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未着手都市計画道路の整備に関する提言 平成17年3月30日 未着手都市計画道路の整備に関する検討委員会

未着手都市計画道路の整備に関する提言 - Nagoya · 2018. 9. 13. · 都市計画道路は、円滑な都市活動、都市の利便性の向上、良好な都市環境を確保する上

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未着手都市計画道路の整備に関する提言

平成17年3月30日

未着手都市計画道路の整備に関する検討委員会

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目 次

はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

Ⅰ.未着手都市計画道路の整備に向けて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

Ⅱ.都市計画道路の見直し ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

1.都市計画道路の考え方

2.都市計画道路の現状

3.見直しの基本的な考え方

4.見直し検討対象道路

5.道路整備の課題による現計画の再評価

6.道路整備効果による現計画の検証

7.都市計画道路の全体的な検証

8.未着手道路の見直しの公表

Ⅲ.都市計画道路整備プログラム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14

1.都市計画道路整備プログラムの必要性

2.都市計画道路整備プログラムの作成

3.道路整備効果による評価

4.事業性による評価

5.事業予算による調整

6.整備着手時期の考え方

7.都市計画道路整備プログラムの公表

Ⅳ.関係権利者への対応 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20

1.背景、基本的な考え方

2.建築制限の緩和

3.土地の固定資産税等

4.都市計画道路区域内の土地の先行取得

5.未着手道路の計画を廃止あるいは変更する場合の対応

Ⅴ.市民意見の取り入れ方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23

1.背景、基本的な考え方

2.「未着手道路の整備方針」及び「都市計画道路整備プログラム」の作成段階

3.都市計画変更の段階

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Ⅵ.今後の課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25

1.都市計画道路整備プログラムの進行管理

2.道路関連事業費の適正な配分

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はじめに

都市計画道路は、円滑な都市活動、都市の利便性の向上、良好な都市環境を確保する上

で重要な都市施設です。

名古屋市内の都市計画道路網は、大正時代に当初の都市計画決定が行われた後、市域の

拡大などそれぞれの時代背景とともに、必要な見直しを行いつつ、都市計画道路の整備が

進められてきました。

都市計画道路の大きな見直しは、第二次世界大戦で市街地の多くが被災したことにより、

終戦後、焼け野原になった市街地を中心として行われ、その際、火災延焼を防ぐ防災帯と

して、久屋大通と若宮大通という 100m道路が新たに計画されました。このような計画は

当時、全国的にもあまり例がなく、当初は広すぎる道路という批判もありましたが、現在

では名古屋市の都心部における、自動車交通の処理ばかりでなく、多くの歩行者が歩き、

みどりやうるおいのある道路として市民に親しまれています。

ところで、名古屋市においては、都市計画道路(幹線街路)の整備率が約 85%に達し

ており比較的高い整備水準となっていますが、80 年近くにわたり整備されないままの道

路も含め、未だ約 80km が事業未着手の状況となっており、これら事業未着手の都市計画

道路は整備する上でさまざまな課題を抱えています。また、近年の厳しい社会経済状況の

中で都市計画道路の整備はなかなか進まず、市の道路整備予算も年々減少しており、これ

らの事業未着手の都市計画道路の整備には、まだまだ長い年月がかかり、この間、都市計

画道路の予定地内に土地や建物を所有する市民は、将来の生活設計も立てづらいという現

状となっております。

一方、高齢社会に向けてバリアフリー化やゆとりある歩道の整備とともに、緑地など自

然環境や景観に対する市民の関心が高まり、地域環境に配慮した道路の整備が求められて

います。また、平成 14 年 4 月、名古屋市は東海地震に係る地震防災対策強化地域に指定

され、都市計画道路も避難路として、地震等の災害への対応が求められています。さらに

は、市民への道路整備についての情報提供や市民参加、市民協働のみちづくりが期待され

ています。

また、名古屋市では、今後、なごや交通戦略により、自動車利用を抑え公共交通利用を

高める各種の交通施策を総合的に展開し、公共交通と自動車の利用割合を 2010 年には、

「4 対 6」にするという数値目標を掲げています。

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このような背景のもと、名古屋市においては、事業未着手の都市計画道路の整備上の課

題を解決するための見直しを行い、市民に対して説明責任を果たしていくことが大きな課

題であると考えます。

平成 16 年 10 月に行われた、事業未着手の都市計画道路の整備についての市政アンケ

ートによると、道路の整備効果、生活環境やまちづくり、市の財政事情の厳しさなどを重

視して見直しを行うことが市民から求められています。

しかしながら、都市計画は長期にわたるまちづくりの視点から決定されているものであ

り、100m道路という先人達の先見の明を忘れ、これまでの都市計画道路を安易に廃止し

たり、縮小変更することには問題があります。

このような状況の中、未着手都市計画道路の整備に関する検討委員会におきましては、

学識者、市民の代表、行政関係者が現地調査を含めた 7 回の委員会審議を通じて、都市計

画道路の効果が適切に発揮できるように、高齢者や子どもの視点、地域環境の視点、防災

の視点など、地域のまちづくりと深く関る視点も新たに加え、計画そのものについて再評

価し、今後の事業未着手の都市計画道路のあり方について提言をまとめました。

委員会としては、名古屋市が本提言をもとに、今後、事業未着手の都市計画道路につい

て、現実と理想とする都市計画とのバランスを図りながら計画の見直しを進め、その整備

について、市民に対し十分説明し、話し合い、協力しながら、都市計画道路を地域に身近

な道路として整備されていくことを希望します。

未着手都市計画道路の整備に関する検討委員会

委 員 長 山 本 幸 司

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Ⅰ 未着手都市計画道路の整備に向けて

都市計画道路の整備を取り巻く社会経済状況は大きく変化している。現在、まちづく

りにおいては、高齢社会、バリアフリー、防災、環境、市民参加など様々なキーワード

があり、未着手都市計画道路についても、このような視点に対応すべく整備を進めてい

く必要がある。

(1)なごや交通戦略

平成 16 年 6 月に、名古屋市交通問題調査会から答申された「なごや交通戦略」

では、「まちと交通」のあるべき姿を実現するため、「環境にやさしい交通」、「まち

の賑わいを支える交通」、「安全・快適な交通」を目標に掲げ、目標の実現のために

は、自動車利用を抑え公共交通利用を高める各種の交通施策を総合的に展開するこ

とが必要であるとされている。

今後もしばらくの間は増え続けるであろう自動車交通に対し、従来のような都市

計画道路ネットワークの整備とともに、道路、鉄道等の交通機関相互の連携強化、

交通需要マネジメントの積極的な推進によって、各交通機関が適正な役割を分担す

る総合交通体系の形成をめざすことが望ましい。

(2)防災まちづくり

平成 14 年 4 月、名古屋市は東海地震に係る地震防災対策強化地域に指定され、

平成 15 年 12 月には、「東南海・南海地震が発生した場合に著しい地震災害が生ず

るおそれがあるため、地震防災対策を推進する必要がある地域」に指定された。こ

のように、名古屋市は大規模地震の発生が想定されており、名古屋市都市防災構造

化計画によって防災避難路として指定された都市計画道路の整備推進が必要である。

また、市内には木造家屋が密集し、細い街路が入り組み、幅員の広い道路がない

ため、火災時や緊急時において救助活動等に支障のある地区が存在する。このよう

な地区で、都市計画道路を整備することは、消防車や救急車の通行が可能となり、

消火活動等が速やかに行われ、市民の大切な財産と命を守ることに直結する。

市政アンケートによると、災害時における避難路や消防活動の通路、延焼防止な

どの防災機能を重視して都市計画道路の整備を進めるべきという意見が多い。

(注;市政アンケートの結果、防災空間としての道路構造を資料編(P3,P5)に記載した。)

(3)安心・安全なまちづくり

平成 22 年には市内の 65 歳以上の高齢者が、総人口の 2 割を超えると想定され

ており、高齢者や障害者などすべての人が円滑に移動できるよう道路整備でもバリ

アフリー化が進められている。

また、道路を整備する場合の基準である道路構造令が平成 13 年に改正され、子

供や高齢者・障害者などが安心して通行できるような通行空間、バス待ちや立ち話

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などの滞留空間、植栽の整備等による環境空間などをもつ「ゆとりある歩道」が求

められるようになってきている。

このような中、今後は車、歩行者や自転車、バスや地下鉄利用者などすべての道

路利用者の立場を考え、市民の生活を支える道路整備を進めていく必要がある。こ

の場合、生活道路への車の流入を抑制し、地域の交通安全を向上させるための幹線

道路整備や、歩道や自転車道の拡充整備に加え、公共交通機関であるバスが走行し、

地下鉄などを収容できる空間としての道路整備というような視点も重要である。

市政アンケートでも、市民の多くが、歩行者や自転車などが安全に通行できる歩

道の整備を望んでいる。

(注;市政アンケートの結果を資料編(P4)に記載した。)

(4)環境の重視

平成 17 年 2 月、地球温暖化防止の京都議定書が発効した。名古屋市は、これに

先駆け、平成9年に「2010 年(平成 22 年)までに市内の二酸化炭素排出総量を

1990 年(平成 2 年)の水準から 10%削減する」という独自目標を表明している。

運輸部門から発生する二酸化炭素は地球温暖化の大きな原因の一つであり、とり

わけ、名古屋市では自動車交通からの排出量の比重が高いとされている。自動車か

ら排出される二酸化炭素を抑えるためには、自動車交通を抑制する努力とともに、

交通渋滞を緩和することが重要である。

また、都市に残された貴重な自然環境や歴史・文化的資産、良好な景観や町並み

を都市の個性として積極的に評価し、それらを保全・活用していくことも、ますま

す重要になっており、都市計画道路の整備もそれらと整合を図って進めていく必要

がある。

市政アンケートでは、渋滞緩和などの道路の整備効果や文化財、自然環境等への

影響を見直しの視点として重視すべきとの意見も多い。

(注;市政アンケートの結果を資料編(P3)に記載した。)

(5)市民参加のまちづくり

これからのまちづくりを進める上で、市民参加や市民協働は欠かすことができな

い。道路の維持・管理にあたって、地元住民と協力しながら植栽の管理を行うなど

の取り組みもなされてきている。そのため、多様な価値観を持つようになった市民

のニーズを取り入れるために、広く市民の意見を聴くと同時に、行政から積極的に

情報を開示して、市民とのコミュニケーションを図ることが重要である。

とりわけ、財政事情が厳しく、投資先の選択と集中を余儀なくされる中で、道路

整備にあたっては、関係権利者や納税者である市民に対し、道路整備にかかる情報

をできるかぎり明らかにしながら、市民の意見も踏まえ、効率的な道路整備を進め

ることが必要である。

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市政アンケートによると、計画の見直しにあたり、コミュニティなど生活環境や

まちづくりとともに、厳しい市の財政事情を考慮すべきとの意見が多い。

(注;市政アンケートの結果を資料編(P3)に記載した。)

未着手の都市計画道路の整備を進める場合、上記のような社会経済状況の変化を踏

まえて、計画の見直しを行うとともに、道路の整備時期を明らかにした都市計画道路

整備プログラムを作成し、市民に公表することが今日的な課題としてきわめて重要で

ある。

このため、本委員会としては、都市計画道路の見直しの基本的な考え方と都市計画

道路整備プログラムの作成方法を提案する。また、関係権利者への対応方針、都市計

画の見直しなどを行うにあたっての市民意見のとり入れ方についての考え方を示す。

あわせて、今後の道路整備の課題について付言することとする。

本提言の構成を図-1に示す。

Ⅳ.市民意見の取り入れ方法

パブリック・コメント等

Ⅲ.関係権利者への対応 Ⅰ.都市計画道路の見直し Ⅱ.都市計画道路整備プログラム

図-1 提言の構成

建築制限の緩和 事業未着手都市計画道路の

見直しにあたっての考え方

整備予定道路の道路整備着手時

土地の固定資産税等

期の設定のあり方

Ⅴ.今後の課題

都市計画道路整備プログ

ラムの進行管理等

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Ⅱ.都市計画道路の見直し

1.都市計画道路の考え方

都市計画道路は、円滑な都市活動、都市の利便性の向上、良好な都市環境を確保す

る上で も基幹的な都市施設である。

都市内の道路は、人や物の移動といった交通用の空間であるとともに、人々が集い、

語らい、子どもが遊ぶといった日常の生活空間でもある。

その機能としては、表-1に示すように、人や物を移動させるなどの交通機能はも

とより、避難路としての防災機能や上下水道などを収容する機能などといった空間機

能、また、都市の骨格として都市構造を誘導形成するといった市街地形成機能がある。

表-1 都市内道路の機能

機能の区分 内 容

通行機能 人や物資の移動の通行空間としての機能

①交通機能 沿道利用機能

沿道の土地利用のための出入、自動車の駐停車、貨

物の積み降ろし等の沿道サービス機能

都市環境機能 景観、日照、相隣等の都市環境保全のための機能

災害発生時の避難通路や救援活動のための通路とし

ての機能 避難・救援機能

都市防災機能

災害防止機能 火災等の拡大を遅延・防止するための空間機能

(出典:実務者のための新都市計画マニュアルⅡより作成)

都市計画道路の計画にあたっては、表-2に示すような種別に分類するとともに、

その機能に応じた形態を各道路に付与することによって、道路の段階構成を明確化し

ている。

公共交通機関の

導入空間機能

地下鉄、都市モノレール、新交通システム、路面電

車、バス等の公共交通機関の導入のための空間

供給処理・通信情

報施設の空間

上水道、下水道、ガス、電気、電話、CATV、都市

廃棄物処理管路等の都市における供給処理及び通信

情報施設のための空間

能 収容空間

道路付属物のた

めの空間

電話ボックス、電柱、交通信号、案内板、ストリー

トファニチャー等のための空間

都市構造・土地利

用の誘導形成

都市の骨格として都市の主軸を形成するとともに、

その発展方向や土地利用の方向を規定する

街区形成機能 一定規模の宅地を区画する街区形成 ③市街地形成機能

生活空間 人々が集い、遊び、語らう日常生活のコミュニティ

空間

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表-2 都市計画道路の分類と機能

道路の区分 道路の機能等

都市間高速道路、都市高速道路、一般自動車道等の専ら自動車の交通の

用に供する道路で、広域交通を大量でかつ高速に処理する。 自動車専用道路

都市の拠点間を連絡し、自動車専用道路と連携し都市に出入りする交通

や都市内の枢要な地域間相互の自動車交通の用に供する道路で、特に高

い走行機能と交通処理機能を有する。

主要幹線街路

(出典:実務者のための新都市計画マニュアルⅡより作成)

2.都市計画道路の現状

市内の都市計画道路は、大正 13 年の都市計画決定以来、それぞれの時代背景の中

で必要な見直しを行いつつ整備を進めてきている。

現在、市内には表-3に示すように、都市計画道路として約 1000km が都市計画

決定され、このうち約 840km の整備が完了し、現在は約 80km において事業が進

められている。

都市計画道路の大部分を占める幹線街路については、計画延長が約850kmであり、

そのうち約 85%の整備が完了し、他の政令指定都市と比べても高い整備状況となっ

ている。

(注;他都市の幹線街路の整備状況を資料編(P5)に記載した。)

都市幹線街路 都市内の各地区又は主要な施設相互間の交通を集約して処理する道路

で、居住環境地区等の都市の骨格を形成する。

補助幹線街路

主要幹線街路または都市幹線街路で囲まれた区域内において幹線街路を

補完し、区域内に発生集中する交通を効率的に集散させるための補助的

な幹線街路である。

街区内の交通を集散させるとともに、宅地への出入交通を処理する。ま

た、街区や宅地の外郭を形成する、日常に密着した道路である。 区画街路

自動車交通以外の特殊な交通の用に供する次の道路である。

①専ら歩行者、自転車又は自転車及び歩行者のそれぞれの交通の用に供

する道路 特殊街路

②専ら都市モノレール等の交通の用に供する道路

③主として路面電車の交通の用に供する道路

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表-3 都市計画道路の整備状況

都市計画決定 整備済 未整備

道路種別 路線数

延長

(km)

延長

(km)

整備率

(%)

事業中

(km)

事業未着手

(km)

自動車専用道路 9 103.5 68.8 66.5 27.2 7.5

幹線街路 208 847.5 724.4 85.5 44.1 79.0

区画街路 76 34.9 28.6 81.9 5.3 1.0

特殊街路 35 18.9 16.2 86.0 2.6 0

計 328 1,004.8 838.0 83.4 79.2 87.5

3.見直しの基本的な考え方

市内の幹線街路は、配置密度、交通量の需給バランスともに、ほぼ十分な水準の計

画となっており、そのネットワークとしては、概ね完成したといえる状況にあるが、

未だ約 80km において事業未着手となっており、それら路線は整備する上で様々な課

題を抱えている。

このような名古屋市の都市計画道路の見直しの中心テーマは、残された個々の路線

の整備を進める上での課題をいかに解決できるかという視点からの検討にあるといっ

てよく、個々の路線の課題検討の結果として、計画の廃止や変更を行うべき路線を抽

出するという課題対応型の見直しを行うことが適当である。

具体的には、個々の事業未着手の都市計画道路ごとに、道路整備上の課題を整理し、

その解決策を提示して、道路整備の実現可能性について検討することを中心に、それ

に付加して道路の整備効果の検証を行い、事業未着手の都市計画道路の整備の実現可

能性と必要性を見極めることが適当である。さらに、見直し結果を踏まえた都市計画

道路網の全体的な検証を行うことが望ましい。

4.見直し検討対象道路

市内には、未整備の都市計画道路が約 167km あり、そのうち、事業に着手してい

ない都市計画道路は約 88km あり、その大部分が幹線街路である。

このため、この委員会においては、未整備の都市計画道路のうち、これまで事業に

着手していない幹線街路(以下、「未着手道路」という。)を検討対象とする。

(注;未着手都市計画道路の箇所図を資料編(P2)に記載した。)

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5.道路整備の課題による現計画の再評価

(1)道路整備の課題抽出

未着手道路には、大正 15 年に都市計画決定された「茶屋ヶ坂牛巻線」はじめ都市

計画決定後 50 年以上経過している路線が約 44km、30 年以上 50 年未満の路線が

約 31km あり、長期にわたり事業に着手されていない状況である。

これらの未着手道路の整備にあたっては、何らかの道路整備上の課題があると考え

られるため、その課題や道路の現状を整理した上で、これからの道路整備を考えるこ

とが重要である。対象となる未着手道路の抱える課題や現状より整理すると、主に以

下のような8つの課題路線群にまとめることができる。

① 文化財等に支障をおよぼす路線

② 公園や緑地を分断する路線

③ 商店街の存続に影響を与える路線

④ 木造住宅密集地内に存在する路線

⑤ 一定の道路機能が確保されている路線

⑥ 代替ルートの考えられる路線

⑦ 堤防道路へ取り付く計画となっている路線

⑧ 道路構造等に問題のある路線

(2)個別課題に対する課題解決策の検討

未着手道路を整備する場合、路線の抱える課題により、その課題を解決する方法は

異なる。このため、まず、課題ごとに次のような課題解決策の検討が必要である。

① 文化財等に支障をおよぼす路線

道路整備によって、歴史的建造物や遺跡等の文化財に影響をおよぼさないよう

に、道路線形の変更、幅員の縮小、道路構造の工夫、計画の廃止等の検討を行い、

道路整備の方向性を定める。

② 公園や緑地を分断する路線

道路整備による、公園や緑地など自然環境等への影響を 小化するように、植

物や動物等についての調査を行った上で、道路線形の変更、道路構造の工夫等の

検討を行うとともに、公園や緑地の整備計画との整合を考慮して、道路整備の方

向性を定める。

③ 商店街の存続に影響を与える路線

商店街に道路を整備する場合、時として商店街の存続を困難にする可能性があ

るため、まちづくりをはじめとした多面的な検討をした上で、計画の廃止や変更

を含め、地元と協議することが必要である。

④ 木造住宅密集地内に存在する路線

木造の住宅が密集する地区は、火災や地震が起こると大きな被害が発生する恐

れがある。一方、道路を整備する場合には、多くの立ち退きや用地買収が必要と

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なり、地域のコミュニティに大きな影響を与える場合もある。

このため、木造住宅密集地内においては、防災空間を確保するために未着手道

路の整備は必要であるが、必要な車線数、幅員を再検討した上で、地域のまちづ

くりの視点から地元と協議することも必要である。

⑤ 一定の道路機能が確保されている路線

未着手道路の中には、以前に耕地整理や旧法区画整理などにより整備され、歩

道のある2車線以上の道路として機能し、都市計画道路として拡幅すべき幅が小

さなものがある。

このため、地域特性等を考慮し、道路構造令を柔軟に適用するとともに、市政

アンケート結果を参考に、沿道土地利用、通学路など道路の使われ方などに配慮

した、道路の「必要 低幅員」をきめ細かく設定して、現況幅員がその道路の「必

要 低幅員」を満たしているかどうかを検討する必要がある。

(注;道路の「必要 低幅員」を資料編(P6)に記載した。)

⑥ 代替ルートの考えられる路線

未着手道路が整備されていなくても、周辺の道路でその機能が代替されている

ことがある。

代替ルートが道路の「必要 低幅員」を満たし、かつ代替ルートとして適正な

機能を有する場合には、未着手道路の計画の廃止について検討する必要がある。

⑦ 堤防道路へ取り付く計画となっている路線

未着手道路の中には、堤防道路に取り付く計画になっているものがあるが、堤

防との高低差等により現計画では取り付くことができないため、取り付けが可能

となる道路線形や幅員の変更、道路構造の工夫等の検討を行う。その際には、変

更後の事業費や周辺に及ぼす影響、また、堤防道路は本来、河川管理用の通路で

あることも考慮し、河川管理者と協議しながら、計画の廃止についても検討する

必要がある。

⑧ 道路構造等に問題のある路線

交差形状や地形の処理等に問題があり、現計画では整備できない路線について

は、整備可能な道路線形や幅員の変更、道路構造の工夫等について検討する。そ

の際には、変更後の事業費や周辺に及ぼす影響等を考慮し、計画の廃止について

も検討する必要がある。

なお、都市計画変更にあたっては、詳細な測量や設計等が必要である。

⑨ 複数の課題を有する路線

未着手道路の中には、上記①から⑧のうち、たとえば、「木造住宅密集地内にあ

り、商店街の存続に影響する」というような複数の課題を有する道路がある。

これらの道路の整備については、個別課題への対応をバラバラに考えるのでは

なく、地域のまちづくりの視点から、総合的に検討する必要がある。

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(3)課題解決策の検証

都市計画道路には、幹線街路はじめ4区分の道路種別があり、それぞれが交通機能、

都市環境機能、都市防災機能、収容空間機能などを有し、道路網全体で機能している。

それらの道路が有機的に機能するため、都市計画道路の配置や道路幅員については、

一定の望ましい水準や基準が定められている。

このため、課題解決策の検討の結果、計画を変更したり、廃止する必要がある場合

には、すべての路線について、次のような検証を行う必要がある。

① 自動車交通処理の検証

計画の廃止、あるいは車線数の減少を伴う計画の変更をする場合には、当該道

路の自動車交通が円滑に処理できるか、また、周辺の都市計画道路等で慢性的な

交通混雑が起こる恐れはないか、といった検証を行う必要がある。

② 道路密度の検証

計画を廃止する場合、道路網としてその地区における道路の配置密度が適正か

どうかを検証する必要がある。この場合、既存ストック活用の視点から、都市計

画道路以外でも2車線で歩道が整備されているような道路は道路網に含めて、配

置密度を検証することが適当である。

③ 道路の断面構成の検証

道路延長の長い路線において、道路幅員の変更をする場合には、当該道路とし

ての一体性を考慮し、道路の断面構成についての検証を行う必要がある。

道路整備の課題による計画の再評価の流れを図-2に示す。

個別課題に対する課題解決策の検討

文化財 公園・緑地 商店街 木造密集市街地

線形、幅員変更等 線形変更

構造の工夫等 影響の程度等 防災性

一定の道路機能 代替ルート 堤防への道路 道路構造等

道路必要 低幅員 道路機能 線形変更

構造の工夫等

構造の工夫

事業費等

課題解決策の検証

計画を廃止する場合 計画を変更する場合

・自動車交通処理 ・自動車交通処理(車線数の変更)

・道路密度 ・道路の断面構成(幅員の変更)

図-2 道路整備の課題による計画

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6.道路整備効果による現計画の検証

今後、未着手道路を整備していく上で、その整備効果を把握することは、その道路

の必要性を考える上で重要である。整備効果の少ない道路を整備することは、無駄な

税金を投入するばかりでなく、整備の必要な道路の整備を遅らせることにもなる。

一般的に道路を整備することは、交通混雑の解消、防災性や安全性の向上などさま

ざまな効果が期待できる。

このため、未着手道路の見直しにあたっては、「Ⅱ.都市計画道路整備プログラム」

で用いる道路整備効果の評価項目により、未着手道路の整備効果を把握し、道路整備

の必要性について検証することが必要である。

7.都市計画道路の全体的な検証

個々の未着手道路について、整備の可能性と必要性を検討した上で、 後に都市計

画道路全体としての検証を行う必要がある。

この場合、名古屋市全体としての自動車交通処理の観点と道路ネットワークという

観点から検討を行うのが適当である。

8.未着手道路の見直しの公表

今後、名古屋市においては、本提言に基づき、すべての未着手道路について道路整

備上の課題を精査した上で、現計画の再評価や道路整備効果による必要性の検証、都

市計画道路の全体的な検証を行い、計画の変更や廃止も含めた「未着手道路の整備方

針」を公表することとなる。

しかしながら、地元との協議や測量、設計等を行った上で、具体的な見直しの内容

が定まる路線もある。

これらの路線については、計画の見直しの方向性を明らかにしておくべきであるが、

見直しの内容については、地元との協議や設計等を行った上で定める旨を明示してお

くことが望ましい。

「未着手道路の整備方針」の策定に至る流れを図-3に示す。

12

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①道路整備の課題による

現計画の再評価

②道路整備効果による

現計画の必要性の検証

見直しの方向性 道路整備の必要性

・道路整備効果が高い ・現計画のまま

・道路整備効果が低い ・幅員や線形の変更

・計画の廃止、現況幅員に変更

③都市計画道路の全体的な検証

・自動車交通処理(広域)

・道路のネットワーク

④「未着手道路の整備方針」

見直しの方向性

・現計画のまま

・幅員や線形の変更

・計画の廃止、現況幅員に変更

見直しの内容

・新しい幅員、延長、起終点等

・地元との協議、道路構造等の詳細検討

図-3 未着手道路の見直しの流れ

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Ⅲ.都市計画道路整備プログラム

1.都市計画道路整備プログラムの必要性

これまでのように未着手道路の整備着手時期が明らかでないと、道路整備の透明性

や公平性の確保ができないばかりか、未着手道路の計画区域内に土地等を所有する関

係権利者にとっては、今後とも将来の生活設計が立てづらい状況が続くことになる。

このため、未着手道路の整備を重点的、効果的に進めるとともに、個別の路線の整

備着手時期をあらかじめ市民に公表することが重要である。

2.都市計画道路整備プログラムの作成

未着手道路については、本提言を基に、来年度以降、名古屋市において計画の見直

しが進められ、「未着手道路の整備方針」が作成される予定であり、それを受け、都市

計画道路整備プログラムが作成される。

(1)対象とする未着手道路

都市計画道路整備プログラムにおいて、道路の整備着手時期を明らかにする道路と

しては、「未着手道路の整備方針」の中で、今後とも整備する必要性があると方向づけ

られる未着手道路(以下、「整備予定道路」という。)を対象とする。

未着手道路と整備予定道路の関係を図-4に示す。

「未着手道路の整備方針」

すべての未着手道路を①から③に整理

①現計画のまま整備

②幅員や線形を変更して整備

③計画の廃止、現況幅員に変更

都市計画道路整備プログラム

整備予定道路の整備着手時期を区分

・「未着手道路の整備方針」の①②に該当する道路

図-4 未着手道路と整備予定道路

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(2)作成方法

道路の整備着手時期を設定するにあたっては、①点数化などにより整備区間相互の

比較ができるようにするなど、市民にわかりやすくする必要があること、②関連する

まちづくり事業とのスケジュール調整が必要であること、③道路事業に伴い地域分断

や騒音の発生など負の影響もあること、④道路整備予算の総額とその配分により、個々

の路線の整備期間が変動すること、などを考慮した上で、都市計画道路整備プログラ

ムを作成するよう提案する。

具体的には、図-5に示すように、整備予定道路について、①道路整備効果による

評価と②事業性による評価を踏まえ、③事業予算による調整を加味した総合判断によ

り、それぞれの道路整備想定区間ごとに、整備着手時期を設定する方法である。

①道路整備効果による評価

・点数付け

・広域的な視点

(自動車交通の円滑化等)

・地区的な視点

②事業性による評価

・関連事業

・事業化への熟度

・道路事業に伴う生活環境等

への影響

(地域生活の利便性等)

図-5 都市計画道路整備プログラム作成の流れ

3.道路整備効果による評価

(1)評価項目と評価の基準

冒頭にも述べたように、都市計画道路の持つ機能としては、様々なものがあり、従

って、道路の整備効果としても様々な評価項目が考えられる。それらを「自動車交通

の円滑化」、「地域間の交流化」などの広域的な視点からの評価と、「地域生活の利便性」、

「公共交通の利用」、「交通安全」などの地区的な視点からの評価項目に整理した。

しかしながら、評価項目は抽象的であるため、それぞれの評価項目を代表し、客観

的に判断可能な基準として、3段階に区分した評価の基準を定めた。

③事業予算による調整

・全体の道路整備予算

・個別事業費

・用地買収面積、移転補償の

物件の数

・整備完了までの期間

総合判断

④都市計画道路整備プログラム

・整備期間の区分け

第 1 期着手路線(概ね 10 年間)

第 2 期着手路線(概ね 10~20 年間)

第 3 期着手路線(概ね 20 年後以降)

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(2)評価基準の重みづけ

整備予定道路の道路整備効果を評価するにあたっては、まず各評価項目の評価基準

により 3 段階で評価した上で、これらを重要度で重みづけして点数化し、総合点で各

路線を比較評価する。

評価項目の重みづけにあたっては、本委員会の委員、行政職員、市民それぞれに対

し、「優先的に整備すべき道路」についてのアンケート調査を行ったところ、おおむね

同じような結果が得られたことから、市政アンケートの回答結果をもとに、それぞれ

の評価項目の重みづけを行った。評価項目と評価の基準及びそれぞれの重みについて

表-4に示す。

(注:市政アンケート結果を資料編(P4)に記載した)

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表-4 評価項目、評価の基準及びその重み

点 評価項目 評価の基準

車線数が増加する路線のうち、現道が無い又は生活道路である路線 30

車線数が増加する路線のうち、現道が既に 2 車線以上である路線 15自 動 車 交 通

の円滑化 車線数が変わらない路線 0

都市内外の移動や都市内での広域移動の交通を処理すべき路線 5

都市内の各地区の移動の交通を処理すべき路線 3 地 域 間 の 交

流化 上記に該当しない路線(補助幹線道路と考えれる路線) 0

都市防災構造化計画で避難路に指定され、現道が無い又は生活道路である路線 15

都市防災構造化計画で避難路に指定され、現道が既に 2 車線以上である路線 8

点 災 害 時 の 避

難動線 上記に該当しない路線 0

主要施設(医療・福祉施設、行政機関、大規模小売店舗等)に接続する路線 10

主要施設から半径 500m 以内に存在する路線 5 地 域 生 活 の

利便性 上記に該当しない路線 0

鉄道駅へ接続する路線 10

鉄道駅から半径 500m以内又は公共交通空白地域内に存在する路線 5 公 共 交 通 の

利用 上記に該当しない路線 0

現状の歩道が2m 以下かつ路線が通過する学区の高齢者居住率が高い路線 20

現状の歩道が2m以下又は路線が通過する学区の高齢者居住率が高い路線 10交通安全

上記に該当しない路線 0

地区総合整備地区内に存在する路線のうち、木造住宅密集度が特に高い路線 10

地区総合整備地区内に存在する路線のうち、木造住宅密集度が高い路線 5

防災対策

上記に該当しない路線 0

(注1)公共交通空白地域とは、鉄道駅やバス停から 500m以上離れた地域である。

(注2)高齢者居住率、木造住宅密集度については、適切な具体的数値を用いる。

(注3)地区総合整備地区とは、都市基盤が未整備で、老朽木造住宅が密集するなど居住環境や防災面での課

題がある地区、民間による開発の誘導を含め都市機能の更新・強化をはかる地区など市内に 26 地区ある。

(注4)整備効果を評価する手法として、費用便益分析が使われることが多くある。費用便益分析は、道路整

備に伴う費用(建設費や維持管理費等)と、整備効果(渋滞緩和や交通事故の減少等)を金銭に換算し比較する

ことで、費用対効果を明らかにするものである。しかし、現在使用されている方法では、歩道を拡幅した場合

の整備効果などすべてを金銭換算することは難しい。また、未着手道路はそれぞれ有する機能が異なり、費用

便益分析を行うにあたり同一に扱うことは好ましくない。さらには、都市計画決定の段階においては、道路整

備に伴う費用や便益を算定するための計画情報が十分でないため、求められる費用便益比(B/C)は市民に対

して誤解を生じる恐れがある。このため、今回は費用便益分析により算出される費用便益比(B/C)は採用し

なかった。

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4.事業性による評価

整備予定道路を効果的、効率的に進めるためには、道路整備効果による評価とともに、

当該道路整備の事業性を考慮することが必要である。

事業性については、定性的評価が中心とならざるを得ないが、評価にあたっては、で

きるかぎり客観的な事実に基づき記述する必要がある。また、道路事業に伴う効果は正

の効果ばかりではなく負の効果もあることを記載することが必要である。

このようなことから、事業性による評価項目については、「関連事業」、「道路の事業化

への熟度」、「道路事業に伴う生活環境等への影響」を取り上げ、評価項目ごとに具体的

な評価の基準を定めた。評価項目と評価の基準を表-5に示す。

表-5 評価項目、評価の基準

評価項目 評価の基準

土地区画整理事業、市街地再開発事業、地区計画、建築協

定等の地域のまちづくりと関わりがある場合について記述関連事業

隣接する区間が事業中である場合に記述

道路の事業化への熟度 道路用地の先行取得状況や地元要望を記述

道路事業に伴う生活環境等への影響 生活環境等への影響について記述

5.事業予算による調整

道路を整備する場合、毎年の道路整備予算の中で事業を進める必要がある。また、道

路規模などにより整備費、用地買収や移転補償の件数、事業完了までの期間が大きく異

なる。

このような事柄による調整については、明確な基準を用いて行うことは難しく、名古

屋市において行政として総合的に判断されるべきものである。

しかしながら、市民への説明責任、情報公開の観点から、できるかぎり判断に用いた

基礎資料は明らかにすることが重要である。

6.整備着手時期の考え方

現在のような厳しい社会経済状況の中、名古屋市の道路整備費は平成9年度の 300

億円をピークに減少しており、平成 15 年度は 120 億円程度である。

名古屋市においては、事業中の幹線街路が約 40km あり、現在、それらの早期事業完

了を目指し道路整備が進められているが、国庫補助事業制度の改革や維持管理費の増大

により、道路整備に関わる予算は減少していくことも考えられ、事業中路線の事業完了

までには今後 5 年以上を要し、さらに、整備予定道路を加えた幹線街路の整備完了まで

には 20 年以上要すると想定される。

今後、道路整備予算の推移も不透明な中で、道路の整備着手時期を明らかにすること

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は大変難しく、将来にわたり、市民に誤解を生む恐れがあることにも留意する必要があ

る。

このようなことから、整備予定道路個々の路線の整備着手時期については、具体的な

着手年次を定めるよりは、第1期、第2期、第3期という概ね 10 年の期間を設定して

幅をもたせることが望ましい。

7.都市計画道路整備プログラムの公表

整備予定道路の整備を進める場合においては、道路の整備効果による評価、事業性に

よる評価、事業予算による調整に用いた基礎的数値など、市民に対しできる限り詳細な

情報を公開していくことが、これからの道路整備、とりわけ市民参加の視点から重要で

ある。

そのため、整備予定道路の都市計画道路整備プログラムとあわせて、整備予定道路の

道路整備想定区間について個別のカルテを作成し、市民に公表することが望ましい。

いずれにしても、未着手道路の整備着手時期を公表するにあたっては、道路整備予算

や個々の整備路線の進捗状況などにより、計画が予定通り進まないこともあり、整備着

手時期については、今後も変動がありうることを市民に十分説明するとともに、市民に

誤解を生じないよう、情報を提供することが必要である。

また、道路整備の進捗状況や道路整備予算の推移などを見ながら、適宜、都市計画道

路整備プログラムの見直しを行うことが必要である。

(注;個別カルテの様式を資料編(P9)に記載した)

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Ⅳ.関係権利者への対応

1.背景、基本的な考え方

都市計画道路の区域内に建築物を建築する場合には、都市計画法(53 条・54 条)

により、階数が2階以下で、主要構造物が木造、鉄骨造、コンクリートブロック造等

の容易に移転、除去できるものに限るなどの建築制限が課せられている。

この建築制限については、公共の福祉のために受忍すべき範囲内との判決があるが、

都市計画道路の区域内の土地については、関係権利者が土地を有効に利用できない、

土地の売買等で不利になる、道路整備時期が不明確であり、関係権利者が生活設計を

立てづらいなどといった問題点がある。

未着手道路については、今後、路線ごとに計画の見直しについて、地元住民と話し

合いなどを行い、必要な都市計画変更がなされると考える。しかしながら、道路整備

の予算は年々減少しており、また、将来の予算については不確かな状況であるため、

未着手道路の整備完了までには、今後とも長い期間がかかると予想される。

このため、未着手道路の関係権利者に対しては、建築制限の緩和など柔軟な対応を

する必要がある。

2.建築制限の緩和

名古屋市では、平成2年より、次の要件すべてに該当する区域内では、3 階建の建

築を許可するという建築制限の緩和措置を講じている。

①当該都市計画施設が都市計画決定後、相当期間(20 年以上)経過していること

②当該都市計画施設の事業着手が近い将来に見込まれていないこと

③当該都市計画施設が商業地域又は近隣商業地域(容積率 300%以上の区域)及

びそれに準ずる地域であること

④建築許可を受けようとする土地が、防火地域又は準防火地域であること

また、他都市においても、条件は異なるが3階以下の建築物を許可しており、京都

市などにおいては原則として市内全域において、3階以下の建築物を全て許可してい

る。

本委員会として、整備予定道路の整備着手時期を3区分して公表することを提言し

ており、これにより、第1期の整備予定道路については、おおむね 10 年以内に着手

することになると考えられる。

このため、整備着手時期が都市計画道路整備プログラムにおいて第1期に指定され

た整備予定道路の沿線については、事業の円滑な推進の観点から、従来の建築制限を

継続することが望ましい。

しかしながら、それ以外の整備予定道路については、近年の建築動向として、木造

3階建ての建築物が増加していることを踏まえ、他都市における事例や市政アンケー

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トの結果を参考に、これまでの建築制限の緩和措置について、さらに拡大して運用す

ることが望ましい。

3.土地の固定資産税等

都市計画道路の区域内の土地は、建築制限を受けるため、その価格は、一般的に周

辺の土地の売買価格に比べて低くなるのが実情である。そのため、名古屋市では、都

市計画道路の区域内の土地については、固定資産税等の課税のための土地の評価は、

高 50%の補正を行っており、結果として納税者の税負担が軽減されている。

今後も都市計画道路の区域内の土地については、現行どおりの補正を適用した課税

を継続することが望ましい。

4.都市計画道路区域内の土地の先行取得

都市計画道路区域内の土地の買取り希望に対しては、「公有地の拡大の推進に関する

法律」に基づき、名古屋市土地開発公社により、土地の先行取得をこれまで行ってき

た。

この制度は、土地価格が将来にわたり上昇し、事業時点での買取り価格が、先行的

に土地を買取ったときの価格と借入金の金利を加えた価格より、確実に高くなった時

代には、非常に有効な制度であった。

しかしながら、近年は経済状況の低迷により地価の下落が続いており、今後も地価

の上昇が見込めない状況となっている。

現在、名古屋市では先行取得した土地の長期保有による名古屋市土地開発公社の金

利負担が大きくなり、買戻し時の市の財政を圧迫することから、平成 13 年度以降は

10 年以内に買戻しが可能な土地(事業化が見込まれる路線)に限定して先行取得し

ている。

このような中、道路の整備については、限られた財源の中で、現在事業中路線の事

業効果の早期発現が必要であり、今後の買取り希望に対しては、当面の間は都市計画

道路整備プログラムにおいて第1期の整備着手路線に位置づけられたもののうち、10

年以内に買戻しが可能な土地を対象に対応していくことが望ましい。

5.未着手道路の計画を廃止あるいは変更する場合の対応

未着手道路の計画の廃止あるいは変更に際しては、他都市の説明会などにおいても

みられるように、従来の建築制限への補償、固定資産税等の軽減措置の継続、計画を

廃止した都市計画道路の区域内の土地の買取り要望など、関係権利者等から様々な意

見や要望が寄せられることも想定される。その場合には、誠意を持って住民の理解が

得られるように努力すべきである。

個別の都市計画道路について、計画の廃止あるいは変更を行う場合には、説明会や

公聴会等を行い、地元理解を得ることが必要である。その際には、計画の廃止や変更

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に至る経緯について、十分な説明責任を果たすことが必要である。

なお、計画を廃止した路線や現況幅員に計画を変更した路線においては、都市計画

道路として拡幅整備は行わないとしても、地域の状況を把握し、計画を廃止した後の

交通安全や防災対策などについて、地元と話し合い、地域のまちづくりを考えていく

必要がある。

また、一定の道路機能が確保されている路線のうち、現況幅員に都市計画を変更す

ることが望ましいと判断される道路については、「必要 低幅員」に基づいて、望まし

い歩道幅員や植栽帯など道路断面構成の見直しを行い、必要に応じ、道路の改築を行

うことが望ましい。

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Ⅴ.市民意見の取り入れ方法

1.背景、基本的な考え方

これからのまちづくりには、そこに生活する住民の理解と協力がこれまで以上に必

要不可欠である。都市計画の手続きの中では、計画案の作成時に案の縦覧とともに市

民意見を聴くという制度がある。

しかしながら、未着手道路の多くは 30 年以上も前の計画決定であり、現在の住民

にとっては、事業化の時点で初めて計画の存在を知るということが往々にしてあり、

時として住民に反対され、事業がストップすることがある。

未着手道路については、今後、本提言の見直しの基本的な考え方に基づき、名古屋

市において「未着手道路の整備方針」を作成し、個別路線ごとに都市計画の手続きを

行うことになるが、その際は、以下のように広く市民や地元住民に対して、情報開示

を行うとともに、意見等を聴きながらそれを計画等に反映し、道路整備を進めていく

必要がある。

2.「未着手道路の整備方針」及び「都市計画道路整備プログラム」の作成段階

名古屋市では、計画等を策定したり、規制を制定・改廃する場合には、平成 14 年

より、パブリックコメントが実施されている。これは、あらかじめ市の案を公表し、

案に対する市民の意見を募り計画等に反映させるものである。

しかしながら、これまでのパブリックコメントでは、意見募集している内容が市民

にイメージしづらい内容や配布資料が専門的で市民にわかりにくい計画の場合には、

寄せられた意見の数も少なく、十分に市民の意見が反映されたとは言い難いものも見

受けられる。

「未着手道路の整備方針」等の作成段階では、パブリックコメントを実施すること

が必要であるが、内容が専門的な事柄であり、市民に配布する資料等は、できるかぎ

り理解しやすい、わかりやすい資料を作成することが重要である。

また、配布場所や意見の受付などパブリックコメントの実施方法については、より

多くの市民意見が募れるように工夫することが必要である。

なお、「未着手道路の整備方針」は、名古屋市の将来の都市計画道路の基本的な考え

方や方向性が定められるものであり、市民とともに、都市計画やまちづくりの専門的

な立場からの意見も含め、幅広く意見を聴くことが必要であると思われる。

3.都市計画変更の段階

個別の未着手道路の計画を廃止したり、道路線形を変更したりする場合、その変更

の程度は、道路ごとに異なる。しかしながら、いずれの場合においても、未着手道路

の整備方針に基づく変更計画素案について、地元に説明し意向を確認した上で、変更

計画案を作成することが必要である。

市民等に説明し意向を確認する方法については、沿線住民に都市計画変更素案に対

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するアンケート調査を行う、沿線及び周辺住民に対し地元説明会を実施する、地元の

住民参加により道路計画について話し合いをする、などの方法が考えられる。

実際には、都市計画変更の内容や地域の状況により、これらの方法を使い分けると

ともに、柔軟に地元対応をすることが必要である。

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Ⅵ.今後の課題

名古屋市は未着手道路の計画の見直し、都市計画道路整備プログラムの作成を予定し

ており、このための基準づくりや市民意見の取り入れ方などについての考え方をまとめ

た。

本委員会としては、名古屋市が本提言をもとに、前向きに未着手道路の計画の見直し

を進め、都市計画道路整備プログラムの策定を行い、それをもって整備予定道路の整備

を効果的、効率的に進められることを期待する。

後に、今後の課題として、都市計画道路プログラムの進行管理、道路関連事業費の

適正な配分の2点について指摘しておきたい。

1.都市計画道路整備プログラムの進行管理

未着手道路のうち、整備予定道路の整備については、都市計画道路整備プログラム

の中で、将来の道路整備費を想定し、道路整備効果の早期発現と地域の均衡ある発展

が図られるよう、それぞれの道路整備想定区間の事業着手時期が明らかにされるもの

と思われる。

今後の整備予定道路は、この都市計画道路整備プログラムにより整備を進めること

が基本となるが、その整備完了はこれから20 年以上先になるものと想定される。ま

た、現時点では、将来の社会経済状況は不透明であり、さらには、用地買収が予定ど

おり実施できないなどにより、都市計画道路整備プログラムどおりに、道路整備が進

捗しないことも予想される。

このため、道路整備にあたっては毎年、個々の事業の進行状況を把握し、都市計画

道路整備プログラムに基づく事業の進行管理を行いながら、道路整備を進めることが

必要である。

2.道路関連事業費の適正な配分

道路が整備されれば、そのあと舗装の修繕や植栽の管理など道路の維持や管理が必

要となる。また、幹線街路の多くは防災避難路に指定されているため、地震対策とし

て、これまでに整備された幹線街路に架かる古い橋梁の架け替えや耐震補強が急がれ

ている。

さらに、環境にやさしくまちの賑わいを支える安全で快適な交通体系の形成をすす

めるため、一度整備された幹線街路においても、歩行者や自転車走行空間の拡充整備

やバリアフリー化の推進、電線類地中化などが進められている。

このような中、残された整備予定道路の整備を進める一方、一度整備された幹線街

路においては、通常の道路の維持・管理を行うとともに、道路に対する市民や社会の

新たなニーズへの対応を図ることが重要である。

このため、限られた道路関連事業費を道路整備費と道路の維持・管理費にバランス

良く適正に配分することが必要である。

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