4
2 1 9 5 0 A I 3 3 P 4 Google A I Google 2 0 1 6 3 AI調AIɾจʗฤ෦ɺҏୡଠɺੜ ʗ ߶ ݪ܀小売・流通 P9 参照 P6 参照 P8 参照 将来予測、異常検知 自動翻訳、同時通訳 質問応答 音声認識に基づくコールセンター業務の 回答精度・速度の向上 など 生産ラインへの投入量調整 設備の予兆監視 スマートファクトリー(完全自動化工場) 不良品検査 熟練技術者のスキル形式知化による ロボットへの技術伝承 など 需要予測、在庫最適化 インターネットの閲覧履歴解析による レコメンデーション 店舗内の商品配置などの最適化 など ビジネスへの

NAVIS030 | May 2016 · 2019-10-08 · IoT (モノのインターネット)が拡大すれば 的に進化すると予想されている。膨大なデータが生成され、それに伴って人工知能も加速度

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Page 1: NAVIS030 | May 2016 · 2019-10-08 · IoT (モノのインターネット)が拡大すれば 的に進化すると予想されている。膨大なデータが生成され、それに伴って人工知能も加速度

2

 

1

9

5

0年代に研究開発が始まった人工知能(A

I)は、

データの多様化・増加、コンピューティングの高度化、アル

ゴリズムの高度化という3つの変化が起こったことを背景

に、現在3度目のブームを迎えている。ブームを牽引してい

るのは、人工知能に大量のデータを与えて識別ルールを学習

させる「機械学習技術」、中でも「ディープラーニング(深

層学習)」と呼ばれる学習技術である(P 

4参照)。自律的な学

習が可能となれば、複雑な問題にも対処できる人工知能の誕

生も期待され、より多様な分野での利用可能性が高まるだろ

う。マイクロソフト、G

oogle

などクラウドサービス大手は、

人工知能を手軽に利用できる「クラウドA

I」サービスとし

て、機械学習プラットフォームの提供も開始している。ま

た、G

oogle

は、2

0

1

6年3月にディープラーニング機能を

提供する新サービスを発表した。

 

こうした技術の進化やクラウドAIの登場により、イン

ターネットの検索エンジンなど特定の分野で先行していた人

工知能の利活用が、幅広い産業分野や製品・サービスへと拡

大しつつある。たとえば製造業では、人工知能を搭載した

産業用ロボットの開発が進められており、磨耗や劣化によ

る故障などの異常を自動検知する機械や、生産性の改善に

つながる動作を学習する機械などの登場により、品質管理

や生産工程の標準化による生産性の向上が実現される可能

性がある。半導体製造大手のルネサスエレクトロニクスで

は、工場内・装置内ネットワークのデータを人工知能で解

析し、精度の高い予兆保全を行うソリューションを開発して

いる。

 

不動産管理業でも活用が始まっている。竹中工務店では、

建物内のさまざまな設備や環境センサーから収集したデータ

を統合的に分析し、空調や照明など建物の設備運用を最適化

してサービスレベルの向上を図る次世代建物管理システム

を、クラウドAIを活用して構築した。機械学習によって設

備管理者の知見を学習することで、設備の管理負荷低減と快

取材・文/編集部、伊達直太、山﨑弥生実 写真/栗原 剛

拡大する人工知能の利活用場面

ディープラーニングや関連技術の発展により人工知能の実用化の可能性が広がっている。自律的に学習する人工知能技術の登場によって精度の高い認識が可能となり、さまざまな産業分野への応用や新規事業の創出が期待されている。ビジネスの現場で人工知能の活用が進む日がいよいよ近づいてきた。

製 造

小売・流通

共 通 P9参照

P6参照

P8参照

■将来予測、異常検知■自動翻訳、同時通訳■質問応答■音声認識に基づくコールセンター業務の 回答精度・速度の向上 など

■生産ラインへの投入量調整■設備の予兆監視■スマートファクトリー(完全自動化工場)■不良品検査■熟練技術者のスキル形式知化による ロボットへの技術伝承 など

■需要予測、在庫最適化■インターネットの閲覧履歴解析による レコメンデーション■店舗内の商品配置などの最適化 など

人工知能の可能性とビジネスへの活用

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N a v i s 0 3 0 – M a y 2 0 1 63

特 集

適性の向上を実現し、エネルギー効率や運用管理コストの最

適化につなげることができるという。

 

また小売業では、人工知能によるビッグデータ解析を通じ

た需要予測の精度向上や、販売促進策の最適化などが期待さ

れている。三越伊勢丹ホールディングスでは、さまざまな実

験的取り組みを展開。顧客の好みにフィットしたアイテムや

コーディネートを提案する人工知能アプリの開発や、店舗内

での顧客行動などのデータを人工知能で解析し店舗内レイア

ウト改善に役立てるなどの試みを行っている。

 

教育分野では、人工知能を活用した教材の開発が進んでい

る。ベンチャー企業のC

OM

PASS

が開発したタブレット用

教材は、生徒それぞれの解答や解答プロセス、スピード、理

解度などの情報を収集・蓄積して、間違い方の原因や得意不

得意分野などを解析することで、一人ひとりに最適な問題を

出題し続け、効率的に学習を進めていくシステムだ。

 

このように、人工知能はさまざまな分野や業務に活用され

始めており、将来的には、生活や仕事の場面において、人に

よる認識や判断行為を一部代行する存在となる可能性があ

る。2045年には、人工知能が全人類の知能を超えてしま

う「シンギュラリティ(技術的特異点)」に到達すると予測

されており、人類の地位がコンピュータに奪われるのではな

いかと懸念する見方もある。みずほ情報総研

経営・ITコ

ンサルティング部

次長の河野浩二は、「人間はこれまでも技

術的イノベーションによる社会変革を経験しており、イノ

ベーションを受容しながら社会の発展を図ってきた。社会的

受容性との調和を図りつつも、経済や社会の発展に人工知能

を積極的に活かしていく方策を考えるべきだ」と述べる。

 

企業経営においては、人と人工知能のコラボレーションの

実現を図り、自社の発展に活かす方法を模索するべきだろ

う。たとえば、創造性は要求されないが時間はかかるタスク

を人工知能に任せることができれば、社員の長時間労働を改

善できる可能性がある。また、社員が本来の業務に集中でき

るようになれば、サービスレベルや製品の付加価値の向上を

図ることができる。さらには、人工知能の支援を受けること

で、従来にないサービスや製品が生まれる可能性もある。

■融資審査・与信管理の自動化■トレーディング■不正送金等、詐欺取引の検知■市場動向等の分析による投資支援■行動解析による信用判断の高度化■保険金支払い審査事務の自動化 など

■自動運転■車間通信による隊列走行■配送ルートの最適化■予測出荷■業務効率化■ドローン等による配送自動化 など

ディープラーニングや関連技術の発展により人工知能の実用化の可能性が広がっている。自律的に学習する人工知能技術の登場によって精度の高い認識が可能となり、さまざまな産業分野への応用や新規事業の創出が期待されている。ビジネスの現場で人工知能の活用が進む日がいよいよ近づいてきた。

交通/物流・運輸

金 融

P7参照

人工知能の可能性とビジネスへの活用

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4

 

では、そもそも「人工知能」とは何だろうか。人工知能

に関する技術にはさまざまなものがあり、その目的も幅広

い。1

9

6

0年代には簡略な問題に対処する対話システム

「EL

IZA

(イライザ)」が、80年代には専門的な知識を体系

的に蓄積し、専門家のような判断を下す「エキスパートシ

ステム」が開発され、それぞれ人工知能と呼ばれた。第3

次ブームの現在では、家電製品に搭載された従来型の制御

システムも「A

I」と称されるなど、人工知能やA

Iとい

う言葉が多用されている。

 

産業界における現在の人工知能は、技術レベル・機能に

よって4段階に分類される(上図)。現在のブームは、技

術面において、機械学習の手法にディープラーニングとい

うブレークスルーが起こったことによって生じた。従来の

機械学習技術は、人間がデータの特徴を抽出し、学習ルー

ルをコンピュータに教え込む必要があった。そのため、人

工知能は人があらかじめ決めたルールの中でしか動かず、

環境変化や例外に柔軟に対応することができないため、応

用範囲が限定的であった。しかし、ディープラーニング

は、与えられたデータからコンピュータが自律的に特徴抽

出を行いながら学習し、認識や状況判断のルールを自動的

に考えるため、人間が検知することができなかった特徴や

複雑で精度の高いルールを抽出することができる可能性が

ある。学習には大量のデータが必要となるが、インター

ネットの発達や情報通信機器の普及などにより多種多様な

データが増大していること、またインターネットを通じて

データを容易に収集・蓄積できるようになったこと、コン

ピュータの処理能力が向上したことにより、実用化が進ん

だ。今後、IoT(モノのインターネット)が拡大すれば

膨大なデータが生成され、それに伴って人工知能も加速度

的に進化すると予想されている。

 

ディープラーニングを取り入れた製品やサービスはまだ

少ないと見られるが、画像認識技術では、2

0

1

5年にマ

イクロソフトやG

oogle

が人間を上回る精度を記録。また、

スマートフォン向けの音声認識機能や音声検索システムに

もディープラーニング技術が導入され始めている。

 

一方で、人工知能の開発に関わるプレーヤーが多様なこ

とも、人工知能技術の全体像をわかりづらくしている。

 

最も活発に研究開発を行っているのは、I

B

Mやマイク

ロソフト、A

pple

、Google

、Yahoo!

、Facebook

など大手

I

T企業である。日本でも、富士通、日立、N

E

Cなどが

開発に取り組んでいる。また、ユーザー企業側でも、人工

知能の研究開発に乗り出す動きが見られる。たとえばトヨ

タ自動車は、2

0

1

5年9月に米国スタンフォード大学や

マサチューセッツ工科大学と人工知能の共同研究を行うと

発表し、2

0

1

6年1月に、米国に人工知能技術の研究開

発を行う新会社Toyota R

esearch Institute

を設立した。自

動車の安全性向上や屋内用ロボットの開発など4つの目標

を掲げて人工知能研究に取り組んでいくという。人工知能

はさまざまな用途への応用が想定されるため、研究開発に

乗り出すユーザー企業も多様で、大日本印刷やリクルート

も人工知能の研究開発を行う部門や研究所を立ち上げてい

る。このようにプレーヤーが乱立する中で、人工知能や

ディープラーニングの専門家の争奪戦、あるいは音声認識

など人工知能に応用できる技術を持つベンチャー企業の買

収も盛んになっている。

 

ただ、ユーザー企業が人工知能技術の開発に乗り出すに

は、多額の研究開発資金や高度な人材が必要となる。そこ

で、技術を持つ外部企業との連携やクラウドAIの導入を

進めることによって、人工知能を自社のビジネスに取り込

もうとしている企業もある。

 

こうした状況の中で、人工知能をビジネスや業務に活用

したいと考える企業に求められるのは、人工知能技術を活

用する用途・目的を整理することだ。前述したように、人

工知能にはさまざまな用途が期待されているが、汎用型の

何を「人工知能」と呼ぶか

人工知能に関わる多様なプレーヤー

*松尾豊『人工知能は人間を超えるか』、「みずほ産業調査 vol.54」を基に作成

レベル1(制御)

レベル2(推論)

レベル3(機械学習)

レベル4(ディープラーニング)

従来の制御工学に基づく制御システム

「知識」を使ったAI→推論・探索が可能に

機械学習を取り入れたAI

ディープラーニングを取り入れたAI

どのような技術か

制御システム(厳格なルール)に基づく単純なアウトプット

インプットされたデータとあらかじめ決められたルールに基づく多様なアウトプット

サンプルとなるデータを基にルールや知識を学習し、新たなインプット(データ)について自動的に判断してアウトプット

人間が介在したりルールを設定しなくても、自律的に特徴やルールを学習し、自動的に判断してアウトプット

実現される機能

● “AI搭載”と称される 家電製品

● 質問応答システム ● エキスパートシステム

● インターネットの 検索エンジン ● 将棋やチェスのプログラム ● 画像認識システム ● 音声認識システム ● 自然言語処理システム ● ロボット・機械の自律化 ● 囲碁のプログラム

事例

カメラの顔認識・医療機器の画像診断など

音声入力など

自動翻訳など

技術レベル・機能によるAIの分類

機械学習技術の一種であるディープラーニングの発展により、精度の向上や用途の拡大が見込まれる

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N a v i s 0 3 0 – M a y 2 0 1 65

人工知能はまだ開発されていないため、「予測・検知」「言

語処理」「画像認識」など、具体的な応用例を絞り込む必

要がある。自社製品やサービスへの実装だけでなく、業務

プロセスへの活用は、さまざまな業種の企業にとって有用

となる可能性がある。多様なプレーヤーがさまざまな業務

への応用を試みることで人工知能の進化がより一層進み、

さらに幅広くビジネスや業務に活かされていくという、成

長のスパイラルが生み出されることを期待したい。

 

今回の特集では、さまざまなビジネス領域で進みつつあ

る人工知能の活用例を俯瞰し、人工知能は企業に何をもた

らすのか、それによって人の働き方はどのように変わるの

かを探る。

特集◆人工知能の可能性とビジネスへの活用

 最近、人工知能の性能向上や活用用途の拡大を伝えるニュースを耳にする機会が増えている。ディープラーニング等を始めとする人工知能関連の技術は、画像・音声認識や医療診断のほか、行動予測や環境認識を用いた防犯・監視、自律的な行動計画による自動運転、農業の自動化や物流の高度化、さらには、家事・介護、教育、ホワイトカラー支援に至るまで、将来的にはさまざまな分野にその応用が広がると展望されている。こうした広範な分野における人工知能の応用は、製品やサービスの高付加価値化や生産性の向上に資すると考えられており、労働人口減少時代の我が国の社会的な課題に対する切り札の一つとして期待されている。 その一方で、コンピュータの性能向上に伴って人工知能の知能水準が向上した場合、2045年頃には人間の知能を超えるという可能性も示唆されており、その結果、人類の地位がコンピュータに奪われるといった、人工知能に関する「シンギュラリティ(技術的特異点)」の到来を懸念する声もある。人工知能が進化して人間の知能を超えた場合、その振る舞いや判断を十分に制御することができなくなる可能性が指摘されているのである。

 しかしながら、人類は、過去にも技術革新によるイノベーションを経験し、そのイノベーションを社会に柔軟に取り入れることで、経済・社会の発展を図ってきた。そう考えると、人工知能という革新的な技術の実用性と可能性が顕現しつつある中で、今後は、人工知能を活用する際のリスクや課題に柔軟に対処しながら、経済・社会の発展に向けて人工知能を積極的に活かしていく方策を考えることが重要な課題となるであろう。その際は、我々が人工知能に翻弄されるのではなく、人工知能に対する理解を十分に深め、社会の中で人工知能をいかに賢く使いこなすかという発想が重要となる。人工知能との付き合い方に関する“人類の知恵”が問われる時代が始まっている。

拡大する人工知能の可能性とシンギュラリティ

河野 浩二みずほ情報総研経営・ITコンサルティング部次長

機械学習ディープラーニング推論システム …etc

アカデミア(大学・研究所など)

人工知能技術

人工知能基盤技術

情報検索・探索データマイニング情報推薦

音声認識画像認識文字認識データパターン認識

監視診断制御

自然言語処理

産業分野交通物流・運輸医療・ヘルスケア金融メディア・広告通信エネルギー小売・流通製造サービス公共教育農林水産

用途経営管理防災・防犯品質管理需要予測サービス改善

製品自動運転車ロボット娯楽・ゲームeラーニング

予測・検知

人工知能応用技術

データソース

企業での利用

サプライヤー(IT関連企業など)

ユーザー企業

サプライヤー

ユーザー企業

ユーザー企業

ユーザー企業

…etc

…etc

音声静止画動画文書

位置情報購入履歴センサログトランザクションデータ       …etc

人工知能の活用プロセス