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1 女性が輝ける社会とは ~日本が本当に目指す国とは何か~ 11181036 岡田 翔子 <目次> はじめに 1. 働く女性の取り巻く環境 1-1 女性活用における政府の取り組み 1-2 M 字カーブで見る働く女性の現状 1-3 コース別雇用管理制度と柔軟性 1-4 ライフコースにおける意識変化 2. 女性活躍を実現するための政府と企業の支援 2-1 政府における女性活用政策 2-2 企業における女性活用支援 3. 各国の女性活用法 3-1 オランダ:柔軟な雇用政策 3-2 ノルウェー:女性登用先進国 3-3 スウェーデン:女性就業と育児支援 4. 日本人の働き方 4-1 長時間労働と日本型雇用慣行 4-2 女性が働きやすい制度を求めて 5. すべての人が輝く社会へ おわりに 参考文献

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1

女性が輝ける社会とは ~日本が本当に目指す国とは何か~

11181036 岡田 翔子

<目次>

はじめに

1. 働く女性の取り巻く環境

1-1 女性活用における政府の取り組み

1-2 M 字カーブで見る働く女性の現状

1-3 コース別雇用管理制度と柔軟性

1-4 ライフコースにおける意識変化

2. 女性活躍を実現するための政府と企業の支援

2-1 政府における女性活用政策

2-2 企業における女性活用支援

3. 各国の女性活用法

3-1 オランダ:柔軟な雇用政策

3-2 ノルウェー:女性登用先進国

3-3 スウェーデン:女性就業と育児支援

4. 日本人の働き方

4-1 長時間労働と日本型雇用慣行

4-2 女性が働きやすい制度を求めて

5. すべての人が輝く社会へ

おわりに

参考文献

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はじめに

「結婚して子どもが出来たら、仕事をやめないといけないから、子どもはまだ先かなぁ

…」アルバイト先の正社員の方が溜息交じりに漏らした言葉である。その正社員の方は、

優しく、能力があり、アルバイトの教育にも非常に熱心で心から尊敬していた人だったた

め、子どもができたとしても辞めてほしくなかった。何故子どもが出来たら仕事を辞めな

ければならないのか聞いてみると、「今まで会社にそういう人がいないから子どもができた

ら辞める雰囲気であることと、家事や育児をしながら正社員で働くのは難しいから」だと

いう。女性が家事をし、男性が仕事をする、私の家庭でも同じだったため、日本では「当

たり前」なのか、と納得していた。しかし、大学の講義内で、ノルウェーで働き続ける女

性のビデオを見る機会があり、私の納得は疑問に変わった。「なぜ、日本では女性が家事や

育児をし、男性が働くのか。北欧では共働きで、家事も育児も半分なのに」とさらに疑問

に思った。そう思った矢先、第 2 次安倍内閣が「女性の活躍」をテーマに育児休業 3 年、

待機児童解消、女性の管理職を増やす、など様々な制度を打ち出していった。政治家も女

性のことを考えて、働きやすい社会を創りだそうとしているのだと感じた。

就職活動が始まり、自分自身が総合職か一般職を選択することになった。少し悩んだが、

女性でも男性に負けずに働かれている先輩を思い出し、私も「仮に結婚して、子どもを産

んでも働き続ける女性になりたい」と強く思うようになり、総合職で就職活動を進める決

意をした。企業説明会で、独自の制度を導入し、女性も働き続けられる会社をアピールす

る企業がたくさんあった。しかし、実際はそう簡単に女性は働き続けられないことがわか

った。では一体どうすれば、女性が働き続けられる社会になるのか。政府が導入しようと

している制度が整備されれば、本当に女性が輝く社会になるのか、再び疑問に思った。

本論文では、1.女性の働く現状、2.政府と企業が行っている支援、3.日本にとって参考と

なる他国について、4.日本人の働き方と現場で働く人の声を紹介し、最後に女性が輝く社

会になるには一体どうすればいいのか考えていきたい。

1. 働く女性の取り巻く環境

近年、晩婚化や高学歴化によって働き続ける女性が増えつつある。働く女性が増えつつ

ある中、日本は女性がもっと活躍できるように支援する動きが高まっている。しかし、女

性のライフスタイルは、男性と違い多様であり、様々なライフイベントを乗り越えなけれ

ばならない。1.では、働き続ける女性を取り巻く環境と働き続けることの難しさについて

考察する。

1-1 女性の活用における政府の取り組み

2013 年 6 月、日本経済の再生に向けた「日本再興戦略」が閣議決定された。「日本再興

戦略」では、女性の更なる活躍の推進が成長戦略の中核として掲げられ、具体的な政策が

議論されている。単に労働力人口の維持や補充だけではなく、グローバル化や、経済のサ

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ービス化が進展している現在、女性活躍の期待が高まりつつある。約 30 年前から働く女

性は増加しており、政府は働く女性に対し、男性と同等に働く道を築くため制度変更を行

ってきた。この 30 年で時代とともに制度変更が行われ、特に女性にとって重要である法

律について 2 点紹介する。

第一に、1986 年、「男女雇用機会均等法」が施行された。大学を卒業する女性が増加し、

働く意欲のある女性が増えたと言われるが、当時は「女性は結婚したら仕事を辞めて家庭

に入るのが当然」といった考え方が主流であった。1980 年代までは、大企業の 7 割が大

卒女性の採用を行っていなかった。しかし、この法律によって、募集・採用、配置・昇進

の際の男女の均等な取り扱いが努力義務として企業に課されることになった。1997 年、同

法は改正され、努力義務が義務規定となった。

次に、注目すべき法律は、1995 年に施行された「育児・介護休業法」である。同法は

1972 年の「勤労福祉法」で初めて制定されており、実際の運用は雇用主の努力義務規定に

留まっていた。加えて、制度の対象となるのは女性のみだった。1975 年、女性公務員の一

部を対象とした育児休業法が施行された。さらに、合計特殊出生率が大幅に下がった、1989

年の 1.57 ショック後、義務化に向けた法制化が進められるようになった。1992 年、女性

が育児のために休業できる権利である「育児休業法」が施行された。同年、男性も育児休

暇がとれるようになった。さらに 1995 年、家庭の責任は育児だけに留まらず、介護も対

象にすべきだとして、介護休業も加えられた。女性のハンデを補うための改正を行ったが、

働く男女の格差は依然として埋まらなかった。

2002 年、厚生労働省によって「ポジティブ・アクション」が発表された。ポジティブ・

アクションとは、過去の働く女性に対する取扱い等が原因で雇用の場において男性との間

に事実上の格差が生じている場合、その状況を改善するために女性のみを対象とした措置

や女性を有利に取り扱う措置を行うことが法違反にならないことを定めたものである。1例

えば、これまで管理職の大半が男性労働者によって占められていた企業において、女性管

理職を増やすために、昇進・昇格試験の受験を女性労働者のみに奨励することや、昇進・

昇格基準を満たす労働者の中から男性労働者よりも女性労働者を優先して配置したりする

ことは、ポジティブ・アクションとして認められる。加えて、評価基準等、男女双方を対

象にした雇用管理改善の取り組みや、育児・介護休業制度の充実、労働時間の短縮などの

仕事と家庭生活の調和を実現するための取り組みも、ポジティブ・アクションの一環とし

て位置づけられている。ポジティブ・アクションは、男性を逆差別しているのではないか

という批判もある。しかし、単に女性であることを理由として女性労働者を優遇するもの

ではなく、従来の雇用慣行や性別役割分担意識が原因となって女性の能力発揮が妨げられ

ている状況を是正するための取り組みであり、「逆差別」との批判には当てはまらないとさ

れている。

1 内閣府男女共同参画局「ポジティブ・アクションの概念」

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「育児・介護休業法」は幾度か改正が行われていたが、大きく改正されたのは 2010 年

である。父親の育児参加を促す目的で「パパ・ママ育休プラス」という制度が導入された。

「パパ・ママ育休プラス」とは、父母が共に育児休業を取得する場合には、休業を取れる

期間を延長するという法改正が行われた。例えば、改正前は、夫が育児休暇を取れるのは

原則子ども 1 人につき 1 度と規定されていた。改正後は、父親が産後 8 週間以内に育児休

業を取得した場合には、再度育児休業を取得できるようになった。改正前は、労使協定に

よって、「子育てに専念できる配偶者がいる者」は育児休業の対象外となる。つまり休業の

申請を会社が拒むことが法律上許されていたが、今回の改正で、専業主婦の夫を育児休業

の対象外とする労使協定が禁止になり、すべての父親が必要に応じて育児休業を取得する

ことが可能となった。政府は働く女性を支援する改正を行ってきたが、未だに女性は柔軟

な働き方ができず、さらなる支援が求められている。

1-2 M 字カーブで見る働く女性の現状

図 1-1 は女性の労働力率2の推移を示しており、20 代半ばから 30 代前半において、結婚・

出産・育児を理由に女性の労働力率が低下し、窪みができる。そして、30 代後半から 40

代前半で再び働き始める女性が増え労働力率は戻り、M の字に見えることから「M 字カー

ブ」と呼ばれている。

2 女性の労働力率…15 歳以上の女性の人口に占める、実際に働いている、もしくは求職中の女性の割合

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「M 字カーブ」における、近年の特徴を二点述べる。一点目は、全体的に 1975 年以降、

徐々に女性の労働力率が上がっており、働く女性が増えたことがわかる。働く女性が増え

た要因は一般的に、高学歴化や、企業や社会の取り組みによって働きやすくなったことな

どが挙げられる。二点目に、2011 年は 1995 年までに比べ、「M」の窪みが右にシフトし

ている。これらは主に晩婚化、晩産化、非婚化などが原因と言われている。厚生労働省に

よると、平均初婚年齢は、1975 年には 24.6 歳だったが、2013 年には 29.2 歳となった。

さらに、第 1 子の平均出産年齢は、1980 年は 26.4 歳だったのに対し、2013 年は 30.4 歳

と、30 年ほど前に比べ、約 5 年結婚や出産が遅れている。これらの結果からわかるように、

1975年から 1995年にかけて 24歳から 29歳で結婚・出産し、離職する女性が多かったが、

2011 年は 35 歳から 39 歳の部分が最も離職者が多くなっている。2011 年の「M 字カーブ」

を見ると、一見労働力率の問題が解消されているようにも見えるが、就業形態の内訳を見

るとさらなる問題が浮き彫りになってくる。

図 1-1

(2012 年 総務省 労働力調査より作成)

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図 1-2 は、「M 字カーブ」における就業形態の内訳である。女性の労働人口の中では、

25 歳から 29 歳は労働力率が最も高いだけでなく、正規社員である割合が最も高い。しか

し、35 歳以上になると、非正規社員の割合が多くなる。結婚や出産を終えた女性は、正規

社員ではなく、非正規社員として働く人が増加する。35 歳から 39 歳になると、正規社員

と、非正規社員の割合が逆転し、非正規社員の方が多くなる。最も非正規社員が増えるの

は 45 歳から 49 歳の女性である。しかし、35 歳から 54 歳までの間は、正規社員の割合は

変化が無い。55 歳から 59 歳の女性が離職する原因としては親の介護が挙げられる。20 代

で正規社員として働き始めた女性は、結婚、出産等というライフイベントを重ねるにつれ、

離職後は正規社員に戻らないことが特徴である。図 1-1 では、労働力率的には回復してい

るように見えるが、図の 1-2 を見ると、子どもの育児を終えた女性が正規社員に戻ってい

ないことが問題だと考える。1-3 では、女性が 1 つの企業でライフイベントに合わせたコ

ース選択が可能となるような取り組みをしている企業について紹介する。

1-3 コース別雇用管理制度と柔軟性

1-2 では、女性が 30 代後半になると、結婚や出産により正規社員を離職し、復職する場

合は非正規社員になることが多いことがわかった。非正規社員にならざるを得ない要因と

して、1 度離職すると正規社員に戻ることが難しいことが考えられる。日本では採用試験

図 1-2

(2012 年 内閣府 男女共同参画局 就業形態別の特徴)

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の際、事務系の企業では、総合職か一般職かを問われることが多い。かつての女性は、ほ

とんどが一般職で、働き続ける人がいなかったと言われている。しかし、高学歴化や男性

の所得の減少、非婚化等により、働き続ける女性が増え、多様に働ける女性のニーズに応

えるため、企業はコース形態を増やすようになった。1-3 では、柔軟な働き方として企業

が導入している雇用制度を紹介する。

2012 年に行われた総務省の「就業構造基本調査」によると、女性の正規社員は 1030 万

人で女性労働人口の約 42.5%が正規社員として働いている。女性の正規社員は、一般的に

総合職と一般職に分かれる。総合職は、管理職及び将来管理職となることを期待された幹

部候補の正規社員である。雇用形態の分類は表 1-1 のとおりである。表 1-1 のように、コ

ース形態を分けている制度を「コース別雇用管理制度3」と言う。

2013 年の調査によると、総合職採用予定者に占める女性割合は 11.6%、総合職在職者

に占める女性割合は 5.6%である。10 年前に採用された総合職の離職割合を見ると、女性

は男性の 2 倍以上に当たる 65.1%となっており、10 年前に採用された総合職の女性が既

に全員離職している企業は 48.9%に上っている。総合職で働く女性の離職率は高いが、い

くつかの企業では、総合職で入社して、途中で一般職に転換することができる多様な働き

方が用意されている。この制度は「コース転換制度」と言われ、同様に、一般職から総合

職へのコース転換も支援している。

調査企業全体の 51.3%が一般職から総合職へのコース転換の実績がある一方で、総合職

から一般職へのコース転換についても 42.6%の企業に実績がある。このようなコース転換

を行えることにより、総合職の女性が育児休暇を取得した後にすぐに元のキャリアに戻る

のが難しい場合、ライフスタイルに合った働き方が選択できるようになる。しかし、コー

ス転換制度を行うことができる企業は産業によって大きな差がある。例えば、コース別雇

3労働者の職種、資格等に基づき複数のコースを設定し、コースごとに異なる配置・昇進、教育訓練等の雇用管理を行う

システムのこと(厚生労働省)

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用管理制度を最も導入している業界は金融業界で 96.8%だが、最も少ない業界は建設業界

で 66.7%である。本制度を導入することで働く人にとって多様な働き方を提案している。

「コース転換制度」を導入し、女性の多様な働き方が可能な企業としては、三井住友銀

行が挙げられる。三井住友銀行では、「リテールコース(旧総合)職ワーキングマザー向け職

種転換」というものがある。この制度は、6 歳以下の子どもを育てる社員を対象に、中小

企業への融資などを担当する「リテール総合職」から、支店内での業務を担う「ビジネス

キャリア(旧一般)職」へコース転換できる。条件は総合職に戻る意思があることが挙げら

れている。

1-4 ライフコースにおける意識変化

1990 年代より、共働き世帯が増加している。内閣府男女共同参画局によると、1992 年

に初めて、「共働き世帯」が「男性雇用者と無職の妻から成る世帯」を上回った。2013 年、

共働き世帯は 1065 万世帯、専業主婦世帯は 745 万世帯である。なぜ、近年働き続ける女

子が増えたのだろうか。要因として、女性の高学歴化、男性の所得の減少、家事の効率化

などの要因が挙げられる。女性が専業主婦を理想のライフコースとして希望していた 1980

年代、女性の 4 年制大学進学率は 12.3%、短大は 21%とほとんどの女性が大学に進学しな

かった。2012 年の 4 年制大学進学率は 44%、短大進学率は 11%と 2 人に 1 人が大学に進

学するようになった。文部科学省によると、女性のライフコースは基本的に以下 5 種類に

分類されている。4

①専業主婦コース…結婚し、子どもを持ち、結婚あるいは出産を機に退職し、その後仕事

を持たない

②再就職コース…結婚し子どもを持つが、結婚あるいは出産の機会に一旦退職し、子育て

後に再び仕事を持つ

③両立コース…結婚し、子どもを持つが、仕事も一生続ける

④DINKS(Double Income No Kids)コース…結婚するが、子どもを持たず一生働く

⑤非婚就業コース…結婚せず、仕事を一生続ける

1980 年代、「専業主婦は女性の夢」と言われていた時代があった。専業主婦が女性にと

っての夢と言われていた理由がある。専業主婦は、「三食昼寝つき」と呼ばれていた。職場

に行くこともなく、家事や育児のみに専念し、自分の子どもを育てることにやりがいを感

じることもできる。さらにお金持ちの男性と結婚する所謂「玉の輿」を狙い、豪邸に住み、

家事等は使用人に任せ、悠悠自適な人生を過ごすという女性の夢があった。しかし、女性

が専業主婦を夢だと思っていた時期は、第 2 次世界大戦後と、高度成長期あたりまでであ

る。

図 1-3 は、国立社会保障・人口問題研究所が調査した、女性の理想・予定ライフコース

4 第 14 回出生動向調査 (国立社会保障・人口問題研究所)

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を 1987 年から 2010 年の間で比較したものである。図 1-3 において、理想ライフコースと

予定ライフコースを比べると、専業主婦コースは 19.7%だが、予定ライフコースになると

9.1%となっている。次に、理想コースとして非婚就業コースが 4.9%に対し、予定ライフ

コースは 17.7%であり、実際は所帯を持ちたい人が多いが、非婚者5になる人が増えている。

さらに、予定ライフコースを見ると、専業主婦を理想としている女性は、両立コース、非

婚就業コースに移動していると考えられ、働く女性が増えつつあることがわかる。1987

年から専業主婦コースは減少しており、経済的な要因で女性が専業主婦になることが難し

くなっていると考えられる。DINKS の女性や、非就業コースの女性は、仕事をしたい、

キャリアを積みたいといった、仕事を優先する女性たちであると考えられる。

図 1-3 から、事実として、両立コースと非婚コースが増えつつあり、彼女たちに対応す

ることが大事だと考えられる。次に、女性はライフコースが男性に比べ多様であり、一人

一人のライフステージにあった働き方を選択できるようにすることが重要である。

2. 女性活用を実現するための政策と企業の支援

2.では、女性を活用するために政府や企業が行っている取り組みや支援について述べる。

2-1 では、政府が発表した女性活用政策を説明する。次に 2-2 では、企業側の対応として、

積極的に女性の活用支援を行っている企業の取り組みを紹介する。

2-1 政府における女性活用政策

2014 年 10 月 3 日、安倍内閣は「すべての女性が輝く社会づくり」を目指すため「すべ

ての女性が輝く社会づくり本部」を設置した。7 日後、「すべての女性が輝く政策パッケー

ジ」を公表した。2-1 では、政府が発表した「すべての女性が輝く政策パッケージ」にお

5非婚とは、結婚しないことを主体的に選択すること

図 1-3

(第 14 回 出生動向基本調査)

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ける働く女性に対する項目について紹介する。

パッケージの前提となる「すべての女性が輝く社会」ということの概要について確認し

ておきたい。「『すべての女性が輝く社会』とは、各々の希望に応じ、女性が、職場におい

ても、家庭や地域においても、個性と能力を十分に発揮し、輝くことができる社会」6のこ

とである。上記のパッケージでは、3 つの女性支援策が示されている。

第一に、「働き方を見直したい」女性のための支援が挙げられている。本支援は、非正規

社員の処遇改善、離職によるブランク等に対応するための公的職業訓練、非正規社員の育

児休暇取得促進、非正規社員の正規雇用化推進などが提案されており、主に非正規社員に

おける処遇改善の政策が挙げられている。さらには、長時間労働の抑制、フレックスタイ

ム制などの柔軟な働き方を実践し労働基準法の改正などの法的措置を講ずるものや、働き

方に中立的な税制、社会保障制度、配偶者手当等についても検討されている。

第二に、「就業継続したい」という女性の仕事と家庭の両立支援として、「仕事と家庭の

両立支援に向けた企業の取り組み促進」が挙げられている。この取り組みでは、女性労働

者への雇用環境改善に努める事業者に対する支援を行い、企業側に対するインセンティブ

付与が検討されている。働く女性が育児休業の取得や育児休業からの復帰をより容易に行

うことができ、育児休業中や復職後・再就職後の能力アップのための訓練を行う事業主へ

の助成が行われている。また、介護離職を予防するための職場環境の整備を促進する支援

や、産前産後休暇や育児休業中の女性の業務を担った場合、その職員を評価して処遇をよ

くする企業を応援するといった支援がある。

最後に、「能力を十分に発揮したい」女性の支援として、企業における女性の活躍の推進

を強化するため、企業の透明度を促進する制度が挙げられる。また、企業内での女性登用

を促進するため、企業が行う女性の管理職登用等に向けた一定の研修プログラムを実施す

る際の助成をする。情報公開性を高めるその一歩として「なでしこ銘柄」と呼ばれる女性

をはじめ多様な人材を活かした経営の推進の観点から、企業の選定、発信を実施している。

「なでしこ銘柄」は、経済産業省が東京証券取引所と共同で、女性活躍推進に優れた企業

を選定し、発表する事業であり、2012 年度より開始している。女性の状況を理解するため、

より積極的に実施することで社会に女性活用のアピールを行うことが可能になる。図 2-1

はスコアリングの詳細である。

6 http://www.kantei.go.jp/jp/headline/brilliant_women/pdf/20141010package.pdf(すべての女性が輝く社会づくり本

部)

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「なでしこ銘柄」の選定における評価軸は大きく 2 つに分けられ、①女性のキャリア促

進②仕事と家庭の両立支援の側面からスコアリングが行われている。重点項目は、女性管

理職比率や女性役員比率となっているが、重要であることは、仕事と家庭の両立サポート

が行われることで女性の離職が減り、最終的に女性管理職比率などに結びつくのではない

だろうか。2012 年度は 33 業種中 17 社、2013 年度は 26 社が選定された。表 2-1 は、2012

年度、2013 年度共に「なでしこ銘柄」として選定された企業である。

図 2-1

(2013 年 「なでしこ銘柄」)

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以上、政府の取り組みを紹介したが、具体的な取り組みを実施するのは企業である。

2-2 企業における女性活用支援

2-2 では、具体的に企業が行っている女性活用支援について紹介する。女性の活用支援

に関して、今まで調べてきたことをまとめて大きく 4 つのカテゴリーに分けることができ

るとわかった。1 つ目は出産、育児、介護についての支援、2 つ目は復職後の支援、3 つ目

はキャリアアップの支援、4 つ目は男性の理解と協力を促進する支援である。これら 4 つ

の支援の中でも、2 つ目の復職後の支援が女性活用のためには非常に重要であると考える。

復職支援を行い、女性の離職を食い止めることができれば、各々のライフステージに合わ

せた柔軟な支援を実施することで、復職したのちにキャリアアップを目指すことが可能と

なる。女性を活用するための、積極的に企業内で独自の支援をしている企業を紹介する。

まず 1 つ目の出産、育児、介護についての支援である。出産、育児、介護についての支

援は具体的に、産前産後休業(以下産休)、育児休業(以下育休)、介護休業の 3 つである。法

律的には、産休を取得すれば、妊娠した女性は出産するまでの間、産前は 6 週間、産後は

8 週間休暇を取得できる。同じく法律上は、育休を取得した場合、子が 1 歳に達するまで

の間休業することができる。企業によっては、独自に育休の取得期間を延ばしている企業

もある。例えば、日産自動車は子どもが 2 歳到達する 4 月まで延長可能である。介護休業

は、要介護状態にある対象家族 1 人につき、常時介護を必要とする状態ごとに 1 回の介護

休業をすることができ、期間は述べ 93 日までである。産休、育休、介護休業の共通点と

して、労働者が申請した場合、企業側は解雇その他不利益な取り扱いをしてはいけないと

いう法律があり、破ると罰則が与えられる。これらの制度は、近年、取得する女性の割合

が増えている。

次に、復職後の支援について述べる。復職後の支援や期間は企業によって大きく異なる。

例えば、時間短縮制度(以下時短)、コース転換制度、テレワーク、在宅勤務などが挙げら

(2013 年 「なでしこ銘柄」)

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れる。これらの制度をうまく使うことによって、柔軟な働き方が可能となる。柔軟な働き

方が行われている企業として、なでしこ銘柄に 2 年連続選定されている KDDI が挙げられ

る。KDDI では、仕事と育児を両立できるよう、テレワークや変形労働時間制を導入して

いる。限られた就業時間内で状況に合わせた柔軟な働き方ができる環境を整えており、育

休を取得した社員のほぼ 100%が復職している。同じく、日産自動車も柔軟な働き方を促

進しており、日産独自の「ファミリーサポート」を導入している。本サポートは、子ども

が小学 6 年生の間まで年間 12 日間の休暇を取得することができる。時短勤務も小学 6 年

生まで可能であり、託児所や在宅勤務、ベビーシッターサービスなど、女性が選べる選択

肢は多様である。

3 つ目はキャリアアップ支援である。女性が働き続ける上でキャリアアップを目指すた

めの講座や、上司との面談を行う支援だ。今後、女性の役員や幹部候補を増やすために制

度を導入している企業が多い。ニコンでは、ダイバーシティ推進として、女性社員の能力

開発の促進やネットワーク形成を目的に「自己実現研修」を実施し、女性の管理職を育成

するための「メンター制度」7を導入している。ニコンでは、育休や復職後の支援は整って

おり、現在は女性のキャリアアップに力を入れている。女性がキャリアアップを目指すた

めに大切なことは女性の役員や、幹部候補をやみくもに増やすことではない。まず大事な

ことは女性のロールモデルを作りあげることであると考えられる。

4 つ目は男性の理解と協力を促進する支援である。近年は、男性も育児休暇を取得でき

るように企業が後押ししているケースも多い。しかし、2014 年の男性育児休暇取得率は

2.03%であり、スウェーデンは 78%、ノルウェーでは 89%と他国に比べても圧倒的に男性

の育児休暇取得率が低いことがわかる。2012 年の「なでしこ銘柄」に選定された花王は、

男性社員の育児支援にも積極的であり、新たに子どもが生まれた男性社員とその上司に向

けて育児支援制度の周知と理解促進を図っている。2011 年度に子どもが生まれた男性社員

の育児休業取得率は 40.5%と、当時日本人男性の育児休暇取得率が 1.89%に比べると非常

に高い水準である。男性が育児休暇を取得しない理由として、第一にそもそも育児に参加

したくないと感じている男性、第二に取得することで仕事に遅れが出ると感じたり、周り

に悪いと感じること、第三に、家事や育児は女性がするものと考えていることの 3 つが考

えられる。しかし、男性が育児休暇を取得することで女性の社会復帰を助けることになる。

政府における支援の 1 つである「なでしこ銘柄」の選定により、企業は新たな制度を考

え、働きやすい企業にしようとする動きが促進されると考えられる。政府や企業どちらか

片方の支援では限りがある。例えば、企業が行う支援として、子どもがいる女性が働き続

けるには、育児休暇を取得し家で育児をするという選択肢がある。一方で、政府が行う支

援として、待機児童をなくし、保育所に子どもを預けるといった選択肢も考えられる。よ

って、政府と企業が同時に支援を行い、女性がライフスタイルにあわせた働き方を選択で

7 メンター制度とは、会社や配属部署における上司とは別に指導・相談役となる先輩社員が新入社員をサポートする

制度のこと(ビジネス用語)

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14

きるかが重要になる。加えて、政府や企業だけではなく、家族との相談や理解も女性にと

って大切なものとなる。

3. 各国の女性活用法

1.では働く女性の現状、2.では働く女性を支援する政府や企業の取り組みについてまと

めた。3.では女性活用のモデルとなる、柔軟な働き方を導入しているオランダ、女性の登

用国ノルウェー、子育て支援が豊富なスウェーデンの 3 か国を紹介し、日本の課題を明確

にする参考にしたい。

3-1 オランダ:柔軟な働き方

オランダは 1980 年代前半、厳しい経済不況に陥った。当時、経済不況によって失業率

が増加たため、結果的にその対策の中で柔軟な雇用政策が導入された。オランダが導入し

た柔軟な雇用政策は、女性に限らずすべての人が柔軟に働けるように支援されている。オ

ランダの雇用に関する制度は、「オランダモデル」と呼ばれており、以下「オランダモデル」

について紹介する。

オランダでは、1960 年代に北海海底で天然ガスが発見されたことにより、天然ガスの

輸出が増え、一時的な歳入増加をもたらした。しかし輸出の増加により、オランダの通貨

高を招くこととなり、製造業などの輸出品を生産する部門の資本や労働が天然ガス開発に

過剰投入され、製造業が衰退し、製造業で働いている人たちの失業率が高まった。その後、

オランダ経済の原動力であった天然ガス産業は衰退し、需要を一気に失うことになり、そ

の結果、さらに失業者が増えた。このような事態が起きた 1970 年代頃、オランダは財政

難、失業率の悪化、社会保障問題が国内で直面し、それらは「オランダ病」と呼ばれるよ

うになった。

大不況を克服し、失業率に歯止めをかけるため、政府の関与抜きで労使が自発的に 1982

年にワッセナー合意を実現することになる。ワッセナー合意は、時短そしてパートタイム

労働の活用が最も特徴的であった。ワッセナー合意におけるパートタイム労働とは、一つ

の仕事を複数の労働者で「シェア」すること8によって就労の機会を拡大させ、失業者を改

善するものだ。ワッセナー合意以前、オランダでは女性の労働参加率はそれほど高いもの

ではなかった。当時、オランダでは「良き母は家で子どもを守る」という価値観が根強く

残っており、女性が働き続けるための環境が整っていなかった。その後、「オランダ病」に

より失業者が増加したため所得は減少し、ワッセナー合意が実現することになる。オラン

ダのワークシェアリングは、1 人あたりの労働時間を減らす代わりに雇用を守ることにな

った。家計を助けるために既婚女性のパートタイマーが増加した。

現在のオランダの柔軟な働き方は、ワッセナー合意後、二段階にわけて進展されてきた

8 近年ではこの働き方は「ワークシェアリング」と呼ばれる。

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15

と考えられる。第一段階は、1996 年に労働法改正が行われ、「同一労働・同一賃金」の取

り決めが行われた。この政策によって、職種が異なる場合も労働の質が同等であれば、同

一の賃金水準を適用されるようになった。つまり、パートタイマーでも仕事が出来れば、

正規社員並に賃金が与えられるということである。さらに、パートタイマーも社会保障や

年金の権利を平等に得られるようになった。また 1997 年から欧州では、人権保障の観点

から、性別など個人の意思や努力によって変えることのできないことや、雇用形態を理由

とした賃金格差は禁止された。

そして第二段階では、2000 年にオランダで働く人たちのワーク・ライフ・バランスを可

能にする「労働時間調整法」が制定された。労働者は、時間当たりの賃金を維持したまま

で、自ら労働時間を短縮や延長する権利が認められるようになった。「労働者が自発的にフ

ルタイムからパートタイムへ、あるいはパートタイムからフルタイムへ移行する権利」お

よび「労働者が週当たりの労働時間を自発的に決められる権利」が定められた。この制度

によって、女性労働人口における出産後の退職者の割合が 25%(1997 年)から、11%(2005

年)まで減少した。オランダは、労働時間選択の自由度が高く、個人の希望に沿える参加型

社会を目指している。多くの女性にとって、子育てやスキルアップなど、自分のライフプ

ランに合わせて労働時間を選択することができ、ワーク・ライフ・バランスを考えながら、

長期的に仕事を続けることができるようになった。

図 3-1 は、1960 年代から 2005 年における、オランダの女性労働力率の推移である。1980

年以降、急激に女性の労働力率が増加している。図から、1996 年に「同一賃金・同一労働」、

2000 年に「労働時間調整法」の制度導入により、1977 年から 2005 年の間は女性の労働

力率が増加していることがわかる。経済的要因により、女性の労働力率が上昇したのでは

ないかと考えられる。9

9 今回はオランダの経済的要因における雇用増加に関する資料が見つからなかった。

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16

ワッセナー合意以降、二度におけるオランダの柔軟な働き方を多様にする制度によって、

オランダのパートタイマーは、正規社員と同じ賃金や社会保障を享受できるようになった。

今までオランダにおけるパートタイマーについて述べてきたが、日本のパートタイマーと

オランダのパートタイマーは定義が異なる。オランダでは日本のようにパートタイマーと

いう働き方が非正規社員の意味で使われているわけではない。日本におけるいわゆるパー

トタイマーは、オランダにおいてはフレックスワークと呼ばれる働き方と同じである。日

本におけるパートタイマーの定義は、労働省が、「一日、一週間または一ヵ月の所定労働時

間が当該事業場において、同種の業務に従事する通常の労働者の所定労働時間に比し、相

当程度短い労働者」のことをパートタイマーとしている。ただし、実際には正規社員とほ

とんど変わらない労働に従事するものも多く、区別がはっきりとされているわけではない。

オランダに比べ、日本では、正規社員と非正規社員の格差は大きいように考えられる。オ

ランダのような「同一労働・同一賃金」を日本に導入することは不可能なのだろうか。

日本の正規社員における雇用形態は、終身雇用であり、1 度離職すると正規社員に戻り

にくい国だ。特に総合職で入社すると管理職候補を前提とされており、責任がついて回る。

さらに日本だけでなく海外にも転勤が伴う場合もある。これらの要因によって、日本では

正規社員のほうが優遇されるのである。日本の企業は、正規社員についての終身雇用の慣

行に対して、非正規社員の採用や解雇など労働力の調整を行ってきた。よって、特に残業

や転勤が困難な人が多い非正規社員は、正規社員と同等の待遇を受けることができない。

一方、オランダの経済団体によると10、正規社員とパートタイマーの社会保障面での条件

10 日本テレビ NEWS24 2009 年 12 月 18 日放送

(ILO 労働統計年鑑 http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/1505.html)

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が違った場合、労働者を移行させることが難しく、非効率だという。「平等な労働条件こそ

が個人、企業、国すべてにとって幸せです。企業としては需給バランスに迅速に対応でき

ます」とオランダの経団連は述べた。日本では、社会保障は政府ではなく、ほとんど企業

が担っている。そのため、オランダと同じような制度を導入するのは難しいだろうと言わ

れている。オランダの「同一労働・同一賃金」による能力において評価される制度と、フ

レキシブルな働き方をすることができる二つの制度は、今後の日本の働き方の改善におい

て参考になるのではないだろうか。

3-2 ノルウェー:女性登用先進国

ノルウェーは世界的に女性登用先進国として知られている。現在、ノルウェーの首相は

女性であり、国連開発計画のジェンダー・エンパワーメント・指数11(2013 年)の発表では、

136 ヵ国中 3 位だった(日本は 105 位)。男女平等政策に対して先進的に取り組んできたノ

ルウェーは男女が共に働き続けられる支援を 1970 年代から行っており、その後企業や政

府のサポート、男性の意識が変化してきたと言われる。日本は、女性の登用や、男性の協

力においては未だ定着していない状態であり、ノルウェーから学ぶことが多いと考えられ

る。

ノルウェーにおいても初めから男女共同参画12が進んでいたわけではない。1890 年頃、

ノルウェーでも女性は専業主婦であることを想定された上で法や社会制度が施策されてい

た。1955 年頃社会保障制度が整備され、子どもに対する福祉も充実するようになった。

1960 年代から 1970 年代に、長年の女性解放運動とも結びつき、女性が社会進出すること

が容易となった。さらに、ノルウェー政府は 1979 年に男女平等法を制定し、女性の地位

を向上させるように目標を立てた。1988 年に、大きく法改正があり、現行の「クオータ13

制度」が導入された。「クオータ制度」とは、公的な委員会、評議会などメンバーの少なく

とも 40%以上を男女どちらかの性が占めなければならないという制度である。2004 年 1

月に企業の取締役会では、「クオータ制度」が導入された。結果、上場企業の取締役会に占

める女性の割合は、2006 年 7 月には 21%、2008 年 2 月には 39%と増加しつつある。「ク

オータ制度」は 95%の企業で達成されている。割当を遵守しない企業に対しては、企業名

の公表・企業の解散という制裁を課すことが定められている。

次に、ノルウェーは育児休業制度14が充実していると言われている。100%の給与の保障

で 49 週の休暇もしくは、80%の給与で 59 週間の休暇となっている。育児休業のうち、父

親、母親ともに 14 週間ずつの割り当てりが与えられ、残りはどちらかが取得する。父親

に母親と同じように育児休業を割り当てることを「パパ・クオータ制度」と言う。「パパ・

11 ジェンダーギャップ指数…各国の社会進出における男女格差を示す指標(デジタル大辞泉) 12 男女という属性によって行動範囲・思考範囲が限定されることがないようにする動き(名古屋大学 男女共同参画室) 13 政治における男女平等を実現するために、議員・閣僚などの一定数を女性に割り当てる制度。 (デジタル大辞泉) 14 「育児休業」は「法に基づくもの」で、各種一律の支援が存在している。「育児休暇」は「育児休暇」は特に法的な

制約を持たない用語。期間も育児休業より短い

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クオータ制度」は 1993 年に 4 週間の割当で父親も休暇を取得できるように制度が導入さ

れた。ノルウェーでは、1977 年から男性も育児休業を取得することが可能になっていたが、

実際に取得する人物はほとんどおらず、1990 年代に入っても取得率は約 4%だった。しか

し、「パパ・クオータ制度」を導入後には、約 7 割の男性が育児休業を取得し、2013 年に

は 9 割の男性が育児休業を取得するようになった。男性が育児休業を取得するようになっ

た理由には、育児休業中の給与は国から支給されていることと、父親が育児休業を取得し

なければ、手当の支給期間が減らされてしまう。つまり、父親が育児休業を取得しない場

合その分の手当て支給がなくなるため、男性が育児休業を取得する大きなインセンティブ

となっている。また、ノルウェーでは、仕事とプライベートのバランスが取れてこその充

実した人生が送られると考えられている。

さらに、ノルウェーでは、保育所の整備と育児休暇の整備を徹底して進められた結果、

待機児童は激減し、合計特殊出生率も上昇した。日本では女性が育児休業を取得し、子ど

もを育てるものだという概念があるが、ノルウェーでは育児休業を使わずとも、社会が子

どもを育ててくれる。また、総務省「平成 23 年度 社会生活基本調査」によると、6 歳未

満児のいる世帯について、1 日の家事・育児関連時間をみると、夫は 1 時間 7 分である一

方、妻は

7 時間 41 分となっている。一方でノルウェーは、夫は 3 時間 12 分、妻は 5 時間 26 分と

日本と比べ男性も家事に協力的であることがわかる。男女平等の社会を創り上げているノ

ルウェーでは、男女両方が家事や育児を行い、加えて合計特殊出生率も高い。ノルウェー

では、政府が父親の育児参加を促すようなインセンティブを与えていることが、企業がイ

ンセンティブを与える日本と大きく異なる点であると考える。

3-3 スウェーデン:女性就業と育児支援

スウェーデンは、世界一の女性労働力率を誇る国である。加えて、ジェンダーギャップ

指数では世界 4 位(2013 年)にランクインしており、男女平等にも努めている国で世界的に

注目されている国だ。約 30 年の年月を経て、子育てや高齢者福祉のシステムが整い、女

性はキャリアや仕事を諦める必要がなくなった。日本では未だ整えられていない制度や支

援をスウェーデンから学ぶことができる。女性がスウェーデンで働き続けやすい特徴とし

ては 2 つある。

第一に、パートタイムとフルタイムの柔軟な働き方が挙げられる。図 3-4 は、スウェー

デンの女性労働力率のグラフである。女性を年齢別労働力率で表すグラフを日本では「M

字カーブ」と呼ぶが、スウェーデンは「逆 U 字型」という。日本と最も異なる点は、30

歳から 49 歳の女性が子育てを機に仕事を離職せずに働き続けていることである。

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19

スウェーデンのパートタイマーは、1 週間の労働時間が 35 時間未満の労働者のことを言

う。スウェーデンでは、出産や子育てで退職することなく、正規社員のままフルタイムか

らパートタイマーとなることが多い。パートタイマーとなっても週に 17時間以上働けば、

フルタイムと同じ処遇となる。さらに、スウェーデンでは、すべての雇用者に傷病手当や

年金、有給などの権利が与えられており社会保障は手厚い。また、フルタイムの賃金を 100

とした場合、パートタイマーの賃金は 92.3 であり格差はほとんどない。対して、日本は正

規社員の賃金を 100 とした場合、非正規社員の賃金は 66.3 と大きく賃金格差が生じる。

このように、フルタイムからのパートタイマーへのコース転換が、スウェーデンの高労働

力率を支えていると考えられる。

スウェーデンも昔から女性労働力率が高かったわけではない。背景には、1990 年代に少

子化問題に直面したことが挙げられる。1990 年には 2.14 に達していた出生率が、1999 年

には 1.5 にまで減少した。出生率の低迷が続き、2001 年、スウェーデン政府と内閣府がワ

ーキング・グループを作り、女性が子どもを産んでも働き続けられるよう、労働市場の環

境整備と、働き方の柔軟性を高めた。現在、スウェーデンの社会的環境では、女性が仕事

もしくは子育てという二者択一を迫られることはない。

次に、スウェーデンの女性が働き続けるための支援制度として家族政策がある。家族政

策は、児童手当、両親保険制度及び育児休業、保育サービスの 3 点である。児童手当は、

スウェーデンに在住するすべての子どもを持つ家庭に支給される。日本の児童手当は所得

制限があるが、スウェーデンでは親の所得額に関係なく一律に支給される。また、スウェ

ーデンには両親保険制度という制度がある。育児休暇期間中の収入補填制度であり、この

制度は男性と女性両方が取得できる。育児休暇の取得を男性にも義務付け、育児参加を促

17

71.977.6

68 65.971.8 75.1 73.3

63.6

46

13.2

38.1

69.782.4

87.8 89.9 89.7 88.7 86.580.7

58.6

8.4

0102030405060708090

100

女性の年齢階級別労働力率(国際比較)

日本 スウェーデン

%

図3-4

(2012 年 男女共同参画社会)

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す試みが行われている。育児休業制度取得率は図 3-6 に示している。図 3-6 をみると、日

本と比べ、女性の育児休業取得率の差はあまりないが、男性の育児休暇取得率15は高い。

スウェーデンの育児休暇制度は、就労している両親に子どもが生まれると、出産 10 日前

から 8 歳の誕生日まで、2 人合計で 480 日までの育児休暇を取ることができる。最初の 390

日までは所得の 80%が補償される。また、育児休暇の期間は親の事情に合わせて出勤時間

の全日、3/4 日、1/2 日、1/4 と取得することも可能である。休暇を連続して取る必要はな

く、家庭事情によって取得することができるため非常に柔軟な制度となっている。また、

家族制度により、働く両親は育児休暇だけでなく時短制度も使用できる権利を持っており、

子どもが 8 歳になるまで仕事の 25%を短縮することができる。

両親保険によって育児のための時間短縮の権利が補償されている。子どもが満 8 歳にな

るまで、両親は勤務時間を 25%短縮することができる。不足分の給料は保険でカバーされ

る。子どもが 8 歳に達した時点でフルタイムに戻すことができる。

第三に、保育サービスについて紹介する。スウェーデンでは、両親が働くために子ども

を託児所に預ける権利がある。そのため、地方公共団体は、子どもを預かる義務を法律で

負っている。スウェーデンの保育率は、1 歳児は父親と母親が育児休業を使用するため

49.5%であるが、2 歳児から 5 歳児で 90%以上、6 歳児から 8 歳児で 80%以上、9 歳

児で 70%以上であり、極めて高い水準となっている。日本の 2012 年度認可保育サービス

利用率は、34.2%であり、3 歳未満の利用率は 25.3%とあまり利用されていないことがわ

かる。スウェーデンの公的な保育サービスは非常に手厚い。加えて、家庭で育てることに

対して、国が補助金を出す制度もある。「ファミリー保育所」という制度があり、12 歳ま

での子どもを自分の子どもを含めて四人を限度に個人の家庭で引き受けることができる。

このような、家族政策を軸としてみたスウェーデン・モデルを、「Dual Earner Family

Policy Model(共働き型家族政策モデル)」と定義されている。スウェーデンは男女ともに

15

86.677.583.6

1.890

20406080

100

女性 男性

育児休業取得率比較

スウェーデン 日本

図3-5

(2004 年スウェーデン企業におけるワーク・ライフ・バランス調査, 2013 年 共同参画 10 号)

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働くことが当たり前の社会で、女性の専業主婦率は 2%である。

スウェーデンでは、小学校から大学まで授業料は無料、出産費用も掛からず、20 歳まで

医療費も無料の自治体が多い。政府からのサポートが大きく、子育てへのサポートは非常

に大きいものだと言える。これらの政策を支えるのは国民によって支払われる高い税金で

ある。16さらに、年金は賃金に連動する制度のため、老後を豊かにするためには常にスキ

ルアップを目指さねばならず、低生産性から高生産性への労働移動を行っている。実質、

世界的に見ても、労働生産性は高い。政府は手厚い社会保障を労働者に与え、子どもを産

んでもフレキシブルに働く制度と支援を供給している。

4. 日本人の働き方

3.ではオランダ、ノルウェー、スウェーデンの 3 か国から、日本が参考にしたい制度や

取り組みについて説明した。4.では、3.で学んだヨーロッパの制度と日本の制度を比較し、

日本の働き方における問題を考える。また、4-2 では女性が働き続けるために様々な支援

を行っている先進的な企業の現状を紹介したい。

4-1 長時間労働と日本型雇用慣行

ヨーロッパの 3 つの国では、男性と女性が同じように働ける制度が整っている。女性の

ハンデを補う制度ではなく、家事育児や仕事において男性と女性は同等であることが前提

となっており、ワーク・ライフ・バランスを保つための支援が充実している。北欧では「女

性だから」という意識は薄れている。なぜ日本は同じ状況にならないのだろうか。日本の

働き方は、女性と男性が同じように働くことが難しいとされており、今の時代に合わない

問題があると考えられる。4-1 では、海外と比較し、日本の働き方における問題をまとめ

ていきたい。

日本は他国と比べ、長時間労働であると言われている。2012 年、厚生労働省の調査によ

ると、年間総実労働時間は 1745 時間労働である。年間総実労働時間17は、パートタイム労

働者を含むため、正規社員における 1 年間の総実労働時間は 2000 時間を超える。近年の

日本では「ノー残業デー」など、企業は長時間労働を是正するように取り組んでいる。

16 スウェーデンの租税負担率(国民所得に占める税額の割合)は 46.9%、日本は 22.7%。(財務省 2013 年) 17所定内労働時間(事業所就業規則で定められた始業時刻と終業時刻との間の休憩時間を除いた実労働時間)と所定外

労働時間(早出、残業、休日出勤等により行った実労働時間)との合計。(厚生労働省)

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また、日本の問題は、長時間労働であることだけではなく、労働生産性が低いことにあ

る。OECD の調査によると、2012 年の労働生産性18を見ると、日本の労働生産性は 7 万

1619 ドルで、OECD 加盟国 34 ヵ国中第 21 位となっている。図 4-2 は、労働時間が短い

オランダやノルウェーでは労働生産性が高いことがわかる。女性が男性と同じように働け

る労働環境を創りだすには、男性も長時間労働を無くし、生産性を上げることが求められ

る。

次に、終身雇用制度、年功序列制度、企業内労働組合の 3 つは「3 種の神器」19と言わ

れ、古くから日本型雇用慣行として根付いているものである。第一に、終身雇用制度は正

18労働生産性とは、従業員一人当たりがどれだけ付加価値を生み出しているかを示す指標。労働生産性=付加価値/平

均従業員数(MBA 用語) 19 ジェームズ・C.アベグレン『日本の経営』(1958 年)

1,745

1,381 1,621

1,420

0

500

1,000

1,500

2,000

日本 オランダ スウェー

デン

ノル

ウェー

2012年 一人当たり平均年間総実労働時間図 4-1

(2013 年 労働政策研究・研修機構より)

40.1

60.2 54.7

86.6

0

20

40

60

80

100

日本 オランダ スウェー

デン

ノル

ウェー

ドル

2012年 時間当たり労働生産性の国際比較図4-2

(2013 年 労働政策研究・研修機構より)

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規社員に適用され、同一企業で定年まで雇用され続けるという雇用制度のことである。終

身雇用制度によって年功序列という賃金体系が可能となる。1970 年代に判例と労働組合に

より、雇用者の解雇権が制限されるようになったことから、終身雇用制度が定着するよう

になった。企業側は終身雇用制度にすることで、長期的に人材育成がしやすいといった利

点がある。

年功序列制度は、企業などにおいて勤続年数、年齢などに応じて役職や賃金を上昇させ

る日本型雇用の典型的なシステムである。ひとつの会社で数年働けば、他の会社で新しく

働き始めるよりも高い給与を獲得することが出来る仕組みになっているため、年功序列制

度は、企業への帰属意識を高め、労働者の転職を抑制する。年功序列制度では、若い社員

の給与は低めに設定されるが、その後その社員の生産性が落ちたとしても、後年になって

からその見返りとなるだけの高い給与が支払われることになる。

最後に、企業ごとに常勤の従業員だけを組織している労働組合について述べる。日本の

労働組合は個別企業ごとに組織されている常勤の企業別労働組合が中心であり、企業との

雇用関係がなければ組合に入ることができない。労働組合は労働者が一丸となり、賃金や

労働時間などの労働条件の改善を図るためにつくられた団体である。しかし、2013 年 6

月末の時点で、雇用者のうち労働組合に入っている人の割合を表す「組織率」は、前年の

調査より 0.2%減って、17.7%だった。近年では組合の組織率は低く、組合の影響は小さ

くなりつつある。日本経済停滞などにより、現在、日本型雇用慣行は困難になりつつある。

2012 年、日本の合計特殊出生率は 1.41 であり、同年合計特殊出生率は WHO 加盟国 194

カ国を対象としている調査で日本の合計特殊出生率は 174 位だった。ヨーロッパの合計特

殊出生率は日本よりも高い。以下、各国の合計特殊出生率を表にしたものである。

4-2 女性が働きやすい制度を求めて

4-1 では、日本の労働環境をまとめ、日本は男性の働き方を整備しなければならないこ

とがわかった。4-2 では、具体的に企業が男性と同じように働けるようになるような支援

を積極的に導入している企業のインタビュー内容を紹介する。表 4-2 はインタビューさせ

ていただいた 3 社を表にまとめたものである。

表 4-1

2012 年 OECD 合計特殊出生率ランキング

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(1) NTT 西日本

NTT 西日本は福利厚生が充実していることで有名である企業のうちの 1 つだ。有給取得

率が非常に高く(99.8%)20、また労働組合が非常に強い企業でもある。育児休業制度が充実

しており、1965 年当時、女性社員の割合が多かったことがその理由に挙げられている。育

児休業期間は法定以上で、3 年間認められており、ほとんどの女性が育児休業を取得する

そうだ。NTT 西日本によると、1 番の特徴は、育児休業の取得における職場の意識だと言

う。歴史的に育児休業を取得することが「当たり前」という意識が根付いており、このこ

とが NTT 西日本の育児休業の取得率を高めている。育児休業を取得することは女性にと

ってキャリアのハンデにはならないと言う。男性が育児休業を取得することについては、

NTT 西日本では育児休業を取得する必要がないとされている。政府や他の企業が男性の育

児休暇取得を促進する中で、「育児休暇を男性も取得する必要があるのか」ということは最

も驚いた回答だった。長時間労働を止めれば、男性も家事や育児に参加できるだろうとい

う考えだ。長時間労働を改善し、労働生産性を高めていく会社の人事制度も新たに考えて

いく方針のようだ。NTT 西日本の女性社員の割合は約 15%、新卒で 35%である。現段階

において、女性役員はゼロで女性管理職 2.6%と少ないことが NTT の課題である。今後は

評価制度を公正公平にし、能力に見合ったものにすることや、男性が中心となる技術職が

多い部署の意識を変えていくことが重要になってくる。

(2) KDDI

KDDI は 2 年連続「なでしこ銘柄」に選定されており、女性活躍推進が評価されている。

KDDI では 2005 年、社長のリーダーシップのもと大きく女性の活躍推進が取り進められ

るようになった。2010 年には育児休業等で休職していた従業員の復職率が 100%となり、

その後もほぼ 100%を維持している。KDDI では復職を促す制度が充実しており、女性が

働き続けやすい会社だと考えている。KDDI 担当者によると、KDDI では女性活躍推進を

2 つ

の段階にわけ、取り組みを進めてきた。第一段階は、法定以上の育児休業制度や時短制

度を設け、上司の理解を深めることで女性の復職を促し、「やめなくていい」環境を整える

20 2012 年 就労条件総合調査(厚生労働省)

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ことを目的としている。復職するための支援として、育児休職復職前フォーラムを開催し、

先輩社員と話す機会や、上司のインタビュー報告などを行い、復職を支援している。さら

に、育児休職をしている社員を持つ上司のセミナーも開催しており、上の役職者はほぼ男

性であることから、女性の現状を知ってもらう取り組みを行っている。また第二段階は、

復職した女性を育成し、キャリアアップを目指す女性を増やすことが目標だ。育児休業制

度や、時短制度などは着実に取得者が増えているそうだが、取得者のほとんどが女性であ

る。様々な制度がある中で、期待以上に活用されている制度は看護休暇だそうだ。この制

度は女性だけでなく、多くの男性も使用している。看護休暇は 30 分単位から取得可能で、

子どもが急に熱を出したときなどに使用される。また、復職後の支援としてテレワークの

導入も進んでおり、2009 年における使用者は約 30 名だったが、東京大震災をきっかけに

テレワーク勤務が浸透し、今では約 6000 名がテレワーク勤務制度を使用している。

さらに女性の活躍推進としては、女性リーダーの育成がプログラムとして考えられてお

り、2015 年には女性ライン長比率を 7%に伸ばす目標を立てている。ライン長プログラム

(以下 LIP)は、上司が推薦した女性社員を公正・公平な評価のもと、実力をついた人のみ

をライン長にするプログラムである。また、メンター制度を導入しており、1 年間の任期

ではあるが、社長や役員の補佐として男性と女性が 1 人ずつ、仕事を学ぶ機会が与えられ

ている。現在第二段階に入っている KDDI においては、①女性社員の意識づけ②マネジメ

ント層の意識づけ③働き方の改善という課題に取り組んでいる。女性はライフイベントに

影響されやすいため、長時間労働やキャリアアップを妨げている雇用慣行を改善していく

ことが目標となる。最終的に KDDI では、「男性だから、女性だから、と性別で分けない」

という企業を目指している。女性の活用推進として、2 つの段階にわけ、支援や制度を促

進していることが KDDI の特徴であると考えられる。

(3) サトレストランシステムズ

最後に、時代に合わせた雇用制度を実現しつつあるサトレストランシステムズについて

紹介する。サトレストランシステムズは外食企業である。店舗で働く人は女性が多く、女

性のライフスタイルにあった働き方を模索してきた。2014 年 10 月、サトレストランシス

テムズでは大きな人事制度の変更が 2 点あった。

変更点の 1 つ目は、職群制度における新たな職種の導入である。サトレストランシステ

ムズの職群は、大きく 5 つに分けられていたが、10 月にはさらに 1 つの職群が増えた。こ

の職群でさらに多くの女性たちが活躍することが見込まれる。新たにできた職群として、

フルタイムの 4 分の 3 時間働き、その時間だけシフトリーダーになる職群など、パートタ

イマーのライフイベントや家庭環境によって選択しやすい職群が加えられた。今まで、パ

ートタイマーから正規社員(店長)になる転換制度は設けていたがあまり使われていなかっ

たという。今まではいわゆるスーパーパートタイマーが使用し、正規社員という役職に耐

え切れず、結局パートに戻ってしまうということが起きたそうだ。

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次の人事制度の変更として、「同一労働・同一賃金」の賃金体系だ。サトレストランシス

テムズでは職務給にシフトし、正規社員やパートタイマーの垣根を超える制度を導入する。

評価の方法としては成長ぶりや業績が公正公平に評価される。今後、店舗拡大を踏まえ、

頑張り続ける女性を評価したいとのことだ。能力的に見て、パートタイマーとして長く働

く女性は正規社員に劣らない能力があると考え、さらなるキャリアアップを目指すための

人事制度と、賃金体系の変更が行われることになった。サトレストランシステムズの課題

としては、今回でパートタイマーから女性の正規社員は増えたが、総合職として未来の経

営を担う女性が少ないことが挙げられる。要因として女性のロールモデルがいないこと、

女性を活用することの社員の意識が十分ではないことが挙げられる。今後は、誰でも正規

社員になることができるようになったため、働く意識の差を埋めることが目標である。サ

トレストランシステムズの女性活用における特徴は、一人一人のライフスタイルに合せた

職種が選択できること、仕事に見合った賃金体系を実現しようとしている。

5. すべての人が輝く社会へ

5.では、「女性が輝く社会」に向け何をすべきかをまとめ、次に「すべての人が輝く社会」

について自分の意見を述べる。

M 字カーブによってわかる女性の現状は、20 代後半から 30 代前半は離職し、育児が落

ち着いた後は非正規社員にキャリアダウンしてしまう。女性はライフイベントが多く、正

規社員として仕事を継続しキャリアアップを目指すことは難しい。これらの課題を解決す

るために、第 2 次安倍政権は 3 年間の育児休業制度や時短制度、在宅勤務などの離職をし

なくても済む支援や制度を充実させようとしている。また、企業も女性が働き続けるため

の支援を行っている。例えば、KDDI では復職率がほぼ 100%で、女性が復職しやすく、

キャリアアップを目指すことができる制度が整いつつある、先進的な企業である。しかし、

制度が充実している KDDI ですら、自身の企業を評価すると 40 点程度だと言う。男性と

同様にキャリアを積むには環境が整っておらず、会社で意識改革を行い、さらに社会の意

識を変えていくことが次の課題である。

ところが、能力があり、働き続けたい女性へのインタビューによると、「産前産後休暇し

か取得しなかった。育児休業期間を長くしてほしいわけではなく、男性と同等に働けるよ

うな制度がほしい」そうだ。長期的な休業は、女性にとってキャリアを犠牲にすることに

なる。

社会は今、様々な制度を導入しようとしているが、それらの制度では、女性のハンデを埋

めることは出来ても、無くすことはできないため、真に「女性が輝く社会」を創り上げる

ことにはならない。どうすれば、日本が理想とする働き方が可能となるのだろうか。1 つ

目は会社や社会の理解、2 つ目は日本人の働き方の見直しが重要であると考えられる。会

社では、上司や周りの意識改革が必要で、社会的には「女性が家事や育児をするもの」と

いう概念を無くさなければならない。そして、日本人の働き方は、男性主体であることが

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前提とされており、女性が男性と同じように働ける環境を整えていかなければならない。

最後に、日本が本当に目指すべき国のあるべき姿は、「すべての人が輝く社会」だと考え

る。「女性が輝く社会」とは、無理に女性が輝く必要のない社会であり、「すべての人が輝

く社会」であることが重要である。日本は北欧の考え方をモデルとして参考にするべきで

ある。「すべての人が輝く社会」を実現している北欧の素晴らしい点は、女性への支援が手

厚いわけではなく、すべての人が同一労働同一賃金のもと、個人に合わせた多様な働き方

を可能にしていることだ。その上、日本よりも労働時間は短いが、労働生産性は高く、合

計特殊出生率も高い。北欧とは歴史や文化は異なるが、日本が北欧と同じように働けない

理由として、日本は「女性が輝く社会」と提唱している時点で男性目線だということに気

づいていないからだ。女性が働き続けるための制度が実は「女性が育児をするもの」とい

う概念の前提となってしまっている。女性は決して輝きたいわけではなく、男性と同じよ

うに働き、ライフステージに合わせた働き方が可能な社会を望んでいるのである。男女と

いう性別的役割を無くし、社会の意識を変えることで、「すべての人が輝く社会」を実現で

きるのだろう。

おわりに

男女雇用機会均等法施行から約 30 年が経過した。オランダやスウェーデンは約 30 年を

かけて男女の壁をなくし、すべての人が柔軟に働ける社会を整備した。日本はまだまだ北

欧に後れをとっていると言えるだろう。今後、女性が企業で働き続けるためにはロールモ

デルとなる女性が必要となる。

本論文を執筆するにあたって、お子様を持ちながらもバリバリ働く女性 3 人に「女性が

働き続けること」についてインタビューさせていただき、「働くお母さん」の強さに衝撃を

受けた。当時育児休業が無かった女性、産前産後休暇だけで仕事に復帰した女性、当時育

児休業の制度が整っておらず、育児休業取得者第 1 号だった女性、それぞれの方が困難を

乗り越え、今も働き続けられている。3 人とも口を揃えて仕事と家庭の両立は大変だが、

子どもが与えてくれるパワーは大きいと話しており、いきいきと働かれている姿が印象的

だった。企業にとって、素晴らしいロールモデルとなる女性たちにお話を聞かせて頂き、

論文を執筆する上でも、自分自身が働く上でも学ぶことが多かった。そして、企業の人事

部の方にもお話させていただき、現場の声を聞くことができた。例えば、「なでしこ銘柄」

に 2 年連続選定されている KDDI は、女性が働き続けるための支援が柔軟で先進的な企業

として認定されているにも関わらず、「まだまだです」と少し厳しいコメントをされていた

ことに驚いた。KDDI のように男女関係なく働き続けられる社会を目指す企業が、日本の

意識を変えていくのだと思う。「すべての人が輝く社会」に向けて、社会人の一人として努

力していきたい。

最後に、卒業論文をご指導いただいた佐藤先生、本当にありがとうございました。何度

も同じ卒論を見せてしまい、大変ご迷惑をおかけいたしました。「女性が輝く社会とは」と

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いうテーマで論文を書いてきましたが、論文を通してテーマの内容、文章力や内容の構成

だけでなく、今後社会人になる上で大切なことを学ぶことができたと思います。そして、

先生のおかげで、普通では絶対にお会いできない方々にお話を聞くことができ、自分の予

測していた答えとは違う答えにたどり着くことができました。一方でもう少し早く準備し

ていればよかったと反省しております。今回の経験を活かし、自分自身が女性としてロー

ルモデルになれるよう、頑張りたいと思うようになりました。本当に長い間、ありがとう

ございました。

参考文献

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2008 年)

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%E3%83%B3+%E5%A5%B3%E6%80%A7+%E6%94%AF%E6%8F%B4

20. 内閣府 第 2 章 ワークシェアリングの成果-オランダ・ドイツ、

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26. ノルウェーにおける男女平等政策、

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33. 財務省 国民負担率の国際比較、

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