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207 「伝統文化資料室」を拠点とする伝統装束着装と地域文化発信プロジェクト 研究代表者 小林 朋恵 共同研究者 青栁 隆志 【目的】 日本伝統文化学科の特性を活かした就業先として、呉服店や結婚式場、祭礼における着付け業務など、着物や伝統装 束などの知識と着装技術を必要とする分野がある。本プロジェクトは、「日本伝統文化マイスター」養成課程で培った ノウハウを発展させ、これを実際の現場で使えるように更にレベルアップし、もって日本伝統文化と職業とを連動させ ようとするものである。 【内容】 「伝統文化資料室」では、平成19年度の開設以来、他の大学には類を見ない、高度な装束着装技術の訓練を積み重ね てきたが、その成果は、平成26年度、全国の祭礼・神事に学生が招集されるレベルにまで達している。この達成を活か し、日本伝統文化学科にふさわしい、キラーコンテンツに育てようとする戦略的な取り組みである。

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「伝統文化資料室」を拠点とする伝統装束着装と地域文化発信プロジェクト�

� 研究代表者 小林 朋恵� 共同研究者 青栁 隆志

�【目的】 日本伝統文化学科の特性を活かした就業先として、呉服店や結婚式場、祭礼における着付け業務など、着物や伝統装束などの知識と着装技術を必要とする分野がある。本プロジェクトは、「日本伝統文化マイスター」養成課程で培ったノウハウを発展させ、これを実際の現場で使えるように更にレベルアップし、もって日本伝統文化と職業とを連動させようとするものである。

【内容】 「伝統文化資料室」では、平成19年度の開設以来、他の大学には類を見ない、高度な装束着装技術の訓練を積み重ねてきたが、その成果は、平成26年度、全国の祭礼・神事に学生が招集されるレベルにまで達している。この達成を活かし、日本伝統文化学科にふさわしい、キラーコンテンツに育てようとする戦略的な取り組みである。

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【学科の目標との関わり】 本学科は「日本伝統文化学科」の名称の通り、「伝統文化」についての知識と技術を提供する使命を有している。「伝統文化資料室」の設置と充実によって、常時「伝統文化」に触れられる環境が整えられるとともに、職業としての装束着装という新たな目標が設定されたことで、学生の「伝統文化」関連職種に対する関心の高まりが期待される。

【告知・アピールの方法】 装束体験等の対外的なアピールのための「伝統文化★資料室」ブログは、平成28年12月現在、430万PVに達している。

【本年度の活動報告】① 平成29年3月16日、「日本伝統文化マイスター」(8種履修)が1名認定された。 このほか、「中級」(5種履修)8名、

「初級」(3種履修)8名が認定された。② 装束着装普及活動として、各種機関より招請を受け、装束講座を実施した(28か所)。

28年5月18日(水)佐倉市生活クラブ風の村保育園佐倉東(甲冑)28年6月24日(金)東京都立山崎高等学校(平安装束)28年7月5日(火)八千代市立阿蘇中学校(来校=平安装束)28年7月8日(金)明治学院大学(平安装束)28年7月21日(木)神奈川県立旭高等学校(甲冑)28年8月5日(金)きらく庵(来校=平安装束)28年8月9日(火)着物ドリーマーズ(来校=平安装束)28年8月10日(水)八千代市立郷土博物館(博物館実習、装束)28年8月20日(土)・21日(日)千葉県立中央博物館大利根分館(甲冑)28年8月25日(木)千葉県立柏南高等学校(平安装束)

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28年9月11日(日)八千代市立郷土博物館(雅楽体験)28年10月21日(金)浦安市立入船小学校(装束体験)28年11月7日(月)千葉県立成田国際高校(装束体験)協力=早稲田大学装束研究会28年11月8日(火)千葉県立佐倉東高等学校服飾デザイン科(装束体験)28年11月11日(金)千葉県立実籾高等学校PTA(来校=平安装束)28年11月14日(月)藤村女子中学高等学校(平安装束)28年11月18日(金)明治学院大学(平安装束)協力=早稲田大学装束研究会28年12月3日(土)吟亮流吟風会吟詠発表大会構成吟(装束着装)赤羽会館講堂28年12月7日(水)八千代市立村上東小学校むらかみ・インターナショナル・子どもサミット(装束体験)28年12月15日(木)千葉県立柏中央高校(装束体験)協力=早稲田大学装束研究会28年12月18日(日)星と森披講学習会「古今伝授・源心庵」装束着装(平安装束)28年12月18日(日)八千代市立郷土博物館「八千代異文化交流フェスタ」(韓国装束)29年1月13日(金)神奈川県立荏田高等学校(平安装束)29年2月9日(木)千葉県立沼南高等学校(来校=平安装束体験)29年2月15日(水)八千代松蔭高等学校(平安装束体験)29年3月4日(土)・5日(日)千葉県立中央博物館大利根分館(平安装束)29年3月18日(土)さわら雛舟(平安装束)29年3月19日(日)八千代市立図書館(平安装束)29年3月31日(金)流山市生涯学習センター(平安装束)

③ 「伝統文化(装束)」「演習Ⅰ(日本文化)」の授業と連動して、八千代市立郷土博物館と協同で、雅楽・装束体験講座を行った。平成28年9月11日(日)八千代市立郷土博物館(雅楽体験)

Ⅰ・「雅楽体験講座」(「演習Ⅰ(日本文化)」と連動)午前の部(雅楽器体験):10:00~12:00笙・篳篥・笛各管について「越天楽」の一節を演奏体験した。午後の部(舞楽等鑑賞):13:30~14:30

「越天楽」「嘉辰」舞楽「還城楽」Ⅱ・王朝装束体験

平成29年2月5日(日)午前の部 9:30~12:00午後の部 13:00~15:15 平安朝王朝装束

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国際交流コミュニティ・サービス・プロジェクト(1)

研究代表者 周建中

共同研究者 應武マーガレット・パイン 李允希 水谷清佳 直井文子

      岡本和彦 今仲昌宏 江澤恭子 大和田栄

 本プロジェクトは、平成25~27年度に実施してきた「地域から始まる国際交流:国際言語文化学科コミュニティ・サービス・プロジェクト」を発展的に継承させ、新たに3年計画で実施するものである。八千代市が実施する各種の国際交流イベントに本学科の学生及び教員が積極的に関わり、本学と八千代市との連携を強化し、地域に根差した大学としての教育・研究活動の実績を積み上げ、コミュニティ・サービスに貢献する大学としての本学に期待される使命を果たすことを目的とする。また活動の機会の拡大のため、八千代市以外の近隣の国際交流イベントにも随時参加する。 国際言語文化学科は、英語・中国語・韓国語のうちから一つ又は複数の言語を学びながら広く言語・文化に関する理解を深め、留学をはじめとした各種の多文化間交流を実施し、コミュニケーション能力を身につけさせることを教育目標としており、本プロジェクトは、学科の教育目標に適った、学生にさまざまな実践の場を与えるプロジェクトである。

 本プロジェクト(平成28年度~30年度)の3年間での主な活動計画は、次の通りである。①「アミーゴこども土曜教室」に本学学生が可能な形でボランティアとして参加し、外国人の子ども達に日本語やその

他の学習の支援を行なう。また本学翠樟祭での移動教室などの特別教室を実施し、学生と子ども達との交流の場を設ける。

②タイラー市及びテキサス大学タイラー校、タイラー短期大学からの訪問団に対して八千代市が実施する歓迎イベントに参加し、また本学で行なわれる歓迎イベントを企画・実施することで、タイラー市民及びテキサス大学タイラー校、テキサス短期大学との相互交流を深める。

③隔年で八千代市にて実施されてきたユネスコ・アジア文化センター主催の韓国教職員招へいプログラムへの通訳派遣等に参加する。

④八千代市及び近隣の諸機関と連携して英語・中国語・韓国語教育の実践の場を学生に提供する。⑤八千代市(男女参画センター)との連携により、韓国の茶会と組紐作り等のイベントを行なう。

 今年は本プロジェクトの初年度に当たり、前プロジェクトから引き続き行なっている「アミーゴこども土曜教室」への参加、本学学園祭「翠樟祭」への招待の形を取った特別教室、同じく翠樟祭における韓国茶会と韓国組紐・チマチョゴリ体験などが主な活動となった。以下にその詳細を記す。

1.八千代市国際交流協会主催の「アミーゴこども土曜教室」 市内村上団地の中の集会室で毎週土曜日午前10時~12時に開かれている「アミーゴこども土曜教室」に、本学学生がボランティアとして継続的に参加し、外国人子弟に勉強や日本の生活習慣等を教え、彼らの自立を促し、学習を支援している。この教室に来ている子ども達は、南米、フィリピン、タイ等出身の外国人居住者の子弟が多く、本学科の学生が学んでいる英・中・韓の各言語にこだわらず、異文化間のコミュニケーション能力を発揮させて子ども達と交流する必要がある。その実践を数多く体験することにより、多文化間コミュニケーション能力の向上が期待される。 この「アミーゴこども土曜教室」には本学科の学生21名と應武マーガレット・パイン准教授が、ボランティアとして延べ85回参加した。来日直後の子どもや低学年の子ども達には、日本語の基本的な語彙や文法を教える必要がある。比較的高学年の生徒や中高生には、学校の教科に関することも教える必要がある。参加した学生は毎回の教室開始前にミーティングを開き、その日の予定と生徒の様子などについて情報交換を行ない、年代や状況に合わせて支援ができるように努力した。そして互いに共通の言語がない状況で、より上手にコミュニケーションを取るための工夫、子ども達が日本の社会に溶け込む上での問題、その解決策の検討、などを学んだ。 本学学園祭「翠樟祭」でのアミーゴ特別教室は、10月29日(土)に実施し、應武マーガレット・パイン准教授の事前と当日の指導の下に、本学科の19名の学生が参加した。同教室からの参加者は、子ども6名、保護者・一般ボランティアの方々が4名であった。このイベントの目的は、子ども達に、日本の学校で一般に行なわれている“学園祭”の雰囲気を直接に見て体験してもらうことと、本学学生に、学園祭の各種展示や企画で展開されている事柄(例えば日本の歴史や文化の展示、屋台の食べ物、各種イベントなど)をどのようにして子ども達に説明し、伝えたらよいかを学ぶ機会を与えることにあり、相互の交流が更に深まった。 この特別教室の一環で、12月17日(土)にクリスマスパーティーが開かれ、本学学生2名が参加した。

翠樟祭にて  全員集合 翠樟祭にて  次はどこへ? 2016 Amigo Christmas Party

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2.韓国茶会と折り紙でチマチョゴリ作り・チマチョゴリ着付け体験の実施 翠樟祭2日目(10 月30日)において、「韓国茶会」及び「折り紙でチマチョゴリ作り・チマチョゴリ着付け体験」を実施し、イ ユニ教授、水谷清佳准教授と国際言語文化学科学生5名が参加した。今年度は初めての試みとしてチマチョゴリ着付け体験も開催した。本イベントは学生たちが韓国の礼儀作法や挨拶、民族衣装である韓服の着付け方法の習得など韓国の伝統的な文化を身につけるとともに、八千代市民に韓国文化を深く理解してもらうことを目的とした。 学生たちは事前にイ ユニ教授より韓服の着付け、礼儀作法等の指導を受け、練習を行なった。また事前打ち合わせ、会場設営のための備品準備、折り紙の練習、前日の設営なども行なった。 当日は湯呑茶碗の数に限りがあるため、入れ替え制で1回あたり30分程度の茶会を7回行なった。イ ユニ教授が韓国茶を点て、来場者に試飲してもらいながら韓国茶の作法や韓国文化について説明した。学生は韓服を着用し、韓国の伝統的な挨拶とともに給仕を行なった。折り紙でチマチョゴリ作りでは、水谷准教授を中心に学生が来場者に対して折り方を指導した。チマチョゴリ着付け体験では来場者にチマチョゴリを着付けし、写真撮影コーナーで各自写真撮影を楽しんでいただいた。茶会については来場者38名、折り紙でチマチョゴリ作りの来場者41名、チマチョゴリ着付け体験者8名、合計87名と盛況に終わった。 参加学生は本イベントを通して韓国の伝統的な文化を肌で感じ、作法を習得することで韓国文化をより深く理解することができた。また、イベントの企画や運営方法についても学ぶことができた。八千代市民に対しては韓国文化に親しみながら本学の活動を理解してもらえる機会を提供することができた。参加学生と八千代市民の方々が交流を深めることができたこともイベントの成果の一つである。

3.ユネスコ・アジア文化センター主催の韓国教職員招へいプログラムへのボランティア通訳 「財団法人ユネスコ・アジア文化センター国際教育交流事業韓国教職員招へいプログラム」を通じて2017年1月19日から21日まで、八千代市教育委員会が韓国教職員の訪問を受け入れた。本プログラムは隔年で八千代市にて開催されており、八千代市教育委員会からの依頼を受け、教員及び学生がボランティア通訳者として派遣・参加した。 本プログラムへの参加は、実際に学生たちが韓国語通訳を体験し、実践的な韓国語力を向上させるとともに、通訳を通して日韓両国の教育制度や教育現状の実態を知ることを目的としている。19日は八千代緑が丘駅近くのレストランにて歓迎夕食会と韓国人教員・ホストファミリーとなる八千代市小中学校教員との顔合わせのため、通訳者として国際言語文化学科生5名とイ ユニ教授、水谷清佳准教授が参加した。21日には韓国教職員が八千代市教職員宅を訪問する

「ホームビジット」が行なわれ、国際言語文化学科学生7名(うち1名は韓国ガチョン(嘉泉)大学からの交換留学生)が各家庭を訪れボランティア通訳を行なった。 学生たちはボランティアではあるものの身につけた語学力を通訳者という仕事に繋げられたことで、今後の学習や進路に対する意識の変化・向上を図ることができたと思われる。また八千代市及び韓国の教職員の方々との友好を深めることができたことも大きな成果である。

 以上、本年度の活動の詳細を記したが、上述したように本学と関わることが可能な八千代市の国際交流イベントが少なかったこともあり、活動の場が限られていたように思われる。次年度以降は学生に語学を中心としたコミュニケーション実践の場をさらに提供できるよう、本プロジェクトに実際に関わる教員が偏ることなく、学科全体でより一層努力して機会を見出だすようにしてゆきたい。 以上

韓国茶会参加学生と国際言語文化学科教員

通訳ボランティア参加学生と教員

折り紙でチマチョゴリ作りレクチャー風景

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ボランティアセンター的機能の構築と展開に関するプロジェクト(3)

研究代表者 石田祥代

共同研究者 別府さおり 朝比奈朋子 宮村りさ子 西村昭徳

      菊池春樹 渡部雪子 石崎一記 中瀬雄三

1.プロジェクトの目的 本プロジェクトは平成25年度までの「ボランティア体験に根ざした学生育成と地域連携に関するプロジェクト(電話相談を含む)」を踏襲し、さらに学内にボランティアセンター的機能を構築することと下記の事項達成をねらいとしている。

①地域の行政・教育・民間機関と有機的に連携し、高等教育機関として地域に資源を還元する。②学生にボランティア体験の機会を提供し、学生の心的成長と学術的興味を促進する。③授業とリンクさせることで、ボランティア体験が発展的な学びとなるよう支え、学生の育成を図る。④学内にボランティアセンター的機能を構築・発展させ、千葉県社会福祉協議会と連携を図る。

2.プロジェクトの内容 従来のプロジェクト(平成16年度~)を通じて、①八千代市「おにいさん・おねえさん子ども電話相談」(平成16年度~平成28年度終了)、②ドリームティーチャー(17年度~)、③八千代市新川わくわくプレーパーク(平成20年度~平成28年度終了)、④八千代市フリーパレット(平成20年度~平成26年度終了)、⑤すてっぷ21(平成25年度のみ遂行)を中心に、本学におけるボランティア活動の量と質を拡大してきた。そこで、本プロジェクトでは、八千代キャンパスにボランティアのセンター的機能を構築し、さらに活動を展開させることとする。

3.プロジェクトの計画(平成28年度) 平成28年度は下記5点を事業として展開する計画とした。

①新規担当者がスムースに事業を展開できるよう情報交換・協力体制をつくる②学内におけるボランティア活動の情報提供環境を整備する③八千代市との情報交換・ネットワーク構築(事業間でのネットワーク構築)④千葉県社会福祉協議会ほかボランティアセンターとの連携づくり⑤成果の発表

4.期待される成果 下記5点を成果として想定している。

①応用心理学部ほかの学生がボランティア活動に積極的に参加し、体験を通しての学びを得る。②机上の学習と体験とを結びつけてより深い学びを学生が得るとともに、地域に貢献する人材として成長する。③大学と地域機関との協働・連携が促進・安定する。 ④大学が地域と密着した教育・研究機関として発展する。⑤より魅力ある高等教育を展開できる。

5.平成28年度の成果(1)「おにいさん・おねえさん」子ども電話相談 八千代市では、子どもたちの人権・権利擁護を図るために、市民と協働のネットワークをめざし、平成14年5月「八千代市子ども人権ネットワーク」を設立した。この「八千代市子ども人権ネットワーク」では、子どもの人権侵害の最たるものとして「児童虐待」を取り上げた。その未然防止の視点から、子ども自身が抱える様々な悩みを相談できる制度について議論するなか、八千代市に立地する東京成徳大学との協働事業として平成16年5月から「おにいさん・おねえさん」子ども電話相談を開設している。本事業は、大学生が子ども施策へ参画し、子どもと共に成長していくというねらいも有している。この電話相談の概要は下記である。

①利用対象者:八千代市在住の小中学生②電話相談員:東京成徳大学八千代キャンパスの学生で研修後、八千代市長が委嘱した人(任期は1年で該当年度末

まで)③開設時間:月から金曜日 15:30から17:00 (年末年始土日祝日を除く)④場所:八千代市子ども相談センター内 おにいさん・おねえさん子ども電話相談

 今年度は14名(うち臨床心理学科2年生4名、福祉心理学科2年生1名、臨床心理学科3年生7名、臨床心理学科4年生2名)の学生が八千代市おにいさん・おねえさん子ども電話相談員として委嘱された。委嘱式については、八千代市役所にて4月4日に執り行われ、東京成徳大学ホームページを通して報告を行った。 表1には、昨年度3月開催の新規相談員研修の日程と内容を示した。例年通り、児童福祉分野からカウンセリング技術の基本を学ぶロールプレイに至るまで4日間にわたる講座で構成した。

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表1 春期研修会(新規相談員研修 *一部継続研修を含む)

日 付 曜日 時  限 内    容 担    当 会 場

3月22日 (火)

9:30~11:00「おにいさん・おねえさん子ども電話相談」の概要

西村 昭徳(臨床心理学科准教授)

101教室11:10~12:00 電話相談Ⅰ湯浅俊夫

(一橋大学、東京学芸大学非常勤講師)13:00~14:30 電話相談Ⅱ

14:40~16:10 電話相談Ⅲ

3月23日 (水)

9:30~11:00八千代市子ども部及び関連機関の概要

八千代市子ども相談センター

101教室11:10~12:00 児童・家庭福祉石田祥代

(福祉心理学科教授)

13:00~14:30 児童生徒と心理 別府 さおり(福祉心理学科准教授)14:30~16:10 児童生徒と学校

3月24日 (木)

9:30~10:40 健康・保健Ⅰ

八千代市助産師会 101教室10:50~12:00 健康・保健Ⅱ

13:00~14:30 健康・保健Ⅲ

14:40~16:10 健康・保健Ⅳ

3月25日 (金)

9:30~10:40

電話相談ロールプレイⅠ・Ⅱ

石村 郁夫(臨床心理学科准教授)

101教室10:50~12:00

西村 昭徳(臨床心理学科准教授)

13:00~14:30 児童相談所の役割関谷 大輝

(福祉心理学科准教授)

14:40~16:10グループディスカッション・懇親会

八千代市、スーパーバイザー(継続学生主体)

 この他、4月に新規相談員の歓迎会を学生主体で開催し、学生間交流を行った。また、各月1回程度学内で茶話会を開催し、学生間で事例検討と情報共有を行っている。茶話会では、相談員同士が解決すべき課題や問題点、悩みや事例検討などを適宜行うピアスーパービジョンの形式を取っていた。 ところで、ここ数年、本事業の課題としては相談員の人員不足が挙げられてきた。この状態を改善すべく、昨年度は新規希望者向け説明会、授業の一環として電話相談の見学を実施した。しかし、これらの取組は成果につながらず、また臨床心理学科の東京キャンパス移転も要因となり、今年度は、相談員数が昨年度より大幅に減少した。そのため、八千代市役所子ども相談センターと大学との複数回の打ち合わせ、相談員からの意見聴取を実施し、本事業の今後の展開について検討した。その結果、本事業以外にも県内に子どもの人権・権利擁護に係る資源が増加したこと、それに伴い本事業における相談件数自体が減少したことが確認された。以上を踏まえ、本事業は約12年にわたり一定の役割を果たしたと判断し、平成28年度末をもって終了することとなった。

(2)新川わくわくプレーパーク 八千代市に設置されている新川わくわくプレーパークは、「木に登ってみよう!どろんこになってみよう!自然の中で、体全体で、五感を使って、思いっきりあそぼ!」を掲げ、子どもが自由な発想で自由な遊びを展開することをねらいとしている。子どもの安全性を保つため、プレーリーダー(子どもの遊びを見守り支える大人)を配置しており、本学学生はプレーリーダーの補助的役割としてボランティアに参加させていただいた。プレーパークの概要は次の通りである。

①対象:八千代市(就学前幼児)小中学生、高校生、保護者②開催日時:毎週日曜日 10:00から16:00③場所:八千代市総合運動公園野球場隣接地

 今年度は、健康・スポーツ心理学科1年生72名がスポーツボランティアの講義と関連し、ボランティアに参加した。ボランティア学生は子どもたちが安全に遊びを展開できるよう、プレーリーダーとして見守るだけでなく、泥遊びや工作など自然の中で子どもたちと一緒になって思いっきり遊ぶということも行ったようである。また、危険な物をパークの中から取り除くといった環境整備にも貢献した。ボランティアに参加した学生の中には、遊具のない自然の中での遊びをほとんど体験したことのない者もおり、学生自身の経験を拡げるといった意味でも有意義なボランティア活動であった。参加した学生からは下記のような感想が寄せられている。

・ あいにくの雨で子どもが少なかったけど、ボランティアではただ子どもと遊ぶだけでなく、環境を整備することもボランティアの一つだと事前に授業で言われていたので、きちんと取り組むことができた。

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・ 最初はあまり話してくれない子でも、一緒に遊んでいくにつれて心を開いてくれるのがわかってとてもうれしかった、子どもと接するだけでなく、保護者の方とも色々と話をすることができ、とても貴重な体験ができた。子どもたちが帰る時に、明日も来てねと言われた時はとてもうれしかったし、感動した。こうした機会があれば、今後も参加したいと強く思った。

・ ノコギリなどの工具を使って大工を体験することができるようになっていたが、子どもだけで作業をするのはとても危険だと感じた、一緒に付き添ってあげた。怪我をすることもあるかもしれないけど、そのような遊びをすることが子どもの成長にとって大事なのかなと感じた。

・ 今は家の中でゲームをしたり、スマホで遊ぶことが多くなっていると思うけど、外に出て,自然と触れ合いながら自分たちで考えて遊ぶという経験は、小さな時期にはとても重要だと感じました。

・ 普段、小さい子どもと遊んだり,話したりする機会がないので、最初はどうやって触れあえばいいのか、どういう対応をすればいいのかわからなかった。でも、子どもと触れあっていくうちに子どもとの関わり方が少しわかってきて、子どもたちと一緒に楽しむことができた。年齢によって遊び方やしゃべり方が違うので、その子供に合った対応をすることや、人見知りする子どもに対しては、こちらから歩み寄って話しかけたりするとうまくコミュニケーションがとれるなど、色々なことを体験でき、こうしたことを知っておくことはとても重要だと感じました。

 なお、新川わくわくプレーパークは平成28年8月26日(金)をもって終了となり、この終了に伴い、本学のスポーツボランティアの在り方を検討する時期が訪れている。来年度に向けて、いかなるボランティアが展開できるのかを継続的に考えていきたい。

(3)ドリームティーチャー 八千代市内の小中学校で学習支援を行う活動で、本学学生のみならず他大学の大学生も参加している。教育振興事業として「学校現場に大学の教職課程等の学生を受け入れることにより、優れた資質と能力を持つ教員の養成と学校教育における児童生徒へのきめ細かな指導の充実を図ること」も目的としている。実際に行う具体的な活動としては、特別な支援を必要とする児童生徒に対する授業中の学習指導補助、学級に入れない児童生徒の個別学習の指導補助、学級での担任補助、子どもと遊ぶなどであった。 今年度は臨床心理学科2年生3名、教職課程の国際言語文化学科4年生1名が、4月26日、28日、10月11日、13日のいずれかに八千代市教育委員会で行われた研修会に参加し、5月中旬から2月末にわたりボランティアに参加した。学生からは、非常に有意義な経験をしたとの感想が寄せられ、実習の報告会は、他のボランティア活動も含め、12月9日および16日に開催する予定である。

(4)学内ボランティア 今年度は学内ボランティアとして下記のような機会があった。1)ピアサポートの運営 ピアサポーターとして登録し、以下のような活動に参加する。

・臨床心理学科交流イベントの企画・運営:学生委員会の後援により、学科間・学科内交流のための予算を用い、学科の交流会の企画・運営を行う。

・ レポート作成などのピアサポート:留学生など心理学用語の理解に時間のかかる学生のサポートや、より良いレポート作成のための助言など、毎週金曜日3限に教室に集まり勉強会を行う。

2)障害学生支援スタッフ 聴覚障害をもつ学生のノートテーカーとして登録し、以下のような活動に参加する。

・ノートテーカーとしての講習会に参加する・ ノートテーカーとして聴覚障害をもつ学生の授業に参加し、ノートテークを行う

 平成28年度は、キャンパス内における活動のみならず、キャンパス外での支援に活動の幅が拡がった。本学日本伝統文化学科学生の博物館実習(8月2日~12日)において、3名の学生が10日間のうちの5日間に渡り実習先である博物館において手話通訳およびノートテーカーとしての支援に参加した。本参加の前に本学スーパーバイザー教職員、博物館実習担当職員、サポート学生、実習生、八千代市身体障害者福祉会が大学において打ち合わせを行った。実習生のニーズ把握、サポート日程調整、実習中に予想される問題点、連絡調整の方法について話し合いを行い、以後、関係者を結ぶメーリングリストを用いて情報交換することとなった。本学としても博物館としても初めての試みであったものの、実習は概ね成功との評価を得た。今回のサポート付き実習の成果を踏まえ、今後も障害学生の支援体制をいっそう進めていきたい。

3)翠樟祭におけるプレールーム開放 地域ボランティア受講生のうち10人と福祉心理学科2年生の有志が、プレールーム開放のための準備と開放のボランティアに参加した。今年は新しい試みとして、プレールーム(大)では、時間を決めてビンゴ大会を行ったり、団扇の工作を一緒に作って持ち帰ってもらうようにしたり、バルーンアートをやったりした。結果、多くの乳幼児、児童生徒とその保護者がプレールームを休憩や遊び場所として利用し、ボランティア学生は来場者と交流したり、見守り活動を行った。

4)翠樟祭における地域貢献を念頭においたフリーマーケット開催 地域ボランティア受講生の一部と福祉心理学科の2年生の一部が、フリーマーケットの準備と開催のボランティアに参加した。学内の学生と教職員より出品物を回収し、2日間で16,800円を売り上げた。今回は開催前より熊本地震の復興支援に募金することを決めており、会場に設置していた募金箱への募金1,803円と合わせて「日本赤十字社」に寄付する予定になっている。また、出品物の一部、洋服や靴を児童養護施設に寄付した。

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(5)地域ボランティア この他、主に次のような活動に本学学生がボランティアとして参加した。1)援助的サマースクール 8月17日から22日に開催した。17名の参加者が川遊びやチャレンジハイキング、カレーコンテストなどのイベントや森での外遊びなどを行った。これらの参加者を臨床心理学科学生7名、福祉心理学科学生5名、本学卒業生10名、教員と看護師を含む24名のスタッフが本事業をサポートした。

2)八千代市放課後子ども教室 子どもたちの見守りを目的とした居場所(小学校内)へ出向き、放課後の時間(下校時刻~16:45 )を過ごした。

3)八千代・若者ゼミナール学生ボランティア 八千代市福祉センターで行われている事業で、ひとり親家庭などの中・高校生の子どもたちに、学習支援を行った。

4)地域でのボランティア 地域ボランティアの受講生22名が、地域でボランティア先をみつけ、夏休み期間にボランティアを行った。地域の福祉施設や地域活動等でのボランティアが展開された。

5)平成28年度大学生等のボランティア・社会貢献活動推進セミナーに係る実行委員会への参画 千葉県社会福祉協議会の要請を受けて、福祉心理学科2年生2名が実行委員のメンバーとして平成28年度大学生等のボランティア・社会貢献活動推進セミナーの準備および運営に関わることとなった。本セミナーは春休み期間中に遂行される運びとなっている。大学ホームページにて、成果については報告する予定である。

6.成果の発表(平成27年度の事業に関して) 平成28年2月11日(木)開催の平成27年度千葉県学生ボランティアとか超会議(千葉県社会福祉協議会主催)で、相談員の学生3名が「八千代市おにいさん・おねえさん子ども電話相談」の活動について発表を行った。

7.ボランティアセンター的機能の整備 より多くの学生が閲覧できるよう、昨年度、食堂にボランティア関係の掲示板を設置した。年度を通じ、ボランティア情報を継続的に提示することができた。加えて、各学科のホームページにて、キャンパス内外におけるボランティア活動の成果を報告する体制が整った。

8.本事業の評価と今後の課題 12年間に渡るボランティアに関する学内プロジェクトを通じ、多くの学生が多様なボランティア活動に参加することができたことは意義があった。学生は授業や課外活動、学生個々の生活の合間をぬってボランティア活動に参加しており、キャンパス内に、定期的にボランティアを展開する事業が設けられたことは、これらの学生がボランティアに参加する機会の拡大となったと考えられる。加えて、地域のボランティア活動への参加促進のため、応用心理学部では授業を通じてボランティアに参加できる体制を整えた。特に大学入学前までにボランティア経験が乏しい学生にとっては、貴重な経験をする機会になっており、本経験を活かして卒業までにさらにボランティア活動に参加する学生も少なくない。 他方、12年間に渡り拡大推進してきた八千代市との連携事業(フリーパレット、新川わくわくプレーパーク、おにいさん・おねえさん子ども電話相談)の終了に伴い、ボランティア活動を通じた八千代市との連携は縮小せざるを得ない現状にある。今後の大学と市との協働・連携を再度模索し、相互にとって有意義な事業を行えるよう市民の皆様方の知見も得ながら検討したい。同時に、応用心理学部の各学科において授業を通じたボランティア活動の展開方法も再構築する時期が来ている。キャンパス内におけるボランティア活動の場を増加させる、キャンパス内にリーダーを養成し、リーダーを通じキャンパス内外での活動に積極的な参加を促す、学科間での協力体制をいっそう強化する等は今後の課題となろう。