10
取材・文/えんぴつ 撮影/大沼英樹 扉写真/岩切城跡の桜 5

桜浪漫 - NiCoAaward.nicoanet.jp/pdfs/266_59c48878b1e4a.pdf · がうかがえよう。都人にとって憧憬の場所だったこと氏物語の作者・紫式部もその一人。塩竈の浦を詠んだ歌人は多い。源こを訪れる訪れないにかかわらず、の名で知られた歌枕の地である。こ

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 桜浪漫 - NiCoAaward.nicoanet.jp/pdfs/266_59c48878b1e4a.pdf · がうかがえよう。都人にとって憧憬の場所だったこと氏物語の作者・紫式部もその一人。塩竈の浦を詠んだ歌人は多い。源こを訪れる訪れないにかかわらず、の名で知られた歌枕の地である。こ

桜浪漫

悠久の歴史を伝える

人々が愛してやまない花の季節、到来。

さくらは「咲く、ら」が語源ともいわれる。

春の空にくっきりと咲く桜もいいが

歴史が刻まれた風景の中で見る桜は

どこか奥ゆかしく、浪漫が香り立つようだ。

今年の桜は、歴史とともに巡ってみようか。

取材・文/えんぴつ撮影/大沼英樹扉写真/岩切城跡の桜

5

Page 2: 桜浪漫 - NiCoAaward.nicoanet.jp/pdfs/266_59c48878b1e4a.pdf · がうかがえよう。都人にとって憧憬の場所だったこと氏物語の作者・紫式部もその一人。塩竈の浦を詠んだ歌人は多い。源こを訪れる訪れないにかかわらず、の名で知られた歌枕の地である。こ

松 島

群青の海と緑の松を

桜が縁どる一幅の絵

ここは、今から900年ほど前、

平安時代の歌人・西行法師が松の

大木の下で出会った童子と禅問答

をして負け、松島行きを諦めたとい

う伝説が残る地。

 その時、26~27歳だったという西

行は40年後に再度みちのくを旅し

ている。西行も、後に西行の跡を訪

ねてみちのくを旅した芭蕉も、憧

れの地・松島では一編一句も残さな

かったという。

 

松に寄り添うように咲く桜も、

眼下に広がる桜の海も、歌枕の地に

今年も春を告げる。

松島を展望する『西行戻しの松公園』にて

6

Page 3: 桜浪漫 - NiCoAaward.nicoanet.jp/pdfs/266_59c48878b1e4a.pdf · がうかがえよう。都人にとって憧憬の場所だったこと氏物語の作者・紫式部もその一人。塩竈の浦を詠んだ歌人は多い。源こを訪れる訪れないにかかわらず、の名で知られた歌枕の地である。こ

 

古より塩竈は、その前に広がる

松島を含めて、都みやこびと人には『塩竈の浦』

の名で知られた歌枕の地である。こ

こを訪れる訪れないにかかわらず、

塩竈の浦を詠んだ歌人は多い。源

氏物語の作者・紫式部もその一人。

都人にとって憧憬の場所だったこと

がうかがえよう。

 塩竈の名は、鹽竈神社縁起をひ

もとくと、昔、塩しおつちおじのかみ

土老翁神がこの地

に来て、塩を作る方法を人々に教え

たことによる、と伝えられる。

 『見わたせば 霞のうちもかすみ

けり 煙たなびく塩竈の浦』。新古

今和歌集にある藤原家隆の和歌で

も、藻塩を焼く煙がたなびく塩竈

の浜の景色が歌われている。

 地元の人々からお山と親しまれ

る鹽竈神社は、かつて国府多賀城に

赴任してきた都人が最初に参拝し

た神社であったそうだ。

 創建の年代は明らかではないが、

9世紀にはすでに篤い信仰の対象

となっていたようだ。一森山という

山一帯が鹽竈神社の聖域である。

 

杉の大樹の下、202段の階段

を登っていくと、朱の楼門に染井吉

野と枝垂桜が迎えてくれ、門をく

ぐれば天然記念物にも指定されて

いる鹽竈桜も見えてくる。静謐の気

が漂う中、別宮に寄り添うように

咲く鹽竈桜の姿よきこと。着物姿

の女性と桜がつくり出す、春の喜び

と希望の風景は千年前から変わら

表参道から参拝すると、華麗な楼門(随身門)と桜が見えてくる。見事な門は約300年の歴史を刻む建築物。この楼門をくぐると右手には鹽竈桜が

国の天然記念物に指定されている鹽竈桜。遅咲きの品種で、例年5月上旬が見頃とのこと

海鮮せんべい塩竈「塩竈の新しい、日持ちするおみやげとして重宝されています」と話す小國善隆店長と、楽しいスタッフの皆さん。人気の「三陸たこせんべい」(20枚入り650円)の他「さくらせんべい」(写真/20枚入り760円)も春限定で販売(共に税込)塩竈市新浜町3-30-30 TEL.022-363-50309:00~17:00 無休

塩釜名産かまぼこ 増友商店全国版の雑誌でも紹介された、創業86年の増友商店の笹かまぼこは、その名も「塩釜桜」。塩釜由来の伝統製法で造られた藻塩、地酒、そして塩釜港水揚げのキチジが使われていて、上品な旨味とほのかな甘味が極上。鹽竈桜が大好きでその再生に情熱を注いだ2代目のネーミングだ塩竈市尾島町27-14 TEL.022-362-1828 10:00~18:00 日曜祝日定休

塩竈料理 翠松亭塩釜駅から徒歩5分にある、蔵屋敷風の建物。塩竈料理とは、塩竈港に揚がった魚を主な材料とした料理で、新鮮な海の幸を堪能できる。桜の季節には、ほっき飯の丼が登場する。ほっき貝4個分が入った贅沢丼

(1,944円/税込)をぜひ塩竈市海岸通4-8 TEL.022-362-1777平日・土曜 11:30~14:00、17:00~20:30日曜・祝日 11:30~14:30、17:00~20:30水曜定休 

千年前、堀河天皇が「あけくれに さぞな愛で見む鹽竈の 桜の本に 海人のかくれや」と詠んだ、鹽竈桜

塩竈市杉村惇美術館歴史と文化の香りがただよう塩竈市杉村惇美術館は、鹽竈神社の境外末社である御釜神社の坂を登ったところにある。その正面では、樹齢270年を超えるとの記録も残されている色鮮やかなエドヒガン桜がお出迎え。館内にはカフェもあり、窓からの花見&コーヒータイムを堪能できる。塩竈市本町8-1 TEL.022-362-2555 10:00~17:00 月曜、年末年始休館カフェ:11:00~17:00 月曜・火曜定休

塩竈

千二百年の聖地に

春の喜びと希望の情景

ぬ情景かもしれない。

 昭和15年に国の天然記念物に指

定された鹽竈桜は一度は枯損したも

のの、人々の地道な努力で苗木の育

成に成功し、再び指定されたとい

う物語を秘めている。

 広いお山を巡れば、河津桜や八

重紅枝垂、萌黄色の花を咲かせる

御衣黄などが、塩竈の浦の群青と

さまざまな重ね色を見せながら、楽

しませてくれる。

塩竈みなと祭志波彦神社・鹽竈神社の御神輿を乗せた御座船が、塩竈の浦(松島湾)を巡行する「塩竈みなと祭」は、平成26年度「ふるさとイベント大賞」で内閣総理大臣賞を受賞。今夏は70回目の開催となる(開催は7月)

9 8

Page 4: 桜浪漫 - NiCoAaward.nicoanet.jp/pdfs/266_59c48878b1e4a.pdf · がうかがえよう。都人にとって憧憬の場所だったこと氏物語の作者・紫式部もその一人。塩竈の浦を詠んだ歌人は多い。源こを訪れる訪れないにかかわらず、の名で知られた歌枕の地である。こ

多賀城

〈歌枕の国

陸奥〉のふるさとを

今も奥ゆかしく、香り高く、彩る桜たち

JR東北本線国府多賀城駅から北に歩いていくと見えてくる小高い丘の南斜面に、松との美しい重ね色を見せる桜。多賀城桜とも呼ばれている

 東北本線の国府多賀城駅で降り、

北に少し歩くと低い丘陵が広がる。

ここが奈良・平安時代、陸奥国の

国府が置かれた多賀城跡。築かれ

たのは724年で、平安時代にそ

の終焉を迎えるまでの約300年、

古代東北の中心地だったところだ。

 奈良の平城宮跡、福岡県の大宰

府跡とともに日本三大史跡の一つで

あり、今も四方約1㎞にわたって、

囲んでいた築地塀をはじめさまざ

まな痕跡を見ることができる。門

は南・西・東にあり、南に開かれ

た門は都人を迎える入口だったの

だろう。

 都人の中には、当時の名高い風

流人も多かった。例えば、日本初

の和歌集『万葉集』を代表する歌

人・大伴家やかもち持もその一人。家持は

歌人であるとともに武人でもあり、

782年に陸奥按あ

ち察使鎮守将軍を

任じられ、この地に来て、そしてこ

こで没している。

 

842年には古今和歌集に名

を連ねる小おののたかむら

野篁が、995年には

後ごじゅうい

拾遺和歌集などに短歌を残した

藤ふじわらのさねかた

原実方が、陸奥守としてこの

地に関わりをもった。こうして

都の風流人が多賀城に来て、み

ちのくの美しさを歌にして都へ

送ることにより、「歌枕の国 陸

奥」が生まれていったのだという。

 時を超えて、みちのくへの旅は

風雅と憧憬の旅となり、平安時

代には能のういんほうし

因法師、その約100

年後に西行法師、その550年

後に松尾芭蕉が歌枕を訪ねる旅

へという流れをつくり出していっ

たようだ。

 南門跡の小高い丘には、覆おおいどう堂の

中に多賀城碑、別称壺つぼのいしぶみ碑がある。

西行が「陸奥のおくゆかしくぞお

もほゆる 壺のいしぶみ外の浜風」

と詠み、芭蕉が奥の細道の行脚の

旅で「疑なき千歳の記念・・泪も

落つるばかり」に感動したという

碑だ。石には多賀城の位置、創建

と修造のことが141の文字で刻

まれ、最後に碑の建立は天平宝字

6(762)年と記されている。約

1300年前の碑が克明に読める

のも、途中900年の間、地面に

11 10

Page 5: 桜浪漫 - NiCoAaward.nicoanet.jp/pdfs/266_59c48878b1e4a.pdf · がうかがえよう。都人にとって憧憬の場所だったこと氏物語の作者・紫式部もその一人。塩竈の浦を詠んだ歌人は多い。源こを訪れる訪れないにかかわらず、の名で知られた歌枕の地である。こ

東北歴史博物館では、人工池を巡る遊歩道を染井吉野とサトザクラが彩る

多賀城の付属寺院だった多賀城廃寺跡。城外に点在する遺跡の一つで、ここも1300年の歴史を今に伝える場所として特別史跡に指定されている。向かいには多賀神社(写真:左端)があり、凛と立つ杉林を背景に桜が美しいコントラストを見せる

倒れていたため表面が風化を免れ

たおかげだという。そんな隠れた

歴史秘話を、地元ボランティアガ

イドの方から聞くのも興味深い。

 多賀城碑の周りの桜、また南門

跡から政庁跡へとまっすぐ延びる

政庁南大路を登ったところにある

枝垂れ桜の大木、そして正殿前の

石敷広場の古木の桜など、かつて

の北の都の浪漫を彩る桜は、最近

では多賀城桜と呼ばれている。

 政庁跡から北へ約300mほど

行くと、多賀神社があり、ここで

も優雅な枝ぶりの桜が、匂うが如

き風情を見せる。座って花見する

人たちも、俳句帖を片手にたたず

む人も、しみじみと桜を愉しんで

いるようだ。

 この一画は平安時代の役所跡で、

六月坂という名がついている、この

辺りの桜は六月坂桜とも呼ばれて

いるというから、何とも風流。桜の

花を眺める人の表現として、花人、

花見人、花見客、そして桜人があ

るようだが、ここでは誰もが桜人に

なれる、そんな趣ある界隈だ。

 広大な多賀城跡から南東約1.2㎞。

ここには多賀城の付属寺院として

創建された寺院の跡があり、多賀

城廃寺跡として多賀城跡とともに

特別史跡に指定されている。

 かつては三重塔と金堂を築地塀

が取り囲む、壮麗な伽藍の寺院だっ

たといわれる多賀城廃寺。その金

堂跡の高木の桜、振り返れば向か

いの多賀神社の桜も満開である。

 悠久の時が流れる歴史ある地の

桜を巡れば、多賀城碑に刻まれて

いた「京を去る千五百里」の1行

が思い起こされる。故郷の京を思い、

都人たちは桜を植え、それが今に

受け継がれてきたのだろうか。

 桜花浪漫の景色にしばし浸りた

い。

1 多賀城碑もある小高い丘。桜の姿が心を和ませてくれる 2 覆堂に納められている多賀城碑は、歌枕の「壺碑」としても知られる。国の重要文化財 3 重要な政務や儀式が行われた政庁の中心にあった正殿跡 4 政庁跡の登り口に見える枝垂れ桜。手前は政庁の復原模型 5 政庁跡より奥(北)へ300mほど。多賀神社のある六月坂地区にも奥ゆかしい風景が広がる

1

2345

洋菓子店 ピュイダムール歴史ある地のおみやげには、多賀城産古代米を使った「多賀城古代米ロールケーキ」

(写真/216円)。粒々の楽しい触感とやさしい甘さがちょうどいい。藻塩など近隣の食材を使った仙塩地区ロール(5個セット/1,080円)や米っこサブレ古代米「たかもん」

(写真/172円・全て税込)も多賀城市笠神5-14-18 TEL.022-367-9150 9:30~19:00 月曜定休

多賀城市立図書館東北一の文化交流拠点を目指し、地域の「家」をコンセプトにオープンした多賀城市立図書館は、オープン1周年。平均の3倍は長く滞在するという居心地のいい図書館は、多賀城市民以外でも利用できる。郷土資料も豊富なので、ここで下調べをして桜と史跡めぐりもいいだろう多賀城市中央2-4-3 TEL.022-368-6226 9:00~21:30 年中無休

多賀城

13 12

Page 6: 桜浪漫 - NiCoAaward.nicoanet.jp/pdfs/266_59c48878b1e4a.pdf · がうかがえよう。都人にとって憧憬の場所だったこと氏物語の作者・紫式部もその一人。塩竈の浦を詠んだ歌人は多い。源こを訪れる訪れないにかかわらず、の名で知られた歌枕の地である。こ

 多賀城と仙台の間には、伊達政

宗が仙台城を築城する以前の中世

の城跡が点在する。

 利府城跡もその一つだ。利府小学

校の裏手、標高約90mの山を利用

して築かれた山城で、敵の襲撃に備

えて3段、もしくは5段と作られた

曲くるわ輪跡が、今もその名残りをとど

めている。

 

何年に築かれたかは不明だが、

鎌倉時代に奥州の統括を任じられ、

この地にきた留守氏の家臣・村岡氏

が築城し居城したといわれている。

 シダと雑木に囲まれた道を登る

と、ほどなく山頂の本丸跡に着く。

桜の名所でもあり、春を待ちかね

た近隣の人々がやってくる。山城跡

の桜の下に座れば、春うららの風景。

向かいの山、あちらの山にぽわぽわ

と桜のピンク色が、萌葱色の中に浮

き立つパノラマが展開する。まさに

〝山笑う〟光景だ。

 本丸の他、二の丸と三の丸があり、

広い城郭だったことがうかがえる利

府城。留守氏が伊達家から養子を

迎えることに対し、村岡氏が反発し

たことに端を発して、1570年

に留守政景が利府城を攻略。その

後、改修して留守氏は岩切城から

居城をここに移した。

 やがて、豊臣秀吉の奥州仕置き

により留守氏は所領を没収され、

1590年に利府城は廃城となっ

た。

 現在は館山公園として整備され、

憩いの場として老若男女に親しま

れている。

 

城跡から見下ろす利府の町は、

大型商業施設が建ち並び賑わいを

見せるが、かつては豊かな田園地帯

だった。その歴史を伝える1本の種

まき桜が、利府町役場の北東に位

置する楊ようぎじ

岐寺にある。樹齢は300

年近い。種まき桜とは、農家の人に

とって米づくりの目安となった大切

な桜だ。

 「桜が咲いたら、わらで編んだカ

マスに入れた種もみを小川につけ、

その種を水苗代にまき、大きくして

6月に田植えをしたんです」と話し

てくださったのは、楊岐寺の真壁道

鑑さん。この辺でとれる米はおいし

かったのだそうだ。

 そんな米づくりをずっと見守って

たのであろう種まき桜。2本あった

木は、新幹線のトンネルを掘った際

に1本が枯れたという。

 植物の中でも最も水分を必要と

する種類の一つが桜だ。「6、7月に

たっぷり雨が降ると、翌年の桜はき

れいなんですよ」と顔をほころばせ

る。さて、今年の種まき桜はどうだ

ろうか。

 楊岐寺では、この桜の他に700

年のカヤや350年の椿など、古木

名木を見ることができる。

1 楊岐寺の境内には種まき桜の他にも、エドヒガン桜が咲く。遠くからでもその姿が見えるほどの大樹だ2 境内に種まき桜が咲く楊岐寺の真壁道鑑さん

樹齢およそ300年、太い幹にも長い年月が刻まれている

楊岐寺宮城郡利府町利府八幡崎105

利府城跡からは利府の町が眼下に広がる。薄暮時の桜と町の灯り種をまく時を知らせてきた種まき桜の見頃は、例年4月中旬から下旬 

標高90mの山の頂上にある利府城跡。水色の空と桜、そしてピンクの桜と黄色の水仙も楽しめるさくらの名所でもある

12

利 府

中世の城の名残りに、

うららの春、咲く。

15 14

Page 7: 桜浪漫 - NiCoAaward.nicoanet.jp/pdfs/266_59c48878b1e4a.pdf · がうかがえよう。都人にとって憧憬の場所だったこと氏物語の作者・紫式部もその一人。塩竈の浦を詠んだ歌人は多い。源こを訪れる訪れないにかかわらず、の名で知られた歌枕の地である。こ

 

利府街道を松島方面へ進むと、

民家の後ろに大きな桜が見える。こ

れが『春日の枝垂れ桜』と人々に親

しまれてきた桜。名前の春日はここ

の地名からつけられたもので、小さ

な流れのそばに、200年以上の年

輪を刻んでいる。姿も見事な、色も

濃い紅枝垂れ桜だ。一輪一輪の可憐

なこと。少し離れてみるとつぼみは

濃いピンクで、開くほどに薄い色に

なっているのに気づかされる。全容

はピンクのグラデーションだ。

 また、さらに北上した利府の藤

田地区に、『藤田の夫婦桜』がある。

桜咲く里の道に、ひときわ大きくそ

びえるようにして並んでいる江戸彼

岸と枝垂桜の夫婦桜。エドヒガシが

夫で、枝垂桜が妻なのだろうか。そ

んな想像をするのも楽しい。

 

奥には黄金山神社の鎮守の社、

近くでは野良着姿のおばあちゃん

が畑仕事に精を出していた。樹齢

300年という夫婦桜は、そんな

人々の営みを喜びほほえんで見守っ

ているようだ。

春日の枝垂れ桜。見事な咲き様を、川べりから眺めることができる。個人宅の敷地に咲いているので、節度を持って見物したい

仲良く並んで300年咲き続ける「藤田の夫婦桜」

カトーマロニエ利府梨を使ったスイーツに出会える店。無添加、低カロリーのゼリー「梨んぼう」(6個入り1,152円/税込)と、姉妹品「梨サブレ」

(14枚入り1,080円/税込)はいずれも和梨の味がやさしくいきた地場銘品。「元祖なまどら」は、誕生から間もなく30年。多くのファンに愛されている。他にはない美味しさの皮と小倉、ずんだ、いちごなどのクリームとの相性が絶妙(1個162円/税込)宮城郡利府町しらかし台6-4-3TEL.022-356-5514 8:30~18:00 年中無休

沢乙温泉 里山旬味 うちみ旅館里の静かな風景と趣きあるたたずまいが迎えてくれる沢乙温泉・うちみ旅館。湯の歴史は1200年までさかのぼるという、坂上田村麻呂ゆかりの湯。温まりの湯とともに、湯主自らが里の旬、浜の美味を活かして腕をふるう日本料理も素晴らしい 会食・さわおと膳プラン3,600円~(個室+入浴付 要予約/税別)宿泊・旬菜御膳プラン9,800円~(1泊2食付/税別)日帰り入浴1人1回520円(税込)宮城郡利府町菅谷字明神沢1 TEL.022-356-3145 第2・第4水曜定休

手打ちそば 赤鬼利府街道沿いにあるそば処は、震災で店舗が倒壊した後店主が一人で再オープンした。毎朝5時から手打ちするそばに、しっとり旨い鴨肉とつゆ2椀がついた鴨ざる(850円/税込)はお値打ちメニュー宮城郡利府町赤沼大日向80-1 TEL.022-356-6001 11:30~15:00 火曜定休

枝垂れ桜は江戸彼岸の枝が垂れる性質の品種。糸桜とも呼ばれ、近寄れば花一輪一輪が可憐

17 16

Page 8: 桜浪漫 - NiCoAaward.nicoanet.jp/pdfs/266_59c48878b1e4a.pdf · がうかがえよう。都人にとって憧憬の場所だったこと氏物語の作者・紫式部もその一人。塩竈の浦を詠んだ歌人は多い。源こを訪れる訪れないにかかわらず、の名で知られた歌枕の地である。こ

宮城野区岩切にある中世の山城、岩切城跡。朝もやの中に浮かび上がる桜は、苔むす幹、その向こうに連なる花の雲とともに、時を止め、幽玄の世界をつくり出す

霞立つ城跡に

浪漫を語るように佇む

岩切城跡

19 18

Page 9: 桜浪漫 - NiCoAaward.nicoanet.jp/pdfs/266_59c48878b1e4a.pdf · がうかがえよう。都人にとって憧憬の場所だったこと氏物語の作者・紫式部もその一人。塩竈の浦を詠んだ歌人は多い。源こを訪れる訪れないにかかわらず、の名で知られた歌枕の地である。こ

 利府街道を北上し、岩切大橋を

渡った左手に見える高森山(106

m)。県民の森として親しまれてい

るこの山の一角に岩切城跡がある。

東西約1㎞にも及ぶ城跡は、県内

の中世城郭のうち最大のもので、国

の史跡にも指定されている。

 築城は、奥州藤原氏が滅亡した

後の1190年とみられるというか

ら、今から800年以上も前のこと

になる。陸奥国の留守職を任じら

れた伊沢家景を初代とする留守氏

の居城として築かれた。家景の末裔

にあたる留守政景が、居城を利府

城に移した1570年に廃城。その

間380年、留守氏の居城だった。

 大きな中世の城跡は東郭・西郭

から成り、今もその面影を深くと

どめている。最高所の平場も広く、

エドヒガンの大木が悠然と春の生命

を漲らせている。その威厳ある姿に

は、すごいなぁと圧倒される。

 桜は短命のようにいわれるが、一

輪の寿命は梅や桃と変わらないの

だという。ただ、一輪一輪の花の熟

度が他より揃って散るため、短く感

じるのだそうだ。

 

晴れた日中は、岩切の町並みか

ら太平洋を見渡せる風光明媚な地。

一方、早朝に訪れれば朝もやが現代

の町並みの背景を消し去り、まるで

中世にタイムトリップしたような、

幻想の世界へ人々を誘う。

 おぼろ月夜の桜もさぞ美しいこ

とだろう。

枝垂れ桜は、朝もやの中でさらに女性的。樹齢はどれぐらいだろうか、幹を這う蔦も太い

平場に咲き揃う桜の中でもひときわ勢いよく、生命を漲らせるエドヒガン。右ページと比べると男性的

中世の歴史を刻む岩切城跡は、仙台市内有数の桜の名所でもある

シャンティシャンティ 東北本線で仙台から10分、岩切駅前にあるシャンティシャンティ。ちょっと懐かしい雰囲気の店では、笑顔温かなスタッフとボリュームたっぷりのランチメニューが待っている。土日のランチはタコライス、ハヤシライス等。サンドイッチのテイクアウトも。写真は、平日ランチのガーリックレモン・ポークステーキと手作りハンバーグ(どちらもサラダ・スープ・デザート・ドリンク980円/税込)  フレンチトースト(500円/税込)仙台市宮城野区岩切字洞ノ口188 TEL.022-255-5305 平日 11:30~14:30(L.O) 18:00~翌1:00(L.O)土日祝日11:00~翌1:00(L.O)

創作和菓子いとうや 岩切城への登り口の前、今市橋たもとにある「創作和菓子いとうや」。明治20年の創業から130年以上の歴史を持つ店で、和菓子・洋菓子等約100種類が店頭に並ぶ。人気の冷凍おにぎりはその場で温めてくれるので、お花見にもちょうどいい。大根おにぎり、鶏ごぼうおにぎりなど10種(各158円/税込)。写真は、4代目名誉店長の伊藤千鶴子さん仙台市宮城野区岩切畑中65-1 TEL.022-255-8214 8:30~17:00 年中無休

野菜の形をしたオリジナルの和菓子「岩きりのめんこい野菜」(1個119円/税込)

鶴が丘中学校近くにある松森城、別名鶴ヶ城跡。鎌倉時代から400年余り仙台周辺を領有した、国分氏が居住した中世の城跡。坂道に沿って桜の大木が続き、数十本の桜が風情を添える本丸跡に立てば、太平洋から泉ヶ岳までの眺望も素晴らしい

岩切城跡

21 20

Page 10: 桜浪漫 - NiCoAaward.nicoanet.jp/pdfs/266_59c48878b1e4a.pdf · がうかがえよう。都人にとって憧憬の場所だったこと氏物語の作者・紫式部もその一人。塩竈の浦を詠んだ歌人は多い。源こを訪れる訪れないにかかわらず、の名で知られた歌枕の地である。こ

桜を詠んだ歌は、万葉集にすでに登場している。

千年以上も昔から、人々の暮らしの中に在り

愛されてきた桜。

季ときがくれば、違たがえることなく花ひらき

景色に彩い

をさしてきた。

その彩のなかに、人々は希望を見

思い出を紡いできた。

今年もまた、桜の季節がやってくる。

歴史の跡を残す地で

脈々といのちをつなぐ桜さ

くらばな花

その彩は、凛として悠は

るかである。

岩切城跡のエドヒガン

宮城県

塩竈

多賀城

岩切城跡利府松島

仙台市

22