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ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。 特別号 大阪府版 これからの病棟業務はいかにあるべきか ~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~ 座談会 大阪警察病院 薬剤部長 山本 克己 先生 社会医療法人愛仁会 高槻病院 薬剤部 西川 直樹 先生 市立豊中病院 薬剤部長 栗谷 良孝 先生 医療法人育和会 育和会記念病院 副薬剤部長 久岡 清子 先生 [司会] (発言順)

これからの病棟業務は発行月 : 平成24年9月発行 発 行 : 田辺三菱製薬株式会社 〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18 お問い合せ先 : 営業推進部

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Page 1: これからの病棟業務は発行月 : 平成24年9月発行 発 行 : 田辺三菱製薬株式会社 〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18 お問い合せ先 : 営業推進部

発行月 : 平成24年9月発行発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

特別号 大阪府版

特別号 大阪府版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

大阪警察病院 薬剤部長山本 克己 先生社会医療法人愛仁会 高槻病院 薬剤部西川 直樹 先生市立豊中病院 薬剤部長栗谷 良孝 先生医療法人育和会 育和会記念病院 副薬剤部長久岡 清子 先生

[司会]

(発言順)

大阪警察病院 薬剤部長

やま もと  かつ  み

山本 克己 先生(司会)

医療法人育和会 育和会記念病院副薬剤部長

ひさ おか  きよ  こ

久岡 清子 先生市立豊中病院 薬剤部長

くり たに  よし たか

栗谷 良孝 先生社会医療法人愛仁会 高槻病院

薬剤部

にし かわ  なお  き

西川 直樹 先生

特別号 大阪府版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■各施設における病棟薬剤業務の現状山本 最初に、各施設における病棟薬剤業務の現状についてご紹介していただきたいと思います。高槻病院の西川先生から順にお願いします。

西川 高槻病院は病床数477床、14病棟で、薬剤師は21人です。薬剤管理指導業務は全病棟で実施していますが、病棟薬剤業務については現在2病棟に留まっています。1週間20時間の要件をぎりぎりでクリアするとすれば全病棟での実施は可能ですが、NSTなどのチーム医療や外来化学療法にも専任配置するには、

どうしても人員が不足しています。薬剤部本体の業務を維持する要員さえ確保できれば、各病棟に薬剤師1人の体制で病棟薬剤業務を実施したいと考えていますが、そのための人材育成が重要課題の一つです。

栗谷 市立豊中病院は病床数613床、12病棟の急性期病院です。薬剤師は正職員が21人、非常勤職員が16人で、このうち病棟業務の専任薬剤師は7~8人です。すべての病棟で薬剤管理指導業務を実施しており、全患者数の6~7割をカバーしています。この他に手術室、ICUでも医薬品管理を行っています。病棟薬剤業務については全病棟に専任者を配置し、しかも現在の薬剤管

理指導業務の算定件数を減らさないためには増員するしかありません。しかし、ここ10年来、市としては正職員の採用はむしろ減らす方向で、病院全体の正職員の規定数はすでに一杯です。非常勤職員を採用するにも、薬剤師の確保は難しいという事情もあり、加算の算定には至っていません。

久岡 育和会記念病院は、病床数265床で、うち急性期・亜急性期の病床が222床、療養病床が43床です。薬剤師数は14人、他にアシスタントと薬局事務が2人います。当院では、4月から病棟薬剤業務実施加算を算定しています。ただし、人員的には厳しい状態で、全員で協力して中央業務と病棟業務をこなしています。今年3人採用して14人になりましたが、以前のままだと各病棟の担当者5人、DI専任、外来がん化学療法専任、ICT専任を除くと調剤業務を行う薬剤師は2人だけという状況になっていたのです。現在も1日に1~2時間程度は病棟担当者が調剤業務をサポートしています。薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務のどちらもしっかりやろうとすれば、やはり1病棟に1.5人は必要だと考えています。

山本 実際に病棟薬剤業務を実施してからの薬剤師の反応はいかがですか。

久岡 当院はもともと病棟常駐に近い状態で、持参薬の鑑別からそれに基づく処方提案、処方のチェックなど病棟薬剤業務として規定されている業務のほとんどを行っていました。今回、病棟薬剤業務が始まったときには「今までやってきた内容と何が違うのか?」ということになり、薬剤管理指導業務との区分がかえって難しくなったということはあります。

山本 それでは、私から大阪警察病院の現状を紹介します。当院は580床で病床稼働率97%と非常に忙しい病院です。薬剤師は今年3人採用して36人になりました。当院は院外処方せんをほとんど発行しておらず、1日約900枚の外来処方せんの調剤をしているため、薬剤管理指導業務は全科平均で30%の実施率に留まっています。逆に言えば、病棟薬剤業務を実施することで薬剤管理指導業務も充実し、大幅な増収になることが見込めます。当院が病棟薬剤業務に着手するためには、二つの方策があります。一つは院外処方にする、もう一つは薬剤師を増員することです。院外処方せんの発行に関しては、地域住民のニーズを考慮するとすぐには難しい状況です。そこで、薬剤師を増員するために、綿密な試算を行い病院側に提案書を提出しました。来年度の算定開始を目標に準備を進めているところです。

■病棟薬剤業務で目指すものとその評価山本 病棟薬剤業務で目指すもの、あるいはそれによる効果はどのような部分が大きいと思いますか。

久岡 こんな例がありました。ある薬剤師が「患者さんの投与量がおかしいと思うのですが」と相談してきて、腎機能を見たら3倍の量が投与されていました。それをインシデントの会議で報告すると、それ以降、みんなが自分の患者さんの腎機能を計算して投与量を決めるように習慣化されました。これは医薬品の適正使用を推進するうえで非常に大切なことだと思います。

山本 薬剤師が病棟にいる大きなメリットは、そういうところにあるといえますね。

栗谷 病棟に常に薬剤師がいると、他職種も何か疑問があればすぐに質問することができます。一言声をかけるかどうかで、結果がまったく違ってくることもあります。薬の管理や調剤もそうですが、薬剤師の考え方の基本は安全対策です。薬だけではなくて、病棟での整理整頓から始まっていろいろなところに薬剤師のリスクセンスを活かすことができると思います。

山本 病院の経営面から見れば、病棟薬剤業務実施加算によるプラスの収入とともに、薬剤管理指導業務と組み合わせれば薬剤師の人件費は確保できます。それ以上に、医療事故による訴訟は経営的に莫大なマイナスになります。実際に医療訴訟が増えていることを考えると、訴訟リスクを低減するという意味でも病棟薬剤業務は評価できるのではないでしょうか。

西川 そうですね。よく聞くのは、病棟に常駐することで情報がダイレクトに集まるのでタイムラグがなく、ミスを早く発見できるという声です。病棟で起き

る薬剤関連のインシデントの比率は、5割とも8割とも言われています。それを早く、または未然に防ぐことができれば、その先の医療訴訟や患者さんにとっての不幸な出来事を回避できます。それは医療安全だけでなく、病院経営的にもかなり貢献できる部分だと思います。また、あまり知られていないことですが、病院は年間何千万円という保険料を支払っています。なにもなければ保険料は毎年下がりますが、トラブルがあったら倍に跳ね上がります。他にも訴訟にかかる費用や人件費なども考えたら膨大な額ですから、医療事故の防止は経済的にも大きな貢献になります。

山本 医療事故を未然に防いだことを数値で評価するのは難しいのですが、何かいい方法はないですか。

栗谷 やはりインシデントの件数が、薬剤師が関係したことによってどれだけ減ったかを押さえておく必要があります。病棟薬剤業務を客観的に評価するに当たって、医療安全は大きなポイントだと思うのです。病院の規模によっても、開設主体によっても異なるかもしれませんが、それぞれの施設で押さえておきたいですね。

久岡 当院では、処方提案を含めたインシデントデータの集積に力を入れています。例えば腎機能の悪化による薬剤変更の提案もインシデントと位置づけ、提案内容をオリジナルの書式に記録しています(資料2)。月に1回、インシデント会議を行い、提案や件数などを病棟毎に発表しているほか、学会などでも報告しています。

山本 実は今、当院と大阪薬科大学が評価方法の確立のために共同研究を進めています。厚生労働省に報告された明らかな副作用に関して、どれだけ医療費がかかったかをつぶさに把握し、薬剤師が関与することで減らすことができた医療費を算出できないかトライアルをしているところです。

■病棟薬剤業務の業務体制と課題山本 病棟薬剤業務実施加算を算定するための課題として、人員の確保と業務体制の構築があります。市立豊中病院では非常勤職員を活用されていますが、工夫されているのはどのような点ですか。

栗谷 非常勤だから能力的に劣ることはありませんし、やる気のある人もいます。ただ、1~2年間かけて育成をして、これから戦力として活躍してもらおうという時に辞めてしまうこともありますから、非常勤を積極的に病棟専任者とするかは判断が難しいところです。反対に、調剤業務を非常勤だけに任せられるかというと、それも難しい面があります。ただあまり理想ばかり言っていられませんから、体制を作って病棟薬剤業務の実施に向けて動き出さなければいけないと思います。動くに当たっては、まずどこに重きを置くかです。医師・看護師の業務軽減と

いうミッションはありますが、患者さんの安全をどれだけ守れるか、あるいは満足度を上げられるかが重要だと考えています。

山本 西川先生は業務体制の構築についてはどのようなお考えですか。

西川 理想は1病棟1.5人体制ですが、まずは1病棟1人から始めようと考えています。一般急性期であれば、薬剤師1人で担当できる患者さんは最大50人までです。それを超えるとやはり行き届かないことが出てきます。しかし、これまでは週に一回しか病棟に行けなかったのが、毎日常駐する状況になれば病棟業務の質はかなり上がってくると思います。

久岡 当院では病棟常駐化により薬剤管理指導業務の算定件数が増えました。というのは以前のように、病棟には行ったが患者さんが不在だったといったタイムロスがありませんし、初回面談は必ずできます。そういう意味では、常駐による業務の効率化が図られています。

■病棟薬剤業務に対応できる人材の育成山本 人材の育成も大きな課題ですが、先生方は病棟薬剤業務に必要な能力は何だと思われますか。

西川 基本的にはコミュニケーション能力ですが、処方支援をするためには解析能力は絶対に必要ですね。

久岡 これまでの薬剤管理指導であれば、基本的には患者さんからの訴えや問いかけに対して答える能力が必要だったわけです。しかし、病棟薬剤業務においては、会話ができない患者さんも対象になりますから観察能力が必要になります。毎日患者さんを観察して、顔色や手を触ったときの張り、むくみの状態などを調べるというプラスアルファの部分がこれからは必要だと思います。ただし薬物療法の知識だけが先行すると、薬剤師がプチドクター化してしまいます。それは看護師にも言えますから、みんなが同じ方向から見てしまうことになります。医師とも看護師とも違う、薬剤師ならではの視点で患者さんと向き合い、収集した情報と薬学の知識を融合させる力が必要です。

栗谷 今までは専門薬剤師の育成が重要視されてきました。それは間違いではありませんが、ゼネラリストとしての基本的な訓練を怠ってきたのではないでしょうか。特に最近では、新しい抗がん剤や文献もあまりない薬物療法なども登場する中で、幅広い情報を持っていなければ対応できない例が増えています。もう一度薬剤師に必要なスキルは何かを考え直す時に来ていると感じます。

山本 その点、6年制課程を修了した薬剤師は臨床に則した問題解決型のトレーニングなどをしているのではないのでしょうか。

久岡 例えば病棟に連れていって「これはこうなのだよ」と言ったときに、「教科書のあのページに出ていた」と、情報を引き出してくる力を持っています。即戦力とまではいきませんが、現場でトレーニングしていけば、蓄積してきた知識や情報を活用する力はありますから成長は早いのではないでしょうか。また、それを促すためにも病棟業務の面白さを早く体験させ、うまく能力を伸ばしていくことが私たちの努めだと思うのです。

山本 4年制課程を卒業したわれわれが、自分たちに何が足りないのかを真摯に振り返って明らかにし、きちんと病棟薬剤業務を体系づけていけば、6年制課程の薬学教育を受けた薬剤師は先輩たちの背中を見て成長できると思います。私は、薬剤師にこれから必要なのは、サイエンスする能力だと思うのです。今までの業務は先輩のまねをしたり参考にすればできることが多かった。ところが一歩進んだ処方提案をしようと思うと、発生した事象を深く見つめ、より真実に近づいていく能力が必要になります。それはとりもなおさず「科学する力」なのです。薬剤師が大学でずっとトレーニングしてきた能力を、もっと伸ばさなければいけないと思います。

■病棟薬剤業務の今後の展望山本 これから病棟薬剤業務が定着し充実していけば、薬剤

師が処方を設計して医師に相談、提案することは増えます。特に今後、CDTM(共同薬物治療管理業務)のように医師との契約に基づいて薬剤師が処方をオーダーするようになったら、薬剤師はその内容に責任を持てるでしょうか。

西川 責任を取らなければいけない時代が来るでしょうね。自分の言葉の重みを知っておかなければいけないと思います。また、責任に対する教育も必要になりますね。

栗谷 それについては、今後法的整備が必要になります。また見方を変えれば、それだけ薬剤師は評価を受けていいはずだと思うのです。

山本 現在は病棟薬剤業務は医師の業務軽減が大きな目的となっていますが、薬剤師がその能力を発揮すればするほど医師は薬のことは薬剤師に任せるようになり、当然薬剤師の責任も重くなります。これからの薬剤師は法的責任に耐える覚悟を持たなければいけないということです。では最後に、今後の展望、それぞれの考える病棟薬剤業務の理想像をひと言ずつお願いします。

西川 高槻病院は昨年後半から約5年間かけて全面建て替えを行っているところです。これを機に、地域医療に貢献する新しい病院に相応しい薬剤部を作っていきたいと思います。すべての病棟に薬剤師を配置し、患者さんの安全に責任の持てる病棟業務を確立するとともに、薬剤師が働きやすい環境を整備したいと思います。

久岡 患者さんに「あの薬剤師に会えてよかった」と言ってもらえる薬剤師であるためには、薬剤師自身が幸せでなければいけないと思うのです。薬剤師としての仕事も充実し、自分自身の人生が幸せだと思える生活を、みんなが築いていけるような薬剤部でありたいと思っています。

栗谷 薬剤師はマニュアルどおりに何かをするのは比較的得意です。ですから病棟での安全管理においてはしっかりその役割を果たせると思います。逆に、これは仕事だけに限りませんが、考えることが苦手な薬剤師が多いのです。これからはいろいろな経験を通して、自ら考え、仕事を創造できる薬剤師の育成を目標にしたいと思います。

山本 薬剤師には単に医療人としてだけでなく、人として成長していこうという意識を持ってもらいたいと思います。薬剤部長としての私の仕事は、人を成長させることのできる職場環境を整備することであり、今回の病棟薬剤業務実施加算はそのためのツールの一つが手に入ったという思いがします。2025年における病院薬剤師像を、希望を持って思い描くためにも、病棟薬剤業務を大切に育てていきたいと思います。本日は、意義深い議論をありがとうございました。

 2012年度の診療報酬改定は、「社会保障・税一体改革成案」(2011年6月)に沿って、2025年における医療・介護のあるべき姿を見据えつつ、病院・病床機能の分化・集約化と連携強化、居住系・在宅サービスの拡充、地域包括ケアシステムの構築に向けた第一歩と位置づけられています(資料1)。この大きな流れの中で、薬剤師はどのような役割を果たしていくべきかを考えていかなければなりません。「薬剤管理指導業務」が保険薬局を含めて大きく広がってきたように、新設された「病棟薬剤業務実施加算」も、今後、発展、充実していくことは間違いないでしょう。本日の座談会では、病院の開設主体や機能の違いも踏まえながら、これからの病棟薬剤業務はいかにあるべきか、薬剤師にはどのようなスキルが必要かを討議したいと思います。

座談会開催にあたって [司会] 大阪警察病院 薬剤部長 山本 克己 先生2025年の医療・介護 「社会保障・税一体改革成案」より資料1

処方変更・提案 報告書(育和会記念病院)資料2

介護療養病床

高度急性期

一般急性期

亜急性期等

長期療養

介護施設

居住系サービス

在宅サービス

○居住系�在宅�����更��拡充

��

○機能分化�徹底�連携�更��強化

療養病床 (23万床)

一般病床 (107万床)

【2011(H23)年】 【2025(H37)年】 【2015(H27)年】

(高度急性期)

(一般急性期)

(亜急性期等)

医療・介護の基盤整備・再編のための集中的・計画的な投資

介護療養病床

介護施設 (92万人分)

居住系サービス (31万人分)

在宅サービス

介護保険法改正法案 地域包括ケアに向けた取組

○介護療養廃止6年(2017(H29) 年度末まで)猶予 ○24時間巡回型サービス ○介護職員による喀痰吸引 など

医療提供体制改革の課題 医療機能分化の推進

○急性期強化、リハ機能等の確 保・強化など機能分化・強化 ○在宅医療の計画的整備 ○医師確保策の強化 など

報酬同時改定(2012)の課題 医療・介護の連携強化

○入院~在宅に亘る連携強化 ○慢性期対応の医療・介護サービスの確保 ○在宅医療・訪問看護の充実 など

地域�密着��病床��対応

一般病床 長期療養 (医療療養等)

介護施設 居住系サービス

在宅サービス

○ 病院・病床機能の役割分担を通じてより効果的・効率的な提供体制を構築するため、「高度急性期」、「一般急性期」、「亜急性期」など、ニーズに合わせた機能分化・集約化と連携強化を図る。併せて、地域の実情に応じて幅広い医療を担う機能も含めて、新たな体制を段階的に構築する。医療機能の分化・強化と効率化の推進によって、高齢化に伴い増大するニーズに対応しつつ、概ね現行の病床数レベルの下でより高機能の体制構築を目指す。 ○ 医療ニーズの状態像により、医療・介護サービスの適切な機能分担をするとともに、居住系、在宅サービスを充実する。

�施設����地域����医療����介護��

将来像に向けての医療・介護機能再編の方向性イメージ

3 出所:社会保障改革に関する集中検討会議資料 2011年5月19日

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発行月 : 平成24年9月発行発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

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ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

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これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

大阪警察病院 薬剤部長山本 克己 先生社会医療法人愛仁会 高槻病院 薬剤部西川 直樹 先生市立豊中病院 薬剤部長栗谷 良孝 先生医療法人育和会 育和会記念病院 副薬剤部長久岡 清子 先生

[司会]

(発言順)

大阪警察病院 薬剤部長

やま もと  かつ  み

山本 克己 先生(司会)

医療法人育和会 育和会記念病院副薬剤部長

ひさ おか  きよ  こ

久岡 清子 先生市立豊中病院 薬剤部長

くり たに  よし たか

栗谷 良孝 先生社会医療法人愛仁会 高槻病院

薬剤部

にし かわ  なお  き

西川 直樹 先生

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座談会

座談会

■各施設における病棟薬剤業務の現状山本 最初に、各施設における病棟薬剤業務の現状についてご紹介していただきたいと思います。高槻病院の西川先生から順にお願いします。

西川 高槻病院は病床数477床、14病棟で、薬剤師は21人です。薬剤管理指導業務は全病棟で実施していますが、病棟薬剤業務については現在2病棟に留まっています。1週間20時間の要件をぎりぎりでクリアするとすれば全病棟での実施は可能ですが、NSTなどのチーム医療や外来化学療法にも専任配置するには、

どうしても人員が不足しています。薬剤部本体の業務を維持する要員さえ確保できれば、各病棟に薬剤師1人の体制で病棟薬剤業務を実施したいと考えていますが、そのための人材育成が重要課題の一つです。

栗谷 市立豊中病院は病床数613床、12病棟の急性期病院です。薬剤師は正職員が21人、非常勤職員が16人で、このうち病棟業務の専任薬剤師は7~8人です。すべての病棟で薬剤管理指導業務を実施しており、全患者数の6~7割をカバーしています。この他に手術室、ICUでも医薬品管理を行っています。病棟薬剤業務については全病棟に専任者を配置し、しかも現在の薬剤管

理指導業務の算定件数を減らさないためには増員するしかありません。しかし、ここ10年来、市としては正職員の採用はむしろ減らす方向で、病院全体の正職員の規定数はすでに一杯です。非常勤職員を採用するにも、薬剤師の確保は難しいという事情もあり、加算の算定には至っていません。

久岡 育和会記念病院は、病床数265床で、うち急性期・亜急性期の病床が222床、療養病床が43床です。薬剤師数は14人、他にアシスタントと薬局事務が2人います。当院では、4月から病棟薬剤業務実施加算を算定しています。ただし、人員的には厳しい状態で、全員で協力して中央業務と病棟業務をこなしています。今年3人採用して14人になりましたが、以前のままだと各病棟の担当者5人、DI専任、外来がん化学療法専任、ICT専任を除くと調剤業務を行う薬剤師は2人だけという状況になっていたのです。現在も1日に1~2時間程度は病棟担当者が調剤業務をサポートしています。薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務のどちらもしっかりやろうとすれば、やはり1病棟に1.5人は必要だと考えています。

山本 実際に病棟薬剤業務を実施してからの薬剤師の反応はいかがですか。

久岡 当院はもともと病棟常駐に近い状態で、持参薬の鑑別からそれに基づく処方提案、処方のチェックなど病棟薬剤業務として規定されている業務のほとんどを行っていました。今回、病棟薬剤業務が始まったときには「今までやってきた内容と何が違うのか?」ということになり、薬剤管理指導業務との区分がかえって難しくなったということはあります。

山本 それでは、私から大阪警察病院の現状を紹介します。当院は580床で病床稼働率97%と非常に忙しい病院です。薬剤師は今年3人採用して36人になりました。当院は院外処方せんをほとんど発行しておらず、1日約900枚の外来処方せんの調剤をしているため、薬剤管理指導業務は全科平均で30%の実施率に留まっています。逆に言えば、病棟薬剤業務を実施することで薬剤管理指導業務も充実し、大幅な増収になることが見込めます。当院が病棟薬剤業務に着手するためには、二つの方策があります。一つは院外処方にする、もう一つは薬剤師を増員することです。院外処方せんの発行に関しては、地域住民のニーズを考慮するとすぐには難しい状況です。そこで、薬剤師を増員するために、綿密な試算を行い病院側に提案書を提出しました。来年度の算定開始を目標に準備を進めているところです。

■病棟薬剤業務で目指すものとその評価山本 病棟薬剤業務で目指すもの、あるいはそれによる効果はどのような部分が大きいと思いますか。

久岡 こんな例がありました。ある薬剤師が「患者さんの投与量がおかしいと思うのですが」と相談してきて、腎機能を見たら3倍の量が投与されていました。それをインシデントの会議で報告すると、それ以降、みんなが自分の患者さんの腎機能を計算して投与量を決めるように習慣化されました。これは医薬品の適正使用を推進するうえで非常に大切なことだと思います。

山本 薬剤師が病棟にいる大きなメリットは、そういうところにあるといえますね。

栗谷 病棟に常に薬剤師がいると、他職種も何か疑問があればすぐに質問することができます。一言声をかけるかどうかで、結果がまったく違ってくることもあります。薬の管理や調剤もそうですが、薬剤師の考え方の基本は安全対策です。薬だけではなくて、病棟での整理整頓から始まっていろいろなところに薬剤師のリスクセンスを活かすことができると思います。

山本 病院の経営面から見れば、病棟薬剤業務実施加算によるプラスの収入とともに、薬剤管理指導業務と組み合わせれば薬剤師の人件費は確保できます。それ以上に、医療事故による訴訟は経営的に莫大なマイナスになります。実際に医療訴訟が増えていることを考えると、訴訟リスクを低減するという意味でも病棟薬剤業務は評価できるのではないでしょうか。

西川 そうですね。よく聞くのは、病棟に常駐することで情報がダイレクトに集まるのでタイムラグがなく、ミスを早く発見できるという声です。病棟で起き

る薬剤関連のインシデントの比率は、5割とも8割とも言われています。それを早く、または未然に防ぐことができれば、その先の医療訴訟や患者さんにとっての不幸な出来事を回避できます。それは医療安全だけでなく、病院経営的にもかなり貢献できる部分だと思います。また、あまり知られていないことですが、病院は年間何千万円という保険料を支払っています。なにもなければ保険料は毎年下がりますが、トラブルがあったら倍に跳ね上がります。他にも訴訟にかかる費用や人件費なども考えたら膨大な額ですから、医療事故の防止は経済的にも大きな貢献になります。

山本 医療事故を未然に防いだことを数値で評価するのは難しいのですが、何かいい方法はないですか。

栗谷 やはりインシデントの件数が、薬剤師が関係したことによってどれだけ減ったかを押さえておく必要があります。病棟薬剤業務を客観的に評価するに当たって、医療安全は大きなポイントだと思うのです。病院の規模によっても、開設主体によっても異なるかもしれませんが、それぞれの施設で押さえておきたいですね。

久岡 当院では、処方提案を含めたインシデントデータの集積に力を入れています。例えば腎機能の悪化による薬剤変更の提案もインシデントと位置づけ、提案内容をオリジナルの書式に記録しています(資料2)。月に1回、インシデント会議を行い、提案や件数などを病棟毎に発表しているほか、学会などでも報告しています。

山本 実は今、当院と大阪薬科大学が評価方法の確立のために共同研究を進めています。厚生労働省に報告された明らかな副作用に関して、どれだけ医療費がかかったかをつぶさに把握し、薬剤師が関与することで減らすことができた医療費を算出できないかトライアルをしているところです。

■病棟薬剤業務の業務体制と課題山本 病棟薬剤業務実施加算を算定するための課題として、人員の確保と業務体制の構築があります。市立豊中病院では非常勤職員を活用されていますが、工夫されているのはどのような点ですか。

栗谷 非常勤だから能力的に劣ることはありませんし、やる気のある人もいます。ただ、1~2年間かけて育成をして、これから戦力として活躍してもらおうという時に辞めてしまうこともありますから、非常勤を積極的に病棟専任者とするかは判断が難しいところです。反対に、調剤業務を非常勤だけに任せられるかというと、それも難しい面があります。ただあまり理想ばかり言っていられませんから、体制を作って病棟薬剤業務の実施に向けて動き出さなければいけないと思います。動くに当たっては、まずどこに重きを置くかです。医師・看護師の業務軽減と

いうミッションはありますが、患者さんの安全をどれだけ守れるか、あるいは満足度を上げられるかが重要だと考えています。

山本 西川先生は業務体制の構築についてはどのようなお考えですか。

西川 理想は1病棟1.5人体制ですが、まずは1病棟1人から始めようと考えています。一般急性期であれば、薬剤師1人で担当できる患者さんは最大50人までです。それを超えるとやはり行き届かないことが出てきます。しかし、これまでは週に一回しか病棟に行けなかったのが、毎日常駐する状況になれば病棟業務の質はかなり上がってくると思います。

久岡 当院では病棟常駐化により薬剤管理指導業務の算定件数が増えました。というのは以前のように、病棟には行ったが患者さんが不在だったといったタイムロスがありませんし、初回面談は必ずできます。そういう意味では、常駐による業務の効率化が図られています。

■病棟薬剤業務に対応できる人材の育成山本 人材の育成も大きな課題ですが、先生方は病棟薬剤業務に必要な能力は何だと思われますか。

西川 基本的にはコミュニケーション能力ですが、処方支援をするためには解析能力は絶対に必要ですね。

久岡 これまでの薬剤管理指導であれば、基本的には患者さんからの訴えや問いかけに対して答える能力が必要だったわけです。しかし、病棟薬剤業務においては、会話ができない患者さんも対象になりますから観察能力が必要になります。毎日患者さんを観察して、顔色や手を触ったときの張り、むくみの状態などを調べるというプラスアルファの部分がこれからは必要だと思います。ただし薬物療法の知識だけが先行すると、薬剤師がプチドクター化してしまいます。それは看護師にも言えますから、みんなが同じ方向から見てしまうことになります。医師とも看護師とも違う、薬剤師ならではの視点で患者さんと向き合い、収集した情報と薬学の知識を融合させる力が必要です。

栗谷 今までは専門薬剤師の育成が重要視されてきました。それは間違いではありませんが、ゼネラリストとしての基本的な訓練を怠ってきたのではないでしょうか。特に最近では、新しい抗がん剤や文献もあまりない薬物療法なども登場する中で、幅広い情報を持っていなければ対応できない例が増えています。もう一度薬剤師に必要なスキルは何かを考え直す時に来ていると感じます。

山本 その点、6年制課程を修了した薬剤師は臨床に則した問題解決型のトレーニングなどをしているのではないのでしょうか。

久岡 例えば病棟に連れていって「これはこうなのだよ」と言ったときに、「教科書のあのページに出ていた」と、情報を引き出してくる力を持っています。即戦力とまではいきませんが、現場でトレーニングしていけば、蓄積してきた知識や情報を活用する力はありますから成長は早いのではないでしょうか。また、それを促すためにも病棟業務の面白さを早く体験させ、うまく能力を伸ばしていくことが私たちの努めだと思うのです。

山本 4年制課程を卒業したわれわれが、自分たちに何が足りないのかを真摯に振り返って明らかにし、きちんと病棟薬剤業務を体系づけていけば、6年制課程の薬学教育を受けた薬剤師は先輩たちの背中を見て成長できると思います。私は、薬剤師にこれから必要なのは、サイエンスする能力だと思うのです。今までの業務は先輩のまねをしたり参考にすればできることが多かった。ところが一歩進んだ処方提案をしようと思うと、発生した事象を深く見つめ、より真実に近づいていく能力が必要になります。それはとりもなおさず「科学する力」なのです。薬剤師が大学でずっとトレーニングしてきた能力を、もっと伸ばさなければいけないと思います。

■病棟薬剤業務の今後の展望山本 これから病棟薬剤業務が定着し充実していけば、薬剤

師が処方を設計して医師に相談、提案することは増えます。特に今後、CDTM(共同薬物治療管理業務)のように医師との契約に基づいて薬剤師が処方をオーダーするようになったら、薬剤師はその内容に責任を持てるでしょうか。

西川 責任を取らなければいけない時代が来るでしょうね。自分の言葉の重みを知っておかなければいけないと思います。また、責任に対する教育も必要になりますね。

栗谷 それについては、今後法的整備が必要になります。また見方を変えれば、それだけ薬剤師は評価を受けていいはずだと思うのです。

山本 現在は病棟薬剤業務は医師の業務軽減が大きな目的となっていますが、薬剤師がその能力を発揮すればするほど医師は薬のことは薬剤師に任せるようになり、当然薬剤師の責任も重くなります。これからの薬剤師は法的責任に耐える覚悟を持たなければいけないということです。では最後に、今後の展望、それぞれの考える病棟薬剤業務の理想像をひと言ずつお願いします。

西川 高槻病院は昨年後半から約5年間かけて全面建て替えを行っているところです。これを機に、地域医療に貢献する新しい病院に相応しい薬剤部を作っていきたいと思います。すべての病棟に薬剤師を配置し、患者さんの安全に責任の持てる病棟業務を確立するとともに、薬剤師が働きやすい環境を整備したいと思います。

久岡 患者さんに「あの薬剤師に会えてよかった」と言ってもらえる薬剤師であるためには、薬剤師自身が幸せでなければいけないと思うのです。薬剤師としての仕事も充実し、自分自身の人生が幸せだと思える生活を、みんなが築いていけるような薬剤部でありたいと思っています。

栗谷 薬剤師はマニュアルどおりに何かをするのは比較的得意です。ですから病棟での安全管理においてはしっかりその役割を果たせると思います。逆に、これは仕事だけに限りませんが、考えることが苦手な薬剤師が多いのです。これからはいろいろな経験を通して、自ら考え、仕事を創造できる薬剤師の育成を目標にしたいと思います。

山本 薬剤師には単に医療人としてだけでなく、人として成長していこうという意識を持ってもらいたいと思います。薬剤部長としての私の仕事は、人を成長させることのできる職場環境を整備することであり、今回の病棟薬剤業務実施加算はそのためのツールの一つが手に入ったという思いがします。2025年における病院薬剤師像を、希望を持って思い描くためにも、病棟薬剤業務を大切に育てていきたいと思います。本日は、意義深い議論をありがとうございました。

 2012年度の診療報酬改定は、「社会保障・税一体改革成案」(2011年6月)に沿って、2025年における医療・介護のあるべき姿を見据えつつ、病院・病床機能の分化・集約化と連携強化、居住系・在宅サービスの拡充、地域包括ケアシステムの構築に向けた第一歩と位置づけられています(資料1)。この大きな流れの中で、薬剤師はどのような役割を果たしていくべきかを考えていかなければなりません。「薬剤管理指導業務」が保険薬局を含めて大きく広がってきたように、新設された「病棟薬剤業務実施加算」も、今後、発展、充実していくことは間違いないでしょう。本日の座談会では、病院の開設主体や機能の違いも踏まえながら、これからの病棟薬剤業務はいかにあるべきか、薬剤師にはどのようなスキルが必要かを討議したいと思います。

座談会開催にあたって [司会] 大阪警察病院 薬剤部長 山本 克己 先生2025年の医療・介護 「社会保障・税一体改革成案」より資料1

処方変更・提案 報告書(育和会記念病院)資料2

介護療養病床

高度急性期

一般急性期

亜急性期等

長期療養

介護施設

居住系サービス

在宅サービス

○居住系�在宅�����更��拡充

��

○機能分化�徹底�連携�更��強化

療養病床 (23万床)

一般病床 (107万床)

【2011(H23)年】 【2025(H37)年】 【2015(H27)年】

(高度急性期)

(一般急性期)

(亜急性期等)

医療・介護の基盤整備・再編のための集中的・計画的な投資

介護療養病床

介護施設 (92万人分)

居住系サービス (31万人分)

在宅サービス

介護保険法改正法案 地域包括ケアに向けた取組

○介護療養廃止6年(2017(H29) 年度末まで)猶予 ○24時間巡回型サービス ○介護職員による喀痰吸引 など

医療提供体制改革の課題 医療機能分化の推進

○急性期強化、リハ機能等の確 保・強化など機能分化・強化 ○在宅医療の計画的整備 ○医師確保策の強化 など

報酬同時改定(2012)の課題 医療・介護の連携強化

○入院~在宅に亘る連携強化 ○慢性期対応の医療・介護サービスの確保 ○在宅医療・訪問看護の充実 など

地域�密着��病床��対応

一般病床 長期療養 (医療療養等)

介護施設 居住系サービス

在宅サービス

○ 病院・病床機能の役割分担を通じてより効果的・効率的な提供体制を構築するため、「高度急性期」、「一般急性期」、「亜急性期」など、ニーズに合わせた機能分化・集約化と連携強化を図る。併せて、地域の実情に応じて幅広い医療を担う機能も含めて、新たな体制を段階的に構築する。医療機能の分化・強化と効率化の推進によって、高齢化に伴い増大するニーズに対応しつつ、概ね現行の病床数レベルの下でより高機能の体制構築を目指す。 ○ 医療ニーズの状態像により、医療・介護サービスの適切な機能分担をするとともに、居住系、在宅サービスを充実する。

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将来像に向けての医療・介護機能再編の方向性イメージ

3 出所:社会保障改革に関する集中検討会議資料 2011年5月19日

Page 3: これからの病棟業務は発行月 : 平成24年9月発行 発 行 : 田辺三菱製薬株式会社 〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18 お問い合せ先 : 営業推進部

発行月 : 平成24年9月発行発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

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特別号 大阪府版

特別号 大阪府版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

大阪警察病院 薬剤部長山本 克己 先生社会医療法人愛仁会 高槻病院 薬剤部西川 直樹 先生市立豊中病院 薬剤部長栗谷 良孝 先生医療法人育和会 育和会記念病院 副薬剤部長久岡 清子 先生

[司会]

(発言順)

大阪警察病院 薬剤部長

やま もと  かつ  み

山本 克己 先生(司会)

医療法人育和会 育和会記念病院副薬剤部長

ひさ おか  きよ  こ

久岡 清子 先生市立豊中病院 薬剤部長

くり たに  よし たか

栗谷 良孝 先生社会医療法人愛仁会 高槻病院

薬剤部

にし かわ  なお  き

西川 直樹 先生

特別号 大阪府版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■各施設における病棟薬剤業務の現状山本 最初に、各施設における病棟薬剤業務の現状についてご紹介していただきたいと思います。高槻病院の西川先生から順にお願いします。

西川 高槻病院は病床数477床、14病棟で、薬剤師は21人です。薬剤管理指導業務は全病棟で実施していますが、病棟薬剤業務については現在2病棟に留まっています。1週間20時間の要件をぎりぎりでクリアするとすれば全病棟での実施は可能ですが、NSTなどのチーム医療や外来化学療法にも専任配置するには、

どうしても人員が不足しています。薬剤部本体の業務を維持する要員さえ確保できれば、各病棟に薬剤師1人の体制で病棟薬剤業務を実施したいと考えていますが、そのための人材育成が重要課題の一つです。

栗谷 市立豊中病院は病床数613床、12病棟の急性期病院です。薬剤師は正職員が21人、非常勤職員が16人で、このうち病棟業務の専任薬剤師は7~8人です。すべての病棟で薬剤管理指導業務を実施しており、全患者数の6~7割をカバーしています。この他に手術室、ICUでも医薬品管理を行っています。病棟薬剤業務については全病棟に専任者を配置し、しかも現在の薬剤管

理指導業務の算定件数を減らさないためには増員するしかありません。しかし、ここ10年来、市としては正職員の採用はむしろ減らす方向で、病院全体の正職員の規定数はすでに一杯です。非常勤職員を採用するにも、薬剤師の確保は難しいという事情もあり、加算の算定には至っていません。

久岡 育和会記念病院は、病床数265床で、うち急性期・亜急性期の病床が222床、療養病床が43床です。薬剤師数は14人、他にアシスタントと薬局事務が2人います。当院では、4月から病棟薬剤業務実施加算を算定しています。ただし、人員的には厳しい状態で、全員で協力して中央業務と病棟業務をこなしています。今年3人採用して14人になりましたが、以前のままだと各病棟の担当者5人、DI専任、外来がん化学療法専任、ICT専任を除くと調剤業務を行う薬剤師は2人だけという状況になっていたのです。現在も1日に1~2時間程度は病棟担当者が調剤業務をサポートしています。薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務のどちらもしっかりやろうとすれば、やはり1病棟に1.5人は必要だと考えています。

山本 実際に病棟薬剤業務を実施してからの薬剤師の反応はいかがですか。

久岡 当院はもともと病棟常駐に近い状態で、持参薬の鑑別からそれに基づく処方提案、処方のチェックなど病棟薬剤業務として規定されている業務のほとんどを行っていました。今回、病棟薬剤業務が始まったときには「今までやってきた内容と何が違うのか?」ということになり、薬剤管理指導業務との区分がかえって難しくなったということはあります。

山本 それでは、私から大阪警察病院の現状を紹介します。当院は580床で病床稼働率97%と非常に忙しい病院です。薬剤師は今年3人採用して36人になりました。当院は院外処方せんをほとんど発行しておらず、1日約900枚の外来処方せんの調剤をしているため、薬剤管理指導業務は全科平均で30%の実施率に留まっています。逆に言えば、病棟薬剤業務を実施することで薬剤管理指導業務も充実し、大幅な増収になることが見込めます。当院が病棟薬剤業務に着手するためには、二つの方策があります。一つは院外処方にする、もう一つは薬剤師を増員することです。院外処方せんの発行に関しては、地域住民のニーズを考慮するとすぐには難しい状況です。そこで、薬剤師を増員するために、綿密な試算を行い病院側に提案書を提出しました。来年度の算定開始を目標に準備を進めているところです。

■病棟薬剤業務で目指すものとその評価山本 病棟薬剤業務で目指すもの、あるいはそれによる効果はどのような部分が大きいと思いますか。

久岡 こんな例がありました。ある薬剤師が「患者さんの投与量がおかしいと思うのですが」と相談してきて、腎機能を見たら3倍の量が投与されていました。それをインシデントの会議で報告すると、それ以降、みんなが自分の患者さんの腎機能を計算して投与量を決めるように習慣化されました。これは医薬品の適正使用を推進するうえで非常に大切なことだと思います。

山本 薬剤師が病棟にいる大きなメリットは、そういうところにあるといえますね。

栗谷 病棟に常に薬剤師がいると、他職種も何か疑問があればすぐに質問することができます。一言声をかけるかどうかで、結果がまったく違ってくることもあります。薬の管理や調剤もそうですが、薬剤師の考え方の基本は安全対策です。薬だけではなくて、病棟での整理整頓から始まっていろいろなところに薬剤師のリスクセンスを活かすことができると思います。

山本 病院の経営面から見れば、病棟薬剤業務実施加算によるプラスの収入とともに、薬剤管理指導業務と組み合わせれば薬剤師の人件費は確保できます。それ以上に、医療事故による訴訟は経営的に莫大なマイナスになります。実際に医療訴訟が増えていることを考えると、訴訟リスクを低減するという意味でも病棟薬剤業務は評価できるのではないでしょうか。

西川 そうですね。よく聞くのは、病棟に常駐することで情報がダイレクトに集まるのでタイムラグがなく、ミスを早く発見できるという声です。病棟で起き

る薬剤関連のインシデントの比率は、5割とも8割とも言われています。それを早く、または未然に防ぐことができれば、その先の医療訴訟や患者さんにとっての不幸な出来事を回避できます。それは医療安全だけでなく、病院経営的にもかなり貢献できる部分だと思います。また、あまり知られていないことですが、病院は年間何千万円という保険料を支払っています。なにもなければ保険料は毎年下がりますが、トラブルがあったら倍に跳ね上がります。他にも訴訟にかかる費用や人件費なども考えたら膨大な額ですから、医療事故の防止は経済的にも大きな貢献になります。

山本 医療事故を未然に防いだことを数値で評価するのは難しいのですが、何かいい方法はないですか。

栗谷 やはりインシデントの件数が、薬剤師が関係したことによってどれだけ減ったかを押さえておく必要があります。病棟薬剤業務を客観的に評価するに当たって、医療安全は大きなポイントだと思うのです。病院の規模によっても、開設主体によっても異なるかもしれませんが、それぞれの施設で押さえておきたいですね。

久岡 当院では、処方提案を含めたインシデントデータの集積に力を入れています。例えば腎機能の悪化による薬剤変更の提案もインシデントと位置づけ、提案内容をオリジナルの書式に記録しています(資料2)。月に1回、インシデント会議を行い、提案や件数などを病棟毎に発表しているほか、学会などでも報告しています。

山本 実は今、当院と大阪薬科大学が評価方法の確立のために共同研究を進めています。厚生労働省に報告された明らかな副作用に関して、どれだけ医療費がかかったかをつぶさに把握し、薬剤師が関与することで減らすことができた医療費を算出できないかトライアルをしているところです。

■病棟薬剤業務の業務体制と課題山本 病棟薬剤業務実施加算を算定するための課題として、人員の確保と業務体制の構築があります。市立豊中病院では非常勤職員を活用されていますが、工夫されているのはどのような点ですか。

栗谷 非常勤だから能力的に劣ることはありませんし、やる気のある人もいます。ただ、1~2年間かけて育成をして、これから戦力として活躍してもらおうという時に辞めてしまうこともありますから、非常勤を積極的に病棟専任者とするかは判断が難しいところです。反対に、調剤業務を非常勤だけに任せられるかというと、それも難しい面があります。ただあまり理想ばかり言っていられませんから、体制を作って病棟薬剤業務の実施に向けて動き出さなければいけないと思います。動くに当たっては、まずどこに重きを置くかです。医師・看護師の業務軽減と

いうミッションはありますが、患者さんの安全をどれだけ守れるか、あるいは満足度を上げられるかが重要だと考えています。

山本 西川先生は業務体制の構築についてはどのようなお考えですか。

西川 理想は1病棟1.5人体制ですが、まずは1病棟1人から始めようと考えています。一般急性期であれば、薬剤師1人で担当できる患者さんは最大50人までです。それを超えるとやはり行き届かないことが出てきます。しかし、これまでは週に一回しか病棟に行けなかったのが、毎日常駐する状況になれば病棟業務の質はかなり上がってくると思います。

久岡 当院では病棟常駐化により薬剤管理指導業務の算定件数が増えました。というのは以前のように、病棟には行ったが患者さんが不在だったといったタイムロスがありませんし、初回面談は必ずできます。そういう意味では、常駐による業務の効率化が図られています。

■病棟薬剤業務に対応できる人材の育成山本 人材の育成も大きな課題ですが、先生方は病棟薬剤業務に必要な能力は何だと思われますか。

西川 基本的にはコミュニケーション能力ですが、処方支援をするためには解析能力は絶対に必要ですね。

久岡 これまでの薬剤管理指導であれば、基本的には患者さんからの訴えや問いかけに対して答える能力が必要だったわけです。しかし、病棟薬剤業務においては、会話ができない患者さんも対象になりますから観察能力が必要になります。毎日患者さんを観察して、顔色や手を触ったときの張り、むくみの状態などを調べるというプラスアルファの部分がこれからは必要だと思います。ただし薬物療法の知識だけが先行すると、薬剤師がプチドクター化してしまいます。それは看護師にも言えますから、みんなが同じ方向から見てしまうことになります。医師とも看護師とも違う、薬剤師ならではの視点で患者さんと向き合い、収集した情報と薬学の知識を融合させる力が必要です。

栗谷 今までは専門薬剤師の育成が重要視されてきました。それは間違いではありませんが、ゼネラリストとしての基本的な訓練を怠ってきたのではないでしょうか。特に最近では、新しい抗がん剤や文献もあまりない薬物療法なども登場する中で、幅広い情報を持っていなければ対応できない例が増えています。もう一度薬剤師に必要なスキルは何かを考え直す時に来ていると感じます。

山本 その点、6年制課程を修了した薬剤師は臨床に則した問題解決型のトレーニングなどをしているのではないのでしょうか。

久岡 例えば病棟に連れていって「これはこうなのだよ」と言ったときに、「教科書のあのページに出ていた」と、情報を引き出してくる力を持っています。即戦力とまではいきませんが、現場でトレーニングしていけば、蓄積してきた知識や情報を活用する力はありますから成長は早いのではないでしょうか。また、それを促すためにも病棟業務の面白さを早く体験させ、うまく能力を伸ばしていくことが私たちの努めだと思うのです。

山本 4年制課程を卒業したわれわれが、自分たちに何が足りないのかを真摯に振り返って明らかにし、きちんと病棟薬剤業務を体系づけていけば、6年制課程の薬学教育を受けた薬剤師は先輩たちの背中を見て成長できると思います。私は、薬剤師にこれから必要なのは、サイエンスする能力だと思うのです。今までの業務は先輩のまねをしたり参考にすればできることが多かった。ところが一歩進んだ処方提案をしようと思うと、発生した事象を深く見つめ、より真実に近づいていく能力が必要になります。それはとりもなおさず「科学する力」なのです。薬剤師が大学でずっとトレーニングしてきた能力を、もっと伸ばさなければいけないと思います。

■病棟薬剤業務の今後の展望山本 これから病棟薬剤業務が定着し充実していけば、薬剤

師が処方を設計して医師に相談、提案することは増えます。特に今後、CDTM(共同薬物治療管理業務)のように医師との契約に基づいて薬剤師が処方をオーダーするようになったら、薬剤師はその内容に責任を持てるでしょうか。

西川 責任を取らなければいけない時代が来るでしょうね。自分の言葉の重みを知っておかなければいけないと思います。また、責任に対する教育も必要になりますね。

栗谷 それについては、今後法的整備が必要になります。また見方を変えれば、それだけ薬剤師は評価を受けていいはずだと思うのです。

山本 現在は病棟薬剤業務は医師の業務軽減が大きな目的となっていますが、薬剤師がその能力を発揮すればするほど医師は薬のことは薬剤師に任せるようになり、当然薬剤師の責任も重くなります。これからの薬剤師は法的責任に耐える覚悟を持たなければいけないということです。では最後に、今後の展望、それぞれの考える病棟薬剤業務の理想像をひと言ずつお願いします。

西川 高槻病院は昨年後半から約5年間かけて全面建て替えを行っているところです。これを機に、地域医療に貢献する新しい病院に相応しい薬剤部を作っていきたいと思います。すべての病棟に薬剤師を配置し、患者さんの安全に責任の持てる病棟業務を確立するとともに、薬剤師が働きやすい環境を整備したいと思います。

久岡 患者さんに「あの薬剤師に会えてよかった」と言ってもらえる薬剤師であるためには、薬剤師自身が幸せでなければいけないと思うのです。薬剤師としての仕事も充実し、自分自身の人生が幸せだと思える生活を、みんなが築いていけるような薬剤部でありたいと思っています。

栗谷 薬剤師はマニュアルどおりに何かをするのは比較的得意です。ですから病棟での安全管理においてはしっかりその役割を果たせると思います。逆に、これは仕事だけに限りませんが、考えることが苦手な薬剤師が多いのです。これからはいろいろな経験を通して、自ら考え、仕事を創造できる薬剤師の育成を目標にしたいと思います。

山本 薬剤師には単に医療人としてだけでなく、人として成長していこうという意識を持ってもらいたいと思います。薬剤部長としての私の仕事は、人を成長させることのできる職場環境を整備することであり、今回の病棟薬剤業務実施加算はそのためのツールの一つが手に入ったという思いがします。2025年における病院薬剤師像を、希望を持って思い描くためにも、病棟薬剤業務を大切に育てていきたいと思います。本日は、意義深い議論をありがとうございました。

 2012年度の診療報酬改定は、「社会保障・税一体改革成案」(2011年6月)に沿って、2025年における医療・介護のあるべき姿を見据えつつ、病院・病床機能の分化・集約化と連携強化、居住系・在宅サービスの拡充、地域包括ケアシステムの構築に向けた第一歩と位置づけられています(資料1)。この大きな流れの中で、薬剤師はどのような役割を果たしていくべきかを考えていかなければなりません。「薬剤管理指導業務」が保険薬局を含めて大きく広がってきたように、新設された「病棟薬剤業務実施加算」も、今後、発展、充実していくことは間違いないでしょう。本日の座談会では、病院の開設主体や機能の違いも踏まえながら、これからの病棟薬剤業務はいかにあるべきか、薬剤師にはどのようなスキルが必要かを討議したいと思います。

座談会開催にあたって [司会] 大阪警察病院 薬剤部長 山本 克己 先生2025年の医療・介護 「社会保障・税一体改革成案」より資料1

処方変更・提案 報告書(育和会記念病院)資料2

介護療養病床

高度急性期

一般急性期

亜急性期等

長期療養

介護施設

居住系サービス

在宅サービス

○居住系�在宅�����更��拡充

��

○機能分化�徹底�連携�更��強化

療養病床 (23万床)

一般病床 (107万床)

【2011(H23)年】 【2025(H37)年】 【2015(H27)年】

(高度急性期)

(一般急性期)

(亜急性期等)

医療・介護の基盤整備・再編のための集中的・計画的な投資

介護療養病床

介護施設 (92万人分)

居住系サービス (31万人分)

在宅サービス

介護保険法改正法案 地域包括ケアに向けた取組

○介護療養廃止6年(2017(H29) 年度末まで)猶予 ○24時間巡回型サービス ○介護職員による喀痰吸引 など

医療提供体制改革の課題 医療機能分化の推進

○急性期強化、リハ機能等の確 保・強化など機能分化・強化 ○在宅医療の計画的整備 ○医師確保策の強化 など

報酬同時改定(2012)の課題 医療・介護の連携強化

○入院~在宅に亘る連携強化 ○慢性期対応の医療・介護サービスの確保 ○在宅医療・訪問看護の充実 など

地域�密着��病床��対応

一般病床 長期療養 (医療療養等)

介護施設 居住系サービス

在宅サービス

○ 病院・病床機能の役割分担を通じてより効果的・効率的な提供体制を構築するため、「高度急性期」、「一般急性期」、「亜急性期」など、ニーズに合わせた機能分化・集約化と連携強化を図る。併せて、地域の実情に応じて幅広い医療を担う機能も含めて、新たな体制を段階的に構築する。医療機能の分化・強化と効率化の推進によって、高齢化に伴い増大するニーズに対応しつつ、概ね現行の病床数レベルの下でより高機能の体制構築を目指す。 ○ 医療ニーズの状態像により、医療・介護サービスの適切な機能分担をするとともに、居住系、在宅サービスを充実する。

�施設����地域����医療����介護��

将来像に向けての医療・介護機能再編の方向性イメージ

3 出所:社会保障改革に関する集中検討会議資料 2011年5月19日

Page 4: これからの病棟業務は発行月 : 平成24年9月発行 発 行 : 田辺三菱製薬株式会社 〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18 お問い合せ先 : 営業推進部

発行月 : 平成24年9月発行発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

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これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座 談会

大阪警察病院 薬剤部長山本 克己 先生社会医療法人愛仁会 高槻病院 薬剤部西川 直樹 先生市立豊中病院 薬剤部長栗谷 良孝 先生医療法人育和会 育和会記念病院 副薬剤部長久岡 清子 先生

[司会]

(発言順)

大阪警察病院 薬剤部長

やま もと  かつ  み

山本 克己 先生(司会)

医療法人育和会 育和会記念病院副薬剤部長

ひさ おか  きよ  こ

久岡 清子 先生市立豊中病院 薬剤部長

くり たに  よし たか

栗谷 良孝 先生社会医療法人愛仁会 高槻病院

薬剤部

にし かわ  なお  き

西川 直樹 先生

特別号 大阪府版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■各施設における病棟薬剤業務の現状山本 最初に、各施設における病棟薬剤業務の現状についてご紹介していただきたいと思います。高槻病院の西川先生から順にお願いします。

西川 高槻病院は病床数477床、14病棟で、薬剤師は21人です。薬剤管理指導業務は全病棟で実施していますが、病棟薬剤業務については現在2病棟に留まっています。1週間20時間の要件をぎりぎりでクリアするとすれば全病棟での実施は可能ですが、NSTなどのチーム医療や外来化学療法にも専任配置するには、

どうしても人員が不足しています。薬剤部本体の業務を維持する要員さえ確保できれば、各病棟に薬剤師1人の体制で病棟薬剤業務を実施したいと考えていますが、そのための人材育成が重要課題の一つです。

栗谷 市立豊中病院は病床数613床、12病棟の急性期病院です。薬剤師は正職員が21人、非常勤職員が16人で、このうち病棟業務の専任薬剤師は7~8人です。すべての病棟で薬剤管理指導業務を実施しており、全患者数の6~7割をカバーしています。この他に手術室、ICUでも医薬品管理を行っています。病棟薬剤業務については全病棟に専任者を配置し、しかも現在の薬剤管

理指導業務の算定件数を減らさないためには増員するしかありません。しかし、ここ10年来、市としては正職員の採用はむしろ減らす方向で、病院全体の正職員の規定数はすでに一杯です。非常勤職員を採用するにも、薬剤師の確保は難しいという事情もあり、加算の算定には至っていません。

久岡 育和会記念病院は、病床数265床で、うち急性期・亜急性期の病床が222床、療養病床が43床です。薬剤師数は14人、他にアシスタントと薬局事務が2人います。当院では、4月から病棟薬剤業務実施加算を算定しています。ただし、人員的には厳しい状態で、全員で協力して中央業務と病棟業務をこなしています。今年3人採用して14人になりましたが、以前のままだと各病棟の担当者5人、DI専任、外来がん化学療法専任、ICT専任を除くと調剤業務を行う薬剤師は2人だけという状況になっていたのです。現在も1日に1~2時間程度は病棟担当者が調剤業務をサポートしています。薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務のどちらもしっかりやろうとすれば、やはり1病棟に1.5人は必要だと考えています。

山本 実際に病棟薬剤業務を実施してからの薬剤師の反応はいかがですか。

久岡 当院はもともと病棟常駐に近い状態で、持参薬の鑑別からそれに基づく処方提案、処方のチェックなど病棟薬剤業務として規定されている業務のほとんどを行っていました。今回、病棟薬剤業務が始まったときには「今までやってきた内容と何が違うのか?」ということになり、薬剤管理指導業務との区分がかえって難しくなったということはあります。

山本 それでは、私から大阪警察病院の現状を紹介します。当院は580床で病床稼働率97%と非常に忙しい病院です。薬剤師は今年3人採用して36人になりました。当院は院外処方せんをほとんど発行しておらず、1日約900枚の外来処方せんの調剤をしているため、薬剤管理指導業務は全科平均で30%の実施率に留まっています。逆に言えば、病棟薬剤業務を実施することで薬剤管理指導業務も充実し、大幅な増収になることが見込めます。当院が病棟薬剤業務に着手するためには、二つの方策があります。一つは院外処方にする、もう一つは薬剤師を増員することです。院外処方せんの発行に関しては、地域住民のニーズを考慮するとすぐには難しい状況です。そこで、薬剤師を増員するために、綿密な試算を行い病院側に提案書を提出しました。来年度の算定開始を目標に準備を進めているところです。

■病棟薬剤業務で目指すものとその評価山本 病棟薬剤業務で目指すもの、あるいはそれによる効果はどのような部分が大きいと思いますか。

久岡 こんな例がありました。ある薬剤師が「患者さんの投与量がおかしいと思うのですが」と相談してきて、腎機能を見たら3倍の量が投与されていました。それをインシデントの会議で報告すると、それ以降、みんなが自分の患者さんの腎機能を計算して投与量を決めるように習慣化されました。これは医薬品の適正使用を推進するうえで非常に大切なことだと思います。

山本 薬剤師が病棟にいる大きなメリットは、そういうところにあるといえますね。

栗谷 病棟に常に薬剤師がいると、他職種も何か疑問があればすぐに質問することができます。一言声をかけるかどうかで、結果がまったく違ってくることもあります。薬の管理や調剤もそうですが、薬剤師の考え方の基本は安全対策です。薬だけではなくて、病棟での整理整頓から始まっていろいろなところに薬剤師のリスクセンスを活かすことができると思います。

山本 病院の経営面から見れば、病棟薬剤業務実施加算によるプラスの収入とともに、薬剤管理指導業務と組み合わせれば薬剤師の人件費は確保できます。それ以上に、医療事故による訴訟は経営的に莫大なマイナスになります。実際に医療訴訟が増えていることを考えると、訴訟リスクを低減するという意味でも病棟薬剤業務は評価できるのではないでしょうか。

西川 そうですね。よく聞くのは、病棟に常駐することで情報がダイレクトに集まるのでタイムラグがなく、ミスを早く発見できるという声です。病棟で起き

る薬剤関連のインシデントの比率は、5割とも8割とも言われています。それを早く、または未然に防ぐことができれば、その先の医療訴訟や患者さんにとっての不幸な出来事を回避できます。それは医療安全だけでなく、病院経営的にもかなり貢献できる部分だと思います。また、あまり知られていないことですが、病院は年間何千万円という保険料を支払っています。なにもなければ保険料は毎年下がりますが、トラブルがあったら倍に跳ね上がります。他にも訴訟にかかる費用や人件費なども考えたら膨大な額ですから、医療事故の防止は経済的にも大きな貢献になります。

山本 医療事故を未然に防いだことを数値で評価するのは難しいのですが、何かいい方法はないですか。

栗谷 やはりインシデントの件数が、薬剤師が関係したことによってどれだけ減ったかを押さえておく必要があります。病棟薬剤業務を客観的に評価するに当たって、医療安全は大きなポイントだと思うのです。病院の規模によっても、開設主体によっても異なるかもしれませんが、それぞれの施設で押さえておきたいですね。

久岡 当院では、処方提案を含めたインシデントデータの集積に力を入れています。例えば腎機能の悪化による薬剤変更の提案もインシデントと位置づけ、提案内容をオリジナルの書式に記録しています(資料2)。月に1回、インシデント会議を行い、提案や件数などを病棟毎に発表しているほか、学会などでも報告しています。

山本 実は今、当院と大阪薬科大学が評価方法の確立のために共同研究を進めています。厚生労働省に報告された明らかな副作用に関して、どれだけ医療費がかかったかをつぶさに把握し、薬剤師が関与することで減らすことができた医療費を算出できないかトライアルをしているところです。

■病棟薬剤業務の業務体制と課題山本 病棟薬剤業務実施加算を算定するための課題として、人員の確保と業務体制の構築があります。市立豊中病院では非常勤職員を活用されていますが、工夫されているのはどのような点ですか。

栗谷 非常勤だから能力的に劣ることはありませんし、やる気のある人もいます。ただ、1~2年間かけて育成をして、これから戦力として活躍してもらおうという時に辞めてしまうこともありますから、非常勤を積極的に病棟専任者とするかは判断が難しいところです。反対に、調剤業務を非常勤だけに任せられるかというと、それも難しい面があります。ただあまり理想ばかり言っていられませんから、体制を作って病棟薬剤業務の実施に向けて動き出さなければいけないと思います。動くに当たっては、まずどこに重きを置くかです。医師・看護師の業務軽減と

いうミッションはありますが、患者さんの安全をどれだけ守れるか、あるいは満足度を上げられるかが重要だと考えています。

山本 西川先生は業務体制の構築についてはどのようなお考えですか。

西川 理想は1病棟1.5人体制ですが、まずは1病棟1人から始めようと考えています。一般急性期であれば、薬剤師1人で担当できる患者さんは最大50人までです。それを超えるとやはり行き届かないことが出てきます。しかし、これまでは週に一回しか病棟に行けなかったのが、毎日常駐する状況になれば病棟業務の質はかなり上がってくると思います。

久岡 当院では病棟常駐化により薬剤管理指導業務の算定件数が増えました。というのは以前のように、病棟には行ったが患者さんが不在だったといったタイムロスがありませんし、初回面談は必ずできます。そういう意味では、常駐による業務の効率化が図られています。

■病棟薬剤業務に対応できる人材の育成山本 人材の育成も大きな課題ですが、先生方は病棟薬剤業務に必要な能力は何だと思われますか。

西川 基本的にはコミュニケーション能力ですが、処方支援をするためには解析能力は絶対に必要ですね。

久岡 これまでの薬剤管理指導であれば、基本的には患者さんからの訴えや問いかけに対して答える能力が必要だったわけです。しかし、病棟薬剤業務においては、会話ができない患者さんも対象になりますから観察能力が必要になります。毎日患者さんを観察して、顔色や手を触ったときの張り、むくみの状態などを調べるというプラスアルファの部分がこれからは必要だと思います。ただし薬物療法の知識だけが先行すると、薬剤師がプチドクター化してしまいます。それは看護師にも言えますから、みんなが同じ方向から見てしまうことになります。医師とも看護師とも違う、薬剤師ならではの視点で患者さんと向き合い、収集した情報と薬学の知識を融合させる力が必要です。

栗谷 今までは専門薬剤師の育成が重要視されてきました。それは間違いではありませんが、ゼネラリストとしての基本的な訓練を怠ってきたのではないでしょうか。特に最近では、新しい抗がん剤や文献もあまりない薬物療法なども登場する中で、幅広い情報を持っていなければ対応できない例が増えています。もう一度薬剤師に必要なスキルは何かを考え直す時に来ていると感じます。

山本 その点、6年制課程を修了した薬剤師は臨床に則した問題解決型のトレーニングなどをしているのではないのでしょうか。

久岡 例えば病棟に連れていって「これはこうなのだよ」と言ったときに、「教科書のあのページに出ていた」と、情報を引き出してくる力を持っています。即戦力とまではいきませんが、現場でトレーニングしていけば、蓄積してきた知識や情報を活用する力はありますから成長は早いのではないでしょうか。また、それを促すためにも病棟業務の面白さを早く体験させ、うまく能力を伸ばしていくことが私たちの努めだと思うのです。

山本 4年制課程を卒業したわれわれが、自分たちに何が足りないのかを真摯に振り返って明らかにし、きちんと病棟薬剤業務を体系づけていけば、6年制課程の薬学教育を受けた薬剤師は先輩たちの背中を見て成長できると思います。私は、薬剤師にこれから必要なのは、サイエンスする能力だと思うのです。今までの業務は先輩のまねをしたり参考にすればできることが多かった。ところが一歩進んだ処方提案をしようと思うと、発生した事象を深く見つめ、より真実に近づいていく能力が必要になります。それはとりもなおさず「科学する力」なのです。薬剤師が大学でずっとトレーニングしてきた能力を、もっと伸ばさなければいけないと思います。

■病棟薬剤業務の今後の展望山本 これから病棟薬剤業務が定着し充実していけば、薬剤

師が処方を設計して医師に相談、提案することは増えます。特に今後、CDTM(共同薬物治療管理業務)のように医師との契約に基づいて薬剤師が処方をオーダーするようになったら、薬剤師はその内容に責任を持てるでしょうか。

西川 責任を取らなければいけない時代が来るでしょうね。自分の言葉の重みを知っておかなければいけないと思います。また、責任に対する教育も必要になりますね。

栗谷 それについては、今後法的整備が必要になります。また見方を変えれば、それだけ薬剤師は評価を受けていいはずだと思うのです。

山本 現在は病棟薬剤業務は医師の業務軽減が大きな目的となっていますが、薬剤師がその能力を発揮すればするほど医師は薬のことは薬剤師に任せるようになり、当然薬剤師の責任も重くなります。これからの薬剤師は法的責任に耐える覚悟を持たなければいけないということです。では最後に、今後の展望、それぞれの考える病棟薬剤業務の理想像をひと言ずつお願いします。

西川 高槻病院は昨年後半から約5年間かけて全面建て替えを行っているところです。これを機に、地域医療に貢献する新しい病院に相応しい薬剤部を作っていきたいと思います。すべての病棟に薬剤師を配置し、患者さんの安全に責任の持てる病棟業務を確立するとともに、薬剤師が働きやすい環境を整備したいと思います。

久岡 患者さんに「あの薬剤師に会えてよかった」と言ってもらえる薬剤師であるためには、薬剤師自身が幸せでなければいけないと思うのです。薬剤師としての仕事も充実し、自分自身の人生が幸せだと思える生活を、みんなが築いていけるような薬剤部でありたいと思っています。

栗谷 薬剤師はマニュアルどおりに何かをするのは比較的得意です。ですから病棟での安全管理においてはしっかりその役割を果たせると思います。逆に、これは仕事だけに限りませんが、考えることが苦手な薬剤師が多いのです。これからはいろいろな経験を通して、自ら考え、仕事を創造できる薬剤師の育成を目標にしたいと思います。

山本 薬剤師には単に医療人としてだけでなく、人として成長していこうという意識を持ってもらいたいと思います。薬剤部長としての私の仕事は、人を成長させることのできる職場環境を整備することであり、今回の病棟薬剤業務実施加算はそのためのツールの一つが手に入ったという思いがします。2025年における病院薬剤師像を、希望を持って思い描くためにも、病棟薬剤業務を大切に育てていきたいと思います。本日は、意義深い議論をありがとうございました。

 2012年度の診療報酬改定は、「社会保障・税一体改革成案」(2011年6月)に沿って、2025年における医療・介護のあるべき姿を見据えつつ、病院・病床機能の分化・集約化と連携強化、居住系・在宅サービスの拡充、地域包括ケアシステムの構築に向けた第一歩と位置づけられています(資料1)。この大きな流れの中で、薬剤師はどのような役割を果たしていくべきかを考えていかなければなりません。「薬剤管理指導業務」が保険薬局を含めて大きく広がってきたように、新設された「病棟薬剤業務実施加算」も、今後、発展、充実していくことは間違いないでしょう。本日の座談会では、病院の開設主体や機能の違いも踏まえながら、これからの病棟薬剤業務はいかにあるべきか、薬剤師にはどのようなスキルが必要かを討議したいと思います。

座談会開催にあたって [司会] 大阪警察病院 薬剤部長 山本 克己 先生2025年の医療・介護 「社会保障・税一体改革成案」より資料1

処方変更・提案 報告書(育和会記念病院)資料2

介護療養病床

高度急性期

一般急性期

亜急性期等

長期療養

介護施設

居住系サービス

在宅サービス

○居住系�在宅�����更��拡充

��

○機能分化�徹底�連携�更��強化

療養病床 (23万床)

一般病床 (107万床)

【2011(H23)年】 【2025(H37)年】 【2015(H27)年】

(高度急性期)

(一般急性期)

(亜急性期等)

医療・介護の基盤整備・再編のための集中的・計画的な投資

介護療養病床

介護施設 (92万人分)

居住系サービス (31万人分)

在宅サービス

介護保険法改正法案 地域包括ケアに向けた取組

○介護療養廃止6年(2017(H29) 年度末まで)猶予 ○24時間巡回型サービス ○介護職員による喀痰吸引 など

医療提供体制改革の課題 医療機能分化の推進

○急性期強化、リハ機能等の確 保・強化など機能分化・強化 ○在宅医療の計画的整備 ○医師確保策の強化 など

報酬同時改定(2012)の課題 医療・介護の連携強化

○入院~在宅に亘る連携強化 ○慢性期対応の医療・介護サービスの確保 ○在宅医療・訪問看護の充実 など

地域�密着��病床��対応

一般病床 長期療養 (医療療養等)

介護施設 居住系サービス

在宅サービス

○ 病院・病床機能の役割分担を通じてより効果的・効率的な提供体制を構築するため、「高度急性期」、「一般急性期」、「亜急性期」など、ニーズに合わせた機能分化・集約化と連携強化を図る。併せて、地域の実情に応じて幅広い医療を担う機能も含めて、新たな体制を段階的に構築する。医療機能の分化・強化と効率化の推進によって、高齢化に伴い増大するニーズに対応しつつ、概ね現行の病床数レベルの下でより高機能の体制構築を目指す。 ○ 医療ニーズの状態像により、医療・介護サービスの適切な機能分担をするとともに、居住系、在宅サービスを充実する。

�施設����地域����医療����介護��

将来像に向けての医療・介護機能再編の方向性イメージ

3 出所:社会保障改革に関する集中検討会議資料 2011年5月19日

Page 5: これからの病棟業務は発行月 : 平成24年9月発行 発 行 : 田辺三菱製薬株式会社 〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18 お問い合せ先 : 営業推進部

発行月 : 平成24年9月発行発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

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特別号 大阪府版

特別号 大阪府版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

大阪警察病院 薬剤部長山本 克己 先生社会医療法人愛仁会 高槻病院 薬剤部西川 直樹 先生市立豊中病院 薬剤部長栗谷 良孝 先生医療法人育和会 育和会記念病院 副薬剤部長久岡 清子 先生

[司会]

(発言順)

大阪警察病院 薬剤部長

やま もと  かつ  み

山本 克己 先生(司会)

医療法人育和会 育和会記念病院副薬剤部長

ひさ おか  きよ  こ

久岡 清子 先生市立豊中病院 薬剤部長

くり たに  よし たか

栗谷 良孝 先生社会医療法人愛仁会 高槻病院

薬剤部

にし かわ  なお  き

西川 直樹 先生

特別号 大阪府版

これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■各施設における病棟薬剤業務の現状山本 最初に、各施設における病棟薬剤業務の現状についてご紹介していただきたいと思います。高槻病院の西川先生から順にお願いします。

西川 高槻病院は病床数477床、14病棟で、薬剤師は21人です。薬剤管理指導業務は全病棟で実施していますが、病棟薬剤業務については現在2病棟に留まっています。1週間20時間の要件をぎりぎりでクリアするとすれば全病棟での実施は可能ですが、NSTなどのチーム医療や外来化学療法にも専任配置するには、

どうしても人員が不足しています。薬剤部本体の業務を維持する要員さえ確保できれば、各病棟に薬剤師1人の体制で病棟薬剤業務を実施したいと考えていますが、そのための人材育成が重要課題の一つです。

栗谷 市立豊中病院は病床数613床、12病棟の急性期病院です。薬剤師は正職員が21人、非常勤職員が16人で、このうち病棟業務の専任薬剤師は7~8人です。すべての病棟で薬剤管理指導業務を実施しており、全患者数の6~7割をカバーしています。この他に手術室、ICUでも医薬品管理を行っています。病棟薬剤業務については全病棟に専任者を配置し、しかも現在の薬剤管

理指導業務の算定件数を減らさないためには増員するしかありません。しかし、ここ10年来、市としては正職員の採用はむしろ減らす方向で、病院全体の正職員の規定数はすでに一杯です。非常勤職員を採用するにも、薬剤師の確保は難しいという事情もあり、加算の算定には至っていません。

久岡 育和会記念病院は、病床数265床で、うち急性期・亜急性期の病床が222床、療養病床が43床です。薬剤師数は14人、他にアシスタントと薬局事務が2人います。当院では、4月から病棟薬剤業務実施加算を算定しています。ただし、人員的には厳しい状態で、全員で協力して中央業務と病棟業務をこなしています。今年3人採用して14人になりましたが、以前のままだと各病棟の担当者5人、DI専任、外来がん化学療法専任、ICT専任を除くと調剤業務を行う薬剤師は2人だけという状況になっていたのです。現在も1日に1~2時間程度は病棟担当者が調剤業務をサポートしています。薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務のどちらもしっかりやろうとすれば、やはり1病棟に1.5人は必要だと考えています。

山本 実際に病棟薬剤業務を実施してからの薬剤師の反応はいかがですか。

久岡 当院はもともと病棟常駐に近い状態で、持参薬の鑑別からそれに基づく処方提案、処方のチェックなど病棟薬剤業務として規定されている業務のほとんどを行っていました。今回、病棟薬剤業務が始まったときには「今までやってきた内容と何が違うのか?」ということになり、薬剤管理指導業務との区分がかえって難しくなったということはあります。

山本 それでは、私から大阪警察病院の現状を紹介します。当院は580床で病床稼働率97%と非常に忙しい病院です。薬剤師は今年3人採用して36人になりました。当院は院外処方せんをほとんど発行しておらず、1日約900枚の外来処方せんの調剤をしているため、薬剤管理指導業務は全科平均で30%の実施率に留まっています。逆に言えば、病棟薬剤業務を実施することで薬剤管理指導業務も充実し、大幅な増収になることが見込めます。当院が病棟薬剤業務に着手するためには、二つの方策があります。一つは院外処方にする、もう一つは薬剤師を増員することです。院外処方せんの発行に関しては、地域住民のニーズを考慮するとすぐには難しい状況です。そこで、薬剤師を増員するために、綿密な試算を行い病院側に提案書を提出しました。来年度の算定開始を目標に準備を進めているところです。

■病棟薬剤業務で目指すものとその評価山本 病棟薬剤業務で目指すもの、あるいはそれによる効果はどのような部分が大きいと思いますか。

久岡 こんな例がありました。ある薬剤師が「患者さんの投与量がおかしいと思うのですが」と相談してきて、腎機能を見たら3倍の量が投与されていました。それをインシデントの会議で報告すると、それ以降、みんなが自分の患者さんの腎機能を計算して投与量を決めるように習慣化されました。これは医薬品の適正使用を推進するうえで非常に大切なことだと思います。

山本 薬剤師が病棟にいる大きなメリットは、そういうところにあるといえますね。

栗谷 病棟に常に薬剤師がいると、他職種も何か疑問があればすぐに質問することができます。一言声をかけるかどうかで、結果がまったく違ってくることもあります。薬の管理や調剤もそうですが、薬剤師の考え方の基本は安全対策です。薬だけではなくて、病棟での整理整頓から始まっていろいろなところに薬剤師のリスクセンスを活かすことができると思います。

山本 病院の経営面から見れば、病棟薬剤業務実施加算によるプラスの収入とともに、薬剤管理指導業務と組み合わせれば薬剤師の人件費は確保できます。それ以上に、医療事故による訴訟は経営的に莫大なマイナスになります。実際に医療訴訟が増えていることを考えると、訴訟リスクを低減するという意味でも病棟薬剤業務は評価できるのではないでしょうか。

西川 そうですね。よく聞くのは、病棟に常駐することで情報がダイレクトに集まるのでタイムラグがなく、ミスを早く発見できるという声です。病棟で起き

る薬剤関連のインシデントの比率は、5割とも8割とも言われています。それを早く、または未然に防ぐことができれば、その先の医療訴訟や患者さんにとっての不幸な出来事を回避できます。それは医療安全だけでなく、病院経営的にもかなり貢献できる部分だと思います。また、あまり知られていないことですが、病院は年間何千万円という保険料を支払っています。なにもなければ保険料は毎年下がりますが、トラブルがあったら倍に跳ね上がります。他にも訴訟にかかる費用や人件費なども考えたら膨大な額ですから、医療事故の防止は経済的にも大きな貢献になります。

山本 医療事故を未然に防いだことを数値で評価するのは難しいのですが、何かいい方法はないですか。

栗谷 やはりインシデントの件数が、薬剤師が関係したことによってどれだけ減ったかを押さえておく必要があります。病棟薬剤業務を客観的に評価するに当たって、医療安全は大きなポイントだと思うのです。病院の規模によっても、開設主体によっても異なるかもしれませんが、それぞれの施設で押さえておきたいですね。

久岡 当院では、処方提案を含めたインシデントデータの集積に力を入れています。例えば腎機能の悪化による薬剤変更の提案もインシデントと位置づけ、提案内容をオリジナルの書式に記録しています(資料2)。月に1回、インシデント会議を行い、提案や件数などを病棟毎に発表しているほか、学会などでも報告しています。

山本 実は今、当院と大阪薬科大学が評価方法の確立のために共同研究を進めています。厚生労働省に報告された明らかな副作用に関して、どれだけ医療費がかかったかをつぶさに把握し、薬剤師が関与することで減らすことができた医療費を算出できないかトライアルをしているところです。

■病棟薬剤業務の業務体制と課題山本 病棟薬剤業務実施加算を算定するための課題として、人員の確保と業務体制の構築があります。市立豊中病院では非常勤職員を活用されていますが、工夫されているのはどのような点ですか。

栗谷 非常勤だから能力的に劣ることはありませんし、やる気のある人もいます。ただ、1~2年間かけて育成をして、これから戦力として活躍してもらおうという時に辞めてしまうこともありますから、非常勤を積極的に病棟専任者とするかは判断が難しいところです。反対に、調剤業務を非常勤だけに任せられるかというと、それも難しい面があります。ただあまり理想ばかり言っていられませんから、体制を作って病棟薬剤業務の実施に向けて動き出さなければいけないと思います。動くに当たっては、まずどこに重きを置くかです。医師・看護師の業務軽減と

いうミッションはありますが、患者さんの安全をどれだけ守れるか、あるいは満足度を上げられるかが重要だと考えています。

山本 西川先生は業務体制の構築についてはどのようなお考えですか。

西川 理想は1病棟1.5人体制ですが、まずは1病棟1人から始めようと考えています。一般急性期であれば、薬剤師1人で担当できる患者さんは最大50人までです。それを超えるとやはり行き届かないことが出てきます。しかし、これまでは週に一回しか病棟に行けなかったのが、毎日常駐する状況になれば病棟業務の質はかなり上がってくると思います。

久岡 当院では病棟常駐化により薬剤管理指導業務の算定件数が増えました。というのは以前のように、病棟には行ったが患者さんが不在だったといったタイムロスがありませんし、初回面談は必ずできます。そういう意味では、常駐による業務の効率化が図られています。

■病棟薬剤業務に対応できる人材の育成山本 人材の育成も大きな課題ですが、先生方は病棟薬剤業務に必要な能力は何だと思われますか。

西川 基本的にはコミュニケーション能力ですが、処方支援をするためには解析能力は絶対に必要ですね。

久岡 これまでの薬剤管理指導であれば、基本的には患者さんからの訴えや問いかけに対して答える能力が必要だったわけです。しかし、病棟薬剤業務においては、会話ができない患者さんも対象になりますから観察能力が必要になります。毎日患者さんを観察して、顔色や手を触ったときの張り、むくみの状態などを調べるというプラスアルファの部分がこれからは必要だと思います。ただし薬物療法の知識だけが先行すると、薬剤師がプチドクター化してしまいます。それは看護師にも言えますから、みんなが同じ方向から見てしまうことになります。医師とも看護師とも違う、薬剤師ならではの視点で患者さんと向き合い、収集した情報と薬学の知識を融合させる力が必要です。

栗谷 今までは専門薬剤師の育成が重要視されてきました。それは間違いではありませんが、ゼネラリストとしての基本的な訓練を怠ってきたのではないでしょうか。特に最近では、新しい抗がん剤や文献もあまりない薬物療法なども登場する中で、幅広い情報を持っていなければ対応できない例が増えています。もう一度薬剤師に必要なスキルは何かを考え直す時に来ていると感じます。

山本 その点、6年制課程を修了した薬剤師は臨床に則した問題解決型のトレーニングなどをしているのではないのでしょうか。

久岡 例えば病棟に連れていって「これはこうなのだよ」と言ったときに、「教科書のあのページに出ていた」と、情報を引き出してくる力を持っています。即戦力とまではいきませんが、現場でトレーニングしていけば、蓄積してきた知識や情報を活用する力はありますから成長は早いのではないでしょうか。また、それを促すためにも病棟業務の面白さを早く体験させ、うまく能力を伸ばしていくことが私たちの努めだと思うのです。

山本 4年制課程を卒業したわれわれが、自分たちに何が足りないのかを真摯に振り返って明らかにし、きちんと病棟薬剤業務を体系づけていけば、6年制課程の薬学教育を受けた薬剤師は先輩たちの背中を見て成長できると思います。私は、薬剤師にこれから必要なのは、サイエンスする能力だと思うのです。今までの業務は先輩のまねをしたり参考にすればできることが多かった。ところが一歩進んだ処方提案をしようと思うと、発生した事象を深く見つめ、より真実に近づいていく能力が必要になります。それはとりもなおさず「科学する力」なのです。薬剤師が大学でずっとトレーニングしてきた能力を、もっと伸ばさなければいけないと思います。

■病棟薬剤業務の今後の展望山本 これから病棟薬剤業務が定着し充実していけば、薬剤

師が処方を設計して医師に相談、提案することは増えます。特に今後、CDTM(共同薬物治療管理業務)のように医師との契約に基づいて薬剤師が処方をオーダーするようになったら、薬剤師はその内容に責任を持てるでしょうか。

西川 責任を取らなければいけない時代が来るでしょうね。自分の言葉の重みを知っておかなければいけないと思います。また、責任に対する教育も必要になりますね。

栗谷 それについては、今後法的整備が必要になります。また見方を変えれば、それだけ薬剤師は評価を受けていいはずだと思うのです。

山本 現在は病棟薬剤業務は医師の業務軽減が大きな目的となっていますが、薬剤師がその能力を発揮すればするほど医師は薬のことは薬剤師に任せるようになり、当然薬剤師の責任も重くなります。これからの薬剤師は法的責任に耐える覚悟を持たなければいけないということです。では最後に、今後の展望、それぞれの考える病棟薬剤業務の理想像をひと言ずつお願いします。

西川 高槻病院は昨年後半から約5年間かけて全面建て替えを行っているところです。これを機に、地域医療に貢献する新しい病院に相応しい薬剤部を作っていきたいと思います。すべての病棟に薬剤師を配置し、患者さんの安全に責任の持てる病棟業務を確立するとともに、薬剤師が働きやすい環境を整備したいと思います。

久岡 患者さんに「あの薬剤師に会えてよかった」と言ってもらえる薬剤師であるためには、薬剤師自身が幸せでなければいけないと思うのです。薬剤師としての仕事も充実し、自分自身の人生が幸せだと思える生活を、みんなが築いていけるような薬剤部でありたいと思っています。

栗谷 薬剤師はマニュアルどおりに何かをするのは比較的得意です。ですから病棟での安全管理においてはしっかりその役割を果たせると思います。逆に、これは仕事だけに限りませんが、考えることが苦手な薬剤師が多いのです。これからはいろいろな経験を通して、自ら考え、仕事を創造できる薬剤師の育成を目標にしたいと思います。

山本 薬剤師には単に医療人としてだけでなく、人として成長していこうという意識を持ってもらいたいと思います。薬剤部長としての私の仕事は、人を成長させることのできる職場環境を整備することであり、今回の病棟薬剤業務実施加算はそのためのツールの一つが手に入ったという思いがします。2025年における病院薬剤師像を、希望を持って思い描くためにも、病棟薬剤業務を大切に育てていきたいと思います。本日は、意義深い議論をありがとうございました。

 2012年度の診療報酬改定は、「社会保障・税一体改革成案」(2011年6月)に沿って、2025年における医療・介護のあるべき姿を見据えつつ、病院・病床機能の分化・集約化と連携強化、居住系・在宅サービスの拡充、地域包括ケアシステムの構築に向けた第一歩と位置づけられています(資料1)。この大きな流れの中で、薬剤師はどのような役割を果たしていくべきかを考えていかなければなりません。「薬剤管理指導業務」が保険薬局を含めて大きく広がってきたように、新設された「病棟薬剤業務実施加算」も、今後、発展、充実していくことは間違いないでしょう。本日の座談会では、病院の開設主体や機能の違いも踏まえながら、これからの病棟薬剤業務はいかにあるべきか、薬剤師にはどのようなスキルが必要かを討議したいと思います。

座談会開催にあたって [司会] 大阪警察病院 薬剤部長 山本 克己 先生2025年の医療・介護 「社会保障・税一体改革成案」より資料1

処方変更・提案 報告書(育和会記念病院)資料2

介護療養病床

高度急性期

一般急性期

亜急性期等

長期療養

介護施設

居住系サービス

在宅サービス

○居住系�在宅�����更��拡充

��

○機能分化�徹底�連携�更��強化

療養病床 (23万床)

一般病床 (107万床)

【2011(H23)年】 【2025(H37)年】 【2015(H27)年】

(高度急性期)

(一般急性期)

(亜急性期等)

医療・介護の基盤整備・再編のための集中的・計画的な投資

介護療養病床

介護施設 (92万人分)

居住系サービス (31万人分)

在宅サービス

介護保険法改正法案 地域包括ケアに向けた取組

○介護療養廃止6年(2017(H29) 年度末まで)猶予 ○24時間巡回型サービス ○介護職員による喀痰吸引 など

医療提供体制改革の課題 医療機能分化の推進

○急性期強化、リハ機能等の確 保・強化など機能分化・強化 ○在宅医療の計画的整備 ○医師確保策の強化 など

報酬同時改定(2012)の課題 医療・介護の連携強化

○入院~在宅に亘る連携強化 ○慢性期対応の医療・介護サービスの確保 ○在宅医療・訪問看護の充実 など

地域�密着��病床��対応

一般病床 長期療養 (医療療養等)

介護施設 居住系サービス

在宅サービス

○ 病院・病床機能の役割分担を通じてより効果的・効率的な提供体制を構築するため、「高度急性期」、「一般急性期」、「亜急性期」など、ニーズに合わせた機能分化・集約化と連携強化を図る。併せて、地域の実情に応じて幅広い医療を担う機能も含めて、新たな体制を段階的に構築する。医療機能の分化・強化と効率化の推進によって、高齢化に伴い増大するニーズに対応しつつ、概ね現行の病床数レベルの下でより高機能の体制構築を目指す。 ○ 医療ニーズの状態像により、医療・介護サービスの適切な機能分担をするとともに、居住系、在宅サービスを充実する。

�施設����地域����医療����介護��

将来像に向けての医療・介護機能再編の方向性イメージ

3 出所:社会保障改革に関する集中検討会議資料 2011年5月19日

Page 6: これからの病棟業務は発行月 : 平成24年9月発行 発 行 : 田辺三菱製薬株式会社 〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18 お問い合せ先 : 営業推進部

発行月 : 平成24年9月発行発 行 : 田辺三菱製薬株式会社    〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18    お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

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これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

大阪警察病院 薬剤部長山本 克己 先生社会医療法人愛仁会 高槻病院 薬剤部西川 直樹 先生市立豊中病院 薬剤部長栗谷 良孝 先生医療法人育和会 育和会記念病院 副薬剤部長久岡 清子 先生

[司会]

(発言順)

大阪警察病院 薬剤部長

やま もと  かつ  み

山本 克己 先生(司会)

医療法人育和会 育和会記念病院副薬剤部長

ひさ おか  きよ  こ

久岡 清子 先生市立豊中病院 薬剤部長

くり たに  よし たか

栗谷 良孝 先生社会医療法人愛仁会 高槻病院

薬剤部

にし かわ  なお  き

西川 直樹 先生

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これからの病棟業務はいかにあるべきか~「病棟薬剤業務実施加算」創設がもたらすインパクト~

座談会

座談会

■各施設における病棟薬剤業務の現状山本 最初に、各施設における病棟薬剤業務の現状についてご紹介していただきたいと思います。高槻病院の西川先生から順にお願いします。

西川 高槻病院は病床数477床、14病棟で、薬剤師は21人です。薬剤管理指導業務は全病棟で実施していますが、病棟薬剤業務については現在2病棟に留まっています。1週間20時間の要件をぎりぎりでクリアするとすれば全病棟での実施は可能ですが、NSTなどのチーム医療や外来化学療法にも専任配置するには、

どうしても人員が不足しています。薬剤部本体の業務を維持する要員さえ確保できれば、各病棟に薬剤師1人の体制で病棟薬剤業務を実施したいと考えていますが、そのための人材育成が重要課題の一つです。

栗谷 市立豊中病院は病床数613床、12病棟の急性期病院です。薬剤師は正職員が21人、非常勤職員が16人で、このうち病棟業務の専任薬剤師は7~8人です。すべての病棟で薬剤管理指導業務を実施しており、全患者数の6~7割をカバーしています。この他に手術室、ICUでも医薬品管理を行っています。病棟薬剤業務については全病棟に専任者を配置し、しかも現在の薬剤管

理指導業務の算定件数を減らさないためには増員するしかありません。しかし、ここ10年来、市としては正職員の採用はむしろ減らす方向で、病院全体の正職員の規定数はすでに一杯です。非常勤職員を採用するにも、薬剤師の確保は難しいという事情もあり、加算の算定には至っていません。

久岡 育和会記念病院は、病床数265床で、うち急性期・亜急性期の病床が222床、療養病床が43床です。薬剤師数は14人、他にアシスタントと薬局事務が2人います。当院では、4月から病棟薬剤業務実施加算を算定しています。ただし、人員的には厳しい状態で、全員で協力して中央業務と病棟業務をこなしています。今年3人採用して14人になりましたが、以前のままだと各病棟の担当者5人、DI専任、外来がん化学療法専任、ICT専任を除くと調剤業務を行う薬剤師は2人だけという状況になっていたのです。現在も1日に1~2時間程度は病棟担当者が調剤業務をサポートしています。薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務のどちらもしっかりやろうとすれば、やはり1病棟に1.5人は必要だと考えています。

山本 実際に病棟薬剤業務を実施してからの薬剤師の反応はいかがですか。

久岡 当院はもともと病棟常駐に近い状態で、持参薬の鑑別からそれに基づく処方提案、処方のチェックなど病棟薬剤業務として規定されている業務のほとんどを行っていました。今回、病棟薬剤業務が始まったときには「今までやってきた内容と何が違うのか?」ということになり、薬剤管理指導業務との区分がかえって難しくなったということはあります。

山本 それでは、私から大阪警察病院の現状を紹介します。当院は580床で病床稼働率97%と非常に忙しい病院です。薬剤師は今年3人採用して36人になりました。当院は院外処方せんをほとんど発行しておらず、1日約900枚の外来処方せんの調剤をしているため、薬剤管理指導業務は全科平均で30%の実施率に留まっています。逆に言えば、病棟薬剤業務を実施することで薬剤管理指導業務も充実し、大幅な増収になることが見込めます。当院が病棟薬剤業務に着手するためには、二つの方策があります。一つは院外処方にする、もう一つは薬剤師を増員することです。院外処方せんの発行に関しては、地域住民のニーズを考慮するとすぐには難しい状況です。そこで、薬剤師を増員するために、綿密な試算を行い病院側に提案書を提出しました。来年度の算定開始を目標に準備を進めているところです。

■病棟薬剤業務で目指すものとその評価山本 病棟薬剤業務で目指すもの、あるいはそれによる効果はどのような部分が大きいと思いますか。

久岡 こんな例がありました。ある薬剤師が「患者さんの投与量がおかしいと思うのですが」と相談してきて、腎機能を見たら3倍の量が投与されていました。それをインシデントの会議で報告すると、それ以降、みんなが自分の患者さんの腎機能を計算して投与量を決めるように習慣化されました。これは医薬品の適正使用を推進するうえで非常に大切なことだと思います。

山本 薬剤師が病棟にいる大きなメリットは、そういうところにあるといえますね。

栗谷 病棟に常に薬剤師がいると、他職種も何か疑問があればすぐに質問することができます。一言声をかけるかどうかで、結果がまったく違ってくることもあります。薬の管理や調剤もそうですが、薬剤師の考え方の基本は安全対策です。薬だけではなくて、病棟での整理整頓から始まっていろいろなところに薬剤師のリスクセンスを活かすことができると思います。

山本 病院の経営面から見れば、病棟薬剤業務実施加算によるプラスの収入とともに、薬剤管理指導業務と組み合わせれば薬剤師の人件費は確保できます。それ以上に、医療事故による訴訟は経営的に莫大なマイナスになります。実際に医療訴訟が増えていることを考えると、訴訟リスクを低減するという意味でも病棟薬剤業務は評価できるのではないでしょうか。

西川 そうですね。よく聞くのは、病棟に常駐することで情報がダイレクトに集まるのでタイムラグがなく、ミスを早く発見できるという声です。病棟で起き

る薬剤関連のインシデントの比率は、5割とも8割とも言われています。それを早く、または未然に防ぐことができれば、その先の医療訴訟や患者さんにとっての不幸な出来事を回避できます。それは医療安全だけでなく、病院経営的にもかなり貢献できる部分だと思います。また、あまり知られていないことですが、病院は年間何千万円という保険料を支払っています。なにもなければ保険料は毎年下がりますが、トラブルがあったら倍に跳ね上がります。他にも訴訟にかかる費用や人件費なども考えたら膨大な額ですから、医療事故の防止は経済的にも大きな貢献になります。

山本 医療事故を未然に防いだことを数値で評価するのは難しいのですが、何かいい方法はないですか。

栗谷 やはりインシデントの件数が、薬剤師が関係したことによってどれだけ減ったかを押さえておく必要があります。病棟薬剤業務を客観的に評価するに当たって、医療安全は大きなポイントだと思うのです。病院の規模によっても、開設主体によっても異なるかもしれませんが、それぞれの施設で押さえておきたいですね。

久岡 当院では、処方提案を含めたインシデントデータの集積に力を入れています。例えば腎機能の悪化による薬剤変更の提案もインシデントと位置づけ、提案内容をオリジナルの書式に記録しています(資料2)。月に1回、インシデント会議を行い、提案や件数などを病棟毎に発表しているほか、学会などでも報告しています。

山本 実は今、当院と大阪薬科大学が評価方法の確立のために共同研究を進めています。厚生労働省に報告された明らかな副作用に関して、どれだけ医療費がかかったかをつぶさに把握し、薬剤師が関与することで減らすことができた医療費を算出できないかトライアルをしているところです。

■病棟薬剤業務の業務体制と課題山本 病棟薬剤業務実施加算を算定するための課題として、人員の確保と業務体制の構築があります。市立豊中病院では非常勤職員を活用されていますが、工夫されているのはどのような点ですか。

栗谷 非常勤だから能力的に劣ることはありませんし、やる気のある人もいます。ただ、1~2年間かけて育成をして、これから戦力として活躍してもらおうという時に辞めてしまうこともありますから、非常勤を積極的に病棟専任者とするかは判断が難しいところです。反対に、調剤業務を非常勤だけに任せられるかというと、それも難しい面があります。ただあまり理想ばかり言っていられませんから、体制を作って病棟薬剤業務の実施に向けて動き出さなければいけないと思います。動くに当たっては、まずどこに重きを置くかです。医師・看護師の業務軽減と

いうミッションはありますが、患者さんの安全をどれだけ守れるか、あるいは満足度を上げられるかが重要だと考えています。

山本 西川先生は業務体制の構築についてはどのようなお考えですか。

西川 理想は1病棟1.5人体制ですが、まずは1病棟1人から始めようと考えています。一般急性期であれば、薬剤師1人で担当できる患者さんは最大50人までです。それを超えるとやはり行き届かないことが出てきます。しかし、これまでは週に一回しか病棟に行けなかったのが、毎日常駐する状況になれば病棟業務の質はかなり上がってくると思います。

久岡 当院では病棟常駐化により薬剤管理指導業務の算定件数が増えました。というのは以前のように、病棟には行ったが患者さんが不在だったといったタイムロスがありませんし、初回面談は必ずできます。そういう意味では、常駐による業務の効率化が図られています。

■病棟薬剤業務に対応できる人材の育成山本 人材の育成も大きな課題ですが、先生方は病棟薬剤業務に必要な能力は何だと思われますか。

西川 基本的にはコミュニケーション能力ですが、処方支援をするためには解析能力は絶対に必要ですね。

久岡 これまでの薬剤管理指導であれば、基本的には患者さんからの訴えや問いかけに対して答える能力が必要だったわけです。しかし、病棟薬剤業務においては、会話ができない患者さんも対象になりますから観察能力が必要になります。毎日患者さんを観察して、顔色や手を触ったときの張り、むくみの状態などを調べるというプラスアルファの部分がこれからは必要だと思います。ただし薬物療法の知識だけが先行すると、薬剤師がプチドクター化してしまいます。それは看護師にも言えますから、みんなが同じ方向から見てしまうことになります。医師とも看護師とも違う、薬剤師ならではの視点で患者さんと向き合い、収集した情報と薬学の知識を融合させる力が必要です。

栗谷 今までは専門薬剤師の育成が重要視されてきました。それは間違いではありませんが、ゼネラリストとしての基本的な訓練を怠ってきたのではないでしょうか。特に最近では、新しい抗がん剤や文献もあまりない薬物療法なども登場する中で、幅広い情報を持っていなければ対応できない例が増えています。もう一度薬剤師に必要なスキルは何かを考え直す時に来ていると感じます。

山本 その点、6年制課程を修了した薬剤師は臨床に則した問題解決型のトレーニングなどをしているのではないのでしょうか。

久岡 例えば病棟に連れていって「これはこうなのだよ」と言ったときに、「教科書のあのページに出ていた」と、情報を引き出してくる力を持っています。即戦力とまではいきませんが、現場でトレーニングしていけば、蓄積してきた知識や情報を活用する力はありますから成長は早いのではないでしょうか。また、それを促すためにも病棟業務の面白さを早く体験させ、うまく能力を伸ばしていくことが私たちの努めだと思うのです。

山本 4年制課程を卒業したわれわれが、自分たちに何が足りないのかを真摯に振り返って明らかにし、きちんと病棟薬剤業務を体系づけていけば、6年制課程の薬学教育を受けた薬剤師は先輩たちの背中を見て成長できると思います。私は、薬剤師にこれから必要なのは、サイエンスする能力だと思うのです。今までの業務は先輩のまねをしたり参考にすればできることが多かった。ところが一歩進んだ処方提案をしようと思うと、発生した事象を深く見つめ、より真実に近づいていく能力が必要になります。それはとりもなおさず「科学する力」なのです。薬剤師が大学でずっとトレーニングしてきた能力を、もっと伸ばさなければいけないと思います。

■病棟薬剤業務の今後の展望山本 これから病棟薬剤業務が定着し充実していけば、薬剤

師が処方を設計して医師に相談、提案することは増えます。特に今後、CDTM(共同薬物治療管理業務)のように医師との契約に基づいて薬剤師が処方をオーダーするようになったら、薬剤師はその内容に責任を持てるでしょうか。

西川 責任を取らなければいけない時代が来るでしょうね。自分の言葉の重みを知っておかなければいけないと思います。また、責任に対する教育も必要になりますね。

栗谷 それについては、今後法的整備が必要になります。また見方を変えれば、それだけ薬剤師は評価を受けていいはずだと思うのです。

山本 現在は病棟薬剤業務は医師の業務軽減が大きな目的となっていますが、薬剤師がその能力を発揮すればするほど医師は薬のことは薬剤師に任せるようになり、当然薬剤師の責任も重くなります。これからの薬剤師は法的責任に耐える覚悟を持たなければいけないということです。では最後に、今後の展望、それぞれの考える病棟薬剤業務の理想像をひと言ずつお願いします。

西川 高槻病院は昨年後半から約5年間かけて全面建て替えを行っているところです。これを機に、地域医療に貢献する新しい病院に相応しい薬剤部を作っていきたいと思います。すべての病棟に薬剤師を配置し、患者さんの安全に責任の持てる病棟業務を確立するとともに、薬剤師が働きやすい環境を整備したいと思います。

久岡 患者さんに「あの薬剤師に会えてよかった」と言ってもらえる薬剤師であるためには、薬剤師自身が幸せでなければいけないと思うのです。薬剤師としての仕事も充実し、自分自身の人生が幸せだと思える生活を、みんなが築いていけるような薬剤部でありたいと思っています。

栗谷 薬剤師はマニュアルどおりに何かをするのは比較的得意です。ですから病棟での安全管理においてはしっかりその役割を果たせると思います。逆に、これは仕事だけに限りませんが、考えることが苦手な薬剤師が多いのです。これからはいろいろな経験を通して、自ら考え、仕事を創造できる薬剤師の育成を目標にしたいと思います。

山本 薬剤師には単に医療人としてだけでなく、人として成長していこうという意識を持ってもらいたいと思います。薬剤部長としての私の仕事は、人を成長させることのできる職場環境を整備することであり、今回の病棟薬剤業務実施加算はそのためのツールの一つが手に入ったという思いがします。2025年における病院薬剤師像を、希望を持って思い描くためにも、病棟薬剤業務を大切に育てていきたいと思います。本日は、意義深い議論をありがとうございました。

 2012年度の診療報酬改定は、「社会保障・税一体改革成案」(2011年6月)に沿って、2025年における医療・介護のあるべき姿を見据えつつ、病院・病床機能の分化・集約化と連携強化、居住系・在宅サービスの拡充、地域包括ケアシステムの構築に向けた第一歩と位置づけられています(資料1)。この大きな流れの中で、薬剤師はどのような役割を果たしていくべきかを考えていかなければなりません。「薬剤管理指導業務」が保険薬局を含めて大きく広がってきたように、新設された「病棟薬剤業務実施加算」も、今後、発展、充実していくことは間違いないでしょう。本日の座談会では、病院の開設主体や機能の違いも踏まえながら、これからの病棟薬剤業務はいかにあるべきか、薬剤師にはどのようなスキルが必要かを討議したいと思います。

座談会開催にあたって [司会] 大阪警察病院 薬剤部長 山本 克己 先生2025年の医療・介護 「社会保障・税一体改革成案」より資料1

処方変更・提案 報告書(育和会記念病院)資料2

介護療養病床

高度急性期

一般急性期

亜急性期等

長期療養

介護施設

居住系サービス

在宅サービス

○居住系�在宅�����更��拡充

��

○機能分化�徹底�連携�更��強化

療養病床 (23万床)

一般病床 (107万床)

【2011(H23)年】 【2025(H37)年】 【2015(H27)年】

(高度急性期)

(一般急性期)

(亜急性期等)

医療・介護の基盤整備・再編のための集中的・計画的な投資

介護療養病床

介護施設 (92万人分)

居住系サービス (31万人分)

在宅サービス

介護保険法改正法案 地域包括ケアに向けた取組

○介護療養廃止6年(2017(H29) 年度末まで)猶予 ○24時間巡回型サービス ○介護職員による喀痰吸引 など

医療提供体制改革の課題 医療機能分化の推進

○急性期強化、リハ機能等の確 保・強化など機能分化・強化 ○在宅医療の計画的整備 ○医師確保策の強化 など

報酬同時改定(2012)の課題 医療・介護の連携強化

○入院~在宅に亘る連携強化 ○慢性期対応の医療・介護サービスの確保 ○在宅医療・訪問看護の充実 など

地域�密着��病床��対応

一般病床 長期療養 (医療療養等)

介護施設 居住系サービス

在宅サービス

○ 病院・病床機能の役割分担を通じてより効果的・効率的な提供体制を構築するため、「高度急性期」、「一般急性期」、「亜急性期」など、ニーズに合わせた機能分化・集約化と連携強化を図る。併せて、地域の実情に応じて幅広い医療を担う機能も含めて、新たな体制を段階的に構築する。医療機能の分化・強化と効率化の推進によって、高齢化に伴い増大するニーズに対応しつつ、概ね現行の病床数レベルの下でより高機能の体制構築を目指す。 ○ 医療ニーズの状態像により、医療・介護サービスの適切な機能分担をするとともに、居住系、在宅サービスを充実する。

�施設����地域����医療����介護��

将来像に向けての医療・介護機能再編の方向性イメージ

3 出所:社会保障改革に関する集中検討会議資料 2011年5月19日