeda & Izumi 1991, 泉ら 1997)
• 山本の式 (1988, 2004)• 福岡の式 (2010)
水深の増大による側岸部の底面剪断力の増加
側岸侵食が発生
河道が拡幅し水深減少
側岸部の底面せん断力が限界せん断力を下回ると側岸侵食は止まる
側岸侵食と河道断面維持のメカニズムー直線礫床河川の場合ー
側岸部側岸部中央部
側岸上の土砂が動くと,動いた土砂は重力によって河道中央方向に引っ張られ,側岸部は侵食を受ける.
中央部と側岸部の境界で限界掃流力状態となる
乱流拡散による運動量輸送によって再配分された底面剪断力分布
(Parker 1978, 池田ら 1986, Ikeda et al. 1988)
側岸部上に杭や樹木群がある場合
杭や樹木群によって剪断力の一部が受け持たれるため,水深が大きくても側岸侵食が生じない⇒安定水深増加
(泉・池田 1989, Ikeda & Izumi 1990)
安定水深および安定川幅の変化
安定川幅
安定水深植生の効果を無視
植生の効果を考慮
現地観測結果との比較
側岸侵食と河道断面維持のメカニズムー直線砂床河川の場合ー
平衡状態では...
相対水深(=水深/粒径)は河床勾配の-1乗に比例
(泉・池田 1991, Ikeda & Izumi 1991)
透過水制の効果
杭によって剪断力が減少
側岸部の浮遊砂濃度減少
側岸方向への浮遊砂フラックス増加,掃流砂量減少
側岸部への土砂堆積増大
中央部での侵食
安定水深の増大
透過水制による水深の増大と断面形状の変化
安定水深は最大30~40%増加
流量および流砂量が保存すると仮定すると,水深は80%増加,川幅は40%減少
水深の変化 断面形状の変化
水制域は土砂に埋まる
(泉ら 1997)
水路群形成の理論(泉 1999, Izumi & Parker 2000)
0~~~
~~~
~~
~~
~~
~~~~
~~
~~
~~
~~
~~~~
~~
=∂∂+∂
∂
−∂∂−∂
∂−=∂∂+∂
∂
−∂∂−∂
∂−=∂∂+∂
∂
yhv
xhu
hygyhgy
vvxvu
hxgxhgy
uvxuu
y
x
ρτηρτη
γ
ττατ
τη
−=
−=∂∂
1~~
)~(~
)~(~~~
thE
Et
斜面高さの時間変化
境界条件 ( ) ( ) −∞→=∂∂−= xSxuvu nn
~at ~~
,0,~~,~ η
cxxFr ~~at 0~ ,1 === η
浅水流方程式
支配方程式
上流側無限遠点で等流状態へ漸近
下流端で支配断面
1.5 ,1.0 == γσ 1.5 ,0 == γσ
擾乱の成長率の波長による変化
擾乱の成長率は k=0.3-3で最大
112~ −−= mfcm kCDπλ卓越波長
3~3.0=mk卓越波数
01.0≈fC cm D×= )200~2000(~λと見積もるとm1.0=cD m 20~200~ =mλの場合
今後の展望
• 土砂輸送量式の精緻化:
河床波,蛇行の発生条件の精緻化,山地河川における土砂輸送(土石流)プロセスの解明
• 乱流モデルの精緻化:
浮遊砂輸送への密度成層の影響 → 重力流による土砂輸送,混濁流,火砕流
• 河床近傍の乱流特性の再現性の向上 → 小規模河床波の発生条件の精緻化
モントレイ海底峡谷の水路からあふれ出した混濁流によって形成された波状地形.Parker et al. (2007)から再構成
イール海底峡谷と海底扇状地.中央下にステップ状の地形が見られる.Lamb et al. (2010)から再構成
火星北極冠氷床上に見られる螺旋状地溝.近年,地溝は氷床上を吹くカタバ風と直行していることがわかり,溝というより流れによって形成されたサイクリックステップである可能性が濃厚となっている.Courtesy NASA/JPL-Caltech
実験室で再現された混濁流
淡水中の底面上に,塩水にプラスチック粒子を混ぜて流し,堆積形状を作っている
• 植生などバイオコントロールの地形形成への影響の解明:自律形成河道への植生の影響,植生による蛇行・網状流路の安定化
• 総合化:
洪水時における流れと土砂移動,河床変動の
関係についての総合的な理解と,それに基づく河床変動シミュレーションモデルの確立,大規模地形形成シミュレーションモデルの開発