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1 14.棘皮動物:退化的な 後口動物 奈良教集中講義 2017/08/16-20 新潟大学・自然環境科学・宮﨑 勝己 前口動物=原口 が口になる。 後口動物=原口 とは別に口が 出来る。 「前口動物」と「後口動物」 「前口動物」と「後口動物」 原口がスリット状に変形し、その両端から口と肛門 が出来る=第3の様式として”amphistomy”という 用語が提唱(Arendt & Nübler-Jung, 1997)Arendt & Nübler-Jung (1997) Amphistomy=第3の様式 ”amphistomy”=少なくとも線形・環形・軟 体・有爪の各動物門で確認 (Nielsen, 2012)Arendt & Nübler-Jung (1997) ムカシゴカイ類(環形動物) 鰓曳動物(=前口動物)後口性 鰓曳では原口が肛門になる後口性(deuterostomy) を示すとの報告 (Martín-Durán et al., 2012)。 Martín-Durán et al. (2012) 消化管(前腸・後腸)マー カー遺伝子の発現パ ターンが、鰓曳(上図 右)と後口(上図左=半 索)で基本的に同じ。 Martín-Durán et al. (2012) ギボシムシ(半索動物) エラヒキムシ(鰓曳動物) 鰓曳動物(=前口動物)後口性 原口発生運命の進化 前口動物では三つの様式が混在している前口 動物と後口動物の共通祖先は後口性との議論。 Martín-Durán et al. (2012) 前口動物の更に 広い範囲で後口 性を示す例があ ることが指摘さ れる。 Nielsen (2015) イソメ類(環形動物) ウシエビ類(節足動物) タニシ類(軟体動物) 後口性を示す 前口動物 Amphistomy ●から前口 性・後口性が 独立に進化と 解釈。 Nielsen (2015) 原口発生運命 の進化

「前口動物」と「後口動物」 「前口動物」と「後口 …mail2.nara-edu.ac.jp/~masaki/CBL-SITE/Other_files/14...2 新たな系統関係 珍無腸動物は左右相称動物中、最初に分岐し

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14.棘皮動物:退化的な後口動物

奈良教集中講義 2017/08/16-20

新潟大学・自然環境科学・宮﨑勝己

前口動物=原口が口になる。

後口動物=原口とは別に口が出来る。

「前口動物」と「後口動物」 「前口動物」と「後口動物」

原口がスリット状に変形し、その両端から口と肛門が出来る=第3の様式として”amphistomy”という用語が提唱(Arendt & Nübler-Jung, 1997)。

Arendt & Nübler-Jung (1997)

Amphistomy=第3の様式

”amphistomy”=少なくとも線形・環形・軟体・有爪の各動物門で確認 (Nielsen, 2012)。

Arendt & Nübler-Jung (1997)ムカシゴカイ類(環形動物)

鰓曳動物(=前口動物)の後口性

鰓曳では原口が肛門になる後口性(deuterostomy)を示すとの報告 (Martín-Durán et al., 2012)。

Martín-Durán et al. (2012)

消化管(前腸・後腸)マーカ ー 遺 伝 子 の 発 現 パターンが、鰓曳(上図右)と後口(上図左=半索)で基本的に同じ。

Martín-Durán et al. (2012)

ギボシムシ(半索動物) エラヒキムシ(鰓曳動物)

鰓曳動物(=前口動物)の後口性

原口発生運命の進化

前口動物では三つの様式が混在している→前口動物と後口動物の共通祖先は後口性との議論。

Martín-Duránet al. (2012)

前口動物の更に広い範囲で後口性を示す例があることが指摘される。

Nielsen (2015)

イソメ類(環形動物)

ウシエビ類(節足動物)

タニシ類(軟体動物)

後口性を示す前口動物

Amphistomy●から前口性・後口性が独立に進化と解釈。

Nielsen (2015)

原口発生運命の進化

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新たな系統関係

珍無腸動物は左右相称動物中、最初に分岐した=前口動物・後口動物の分岐以前に分かれた左右相称動物。

Cannon et al. (2016)

刺胞動物

珍無腸動物

前口動物

後口動物

左右相称動物

ネフロゾア(有腎動物)

袋状の上皮性腸 神経網

中胚葉左右相称性

腎管

「伝統的な」後口動物の構成員

・棘皮動物門

・半索動物門

・脊索動物門

Willmer (1990)

「後口動物」の特徴原口が肛門になる後口性腸体腔形成による真体腔形成非決定的発生放射卵割3つに分かれた少体節性(「三体腔性」)中胚葉由来の内胚葉上皮下神経系の散在U字形の貫通腸単繊毛性上皮細胞繊毛由来の光感覚器キチンの欠除クレアチンリン酸によるリン酸塩の蓄積

Barnes et al. (2001)に従う

棘皮動物門棘皮動物=

ECHINODERMATA

・語源=ギリシア語のechinos (= spiny)

+derma (= skin)

棘皮動物=ECHINODERMATA

・語源=元々は1734年にKleinによって、ウニに適用された名称。

棘皮動物門

・BC4世紀頃

アリストテレスは、ウニを貝や

ホヤなどと共に「殻皮類」に入

れ、ヒトデやナマコを、より植

物に近い動物と認識していた。

棘皮動物門

・1735年リンネ Linnaeusは、今で言う「棘

皮動物」を「自然の体系」第1版で動物を6群に分けたうちの「Vermes」に含めた。また後の版では「Mollusca」に含めた。

(Molluscaの名称は、現在では軟体動物に用いられるが、リンネの分類群では雑多な無脊椎動物が含まれる。)

棘皮動物門・18~19世紀前半

Lamarck(1809)やCuvier (1812)は、放射相称性を重視して、刺胞動物などと共に放射動物類 (Radiata)に分類するなど、様々な分類群に所属させられていた。

・1847年Frey & Leukartにより、初めて独

立した動物群と見なされる。

棘皮動物門

真体腔動物

後口動物前口動物

Grobben (1908)

「前口動物」と「後口動物」棘皮動物

3

棘皮動物門ウミユリ綱(ウミユリ・ウミシダ)

ヒトデ綱(ヒトデ)

クモヒトデ綱(クモヒトデ・テヅルモヅル)

ウニ綱(ウニ・カシパン)

ナマコ綱(ナマコ)

棘皮動物の伝統的な分類体系 既知種の多様性を大きさにして比較すると…

Gulan & Cranston (2004)

現生既知種=約7,000種

「棘皮動物」の特徴成体の五放射相称性単層上皮を欠き、組織・器官が分化貫通腸頭部の欠除腸体腔由来の3対の真体腔真体腔由来の水管系の発達中胚葉性で石灰質の骨片や骨板真皮のキャッチ結合組織排出器官の欠除不明瞭な血洞系(循環系)と体腔液による循環機能周口神経環からの表皮下性の放射神経の伸び出し多くは雌雄異体放射卵割後口動物型の発生全て海産

主にBarnes et al. (2001)に従う

五放射相称性

ヒトデ綱 クモヒトデ綱

ウミユリ綱

ウニ綱

Ruppert et al. (2003)

Brusca & Brusca (2003)

五放射相称性

ナマコの肛歯

ナマコの筋肉系

五放射相称性

本川 (2003)

ウニを前後軸方向に引っ張ると、ナマコの体制となる→二次的な前後軸の獲得

Ruppert et al. (2003)

器官系が、全体的に退化傾向を示す。・中枢神経を欠く。(神経環+放射神経)・明瞭な排出器官系、循環器官系、呼吸器官系を欠く(いくつかの器官で適当に分担)。

「棘皮動物」の特徴 骨格系(ヒトデ)

棘皮動物の骨格系は、体壁に埋まり、炭酸カルシウムで出来た「内骨格系」。

藤田 (2000)

4

ナマコの骨片

ナマコの骨格は、骨片として体壁中に散在。形や配列が分類の基準となる。

Thomson (1916)

水管系=棘皮動物に特有の器官系

藤田 (2000)

棘皮動物は循環系(血洞系)が退化傾向にあり、外界と繋がり海水を取り込む「水管系」を発達させている。

藤田 (2000)

「水管系」の役割=呼吸や排出といった循環系としての役割の一端を担う。

藤田 (2000)

水管系の一部は「管足」として体外へ突出し、運動器官として機能する。

藤田 (2000)

ウミユリを除き「多孔板」で外界と繋がる。

藤田 (2000)

ウミユリ類では、体腔内に直接開口する。

藤田 (2000)

ウニの多孔板

多孔板は小孔がたくさん空いた骨板で、海水の取り込み口。

多孔板

生殖孔

肛門

Brusca & Brusca (2003)

Willmer (1990)

水管系の発生

棘皮動物では、3対の腸体腔性の真体腔が出来、水管系は主に左側の中体腔から形成される。

5

シャリンヒトデ類1986年にNZ近くの深海より報告。水管系の形状や多孔板の欠除などから独立綱とされた。藤田 (2000)

シャリンヒトデの水管系

Brusca & Brusca (2003)

水孔

管足

シャリンヒトデの系統解析例

Janies (2001)

ヒトデ綱

分岐分類・分子系統ともヒトデ綱の中に入る→特殊化したヒトデとして、亜綱もしくは目に置かれる。

棘皮動物の化石

骨格が発達しているグループの化石は、カンブリア紀以降数多く見つかっている。

Willmer (1990)

Hickman Jr. (2010)

ナマコ綱ウニ綱クモヒトデ綱

ヒトデ綱ウミユリ綱

(化石種)

棘皮動物綱間の系統関係

Baumiller (2008)

遊在亜門有柄亜門

棘皮動物綱間の系統関係

分子系統解析では、ヒトデとクモヒトデが姉妹群を作る事も多く、二つの仮説が対立した状態にある。

Baumiller (2008)

有棘亜門星形亜門

棘皮動物綱間の系統関係

分子系統解析では、ヒトデとクモヒトデが姉妹群を作る事も多く、二つの仮説が対立した状態にある。

有柄亜門

藤田 (2000)

棘皮動物の幼生ウミユリ綱 ナマコ綱ヒトデ綱 ウニ綱 クモヒトデ綱

ドリオラリア幼生

ビピンナリア幼生

オーリクラリア幼生

エキノプルテウス幼生

オフィオプルテウス幼生

棘皮動物では、各綱ごとに特有の幼生を出す。

Ruppert et al. (2003)

棘皮動物の幼生棘皮動物の幼生形態は多様性に富むが、後口動物幼生の仮想的基本形である「ディプリュールラ幼生」から導く事が出来る。

6

藤田 (2000)

ドリオラリア幼生

ビピンナリア幼生

オーリクラリア幼生

エキノプルテウス幼生

オフィオプルテウス幼生

オーリクラリア型

プルテウス型

棘皮動物の幼生ウミユリ綱 ナマコ綱ヒトデ綱 ウニ綱 クモヒトデ綱

棘皮動物では、各綱ごとに特有の幼生を出す。

各綱の系統関係と幼生型

幼生の「型」は、各綱の系統関係を反映しているわけでは無い。

Baumiller (2008)オーリクラリア型プルテウス型

Baumiller (2008)

トリノアシ(ウミユリ綱)の発生

原始的なウミユリ類で、オーリクラリア様の幼生からドリオラリア幼生への移行が観察された。Nakano et al. (2003)

各綱の系統関係と幼生型

オーリクラリア型の方がより原始的。プルテウス型は収斂的に進化したらしい。

Baumiller (2008)オーリクラリア型プルテウス型

Baumiller (2008) 最近のゲノム系統解析では、ヒトデとクモヒトデ、ウニとナマコがそれぞれ姉妹群を作る事が強く支持される。

Cannon et al. (2014)

有棘亜門

星形亜門

棘皮動物綱間の系統関係

有柄亜門

各綱の系統関係と幼生型

プルテウス型は、クモヒトデ類とウニ類とで収斂的に進化したらしい。

Baumiller (2008)オーリクラリア型プルテウス型

Baumiller (2008)

有棘亜門星形亜門

有柄亜門

トリノアシ(ウミユリ綱)の発生

最近ドリオラリア期への移行に伴う繊毛帯の変化の詳細が観察された(上図)。

また繊毛帯パターンの比較からビピンナリア幼生との類似が指摘された(下図)。

Amemiya et al. (2015)

各綱の系統関係と幼生型

オーリクラリア型ではウミユリの初期幼生(ディプルールラ期)とヒトデのビピンナリア幼生がより類似する。

Baumiller (2008)オーリクラリア型プルテウス型

Baumiller (2008)

有棘亜門星形亜門

有柄亜門

棘皮動物の研究は、ウニを中心に発生生物学的研究が精力的に行われている(佐渡臨海・大森紹仁など)。分類については、ウニ類(京都工芸繊維大・重井陸夫)・ヒトデ類(日本海区水産研・木暮陽一)・クモヒトデ類(茨城大・岡西政典)などで進められている。