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「電気自動車(第2版)」 サンプルページ · 2017-09-06 · ÿõý ? > × ; ï Ì » w M ø÷ÿ H · × w á QQQQQQQQQ øø÷ õø × w á q ø æ Å øø÷ õù ø æ

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「電気自動車(第 2 版)」

サンプルページ

この本の定価・判型などは,以下の URL からご覧いただけます.

http://www.morikita.co.jp/books/mid/074302

※このサンプルページの内容は,第 2版 1刷発行時のものです.

改訂にあたって

本書は 2009年に出版された『電気自動車 電気とモーターで動く「クルマ」のしくみ』を全面改訂したものである.旧版が出版された 2009年は初めて本格的に量産されたバッテリー式電気自動車 i-MiEVが発売された年でもあり,電気自動車の時代の幕開けを感じさせる年であった.その頃,ハイブリッド電気自動車はときどき見かけるようになってはいたものの,まだ広く普及しているという状況ではなかった.町で電気自動車を見かけると,珍しいものを見物したような気分になった.それ以来わずか 8年で,ハイブリッド電気自動車が当たり前のクルマになり,バッテリー式電気自動車も何機種も量産されるようになった.筆者は授業で旧版を教科書として使用してきているが,近頃ではいささか古臭い印象をもつことが免れなかった.また,旧版は筆者が初めて単著で書き下ろした教科書であり,説明や表現がうまくできていないところが多々あった.そこで,現時点での視点で内容を全面的に見直してみた.すると,電気自動車はもはや単なる電動車両ではなく,スマートグリッド(12章で述べる)などとの社会とのかかわりや自動運転(11章で述べる)での人間とのかかわりなど,電気自動車をめぐる技術が大きく変貌してきたことをあらためて実感した.そこで,それらを追加して教科書として書き直すこととした.また,電気自動車は日進月歩で進歩しており,現時点での具体例を述べるより基本的な技術,考え方を中心に記述するようにした.改訂にあたり,大学の 15週授業への対応を考え 14章構成に変更し,電気自動車の歴史やスマートグリッドとのかかわりについての章を追加した.今後,何年間この教科書が使い物になるかはわからないが,本書が使い物にならないほど電気自動車の技術が進歩することを期待している.

2017年 8月 森本雅之

i

はじめに

電気自動車は,電気エネルギーを使ってモーターで走行する車両である.つまり,モーターとバッテリーを積んだ電動の車両である.電動の乗用車,バス,トラックはもちろんのこと,鉄道車両や電動車いすも電気自動車の仲間といえる.一般に電気自動車というと乗用車のイメージが強いが,本書では,それ以外の車両も含んだ電気とモーターで動く車両全体について,工学的なしくみや理論をわかりやすく解説する.電気自動車とは従来,図 1に示すように,エンジンをモーターに置き換え,燃料タンクをバッテリーに,給油を充電に置き換えたものと説明されることがあった.事実,当初の実験的な電気自動車はエンジン車を改造して製作された.しかし,現在の電気自動車は,単にエンジン車を改造したものではない.「ミニ四駆」†を考えてみよう.ミニ四駆は,当然のことながらエンジンを搭載することなど考えていない.最初から電池とモーターで走行するように設計されている.現在の電気自動車は,まさにミニ四駆と同じような考え方,すなわち,最初から電動で走行するように専用に設計されている.いいかえれば,電気自動車は従来のエンジン車にとらわれない自由な発想が可能なのである.また,電気自動車にはエンジン車と決定的に異なる特徴がある.そ

† (株)タミヤから発売されている動力付自動車模型.

ii

図 1 従来の電気自動車の考え方

れはエネルギーの回生である.回生については,3.2節で詳しく述べるが,減速時に発電した電力をバッテリーに貯め再利用するしくみである.エネルギーを有効に使えるため,これからの時代にふさわしいエコ技術といえる.鉄道車両もモーターで動き,回生エネルギーも利用できる電気自動車の仲間といえる.電気自動車と鉄道車両の違いは,操舵方法により区別できる.車両に操舵機構が搭載されているのが電気自動車である.一方,外部の機構から強制的に方向を変更される(これを案内という)のが鉄道である.つまり,電気で走るバスと路面電車の違いはハンドル操作で走行するか,レール上を走行するかの違いのみで,いずれも電気とモーターで動く車両である.もっと広く考えると,登山鉄道などに使われるケーブルカーは車両上に駆動機構をもたずに,電動のロープで牽引される車両である.斜面に設置された斜行エレベーターも同じである.本書では,これらをすべて電気自動車の仲間として扱う.本書は,電気自動車にかかわるすべての人々の参考になるように工学的なしくみをできるだけ平易に解説している.自動車は総合技術である.電気自動車を扱うためには電気電子工学,機械工学,化学などの幅広い知識と技術が必要とされるが,本書は,そのなかでも特に電気自動車にかかわる電気系の技術を中心に説明している.本書が電気自動車に興味がある人,また,電気自動車についてこれから学ぼうとしている人々の入門書として役に立つことを願う次第である.

2009年 7月 著 者

はじめに iii

目 次第 1章 電気で動く車 11.1 電気自動車と電動車両 11.2 電気自動車の分類 31.3 電気自動車の現状 41.4 地球環境とのかかわり 61.5 電気自動車の普及 11

第 2章 電気自動車の歴史 122.1 最初の電気自動車 122.2 電気自動車の全盛時代 132.3 エンジン自動車の普及 152.4 ハイブリッド電気自動車の出現 152.5 電気自動車の復活 16

第 3章 バッテリー式電気自動車20

3.1 電気自動車の構成 203.2 エネルギーの回生 233.3 電気自動車の性能と評価 263.4 電気自動車の走行距離 283.5 電気自動車の電気システム 29

第 4章 ハイブリッド電気自動車31

4.1 ハイブリッド電気自動車の種類 314.2 ハイブリッド電気自動車の動作 334.3 プラグインハイブリッド 404.4 ハイブリッド電気自動車の設計の考え

方 42

第 5章 燃料電池と太陽電池44

5.1 電気自動車のエネルギー源 44

5.2 燃料電池の原理 455.3 燃料電池自動車の構成 495.4 実際の燃料電池自動車 525.5 太陽電池とソーラーカー 56

第 6章 電気自動車用バッテリー59

6.1 バッテリーの基本 596.2 鉛バッテリー 626.3 ニッケル水素バッテリー 636.4 リチウムイオンバッテリー 646.5 バッテリーへの充電 676.6 キャパシタとメカニカルバッテリー

69

第 7章 電気自動車用モーター74

7.1 自動車用モーターに要求される特性74

7.2 直流モーター 787.3 誘導モーター 827.4 同期モーター 867.5 リラクタンスモーター 897.6 インホイールモーター 91

第 8章 電気自動車用パワーエレクトロニクス93

8.1 パワーエレクトロニクスとは 938.2 DCDCコンバーター 958.3 インバーターの原理と構成 1008.4 インバーターによるモーターの制御

1038.5 インバーターの損失と冷却 104

iv

8.6 電気自動車用インバーターの制御108

第 9章 自動車の運動 1109.1 自動車の運動と走行抵抗 1109.2 走行に必要なエネルギー 1139.3 タイヤのすべりと粘着 1149.4 減速と制動 1159.5 旋回運動 118

第 10 章 車両搭載機器 12110.1 原動機 12110.2 動力伝達装置 12310.3 ブレーキ 12510.4 操舵装置 12810.5 パワーステアリング 12910.6 カーエアコン 130

第 11 章 自動運転 13511.1 自動車の運転 13511.2 運転支援システム 13711.3 運転支援のための各種センサ 13911.4 自動運転 141

第 12 章 電気自動車の充電と社会144

12.1 自動車への充電 144

12.2 AC充電 14612.3 DC充電 14612.4 非接触充電 14812.5 充電ネットワーク 15012.6 V2H と V2G 150

第 13 章 操舵する電動車両153

13.1 特殊自動車 15313.2 産業車両 15613.3 建設車両 15913.4 大型の専用車両 16013.5 二輪車と歩行者扱いの電動車両

16113.6 トロリーバス 163

第 14 章 案内される電動車両165

14.1 鉄道とは 16514.2 鉄道車両 16614.3 新しい交通システム 17014.4 エレベーター 173

さらに勉強したい人のための参考文献 178索 引 179

目 次 v

コラム目次

自動車の値段は 100グラムあたり 150円です30太陽のエネルギーは無尽蔵58ポルシェのハイブリッド戦車73フレミングの法則79エジソンは正しかった?92タイヤは地面を温めています115高周波を使うとコイルが小さくなる?145時速 6 km以下は歩行者です 164世界で一番速いエレベーター177

目 次vi

1.1 電気自動車と電動車両電気で動く車というとまず思い浮かべるのがバッテリーを搭載した電気自動車である.電気自動車という言葉は電動式の自動車を指している.一方,電動車両(EV:Electric Vehicle)という言葉は電気エネルギーで走行する車両すべてを指している.こちらは,もう少し広い意味の車両を指しており,作業用車両,電動カート,鉄道車両なども含めて電動車両とよばれている.つまり,電動車両は古くから広く使われてきているのである.本書は,電気自動車を含む電動車両全般について述べている.本書で電気自動車とよぶときには電動車両全般を指し,自動車以外に限る場合のみ電動車両とよぶことにする.ここで,なぜ,電動車両をまとめて電気自動車とよぶかについて公共交通機関を例に説明してみよう.図 1.1にバスと鉄道の中間に位置づけられる交通機関を示す.エンジンで道路を走るバス(自動車)と線路の上を走る鉄道車両(電車)の中間に相当するものが様々出現している.エンジン駆動の通常のバスが専用道路を走るものはBRT(Bus Rapid Transit)とよばれる.BRTをさらに発展させたものがガイドウェイバスである.ガイドウェイバスの専用軌道には案内機構があり,外部から進行方向を案内される.専用軌道では運転手は操舵が不要である.また一般道路では通常のバスとなり,操舵が必要である(図 1.2(a)).ガイドウェイバスはさらに IMTS†という形のより進んだ無人運転の電動車両に展開した(図 1.2(b)).IMTSは自動操舵システムにより誘導されるので外部からの案内が不要である一方,新交通システム(AGT:Automoted Guideway Transit)とは小型の鉄道車両の車輪をゴムタイヤにするなどして軽量化したものである(図 1.2

(c)).自動車から発展した IMTSと鉄道から発展した新交通システムはかなり似た

† IMTS:Intelligent Multimode Transit System,2005年の愛知万博で運行された無人運転可能なバスシステム.仮想連結した編成運転も行う.

電気で動く車とは,電気エネルギーによりモーターを用いて走行する車両である.エンジンで動く車と比べ,排気ガスがない,高効率,石油を直接消費しない,静粛である,などの様々な利点を備えている.本章では,電気で動く車とはどのようなものか概要を述べ,さらに,電気自動車を取り巻く環境について述べる.

1電気で動く車

1 章 電気で動く車2

図 1.2 バスと電車の中間の交通機関

図 1.1 バスと鉄道の中間の交通機関

コンセプトになっている.このように公共輸送では,鉄道(電車)と道路交通(自動車)の境界があいまいになってきている.技術的には地上側のレールなどの外部の機構により方向を案内されるものを鉄道とよび,車両側のハンドル操作などの操舵機構を搭載しているのが自動車と区別すべきであると考えられる.本書では,これらをまとめて電気自動車とよぶことにする.

1.2 電気自動車の分類電気自動車の分類を表 1.1に示す.表には本書で取り上げる電気自動車の例をあげている.

バッテリー式電気自動車バッテリー式電気自動車とはバッテリー(充電式電池)を搭載し,バッテリーに蓄積されたエネルギーを利用して走行する車両である.バッテリーフォークリフトなどもこの分類に含まれる.バッテリー式電気自動車では,最高速度などの動力性能はモーターの出力またはバッテリーの供給可能な出力により決まるが,走行可能な航続距離はバッテリーの容量によって決定される.すなわちバッテリーの性能が車両の性能を大きく左右する.バッテリー式電気自動車は BEV†(Battery EV)とよばれる.架線式電気自動車架線式電気自動車は架線により常時電力を供給して走行する車両である.走行性能はモーターによってのみ決まる.必要な電力はすべて架線から供給される.架線から

† わが国では PEV(Pure EV)とよぶ場合があるが,本書ではプラグインハイブリッドと区別するためBEVを用いる.

1.2 電気自動車の分類 3

表 1.1 電気自動車の分類

分類 車両に操舵機構を搭載するもの 地上に案内機構があるもの

バッテリー式電気自動車(BEV)

自動車フォークリフト

電動バイク,電動車いすAGV(無人搬送車)

架線式電気自動車 トロリーバス電車

モノレールコンテナクレーン

ハイブリッド電気自動車(HEV)

自動車パワーショベル

ハイブリッド鉄道車両

その他の電気自動車ソーラーカー

電動アシスト自転車ケーブルカーエレベーター

電力を供給されるため航続距離の概念はない.しかし,架線設備の範囲内でしか走行できない.架線式電動車両にはトロリーバス,電車,新交通システムなどがある.ハイブリッド電気自動車ハイブリッド電気自動車とは駆動のために 2種類の原動機†(Prime Mover)を組み合わせて走行する車両である.ハイブリッド方式にはエンジンで発電機を駆動して電力を得て,その電力によりモーターで走行するシリーズハイブリッド,エンジンの動力とモーターの動力を併用して車軸を駆動するパラレルハイブリッド,およびそれらを組み合わせたものなど様々な方式がある.ディーゼルエンジンで発電機を駆動し,エンジンを調節することで走行を制御するディーゼル電気駆動(ディーゼルエレクトリック)は船舶の電気駆動や鉄道車両にも用いられ,ハイブリッドに属する.ハイブリッド電気自動車は HEVとよばれる.その他の方式の電気自動車据え置き型のモーターにより車両をロープで牽引するものの例としてケーブルカーがある.この方式は車両にモーターを搭載していないが電動で走行する車両である.エレベーターもこの方式の電気自動車と考えてよい.

1.3 電気自動車の現状ここで,自動車の普及ということを考えてみよう.自動車は 19世紀末に発明され,

100年以上の歴史がある.しかし,初期の自動車は馬車の代替という位置付けであり,長距離輸送や大量輸送は鉄道に頼っていた.自動車が陸上の輸送手段として大きな割合を占めるようになったのは,20世紀最後のわずか 30年足らずの期間である.わが国の自動車保有台数は 2016年で約 8000万台である.これは世界の自動車保有台数の約 6%を占めている.わが国は約 5600万所帯と推定されている.したがって,自動車はほぼ一家に 1台の割合で所有されていると考えてよい.米国では自動車は約 2億 5000万台保有されている.これは世界の自動車の約 20%を占めている.米国では運転免許保有者(2億人と推定されている)より車の数のほうが多い.これは 1人で車を複数台所有しているということを示している.なお世界全体で考えると自動車は 6人で 1台所有する計算になるといわれている.しかし,今後の経済発展に伴い,さらに自動車の数は増えてゆくものと考えられる.

† 原動機:PrimeMover,自然界のエネルギーを機械的な仕事に変換する装置を指す.風車,水車,蒸気機関,タービン,内燃機関(エンジン),電気モーターなど.

1 章 電気で動く車4

1.3.1 電気自動車の普及状況

では,現在の電気自動車の普及状況はどうであろうか.2014年度のわが国の保有台数はバッテリー式電気自動車 BEVが約 11万台,ハイブリッド電気自動車 HEVが約470万台である.HEV, BEVは自動車保有数のうちでは,まだわずかな割合に過ぎない.これには価格,性能,求めやすさなどのいろいろな理由があると思われる.現状の電気自動車やハイブリッド電気自動車はユーザーの自動車に対する要求をまだ十分に満たしていないといってもいいだろう.自動車の一つの性能を示すのが燃料を満載したときの航続距離である.バッテリー式電気自動車 BEVであれば,満充電した場合に相当する.表 1.2に航続距離の比較を示す.ハイブリッド自動車 HEVの航続距離が長いのはモーターによりエンジンの燃料消費量が低下するからである.バッテリー式電気自動車 BEVの航続距離はエンジン自動車 ICV(Internal Combustion engine Vehicle)より劣ってはいるものの徐々に近づいているのが現状である.

1.3.2 電気自動車の環境性能

電気自動車の環境性能について述べる.図 1.3にエンジン自動車と電気自動車のエネルギー効率の比較を示す.エネルギー効率を表すのにWell ToWheel(油井から車輪まで)効率という言葉が使われる.つまり,原油のエネルギーに対して輸送,精製,発電などの経過を経た上で,どの程度が走行エネルギーに使われているかを示している.モーター効率は通常 80%以上である.これに対し,エンジンの熱効率は通常 15%程度である.したがってエンジン自動車と電気自動車の走行効率だけを考えれば大きな違いがある.しかし,Well ToWheelで考えた場合,発電効率,電池への充電効率などが影響してしまうので電気自動車の総合効率はエンジン自動車の約 1.5倍にしかならない.石油を使わずに,太陽光,風力などの再生可能エネルギーによる電力を使った場合,石油を消費しないためWell To Wheelという考えは成り立たない.遠隔地

1.3 電気自動車の現状 5

表 1.2 各種自動車の航続距離の例

種類 条件,性能 航続距離

エンジン車 40 Lタンク,10 km/L 400 km

ハイブリッド車 40 Lタンク,25 km/L 1000 km

電気自動車Ⅰ 軽自動車,16 kWhバッテリー 120 km

電気自動車Ⅱ 小型乗用車,30 kWhバッテリー 280 km

電気自動車Ⅲ スポーツカー,60 kWhバッテリー 400 km

からの送電を考慮に入れると総合効率は 50%程度である.長い歴史をもち,技術が成熟しているエンジン自動車は今後,それほど大きく効率改善することはあまり期待できない.一方,電気自動車は電池の充放電効率の向上をはじめとして改善できる要素が多い.したがって,効率の差はさらに広がってゆくと考えられる.

1.4 地球環境とのかかわり

1.4.1 自動車と大気汚染

エンジン自動車は炭化水素燃料を燃焼させて推進力を得る車両である.燃焼とは燃料と空気の化学反応である.燃焼で得られる熱エネルギーを推進力という機械エネルギーに変換する.燃焼反応により発生する生成物は大気中に放散される.炭化水素燃料の燃焼により生成されるのは大部分が二酸化炭素 CO2と水 H2Oである.地球上の植物は大気中に放出された CO2を取り込み,光合成によって酸素 O2を放出する.大気中に CO2がないと植物は成長できない.また,地球は水の惑星といわれるように表面の大部分を水で覆われている.このようなことから,燃焼反応そのものは本質的には地球にふさわしいものである.しかし,燃焼は同時に次に述べるように NOX, SOXなどの環境汚染ガスも発生する.したがって,燃焼量が多ければ環境や人体へ悪影響が出てしまう.この様子を図 1.4に示す.

1 章 電気で動く車6

図 1.3 エネルギー効率

4.1 ハイブリッド電気自動車の種類ハイブリッド電気自動車 HEVは,二つの原動機の接続方法によって図 4.1に示すように 3種類に分類される.以下にそれぞれの方式の概要について説明する.

4.1.1 シリーズハイブリッド電気自動車

シリーズハイブリッド電気自動車はエンジンで発電機を駆動し,発電した電力で

図 4.1 ハイブリッド電気自動車の方式

ハイブリッド電気自動車(Hybrid Electric Vehicle : HEV)は,エンジンとモーターなどの二つの原動機を組み合わせて車軸を駆動するシステムを用いた自動車である.ハイブリッド電気自動車はエンジンの稼働率を低下させることが可能なので排出ガスが低減できる.また回生により運動エネルギーが回収できるので燃費がよい.1997 年にトヨタから発売されたプリウスをはじめとする乗用車ばかりでなく,産業車両や鉄道車両などでもハイブリッド化が進んでいる.本章では,ハイブリッド電気自動車の基本と現状について述べる.

4ハイブリッド電気自動車

モーターを駆動して走行する.図 4.1(a)に示すようにエンジン,発電機,モーターがすべて直列に接続されている.シリーズハイブリッド電気自動車のエンジンは発電機を駆動するのみで,エンジンの出力軸は車体の駆動軸とは機械的に接続されていない.走行には発電機とバッテリーの双方の電力を用いる.発電機の電力のみ,またはバッテリーの電力のみでも走行できる.走行に必要な電力より発電機の出力が大きいときには走行中でもバッテリーに充電を行うことができる.自動車には燃料のみ供給すればよいのでバッテリーへの外部からの充電は基本的には不要である.エンジンはガソリンエンジンばかりでなく,ディーゼルエンジン,ガスタービンエンジンなど各種のエンジンが用いられる.

4.1.2 パラレルハイブリッド電気自動車

パラレルハイブリッド電気自動車は,図 4.1(b)に示すように駆動軸に二つ以上の駆動源が接続されている.エンジンとモーターを備え,両者の併用,あるいはどちらか片方で駆動する方式をいう.パラレルハイブリッドの方式は,駆動源の組み合わせが様々に考えられている.常時,エンジン出力とモーター出力を組み合わせて駆動することもできる.また加速のときのみモーターを駆動してエンジンをアシスト(加勢)し,減速時には発電機として回生電力を回収することもできる.一方,都市内ではモーターで走行し,郊外の高速長距離走行ではエンジンを使用するという方式もある.変わったものでは前輪の車軸はエンジンで駆動し,後輪はモーターで駆動する方式や,モーターとエンジンをクラッチで切り替える方式などもある.このように機械構造的なハイブリッド方式もある.パラレルハイブリッド方式は,走行動力の分担の割合でバッテリー容量が決まる.大容量のバッテリーを用いれば EV走行†の時間を長くすることができるがバッテリーが重くなる.小容量のバッテリーで加速のみ補えば軽量化できる.バッテリー重量,加速性能,燃費,排ガスなど,多くの要因を考慮して走行動力の分担が決定される.

4.1.3 シリーズ・パラレルハイブリッド電気自動車

シリーズ・パラレルハイブリッド電気自動車は,シリーズ方式とパラレル方式の両者の機能を備えたものである.モーターのほかに発電機も備えているので 2モーター方式とよばれることもある.シリーズとパラレルを切り換える方式や図 4.1(c)に示

† ハイブリッド電気自動車でエンジンを停止し,バッテリーのエネルギーのみで走行すること.

4 章 ハイブリッド電気自動車32

すようにエンジンの出力を動力分割装置で発電機と車軸に分配する方式もある.このような方式をスプリット方式とよぶこともある.シリーズ・パラレルハイブリッドの基本的な考え方は,燃費がよくなるようにシリーズとパラレルを組み合わせるということである.エンジンは低負荷では効率がよくないが負荷が高いと効率がよくなる.たとえば走行していないアイドリング状態では走行負荷はゼロであるが,燃料は消費するのでエンジンの効率はゼロである.そこで,エンジン負荷が低いときにはなるべくモーターを使い,極力エンジンを停止させ,エンジン負荷が高いときにはエンジンを積極的に使う,あるいはエンジンのみで駆動する.このような組み合わせをすれば低燃費が実現できる.図 4.2にエンジンの負荷と効率の関係を示す.このようにエンジン効率に従い動力源を切り替えるのがシリーズ・パラレルハイブリッド方式である.

4.2 ハイブリッド電気自動車の動作ハイブリッド方式は前節で述べたように大きく三つに分類されるが,実際にはクラッチを利用したり,エンジンのスターターモーターを走行にも利用するなど様々な方式がある.ここではその様々な方式について動作を説明する.

4.2.1 シリーズハイブリッド電気自動車の動作

シリーズハイブリッド方式はエンジン,発電機,モーターを直列に接続して構成される.図 4.3に基本構成を示す.エンジンの出力軸は発電機に接続される.発電機により発電された電力はバッテリーの充電およびモーターの駆動に使われる.走行はすべてモーターで行い,エンジンの出力軸は車軸とは接続されていない.

4.2 ハイブリッド電気自動車の動作 33

図 4.2 エンジン効率とハイブリッド

このような構成では次の運転モードが可能である.

① エンジンを停止し,バッテリーとモーターだけで走行する.② 発電出力をそのまま使ってモーターで走行する.③ 発電出力をバッテリーの充電と走行に利用する.④ 発電出力とバッテリーの出力を使ってモーターで走行する.

シリーズハイブリッド電気自動車はバッテリーの容量および充電量が多ければエンジンを停止してモーターのみで走行できるので①の走行モードは BEVとして動作している.バッテリーの容量が大きいほどエンジンの停止時間は短くできる.②の走行モードは発電機の出力と走行モーターの入力がほぼ等しいことを表している.一定速で走行するようなイメージである.このときバッテリーは加速,減速のエネルギーだけ充放電する.③の走行モードではエンジンでバッテリーを充電しながら走行する.走行エネルギーより余剰なエネルギーだけバッテリーに充電する.④の走行モードではエンジンによる発電機の出力とバッテリーの出力を合わせて使う.これがモーターの最高出力となる.シリーズハイブリッド電気自動車の走行はすべてモーターで行うため,最高速度や加速性能はモーターの性能のみで決まる.モーターが必要とする電力をエンジン発電機とバッテリーから供給する.供給電力の分担の考え方でシリーズハイブリッド電気自動車は大きく二つに分けられる.一つの考え方は負荷に関係なくエンジンを最も効率のよい条件で運転し,負荷の走行電力および電力変動はバッテリーで分担する考え方である.この考え方はバッテリーの容量は大きくなるが燃費は最良になる.常時バッテリーを最適運転の発電機でオンライン充電しているようなものである.もう一つの考え方は,負荷の変動に合わせてエンジンの出力を制御するものである.この方法ではバッテリーの容量は回生電力の出し入れができればよい程度の小容量でかまわない.回生を考慮しなければバッテリーなどのエネルギー蓄積要素をもたなくても成

4 章 ハイブリッド電気自動車34

図 4.3 シリーズハイブリッド方式

立する(4.3節参照).

4.2.2 パラレルハイブリッド電気自動車の動作

パラレルハイブリッド方式はエンジンとモーターのいずれの出力も車軸に接続されている.ここでは各種のパラレルハイブリッド方式の構成と動作を示す.比較的小容量のモーターをエンジンと同一の軸上に配置したパラレルハイブリッドを図 4.4に示す.これは,加速発進時などにモーターでアシストすることと減速時の回生をモーターで行うことを狙ったものである.この方法は,エンジン出力を電気的な手段で増加させるものと考えることもできる.すなわち排出ガス,燃料消費を増加させることなしにモーターによるアシストで出力が増加できる.ホンダの IMA

(Integrated Motor Assist)システムとよばれるのがこの方式である.この方式を用いたシビックハイブリッドのモーターのトルクを図 4.5に示す.図で上半分のトルク

4.2 ハイブリッド電気自動車の動作 35

図 4.4 パラレルハイブリッド(Honda IMA)

図 4.5 モーターのトルク速度曲線(ホンダ・シビックハイブリッド)

8.1 パワーエレクトロニクスとはパワーエレクトロニクス(Power Electronics)とはパワー(電力)を制御するエレクトロニクスの技術および装置である.パワーエレクトロニクスは電力を扱うので,電圧が高く,電流が大きい分野のエレクトロニクスともいえる.パワーエレクトロニクスはエネルギー変換は行わずに電気エネルギーのままで電力を制御する.電力の制御とは電力を利用するための電力の形態の変換である.したがってパワーエレクトロニクスは電力変換(Power Conversion)ともよばれる.電力の形態とは電力を決定する要因や波形を調節,変更するということである.表

8.1に電力の形態を決める要因を示す.直流の場合,電力は電圧と電流だけで決定されるが,交流の場合,電圧,電流のほかに位相や周波数という要因も考慮する必要がある.パルス電力の場合には,電圧,電流のピーク値ばかりでなく,パルス幅や電圧電流の変化の立ち上がり,立ち下りの速さも電力の形態要因である.

電力の形態の変換とは直流電力を交流電力に変換したり,直流電圧を別の直流電圧に変換したりすることである.電力変換を図 8.1に示す.直流電力を別の直流電圧または電流に変換することは直流-直流変換とよばれる.交流を直流に変換する「整流(Rectify)」は真空管の時代から広く使われており,この変換は古くから存在した.そのため,後年可能になった直流から交流への変換をあえて逆変換(Invert)とよぶようになった.そのため,交流を直流に整流することを順変換ともよぶ.交流電力を直

電気自動車は駆動用モーターばかりでなく,すべての機器が電気で動くと考えてよい.モーターなどの電気機器を動かすための制御装置をパワーエレクトロニクスとよぶ.本章では電気自動車に使われるパワーエレクトロニクスの概要について述べる.

8電気自動車用パワーエレクトロニクス

表 8.1 電力の形態

電力の種類 電力の形態

直流電力 電圧,電流

交流電力 電圧,電流,相数,位相,周波数

パルス パルス幅,振幅,繰り返し

接別の周波数の交流電力に変換したり電力を調整したりすることを交流-交流変換という.パワーエレクトロニクスで電力を制御する目的は,負荷から見て理想的な電圧源または電流源として働くことである.しかし,現実の回路素子は理想素子ではなく,応答おくれや制御時間の制約がある.さらには磁気飽和や逆起電力の発生などの電磁気現象が生じる.そのため得られる電力波形は理想的な形状になっておらず,さらに,パワーエレクトロニクス装置での損失も発生する.このような目指すべき理想の状態と現実の回路で発生できる電力の状態の違いを明らかにして,埋めてゆくのがパワーエレクトロニクスの技術であるともいえる.パワーエレクトロニクスはスイッチをオンオフ(開閉)することが基本である.スイッチの開閉を繰り返すことによる制御をスイッチングとよぶ.スイッチングによる電力調節の原理を図 8.2により説明する.この回路では直流電源 Eと負荷抵抗 Rの間にスイッチ Sがある.このスイッチを繰り返しオンオフしたとする.このとき負荷抵抗の両端の電圧はスイッチがオンすると Eとなり,オフのときには 0となる.負荷抵抗に印加される電圧の平均値はオンとオフの時間に応じて決まる.オンしている時間を TON,オフしている時間を TOFFとする.オン時間 TONとオフ時間 TOFFを

8 章 電気自動車用パワーエレクトロニクス94

図 8.1 電力変換

図 8.2 スイッチングによる制御の原理

合わせた一組の時間をスイッチング周期 Tとよぶ.T = TON + TOFF

このとき,オンオフ時間を比率で表し,デューティファクタ d(Duty Factor)とよぶ.

d = TONTON + TOFF =

TONT

スイッチング周期に対して十分長い時間を考えたとき,電圧の平均値が負荷抵抗に印加される平均電圧となので,デューティファクタ dにより出力電圧を表すことができる.

VR = d・Eなお,0񂉤 d < 1である.このようなスイッチングで制御を行った場合,電圧,電流は断続してしまう.電流や電圧が断続しないようにするために平滑回路を用いる.電圧,電流を平滑するためにインダクタンス,ダイオード,およびコンデンサが用いられる.このようにスイッチングによりデューティファクタを調節して電圧や電流を制御するのがパワーエレクトロニクスの基本である.本書では電気自動車でよく使われるDCDCコンバーターとインバーターの二つのパワーエレクトロニクス回路について述べる.

8.2 DCDCコンバーターDCDCコンバーターとは直流変換をする回路および機器を指している.ここでは代表的な回路である降圧チョッパ,昇圧チョッパおよびスイッチングレギュレーターについて述べる.

8.2.1 降圧チョッパ

降圧チョッパは直流電圧を低い直流電圧に変換する回路である.降圧チョッパの基本回路を図 8.3に示す.降圧チョッパは次のように動作する.① スイッチ Sがオンのとき,インダクタンス Lと抵抗 Rの直列回路の過渡現象により電流 iSはゆっくり上昇し,電流は

電源のプラス → L → R → 電源のマイナスと流れる.同時にコンデンサ Cを充電する.ダイオード Dは逆極性なので導通していない.このとき,iS = iL = iR + iCである.スイッチがオンしている期間はインダクタンスに電流が流れているので,インダクタンスには UL =

12L・iL2で示され

8.2 DCDCコンバーター 95

る磁気エネルギーが蓄積されている.② スイッチ Sがオフするとインダクタンスに蓄積されていたエネルギーを放出する.そのため,スイッチをオフしても電流がすぐにゼロにはならず,電流は

L → R → D

と還流する.また,コンデンサにも電流が流れる.このとき,iL- iC = iR = iDである.降圧チョッパの動作波形を図 8.4に示す.インダクタンス Lに流れる電流 iLはスイッチ Sを流れる電流 iSとダイオードを流れる電流 iDが交互に供給している.ここで,出力電圧 vRは直流成分 VRと時間的に変動する交流成分 vLの合成と考える.すなわち出力波形 vRは次のように表すことができる.

vR = VR + vL交流は平均するとゼロになるので vRの平均値は直流成分のみを考えればよい.それが出力電圧 VRとなる.インダクタンスの蓄積するエネルギーと放出するエネルギーは等しいことから,オン時の波形とオフ時の波形の面積が等しい.すなわち,

(E- VR)TON = VR・TOFFである.この関係から降圧チョッパの出力する平均電圧 VRは次のようにデューティファクタにより表すことができる.

VR =TON

TON + TOFF E =TONT

E = d・E

降圧チョッパはパワーエレクトロニクスの基本となる回路であり,様々な回路の一部として使われている.

8 章 電気自動車用パワーエレクトロニクス96

図 8.3 降圧チョッパの基本回路

8.2.2 昇圧チョッパ

昇圧チョッパは直流電圧を高い電圧に変換する回路である.昇圧チョッパの基本回路を図 8.5に示す.

昇圧チョッパは次のように動作する.① スイッチ Sがオンのとき電流 iSが流れる.電流の経路は次のようになる.

電源のプラス → L → S → 電源のマイナスこのときインダクタンス L に電流が流れるのでこの間にインダクタンスにはUL =

12L・iL2の磁気エネルギーが蓄積される.

② スイッチ Sがオフすると,インダクタンスに蓄えられたエネルギーはL → D → C

と還流する.この電流はコンデンサ Cを充電すると同時に出力に接続された負荷Rにも電流を供給する.このときの各部の電圧電流波形を図 8.6に示す.オンすると iSは時間とともに電流が増加する.iSがオフし,iDが流れるとき,インダクタンス Lの出力側の端子電圧

8.2 DCDCコンバーター 97

図 8.4 降圧チョッパの動作波形

図 8.5 昇圧チョッパの基本回路

vLは入力電圧 Eよりも L(di/dt)だけ高くなる.つまりインダクタンスで昇圧して負荷抵抗 Rに電流 iDを供給している.さらに,この E + L(di/dt)の電圧はコンデンサCを充電する電圧でもある.iSが流れている期間はコンデンサ Cに蓄積された電荷により Cから負荷抵抗 Rに電流を供給している.インダクタンスの蓄積するエネルギーと放出するエネルギーは等しいことから,インダクタンスの両端の電圧 vLのオン時の波形とオフ時の波形の面積が等しいと考えることができる.

E・TON = (VR- E)TOFF

したがって,昇圧チョッパの出力平均電圧 VRは

VR =1

1- dE

となる.出力電圧はデューティファクタに逆比例して高くなる.以上述べた二つのチョッパはパワーエレクトロニクスの基本回路である.いずれもインダクタンスによるエネルギーの蓄積放出を利用している.インダクタンスの利用がパワーエレクトロニクスの基本であると認識していただきたい.

8.2.3 スイッチングレギュレーター

スイッチングレギュレーター(Switching Regulator)とは変圧器を用いて入力回路と出力回路が絶縁された DCDC コンバーターである.絶縁型の DCDC コンバーターとよばれる.変圧器のインダクタンスを利用して様々な回路が考えられている.

8 章 電気自動車用パワーエレクトロニクス98

図 8.6 昇圧チョッパの動作波形

ここでは代表的な二つの回路について述べる.

⑴ フォワードコンバーターフォワードコンバーター(Forward Converter)の回路を図 8.7に示す.降圧チョッパのインダクタンスを変圧器に代えて絶縁したような回路構成になっている.ここで変圧器の巻線に「 ● 」印があることに注意してもらいたい.フォワードコンバーターは同じ側が同一極性になるような減極性の変圧器を用いる.「 ● 」は巻線の巻き始めを示している.フォワードコンバーターの動作を説明する.① スイッチがオンすると図 8.8に示すように 1次巻線のインダクタンスにより電流 i1がゆっくり立ち上がる.変圧器の誘導起電力により 2次巻線には同極性の電圧が誘導される.

2次巻線の誘導起電力によりダイオード D1が導通し,2次巻線にも同一の波形の電流 iTが流れる.つまり,オンの期間には電流 i1, iTが流れている.この間はインダクタンス Lにも電流が流れている.iTが出力電流 i2となる.② スイッチがオフすると D1がオフする.すると,インダクタンス Lに蓄積されたエネルギーがダイオード D2を導通させ,iDが流れ,出力電流 i2となる.つまり出力電流 i2は iTと iDが交互に供給する.この回路ではオン時には 1次巻線と 2次巻線に同時に電流が流れ,オフ時にはいずれも流れない.なお i1, i2とも,電流は一方向に流れる直流電流の断続である.変圧器を使う場合,変圧器の巻数比によって出力電圧を設定できるので,デューティファクタを制御することによってさらに精密に電圧調整することが可能である.⑵ フライバックコンバーターフライバックコンバーターの回路を図 8.9に示す.フライバックコンバーター

8.2 DCDCコンバーター 99

図 8.7 フォワードコンバーター 図 8.8 フォワードコンバーターの動作波形

(Flyback Converter)は加極性の変圧器を用いる回路である.図に示すように変圧器の 1次 2次巻線の巻き始めが逆になるように巻いてあるので「 ● 」が逆になっている.フライバックコンバーターの動作を図 8.10により説明する.① スイッチがオンすると 1次巻線に電流 i1が流れる.しかし,変圧器が逆の極性になっているため,ダイオードにより電流が阻止されて,2次巻線には電流は流れない.スイッチがオンの間は 1次巻線のインダクタンスにエネルギーを蓄積している.② スイッチがオフして 1次巻線の電流が流れなくなると,それまでインダクタンスに蓄積されたエネルギーが誘導起電力となってダイオード Dを導通し,2次巻線に電流 i2が流れる.

フライバックコンバーターではオンの期間に 1次巻線に電流 i1が流れ,オフの期間に 2次巻線に電流 i2が流れる.つまりオン期間中に変圧器に出力エネルギーを蓄え,オフ期間中にそれを放出する.したがって,出力する電力はすべて変圧器にいったん蓄える.フォワードコンバーターはオン時にインダクタンスを通して負荷に電流を流す降圧チョッパのような動作をするのに対して,フライバックコンバーターはオン時にはエネルギーを蓄積し,オフ時にそれを放出する昇圧チョッパのような動作であると考えてよい.

8.3 インバーターの原理と構成インバーターは直流を交流に変換する電力変換回路である.交流モーターの駆動制御に用いられる.まずインバーターの原理を図 8.11により説明する.図 8.11は,直流電源 E,S1から S6までの 6個のスイッチからなるインバーター,

8 章 電気自動車用パワーエレクトロニクス100

図 8.9 フライバックコンバーター 図 8.10 フライバックコンバーターの動作波形

索 引

英数字2次電池 59

ABS 118

AC充電 144

AGV 157

CVT 124

DCDCコンバーター 50,

53

DC充電 144

EPS 129

EV走行 32, 41

HEMS 151

IGBT 103

IGBT素子 106

IMTS 1

ISG 37

ITS 142

LRT 171

PTC 133

PWM制御 102

SLIバッテリー 15

SOH 61

SRモーター 12, 89

V/f一定制御 85

VVVF制御 85

Well To Wheel効率 5

ZEV法 16

あ 行アクセル 135

アシスト 35, 36, 43, 129,

161

アダプティブクルーズコントロール 138

案内 1, 3, 159, 165, 170

一充電走行距離 26

インバーター 145

インホイールモーター16, 91

永久磁石界磁直流モーター81

永久磁石同期モーター132, 174, 175

エクスカベータ 160

エコカー減税 11

エネルギー密度 20, 21,

61, 72

温室効果 8

オン損失 105

か 行界磁 78, 80, 82, 86

回生 22, 23, 27, 35, 36,

43, 71, 127, 169, 175

回生協調 127

回転界磁 83

回転磁界 86

開放電圧 OCV 47, 60

かご形回転子 83

可採年数 9

架線 166

間接冷却 106

基底回転数 85

き電 168, 171

起電力定数 80

軌道エレベーター 177

逆変換 93

キャパシタ 53, 69, 169

急速充電 144

空気抵抗 111

クラッチ 36

クルーズコントロール136

クローラ 155

ケーブルカー 172

牽引力 110, 113, 121

原動機 4

航続距離 3, 5, 61, 161

後側方車両検知警報 139

勾配抵抗 112

交流充電電力量消費率 26

コミューターカー 17

転がり抵抗 110

コンプレッサー 50, 131

さ 行再生可能電源 152

最大電力追従制御 56

最大粘着係数 115

三輪自転車 12

磁界共振方式 149

資源 9

車載電池システム 20

シャシダイナモメータ 27

車線逸脱防止支援システム139

重ダンプ 159

充電 20, 21

充電率 SOC 60, 69

出力密度 20, 21, 61, 63,

72

蒸気機関 12

衝突被害軽減ブレーキ138

シリーズハイブリッド 31

シリーズ・パラレルハイブリッド 32

新交通システム 1, 170

信地旋回 92

水素吸蔵合金 48, 63

スイッチング 94

スイッチング損失 105

ストロングハイブリッド40

すべり 84, 114

スマートグリッド 151

制動距離 117

セパレーター 66

旋回半径 119

走行抵抗 24, 110

走行モード 75

操舵 3, 129, 136, 163

操舵角 92

179

ソナー 140

ソリッドゴムタイヤ 155

た 行ダイムラー 13

タイヤ 128, 153, 170

太陽電池 56

ダイレクトドライブ 91

ダイレクトメタノール燃料電池 52

ダビッドソン 12

タービン 124

ターボ 122

ターボチャージャー 43

ターレ 157

地上充電器 144

直接冷却 106

直巻モーター 81, 157,

166

チョッパ 95

連れ回り 36

デューティファクタ 95

電解液 70

電解質 45, 62, 63, 64

電機子 79, 82, 86

電源構成 9

電磁誘導方式 149

電動三輪車 12

電力変換 93

動力分割装置 33, 38

ドライブトレーン 20, 22

トランスミッション 123

トルクコンバーター 124

トルク定数 80

な 行内部抵抗 21, 60, 71

鉛電池 67

ニューマチックタイヤ153

熱負荷 134

粘着係数 115, 116, 117,

166

燃料貯蔵 51

は 行バッテリーフォークリフト156

ハブモーター 92

パラレルハイブリッド 32

パリモーターショー 14

パワートレーン 52

パワーユニット 20

引きずり損失 36

非接触充電 148

ヒートポンプ 133

フェード現象 126

フォワードコンバーター99

普通充電 144

フライバックコンバーター99

フライホイール 71

ブレーキ力 116

フレミングの法則 79, 83

ベクトル制御 86, 89,

104, 157, 166

ベーパーロック 126

放電深度 DOD 60

補機 50

ま 行マイルドハイブリッド 40

水の電気分解 45

水の電気分解電圧 64

モペッド 161

や 行油圧ショベル 160

油圧ブレーキ 125

誘導モーター 157

弱め磁束制御 89

ら 行力行 24

リサイクル 11

リニアモーター 171

リラクタンストルク 87,

89

冷却 92, 106

レーダ 139

レール 165

レンジエクステンダー 16

ロープレスエレベーター176

わ 行ワイドバンドギャップ107

索 引180

著 者 略 歴森本 雅之(もりもと・まさゆき)1975年 慶應義塾大学工学部電気工学科卒業1977年 慶應義塾大学大学院修士課程修了1977~2005年 三菱重工業(株)勤務1990年 工学博士(慶應義塾大学)1994~2004年 名古屋工業大学非常勤講師2005年 東海大学教授

現在に至る

編集担当 宮地亮介(森北出版)編集責任 石田昇司(森北出版)組 版 コーヤマ印 刷 開成印刷製 本 協栄製本

電気自動車(第 2版)―これからの「クルマ」を支えるしくみと技術― © 森本雅之 2017

2009年 7 月 30日 第 1版第 1刷発行2015年 2 月 27日 第 1版第 4刷発行2017年 9 月 29日 第 2版第 1刷発行

【本書の無断転載を禁ず】

著 者 森本雅之発 行 者 森北博巳発 行 所 森北出版株式会社

東京都千代田区富士見 1-4-11(〒 102-0071)電話 03-3265-8341/ FAX 03-3264-8709http://www.morikita. co. jp/

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Printed in Japan/ISBN978-4-627-74302-1