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( ) JNC TY9400 2004 019

ODSマルテンサイト鋼被覆管の結晶粒界 の微細構造とその制 …dispersion in coarse grain structure, which is an ideal microstructure for creep strength enhancement

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  • ODSマルテンサイト鋼被覆管の結晶粒界

    の微細構造とその制御に関する研究

    (先行基礎工学研究に関する共同研究報告書)

    JNC TY9400 2004-019

    2004年8月

    九州大学大学院 総合理工学研究院

    核燃料サイクル開発機構 大洗工学センター

  • 本資料の全部または一部を複写・複製・転載する場合は、下記にお問い合わせください。

     

     〒319-1184 茨城県那珂郡東海村村松4番地49

            核燃料サイクル開発機構

             技術展開部 技術協力課

              電話:029-282-1122(代表)

              ファックス:029-282-7980

              電子メール:[email protected]

      Inquiries about copyright and reproduction should be addressed to:

       Technical Cooperation Section,

       Technology Management Division,

       Japan Nuclear Cycle Development Institute

       4-49 Muramatsu, Tokai-mura, Naka-gun, Ibaraki 319-1184, Japan

    c 核燃料サイクル開発機構 (Japan Nuclear Cycle Development Institute)

      九州大学 (Kyushu University)

      2004

    K

  • - i -

    JNC TY9400 2004-019

    2004 年 8 月

    ODS マルテンサイト鋼被覆管の結晶粒界の微細構造とその制御に関する研究

    中島英治 1)、池田賢一 1)、吉田冬樹 1)、大塚智史 2)、鵜飼重治 2)

    要旨

    実用化段階での燃料被覆管材料として期待されている酸化物分散強化型(ODS)鋼の高

    温クリープ強度を飛躍的に向上させることを目的として、ODS鋼被覆管の結晶粒界構

    造とその制御方法に関して研究し、以下のことがわかった。

    (1) ODS マルテンサイト鋼の結晶粒を粗大化する、あるいは特殊対応粒界を低減する

    熱処理条件を種々検討した。その結果、単一バリアントからなるマルテンサイ

    ト組織の形成と特殊対応粒界の低減には成功した。

    ODS マルテンサイト鋼を炉冷熱処理でフェライト化することによって、特殊

    対応粒界が消失し、高温クリープ強度を向上させることができることが明らか

    になった。この方法は当初想定していなかったものであり、本研究で新たに見

    出されたものである。すなわち、残留α粒とフェライト組織の複合組織が高い

    高温強度を生み出すことがあらたに発見された。

    (2) ODS フェライト鋼の粒界制御のために再結晶法を検討した。その結果、特殊対応

    粒界を消滅させることができることが明らかになった。したがって、ODS フェラ

    イト鋼の粒界制御は ODS マルテンサイト鋼の粒界制御よりも容易であり、現段

    階では粒界すべり抑制は ODS フェライト鋼で可能となるであろう。

    (3) MA 処理後の Y2O3粒子の析出挙動を TEM を用いて観察した結果、Y2O3系の酸化物

    は 800℃ではほとんど析出していないことが明らかになった。したがって、結晶

    粒の粗大化処理を 800℃で行い、その後、800℃~1100℃の温度域で析出処理を

    行えば、微細な Y2O3 系の析出物が分散した結晶粒径の大きな組織が作れるもの

    と推論される。

    1) 九州大学大学院 総合理工学研究院 2) 大洗工学センター システム技術開発部 核燃料工学グループ

  • - ii -

    JNC TY9400 2004-019

    August, 2004

    Study on grain boundary structure analysis and control of Oxide Dispersion

    Strengthened(ODS) martensitic steel cladding

    Hideharu Nakashima1), Kenichi Ikeda1), Fuyuki Yoshida1)

    Satoshi Ohtsuka2), Shigeharu Ukai2)

    Abstract

    For the purpose of improving high-temperature creep strength of Oxide Dispersion

    Strengthened (ODS) steel for advanced Fast Reactor (FR) cladding, grain boundary

    structure of ODS steel cladding was analyzed. Based on the analysis, grain boundary

    control procedure was discussed. The derived results can be summarized as follows:

    (1) By investigating the effects of several heat treatments on microstructure for enlarging grain size and reducing special coincidence grain boundary,

    a unique martensite microstructure composed of single variant and reduction

    of the special coincidence grain boundary were achieved. It was revealed that

    furnace-cooling heat treatment (1050oCx1hr, furnace-cooling (30oC/hr))

    induces gamma to alpha diffusion transformation and reduction of the special

    coincidence grain boundary. A composite microstructure composed of ferrite

    phase and residual alpha-phase is effective for high-temperature strength

    enhancement.

    (2) As a result of investigation on grain boundary control using recrystalization, it was shown that the special coincidence grain boundary can be reduced by

    the appropriate combination of cold-rolling and recrystalization heat

    treatment. It would be easier to reduce grain boundary sliding in

    recrystalized ODS ferritic steel than in ODS martensite steel.

    (3) The precipitation behavior of Y2O3 particles in mechanically alloyed (MA) powder was investigated using transmission electron microscope (TEM). It was

    shown that few Y2O3 particles precipitate by a heat treatment up to 800oC.

    Combination of a heat treatment at 800oC for grain coarsening and a heat

    treatment at 800oC-1100oC for oxide particle precipitation would be a

    prospective procedure for the microstructure control to fine oxide particle

    dispersion in coarse grain structure, which is an ideal microstructure for

    creep strength enhancement

    1) Interdisciplinary Graduate School of Engineering Sciences, Kyushu University. 2) Nuclear Fuel Research Group, System Engineering Technology Division,

    Oarai Engineering Center

  • JNC TY9400 2004-019

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    目次

    1.緒言 ······························································· 1

    2.実験方法

    2.1 試料 ························································· 4

    2.2 応力瞬間負荷試験 ············································· 4

    2.3 組織観察 ····················································· 4

    2.3.1 光学顕微鏡観察 ········································· 4

    2.3.2 方位像顕微鏡観察 ······································· 5

    2.3.3 透過型電子顕微鏡観察 ··································· 5

    2.3.4 高温クリープ試験 ······································· 6

    2.3.5 高温炉冷熱処理試験 ····································· 6

    3.実験結果

    3.1 ODS マルテンサイト鋼の高温における粒界すべり ·················· 7

    3.2 ODS マルテンサイト鋼とフェライト鋼の粒界制御 ·················· 7

    3.2.1 マルテンサイト変態制御法 ······························· 8

    3.2.2 再結晶法 ··············································· 11

    3.3 ODS マルテンサイト鋼の連続冷却 ································ 12

    3.4 ODS マルテンサイト鋼とフェライト鋼のクリープ強度 ·············· 12

    3.5 MA マルテンサイト鋼における Y2O3粒子の析出挙動 ················· 13

    4.結論 ······························································· 15

  • JNC TY9400 2004-019

    - iv -

    表1 Possible variants in K-S relationship for lath martensite, and

    rotation axes and angles between the variants of lath martensite ·· 17

    表2 試作材の化学成分と原料粉末種 ······································ 18

    表3 9CrODS 鋼の 700℃、1000 時間クリープ破断強度 ························ 18

    表4 9CrODS 鋼被覆管の 700℃、1000 時間クリープ破断強度 ·················· 18

  • JNC TY9400 2004-019

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    図1 ODS 鋼被覆管の強度異方性 ··········································· 19

    図2 被覆管模擬圧延材の模式図 ·········································· 20

    図3 圧延材の菊池線による結晶方位解析 ·································· 21

    図4 被覆管を圧延(RD)方向から見た OIM 像 ································ 22

    図5 共通回転軸における回転角の頻度 ······························· 23

    図6 マルテンサイト変態におけるオーステナイトとマルテンサイト

    の幾何学的方位関係 ················································ 24

    図7 T1とT2材のOIM像(IPF map) ··································· 25

    図8 クリープ応力と瞬間塑性ひずみの関係 ································ 26

    図9 クリープ応力とひずみ速度のε&の関係 ································ 27 図10 Fe-9Cr-2W-C 計算状態図 ··········································· 28

    図11 マルテンサイト系ODS鋼のEBSP像 ···························· 29

    図12 M11, MS11 および先進耐熱鋼の結晶方位像と極点図 ··················· 30

    図13 マルテンサイト系 ODS 鋼の共通回転軸における回転角頻度 ······· 31

    図14 マルテンサイト系 ODS 鋼の共通回転軸における回転角頻度 ······· 32

    図15 M11 の熱膨張曲線 (a)空冷、(b)炉冷 ································ 33

    図16 MM13の熱膨張曲線 (a)空冷、(b)炉冷 ··························· 34

    図17 マルテンサイト系ODS鋼の熱膨張試験による変態温度 ·············· 35

    図18 マルテンサイト系 ODS 鋼のイメージ炉による熱処理後の EBSP 像 ······· 36

    図19 高温炉冷熱処理後(冷却速度:30℃/hr)の 9CrODS マルテンサイト鋼

    (0.07wt%Ex.O, 0.2wt%Ti)の結晶粒組織と酸化物分散組織 ············· 37

    図20 マルテンサイト系ODS鋼の研究により得られた知見 ················ 38

    図21 Fe-12Cr-2W-C 計算状態図 ·········································· 39

    図22 F95 と 7A4CR(工程 2,3)材の結晶方位像と極点図 ······················ 40

    図23 F95 と 7A4CR(工程 2,3)材の共通回転軸の頻度 ··················· 41

    図24 M11 相当材(0.07wt%Ex.O, 0.2wt%Ti)の CCT 線図 ······················ 42

    図25 過剰酸素量とTi量を変量した 9CrODS マルテンサイト鋼と

    9CrODS フェライト鋼棒材の 700℃クリープ試験結果 ·················· 43

    図26 マルテンサイト系 ODS 鋼の 700℃内圧クリープ破断試験結果 ··········· 44

    図27 MA時間と粉末の硬さの関係 ······································ 45

    図28 固化形成体のTEM明視野像 ······································ 46

    図29 1100℃固化材のEDX面分析結果① ································ 47

    図30 1100℃固化材のEDX面分析結果② ································ 48

    図31 1100℃固化材のEDX面分析結果③ ································ 49

  • JNC TY9400 2004-019

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    1.緒言

    酸化物を微細分散した鋼は、高温でも高い強度を維持するため、高温構造材料として期待

    されている。特に高速増殖炉では高速炉燃料要素の高温燃焼化と冷却材温度の高温化にとも

    なって、耐照射性に優れたマルテンサイト系基地に酸化物 Y2O3粒子を超微細分散した酸化物

    分散強化マルテンサイト鋼被覆管の開発が必要不可欠である。

    これまでに開発されてきた酸化物分散強化(Oxide Dispersion Strengthened, 以後 ODS と

    呼ぶ)マルテンサイト鋼の燃料被覆管として重要な 700℃における内圧クリープ強度は、高速

    炉の設計強度の目標値に近づいている。しかしながら、ODS 鋼が本来有する Y2O3粒子によ

    る強度レベルには至っていない。これは、焼き戻しマルテンサイト組織で使用される ODS

    鋼は微細な結晶粒より構成されているため、結晶粒界すべりによりクリープ変形が促進され

    ているためと考えられる。そこで、ODS マルテンサイト鋼被覆管の粒界構造を制御して、粒

    界すべりを抑制できれば、ODS 鋼が本来有する Y2O3粒子による強化レベルまで内圧クリー

    プ強度を飛躍的に向上させることが期待できる。

    本研究は、ODS マルテンサイト鋼の結晶粒界すべりの抑制技術を開発することを目的に、

    結晶粒界構造を解明して、結晶粒界の制御技術について研究したものである。

    図 1 は ODS フェライト鋼被覆管の単軸クリープ強度と内圧クリープ強度を破断時間に対

    してプロットし、比較した図である。図より内圧強度は単軸強度よりも非常に低く、強度異

    方性が強いことがわかる。この強度異方性の原因を明らかにするために、著者らは図 2 に示

    すような被覆管と同様な加工を施した圧延材を用いて組織異方性が高温強度に及ぼす影響を

    調べた。その結果、加工によって伸長した結晶粒が負荷応力に対して 45°傾いたとき45°

    (T)の高温強度が最も低下し、また、試験前に付けたけがき線が結晶粒界でずれていた(図 3)。

  • JNC TY9400 2004-019

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    これらの結果は、高温で粒界すべりが起こると、高温強度が低下することを実証したもので

    ある。

    ところが、図 3 に示したように ODS フェライト鋼の粒界の間隔は約 0.5μm であるが、粒

    界すべりを起こした粒界の間隔は 2~4μm であった。このことはすべての粒界が高温で粒界

    すべりを起こす訳ではなく、ある特定な粒界が優先的に粒界すべり起こすことを示唆してい

    る。そこで、透過電子顕微鏡観察菊池線法を用いて各結晶粒の方位を測定し、粒界解析を行

    った。その結果、粒界すべりを起こした粒界の間隔とΣ9 やΣ11 対応粒界の間隔がほぼ一致

    していた。Σ9 やΣ11 対応粒界は、bcc の加工集合組織に存在する対応粒界であり、こ

    のような特殊対応粒界が高温クリープ変形中に優先的に粒界すべり起こしていたと考えるの

    は妥当なことであろう。

    ところで、近年、結晶方位を高精度で測定する SEM-EBSP 法が開発された。図 4 は

    SEM-EBSP 法で ODS フェライト鋼被覆管断面を観察し、方位像でその組織を示したもので

    ある。図中の各色は管断面方向の結晶方位である。さらに、図 4 の結晶方位データより粒界

    解析した結果が図 5 である。すでに述べたように ODS フェライト鋼ではΣ9 やΣ11 対応粒

    界が存在していたが、EBSP 法でも確認できることが明らかになった。SEM-EBSP 法は TEM

    菊池線法よりも広い領域での組織評価ができるため、より信頼性の高い結果が得られる。そ

    こで、本研究では組織評価の方法として SEM-EBSP 法を主に用いた。

    ところで、本研究で対象としたマルテンサイト鋼は、変態にともなってパケット境界やブ

    ロック境界を形成する。図 6 はマルテンサイト変態におけるオーステナイトとマルテンサイ

    トの幾何学的方位関係を示したものである。中心に示したオーステナイトの(111)面とマルテ

    ンサイトの(110)面が平行関係にあり、さらに、オーステナイトの方向がマルテンサイ

  • JNC TY9400 2004-019

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    トの方向と平行である。このようなマルテンサイト変態によって形成される境界を解

    析した結果を表 1 に示した。表 1 に示したようにブロック境界にはΣ3 やΣ11 などの特殊対

    応粒界が含まれている。これに対して、パケット境界はランダム粒界とみなすことができる。

    このようにマルテンサイト変態組織には潜在的に特殊対応粒界を含む可能性があり、ODS マ

    ルテンサイト鋼の本来持ち得る高い強度を高温でも維持するためには組織制御を利用した粒

    界制御技術の開発が必要である。これに対して加工組織を消失させればフェライト鋼には特

    殊粒界は存在しないことになるので、本研究ではフェライト鋼の組織制御法についても同時

    に検討した。

    本研究では ODS マルテンサイト鋼の高い強度特性を高温でも維持するために、下記の基本

    的方針で研究開発を行った。

    (1) 高温での粒界すべりは結晶粒径が小さいほど活発に起こるので、マルテンサイト変態で形

    成されるブロック粒を粗大化する。

    (2) マルテンサイト変態で形成されるブロック境界には特殊対応粒界が存在する可能性があ

    るので、ブロック境界が存在しない 1 つのオーステナイト粒から単一バリアントのマルテン

    サイトに変態する変態制御法を見出す。

    上記の基本的研究方針を遂行するために JNC では ODS マルテンサイト鋼の試作と熱処理

    条件の検討、クリープ試験の実施を分担し、九州大学において組織観察と粒界解析、ODS マ

    ルテンサイト鋼でも粒界すべりが起こることの実証を分担し、緊密な連絡を取り合い、研究

    を遂行した。

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    2.実験方法

    2.1 試料

    本研究で用いた試料は、9CrODS 鋼と 12CrODS 鋼を基本組成として種々の熱処理を施し

    た試料を用いた。詳細な組成・熱処理に関しては、各節で述べる。

    2.2 応力瞬間負荷試験

    応力瞬間負荷試験は、高剛性高応答速度の電気油圧試験機、島津サーボパルサーEHF-2 型

    を改良した試験機によって行った。荷重は 5kN のせん断型ロードセル、変位は±0.2mm/V

    の L.V.D.T.を用いて測定した。応力瞬間負荷にともなう荷重と変位の信号の記録には、アナ

    ライジングレコーダー(横河電機社製、AR-1100)を用い、両信号を時間間隔 5ms で記録し

    た。試験温度は燃料被覆管の目標使用温度である 700℃とし、試験雰囲気は真空である。試

    験片の加熱には、3 分割した抵抗加熱炉を用い、試験中の温度変動および試験片の平行部に

    沿っての温度差を±5℃以内に制御した。

    試験は、約 15MPa および 70MPa の応力を負荷した状態から負荷応力を除々に増し、しき

    い応力と考えられるボイド強化応力やオローワン応力よりも十分に大きい 250MPa まで増加

    させて行った。また、応力瞬間負荷試験には、平行部長さ 12mm、断面積 1.54mm2の丸棒状

    試験片に加工したものを用いた。

    2.3 組織観察

    2.3.1 光学顕微鏡観察

    観察用試料は、観察する方向に合わせた形状に切り出し、つば付き研磨治具に瞬間接着剤

  • JNC TY9400 2004-019

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    で固定した。その後、SiC 耐水紙 (♯240~3000)を用いて機械研磨を行った後、Al2O3懸濁液

    とダイヤモンドペーストによるバフ研磨をそれぞれ行い鏡面に仕上げた。粒界エッチングに

    は 3%ピクリン酸エタノール溶液と HCl を 20:1 で混合した腐食液を使用した。

    2.3.2 方位像顕微鏡観察

    結晶方位分布や粒界解析を行うための結晶方位情報を得るために、方位像顕微鏡

    (Orientation Imaging Microscope)を用いた。比較的広範囲の粗大粒領域の方位解析には、

    九州大学所有の TSL-OIM + JSM5310 を用いた。これは、W フィラメントを装着した走査型

    電子顕微鏡に結晶方位解析ユニットを取り付け、広範囲にわたる結晶方位解析が可能な装置

    である。また、微小領域の方位解析には、九州大学所有の TSL-OIM + HITACHI S-4300SE

    を用いた。この装置は、ショットキーエミッション形電子銃を装着した走査型電子顕微鏡に

    結晶方位解析ユニットを取り付け、数十 nm 間隔で微細領域の結晶方位解析が可能な装置で

    ある。

    観察用試料は、光学顕微鏡試料と同様の方法で切り出し、鏡面に仕上げた後、試料表面の

    加工ひずみ層を除去するために、コロイダルシリカによる機械化学研磨、もしくは電解研磨

    を行った。電解研磨の電解液は過塩素酸エタノール溶液(容積比 過塩素酸:エタノール=1:

    10)を液体窒素により冷却し、融点直上で使用した。

    2.3.3 透過型電子顕微鏡観察

    各試料の内部組織を観察するために、透過型電子顕微鏡観察を行った。用いた電子顕微鏡

    は、九州大学所有の LaB6フィラメントを装着した JEM-2000EX/T と、電界放射型電子銃を

  • JNC TY9400 2004-019

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    装着した TECNAI F20 である。TECNAI F20 には STEM 機能があり、原子番号コントラス

    ト像、微小領域分析などが可能であり、超微細酸化物粒子の組成同定を行うことができる。

    いずれも加速電圧は 200kV で用いた。

    また、試料は光学顕微鏡観察の方法と同様に試料を切り出し、機械研磨で 50μm に仕上げ

    た後、電解研磨により薄膜試料を作製した。電解研磨にはツインジェット電解研磨装置

    (Fischione 製 Model20 )を使用し、電圧約 20V で使用した。電解研磨液は方位像顕微鏡

    観察用試料作製の場合と同様に、過塩素酸エタノール溶液(容積比 過塩素酸:エタノール

    =1:10)を液体窒素で融点直上まで冷却したものを用いた。

    2.3.4 高温クリープ試験

    9CrODS 鋼のクリープ強度に及ぼす過剰酸素と Ti の影響、結晶粒組織の影響及び原料粉末

    の影響の観点から、9Cr-0.13C-2W-0.2Ti-0.35Y2O3 を基本成分とする試作材の 700℃クリー

    プ試験を実施した。試作材の化学成分を表2に示す。ここで、M11、Mm11、M93 と Mm13

    被覆管材については、内圧クリープ破断試験、その他棒材については単軸クリープ試験を実

    施した。

    2.3.5 高温炉冷熱処理試験

    9CrODS 鋼の結晶粒径制御法の検討のため、M11 棒材に対して、1100℃×1hr / 炉冷(FC),

    1200℃×1hr / FC, 1300℃×1hr / FC, 1400℃×1min / FC の熱処理(冷却速度:30℃/hr)を行

    った。熱処理後、光学顕微鏡と TEM を用いて、熱処理による結晶粒組織と酸化物分散組織

    の変化を調べた。

  • JNC TY9400 2004-019

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    3.実験結果

    3.1 ODS マルテンサイト鋼の高温における粒界すべり

    応力瞬間負荷試験に用いた試料は 9Cr-0.13C-2W-0.25TiO2-0.35Y2O3 を基本成分としたマ

    ルテンサイト系の T1(NT 熱処理)材と T2(FC 熱処理)材である。T1 材と T2 材の方位像を図

    7に示す。図より T1 材の結晶粒径は T2 材よりもはるかに小さいことがわかり、T1 材で約 2

    μm、T2 材で約 20μm であった。これらの試験片を試験温度 700℃で試験した。

    応力瞬間負荷試験ではクリープ応力を時間 100ms で負荷し、クリープ曲線を高速記録した。

    図8はクリープ応力負荷にともなう瞬間ひずみと応力の関係を示したものである。一般に分

    散強化した材料では、しきい応力よりも大きな応力を負荷すると瞬間ひずみに塑性ひずみ成

    分が含まれるようになり、図8の測定点は下に凸の曲線になることが知られている。しかし

    ながら、本 ODS マルテンサイト鋼ではそのような傾向は見られなかった。図9は応力負荷直

    後のクリープ速度と応力の関係を両対数プロットで示したものである。この測定結果では T1

    材と T2 材の変形挙動の相違がはっきりわかり、結晶粒径の大きな T2 材ではしきい応力が存

    在し、結晶粒径の小さな T1 材では、しきい応力は存在せず、ひずみ速度の応力指数も粒界す

    べりの応力指数2に非常に近い値であった。このような変形挙動は、本研究で初めて見出さ

    れたもので、結晶粒径の小さな T1 材の高温クリープ変形には粒界すべりの影響が非常に大き

    いことが変形挙動の面から明らかとなった。

    3.2 ODS マルテンサイト鋼とフェライト鋼の粒界制御

    マルテンサイト変態や再結晶法による組織制御ではオーステナイト化温度や再結晶温度が

    重要であるので、計算状態図の作成を行い、現行の熱処理条件について検討した。さらに、

  • JNC TY9400 2004-019

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    マルテンサイト変態制御法ではオーステナイト粒径がその後の変態に大きな影響を及ぼすの

    で、オーステナイト粒径を変化させ、変態制御による粒界制御法を検討した。組織評価は再

    結晶法とマルテンサイト変態法で得られた組織を EBSP 観察し、粒界性格を調べることによ

    って行った。

    3.2.1 マルテンサイト変態制御法

    図10はマルテンサイト系の基本組成である Fe-9Cr-2W-xC 系の計算状態図である。現行

    のオーステナイト化温度は 1323K であり、この条件はオーステナイト域近傍に位置している

    ことがわかる。

    マルテンサイト系ではマルテンサイト変態によって本質的に発生するブロックやパケット

    粒界を無くし、単一バリアントのマルテンサイト組織を作り出す必要がある。図11は4種

    類のマルテンサイト系 ODS 鋼の EBSP 像である。M11 や M93 の結晶粒径が非常に小さか

    ったので FESEM-EBSP 法によって観察を行った。結晶粒径は4鋼種とも約 2μm で非常に

    粒径が小さいことがわかる。M11 と MS11 の結晶方位は主にであり、加工集合組織の

    結晶方位を有していることがわかる。これに対して、M93 や MM13 では方位分散が大きい。

    図12は加工集合組織が見られた M11 と MS11 の極点図を示したものであるが、明瞭な

    集合組織が発達していることが明らかになった。ここで、図12に比較のために示し

    た先進耐熱鋼とは Y2O3粒子を含まないマルテンサイト系鋼で、典型的なマルテンサイト組織

    を有している。先進耐熱鋼の極点図は M11 や MS11 のそれと全く異なることからも M11 や

    MS11 がマルテンサイト組織の特徴が消失していることがわかる。これをより明確にするた

    めに粒界解析を行った。その結果を図13に示す。

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    図13は図11の EBSP 像を方位解析してブロック粒界性格を求めた結果である。既存の

    マルテンサイト系耐熱鋼では図中に赤丸印で示した 60°近傍の粒界が多いのに対して、M11

    と MS11 ではこのような対応粒界は減少している。M11 や MS11 では 55°近傍で粒界頻度

    が極大値を示しているが、この角度はマルテンサイト変態で生ずるブロック粒界には対応し

    ていない。したがって、このような粒界は加工によって形成されていたものと考えるのが妥

    当であろう。また、図14はパケット粒界性格分布を示したものであるが、M11 や MS11 は

    明らかにマルテンサイト系のパケット粒界性格と異なっていることがわかる。

    ところで、M11 と MM13 の EBSP 像を比較すると、MM13 ではマルテンサイト組織が観

    察できるが、M11 では観察できない。両者の最終熱処理は同じであるので、マルテンサイト

    変態に過剰酸素が影響していることが示唆される。そこで、両鋼の変態温度を明らかにする

    ために熱膨張試験を行った。図15と16はその結果である。試料を加熱、冷却して得られ

    る熱膨張、収縮曲線には明らかに変態挙動が観察できる。これらの変態温度を図17にまと

    めて示した。M11 ではマルテンサイト変態以外にフェライト変態も生じており、このことよ

    り M11 では完全なマルテンサイト組織は得られていないことが明らかになった。したがって、

    M11 でもオーステナイト化温度が低く、完全なマルテンサイト変態が起こっていないことが

    明らかになった。そこで、オーステナイト化温度を上昇させて、M11 のマルテンサイト変態

    組織を調べた。図18は急速冷却ができる赤外線イメージ炉を用い 1423K でオーステナイト

    化して得られた組織の EBSP 像である。図より明らかなように M11 の組織は M93 のような

    マルテンサイト組織を有していることが明らかになった。したがって、M11 や MS11 では最

    終熱処理のオーステナイト化温度が低温であったために完全なマルテンサイト組織が得られ

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    なかったことが明らかになった。したがって、より完全なマルテンサイト組織を得るために

    はオーステナイト化温度は 1423K で行う必要がある。ここで、オーステナイト粒径を粗大化

    させる熱処理について検討した。

    図19は 1100℃×60min / FC, 1200℃×60min / FC, 1300℃×60min / FC, 1400℃×

    1min / FC の熱処理(冷却速度:30℃/hr)を行うとともに、光学顕微鏡観察と TEM 観察を行

    い、熱処理材の結晶粒径と酸化物粒子の寸法変化を調べた結果である。Fe-9Cr-2W 系の状態

    図によると、1400℃(融点近傍)、1300℃はδとγの 2 相、1200℃と 1100℃はγ単相となる

    温度である。図19に試験結果をまとめる。1100℃と 1200℃炉冷の場合には、顕著な結晶粒

    成長は確認されず、分散粒子も微細なまま保たれていた。1300℃, 1400℃炉冷の場合には結

    晶粒が数 10μm から数 100μm 程度まで生長したが、同時に分散粒子も 10μm 程度まで粗

    大化し、ボイドも多数形成されてしまった。以上より、単純に炉冷熱処理温度を高温化する

    だけでは、分散粒子を微細に保ったまま、結晶粒径を顕著に成長させることは難しいことが

    明らかとなった。

    以上の研究結果より次のような重要な知見が得られた。その説明図を図20に示す。従来

    のマルテンサイト系の耐熱鋼ではオーステナイト粒径が約 50μm である。この鋼ではマルテ

    ンサイト変態によってオーステナイト粒に複数のバリアントのマルテンサイトが変態で形成

    される。しかし、本マルテンサイト ODS 鋼では Y2O3粒子によってオーステナイト粒径の粒

    成長が抑制され(Zenner pinning)、粒径は約 2μm である。この鋼をマルテンサイト変態す

    ると小さな粒には1つのバリアントのマルテンサイトしか存在できない。このため、マルテ

    ンサイト変態は起きているが、1つのオーステナイト粒の中にマルテンサイト組織独特のブ

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    ロックやパケット粒界は存在できなくなる。これが、本 ODS 鋼でブロック粒界やパケット粒

    界の存在が著しく低下した理由である。このように、マルテンサイト変態制御法によりブロ

    ック粒界やパケット粒界の制御が可能であることが明らかとなったが、残念ながら高温クリ

    ープ強度の向上のための結晶粒の粗大化は現状では実現していない。この問題を解決するた

    めには、オーステナイト域での Y2O3 粒子の析出状態を制御する必要があり、今後、Y2O3 粒

    子の析出制御に関する研究が必要不可欠である。

    3.2.2 再結晶法

    フェライト系の F95 と 7A4CR 材の基本組成である Fe-12Cr-2W-xC 系の計算状態図を作

    成した(図21)。現行の熱処理(1523K~1323K)はフェライト単相域の限界領域で行われて

    いることが明らかになった。一部、フェライトとオーステナイト 2 相域に位置しているが、

    Y2O3 による変態抑制効果を考えると実際にはオーステナイトは存在しないものと考えられ

    る。

    図22はフェライト系の F95、7A4CR 材の二つの工程で作製した試料を EBSP 観察した

    結果である。工程2と3で結晶粒の粗大化が十分起きていることがわかる。ただ、工程3で

    は EBSP 像に黒い領域が観察でき、この領域は未再結晶領域である。工程2でも工程3ほど

    ではないが、未再結晶領域が見られた。このように、再結晶法では組織制御以前に再結晶と

    未再結晶の領域が存在し、組織的に不均一であることがわかった。このような不均一な組織

    は分散粒子である Y2O3の析出状態が各結晶粒で不均一であったために、再結晶温度が変化し

    たものと考えられる。

    図23は図22の EBSP 像から粒界解析を行い、粒界性格分布を求めた結果である。ODS

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    被覆管の高温強度に大きな影響を及ぼすΣ11 やΣ9 対応粒界の存在頻度は低下しており、こ

    の結果は再結晶法によって粒界制御が十分行えることを実証したものである。

    3.3 ODS マルテンサイト鋼の連続冷却

    組織制御の観点から、連続冷却変態特性の把握は重要であるため、加工フォーマスター試

    験機を用いてマルテンサイト系 ODS 鋼の CCT 線図の整備を行った。図24は M11 相当材

    (0.07wt%Ex.O,0.2wt%Ti)の CCT 線図である。本 9CrODS 鋼の場合には、フェライトノーズ

    が高冷却速度側まで伸びており、通常鋼では完全マルテンサイト組織となる 3000℃/hr(被覆

    管 NT 熱処理時の冷却速度)の急冷を施しても拡散変態によるα相が生成することが明らかと

    なった。本結果は、M11 被覆管材において、NT 熱処理を施しているにも関わらず、完全マ

    ルテンサイト組織ではなく、フェライト相が形成していることを示す粒界解析結果と一致す

    る。また、上述したように MS11 被覆管(FC 熱処理、フェライト)には炉冷熱処理を施してフ

    ェライト組織としているにも関わらず、M11 被覆管(NT 熱処理、焼戻しマルテンサイト)とほ

    ぼ同じ内圧クリープ強度であった。これは、NT 熱処理時の冷却速度が約 3000℃/hr と遅め

    であったために NT 熱処理材でもフェライト相が生成したことによるものと考えられる。一

    方、後述する Mm15 と T3 棒材の場合には、冷却速度が約 18000℃/hr と高かったため、NT

    熱処理でγ相は完全にマルテンサイト化し、フェライト組織材(Mm15/FC, T3/FC)に比べて明

    らかに低いクリープ強度となったと考えられる。

    3.4 ODS マルテンサイト鋼とフェライト鋼のクリープ強度

    図25及び表3は過剰酸素、Ti 量を変化させた試作棒材の単軸クリープ試験結果である。

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    ここで、試験片には NT 熱処理(1050℃×1hr/AC+800℃×1hr/AC, 冷却速度~18000℃/hr)、

    または FC 熱処理(1050℃×1hr/FC, 冷却速度~30℃/hr))を施している。NT 熱処理を施した

    焼戻しマルテンサイト組織材(T3,T5,Mm15)に着目すると、過剰酸素量の低減及び Ti の増量

    により強度は向上している。強度の高い過剰酸素低減材(Mm15)および Ti 増量材(T5)では、

    等軸のマルテンサイト相と押出方向に伸びた残留α相(δフェライト相)の2相組織となって

    いることから、残留α相の生成が高温強度改善に有効であると考えられる。この知見は非常

    に重要である。

    これら棒材のクリープ試験では、炉冷熱処理を施したフェライト組織材ではマルテンサイ

    ト組織材に比べて強度が飛躍的に向上している。これは、結晶粒の成長及び粒界すべりを起

    こしやすいマルテンサイト組織特有の粒界の消失によるものと考えられる。一方、図26と

    表4に見られるように、被覆管材(M11, MS11)では、相変化によるクリープ強度差は見られ

    ない。これは前述の被覆管では NT 熱処理時の冷却速度(~3000℃/hr)が棒材(Mm15,T3)にお

    ける冷却速度(~18000℃/hr)に比べて遅いことが原因であると考えられる。

    3.5 MA マルテンサイト鋼における Y2O3粒子の析出挙動

    プレアロイ材(合金粉末+Y2O3粉末の MA 材)である M11 とプレミックス材(原料粉末 MA

    材)である Mm11 を比べると、両鋼とも同じプロセスで製造され、化学成分も同じであるが、

    プレアロイ材の方が優れたクリープ強度を示している。原料粉末が及ぼすクリープ強度への

    影響を明らかにするためには、結晶粒組織及び酸化物分散組織の観点からさらに詳細な検討

    が必要である。

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    そこで、本研究では M11 や Mm11 に近い組成のプレミックス原料粉末を用いて MA 処理

    を行った。MA は回転数 200rpm で最高 100 時間まで行った。図27は MA 時間と粉末の硬

    さの関係を示したものである。硬さは MA 処理時間とともに増加し、約 180ks(50 時間)で飽

    和する傾向がある。

    MA 処理した粉末を 800~1100℃の温度で固化成型した。800℃と 1100℃で固化した試料

    の透過電子顕微鏡像を図28に示した。800℃固化材には Y2O3が析出した形跡は見られない

    のに対して、1100℃では明瞭に Y2O3の析出が観察された。

    図29~31は HAADF STEM を用いて 1100℃固化材の析出物を観察した結果である。

    HAADF STEM 像でも微細な析出物の存在が確認でき、EDX 分析の結果、析出物が Y と Ti

    系の複合酸化物であることがわかった。また、まれに Y を含まない Cr と Ti 系の複合酸化物

    も存在することが明らかになった。

    以上のように Y2O3系の酸化物は 800℃ではほとんど析出していないことから、結晶粒の粗

    大化処理を 800℃で行い、その後、800℃~1100℃の温度域で析出処理を行えば、微細な Y2O3

    系の析出物が分散した結晶粒径の大きな組織が作れるものと推論される。ただ、結晶粒の粗

    大化時に Y2O3の析出が起こる可能性があり、今後の詳細な検討が必要である。

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    4.結論

    ODS マルテンサイト鋼とフェライト鋼の粒界制御による高温クリープ強度の向上を目指

    して、マルテンサイト変態に及ぼす熱処理の影響を中心に研究した結果、以下の結論が得ら

    れた。

    (1) ODS マルテンサイト鋼の高温変形において粒界すべりが起こることが明らかになっ

    た。すなわち、結晶粒径が 20μm の粗粒鋼ではしきい応力が存在し、結晶粒径が 2

    μm の細粒鋼ではしきい応力は存在せず、ひずみ速度の応力指数は粒界すべりの理論

    値2に非常に近い値であった。このことより、ODS マルテンサイト鋼の本来持ち得る

    Y2O3 粒子による分散強化を高温でも維持するためには結晶粒径を大きくする粒界制

    御技術の開発が必要である。

    (2) ODS マルテンサイト鋼の結晶粒を粗大化する、あるいは特殊対応粒界を低減する熱処

    理条件を種々検討した。その結果、単一バリアントからなるマルテンサイト組織の形

    成には成功し、特殊対応粒界の低減には成功した。

    炉冷熱処理を施して、γ→α変態時に結晶粒を粗大化させる方法を試みたが、十

    分な粗大化はできなかった。また、粗大化のためのオーステナイト化温度の上昇も試

    みたが、Y2O3 粒子の粗大化も同時に起こり、十分な組織は得られなかった。

    しかしながら、ODS マルテンサイト鋼を炉冷熱処理でフェライト化することによって、

    特殊対応粒界が消失し、高温クリープ強度を向上させることができることが明らかに

    なった。この方法は当初想定していなかったものであり、本研究で新たに見出された

    ものである。すなわち、残留α粒とフェライト組織の複合組織が高い高温強度生み出

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    すことがあらたに発見された。

    (3) ODS フェライト鋼の粒界制御のために再結晶法を検討した。その結果、特殊対応粒界

    を消滅可能なことが明らかになった。したがって、ODS フェライト鋼の粒界制御は

    ODS マルテンサイト鋼の粒界制御よりも容易であり、現段階では粒界すべり抑制は

    ODS フェライト鋼で可能となるであろう。

    (4) MA 処理後の Y2O3粒子の析出挙動を TEM を用いて観察した結果、Y2O3系の酸化物

    は 800℃ではほとんど析出していないことが明らかになった。したがって、結晶粒の

    粗大化処理を 800℃で行い、その後、800℃~1100℃の温度域で析出処理を行えば、

    微細なY2O3系の析出物が分散した結晶粒径の大きな組織が作れるものと推論される。

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    表紙表紙裏要旨Abstract目次表図1. 緒言2. 実験方法2.1 試料2.2 応力瞬間負荷試験2.3 組織観察2.3.1 光学顕微鏡観察2.3.2 方位像顕微鏡観察2.3.3 透過型電子顕微鏡観察2.3.4 高温クリープ試験2.3.5 高温炉冷熱処理試験

    3. 実験結果3.1 ODSマルテンサイト鋼の高温における粒界すべり3.2 ODSマルテンサイト鋼とフェライト鋼の粒界制御3.2.1 マルテンサイト変態制御法3.2.2 再結晶法

    3.3 ODSマルテンサイト鋼の連続冷却3.4 ODSマルテンサイト鋼とフェライト鋼のクリープ強度3.5 MAマルテンサイト鋼におけるY2O3粒子の析出挙動

    4. 結論