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─ 141 ─
地下水冷却と遮光資材の併用による養液栽培アイスプラントの夏季収穫の可能性
○江頭淳二・中島正明1) (佐賀農業セ三瀬・1)佐賀上場営農セ)
【目的】 佐賀県北部の中山間地では,アイスプラントの養
液栽培が行われ,10 月から翌年6月まで継続的に出荷されている。近年になり,市場での有利販売のた
め,7月から9月までの夏季に収穫できる低コスト
栽培法の開発が求められるようになった。そこで,
中山間地にある冷涼な地下水と遮光資材を利用した
養液温度の下温による生育促進効果とそれによる夏
季収穫の可能性について検討した。 【材料および方法】 試験は,標高 400m の佐賀県農業試験研究センター三瀬分場の雨よけハウス内でNFT水耕栽培装置
(長さ 3.5m)を用いて実施した。播種は 2013 年5月 30 日,2014 年5月 15 日に行い,定植は 2013年7月9日,2014 年6月 27 日に行った。2013 年は,栽培装置の表面のマルチ上(条間に設置)に設
置した直径 10cm のビニル製ホースの中に地下水(水温 18℃)を毎分3ℓ常時通水し,2014 年は温度をより下げるため,ホースを栽培装置の底部に設置し
通水を行った(図1)。通水した地下水はハウス外へ排出した。遮光資材は,アルミ蒸着フィルム{商品
名「LSスクリーン」(遮光率 52%)}を栽培装置上に,2013 年は平張りし,2014 年はトンネル状に設置した。試験区は,通水のみ区,遮光のみ区,無処
理区とした。また,2014 年のみ地下水の通水のためのビニル製ホースと遮光資材の両方を設置した通水
+遮光区を設けた。 【結果および考察】 試験期間中の気温は,2013 年は平年より高く,2014 年は生育初期の 7 月上旬は低かったが,それ以降収穫まで平年並みとなった。
2013 年では,マルチ表面に設置したビニル製ホースに地下水を常時通水することによる生育促進効果
が認められた(表1)。さらに,遮光資材により栽培装置上の気温を平均 1.5℃下げることができ,萎凋株や赤芽株の発生が少なくなり,さらに生育が促進
されることが明らかとなった(表2)。 2014 年では,養液の温度は,通水+遮光区が最も
低くなり,晴天日(7月28日)の15時においても23℃であった。また,遮光のみ区は無処理区と差がなく,
遮光資材だけでは養液の温度は下がらなかった(表3)。定植 1 ヶ月後(7 月 28 日)の生育は,通水+遮光区が最も旺盛で,健全株率は,通水+遮光区と通水
のみ区が他の区より高かった(表4)。また,7月 30日に収穫を行った結果,収量は,生育同様,通水+
遮光区が最も多かった(表5)。 以上のことから,佐賀県北部の中山間地のアイス
プラント栽培において,冷涼な地下水を通水し,遮
光資材を被覆することにより生育が促進され,夏季
の収穫が可能であることが分かった。
灌水チューブ
栽培容器
ビニル製ホース(幅10cm)地下水(流量1ℓ/分/本)
遮光資材60cm
図1 地下水の通水と遮光資材設置の方法 (2014年)
表1 処理の違いと生育 (2013年)
区名 全重 全長 側枝数
g cm 本通水のみ区 28.2 18.6 5.6無処理区 25.4 16.0 4.3
表2 処理の違いと気温および生育 (2013年)
区名 気温 全重 全長 側枝数 健全株率
℃ g cm 本 %遮光のみ区 30.0 50.1 19.3 6.0 100.0無処理区 31.5 14.2 12.2 4.8 20.0注)気温は、8月12日に9:00~17;00まで1時間毎に測定した平均値
表3 処理の違いと養液の温度 (2014年)
区名
9:00 12:00 15:00℃ ℃ ℃
通水+遮光区 20.0 22.0 23.0遮光のみ区 22.0 25.0 26.0通水のみ区 21.0 22.0 24.0
無処理区 23.0 25.0 26.0
温度
表4 処理の違いと健全株率および生育 (2014年)
区名 健全株率 7月10日 7月16日 % cm cm
通水+遮光区 68.8 15.8 21.7遮光のみ区 28.1 15.1 19.5通水のみ区 71.9 15.6 21.0無処理区 15.6 14.6 17.0a)株の直径の最大部を測定し、広がり具合の指標とした。
株張りa)
表5 処理の違いと収量(2014年)
収量
区名 (kg/a)通水+遮光区 7.28遮光のみ区 1.68通水のみ区 0.66無処理区 0.52注)2014年7月30日収穫
梅雨期の夏秋キャベツにおけるマルチの効果
○田中陽子・岩本英伸 (熊本農研セ高原)
【目的】
夏秋キャベツでは近年契約栽培が増加しており,
安定的な継続出荷が求められている。しかし,梅
雨期にかかる作期では,降雨により計画的な定植
が難しく,また,定植後も肥料流亡に加え,適期
の追肥ができないことがあり,生産が不安定であ
る。そこで,梅雨期におけるマルチ栽培の生産安
定効果および減肥の可能性について検討した。 【材料および方法】 試験は高原農業研究所露地圃場で実施し,‘秋徳
SP’(タキイ種苗)を供試した。2014 年 6 月 19 日
および 7 月 23 日の 2 回定植し,マルチ栽培の窒素
施用量(全量基肥)として, 20,15,10,5kg/10a
の各区を設けた。対照区は無マルチ栽培とし,窒
素施用量を基肥 10kg/10a,活着後の追肥 9kg/10a,
結球開始期の追肥 6kg/10a とした。肥料はすべて
速効性のものを使用した。また,マルチは生分解
性黒マルチを使用した。マルチ栽培は,畝幅 120cm,
株間 30cm,条間 50cm の 2 条植え,無マルチ栽培
は畝幅 60cm,株間 30cm の 1 条植えで,栽植密度
はいずれも 5560 株/10a とした。試験規模は 1 区
20 株の 3 反復とした。結球開始期に最大外葉の葉
幅を,また,収穫時に結球重を 1 区あたり 10 株測
定した。結球開始期には,黄化しておらず,かつ
地面についていない一番外側の葉の葉柄基部を絞
り,コンパクトイオンメーターで汁液中硝酸態窒
素濃度を 1 区あたり 5 株測定した。
【結果および考察】 栽培期間中の降水量の合計は,6 月 19 日定植が
958mm,7 月 23 日定植が 553mm であった。6 月 19
日定植では 7 月 3 日に 119mm の最大の降雨があっ
たが,7 月 23 日定植では 8 月 4 日の 54.5mm が最
大であった(阿蘇乙姫アメダスデータ)。
生育前半の降水量が多かった6月19日定植の対
照区(無マルチ栽培)では,結球開始期の葉幅が
小さく,葉中硝酸態窒素濃度も低かった(図1)。
また,収穫時の結球重も790gと,目標の1000gを
下回った(図2)。これに対し,マルチ栽培のN20kg
区およびN15kg区では対照区と比較して,結球開
始期の葉幅が大きく,また,葉中硝酸態窒素濃度
も高く,収穫時の結球重は1000g以上であった(図
1,2)。一方,降水量が比較的少なかった7月23日
定植においては,対照区でも順調に生育し,結球
開始期の葉幅が大きく,葉中硝酸態窒素濃度も高
かった。また,収穫時の結球重も1115gと,1000g
以上であった。
以上の結果から,生育前半が梅雨期にあたる夏
秋キャベツでは,マルチ栽培とすることで,窒素
施肥量を15kg/10a(減肥率40%)に削減しても,
無マルチ栽培に比べ結球開始期までの生育が促
進され,結球重は1000g以上となり生産が安定す
ることが示唆された。
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
0
5
10
15
20
25
30
35
マルチN20kg
マルチN15kg
マルチN10kg
マルチN5kg
無マルチN25kg
(対照)
マルチN20kg
マルチN15kg
マルチN10kg
マルチN5kg
無マルチN25kg
(対照)
6/19定植 7/23定植
葉幅
葉幅
葉中硝酸態窒素濃度
(cm)
葉中硝酸態窒素濃
(ppm)
図1 結球開始期における最大外葉の葉幅およ
び葉中硝酸態窒素濃度 誤差線は標準誤差(n=3)を示す
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
1600
マルチ
N20kg
マルチ
N15kg
マルチ
N10kg
マルチ
N5kg
無マルチ
N25kg
(対照)
マルチ
N20kg
マルチ
N15kg
マルチ
N10kg
マルチ
N5kg
無マルチ
N25kg
(対照)
6/19定植 7/23定植
結球重
(g)
図2 収穫時の結球重 誤差線は標準誤差(n=3)を示す
p123-145cs6.indd 141 2015/07/24 17:09:55