2
- 24 - 北東アジアの 対北米コンテナ流動から考える 港湾研究部長 高橋 宏直 (キーワード) 北東アジア、国際海上コンテナ流動、日本海 1.アニュアルレポート2009年号-裏表紙の続き このアニュアルレポート昨年(2009年)号の裏 表紙に、港湾研究部で分析した北東アジアからの 対北米コンテナ流動量の推移(200812月まで) を提示した。そこでは、 20089月のリーマンショ ック以降の北米向け流動量が激減したことを明ら かにしている。 図-1では、その後の結果を示す。 日本は昨年5月に、中国は昨年2月に、韓国は昨年 1月に底をうち、その後は増加している。ただし、 日本は他の2国と比較して上昇力が弱い。 この北東アジア、特に中国と北米間の貿易動向 は、わが国のみならず世界の今後の経済発展の重 要な要因であり、様々な観点からの分析が必要で ある。このため港湾研究部では、図-1で示した ようなコンテナ貨物の流動、さらにはコンテナ船 の寄港実態等について分析を行っている。今回、 新たに日本周辺海域でのコンテナ船の航行実態を 分析した。これにより、例えば、大型コンテナ船 の津軽海峡、すなわち日本海側を航行する実態を 把握することができた。 50.0 60.0 70.0 80.0 90.0 100.0 110.0 120.0 130.0 4567891011121234567891020082009日本 韓国 中国 2.コンテナ船の航行実態把握 船舶自動識別装置(AIS)の船舶の設置義務化に ともない、海上保安庁によるAIS陸上局の設置が着 実に実施されてきた。特に、 20096月において九 州以南海域のエリアをカバーすることで全国展開 が完了し、 20097月からは日本沿岸域の船舶航行 を一元的把握することが可能となった。このデー タを海上保安庁から提供して頂き、港湾研究部で 開発したAISデータ解析システム(NILIM-AIS)に より日本周辺海域のコンテナ船の航行実態を分析 した。先ず、図-220097月の1週間(18日~ 24日)でのコンテナ船の航跡図を示す。なお、こ の図では実際の観測で欠測している部分について NILIM-AISにより補正を行っている。 (1)大型船コンテナ船(パナマックス船以上) パナマックス以上のコンテナ船(Pmax)につい て東航・西航ごとに4週間について分析した結果を 図-3、4に示す。この結果、日本海を航行する 比率が東航・西航ともに約40%、さらにそのうち 韓国に寄港しない比率が東航で20%以上、西航で 30%以上になっていることが明らかになる。また 図-1 北東アジア→北米向けコンテナ流動量 図-2 コンテナ船の航跡図 09.7.1824 N I L I M - A I S ●各研究部・センターからのメッセージ

北東アジアの 対北米コンテナ流動から考える(オーバーパナマックス船:O-Pmax)についての 東航・西航についての同様の分析結果を図-5、

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 北東アジアの 対北米コンテナ流動から考える(オーバーパナマックス船:O-Pmax)についての 東航・西航についての同様の分析結果を図-5、

- 24 -

●各研究部・センターからのメッセージ

北東アジアの

対北米コンテナ流動から考える

港湾研究部長 高橋 宏直

(キーワード) 北東アジア、国際海上コンテナ流動、日本海

1.アニュアルレポート2009年号-裏表紙の続き

このアニュアルレポート昨年(2009年)号の裏

表紙に、港湾研究部で分析した北東アジアからの

対北米コンテナ流動量の推移(2008年12月まで)

を提示した。そこでは、2008年9月のリーマンショ

ック以降の北米向け流動量が激減したことを明ら

かにしている。図-1では、その後の結果を示す。

日本は昨年5月に、中国は昨年2月に、韓国は昨年

1月に底をうち、その後は増加している。ただし、

日本は他の2国と比較して上昇力が弱い。

この北東アジア、特に中国と北米間の貿易動向

は、わが国のみならず世界の今後の経済発展の重

要な要因であり、様々な観点からの分析が必要で

ある。このため港湾研究部では、図-1で示した

ようなコンテナ貨物の流動、さらにはコンテナ船

の寄港実態等について分析を行っている。今回、

新たに日本周辺海域でのコンテナ船の航行実態を

分析した。これにより、例えば、大型コンテナ船

の津軽海峡、すなわち日本海側を航行する実態を

把握することができた。

50.0

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

110.0

120.0

130.0

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

2008年 2009年

日本

韓国

中国

リーマンショック

2.コンテナ船の航行実態把握

船舶自動識別装置(AIS)の船舶の設置義務化に

ともない、海上保安庁によるAIS陸上局の設置が着

実に実施されてきた。特に、2009年6月において九

州以南海域のエリアをカバーすることで全国展開

が完了し、2009年7月からは日本沿岸域の船舶航行

を一元的把握することが可能となった。このデー

タを海上保安庁から提供して頂き、港湾研究部で

開発したAISデータ解析システム(NILIM-AIS)に

より日本周辺海域のコンテナ船の航行実態を分析

した。先ず、図-2に2009年7月の1週間(18日~

24日)でのコンテナ船の航跡図を示す。なお、こ

の図では実際の観測で欠測している部分について

はNILIM-AISにより補正を行っている。

(1)大型船コンテナ船(パナマックス船以上)

パナマックス以上のコンテナ船(Pmax)につい

て東航・西航ごとに4週間について分析した結果を

図-3、4に示す。この結果、日本海を航行する

比率が東航・西航ともに約40%、さらにそのうち

韓国に寄港しない比率が東航で20%以上、西航で

30%以上になっていることが明らかになる。また

図-1 北東アジア→北米向けコンテナ流動量 図-2 コンテナ船の航跡図

日本全域09.7.18~24コンテ��補正あり

����NILIM-AISに�り解析(AIS���は��������

●各研究部・センターからのメッセージ

日本に寄港しない比率が東航で60%以上、西航で

40%以上に、韓国に寄港しない比率が東航・西航

ともに50%以上になっていることも明らかになる。

(2)超大型コンテナ船(オーバーパナマックス船)

パナマ運河を通航できない超大型コンテナ船

(オーバーパナマックス船:O-Pmax)についての

東航・西航についての同様の分析結果を図-5、

6に示す。パナマックス以上のコンテナ船のうち

東航・西航ともに約70%程度までにO-Pmax船が投

入されていることが明らかになる。

3.中国-北米航路で日本-中国貨物を輸送

2.の分析からあらためて云うまでもなく、北

東アジアと対北米との航路の中核となっているの

は中国であり、この中国-北米間を結ぶコンテナ

船が東航・西航合わせて1日10便航行している。た

だし、その内日本には約半分しか寄港していない。

しかしながら、これらの航路は日本-中国航路と

みることができる。言い換えれば、中国発着のコ

ンテナ便が毎日10便も目の前を走っており、その

半分は通過しているのである。

現在の日本の最大の貿易の相手国は中国であり、

その輸送手段としてこの航路を活用することが考

えられる。従来、対中国への海上コンテナ輸送は

近海航路として中・小型コンテナ船により、複数

港に寄港する航路が主体であった。しかしながら、

ここに北米-中国航路の高速の大型船の途中寄港

という新たな【アイデア】が考えられる。ここで

は、大型コンテナ船にとって寄港するだけメリッ

トがある対中国コンテナ量を集積できるかどうか

が実現の鍵となる。

今後、さらに分析を進めたいと考えている。

【参考文献】

1)高橋宏直 海上の安全の確保のための日本周辺

海域における船舶航行実態把握:日本政策研究

会 第1回年次大会 2009.12

図-3 コンテナ船(Pmax)航行実態(東航)

図-4 コンテナ船(Pmax)航行実態(西航)

図-5 コンテナ船(O-Pmax)航行実態(東航)

図-6 コンテナ船(O-Pmax)航行実態(西航)

� 航

�5

55

�0

15

50

15�0

�0

�5

150

15

日本海航路 43%日本海航路内で韓国抜港

〈23%〉

日本 抜港 63%韓国 抜港 56%日・韓 抜港 30%

2009.07.04~07.31 Panamax(B 30m�� or 40,000DWT���������� 5����

国���NILIM-AIS�����(�������海�������

� 航

�5

�0

�0

�5

15�5

�0

�5

150

10

515

�0

日本海航路 43%日本海航路内で韓国抜港

〈31%〉

日本 抜港 46%韓国 抜港 50%日・韓 抜港 17%

2009.07.04~07.31 Panamax(B 30m�� or 40,000DWT���������� 5����

国���NILIM-AIS�����(�������海�������

�0

�0

�0

10

�0

15�5

50

100

� 航

O-Pmax比 67%日本海航路 40%日本海航路内で韓国抜港

〈25%〉

日本 抜港 60%韓国 抜港 55%日・韓 抜港 30%

2009.07.04~07.31Over Panamax(B 35m�� or 60,000DWT�������� 5����

国���NILIM-AIS�����(�������海�������

50

50

10

�0

550

55

110

10

05

10

� 航

O-Pmax比 73%日本海航路 45%日本海航路内で韓国抜港

〈20%〉

日本 抜港 45%韓国 抜港 54%日・韓 抜港 9%

2009.07.04~07.31Over Panamax(B 35m�� or 60,000DWT�������� 5����

国���NILIM-AIS�����(�������海�������

●各研究部・センターからのメッセージ

Page 2: 北東アジアの 対北米コンテナ流動から考える(オーバーパナマックス船:O-Pmax)についての 東航・西航についての同様の分析結果を図-5、

- 25 -

●各研究部・センターからのメッセージ

北東アジアの

対北米コンテナ流動から考える

港湾研究部長 高橋 宏直

(キーワード) 北東アジア、国際海上コンテナ流動、日本海

1.アニュアルレポート2009年号-裏表紙の続き

このアニュアルレポート昨年(2009年)号の裏

表紙に、港湾研究部で分析した北東アジアからの

対北米コンテナ流動量の推移(2008年12月まで)

を提示した。そこでは、2008年9月のリーマンショ

ック以降の北米向け流動量が激減したことを明ら

かにしている。図-1では、その後の結果を示す。

日本は昨年5月に、中国は昨年2月に、韓国は昨年

1月に底をうち、その後は増加している。ただし、

日本は他の2国と比較して上昇力が弱い。

この北東アジア、特に中国と北米間の貿易動向

は、わが国のみならず世界の今後の経済発展の重

要な要因であり、様々な観点からの分析が必要で

ある。このため港湾研究部では、図-1で示した

ようなコンテナ貨物の流動、さらにはコンテナ船

の寄港実態等について分析を行っている。今回、

新たに日本周辺海域でのコンテナ船の航行実態を

分析した。これにより、例えば、大型コンテナ船

の津軽海峡、すなわち日本海側を航行する実態を

把握することができた。

50.0

60.0

70.0

80.0

90.0

100.0

110.0

120.0

130.0

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

11月

12月

1月

2月

3月

4月

5月

6月

7月

8月

9月

10月

2008年 2009年

日本

韓国

中国

リーマンショック

2.コンテナ船の航行実態把握

船舶自動識別装置(AIS)の船舶の設置義務化に

ともない、海上保安庁によるAIS陸上局の設置が着

実に実施されてきた。特に、2009年6月において九

州以南海域のエリアをカバーすることで全国展開

が完了し、2009年7月からは日本沿岸域の船舶航行

を一元的把握することが可能となった。このデー

タを海上保安庁から提供して頂き、港湾研究部で

開発したAISデータ解析システム(NILIM-AIS)に

より日本周辺海域のコンテナ船の航行実態を分析

した。先ず、図-2に2009年7月の1週間(18日~

24日)でのコンテナ船の航跡図を示す。なお、こ

の図では実際の観測で欠測している部分について

はNILIM-AISにより補正を行っている。

(1)大型船コンテナ船(パナマックス船以上)

パナマックス以上のコンテナ船(Pmax)につい

て東航・西航ごとに4週間について分析した結果を

図-3、4に示す。この結果、日本海を航行する

比率が東航・西航ともに約40%、さらにそのうち

韓国に寄港しない比率が東航で20%以上、西航で

30%以上になっていることが明らかになる。また

図-1 北東アジア→北米向けコンテナ流動量 図-2 コンテナ船の航跡図

日本全域09.7.18~24コンテ��補正あり

����NILIM-AISに�り解析(AIS���は��������

●各研究部・センターからのメッセージ

日本に寄港しない比率が東航で60%以上、西航で

40%以上に、韓国に寄港しない比率が東航・西航

ともに50%以上になっていることも明らかになる。

(2)超大型コンテナ船(オーバーパナマックス船)

パナマ運河を通航できない超大型コンテナ船

(オーバーパナマックス船:O-Pmax)についての

東航・西航についての同様の分析結果を図-5、

6に示す。パナマックス以上のコンテナ船のうち

東航・西航ともに約70%程度までにO-Pmax船が投

入されていることが明らかになる。

3.中国-北米航路で日本-中国貨物を輸送

2.の分析からあらためて云うまでもなく、北

東アジアと対北米との航路の中核となっているの

は中国であり、この中国-北米間を結ぶコンテナ

船が東航・西航合わせて1日10便航行している。た

だし、その内日本には約半分しか寄港していない。

しかしながら、これらの航路は日本-中国航路と

みることができる。言い換えれば、中国発着のコ

ンテナ便が毎日10便も目の前を走っており、その

半分は通過しているのである。

現在の日本の最大の貿易の相手国は中国であり、

その輸送手段としてこの航路を活用することが考

えられる。従来、対中国への海上コンテナ輸送は

近海航路として中・小型コンテナ船により、複数

港に寄港する航路が主体であった。しかしながら、

ここに北米-中国航路の高速の大型船の途中寄港

という新たな【アイデア】が考えられる。ここで

は、大型コンテナ船にとって寄港するだけメリッ

トがある対中国コンテナ量を集積できるかどうか

が実現の鍵となる。

今後、さらに分析を進めたいと考えている。

【参考文献】

1)高橋宏直 海上の安全の確保のための日本周辺

海域における船舶航行実態把握:日本政策研究

会 第1回年次大会 2009.12

図-3 コンテナ船(Pmax)航行実態(東航)

図-4 コンテナ船(Pmax)航行実態(西航)

図-5 コンテナ船(O-Pmax)航行実態(東航)

図-6 コンテナ船(O-Pmax)航行実態(西航)

� 航

�5

55

�0

15

50

15�0

�0

�5

150

15

日本海航路 43%日本海航路内で韓国抜港

〈23%〉

日本 抜港 63%韓国 抜港 56%日・韓 抜港 30%

2009.07.04~07.31 Panamax(B 30m�� or 40,000DWT���������� 5����

国���NILIM-AIS�����(�������海�������

� 航

�5

�0

�0

�5

15�5

�0

�5

150

10

515

�0

日本海航路 43%日本海航路内で韓国抜港

〈31%〉

日本 抜港 46%韓国 抜港 50%日・韓 抜港 17%

2009.07.04~07.31 Panamax(B 30m�� or 40,000DWT���������� 5����

国���NILIM-AIS�����(�������海�������

�0

�0

�0

10

�0

15�5

50

100

� 航

O-Pmax比 67%日本海航路 40%日本海航路内で韓国抜港

〈25%〉

日本 抜港 60%韓国 抜港 55%日・韓 抜港 30%

2009.07.04~07.31Over Panamax(B 35m�� or 60,000DWT�������� 5����

国���NILIM-AIS�����(�������海�������

50

50

10

�0

550

55

110

10

05

10

� 航

O-Pmax比 73%日本海航路 45%日本海航路内で韓国抜港

〈20%〉

日本 抜港 45%韓国 抜港 54%日・韓 抜港 9%

2009.07.04~07.31Over Panamax(B 35m�� or 60,000DWT�������� 5����

国���NILIM-AIS�����(�������海�������

・ ●各研究部・センターからのメッセージ