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「産婦人科診療ガイドライン 産科編 2014」 改訂と追加のポイント 千葉市立海浜病院 飯塚美徳 2014年5月17日 第32回千葉県母性衛生学会学術集会

「産婦人科診療ガイドライン 産科編 2014」 改訂と …square.umin.ac.jp/chiba-bo/meeting/images/dr_iizuka.pdf産科編2014の主な改訂・追記点 • CQ&A総数が87から104に増加した(CQ番

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「産婦人科診療ガイドライン 産科編2014」

改訂と追加のポイント

千葉市立海浜病院 飯塚美徳

2014年5月17日 第32回千葉県母性衛生学会学術集会

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産科編2014の主な改訂・追記点  •  CQ&A総数が87から104に増加した(CQ番号が一部変更)。

•  電子書籍化を行った。 •  解説を簡略化し、解説はAnswer番号順(Answerと解説番号を一致させた)とした。

•  Answer末尾動詞に関して「認識する」、「考慮する」等を可能な限り少なくし、「検討する」あるいは「説明する(尋ねられたら)」等に変更した。

•  索引を設けた。

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主な改訂・追記点  •  引用文献にPMID番号を付した。電子書籍版では、引用文献PMID番号クリックのみで当該論文抄録ページ(PubMedの)へ到達する。電子書籍でない場合には、PubMedというkey wordで検索し、Home-PubMed-NCBI (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed) に入り、Search window左側に「PubMed」が表示されていることを確認後にSearch欄に8桁番号(PMIDの)を入れ、Searchをクリックすると当該論文抄録に行き着ける。さらに抄録左下方のLinkOut ‒ more resourcesをクリックするとFull Text Sourcesが表示され、それらのいずれかから、full textを得られる場合がある。

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•  CQ004 妊婦肺血栓塞栓症/深部静脈塞栓症のハイリスク群の抽出と予防は?

         ↓

•  CQ004-1 妊娠中の静脈血栓塞栓症(VTE)の予防は? 

•  CQ004-2 分娩後の静脈血栓塞栓症(VTE)の予防は? 

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表004-1:妊娠中のVTE危険因子 第1群. 妊娠中に抗凝固療法が必要な女性 1)妊娠成立前よりVTE治療(予防)のための抗凝固療法が行われている。 2)VTE既往2回以上。 3)VTE既往は1回、かつ以下のいずれかがあてはまる。

a) 血栓性素因†がある b) 既往VTEはi) 安静・脱水・外科手術と無関係、ii) 妊娠中、あるいはiii) エストロゲン服用中 c) 両親のいずれかにVTE既往がある

第2群. 「妊娠中の抗凝固療法」を検討するべき女性 1)VTE既往が1回あり、安静、脱水、手術などの一時的危険因子によるもの。 2)VTE既往はないがアンチトロンビン欠損症(あるいは欠乏症)、抗リン脂質抗体中高力価持続陽性(CQ204抗リン脂質抗体症候群診断基準参照)があるもの

3)VTE既往はないが血栓性素因†(プロテインC欠損症[欠乏症]、プロテインS欠損症[欠乏症])があるもの

4)以下のような疾患 (状態)の存在(妊娠期間中、あるいは一時期)   心疾患、肺疾患、SLE (免疫抑制剤服用中)、悪性腫瘍、炎症性消化器疾患、多発関節症、ネフローゼ症候群、鎌状赤血球症(日本人には稀)

第3群. 以下の危険因子を3つ以上有している女性(妊娠期間中、あるいは一時期)   ≥35歳、BMI>25kg/m2、喫煙者、表在性静脈瘤が顕著、全身感染症、四肢麻痺・片麻痺等、妊娠高血圧腎症、脱水、妊娠悪阻、卵巣過剰刺激症候群、多胎妊娠、両親にVTE既往歴、 安静臥床

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CQ004-1妊娠中の静脈血栓塞栓症(VTE)の予防は?

Answer 1. 表004-1の第1群に対して、妊娠期間中に予防的抗凝固療法を行う。(B)

2. 表004-1の第2群に対して、妊娠期間中(あるいは一時期)の予防的抗凝固療法を検討する。(B)

3. 表004-1の第3群に対して、妊娠期間中(あるいは一時期)の予防的抗凝固療法を検討する。(C)

4. 表004-1の第2群に対して、妊娠期間中の手術後には予防的抗凝固療法を行う。(B)

5. 表1に示すリスク因子を有する妊娠女性には発症リスクを説明し、下肢挙上,膝の屈伸,足の背屈運動,弾性ストッキング着用などを勧める。(C)

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CQ004-1妊娠中の静脈血栓塞栓症(VTE)の予防は?

Answer 6. 妊娠中の抗凝固療法には未分画ヘパリンを用いる(外科手術後には低分子量ヘパリン使用可能)。(C)

7. 手術後以外に低分子量ヘパリンを用いる場合には文書による同意を得る。(B)

8. 分娩・手術前には、未分画ヘパリンを3-6時間前までに中断する(B) 9. ヘパリン(未分画/低分子量)投与時には有害事象に注意し以下を行なう。

 1)PT,APTT,血小板数,肝機能などを適宜測定・評価する.(B)  2)重篤な有害事象としてHIT(heparin-induced thrombocytopenia)があるので、血小板数推移に注意する.(B)

 3)硬膜外麻酔などの刺入操作/カテーテル抜去には適切な時間間隔を設ける(解説参照).(B)

10. 妊娠前からワルファリンが投与されている場合はすみやかに未分画ヘパリンに切り替える(解説10参照)。(A)

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表004-2:分娩後のVTE危険因子 第1群. 分娩後抗凝固療法が必要な女性    VTE既往が1回以上ある    妊娠中にVTE予防(治療)のために長期間抗凝固療法が実施された

第2群. 分娩後抗凝固療法(通常、3日間以上)あるいは間欠的空気圧迫法が必要な女性    1)血栓性素因†があり、3群に示す危険因子を有している    2)BMI> 40 kg/m2    3)以下のような疾患 (状態) を有している   心疾患、肺疾患、SLE (免疫抑制剤服用中)、悪性腫瘍、炎症性消化器疾患、多発関節症、ネフローゼ症候群、鎌状赤血球症(日本人には稀)

第3群. 分娩後抗凝固療法(通常、3日間以上)あるいは間欠的空気圧迫法が考慮される女性  1) 以下の危険因子を2つ以上有している.    帝王切開、≥35歳、BMI>30kg/m2、3回以上経産婦、喫煙者(1日に10本以上)、    分娩前安静臥床≥2週間、表在性静脈瘤が顕著、全身性感染症、四肢麻痺・片麻痺等、   産褥期の外科手術、妊娠高血圧腎症、分娩所要時間≥36時間、    輸血を必要とする分娩時出血、両親のいずれかにVTE既往  

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CQ004-2分娩後の静脈血栓塞栓症(VTE)の予防は?

Answer 1. 早期離床を勧める。(C) 2. 表004-2の第1群女性に対して、分娩後抗凝固療法を行う。(B)

3. 表004-2の第2群女性に対して、「分娩後抗凝固療法」あるいは「間欠的空気圧迫法」を行う。(B)

4. 表004-2の第3群女性に対して、「分娩後抗凝固療法」あるいは「間欠的空気圧迫法」を行う。(C)

5. 表004-2に示すリスク因子を有する女性には発症リスクを説明し、下肢挙上,膝の屈伸,足の背屈運動,弾性ストッキング着用などを勧める。(C)

6. 未分画ヘパリンは分娩後6~12 時間後(止血確認後は直後からでも可)から開始し、5,000単位を1日2回皮下注する(低分子量ヘパリンに関しては解説参照).(B)

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CQ004-2分娩後の静脈血栓塞栓症(VTE)の予防は?

Answer 7. 抗凝固療法の変更(ヘパリン等からワルファリンへ)時は、両薬剤併用期間を設ける。(B)

8. 間欠的空気圧迫法については、以下のように行う。   1)分娩前に問診・触診で下肢静脈血栓症の有無を検討しておく。(C)

  2)手術中(帝王切開や産褥期の他の手術)より開始する。(C)   3)歩行可能となるまで行う。(B)   4)抗凝固療法併用時には歩行開始時に中止してよい。(B)   5)経膣分娩後では歩行困難な期間のみ使用する。(B) 9. 帝王切開は砕石位でなく,仰臥位あるいは開脚位で行う。(C) 10.ワルファリンおよびヘパリンは授乳中の女性に投与することができる.(A)

11. ヘパリン投与時の血液検査や硬膜外麻酔カテーテル抜去などに関してはCQ004-1を参照する。(B)

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CQ104 妊娠中に投与された薬物の胎児への影響について質問されたら?

↓ CQ104-1医薬品の妊娠中投与による胎児への影響について質問されたら? 

CQ104-2添付文書上いわゆる禁忌※の医薬品のうち、特定の状況下では妊娠中であっても投与が必須か、もしくは推奨される代表的医薬品は? 

CQ104-3 添付文書上いわゆる禁忌※の医薬品のうち、妊娠初期に妊娠と知らずに服用・投与された場合(偶発的使用)でも、臨床的に有意な胎児リスク上昇はないと判断してよい医薬品は?  

CQ104-4添付文書上いわゆる有益性投与※※の医薬品のうち、妊娠中の投与に際して特に胎児・新生児に対して注意が必要な医薬品は? 

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CQ104-2 添付文書上いわゆる禁忌※の医薬品のうち、特定の状況下では妊娠中であっても投与が必須か、もしくは

推奨される代表的医薬品は?

※ 「添付文書上いわゆる禁忌」とは、添付文書の記載として以下のいずれかをいう。

1)『使用上の注意』の『妊婦、産婦、授乳婦等への投与』項目に以下の記載がある

 ・投与を避けること。 ・使用しないこと。 ・投与しないこと。

 ・投与しない。 ・絶対に投与しないこと。 2)妊婦または妊娠している可能性のある婦人は禁忌、あるいは原則禁忌との追記がある

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CQ104-2 添付文書上いわゆる禁忌※の医薬品のうち、特定の状況下では妊娠中であっても投与が必須か、もしくは

推奨される代表的医薬品は? Answer 1.表1に示す医薬品は各々特定の状況下では妊娠中であっても投与が必須か、もしくは推奨される。(B)

表1

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CQ104-3 添付文書上いわゆる禁忌※の医薬品のうち、妊娠初期に妊娠と知らずに服用・投与された場合(偶発的使用)でも、臨床的に有意な胎児リスク上昇はないと判断し

てよい医薬品は? Answer 1.表1に示す医薬品は、妊娠と知らずに服用・投与された場合、臨床的に有意な胎児リスク上昇はないと判断する。(B)

2.表1に示す医薬品のうち、服用・投与中止可能な医薬品については中止する。(B)

3.表1に示す医薬品のうち、服用・投与が不可欠な医薬品については、より胎児に安全で治療効果が同等の代替薬があればその医薬品に変更し、そうした代替薬がない場合には継続に伴う胎児リスクを説明した上で投与を継続する。(B)

4.表1に示す以外の添付文書上いわゆる禁忌※の医薬品については、妊娠と知らずに服用・投与された場合、その胎児リスクは個々に判断する。(B)

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CQ104-3 添付文書上いわゆる禁忌※の医薬品のうち、妊娠初期に妊娠と知らずに服用・投与された場合(偶発的使用)でも、臨床的に有意な胎児リスク上昇はないと判断し

てよい医薬品は? 表1

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CQ104-4 添付文書上いわゆる有益性投与※※の医薬品のうち、妊娠中の投与に際して胎児・新生児に対して特に注意が必要な

医薬品は?

※※ 「添付文書上いわゆる有益性投与」とは、添付文書における『使用上の注意』の『妊婦、産婦、授乳婦等への投与』項目に、CQ104-2およびCQ104-3で示した「添付文書上いわゆる禁忌」に相当する記載以外の記載がなされているものをいう。

<記載例> ・投与しないことを原則とするが、やむを得ず投与する場合には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する。

・投与しないことが望ましい。 ・投与しないことを原則とするが、特に必要とする場合には慎重に投与すること。

・治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。

・慎重に投与する。 ・大量または長期間投与しないこと。  など

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CQ104-4 添付文書上いわゆる有益性投与※※の医薬品のうち、妊娠中の投与に際して胎児・新生児に対して特に注意が必要な

医薬品は?

Answer 1.表1に示す医薬品は、妊娠中の投与に際して胎児・新生児に対して特に注意する。(B)

表1

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CQ106 NT(nuchal translucency)肥厚が認められた時の対応は? 

↓ CQ106-1 胎児異常の有無(出生前診断)について問われたら?  CQ106-2 超音波検査を実施する上での留意点は?  CQ106-3 NT(nuchal translucency)肥厚が認められた時の対応は?  CQ106-4 胎児大腿骨長(FL)の短縮が疑われた場合には?  CQ106-5 出生前診断としての染色体検査・遺伝子検査の実施上の留意点は?  

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CQ106-1 胎児異常の有無(出生前診断)について問われたら?

Answer 1. 以下のような認識を持って回答する(B) 1)  異常発見時には、種々の精神的葛藤が予想され、検査実施前のカウンセリングやインフォームドコンセント(告知範囲等についての)が重要

2)  約3~5%の児は何らかの異常を持って生まれる

3)  出生前診断には、確定的検査(診断がほぼ確定)と非確定的検査(正確な診断には確定的検査がさらに必要)との2つがある。両者とも一部の施設で実施されている(CQ106-2~5参照)

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対象となる 胎児疾患 施行時期 検査感度* 長所 短所

非確定的検査

血清マーカー                (クアトロ検査)

胎児染色体異常 15~20週 81%7) 検査が陰性の場合には、羊水検査を回避できるかもしれない 胎児二分脊椎の診断につながるかもしれない

確定診断ではない 対象となる染色体異常は、18・21トリソミー (13トリソミーは対象ではない)

母体血を用いた胎児染色体検査⁑

胎児染色体異常 10週以降 99%4) 検査が陰性の場合には、羊水検査を回避できるかもしれない

確定診断ではない 対象となる染色体異常は、13・18・21トリソミー

ソフトマーカーを用いた超音波検査(妊娠初期)

胎児染色体異常 11~13週 64~70%7) 検査が陰性の場合には、羊水検査を回避できるかもしれない

確定診断ではない

ソフトマーカーを用いた超音波検査(妊娠中期)

胎児染色体異常 18週 50~75%8) 検査が陰性の場合には、羊水検査を回避できるかもしれない

確定診断ではない

形態異常検出を目的とした超音波検査

胎児疾患一般 全週数 36~56%9, 10)

胎児に対して非侵襲的 確定的検査にもなりうる

検査者によって、発見率が異なる 発見率は決して高くない

確定的検査

絨毛検査 胎児染色体異常・ 遺伝子異常

11週以降 ほぼ100% 早い週数に検査が可能 手技が困難 胎盤限局性モザイクが約1%に認められる 検査に伴う流産 1%

羊水検査 胎児染色体異常・ 遺伝子異常

15~16週以降

ほぼ100% ほぼ100%で染色体異常がわかる 手技が容易

羊水検査に伴う流産 0.3~0.5%

臍帯血検査 胎児染色体異常・ 遺伝子異常 胎児貧血など

18週以降 ほぼ100% 胎児感染、貧血も診断可能

手技が困難                   検査に伴う胎児死亡 約1.4%

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CQ106-2 超音波検査を実施する上での留意点は?

Answer 1.超音波検査は「広義の出生前診断の一つ」と説明する(尋ねられたら)。(CQ106-1参照)(A)

2.超音波検査には、「妊婦健診時に行われる『通常超音波検査』」と、「胎児形態異常診断を目的とした『胎児超音波検査』」の2つがあることを説明する(尋ねられたら)。(B)

3.「通常超音波検査」と「胎児超音波検査」のいずれであっても、目的、意義および異常発見時の告知範囲等についての事前インフォームドコンセントを得る。(C)

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CQ106-2 超音波検査を実施する上での留意点は?

Answer 4.「通常超音波検査」の目的は以下と説明する(尋ねられたら)。(B) 1)妊娠初期 ・異所性妊娠、枯死卵、子宮内胎児(胎芽)死亡、絨毛性疾患等の異常妊娠の有無(CQ203、204参照)

・妊娠週数決定の補助診断(CQ009参照) ・胎児数の確認と多胎時の膜性診断(CQ701参照) ・子宮および付属器異常の有無(CQ504参照) 2)妊娠中期・後期 ・胎児発育の評価(CQ001、CQ307-1参照) ・胎位・胎向の評価(CQ001参照) ・胎児付属物の評価(胎盤の位置、羊水量)(CQ001、CQ304、CQ305、CQ306-1、CQ306-2参照)

・子宮頸管長の評価(CQ301、CQ302参照)

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CQ106-2 超音波検査を実施する上での留意点は?

Answer 5.「胎児超音波検査」については以下のように認識する 1)インフォームドコンセント後に実施する。(C) 2)全妊婦を対象とした標準検査ではない。(B) 3)二段階で実施される(スクリーニングと精密検査)場合がある。(C) 4)スクリーニングの至適時期は、妊娠10-13週、妊娠18-20週および妊娠28-31週とする報告が多い。(B) 5)染色体異常検出に関しては非確定的検査である(CQ106-1参照)。(A) 6)胎児染色体異常の診断を目的とした精密検査では、実施前(後)に遺伝カウンセリングを行う。 (C)

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CQ106-4 胎児大腿骨長(FL)の短縮が疑われた場合には?

Answer 1. 胎児四肢長管骨のすべて(大腿骨,脛骨,腓骨,上腕骨,橈骨,尺骨)を計測し,平均からの偏差(SD)で短縮の程度を評価する (C)

2.  FLが-3~-4SD以下の短縮を認める場合は,胎児発育不全,染色体異常,骨系統疾患も想定し,高次施設に紹介する (C)

3. 精密検査と正確な鑑別診断が可能な施設は現状では限られていることを考慮して対応する (B)

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CQ106-5 出生前診断としての染色体検査・遺伝子検査の実施上の留意点は?

Answer 1.  染色体検査・遺伝子検査は、遺伝カウンセリング・インフォームドコンセント後に実施する。(C)

2.  絨毛、羊水、および臍帯血検査はそれぞれ確定的検査となり得ると説明する(CQ106-1表1参照)。(B)

3.  母体血清マーカー検査および母体血を用いた胎児染色体検査は、非確定的検査と説明する(CQ106-1表1参照)。(B)

4.  母体血を用いた胎児染色体検査の対象疾患は、現時点では21トリソミー、18トリソミー、および13トリソミーに限定されていると説明する。(C)

5.  マイクロアレイ解析法などの網羅的遺伝子解析の結果には、臨床的に診断意義が不確定なものが存在すると説明する(C)。

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CQ202 妊娠12週未満の流産診断時の注意点は?

Answer 1.異所性妊娠(子宮内外同時妊娠を含む)の否定に努める。(A)

2.胎芽・胎児が確認できない場合、適切な間隔をあけて複数回診察した後で、稽留流産と診断する。(B)

3.流産診断後の取り扱いは以下のようにする。  I. 稽留流産・不全流産・進行流産 1)待機的管理、あるいは外科的治療(子宮内容除去術)を行う。(A)

2)胞状奇胎にも留意し、また子宮内容遺残による予定外の入院・手術の危険があることを説明する。(B)

 II. 完全流産は外科的治療(子宮内容除去術)を行わずに経過を観察する。(C)

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CQ309-1 妊娠高血圧腎症の診断と取り扱いは?

Answer 診断について 1.  以下の場合、随時尿中の蛋白とクレアチニンを定量し蛋白/クレアチニン比を求める. (C) 1)  高血圧妊婦に試験紙法で蛋白尿≥1+が検出された場合 2)  正常血圧妊婦に試験紙法で蛋白尿1+が連続2回あるいは、

≥ 2+が検出された場合 2.  蛋白/クレアチニン比 > 0.27は24時間尿中蛋白量 > 0.3gに相当すると説明する (尋ねられたら). (C)

3.  蛋白尿 (≥1+) が検出されている妊婦に, 高血圧(収縮期血圧≥140mmHgあるいは拡張期血圧≥90mmHg)を認めたら、0~48時間後に血圧再検と蛋白尿定量検査(随時尿中の蛋白/クレアチニン比あるいは24時間蓄尿中の蛋白定量)を行う. (C)

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CQ309-1 妊娠高血圧腎症の診断と取り扱いは?

Answer 管理(診断後)について 4.  原則として入院管理する.(B) 5.  血圧, 母体体重, 血液検査 (血算, アンチトロンビン活性, AST/LDH, 尿酸)結果, 尿

検査結果, 胎児発育, ならびに胎児well-beingを定期的に評価する.(B) 6.  早発型(32 週未満発症例)は低出生体重児収容が可能な施設と連携管理する.

(B) 7.  腹痛(上腹部違和感), 嘔気嘔吐, 頭痛, 眼華閃発などを訴えた場合,以下を検査す

る. 1)血圧測定 (A) 2) NST(A) 3) 以下のすべてを含む血液検査 (B) 血小板数、血中アンチトロンビン活性、AST/ALT/LDH  4) 超音波検査(C) 8.  36週以降の軽症の場合,分娩誘発を検討する.(B) 9.  経腟分娩時は,血圧を定期的に測定するとともに、緊急帝王切開に備えて、飲食を

制限し, インフォームドコンセントを得ておく.(B) 10.  分娩中は分娩監視装置を用いて連続的胎児心拍数モニタリングを行う.(B) 11.  降圧薬使用に関しては表 2 を参考にする.(B)

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CQ316分娩時大出血への対応について

CQ311-1産後の過多出血(PPH)、その原因と対応は?  CQ311-2「産科危機的出血」への対応は? 

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CQ 311-1 産後の過多出血(PPH),その原因と対応は?

Answer 1.  産後の過多出血(PPH: postpartum hemorrhage)とそれに引き続く産科危機的出血は妊産婦死亡の一大原因と認識する. (B)

2.  PPH予防のために分娩第3期の積極的管理を行う(C) 3.  産後出血量が500mL(帝王切開では1000mL)を超えた場合はPPHを疑い,初期治療を開始する.(311-2参照)(C)

4.  PPH時には,弛緩出血,産道損傷,胎盤遺残,子宮内反症,子宮破裂,ならびに羊水塞栓症などによる血液凝固異常等を想定し、系統的原因検索を行う.(C)

5.  大量出血および出血性ショック時には産科危機的出血の対応(CQ311-2)を参照し治療する. (B)

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CQ313 HELLP症候群・臨床的急性妊娠脂肪肝の早期発見法は?

Answer 1.  上腹部症状(食欲不振、悪心・嘔吐、痛み、上腹部違和感、極度の倦怠

感)出現時にはHELLP症候群・臨床的急性妊娠脂肪肝を疑う. (C) 2.  以下の場合、血小板数、アンチトロンビン(以後、AT) 活性、ならびに

AST/LDHを測定する. 1)  妊娠高血圧腎症妊婦 (B) 2)  妊娠33週以降双胎妊婦 (C) 3)  妊娠30週以降に上腹部症状(食欲不振、痛み、違和感)を訴えた妊婦 (C) 4)  蛋白尿(≥2+)示した妊婦 (C) 5)  異常体重増加、あるいは減少を示した妊婦(C)

3.  妊娠性血小板減少症(<13万/μL、解説参照)や妊娠性AT欠乏症(活性<65%、解説参照)ではHELLP症候群や急性妊娠脂肪肝発症に注意する。(C)

4.  上記3.のいずれかが確認された妊婦においては以下の項目を含む血液検査を適宜実施する. (C) 血小板数、AT活性、AST/ALT/LDH、尿酸

5.  AST高値(>45 IU/L)、LDH高値(>400 IU/L)の両者を満たし、さらに以下の基準を満たす場合、HELLP症候群あるいは臨床的急性妊娠脂肪肝を疑う. (C) 1)  血小板数< 12万/μL: HELLP症候群 2)  AT 活性 <60%、かつ血小板数≥12万μL:臨床的急性妊娠脂肪肝

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CQ314:授乳に関する注意点は? Answers 1.  直接授乳が困難な場合は,搾母乳を勧める.(C) 2.  以下の場合は,授乳中止を勧める.(B)

–  母親がHIV感染症 –  新生児がガラクトース血症 (断乳を考慮する母親服用薬剤についてはCQ104-5参照)

3.  断乳には乳汁分泌抑制薬を使用することができる.(C)

4.  乳房腫脹,疼痛,発熱などを訴えた場合,乳房緊満,乳腺炎,あるいは乳腺膿瘍の可能性を考える.(B)

5.  乳房緊満の予防には,出産後早期の授乳開始や授乳指導を行い,乳汁分泌を促す.(C)

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CQ314:授乳に関する注意点は? Answers 6.  乳腺炎に対しては

–  搾乳や消炎鎮痛剤投与等を行う.(C) –  24時間以内に症状が改善しない場合や,急速に症状が悪化する場合には,抗菌薬を投与する.(B)

–  長時間乳腺炎症状が持続した場合や症状が強い場合は,細菌培養を行う.(B)

7.  乳腺膿瘍に対しては –  穿刺あるいは皮膚切開で排膿する.(B) –  難治性の乳腺炎,乳腺膿瘍の場合,MRSA感染症や悪性腫瘍の可能性を検討する.(B)

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CQ315 産褥精神障害の取り扱いは?

Answer 1.産褥期は精神障害が起こりやすいので注意する。(B) 2.診断・治療に際しては、精神疾患に関する知識・経験が豊富な医師に必要に応じて相談し、精神面への継続的支援体制の構築(医療・行政を含めた)を検討する。(C) 3.薬剤の大半は授乳可能(CQ104-5参照)だが、母乳育児が原疾患悪化(寝不足等により)を来す可能性が高い場合には断乳を勧める(C)。

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CQ406  吸引・鉗子分娩の適応と要約,および,施行時の注意事項は?

Answer 1. 吸引手技ならびに鉗子手技は急速遂娩法として実施する.( A) 2. 吸引・鉗子は原則としてその手技に習熟した医師本人,あるいは習熟した医師の指導下で医師が行う.(B)

3. 吸引・鉗子による分娩中は可能な限り胎児心拍数モニターを行う.(C)

4. 以下の場合,吸引・鉗子分娩の適応がある.(B) ・分娩第 2 期遷延や分娩第 2 期停止 ・母体合併症(心疾患合併など)や母体疲労のため分娩第 2 期短縮が必要と判断された場合

・胎児機能不全(non reassuring fetal status) 5. 吸引手技を実施する場合は以下を満たすことを条件とする. ・34 週以降(C) ・児頭骨盤不均衡の臨床所見がない(A) ・子宮口全開大かつ既破水(B) ・児頭が嵌入している(解説参照)(B)

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CQ406  吸引・鉗子分娩の適応と要約,および,施行時の注意事項は?

Answer 6. 原則として陣痛発作時に吸引・鉗子牽引する.(B) 7. 吸引分娩における総牽引時間(吸引カップ初回装着時点から複数回の吸引分娩手技終了までの時間)が 20 分を超える場合は,鉗子分娩あるいは帝王切開を行う.(B)

8. 吸引分娩総牽引時間 20 分以内でも, 吸引術(滑脱回数も含める)は 5 回までとし,6 回以上は行わない.(B)

9. 鉗子分娩は出口部,低在(低位),低い中在(中位)において,かつ,矢状縫合が縦径に近い場合(母体前後径と児頭矢状径のなす角度が 45 度未満)においての施行を原則とする.回旋異常に対する鉗子や高い中在の鉗子は,本手技に特に習熟した者が施行または指導することが必要である.(B)

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子宮底圧迫法 (クリステレル胎児圧出法)

•  「クリステレル胎児圧出法」はKristellerが1867年に初めて提唱した手技であり,分娩第2期において,子宮の収縮力と子宮内圧を高めるために使用されている.

•  この手技(オリジナル)は,子宮底に両手の手掌をおいて子宮をマッサージすること,ならびに産道の長軸方向に向かって短時間に何度も押すことを意味していた。

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子宮底圧迫法 (クリステレル胎児圧出法)

分娩第2期において,子宮の収縮力と子宮内圧を高めるために使用 オリジナルは(Kristeller’s procedure 1867) → 子宮底に両手の手掌をおいて子宮をマッサージする. 産道の長軸方向に向かって短時間に何度も押す.

Waszynski  E.  Ginekol  Pol.  2008,  79,  297-­‐300

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子宮底圧迫法の実施条件 1) 急速遂娩が必要と判断される 2) 子宮口全開大,かつ先進部がステーション+4~+5に達している.あるいは「吸引・鉗子分娩時の補助として必要」と判断される

3) 双胎第一子ではない 4) 手技者は分娩台のかたわらに立ち実施する    5) 陣痛発作に合わせて実施 6) 実施回数は5回以内

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CQ411 分娩監視装置モニターの読み方・対応は?

Answer 1.心拍数基線(FHR baseline)と基線細変動(baseline variability)が正常であり,一過性頻脈があり,かつ一過性徐脈がないとき,胎児は健康であると判断する.(A)

2.以下のいずれかが認められる場合,胎児well-being は障害されているおそれがあると判断する.(B)

・基線細変動の消失を伴った,繰り返す遅発一過性徐脈 ・基線細変動の消失を伴った,繰り返す変動一過性徐脈 ・基線細変動の消失を伴った,遷延一過性徐脈 ・基線細変動の減少または消失を伴った高度徐脈

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CQ411 分娩監視装置モニターの読み方・対応は?

Answer 3.基線細変動,心拍数基線,一過性徐脈の組み合わせに基づいた胎児心拍数波形のレベル分類の3~5 (異常波形軽度,中等度,高度)の場合,「胎児機能不全」と診断する.(B)

4.胎児心拍数波形のレベル分類1~5の場合表IIIを参考に対応(経過観察,監視の強化,保存的処置,急速遂娩準備,急速遂娩)を検討する.(C)

5.分娩中にレベル3 ないしレベル4 が持続する場合,分娩進行速度と分娩進行度(子宮口開大ならびに児頭下降度で判断)も加味し,定期的に「経腟分娩続行の可否」について判断する.(B)

6.上記Answer5 において,「経腟分娩困難」と判断した場合には早期に緊急帝王切開を行う.(B)

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子宮収縮薬による陣痛誘発・陣痛促進に際しての留意点:改訂2011年版

↓ CQ415-1 子宮収縮薬(オキシトシン、プロスタグランジンF2α、ならびにプロスタグランジンE2錠の三者)投与開始前に確認すべき点は?   CQ415-2 子宮収縮薬使用中にルチーンに行なうべきことは?    CQ415-3 子宮収縮薬使用中の胎児心拍数陣痛図評価後に行なうべきことは?

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CQ415-1 子宮収縮薬(オキシトシン、プロスタグランジンF2α、ならびにプロスタグランジンE2錠の三者)投与

開始前に確認すべき点は?

Answer 1.  表1ならびに表2の適応/禁忌項目を確認する. (A) 2.  文書によるインフォームドコンセントを得る. (B)

3.  投与開始前から分娩監視装置を装着する.  (A) 4.  プロスタグランジンE2錠の場合、分娩監視装置を外すのは最終内服時点から1時間以上経てからにする. (A)

5.  経静脈投与時には精密持続点滴装置(輸液ポンプ等)を用いる. (A)

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CQ415-1 子宮収縮薬(オキシトシン、プロスタグランジンF2α、ならびにプロスタグランジンE2錠の三者)投与

開始前に確認すべき点は? Answer 6.  以下3点のいずれとも同時併用は避ける. (A) 1)  吸湿性頸管拡張材(ラミナリアなど) 2)  プラステロン硫酸ナトリウム(マイリス®、レボスパ®、アイリストーマ®等)

3)  他の子宮収縮薬 7.  プロスタグランジンE2錠に引き続いて他子宮収縮薬を用いる場合、あるいは静注後にプロスタグランジンE2錠を用いる場合には、非投与期間(最終投与から他の薬剤開始までの期間)を1時間以上設ける. (A)

8.  メトロイリンテルと併用する場合にはメトロイリンテル挿入後1時間以上経てから投与を開始する. (B)

9.  基準範囲内量(表3、4、5参照)で投与を開始する. (A)

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表3:オキシトシンの使用法 (5単位を5%糖液、リンゲル液あるいは生理食塩水500mLに溶解[10ミリ単位/mL])

              開始時投与量   維持量    最大投与量     低用量法       1~2ミリ単位/分 5~15ミリ単位/分 20 ミリ単位/分       (6~12 mL/時間) (30~90 mL/時間) (120 mL/時間)   増量法:30分以上経てから時間当たりの輸液量を6~12mL(1~2ミリ単位/分)増やす。

以下1)~3)のいずれかの場合、例外的に、より高用量(4ミリ単位/分)で投与開始する方法がある。この場合であっても増量には30分以上空けるが、~4ミリ単位/分での増量が可能である。また、高用量(4ミリ単位/分)で開始する場合には、あらかじめ適用外使用方法であることについて記した文書によるインフォームドコンセント」を取得する。 1)  子宮口全開大後2時間以上経ており、第二期遷延原因として微弱陣痛と判断された場合。

2)  オキシトシンに対する感受性が極めて低いことが48時間以内に確認されている場合。 3)  双胎第一子分娩後であって、第二子分娩のための陣痛が微弱と判断された場合。

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CQ415-2: 子宮収縮薬使用中にルチーンに行なうべきことは?

Answer 1. 血圧と脈拍数を定期的にチェックし、その間隔は2時間以内とする。(B)

2. 分娩監視装置を用いて子宮収縮と胎児心拍数を連続的にモニターする。(A)

3. 5~15分ごとに胎児心拍数陣痛図を評価する. (C)

4. 以下のいずれかがあれば過強陣痛を疑う.(B) 1)子宮収縮回数>5回/10分 2)レベル3以上の異常波形(CQ411参照、軽度異常波形)出現

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CQ415-3: 子宮収縮薬使用中の胎児心拍数陣痛図評価後に行なうべきことは?

Answer 1.  以下の要件をすべて満たしている場合に増量(静脈内投与時)できる. (B)  1)子宮収縮が不十分と判断される  2)胎児心拍波形がレベル1(正常波形、CQ411参照)もしくは2(亜正常波形)

 3)前回増量時から30分以上経過している  4)最大投与量(CQ415-1表3、表4参照)に達していない 2. 子宮収縮回数>5回/10分が出現した場合には以下を検討する. (B) 1) プロスタグランジンE2錠使用中では以後の投薬を避ける。 2)静脈内投与中では、一旦1/2量以下に減量する。 3. レベル3以上の異常波形が出現した場合には以下とする. (B)  1)プロスタグランジンE2錠内服中では, 以後は投薬しない。  2)静脈内投与中では、減量 (1/2以下量への)、あるいは投与中止を検討する. 4.  上記2.ならびに3.の2)において、検討結果は速やかにカルテに記載する. (B)

5.  妊婦が異常に強い痛みを訴える場合には、減量・投与中止を検討する. (C)

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CQ 506:稀な予後不良合併症は? Answer: 1 劇症型A群溶血性連鎖球菌感染症、劇症I型糖尿病、大動脈解離、QT延長症候群、肺血栓塞栓症、羊水塞栓症、周産期心筋症などがあると認識する。(C)

2.  以下の経過が診断の端緒となる可能性があると認識する。(C) 1)  劇症型A群溶血性連鎖球菌感染症:インフルエンザ様症状に引き続い

ておこる胎盤早期剥離に似た腹痛と胎児機能不全 2)  劇症I型糖尿病:数日間持続した口渇、多飲および多尿に引き続く、

インフルエンザ様症状 3)  大動脈解離:妊娠後期~産褥期に突発する強い胸痛や背部痛 4)  QT延長症候群:原因不明の不整脈や失神発作 5)  肺血栓塞栓症:分娩後に突然起こる呼吸困難感や胸痛 6)  羊水塞栓症:破水後や分娩後の心肺虚脱(血圧低下や呼吸困難)と

止血困難な子宮出血 7)  周産期心筋症:妊娠末期あるいは産褥6ヶ月以内の呼吸困難、起坐呼

吸、咳、浮腫

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CQ605 妊婦における風疹罹患の診断とその後の児への対応は?

Answer 1.妊娠初期に,風疹抗体価(HI)測定を行う.(A) 2.妊娠初期問診項目に以下の5 点(過去3ヶ月以内の)を加える.(B)

小児との接触が多い就労,風疹患者との接触,発疹,発熱,頸部リンパ節腫脹

3.以下の場合は問診とともに風疹感染診断検査を行う. 1)風疹患者と明らかな接触があった場合 (B) 2)風疹様症状(発疹,発熱,リンパ節腫脹)があった場合 (B)

3)妊娠初期の検査でHI 抗体価256 倍以上 (C) 4.感染診断検査はペア血清HI 抗体価および風疹特異的IgM 抗体価測定を行う.(B)

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CQ605 妊婦における風疹罹患の診断とその後の児への対応は?

Answer 5.風疹HI 抗体価が16 倍以下の妊婦には,産褥早期の風疹ワクチン接種を勧める.(C) 6. 「妊娠中風疹感染」の診断には至らなかったが、その疑いが残る場合には臍帯血,新生児咽頭拭い液,新生児唾液などを用い先天感染診断を行う. (C) 7. 先天性風しん症候群が強く疑われる場合には最寄りの保健所に相談するとともに「先天性風しん症候群と診断」した場合には最寄りの保健所に届け出る. (A)

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CQ606 妊娠中にHBs抗原陽性が判明した場合は?

Answer 1.HBe 抗原・肝機能検査を行い,母子感染のリスクを説明する.(A)

2.検査結果を,配偶者・家族などへ説明するか否かは妊婦本人の意思に従う. (B)

3.内科受診を勧める.(C) 4.小児科と連携して出生児に対して「B 型肝炎母子感染防止対策」を行う.(A)

5.「B 型肝炎母子感染防止対策」を行えば授乳を制限する必要はない旨を説明する.(B)

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B型肝炎母子感染防止対策

0 1 2 3 4 5 6

(か月) (出生)

HBグロブリン筋肉注射 (200単位:1.0ml)

HBワクチン皮下注射 (5μg:0.25ml)

生後 12時間 以内

9~12

HBs抗原検査 HBs抗体検査

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CQ 803 在胎期間34~36週の早産(late preterm)児の新生児管理および退院後の注意点は?

Answer 1.出生直後に蘇生の初期処置を行う(CQ801参照).(B)

2. Late preterm児は正期産児に比べ,低血糖が起こりやすいので,児の血糖測定を行う.(C)

3. Late preterm児は正期産児に比べ,無呼吸発作がおきやすいので,児の呼吸を監視する.(C)

4. 36週未満(34週,35週)出生児については,退院前にRSV (Respiratory Syncytial Virus)感染症に関する以下の情報を提供する.(C) –  RSVに感染すると重症化しやすい. –  予防的薬剤をRSV 感染流行期に投与すると症状軽減が期待できる.

–  予防的薬剤の投与可能施設.

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CQ903-1突然発症した妊産婦の心停止(状態)への対応は?

Answer 1.  心停止が切迫した妊産婦では、心停止を防ぐために以下の処置を行う.

(C) 1)  人員を確保する。 2)  子宮が大きい場合、側臥位にするか、子宮を用手的に左へ圧排する。 3)  酸素を投与する。 4)  静脈路を横隔膜より頭側で確保し、補液する。 5)  病態の原因を考え、必要な検査・治療を行う。

2.  心停止を起こした妊産婦では、以下の蘇生措置を行う。(C) 1)  人員を確保する。 2)  子宮が大きい場合、子宮を用手的に左へ圧排する。 3)  通常の胸骨圧迫部位よりやや頭側(胸骨中心付近)で胸骨圧迫を行う。 4)  速やかに気道確保して人工呼吸を開始する。 5)  心室細動や脈拍の触れない心室頻拍を認め、かつ必要な機器を利用できる場

合には除細動(電気ショック)を行う。 6)  静脈路を確保した上で、アドレナリンを投与する。 7)  上記の母体蘇生処置に反応しない場合には帝王切開術(死戦期帝王切開)を

行う。