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河川整備基金助成金事業 「機能性マグネタイトを用いた河川水・地下水からのヒ素除去技術の開発」 報告書 平成 17 年度

「機能性マグネタイトを用いた河川水・地下水からのヒ素除 …public-report.kasen.or.jp/171221001.pdf河川整備基金助成金事業 「機能性マグネタイトを用いた河川水・地下水からのヒ素除去技術の開発」

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  • 河川整備基金助成金事業

    「機能性マグネタイトを用いた河川水・地下水からのヒ素除去技術の開発」

    報告書

    平成 17 年度

  • 第1章 序論

    1.1 緒言

    水は私たちの生活に必要なものであり、昔から人類は豊富な水のある場

    所を居住地として選んできた。しかし、その水が近代社会の発展とともに汚

    染され、世界中の多くの国々において良質な水の確保が困難になってきてい

    る。その汚染の原因は人為的な要因が引き金になっており、その中でもバン

    グラディシュや中国などのアジア諸国をはじめとして、世界中で地下水中の

    ヒ素汚染が拡大しており、多くの健康障害をもつヒ素中毒患者が増加し、大

    きな社会問題になっている。日本も例外ではなく、徐々にではあるが各地で

    ヒ素汚染が確実に進行している。

    ヒ素は原子番号 33 の窒素族の元素であり、半金属に分類される。また、

    地殻中の存在量は元素として 20 番目に位置しており、245 種もの鉱石の主

    要構成成分となっている1)。ヒ素は硫化鉱床中に高濃度に検出され、酸化物、

    硫化物、硫塩などとして存在しており、これらのいずれかの形で岩石、土壌、

    水、生物中にppbからppmの濃度で存在している。鉱物の中では硫ヒ鉄鉱が最

    も一般的であり、これらの天然鉱物から溶出してきた無機ヒ素が地下水や河

    川水汚染の原因であると言われている。水中の無機ヒ素は主に3価の亜ヒ酸

    (H3AsO3)あるいは5価のヒ酸(H3AsO4)のイオンとして存在している。一般に

    亜ヒ酸はヒ酸よりも毒性が強いと言われており、その致死量は 0.1-0.3gで

    ある。無機ヒ素の毒性は、体内でシステインのチオール基(-SH)などと結

    合することにより、これを含む酵素やタンパク質の機能を阻害するためと考

    えられている1,2)。

    As

    OH

    HO OHAs

    OH

    HO OH

    O

    亜ヒ酸 ヒ酸

    ヒ素を除去する方法には塩化鉄や塩化アルミニウムとの共沈法、逆浸法、

    吸着法がある。その中でも吸着法は、吸着材の寿命範囲内であれば、繰り返

    し処理が可能であり、極めて良好な水を処理することのできる優れた方法で

    ある。一方、吸着法のプラントの運転維持にかかわる費用は吸着材の購入や

    吸着材の再生および処分費用のため、凝集沈殿法と比較して低コストとなら

    ない場合もある。従って、吸着材の調製および吸着材の再生の費用は低コス

    トであり、しかも環境に対して負荷をかけない吸着材の開発が重要である。

    また、水中のヒ素はそのpHによって3価の亜ヒ酸イオン、5価のヒ酸イ

  • オンの各化学種として存在し、地下水中では3価の亜ヒ酸イオンとして存在

    するとされている。これは空気に触れると徐々に5価に酸化されるが、従来

    の共沈法は5価のヒ素に対して有効に作用するので、あらかじめ酸化剤で5

    価に酸価した後に処理を行う方法が行われている。本研究で吸着材として用

    いるマグネタイトは、3価のヒ素も5価同様に高い吸着性能を持っている3)

    ので、酸化処理などの前処理を行う必要がない。しかもマグネタイトは低コ

    ストで調製することが可能であり、生体適合性物質として知られているため

    医薬分野をはじめとして数多くの分野で利用されている優れた材料の一つ

    として注目されている。マグネタイトの最大の特徴である点は磁気的特性を

    有することである。この特性を利用して固液分離には磁石を用い、そのため

    二次汚染物質を生じず環境保全型の浄化システムが構築可能である。Fig.1

    には磁石を用いた固液分離に対する時間変化を示した。吸着材にマグネタイ

    トを用いれば、磁石により簡便に短時間で固液分離が可能であることがわか

    る。このマグネタイトを利用すればヒ素で汚染された水処理に要する時間も

    短縮され、効率化を図ることが期待される。

    宮崎県では、県の環境白書によると、土呂久川のヒ素濃度はわが国の環境

    基準値(10ppb)を上回る結果が得られており、早急な対応が望まれる。

    これは、廃鉱からの浸出水が河川へ流れ込み、汚染の原因となっていると考

    えられる。この最初の浸出水からの河川水へのヒ素汚染を食い止めることが

    できれば、地下水汚染は軽減され、安全な水環境の確保に大いに役立つと考

    えられる。そこで本研究では、無機ヒ素をターゲットとし、廃鉱浸出水ある

    いは河川水・地下水からのヒ素除去技術の開発を目的とした。

  • 磁石なし

    0s 15s 180s

    磁石あり

    0s 60s 180s 600s

    Fig.1

  • 第2章 マグネタイトの調製3)とヒ素吸着に対する共存イオンの影響

    2.1 緒言

    マグネタイトを環境水中のヒ素除去材として用いるためには、共存するア

    ニオンの影響を調べる必要がある。本研究では、ヒ素の同様にオキソ酸アニ

    オンとして環境水中に存在する硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオンの各

    オキソアニオンのヒ素の吸着に対する影響を調べた。

    2.2 実験方法

    FeCl2・4H2O 1.84 g(9.2 mmol)とFeCl3・6H2O 5.0 g(18.4 mmol)をそれぞれ

    蒸留水 20 cm3に溶解した後、混合した。調製したモル比Fe2+: Fe3+=1:2 の鉄混

    合液に 6mol/dm3-NaOHをpH 11 になるまで滴下すると黒色のゲル状懸濁液が得ら

    れた。その黒色のゲル状懸濁液を 100℃の湯浴上で 1時間加熱熟成した後、デカ

    ンテーションによる蒸留水洗浄を上澄み液のpHが 7 以下になるまで行った。得

    られた黒色の懸濁液を遠心分離機を用いて固液分離後、得られた黒色の固体を

    50℃乾燥機で乾燥した。乾燥後、乳鉢を用いて生成物をすりつぶし、46μmの分

    析ふるいを用いて粒子径をそろえた。

    吸着実験はすべてバッチ法にて行った。硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、

    リン酸二水素ナトリウム、ヒ酸水素二ナトリウムをそれぞれ 0.32 mmol dm-3に

    なるように秤量し、蒸留水に溶解して混合溶液を調製した。所定のpHに調整し

    た混合溶液を 10 cm3ずつサンプル管に採り、調製したマグネタイトを 0.02 gず

    つ入れ 303 Kの恒温槽で 24 時間振とうした。pH調整にはHClとNaOH水溶液を用い

    た。振とう後、磁石を用いて固液分離を行った。吸着前と吸着後の溶液の濃度

    を、硝酸イオン、硫酸イオンおよび、リン酸イオン濃度についてはイオンクロ

    マトグラフを用い、ヒ酸イオンの濃度は超低温捕集型水素化物発生原子吸光光

    度計を用いて求めた。

    次に、ヒ素水素二ナトリウム七水和物を蒸留水に溶解し、0.0266 mmol dm-3の

    ヒ酸溶液を調製した。亜ヒ酸溶液は 13.3 mmol dm-3の市販のヒ素標準液

    (13.35mmol/dm3)を蒸留水で希釈し、0.0266 mmol dm-3の亜ヒ酸溶液を調製し

    た。他のオキソアニオンも硝酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、リン酸二水素ナ

    トリウムを蒸留水で溶解し、各オキソアニオン溶液を調製した。0.0266 mmol dm-3のヒ酸溶液を 15 cm3サンプル管に採った。各アニオン溶液を 0.0266 -2.66 mmol

    dm-3になるように蒸留水で希釈した後、各濃度のアニオン溶液を 15 cm3ずつ採り、

    調製したヒ酸溶液に混合した。ヒ酸溶液と各アニオン溶液のそれぞれの混合溶

    液は平衡pH = 6-7 になるようにHClとNaOH水溶液を用いてpH調整を行った。pH

    調整した混合溶液を 20 cm3ずつそれぞれ採り、マグネタイトを 0.01 gずつ入れ

    303K恒温槽で 24 時間 120 rpmで振とうした。振とう後、磁石を用いて固液分離

    を行った後、吸着前と吸着後の硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオン濃度に

  • ついてはイオンクロマトグラフを用い、ヒ酸イオン濃度は超低温捕集型水素化

    物発生原子吸光光度計を用いて求めた。亜ヒ酸イオン溶液についてもヒ酸イオ

    ン溶液と同様に行った。

    吸着率、吸着量は以下の式より求めて評価した。

    q = (Co-Ce)×v/w

    % = ((Co-Ce)/Co)×100

    q:吸着量 [mmol g-1] Co:初濃度 [mmol dm-3] %:吸着率 -3 3

    2.3結果および考察

    得られた生成物をX線回折装置により同定した。その結果をFig.2-1 に示す。

    図よりいずれのピークもFe3O4の回折ピークとして帰属できた。

    Ce:平衡濃度 [mmol dm ] v:体積 [cm ] w:樹脂量 [mg]

    1000

    1500

    2000

    2500

    3000

    3500

    I

    ○ Fe3O4

    0

    500

    2 24 46 68 90

    Fig.2-1 生成物のXRDパターン

    硝酸イオン、硫酸イオン、リン酸イオンの混合溶液からのヒ酸イオンの吸着

    実験の結果をFig.2-2 に示す。硝酸イオンは本実験の全pH領域で全く吸着され

  • なかった。一方そのほかのオキソアニオンの吸着はpHに対して依存性がみられ、

    低いpH領域では高い吸着率を示したが、pHの増加にともない吸着率は減少し

    た。特にマグネタイトの等電位点(pHzpc(zero point of charge)=6.0)よりも高

    いpHになると急激に減少することがわかった。したがって、これらオキソ酸の

    吸着にはマグネタイトの等電点が大きく関与していると考えられる。

    ここで、マグネタイトのような金属酸化物は水と接すると水和を起こして必

    ずOH基を有することが知られている4)。このような系では、溶液中のpHによって

    表面電位が次のように変化する。

    -Fe-OH + H+ → -Fe-OH2+

    -Fe-OH + OH- → -Fe-O- + H2O

    従って低いpHではプロトン付加により正の電荷を帯び、pHが高くなるとOH基か

    らのプロトンの引き抜きで負に帯電する。酸化物表面はあるpHで見かけ上、電

    位がゼロになる等電位点が存在するが、それは酸化物の酸性度によって異なる。

    マグネタイトの場合は、等電位点pHzpc=6.0 なので、pH6.0 のときは負に帯電する。従ってpHzpc>pHではマグ

    ネタイトの正に帯電した表面がアニオンの化学形態をとっているオキソ酸を静

    電的に引き付けていると考えられる。一方、 pHzpc<pHではマグネタイトの負に

    帯電した表面とオキソアニオンとの静電的反発によって吸着の急激な減少が引

    き起こされると考えられる。

    Fig.2-2 で示されたように、ヒ酸イオンとリン酸イオンの吸着挙動は類似して

    いた。地下水の pH 領域である中性付近では、硫酸イオンは全く吸着されず、リ

    0

    20

    40

    60

    80

    100

    0 2 4 6 8 10 12 14

    pHeq

    A [%

    ]

    Arsenate

    Nitrate

    Sulfate

    Phosphate

    pHzpc

    Fig.2-2 マグネタイトを用いた混合溶液からの各オキソ酸イオン吸着に

    対する pH の影響

  • ン酸イオンよりもヒ酸イオンのほうが吸着され、ヒ酸イオンに対する選択性が

    示された。マグネタイトを用いたときの中性領域におけるオキソアニオンの吸

    着選択性はヒ酸イオン>リン酸イオン > 硫酸イオン > 硝酸イオンの序列にな

    ることが分かった。

    次に、マグネタイトを用いたヒ酸イオン、亜ヒ酸イオンの吸着量におよぼす共

    存する各オキソアニオンの影響をFig.2-3~2-6 に示す。Fig.2-3 よりpHeq = 6-7

    では共存する硝酸イオン濃度が増加しても、硝酸イオンはほとんど吸着されず、

    ヒ酸イオン、亜ヒ酸イオンのマグネタイトへの吸着量は変化しないことが分か

    った。Fig.2-4 よりpHeq = 6-7 で共存する硫酸イオン濃度の増加により、硫酸イ

    オンの吸着量は増加したが、ヒ酸イオン、亜ヒ酸イオンの吸着量にほぼ変化は

    見られなかった。このことからヒ酸イオン、亜ヒ酸イオンはpHeq = 6-7 で硫酸イ

    オンより選択的に吸着されることが考えられる。しかし、Fig.2-5 からわかるよ

    うにリン酸イオンの共存下でのヒ酸イオンの吸着挙動は硝酸イオンと硫酸イオ

    ンと大きく異なっていた。リン酸イオンはリン酸イオンの濃度の増加とともに

    その吸着量も増加し、一方、ヒ酸イオンの吸着量はリン酸イオン濃度がヒ酸イ

    オンの 5 倍の濃度のときに、リン酸イオン濃度=0mmol/dm3の時の 1/2 まで減少

    した。このことから、リン酸イオン濃度の共存下でヒ酸イオンの吸着量はリン

    酸イオンが共存しない時のヒ酸イオン吸着量よりも大きく減少することが分か

    った。これはヒ素とリンは同じ族であるので、性質がよく似ていること、また、

    ヒ酸イオンとリン酸イオンはその酸解離定数がほぼ一致することから、各pHに

    対して存在している化学形態もほぼ一致している(Fig.2-6(b),(c))。これらの

    ことより、マグネタイトに対してヒ酸イオンとリン酸イオンとは同じ吸着機構

    を持つと考えられるため、ヒ酸イオンとリン酸イオンは競争吸着反応が起こっ

    ていると考えられる。一方、亜ヒ酸イオンはリン酸イオン濃度が増加しても、

    吸着量の減少はヒ酸イオンに比べて小さく、あまり影響がないと考えられる。

    このことから、亜ヒ酸イオンはヒ酸イオンとは異なり、リン酸イオンと競争吸

    着はしないと考えられる。従って、亜ヒ酸イオンはリン酸イオンより選択的に

    マグネタイトに吸着されると考えられる。

    以上の結果から、マグネタイトを用いたヒ酸イオン、亜ヒ酸イオンの吸着量

    の減少から、pHeq = 6-7 での各オキソアニオンのヒ素への影響を比較すると、リ

    ン酸イオン > 硫酸イオン > 硝酸イオンの序列でヒ素に対する影響を及ぼすこ

    とが示された。

  • Fig.2-3 亜ヒ酸およびヒ酸イオンの吸着に対する硝酸イオ

    ンの影響

    0

    0.02

    0.04

    0.06

    0.08

    0.1

    0 50 100 150 200[NO3

    -]/[As]

    qNO

    3- [m

    mol

    g-1 ]

    0

    0.01

    0.02

    0.03

    0.04

    0.05

    qAs [

    mm

    ol d

    m-3 ]

    As(V)As(III)

    NO3- withAs(Ⅴ)

    NO3As(

    - withⅢ)

    NO3

    NO3

  • 0

    0.02

    0.04

    0.06

    0.08

    0.1

    0 100 200 300[SO42-]/[As]

    qsul

    fate

    [mm

    ol g-

    1 ]

    SO4 withAs(Ⅴ)SO4 withAs(Ⅲ)SO42

    -

    SO42-

    0

    0.01

    0.02

    0.03

    0.04

    0.05

    qAs [

    mm

    ol g-

    1 ]

    As(Ⅴ)As(Ⅲ)

    Fig.2-4 亜ヒ酸およびヒ酸イオンの吸着に対する硫酸イオンの

    影響

  • 0

    0.01

    0.02

    0.03

    0.04

    0.05

    qAs [

    mm

    ol g-

    1 ]

    As(Ⅴ)

    As(Ⅲ)

    0

    0.1

    0.2

    0.3

    0.4

    0 100 200 300[PO4

    3-]/[As]

    qpho

    spha

    te [m

    mol

    g-1 ]

    PO4 withAs(Ⅴ)

    PO4 withAs(Ⅲ)

    PO43- with As(V) PO43- with As(III)

    Fig.2-5 亜ヒ酸およびヒ酸イオンの吸着に対するリン酸イオンの

    影響

  • 0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    α

    H3AsO4

    H2AsO4-

    HAsO42-

    AsO43-

    0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    α

    H3AsO3

    H2AsO3-

    HAsO32-

    AsO33-

    0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    0 2 4 6 8 10 12 14

    pH

    H3PO4H2PO4-HPO42-PO43-

    H3PO4H2PO4-

    HPO42-

    PO43-

    H3AsO4H2AsO4-HAsO42-AsO43-

    H3AsO3H2AsO3-HAsO32-AsO33-

    α

    (a) (b) (c)

    Fig.2-6 亜ヒ酸イオン(AsO3

    3-)(a)、ヒ酸イオン(AsO43-) (b)

    およびリン酸イオン(PO43-) (c)のpHに対する化学種の存在

    分率

  • 第3章ヒ素鋳型マグネタイトの調製とそれを用いたヒ素の吸着

    3.1緒言

    有用物質や有害物質が極微量溶解している希薄な溶液から、ターゲット分子

    に対して高選択的に分子認識する材料として、分子鋳型法により合成された吸

    着材の開発が注目されている。“分子鋳型法”は 1970 年代に Wulff らによって

    提案された。これは、樹脂母体や配位子が金属の吸着しやすい環境(空間)を

    形成しているために選択性が向上し、しかも吸着速度が速いという特徴がある。

    本研究ではターゲット分子をヒ酸イオンとしてマグネタイトの核生成前から共

    存させることにより、マグネタイトの核生成時から結晶成長時においてマグネ

    タイトの吸着サイトにヒ酸イオンが吸着し、その後、吸着されたヒ酸イオンを

    取り除くことによりヒ酸イオンに対して高い親和性をもつ空間が形成される新

    規のヒ素鋳型マグネタイトを調製し、亜ヒ酸イオンおよびヒ酸イオンの吸着挙

    動を検討した。

    ヒ酸イオン ヒ酸イオンに対して高い親和性

    をもつ空間

    脱水反応

    マグネタイト

    3.2実験方法

    100mg/dm3の 5 価のヒ素溶液を 100ml調製しFeCl2・4H2O 2g(0.010mol)とFeCl3・

    6H2O 5g(0.018mol)を溶解させた。そして 5mol/dm3-NaOHをpH11 以上になるまで

    加え、10 分間撹拌させた後デカンテーションによりマグネタイトを分離した。

    その後マグネタイトに含まれる鋳型のヒ素を脱離させるため 1 mol/dm3-NaOHを

    用いて洗浄し、その後、上澄み液がpH7 になるまで蒸留水で洗浄後、乾燥させヒ

    素鋳型マグネタイトを得た。XRD測定によって生成物を同定した。

    ヒ素鋳型マグネタイトを用いたヒ素の吸着実験は、次のように行った。平衡

    pHは 6-7 で行った。所定濃度に調製した5価あるいは3価のヒ素水溶液 15cm3に

    調製したヒ素鋳型マグネタイトを 0.02g入れ 120rpm、30℃恒温槽で 24 時間振と

    うさせたのち、磁石を用いて固液分離した。吸着前後の試料溶液中のヒ素濃度

    を超低温捕集型水素化物発生原子吸光光度計で測定した。

  • 3.3結果および考察

    得られた生成物の XRD 回折パターンを Fig.3-1 に示す。回折ピークは全て

    Fig.2-1 に示したマグネタイトに帰属できた。回折強度をみると通常の沈殿法に

    よって調製したマグネタイトに比べて全体的に強度が減少しているのが認めら

    れた。マグネタイトの d=2.53Åのメインピークを比較するとヒ素鋳型マグネタ

    イトは沈殿法で調製したマグネタイトの約1/10のピーク強度しか認められてい

    ないため、低い結晶性のマグネタイトが形成されたと考えられる。

    0

    100

    200

    300

    400

    500

    600

    0 20 40 60 8

    2θ[degree]

    Intensity[cps]

    0

    Fig.3-1 ヒ素鋳型マグネタイトの XRD パターン

    次にヒ素鋳型マグネタイトを用いて 3価のヒ素である亜ヒ酸イオン、5価のヒ

    素であるヒ酸イオンの吸着実験の結果とLangmuir式より求めた等温線を

    Fig.3-2 に示す。また、Table3-1 にLangmuirの吸着式よりもとめたそれぞれの

    飽和吸着量[mmol/g]および吸着平衡定数[dm3/mmol]を示す。沈殿法で調製したマ

    グネタイト用いた、飽和吸着量および吸着平衡定数は、亜ヒ酸イオンの場合

    0.277, 4.48、ヒ酸イオンの場合 0.228,12.1 であった。亜ヒ酸イオン、ヒ酸イ

    オンともに沈殿法で調製したマグネタイトよりも飽和吸着量は増加した。ヒ酸

    イオンの吸着は1.1倍、亜ヒ酸イオンは約1.5倍増加した。一方、吸着平

    衡定数Kadは、亜ヒ酸イオンは約 5 倍、ヒ酸イオンは約22倍ものとても高い値

    を示した。従って、鋳型の導入による亜ヒ酸イオン、ヒ酸イオンへの親和性の

    増加と、マグネタイトの吸着サイトが効率的に亜ヒ酸イオン、ヒ酸イオンの吸

    着に利用されていることが示唆された。

  • Langmuirの吸着等温式

    q =

    qmaxKadCe

    1+KadCe

    これを Ce/qと Ceの方程式に変形すると次の様になる。

    11 Ce Ce + q Kqmaxqmax

    Ce : 平衡濃度 (mmol/dm3) q : 吸着量(mmol/g1)

    qmax : 飽和吸着量(mmol/g1) Kad: 吸着平衡定数(mmol/dm3)

    0

    0.05

    0.1

    0.15

    0.2

    0.25

    0.3

    0.35

    0.4

    0.45

    0 1 2 3 4

    Ce [mmo/dm3]

    q[mmol/g]

    As(III)As(V)calculation curve

    Fig.3-2 ヒ素マグネタイトを用いた亜ヒ酸 As(III)ヒ酸イオンおよび As(V)

    イオンの吸着等温線(303K)

    Table 3-1 ヒ素マグネタイトによる亜ヒ酸イオンヒ酸イオンの飽和吸着量と

    吸着平衡定数

    qmax[mmol/g] Kad [dm3/mmol]

    亜ヒ酸イオン 0.411 24.3

    ヒ酸イオン 0.250 269.3

  • 第4章 界面活性剤を鋳型としたマグネタイトの調製とそれを用いたヒ素の吸

    4.1緒言

    第3章でヒ酸イオンを鋳型分子として調製したマグネタイトを用いたヒ素の

    吸着実験の結果は、通常の共沈法によって調製したマグネタイトに比べて優れ

    た吸着特性を示した。これは亜ヒ酸イオンおよびヒ酸イオンに対して親和性の

    高い吸着サイトがマグネタイトに形成されていることを示唆している。そこで、

    ヒ酸イオンに代わる空間を形成する鋳型分子として界面活性剤に着目した。界

    面活性剤が形成する分子集合体を鋳型として有機-無機メソ複合体の脱有機物

    化により合成されるメソ多孔体が近年注目されている。シリカやアルミナなど

    多くの金属酸化物で多孔体の調製がされているが、マグネタイトの複合体およ

    び多孔体に関する研究はほとんど報告されていない。マグネタイトを多孔質化

    して比表面積を大きくすることはヒ素の吸着可能なサイトを増加させるうえで

    とても重要である。これを調製し、ヒ酸イオンに対する吸着挙動を検討した。

    SDBSの除去

    CMC濃 度以上

    鉄イオン溶液

    鉄イオン溶液と混合

    SDBS

    蒸留水 ミセルの形成

    4.2実験方法

    FeCl3・6H2O 5.0 gを 100 cm3の蒸留水に溶解し、さらにその溶液にFeCl2・4H2O

    1.84 g溶解した。ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDBS) 5.0 gを蒸留

    水 100 cm3に溶解した。調製した鉄溶液とSDBS溶液を混合し、撹拌しながら、

    5N-NaOHをpH 11 になるまで滴下した。遠心分離機を用いて固液分離し、黒色の

    ゲルを 50℃乾燥機で乾燥した。実験は窒素バブリング下で行った。得られた複

    合体からのSDBSの洗浄は蒸留水,エタノール洗浄後、450℃の窒素雰囲気下で焼

  • 成した。生成物の評価はX線回折装置を用いて行った。

    得られた生成物を用いてヒ酸イオンの吸着実験を行った。平衡pHは 6-7 で行

    った。生成物 20mgに所定濃度に調製したヒ酸イオン 15cm3を加え、303Kで 24 時

    間振とうした。吸着前後のヒ素濃度は超低温水素化物発生原子吸光光度計を用

    いて測定した。

    4.3結果および考察

    界面活性剤の除去には蒸留水、エタノールを用いた攪拌洗浄、ソックスレー

    抽出器を用いた洗浄を行ったが、いずれも完全に界面活性剤を除去することが

    できなかった。その後、焼成をすることで界面活性を完全に除去したマグネタ

    イトが得られた。これは熱天秤を用いた重量減少より確認した。界面活性剤と

    マグネタイトの複合体SDBS-Fe3O4の焼成前後の生成物をX線回折装置を用いて同

    定した。その結果をFig.4-1 およびFig.4-2 に示す。いずれのピークもマグネタ

    イトの回折ピークとして帰属できた。二つのピーク強度は、いずれもヒ素鋳型

    マグネタイト同様、Fig.2-1 に示した共沈法で調製したマグネタイトに比べて低

    かった。特に複合体のピーク強度は低かったが、これを焼成すると、ピーク強

    度が増加を示した。これは、複合体中の界面活性剤によって形成されたマグネ

    タイトの構造体を焼成することにより、界面活性剤が除去され、さらに結晶成

    長が促進され、結晶性が増加したと考えられる。

    0

    100

    200

    300

    400

    500

    0 15 30 45 60 75 90

    2Θ [degree]

    I

    SDBS-Fe3O4

    Fe3O4

    Fig.4-1 SDBS-マグネタイト複合体の XRDパターン

  • 0

    100

    200

    300

    400

    500

    600

    700

    800

    0 10 20 30 40 50 60 70 80 90

    Intensity[cps]

    焼成後

    [degree]

    Fig.4-2 SDBS-マグネタイト複合体の焼成後の XRDパターン

    次に、得られた焼成後の SDBS-マグネタイトを用いて 5価のヒ素であるヒ酸

    イオンの吸着実験の結果と Langmuir 式より求めた等温線を Fig.4-3 に示す。ま

    た、Table4-1 に Langmuir の吸着式よりもとめたそれぞれの飽和吸着量および吸

    着平衡定数を示す。飽和吸着量も吸着平衡定数も沈殿法で調製したマグネタイ

    トよりも非常に高い値を示した。従って、界面活性剤を鋳型として導入し、そ

    れを除去することによってヒ酸イオンの吸着サイトとなる空間が形成され、効

    率的により多くのヒ酸イオンを吸着するのに利用されていることが示唆された。

  • 0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    1.2

    1.4

    0 0.5 1

    Ce[mmol/dm3]

    q[mmol/g]

    As(V)

    Calculationcurve

    Fig.4 -3 界面活性剤鋳型マグネタイトを用いたヒ酸イオン

    As(V)の吸着等温線(303K)

    Table 4-1 界面活性剤マグネタイトによるヒ酸イオンの飽和吸着量と吸着平衡定数

    qmax[mmol/g] Kad [dm3/mmol]

    ヒ酸イオン 0.306 117.1

  • 第5章 高塩基性マグネタイトの調製

    5.1緒言

    第2章でオキソ酸の吸着には等電位点がその吸着に大きく影響をすることを

    示した。そこで、マグネタイトの塩基性を高くするために2価鉄をコバルト、

    ニッケル、亜鉛にかえて高塩基性マグネタイトを調製した。

    5.2実験方法

    吸着材として用いるために、湿式法によって調製した。Co, Ni, Znの硝酸塩溶

    液とアルカリ溶液を混合して得られた沈殿物のうちCo系は 80℃で熟成し、

    Ni,Zn系は、773Kで焼成して調製した。得られた生成物はXRD測定によりCoFe2O4,

    NiFe2O4, ZnFe2O4と同定された。これらのpHzpcは 0.1mol/dm3-NaCl溶液中での酸塩

    基滴定法により求め、Table5-1に示した。

    吸着実験は全てバッチ法で行った。ヒ素溶液を所定濃度に調製し、pH調整に

    はHClとNaOHを用いた。調製した高塩基性マグネタイト0.01gにヒ素溶液10 cm3を

    加え、303 Kの恒温槽中で 24 時間振とうした。振とう後、磁石を用いて固液分

    離した。吸着前後の試料溶液中のAs(III)およびAs(V)濃度は超低温捕集型水素

    化物発生原子吸光光度計を用い求めた。

    5.3結果及び考察

    As(V)の吸着率のpH依存性をFig.5-1 に示す。本実験条件において、pH7 以下

    では、As(V)に対して 95%以上の吸着率を示したが、pH>7 では、NiFe2O4とZnFe2O4

    のAs(V)吸着率は急激に減少し、ほぼ同じ挙動を示した。一方、CoFe2O4はpH>7.5

    で吸着率の減少が見られた。この結果から、As(III)およびAs(V)の吸着には、

    Table5-1 に示した高塩基性マグネタイトのpHzpcが影響していると考えられる。

    中性領域で最も吸着率の高かったCoFe2O4による As(III)およびAs(V)の吸着

    等温線をFig.5-2 に示す。いずれもLangmuir型の吸着曲線が得られ、As(III)お

    よびAs(V)の飽和吸着量qmax[mmol/g]をLangmuir式を用いて求めた結果を

    Table5-3 に示す。これらの結果から、より等電位点の大きいCoFe2O4がAs(III)

    およびAs(V)の優れた吸着特性を有することが示された。

    Table5-1 吸着材の等電位点pHzpc

    adsorbents CoFe2O4 NiFe2O4 ZnFe2O4pHzpc 7.1 6.6 6.5

  • 0

    20

    40

    60

    80

    100

    0 2 4 6 8 10 12 14pHeq

    A%

    CoFe2O4NiFe2O4ZnFe2ZnFe O4

    CoFe2O4

    NiFe2O4

    2O4

    Fig.5-1 高塩基性マグネタイトによるヒ酸イオンの吸着に対する pHの影響

    0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1

    0 2

    Ceq[mmol/dm3]

    q[mmol/g]

    As(III)As(V)calculated curve

    4

    亜ヒ酸

    ヒ酸イ

    Table 5-1

    Fig.5-2 CoFe2O4 を用いた亜ヒ酸イオンおよびヒ酸イオンの吸着

    qmax[mmol/g] Kad [dm3/mmol]

    イオン 0.505 38.1

    オン 0.330 50.7

    CoFe2O4による亜ヒ酸イオンヒ酸イオンの飽和吸着量と吸着平衡定数

  • 第6章 宮崎県土呂久地区の地下水を用いたヒ素の吸着

    6.1緒言

    宮崎県高千穂町は宮崎県、熊本県、大分県の県境に位置する山間の自然の美

    しい町である。(Fig.6-1)特に土呂久は古祖母山の中腹に位置する谷間の集落

    であり、林道から見下ろす土呂久の木々の美しさは絶景である(Fig.6-2)。現在

    のこの景観からはかつて旧土呂久鉱山は農薬や毒ガスの原料になった亜ヒ酸を

    大量に製造していたために、大気、水、土壌がヒ素によって汚染され、周辺に

    住んできた人たちの健康がおかされ、慢性ヒ素中毒症の患者が多数でたという

    ことはとても感じられない。現在鉱山は閉山しているものの、最近の宮崎県の

    環境白書によると旧鉱山跡地に近い土呂久川のヒ素濃度は環境基準値(10μ

    g/dm3)を超えた濃度が報告されている。これは、廃鉱からの浸出水が河川へ流

    れ込み、ヒ素汚染の原因となっていると考えられる。実際、Fig.6-3 に示した大

    切坑ではヒ素濃度が最も高い値を示しており、毎分数十トンものヒ素で汚染さ

    れた地下水が土呂久川へと流出しているために土呂久川のヒ素濃度が環境基準

    値を超える値になっているのだろう。この最初の浸出水からの河川水へのヒ素

    汚染を食い止めることができれば、地下水汚染は軽減され、安全な水環境の確

    保に大いに役立つと考えられる。そこで廃鉱浸出水からのヒ素除去を目的とし

    て、本研究で調製した種々のマグネタイトによるこの廃鉱浸出水からのヒ素吸

    着実験を行った。

    .2実験方法

    旧土呂久鉱山跡近くの大切坑から湧き出る地下水(Fig.6-3)

    Fig.5-1 宮崎県高千穂町土呂久

    宮崎県高千穂町

    を採水し、試料水とした。水質の分析はpHメーター、イオンクロマトグラフ、

  • 原子吸光光度計を用いて行った。ヒ素除去に用いた吸着材はマグネタイト、ヒ

    素鋳型マグネタイト、界面活性剤鋳型マグネタイトおよびシリカ-マグネタイト

    である。これらの吸着材を 10mg秤量し、30cm3の試料水を加えて、1時間 303Kの

    恒温槽中で往復浸とうし、磁石により固液分離後、ヒ素濃度は水素化物発生原

    子吸光光度計を用いて測定した。

    Fig.6

    Fig.6-2宮崎県高千穂町土呂久地区の風景

    -3 宮崎県高千穂町土呂久 大切坑(サンプリング場所)

  • 6.3結果および考察

    宮崎県高千穂町土呂久の大切坑からの地下水の水質分析結果をTable6-1に示

    す。鉄イオンを全く含まない地下水であったので、地下水中の鉄イオンによっ

    て共沈することによってヒ素濃度を減少させることはできないことがわかった。

    したがって、ヒ素を除去できる吸着材の必要性が示された。次に、この地下水

    はリン酸イオンを含まず、硫酸イオン, 塩化物イオン、硝酸イオンの序列でア

    ニオンが検出された。第2章で示したように、地下水中にヒ酸イオンと類似の

    挙動を示すリン酸イオンが含まれると、ヒ酸イオンの吸着の低下が認められて

    いたが、この地下水にはリン酸イオンはほとんどふくまれていないことがわか

    った。

    pH F- Cl- NO2- Br- NO3

    - PO43- SO4

    2- Total

    As

    Total

    Fe

    7.8 濃度

    [mg/dm3]

    0.132 - -* 2.7 - - 1.3 - 7.3

    各吸着材を用いた大切坑からの地下水中のヒ素除去実験の結果を Fig.6-4 に

    示す。沈殿法によってされたマグネタイト、ヒ素鋳型マグネタイト、界面活性

    剤鋳型マグネタイトすべて地下水中のヒ素を除去するのに有効であることが示

    された。その除去率の大きさはヒ素鋳型マグネタイト>界面活性剤鋳型マグネ

    タイト>マグネタイトの序列であった。この結果から、分子鋳型法を用いて調

    製したマグネタイトが優れた吸着材であることが示された。これは、鋳型分子

    として用いたヒ酸イオンあるいは界面活性剤のSDBSがヒ素が吸着しやすい環境

    (空間)を形成し、その空間が効率よくヒ素を吸着するのに利用されるからだ

    と考えられる。

    Table 6-1 大切坑からの地下水の水質分析結果

    * ―:検出限界以下

  • 40

    60

    80

    100

    120

    140

    CAs[μg/dm3]

    0

    20

    大切坑地下水

    マグネタイト

    ヒ素

    型マグ

    タイト

    界面活性剤鋳型マグネイト

    環境基準値 10μg/dm3

    ネタ

    Fig.6-4 各吸着材を用いた地下水からのヒ素除去

  • 第7章総括

    本研究では、無機ヒ素をターゲットとし、廃鉱浸出水あるいは河川水・地下

    からのヒ素除去技術の開発を目的としてヒ素吸着材の開発を行った。

    .吸着剤には安価で、生体適合性もあり、磁性も有するマグネタイトを用い

    。本実験で用いたオキソ酸の吸着はマグネタイトの等電位点に大きく影響さ

    ることがわかった。マグネタイトを用いて3価のヒ素である亜ヒ酸イオン、

    価のヒ素であるヒ酸イオンの吸着に対する共存イオンの影響を硝酸イオン、

    オンを用いて調べた。その結果、亜ヒ

    ンは全く影響しなかった。一方、リン

    酸イオンは大きく影響し、リン酸イオンの濃度が高くなると亜ヒ酸イオン、ヒ

    、ヒ酸イオンが大きく減少することが

    わかった。

    2.無機化合物の吸着材は結晶性の高いものに比べてアモルファスの法が吸着

    性能がよいといわれている。鋳型分子としてヒ酸イオンを用い、調製したヒ素

    鋳型マグネタイトは、その XRD 結果から沈殿法で調製したマグネタイトに比べ

    て結晶性の低いものであった。この結果は、鋳型分子として導入したヒ酸イオ

    ンがマグネタイトの結晶成長に大きく影響を与えていることが示唆された。ヒ

    素鋳型マグネタイトは沈殿法で調製したマグネタイトにくらべて亜ヒ酸イオン、

    ヒ酸イオンに対して高い飽和吸着量および吸着平衡定数が得られた。これは、

    鋳型分子であるヒ酸イオンの周りにマグネタイトの吸着サイトが集まることに

    よってヒ素を吸着 いることが示唆さ

    れた。

    3.鋳型分子として界面活性剤を用い、界面活性剤鋳型マグネタイトを調製し

    た。ヒ素鋳型マグネタイト同様、沈殿法で調製したマグネタイトに比べて結晶

    性の低いものであった。この結果は、界面活性剤の分子集合体がマグネタイト

    の結晶成長過程に大きな影響を与えていることを示唆している。この吸着材を

    用いたヒ酸イオンの飽和吸着量は沈殿法で調製したマグネタイトよりも大きな

    値を示した。界面活性剤の分子集合体が形成した空間が効率よくヒ素を吸着す

    るのに利用されることが示唆された。

    4.マグネタイトの2価鉄をコバルトイオン、ニッケルイオン、亜鉛イオンに

    変わることによってマグネタイトの塩基性を高くすることができた。得られた

    高塩基性マグネタイトを用いた亜ヒ酸イオンおよびヒ酸イオンの飽和吸着量は

    沈殿法で調製したマグネタイトよりも大きな値を示した。マグネタイトの高塩

    基性化はヒ素の吸着に大きく影響することが示された。

    硫酸イオン、リン酸イオンのオキソ酸イ

    酸、ヒ酸イオンの吸着に対して硝酸イオ

    酸イオンの吸着ともに減少したが、特に

    しやすい環境を形成し、吸着性能を高めて

  • ヒ素

    の吸着実験を行った。いずれの吸着材も地下水のpHでヒ素を吸着することが可

    、元素 111 の新知識、講談社ブルーバックス(1997)

    )K.Ohe, Y.Tagai, S.Nakamura, T.Oshima and Y.Baba, J.Chem.Eng.Japan, 38

    .調製した沈殿法によって調製されたマグネタイト、ヒ素鋳型マグネタイト

    および界面活性剤マグネタイトを用いて宮崎県土呂久地区の地下水からの

    能であった。なかでも本研究で開発された新規な吸着材である分子鋳型(ヒ素

    鋳型、界面活性剤鋳型)マグネタイトは、沈殿法で調製されたマグネタイトよ

    りも地下水中のヒ素濃度をより多く減少させた。この結果は、地下水中のヒ素

    をより効率よく吸着できる優れた吸着材であることが示唆した。

    参考文献

    1)久永明、石西伸訳 環境汚染物質の生体への影響16 ヒ素、東京化学同

    人(1985)

    2)桜井弘編

    672-676(2005)

    4)北原文雄、古澤邦夫、尾崎正孝、大島広行、ゼータ電位-粒子界面の物理化

    学、サイエンティスト(1995)

    5) T.Horikawa, D.Ichimiya, M.Katoh, T.Tomida, J.Hayashi and Y.Miyake,

    Preparation of spherical porous SiO2 particles containing Fe3O4,

    Chemeca2005(2005)

  • 助成事業者紹介

    大榮 薫

    現職:宮崎大学工学部助手