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Title II-3章 地域福祉スポーツ活動の推進(II 地域福祉活動の推進)

Author(s) 小原, 達朗

Citation 地域福祉の推進 (長崎大学公開講座叢書 13) p.71-81

Issue Date 2001-03-30

URL http://hdl.handle.net/10069/6467

Right

NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE

http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp

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3章 地域福祉スポーツ活動の推進

1節 スポーツが関わる地域福祉

小原 達朗

(1) 地域福祉スポーツの意味と対象

「地域スポーツ」は、コミュニティスポーツとして地域開発や地域創造の一環

して行政主導とはいえ市民権を得てきたようにおもわれる。一方、「福祉スポー

ツ」という包括的な表現はほとんどみられない。このふたつを結合した 「地域

福祉スポーツ」という表現になるとなおさら見聞きする機会は少ないが、意味

するところは想像にかたくない。しかし、地域福祉スポーツ活動の推進を考え

るにあたって、この用語のもつ概念のようなものを明確にしておく必要があろ>つo

地域福祉が住民の生活問題の解決や緩和を図るための社会的施策 ・方法およ

び行動の総体1)であるとするなら、スポーツ活動の場合の住民の生活問題は、誰

もがいつでもスポーツを楽しめる状況にあるかということになろう。 中でも、

問題の困難性と解決の必要性に絞ってみると、障害者や高齢者に対する地域福

祉活動が大きな位置を占めているといえる。

スポーツの場において障害者や高齢者は身体活動への適応という面から観察

すると大きな隔たりはない。ひとつは身体の障害や体力の低下による運動の制

限であり、もうひとつは知的障害や感覚機能の低下 ・思考力の衰えによる能動

的な活動の不十分さが両者にみられるためである。したがって、地域福祉スポー

ツの対象者としてみるとき障害者と高齢者に対する実践場面での意義づけや対

応は同様に捉えても差し支えはない。

(2)地域福祉スポーツの必要性

スポーツは、障害者や高齢者にかかわらずスポーツを行う者の主体的意思に

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よるところに本来の意味があり、「自助」的でなければならない。しかし、それ

が不可能もしくは不十分な場合には 「共助」という主体的な活動も考えられる。

行政からの恩恵を受けるような客体的な態度もしくはそのようにならざるを得

ないような制度では未成熟な地域福祉スポーツ活動であると言わざるを得ない

であろう。 自助にしろ共助にしろ主体的に取り組むことによって(∋自らの能力

を生かせることが証明できるし、②障害者や高齢者の可能性を社会的に示し、

③スポーツを通じて社会のすべての人々との友愛や親睦が生まれ、お互いの生

活の質を向上させることもできるものと考えられる。 スポーツはその行為が目

に見えるものであるだけに、壁の中ではなく開かれた地域の中に融合しそ行わ

れることや、ノーマライゼーションの在り方もまた目に直接は見えるのである.

ここのと■ころが 「地域福祉スポーツ」が必要とされるゆえんである。▲単なる身

体や精神的な刺激としてのスポーツや運動に留まうてい七はならない重要な社

会開発分野であろう。

2節 地域福祉スポ⊥ツ活動の現状と課題

(1)・障尊者のスポヰツ活動の現状 一

・障害者のスポーツ潜動は、広い意味では障害からの機能訓練やTjJヽどリテ÷

ションを含んでいるが、スポヤツの範噂でいうと、リハビリテーションスポーヅ、

レクリェ-ションスポニッそしてパラリンピJly才のような競技スポーツに大刺

される。その中で組織化されているものは競技スポーツであり∴35種目の団体が

財団法人日本障害者 (身体障害者).スボナ.ツ協会に所属しており、、地域はは都

道府県 ・指定都市障害者・(身体障害者)しスポ-ツ協会が39地域は設立ざれてい

る。 またJ障害者スポーツ担当課は、すべての都道府県 ・指定都市に設けられ

ている.・これらは行政による障害者スポーツ振興事蓑と障害者社会参加促進辛

業によっで推進されてきたものであるO さちに、19,95(平成 7)年に 「障害者

プラン」が策定されて障害者の生活の質の向上を月指しでレジャ」、レクリi-

ション、スポーツの振興がうたわれている。

施設面では、勤労身体障害者体育施設が各県に設けら・れ、それより障害者の

スポーツを意識した障害者優先利用ス~ポ」ツ施設として障害者スポーツセン

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3章 地域福祉スポーツ活動の推進

タ-や福祉センターのスポーツ施設が設けられ、スポーツ実践の場 としての機

能とスポーツ情報や交流の核としての機能を果たすことが期待されている。

「障害者プラン」がうたっているような生活の質の向上を目指したレジャーや

レクリェ-ションとしてスポーツを楽しみたい個々の障害者にとって、いつで

もどこでもスポーツを行うことは、まだ普通のことではない。筆者の調査した

「障害者スポーツに関する調査」では、障害者スポーツの普及種目が少ないこ

と。 使用できる施設も満足できものもあるが不十分なものもある。指導者や組

織も障害者だけが関わっているものがほとんどである。最大の問題点は、グルー

プや団体 ・組織をつなげる核がないということであった。

(2)障書者のスポーツ活動の課題

(∋行政主導からの脱却

スポーツの持つベクトルの多さからスポーツは、行政によって様々に手段化

されてきた。文部省は教育的価値を、厚生省と労働省が医療福利厚生を、通産

省が産業振興をそして経済企画庁や自治省が地域づくりや健全育成を目指して

スポーツに住民を追い込み縛ってきたようにおもわれる。その結果、逆にスポー

ツ離れを生じたり、一過性 ・一時期の隆盛に終わってしまうことが度々繰 り返

されてきた。

障害者や高齢者は、これまでと同様になんら変わることのない住民として暮

らしていかなければならないし、益々自立していかねばならない。息の長い住

民の中に定着した障害者スポーツとなるためには、行政と連携しつつ行政主導

から脱却した障害者を含めた住民の主体的な取り組みが課題 となろう0

さらに、同じ目的をもった対象住民に対して各省庁間の縦割 り行政の横の連

携と柔軟な対応も課題である。

②マンパワーの不足と専門的指導者の育成

障害者スポーツは、その振興の歴史的推移からみてリハビリテーションの医

療分野もしくは福祉分野に端を発して厚生省に管轄されてきた。そのために文

部省管轄であるスポーツの分野は、国や地域のいずれの段階でも施策の対象の

外に置かれてきた。各種のスポーツ大会、スポーツ教室の実施、施設の建設等

も対象の中になかった。

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-指導者についても同様のことが言える.月本体育協会公認のスポーツ指導員

資格取得のための講習には障害者に対するための内容は含まれていない.体育

スポーツ指導者を育成する大学の*1)ヰ立ラムの中にも障害者の運動やズボー

ッに・関する必修科Erはないようである。したがって、障害者のスポーツ施設や

運動場面で専門的知識を持ちた指導者は非常に少ない現状、にある。行政担当者

はいるが\障害者の居住地域で日常的にスポーツをマネ÷ジメントできるマン

パワーの不足は決定的な推進阻害要因であるといえる。.

このよな専門的指導者の育成の問題を解決するためにはーi大学のスポニッ・

体育関連学部もしくは教育学部等に障害者スポーツや地域福祉関連科目を加え

て必修化すること、スポーツ指導員養成講習カリキュラムに障害者スポーツ関

連科目を加えること、あるいは英国のユース ・ス求-ツ・トラストが行ってい

るような地域スポーツ指導員や小中高校教員の希望者を対象とIti,た再教育こ月

本障害者スポーツ協会による地域スポーツ指導者:に対する障害者スポーツ指導

員養成講習の受講の奨励七公認化が考えられるが、日本障害者スポニッ協会に

よる講習受講の奨励と公認化が現段階では最も現実的であると考えられる。

(卦情報の共有化と・ネットワークの必要性

日常的な障害者スポーツの実施や普及、を考えた場合、スポ」ツ活動の紹介や

企画の案内に関する情報、健康や運動に関する知識を直接本人か周囲の者に提

供できるかということが障害者には情報が少なくルートが少ないだけに重要な

問題やある. /,

視覚障害者にー視覚に.よる情報伝達は、直接的な意味を持たない.J音声による

通信機器を利用する方法等の開発で解決の可能性は高くなって きたとl言えるd

情報の受け手が高齢者や知的障害者の場合には、、.仮に情報を受け取うたとし

ても提供されたスポーツやプログラムに参加可能であるかの認識が持てない場

合がある.このような場合には対象となる本人とを特定の関係者との連携が必要

である。 また、様々な障害者が発信し・ようと・している情報や行いたいスポーツ

の有無や実施の可能性に関する要望を集約したり仲介する必要もある。′

このように障害に応じた情報の伝達方法の活用と少ない情報を有効に活用す

るため′にお互いの発信と受信によ.る情報め共有化が必要となる。-そのために情

報の拠点づくりと相互のネットワークの形成が望まれる。1

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3章 地域福祉スポーツ活動の推進

(3)高齢者のスポーツ活動の課題

(Dゲートボールにみる高齢者のスポーツ

一般的にみて高齢者のスポーツの実施率は他の世代ほど高 くはないが、ゲー

トボールを中心に近年増加の傾向にある。 その他には体操や歩行が手軽な運動

として継続性も高い。しかし、他の世代に比べて活動の目的、仲間、施設が画

一的で狭隆であることを特徴としている。そのために活動内容が貧困であり、

活動基盤も脆弱である。

ゲートボールの高齢者スポーツの振興に果たした役割は、画期的なものであ

り、これがなければ高齢者スポーツの現状や高齢者の社会への進出は相当に遅

れているものと考えられる。 ただしその弊害も多く、生活のバランスを崩すほ

ど過熱し、人間関係を乱すほどの勝敗へのこだわり、参加への拘束やルールを

めぐるトラブルも報告されており2)高齢者がスポーツに取 り組む場合の未熟さ

を見ることができる。

(参高齢者スポーツの新たな展開

今後とも増加 ・長寿化するであろう高齢者は、これまでとは違った個性 と多

様なスポーツニーズを持った世代になるであろう。 したがって、これまでの高

齢者スポーツの振興を担ってきたゲー トボールだけに偏っていては、その弊害

面が障害となって高齢者スポーツの振興の妨げになる可能性も否めない。それ

故に、高齢者の健康状態、ライフスタイル、スポーツ歴などの特性に対応した

多様多次元的なプログラムを提供できる場 と啓蒙的な指導者が必要になろう。

3節 地域福祉スポーツ活動の推進

地域福祉スポーツ活動の現状や課題を振 り返るとこれまでは行政主導の制度

面での対応が主であったようにみえる。地域福祉と銘打つ割 りにはそこに住む

住民の姿やそこにあるべき組織が見えてこない。住民と住民である障害者や高

齢者の活動がまだ十分に日常的に地域に定着していないためである考えられる。

そこで、地域福祉スポーツ活動を推進するための要件を当面甲対策から将来

に向かっての可能性について考えてみたい。

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(1) 障尊者スポーツセンターの機能の充実3)

障害者にとってのスポーツ施設にはその利用の点から分けてふたつのタイプ

がある。 ひとつは障害者専用あるいは障害者優先の施設であり、他方は∵般的

な施設である。 後者には障害者が利用できるトイレやシャワー設備あるいは障

害者のスポーツ用具や器具が完備していないところも多いがヾ最近では自治体

の衝づくり・条例や1994-(平成6)年のノ)-トビル法等の制定に後押しされて徐々

に改善されてきている。問題は、そこに障害者に対応できるスタッフがいるか

どうか、障害者の受け入れがなされているかどうかである。

一障害者優先_q)スポーツ施設には障害者スポーツセンター、障害者福祉セン

ターおよび障害者交流センターなどがある。これらのセンターはセンター独自

の事業を単独で行っている場合が多い。しかし、スポーツ参加者の新たな開拓、

これらのセンターから遠隔の地域に居住する障害者や重度の障害者に対するプ

ログラムの提供、スポーツの場での障害者と障害のない住民との一体化といた

課題に応えるには、他の一般の体育館やプール等のスポ」ツ施設、市町村、各

種の学校や医療機関等との連携を図り、受動的な立場から障害者がいつでもど

こでもスポ丁ツができるような機動性のある体制づくりと事業展開が望まれる

ところである.- 7

地域福祉スポヤツの振興という点からみたこれらのセンター、とくに障害者

スポ」ツセンターの果たすべき機能としては、障害者スポーツの課題で述べた

ように障害者スポーツやリハビリテーションスポーツ」レクリェ-ションに関

する情報ネットワークの形成と情報の発信、障害者に対応できる専門的指導者

やボランティアの養成 ・組織化 ・派遣、各地域のスポーツ指導者へのサポート

やプログラムの提供、競技スポーツ選手の強化などがあり、マンパワーの充実

があれば飛躍的に改善されると考えられる。

(2) 総合型地域スポTツクラブ構想との連携3)4)

.総合型地域スポーツクラブは、地方自治体への補助金モデル事業として国が

1995▲(平成.・7).年度から推し進めている地域スポーツ振興政策のひとつであり、

Jリーグの地域フランチャイズ、学校過5日制の完全実施、スポーツ振興投票

汰 (サッカーくじ)の導入、社会性余暇意識の高まりなどを背景として学校、

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3章 地域福祉スポーツ活動の推進

地域、企業そして行政による共同創成型のコミュニティを目指したスポーツク

ラブである。

少子化や指導者不足に悩むスポーツクラブや団体、実業団スポーツから撤退

している企業さらに新たなスポーツ振興の方策のない地方自治体の思惑が一致

した新構想のスポーツクラブであると言える。 具体的には、受益者負担と住民

のボランティアシップによる自主運営が理念として掲げられ、地域の活性化や

社会保障への貢献、さらには小学校の 「総合的な学習の時間」の体験的な学習

の場としてクラブの人材や資源に多くの期待が寄せられているところである。

しかし、これまでの総合型地域スポーツクラブの推進モデル地区で行われて

いる事例をみると高齢者を取り込んだ事例はあるが、障害者や障害者スポーツ

を意識したものはほとんどみられない。新構想のスポーツクラブにあっても障

害者スポーツまでは視点が向けられないことは障害者スポーツが住民の中にま

だ浸透していないことの現れであろう。

障害者スポーツや運動の根本原則であるAdaptedPhysicalActivity「体に合

わせた身体運動」の考えを踏まえると総合型地域スポーツクラブの条件のひと

つである 「様々な年齢の人が一緒に活動を行うこと」と、ほとんど一致するも

のである。すなわち 「様々な身体条件の人が一緒に活動を行うこと」と言い換

えることも可能であり、こどもから高齢者までそして障害のある人を含むまさ

に 「総合型地域福祉スポーツクラブ」と呼べるものに拡大発展するのではない

かとおもわれる。

(3) 自治体 ・企業 ・住民の連携システム5)

1975(昭和50)年以降、地域スポーツの時代が徐々に始まったが、その背景

には高度経済成長期に発生したコミュニティの空洞化を埋めて地域社会におけ

る人間性を取 り戻そうとする機運があった.地域スポーツにおいては、自治体

と企業に加えて 「住民」がその主体 として活動することが期待された。この時

点で、地域スポーツ振興における 「自治体」「企業」「住民」の三位一体的な構

造が完成した。

しかし、1980(昭和55)年以降、スポーツの商業化、メディア化、多様化、

複合化、グローバル化といった現象が顕著になるにしたがって、地域スポーツ

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振興を担うた三位:一体の役割分担の構造に変容が生じてきたムその原因は、こ

れまで単に「住民」として捉えられていた人々が、生活者、消費者あるいはユー

ザーと言われる-「個人」という多様な存在にな1-3てきカからである.I

.前述した総合型地域スポーツグラブが推進されてきた背景に、・スポーツをす

る住民を個人として捉えなくてはならなくなったことが上げられる。 当然のこ

とながら障害者や高齢者も多様な個人のひとりであり、自治体 ・企業 ・住民の

連携システムの中に参画できるのである。一

従来、経済分野において_「セクター方式」と呼ばれる連携システムが存在し

ていた.1980年代の終わりころか らこれらのゼクタ丁とは異なる形で地域ス

ポーツ振興の仕組みとして自治体 ・企業 ・住民の連携のLシステムとして生まれ

たものが以下に述べる3つのS/ステムである。-

(丑自治体と住民のシステム :民間非営利セクター

1995(平成 7)年に起きた阪神 ・淡路大震災は」全国的な規模でボランティ

アへの関心を高め、1998(平成10)、年の特定非営利活動促進法 (NPO法)=の

成立を促した.このようなこ七がきうかけとなりJ,自治体と住民の接点におい

て民間非営利セクターの活動がよりIi一層活発になった。・その背景には、社会の

成熟化によって生▲じてき一た人々の価値観の多元化とこ-ズの多様化への対応と、

高齢化や国際化によって生じた地域社会の変容に対する的確な対応が求められ

てきたことがあげられる. i

スポーツに関しては、・NPOという法人格をもった地域スポーツクラブやス

ポーツ振興関連組織が全国に出現した。当初のNPO法では税金面での優遇処

置はなかったが2000(平成12)年度から多少の優遇処置も取,られるようになっ

た。.・NPO法人においては、、」定の収入を確保し継続した事業を行うための補

助金の確保と会員の募集という消費者である 「個人」の要求に応えるという経

営的な側面が強 くなる。それだけに住民が自治体の補助を受けながらも主体的

に活動を担いながら実践するとことに特徴がある.繰り返し述べることに.なる

が総合型地域スポーツなどは、、まさに自治体と住民の接点から生まれた民間非

営利事業である。行政に縛られない自由な活動が展開されるものと期待される。

障害者や高齢者を取り込むことによってむしろ運営面での役割も期待できるの

ではないかとおもわれる。

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3章 地域福祉スポーツ活動の推進

(参企業と自治体のシステム :第 3セクターとPFI

企業と自治体の間には、従来よりいわゆる第 3セクターとよばれる半官半民

の公的企業がある。これまでの第 3セクターは、本来公益を目的に設立されて

いるために赤字が経営上大きな問題になることはなかった。成果に関係なく一

定の補助金が支給されるために組織の効率と生産性は低下し、かえってスポー

ツ振興を停滞させる原因にもなっている場合もある。

一方、PrivateFinaceInitiative(PFI)とよばれる公共事業への新たな民間

活力の導入の方法も検討されてきた。第 3セクターとの違いは、官民の役割 ・

責任 ・リスクの分担が詳細かつ厳密に契約で明確化されているところにある。

PFIは、主に民間が主導する事業であり、双方の分担が明確なために円滑な

事業の遂行が行われているようである。

スポーツに関しては、体育館やプールのような自治体や学校の体育施設をP

FIによって整備し、NPOの認証を受けた地域福祉スポーツ組織や商業ス

ポーツクラブのような民間組織が施設の管理を行うという事業形態も可能にな

る。 昼は学校で使い、それ以外の空いている時間は会員が利用するというよう

な方法がとられる。地域福祉スポーツ活動に使用するという視点からみると商

業的なニュアンスもあるが、障害者や高齢者に対する使用料の軽減措置もしく

は施設の利用面での快適性に対する受益者の理解があれば地域や施設の開発に

つながる方法として地域福祉スポーツ活動の促進に値すると考えられる。

③企業と住民のシステム :コミュニティビジネス

企業と住民の間には、従来の行政サービスを補完するような新しいタイプの

コンパクトなどジネスとしての 「コミュニティビジネス」というシステムが生

まれてきた。グローバル化する生活市場のすき間となる領域で、地域社会が必

要とするサービスや物財を営利目的に偏らず、きめ細かく継続的に提供する事

業である。 とくに公共 ・民間といった既成組織で対応できない物財 ・サービス

へのニーズに対応することが目的とされ、福祉や介護、リサイクル、環境、街

づくり、商店街の活性化、伝統工芸といった地域に密着した小さなビジネスを

展開している。

スポーツに関するコミュニティビジネスはまだ登場していないが、高齢者や

障害者のための地域福祉スポーツ活動の支援に専従者とし半ばボランティア的

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に従事することも考えられる。もちろん地域の少年スポーツを組織化して経営

することも可能であるが、あくまでもその内容が地域社会への貢献であること

を求められる。

4蔀 地域福祉スポーツ潜動の推進に不可欠な

スポーツボランティアユ

スポーツは、主体的な意思に基づいて行う 「自助」-を原則とすることは冒頭

に述べたが、一障害者や高齢者の場合は意思的には自助であって・も活動その3)の

が十分に行えない場合が多い。そのために補助者やパートナーすなわちボラン

ティアと共に活動することが特徴であろう。

丁般的にスポーツ領域では1ボランティアの意識なしに支援 ・補助活動をす

る場合が大多数である.それ・は自らの所属し実施するスポ丁ツの活性化のため

の一翼を担おうとするためであったり、相互に支援し合わなければ活動が成り

立たないこともある.I,、しかしI,災害支援ボランティアやオリンピヅク大会への

市民のボランティアなどの活躍にみられるように地域やイベントなどの場合に

は、自らの帰属している立場を離れた形や意識で支援活動を行っている..この

まうなボランティアをとくに丁スポーツボランティア」とよぶことにする。

スポーツ自書 (1996年)では 「スポーツボランティアとは、報酬を目的とし

ないで自分の労力、技術、時間を提供して地域社会や個人 ・団体のスポーツ推

進のために行う活動のことを意味する。ただし、活動のための交通費等の実費

程度の金額の支払いは報酬に含めない。」と定義している。

..我が国のスポーツボランティアの実態を知るために行った全国調査6)では、.

スポーツボランデイアの実施率は、成人では7.1%で人数にして694万人が参加

していると推定される。小中高校生の場合は学校ごとに推進活動をしているこ

ともあるが成人の約 3倍の20%以上が実施している。成人場合のその内容は、

大会の手伝いが53.3%、スポ⊥ツの指導32-.10/.、スポーツの審判27.90/.、クラ

ブ運営の手伝い27.3%、スポーツ施設の管理の手伝い7.9%である。専門的なも

のもあるが補助的なものが多く、誰にでもできるボランティア活動であれば多

・くのボランイアが参加できることが示唆される。おそらく情報さえあれば地域

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3章 地域福祉スポーツ活動の推進

福祉スポーツ活動に対しても潜在的なスポーツボランティアの希望者は相当数

にのぼるものと考えられる。

地域福祉スポーツ活動を推進するために言えることは、その対象となる障害

者や高齢者とともにスポーツボランティアを組織したり情報を発信する核 とな

るセンターの設置とスタッフの充実が近々の課題 と言える。

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