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0 平成 23-24 年度 「理論と実践の融合」に関する共同研究 地域と連携したインクルーシブ 教育モデル構築に関する研究 報告書 兵庫教育大学 地域と連携したインクルーシブ体制研究会 2013 年 3 月 25 日

地域と連携したインクルーシブ 教育モデル構築に関する研究 報 …web.hyogo-u.ac.jp/kenji/Inclusive_System_in_Japan.pdf · 包括的・総合的なインクルーシブ体制構築への協力を表明している。このような背景お

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平成 23-24 年度 「理論と実践の融合」に関する共同研究

地域と連携したインクルーシブ

教育モデル構築に関する研究

報告書

兵庫教育大学 地域と連携したインクルーシブ体制研究会

2013 年 3 月 25 日

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目次

Ⅰ 本研究の目的について

Ⅱ 加東市における障害児者についての状況と課題

1.特別支援教育の現状

2.就学前の連携状況

3.福祉部局と教育部局との連携

4.児童に関する専門家資源マップ

5.母子保健体制の課題

6.特別支援教育における課題

7.障害者福祉の課題

Ⅲ デンマークにおける障害児者施策の状況

Ⅳ 国内各地の取組みの状況

1.島根県松江市

2.鳥取県倉吉市

3.長野県駒ケ根市

4.長野県塩尻市

5.長野県松本市

6.滋賀県日野市

Ⅴ 事例検討専門家チーム派遣研究事業(Deli コラ)について

1.研究事業の目的と要項

2.実施経過と成果

3.まとめ

Ⅵ インクルーシブ体制整備に向けての課題

1.はじめに

2.国内的課題

3.加東市における課題

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Ⅰ 地域と連携したインクルーシブ体制研究会について

1 本研究の背景

わが国の特別支援教育は、2002 年に制定された障害者基本計画と連動して、福祉・医

療・労働の各領域との連携を図り、生涯を見通した支援を提供することを目標に掲げた。

教育領域では個別の移行支援計画をはじめ、個別の教育支援計画を策定し、個々のニー

ズを明確化しながら支援を展開しようとした。対象の拡大、特別支援学校のセンター的

機能の充実、特別支援教育コーディネーターによる調整機能の実現等により、インクル

ーシブ教育を志向するものであったと言える。

構想が示された段階の 2003 年時点では、さまざまな方向性への模索がなされたが、実

施時点では新たに対象とされた発達障害等への対応が焦点化され、アセスメントに力点

が置かれる傾向が強く現れていた。

現状では、条件整備の遅れから特別支援教室は制度化されず、早急に整備を進めるべ

き課題とされた。同時に特別支援教育コーディネーターの専門職化も実現に至らず、通

常教育担当教員の特別支援教育に係る専門的力量の向上も不十分な水準にとどまってい

る。

ところが、障害者の権利条約批准に向けた国内法整備が進む中で、インクルーシブ社

会実現を盛り込んだ障害者基本法が 2011 年8月に成立・発効したのである。このことに

より、インクルーシブ教育実現のための環境整備の課題や制度的課題の模索が急務とさ

れるに至っている。

学内でも特別支援教育に対する理解は深まっており、2010 年 6 月、2011 年 7 月に開催

された特別講演会でも 150 人を超す参加を得た。本年度開催の際に本学学長・文部科学

省特別支援教育課課長補佐・兵庫県教育委員会特別支援教育課長・特別支援教育専攻長

等の発案でインクルーシブ体制構築を視野にとらえた「特別支援教育の地域連携に関す

る研究会(仮称)」の提案がなされたのである。後日、加東市長も大いに関心を示し、

包括的・総合的なインクルーシブ体制構築への協力を表明している。このような背景お

よび経緯により本研究は着手されることとなった。

2 本研究の目的

本研究は、関係諸機関の協力を得て、地域と連携した社会的インクルーシブ体制モデ

ルを構築し、特別なニーズに対応する支援のための連携態勢の在り方と課題を実証的に

明らかにしようとするものである。インクルーシブ体制とは、関係諸領域で協働態勢を

確立する中で統合的環境整備を進め、特別なニーズに対する有機的に関連付いた支援を

実現するものであるが、本研究では、特に特別支援学校と地域の教育機関との連携体制

の在り方や課題の析出に主眼を置いている。併せて諸外国のインクルーシブ教育の態勢

整備状況を調査し、比較検討することにより、より有効なモデルへの改善の示唆を得よ

うとしている。

本研究では、2011年8月に成立し発効した障害者基本法改正に基づき実施方策が模索さ

れているインクルーシブ体制に寄与する教育モデルを構築し、実証的に研究を進めるこ

とを予定している。そのため、地域の療育機関等の協力を要請し、包括的・実現可能な

モデル構築を目指す。本研究の特色は、教育機関間での連携のみを視野に捉えるのでは

なく、地域リソースも含めた教育・保健・福祉・医療・労働の各領域の機関が連座する

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幅広いネットワーク形成の在り方を探ろうとするところにある。研究の主眼は教育領域

からのアプローチに置くが、保健・福祉・医療・労働の各領域の関連部局も含め統括す

る特別支援センターを設置し、各領域での支援サービスをコーディネートすることを考

えている。こうした総合的な体制を構築した上で特別支援学校の役割・地域支援の内容

について検討する。この意味でプロジェクト的な研究として独創的であると言える。ま

た、諸外国のシステムと比較検討することで、より有効な在り方を模索しうると考える。

研究結果に包摂される成果として、中心的成果であるインクルーシブ教育モデルの提示

の他に、インクルーシブ社会実現に向けての保健・福祉・医療・労働の各領域での課題

の提示、教育制度改革課題の提示等が挙げられ、波及的意義をもつものと言える。

国内法が成立した直後であり、国内では本研究のような意図を持った研究はまだなさ

れていない。また外国のインクルーシブ教育の進捗状況や動向に関する報告はあるが、

実際的なシステム構築に取り込むことを意図したものとなっていない。このようなこと

から、先進的な研究と言える。

3 研究体制

河相善雄(兵庫教育大学大学院特別支援教育専攻教授)

丹羽登(文部科学省初等中等教育局特別支援教育課特別支援教育調査官)

新谷喜之(兵庫教育大学事務局事務局長)

芝田裕一(兵庫教育大学大学院特別支援教育専攻教授)

鳥越隆士(兵庫教育大学大学院特別支援教育専攻教授)

宇野宏幸(兵庫教育大学大学院特別支援教育専攻教授)

高野美由紀(兵庫教育大学大学院特別支援教育専攻教授)

石倉健二(兵庫教育大学大学院特別支援教育専攻准教授)

井澤信三(兵庫教育大学大学院特別支援教育専攻准教授)

岡村章司(兵庫教育大学大学院特別支援教育専攻准教授)

石橋由紀子(兵庫教育大学大学院特別支援教育専攻准教授)

藤本謙造(加東市教育委員会教育長)

村上秀昭(加東市教育委員会部長)

辻田昇司(加東市教育委員会学校教育課課長)

藤原良二(加東市教育委員会学校教育課主幹)

吉田秋広(加東市福祉部部長)

時本貢一(加東市市民安全部健康課課長)

二木佳子(加東市市民安全部健康課副課長)

堀内千稔(加東市福祉部社会福祉課課長)

細川公代(加東市福祉部社会福祉課)

塚本久義(兵庫県教育委員会事務局特別支援教育課)

中西史宏(兵庫県健康福祉部障害福祉局障害福祉課主幹)

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4 本研究会の活動状況

(1)研究会

2011 年 11 月 16 日 第1回 地域と連携したインクルーシブ体制研究会

2011 年 12 月 21 日 第2回 〃

2012 年 1 月 25 日 第3回 〃

2012 年 2 月 15 日 第4回 〃

2012 年 5 月 16 日 第5回 〃

2012 年 6 月 20 日 第6回 〃

2012 年 7 月 18 日 第7回 〃

2012 年 9 月 26 日 第8回 〃

2012 年 10 月 31 日 第9回 〃

2012 年 12 月 26 日 第 10 回 〃

2013 年 2 月 20 日 第 11 回 〃

2013 年 3 月 6 日 第 12 回 〃

(2)加東市の現状と課題についての整理

研究会を通じて、加東市の特別支援と障害児者福祉、母子保健についての現状と課題に

ついて整理した。

(3)国内外の状況視察

①国外視察

・デンマークの実情視察 2012 年 3 月 9 日~3 月 16 日

②国内視察

・鳥取県倉吉市 2013 年 1 月 28 日

・島根県松江市 2013 年 1 月 29 日

・長野県駒ケ根市 2013 年 2 月 5 日

・長野県塩尻市 2013 年 2 月 6 日

・長野県松本市 2013 年 2 月 7 日

・滋賀県日野市 2013 年 2 月

(3)事例検討専門家チーム派遣研究事業

第5回研究会で提案がなされ、第6回研究会で要項が確認された。

2012 年 6 月から実施され、2013 年 2 月に終了した。

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Ⅱ 加東市の状況について

1 加東市における特別支援教育の実態と取組み

(1)学校園数

幼稚園 2園 小学校 9校 中学校 3校

(2)特別支援学級等の在籍人数(平成23年度)

①小学校・・知的 38 名、肢体 3 名、自情 12 名

②中学校・・知的 19 名、肢体 1 名、自情 1 名、弱視 1 名、難聴 1 名

③特別支援学校

ア:県立北はりま特別支援学校・・小学部 2 名、中学部 7 名 ※高等部 11 名

イ:小野特別支援学校・・小学部 2 名、中学部 10 名

ウ:県立のじぎく特別支援学校わかあゆ分教室・・小学部 1 名

(3)特別な配慮を要する児童生徒への支援

①通級指導教室

2小学校に各1教室 自校通級 19 名「10 名と 9 名」(ADHD,LD,広汎性発達障害等)

②スクールアシスタント・キッズアシスタント

小学校 7 校 9 名、中学校 2 校 2 名 ・ 幼稚園 2 園 2 名

③介助員

8 校 17 名

④学習チューター

14 校園 53 名

(4)北はりま特別支援学校との連携

①北はりま特別支援学校コーディネーターによる訪問相談 全 24 回 (12月 5 日現在)

②特別支援教育コーディネーターネットワーク会議等への講師招聘 年 3 回

(5)他市町関係機関との連携

①訪問相談、研修の講師:加西ブランチ、わかあゆ園、三木市学校生活支援教員等

(6)市社会福祉との連携

①就学前指導の充実

・保健センターによる3歳児健診

・子育て支援課による保育園・幼稚園への訪問指導 市福祉部、保育園・幼稚園から

・保幼小発達支援連絡会の開催 小学校へ情報提供

②加東市子ども発達支援連絡会の開催。

・特別な配慮を要する子どもの支援体制の確立と、個に応じた適切な支援方法の共有。

※大学教授等(識見者、医療)、保健師(保健)、教育委員会・小中学校代表等(教育)、

職業安定所等(就労)等 代表者会議:計 27 名 個別ケース会議:計 16 名

計 76

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③サポートファイルの充実

・市内小中学校の特別支援学級に在籍する全児童生徒分の作成。

・サポートファイルの定期的見直し(個別の指導計画との関連の確認)

(7)加東市適正就学指導委員会(以下:市適就)の開催

・校内適正就学指導委員会にて入級相談を行う必要のある子どもを選定し、市適就で

判定を得る。

・要観察者(支援を要する子ども)について、市適就で専門医等から支援法について

助言を得る。

・市適就に教員が参加し、特別支援学級入級者への支援法について研修を深める。

(8)学校・園との連携

①保幼小の連携

・小学校での一日体験入学

・教師の相互訪問、情報交換

・授業参観と協議

②小中の連携

・特別支援教育担当者会での情報交換

・中学校区での交流学習会

・行事への参加

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2 加東市における就学前の連携状況

各課における就学に向けての取組みと協力体制について (主:太字、副:細字)

年齢・時期 健康課 子育て支援

課 社会福祉課 保育所・幼稚園 学校教育課 学校

担当者 母子担当

保健師

統括コーディ

ネーター 保健師

保育士

幼稚園教諭 就学担当主幹

特別支援コー

ディネーター

3 歳 2 か月

◎3 歳児健診

・健診結果の

把握

(園フォロ

ー)

◎ナーサリー

ルーム実施

(療育教室)

・ナーサリー

ルーム参加

・ナーサリー

ルーム参加

年中児

◎5歳児発達相

談事業実施

・要フォロー児

支援

・要フォロー

児の個別支援

案作成(共催)

(共催) ・アンケートの配

布回収 (共催)

年長児

・保幼発達支援

連絡会参加

・保幼発達支

援連絡会参加

・保幼発達支援連

絡会参加

◎保幼発達支

援連絡会の開

催(6 月)

・保幼発達支

援連絡会参加

◎(就学相談)

(発達相談)

・発達相談参

・発達相談参

・適正就学指導

委員会参加

・適正就学指導委

員会参加

◎適正就学指

導委員会開催

(年 3 回)

・適正就学指

導委員会参加

・ペアレント・

トレーニング

参加

◎ペアレン

ト・トレーニ

ング開催

◎学校訪問同

行(希望者の

み)

◎学校訪問対

◎就学前健診

の実施

・就学前健診

の実施

◎サポートフ

ァイル作成勧

奨・作成

◎サポートフ

ァイル調整・

管理・提出(小

中学校へ提

出)

◎サポートファ

イル作成

・サポートフ

ァイル受取り

随時

◎子育て相談

実施

○保育所・幼稚

園巡回

◎保育所・幼

稚園巡回

◎保育所:特

別支援コーデ

ィネーター育

◎保育所特別支

援コーディネー

ター配置

◎個別の支援

案を園に提供

◎支援案の実施

(個別支援・環境

整備)

◎発達相談実

・発達相談参

・発達相談参

・個別ケース会

議参加

・個別ケース

会議参加

◎個別ケース

会議開催(就

学支援が必要

なケース)

・個別ケース会議

参加

・個別ケース

会議参加

・個別ケース

会議参加

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3 加東市における福祉部局と教育部局との連携

課名 名称・会議名 内容 回数 備考

学校教育課

子ども発達

支援連絡会

【代表者会議】

保健・福祉・教育・就労・保護者等の関係機

関が参集。

(目的)

地域における障害児等の現状と課題を共通

理解し、支援の方向性について協議し、支援

体制の構築を図る。

年 2 回

以上

【個別ケース会議】

保健・福祉・教育等の関係者が参集。

(目的)

一人ひとりに応じた細やかで適切な支援を

行なうための情報交換、連携強化を図る。

年 6 回

以上

庁内連携会

学校教育課、健康課、子育て支援課、社会福

祉課の担当者が参集。

(目的)

市の各部署の連携を強化。(それぞれの部署

での取り組みを整理し体制整備を図る)

・相談窓口の PR 方法

・保育所巡回訪問の連携

・「支援体制」ガイドを作成

・支援体制の啓発

年 2 ~

3回

*H24.3 月

子ども発達支

援連絡会代表

者会議にて、

ワーキング部

会とすること

を確認予定。

サポートフ

ァイル調整

会議

学校教育課、健康課、保育所・幼稚園代表、

小・中特別支援コーディネーター代表、北は

りま特別支援学校、社会福祉課の担当者が参

集。

(目的)

サポートファイルの有効活用を協議。

(様式、手引き、活用方法、啓発等)

年 1 ~

2回

*H24.3 月

子ども発達支

援連絡会代表

者会議にて、

ワーキング部

会とすること

を検討予定。

その他 ○情報交換・共有

(ケースの情報交換)

(特別支援コーディネーター情報)

○サポートファイル作成・中止等に関

する連絡

(学校と社会福祉課間の調整)

○校長会等への参加(必要時)

随時

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課名 名称・会議名 内容 回数 備考

子 ど も 発 達 支

援連絡会

【代表者会議】

特別支援代表校長、小学校・中学校の

特別支援コーディネーターが参集

年 2 回

以上

【個別ケース会議】

小学校・中学校の特別支援コーディネータ

ーが参集。

年 6 回

以上

サ ポ ー ト フ ァ

イル調整会議

小学校・中学校特別支援コーディネーター

(代表)が参集。

*小・中特別支援コーディネーターの意見

を集約

年 1 ~

2回

その

自 立 支 援 協 議

発達支援部会

保健・教育・福祉部局を対象とした研修会

の実施

年 2 回

教育部局が主催し、福祉部局の協力・連携がある事業について

特別支援コー

ディネーター

ネットワーク

会議

特別支援コーディネーターネットワーク

会議への参加(必要時)

随時

保幼発達支援

連絡会

*子育て支援課統括コーディネーター、各

保育所が出席し小学校と情報交換を実施

1回 /年

( 6 月

頃)

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4 加東市内の児童に関する専門家資源マップ(児童に関わる主な関係者)

所属 職種 常勤 非常勤 備考

健康課

保健師(母子担当者) 3人 - 成人等担当者:保健

師 3 人

栄養士 2人 -

(医師) - 月 4 回

程度 健診・発達相談

(臨床心理士) - 月 5 回

程度 健診・発達相談

(言語聴覚士) - 月 1 回

程度 健診・発達相談

(理学療法士) - 年 4 回 発達相談

子育て支援

統括コーディネータ

ー(保育士) 1 人 保育所支援

家庭児童相談員 2人 虐待等

相談員 1 人 こんにちは赤ちゃ

ん事業等

母子自立支援員 1 人 母子・父子家庭支援

社会福祉課

障害者支援専門員(看

護師) 2 人 障害児・者支援

保健師 1 人 障害児・者支援

ヘルパー 5 人 2人 障害児・者への居宅

(知的障害者相談員) 4 人 県委嘱の相談員

(H23.4~市委嘱)

(障害者生

活支援セン

ター)

社会福祉士 1 人 障害児・者支援

精神保健福祉士 1 人 障害児・者支援

(臨床心理士) ― 月 2 回 相談・検査

教 育

委 員

学校教育課 就学担当者(教諭) 1 人 就学に関すること

肢 体 不 自 由 児 通 園 施 設

わかあゆ園

医師 1 人 2 人 小児科1人

整形 1 人

理学療法士 1 人

保育士 4人

言語聴覚士 1 人

看護師 1 人

(作業療法士) ― 1人

(臨床心理士) ― 1人

兵庫

教育

大学

特別支援教育専攻

発達心理臨床研究セ

ンター

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5 母子保健体制の課題

●一貫した個別支援計画の立案、コーディネート機能を有する専門的な療育の充実が課題。

総合的な療育センター機能を持つ機関が求められている。

(1)健診後のスクリーニングから療育ルートに導くまで

①健診・教室・相談後のフォロー数の増加

・グレーゾーンの児が増えており、就学までのフォロー管理数も多くなり、時間を要

している。

・集団生活の状況把握(保育園訪問)とその後の保護者への支援の充実も課題。

・保護者が児の問題に気づいていない、気づいても受容に至る段階のアプローチ、療

育教室や発達相談へ導くまでの関わりに時間を要している。

・健診の精度管理

(2)療育教室・発達相談における課題

①療育教室について

・市の受け入れ人数、実施回数、対象年齢に限界がある。(現状:1回約 20 人程度、

月2回、2~3歳児の小集団の療育を実施。 日中、保育園に通っている4~5歳

児への対応が不足)

(視覚支援や適切な言葉かけの繰り返しにより行動パターンがわかりやすくなり、参

加児が安心して楽しく教室参加できるケースが多いが、回数は月2回が限度)

②発達相談について

・平成 23 年度は、医師 21 回、臨床心理士 40 回、言語聴覚士4回、理学療法士4回

の発達相談を開催しているが、日時が限定であり、必要時に応じた柔軟な対応が困

難。

・専門従事スタッフの確保も課題(発達障害専門医、臨床心理士、言語聴覚士、理学

療法士等)

・診断告知後の継続的なフォローができる専門機関が望まれる。

(3)相談・支援体制の構築

・庁内関係各課の役割分担を明確にし、必要な支援が一貫して受けられる体制づくり

が求められている。

・サポートファイル作成・引き継ぎ体制の整備が望まれる。

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(補足資料)

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6 加東市の特別支援教育における課題

(1)特別な配慮を要する子どもへの教育的支援 ~特別な配慮を要する子どもの増加~

<今後の課題>

・人的配置の拡大(スクールアシスタント、介助員等)

・機能訓練等の充実

・認定就学者への配慮(人員、施設、医療等)

(2)教育相談窓口の一本化

<今後の課題>

・保護者が就学相談しやすい市全体の組織の確立。

・学校、市教委、市福祉部局など各施設での相談内容の明確化。

・保護者や地域への就学相談啓発の活性化

(3)特別支援教育コーディネーター等の人材育成

<今後の課題>

・講師招聘による研修会の開催

・特別支援教育コーディネーターとしての役割の明確化

・特別支援学級担任の専門的知識、指導力の向上

(4)サポートファイルの見直し

<今後の課題>

・個別の指導計画と個別の教育支援計画の整合性

・通常学級における特別な配慮を要する子どものファイル作成

・就学前から就労までの一貫した適切な支援の充実

(5)巡回指導等の充実 ~通級指導教室では、自校通級が主である~

<今後の課題>

・加東市専任のコーディネーター等の配置

・定期的な他校通級や巡回指導・相談の実施

・特別支援教育コーディネーター等へのサポート体制の確立

(6)就学前指導の充実

<今後の課題>

・特別な配慮を要する子どもの観察、助言

・発達検査や医師の受診への指示

・関係機関(市福祉部局等)との連携

(7)進路指導

<今後の課題>

・障害種別によって進路の保障が難しい。

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7 加東市の障害者福祉の課題

(1)一貫した教育・療育

①職員等の障害者理解の促進と指導力の向上。(⇒市の体制整備の中で一貫した研修体制が

必要。)

②療育施設の不足、日中活動の場の確保。(平成 24 年 4 月~児童発達支援事業・放課後デ

イの利用が開始。平成 24 年度利用者は、なゆた 12 人、わかあゆ園 11 人、青野原病院 3

人、かがやきさんだ 1 人(実 26 人)の利用がある)

③学校での障害児対応の充実。教職員研修やマンパワー確保など特別支援教育体制のさら

なる充実。

④保育所・幼稚園→小学校、小学校→中学校といった移行支援体制づくりの充実、情報交

換と情報の共有化の充実。一貫した支援の継続が必要。(⇒サポートファイルの活用充

実。市における組織体制・人員配置等の見直しが課題。)

⑤専門家の配置や巡回相談などの支援体制が求められており、専門機関(北はりま特別支

援学校、兵庫教育大学、わかあゆ園等)との連携の強化が必要。

⑥市内・近隣市に児童デイサービスの事業所がないため、療育・訓練等のサービス基盤の

整備が課題。

(2)雇用促進

①現在就労している人の給料の少なさに不満がある。障害のある人の雇用条件・雇用形態

が課題。

②障害者雇用枠の活用や市役所業務の地域活動支援センターへの発注、就労相談の窓口提

示など就労のための体制づくりが必要。障害のある人の希望や能力に応じた雇用機会の

提供や就労支援。

③就労移行(継続)支援事業所の充実と利用の促進が課題。

④特別支援学校での就労支援体制の整備が必要。卒業後の就労に向けての支援と就労の場

の確保が課題。⇒*中高校生時には、就労時に必要なスキル(規則正しい生活習慣、挨

拶、約束を守るなど)の獲得が必要。

⑤障害者雇用の拡大、就労支援の充実、障害のある人の一般就労の充実、中途障害者の職

場復帰の支援などが必要。就労の促進と定着への支援が課題。

⑥地域の企業や事業所に障害概念の理解が必要。雇用主や従業員については、個々の障害

特性や障害のある人への理解が課題。

⑦利用者が増加する事業所と減少する事業所の二極化が進み、事業所の運営が困難。

(3)保健・医療

①精神科に通院している人で、障害者自立支援医療の利用をしていない、わからないと回

答する人があり、継続的な医療が必要な精神障害者が障害者自立支援医療を利用できる

よう広報・啓発が必要。

②専門的な機能訓練や療育の充実、日常生活訓練の場の確保が必要。専門的な支援ができ

る医療・療育機関の充実が課題。

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(4)福祉サービス

①障害福祉サービスの潜在的なニーズとしては、短期入所、自立した生活を営むための訓

練、総合的なサービス、デイケア等がある。また、主に援助している人が困っているこ

とでは、将来の見通しへの不安、心身の疲労、事業所の不足等との意見がある。障害福

祉サービス事業所の基盤整備と充実が課題。

②利用者が福祉サービスについての情報を知らないこと、サービ利用の手続きが煩雑で利

用者への負担が大きいとの意見があることから、各種制度や福祉サービス等に関する情

報提供の周知徹底が課題。

③経験豊富な相談員の配置や相談機能の強化が必要。相談体制の整備とさらなる充実が課

題。

④事業所の安定した運営(補助金だけでは運営が困難)が課題。

⑤障害福祉サービスの利用を全国・県と比較すると、訪問系サービスの利用が少なく、施

設入所支援の利用が多くなっており、短期入所、児童デイサービスは全国・県に比べ利

用が少ないことから、在宅生活を支援する訪問系・児童デイサービスなどの整備と充実

が重要な課題。

(5)福祉のまちづくり

①身体障害者からは、施設や道路の段差、障害者用の駐車場やトイレが少ないとの意見が

あり、バリアフリー化やユニバーサルデザインの導入など、民間を含めた施設の整備を

図ることが課題。

②知的障害者からは「初めての場所へ一人で行けない」、「公共交通機関が利用しにくい」

との意見があり、移動支援などの外出時の支援が課題。

③災害時では、障害種別によって困る事がらに相違があることから、それぞれの特性に配

慮した情報伝達や避難誘導、避難所など、支援体制の整備が重要な課題。

④障害特性に配慮した要援護者台帳と支援マニュアルの整備が課題。

⑤巡回バス等による障害のある人の移動支援が必要。

⑥ケアホーム・グループホームの利用者が少ないことから、ケアホーム・グループホーム

の必要性の検討が課題。

(6)意識啓発・人づくり・社会参加

①参加者に障害のある人に対する理解を深めてほしいとの意見があるため、地域住民に対

して障害者福祉に関する学習の機会が必要。

②成年後見制度などの周知が課題。

③障害福祉サービス関連の情報入手先は、市役所の窓口、広報紙との意見が多くあり、情

報提供体制の整備が課題。

④社会参加・地域生活支援のためガイドヘルパーの育成と移動支援サービスの充実が課題。

⑤障害者基本法の改正、障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律

の施行を踏まえ、障害の有無にかかわらず、人として尊厳をもって生きることができる

取り組みが必要。

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Ⅲ デンマークにおける障害児者施策の状況

2012 年 3 月 9 日から 16 日まで、河相教授と石倉准教授の2名が、デンマークにおける

障害児者施策の状況についての視察を行った。視察で得た情報と視察した各施設の概要に

ついて以下に示す。

1 デンマークについて

(1)デンマークの概況

デンマークはマルグーテル2世女王(1972 年 1 月即位)

を元首とする立憲君主制国家である。2011 年 9 月の総選挙

の結果、2001 年以降の政権を担当してきた自由党と保守党

による右派連立政権が敗北し、社会民主党、急進自由党、

社会主義人民党による中道左派連立政権が樹立された。

国家の面積は約 4.3 万平方キロメートル(九州とほぼ同

じ。フェロー諸島とグリーンランドは除く)で、人口は約

558 万人である。首都はコペンハーゲン市で、首都の人口

は約 70 万人、首都圏の人口は約 120 万人である。

主要産業は流通・運輸、製造、不動産、ビジネスサービスで、GDP は 3,332 億ドル(2011

年、IMF 統計)、一人当りの GDP は 59,928 ドル、経済成長率は 1.1%、物価上昇率 2.5%、失

業率は 6.1%である。デンマークはユーロ不参加であるが、通貨であるデンマーククローネ

は事実上、ユーロとの固定相場制を有している。

(2)学校教育

0~3 歳未満は保育園、3 歳以上は幼稚園が担当し、両方とも社会省が担う。6 歳から幼

稚園学級(0 学年やプレスクールとも呼ばれる)で学校生活に向けての準備が始まり、こ

こからは文部省の担当。義務教育は、子どもが教育受ける義務ではなく、大人が教育を授

ける義務を担うという教育の義務の考え方が徹底されている。

一般的に0~3年生は学童クラブがあり、朝6時半から 16 時くらいまでみている。デ

ンマークの教員には2種類あり、教科教育を中心に行ういわゆる教師と、学校だけでなく

福祉施設でも仕事をする生活指導教員(“ペダゴー”と呼ばれる)がいる。

学校のクラスの定員は 28 名以内。1~9 年生の間に試験(examination)はなく、卒業

時に初めて実施される。授業の達成度をみるためのテストはあるけど、それで順番をつけ

たりする発想はない。速く走れる人や高く跳べる人がいるように、算数の得点が高い人も

いるわけで、速く走れる人や算数の得点が高い方が優秀なわけではないし、みんながそう

なるようにしよう、というわけでもない。加えて 10 年生もあるが、それは義務教育期間

ではない。高校進学は 50%くらいで、あとは職業別専門学校。大学進学率は全体の 25%ほ

ど。大学の就学期間は、医師や弁護士が6年制で、他は4年制。教育学部の平均的な入学

年齢は 22~23 歳くらい。20%ほどは成績のいい学生が高校卒業時に入学するが、あとは人

生経験を少し積んでから入学してくることが一般的。ペダゴーの学生の平均的な大学入学

年齢は 26~27 歳くらいと、やや高め。

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特別支援教育でも子どもの「可能性」は追求するし、可能な限り普通学校・学級に行くよ

うにするが、特別支援学校に行くこともできる。現在、デンマークでも特別支援学校は増

えている。通級みたいにして通う場合にも、特別支援学級に通ったり、特別支援学校に通

ったりすることもできる。

(3)福祉

1970 年代頃から、出生時(国民番号が公布されたとき)から担当の SW が割り振られ、

一人の SW が約 2000 人の住民を担当することになる。しかし実際にアクセスするのは 200

人くらいで、その SW が社会保障関連を一括して担当する。外国人の場合、滞在ビザと同

時にこの国民番号が公布される。

デンマークでは、「幸福な国=生活しやすい国」と考えられていて、「経済大国」ではな

くいわば「生活大国」を志向している。そこには民主主義や主権在民といった考え方が定

着していて、民主主義は「自由+平等+博愛」ととらえられる。博愛は共生・連帯とも捉

えられる。そうしたこともあり、必要に応じて受け取ることを「公平」と考えている。デ

ンマークではこれを保険ではなく税金でまかなっている。そして負担は能力に応じて行う

ことを「連帯」と考えている。そのため累進課税となっている。

デンマークでは 2001 年に自由党・保守党が政権を取り、新自由主義が台頭してこれまで

の社会保障制度が後退した。しかし 2011 年秋の総選挙で、社会民主党が政権を取り戻し

たことで、社会保障制度の充実が望まれている。

(3)ノーマリゼーションについて。

バンクミケルセンはレジスタンス活動をしていたために、ナチスに捕まった。収容所に

入れられたが、生き残った。終戦後は社会省に入省。精神薄弱者部局の担当となり、施設

を見に行ったらちょうどナチスの収容所と同じような感じだった。これは何とかしない

と!ということで、ノーマリゼーションのことを言うようになった。ちなみ発音は、ノー

マリゼーションという言い方がミケルセンの発音には近い。1959 年法で、知的に障害のあ

る人の生活条件を、知的に障害のない人の生活条件に可能な限り近づける、とされた。

2 日欧文化交流学院

日欧文化交流学院はボーゲンセにある。この学院は、

デンマークで言うフォルクホイスコーレに相当し、全

寮制のカレッジみたいな位置づけとなる。デンマーク

国内の「学校」はすべて無料だが、このフォルクホイ

スコーレは有料で、最近のデンマーク人には人気がな

い。入学希望者が少ないこともあり、この学院ではデ

ンマークの知的障害の人に来てもらえるようにした。

現在の学生は 60 人ほどで、知的障害の人だけでなく、

日本人や様々な国の人が来ている。今回は、この学院で4日間の短期プログラムを実施し

てもらい、それを受講する形となる。

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3 スクリーリングスコーレ分校(高等部)

学院から車で 30 分ほどのミドルファートコミュー

ンにあるスクリーリングスコーレの分校に向かう。ミ

ドルファートコミューンは人口約4万人。この規模の

コミューンだと特別支援学校を持っていることが多い。

これより小規模だと持っていないことも多く、その場

合は近くの特別支援学校に通うことになる。その場合、

送迎のための交通費や教育費を居住地のコミューンが

支払わなければならないので、高くつくことになる。

学校の設置はコミューンが行う。重症心身障害児などで、国が対応する場合はある。デン

マークの場合、特別支援学校には知的障害などのいわば伝統的な障害児が通い、特別支援

学級には LD や多動の子がいることが多い。

訪問すると、学校全体のペダゴーの代表アネッツさんが対応してくれる。訪問した分校

は「青年部」と呼ばれる7年生から 10 年生(18 歳)までが通う、いわば高等部。この分

校には 52 人が在籍し、学校全体では 145 人が在籍する。デンマーク国内ではかなり規模

の大きな学校。本校は0年生から6年生(だいたい 13-14 歳)が通う。学年は年齢ではな

く、能力等で分けている。24 時間ケアが必要な子のクラスは 10 年生までで2つあり、そ

れは本校にある。自閉症クラスも本校にある。この分校には6クラスがある。指導は個別

のアセスメントに基づいて、計画的に行っている。卒業は在籍期間(年齢)で判断してい

る様子。最後の3年間は学校を卒業するための準備期間となる。障害のある人を対象とし

て、卒業後に3年間の追加教育の機会がある(青年教育期間と呼ばれる)。この期間に社会

に向けた補充教育を行うことがある。それは 2007 年から文部省が実施している。

生徒の一人一人に指導計画を立てているということで、その教育計画を見せてもらう。

冒頭は一般情報。次に WPPSI 等の検査結果。このプロフィールに、「ポテンシャル」とし

てその子がどれくらいの潜在能力を持っているのかについても並べて記述してある。これ

は、教員とペダゴーが検査以外のことも加味しながら、相談しながら判断しているという

ことであった。その下は、方向性(いわば目標?)、現在の情報(医学等)、学習計画とし

て「国語」「数学」などの科目(項目)ごとに、能力、潜在能力、やり方の三つが下のよう

に書いてある。

能力 潜在能力 やり方

国語

数学

そしてその下には、使用する教材、リソースグループ(セラピスト等に関連することが

記載)が書かれている。この学校には、常勤の PT1名、OT2名、CP1名、ST2名がい

て、この人達が子どもの生活に関することをよく見ている。この計画は3カ月ごとの更新

がベストと考えているが、あまり変更されないことも多いし、机の中に眠っていることも

ある。ただ、こうしたことを前提にして指導に当たっていることは重要だと考えている。

新入生の場合、最初の 8 週はアセスメントに要し、その後1カ月ほどで計画を作成する。

そのため計画立案には3カ月くらいかかることになる。あとは、クラスのペダゴーや教員

がこれをもとにそれぞれ工夫して指導に当たっているが、計画書としてはこれが最後。

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学校に通う間は学童保育があり、これは校内で行われる。時間は6時半から始業までと、

学校終了後 16 時まで。送迎は福祉タクシーが行い、家族が送迎することはほとんどない。

学童のスタッフは主にペダゴー、というかペダゴーはもともと学童のためのスタッフでも

ある。他に補助スタッフが入ることはある。もちろん自己負担はない。

教室の大きさは特に規定はないが、この学校では通

常級よりも1人当たりの面積は広いはず。教室は、構

造化や視覚的支援が取り入れられていて、ピクトグラ

ムが多く使われている。教材も生徒にあわせて下の学

年のテキストを使ったりもしているし、教材を教員が

自分たちで工夫して作っている。

生徒をみていると、生理型の知的障害、自閉傾向を

伴う知的障害、ダウン症、奇形との重複障害は判別で

きた。自閉傾向が中程度で多動傾向の印象の子(スタッフいわく多動で他傷)には、ペダ

ゴーがほぼ張り付きでついているとのこと。授業は教員が1人でやることはなく、ペダゴ

ーと2人、あるいは場合によってそれ以上の人で行う。生徒7人に教師とペダゴー各 1 名

で1クラスという感じだが、生徒が 3~4 人のクラスもある。休憩時間ではあったが、訪問

した時には特に何かを指導している場面はなく、ゲームをしたり、おしゃべりをしていた。

帰る時に畑の中の道を1クラスくらいの人数の子が歩いていた。給食はないので、各自が

お弁当を持参する。教室にはそのための冷蔵庫がある。

教師のサラリーは初任給が2万5千 DKK(約 40 万円)くらいで、平均3万1千 DKK

(約 50 万円)くらい。あと特別支援学校の教員やペダゴーの場合、3,000 から 4,000DKK

が加算される。教師はこの学校に就職したいと希望してくるので、みんなやる気がある。

4 オトルアップガーデン

オトルアップという街にある、いわば知的障害の

作業所、といった趣きの施設。この周辺にはここし

か施設がないため、デイアクティビティという側面

もある。対応してくれるのは施設長のベンツさん。

金属加工、木工、果樹栽培、印刷、手工芸、ゲーム

やバンドなどのアクティビティーの場を見せてくれ

る。

利用者は 37 名。基本的には知的障害だが、身体

障害や精神障害との重複障害の場合はある。男女比は半々。現在の利用者の年齢は 18 歳

から 76 歳。37 名の中には、3 組 6 名のカップルもいる。スタッフは、8名のペダゴーと

2名の無資格者の計 10 名。ベンツさんは施設長の募集がでたときにそれに応募し、所長

として採用になった。所長はペダゴーで、若い頃は大工をしていた。26 歳のときに大規模

施設に行ったら、その非人間的な様子に怒りを感じた。ペダゴーの勉強をし、今は管理者

としての教育も受けている。

ここの作業所の売り上げは年間 300 万円ほどある。スタッフの給料は保障されているし、

利用者の収入も保障されている。利用者への給料はわずかに出してはいるが、給料からは

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税金が大きく引かれるのであまり出してないし、出

す必要もない。そこで売上はみんなで相談して、旅

行に使ったりしている。ここでの製品は売らなきゃ

いけない、ということがないから、売ることが重要

ではなく、QOL を高めるための活動としてやってい

る。

帰り際に駐車場にいると、利用者の人が自分で車

を運転して帰っていった。自動車の運転免許が取得

できるような人が知的障害者施設を利用していると

いうことは、障害程度がかなり軽いと想像される。デンマークでは障害の程度に応じたサ

ービスではなく、本人のニーズに基づく利用なので、日本では知的障害の認定が出ないよ

うな人が対象者になっていると考えられる。

5 モレバッケン子どもの家

アーセンスコミューンにあるモレバッケン子ども

の家を訪問。このコミューンの人口は4万1千人。

健常児と障害児のコンビネーションした施設で、十

数年前に開設。現在、同様の新しい施設を隣接して

建設中。ヘレ園長が対応してくれる。

モレバッケン子どもの家は障害児園と健常児園が

同じ入口から入って左右に分かれる構造。障害児園

は0~6歳の子が 12 人。健常児園は0~2歳の子

が 25 人で、こちらは幼稚園というよりは保育園。障害児園に来る子は、身体障害と知的

障害の重複障害として診断を受けている子が多く、自閉症の子はここではなく、別の対応

がされている。身体障害のみの場合には、サポートスタッフがついて普通幼稚園にいくの

が一般的。子どもはアーセンスコミューンの子とは限らず、近くの別のコミューンの子で

ある場合もある。通園は毎日タクシーを使う。人数やバギー等の荷物等の事情を考慮しな

がら3~4人乗り合わせでやってくる。タクシーは民間タクシーで、いつも同じ担当者に

なるようにしていて、運転手もこうした子ども達への関わり方や介護について講習を受け

ている。

正規スタッフはペダゴー6人(園長含む)、PT と OT が各1名。あとは常に実習生が 1

人いて、こちらは半年ごとに交代する。CP と ST が2週間に1回来て、個別に様子をみる。

この CP と ST は、アーセンスコミューンのスタッフとは限らず、隣のコミューンからや

ってくることもある。スタッフ1名に対して子どもは2名の割合になる。親とのコミュニ

ケーションも担当者が行う。交換ノートを毎日相互に書いたり、週に1回は直接に親の顔

を見ながら話す機会を設けるようにしている。

教室では、ピクトグラムで視覚的にスケジュールを提示するようにしている。ボードに

張る場合もあれば、本みたいにする場合もある。ここは重複障害の子が対象でもあるため、

何かしらのプログラムを決めてやっている。普通の幼稚園ではもっと自由に過ごすように

している。アクティビティーは子ども達それぞれの意思に基づいて行うが、ちょっとレベ

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ル高いことに誘ったり、チャレンジさせたりするなどのアプローチは工夫している。

この園には小さな室内プールと理学療法や作業療法の部屋もある。また各部屋と廊下に

は、全てリフトとリフト用レールが設置されている。これは労働環境法によって設置が義

務付けられている。これは子どものためというよりは、スタッフのための設備。

医療的な行為が必要な場合は、ペダゴーが行う。高度な医療行為でできそうにないこと

は、何か別のことを考える。看護師がいなくてもできることをやっている。これに関して

細かな規定なない。

子ども達の食事は持参で、園では牛乳を出すくらい。食事介助が必要な子どもは3人い

るが、他は自分で食べることができる。担当者は他の自分で食べれる子と、介助が必要な

子と2人をみるようにすることで、対応している。そのコーディネーションは園長の仕事。

セラピスト(主に PT でたまに OT)が指導に入ることもある。

隣の保育園と園児の交流はない。以前、隣が幼稚園だった時には週に何回かはよく交流

していたけれど、そのときも全部の子どもが一斉にということではなかった。

ここは朝7時半から開いているが、プログラムは9時頃にスタートして 15 時か 15 時半

には終了となる。そのあとはタクシーで帰るが、どうしても親が子どもの帰宅に間に合わ

ないような場合にはベビーシッターを使ったり、親が仕事を早上がりするようになってい

る。これら、ベビーシッターの費用や親が仕事を切り上げることで減額される給料の補充

も手当てされる。

こうした幼稚園は、コペンハーゲンだと街中に単独であったりするが、一般的にはここ

のように並んで設置されることが多い。ここの園長は、隣に新しくできたフールバッケン

幼稚園の園長も兼ねている。隣の幼稚園も同じようにコンビネーションしている施設で、

障害児園の方は3~6歳の発達障害の子どもの定員は 10 名となっている。

園庭で子ども達7人と関わる。電動車いすを使っている脳性マヒと知的障害の重複障害

の子が1名。簡単な上肢操作と稚拙な単語レベルで

の発語あり。あと、小頭症と思しき子が1名。四肢

の運動機能が全般的にちょっと低い感じ。ヘッドギ

アをつけたよく分からない重複障害の子が1名。他

にも身体障害よりは知的障害の方が目立つものの、

知的障害も軽度~中度と思われる子が2~3名。障

害のあまり目立たない子が1名。少しおしゃべりし

ながら、日本だと通常学級にいてもおかしくない子

が3人くらいいるな、と感じる。

6 知的障害者向け文化会館

オーデンセにある知的障害者向けのカルチュアハウスを訪問。職員のピーターさんとカ

リーナさんが対応してくれる。ピーターは画家で、カリーナは織物職人。2 人ともペダゴ

ーではなく、文化活動の専門家としてここで教えている。あと音楽家(ミュージックセラ

ピスト?)がリーダーとなったロックバンド「バリバンド」が9人いて、今日は国内のコ

ンテストに行っていて不在。

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2階はピーターのいるアトリエとカリーナのいる編

み物学校。アトリエでは、利用者がそれぞれ自分のア

トリエを持って、作画に取り組んでいる。実際に売れ

ることもあり、話しをした 70 歳の男性は 90 年代に

20 数万円で絵が売れて、数年前は 40 数万円で売れた。

売れたお金の4割は自分の手元に残るが、あとは施設

の収入となる。これが画材や旅行代になる。また利用

者は授業料として月に 300DKK を払っている。

カリーナのいる編み物学校では、機織り機が 10 台近く並んで、織物をしている。10 年

近くやっている人が何人もいる。作品はかなり本格的

他に面接やセックス指導に使用する部屋もあった。必要に応じてセックス指導の人が指

導をするらしく、ちょうどチラシが張ってあった。

7 グループホーム

ノーフェンにあるグループホームを訪問。ここは

1989 年にできて、定員は 10 名。それぞれが一戸建

て(というか3~4軒長屋の一軒)に住んでいる。

スタッフはその建物が取り囲む真ん中にあるセンタ

ーにいる。スタッフはペダゴー2人、SW が一人、

ペダゴーの助手が一人、の計4人。彼らが交代しな

がら7~19 時に勤務している。夜間のスタッフはい

ない。週末は 10~18 時に一人が勤務。

入居者の条件は早期年金受給者(いわゆる障害者年金に相当し、月額は 15000DKK)で、

昼間は他の場所で仕事などの活動をしている人であること。現在は 20~53 歳までの男性

6名、女性4名の計 10 名が住んでいる。月曜から金曜までのうち、1 日はホームデイの日

があり、その日は部屋の片づけや病院にいったりする。スタッフはそんなお手伝いもする。

入居者のいわば利用料は月額 1600DKK で、物品の購入、夕食の材料費、遠足に行く費用、

などに利用される。

入居者は仕事等には路線バスを利用するが、中には自家用車を持っている人もいて、外

出も自立している。夜間の対応は、コミューンの在宅介護センターが行う。もっともその

前に隣人同士の助け合いもあるし、最後は警察に依頼する。入居者は個人的にヘルパーを

依頼している場合もある。今は、市ではなく民間のヘ

ルパーを頼んでいる。夕食は入居者で作り、ペダゴー

はそのお手伝いをする。今日の夕食は肉団子(ハンバ

ーグ?)。ちょうど、入居者の人が手早く作ってました。

二人の方のお部屋を見せていただく。一人は 50 歳

の男性。ここにきて9年。約 20 平米のリビングには、

テレビやマイクロコンポ、大きなソファーが幾つか置

いてある。ベッドルームは約 16 平米で、セミダブル

ベッドが置いてある。バスルームと9平米くらいのキ

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ッチンがついている。自分で食事を作ることはない。

もう一人は 24 歳の女性。同じサイズのお部屋。奇麗に片付けられ、花柄のカーテンが

かわいらしい。10 年生まで行ったけど、青年教育期間は受けなかった。オーデンセのワー

クショップで仕事をしていて、ここから路線バスで 30 分ほどかけて通っている。今、臨

むことは特にないけど、彼氏がほしいかな…、ということであった。“My life is fine.”と

いうことでもあった。彼女は“Thank you” に“You are welcome”と応えてくれる。

このグループホームの周りには、この建物と同じような家が並んでる。作りも同じよう

な感じで、このグループホームの建物はまったくノーマルな感じです。今、GH の入居者

は知的障害というよりも、発達障害や精神障害の人が多くなってきた、ということです。

8 県立の知的障害者施設

ボーゲンセから1時間ほどのニューゴーという、

フュン島東端の街にある知的障害者施設。ここは旧

来からの大規模施設だったが、5年ほど前に劣悪な

環境であることがマスコミに告発されて、それをき

っかけに分割された。今は特別支援学校も含めて7

つのセクションに分かれている。その中の一つのリ

レスコウという施設を訪問。

ここは重度知的障害の人の入所施設でレギオン

(県に相当)が運営。リレスコウは、7人程度を1ユニットとして3つに分かれている。

現在入所者は7人で、28~61 歳の人がいて平均年齢は 40 歳ちょっとくらい。言葉のない

人が多く、他傷・自傷の傾向がある人がいる(2 人しか見てないが、所長の話などから総合

した印象として、行動障害のある知的障害の人が多いのかな、と感じる。後は重度重複障

害かと想像する。)。今は日中なので、7人は散歩や他の事業所に行っている。付き添いは

ここのペダゴーが行う。

スタッフはペダゴーが中心で、他のところの入所者と併せて 48 人に対して1人の Ns

と PT がいる。与薬などの簡単なことはペダゴーがやる。医療行為は Ns の役割だが、生

活の中でのことはペダゴーがやることになっている。Ns は医師の指示に基づいて薬の準

備をしたり、受診の同行(ペダゴーがすることもある)、ちょっとした怪我への対応、医療

面に関する職員への指導などを行う。このユニットにペダゴ

ーは 12 人で、昼と夜は常に3人いるが、深夜は1人の勤務

体制で、それが 365 日。ここは障害の重い人が多いので、他

の施設よりは職員配置が若干多い。

この建物は 1970 年代の作りで、全体に作りが古い。居室

は約9平米でバストイレはない。個室の他にバスルームとト

イレが供用。共用のリビングが2つあり、お茶や食事ができ

るようにしている。セントラルキッチンから運ばれた食事を、

このリビングで食べてもいいし、自室で食べてもいい。また

いつ食べてもいい。それらは自己決定。ちなみに、掃除はス

タッフとは別の人がやっていた。

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一人の入所者を見かけるが、落ち着かない様子で建物の中を歩き回っている。自閉傾向

の強い知的障害という印象で、顔に引っ掻いたような傷が数カ所あったので、自傷傾向の

ある人と推察される。ペダゴーと思しき人が張り付きで付き添っていた。

費用の自己負担は、家賃と食費として月に 6500DKK。早期年金が 15000DKK(手取り

は 12000DKK くらい)なので、6500DKK を支払ってもあと 5500DKK は手元に残る。

監査の話になる。ここはレギオン(県)の施設なので、県の監査が事前通告ありのもの

となしのものが年に各 1 回ある。それと労働環境に関する監査が年に 1 回。それと、保健

所(日本とはちょっと違うけど)の医者が何年かに 1 回評価する。これらが外部評価。あ

と、入居者の費用はそれぞれのコミューンが支払っているので、コミューンの担当者が最

低でも1年半に1回来て、計画と状況のチェックをする。こうした外部評価の結果はネッ

トで公開される。こうした評価もだが、入居者のここでの生活がきちんとされていること

が何より重要なので、本人からの苦情や嫌な思いをくみ取るように気を使っている。

拘束の話になる。法律に基づいた拘束は行うことがある。「拘束」の中には、抱きかかえ

て部屋に連れていくことも含む。可能性としては、ベルトでの拘束、部屋に鍵をかける、

薬物投与もあり得る。ただしこれらは普通は行われず、精神科ではあり得る。薬物投与も

本人の同意がないと飲ませることはできない。抱きかかえて連れていくのも違法になるの

で、拘束に該当する。普通はこのレベルでの拘束になる。ただこれらについて、事前に同

意をとることは不可能なので、自傷や他傷などの瞬間はそうせざるを得ない。絶対に危険

と言う場合に行っている。この国では、「家族の同意」という発想はない。家族に報告はす

るけれども、あくまで本人中心。拘束の後には、大丈夫であったかどうかを施設長が本人

に確認する。ただここらには自分たちもちょっとジレンマがある。時々、薬物などによる

対応が必要ではないかと思うことはある。けれどもそれは、その人がこれまで生きてきた

のとは違うライフスタイルをとることになるので、それもためらわれる。

ここの入居の判断については、コミューンや親との協議の中で判断される。元々、サポ

ートは小さいときから受けているので、突然に入所の話しが起きるわけではない。親だけ

の希望とか、コミューンだけの希望とかだけで決定されることはない。コミューンとして

はなるべくコミューンで対応する方が費用は安くすむし、親もコミューン内にいる方が近

くて望ましいことだが、重度障害に対応できる施設が少ないので、ここに入居することに

なる。また、ここを退去することは考えにくい。亡くなるまでいることが多い。場合によ

っては、高齢になって介護が必要になることで高齢者センターに行く場合はあり得る。

ハサミ等の危険物については、本人の同意に基づいて預かることがある。決まりだから

取り上げる、というわけではない。ただ、そういう判断ができるように促すことはある。

この施設は広大な敷地の中にあり、神戸の「しあわせの村」みたいな印象を受ける。ど

の施設でも敷地内に公園があることは珍しくないが、ここにはちょっとした動物園みたい

な場所もある。以前は、敷地内にカフェもあったけど、街に出るようにするために、あえ

て閉鎖した。敷地内には、レギオンの特別支援幼稚園と特別支援学校があり、いずれも重

症心身障害児に対応する。ここは以前の大規模収容施設の雰囲気を多分に残した施設。こ

うした施設はもう国内にはほとんどないらしい。ここも建物とかがあるから使っているも

のの、何とか現代的にしようと工夫をしている様子がうかがえる。ただ、「しあわせの村」

のように、以前の日本もこうした施設を作ろうとしたことは間違いなく、ここなどはきっ

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とそのモデルになったところだろうと推察する。

9 触法精神科病棟

オーデンセ大学病院触法精神科を訪問。

デンマークの医療状況についての情報。民間の医療機関は1%以下で、私立の総合病院

は国内に一つだけで、あとはすべて公立。全科の平均入院日数は数日で、精神科でも2カ

月程度。これは在宅医療、在宅介護の仕組みが整っているからできること。精神科病床に

ついては、80 年代から削減し、それまでの3万床から3千床に減らした。

ここの触法精神科は「精神障害+犯罪」の人の治療施設であって、刑務所ではない。あ

くまで医療機関。14 床で、現在は女性も2名入院している。医師2名と 30 名のスタッフ。

30 名の半分は看護師で半分は社会保健介護士(英語でいえばさしずめ、 Social

Health/Medical assistant といったところ。これでも正確ではない。あと、CP が常勤で

一人、SW が2/3フルタイムで一人。ここでは SW の仕事はあまり多くはない。

ここでの治療や対応については、医師と看護師との共同決定。患者がどんなアクティビ

ティーをほしがっているか、などは日常をみている看護師がよくわかってる。医者が何か

を決定するという考え方ではなく、システムとして決定するという感覚で仕事をしている。

大学病院の精神科は 250,000 人の地区をフォローしていて、ベッド数は 105 床あり、そ

の中の 14 床がこのフロアで、ここは閉鎖病棟。庭や喫煙室(24 時間 OK)、居間、感覚室、

トレーニングキッチン、OT 室、運動室(職員が付き添う)、訪問室(面会者と会う時に使

用。SEX 用にマットも置いてある)。スタッフは常に呼び出しボタンを携行していて、ガ

ラスも全て特殊ガラス。テレビのある病室は少ない。拘束室が一つある。拘束は、本当に

状態が悪い場合に行う。拘束するときには、誰かがかならずそばについていることになっ

ている。見学のときも、大きな声の聞こえる部屋があり、そのドアの前に一人座っていた。

薬剤師の実習生ということだった。精神科は人間の自由を奪う可能性のある機関なので、

拘束に関するルールは守られている。

ここでの治療は、通常の精神科治療と同じ。通常よりも、「より重い」という認識で治療

にあたっている。実際に、重度の統合失調症が多い。ここに入院しているのは刑罰ではな

く、治療として入院している。そのため、精神科治療の内容は同じで、中心は薬物療法に

なる。また入院治療だけではなく、業務としては犯罪者の精神鑑定も多く取り扱う。

退院後の社会生活に向けては、コミューンの地域精神医療班や訪問医療、訪問看護など

が対応する。生活面についてはコミューンが担当することになっている。ただ犯罪者でも

あるので、司法関係が治療はうまくいっているかどうか、治っているかどうかが確認され

る。退院の前後には、地域精神医療班と情報のやり取りはあるが、それ以降は特に情報交

換は行わない。

入院治療機関ではあるが、難治性で結局ここに「住んでいる」人もいる。どうやっても

治らないような場合には、結果的に住み続けることになる。今、そうした人は3~4人。

ここで看護師として働くためには、看護師免許だけでなく、精神科領域の専門の勉強も

してもらわないと働けない。

30 年くらい前までは、男女を別の棟に分けていた。けど、普通の世の中は男女が一緒に

いるので、ここも男女を別にすることはやめた。もちろん部屋にかぎがかかるので、必要

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に応じて自分でカギをしてもらう。ただし、性犯罪の人もいるので、様子をよく観察しな

がらやっている。

ここの病棟は3年前にできた。それまでは重篤な精神疾患(特に統合失調症)を対象に

した病棟だった。国内に触法精神科ができたのは 1978 年。

看護師の給料は夜勤込みで約3万から3万5千 DKK(56 万円くらい)。

病棟を出たら、大学病院の構内を一回り。大学病院は「総合病院」に位置づけられるの

で、家庭医からの予約を経て受診となる。完全予約制なので、受付はない。それに医療費

は無料なので、会計窓口もない。入院日数が短いので、もうちょっとじっくり診てもらい

たい人などは、隣接する患者ホテルに宿泊して、そこから受診に通う。

10 日欧文化学院でのディスカッション

Q1.サービス提供のニーズの発見はどのように行われるのか?

A.まず子どもについて。出生時から入学まで保健師が何度も訪問する。新生児から乳幼

児期にかけては頻繁に行われ、その後も続く。学校に入れば学校保健師が対応する。0歳

から2歳くらいまで、保育ママが子どもをみているが、その保育ママを統括しているコミ

ューンの担当者に、何かあれば連絡が行くようになっている。また幼稚園ではスクリーニ

ングをするので、そこで発見する。そのコミューンで統括している人や特別なニーズに関

する審査担当者がいるので、そこで特別なニーズについて判断される。また、心理判定員

もいるし、必要に応じて専門家チームが構成される。

成人、特に高齢者の場合では、ヘルパーも使ってない、何もサービスを使ってないなど、

周囲とつながってない場合に餓死をする、というような事案がないわけではない。それで

も貧困についてはほとんどが対応できているし、他の国ほど障害と貧困が強く結び付いて

いることはなく、かなり分離されている。

申請主義をとっていないことも特徴的で、国民番号によって統合されている情報をもと

に対応される。また日本でいえば、例えば市の福祉のトップは福祉部長だが、デンマーク

では福祉委員会の委員長がトップ。つまり、選挙によって選ばれた市会議員がトップを務

める。ここにも民主主義が具現されている。

Q2.社会サービス法パート7で「強制執行」について書かれているようだが、この内容は?

A.拘束に関することが多い。虐待の場合の強制分離、他傷の強い場合などもあり得る。

Q3.学校の教員やセラピストたちは学校採用か?市採用か?

A.教員はすべて学校での採用。だから日本のような異動はない。セラピストについては、

大きな学校であれば、学校で採用する場合もあるかもしれないが、普通はコミューンで採

用。1 つの学校に配置される場合もあれば、複数校を担当する場合もある。

11 考察

①障害者福祉や特別新教育の対象になっている人が、日本でいう障害程度としてはかなり

軽度の人まで含まれている現状を体験した。資料をみるかぎり、失業や休業、育児等も

含めて、社会保障制度が広くハンディキャップに対応した仕組みになっていると思われ

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る。障害者の登録制度もない、ということは象徴的に感じた。

②保健師や保育ママの役割、幼稚園でのスクリーニングは、生活場面でハンディキャップ

やニーズに気づいていくやり方で、生活モデルとなっていると感じた。医療モデルであ

る健診システムとの違いを実感した。

③学校での指導計画や指導法、施設における支援のあり方などは、おそらく日本と大差な

いのではないか、と感じた。ただそれを動かすための制度的な差は大きい。

④給料の半分近くを税金として納め、高額の間接税がかけられている。そのかわり、貯金

をしたり保険をかける必要がなく、医療費や教育費は全て無料となることで、結果的な

可処分所得はそう変わらないのかもしれないと感じた。社会全体の目指す方向性が違う

と言ってしまえばそれまでだが、「経済大国」ではなく「生活大国」を目指す国のあり

方があらわれているように感じた。普段から庭先にデンマーク国旗を掲げる人も多いこ

となどから、国民はそのような国を誇りに感じている人も多いように感じた。

⑤再度の機会があれば、最重度の障害児者の教育や福祉の状況、学校や施設での実際の指

導場面を見学したり、当事者や家族のグループなどへの参加、国民番号制の機能の仕方、

労働組合等も含めた制度ができあがる歴史、などについて学ぶことも必要であると感じ

た。

参考文献

・外務省 HP:デンマーク王国(http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/denmark/index.html)

閲覧日 2013 年 3 月 6 日

・千葉忠夫:格差と貧困のないデンマーク.PHP 新書(2011)

・ケンジ・S・スズキ:デンマークが超福祉大国になったこれだけの理由.合同出版(2010)

・鈴木優美:デンマークの光と影.リベルタ出版(2010)

・千葉忠夫:世界一幸福な国デンマークの暮らし方.PHP 新書(2009)

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Ⅳ 国内各地の取組みの状況

教育、福祉、保健、医療等が一体的な取り組みを行っている国内各地の自治体の視察を

行った。その概要について、以下に報告する。

1 島根県松江市

(1)基本情報

視察場所:①松江市立母衣(ほろ)幼稚園特別支援幼児教室

②松江市発達・教育相談支援センター「エスコ」

視察日時:2013 年 1 月 29 日(火)9:00~12:30

視察担当者:辻田昇司(加東市教育委員会)

細川公代(加東市社会福祉課)

石倉健二(兵庫教育大学)

松江市人口:約 200,000 人

(2)松江市立母衣(ほろ)幼稚園特別支援幼児教室

説明ご担当者:母衣幼稚園園長、母衣幼稚園教諭担当教諭

<概要>

・特別な支援の必要な幼児とその保護者のための特別支援幼児教室が、松江市内には6園

9教室が設置されている。母衣幼稚園はその一つ。対象は3歳以上、

・1~2 時間、保護者も共に活動しながら通級児と保護者に支援を行う時間通級では、主に

言葉や聞こえ等の支援が必要な子どもが対象となる。保護者の送迎の問題もあり、こち

らの時間通級の利用者の方が多い。

・全体的な発達の遅れや発達障害等で、支援が必要な子どもを主な対象にした一日通級は、

9~14 時の幼稚園生活に添って指導が行われる。

・いずれの通級も園内幼児の利用、他園幼児の利用、他保育所からの利用があり、基本は

週に1回の利用。

・対象児は発達障がいだけでなく、身体障害、病弱などの幼児も含まれ、個別の指導計画

が作成されている。

・在籍の所・園とは、定期的な情報交換と必要に応じて行き来をするようにしている。この

幼児教室から巡回相談として出かけることはないものの、在籍園訪問ということで出か

けることもある。

・特別支援幼児教室は、母衣幼稚園内にあるものの、入り口は別で隣接する母衣小学校通

級指導教室の出入り口と近く、幼児教室用の職員室も別にある。プレイルーム、日常生

活指導室、相談室を園とは独立して設置している。

(3)松江市発達・教育相談支援センター「エスコ」

説明ご担当者:エスコ所長、エスコ相談支援係長、エスコ特別支援教育係主幹(係長)、

エスコ相談支援係指導主事、健康まちづくり課保健師

<概要>

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・市立病院に隣接する松江市保健福祉総合センター3階に設置されている。1階には、健

康推進課、健康まちづくり課、子育て支援センターがある。

・エスコの職員数は 21 名。所長 1 名、指導主事 7 名、専門企画員(事務職)1 名が常勤

で、嘱託職員として教育指導講師、臨床心理士、言語聴覚士、発達相談員、療育指導員。

・県が独自に実施している特別な支援が必要な児童(特別支援学級、通常学級)が松江市

内では 7.3%とあり、ここへの対応が求められている。

・平成 24 年 4 月から電子カルテシステムを導入し、5 歳児健診、3 歳児健診、1 歳 6 ヵ月

健診のデータ、保健・福祉・エスコとの情報連携を進めている。

・健診や発達健康相談と併せ、3 歳くらいまでの在宅の幼児で、発達的にグレーゾーンの

場合には、「なかよし教室」で小規模療育を実施している。保育所や幼稚園に通うよう

になれば、そこに通いながらエスコ内で実施する「にこにこ教室」の利用もあり得る。

「にこにこ教室」は、発達障がい等の子どもを対象に、週 1 回、個別の療育や 4-5 人の

グループ療育を実施している。

・5 歳児健診は、5 歳の幼児全員を対象にし、保護者と所属所・園でアンケートを実施し、

二次健診該当者については、保護者の希望がある場合には二次健診を実施し、保護者の

希望がない場合には個別の対応はない。しかし、専門巡回相談や就学相談の中で、在籍

所・園の判断で相談を希望する場合には、匿名で在籍所・園からの相談申し込みが可能。

・サポートファイル「だんだん」と「すくすく!子育て手帳」の作成と活用を行っている。

・個別の移行支援計画の作成時には、保護者参加のもとで作成するようにしている。また

計画作成までには至らなくても、保護者参加のもとで移行支援会議を実施することもあ

る。実施主体は所属所・園。

・幼稚園・保育所・学校・保護者等に向けた研修も、全教員が受講する一般研修から、特別支

援教育リーダー等研修、理解・啓発研修、教材・教具開発講座などを実施している。

・エスコでの相談対象者は 39 歳まで。就労を含めた相談体制を作っている。

(4)考察

・幼稚園の通級で、保育所に通う子どもまで含めて対応し、通級での対応と同時に、保護

者や在籍園・所との連携に気を配られている点は、大いに参考になると思われる。

・健診を行う部署と同じ建物内にあることで、日常的な行き来のしやすは大きなメリット

だと思われる。指導主事7名、嘱託職員含めてエスコだけで 21 名という構成には驚か

される。ここまでスタッフをそろえた市教委の意気込みの強さを感じる。

・5 歳児健診後の二次健診で、保護者の希望も併せてとり、希望がない場合の対応策も準

備されている点は評価できる。

・情報管理で保健・福祉部門と共通のデータベースが使えるのはメリットが大きい。

2 鳥取県倉吉市

(1)基本情報

視察場所:鳥取県倉吉市保健福祉部、教育委員会

視察日時:2013 年 1 月 28 日(月)15:00~17:30

視察担当者:辻田昇司(加東市教育委員会)

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細川公代(加東市社会福祉課)

石倉健二(兵庫教育大学)

倉吉市人口:50,000 人

(2)倉吉市教育委員会の取組みについて

説明ご担当者:倉吉市教育委員会学校教育課課長、倉吉市教育委員会学校教育課指導主事

<概要>

・市教委の構成は指導主事4名と課長。

・発達障がい早期総合支援事業の中で、5歳児すこやか健康相談から市教委の関わりが始

まる。この相談に指導主事が参加し、保護者に教育相談を実施する。保護者の不安を軽

減し、見通しが持てるように心がけていて、特に第一子の入学では気をつけるようにし

ている。そして必要に応じて「まなびの教室」教育相談会につなぐようにしている。

・「まなびの教室」教育相談会は、5歳児すこやか健康相談で診断名はつかないが、要支援

と判断された幼児のうち、相談希望のあった幼児とその保護者を対象に実施している。

これは毎月第一金曜の午前中に実施していて、二組の親子が 45 分を目途に、4 回の相談

に訪れるようになっている。子どもは「まなびの教室」の教員が担当し、保護者は倉吉

市スーパーバイザーとなっている児童相談員が担当する。(「まなびの教室」とは、発達

障がいを中心とした小学校の通級指導教室のこと。)

・就学時健康診断も実施しているが、これまでの健診で子どもの様子はつかめているので、

確認的な色彩が濃い。発達障害スクリーニングチェックリストを使用し、健康診断時の

行動観察を行っている。

・継続した支援とするために、個別支援計画の作成と活用、移行支援会議を開催している。

個別支援計画は本人・保護者から申し出のあった場合や保育所・幼稚園・学校等が支援の

必要性に気づき、同意が得られた方について作成し、卒業時に保護者に渡すようにして

いる。移行支援会議も、基本的には園・所・学校がコーディネートして、市がそれをサポ

ートするようにしている。移行支援会議には保護者も参加している。

・指導主事と保健師が共に 1 年生訪問を実施し、移行支援会議実施の児童や他に気になる

児童の状況を把握している。

・小学校1年生に対してひらがな調査をすることで、LD 等発達障がいの可能性の有無を

調べるようにしている。これによって、支援の動きが早くなった。

・保育士と教員の合同研修会をするようになって、互いに顔を合わせる機会が増え、幼児

の支援を小中学校につないだり、意思疎通がしやすくなった。

(3)子ども家庭課の取組について

説明ご担当者:倉吉市福祉保健部次長兼子ども家庭課長兼子育て総合支援センター所長

<概要>

・倉吉市は伝統的に共働き家庭が多く、3歳になるとほぼみんなが保育所か幼稚園に通っ

ている実情がある。1歳段階でも5割を超えている。

・乳幼児健診の受診率は 98%程度と高く、未受診についてもフォローができている。1 歳

6 ヵ月健診でグレーゾーンが 46%となっている。フォローは、親子遊び教室、親子教室

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などを実施している。

・5 歳児すこやか発達相談は、保護者や就園先職員によるアンケートで 1 次スクリーニン

グとし、「まなびの教室」教育相談会を利用するようにしている。

・発達障がいに関する支援は、児童虐待の問題と深く関連しているという認識で、児童虐

待の対応にも力を入れている。要対協でケース管理している中には、子どもの障害とと

もに、保護者側への支援の必要性も明らかになっている。

・子育て総合支援センターでは、親子のふれあい遊び中心のミニプログラムを毎日実施し

たり、親支援のセミナーを4種類提供している。他にも、「まなびの教室」の保育所版

としての、通所指導教室を週に1日実施している。

・とにかく、関係職員の人材育成には力を入れ、職員や保護者向けの研修会を頻繁に実施

している。人事異動で人が変わると形骸化してくるので、事業内容や意味を改めて確認

し伝えることにしている。

・福祉保健部と教育委員会が連携するためには、とにかく一緒に事業に取り組んで、共に

考え、共に行う、ということを基本にしている。

(4)考察

・センターを設置せずに、課同士の連携で事業を実施していて、今ある人や組織で仕事を

するモデルとしては良質のものと感じた。また、人材育成を重視している点も共感でき

るものがある。もっとも塚根課長のように、中心的な役割を担う人の存在も大きいよう

に感じた。

・5 歳児健診後の市教委との連携体制、子育て総合支援センターでのきめ細かいプログラ

ムの実施、通所指導教室などは、今後の加東市の体制整備に示唆が大きいのではないか

と感じた。

3 長野県駒ケ根市

(1)基本情報

視察場所:①長野県駒ケ根市伊那養護学校小学部はなももの里分教室

②長野県駒ケ根市教育委員会こども課

視察日時:①2013 年 2 月 5 日(月)14:30~15:30

② 同上 15:45~16:45

視察担当者:尾﨑高弘(加東市教育委員会)

堀内千稔(加東市社会福祉課)

河相善雄(兵庫教育大学)

人口:33,000 人

(2)長野県駒ケ根市伊那養護学校小学部はなももの里分教室

説明ご担当者:駒ケ根市こども課課長補佐、中沢小学校校長、分教室室長

<概要>

人口 3 万人規模の駒ケ根市では、市で特別支援学校を持つことは難しいため、障害をも

つ子どもたちは、駒ケ根市内から車で 40 分ほどかかる県立伊那養護学校へ通うことにな

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る。しかし、地域の子どもに地域で養護教育を受けさせ

たいというねらいから、小学校の空き教室を利用し、平

成 20 年 4 月、駒ケ根市立中沢小学校に小学部(はなも

もの里分教室)を開設し、2 年遅れて平成 22 年 4 月、駒

ケ根市立東中学校に中学部(はなももの里分教室)が開

設された。現在小学部の在籍児童は 5 名、中学部の在籍

生徒は 10 名である。

はなももの里分教室が目指すものは、①地域の子が地

域でともに育つ教育環境の整備 ②養護学校教育・障害

に対する地域の理解 などである。

今回は、中沢小学校を訪問し、林分教室長の案内で小

学部の授業風景を視察することができた。小学部の担当

職員は 3 名配置され、分教室内では 1 年生から 6 年生ま

での 5 人の子どもたちが笑顔いっぱいに楽しく「はなも

もタイム」(遊びを取り入れた共同学習など)の授業を楽

しんでいた。

中沢小学校は児童数が少なく、各学年単級であり、小

学校の行事や清掃などは分教室の子どもと一緒に参加することになっている。休み時間に

は、中沢小の子どもたちが分教室に遊びに来たりして、共に過ごすことが当たり前のこと

として子どもたちの中にある。まさに、小学校の教室内でインクルーシブ教育が実践され

ていることが実感されたところである。教師の思いも、同じ場所で同じ授業の雰囲気を子

どもたちに味わってほしいとのことである。

本校である伊那養護学校へ通うか地元にある分教室に通うかは保護者の選択になってい

る。本校へは通学バスで通うことができるが、分教室は原則として保護者の送迎になるの

で、それが選択の一つのカギとなっているようである。

運営上課題となっていることとして挙げられたのが、保健室の問題である。検診をする

にしても市立の中沢小と県立の伊那養護学校では学校医が異なることから、定期検診など

は、本校で受診する必要がある。

いずれにしても、市立の小学校と県立の養護学校が対等の関係で共存することが大切で

あり、教師も子どもを特別扱いすることがないよう、指導力を磨いていく必要がある。

また、県立養護学校の分教室がある一方で、中沢小には通常の特別支援学級もあるとの

ことだが、どちらに入るかは、適正就学指導委員会での判定などにより、障害の重さによ

り判断される。

(3)駒ケ根市教育委員会こども課

説明ご担当者:こども課課長、こども課課長補佐、子ども課係長、指導主事、教育相談員

駒ケ根市教育委員会に到着したときに、まず驚いたのは、教育委員会が保健センターの

建物内にあり、そこに、こども課、社会教育課、福祉事務所、保健福祉課などの課が配置

されていたことである。

こども行政の一元化を図るため、市長部局の母子保健(保健師等担当)と児童福祉(保育

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士等担当)を教育委員会に加えて、学校教育と合わ

せて「こども課」が設置されている。

子ども課の設置にあたっては、平成 13 年に当時の

教育長が提案され、小泉内閣の「子ども行政の一元

化特区」の認定を受けながら、以降、議会への説明

など度重なる検討を重ね、平成 16 年 4 月に実現し

たものである。母子保健や児童福祉に一貫した教育

の理念が通るようにしたい。同じ根につながってい

る医療・保健・福祉・教育が子供に即し、地域に即

した形で機能するようにしたいとの市長及び教育長

の思いが、教育委員会にこども課を設置することに

つながったようである。

また、駒ケ根市で子どもの健全な発達支援のために重要な位置づけをされているのが 5

歳児健診である。3 歳児健診までには見極めにくいアスペルガー症候群、LD,ADHD

などの早期発見、早期療育のため、毎月 1 回誕生月に実施されている。主な健診内容は、

集団遊び、個別発達検査、歯科相談、小児科診察である。5 歳児検診で要観察児となった

子どもたちは、臨床心理士、言語聴覚士、作業療法士の専門職員いずれかが順番に、月 1

回は園巡回相談を行いフォローをしている。

さらに、加東市におけるサポートファイルにあたるものが、駒ケ根市では発育発達個人

支援票(子どもカルテ)である。子どもカルテは、支援が必要とされる児に対して、保護

者の同意を得た上で作成し、発達に関する医療、相談、訓練等の記録、また、家庭、保育

園、学校での様子を加え、必要な情報を確実につなげることにより、将来にわたり、一貫

した支援を行うことを目的としている。なお、子どもカルテは、教育委員会の子ども課で

管理番号をとり、カルテの所在を管理されている。(カルテ自体は、つくし園(児童発達支

援施設)、保育園、学校などへ順次原本が引き継がれる。)

これら 5 歳児健診結果と子どもカルテをどのように生かしていくかが大切である。特に

子どもカルテについては、適正就学指導委員会にあがってくる児童の 7 割は通常学級在籍

となるにもかかからず、通常学級の児童については作成できておらず、利用が生かされて

いないところがある。また、現在は中学校までは引き継がれているものの、その後の高校、

社会までをどのように継続していくかを検討中である。

4 長野県塩尻市

(1)基本情報

視察場所:塩尻市こども教育部家庭支援室

視察日時:2013 年 2 月 6 日(火)9:30~15:00

視察担当者:尾﨑高弘(加東市教育委員会)

堀内千稔(加東市社会福祉課)

河相善雄(兵庫教育大学)

人口:68,000 人

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(2)塩尻市こども教育部家庭支援室

説明ご担当者:塩尻市こども教育部家庭支援室室長、保健師

<概要>

塩尻市においても、平成 17 年に教育委員会の組織として、「こども教育部」が置かれ、

そこに保育所運営や子育て支援、青少年育成などを担当する「こども課」と家庭養育、元

気っ子応援事業、要保護児童対策、特別支援教育、療育手帳などを担当する「家庭支援室」

が置かれた。この 2 つの課の職員には、福祉事務所職員の兼任辞令が出されている。

塩尻市の特徴的な事業は、0 歳から 18 歳までの子どもの成長を応援していくために、平

成 18 年度に創設された「元気っ子応援事業」である。元気っ子応援事業とは、子どもたち

がそれぞれの個性や特性を大切にしながら健やかに成長し、持っている力を十分に発揮で

きるように、一人ひとりに応じた育ちを 18 歳まで応援していく事業である。全国的には、

5 歳児健診を行っている市町村が多いが、塩尻市では、5 歳児健診という位置づけを超えて、

すべての子どもの乳幼児期から青年期に至るまでの成長発達における一貫した理解と支援

の在り方を追求するものとしてこの事業を位置付けている。

元気っ子応援事業で最初に行うのが、「元気っ子相談」であり、保育園の年中児(4・5

歳児)を対象に、集団の中での子どもの様子を保護者と相談員が一緒に参観し、その後、

保護者と相談員が集団遊びの子どもの姿を一緒に振り返り、日頃の子育ての悩みなどの相

談を行う。保育園 16 園、幼稚園 3 園すべてが対象になるので、毎年 500 人から 600 人の児

童を対象に1カ月~2カ月かけて相談を行うことになる。平成 18 年度に初めて相談を行っ

た子どもたちが、現在は小学校 5 年生になっていることになる。この事業が始まったころ

は、子どもを選別するものではないかなどの否定的な意見もあったが、現在では子どもの

健やかな成長を応援する事業であるという趣旨を理解していただき、事業が定着し、ほぼ

100%の園児と保護者が参加されている。

この元気っ子相談をされた子どもたちについて、さらに相談を希望された保護者に対し

ては、相談員による継続相談、言語聴覚士によることばの相談、小児科医による医療相談

などが実施されている。そして、こういった相談を通じて継続的に支援が必要な子どもた

ちは、小学校においても、教育相談員によるフォローアップ学校訪問が展開されている。

5 長野県松本市

(1)基本情報

視察場所:①松本市圏域障害者総合相談支援センターWish

②松本市の特別支援、発達支援事業について

視察日時:①2013 年 2 月 7 日(水)10:00~12:00

② 同上 13:00~14:15

視察担当者:尾﨑高弘(加東市教育委員会)

堀内千稔(加東市社会福祉課)

河相善雄(兵庫教育大学)

人口:243,000 人

(2)松本市圏域障害者総合相談支援センターWish

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説明ご担当者:松本市健康福祉部障害・生活支援課課長、課長補佐、Wish所長

<概要>

長野県では、平成15年度に圏域(兵庫県でいう県民局単位の区域に相当)ごとに「障

害者総合支援センター」を設置し、さまざまな障害のある人が地域で安心して生活ができ

るよう相談体制の整備が図られた。松本圏域では、3つのセンターが設置されているが、

今回は松本市を担当区域とする「Wish」の事業内容について説明いただいた。

地域生活支援事業の市町村の必須事業として実施される一般的な相談支援については、

兵庫県では市町ごとに相談支援センターが設置され、多くはプロポーザルにより特定の社

会福祉法人に委託されている。しかし、長野県では県の提唱により、圏域ごとに相談支援

センターが設置され、松本圏域障害者総合相談支援センターは、代表法人として、 (福)中

信社会福祉協会が圏域から事業委託を受け、代表法人がさらに専門支援員の出身法人 (複

数)に再委託している。センター職員の一人あたりの人件費委託費は原則として 510 万円

となっている。(圏域内の 3 つのセンターで、現在 12 名の専門職員が配置されている。)

松本市を担当区域とする「Wish」は、圏域委託の 5 名の専門職員(コーディネータ

ー3 名、障害者居住支援員及び就業生活支援ワーカー各 1 名)と国・県委託の 6 名の専門

職員(療育コーディネーター、地域移行コーディネーター、ジョブコーチ、発達障害支援

専門員など)の合わせて 11 名のスタッフで運営されている。事業内容としては、療育支

援、一般相談・生活支援、就労支援、退院支援などあらゆる支援が行われている。もちろ

ん松本市とも常に連携がなされており、月に 1 回は、松本市の障害支援課及び子ども課と

の連絡会がある。また、学校や教育委員会とも連携があり、例えば、学校で個別支援計画

をつくりたい場合などは、市の子ども課とWishに声がかかるそうである。特に支援の

必要な子どもの相談については、家族にも何らかの診断がつくような問題を抱えている事

例が多く、毎日のようにケース会議を開いている状況である。ケース会議では、「できない」

ことを議論するのではなく、様々な立場(行政、地域、学校、支援団体等)で「何ができ

るか」という前向きな考えを持ち寄るようにしているという姿勢が印象的だった。

(3)松本市の特別支援・発達支援事業について

説明ご担当者:松本市こども部こども福祉課課長補佐(保健師)、係長、主任

松本市教育委員会教育部学校教育課指導主事

<概要>

松本市では、駒ケ根市や塩尻市のように教育委員会にこどもに係る部局を集約するので

はなく、逆に、市長部局に「こども部」が設置(H21)されている。こども部の中に、「こ

ども育成課」、「こども福祉課」、「保育課」が置かれ、保育園と幼稚園はともに「保育課」

の所管となっている。また、発達障害やひとり親などの相談・支援、各種給付などは「こ

ども福祉課」が所管している。

子どもの発達支援の事業としては、教育委員会では個別の教育支援計画「共通理解シー

ト」と「幼保小連絡シート」「小中連絡シート」が作成されている。個別の教育支援計画は、

その作成過程で保護者も参加するため、その都度内容が確認されたものとみなし、保護者

の確認印欄は設けていない。したがって、「共通理解シート」という名前になっている。ま

た、「幼保小連絡シート」は、小学校への入学にあたり、保育園・幼稚園が、「小中連絡シ

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ート」は、中学校入学にあたり、小学校が作成

する。

さらに、市のこども福祉課では、発達障害児

支援システム「あるぷキッズ支援事業」を実施

している。この事業を実施することとなったき

っかけは、障害のある子どもにとっては、乳幼

児期から児童・生徒期に至るまで一貫した支援

が望まれるが、当時(H20)の組織では、継続

性がなく限界があったことである。そこで、平

成 21 年に、健康福祉部にあった「障害・生活支援課」「保育課」「子育て支援課」「保険課」

「健康づくり課」と教育部にあった「学校教育課」「青少年課」の中で、「子ども」に関す

る事業を「こども部」へ移管することになった。こども部では、一貫した施策の提供とし

て、①障害児への対応 ②保育園と幼稚園の窓口の統一 ③放課後児童対策の一元化 を

図ることとした。

そして、平成 22 年に発達障害児を支援するシステムである「あるぷキッズ支援事業」

が開始されたのである。この事業の目的は、発達障害児及び発達に心配を抱える子どもや

保護者を継続的に支援するとともに、これらの児童にかかわる支援者(保育士・教諭)を

支援するものである。事業としては、支援チームの専門職員が対応する常設相談窓口の設

置、専門チームの保育園、幼稚園、学校への巡回訪問、そして、「あるぷキッズサポート手

帳」の配布などである。このあるぷキッズサポート手帳は、A6版で、母子手帳とともに

保管しやすくしており、発達に心配を抱えていたり、発達障害の診断を受けた子どもの保

護者等で、希望される方に無料で配布されている。なお、全国の自治体では、5 歳児健診

を実施されているところが多いが、松本市では、あるぷキッズ支援事業の中で行われてい

る巡回相談を充実させればいいだろうという考えで、現在のところ、5 歳児健診は実施し

ていないということである。

(4)考察(3.4.5.の長野県について)

今回、長野県中部の 3 つの市を訪問したが、共通していたことは、いずれの市において

も、乳幼児期から児童・生徒期に至るまでの継続的な支援の必要性から、教育委員会か市

長部局のいずれかに「子ども」にかかる部や課を集約して設置し、事業展開されていたこ

とである。今後加東市が設置を検討している特別支援センターは、まずは、このような市

の組織改編を行って体制整備をすることが前提となるかもしれない。

また、いずれの市も悩みを抱えているのは、中学校を卒業したあとのフォローがなかな

か難しく、高校、そして就労への支援についてが大きな課題となっている。

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6 滋賀県日野市

(1)基本情報

視察場所:日野町子育て・教育相談センター

視察日時:2013 年 2 月 12 日(火)12:30~15:00

視察担当者:藤原良二(加東市教育委員会)

大橋武夫(加東市福祉部)

岡村章司(兵庫教育大学)

日野町人口:約 23,000 人

(2)日野町子育て・教育相談センター

説明ご担当者:子育て・教育相談センター所長(臨床心理士)、適応指導教室担当(臨床発

達心理士)、日野町教育委員会事務局(主任)

<概要>

1)適応指導教室の取り組み

・センター内に設置されている。

・以前より、教室自体は運営していたが、

機能していなかった。各学校へ適応指導教室

の意義や役割を周知した。

・社会生活への適応支援、在籍校との連携、

保護者面談を行っている。

・学校での個別の指導計画をもとに担任らと

協議した上で、受け入れの有無を決めている。

不登校状態にある生徒の 3 名が通室している。

・小中各 2 校では、不登校児童生徒のために別室での教育相談を行っている。

・保護者連携が今後の課題である。通う場所ができると安心してしまう保護者が多い。在

籍校と連携しながら親の意識を変えていきたい。

2)センターの概要

・教育委員会の組織の 1 つ。

・常勤 1 名(所長)、非常勤 5 名、週 1 回臨床心理士 2 名(普段は小中学校のコンサルテ

ーションを行っていたりする)がいる。センターには常に 4~5 名の職員が毎日いる。

・各職員は週の半分は地域の保護者が集う場所、園・学校での活動、半分はセンターで教

育相談を行っている。

・保護者に対して子育て講座やペアレント・トレーニング等、園・学校に対してコンサル

テーション、出前授業や研修等、様々な取組を行っている。口コミでセンターの存在が

拡がっていき、困ったことがあればセンターへまずは相談という流れが出てきた。

・200~250 ケースの教育相談を行っている。年々、相談数が増加している。

・講演会や就学時健康診断児時に個別相談会を実施している(約 6%の申し込みがある)。

この相談会を機に、センターのケースとして通う子どもも多い。

・幼稚園・保育所へおコンサルテーションを年 4~10 回行ってきた。H19、20 は多かった

が、最近は減少している。

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・教育相談と言っても、出勤拒否をしている成人男性や精神障害、虐待など、多様なケー

スを抱えている。保護者の口コミから相談に来たケースであれば無下に断れないし、代

わる専門機関もない。

・厚生労働省の助成金を現在得ている(常に外部からの資金調達を行っている)。日野町の

財政に頼らない運営ができている。

3)園・学校へのコンサルテーションについて

・中学校 1 校に福祉課の臨床心理士、小学校 4 校に通級指導教室の担当教員がコンサルテ

ーションを行っている。

・センターが保育所4校、幼稚園6園にコンサルテーションを行っている。センターのケ

ース数増加に伴い、巡回相談数は減少している。主体的に支援を行う保育所・園が増え

てきたことが大きな要因である。

・意識がある教員、もともと力を持っている教員の専門性は向上した。授業の進行の仕方、

教材の工夫などを自ら行うようになってきた(委員会に挙がってくる教材の発注内容が

変化してきた)。保護者対応が下手な教員や特別支援教育にネガティブな反応を示す教

員はなかなか変容しない。

・教員の異動があるため、研修会を行っても、毎回入門編のような内容になり、積み上が

っていかないことが多い。

・コンサルテーションにおいて配慮したことは、①先生をねぎらうこと、②良い取り組み

をほめることの 2 点である。

・所長は元教員であり、親の会で不登校に関する勉強会を以前から実施していた。元教員

ということもあり、学校でのキーパーソンの把握ができていた。

4)連携について

・センターは学齢期の児童生徒及び保護者が対象である。センターの機能の充実を図ると

共に、町の規模を活かした体制整備のための情報共有の仕組みづくりを行ってきた。

・文部科学省のモデル事業を行う前、所長を含めた数名でその時点での課題を検討し始め

た。それらの検討結果を町三役に訴えたことから取り組みが始まった。

・早期療育で 1 名、センターに 1 名、福祉課に 1 名(週 1 回はセンターで勤務)、保健セ

ンターに 1 名(週 1 回はセンターで勤務)の計 4 名の臨床心理士を雇っている。

・保健センターの精神保健担当、発達相談担当、福祉課の障害者施策担当、早期療育担当

(保育士)、福祉部の臨床心理士、教育委員会、子育てセンターの職員が月 1 回、会議

を実施し、情報交換等を行っている。

・圏域(2 市 2 町)での自立支援協議会に参加している。

(3)考察

福祉部や保健センターの臨床心理士が、子育てセンターに週 1 回勤務していたり、複数

の臨床心理士が園・学校の巡回相談を行っていたりして連携のキーパーソンとして機能し

ている感があった。各部署で働いている職員が1つの部署や箇所でとどまることなく、柔

軟な勤務体制を取り、日々情報共有を図っている。「特別に新しい取り組みは行っていませ

ん」、「要は人。3 名集まれば変わる」という所長のお言葉が印象的だった。発達障害を含

めたニーズのある子ども達や保護者にとって住みよい街にするといった気概が必要である。

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Ⅴ 事例検討専門家チーム派遣研究事業(Deli コラ)について

1 研究事業の目的と要項

(1)事業の経緯と目的

本研究会では、平成 24 年度より「事例検討専門家チーム派遣研究事業(通称:Deli コ

ラ)」を実施した。本事業は、特別支援センター(仮称)を検討するにあたり、その中の実

施事業のモデルの一つとして実施された。

これは加東市内の小中学校に在籍する児童生徒で、関係機関との連携が求められるよう

な課題を有する場合に、当該校に複数名の専門家を同時に派遣して事例検討を行うもので

ある。いわば出前(デリバリー)によるコラボレーションを行い、その方法論や効果につ

いて検討を行うものである。

加東市における子どもに関するケース会議としては、社会福祉課が事務局をしている「子

ども発達支援連絡会個別ケース会議」が年6回以上実施されている。そこには、わかあゆ

園、クローバー加西ブランチ、北はりま特別支援学校、加東市障害者生活支援センター、

兵教大、市教委学校教育課、小学校特別支援教育担当者、中学校特別支援教育担当者、子

育て支援課、健康課、社会福祉課の関係職員が参加し、ケースの関係者(保育所や学校の

担任、ヘルパー等)が出席している。このケース会議は、学校の担当者がケース会議にケ

ースを報告しそれを検討するというスタイルで実施されている。

本事業では、現在実施されている「個別ケース会議」よりもさらに学校の中に踏み込ん

での事例検討を試行することとする。すなわち、「個別ケース会議」と同様のメンバーで構

成されるチームを学校に派遣することで、児童生徒の学校での様子や環境などを確認しな

がら事例検討を行う。これにより、学校教員の参加と校内での意思共有を容易にすること

も可能であると考えられる。本研究会ではあくまで試行的に、1~2校を対象にしてフォ

ローアップも含めた数回の訪問を行うものである。

(2)要項

次頁からの別紙 1~3 に示す。

2 実施経過と成果

(1)事業開始の経緯

以下のような経緯で、事業が開始された。

日付 内容

第5回研究会

2012 年 5 月 16 日

・「事例検討専門家チーム派遣研究事業」について提案

第6回研究会

2012 年 6 月 20 日

・「事例検討専門家チーム派遣研究事業」要項の確認

・検討希望の事例についての調査結果の報告

第7回研究会

2012 年 7 月 18 日

・派遣希望のあった学校と生徒についての報告

・派遣メンバー、日時の確認

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(別紙 1)

事例検討専門家チーム派遣研究事業実施要項

1.目的

本事業は、保育園・幼稚園・小中学校に在籍する児童生徒の特別支援教育に関連して、複

数の関係機関の専門職で構成される専門家チームを学校に派遣することによって事例検討

を行い、その方法論や効果、課題について検討を行うことを目的とする。

2.実施主体

本事業の実施主体は兵庫教育大学とする。

3.実施期間

平成 24 年 7 月から平成 25 年 2 月

4.事業内容

(1)事例検討専門家チームの設置

本事業に理解を有する障がい児・者に関連する専門家で編成された多職種のチームを設

置する。

(2)派遣対象

本事業の派遣対象は、派遣依頼のあった加東市内の保育園・幼稚園・小学校および中学校

から計2校とする。

(3)派遣メンバー

別途示す関係機関に対し、所属長を通じて各機関に所属する専門職の本チームへの登録

を依頼する。

小中学校に派遣されるメンバーは、本チームに登録された専門職の中から、依頼元の要

請に応じて選定を行った数名を派遣する。

(4)派遣依頼方法

小中学校の校長または特別支援教育コーディネーターから、加東市教育委員会に派遣の

依頼を行う。

(5)派遣までの流れ

派遣依頼を受けた加東市教育委員会は、依頼内容の確認と整理を行った後、専門家チー

ムに登録されている専門職に連絡を行う。派遣予定の専門職および依頼元の学校との日程

を調整したうえで、検討内容の確認および事前に必要な情報の交換等を行う。

なお派遣の流れは別添のとおりとする。

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(別紙 2)

(6)派遣期間と回数

一回の派遣は半日程度とし、一校あたりの派遣回数は3回程度とする。初回派遣後の派

遣日時や回数は、当該チームと依頼元の小中学校で協議を行い決定する。

(7)事例検討専門家チームの業務内容

依頼元の小中学校における特別支援教育が、円滑に行われるために求められる以下の事

項を業務内容とする。

①児童生徒および保護者や家庭の抱える課題についてのアセスメントに関する助言

②学校および学級、教師の抱える課題についてのアセスメントに関する助言

③児童生徒および保護者や家庭の抱える課題についての指導および支援に関する助言

④学校および学級、教師の抱える課題についての指導および支援に関する助言

⑤特別支援教育に資する社会保障制度や社会資源の利用に関する助言

⑥教師が児童生徒等の生活をとらえることができるようになるための意識啓発

(8)運営組織

事務局:兵庫教育大学大学院特別支援教育専攻(担当:石倉)および大学事務局。

派遣依頼の窓口:加東市教育委員会(担当:藤原)

チーム構成の検討:事務局および加東市教育委員会、加東市社会福祉課(担当:細川)

メンバーの調整:事務局および加東市教育委員会、加東市社会福祉課

(9)関係機関

①兵庫教育大学

②加東市教育委員会学校教育課

③加東市社会福祉課

④加東市保健センター

⑤加東市子育て支援課

⑥加東市障害者生活支援センター(相談支援事業所)

⑦わかあゆ園(児童発達支援センター)

⑧北はりま特別支援学校

⑨ひょうご発達障害者支援センター加西ブランチ(ゆたか福祉会)

⑩医療福祉センターきずな

⑪就労支援センター

他に必要に応じて追加する。

附則

この要綱は、平成 24 年 7 月 1 日から適用する。

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派遣依頼

チームの派遣

実施結果の報告

派遣依頼

(別紙 3)

事例検討専門家チーム派遣の流れ

小中学校等(通常学級/特別支援学級)

小中学校の依頼内容の整理と確認 → 社会福祉課と大学に連絡

学校側担当者との打ち合わせ → 授業等の様子の確認 → 事例検討会の実施*

記録の整理 ・ 報告書の作成

加東市教育委員会学校教育課

派遣チームの構成の検討 → 派遣依頼 → 派遣日程の調整 → 依頼元との日程・内容の調整

加東市教育委員会学校教育課 加東市社会福祉課 兵庫教育大学大学院特別支援教育専攻

依頼元の小中学校(派遣は3回程度)

大学院特別支援教育専攻

*事例検討会の際、少数の教員だけでなく校内委員会・校内研

修会レベルでの実施が望ましい。また、保護者や当事者の参

加については、現場で判断する。

派遣予定メンバー

加東市教育委員会学校教育課

依頼元の小中学校 日程調整・

情報確認

報償費と旅費の精算

大学事務局

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(2)「事例検討専門家チーム派遣研究事業」の実施経過

以下のような経過で、事業が実施された。

日付等 内容

2012 年

6 月 28 日 AM

<下見と確認>

・当該校を、市教委職員、市社会福祉課職員、兵教大教員で訪問。

・当該生徒と授業の様子を観察。

・当該校の管理職と担当教員で、情報と派遣に必要なメンバーの確認を行う。

2012 年

8 月 6 日 PM

<第1回派遣>

参加者は、当該校担当者 3 名、県教委 1 名、市教委 1 名、市社会福祉課 1 名、

特別支援学校コーディネーター1 名、障害児施設職員 1 名、大学教員 2 名、書

記 1 名の計 11 名。

内容は以下の通り。

・本事業の目的の確認。

・出席者の自己紹介。

・本事例検討会の目的の確認。

・事例検討(事例の概要、相談内容についての当該校からの報告、事例につい

ての情報確認、各関係機関からの情報の追加、相談内容についての検討)

・関連する情報の交換。

・次回以降の参加メンバーについての検討。

2012 年

11 月 21 日 AM

<第2回派遣>

参加者に変更なし。欠席1名。

内容は以下の通り。

・議事録の確認。

・前回以降の状況の確認

・今後のことについて

2013 年

2 月 19 日 AM

<第3回派遣>

参加者に変更なし。欠席1名。

内容は以下の通り。

・議事録の確認。

・前回以降の状況の確認。

・Deli コラについての総括。

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3 まとめ

(1)参加者からのコメント

参加者からの振り返り用紙に記入された Deli コラについてのコメントは以下の通りで

あった。なお、文中に個人名等が特定される箇所については修正し、事例検討に直接関連

するコメントは削除した。

①Deli コラが役に立ったと思われる点

・関係各領域のメンバーの協力が得られたので、総合的な相談活動が展開できた。

・対象児の日常的な環境に近いところでの相談であり、比較的自然な状況を観察できる利

点があった。

・情報収集や情報提供が比較的スムーズに行い得た。

・対象児側関係者の負担が軽減できたのではないか。

・立場の異なる他領域のメンバーからの話が領域間の相互理解に有益だった。

・各専門家による情報が収集でき、また交換ができてよかった。

・一人で考えると知識・情報が偏るが、多職種が参加することでそれが防げた。

・自分が思っていない発見があった(専門職として気づきがあった)

・特別支援学級担任として、特に進路指導に関することで不安が多かったが、様々な立場

の方から情報をいただけた。

・支援の方向についても後押しをして頂いたり、考え直してみたり、新しくヒントを頂

いたりと心強いアドバイスが得られた。

・本人と保護者をコーディネーターや市の福祉につなぐことができた。

・他校生徒との交流の機会をもつきっかけにもなった。

・病院で本生徒が担当してもらっている理学療法士さんと出会える機会が増え、情報交

換ができた。保護者と一緒に病院で出会う時では出来ない話もでき、学校と病院の相

互理解が出来たと思う。

・子どもにかかわる関係者が一堂に会して、情報を共有できた。特に県教委など、通常の

会議では参加が難しいと思われるメンバーの参加があったこと。

・学校現場に出向いたことで、校長先生をはじめ学校の先生方の参加がしやすかった。

・限られたメンバーだけであったが、子どもの学校生活を確認した上で話し合いができこ

とは良かった。(普段は子ども自身に会ったことがなくても、情報だけで会議に参加し

ていたが、実際の様子を確認できたので良かった)

・保護者との面接ができたことが良かった。

・1 ケースを継続してフォローしていくことで、経過がわかり良かった。

・いろいろな関係部署の専門性が発揮されたこと

・継続して経過を追って話し合えたこと

・学校が開かれた場であることを認知しあえたこと

・フォーマルな会議以外に連携が広がったこと

②Deli コラがもたらした混乱や負担

・今回の Deli コラは保護者の了解・理解が不充分な状況で開始されたため、ストレートに

踏み込めないもどかしさがあった。

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・情報過多が懸念されそうなケースも想起され、調整方法が課題となりそうに感じた。

・Deli コラチーム側の主体性が出しにくい印象があった。

・学校側に言いにくい内容を言えない。親が学校に思っている不満など

・どこまでこちらがもっている情報を提供できるのか。の判断が難しい。

・開始時、どこまでの説明を保護者にされており、その説明と自分がどのような立場で説

明されていたのかわからないため、保護者との会話が難しかった。

・保護者も Deli コラに出席するというお話もありましたが、あの場に保護者が入られ

たら萎縮されるのではと思いました。保護者にもよるかもしれませんが…。今回は専

門家お二人に面談に入ってもらう形で良かったと思いました。

・保護者には、専門家の方に集まってもらって担任が相談できる会があるということ、他

の施設で担当している方もそのメンバーであることは伝えていました。

・特に負担はありませんでした。対象生徒に関する資料を紙で必要部数用意した方が良

いかとも思いましたが、個人情報であり、その後どのように使用されるのかわからな

かったので、Deli コラの中ではいつも口頭での報告にしました。

・保護者の会議参加については、今後の課題と思われる。

・1 ケースで何回も会議を実施していくと時間を要するため、丁寧にできて良い反面、負

担となる場合もあると思う。

・Deli コラを行うケースをどのようなケースとするか。

・今後も継続されるのであれば、加東市子ども発達支援会議ケース会議との関係の整理が

必要。

・今回はじめにお伺いしていた主訴?が途中から少しぶれてきたような・・・。それは継

続ケースなら当然であるんだけど・・。

③Deli コラを加東市で継続するとした場合の改善点について

・カンファレンス内容の共有方法が未開発であった。

・スペシャリストの協力がどこまで充分に得られるか、が課題となりそうに感じた。

・上記の通り、社会福祉課のケース会議との関係

・専門家チームの定例メンバーを位置づけて、ケースに応じて調整するのはどうでしょう

か。

④その他の気づき

・いい刺激・勉強になりました。ありがとうございました。

・まだケースとしてゴール(解決)になっていないし、学校入学がゴール、就職すること

がゴールではありません。社会にいかに自立・自律できるか。まだまだ悩むことが多い

ですが、これからもよろしくお願いいたします。

・高校を卒業された同じような障害の方の、高校時代の話やその後就労は実現したのかな

ど、同じ障害をもつ先輩の話を聞いて参考にできればと思いました。

・メンバーが多方面から多数集まると、必然的に調整が大変になってきます。ご苦労様で

した。

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(2)成果と課題

今回、複数の関係機関の専門職員をチームとして学校に派遣するというスタイルで、通

常学校への支援を行った。よく行われるケース検討会では、学校外のセンターに担当者が

集まって会議が開かれることになる。そうした場合には、学校からは担当者が一人参加す

る程度であり、会議に出席している他の専門家も学校での様子について報告に頼らざるを

得ない。今回のスタイルでは、学校側から担当者や管理職など複数名が参加でき、また各

機関の専門職員も学校での様子を観察することも可能であった。そしてそれをふまえた上

で、複数の立場からの専門的意見を交換できることで、多面的な情報交換と検討ができた

と思われる。こうした意味で、複数の専門職が学校に出向いてケース会議を行うことのメ

リットは、学校からすると大変に意味のあるスタイルであると考えられる。

また今回の派遣による会議の場での成果にとどまらず、日常の指導や保護者面接などで

必要な専門家に同席を依頼するなど、会議だけにとどまらないネットワークづくりにも貢

献した。これは学校や担当者が利用できる社会資源が拡大したということであり、事業が

終了した後でも利用可能なものとなる。これは地域で活動する者にとっては、重要なネッ

トワークである。

ただし今回は保護者や本人の会議への参加を求めるかどうか、あるいは会議が実施され

ていることを本人やご家族にどのように伝えるか、ということについての事前の合意がな

かった。こうした合意が不十分な場合、本人やご家族からすれば知らないはずのこと(例

えば学校教員しか知らないこと)を、別機関(例えば医療機関)の人が本人やご家族との

話しの中で口にした場合、信頼関係を損ねることも考えられる。そのため、本人やご家族

に関連する情報をどの程度まで出席者に伝達していくのかが不明確であった。こうしたこ

とから、保護者や本人との関係をふまえてどのように情報共有を図っていくのかについて

は大きな課題と言える。

また、加東市子ども発達支援会議のケース会議においても、複数の専門家による類似の

ケース検討会が行われており、それとの関係について整理する必要もある。

そして以上のことを踏まえながら、参加者の調整、検討内容の整理などを行ういわば「調

整役」が重要な役割を果たすことになる。今回の事業ではこれを大学教員が担ったわけで

あるが、これをどの機関の誰が担うのかについても検討する必要がある。

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Ⅶ インクルーシブ体制整備に向けての課題

1 はじめに

本研究会では、インクルーシブ教育推進の体制づくりを主軸としつつ、インクルーシブ

体制に関する研究を進めてきた。そこでの気付きとして、教育体制のみを視野に捉えてい

たのではインクルーシブ教育の具体像は描けるものではなく、教育以外の領域の情勢やそ

こから得られる情報を的確に捉えながら進めていかなければならないということが挙げら

れる。

それは一つにはインクルーシブ社会の進捗状況把握であり、もう一つには個別の状況理

解である。社会的インフラがどのように整備されており、利用可能な事項と不充分な事項

について、共通理解がなされる必要があると同時に、支援の対象となる個人の現状とニー

ズ、対応する支援の内容が支援者に共通理解される必要がある。

デンマークのように高率の税負担の一方で医療費・教育費無償化が達成され、年金制度

が充実し、国民に福祉施策に対するコンセンサスが形成されている社会では、他者を認め

合い個々人のニーズに合わせた支援を当然のように受け止める風土が整えられていると言

える。教育体制についても自らの価値追求のための学習に対応する体制であり、生徒・学

生達は自らの生活の充実のために進学・入学するのであり、それを保証する制度的裏打ち

が整備されているという。そして周囲の生徒・学生と互いの差違を特別視することなく、

対等な関係を構築するのである。

デンマークの視察は一つの整備された社会体制モデルを視察しインクルーシブ社会のイ

メージを得るという意味で非常に有益であり、国民全般の意識レベルにおいても制度や社

会体制自体でも大きく相違しているという印象を得た。そのため、わが国の体制に直ちに

参考とできるものではなく、わが国の制度・体制を考えるには、現状での事例を基にシス

テムの検討を重ねる必要があると感じられた。

本節では国内的課題と加東市における課題という観点から現時点での気付きを整理して

おくことにする。

2 国内的課題

(1)都道府県と市町との協調

長野県では平成 15 年度から県内に 10 の障害保健福祉圏域(サービス提供のための広域

市町村圏)を設定し、ネットワークを構築しながら総合支援事業を展開している。圏域ご

とに総合相談支援センターが設置され、療育に係る相談・指導及び各種サービスの調整を

一体的に行っている。こうした全県で等質のサービスを確保する体制が整備される必要が

ある。センターそのものは特別な施設を有するものではなく、スペシャリスト派遣の事務

所のような位置づけである。サービスは福祉法人に事業委託され、何らかの処置等を伴う

サービスに関しては市町の機関で行うということのようであった。都道府県と市町との密

接な協力体制の下で、現場での対処が適切な場合と施設設備の整備された場での対処が適

切な場合との振り分けに関してバランスの取れた判断や柔軟な対処の仕組みが確立される

ことが望まれる。

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(2)市長部局と教育委員会の関係

今回視察した自治体では、センターを設置して一体的な相談支援を展開していたり、課

同士の連携で事業を実施していたりと各自治体の実情に即した体制が採られていたが、い

ずれにしても機能的に融合した態勢の模索であると言える。この場合に、実際的な問題と

して、個別の支援計画の下での融合的連携態勢の模索と教育委員会の独立性の確保という

課題が顕在化してくるように思われる。市長部局に属する福祉・健康部課と教育委員会の

関係性をどのように構築していくかが課題となろう。

(3)個々人を巡る情報の一元管理と子育て支援とのリンク

個別の支援計画では、教育に係るもの、福祉に係るもの、医療・健康に係るもの、就労

に係るもの、移行支援に係るもの等が作成されるが、収集される情報は同様の項目が重な

っている。情報収集の継続性を確保し、同様の情報が重複して調査されるのを回避する意

味でも、情報の一元管理を行う必要がある。また、福祉領域で乳幼児期の児を対象とした

子育て支援も実施されているが、学校教育段階でも継続して取り組むことが望ましい療育

内容も多く存在する。子どものニーズ(課題)に関する認識を統一的なものとするために

も情報活用の方途が模索されて良い。現在ユビキタス社会へと向けた施策が実施されてい

るが、電子データとして活用する観点からの整備も検討されるべきである。

(4)後期中等教育以降への対応と学校卒業後の自立的社会生活への支援の在り方につい

中学校卒業後の進路指導に関して、中学校は市町の教育委員会管轄であり、高校及び特

別支援学校は主に都道府県教育委員会の管轄であるため、進路指導での連携が取りにくく、

詳細な情報も伝わりにくくなっている。また高校側での特別ニーズ児の受け入れ体制の整

備が不充分な状況があり、進路先として過度に特別支援学校に集中する傾向が見られる。

3 加東市における課題

(1)特別支援学校との連携

加東市には県立・市立の特別支援学校はなく、県立北はりま特別支援学校・小野市立小

野特別支援学校・県立のじぎく特別支援学校わかあゆ分教室との連携で研修や日常的対応

への支援を得ている状況である。市内の小・中学校の特別支援学級での在籍数は合計 76

名となっており、特別支援学校小学部・中学部の在籍数は合計 22 名となっている。

通級指導教室対象児数は2小学校に各1教室で自校通級合計 19 名おり、スクールアシス

タント・キッズアシスタント・介助員が合計 30 名、学習チューターは 53 名という状況に

なっている。また特別支援学校高等部の在籍数は 11 名である。このようなことから、今後

も特別支援学校との連携は継続・強化していく必要があり、また高校・特別支援学校高等

部への進路指導の充実が求められることが予測される。

(2)サポートファイルの活用

加東市では就学前段階、就学段階における特別なニーズへの対応はそれぞれの部局で整

備されてきているが、一貫性・継続性という点では充分とは言えない状況である。子ども発

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達支援連絡会等、福祉領域の事業として実施されており、教育部局では協力体制は組まれ

ているものの、主体的に関わっているとは言えない状況にある。連携態勢・協力体制は構築

されつつもきちんと噛み合っていないといえる。こうした中で、サポートファイルを介し

た情報の共有が注目される。現在、サポートファイルは福祉部局で管理されているが、今

後各領域での個別支援計画作成に伴い、各部局で収集された情報を集約し、また明確化さ

れた課題を記録し蓄積することで移行支援等のデータとして活用を図ることができる。

現在はサポートファイルを紙媒体ベースで管理しているが、電子媒体ベースで管理する

ようになれば、検索・データの抽出等がスムーズになり、実際面でのサービスにかなり有力

なツールとなる。イントラネット整備等ICT導入が検討課題と言えよう。

(3)特別支援センター設置と機動性の確保

自治体調査で観察されたように、部局編成を再構成して「子育て支援室」のような部署

を設置し、いくつかの課に分散している機能を一つに集約してセンター的に事業展開する

方法と、一つの組織にまとめないままで、現状のままで運営し、連携体制を強化し密なも

のとすることで、サービス提供の側面でシームレスな態勢を整備する方法と、いずれの方

法を採用するかは、今後の検討課題であるが、窓口を集約して「ワンストップ」型の機構

を実現する方策が必要である。そこを拠点として、もう一方では Deli コラのような、機動

性を持たせた専門家チームの派遣事業を構想する必要がある。生活場面に直結したインク

ルーシブ体制下では、対象者の身近な場所での対処が有効となるからである。