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89 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011年度合同研究班報告) 小児期心疾患における薬物療法 ガイドライン Guidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases (JCS2012) 合同研究班参加学会: 日本循環器学会,日本移植学会,日本川崎病学会,日本小児高血圧研究会,日本小児血液学会, 日本小児脂質研究会,日本小児循環器学会,日本小児腎臓病学会,日本小児心電学研究会, 日本小児麻酔学会,日本小児臨床薬理学会,日本心臓病学会,日本未熟児新生児学会, 日本臨床薬理学会 班 長 地   東邦大学医療センター大森病院小児科 班 員 石 川 司 朗 福岡市立こども病院循環器 越 前 宏 俊 明治薬科大学薬物治療学 岡 田 知 雄 日本大学医学部小児科 小 川 俊 一 日本医科大学付属病院小児科 鈴 木 康 之 国立成育医療研究センター手術 ・ 集中治療部 住 友 直 方 日本大学医学部小児科 瀧   正 志 聖マリアンナ医科大学小児科 中 川 雅 生 滋賀医科大学小児科 中 西 敏 雄 東京女子医科大学循環器小児科 丹 羽 公一郎 聖路加国際病院心血管センター循環器内科 濵 岡 建 城 京都府立医科大学大学院医学研究科 小児循環器 ・ 腎臓病学 林   昌 洋 国家公務員共済組合連合会 虎の門病院薬剤部 福 嶌 教 偉 大阪大学大学院医学系研究科 重症臓器不全治療学腎臓内科 本 田 雅 敬 東京都立小児総合医療センター 松 裏 裕 行 東邦大学医療センター大森病院小児科 村 上 智 明 千葉県こども病院循環器科 与 田 仁 志 東邦大学医療センター大森病院新生児科 協力員 石 川 友 一 福岡市立こども病院循環器科 石 川 洋 一 国立成育医療研究センター薬剤部 糸 井 利 幸 京都府立医科大学大学院医学研究科 小児循環器 ・ 腎臓学 岩 崎 達 雄 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 麻酔 ・ 蘇生学分野 牛ノ濱 大 也 福岡市立こども病院循環器科 神 山   浩 日本大学医学部小児科 後 藤 美 和 独立行政法人国立病院機構東京医療 センター小児科 小 林   徹 群馬大学大学院医学系研究科小児科学分野 鈴 木 えり子 東邦大学医療センター大森病院薬剤部 群馬県立小児医療センター循環器科 東邦大学医療センター大森病院小児科 長 江 千 愛 聖マリアンナ医科大学小児科 中 山 智 孝 東邦大学医療センター大森病院小児科 深 澤 隆 治 日本医科大学付属病院小児科 藤 田 直 也 総合病院聖隷浜松病院小児科 外部評価委員 石 井 正 浩 北里大学医学部小児科 和 泉   徹 北里大学医学部循環器内科学 伊 藤 真 也 トロント大学トロント小児病院臨床薬理学 伊 藤   進 香川大学医学部小児科 川 合 眞 一 東邦大学医療センター大森病院膠原病科 (構成員の所属は2012 12 月現在) 目  次 Ⅰ.小児薬物療法の基礎知識……………………………………91 1. 臨床薬理学的な観点に基づく薬物療法の考え方 ……91 2. 処方せん記載方法の標準化と臨床薬理的視点 ………91 3. 小児薬用量設定への PK-PD 情報の利用状況 …………92 4. 小児の薬物動態(PK)の発達変化 ……………………92 Ⅱ.母乳と妊娠・胎児の薬理学…………………………………96 1. 母乳と乳児の薬理学 ……………………………………96 2. 妊娠と胎児の薬理学 ……………………………………99 3. 妊娠・授乳期の薬物療法に対する母児のリスク・ベネ フィト評価の重要性 ………………………………… 104 4. 妊婦・授乳婦への薬物療法情報について ………… 105 Ⅰ.抗心不全薬総説…………………………………………… 112 総論 各論

小児期心疾患における薬物療法 ガイドラインj-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2012_sachi_h.pdf · 総論 90 循環器病の診断と治療に関するガイドライン

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89循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011年度合同研究班報告)

小児期心疾患における薬物療法ガイドラインGuidelines for Drug Therapy in Pediatric Patients with Cardiovascular Diseases (JCS2012)

合同研究班参加学会:�日本循環器学会,日本移植学会,日本川崎病学会,日本小児高血圧研究会,日本小児血液学会, 日本小児脂質研究会,日本小児循環器学会,日本小児腎臓病学会,日本小児心電学研究会, 日本小児麻酔学会,日本小児臨床薬理学会,日本心臓病学会,日本未熟児新生児学会, 日本臨床薬理学会

班 長 佐 地   勉 東邦大学医療センター大森病院小児科

班 員 石 川 司 朗 福岡市立こども病院循環器

越 前 宏 俊 明治薬科大学薬物治療学

岡 田 知 雄 日本大学医学部小児科

小 川 俊 一 日本医科大学付属病院小児科

鈴 木 康 之 国立成育医療研究センター手術・集中治療部

住 友 直 方 日本大学医学部小児科

瀧   正 志 聖マリアンナ医科大学小児科

中 川 雅 生 滋賀医科大学小児科

中 西 敏 雄 東京女子医科大学循環器小児科

丹 羽 公一郎 聖路加国際病院心血管センター循環器内科

濵 岡 建 城 京都府立医科大学大学院医学研究科小児循環器・腎臓病学

林   昌 洋 国家公務員共済組合連合会虎の門病院薬剤部

福 嶌 教 偉 大阪大学大学院医学系研究科重症臓器不全治療学腎臓内科

本 田 雅 敬 東京都立小児総合医療センター

松 裏 裕 行 東邦大学医療センター大森病院小児科

村 上 智 明 千葉県こども病院循環器科

与 田 仁 志 東邦大学医療センター大森病院新生児科

協力員 石 川 友 一 福岡市立こども病院循環器科

石 川 洋 一 国立成育医療研究センター薬剤部

糸 井 利 幸 京都府立医科大学大学院医学研究科小児循環器・腎臓学

岩 崎 達 雄 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科麻酔・蘇生学分野

牛ノ濱 大 也 福岡市立こども病院循環器科

神 山   浩 日本大学医学部小児科

後 藤 美 和 独立行政法人国立病院機構東京医療センター小児科

小 林   徹 群馬大学大学院医学系研究科小児科学分野

鈴 木 えり子 東邦大学医療センター大森病院薬剤部

関   満 群馬県立小児医療センター循環器科

髙 月 晋 一 東邦大学医療センター大森病院小児科

長 江 千 愛 聖マリアンナ医科大学小児科

中 山 智 孝 東邦大学医療センター大森病院小児科

深 澤 隆 治 日本医科大学付属病院小児科

藤 田 直 也 総合病院聖隷浜松病院小児科

外部評価委員石 井 正 浩 北里大学医学部小児科

和 泉   徹 北里大学医学部循環器内科学

伊 藤 真 也 トロント大学トロント小児病院臨床薬理学

伊 藤   進 香川大学医学部小児科

川 合 眞 一 東邦大学医療センター大森病院膠原病科

(構成員の所属は2012年12月現在)

目  次

Ⅰ.小児薬物療法の基礎知識……………………………………911. 臨床薬理学的な観点に基づく薬物療法の考え方 ……912. 処方せん記載方法の標準化と臨床薬理的視点 ………913. 小児薬用量設定へのPK-PD情報の利用状況 …………924. 小児の薬物動態(PK)の発達変化 ……………………92

Ⅱ.母乳と妊娠・胎児の薬理学…………………………………96

1. 母乳と乳児の薬理学 ……………………………………962. 妊娠と胎児の薬理学 ……………………………………993. 妊娠・授乳期の薬物療法に対する母児のリスク・ベネフィト評価の重要性 ………………………………… 104

4. 妊婦・授乳婦への薬物療法情報について ………… 105

Ⅰ.抗心不全薬総説…………………………………………… 112

総論

各論

90 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

1. 疫学 …………………………………………………… 1122. 定義 …………………………………………………… 1123. 心不全の分類 ………………………………………… 1124. 薬物治療 ……………………………………………… 1135. 心不全の予後 ………………………………………… 114

Ⅰa.血管拡張薬:ホスホジエステラーゼ3阻害薬,カルシウム感受性薬 ………………………………………………… 1161. 心不全治療の概念 …………………………………… 1162. PDE3阻害薬 ………………………………………… 1163. カルシウム感受性薬 ………………………………… 1174. 薬物療法の実際 ……………………………………… 117

Ⅰb.心不全に対する血管拡張薬 …………………………… 1201. 薬物療法の実際 ……………………………………… 120

Ⅰc.利尿薬 …………………………………………………… 1291. 定義 …………………………………………………… 1292. 小児の病態 …………………………………………… 1293. 小児の臨床的特徴 …………………………………… 1294. 小児心不全治療における利尿薬の役割 …………… 1305. 薬物療法の実際 ……………………………………… 130

Ⅱa.川崎病急性期治療薬 …………………………………… 1321. 疫学 …………………………………………………… 1322. 定義 …………………………………………………… 1323. 小児の病態と臨床的特徴 …………………………… 1334. 薬物療法の実際 ……………………………………… 133

Ⅱb.虚血性心疾患の薬物療法 ……………………………… 1361. 心筋虚血の定義と治療の原則 ……………………… 1362. 虚血性心疾患の分類 ………………………………… 1363. 小児期の特殊性と問題点 …………………………… 1364. 抗虚血療法 …………………………………………… 137

Ⅱc.抗血小板薬,抗凝固薬,血栓溶解薬 ………………… 1421. 序文 …………………………………………………… 1422. 各種疾患に対する抗凝固・抗血小板療法 ………… 144

Ⅲ.高脂血症治療薬…………………………………………… 1531. 疫学 …………………………………………………… 1532. 定義 …………………………………………………… 1543. 小児の病態と臨床的特徴 …………………………… 1544. 薬物療法の実際 ……………………………………… 155

Ⅳ.抗不整脈薬………………………………………………… 1591. 上室期外収縮 ………………………………………… 1592. 心房細動 ……………………………………………… 1593. 心房粗動 ……………………………………………… 1604. 上室頻拍,心房頻拍 ………………………………… 1605. 心室期外収縮,特発性非持続性心室頻拍 ………… 1616. 特発性持続性心室頻拍 ……………………………… 1627. 多形性心室頻拍 ……………………………………… 1628. QT 延長症候群 ……………………………………… 1639. 抗不整脈薬の適応と用量 …………………………… 164

Ⅴ.降圧薬……………………………………………………… 1671. 小児高血圧の一般的治療指標 ……………………… 167

2. 重症高血圧の治療 …………………………………… 1693. 二次性高血圧 ………………………………………… 1714. 小児高血圧に使用する降圧薬 ……………………… 1735. 小児期腎不全患者への薬物療法 …………………… 173

Ⅵ.低血圧治療薬……………………………………………… 1881. 低血圧の分類 ………………………………………… 1882. 小児低血圧の定義 …………………………………… 1883. 昇圧剤 ………………………………………………… 188

Ⅶ.小児肺高血圧治療薬……………………………………… 1901. はじめに ……………………………………………… 1902. 内科治療 ……………………………………………… 1903. おわりに ……………………………………………… 195

Ⅷ.小児の心筋疾患,心膜疾患治療薬……………………… 1951. 心筋症 ………………………………………………… 1952. 心筋炎 ………………………………………………… 2073. 心外膜炎 ……………………………………………… 208

Ⅸ.救急用製剤治療薬………………………………………… 2091. 心原性ショック ……………………………………… 209

Ⅹ.麻酔薬,鎮静薬,周術期関連薬………………………… 2141. 薬物療法の実際 ……………………………………… 214

ⅩⅠ.感染性心内膜炎の予防薬・治療薬 …………………… 2201. 疫学 …………………………………………………… 2202. 定義 …………………………………………………… 2203. 小児の病態と特徴 …………………………………… 2214. 薬物療法の実際 ……………………………………… 221

ⅩⅡ.新生児・未熟児の循環作動薬 ………………………… 2241. 未熟児動脈管開存(PDA) ………………………… 2242. 新生児・未熟児の低血圧 …………………………… 2263. 新生児遷延性肺高血圧 ……………………………… 227

ⅩⅢ.核医学検査用薬剤,負荷試験薬剤 …………………… 2291. 小児期核医学検査用薬剤の投与量 ………………… 2292. 心臓核医学検査用薬剤と放射線被ばく …………… 2303. 核医学検査用薬剤の種類 …………………………… 2314. 核医学検査用の負荷試験薬剤 ……………………… 232

ⅩⅣ.小児臓器移植の免疫抑制薬 …………………………… 2341. 疫学 …………………………………………………… 2342. 免疫抑制療法の定義 ………………………………… 2353. 薬物療法の実際 ……………………………………… 2364. 抗体関連型拒絶反応(antibody mediated rejection: AMR)の治療戦略 …………………………………………… 242

5. 拒絶反応に対する非薬物療法 ……………………… 243ⅩⅤ.小児循環器用薬剤一覧 ………………………………… 248

文 献…………………………………………………………… 250

(無断転載を禁ずる)

91循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

Ⅰ 小児薬物療法の基礎知識

1 臨床薬理学的な観点に基づく薬物療法の考え方

 従来から薬物療法は「投与量─効果・副作用関係」に基づいて考えられてきた.しかし,投与された薬物が血液により作用部位に送達され効果を発揮するまでの動的過程(体内薬物動態:pharmacokinetics, PK)が研究されると,この過程には大きな個人差があることが判明し,PK の個人差が効果や副作用発現の個人差の原因となることが明らかとなった1). また,血液中の薬物濃度と応答性の関係に基づいて,薬物の標的分子(酵素,受容体など)レベルでの応答性の個人差(薬力学,pharmacodynamics, PD)を検討できるようになった(図1). 小児においては,特に新生児から乳児期に薬物代謝や排泄に関係する肝・腎機能に大きな発達変化が生じるため成人の薬物療法にもまして臨床薬理学的な観点に基づいたアプローチが重要である.

2 処方せん記載方法の標準化と臨床薬理的視点

 従来,内服薬の処方せんの記載は,①1日分量と,②(用法・用量として)1回当たりの服用量,1日当たりの服用回数,服用時点の明示と投与日数の記載が求められていた.しかし,1日分量の分割方法の記載が標準化されていない(例,1日3回に分割投与の指示には,×3,3×,分3などが慣用されている)ため,本来は1日分量を3分割すべき指示が,誤って3倍量調剤されてしまうなどの医療安全上の問題が生じている.このため,平成22年の「内服薬処方せんの記載方法のあり方に関する検討会報告書」3)では,処方せんの記載方法を②の記載法に標準化すべきであると提言している. 臨床薬理的な観点からは,処方せんにおける①1日分量記載法は,その基礎に薬物の必要量を「投与量─効果関係」としてとらえる思想が背景にあるが,②用法・用量の記載は1回当たりの服用量により生じる体内薬物量(血中濃度)の最大・最小値と,1日当たりの服用回数で規定される薬物濃度の時間経過を意識した「投与量─血中濃度─効果関係」の思想が背景にある.この意味から上記検討会の提言は,単に医療安全上の養成から記載方法の標準化するだけでなく,薬物療法を臨床薬理学的の観点から考える大きな意義がある.

総  論

図1 薬物の応答性を支配する薬物動態と感受性の関係(文献2より引用)

92 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

乳児の薬物吸収速度は年長児よりも遅く,最高血中濃度到達時間は遅れる傾向がある.しかし,吸収総量には臨床的に問題となるほどの差はないとされる1).新生児から乳児期において薬物吸収を経時的に評価した研究は少ないが,フェノバルビタール,サルファ剤,ジゴキシンなどの受動的吸収を受ける薬物やキシロースなどの吸収は生後4か月までに成熟する4).新生児では胃酸分泌が未発達なため胃内pHが高いので,イトラコナゾールなどの溶解度が中性pHで著明に低下する.薬物では吸収が遅延または低下する可能性がある.一方,薬物自体が酸性条件下で不安定な薬物(ベンジルペニシリンベンザチン,アンピシリン,ナフシリンなど)は,新生児での消化管吸収率が小児や成人よりも高い5). 薬物の消化管吸収速度は剤型により影響される.錠剤やカプセルの剤型で服用される薬物は,消化管内で崩壊と溶解の過程を経て初めて吸収される.したがって,一般に液体の剤型(シロップ,懸濁剤)からの薬物吸収は固形剤型(錠剤,カプセル剤)より速い.学童期までの小児には誤嚥防止の観点から液剤やドライシロップなどを用いることが多いが薬物吸収の観点からは望ましいことである. 近年,上部消化管粘膜上皮細胞には薬物代謝酵素(CYP3A,CYP1Aなど)や薬物の上皮細胞への吸収あるいは上皮細胞から消化管内腔への排泄を能動的に行う薬物輸送トランスポーター(P糖蛋白;PgPなど)が発現していることが判明した6).これらの発現量の個人差が免疫抑制薬シクロスポリンやタクロリムスを経口投与する際の生体内利用率(バイオアベイラビリティ)の個人差に影響することが示唆されている(図2)7).PgPの基質としては,他にアジスロマイシン,デキサメタゾン,ジゴキシン,エリスロマイシン,フェンタニル,イトラコナゾール,モルヒネなど多くの薬物がある.ヒトの消

3 小児薬用量設定へのPK-PD情報の利用状況

 新生児から成人までの発達過程で体重は約20倍,臓器重量では体表面積から推測して約8倍の発達変化を生じる.また,新生児では薬物動態に関係する肝薬物代謝酵素活性や腎糸球体濾過機能などが未熟で乳児期にかけて急速な発達を遂げることも知られている.このような発達変化(ontogeny)を生じる小児の薬物療法は,本来小児で観察されるPK/PD情報に基づいて行われるべきであるが,倫理的配慮や種々の技術的な困難さにより臨床薬理学的な臨床試験は少なく,小児の薬物療法ガイドラインの基礎となるべきPK/PDデータは不備である. 従来,小児薬用量は成人薬用量を該当患児の年齢や体重などの生物的な発達パラメーターを尺度として換算する経験式(Augsberger式など)が使用されたが,現在では科学的な根拠の不十分さから欧米の代表的な教科書では言及されていない.最近では,おおよそ5~6歳以後の小児薬用量は抗がん剤などの治療濃度域が狭い薬物をはじめとして,徐々に薬物代謝や排泄に関わる肝臓や腎臓の重量発達を近似する体表面積を基準として体表面積あたりの成人量を用いて小児用量を換算する事例が増加している.また,新生児期から乳児期におけるPKの変化を考慮していくつかの薬物が年齢に応じた推奨投与量が,ゲンタマイシン,セフタジジム,クリンダマイシン,カルバマゼピン,フェニトイン,フェノバルビタール,テオフィリン,ジゴキシン,カプトプリル,ラニチジンなどで確立している1).以下に,小児のPKとPDに関する知見を簡略にまとめる.

4 小児の薬物動態(PK)の発達変化

1 薬物吸収 absorption 薬物を血管内投与以外の方法で薬物を投与する場合には,薬物の投与部位から血液循環への移動(吸収:absorption)効率は必ずしも100%ではなく,また時間的に遅れが生じる.

①経口投与 (oral administration, po)

 ほとんどの薬物の消化管吸収過程は受動拡散である.消化管粘膜の絨毛形成は既に胎生期に完了している.一方,胃から小腸への排泄運動の未成熟により,新生児と

図2  消化管粘膜上皮におけるCYP3A4とP糖蛋白の 共発現と協同的な消化管での初回通過効果

93循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

化管PgP活性の小児発達については情報が少ない.また,消化管粘膜のCYP3A活性がグレープフルーツジュース(GFJ)に含有される成分により阻害されるため多くのCYP3A基質薬のバイオアベイラビリティを増加させる相互作用を生じる原因となることも注目されている.

②その他の投与経路

 経口投与が困難で静脈確保が困難な際などには薬物を筋肉内注射することがある.生理的なpHで溶解度が低い薬物(フェニトイン,ジアゼパムなど)は筋肉内で析出するので,血管内への吸収速度に大きな個人差が生じることがある.また,循環不全により筋肉血流が減少している病態では吸収速度は低下する. 坐薬による薬物の直腸内投与は,嘔吐や意識障害のために薬物を経口投与できない場合などに便利な投与経路であり,フェノバルビタール,アセトアミノフェン,アミノフィリンなどの薬物で使用されてきた.直腸下部粘膜から吸収された薬物は門脈を経由せず大循環に到達するので,肝臓における初回通過効果を回避する利点もある.しかし,直腸粘膜の表面積は小腸よりも小さく,小児では排便回数が多いため吸収のバラツキの原因となる.したがって,この投与経路は重篤な臨床状況で確実な薬物吸収を期待する際には最適の投与法ではない.アミノフィリンの坐薬投与に伴う吸収率の個人差により効果不足や中毒が生じることが報告されている.一方,ジアゼパムやバルプロ酸の坐薬投与によりてんかんの急性および慢性治療を安全かつ効果的に実施できたとの報告もある. 薬物の経皮投与は皮膚湿疹などの局所治療の他に,経皮吸収による全身投与を目的としたニトログリセリン,ツロブテロールなどの貼付製剤でも使用される.小児の皮膚血流は成人よりもむしろ多いので,一般に小児における薬物の経皮吸収は成人よりも良好である.小児の体重当たりの体表面積は成人より約3倍大きいため,同一皮膚面積から吸収される体重当たりの薬物量は成人よりも多い.アトピー性湿疹などで副腎皮質ステロイド外用薬を長期投与する場合には全身的な副作用の観点から留意が必要である. また,新生児では皮膚角質層の厚さは成人よりも薄いため経皮的な薬物や化学物質の吸収が良く,局所投与を目的とした殺菌剤(ヘキサクロロフェン,ヨード)やその基剤(プロピレングリコール),さらには薬物(サルファ剤,ジフェンヒドラミン,リドカイン,プロメタジン,ヒドロコルチゾンクリーム)が経皮的に吸収されて中毒症状を生じた報告がある8).

 吸入投与による薬物の投与は,気管支喘息の治療でβアドレナリン作動薬やステロイド性抗炎症薬などで広く用いられている.この投与法は薬物を作用部位近傍に直達させるため全身吸収量は少なく,一般的に全身的な薬理作用は少ない.しかし,高用量で長期に使用された吸入βアドレナリン作動薬による心循環器系副作用やステロイド性薬による副腎機能抑制などの副作用が生じることがある.これらの薬物の上気道粘膜および経下気道的な吸収は気管支組織および呼吸機能の発達により影響されると推測されるが,十分研究されていない.

③分布 (distribution)

 投与部位から吸収された薬物は主に血液循環に移行し全身組織に分布する.このとき,薬物が血液濃度と同じ濃度で一様に分布していると仮定して計算した値が分布容積(volume of distribution: Vd)である.もちろん,薬物は血液と同じ濃度で組織中に分布するわけではないので,この値は見かけ上の値であり,何ら実在の生理的容積を表すものではない.しかし,この値は薬物の初回投与などで投与直後に治療効果に基づいて設定した薬物血中濃度を得るために必要となる負荷投与量を推測する際に有用である. 必要な薬物投与量 = Vd×Δ血中濃度  ここでΔ血中濃度は投与前と投与後の血中濃度増加値である.この式は初回投与でも経過中の追加投与の場合にも使用できる. 新生児および乳児では成人よりも体重当たりの体内水分量・細胞外水分量が多いため1),アミノグリコシド系抗菌薬のように比較的水溶性が高く血漿蛋白結合率の低い薬物の体重当たりの分布容積は成人よりも大きい.したがって,それらの薬物では小児薬用量を体重当たりの成人用量から換算して投与すると血中濃度が治療域を下回ることがある9).一方,脂溶性が高い薬物の体重当たりの分布容積は小児と成人で大きな差異はない. 血漿中の薬物は遊離型と血漿蛋白との結合形が可逆的な平衡状態にある.酸性薬物(フェニトインなど)は主としてアルブミンに,塩基性薬物(リドカイン,ジソピラミドなど)は主としてα1-酸性糖蛋白(AAG)に結合する.新生児では1歳児と比較しても血清アルブミン濃度は30%前後,AAG濃度は50%前後低いので蛋白結合率が高い薬物の遊離型分率は増加している1). 血管内皮を通過して組織に自由し,作用部位(酵素,蛋白など)に到達できるのは遊離型薬物であるので,薬物の効果は血液中の遊離型薬物濃度が関係する.血漿蛋白結合率が高く(典型的には>90%),分布容積が小さ

94 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

い薬物では,体内の薬物の大部分が血液中に存在している.このような薬物の結合率が低下(例えば90%から80%)すると,遊離型薬物の分率は10%から20%へと倍増し,組織に分布できる遊離型薬物が増加する.このため,薬物の血中総(遊離型+結合型)濃度は蛋白結合が正常な場合より低くなる.しかし,効果に関係する遊離型薬物濃度は,遊離型分率の増加と総薬物濃度薬物の低下が相殺されるため,蛋白結合率が正常な場合と大きな差はなくなる.さらに,薬物投与から時間が経過すると,血液中の遊離型薬物を除去する肝臓や腎臓の浄化能力(クリアランス)が正常な場合は,分布の変化により増加した血液中の遊離型薬物を正常化させるので薬理効果への影響はさらに少なくなる.この現象は薬物蛋白結合部位における併用薬との相互作用の場合でも同様である. ただし,新生児・乳児では後述するように肝臓や腎臓の遊離型薬物に対するクリアランス(酵素活性自体)が未発達であるため,蛋白結合率の低下による遊離型薬物濃度の増加が薬物クリアランスにより迅速かつ充分に正常化できず薬理効果の増強や毒性発現が生じるものと考えられる.したがって,新生児では生理的に増加している遊離型薬物濃度をさらに増加させるような蛋白結合部位での相互作用を持つ薬物の投与は避けるべきである.内因性ビリルビンはアルブミン結合物質であるため新生児黄疸にサルファ剤を投与すると核黄疸リスクが増加するため禁忌となっている. 臨床で日常的に実施されている薬物血中濃度モニタリング(TDM)ではほとんどの場合総(結合型+遊離型)濃度を測定するので,血液中の薬物結合蛋白濃度が低下

している新生児や低蛋白血症の小児では遊離形分率の増加を考慮して(図3),報告された測定値を蛋白濃度が正常な場合の測定値に換算して解釈する必要がある.

④代謝(metabolism)

 循環器系薬物は比較的脂溶性が高く,肝臓で代謝を受け不活化されるものが多いので肝臓の薬物クリアランスの発達は薬物療法を考える上で重要である.繰り返し投与により定常状態(蓄積が完了した時点)に到達した薬物の血中濃度(全身薬物量)は投与量と全身クリアランスにより決まる.その全身クリアランスは,単位肝組織当たりの薬物代謝酵素活性(発現量)と臓器重量の積により決まる.したがって,小児の薬物代謝クリアランスのontogenyは主として新生児から2歳ころまでの肝細胞当たりの酵素発現量が成人値に向かって増加する時期(質的成長期)と,それ以後の主として臓器サイズ発達により全身クリアランスが増加する時期(量的成長期)に分けて論じる必要がある.ただし,現時点では両期の境界を異なる酵素分子種に対して明確に設定することはできていない.以下に薬物代謝酵素の発達変化を第1相反応(酸化反応が主体)と第2相反応(転移あるいは抱合反応が主体)に分けて論じ,その概要は表1にまとめた.1)新生児から2歳前後までの質的成長期①薬物酸化代謝酵素 ヒトの薬物酸化代謝酵素で最も重要なものは3種類のシトクロムP450(CYP)ファミリーである(CYP1, CYP2, CYP3).CYP3群では,CYP3A7が胎生早期からに発現しているが,生後まもなくその発現は減少し,生後1年までにほとんど検出されなくなる.一方,成人型のCYP3A4は出生時には発現量が少ないが,生後1~2年後にかけて発現量が増加する10).CYP3A4活性の指標であるミダゾラムの全身クリアランスは新生児から乳児期にかけて7から8倍増加することが明らかとなっている11). CYP2C群の主要な分子種はCYP2C9,CYP2C19,CYP2C8である.フェニトイン,ワルファリン,スルホニル尿素薬,酸性非ステロイド性消炎鎮痛薬(ジクロフェナクなど)などを代謝するCYP2C9の発現量は胎生25週ころから発現し,個人差は大きいものの出生後急速に増加し,生後5か月ころまでに半数の小児では成人値に到達する12).一方,プロトンポンプ阻害薬,クロピドグレルなどの代謝に関係するCYP2C19は,生後5か月以上かけて緩やかに発現量が増加する12).一方,テオフィリンおよびカフェインを基質とするCYP1A2は発

図3  薬物の血漿蛋白結合濃度の低下に伴う血漿遊離型分率の 増加と総および遊離型薬物の変化

120

100

80

60

40

20

0血漿中総(総合形+遊離形)濃度(任意の単位)

遊離形 10%

正常 低下

血漿蛋白結合

遊離形 20%

結合形濃度遊離形濃度

95循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

現が遅く,生後1から3か月から発現が始まる13). CYP2D6は抗不整脈薬(フレカイニドなど),β遮断薬(メトプロロールなど)などの循環器薬物,抗うつ薬,抗精神病薬,抗てんかん薬,コデインなどの中枢神経作用薬の代謝に関係する.出生時にはほとんど活性がなく,生後2週間までは低いが,3週目以降に活性が発達し10歳までに成人値に達する14).②抱合代謝酵素 抱合酵素は酸化代謝酵素よりも分子種が多い.代表的な抱合酵素であるグルクロン酸転移酵素(UGT)は遺伝子構造からUGT1A とUGT2Bのサブファミリーに分類される.UGT1A群はさらに9分子種に,UGT2B群は7分子種に分類される. 生後数日から1週間程度に生理的高ビリルビン血症が

出現するのは,ビリルビンを抱合体謝するUGT1A1は胎生期にほとんど活性がなく,出生時には極めて低値で,出生後急速に増加するためである.新生児にUGTの基質である抗菌薬のクロラムフェニコールを投与すると高頻度でGray症候群と呼ばれる重篤な中毒反応が生じたのは新生児期のUGTが低活性であるためである.クロラムフェニコールの代謝は生後6か月で成人値に達する15).出生時の肝組織UGT1A4活性は成人の50%以下であるが1.5歳頃までにほぼ成人値まで発達する16).UGT1A6活性は基質であるアセトアミノフェンのクリアランスで評価すると,新生児,乳児を通じて低い.抗がん剤イリノカテンなどの代謝に関係するUGT1A1の発達変化についてはヒト肝臓試料での活性研究があるが17),in vivoでの全身クリアランスについては情報がない.一方,UGT2B7はモルヒネの代謝に関係する.モルヒネの全身クリアランスで評価した新生児のUGT2B7活性は10歳前後の小児の10~20%程度に過ぎず,出生後2~6か月で急速に増加することが知られている18).硫酸抱合酵素の活性は新生児でも十分に発現しているとされる.2)幼児期以降の量的発達期 主として学童から思春期の小児を対象とした薬物動態研究(ワルファリン,ジソピラミド,テオフィリン,カルバマゼピンなど)では体重当たりに換算した小児薬用量が対応する成人量を2倍程度上回ることが知られている1).この現象は,主として薬物の体内動態に関わる臓器(肝臓,腎臓)重量と体重の比率が小児では成人より大きいことに由来する見かけの現象である.画像検査で計測した肝容積で標準化したいくつかの典型的な肝代謝型薬物の小児クリアランス値は成人値とほとんど差がない19,20). 比較生物学的な経験的アロメトリー原理によればエネルギーを要する生命活動(薬物代謝など)の同種または異種動物間での差異はサイズ(体重)の3/4乗に比例する.アロメトリー原理を用いた生理的薬物動態モデルを小児薬用量推定に利用する試みが盛んに行われているが,現時点ではまだ研究段階である21).アロメトリー原理は身体サイズは異なるが臓器機能は成熟した小児期の薬物クリアランス予測を目的とした理論であるので,新生児や乳児のように肝細胞当たりの薬物代謝酵素活性が発達中の時期には適応できない.体重の3/4乗の成長曲線は体表面積のそれと良く一致している.

⑤腎排泄(renal elimination)

 腎臓組織におけるネフロンの形成は胎生期の早期から

表1  新生児・乳児期の単位臓器重量当たり肝代謝および腎排泄活性の個体発生(ontogeny)

肝代謝代謝酵素CYP1A2 出生時には活性がほとんどないが,生後1~

3か月から発現が始まり,4~5か月に成人値となる.

CYP2C9 出生時には活性が低いが,生後急速に活性は増加し,生後5か月頃までに半数の小児でほぼ成人値となる.

CYP2C19 出生時には活性が低いが,生後5か月以上かけて緩やかに発現量が増加する.

CYP2D6 出生時にはほとんど活性がなく,生後2週間までは低いが,3週目以降は遺伝子型に応じて活性が発達し,遺伝多型による活性の差異が明瞭となる.10歳までに成人値に達する.

CYP3A4 出生時には発現量が少ないが,生後1~2年かけてゆっくりと成人値まで増加する.

CYP3A7 胎生早期から発現するが,生後まもなく発現が減少し,生後1年までにほとんど消失する.

抱合(転移)代謝酵素UGT1A1 ヒトでは十分な研究がなされていないUGT1A4 出生時は成人の50%以下であるが,1.5歳頃

までにほぼ成人値まで発達するUGT1A6 新生児~乳児期を通じて活性は低い.UGT2B7 新生児での活性は小児(10歳前後)の20%

程度で,出生後2~6か月で急速に増加する.硫酸抱合酵素 新生児でも成人値の70%前後の活性がある.N⊖アセチル化酵素

出生時から生後2か月までは低い.生後6か月で遺伝多型の差異が出現し生後1~4年で成人値となる.

メチル基転移酵素

出生時にすでに成人値を示す.

腎排泄糸球体濾過速度

新生児期には成人の10~20%であるが,1歳前後で成人値まで成熟する.

尿細管分泌機能

新生児期には低い。糸球体発達より発達は遅れるが1歳前後で成人と同じになる.

96 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

始まり,36週にはほぼ完成されるとされる.さらに生後2週間の間に急速に発達し,8から12か月で完成する.このため,糸球体濾過率(GFR)は,未熟児では0.6~0.8mL/min/1.73m2であるが,満期産の新生児では2~4mL/min/1.73m2に増加し,1歳前後には体表面積で標準化した値(mL/min/1.73m2)は成人とほぼ同等となる1).尿細管分泌機能も新生児期には未熟であるが糸球体濾過機能より遅れて生後1年前後に成熟する.このような腎機能の発達変化は,主に腎糸球体濾過により排泄される水溶性薬物(アミノグリコシド系薬,ファモチジン,ラニチジン等)の動態の発達に大きな影響を与える1).例えば,ゲンタマイシンの消失半減期は,未熟児では36~48時間,新生児では24時間と,成人の2~4時間に比べて著明に延長している22). 尿細管分泌機能には各種の有機イオントランスポーターが関係しており,薬物によってはそのクリアランスが腎糸球体濾過速度を上回ることもある.尿細管分泌クリアランスの発達は腎糸球体濾過のそれよりも遅れる.有機アニオン・トランスポーターの発達変化はパラアミノ馬尿酸(PAH)やブメタニド,フロセミドの腎クリアランスで評価されている.新生児の体重当たりのブメタニド全身クリアランスは成人の20%であるが,新生児から乳児期に3倍以上の発達変化が観察される23).同様の変化がフロセミド,アンピシリン,ベンジルペニシリンなどで観察されている24).腎尿細管の有機カチオントランスポーターやPgP活性の発達変化については未だに情報が少ない.

⑥小児の薬物感受性の成人との差異に関する知見

 薬力学(PD)のontogenyについてはPKよりも情報がはるかに少ない.新生児・乳児ではシクロスポリンによる免疫抑制作用,ワルファリンによる抗凝固作用,ランソプラゾールによる胃酸分泌抑制効果における感受性がより年長の小児や成人よりも高いとする報告がある1),8),24).また,結核の化学療法やバルプロ酸による肝障害の出現頻度は小児において成人よりも高いことなど副作用頻度にも成人との差異が報告されている1),8).従来の研究では,薬物応答性の発達変化は「投与量─効果関係」により評価されることが多かったので,今後は「血中濃度─効果関係」に基づいて評価し,PDのontogenyを検討する必要がある.

Ⅱ 母乳と妊娠・胎児の薬理学

 妊娠・授乳期の母親に薬物療法を必要とする症例がある.この場合,母体に投与した薬物が胎盤・母乳を介して胎児・乳児に移行する可能性があり,胎児・乳児へ及ぼす薬理作用への配慮が必要となる.授乳期の薬物療法と母乳・乳児への影響,妊娠期の薬物療法と胎児の薬理学的相関と胎児毒性の評価に関する基本的な考え方をまとめる.一方,胎児診断の進歩とともに,母体を介して経胎盤的に薬物を投与し胎児治療を行うことも現実的な治療選択肢となっている.なお,妊娠・授乳期の薬物療法に関しては,倫理的な配慮から無作為化二重盲検比較試験は行われないため根拠情報のエビデンス・レベルには限界がある.こうした中でも胎児曝露例の前向きコホート研究,人母乳並びに乳児血中薬物濃度解析等の臨床薬理研究が得られるものでは科学的根拠に基づく評価が可能となっている.

1 母乳と乳児の薬理学

 授乳期の薬物療法では,母乳分泌への薬理作用,母乳への薬物・代謝物の移行性,母乳を介した乳児の薬物曝露量,経母乳的な薬物曝露が乳児に及ぼす薬理作用,その薬理作用と母乳保育のリスク・ベネフィット評価が必要となる.プロラクチンレベルを低下させ母乳分泌を抑制する薬物としてブロモクリプチンメシル酸塩に代表される中枢ドパミン神経作動薬がある25).

1 薬物の母乳移行 授乳婦が摂取した薬物の母乳移行性を規定する薬物側因子として,薬物の分子量,塩基性,脂溶性,血中蛋白結合率などがある(図4).

①分子量

 低分子の化合物は,分子量が小さく受動拡散により母乳に移行することが知られている.一方,ダルテパリン等の低分子ヘパリンは,分子量が大きく母乳中の薬物濃度は検出限界以下であった26).未分画ヘパリンはさらに分子量が大きいため母乳移行性はさらに低いと考えられている.

②塩基性

 母体血漿と母乳間の薬物の受動拡散は分子型薬物のみ

97循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

が対象となり,イオン型薬物は荷電を有するため膜を通過できずに母乳中へ移行しない.母体血漿のpHと比較して母乳のpHは若干酸性であるため,弱塩基性の薬物は血中に比べて母乳中でイオン型となる比率が高い.このため母乳中に留まることとなり相対的に母乳中濃度が高くなる性質をもつ.この現象はイオントラッピングと呼ばれる.

③脂溶性(疎水性)

 乳汁中の脂質濃度は母体血中の脂質濃度より高い.脂溶性の薬物は,乳汁中の脂質に分布しやすいため親水性の薬物と比較して母乳移行性が高くなる.薬物の疎水性の指標としてオクタノール/水分配係数が用いられる.

④蛋白結合率

 低分子の化合物は遊離型分子あるいは,血清アルブミンまたはα1酸性糖タンパク質などの血漿蛋白と結合した形で血中に存在している.血漿蛋白に結合した薬物は半透膜である乳腺上皮細胞膜を通過できない.したがって,受動拡散により母乳中に移行するものは遊離型の薬物になる.このため血漿蛋白結合率が高いことは,母乳中への移行性が低いことと関連する.

⑤トランスポーター

 乳腺上皮には薬物の担体輸送に係わるトランスポーター が 発 現 し て い る.BCRP(breast cancer resistance protein: ABCG2)は乳汁分泌期に発現が増加し,ビタミンB2,ビオチン等の輸送を担うほかニトロフラントイ

ンやシメチジン等の薬物の輸送に関わっている27),28).分子量・塩基性・疎水性・蛋白結合率などの因子から予想される以上に母乳中に高濃度に移行する要因として留意する必要がある.

⑥代謝物の活性・母乳移行性

 母体に投与された薬物は,小腸粘膜あるいは肝臓で代謝され代謝物となり胆汁中あるいは尿中に排泄される.この過程で代謝物も母乳への移行が認められている.原薬と比較して代謝物の活性は低いことが一般的である.ただし,いくつかの薬物では代謝物が同等の活性を有していたり,親化合物以上の乳児毒性を示すことがあり注意が必要である. 抗不整脈薬プロカインアミドでは肝代謝により生じるN-アセチルプロカインアミドが同等の活動電位持続時間の延長作用を有しており,曝露量も親化合物を超えることがしばしば認められる.定常状態における親化合物の母乳中濃度が5.4mg/Lに対して,代謝物の母乳中濃度は3.5 mg/Lであり29)原薬と代謝物を合わせた乳汁移行性と乳児への影響評価が必要である. コデイン30mgを鎮痛薬として使用した授乳婦の乳児に代謝物であるモルヒネ中毒が発現し死亡した事例がある.母体がコデインの代謝酵素CYP2D6の超迅速代謝(ultra-rapid metabolizer)であったこと,母乳中モルヒネ濃度が一般的報告の4~40倍の87ng/mLに達していたことが要因として推察されている30).母乳中の代謝物への注意が必要な典型例と言える.

図4 母体血漿から母乳中への薬物の拡散様式

母体血漿中 母乳中

乳脂肪球

脂溶性薬物

遊離型薬物

イオン型

タンパク 薬物

タンパク結合型薬物

分子型+

イオン型分子型            +-

遊離型薬物

タンパク 薬物

タンパク結合型薬物

98 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

2 乳児の薬物動態 母乳を介して摂取された薬物の乳児への影響を評価するにあたり母乳中の薬物の乳児における薬物動態と曝露量,毒性の評価が重要となる.

①吸収

 新生児の胃液のpHは,出生直後では高いものの時間とともに低下し24時間後には正常の酸度となる.このため経母乳的に摂取した薬物のうちプロトンポンプ阻害薬のように酸に不安定な薬物は乳児の胃内で分解されるため薬理作用を発揮するとは考えられない.こうした薬物は酸による分解を避けるため腸溶製剤として市販されており判別の参考になる. また,生体における吸収が不良な薬物は吸収を高めるためエステル化等の化学修飾を施した化合物として市販されている.ACE阻害薬エナラプリルは,母体に投与した後にエステラーゼにより脱エステル化され活性体(エナラプリラート)となって降圧作用を発揮する.経母乳的に摂取するエナラプリラートあるいはエナラプリルは母体への投与量の0.16%程度31)と微量であり活性体の吸収が不良であることを考慮すると乳児の全身循環に至る吸収量は極めて微量であることが推察できる. さらに,分子量が極めて大きな薬物,例えば低分子ヘパリン,未分画ヘパリン等は,経母乳的に微量の薬物を摂取したとしても,腸管からの吸収は期待できず乳児の曝露による薬理作用発現は想定されない.

②分布

 妊娠初期に胎児体重当たり90%程度を占めていた水分量は,正期産新生児では75%程度に減少し生後3か月には60%程度になる32).このことは新生児・乳児で体重当たりの薬物の分布容積(Vd)が大きいことと一致している. また,新生児期は血清アルブミン,α1-酸性糖蛋白質ともに低値であり,成人と比較して薬物の蛋白結合率が低く,薬理作用に関与する遊離型薬物の血中濃度が高くなる傾向がある33).

③代謝・排泄

 新生児期の薬物クリアランスは一般に低いことが知られている.乳児曝露量ならびに乳児への薬物の影響を評価するにあたり,肝臓における薬物代謝酵素の発現量,GFR等の腎における薬物排泄能などが低値であることを考慮する必要がある.ただし,個々の薬物の乳児にお

ける薬物クリアランス値は明らかでない場合が多い. なお,詳細は前項「総論Ⅰ:小児薬物療法の基礎知識」に譲る.

3 乳児への影響評価 乳児への薬物の影響を評価するには,薬物動態学(PK)と薬力学(PD)の両面からの考慮が必要だが,薬力学的考慮の指標となる各種レセプターの発現量や酵素の発現量などに関する乳児のデータは明らかでないことが多い.以下,乳児曝露量を中心に解説する.

①乳汁/血漿薬物濃度比  (Milk-to-Plasma drug concentration ratio:M/P比)

 母乳中の薬物濃度を母体血漿薬物濃度で除した値はM/P比と呼ばれ,薬物の母乳移行性の指標として汎用されている.カプトプリル34),プロプラノロール35),ニフェジピン36)におけるM/P比は,それぞれ0.03,0.33~1.65,1.0と小さく,アテノロール37),ソタロール38)では1.5~6.8,5.4と大きく,ヨウ素では極めて高い. M/P比は母体血漿薬物濃度と母乳中薬物濃度の比であり,両薬物濃度がともに高値の場合は,M/P比が相対的に低い値となり乳児への影響を過小評価するおそれがある.また,M/P比が大きな値になったとしても,母乳中薬物濃度の絶対値が極めて小さく薬理作用が認められない場合もある.M/P比は本来母乳移行性の指標であり,乳児への経母乳的薬物の影響を評価する間接的な指標にしかならないことに留意したい.

②相対乳児摂取量(Relative Infant Dose: RID)

 M/P比より直接的に乳児へ影響を評価できる指標として,乳児薬物摂取量(mg/日)あるいは相対乳児摂取量(%)がある.RIDは,乳児が母乳を介して1日に摂取する体重当たりの薬物摂取量(mg/kg/日)を,母親の体重当たりの1日投与量(mg/kg/日)で除した値の百分率として表わされる(図5). RIDは,体重換算された値であるため,母体に投与された薬物が乳児にどの程度摂取され薬理作用を及ぼし得る曝露量なのか否か評価する際に有用である.本来,母体の投与量と比較するよりも乳児の治療量(投与量)と比較する方が合理的だが,多くの薬物で乳児の治療量が

図5 相対的乳児投与率(RID: Relative Infant Dose)計算式

RID(%)=[(母乳を介する乳児薬物摂取量)/乳児体重]                    [(授乳婦への薬物投与量)/母親体重]

×100

99循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

確定していないために母体への投与量との比較としている.海外の専門家は,RID が10%未満の薬物の授乳は概ね安全と評価している. カルシウム拮抗薬のニフェジピン39)・ニカルジピン40)のRIDは,それぞれ0.1%・0.073%,β遮断薬のプロプラノロール35),41)のRIDは0.1~0.9%,αβ遮断薬であるラベタロール41),42)のRIDは0.004~0.07%であり乳児への影響なしに授乳婦へ投与できる可能性が示されている.一方,β遮断薬の中でもアテノロール41)・アセブトロール43)のRIDは5.7~19.2%・1.9~9.2%と高く哺乳した乳児に徐脈,低血圧,チアノーゼ等が認められたことが報告されている.

③Exposure Index: EI

 乳児の薬物クリアランスをパラメーターに取り入れた乳児への影響を評価できる指標として,Exposure Index: EI(%)が提唱されている.M/P比に10を積算し乳児の薬物クリアランス(mL/kg/分)で除した式で表わされる.係数10は,乳児の標準母乳摂取量である150mL/kg/日とEIを百分率として表わすための式から導かれる44),45).乳児の薬物クリアランスが明らかでない薬物が多いため,成人の薬物クリアランスで代用するか,乳児の薬物クリアランスの未熟性に配慮して成人の50%とするなどして推定に使用される.

④乳児毒性が予想される薬物

 フルオロウラシルなどの5-FU系の代謝拮抗薬,ドキソルビシン,シクロホスファミド等の抗腫瘍薬は,母乳移行性のデータの有無にかかわらず,細胞毒性があるため治療中の授乳は禁忌とされている.また,モルヒネやコカインなどの麻薬も依存性が生じる恐れがあり使用中の授乳は禁忌とされている. 循環器系の薬物の中では,抗不整脈薬アミオダロンのRIDが43.1%と高く46),哺乳児に甲状腺機能低下症が認められた症例が報告されている.

4 母乳保育の乳児利益 我が国の医療用医薬品添付文書では,動物実験または人で母乳中に移行が認められるデータがある場合,「授乳婦への投与を避ける」または「授乳を避けさせる」ことと注意喚起されることが一般的である.一方,海外の専門家は母乳保育が乳児にもたらす利益と,母乳に移行した薬物が乳児にもたらす不利益を比較考慮して,母乳保育がもたらす利益を損なわないよう配慮すべきことを勧告している.米国小児科学会が2010年に公表した指

針47)では,近代的な疫学研究や,最新の実験技術を用いた広範囲な研究により,乳児の栄養として人母乳を用いること,ならびに母乳保育によって乳児・母親・家族・社会が得られる健康,栄養学,免疫学,発達,心理学,社会,経済,環境的な利益について根拠が示されている.我が国でも,2007年に厚生労働省が公表した授乳・離乳の支援ガイド48)では「薬の使用による母乳への影響については科学的根拠に基づき判断の上,支援にあたる」との考え方を示している.さらに,日本小児科学会が2007年に公表した「若手小児科医に伝えたい母乳保育の話」49)の中では,米国小児科学会同様に母乳保育の利点を解説した上で,投薬中の授乳に関して「母乳への薬剤の移行機序を理解することの重要性と,添付文書以外の情報を収集し評価することの必要性」を強調している.

2 妊娠と胎児の薬理学

 妊娠した母体では「妊婦─胎盤─胎児」系が確立し,妊娠の進行とともに母体の消化管運動能や分泌能が低下し,血漿容積や相対水分量は増加し,心拍出量や糸球体ろ過量は増加するが,アルブミン濃度は低下し,代謝酵素活性が変化する.こうした母体の生理的な変化は,薬物の体内動態に,潜在的あるいは臨床的インパクトを持って変化を与えている.

1 妊婦の薬物吸収の変化 妊婦では,血漿プロゲステロン値の上昇により消化管の運動能が低下して,胃内容物排泄速度は30~50%遅延することが知られている50).このため内服した薬物の吸収も遅延する可能性があり,迅速な薬効を期待する状況下では影響が生じる可能性がある.また,妊婦では胃酸の分泌が減少するため胃内pHが上昇することが知られており,溶解と吸収量が胃の酸度で高くなる薬物では,溶解度・吸収量が低下する可能性がある.

2 妊婦の薬物分布容積の変化 妊娠の進行に合わせて,胎盤・胎児・羊水量が増大すること,循環血漿量が約40~50%増加するため母体の相対水分量は約8L増加すると考えられている51).こうした体成分の容積増大のため,水溶性の薬物の分布容積が増加する可能性や,最高血中濃度が低下する可能性が考えられる.ただし,臨床的な投与量の変更が必要になるか否かは,母体の他の生理的変化とも関連しており個人差もあることから一様ではない. 妊娠の進行に伴いアルブミン産生量は増加するがこれ

100 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

を上回る循環血漿量の大幅な増加が生じるため希釈性の低アルブミン血症が生じる.さらに,妊娠週数の進行とともにエストロゲンやプロゲステロン等の女性ホルモンや遊離脂肪酸の血中濃度が増大するために,タンパク結合率が低下することが知られている. こうした母体の生理学的変化は非結合型の薬物の増加を示唆しているが,非結合型の薬物は薬物代謝酵素の標的となること,妊娠中に増大した腎クリアンスによって排泄されることにより,多くの薬物では顕著な変化には至らない.

3 妊婦の薬物クリアランスの変化 妊娠中は,増大したエストロゲンやプロゲステロンレベルの影響を受けて,薬物の代謝が変化することが報告されている.薬物の第1相の代謝を担うチトクロームP450群に属する酵素は,その分子種により妊娠中の活性が上昇するもの,低下するもの,大きくは変わらないものが知られている50),51). 妊娠中はカルバマゼピン血漿濃度の低下が報告されておりCYP3A4活性の増大が関与していると報告されている.また,フェニトイン血漿濃度も低下することが報告されておりCYP2C9活性が増大していることが,その原因として指摘されている.また,妊娠中はフルオキセチンのN-脱メチル体であるノルフルオキセチンの血漿薬物濃度が増加することよりCYP2D6の活性が誘導されていると考えられている.一方,妊娠中はテオフィリンのクリアランスが低下していることが報告されており,CYP1A2の活性低下が指摘されている.こうした代謝酵素活性の変化は,その妊婦がEM(extensive metabolizer)の場合とPM(poor metabolizer)の場合で,誘導・阻害への反応性が異なることも考えられており一様ではない.さらに,第2相の薬物代謝を担うグルクロン酸抱合能はバルプロ酸などで増加していることが報告されているが,アセトアミノフェンなどの硫酸抱合は減少していたことが報告されている. 妊娠中は糸球体ろ過量が約50%増加することが知られており,腎排泄型薬物であるジゴキシン,リチウム,ペニシリン系・セフェム系等の多くのβラクタム系抗生物質などの腎クリアランスが増加し,薬物血中濃度が低下する可能性が考えられている50).

4 薬物の胎児移行性(胎盤通過性) 母体に投与された薬物は,一部の例外を除いて胎盤を通過して胎児へ到達する.胎盤の通過性は妊婦へ投与する薬物を選択する上で重要な因子である.胎盤通過性を

左右する要因として以下のものが知られている. 分子量が300~600程度の薬物は比較的容易に胎盤を通過し,1,000以上になると通過し難い.抗凝固療法が必要な妊婦では,胎盤通過性の高いワルファリンではなく,通過性の低いヘパリンが選択される. 脂溶性の薬剤は,水溶性の薬剤より容易に胎盤を通過する.このため脂溶性のビタミンAやフェノバルビタールなどは容易に胎児へ移行する. ジゴキシンやアンピシリンなどの蛋白結合率が低い薬物は胎児および羊水に比較的高い濃度で到達する.一方,蛋白結合率が高いグリベンクラミドなどの薬物は,遊離型薬物のみが胎盤関門を通過するために,一般に母体において高く,胎児への移行は少ないと報告されている. 胎児血のpHは母体血よりもわずかに低く,このpHの差異がイオントラッピングと呼ばれる効果を及ぼすことが知られている.pKa値が血液pHに近い弱塩基の薬物は,母体血中では主に非イオン型で存在するため胎盤を通過しやすくなる.胎盤を通過した薬剤は,より酸性を示す胎児血と接触しイオン化するため胎児側では非イオン型薬物の濃度が低下して濃度勾配を生じ,母体側から胎児側へ向かってさらに薬物が移行することにつながる.逆に,弱酸性の薬物では,胎児から母体循環への移行が起こりやすい. 胎盤はミトコンドリアや栄養膜細胞の小胞体に多くのチトクロームP450群に属する酵素を含んでいて,ステロイドホルモンの合成や異化に関与しており,同様に各種ビタミンや脂肪酸,薬物の代謝に関与している.妊娠第1三半期から分娩時までCYP1A1の活性が確認されている.また,mRNAの検出や免疫組織化学的手法では妊娠第1三半期にCYP3A4,3A5,3A6,3A7の発現が認められている52). 胎盤を構成する栄養膜の母体側刷子縁には,P-glycoproteinやmultidrug resistance protein 2(MRP2)が発現しており,胎児側基底膜にはmultidrug resistance protein 1(MRP1)やmultidrug resistance protein 3(MRP3)が発現して,薬物を母体側に排出していることが報告されている53).P-glycoproteinは,妊娠第1三半期の胎盤栄養膜からも見出されていて,この基質となる薬物を胎児側から母体側へ輸送していることから,妊娠初期の胎児曝露を軽減するよう働いている可能性が考えられている.

5 胎児の薬物動態の特殊性 胎児のガス交換は胎盤で行われるため,胎児特有の血液循環として「動脈管」と「静脈管」が機能している.

101循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

臍帯静脈から胎児に移行した薬物は,その約50%が胎児肝を経ずに静脈管を通って下大静脈に至り,胎児心の卵円孔を通って主に頭部を中心に分布する.頭部から胎児心に戻った血液は肺動脈をバイパスして下行大動脈に至る動脈管を通って全身循環へと分布したのちに臍動脈に戻る経路をとっている. こうした胎児循環の解剖学的な特徴が,胎児への薬物分布にどの程度影響を与えているか十分に明らかにされている訳ではないが,胎児の薬物動態と薬力学的な特殊性を生じる可能性として考慮しておく必要がある. 母体のアルブミン濃度が徐々に減少するのに対して,胎児では出産時に向けてアルブミン濃度が徐々に増加していく.胎児のアルブミンも薬物結合能を有しているが,母体のアルブミンと比較して薬物の親和性は低い傾向があると報告されている. 胎児の薬物代謝酵素活性は総じて低く,CYP1A,2D6などが妊娠の後半に徐々に発現してくることが確認されている.胎児の肝において比較的高い活性を示す薬物代謝酵素として,ステロイドホルモンの代謝に関与するCYP3A7が知られている.CYP3A7はデヒドロエピアンドロステロン-3硫酸やレチノイン酸化合物に対してCYP3A4より高い活性を有しており,胎児が高濃度に曝露することを防いでいる可能性が考えられている54). 胎児からの薬物の排泄は,主に母体への薬物拡散によっている.しかし,胎児側で代謝を受けた薬物は極性が高くなるため胎盤を通過しにくくなることが考えられる.このことは代謝された薬物が胎児に蓄積する可能性があることを示している. 胎児の腎機能は成人と比較して低いことが報告されている.それでも妊娠後期の羊水は大半が胎児尿でできていることからわかるように,胎児腎機能の成熟にあわせて胎児尿を介して羊水中に薬物が排泄される.

6 胎児への影響調査

①薬物の催奇形性

 自然発生的な先天奇形が存在するため,薬物使用例の児に奇形が認められた症例報告のみでヒトの催奇形性を判断することは難しい.それでも,ワルファリンのように妊婦年齢層が使用することが比較的稀な疾患において特徴的な奇形症例が続けて報告されたことにより薬物の催奇形性が明らかとなったこともあり慎重な評価が必要である.特に,ワルファリンのように催奇形機序としてビタミンK依存性の骨形成因子の関与が考えられる場合や,ビタミンA大量投与のように動物実験で認められた

催奇形性との相同性が疑われる場合には注意が必要と考えられている. 一方,製薬企業が行う市販後調査等はイベントレポートであり,妊婦使用例に先天奇形が認められた場合に収集され,妊婦使用例に健常児が生まれた場合には収集されにくいという特性があり,発現状況から単純に催奇形性との関連を考察することはできない. ヒトにおける薬物の催奇形性は,ヒト疫学調査に基づく評価が最も信頼性が高いと考えられている.疫学的調査には,コホート研究と症例対照研究がある.一般に,研究の信頼性に関しては前者が優れており,極めて稀な先天異常の検出に関しては後者が現実的と考えられている.いずれにしても,割付等の研究デザイン,両群の患者背景ならびに規模・症例数等に留意する必要がある.その上で,疫学データの取り扱いに際しては,バイアスと交絡因子の有無を特に吟味する必要がある. 症例対照研究では,妊娠中の薬物使用に関して母親の聞き取り調査を行う形式のものが多い.この場合,奇形を有する児を出産した母親群では,医師,家族からの繰り返しの質問によって,健常児を出産した母親群より記憶情報量が多い傾向があり,両群の記憶の正確性にバイアスが生じているおそれがある.また,薬物を使用した母親と使用しなかった母親の2群を比較する際に,年齢,人種,嗜好品,居住地等の背景を均等化しても,さらに両群間に服薬以外の差異が存在し,評価結果に影響を与えることがある.一例として,アルコールの催奇形性を評価する際に,他の非合法ドラッグ使用の有無が影響する場合などがあげられる. ヒトでの催奇形性物質のスクリーニングとして動物実験が行われている.アルコール,大量ビタミンAなどのように動物実験で催奇形性が認められた薬物で,ヒトでも催奇形性が確認された薬物があり,ヒト妊婦における催奇形性を直接評価した情報が極めて限られている現状からは貴重な情報と言える.一方,動物実験で催奇形性が認められてもヒトでは催奇形性との関連が否定的な薬物や,ある種の動物では催奇形性が認められなくてもヒトで催奇形性が認められる場合もあり,ヒトへの外挿は単純ではない.特に,動物実験では臨床用量より高用量を用いるため,臨床とは異なる薬理作用が発現したり母動物の毒性による間接的影響が認められたりする場合がある.したがって母動物の変化を考慮して胎児の変化を評価する必要がある.

②胎児の器官形成と薬物感受性55)

 胎児の薬物感受性は,妊娠時期(妊娠週数)によって

102 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

大きな変化を伴う.妊娠28日から50日の器官形成期には,催奇形性の観点から最も影響を受けやすい時期となる.一方妊娠113日以降は,催奇形性よりも胎児への発達毒性・機能毒性に係わる問題に留意する必要がある(図6).1)受精から妊娠27日目 受精後2週間(妊娠3週末まで)以内の薬剤による影響形態は,「all or noneの法則」と呼ばれている.受精後何日目から催奇形臨界期に入るかは,サリドマイドによる催奇形事例の調査により明らかにされている.月経周期が28日型の妊婦で月経初日から33日目ぐらいまではサリドマイドを使用していてもその児に奇形は生じていない.したがって,この時期の薬物療法については,胎児への影響を基本的には考慮する必要がない.2)妊娠28日目~50日目 この時期は胎児の中枢神経,心臓,消化器,四肢などの重要臓器が発生・分化する時期にあたり,催奇形という意味では胎児がもっとも薬物の影響を受けやすい時期になる. 妊婦がサリドマイドを服用した時期と,それによって生じた奇形の間には明確な相関があり,最終月経から32日目以前,あるいは52日目以降の服用では奇形が発

生していない. ただし,胎芽・胎児の発育には相当の個体差があり,最終月経から胎齢を推定する方法そのものにもある程度のばらつきがあるので,器官形成期の臨床的な境界は曖昧にならざるを得ないことに留意する必要がある. この時期の薬剤の投与は,治療上不可欠なものに限るとともに,催奇形性の危険度の低い薬剤を選択するなど特に慎重な配慮が必要である.3)妊娠51日目~112日目 胎児の重要な器官の形成は終わっているが,生殖器の分化や口蓋の閉鎖などはこの時期にかかっている.主要な奇形に関する胎児の感受性は次第に低下するが,催奇形性のある薬剤の投与はなお慎重であったほうがよい.4)妊娠113日~分娩 薬剤投与によって,内因性の奇形のような形態的異常は形成されない時期である.むしろ胎児の機能的発育に及ぼす影響や発育の抑制,子宮内胎児死亡のほか,分娩直前では新生児の適応障害や薬剤の離脱症状などが起こり得る時期である. この時期の薬剤の催奇形性として問題になるのは,羊水過少症を引き起こすACE阻害剤やARB等の薬物,あるいは骨に沈着し歯牙の形成不全を引き起こすテトラサ

図6 妊娠時期と胎児への薬物の影響

※書籍「妊娠と薬」第2版より引用

103循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

イクリン系抗生物質など特殊な薬剤に限定される.一方,胎児の機能への影響として,非ステロイド性解熱鎮痛薬による胎児動脈管の収縮の問題がある. 胎児は肺ではなく胎盤でガス交換を行っており,新生児と異なり肺への血流はごくわずかで動脈管(Botallo管)を通って血流がバイパスする特有な循環経路を有している.動脈管はプロスタグランジンなどの働きによって開存しているため,妊娠末期にNSAIDsを使用すると動脈管が収縮し,胎児の血液循環に障害を来たす恐れがある.胎児に肺高血圧と右心不全が生じる恐れがあるため,妊娠後期におけるNSAIDsの使用は避けることが原則となっている.

③発達毒性・機能毒性

 母体に使用した薬物が経胎盤的に胎児に移行し,先天奇形とは別に胎児の発達あるいは生理機能に影響を及ぼすことがある. 妊婦へのβ遮断薬投与と子宮内発育遅延・徐脈,あるいはアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)ないしアンジオテンシン受容体遮断薬(ARB)と羊水過少症・腎機能障害,抗てんかん薬と児の神経発達への問題などが知られている.ここでは循環器系薬を中心に胎児の発達毒性,機能毒性に関して解説する.1)薬剤性の羊水過少症 妊娠第2三半期,第3三半期のエナラプリル,カプトプリルをはじめとしたACE-Iや,ロサルタン,カンデサルタンをはじめとしたARBによる母体高血圧の治療と,胎児の腎機能障害,羊水過少症,子宮内発育遅延,胎児死亡が報告されている56)-65). 妊娠中期以降の羊水の産生は主として胎児尿によると考えられている.ヒト胚子では第4週のはじめに前腎が出現するが痕跡的で消失し,第4週後期に中腎が発生し約4週間程度暫定的に機能するが,第5週の早期に発生が始まる後腎が4週程度かけて機能をはじめ永久腎の原基となる66).胎児尿量は妊娠週数とともに増加し妊娠末期には700から900mL/日になる67),68).母体に投与したACE-I,ARBは胎盤を通過し胎児に薬理作用を及ぼし,腎機能障害を引き起こすことがある. このほか,非ステロイド性消炎鎮痛薬のインドメタシンやイブプロフェンにより羊水過少症が生じたことが報告されている59),69).これらの薬物は胎児動脈管の収縮が問題となり妊娠末期の使用は禁忌となっている.2)子宮内発育遅延 妊娠中にプロプラノロール,アテノロールなどのβ遮断薬を使用した妊婦の児に,子宮内発育遅延,ならび

に呼吸窮迫,徐脈,低血糖などの新生児の適応障害が報告されている70)-72).前者については妊娠中の高血圧が何らかの影響を及ぼしているとも考えられるが,β遮断薬の薬理作用として子宮収縮を促す作用や胎盤血流を減少させる可能性があること73)より関連が指摘されている.3)神経発達 胎児期の薬物曝露と児の知的発達に関して,抗てんかん薬,アミオダロンなどでいくつかの知見がある. 米国と英国で実施された抗てんかん薬曝露後の児の神経発達調査について3歳時の中間分析が報告されており309人の児の認識機能が調査されている.子宮内でバルプロ酸として1,000mg以上の高用量に曝露された児は,他の抗てんかん薬に曝露されていた児より有意に低いIQスコアであった.各抗けいれん薬に子宮内で曝露された児の平均 IQは,ラモトリジン群:101,フェニトイン群:99,カルバマゼピン群:98,バルプロ酸群:92で,バルプロ酸の用量と IQとに関連が認められたと報告されている74).このほかにも,妊婦の抗けいれん薬服薬により,胎内で曝露された児の IQを調査した報告は複数あり,ある程度の影響がみられると指摘したものがある.一方,出生後の児の IQの発達を規定する因子は育児環境,親の経済状態など複数あり,また,どこまでの低下が日常生活に支障を来たすのか,キャッチアップ困難なのかなど検討する課題は多く,一概に曝露された児の将来を予測し得るものではない. 不整脈の治療として妊娠中にアミオダロンの投与を受けた妊婦の児に,甲状腺機能低下が認められたことが複数報告されている.アミオダロンは化合物としてヨウ素を含有しており論理的にも実在するリスクとしても認識されている.アミオダロンを妊娠中に使用した母親の児に認知能力の低下や学習障害が認められたことが報告されている75),76).しかし,神経学的な影響に関して,コホート研究は未だなく毒性学的な発現機序も解明されていないため確定的なリスクとまでは結論付けられていない.4)聴力障害 胎児期の薬物曝露と児の聴力障害についてもいくつかの薬物で報告がある. ストレプトマイシン,カナマイシンなどのアミノグリコシド系抗結核薬は,新生児に第8脳神経障害があらわれる恐れがあることが指摘されている. 妊娠中に抗結核薬を服用した妊婦に関する複数の論文データが収集・評価されており,ストレプトマイシンを使用した203例の妊婦が出産した児のうち35例に異常

104 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

の記録があり,34例は聴覚障害を伴っていた.この報告では,ストレプトマイシンの聴覚毒性は他の催奇形性物質とは異なり,妊娠初期に限らず妊娠のいずれの時期であっても影響し得ると考察されている77).本報告は,症例報告を含む複数の文献報告の集積結果を解析したものであり,コホート研究やケースコントロール研究のように先天異常の発現頻度やリスク比を評価できるものではないが,アミノグリコシド系抗菌薬が胎児・新生児に第8脳神経障害を来たし聴覚障害を示す恐れが実在していることの根拠となっている. なお,アミノグリコシド系抗菌薬全般について,聴覚毒性と遺伝的要素に基づく感受性の差異があることが知られており,ミトコンドリア遺伝子1555A→G 変異と関連が示されている.成人ではストレプトマイシンを1 日1g 注射で累積投与量が20g 前後で聴覚毒性が発現することが多いとされるが,アミノグリコシド系抗菌薬に遺伝的に高感受性を有する患者では1回の投与でも難聴を来たすことがあり注意が喚起されている78).5)その他 妊婦のサイアザイド系利尿薬の使用と新生児の血小板減少症の関連を指摘した報告79)がある.一方,506例のヒドロクロロチアジドを使用した妊婦に関する研究では症候性の血小板減少症はみられていない80).

④ 胎児期から新生児期における母体投与薬物の薬理作用・離脱症候

 母体に投与した薬物は,胎盤を経由して胎児に移行する.移行した薬物が胎児にどのような影響を及ぼすのか評価した上で,母児の利益を最大限に確保する治療を選択する必要がある.抗不安薬として用いられるベンゾジアゼピン系薬物を妊娠後期で使用した妊婦の児に薬理作用によると考えられる筋緊張低下や傾眠,呼吸抑制,あるいは易刺激性,神経過敏がみられることがあり,母体に投与した薬物が胎児に移行して発現した薬理作用であると同時に離脱症状であると考えられている. 母体の不整脈に対するアミオダロン治療では,前述のように新生児の甲状腺機能低下が指摘されている.また,妊娠期間中に継続してアミオダロン治療を行っていた妊婦の児に徐脈が認められたことが報告されており75),胎児・新生児に母体に投与した薬物の薬理作用が発現する可能性があることに留意する必要がある. 分娩に近い時期に母体へフロセミドを投与したことにより,新生児にループ利尿薬の薬理作用による電解質異常が認められたことが報告されている81),82).また,分娩に近い時期の母体へのβ遮断薬の使用では新生児の

徐脈がみられることがある83).

⑤妊娠母体への影響

 妊娠末期の母体不整脈治療にジソピラミドを使用した症例に,子宮収縮,胎盤剥離,早産が報告84)されており,小規模な臨床薬理試験でジソピラミドに分娩誘発作用が認められており85)注意が必要である.

⑥経母体的な胎児疾患の薬物療法

 最近では胎児診断の進歩とともに,経母体的に薬物を投与し胎児の治療を行った事例が報告されている.まだ,試験的な段階ではあるが,母体に投与した薬物の薬理作用が胎児に及ぼす影響の研究の進展が待たれる.その一例として胎児不整脈に対して経母体的あるいは直接的にアミオダロン86),87),β遮断薬88),89)の投与が試みられ治療に成功したことが報告されている.また,胎児水腫の治療に経母体的にフロセミドの投与を行ったことが報告90)されている.このほか,強心配糖体であるジゴキシンは,その陽性変力作用と陰性変時作用を利用して,胎児の心不全や不整脈の治療に用いられる91),92)ことがある.こうした薬物療法では,胎児にみられる薬理作用と副作用に加えて,母体への副作用に関する配慮が欠かせない.

3 妊娠・授乳期の薬物療法に対する母児のリスク・ベネフィト評価の重要性

 1950年代後半から1960年代へかけて人類が経験したサリドマイド禍の教訓により,医療従事者はもとより一般の妊婦にも薬物の催奇形性に関する認識が普及し,むしろ過剰な不安を抱く傾向がある.第二のサリドマイド禍を避けるための慎重な配慮の一方で,胎児への影響を懸念するあまり必要な処方が控えられることによる母児の不利益は避ければならない.不整脈,高血圧,糖尿病,けいれん性疾患などを合併する妊婦の薬物療法において,母体の治療が胎児の発育環境を良好に保つことに繋がり,母子の健康にベネフィトを提供することが証明されている.こうした利益を最大限に確保するためには,薬物の催奇形性・胎児毒性を適正に評価し,母体治療上の必要性を満たし母児への危険度が低い薬物を選択するとともに妊婦に対する服薬カウンセリングを適切に行う必要がある. また,母乳保育においても,経母乳的に乳児が摂取する微量の薬物の影響を過大に評価して,母乳保育のメリ

105循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

ットが得られなくなることは避けるべきである.授乳期の薬物療法では,科学的根拠に基づく授乳可否の判断がなされ,医療関係者間だけでなく両親にもその情報が共有されることが重要である.

4 妊婦・授乳婦への薬物療法情報について

 妊婦・授乳婦への薬物療法については,臨床試験の実施にあたって特に倫理的配慮が必要なこともあり,エビデンスレベルの高い情報が少なく,関連した根拠情報は限られている. この限られた情報から母児にとっての治療上の有益性と安全性を評価せざるを得ない現状に配慮し,国内外の専門家のコンセンサスと位置付けられる,国内添付文書情報,FDA Pregnancy Categoryならびに米国医学図書館授乳支援情報(Lactmed)を中心に循環器用薬に関する妊婦・授乳婦への薬物療法と妊娠母体,胎児・乳児への薬理ならびに毒性情報を一覧としてまとめて掲載した.

1 FDA Pregnancy Category(表2)

 (Drug Information for the Health Care Professsionals: USDPI Vol.1 Micromedex 23rd edn., 01.01.2003)このカテゴリーは一番安全なAから,危険として知られ,使用してはいけないXまでが含まれており,妊娠中および授乳中の女性に適応される. 米国医薬食品局FDAによる薬剤胎児危険度分類基準であり,下の5つのカテゴリーに分類されている.A: ヒト妊娠初期3か月間の対照試験で,胎児への危険性は証明されず,またその後の妊娠期間でも危険であるという証拠のないもの.

B: 動物生殖試験では胎仔への危険性は否定されている

が,人妊婦での対照試験は実施されていないもの.あるいは,動物生殖試験で有害な作用が証明されているが,ヒトでの妊娠初期3か月の対照試験では実証されていない.また,その後の妊娠期間でも危険であるという証拠のないもの.

C: 動物生殖試験では,胎仔に催奇形性,胎仔毒性,その他有害作用があることが証明されており,ヒトでの対照試験が実施されていないもの.あるいは,ヒト,動物ともに試験は実施されていないもの.ここに分類される薬物は,潜在的な利益が胎児への潜在的危険性よりも大きい場合に使用すること.

D: ヒト胎児に明らかに危険であるという証拠があるが,危険であっても,妊婦への使用による利益が容認されるもの.例えば,生命が危険に曝されているとき,または重篤な疾病で安全な薬物が使用できないとき,あるいは効果がないとき,その薬物をどうしても使用する必要があるとき.

X: 動物またはヒトでの試験で,胎児異常が証明されている場合,あるいはヒトでの使用経験上胎児への危険性の証拠がある場合,またはその両方の場合で,この薬物を妊婦に使用することは,他のどんな利益よりも明らかに危険性の方が大きいもの.

 ここに分類される薬物は,妊婦または妊娠する可能性のある婦人には禁忌である.

2 米国医学図書館授乳支援情報(Lactmed)

 米国医学図書館が提供する授乳婦薬物療法と薬物の母乳移行性,胎児毒性に関するオンラインデータベース.現在,授乳の分野で最も有用な情報源と判断できる.下記のURLより利用可能である. http://toxnet.nlm.nih.gov/cgi-bin/sis/htmlgen?LACT

106 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

表2 妊婦・授乳婦薬物療法に関する公的情報と文献情報添付文書 FDA

PregnancyCategory

US NLMLactmed

胎児・乳児への影響,副作用妊婦 授乳婦

抗不整脈薬

アミオダロンAmiodarone

投与しないことが望ましい

授乳を避ける D 母乳中への薬物・代謝物・ヨウ素の移行があり,乳児心機能,甲状腺機能への影響が考えられる.

妊娠中にアミオダロン投与を受けた母親の児に,先天性の甲状腺腫,甲状腺機能低下症,あるいは甲状腺機能亢進症の報告がある.継続投与された後出産した母体及び新生児の血漿中濃度から胎盤通過率は約26%と推定されている.

ジソピラミドDisopyramide

投与しないことが望ましい

授乳を避ける C ジソピラミド治療中の授乳婦の乳児の血中薬物濃度が母体の10%程度に及んだとの報告がある.哺乳児への抗コリン作用の発現,母乳分泌への影響が想定される.ジソピラミドと代謝物N⊖モノデスアルキルジソピラミドが人母乳から検出されている.RIDは10%以下で,哺乳児の血中薬物濃度は母体の7.5%程度との報告がある.

妊婦に投与した例において子宮収縮が起こったとの報告あり

フレカイニドFlecainide

禁忌 授乳を避ける C 母乳中の薬物濃度は低く,経母乳的に摂取する薬物量は僅かで乳児に何らかの有害作用が生じるとは考えられない.

妊娠母体の不整脈治療,胎児不整脈の治療にフレカイニドを経母体的あるいは直接的に胎児に投与した症例が報告されている.治療成功例と胎児死亡例(関連不明)が報告されている.新生児期の心電図にフレカイニドの影響が認められた症例が報告されている

リドカインLidocaine

有益性投与 注意記載なし B 母乳中の薬物濃度は低く,経母乳的に摂取する薬物量は僅かで乳児に何らかの有害作用が生じるとは考えられない.

母体へのリドカイン静脈投与により胎児の不整脈治療に成功した事例が報告されている.

プロカインアミドProcainamide

有益性投与活性代謝物N⊖アセチルプロカインアミド

授乳を避ける C 1日2gまでの治療量では,母乳中薬物濃度,哺乳児の摂取量は少なく,生後2か月以降の乳児に有害作用が現れるとは考えにくい.母乳のみで育てる場合,乳児毒性への懸念を排除するために児の血中濃度測定を含む慎重なモニタリングを行うべき.

妊娠第2・3三半期の母体へのプロカインアミド投与により胎児の不整脈治療が行われたことが報告されている.

プロパフェノンPropafenone

有益性投与 授乳を避ける C 1日900mgまでの治療量では,母乳中薬物濃度,哺乳児の摂取量は少なく,生後2か月以降の乳児に有害作用が現れるとは考えにくい.

母親あるいは胎児の不整脈治療にプロパフェノンを用いたとの報告がある

ソタロールSotalol

投与しないことが望ましい

授乳を避ける B 母乳移行性が高く,腎機能が未熟な2か月未満の新生児では影響が出やすいので,特に新生児・早産児では他の β 遮 断 薬(Propranolol,Metoprolol)が望ましい.いくつかの文献の著者は,授乳婦にソタロールの投与が必要な場合は,β遮断作用の発現に関して緊密にモニタするよう勧告している.

妊娠第2・3三半期の母体ソタロール投与により胎児の不整脈治療が行われたことが報告されている.母体の不整脈治療にソタロールと他の不整脈薬を併用したとの報告がある

107循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

添付文書 FDAPregnancyCategory

US NLMLactmed

胎児・乳児への影響,副作用妊婦 授乳婦

β遮断薬

プロプラノロールPropranolol

緊急以外投与しないことが望ましい

授乳を避ける C 母乳中の薬物濃度は低く,経母乳的に摂取する薬物量は僅かで乳児に何らかの有害作用が生じるとは考えられない.また,哺乳児に関する研究でも直接的な有害作用はみられていない.

新生児の発育遅延,血糖値低下,呼吸抑制が認められたとの報告あり

アテノロールAtenolol

有益性投与 授乳を避ける D 母乳移行性が高く,腎機能が未熟な2か月未満の新生児では影響が出やすいので,他のβ遮断薬(Propranolol,Metoprolol)が望ましい.

胎児の発育遅延が認められたとの報告がある新生児に低血糖,徐脈があらわれたとの報告がある

メトプロロールMetoprolol

禁忌 授乳を避ける C 母乳中の薬物濃度は低く,経母乳的に摂取する薬物量は僅かで乳児に何らかの有害作用が生じるとは考えられない.哺乳児に関する研究でも直接的有害作用はみられていない.

メトプロロールはβ遮断薬であり,β遮断薬は胎盤還流血漿量を減じて,胎児死亡,早産,低出生体重を引き起こす可能性がある.(UK添付文書)

αβ遮断薬

ラベタロールLabetalol

有益性投与 授乳を避ける C 母乳中の薬物濃度は低く,経母乳的に摂取する薬物量は僅かで乳児に何らかの有害作用が生じるとは考えられない.

胎児に徐脈等,新生児に血圧低下,徐脈等の症状が認められたとの報告がある

強心薬

ジゴキシンDigoxin

有益性投与 注意記載なし(注意不要)

C ジゴキシン内服治療中で母体血中濃度が治療域にある場合の母乳中薬物濃度は低く比較的安全に授乳できるとの報告がある.

ジゴキシンは妊婦に使用可能だが,妊娠した患者の血漿量の増加,蛋白結合の低下,腎排泄の増加により投与量の調節が必要になる可能性がある.

その他の降圧薬

ヒドララジンHydralazine

有益性投与 授乳を避ける C 限られた母乳中薬物濃度と哺乳児のデータではあるが,長年周産期の母親に使用されてきており授乳婦の降圧薬として処方可能と考えられている.

新生児に血小板減少等を起こすおそれがある

メチルドパMethyldopa

有益性投与 授乳を避ける B 母乳中の薬物濃度は低く,経母乳的に摂取する薬物量は僅かで乳児に何らかの有害作用が生じるとは考えられない.

新生児に浮腫による著しい鼻閉を生じたとの報告がある

Ca拮抗薬

ニフェジピンNifedipine

20W未満禁忌

20W以降有益性投与

授乳を避ける C 母乳中の薬物濃度は低く,経母乳的に摂取する薬物量は僅かで乳児に何らかの有害作用が生じるとは考えられない.哺乳児に関する研究でも直接的有害作用はみられていない.

20W以降:急激かつ過度の血圧低下とならないよう,長時間作用型製剤の使用を基本とし,過度の血圧低下や胎児胎盤循環の低下等の異常に適切に対処

アムロジピンAmlodipine

禁忌 授乳を避ける C 母乳移行量,哺乳児摂取量に関する情報がない.他の類薬(Nifedipine)の使用を考慮する.

動物実験で妊娠末期に投与すると妊娠期間及び分娩時間が延長

108 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

添付文書 FDAPregnancyCategory

US NLMLactmed

胎児・乳児への影響,副作用妊婦 授乳婦

Ca拮抗薬

ジルチアゼムDiltiazem

禁忌 授乳を避ける C データが少ないが,経母乳的に摂取する薬物量は僅かで乳児に何らかの有害作用が生じるとは考えられない.

妊婦治療例に関する情報は極めて少なく未確立.健常児の出産例もある.

ベラパミルVerapamil

禁忌 授乳を避ける C 1日360mgまでの治療量では,母乳中薬物濃度,哺乳児の摂取量は少なく,乳児に有害作用が現れるとは考えにくい.

限られた情報ではあるが,いくつかの疫学研究では,妊娠中の使用と催奇形性の関連はみられていない.妊娠後期の使用による児への有害作用はみられていない.胎児の不整脈治療に妊娠第2三半期,第3三半期に使用した報告が複数ある.

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)

カプトプリルCaptopril

禁忌 授乳を避ける D 母乳中の薬物濃度は低いので,経母乳的に摂取する薬物量は僅かで乳児に何らかの有害作用が生じるとは考えられない.

 妊娠中期及び末期にアンジオテンシン変換酵素阻害薬を投与された高血圧症の患者で羊水過少症,胎児・新生児の死亡,新生児の低血圧,腎不全,高カリウム血症,頭蓋の形成不全及び羊水過少症によると推測される四肢の拘縮,頭蓋顔面の変形等があらわれたとの報告がある.海外で実施されたレトロスペクティブな疫学調査で,妊娠初期にアンジオテンシン変換酵素阻害薬を投与された患者群において,胎児奇形の相対リスクは降圧剤が投与されていない患者群に比べ高かったとの報告がある.

エナラプリルEnalapril

禁忌 授乳を避ける C(1st Trim)D(2nd・3rd Trim)

母乳中の薬物濃度は低く,経母乳的に摂取する薬物量は僅かで乳児に何らかの有害作用が生じるとは考えられない.

※カプトプリルに同じ

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)

ロサルタンLosartan

禁忌 授乳を避ける C(1st Trim)D(2nd・3rd Trim)

母乳移行量,哺乳児摂取量に関する情報がない.他の類薬(Captopril,Enalapril)の使用を考慮する.

妊娠中期及び末期に本剤を含むアンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤やアンジオテンシン変換酵素阻害薬を投与された高血圧症の患者で羊水過少症,胎児・新生児の死亡,新生児の低血圧,腎不全,高カリウム血症,頭蓋の形成不全及び羊水過少症によると推測される四肢の拘縮,頭蓋顔面の変形,肺の低形成等があらわれたとの報告がある.

カンデサルタンCandesartan

禁忌 C(1st Trim)D(2nd・3rd Trim)

母乳移行量,哺乳児摂取量に関する情報がない.他の類薬(Captopril,Enalapril)の使用を考慮する.

※ロサルタンに同じ

バルサルタンValsartan

禁忌 授乳を避ける D 母乳移行量,哺乳児摂取量に関する情報がない.他の類薬(Captopril,Enalapril)の使用を考慮する.

本剤を含むアンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤並びにアンジオテンシン変換酵素阻害薬で,妊娠中期~末期に投与された患者に胎児死亡,羊水過少症,胎児・新生児の低血圧,腎不全,高カリウム血症,頭蓋の形成不全,羊水過少症によると推測される四肢の拘縮,脳,頭蓋顔面の奇形,肺の発育形成不全等があらわれたとの報告がある. 海外で実施されたアンジオテンシン変換酵素阻害薬におけるレトロスペクティブな疫学調査で,妊娠初期にアンジオテンシン変換酵素阻害薬を投与された患者群において,胎児奇形の相対リスクは降圧剤が投与されていない患者群に比べ高かったとの報告がある.

109循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

添付文書 FDAPregnancyCategory

US NLMLactmed

胎児・乳児への影響,副作用妊婦 授乳婦

硝酸薬

硝酸イソソルビドIsosorbide Dinitrate

有益性投与 授乳を避ける C (Lactmedなし) 妊娠第3三半期の妊娠高血圧症の治療に硝酸イソソルビドを用いたとの報告がある

ニトログリセリンNitroglycerin

有益性投与 授乳を避ける C 授乳婦への舌下または静注したニトログリセリンと授乳に関する研究がない.

子宮収縮の抑制と分娩の抑制にニトログリセリンを使用し,新生児に有害作用は見られなかったとの症例が複数報告されている

利尿薬

ヒドロクロロチアジドHydrochlorothiazide

有益性投与 授乳を避ける B 1日1回50mgまで用量では,授乳中も使用可能と考えられる.高用量の投与は母乳産生を低下させる可能性がある.

治療量のヒドロクロロチアジドと催奇形性との関連はみられなかったとの疫学調査がある.分娩前の投与により新生児に血小板減少が見られたとの報告がある.

フロセミドFurosemide

有益性投与 授乳を避ける C 母乳移行量,哺乳児摂取量に関する情報がない.他の類薬(Hydrochlorothiazide)の使用を考慮する.

胎児水腫の治療に経母体的あるいは直接フロセミドを投与したとの報告がある.母体へのフロセミド投与により胎児に利尿作用が認められたとの報告がある.妊娠中の母親のフロセミド使用と出生時体重の増加に相関が見られたとの疫学調査がある

スピロノラクトンSpironolactone

有益性投与 授乳を避ける C 授乳中も使用可能と考えられる.母乳中活性代謝物(カンレノン)濃度,哺乳児の活性代謝物摂取量は低く,乳児に電解質異常はみられなかったという症例が報告されている.

妊婦治療例に関する情報は極めて少なく未確立.健常児の出産例もある.

エプレレノンEplerenone

授乳を避ける 授乳を避ける B (Lactmedなし) 妊婦治療例に関する情報はなく未確立.

スタチン系薬

シンバスタチンSimvastatin

禁忌 授乳を避ける X 薬剤が新生児の脂質代謝を障害する可能性を考慮すると,授乳婦に投与すべきでないことがコンセンサスである.他剤(コレスチラミン等)の使用を考慮.

ラットでシンバスタチンの活性代謝物(オープンアシド体)及び他のHMG-CoA還元酵素阻害剤の大量投与で胎児の骨格奇形が報告されている妊婦に対するスタチン系薬物投与は避ける.限られたデータとして妊娠中にスタチン系薬に曝露された児に関する疫学研究があり催奇形性はみられなかった.

アトルバスタチンAtorvastatin

禁忌 授乳を避ける X 薬剤が新生児の脂質代謝を障害する可能性を考慮すると,授乳婦に投与すべきでないことがコンセンサスである.他剤(コレスチラミン等)の使用を考慮.

動物実験で出生児数の減少及び生存,発育に対する影響が認められ,胎児にも生存率低下と発育抑制が認められている.また,ラットに他のHMG-CoA還元酵素阻害剤を大量投与した場合に胎児の骨格奇形が報告されている.更に,ヒトでは,他のHMG-CoA還元酵素阻害剤で,妊娠3か月までの間に服用したとき,胎児に先天性奇形があらわれたとの報告がある.妊婦に対するスタチン系薬物投与は避ける.限られたデータとして妊娠中にスタチン系薬に曝露された児に関する疫学研究があり催奇形性はみられなかった.

110 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

添付文書 FDAPregnancyCategory

US NLMLactmed

胎児・乳児への影響,副作用妊婦 授乳婦

スタチン系薬

プラバスタチンPravastatin

禁忌 授乳を避ける X 母乳移行量,哺乳児摂取量は少ないが,薬物が新生児の脂質代謝を障害する可能性を考慮すると,授乳婦に投与すべきでないことがコンセンサスである.他剤(コレスチラミン等)の使用を考慮.

他のHMG-CoA還元酵素阻害剤において,動物実験で出生児数の減少,生存・発育に対する影響及び胎児の生存率の低下と発育抑制が報告されている.また他のHMG-CoA還元酵素阻害剤において,ラットに大量投与した場合に胎児の骨格奇形,ヒトでは妊娠3か月までの間に服用した場合に胎児の先天性奇形があらわれたとの報告がある.妊婦に対するスタチン系薬物投与は避ける.限られたデータとして妊娠中にスタチン系薬に曝露された児に関する疫学研究があり催奇形性はみられなかった.

フィブラート系

フェノフィブラートFeneofibrate

禁忌 授乳を避ける 記載なし (Lactmedなし) 妊婦に対するフィブラート系薬物投与は避ける.妊婦治療例に関する情報はなく未確立.

ベザフィブラートBezafibrate

禁忌 授乳を避ける 記載なし (Lactmedなし) 妊婦に対するフィブラート系薬物投与は避ける.妊婦治療例に関する情報はなく未確立.

コレステロール吸収阻害薬

コレスチミドcolestimide

有益性投与 注意記載なし(注意不要)

記載なし (Lactmedなし) 本薬は高分子で,母体の腸管から吸収されない.

コレスチラミンcolestyramine

有益性投与 注意記載なし(注意不要)

記載なし 妊婦・授乳婦の脂溶性ビタミンの吸収不良に留意本薬は高分子で,母体の腸管から吸収されない.

抗凝固薬抗血小板薬Xa阻害薬

ワルファリンWarfarin

禁忌 授乳を避ける X 1日投与量12mgまでのワルファリン治療中であれば,母乳中薬物量,哺乳児の摂取量は少ない.ワルファリン治療中の授乳に関して哺乳児の有害作用は報告されていない.

胎盤を通過し,点状軟骨異栄養症等の軟骨形成不全,神経系の異常,胎児の出血傾向に伴う死亡の報告がある.分娩時に母体の異常出血があらわれることがある.

アスピリンaspirin

出産予定日12週以内:禁忌

授乳を避ける D アスピリンは授乳中避けるべき薬剤とされているが,専門家の一部は低用量アスピリン(75~126mg)は授乳婦の抗血小板薬と考えている.

妊娠期間の延長,動脈管の早期閉鎖,子宮収縮の抑制,分娩時出血の増加につながるおそれがある.海外での大規模な疫学調査では,妊娠中のアスピリン服用と先天異常児出産の因果関係は否定的であるが,長期連用した場合は,母体の貧血,産前産後の出血,分娩時間の延長,難産,死産,新生児の体重減少・死亡などの危険が高くなるおそれを否定できないとの報告がある.また,ヒトで妊娠末期に投与された患者及びその新生児に出血異常があらわれたとの報告がある.

チクロピジンTiclopidine

投与しないことが望ましい

授乳を避ける B (Lactmedなし) 妊婦治療例に関する情報は極めて少なく未確立.健常児の出産例もある.

クロピドグレルClopidogrel

有益性投与 授乳を避ける B (Lactmedなし) 妊婦治療例に関する情報は極めて少なく未確立.健常児の出産例もある.

ダナパロイドDanaparoid

有益性投与 授乳を避ける B (Lactmedなし) 妊婦治療例に関する情報は極めて少なく未確立.健常児の出産例もある.

111循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

添付文書 FDAPregnancyCategory

US NLMLactmed

胎児・乳児への影響,副作用妊婦 授乳婦

抗凝固薬抗血小板薬Xa阻害薬

フォンダパリヌクスFondaparinux

有益性投与 授乳を避ける B (Lactmedなし) 妊婦治療例に関する情報は少ない.健常児の出産例もある.

エノキサパリンEnoxaparin

有益性投与 授乳を避けることが望ましい

B 限られた情報ではあるが,高分子であり母乳中に移行する量は少なく,哺乳児の腸管から吸収されることも予想されない.

子宮内で曝露された児に関する研究があり先天性の形態異常の確率はバックグラウンド値と類似していた.

ヘパリンナトリウムHeparin

有益性投与 注意記載なし(注意不要)

C ヘパリンに関する研究は無いが,低分子ヘパリンの研究結果から,より高分子であり母乳中に移行する量は少なく,哺乳児の腸管から吸収されることも予想されない.

肺高血圧治療薬

トラクリアBosentan

禁忌 投与しないことが望ましい

X (Lactmedなし) 動物を用いた生殖試験で催奇形性が認められている.妊婦治療例に関する情報は極めて少なく未確立.健常児の出産例もある.

アンブリセンタンAmbrisentan

禁忌 授乳を避ける X (Lactmedなし) 動物を用いた生殖試験で催奇形性が認められている.

シルディナフィルSildenafil

有益性投与 授乳を避ける B (Lactmedなし) 動物実験で子宮潅流血漿量を低下させることが報告されている.この報告では,胎仔の低体重,低血圧,頻脈が指摘されている.妊婦治療例に関する情報は極めて少なく未確立.健常児の出産例もある.

タダラフィルTadalafil

有益性投与 授乳を避ける B (Lactmedなし) 類薬で動物実験で子宮潅流血漿量を低下させることが報告されている.この報告では,胎仔の低体重,低血圧,頻脈が指摘されている.妊婦治療例に関する情報はなく未確立.

抗菌薬

ベンジルペニシリンBenzylpenicillin

有益性投与 授乳中止が望ましい

B 授乳可 ペニシリン系抗生物質は妊娠中も安全に使用可能.

バンコマイシンVancomycin

有益性投与 授乳を避ける C 限られた情報ではあるが,母乳中に移行する量は少なく,哺乳児の腸管から吸収されることも予想されない.

妊婦治療例に関する情報は極めて少なく未確立.第2三半期,第3三半期に使用した妊婦の児に聴力障害,腎障害はみられていない.

リネゾリドLinezolid

有益性投与 授乳を避ける C 授乳婦の情報が少ない.投薬は授乳中止の理由にはならないが,哺乳児の消化器系の副作用に注意する.新生児・未熟児では代替薬(Vancomycin)を考慮する.

妊婦治療例に関する情報は極めて少なく未確立.健常児の出産例もある.

112 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

Ⅰ 抗心不全薬総説

1 疫学

 心不全は欧米をはじめ我が国でも疫学上極めて重要な問題と認識されており,米国では年間90万件の入院,25万件以上の死因を占める.心不全の大部分は成人に発症し,小児期の心不全については今まであまりよく調べ ら れ て こ な か っ た. し か し 近 年 の Pediatric Cardiomyopathy Registry のデータでは小児心筋症の発症率は1.13/10万人 /年であり,これらの児の大部分が心不全を発症し,拡張型心筋症においては13.6% /2年が死亡する93).心不全の病因は小児と成人では大きく異なる.小児では認識可能な症候群あるいは遺伝子診断できるものが27%を占め,5%が心筋炎によるとされる.しかし終末期の心不全の最大の病因は先天性心疾患である94). 1987年から1996年にNational Population-based Registry in Australiaに心筋症として登録された小児の5年生存率(移植回避率)は肥大型心筋症で83%95),拡張型心筋症では64%96)でしかない.

2 定義

 心不全とは複雑な臨床症候群であり,多種類の病因,多様な臨床症状を伴う.さまざまな定義が提唱されてきたが,Arnold Katzらの定義が臨床面のみならず細胞/分子レベルでの変化と対照しており好ましいと思われる.すなわち「心不全とは心拍出量減少,中心静脈圧増大を来たす臨床症候群で,背景に分子生物学的異常により惹起される進行性の心臓機能低下と幼弱心筋細胞死を伴う」と表現されている97). “Heart failure is a clinical syndrome in which heart disease reduces cardiac output, increases venous pressures, and is accompanied by molecular abnormalities that cause progressive deterioration of the failing heart and premature myocardial cell death.” 従来,心不全は単純に,重篤で不可逆的な心臓障害であり,収縮力の低下した心室に対する有効な治療法はないと考えられてきた.しかし,心不全とは単一の心臓障

害のみを指すものではなく,より複雑な進行性の臨床過程を示す用語である.心臓のみならず心臓外の多くの生理過程と密接に関係しながら病状が進行する.たとえば虚血や高血圧,感染であっても心臓にまず何らかの一次的な障害を引き起こす.その結果,心負荷が増大し頻脈が惹起され,さらに心臓内あるいは関連する諸臓器に二次的な反応が生じてくる.最初の傷害がどのようなものであれ,二次的な諸臓器の反応と臨床症状の進行過程は共通した経過をたどり,無治療では終末期の心不全へと進行し死に至る. 心臓障害による二次的な反応は少なくとも初期には可逆的であり,生存に不可欠な臓器への血流は代償され保たれる仕組みとなっている.つまり心筋の局所的な障害に対してはさまざまな代償機転が働いて総合的な心機能が維持されるのである.しかし病状の進行とともにこれらの代償機転は破綻し,ついには代償不可能な心不全を呈するようになる.心筋肥大や壁応力の増大により酸素消費量が増大し,潜在的に心筋傷害が進行する.同時に生じるレニン・アンジオテンシン系の慢性的な賦活化は,浮腫や肺高血圧を生じ後負荷が増大する.一方で交感神経活性の亢進は不整脈や突然死を惹起する.治療は左室機能が不可逆的に悪化する前,いわゆる終末期心不全の前に開始されなければならない(図7). 我々が心不全であると認識するのは,臨床症状や血行動態,神経体液性因子といった患者のさまざまな特徴を通じてである.病歴,エコーや心臓カテーテル検査のデータ,循環血液中のホルモンの異常が診断根拠となることもある.小児においては左右シャントを有する未治療の構築異常に対しても心不全という用語を使用するというあいまいさがある.この心血管構築異常は小児心不全の多くを占めるが,外科的な修復で根治するものも多い.

3 心不全の分類

■NYHA分類 New York Heart Association(NYHA)分類は,現実的な身体活動制限によって評価するという簡便さから成人の心不全重症度分類に広く用いられている指標である.身体活動の制限される度合いから求めた指標であるため幼小児への適用は限定される.■Ross分類 Ross分類は幼小児における心不全重症度評価のために考案された指標である(表3)98).1994年にカナダ心

各  論

113循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

臓血管協会により公的システムとして提唱され99),National Cardiomyopathy RegistryやCarvedilolの多施設共同研究にも用いられている.このRoss分類は血漿ノルアドレナリン濃度と正相関し98),β受容体の密度とは逆相関することが示されており100),このシステムの妥当性の根拠の一つとされる.■その他のScoring システム 小児心不全の重症度決定のためのスコアリングシステムはこれら以外にもいくつか提唱されている.たとえば乳児に対する12ポイントスケール101)などがそうで,栄養の質と期間,呼吸数と様式,心拍数,末梢循環,拡張期充満音の有無,肝腫大の程度などをその変数としている.Ross scoreをより詳細に分類したModified Ross score102),103)などもある.しかしこれらのシステムも多数の対象に使用したものではなく,また生物学的指標や運動耐容能と比較も十分にはなされていない.ただしOhuchiらは先天性心疾患の小児や若年成人の臨床症状と神経体液性因子の変化に相関があると詳細に報告している104).■Staging system NYHA分類もRossスコアも現時点という時間的には一点の症候に焦点をあてたものであり,病初期の患者を選別したり,病気が安定した状態にあるのか代償されているのかを見分けるシステムではない.2002年以降の

ACC/AHA心不全ガイドラインではこれらの不足を説明する心不全の分類シェーマを用いてNYHA分類を補っている(図8)101).ACC/AHA ステージングは,心不全リスクで患者を選別し,そのリスクに対して早期に介入し症状発現を遅らせるように設計されており,また症状が発現した患者に対してより強力な管理が必要であることも記されている.このACC/AHAにより提唱されている成人用心不全分類システムは多少の変更を加えるだけでほぼそのまま幼小児にも適用できる(表4)105).

4 薬物治療

 ステージングに沿った治療を行う.すなわち代償不全でサポートが必要な場合は急性心不全として加療する.代償ができていて安定してはいるが,リスク因子を抱えている場合は基本的にそのリスク因子へのステージングに沿った加療が必要である.多くは心保護を目指す,結果として予後改善やQOL改善をはかることになる.

1 急性心不全の薬物によるサポート 成人では,通常管理に反応しない低灌流および低血圧を伴う急性の心不全増悪に対し強心剤は必要とされる106).現在使用可能な強心剤は細胞内のcAMPレベル

図7 心筋傷害への反応

心筋傷害

心臓および全身性の代償性反応

心臓および全身性の不適応な反応

心不全の進行

限界閾値

不可逆的な心不全

治療により改善しうる(逆行可能)

Delgado RM, 3rd, Willerson JT: Pathophysiology of heart failure: A look at the future. Tex Heart Inst J 1999;26:28-33. より改変 障害により心臓内および関連組織に代償性の反応が生じる。この状態が進行するとこれらの反応はむしろ生体にとって有害となり,病態を進行させ症状を出現せしめる.治療によりこの有害な変化は逆行し,左室機能が回復するが,不可逆的となる前に行う必要がある.

クラス 症状Ⅰ 無症状

Ⅱ 乳児:授乳中の軽い多呼吸または発汗小児・学童:努力性呼吸

Ⅲ乳児:授乳中の著明な多呼吸または発汗

心不全による体重増加不良と哺乳時間の延長小児・学童:著明な努力性呼吸

Ⅳ 安静時の多呼吸・陥没呼吸・呻吟あるいは発汗

表3 Ross分類

Stage 症状

A

心不全に進展するリスクが増大しているが,正常な心機能を有し容量負荷を認めない患者例:心毒性を有する薬剤の使用歴,遺伝性心筋症の家族歴,単心室,修正大血管転位

B

心奇形あるいは低心機能であるが,心不全症状も心不全の既往もない患者例:左室拡大に伴う大動脈弁閉鎖不全,アントラサイクリンの使用歴があり左室収縮能が低下している

C 心不全の既往または症状を有する,構造的ないし機能的心臓病患者

D強心剤の持続投与,機械的循環補助,心臓移植,あるいはホスピスケアを要する終末期心不全の患者

表4 乳児および小児の心不全ステージングシステムの提案

114 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

を上昇させるという共通経路を通して心筋の収縮性を増大させる.細胞内cAMPの上昇により筋小胞体からのカルシウム放出が増大し興奮収縮連関での収縮力生成が増強する.cAMPの上昇は主に二つの異なる経路で生じる.ひとつはβアドレナリンを介した刺激(産生亢進)でもうひとつはホスホジエステラーゼ(PDE)Ⅲ阻害(分解抑制)である107). カテコラミンはもっとも強力な強心剤であるが,その効果は陽性変力作用に限定されるものではない.陽性変時作用も有し,血管床や他の臓器にも複雑な影響を及ぼす.したがって薬剤の選択は心筋のみならず循環動態のさまざまな状態にも依存する. それぞれの薬剤の詳細については別頁を参照されたい.

2 慢性心不全の治療 かつてはうっ血性心不全の原因がポンプ機能不全と判明すればポンプの仕事をよりよくすることが治療戦略の

柱であった.しかし現在ではポンプ機能増強ではなく,心不全を進行させる神経体液性因子の刺激を減じることに主眼がおかれている.事実,陽性変力作用を有する薬剤では心不全の予後は改善しないが,心保護薬を用いると予後が改善することが成人領域で証明されている.代表的な心保護薬としてはレニンアンジオテンシン系を抑制するACE阻害薬(ACE-I)およびアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬,β遮断薬,アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が挙げられる.それぞれの薬剤の詳細については別頁を参照されたい.

5 心不全の予後

 心不全と診断された小児の予後を決定するデータはほとんどない.今後の新しい薬物療法やペーシングインターベンションの出現に伴い予後の改善が期待される.小児拡張型心筋症(DCM)に関する13研究のメタ解析に

図8 心不全の病期分類と推奨される治療

心不全危険因子 心不全

Stage A器質的心疾患なし心不全症状なし心不全ハイリスクあり

Stage B器質的心疾患あり心不全症状なし心不全徴候なし

Stage C器質的心疾患あり心不全症状もしくは既往あり

Stage D特別な治療を要する難治性心不全

器質的心疾患への進展

心不全症状の出現

安静時の難治性心不全症状

治療ゴール

以下を有する患者・最大限の薬物治療にもかかわらず,安静時に著明な症状(繰り返し入院,もしくは特殊な医療行為なしでは安全に退院できない患者など)

以下を有する患者・器質的心疾患の 存在および・息切れや易疲労 感,運動耐容能 低下

以下を有する患者・心筋梗塞既往・左室肥大および 駆出率低下を含 む左室リモデリ ング・無症候の弁膜症

以下を有する患者・高血圧・動脈硬化性疾患・糖尿病・肥満・メタボリックシンド ローム・心毒性のある薬剤 の使用歴・心筋症家族歴

・高血圧治療・禁煙を促す・高脂血症治療・規則正しい運動を促す・アルコール減量,禁止 薬物中止を促す・メタボリックシンド ロームのコントロール

・ACE阻害薬またはARB を血管疾患または糖 尿病を有する患者に 適正使用

薬物

治療ゴール

・すべての状態を stage A以下とする

・ACE阻害薬または ARB の適正使用・β遮断薬の適正使用

適応患者へのデバイス治療・植え込み型除細動器

治療ゴール

・すべての状態をstage Aと B以下とする・塩分制限

   通常の薬物・体液貯留に対する利尿薬・ACE阻害薬・β遮断薬

   特定患者への薬物・アルドステロン拮抗薬・ARB・ジギタリス・ヒドララジン /硝酸薬適応患者へのデバイス治療・両心室ペーシング・植込み型除細動器

治療ゴール

・適切な stage A,B,C以下の レベル・適切なレベルのケアを決定

     オプション・慈悲深い終末期ケア・特殊な治療 心臓移植 強心薬持続投与 永久的な機械的循環補助 実験的手術または投薬

薬物

115循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

おいて一年死亡率は27%と高値をしめす(表5)108).しかし適切な除細動器植込みによりこのような症例を救命できる可能性がある.また,心臓再同期療法効果も期待される. 前方視的かつ大規模な多施設研究の予備試験で,ACE-Iやその他の薬剤を内服して最低1か月以上安定していた心不全小児の50%以上が8か月以上経過した後の評価で改善していたという報告もある109).さらに長期の予後調査が心不全症状を伴うDCMの小児で行われている110),111). これらの研究によれば死亡あるいは移植に至るリスク

要因は高年齢,心不全症状あり,左室収縮能(FSまたはEF)の低下,治療中に左室機能の改善がみられない,家族性心筋症,中等度以上の僧帽弁逆流,心室性不整脈が挙げられている(図9).

患者数 死亡数 死亡率(%)

平均追跡期間(月)

1年死亡率(%)

5年死亡率(%) 突然死 心不全死

456 172 38 46 27 73 46 126

表5 小児拡張型心筋症患者における突然死と総死亡

図9 発症から死亡ないし心移植までの生存曲線

Daubeney P E F et al. Circulation 2006;114:2671-2678 より改変(A)全体,(B)年齢別,(C)家族性心筋症,(D)リンパ球性心筋炎(心内膜心筋生検)

116 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

Ⅰa 血管拡張薬:ホスホジエステラーゼ3阻害薬,カルシウム感受性薬

1 心不全治療の概念

 心不全治療の基本概念(図10)は,心血管系の至適結合状態を維持させつつ末梢臓器への血液供給を保証するための作動血圧を維持させることで(図10c),治療目標は容量負荷の減少,強心薬による心収縮力増強,血管拡張薬による後負荷軽減である112). 急性非代償性心不全(acute decompensated heart failure, ADHF)の病態判断のために,成人ではForrester 分類が用いられているが,Swan-Ganzカテーテルの挿入など侵襲的検査が必要であり,新生児・乳幼児に対する評価法としては不都合である.Stevensonらによって提唱された概念は身体的所見から分類し,Forrester分類にほぼ対応するので小児領域においても極めて有用である(図11)113).心不全患者はうっ血と低心拍出量の有無により4グループのうちのひとつに分類される.代償されている患者(グループA)が過剰容量負荷になると体循環あるいは肺循環のうっ血徴候をあらわすグループBに移動する.その後,心拍出量が減少するとグループCに入る.利尿薬の使用や体血管抵抗を低下させることによりグループC,Bの患者の大多数はグループAに戻る.しかし,一部の患者は正常な体循環量の維持にも関わらず低灌流が持続し(グループD),強心薬の持続投与量の増加さらには機械的補助循環が必要となる113),114). ADHFに対する強心薬(ドパミン,ドブタミン)の急性期効果は明らかであるが,心筋酸素消費量の増加,不整脈誘発の機会となる心拍数の増加を伴うため長期使用は推奨されていない.新生児期のエピネフリンの長期投与は心筋壊死や高度の拡張能低下を来たすこと,β受容体のダウンレギュレーションによる薬剤効果の減弱などの問題があるが,小児のADHFの多くは,先天性心

疾患や重症急性心筋炎のように可逆的疾患が原因なので強心薬の短期的使用が適用される.

2 PDE3阻害薬

 代表的な細胞内セカンドメッセンジャーであるcAMPとcGMPは,心血管系においては短時間の収縮・弛緩反応を制御している.一般的に心筋に対してcAMPは陽性変力的に,cGMPは陰性変力的に作用するが,それぞれの細胞内濃度の変化は一過性である.これらの環状ヌクレオチドのシグナル制御に重要な役割を担っている酵素がPDEである.PDEはさまざまな細胞でMn2+存在下にcAMPとcGMPを加水分解し,プロテインキナーゼA(PKA)とプロテインキナーゼG(PKG)の活性を制御している.現在,11種類のPDEサブファミリーが報告され,心筋では4種類のPDEアイソザイム(PDE1,PDE2,PDE3,PDE4)が存在する115). PDE3の加水分解作用によるcAMPおよびcGMPの心臓における解離定数はKm cAMP=0.2~0.3μM,Km cGMP=0.1~0.2μMと大差はないが,cAMPの産生・分解速度はcGMPに対して約10倍速いため,PDE3阻害によりcAMP濃度が有意に高まる.cAMP-PKA連鎖の亢進はL型カルシウムチャネルの活性化と細胞膜でのCa2+流入の促進に加えて,筋小胞体リアノジン受容体を活性化して筋小胞体に貯留されているCa2+の放出を誘発することにより強心作用を発揮する115),116).一方,細胞内cAMPの増加はホスホランバンのPKA依存性リン酸化による筋小胞体のCa2+-ATPase (SERCA2 pump)を介するCa2+取り込みも亢進させて左室の拡張能を改善させる(陽性変弛緩作用)116). PDE3は血管平滑筋細胞にも多く存在し,cAMP産生を増加させ,PKAを活性化して筋小胞体へのCa2+取り込みを促進すると同時に,イノシトール1, 4, 5-三リン酸(IP3)による IP3-誘発性Ca2+放出を抑制するため,Ca2+が筋小胞体に保持された状態となり血管弛緩作用が強まる116).

a

動脈圧

b

動脈圧

作動血圧 作動血圧最適血圧

最適血圧至適結合関係

収縮能 収縮能

c

動脈圧

作動血圧最適血圧

収縮能

血管拡張薬

陽性変力増強薬

図10 左室機械効率からみた心不全の補正

117循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

 PDE3阻害薬は心筋に対する陽性変力作用と陽性変弛緩作用とともに,体循環,肺循環血管拡張作用と冠血流増強作用を有する.したがって心不全に対して心血管系の至適結合状態を維持する理にかなった治療薬といえる.現在我が国で認可されているPDE3阻害薬(静注薬)はミルリノンと塩酸オルプリノンである(いずれも保険償還対象). ミルリノンは静脈投与により数分で血管拡張作用,心収縮増強作用をあらわし,心拍出量を20~42%増加させ,体循環抵抗を15~30%,肺動脈楔入圧を20~30%減少させる117).塩酸オルプリノンは我が国で開発された静注用PDE3阻害薬である.血行動態に対する作用は両薬剤に違いがある.ミルリノンは容量依存性に心係数の増加を伴わずに肺血管拡張作用が亢進するが,塩酸オルプリノンは低容量では肺血管拡張作用が中心となり,投与量を増加させるにつれて,肺血管拡張作用よりも心拍出量増加作用が中心となる118).

3 カルシウム感受性薬

 カテコラミン同様にPDE3阻害薬も心筋細胞内のカルシウム濃度を増加させるため,長期投与により細胞内Ca2+ overloadによる心筋細胞のアポトーシス,壊死,不整脈誘発のリスクが増す.さらに,Ca依存性の収縮増強は心筋のATP,酸素消費を亢進させるため既に代償機構が破綻している不全心筋に対してより過大な負担を強いることになる.Ca感受性薬は心筋線維ないしはクロスブリッジ連関に直接影響して変力作用を発揮する薬剤で,細胞内Ca濃度を変化させることなく心筋収縮力を増加させることができ,作用部位によってクラスⅠ(トロポニンCのCa感受性を増強させる),クラスⅡ(トロポニンCのCa感受性に影響を与えることなく直接アクチン線維に作用してアクチン─ミオシン連関を良くする),クラスⅢ(クロスブリッジ連関に直接作用する)

の3種類に分類される119).Ca感受性薬はカテコラミンと異なり,アシドーシスや虚血,スタンニングなど病的状態でも心筋収縮力を増強できるが,細胞内が低Ca濃度であっても心筋線維のCa感受性を増強するので,不全心の拡張機能を悪化させる可能性がある.特にクラスⅢに属する薬剤の副作用として重要であるが,ピモベンダン(クラスⅠ)やレボシメンダン(未承認薬)(クラスⅡ)はPDE3阻害作用を併せ持つために,拡張機能障害を起こすことはないとされ,臨床的にもこの2剤が治療薬として用いられている.ピモベンダンはPDE3阻害作用が強いため,活動電位持続時間の延長によりQT延長を来たす恐れがある.またCa依存性カリウムチャネルを刺激して血管拡張作用も有する.PICO-trialやEPOCH-studyにおいて,ピモベンダン経口投与は心不全患者のQOLを改善させることが示されたが,死亡率の改善を明らかにすることはできなかった119). クラスⅡに属するレボシメンダン(静注薬)は,Ca依存性にトロポニンCに結合して,カルシウムのトロポニンCへの結合を安定化させるが,結合時間を延長しないため拡張能への影響はなく,酸素消費量も増加させない.さらに,ATP依存性Kチャネルを活性化により血管拡張機能や心筋保護作用も併せ持つ120).ピモベンダンと異なり心不全患者の死亡率低下のエビデンスも得られている121),122).

4 薬物療法の実際

 急性心不全による入院患者で,低灌流による低血圧,前負荷増大(拡張末期圧増大)に対する静注陽性変力薬は2009年のACCF/AHAガイドラインでは,推奨度クラス1でエビデンスレベルはCである123).収縮能低下,低血圧,低心拍出量に対する,ミルリノンを含む静注陽性変力薬はクラス IIbでレベル Cとなっている123). ESC2008ガイドラインでは急性心不全に対するミルリノン投与はクラス IIbでレベルB,レボシメンダン投与はクラス IIaでレベルBである124).OPTIME-CHF,および21の臨床研究を対象にしたメタアナリシス125)では,慢性心不全に対する経口PDE3阻害薬の長期投与は予後を不良にすると結論づけている一方で,心収縮能の維持に対する短期的なPDE3阻害薬の投与の有用性も明らかにされている. 小児に対する人工心肺使用の先天性心疾患術後に対するPRIMACORP studyではミルリノンの有用性が示された.人工心肺使用による先天性心疾患手術の6~18時間後に心拍出量が低下し,PDE3阻害薬が心拍出量を改

図11 急性非代償性心不全の評価法

無 有

無Warm and dry

A

Warm and wet

B

有Cold and dry

D

Cold and wet

C

低灌流のエビデンス:脈圧狭小,四肢冷感,眠気,血清ナトリウム値低下,腎機能低下

うっ血のエビデンス:起坐呼吸,高い頚静脈圧,S3亢進,P2亢進,ラ音,浮腫,腹水

安静時のうっ血

安静時の低灌流

118 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

善することから(レベルB~C),小児に対する心臓手術後にミルリノン投与を強く推奨したガイドラインが定められている126),127)(クラスⅡa). 塩酸オルプリノンは海外での大規模臨床治験は施行されていないが,我が国では特に成人,小児を問わず人工心肺使用による心臓手術後に対する有用性について数多く報告されている.その多くはレベルCであるが,日本循環器学会の「急性重症心不全治療ガイドライン(2006年改訂版)」128)ではミルリノンと同列に記載されている. カルシウム感受性薬を考慮した慢性心不全の急性増悪に対する治療アルゴリズムではレボシメンダンが心不全分類B,Cに対してミルリノンと同等に推奨されている129). 肺血管抵抗(PVR)の低下という点ではミルリノンの方が有利と考えられている.特に,複雑心奇形を有する患児では,心血行動態面からPVRの制御を考慮した上での薬剤選択が望まれる.その意味では,VSD術後などの肺高血圧残存症例,Fontan手術やGlenn手術後のようにPVRを低下させて心拍出量の増加を促し,循環動態の改善を図る症例などがミルリノンのよい適応なり,PVRの低下が望ましくないシャント残存症例などは塩酸オルプリノンの方が有利と思われるが,大規模臨床治験は施行されていないためクラスⅡb,レベルCである. 図12に2010年に発表された小児心不全に対する治療アルゴリズムを一部改変して示した113),114).このアルゴリズムではカテコラミン使用の前にPDE3阻害薬を挙げている.

[用量・使用法]●ミルリノン ①初期投与量50μg/kg(10分,小児では省略可),維持投与量0.5μg/kg/分,症状に応じて0.25~0.75μg/kg/minの範囲で増量可(薬剤効能書) ②心臓手術後の小児  ・ 0.3~0.6μg/kg/分(初期投与なし)130).  ・ 初期投与量50μg/kg(30~60分),維持投与量0.375~0.75μg/kg/分126),127).

 ③ 初期投与量50~75μg/kg,維持投与量0.5~0.75μg/kg/分131)

 ④ 初期投与量50μg/kg(30~60分),維持投与量0.25~0.75μg/kg/分132).

 ⑤ Paradisisらの生後18時間までの未熟児に対するミルリノン投与による脳血流低下予防の検討では初期投与量として低血圧を避けるため0.75μg/kg/分 と少量を3時間かけて投与し,維持投与量として

0.2μg/kg/分と報告している133).しかし,彼らは新生児心筋ではPDE活性が低く,ミルリノンの強心作用は成熟心より弱いと考察している.この研究でミルリノンが未熟児の動脈管閉鎖を遅らせることも報告している.

●塩酸オルプリノン ① 初期投与量(成人):10μg/kg(5分間),維持投与量0.1~0.3μg/kg/分.0.4μg/kg/分まで増量できる128).

 ② 心臓心術後の小児:初期投与量10μg/kg(20μg/kgでは心拍数の増加による酸素需要量が増加するため)134).

●ピモベンダン ① 成人急性心不全:1回2.5mg.病態に応じて1日2回

経口投与することができる. ② 成人慢性心不全(軽症~中等症):1回2.5mgを1日2回.年齢,症状により適宜増減.

 ③ 現在のところ低出生体重児,新生児,乳児,幼児または小児に対する適性は投与量の報告はない.

[使用上の注意事項]●禁忌  ・ 閉塞性肥大型心筋症(流出路閉塞が悪化する可能性がある): ミルリノン,塩酸オルプリノン

  ・ 妊婦または妊娠している可能性のある婦人:塩酸オルプリノン(動物実験で胎児発育遅滞),ピモベンダン(禁忌に挙げられていないが,ラットに対する初期投与試験で胚死亡率の増加,出生体重の低下が認められる)

●重大な副作用  ・ 心室細動,心室頻拍(Torsades de pointesを含む)(0.1~5%未満):ミルリノン,塩酸オルプリノン,ピモベンダン

  ・ 血圧低下(0.1~5%未満):塩酸オルプリノンはミルリノンに比べて血圧低下作用が強い

  ・ 腎機能の悪化(0.1~5%未満):ミルリノン,塩酸オルプリノン,ピモベンダン.特に利尿薬との併用する際,利尿が促進され脱水傾向になることがある.

  ・ 頻脈,上室または心室期外収縮などの不整脈(0.1~5%未満)

  ・ 血小板減少(0.1~5%未満):塩酸オルプリノンはミルリノンに比べて血小板減少作用は弱い

  ・ 低酸素血症(0.1%未満):血管拡張作用により肺内シャントが増加し,PaO2の低下を来たすことがある.

119循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

  ・ 肝機能障害(頻度不明):ピモベンダン●基本的注意点  ・ 重篤な不整脈のある患者では症状を増悪させること

がある.  ・ 腎排泄型薬剤のため,腎機能が低下している患者では血中濃度が高くなる恐れがある.

  ・ 循環血液量が欠乏している状態では,前負荷が減少して過度の低血圧を生じやすい.循環血液量が十分保たれた状態で投与することが望ましい.

  ・ 心不全患者の不整脈を助長する可能性がある  ・ 高度の大動脈弁狭窄・僧帽弁狭窄がある患者では改善がみられない可能性がある.

  ・ 慢性心不全の場合,長期予後に対する安全性は確立されていない:ピモベンダン

  ・ 投与中は授乳を避けること:ミルリノン,塩酸オル

プリノン,ピモベンダン  ・ 他の注射薬と混合せずに用いることが望ましい.・ミルリノンとの配合変化が確認されている薬剤:フロセミド,ブメタニド,カンレノ酸カリウム,ピペラシリンナトリウム,ジベカシン硫酸塩,リン酸ピリドキサール,ジアゼパム,炭酸水素ナトリウム・ 塩酸オルプリノンとの配合変化が確認されている薬剤:カンレノ酸カリウム,ウロキナーゼ,フロモキセフナトリウム

図12 心不全治療のアルゴリズム

低血圧頻脈

呼吸困難胃腸症状

EF > 40%軽度拡張

良好な右室機能

No

NoNo

Yes

Yes

ACE-I ACE-I Yes No

(BNP↓)

正常Na

β遮断薬

Yes

somewhat

Aループ利尿薬開始 静注利尿薬,

PDE3 阻害薬

エピネフリン補助循環

ミルリノン減量(0.33μg/kg/分)

48時間継続

末梢,冷感改善と利尿効果

48時間以内に症状改善

B C

D(BNP↑)

SBP<75mmHg (乳児は 65mmHg)

Na

クラス Aへ クラス Cへ クラス Bへ

120 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

Ⅰb 心不全に対する血管拡張薬

1 薬物療法の実際

 心不全に対する血管拡張薬は大きく二つに分けられる.一つはα遮断薬や硝酸薬などの単純な血管拡張薬,もう一つは活性化している神経体液性因子の抑制を目標とした心保護薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)・アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB),そしてβ遮断薬)である.前者は主に心臓手術後あるいは集中治療の場で使用されることが多く,後者は慢性心不全の治療として投与されることが多い. 単純な血管拡張薬は使用にあたって血行動態の把握が重要である.静脈拡張により充満圧を低下させるか,あるいは動脈拡張により後負荷を軽減させ拍出量を増加させることを目的とするため,心血管構造異常としての先天性心疾患に起因する複雑な血行動態の心不全に対しては必ずしも血行動態の改善につながらない可能性を念頭に入れて治療することが肝要である. 心保護薬の二つの柱であるRAA系の抑制とβ遮断は現代の成人における慢性心不全治療において欠かせないものとなっているが,小児領域では必ずしも良好なエビデンスが得られているわけではない. その理由の一つは,前述のように小児心不全の成因が左心室の収縮不全であることよりも血行動態の異常に起因することが多いためである.また成人と同様の心不全に限った報告でも必ずしも有効であるというデータが得られているわけではない135)が,その報告の中でも条件設定が困難であることが述べられており,無効であると結論づけられているわけではなくパワーを持ったランダム化比較試験が必要であると結ばれている.このような背景から,小児においても左心室の収縮不全に起因する心不全に対しては,エビデンスが十分ではないものの成人に準じた心保護療法が行われることが多い136).すなわちカテコラミンに代表される強心薬は急性心不全に対する治療薬としては今でも重要な存在であるが,予後改善効果を期待することはできない137).使用は可能な限り最少量・最短時間に留め速やかに心保護療法を開始することが重要である. 以上のように小児の心不全治療においては心不全だからこの薬剤といった単純な考え方ではなく血行動態をよく理解した上で治療戦術を考える必要がある.例えば最

も頻度の高い心構築異常の一つである心室中隔欠損に対する強心薬の役割に関しても,左心室の収縮不全に起因する心不全の場合とは異なることが報告されている. 本稿では成人でのデータも含めて考慮しながら,小児のデータがあれば小さなエビデンスでも紹介する.

1 血管拡張薬

①ニトロプルシッドナトリウム

 ニトロプルシッドは短時間作用型の強力な血管拡張薬で,動脈・静脈ともに拡張させる作用を有する.作用は早く,速やかに一酸化窒素とシアン化物に代謝される.この薬理学的特性により急性鬱血性心不全の治療に適している.シアン化物は肝臓でチオシアン化物に代謝される.シアン中毒は長期使用の場合,特に肝腎機能低下あるいは低心拍出による肝還流の低下している患者において起こりやすい. 成人の急性心不全においては心拍出量を増加し,心室充満圧を低下させ,心房容積を減少させ,さらに僧帽弁・三尖弁逆流を改善する.小児においては敗血症やARDSにおける低心拍出を改善することが報告されている138).心室中隔欠損においては左右短絡を増加させ体循環量を減少させるという報告もあるが,その循環動態によってさまざまに作用するという報告もある.成人においてニトロプルシッドは大動脈弁139)および僧帽弁閉鎖不全において逆流量を減少させ,充満圧を低下させることが報告されている.

心機能障害による小児鬱血性心不全に対するニトロプルシッドの投与クラス IIa エビデンスレベルC

②ニトログリセリン

 ニトログリセリンは血管平滑筋のグアニル酸シクラーゼに作用し直接的に血管拡張を,主に静脈系に惹起する.細胞内で遊離した一酸化窒素がグアニル酸シクラーゼを活性化した結果,増加したcGMPがcGMP依存性キナーゼを活性化しさまざまな調節タンパクのリン酸化状態が変化し,その結果血管拡張に至る.ニトログリセリンも肝臓で速やかに代謝され,血中半減期は短く(成人で1~4分)静注で投与する際は持続静注される.治療濃度での主な作用部位は太い静脈であり心房・心室の充満圧を低下させる.副作用として低血圧,頻脈などを認めることがある.小児におけるデータは少ないが,左右短絡性先天性心疾患において肺体血流比を変えずに心室充満圧を低下させることが知られている.また同疾患の心内

121循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

修復術後の有用性も報告されている.新生児の循環不全においては収縮機能を改善させ中心静脈圧を低下させることが報告されている.貼付型の剤型は小児では血中濃度の上昇がよくないことが報告されている.閉塞隅角緑内障の患児には禁忌である.

③ヒドララジン

 細動脈の血管平滑筋に直接作用し血管拡張を惹起する.広く全身の血管に作用するが骨格筋・皮膚におけるよりも・脳・内臓・腎・冠動脈により強く作用する.主な血行動態の変化は抵抗血管拡張による心拍出量の増加である.体動脈圧・心室充満圧の低下は軽度である.注射薬・内服薬があるが腸管・肝臓での初回通過効果があるため経口での生物学的利用度は低い.スローアセチレーターでは血中濃度の上昇が高いため副作用の頻度が高く低用量で治療されるべきである.成人においては心不全症状を軽快させ運動耐容能を改善するが,エナラプリルのような予後改善効果はない140).成人では10%程度にループス様症候群が認められ,スローアセチレーターで投与量が多いほど発生頻度が高い.抗核抗体は陽性となるが,抗核抗体が陽性であれば必ず症状が出るとは限らない.有症状で抗核抗体が陽性であれば投与の中断が必要であるが,一般的には可逆的で中止後6か月以内に症状は消失する.

④フェントラミン

 フェントラミンは術後や集中治療の際に使用されることがある混合型の血管拡張剤であるが静脈拡張作用は比較的少ない.α1受容体のみならず前シナプスのα2受容体も遮断するため,ノルエピネフリンの放出は増加し頻脈あるいは不整脈を引き起こすことがあるが,成人に比較し小児では少ない.心不全患者において体血管抵抗を下げ心拍出量を増加させるが充満圧を低下させる作用は弱い.セロトニン受容体の遮断作用も有するため消化器症状が出現することがある.

⑤Ca拮抗薬

 主に動脈拡張を惹起する.ニフェジピン,ニカルジピンなどのジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は強力な血管拡張作用を持つが陰性変力作用は他の薬剤に比較して弱い.肺高血圧を有する心室中隔欠損の児においてニフェジピンは体血管抵抗を低下させ,左右短絡を減少させる.

2 心保護薬

①アンジオテンシン変換酵素阻害薬

 慢性心不全に対するACE-Iの効果はCONSENSUS試験141),SOLVD試験142)などでエナラプリルによる左室収縮不全に対する予後改善効果が報告された.理論的にはアンジオテンシン変換酵素抑制のみではキマーゼなどの他の変換酵素をブロックすることはできないためアンジオテンシン II産生を抑制することはできず,実際にACE-I長期投与ではアンジオテンシン II濃度はしばしば治療前のレベルに戻ることが知られている.それゆえACE-Iの慢性心不全予後改善効果は単にRAA系の抑制のみでは説明できない.アンジオテンシン変換酵素はキニナーゼ IIでもありこれを抑制することでブラジキニン系が活性化し,その結果一酸化窒素産生系・PGI2産生系が亢進することが作用の一因であると言われている. 小児心不全においてはカプトプリルあるいはエナラプリルを投与したデータがほとんどである.国内ではシラザプリルを投与した報告も散見される143),144).小児においても収縮不全144)-147),あるいは弁逆流に起因する鬱血性心不全に対する有効性が報告されている.さらに左右短絡性疾患に起因する鬱血性心不全に対しても有効であるが148),149),血行動態的には体血管抵抗を低下させて肺体血流比を改善するため肺血管抵抗が相対的に高い症例ではむしろ肺体血流比が増加して心不全が増悪する可能性があり注意を要する150),151). 副作用として,咳に関しては小児では頻度は少なく,また投与継続で消失することが多い.咳はブラジキニン不活化によるキニン産生増加を意味し心不全に対して有効であることを意味することから可能であれば投与を継続するべきであろう.まれではあるが喉頭浮腫の報告があり留意が必要である.また妊娠中は禁忌である.投与方法に関しては1日1回投与よりも2回投与の方が血行動態の変化はないものの,心不全予後規定因子の一つであるノルエピネフリン値が低下することが報告されている.

② アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬

 RAA系を抑制するもう一つの薬剤はARBである.これはアンジオテンシンⅠ型受容体をブロックすることでアンジオテンシンⅠ型受容体の作用を抑制するのみならず,間接的にアンジオテンシンⅡ型受容体の作用を活性化し一酸化窒素やブラジキニンを増加させる(Dual Effect).心不全に対するARBの有効性に関するエビデ

122 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

ンスはACE-Iほどではないが多数の報告がある.ELITE II試験ではARB(ロサルタン)がACE-I(カプトプリル)と同様に心不全患者の予後を改善することが示され,また成人のCHARM-Alternative試験でもARB(カンデサルタン)の心不全患者の死亡率,有害事象を減少させることが示された.しかし理論的にはACE-IよりRAA系を効率よくブロックするにもかかわらず心不全に対する効果としてはACE-Iを越えるデータはない.ACE-IとARBの併用に関して,Val-HeFT試験ではACE-Iを含めた標準的な心不全治療にARB(バルサルタン)を追加することで全死亡率は変わらないが有害事象を減らすことができることが示された.CHARM-Added試験ではACE-I治療中の慢性心不全患者にARB(カンデサルタン)を併用した際の死亡率・予後を改善することが示された.成人では高血圧に合併した心不全が少なくないこと,および咳嗽というACE-Iの副作用がARBでは生じないため忍容性が高いことからACE-Iに先んじて投与されることが多い.小児において心不全はむしろ血圧が低い状態であることがほとんどであることから,ACE-Iを優先して投与することが多い.ACE-IとARBどちらが有効か,あるいはACE-Iの中でどの薬剤がより効果が強いかなど強い関心を持たれているが,いずれも投与量が多いほど効果の強い薬剤であることから結論を導き出すのは容易ではない.

③抗アルドステロン薬

 従来フロセミド投与時に生じる低カリウム血症予防のために併用されてきたスピロノラクトン(心性浮腫に適応あり)もRAA系をブロックして心不全の予後を改善することが知られている.近年ではより選択性の高いエプレレノン(心不全の適応なし)も我が国で使用可能となったが,本薬剤はACE-Iおよびβ遮断薬投与下でもさらなる予後改善効果が報告されている.利尿薬であるトラセミドの慢性心不全患者への予後改善効果の一つの理由として,フロセミドにはない抗アルドステロン作用が指摘されている.

心機能障害による小児鬱血性心不全に対するアンジオテンシン変換酵素阻害薬の投与クラス IIa エビデンスレベルC大動脈弁・僧帽弁逆流による小児鬱血性心不全に対するアンジオテンシン変換酵素阻害薬の投与クラス IIa エビデンスレベルC左右短絡による小児鬱血性心不全に対するアンジオテンシン変換酵素阻害薬の投与

クラス IIb エビデンスレベルC

3 β遮断薬 Waagsteinらは拡張型心筋症患者にβ遮断薬を投与することで心不全症状が改善し心機能が回復することを示し,さらには予後改善効果を報告した.その後,US Carvedilol studyではカルベジロール,CIBIS II試験ではビソプロロール,そしてMERIT-HF試験ではメトプロロールの慢性心不全における予後改善効果が証明された.COPERNICUS試験ではNYHA IV度の重症心不全に対しても死亡率改善効果が示され,CAPRICORN試験では症状を有しない左室駆出率低下患者に対する死亡率低下が証明された. 本薬剤は小児心不全を対象とした最も大きな臨床試験では有効性は認められていない152).しかしこれは小児心不全の多様性に起因すると考えられており,サブ解析では“左室を主心室にする症例”に対しては有効で,これは他の小児拡張型心筋症を対象とした臨床試験の結果と一致する153),154).現在小児科領域においてはカルベジロール,メトプロロールが用いられることが多い155).メトプロロールは,初めて心不全に有効であることが証明されたβ遮断薬である.カルベジロールはα,β受容体遮断作用と抗酸化作用を持つ.これらの薬剤はACE-Iと異なり,心筋リモデリングを抑制するだけでなく逆リモデリング,すなわち左室リモデリングを逆行させ左室を小さくし,収縮性の改善をもたらすという特徴がある.この効果はACE-Iを併用した際に,より効果が大きいことが知られている. β遮断薬は“心機能を低下させる薬剤”であるため,少量から開始し,漸増する.投与初期は心機能が低下することが少なくないため,もともとの心機能が非常に悪い場合は入院して導入する.また導入時の心機能低下にはベータ受容体を介さないPDE3阻害剤の投与が有効である.少量でも有効であるという報告もあるが忍容性があれば投与量が多い方が有効である.成人ではカルベジロールのAHAガイドライン推奨量50mg/日に対して日本での投与量は5~20mg/日と少なく設定されている.これは少量でも有効であるという日本での臨床研究に基づいて設定されているが,このデータでも容量依存性に心不全入院・死亡率を減少させるという点は同様であり,また最近では日本人においても容量依存的に予後を改善するとの報告もある.小児では血中濃度が上昇しにくいという報告もあり152)可能な限り増量が望ましい.表6

は欧米での投与量であり日本国内ではメトプロロールは同程度の量が,カルベジロールはこの半量程度が投与さ

123循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

れているものと推測されるが,国内でも欧米と同量のカルベジロール投与で有効であったという報告もある. CIBIS-IIIではβ遮断薬とACE-Iはどちらを先に導入しても全死亡,全入院などに変わりがなかったものの低駆出率群ではβ遮断薬先行群で成績が良かったとされている.しかしながら重症心不全ではベータ遮断薬を安全に導入するために,ACE-Iを先に導入し心機能に余力を持たせた状態でβ遮断薬を導入することも考慮されるべきであろう.Val-HeFT試験ではACE-I,β遮断薬投与患者にARB追加投与をすることで予後を悪化させる可能性が懸念されたが,CHARM-Addedでは3者併用で予後の改善が認められている.気管支喘息患児では禁忌である.また心機能を落とし,心内伝導を抑制する薬剤であるので注意が必要である.

小児左室収縮不全に基づく鬱血性心不全に対するカルベジロール投与クラス IIa エビデンスレベルC

参考 カテコラミン

①ドブタミン

 ドブタミンは当初循環不全成人に対する陽性変力カテコラミンとして開発された156).β刺激作用を有し,心収縮性の増大および末梢血管拡張と軽度の心拍数増加を引き起こす157).心筋血流の改善作用を併せ持ち,変時

作用に伴う心筋酸素消費量増大と相殺する158). ドブタミンは単剤で使用される急性循環不全治療薬として,あらゆる年代でもっとも汎用されている薬剤である.ドブタミンの魅力は単剤で陽性変力作用と体血管および冠血管拡張作用を併せ持つという,他のカテコラミンにはない特徴である.この特性から術後の体外循環離脱や急性心不全初期治療に乳児や学童でも汎用される159). 変時作用が少ないという利点もある160).

[適応]・ 国内適応:急性循環不全における心収縮力増強として承認される(クラス I,レベルC).低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児に投与する場合には,観察を十分に行い少量より慎重に開始する.開心術後に心拍数が多い小児等に投与し,過度の頻拍を来したとの報告がある (クラス IIa,レベルC).ドブタミンは過度の頻脈を生じるため,未熟児の血圧上昇に対してドパミンほど有効ではないし,すでにドパミンを使用している患者への追加効果はない161)(クラス IIb,レベルC).・ 国外での動向:FDAでは小児に対する使用は正式には承認されていない.成人に対しては心拍出量減少を伴う心不全への使用が承認されている.英国での同薬添付文書には小児への有効性は確立されていないと記載されている.

[用量] 国内での小児用量としては5~20µg/kg/分とされ

一般名 商品名 作用機序 剤型 投与経路・用量・用法ニトロプルシッド ニトプロ GC活性化 注射液 0.5~3μg/kg/分 持続静注ニトログリセリン ミリスロール GC活性化 注射液 0.5~3μg/kg/分 持続静注

ミリステープ 貼付剤ヒドララジン アプレゾリン 動脈拡張 注射液 0.1~0.5mg/kg/回 静注(最大20mg)

錠・散 0.25~0.75mg/kg/回フェントラミン レギチン α1/α2遮断 注射液 0.05~0.1mg/kg/回 静注(最大5mg)

2.5~15μg/kg/分 持続静注ニフェジピン アダラート カルシウム受容体遮断 カプセル 0.1~0.5mg/kg/回 8時 間 毎( 最 大

20mg)エナラプリル レニベース ACE抑制 錠 0.1~0.4mg/kg/日 分1~2

成人2.5~5mg/日 10~40mg/日まで増量

リシノプリル ロンゲス ACE抑制 錠 0.08mg/kg/日 分1(最大40mg)カプトプリル カプトリル ACE抑制 カプセル・錠・細粒 0.1~0.5mg/kg/回 8時間毎

成人6.25~25mg/回 8時間毎カルベジロール アーチスト β1/β2/α1遮断 錠 0.05mg/kg/回を1日2回から開始し0.1

~0.5mg/kg/回 1日2回まで週毎に増量成人の最大量25~50mg/回 1日2回を超えない

メトプロロール セロケン,ロプレソール β1遮断 錠 1~2mg/kg/日 分2

表6 米国のtextにある血管拡張薬の小児投与量

ACE,アンジオテンシン変換酵素:GC,グアニル酸シクラーゼ*薬用量はMoss and Adams’ Heart Disease in Infants, Children, and Adolescents 6 th ed.

124 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

る162).成人量として通常 1分間あたり1~5µg/kgを点滴 静 注 す る. 海 外 で の 小 児 用 量 は2~20µg/kg/分163)-165),5~20µg/kg/分(5),2.5~20µg/kg/分166)とされる.投与量は患者の病態に応じて望ましい心血管効果が得られるまで適宜増減し最適な投与量を維持する164).必要ある場合には1分間あたり20µg/kgまで増量できる.DRUGDEXⓇ2.0では17歳以下の小児患者に対する最大投与量は40µg/kg/分とされる167).

[小児での薬物動態] 平均年齢5.2歳の小児において全身クリアランスは151mL/分 /kg(点滴静注;7.47µg/kg/時),分布容積は1.13L/kg,点滴静注終了後の血中濃度推移に関しては,2相性の消失がみられた患者と1相性の消失がみられた患者の二つに分けられる.分布相における半減期(t1/2α)は1.65分(両グループ間に差はあまりみられない),また消失相における半減期(T1/2β)は25.8分であった168).

[相互作用] β遮断剤:本剤の効果の減弱・末梢血管抵抗の上昇が起こるおそれがある. アルカリ溶液内で不安定となるため炭酸水素ナトリウムとの混合は避けるべきである164).

[禁忌] 閉塞性肥大型心筋症の患者(左室からの血液流出路の閉塞が増強され症状を悪化するおそれがある).ドブタミン塩酸塩に対し過敏症の既往歴のある患者.

[副作用] 承認時における安全性評価対象例521 例中,臨床検査値の異常変動を含む副作用は30 例(5.8%)に認められた.主なものは頻脈12例(2.3%),心室期外収縮12 例(2.3%), 血圧上昇4 例(0.8%)等であった.再審査終了時における安全性評価対象例6506例中,臨床検査値の異常変動を含む副作用は166例(2.55%)に認められた.主なものは頻脈65例(1.00%),心室期外収縮43例(0.66%),上室期外収縮10例(0.15%),洞頻脈10例(0.15%)等であった.

②ドパミン

 ドパミンは内因性の神経伝達物質として1958年に発見され169),後に昇圧作用170),171)と心臓への直接作用172)

を有することが判明した.α,β,ドパミン受容体を刺激し,ドパミン受容体刺激作用による血管拡張に始まり,高用量ではαおよびβ受容体刺激に伴う一連の生理的反応を惹起する.理論的な用量相関効果のスペクトラム

から,低用量を腎用量,高用量を心臓用量とする使用法が一時ひろく用いられた(クラス IIb,レベルC).しかしこの用量選択的効果を実証した報告はなく,今やこの概念は過去のものとなりつつある173).ドパミンを投与した際に認められる生理的反応は,収縮性の増加,心拍数増大,血管緊張の増大であり体血管拡張を示唆する反応は全く見られない.ただし高用量になるほどα刺激作用が増大する160).いずれにせよドパミンは体血管や肺血管をともに収縮させ,自身の陽性変力作用を打ち消してしまうため循環不全の乳幼児には単剤では使用しづらい(クラス IIb,レベルC).体血管拡張薬とドパミンを併用することである程度使えるようになるが(クラスIIb,レベルC),小児 ICUではあまり使用されていない159).

[適応]・ 国内適応:急性循環不全(心原性ショック,出血性ショック)として承認されるが小児等への投与は設定されていない(成人同様の注意が必要である).ただし国内承認申請の際の臨床試験において5歳以下の患者25名(15%)および6歳から20歳の患者12名(8%)が含まれており安全性に全体との差はないとされる.・ 国外での動向:FDAでは小児に対する使用は正式には承認されていない.しかし使うとすれば初期量として2~5µg/kg/分で開始し 5~10µg/kg/分で維持し,最大30µg/kg/分とされる.成人最大量は50 µg/kg/分である.EMEA(欧州医薬品庁)では小児のドパミン使用に関する記載はない.

[用量] 国内での小児用量としては2~20 µg/kg/分とされる162).成人量として1~5µg/kg/分,最大20µg/kg/分.海外での小児投与量は2~20µg/kg/分163)-165),1~20µg/kg/分 以 上160),2.5~20µg/kg/分166)と さ れ る.FDAでは初期量として2~5µg/kg/分で開始し 5~10µg/kg/分で維持し,最大30µg/kg/分としている.成人最大量は50µg/kg/分である.いずれにせよ患者の病態に応じて望ましい心血管効果が得られるまで適宜増減し最適な投与量を維持する164)

[小児での薬物動態]① 新生児患者11例(在胎週数34±4.5週,日齢30.4±18,出生体重2.38±0.93kg)に対しドパミン持続静注(5~20µg/kg/分)中の血漿ドパミン濃度を測定:0.013~0.3µg/mL.クリアランス:115mL/kg/分,分布容積1.8L/kg,T1/2 6.9分(5~11分)174).

② 小児患者17例(年齢3か月~13歳,体重:5~73kg)に対しドパミン持続静注(1~20µg /kg/分)後の血漿

125循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

ドパミン濃度を測定.半減期T1/2α=1.8±1.1分,T1/2β=26±14分であった.また分布容積は2952 ± 2332mL/kgであった.クリアランスは454 ± 900mL/kg/分 であった.肝機能あるいは腎機能障害はドパミンの薬物動態に影響しなかった175).

[相互作用]・MAO阻害薬:ドパミンの代謝が阻害され作用が増強かつ延長・ ドパミン持続静注中にPhenytoin静注で血圧低下・ ドパミン受容体拮抗薬 作用減弱

[禁忌] 褐色細胞腫(カテコラミンを過剰に産生する腫瘍であるため,症状が悪化するおそれがある).

[副作用](有害事象) 1981年3月までの副作用頻度調査において2389例中副作用の発現例は240例(10.0%)で254件.不整脈201件(8.4%),四肢冷感12件(0.5%),嘔吐11件(0.5%)等であった.

[使用上の注意事項] ドパミンはα作用を有し末梢血管を収縮させるため国内では四肢冷感が0.5%に発現している.海外ではドパミンの使用により末梢虚血と壊疽を生じ四肢の切断を余儀なくされた4例の報告がある176).糖尿病やしもやけなど末梢虚血を起こしやすい素因のある患者には慎重に投与する必要がある(クラス IIa,レベルC).小児でも末梢静脈挿入式中心静脈用カテーテルの先端や末梢投与部位などで血管収縮から皮膚の虚血・チアノーゼが生じることがあり注意を要する(クラス IIb,レベルC).また,アルカリ溶液内で不安定となるため炭酸水素ナトリウムとの混合は避けるべきである164).

③アドレナリン

 アドレナリンはα受容体およびβ受容体作動薬であり,低用量では理論的には心拍数や収縮性増大と末梢血管抵抗の減少,心拍出量増大などのβ刺激作用が優位になるとされる160).高用量ではアドレナリンはα受容体刺激作用により血管抵抗を増大させ同時に心筋酸素消費量を増大させる.理論的効果は用量により変化するが,実地臨床においてはβないしα作用のバランスは予測しがたく,体血管の収縮が起こりやすい159),160).

[適応]・ 国内適応:複数の適応があるが,循環器領域の適応としては「各種疾患に伴う急性低血圧またはショック時の補助治療,心停止時の補助治療」に限定される.低出生体重児,新生児,乳児,幼児又は小児では安全性が確立

されていないため,少量から投与を開始するなど患者の状態を観察しながら慎重に投与する. 国外での動向:アドレナリンは通常 inotropic agentとして心機能不良の患者,たとえば心臓手術後急性期などに投与される(クラス IIb,レベルC).最低使用量においても体血管の収縮が強い患者には投与しにくく(クラス IIb,レベルC),心室後負荷を上昇させてしまうことを術後早期の患者においてよく見られる.不要な体血管の収縮を克服するために,短時間作用型(静注)の硝酸剤血管拡張薬を注意深く併用することを考慮する159)(クラス IIb,レベルC).

[用量] アドレナリンとして,通常成人1回0.2 ~1mgを皮下注射又は筋肉内注射する.なお,年齢,症状により適宜増減する.蘇生などの緊急時には,アドレナリンとして,通常成人1回0.25mgを超えない量を生理食塩液などで希釈し,できるだけゆっくりと静注する.なお,必要があれば3~5分ごとにくりかえす. 多数の海外小児心肺蘇生ガイドライン177),178)およびAHFS2010179),Nelsonの成書163)では蘇生初期量0.01mg/kg静注もしくは0.1mg/kg 気管内投与を推奨している(クラス IIa,レベルC).最大投与量は静注1mg,気管内投与10mgで3~5分おきに繰り返す163).新生児の蘇生においては0.01~0.03mg/kg静注179)が推奨されている(クラス IIa,レベルC).緊急時の心腔内投与は0.005~0.01mg/kg179)(クラス IIb,レベルC).急性心不全に対して は 持 続 静 注0.1~0.5µg/kg/分162),0.1~1µg/kg/分163),164),0.1~1.5µg/kg/分165), 0.05~2.0µg/kg/分160),166)

の記載がある.[小児での薬物動態] 重症小児患者に対する0.03~0.2µg/kg/分のアドレナリン持続静注下の血漿アドレナリン濃度は4360±3090 pg/mL(670~9,430)であり用量と濃度は直線相関を示した.アドレナリンクリアランスレートは29.3±16.1mL/kg/分(15.6~79.2)で血漿濃度に依存しなかった180).

[相互作用] 血圧異常上昇:MAO阻害剤,三環系抗うつ剤(イミプラミン・アミトリプチリン等),セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI;ミルナシプラン等),その他の抗うつ剤(マプロチリン等),メチルフェニデート,分娩促進剤(オキシトシン等),エルゴタミン製剤,抗ヒスタミン剤(クロルフェニラミン・トリペレナミン等),アメジニウムメチル硫酸塩.頻脈・心室細動:ハロゲン含有吸入麻酔薬(ハロタン,

126 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

表7 一般名 商品名 作用機序 剤形 適応 投与経路・用量・用法 作用発現時間 最大血中濃度 血中半減期 主な副作用 注意事項・禁忌

Dopamine イノバン 交感神経α 1,β 1,DA1受容体刺激 (アンプル)

急性循環不全

点滴静注 10分(イヌ) 30分 持続静注中止後1分

不整脈(8.4%) 重大な副作用:麻痺イレウス,末梢虚血

慎重投与:末梢血管障害

50mg 点滴静注1~20µg/kg/分(成人) 腎排泄100mg 点滴静注2~20µg/kg/分 162)-165)

200mg 点滴静注1~20µg/kg/分 160)

(シリンジ) 点滴静注2.5~20µg/kg/分 166)

50mg 点滴動注2~20µg/kg/分 163)

150mg300mg

一般名 商品名 作用機序 剤形 適応 投与経路・用量・用法 作用発現時間 最大血中濃度 血中半減期 主な副作用 注意事項・禁忌

Dobutamine ドブトレックス 心筋β 1(β 2,α 1)受容体刺激 (アンプル)

急性循環不全における心収縮力増強

点滴静注 10分(ヒト) 10~15分 持続投与中止後3~4分

不整脈(1.0%)

禁忌:閉塞性肥大型心筋症

100mg 1~20µg/kg/分 腎排泄(ボトル) 2~20µg/kg/分 163)-165)

200mg 2.5~20µg/kg/分 160)

600mg 5~20µg/kg/分 160),162)

点滴動注2~20µg/kg/分 163)

一般名 商品名 作用機序 剤形 適応 投与経路・用量・用法 作用発現時間 最大血中濃度 血中半減期 主な副作用 注意事項・禁忌Adrenaline ボスミン 交感神経α,β1,β2受容体刺激 (アンプル) 気管支痙攣 吸入 0.3mg/回以内

データなし

腎排泄

頻脈,高血圧,不整脈,重篤な血清カリウム値の低下

1mg 急性低血圧・ショック 皮下注 筋注 0.2~1mg 3~10分心停止 静注0.25mg/回 5~15分ごと局所麻酔薬の作用延長 局所麻酔薬に添加:10mLに1~2滴

局所出血 原液あるいは5~10倍希釈液を直接塗布 点鼻・噴霧・タンポン

虹彩毛様体炎時における虹彩癒着の防止

小児蘇生 10µg/kg動注静注 163),静注 177)-179)

禁忌:高血圧

気管内投与 100µg/kg163),177)-179)

心腔内投与 0.005~0.01mg/kg179)

新生児蘇生 静注10~30µg/kg179)

蘇生からの回復後,急性心不全(小児)

持続静注(中心静脈)0.1~1.5µg/kg/分 165)

5分(成人)

3.5分

持続静注(中心静脈)0.1~0.5 µg/kg/分 162)

持続静注(中心静脈)0.1~1µg/kg/分 163),164)

持 続 静 注( 中 心 静 脈 )0.05~2.0µg/kg/分 160),166)

一般名 商品名 作用機序 剤形 適応 投与経路・用量・用法 作用発現時間 最大血中濃度 血中半減期 主な副作用 注意事項・禁忌

Noradrenaline ノルアドレナリン 交感神経α,β 1,β 2受容体刺激 (アンプル)ショック,急性低血圧

点滴静注 2~4µg/分(成人,添付文書) 5分

データなし

腎排泄2.4分 181) 重大な副作用:徐脈

禁忌:高血圧

1mg 皮下注 成人0.1~1mg/回

過度の血管拡張に伴う低血圧(小児)

点滴静注

5分(成人)高血圧,重度の血管収縮および末梢虚血,不整脈

持続静注(中心静脈)0.1~2 µg/kg/分 163)

持続静注(中心静脈)0.05~0.1 µg/kg/分 162),164)

持続静注(中心静脈)20~100 ng/kg/分 ~1µg/kg/分 165)

持 続 静 注( 中 心 静 脈 )0.05~0.5µg/kg/分 166)

127循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

表7 一般名 商品名 作用機序 剤形 適応 投与経路・用量・用法 作用発現時間 最大血中濃度 血中半減期 主な副作用 注意事項・禁忌

Dopamine イノバン 交感神経α 1,β 1,DA1受容体刺激 (アンプル)

急性循環不全

点滴静注 10分(イヌ) 30分 持続静注中止後1分

不整脈(8.4%) 重大な副作用:麻痺イレウス,末梢虚血

慎重投与:末梢血管障害

50mg 点滴静注1~20µg/kg/分(成人) 腎排泄100mg 点滴静注2~20µg/kg/分 162)-165)

200mg 点滴静注1~20µg/kg/分 160)

(シリンジ) 点滴静注2.5~20µg/kg/分 166)

50mg 点滴動注2~20µg/kg/分 163)

150mg300mg

一般名 商品名 作用機序 剤形 適応 投与経路・用量・用法 作用発現時間 最大血中濃度 血中半減期 主な副作用 注意事項・禁忌

Dobutamine ドブトレックス 心筋β 1(β 2,α 1)受容体刺激 (アンプル)

急性循環不全における心収縮力増強

点滴静注 10分(ヒト) 10~15分 持続投与中止後3~4分

不整脈(1.0%)

禁忌:閉塞性肥大型心筋症

100mg 1~20µg/kg/分 腎排泄(ボトル) 2~20µg/kg/分 163)-165)

200mg 2.5~20µg/kg/分 160)

600mg 5~20µg/kg/分 160),162)

点滴動注2~20µg/kg/分 163)

一般名 商品名 作用機序 剤形 適応 投与経路・用量・用法 作用発現時間 最大血中濃度 血中半減期 主な副作用 注意事項・禁忌Adrenaline ボスミン 交感神経α,β1,β2受容体刺激 (アンプル) 気管支痙攣 吸入 0.3mg/回以内

データなし

腎排泄

頻脈,高血圧,不整脈,重篤な血清カリウム値の低下

1mg 急性低血圧・ショック 皮下注 筋注 0.2~1mg 3~10分心停止 静注0.25mg/回 5~15分ごと局所麻酔薬の作用延長 局所麻酔薬に添加:10mLに1~2滴

局所出血 原液あるいは5~10倍希釈液を直接塗布 点鼻・噴霧・タンポン

虹彩毛様体炎時における虹彩癒着の防止

小児蘇生 10µg/kg動注静注 163),静注 177)-179)

禁忌:高血圧

気管内投与 100µg/kg163),177)-179)

心腔内投与 0.005~0.01mg/kg179)

新生児蘇生 静注10~30µg/kg179)

蘇生からの回復後,急性心不全(小児)

持続静注(中心静脈)0.1~1.5µg/kg/分 165)

5分(成人)

3.5分

持続静注(中心静脈)0.1~0.5 µg/kg/分 162)

持続静注(中心静脈)0.1~1µg/kg/分 163),164)

持 続 静 注( 中 心 静 脈 )0.05~2.0µg/kg/分 160),166)

一般名 商品名 作用機序 剤形 適応 投与経路・用量・用法 作用発現時間 最大血中濃度 血中半減期 主な副作用 注意事項・禁忌

Noradrenaline ノルアドレナリン 交感神経α,β 1,β 2受容体刺激 (アンプル)ショック,急性低血圧

点滴静注 2~4µg/分(成人,添付文書) 5分

データなし

腎排泄2.4分 181) 重大な副作用:徐脈

禁忌:高血圧

1mg 皮下注 成人0.1~1mg/回

過度の血管拡張に伴う低血圧(小児)

点滴静注

5分(成人)高血圧,重度の血管収縮および末梢虚血,不整脈

持続静注(中心静脈)0.1~2 µg/kg/分 163)

持続静注(中心静脈)0.05~0.1 µg/kg/分 162),164)

持続静注(中心静脈)20~100 ng/kg/分 ~1µg/kg/分 165)

持 続 静 注( 中 心 静 脈 )0.05~0.5µg/kg/分 166)

128 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

イソフルラン,セボフルラン)異所性不整脈:ジギタリス製剤冠不全発作:甲状腺製剤チロキシン等血圧上昇・徐脈:非選択性β遮断薬(プロプラノロール等)血糖降下作用減弱:血糖降下薬(インスリン等)血圧上昇・頭痛・痙攣等:ブロモクリプチン作用減弱:利尿剤

[禁忌]次の薬剤を投与中の患者① ブチロフェノン系・フェノチアジン系等の抗精神病薬,α遮断薬② イソプロテレノール等のカテコラミン製剤,アドレナリン作動薬(ただし,蘇生等の緊急時はこの限りでない.)

[副作用](有害事象) 重大:肺水腫(初期症状:血圧異常上昇),呼吸困難,心停止(初期症状:頻脈,不整脈,心悸亢進,胸内苦悶)高頻度:心悸亢進,頭痛,めまい,不安,振戦,悪心・嘔吐,熱感,発汗.

[使用上の注意事項] 点滴静注で大量の注射液が血管外に漏出した場合,局所の虚血性壊死を生じるため,必要な場合はただちにフェントラミンで加療する164).また,炭酸存在下で不活化するため併用薬に注意を要する.

④ノルアドレナリン

 ノルアドレナリンは強力なα受容体刺激作用を有し,直接の心拍出に影響を及ぼすことなく全身の血管を収縮させる.過度の血管拡張時には望ましい作用となるが,心室後負荷が上昇しており心機能が低下傾向の症例には血行動態を増悪させる可能性がある. ノルアドレナリンは心臓集中治療における単一薬剤としては注意深く投与されるべきである.なぜなら何の代償的心血管機能の増強なく全身体血管抵抗のみを増大させるからである.それ故,ほとんど心予備能のない患者の低心拍出量を増悪させうる.それでも低用量であれば,術後の全身炎症性反応による循環不全の患者に対しては有用である(クラス IIb,レベルC).ノルアドレナリンは単剤もしくは注意深く陽性変力作用を有する薬剤とともに使用され,致命的に減少した肺血流や,拡張期流出のある際の冠動脈血流を改善させる(クラス IIb,レベルC).たとえば,Fontan conversion後の心室機能はよいが心拍出が乏しい症例,体肺シャントをおいたあとの乳児,術前に肺循環が致命的に閉塞しかけた症例などで

ある159) (クラス IIb,レベルC). また,β1受容体刺激作用による強心作用がないわけではないが,α作用がきわめて強く腎虚血におちいりやすい160).

[適応]・ 国内適応:各種疾患若しくは状態に伴う急性低血圧又はショック時の補助治療(心筋梗塞によるショック,敗血症によるショック,アナフィラキシー性ショック,循環血液量低下を伴う急性低血圧ないしショック,全身麻酔時の急性低血圧など).小児適応なし.・ 国外での動向: 小児での安全性および効能は確立していない179).

[用量] 点滴静脈内注射:ノルアドレナリンとして,通常,成人1回1mgを250mLの生理食塩液,5%ブドウ糖液,血漿又は全血などに溶解して点滴静注する.一般に点滴の速度は1分間につき0.5~1.0mLであるが,血圧を絶えず観察して適宜調節する. 皮下注射:ノルアドレナリンとして,通常,成人1回0.1~1 mgを皮下注射する.なお,年齢,症状により適宜増減する. 小児では点滴静注0.1~2µg/kg/分163),0.05~0.1µg/kg/分162),164),20~100ng/kg/分~1µg/kg/分165),0.05~0.5µg/kg/分166)の記載がある.

[小児での薬物動態] 小児での報告なし.健常若年成人における半減期は2.4±0.7分であった180),181).

[相互作用] MAO阻害剤,三環系抗うつ剤(イミプラミン・アミトリプチリン等),セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤(SNRI;ミルナシプラン等),その他の抗うつ剤(マプロチリン等),メチルフェニデート,分娩促進剤(オキシトシン等),エルゴタミン製剤,抗ヒスタミン剤(クロルフェニラミン・トリペレナミン等),アメジニウムメチル硫酸塩で作用増強から血圧異常上昇が生じる可能性がある. また,甲状腺製剤チロキシン等との併用で冠不全発作が生じる可能性がある. 各種利尿剤で作用減弱することがある.

[禁忌]  ハロゲン含有吸入麻酔剤投与中もしくは他のカテコールアミン製剤投与中の患者

[副作用](有害事象) 本剤は使用成績調査等の副作用発現頻度が明確となる調査を実施していない.重大な副作用(頻度不明)とし

129循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

て徐脈(アトロピンにより容易に回復する)がある.[使用上の注意事項]① 静脈内に投与する場合には,血圧の異常上昇をきたさないよう慎重に投与すること.② 点滴静注で大量の注射液が血管外に漏出した場合,局所の虚血性壊死があらわれることがあるので,注意すること.原則として中心静脈ラインで維持投与する.③ 本剤により,過度の血圧上昇を生じた場合には,α遮断薬(フェントラミンメシル酸塩等)を使用すること.

Ⅰc 利尿薬

1 定義

 小児においても,心不全の病態は,収縮障害と拡張障害に大別される.成人では収縮障害と拡張障害は半々であるといわれるが,小児での割合は不明である182).収縮障害や拡張障害がなくても,左右短絡による肺血流増加により呼吸障害をきたして心不全様症状となることがある.利尿剤を含めた抗心不全薬の適応となるのは,それらの全てである183),184). 成人ではNYHA機能分類が多用されている.小児心不全の重症度分類は成人に比べて難しいが,NYHA機能分類の小児適用は,乳幼児を除いては不可能ではない183).New York University Pediatric Heart Failure Index185)も臨床試験では用いられることがあるが,一般的ではない. 成人と同じく小児においても,AHA/ACCの心不全分類Stage Bすなわち,無症状でも心機能パラメーターに異常がある場合には,利尿剤を含めた抗心不全薬の適応となることがある.

2 小児の病態

 小児においても,左房圧上昇や低心拍出量による左心不全と,右房圧上昇による右心不全に大別される.小児心不全の原因は,成人と異なり多くを先天性心疾患の術前,術後が占める186). 左室流出路の狭窄が高度だと,後負荷ミスマッチをおこし,収縮障害をきたす.この際の治療は,緊急手術ないしカテーテル治療で,その後の補助手段として利尿剤を含めた薬剤投与が適応となる.慢性の左室収縮および

拡張性障害に対しては,利尿剤を含めた薬剤投与が適応となる. ファロー四徴症の術後など,小児では右心不全の病態が多い.ファロー四徴症の術後,肺動脈閉鎖不全をきたし,右室の容量負荷に起因する右心不全と左心不全を認めることがある.この場合の左心不全の原因はよくわかっていない. 肺動脈閉鎖で,人工血管等の心外導管によって肺動脈と静脈側心室(通常右室)をつなぐRastelli手術後に,導管逆流と導管狭窄をきたすことがある.この場合も右室の容量負荷に起因する右心不全と左心不全を認めることがある. 先天性心疾患では,時に解剖学的右房—解剖学的右室—肺動脈,解剖学的左房—解剖学的左室—大動脈と正常の結合がない場合がある.解剖学的右室が体心室のことがあり,そのことに起因する心不全がありうる187). 完全大血管転換症では右室から大動脈が起始する.本症に対する心房内血流転換術(Mustard手術,Senning手術)後には,右室が体心室として働く状態が持続する.右室は経年的に機能が低下し心不全となる傾向を有する.体心室側房室弁(三尖弁)閉鎖不全が進行することがあり,心不全の増悪因子となる187). 体静脈ないし右房を直接肺動脈に吻合するFontan手術では,宿命的に肺動脈へ駆出する心室がない.Fontan手術は三尖弁閉鎖など単心室血行動態疾患に対して施行される.右心室を通過しないため,中心静脈圧は正常より高く,心拍出量は少なめである.体心室は,収縮障害,拡張障害,あるいはその両者ともに認められることがある.また高い中心静脈圧のために浮腫や腹水など右心不全症状を認めることもある. 心内膜床欠損(房室中隔欠損)や単心室で,房室弁の逆流が強い例では,成人の僧帽弁閉鎖不全の病態をとることがある. 心室中隔欠損等の左右短絡性疾患では,出生後肺血管抵抗の低下とともに肺血流量が増加し,呼吸障害や哺乳障害,体重増加不良などの症状が出現する.心室中隔欠損に動脈管開存,大動脈縮窄・離断合併では心不全症状がより早期に出現する.

3 小児の臨床的特徴

 左房圧上昇に伴う症状は,呼吸促迫,咳,労作時呼吸困難感,起座呼吸などである.低心拍出量の症状は,成長発育不全,易疲労,顔色不良,末梢冷感などである.右心不全の症状は,肝腫大,浮腫,胸水,腹水貯留など

130 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

である.左右短絡疾患では,呼吸不全,哺乳障害,体重増加不良などを認める186).

4 小児心不全治療における利尿薬の役割

 利尿薬は心不全治療でまず用いられる薬剤である.ことに左右短絡性疾患や浮腫に対しては第一選択である.ループ利尿薬であるフロセミドが最もよく用いられる.低カリウム血症の予防も兼ねてスピロノラクトンを併用することが多い.各利尿薬の作用機序を表8に示す.通常の心不全治療においては,利尿薬単独ではなく,他の心不全治療薬と併用して用いられることが多い186).

5 薬物療法の実際 188)

1 ループ利尿薬

① フロセミド(商品名 ラシックス)(クラスⅠ,レベルC)

 ループ利尿薬であるフロセミドはヘンレループの上行脚に作用し,Na+-Ca2+-Cl-共役輸送系を阻害し,Na再吸収を抑制する.

[成人用量] 40~80 mg/日,20mg 静注[小児用量] 0.5~4 mg/kg/日 新生児 1mg/kg/日 (PO/IV),  乳児 /小児 1~4 mg/kg/日 (PO),1~2mg/kg/dose 静注 1日 1~4回 点滴0.05~0.1 mg/kg/時で開始,0.3mg/kg/時まで.

[小児の薬物動態(PK) ] T1/2 は未熟児 12~24時間,新生児  4~8時間,乳児 /小児 1~2時間 効果持続 乳児 /小児4~6時間 新生児では99%は肝臓から排泄される.小児や成人では50%は肝臓,残りは腎臓で排泄される.腎臓からの排泄が少ないので新生児では半減期が長い.

[副作用] 低K+血症,ジギタリス薬の副作用増大,高尿酸血症,低カルシウム血症,低マグネシウム血症,代謝性アルカローシス,黄疸,Stevens-Johnson症候群などがある.

[使用上の注意事項] 低K+血症に注意する.心室期外収縮が出やすくなるので,K製剤の経口投与をおこなったり,集中治療下ではKの点滴補充をおこなうことがある.またスピロノラ

クトンとの併用も有用である.低Na血症を認め,治療が必要なことがある.低Cl血症のために代謝性アルカローシスになることがある. 尿へのCa排泄が増加するので,尿路結石の可能性がある.高濃度では腎毒性,感音障害の可能性がある.難聴を防止するために,ボーラス静注でなく持続点滴で投与する,などの注意をはらう.32週未満の未熟児では血中濃度が上がる可能性がある.アミノグリコシドの併用では特に感音障害の発生に注意する. アルブミンと結合したビリルビンを遊離させる作用があるので,高ビリルビン血症に注意する. 長期使用によりフロセミドに対する抵抗性がでてくることがある.遠位尿細管でのNaと水の再吸収が代償性に亢進するからである. フロセミドは未熟児動脈管に対するインドメタシンの効果を減弱させる可能性がある.

② ブメタミド(商品名 ルネトロン注射液)(クラス IIa,レベル C)

 肝臓と腎臓から排泄され,腎排泄は年齢とともに増加する.

[成人用量] 0.5~1 mg/日 静注[小児用量] 新生児 0.01~0.05 mg/kg/dose (経口 /静注,1日1回~2日に1回),  乳児 /小児 0.015~0.1 mg/kg/dose (経口 /静注,1日1~4回)

③ トラセミド(商品名 ルプラック)(クラス IIa,レベル C)

 ループ利尿薬である.[成人用量] 4~8mg/日,1日1回,経口

④ アゾセミド(商品名 ダイアート)(クラス IIa,レベル C)

[成人用量] 60mg/日,1日1回~2回,経口

2 K保持性利尿薬

① スピロノラクトン(商品名 アルダクトンA)(クラス IIa,レベル C)

 遠位尿細管で上皮NaチャネルによりNaが取り込まれ,Kが尿中に排泄される.アルドステロンは遠位尿細管でのNa再吸収とカリウム尿中分泌を促進する.その結果,アルドステロンは体内の水分を増やし,血圧を上

131循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

昇させる働きがある.スピロノラクトンやカンレノ酸はアルドステロン受容体を阻害することで,ナトリウム再吸収とカリウム分泌を減らす. 心不全ではRAA系が賦活され,アンジオテンシンⅡが過剰に産生される.ACE-I投与にもかかわらず,投与初期には低下していたアルドステロンの血中濃度が再び増加してくるブレイクスルー現象が認められることがある189).また,不全心ではレニンやアンジオテンシンⅡのみならずアルドステロンも心臓で産生されるという報告もある190).アルドステロン自体が交感神経を亢進させたり,心筋の線維化をうながす可能性があるので,アルドステロン拮抗薬には,心筋保護作用も期待できる190)-192). 成人のNYHAⅢ度以上の左室収縮機能不全に基づく重症心不全患者を対象とした大規模試験(RALES)では,スピロノラクトンの併用が全死亡率,心不全死亡率,突然死のいずれをも減少させることが報告された193). ACE-I薬やβ遮断薬等の標準治療薬に抗アルドステロン薬を併用することが生命予後の改善につながることが証明された.小児心不全におけるスピロノラクトンの効果を検討した研究は小規模なもののみである194).

[用量] 50~100mg/日,経口[小児用量] 未熟児 1mg/kg/日(1日1回), 新生児 1~2mg/kg/日(分1~2) 乳児 /小児 1~3mg/kg/日(分2~3)

[成人の薬物動態] T1/2:1.5時間,効果72時間

[禁忌] 高カリウム血症,急性腎不全

[副作用] 高K血症が認められることがある.未熟児で腎石灰化の可能性がある.男性で女性化乳房はしばしば認める.使用上の注意事項 腎不全の可能性がある場合には使用しないか少量から開始する.

② カンレノ酸カリウム(商品名 ソルダクトン)(クラス IIa,レベルC)

 抗アルドステロン薬.[成人用量] 1回 100~200mg/10~20mLに溶解して,ゆっくり静注.600mg/日まで.

③ トリアムテレン(商品名 トリテレン)(クラス IIa,レベルC)

 トリアムテレンはK保持性利尿剤であるが,スピロノラクトンのような全身的な抗アルドステロン作用はない.集合管に作用し,Na+-K+交換を阻害し,K+を保持したまま利尿作用を表わす.

[用量] 90~200 mg/日 (1日2~3分割)[小児用量] 1~2 mg/kg/日 [成人の薬物動態] T1/2:4時間,効果 8時間[禁忌] 高カリウム血症,急性腎不全[副作用] 高K血症

3 サイアザイド系利尿薬

① トリクロルメチアジド(商品名 フルイトラン)(クラス IIa,レベルC)

 サイアザイド系利尿薬は近位尿細管中に分泌され,遠位尿細管においてNa+,Cl-の再吸収を抑制する.チアジド系利尿薬にはトリクロルメチアジドがある.遠位尿細管でNaとClの再吸収を阻害することで,Na利尿を起こす.また集合管へのNa排泄負荷がかかるため,ループ利尿薬と同様,集合管でのナトリウム再吸収と交換にK尿中排泄,H+排泄が亢進し,低K血症と代謝性アルカローシスが生じる. また遠位尿細管でのNa-Ca交換が阻害されるため,Ca血中保持に働き,低Ca血症,高Ca尿症の治療やカルシウム維持目的で使用されることもある. しかし腎機能低下時(GFR<30mL/分)は効果は乏しいため,慢性腎不全患者ではあまり使えない.

[用量] 2~8 mg/日 1~2回に分割,経口[副作用] 低K血症,高尿酸血症.

4 浸透圧性利尿剤

① マニトール(マンニットール)治療薬(クラス IIa,レベル C)

[用量] 1~3g/kg 点滴,200 g/日まで.[小児用量] 0.25~1 g/kg,1日4回 点滴静注[成人の薬物動態] T1/2:4時間, 効果2~4時間[副作用] 細胞外の水が血管内へ移動するので,心不全が悪化する可能性がある.

132 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

5 炭酸脱水素酵素抑制薬

① アセタゾラミド(商品名 ダイアモックス)(クラス IIa,レベル C)

 炭酸脱水素酵素によって重炭酸(H2CO3) からH+とHCO3-が遊離する.このとき生成したH+はNa+と交換することで尿中に排泄される.このとき,水が一緒に再吸収される.脱炭酸酵素を阻害することで水が再吸収されにくくなり,尿量が増加する.

[適応] 本薬剤が,小児の心不全治療に用いられることはほとんど無い.

[用量] 1日1回  250~500mg 経口 5~10mg /kg/dose

[成人の薬物動態] PK T1/2 4時間, 効果8~12時間[副作用] Ca排泄増加のため尿路結石,代謝性アシドーシス

6 バソプレッシンV2受容体拮抗薬

① トルバプタン(商品名 サムスカ)(クラス IIa,レベル C)

 非ペプチド性バソプレシンV2-受容体拮抗薬.腎臓の集合管において,バソプレシン(抗利尿ホルモン)のV2-受容体への結合を選択的に阻害する195)~197).バソプレシンの働きを抑制することで,尿中から血中への水の再吸収を減少させ,ナトリウムなどの電解質排泄に直接の影響を与えずに水分のみを体外へ排出する.ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な心不全における体液貯留に用いる.効果が認められているのは,短期使用のみである.小児での使用報告は未だない.

[用量] 15mg/日,1日1回経口

[副作用] 高Na血症[使用上の注意] 入院等の十分な管理の下で投与.投与開始したら血清Na濃度を頻回に測定すること.

Ⅱa 川崎病急性期治療薬

1 疫学

 最新の第21回川崎病全国調査成績(2009年~2010年)198)では,患者数2009年10,975人,2010年12,755人のあわせて23,337人であり,2 年間平均の罹患率は0~4歳人口10万対222.9(男247.6,女196.9)であった.患者数の性比(男/女)は1.32,罹患率の性比は1.26で男の方が多かった.同胞例ありの割合は1.5%(男1.5%,女1.7%),再発例の割合は3.5%(男3.9%,女3.1%),死亡例は2年間で1人(女1人)報告され,致命率は0.004%であった.発病後1か月以内に出現した急性期心障害の割合は9.3%(男11.0%,女7.1%),後遺症の割合は3.0%(男3.6%,女2.1%)であった.

2 定義

 川崎病の診断は診断の手引き第5版199)に基づいて行う.以下に示す6つの主要症状のうち5つ以上の症状を伴うものを川崎病とする. (1) 5日以上続く発熱(ただし,治療により5 日未満

表8 利尿薬の作用機序種類 作用部位 作用機序 薬剤 商品名炭酸脱水素酵素抑制薬 近位尿細管 炭酸脱水素酵素抑制 アセタゾラミド ダイアモックス浸透圧利尿薬 近位尿細管 浸透圧利尿 マンニトール マンニットール

グリセリン グリセオールループ利尿薬 ヘンレループ Na再吸収阻害 フロセミド ラシックス

ブメタミド ルネトロントラセミド ルプラックアゾセミド ダイアート

サイアザイド 遠位尿細管 Na再吸収阻害 トリクロルメチアジド フルイトランK保持性利尿薬 遠位尿細管 アルドステロン阻害 スピロノラクトン アルダクトンA

集合管 アルドステロン拮抗 トリアムテレン トリテレン集合管 アルドステロン拮抗 カンレノ酸カリウム ソルダクトン

133循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

で解熱した場合も含む) (2)両側眼球結膜の充血 (3) 口唇,口腔所見:口唇の紅潮,いちご舌,口腔咽

頭粘膜のびまん性発赤 (4)不定形発疹 (5)四肢末端の変化: (急性期)手足の硬性浮腫,掌

蹠ないしは指趾先端の紅斑           (回復期)指先からの膜様落屑 (6) 急性期における非化膿性頸部リンパ節腫脹 ただし,上記6主要症状のうち,4つの症状しか認められなくても,経過中に断層心エコー法もしくは,心血管造影法で,冠動脈瘤(いわゆる拡大を含む)が確認され,他の疾患が除外されれば川崎病と診断する.主要症状を満たさなくても,他の疾患が否定され,本症が疑われる不全型川崎病患者が約18%存在する.この中には冠動脈瘤(いわゆる拡大を含む)が確認される例がある.

3 小児の病態と臨床的特徴

 川崎病は小児期に好発する原因不明の急性熱性疾患で,その病態は中型動脈を中心とした全身性の血管炎症候群である.特に冠動脈に強く血管炎が惹起され,無治療では約25%に冠動脈病変が形成される.疫学的見地から何らかの感染症が原因で,感染症を契機に起こった免疫反応によって高サイトカイン血症が引き起こされるサイトカイン関連疾患と考えられており,血管炎をより早期に終息させることが冠動脈のリモデリングを抑制し冠動脈病変合併を抑制するために重要である200).また人種によって罹患率が異なること,発症頻度に性差があること,同胞例が1~2%にみられること,川崎病多発同胞例や親子例があることなどから何らかの遺伝的素因が発症に関与していると考えられている.近年,疾患感受性遺伝子や治療反応性に関連する遺伝子多型が報告されている201).

4 薬物療法の実際

1 治療目標 急性期川崎病治療のゴールは“急性期の強い血管炎症状を可能な限り早期に終息させ,結果として合併症である冠動脈瘤の発症頻度を最小限にすること”である.治療は第7病日以前に免疫グロブリン(IVIG: intravenous immunoglobulin)の投与が開始されることが望ましい.初回治療薬の選択

 現時点で最も信頼できる抗炎症療法は,早期に大量の完全分子型 IVIGの静注療法を開始することである(クラスⅠ,レベルA). IVIGは用量依存性に川崎病の臨床症状および検査所見をすみやかに沈静化させ,冠動脈病変の発症頻度を低下させることができる最善の治療法である202)-204).特に2g/kg/日の単回投与は分割投与に比し冠動脈瘤形成の頻度も低く,炎症性マーカーを早期に沈静化させる点で有効性が高い204). 従来から使用されていた経口アスピリンは,通常IVIGと併用するが,欧米で推奨されている80~100mg/kgの高用量では肝機能障害や消化管出血の発症頻度が高く,本邦では抗炎症作用を期待する場合は,30~50mg/kgの中等量で解熱するまで併用投与する.その後,48~72時間の解熱を確認し1日量として3~5mg/kg/日の低用量(1回投与)に減量する.冠動脈障害がない例においても低用量アスピリンを発症後6~8週まで続けることが一般的である(クラスⅡa’,レベルC).

[適応]川崎病と診断され,冠動脈障害発生の可能性の高い症例に対して IVIGの投与を行う(クラスⅠ,レベルA).2009年に 集計された第20回全国調査成績では,87%の急性期症例で IVIGが使用されている198).米国のガイドライン205)では川崎病と診断されたすべての患者に IVIGを投与することが推奨されている.

[用量]IVIG 2g/kg/日を1日,または1g/kg/日を1日または2日連続で投与する.200~400mg/kg/日を3~5日間分割する投与法は現在ほとんど行われない. 1g/kg/日で明らかな効果が認められた場合には2日間の連続投与を必要としないこともある.第21回全国調査の結果では,投与例の約84.5%は2g/kg/日単回投与を行っており,1g/kg/日×1日または2日の方法は,13.7%であった198). 単回投与は製剤間に注入速度の若干の違いはあるが,12~24時間かけて点滴静注し,心不全の発症および心機能低下の増悪に十分留意し,投与速度が速すぎないように注意する.また重症度に応じて適宜増減する.投与によるショック,アナフィラキシー様反応や,無菌性髄膜炎等の副反応に対しては十分な観察が必要である.

[禁忌]IVIGに対しショックの既往がある患者.IgA欠損症の患者,腎障害のある患者,脳・心臓血管障害又はその既往歴のある患者,血栓塞栓症の危険性の高い患者,溶血性・失血性貧血の患者,免疫不全患者・免疫抑制状態の患者,心機能の低下している患者には慎重に投与する.

[副作用]これまで本邦においては,IVIGが明らかにウ

134 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

イルス感染を起こしたという報告はないが,血液製剤であるためその適応と投与方法には十分な配慮が必要である.頻度は高くないが,投与による悪寒戦慄,ショック,アナフィラキシー様反応,無菌性髄膜炎,溶血性貧血,血栓塞栓症,肝障害等の副反応に対しては十分な観察が必要である. IVIGは安全性と有効性が高い治療法であるが,15~20%は IVIGで解熱しない IVIG不応例であり,冠動脈病変を合併する患者の大部分が IVIG不応例に該当する.そのため初期治療の強化を試みる臨床研究が近年複数実施された.初回 IVIG療法に加えてプレドニゾロン(PSL)を最初から併用すると治療不応例と冠動脈病変合併頻度が有意に減少することが多施設共同前方視的無作為化比較試験で明らかとなり(クラスⅡa,レベルB)206),さらに IVIG不応予測モデル207)を用いて定義された重症川崎病患者に対して IVIG+PSL初期併用療法は IVIG単独療法に比較して冠動脈病変形成阻止,治療抵抗例抑制効果が高いことが大規模多施設共同前方視的無作為化比較試験による追試で明らかとされた(クラスⅠb,レベルA)208).一方,初回 IVIGにメチルプレドニゾロンパルス(IVMP)療法を併用する治療法は,米国での二重盲検無作為化比較試験209)によって否定された(クラスⅢ,レベルB).しかし,本邦では IVIG不応予測例210)に対する初回 IVIGと IVMPの併用は,IVIG単独のhistorical controlに比べ,解熱が早く冠動脈障害(CAL)合併率も有意に少ないこと211)が報告され,小規模の無作為化比較試験212)でも治療抵抗例が少なく冠動脈拡張の程度が軽度であることが報告されている(クラスⅡa’,レベルB).また,IVIGに加えウリナスタチンを初期から併用すると IVIG不応例や冠動脈病変発生頻度を減少させるという後方視的な研究結果213)も得られている(クラスⅡa,レベルB).

[適応]IVIG不応例であることが予想される重症川崎病患者に対してはPSLを IVIGに加えて初期から併用してもよい(クラスⅠb,レベルA).

[用量]PSL 2mg/kg/日を分3で経静脈的に投与する.解熱し全身状態が改善した後に経口に変更し,CRPが陰性化した後に同量で5日間継続する.再燃の兆候がなければ1mg/kg/日分2を5日間,0.5mg/kg/日分1を5日間投与後中止する208).

[副作用]ステロイド療法全般に共通するものとして,感染症,高血糖,高脂血症,電解質異常,消化性潰瘍,高血圧,精神障害,大腿骨頭壊死などがある.成長障害,副腎機能抑制,骨代謝異常はないか軽微であると考えられる.

2 初期治療不応例に対する治療選択 初期治療開始後24~48時間においても解熱せず,効果が不十分で不応例と判断された場合,いくつかの治療選択肢がある.これら初期治療不応例に対する治療法について現在さまざまな検討が行われているが,適切なランダム化比較試験が行われていないため,総じてエビデンスレベルは低い.これまでに報告されているものには下記の治療手段が挙げられる.現時点では IVIGの追加投与が最も多く行われているが,各々が併用されることもある.

① IVIGの1g/kg/日ないし2g/kg/日(クラスⅡa’,レベルC)

[適応]再度 IVIGを追加することで,抵抗例の約半数には症状改善効果が認められるとされ,全国調査では44%の施設がこの方法を基本としており,全症例の16.5%が再投与を受けている214).米国のガイドラインでは IVIG不応例に対する治療法として2g/kgの IVIG再投与が第1選択とされている.

[用量]2g/kg/日を1日,または1g/kg/日を1日または2日連続で投与する.

[禁忌・副作用]前述の通りである.

② メチルプレドニゾロンパルス療法(クラスⅡa’,レベルC)

[適応]IVIG初回不応例に対する IVMPの効果を IVIG追加と比較した場合,解熱効果は早く,CAL合併率が同等で医療費が安価215)-217)という複数の研究がある(クラスⅡa’,レベルC).三浦ら218),219)は IVIG追加不応例に IVMPを投与しPSLの後療法を行うことで,CAL合併率を低値(0.9%)にすることができると報告した.米国のガイドライン205)では,IVMPは IVIG 2g/kgを2回行った不応例に限定するべきであると記載されている.

[用量]メチルプレドニゾロン30mg/kgを1日1回,1~3日間とする報告が多い213),215),217).IVMPの半減期が3時間と短いことから終了後にプレドニゾロンの後療法(1~2 mg/kg/日で開始し1~3週間かけて漸減)を行う報告216),218)もある.

[副作用]前述のステロイド療法全般に共通するものとIVMP特有のものに分けられる.後者としては,味覚障害,顔面紅潮,痙攣,洞性徐脈・房室ブロック・頻拍症などの不整脈などがあげられる.

135循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

③プレドニゾロン療法(クラスⅡb,レベルC)

[適応]初回 IVIGとの併用療法と同様,IVIG不応例に対する追加治療としてもPSLは有用であるといった報告220)もある.しかし,IVIG不応例に対し病日が進んだ段階でPSLを投与することは冠動脈病変形成を促進する可能性を指摘する報告221)もある.IVIG不応例に対するランダム化比較試験が実施されていないため,現時点では一定の見解が得られていない.

[用量]PSL 2mg/kg/日を分3で経静脈的に投与する.解熱し全身状態が改善した後に経口に変更し,CRPが陰性化した後に同量で5日間継続する.再燃の兆候がなければ1mg/kg/日分2を5日間,0.5mg/kg/日分1を5日間投与後中止する208).

[副作用]前述の通りである.

④抗TNFα抗体(クラスⅡa’,レベルC)

 2004年Weiss JEによって IVIG不応,PSL不応の川崎病患者に対するインフリキシマブの有効性が初めて報告された222).その後本邦でも IVIG不応例・ステロイド不応例を中心に使用されるようになった.日本川崎病学会が行った使用実態全国調査の結果では,概ね80%近くの症例に解熱効果があり,使用時期が10病日以前であれば,冠動脈瘤を形成する頻度が低いとする結果がまとめられている223).現在米国では IVIG初回投与に抗TNFα製剤を追加する治療法の有用性を検証するため,第Ⅲ相の臨床治験が実施中である.

[用量]インフリキシマブ5mg/kgを2時間以上かけて点滴静注する(単回投与).

[禁忌]重篤な感染症,活動性結核,過敏性症例,脱髄疾患,うっ血性心不全の患者.

[副作用]生物学的製剤の使用における小児の安全性の研究成果は報告が少ないが,心不全増悪,悪性腫瘍,infusion reaction,感染症増悪が懸念される.使用注意事項:投与前に注意深い問診,家族内感染の有無,BCG接種の有無,胸部CTや胸部レントゲン写真での異常所見の有無等を確認することが重要である.特にBCGを接種していない乳幼児への投与は細心の注意が必要である.また生ワクチン接種後は2~3か月以上の間隔が必要と考えられているが定説はない.

⑤ウリナスタチン静注療法(クラスⅡb’,レベルC)

[適応]川崎病に対して1993年に初めて使用が報告されて以降223),症例報告が相次ぎ①軽症例での単独の効果,②併用による IVIGの減量効果,③ IVIG無効例・不応例・

抵抗例,および再燃例への一部での有効性が指摘されており,不応例に対する代替治療薬の一つとして位置付けられている224).

[用量]小児用量は確立されていないが,5,000単位 /kg/回,3~6回 /日(1回は50,000単位を超えない)を数日間使用することが多い.半減期は,30万単位 /10mL 静注で40分である.

[禁忌]ウリナスタチン製剤に対し過敏症の既往歴のある患者

[副作用]重大な副作用としてアナフィラキシーショックがある.警告事項として,①薬剤に過敏症の既往歴の患者,②過敏性素因患者,③過去にウリナスタチンの投与を受けた患者には慎重に投与する.その他の副作用として,肝機能異常,白血球減少,発疹,掻痒感などの過敏症状,下痢,血管痛,一過性AST,ALT上昇,好酸球増多,注射部位の血管痛がある.

⑥シクロスポリンA療法(クラスⅡa’,レベルC)

[適応]2001年にRamanら225)が,IVIG不応・IMP不応の川崎病症例に対してシクロスポリンA(CsA)の使用経験を最初に報告した.鈴木らは2回の IVIGに不応であった難治性川崎病28例にCsAを使用し,解熱効果および炎症反応抑制に有効であったことを報告した226).

[容量]小児用量は確立されていないが,ネオーラルⓇ

を経口投与4mg/kg/日(目標トラフ値60~200ng/mL)で開始する報告が多い.容量は熱型や検査データを参考として変更する.投与期間は解熱しCRPが陰性化するまで,または2週間を目安とする.

[禁忌]CsAに対し過敏症の既往歴のある患者 ,タクロリムス(外用剤を除く),ピタバスタチン,ロスバスタチン,ボセンタン,アリスキレンを投与中の患者,肝臓又は腎臓に障害のある患者でコルヒチンを服用中の患者.

[副作用]CsAの一般的な副反応として,腎障害 ,肝障害・肝不全,中枢神経系障害,感染症,進行性多巣性白質脳症,急性膵炎, 血栓性微小血管障害,溶血性貧血・血小板減少,横紋筋融解症,悪性リンパ腫,リンパ増殖性疾患,悪性腫瘍等がある.川崎病患者においては無症候性の高カリウム血症を4割に認めたという報告がある.

⑦血漿交換療法(クラスⅡa’,レベルC)

[適応]城らが1983年に川崎病における血漿交換の有用性を報告した227).血漿交換療法は血中の炎症性サイトカインやケモカインを体外に除去することによって,高サイトカイン血症およびそれに付随する全身症状を平常

136 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

化すると考えられている.今川らは IVIG不応例において血漿交換療法は IVIG追加療法と比較して冠動脈病変の発症頻度が優位に低いことを報告している228).一方,適切なブラッドアクセスの確保や低体重児への応用など技術的な困難さから実施施設は限定される.そのためIVIG不応例における第1選択とはならない.

[用量]置換液を5%アルブミンとし,循環血漿量(BW/ 13×(100-Hct)×100): BW=体重(kg),Hct=ヘマトクリット値(%))の約1~1.5倍を交換量とする.Blood accessとしては,患児の大腿静脈,鎖骨下静脈あるいは外頚静脈に6~7 Fr 小児透析用ダブル・ルーメンカテーテルを留置する.施行中には主にヘパリン (開始時15~30U/kg静注,その後15~30U/kg/時を持続投与) を抗凝固薬として使用し,活性凝固時間(Activated Clotting Time)を180~ 250 秒にするようにヘパリン量を調整する.また,患児は必要な鎮静を行いベッドにしっかりと固定する.

[副作用]体外循環導入時のショック,ブラッドアクセス挿入時の血管損傷等に注意が必要である.

[参考ガイドライン]1.  川崎病急性期治療のガイドライン(2003年).日本循環器学会2.  川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン(2008年改訂版).日本循環器学会3.  Diagnosis, treatment, and long-term management of

Kawasaki disease: a statement for health professionals from the Committee on Rheumatic Fever, Endocarditis, and Kawasaki Disease. Council on Cardiovascular Disease in the Young, American Heart Association.(2004年)

Ⅱb 虚血性心疾患の薬物療法

1 心筋虚血の定義と治療の原則

 心筋の酸素需要に対する酸素供給が不十分となり,心筋が低酸素・低灌流容量に曝されている状態を心筋虚血と定義する.心筋酸素需要は心拍数,収縮能,壁応力に依存し,心筋酸素供給は酸素運搬能,冠血流量,心筋血流量に依存する.心筋虚血の治療の主体は心拍数を低下させ(心仕事量の低下),前・後負荷の軽減,および冠

血流量の増加を図ることにある.抗虚血療法と抗血栓療法が主体となるが,抗虚血療法としては,以下の薬剤が中心となる. ①β遮断薬:心拍数の低下,体血管抵抗の減少       (後負荷減少) ②Ca拮抗薬: 心拍数の低下,後負荷の減少,冠血流

量の増加 ③硝酸薬: 静脈還流量・心容積の減少(前負荷の減少),

冠血流量の増加,後負荷の減少

2 虚血性心疾患の分類

 虚血性心疾患は症状および心筋壊死の有無により,狭心症,無痛性心筋虚血,心筋梗塞に分類される.さらに,狭心症は安定(労作性)狭心症,冠攣縮性狭心症,不安定狭心症などに分類される.不安定性狭心症はプラークの増大,破綻により血管内腔が急激に狭小化し,そこに血小板血栓が形成され,さらに冠動脈攣縮などの関与により冠血流量は減少し心筋虚血が惹起されるものをいう.冠攣縮の合併により心筋虚血症状発生頻度が増加し,持続時間も長くなる.不安定狭心症は急性心筋梗塞と併せ,急性冠症候群(acute coronary syndrome: ACS)と呼ばれる.

3 小児期の特殊性と問題点

 小児期に認められる心筋虚血は川崎病後の冠動脈合併例がほとんどで,その他,左冠動脈肺動脈起始症や冠動脈瘻などの先天性冠動脈異常,完全大血管転換症の冠動脈移植術後の冠動脈有意狭窄や閉塞などの疾患において認められる.特に川崎病では冠動脈瘤が残存するとその前後に狭窄性病変が出現し,血管内腔を狭小化させ,心筋虚血が惹起される.また,冠動脈病変が残存した症例では病変部位は勿論,退縮した部位においても血管内皮機能の低下が認められ229),この様な症例では冠攣縮が惹起される可能性がある.一方,小児期には側副血行路の発達が良好であり,成人で認められるような貫壁性の心筋虚血を起こすことは極めて稀である.また,小児期に脂質プラークの形成・破綻などを来した不安定狭心症が認められたとの報告も無い.新生児・乳児期には自覚症状に対する表現が不十分であり,臨床的に心筋虚血を見逃してしまうことがある.

137循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

4 抗虚血療法

1 安定(労作性)狭心症に対する治療 心筋酸素消費量を低下させることが治療の主体となる.β遮断薬はカテコラミンや交感神経活動によるβ1受容体の刺激を遮断して心拍数の減少,心収縮力の低下をもたらし,心臓の仕事量を軽減させる作用を有する.さらに,心拍数低下にともない拡張期が延長し,特に左冠動脈血流量が増加する.以上より,β遮断薬が第一選択薬となる.必要に応じて硝酸薬,ニコランジルの併用療法を行う.

2 冠攣縮性狭心症に対する治療 冠攣縮とは,心臓の表面を走行する比較的太い冠動脈が一過性に異常に収縮した状態と定義される.冠攣縮によりほぼ完全に冠動脈が閉塞されると貫壁性の虚血が生じ,心電図上ST上昇を伴う狭心発作が生じる.一方,不完全に閉塞されたり,側副血行路が発達していたりする場合には非貫壁性の虚血が生じ,ST低下を伴った狭心発作が生じる.冠攣縮狭心症は欧米人に比し日本人で多く230),冠攣縮性狭心症確定例と疑い例を冠攣縮性狭心症と診断する.なお,その診断基準は日本循環器学会ガイドライン「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン」に準拠し231),確定例および疑い例に対し治療を行う.冠攣縮の治療薬の主たる作用機序は血管平滑筋の弛緩作用であり,カルシウム拮抗薬が中心となり,必要に応じて硝酸薬,ニコランジルを併用する.

3 抗虚血薬各論

①カルシウム拮抗薬

[適応] カルシウム拮抗薬は血管平滑筋細胞へのCa++流入を抑制し,冠攣縮の予防に有用である.成人領域においては冠攣縮性狭心症の第一選択薬とされている232).また,内服により冠攣縮性狭心症の生命予後も良好となる233).川崎病の心筋梗塞は安静時または睡眠時にも発症しており,冠攣縮を合併していると考えられる場合がある234).一方,乳児期に冠攣縮が起こっているとする報告は無いが,生後数ヶ月間は心筋細胞内の筋小胞体は未発達であり,細胞内Ca++濃度は心筋細胞膜Ca++チャンネルを介してのCa++流入に依存しており,カルシウム拮抗薬は禁忌と考えるべきである.ジヒドロピリジン系とベンゾ

チアゼピン系のカルシウム拮抗薬がある.長時間作用型カルシウム拮抗薬は心臓死や非致死性心筋梗塞発症などの心事故を増加させない.但し,うっ血性心不全や,房室ブロックがない場合に限られる.特に,成人領域ではベニジピンが冠攣縮性狭心症の患者生命予後を改善したと報告されている235).ベニジピンは他のカルシウム拮抗薬に比し,有意に冠血管への選択性が高く236),また抗酸化作用も有し237),NOの産生増加による心血管保護作用も高い238).長時間作用型カルシウム拮抗薬を使用した症例の投与を中止した場合にはリバウンド現象が起こることがあり,減量・中止の際には段階的に減量し中止することが重要である.なお,小児の適応はない.(クラス IIb,小児でのエビデンスはない)(表9)

[用量] 成人の使用量を記載する.なお,小児薬用量は成人量より体重換算にて求め使用する.いずれも経口投与である.

●短時間作用型カルシウム拮抗薬:・ アダラート,セパミット : 1回10mgを1日3回・ ベルベッサー : 1回10mgを1日3回●長時間作用型カルシウム拮抗薬・セパミット -R,アダラートL: 1回20mgを1日2回・ アダラートCR: 1回40mgを1日1回・ アムロジン : 1回5mgを1日1回与・ コニール : 1回4mgを1日2回

[禁忌] 妊娠またはその可能性がある場合,心原性ショック,急性心筋梗塞,本剤に薬剤過敏の既往がある場合などが禁忌である.

[副作用(有害事象)] めまい,ほてり,眩暈・ふらつき,動悸,顔面紅潮,頭痛などの循環器症状,悪心・嘔吐などの消化器症状が認められる.しかしいずれも数%以下である.

[使用上の注意事項] 投与を急に中止したときに症状が悪化することがあり,休薬する場合には徐々に減量すること.降圧作用に基づくめまい等が出現することがあるので,高所での作業,自動車運転等危険を伴う機械を操作する際には注意させる. 生後数か月以内の新生児・乳児に対する使用は禁忌とするべきである.

②硝酸薬

[適応]

138 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

 硝酸薬はNOを放出させ,グアニル酸シクラーゼを活性化し,細胞内cGMPを増加させ,動脈・静脈ともに血管拡張作用を発揮する.さらに,硝酸薬はNOを介してRho kinaseの活性化を抑制239).その結果,ミオシン軽鎖のリン酸化が抑制され血管平滑筋が弛緩し血管が拡張する.動脈の拡張に伴い血圧は低下し,後負荷は減少し酸素需要を減少させる.また,静脈の拡張に伴い右室前負荷は減少し,酸素需要を減少させる.労作時狭心症,冠攣縮性狭心症の発作時および発作予防に適応となる.発作時にはニトログリセリンや硝酸イソソルビドの舌下,または口腔内スプレーが有効でさらに発作予防には長時間作用型硝酸薬が有用である.なお,小児の適応はない.(クラスIIb,小児でのエビデンスは無い) (表10)

[用量] 成人の使用量を記載する.なお,小児薬用量は成人量より体重換算にて求め使用する.

●発作時:・ 硝酸イソソルビド : 1錠舌下投与または1噴霧.効果

がない場合には約5分後に再度の舌下または噴霧を行う(成人例).小児では体格に合わせ1/2ないしは1/3錠の舌下投与を行う.・ ニトログリセリン : 1錠舌下投与.効果がない場合には約5分後に再度1錠舌下する(成人例).小児では体格に合わせ1/2ないしは1/3錠の舌下投与を行う.

●発作予防:・ 長時間作用型硝酸薬が有効である.ただし,継続的使用により耐性を生じることがあるので注意する.・ ニトロールR: 1日20mgを1日2回経口投与

[禁忌] 重篤な低血圧症または心原性ショックのある患者,閉塞隅角緑内障の患者,頭部外傷または脳出血のある患者,高度の貧血がある患者,硝酸・亜硝酸エステル系薬剤に過敏症の既往のある患者,PDE5阻害薬を投与中の患者などへの使用は禁忌となる.

[副作用] 熱感・潮紅・めまい・血圧低下・動悸・失神などの循環器症状が0.1%未満認められる.また,頭痛・胃部不

表9 カルシウム拮抗薬の一覧 (成人の使用量を記載する.なお,小児薬用量は成人量より体重換算にて求め使用する)

一般名 商品名 作用機序 剤形 適応 投与経路・用量・用法 作用発現時間 最大血中濃度 血中半減期 主な副作用 注意事項・禁忌

ニフェジピン アダラート

ジヒドロピリジン系Ca++拮抗薬:Ca++

の血管平滑筋細胞および心筋細胞内への流入を抑制

カプセル 本態性高血圧症,腎性高血圧症,狭心症

狭 心 症:1回10mgを1日3回経口投与(成人)

10mg経口投与:1時間後

10mg経口投与時:132.4±23.68ng/mL

10mg経口投与時:1.03±0.11時間

顔面紅潮(1.23%),頭痛(0.93%),めまい(0.61%)など

本剤に過敏症の既往がある患者,妊娠またはその可能性のある場合,心原性ショック,急性心筋梗塞の患者には禁忌

セパミット 同上 錠剤 同上 同上 同上 同上

ニフェジピン徐放剤 アダラートCR 同上 錠剤

高血圧,腎実質性高血圧,腎血管性高血圧,狭心症,異型狭心症

狭 心 症:1回40mgを1日1回経口投与(成人)

経口摂取3時間後 10mg経口投与時:26.1±2.2ng/mL

10mg経口投与時:3.51±0.6時間

頭痛・頭重感(2.77%),顔面紅潮・顔のほてり(2.26%),動悸(1.31%)など

同上

アダラート L 同上 錠剤 同上狭 心 症:20mgを1日2回経口投与(成人)

顔面紅潮(1.20%),めまい(0.7%),頭痛(0.66%)等

同上

セパミット⊖R 同上 細粒,カプセル 同上狭 心 症:1回20mgを1日2回経口投与 (成人)

ほてり・のぼ(0.6%),動悸(0.29%),顔面紅潮(0.25%),下肢浮腫・下腿浮腫・浮腫(0.16%),悪心・嘔吐(0.19%),めまい(0.16%)等

塩酸ジルチアゼム ヘルベッサー ベンゾチアゼピン系Ca++拮抗薬 錠剤 狭心症,異型狭心症,

本態性高血圧

狭 心 症:1回30mgを1日3回経口投与(成人)

60mg経口投与時:3⊖5時間

60mg経口投与時:50ng/mL

60mg経口投与時:約4.5時間

めまい(0.5%),徐脈(0.4%),顔面紅潮(0.2%),房室ブロック(0.2%),消化器(1.4%)など

同上

ベシル酸アムロジピン アムロジン ジヒドロピリジン系Ca++拮抗薬 錠剤 高血圧症,狭心症

狭心症:1回5mgを1日1回経口投与(成人)

2.5mg経口投与時:5.6±1.0時間

2.5mg経口投与時:1.23±0.26ng/mL

2.5mg経口投与時:36.5±4.2時間

ほてり(0.8%),眩暈・ふらつき(0.7%),頭痛・頭重(0.6%),動悸(0.3%)など

妊娠またはその可能性のある場合には禁忌

ベニジピン コニール 同上 錠剤 高血圧症,腎実質性高血圧症,狭心症

狭心症:1回4mgを1日2回経口投与(成人)

4mg経口投与時:0.8±0.3時間

4mg経 口 投 与 時:2.25±0.84 ng/mL

4mg経口投与時:1.7±0.7時間

動悸 (0.5%),顔面紅潮(0.5%),頭痛(0.4%),肝機能障害,など

心原性ショックの患者,妊娠またはその可能性のある場合には禁忌

139循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

快感なども0.1%未満認められる.貼付薬による接触性皮膚炎は数%に認められる.

[使用上の注意事項] 急に投薬を中止することにより症状の悪化が危惧されるため,徐々に投与量を減じる.ただし,過度の血圧低下が起こった場合には,直ちに本剤の投与を中止し,昇圧剤の投与等,必要な処置を行う.起立性低血圧を起こすことがあるので注意する必要がある.

③β遮断薬

[適応] 安定労作性狭心症の第一選択薬はβ遮断薬である.心臓以外の臓器副作用を軽減するためにβ1選択性遮断薬が有効.心筋の仕事量を減少させ酸素消費量を抑制するとともに,拡張期延長に伴い冠血流量を増加させて心筋虚血の発生を予防する.アテノロール,ビソプロロール,メトプロロールが有用である240).但し,冠攣縮が存在すると考えられる状況ではα受容体作用が優位となり,冠トーヌスを亢進させ冠攣縮性狭心症を増悪させ,

予後を悪化させることがあり注意を要する235).カルペジロールはα1遮断効果を有する非選択性β遮断薬であり,冠動脈の末梢抵抗を減少させ冠血流量を増加させる241).冠攣縮性狭心症にβ遮断薬を使う際にはカルシウム拮抗薬,硝酸薬の併用が推奨される.なお,小児の適応は無い.(クラスIIb,小児でのエビデンスはない)(表11)

[用量] 成人の使用量を記載する.なお,小児薬用量は成人量より体重換算にて求め使用する.・ テノーミン : 1回50mgを1日1回・ メインテート:1回5mgを1日1回・ セロケン:1日60~120mgを2~3回に分割・ アーチスト:1回1.25mgを1日2回より開始し,段階的に増量

[禁忌] 気管支喘息・気管支痙攣のある患者,糖尿病性ケトアシドーシス・代謝性アシドーシスがある患者,心原性ショックの患者,高度の徐脈,非代償性の心不全患者,強

一般名 商品名 作用機序 剤形 適応 投与経路・用量・用法 作用発現時間 最大血中濃度 血中半減期 主な副作用 注意事項・禁忌

ニフェジピン アダラート

ジヒドロピリジン系Ca++拮抗薬:Ca++

の血管平滑筋細胞および心筋細胞内への流入を抑制

カプセル 本態性高血圧症,腎性高血圧症,狭心症

狭 心 症:1回10mgを1日3回経口投与(成人)

10mg経口投与:1時間後

10mg経口投与時:132.4±23.68ng/mL

10mg経口投与時:1.03±0.11時間

顔面紅潮(1.23%),頭痛(0.93%),めまい(0.61%)など

本剤に過敏症の既往がある患者,妊娠またはその可能性のある場合,心原性ショック,急性心筋梗塞の患者には禁忌

セパミット 同上 錠剤 同上 同上 同上 同上

ニフェジピン徐放剤 アダラートCR 同上 錠剤

高血圧,腎実質性高血圧,腎血管性高血圧,狭心症,異型狭心症

狭 心 症:1回40mgを1日1回経口投与(成人)

経口摂取3時間後 10mg経口投与時:26.1±2.2ng/mL

10mg経口投与時:3.51±0.6時間

頭痛・頭重感(2.77%),顔面紅潮・顔のほてり(2.26%),動悸(1.31%)など

同上

アダラート L 同上 錠剤 同上狭 心 症:20mgを1日2回経口投与(成人)

顔面紅潮(1.20%),めまい(0.7%),頭痛(0.66%)等

同上

セパミット⊖R 同上 細粒,カプセル 同上狭 心 症:1回20mgを1日2回経口投与 (成人)

ほてり・のぼ(0.6%),動悸(0.29%),顔面紅潮(0.25%),下肢浮腫・下腿浮腫・浮腫(0.16%),悪心・嘔吐(0.19%),めまい(0.16%)等

塩酸ジルチアゼム ヘルベッサー ベンゾチアゼピン系Ca++拮抗薬 錠剤 狭心症,異型狭心症,

本態性高血圧

狭 心 症:1回30mgを1日3回経口投与(成人)

60mg経口投与時:3⊖5時間

60mg経口投与時:50ng/mL

60mg経口投与時:約4.5時間

めまい(0.5%),徐脈(0.4%),顔面紅潮(0.2%),房室ブロック(0.2%),消化器(1.4%)など

同上

ベシル酸アムロジピン アムロジン ジヒドロピリジン系Ca++拮抗薬 錠剤 高血圧症,狭心症

狭心症:1回5mgを1日1回経口投与(成人)

2.5mg経口投与時:5.6±1.0時間

2.5mg経口投与時:1.23±0.26ng/mL

2.5mg経口投与時:36.5±4.2時間

ほてり(0.8%),眩暈・ふらつき(0.7%),頭痛・頭重(0.6%),動悸(0.3%)など

妊娠またはその可能性のある場合には禁忌

ベニジピン コニール 同上 錠剤 高血圧症,腎実質性高血圧症,狭心症

狭心症:1回4mgを1日2回経口投与(成人)

4mg経口投与時:0.8±0.3時間

4mg経 口 投 与 時:2.25±0.84 ng/mL

4mg経口投与時:1.7±0.7時間

動悸 (0.5%),顔面紅潮(0.5%),頭痛(0.4%),肝機能障害,など

心原性ショックの患者,妊娠またはその可能性のある場合には禁忌

140 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

心薬又は血管拡張薬を静脈内に投与する必要のある心不全患者,肺高血圧による右心不全がある患者,うっ血性心不全のある患者,妊娠またはその可能性がある場合,β遮断薬に対する薬剤過敏の既往がある患者には使用禁忌となる.

[副作用] 徐脈,めまい・ふらつきなどの循環器症状が1%以下認められる.その他,倦怠感,悪心・嘔吐,頭痛,肝機能障害などが0.5%以下に認められる.

[使用上の注意事項] 長期投与の場合には定期的に心機能のチェックを行う.本剤使用中の狭心症の患者で急に投薬を中止した際に心筋梗塞を起こすことがあるので,休薬を要する場合

には徐々に減量する.手術前48時間は投与しないことが望ましい.めまい,ふらつきが現れることがあるので,本剤投与中の患者(特に投与初期)には,自動車の運転等危険を伴う機会の作業に注意させる.

④ニコランジル

[適応] ニコランジルはニコチン酸アミド誘導体であり,血管平滑筋細胞のATP感受性K+チャンネルを活性化し細胞内へのCa++流入抑制,筋小胞体からのCa++放出の抑制,cGMP増加による細胞外へのCa++汲み出しの促進などにより,冠動脈拡張と抗冠攣縮作用を有する242),243).カルシウム拮抗薬に抵抗性の冠攣縮性狭心症に対してカルシ

表10 硝酸薬の一覧 (成人の使用量を記載する.なお,小児薬用量は成人量より体重換算にて求め使用する)

一般名 商品名 作用機序 剤形 適応 投与経路・用量・用法 作用発現時間 最大血中濃度 血中半減期 主な副作用 注意事項・禁忌

硝酸イソソルビド

ニトロール

NOを放出させ,グアニル酸シクラーゼを活性化し,細胞内cGMPを増加させる.さらに,NOを介してRho kinaseの活性化を抑制し,ミオシン軽鎖のリン酸化が抑制され,血管拡張作用を発揮する

錠剤,注射剤,スプレー 狭心症発作の寛解

1回1噴霧(1.25mg),効果不十分の場合には1回1噴霧追加(成人 ),1回5~10mgを1日3~4回経口又は舌下投与(成人)

硝酸イソソルビド2.5mg(2回口腔内噴霧)噴霧時:7.7±0.9分

硝酸イソソルビド5mg経口:25.6分

硝酸イソソルビド2.5mg噴霧時:36.5±4.2ng/mL硝酸イソソルビド5mg経口:5.8ng/mL

硝酸イソソルビド2.5mg噴霧時:α相7.5分,β相55.2分

熱感・潮紅・めまい・血圧低下・動悸・失神(0.1%未満),頭痛・発疹・胃部不快感など(0.1%未満)

重篤な低血圧症または心原性ショックのある患者,閉塞隅角緑内障の患者,頭部外傷または脳出血のある患者,高度の貧血がある患者,硝酸・亜硝酸エステル系薬剤に過敏症の既往のある患者,PDE5阻害作用を有する薬剤を投与中の患者

ニトロールR 同上 カプセル狭心症,心筋梗塞(急性期を除く),その他虚血性心疾患

1回1カプセルを1日2回経口投与(成人)

20mg経口投与時:3.5±0.50時間

20mg経口投与時:2.7±0.14ng/mL 同上 同上

フランドル 同上 錠剤,テープ 同上

1回1枚(硝酸イソソルビドとして40mg)24-48時間後に貼りかえる(成人)

硝酸イソソルビド40mg貼 付:12時間

硝酸イソソルビド40mg貼付:2.60±0.2 ng/mL

接触性皮膚炎(5.15%),頭痛(0.98%),血圧低下(0.19%)

同上

ニトログリセリン

ニトロペン 同上 錠剤狭心症,心筋梗塞,心臓喘息,アカラジアの一時的緩解

狭心症:1~2錠を舌下投与.数分後に1~2錠追加可能(成人)

ニトロペン1錠舌下:4分

ニトロペン1錠舌下:1.3 ng/mL

脳貧血,血圧低下,熱感,潮紅,動悸,めまい,頭痛,失神,悪心・嘔吐,尿失禁(いずれも0.1%未満)

同上

ミリスロール 同上 注射剤

手術時の低血圧維持,手術時の異常高血圧の救急処置,急性心不全,不安定狭心症

不安定狭心症:0.1~0.2μg/kg/分 で開始し,約5分ごとに0.1~0.2μg/kg/分ずつ増量し,1~2μg/kg/分で維持

血圧低下(1.6%),頻脈(1.1%),頭痛・頭重(0.4%),など

同上

ニトロダームTTS 同上 貼付剤 狭心症

1日1回1枚(25mg)貼付,効果不十分の場合は2枚に増量(成人)

めまい,頭重,血圧低下,動悸,浮腫,発疹,接触性皮膚炎(いずれも0.1%未満)

同上

ミニトロ 同上 テープ 狭心症

1日1回1枚(27mg)貼付,効果不十分の場合は2枚に増量(成人)

1枚貼付時:3.6±0.8時間

1枚貼付時:0.44±0.25 ng/mL

頭痛(10.7%),頭重(2.5%),発赤(13.5%),発疹(2.8%)

同上

ミリステープ 同上 貼付剤狭心症,急性心不全(慢性心不全の急性増悪期を含む)

1回1枚(5mg) を1日2回,症状により適宜増減する(成人)

1枚貼付時:約1時間

1枚貼付時:0.3ng/mL

動悸,血圧低下,めまい,起立性低血圧,頭痛,頭重,悪心・嘔吐(いずれも0.1%未満)

同上

141循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

ウム拮抗薬との併用療法,さらに,低血圧,徐脈を伴う冠攣縮性狭心症にも有用である.また,ニコラジルはミトコンドリアに作用して心筋虚血のプレコンデイショニング様作用を発揮する.小児の適応は無い.(クラスIIb,小児でのエビデンスはない) (表11)

[用量] 成人の使用量を記載する.なお,小児薬用量は成人量より体重換算にて求め使用する.  ・ シグマート : 1回5mgを1日3回 経口投与

[禁忌] PDE5阻害薬を投与中の患者に対しては使用禁忌

[副作用(有害事象)] 頭痛(3.6%),嘔気・嘔吐(0.44%),めまい(0.15%),

倦怠感(0.12%)など.[使用上の注意事項] 投与開始時には血管拡張作用による拍動性の頭痛を起こすことがあり,減量または中止する.

4 抗血栓療法  (小児の抗血小板薬,抗凝固薬,血栓溶解薬の項を参照)

一般名 商品名 作用機序 剤形 適応 投与経路・用量・用法 作用発現時間 最大血中濃度 血中半減期 主な副作用 注意事項・禁忌

硝酸イソソルビド

ニトロール

NOを放出させ,グアニル酸シクラーゼを活性化し,細胞内cGMPを増加させる.さらに,NOを介してRho kinaseの活性化を抑制し,ミオシン軽鎖のリン酸化が抑制され,血管拡張作用を発揮する

錠剤,注射剤,スプレー 狭心症発作の寛解

1回1噴霧(1.25mg),効果不十分の場合には1回1噴霧追加(成人 ),1回5~10mgを1日3~4回経口又は舌下投与(成人)

硝酸イソソルビド2.5mg(2回口腔内噴霧)噴霧時:7.7±0.9分

硝酸イソソルビド5mg経口:25.6分

硝酸イソソルビド2.5mg噴霧時:36.5±4.2ng/mL硝酸イソソルビド5mg経口:5.8ng/mL

硝酸イソソルビド2.5mg噴霧時:α相7.5分,β相55.2分

熱感・潮紅・めまい・血圧低下・動悸・失神(0.1%未満),頭痛・発疹・胃部不快感など(0.1%未満)

重篤な低血圧症または心原性ショックのある患者,閉塞隅角緑内障の患者,頭部外傷または脳出血のある患者,高度の貧血がある患者,硝酸・亜硝酸エステル系薬剤に過敏症の既往のある患者,PDE5阻害作用を有する薬剤を投与中の患者

ニトロールR 同上 カプセル狭心症,心筋梗塞(急性期を除く),その他虚血性心疾患

1回1カプセルを1日2回経口投与(成人)

20mg経口投与時:3.5±0.50時間

20mg経口投与時:2.7±0.14ng/mL 同上 同上

フランドル 同上 錠剤,テープ 同上

1回1枚(硝酸イソソルビドとして40mg)24-48時間後に貼りかえる(成人)

硝酸イソソルビド40mg貼 付:12時間

硝酸イソソルビド40mg貼付:2.60±0.2 ng/mL

接触性皮膚炎(5.15%),頭痛(0.98%),血圧低下(0.19%)

同上

ニトログリセリン

ニトロペン 同上 錠剤狭心症,心筋梗塞,心臓喘息,アカラジアの一時的緩解

狭心症:1~2錠を舌下投与.数分後に1~2錠追加可能(成人)

ニトロペン1錠舌下:4分

ニトロペン1錠舌下:1.3 ng/mL

脳貧血,血圧低下,熱感,潮紅,動悸,めまい,頭痛,失神,悪心・嘔吐,尿失禁(いずれも0.1%未満)

同上

ミリスロール 同上 注射剤

手術時の低血圧維持,手術時の異常高血圧の救急処置,急性心不全,不安定狭心症

不安定狭心症:0.1~0.2μg/kg/分 で開始し,約5分ごとに0.1~0.2μg/kg/分ずつ増量し,1~2μg/kg/分で維持

血圧低下(1.6%),頻脈(1.1%),頭痛・頭重(0.4%),など

同上

ニトロダームTTS 同上 貼付剤 狭心症

1日1回1枚(25mg)貼付,効果不十分の場合は2枚に増量(成人)

めまい,頭重,血圧低下,動悸,浮腫,発疹,接触性皮膚炎(いずれも0.1%未満)

同上

ミニトロ 同上 テープ 狭心症

1日1回1枚(27mg)貼付,効果不十分の場合は2枚に増量(成人)

1枚貼付時:3.6±0.8時間

1枚貼付時:0.44±0.25 ng/mL

頭痛(10.7%),頭重(2.5%),発赤(13.5%),発疹(2.8%)

同上

ミリステープ 同上 貼付剤狭心症,急性心不全(慢性心不全の急性増悪期を含む)

1回1枚(5mg) を1日2回,症状により適宜増減する(成人)

1枚貼付時:約1時間

1枚貼付時:0.3ng/mL

動悸,血圧低下,めまい,起立性低血圧,頭痛,頭重,悪心・嘔吐(いずれも0.1%未満)

同上

142 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

Ⅱc 抗血小板薬,抗凝固薬,血栓溶解薬

1 序文

 小児を対象に抗凝固・抗血小板療法を行う場合は,小児の止血生理の特異性を理解し,成長発達の過程にあることや新生児から思春期まで体格や体重に幅があることを考慮する.小児の循環器疾患を対象とした抗凝固・抗

血小板療法に対するエビデンスは皆無に近いため,限られた情報と経験に基づき個々の施設で独自の方法が選択されているのが現状であり,ガイドライン作成においてランク付けされたエビデンスを添付することは極めて困難な状況にある.本ガイドラインの作成に際しては日本循環器学会が策定している循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)244)

の小児領域の分野(2003年に施行されたアンケート調査によるデータベースをエビデンス情報の一つとしている),川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)245),心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008年改訂版)246)をもとに,American

表11 ニコランジルおよびβ遮断薬の一覧 (成人の使用量を記載する.なお,小児薬用量は成人量より体重換算にて求め使用する)

一般名 商品名 作用機序 剤形 適応 投与経路・用量・用法 作用発現時間 最大血中濃度 血中半減期 主な副作用 注意事項・禁忌

ニコランジル シグマート

血管平滑筋細胞のATP感受性K+チャンネルを活性化し冠動脈拡張作用と抗冠攣縮作用を発揮する

錠剤,注射剤 狭心症 1回 5mgを 1日 3回経口投与(成人)

シグマート10mg単回投与時:0.55±0.12時間

シグマート10mg単回投与時:152.3±29.1 ng/mL

シグマート10mg単回投与時:0.75時間

頭痛(3.6%),嘔気・嘔吐(0.44%),めまい(0.15%),倦怠感(0.12%)

PDE5阻害作用を有する薬剤を投与中の患者

アテノロール テノーミン β受容体遮断薬 錠剤 本態性高血圧症,狭心症,頻脈性不整脈

狭 心 症:1回50mgを1日1回経口投与(成人)

50mg服薬時:3.8±0.4時間

50mg服薬時:159.8±54.6 ng/mL

50mg服薬時:10.8±2.7時間

徐脈(1.57%),心拍数心リズム障害(1.69%),めまいなどの中枢神経障害(0.84%),倦怠感(0.65%)

本剤に過敏症の既往がある場合,糖尿病性ケトアシドーシス・代謝性アシドーシスがある場合,心原性ショックの患者,肺高血圧による右心不全がある患者,低血圧の患者,重度の末梢循環障害のある患者,未治療の褐色細胞腫の患者

ビソプロロール メインテート 同上 錠剤本態性高血圧症,狭心症,心室性期外収縮

狭心症:1回5mgを1日1回経口投与(成人)

5mg単回投与時:3.1±0.4時間

5mg単回投与時:23.7±1.0ng/mL

5mg単回投与時:8.6±0.3時間

徐脈(1.01%),めまい(0.2%),倦怠感(0.19%),肝機能障害(0.18%),ふらつき(0.14%)

高度の徐脈・房室ブロック(Ⅱ,Ⅲ度)・洞房ブロック・洞不全症候群の患者,糖尿病性ケトアシドーシス・代謝性アシドーシスがある患者,心原性ショックの患者,肺高血圧による右心不全がある患者,うっ血性心不全のある患者,妊娠またはその可能性がある場合

メトプロロール セロケン 同上 錠剤 本態性高血圧症,狭心症,頻脈性不整脈

狭 心 症:1日60~120mgを2~3回に分割経口投与(成人)

40mg単回投与:1.9時間

40mg単回投与:41.8ng/mL

40mg単回投与:2.8時間

徐脈(1.2%),めまい・ふらつき(0.59%),倦怠感(0.31%),悪心・嘔吐(0.26%),頭痛(0.25%),肝機能障害(0.15%)

同上

カルベジロール アーチスト β並びにα 1受容体遮断薬 錠剤 虚血性心疾患,慢性

心不全

虚血性心疾患:1回1.25mgを 1日 2回食後経口投与より開始し,段階的に増量する(成人)

5mg単回投与:0.6±0.1時間

5mg単回投与:13.5±2.3 ng/mL

5mg単回投与:1.95±0.39時間

めまい(1.6%),全身倦怠感(0.8%),眠気(0.8%),頭痛(0.6%),徐脈(0.6%),喘息様症状(0.2%)

気管支喘息・気管支痙攣のある患者ある患者,糖尿病性ケトアシドーシス・代謝性アシドーシスがある患者,心原性ショックの患者,高度の徐脈,非代償性の心不全患者,強心薬又は血管拡張薬を静脈内に投与する必要のある心不全患者,肺高血圧による右心不全がある患者,うっ血性心不全のある患者,妊娠またはその可能性がある場合

143循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

College of Chest Physicians (ACCP)の新生児と小児における抗血栓療法のガイドライン(2008年改訂版)247)

を参考にした.またこれまでに行われた前方視的な無作為化比較試験でエビデンスとなる論文を検索し,小児循環器疾患を対象とした抗凝固・抗血小板療法の適応指針を作成した.   急性心筋梗塞やアテローム血栓性血栓などの動脈血栓の治療の主体は抗血小板薬であり,深部静脈血栓症や心房細動時の左房内血栓などの静脈血栓の治療の主体は抗凝固薬が主体となる.小児に抗血栓療法を行う場合,定期的かつ確実な内服が困難であること,頻回の薬効モニタリングが困難であることなど小児特有の問題が生じ

る.近年,経口抗トロンビン阻害薬や合成Xa阻害薬などが次々と開発された.これらは薬効のモニタリングの必要性がなく一定の抗凝固効果が得られる利点があり,今後循環器疾患にも適応が拡大することが期待されている.現在わが国で保険適応による使用が可能な抗血栓薬(抗血小板薬,抗凝固薬,血栓溶解薬)を表12~14に示す. 抗血栓療法を行う場合には,出血性合併症の危険性を常に考慮する.個々の症例に関して抗血栓療法を行うか否かは,本ガイドラインの推奨の有無にかかわらず,十分なインフォームドコンセントのもとに個別に決定されるべきであり,ガイドラインの推奨を一律に全ての症例

一般名 商品名 作用機序 剤形 適応 投与経路・用量・用法 作用発現時間 最大血中濃度 血中半減期 主な副作用 注意事項・禁忌

ニコランジル シグマート

血管平滑筋細胞のATP感受性K+チャンネルを活性化し冠動脈拡張作用と抗冠攣縮作用を発揮する

錠剤,注射剤 狭心症 1回 5mgを 1日 3回経口投与(成人)

シグマート10mg単回投与時:0.55±0.12時間

シグマート10mg単回投与時:152.3±29.1 ng/mL

シグマート10mg単回投与時:0.75時間

頭痛(3.6%),嘔気・嘔吐(0.44%),めまい(0.15%),倦怠感(0.12%)

PDE5阻害作用を有する薬剤を投与中の患者

アテノロール テノーミン β受容体遮断薬 錠剤 本態性高血圧症,狭心症,頻脈性不整脈

狭 心 症:1回50mgを1日1回経口投与(成人)

50mg服薬時:3.8±0.4時間

50mg服薬時:159.8±54.6 ng/mL

50mg服薬時:10.8±2.7時間

徐脈(1.57%),心拍数心リズム障害(1.69%),めまいなどの中枢神経障害(0.84%),倦怠感(0.65%)

本剤に過敏症の既往がある場合,糖尿病性ケトアシドーシス・代謝性アシドーシスがある場合,心原性ショックの患者,肺高血圧による右心不全がある患者,低血圧の患者,重度の末梢循環障害のある患者,未治療の褐色細胞腫の患者

ビソプロロール メインテート 同上 錠剤本態性高血圧症,狭心症,心室性期外収縮

狭心症:1回5mgを1日1回経口投与(成人)

5mg単回投与時:3.1±0.4時間

5mg単回投与時:23.7±1.0ng/mL

5mg単回投与時:8.6±0.3時間

徐脈(1.01%),めまい(0.2%),倦怠感(0.19%),肝機能障害(0.18%),ふらつき(0.14%)

高度の徐脈・房室ブロック(Ⅱ,Ⅲ度)・洞房ブロック・洞不全症候群の患者,糖尿病性ケトアシドーシス・代謝性アシドーシスがある患者,心原性ショックの患者,肺高血圧による右心不全がある患者,うっ血性心不全のある患者,妊娠またはその可能性がある場合

メトプロロール セロケン 同上 錠剤 本態性高血圧症,狭心症,頻脈性不整脈

狭 心 症:1日60~120mgを2~3回に分割経口投与(成人)

40mg単回投与:1.9時間

40mg単回投与:41.8ng/mL

40mg単回投与:2.8時間

徐脈(1.2%),めまい・ふらつき(0.59%),倦怠感(0.31%),悪心・嘔吐(0.26%),頭痛(0.25%),肝機能障害(0.15%)

同上

カルベジロール アーチスト β並びにα 1受容体遮断薬 錠剤 虚血性心疾患,慢性

心不全

虚血性心疾患:1回1.25mgを 1日 2回食後経口投与より開始し,段階的に増量する(成人)

5mg単回投与:0.6±0.1時間

5mg単回投与:13.5±2.3 ng/mL

5mg単回投与:1.95±0.39時間

めまい(1.6%),全身倦怠感(0.8%),眠気(0.8%),頭痛(0.6%),徐脈(0.6%),喘息様症状(0.2%)

気管支喘息・気管支痙攣のある患者ある患者,糖尿病性ケトアシドーシス・代謝性アシドーシスがある患者,心原性ショックの患者,高度の徐脈,非代償性の心不全患者,強心薬又は血管拡張薬を静脈内に投与する必要のある心不全患者,肺高血圧による右心不全がある患者,うっ血性心不全のある患者,妊娠またはその可能性がある場合

144 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

に適応すべきでない.近い将来,我が国でも小児を対象としたレベルの高いエビデンスが数多く創出され,エビデンスと経験の蓄積に基づいたガイドラインの改訂がなされることを期待する.

2 各種疾患に対する抗凝固・抗血小板療法

1 川崎病

 <推奨>1. 急性期の有熱時には中等量のアスピリン(30~50mg/kg/日,分3)を投与し,解熱後には低用量アスピリン(3~5mg/kg/日,分1)を投与する(クラスⅠ , レベルC).

2. 急性期を過ぎても(回復期),低用量アスピリン(3~5mg/kg/日,分1)を2~3か月間投与する(クラスⅠ , レベルC).3. アスピリンの投与が禁忌の症例では急性期にフルルビプロフェン(3~5mg/kg, 分3 経口投与 )を投与する(クラスⅡa’,レベルC).

4. アスピリン治療期間中,イブプロフェンや他の非ステロイド性抗炎症薬を併用しない(クラスⅡa’,レベルC)5. 冠動脈病変の存在する症例には低用量アスピリン3~5mg/kg/日,分1の投与を継続する(クラスⅠ,レベルC).さらに冠動脈病変の重症度によって,低用量アスピリンとワルファリンの併用や,低用量アスピリンと硫酸クロピドグレル,塩酸チクロピジンやジピリダモールなどの抗血小板薬の併用を考慮する(クラスⅡa’,レベルC)

6. 巨大冠動脈瘤を伴った症例では低用量アスピリンとワルファリンを併用する(クラスⅡa’,レベルC).

7. 心筋梗塞発作時には経皮的冠動脈内血栓溶解療法や抗凝固療法の継続を考慮する(クラスⅡa’,レベルC).

①急性期の抗血栓療法

 アスピリンの投与量は,海外では急性期の14日間まで高用量(80~100mg/kg/日)投与が推奨されている247).我が国でもガンマグロブリン療法が開始される以前は高用量投与が行われていたが,現在は中等量(30

~50mg/kg/日,分3)投与が一般的な治療法として推奨されている.診断時に肝機能障害を認める場合やアスピリン使用中に肝機能障害が出現した場合は,代替薬としてフルルビプロフェンを用いる.小児では3~5mg/kg/日,分3が一般的な用法・用量である. 急性期以降は冠動脈障害のない症例においても概ね3か月間低用量アスピリン3~5mg/kg/日,分1を投与する.これは,発症後3か月間程度,まれには数か月~1年にわたって血小板機能が亢進した状態が持続するためである248)-251).イブプロフェンや他の非ステロイド性抗炎症薬の併用はアスピリンの効果を妨害する可能性があるため,これらの薬剤は避ける.

②冠動脈病変を伴った患者における抗血栓療法

 冠動脈病変を伴った川崎病患者における血栓予防のエビデンスとなりえる前方視的なデータはない.よって推奨は病態生理学的知識や川崎病の小児における後方視的な症例検討,冠動脈疾患をもった成人の経験からの推定に基づいている. 冠動脈瘤を形成した症例では,瘤のサイズに関わらず抗血小板薬を継続して投与する必要があり,低用量アスピリンの投与が標準的治療である.一方,抗凝固薬の適応は,中等~巨大冠動脈瘤形成例,急性心筋梗塞既往例,瘤内の血栓形成疑い例などに限られる.巨大冠動脈瘤における血栓形成の予防にはアスピリンなどの抗血小板薬のみでは不十分であり,ワルファリンの併用が必須である.低用量アスピリンとワーファリン併用療法の有用性は多く報告されており,コンセンサスの得られた抗血栓療法のRegimenである.日本循環器学会(JCS)の川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン(2008年改訂版)220)では,重症度 -Ⅲ(regression群:30病日に動脈瘤を残すが,発症後1年以内に完全に正常化し,かつ狭窄性病変を残さないもの)ではアスピリン,ジピリダモールを用い,重症度に応じて塩酸チクロピジンを加える.重症度 -Ⅳ(冠動脈瘤の残存群:1年以上経ても冠動脈造影で冠動脈瘤を認めるが,狭窄病変のないもの),重症度 -Ⅴ(冠動脈造影検査で狭窄病変を認めるもの)ではワルファリンを加える(表15,図13).2004年のAHAのガイドラインでも巨大冠動脈瘤例や狭窄性病変の合併例に対する血栓予防の最も一般的な治療は,アスピリンとワルファリンの併用である(レベルC)252). わが国の多施設共同研究として巨大冠動脈瘤例に対してワルファリンとアスピリンを3か月以上併用している83例を対象に後方視的に検討を行った結果,心イベン

145循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

ト回避率(臨床的心筋梗塞あるいはそれを防ぐための冠動脈内血栓溶解療法を心イベントとする)は1年の時点で92.5%,10年で91%と良好な成績が得られており,巨大冠動脈瘤例でのアスピリンとワルファリンの併用療法は出血の合併症を伴う危険性はあるものの心イベントを抑制するのに有用である240)(クラスⅡa, レベルC).アスピリン・ワルファリン併用療法の期間については,現在のところ一定した見解はない.

③急性心筋梗塞に対する再灌流療法245)

 できるだけ早期に再灌流に向けた血栓溶解療法あるいは冠動脈インターベンションを開始することが急性期治療として重要である.しかし,小児に対するエビデンスレベルの高い研究はなく,長期的な予後も不明である.また,小児に対する薬剤投与量の基準は定まっていないため,投与に際しては症例ごとに慎重に判断する必要がある.血栓溶解療法の合併症として,カテーテル挿入部位の皮下出血,脳出血,再灌流不整脈に注意する.

2 心房細動などの不整脈に対する血栓予防

<推奨>1. 血栓塞栓症の既往のある症例にはワルファリンの投与を行う(クラスⅠ,レベルB)2. 人口弁(機械弁)置換術後の患者にはワルファリンの投与を行う(クラスⅠ,レベルB)

3. Fontan手術後に心房細動を伴い,Fontan回路内に血栓が認められた場合には禁忌がない限り線溶療法を行う(クラスⅠ,レベルC)4. Fontan手術後や弁膜性の心房細動の症例にはワルファリン投与あるいはワルファリンにアスピリンの追加を行う(クラスⅡb,レベルC)5. 僧帽弁狭窄,心不全または左室収縮力低下を伴う場合やチアノーゼを呈する病態,高血圧や糖尿病の合併,成人年齢に達した場合には血栓塞栓症のリスクが高くなるため,適切な抗血栓療法(ワルファリン療法のみ,またはアスピリンの併用)の開始を考慮する.(クラスⅡb,レベルC)

 成人と異なり小児では特発性心房細動は稀な疾患であり,多くは先天性心疾患術後の合併症として生じる.そのため小児の心房細動などの不整脈に対する血栓予防に関するエビデンスレベルの高い研究は存在せず,多くの施設で成人のエビデンスや海外のガイドラインを参考に

した血栓予防が行われているのが現状であろう. 血栓塞栓症の既往がある症例に関してはワルファリンの投与を行うべきである.また,先天性心疾患の中でも血栓形成傾向の強い循環動態であるFontan型手術後,またはチアノーゼを呈する病態,弁膜性,そして成人年齢に達した場合などに心房細動が確認された場合には発作性,持続性を問わずワルファリン療法(PT-INR1.6~2.5を目標とするが,出血傾向のある時は調整する),またはアスピリンの追加を行う.心房性不整脈の有無にかかわらずFontan型手術後全例にワルファリンを投与している施設ではそのまま継続している.Fontan型手術後でも,成人年齢に達しておらず,運動能良好,Fontan回路内の圧上昇がみられず,血栓もない場合には,心房細動あるいは心房粗動が反復しない限り,アスピリン単独もしくは他の抗血小板薬との併用で経過観察することもあるが,その場合には血栓症の危険についての十分な説明が必要である. 本邦の成人領域のガイドラインでは,心房細動に対して塞栓症のリスクに応じた抗凝固療法が推奨されており253)-258)小児ではこのような塞栓症のリスクに関するエビデンスはないが,脳梗塞など血栓塞栓症の既往のある患者,僧帽弁狭窄,人口弁(機械弁)置換術後の患者は,成人同様に血栓塞栓症の高リスクと考えられる.また,心不全または左室収縮力低下を伴う場合やチアノーゼに呈する病態,高血圧や糖尿病を合併する場合,そして成人年齢に達した場合には血栓塞栓症のリスクが高くなるため,適切な抗血栓療法(ワルファリン療法のみ,またはアスピリンを追加)を行うことが推奨される. 心房細動以外に血栓塞栓症が問題となるものには,心房粗動,洞不全症候群,ペースメーカ治療後,各種不整脈に対する高周波アブレーション後があるが,小児において抗血栓療法を推奨できるエビデンスはない.

3 弁置換後

<推奨>1. 小児における弁置換後のワルファリンによるコントロールは,わが国の成人領域のガイドラインに準じてACC/AHAのガイドラインよりも低めのPT-INRコントロール値の設定が望ましい.(表15参照)1) (クラスⅠ,レベルB)2. 人工弁置換術術後(3か月未満)の症例ではワルファリンによる抗凝固療法を行い,PT-INRを2.0~3.0にコントロールする.(表16参照)244)(クラスⅠ,レベルB)

146 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

3. 機械弁はワルファリン療法の絶対適応であり,弁位に関わらず,機械弁置換術後は成人と同様のワルファリンによる抗凝固療法を生涯継続する.(クラスⅠ,レベルB)4. 機械弁置換術後のワルファリンとアスピリンの併用.(クラスⅡa,レベルB)

5. Ross手術後,約3カ月~1年間のワルファリン投与.(クラスⅡa, レベルC)

6. 大動脈弁,僧帽弁位の生体弁置換術後半年以降の症例でのアスピリンの投与.(クラスⅡa,レベルC)

7. 治療のための抗凝固療法を行っている間に血栓

のイベントがあった場合や full-doseのワルファリンに対する禁忌がある患者ではアスピリン治療を追加する.(クラスⅡa,レベルC)

8. 年長児までの大動脈弁機械弁置換術術後症例におけるワルファリン投与.(クラスⅡb,レベルC)

①弁置換術後の抗凝固療法

 小児では弁置換術後の抗凝固療法に関するエビデンスレベルの高い試験はないため,本ガイドラインでの推奨は小児における使用可能な根拠と成人の海外における抗凝固療法を支持する根拠にもとづき,わが国の成人のガ

表12 抗血小板薬

一般名(商品名) 剤形別の心疾患に対する抗血栓薬としての適応 禁忌 主な副作用 投与経路・用量・用法 作用機序 剤形 血中半減期

(健康成人) コメント

アスピリン(末:アスピリン腸溶錠:バイアスピリン)

末:川崎病(心血管後遺症を含む)腸溶錠:①狭心症・心筋梗塞・虚血性脳血管障害・冠動脈バイパス術あるいは経皮経管冠動脈形成術施行後における血栓・塞栓形成の抑制,②川崎病(心血管後遺症を含む)

末:本剤またはサリチル酸系製剤に対し過敏症の既往歴のある患者,消化性潰瘍のある患者,出血傾向のある患者,アスピリン喘息またはその既往歴のある患者,出産予定日12週以内の妊婦,

腸溶錠 :上記以外は低出生体重児,新生児又は乳児

ショック,アナフィラキシー様症状,出血,Stevens-Johnson症候群,再生不良性貧血,血小板減少,白血球減少,喘息発作の誘発,肝機能障害,黄疸,消化性潰瘍,Reye synd(中等量以上の投与)

末:急性期有熱期間は1日30~50mg/kgを3回に分服,解熱後の回復期から慢性 期 は1日1回3-5mg/kg経口投与腸溶錠(成人):①1日1回100mg経口投与,症状により1回300mgまで増量可,②は末と同様

血小板内のシクロオキゲシナーゼ -1を阻害し,強力な血小板凝集作用を有する血小板内のトロンボキサンA2の産生を阻害して抗血小板効果を示す

末 :99.5%以上腸溶錠:1錠中100mg 2.5~7.0時間

多くの臨床データが蓄積されており,出血の危険性も少なく重篤な副作用が少ないこと,1日1回の内服回数でよいこと,安価であるなどの理由から抗血小板薬の第1選択薬剤である.効果は非可逆的であり血小板寿命期間持続する.大量に用いた場合,血管内皮細胞のCox-2も阻害し抗血小板作用をもつプロスタグランディン I2(Prostaglandin:PGI2)の生成を阻害し,血栓形成促進作用が出現する(アスピリン・ジレンマ).治療の効果判定には血小板凝集能の検査が有用である.15歳未満の水痘,インフルエンザの患者には投与しない(ライ症候群の危険性).川崎病の急性期には肝機能検査を適宜行い,異常が認められた場合には減量・休薬する.手術,心臓カテーテル検査又は抜歯前1週間以内の患者には慎重に投与する.

ジピリダモール (ペルサンチン,アンギナール)

①狭心症,心筋梗塞(急性期を除く),その他の虚血性心疾患,うっ血性心不全,②ワルファリンとの併用による心臓弁置換術後の血栓・塞栓の抑制25mg錠 は ①, ②,100mg錠と除放カプセルは②のみ

本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

高度冠動脈狭窄例での狭心症誘発,盗流現象(正常血管を拡張させ,障害血管の血流を減少させる.少量投与では通常起こりえない),出血傾向,血小板減少,過敏症,頭痛,めまい

経口 2~5mg/kg/日,分3

成人では①1回25mg,1日3回②1日300~400mg,3~4回に分服徐放カプセルは1回150mg,1日2回注 射 : 1回10mg,1日1~3回徐々に静注

血小板内のcyclic AMP phosphodiesteraseやcyclic GMP phosphodiesteraseの活性を阻害することにより血小板内のcAMP濃度やcGMP濃度が上昇し,血小板内の遊離Ca2+濃度が減少

散剤・細粒:12.5%錠剤:1錠中12.5mg,25mg,100mg徐放カプセル:1カプセル中150mg注射液:1アンプル(2ml)中10mg

150mg 経口投与では1.69±0.44時間20mg静注時の半減期は24.6分

相互作用としてキサンチン系製剤が作用を減弱し,アデノシンが作用を増強する.アデノシンとの併用により完全房室ブロック,心停止などが発現することがあるため併用禁忌.徐放カプセルの小児に対する安全性は確立していない.

塩酸チクロピジン(パナルジン)

血管手術及び血液体外循環に伴う血栓・塞栓の治療ならびに血流障害の改善

出血している患者,重篤な肝障害のある患者,白血球減少症の患者,塩酸チクロピジンによる白血球減少症や過敏症の既往歴のある患者

血栓性血小板減少性紫斑病,無顆粒球症,重篤な肝障害,汎血球減少症,赤芽球癆,血小板減少症,出血,中毒性表皮壊死症,消化性潰瘍,急性腎不全,間質性肺炎,SLE様症状

経 口 5~7mg/kg/day,分2

成人では1日200~300mg,食後2-3回に分服

ADP受容体阻害によるcAMP濃度上昇プロドラッグ

細粒:10%錠剤:100mg

細粒:1.58士0.03時間錠:1.61士0.04時間

ADP受容体阻害作用は非可逆的であり,効果は血小板寿命期間持続する.ADP惹起血小板凝集で効果を判定する.血栓性血小板減少性紫斑病,無顆粒球症などの重大な副作用が主に投与開始後2カ月以内に発現し,死亡に至る例も報告されているため,投与開始後2ヶ月間は原則として2週に1回来院し,血液検査を行う.

硫酸クロピドグレル(プラビックス)

経皮的冠動脈形成術が適用される急性冠症候群,定定狭心症,陳旧性心筋梗塞

出血している患者(血友病,頭蓋内・消化管・尿路出血など),本剤の成分に対し過敏症の既往のある患者

出血,肝機能障害,黄疸,血栓性血小板減少性紫斑病,間質性肺炎,無顆粒球症,汎血球減少症,胃腸症状,倦怠感,筋痛,頭痛,発疹

経口 1mg/kg/日,分1 (最大投与量75mg/日)0~24カ 月 の 乳 幼 児 は0.2mg/kg/day分1

成人では開始日に1日1回300mgを投与し,その後維持量として1日1回75mgを投与

ADP受容体阻害による cAMP濃度上昇 錠:25mg,75mg 6.9士0.9時間

(75mg)

塩酸チクロピジンの後継として開発されたチエノピリジン系化合物のADP受容体阻害薬.塩酸チクロピジンに比較し,冠動脈イベント発生率は差がないにもかかわらず,肝機能障害や血液障害などの副作用が有意に少なかったとする報告があり,既に塩酸チクロピジンに替わる薬剤として広く使用されている.小児での使用経験は少なく,安全性は確立していない.重大な副作用が発現することがあるため,投与開始後2ヶ月間は2週間に1回程度の血液検査を行う.アスピリンとの併用では出血傾向に注意.

147循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

イドラインを参考に作成した. 2006年に発表されたAHA/ACCの弁膜症に関するガイドラインでは,成人の弁膜症術後のすべての患者にアスピリンが推奨され,その上でリスク別にワルファリンによる抗凝固療法の推奨域が設定されている.最もリスクの低いグループではアスピリン単独投与,それ以上のリスクが考えられる場合はワルファリンによる抗凝固療法を併用し,中等度のリスク群ではPT-INR2.0~3.0を,高度リスク群ではPT-INR2.5~3.5を治療域としている.アスピリン服用が,困難な高リスク例では,クロピドグレルの併用が推奨されている256),259). 日本人における抗凝固療法については,欧米よりも低

いPT-INRコントロール値で血栓塞栓症に対する予防効果が得られることが経験的に知られている.成人領域では,ACC/AHAのガイドラインをもとに,PT-INRコントロール値の設定がされており,本ガイドラインにおいては小児でも同様のPT-INRコントロール値を設定した(表16)244).1)機械弁 機械弁を用いた弁置換術後に抗凝固療法を行わずに抗血小板剤のみを用いた場合,出血性イベントは減少するものの血栓塞栓症の発症率は約3倍高くなると報告されている260).小児の人工弁置換術を行った患者を対象としたワルファリンと抗血小板剤の比較に関する前方視的

一般名(商品名) 剤形別の心疾患に対する抗血栓薬としての適応 禁忌 主な副作用 投与経路・用量・用法 作用機序 剤形 血中半減期

(健康成人) コメント

アスピリン(末:アスピリン腸溶錠:バイアスピリン)

末:川崎病(心血管後遺症を含む)腸溶錠:①狭心症・心筋梗塞・虚血性脳血管障害・冠動脈バイパス術あるいは経皮経管冠動脈形成術施行後における血栓・塞栓形成の抑制,②川崎病(心血管後遺症を含む)

末:本剤またはサリチル酸系製剤に対し過敏症の既往歴のある患者,消化性潰瘍のある患者,出血傾向のある患者,アスピリン喘息またはその既往歴のある患者,出産予定日12週以内の妊婦,

腸溶錠 :上記以外は低出生体重児,新生児又は乳児

ショック,アナフィラキシー様症状,出血,Stevens-Johnson症候群,再生不良性貧血,血小板減少,白血球減少,喘息発作の誘発,肝機能障害,黄疸,消化性潰瘍,Reye synd(中等量以上の投与)

末:急性期有熱期間は1日30~50mg/kgを3回に分服,解熱後の回復期から慢性 期 は1日1回3-5mg/kg経口投与腸溶錠(成人):①1日1回100mg経口投与,症状により1回300mgまで増量可,②は末と同様

血小板内のシクロオキゲシナーゼ -1を阻害し,強力な血小板凝集作用を有する血小板内のトロンボキサンA2の産生を阻害して抗血小板効果を示す

末 :99.5%以上腸溶錠:1錠中100mg 2.5~7.0時間

多くの臨床データが蓄積されており,出血の危険性も少なく重篤な副作用が少ないこと,1日1回の内服回数でよいこと,安価であるなどの理由から抗血小板薬の第1選択薬剤である.効果は非可逆的であり血小板寿命期間持続する.大量に用いた場合,血管内皮細胞のCox-2も阻害し抗血小板作用をもつプロスタグランディン I2(Prostaglandin:PGI2)の生成を阻害し,血栓形成促進作用が出現する(アスピリン・ジレンマ).治療の効果判定には血小板凝集能の検査が有用である.15歳未満の水痘,インフルエンザの患者には投与しない(ライ症候群の危険性).川崎病の急性期には肝機能検査を適宜行い,異常が認められた場合には減量・休薬する.手術,心臓カテーテル検査又は抜歯前1週間以内の患者には慎重に投与する.

ジピリダモール (ペルサンチン,アンギナール)

①狭心症,心筋梗塞(急性期を除く),その他の虚血性心疾患,うっ血性心不全,②ワルファリンとの併用による心臓弁置換術後の血栓・塞栓の抑制25mg錠 は ①, ②,100mg錠と除放カプセルは②のみ

本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者

高度冠動脈狭窄例での狭心症誘発,盗流現象(正常血管を拡張させ,障害血管の血流を減少させる.少量投与では通常起こりえない),出血傾向,血小板減少,過敏症,頭痛,めまい

経口 2~5mg/kg/日,分3

成人では①1回25mg,1日3回②1日300~400mg,3~4回に分服徐放カプセルは1回150mg,1日2回注 射 : 1回10mg,1日1~3回徐々に静注

血小板内のcyclic AMP phosphodiesteraseやcyclic GMP phosphodiesteraseの活性を阻害することにより血小板内のcAMP濃度やcGMP濃度が上昇し,血小板内の遊離Ca2+濃度が減少

散剤・細粒:12.5%錠剤:1錠中12.5mg,25mg,100mg徐放カプセル:1カプセル中150mg注射液:1アンプル(2ml)中10mg

150mg 経口投与では1.69±0.44時間20mg静注時の半減期は24.6分

相互作用としてキサンチン系製剤が作用を減弱し,アデノシンが作用を増強する.アデノシンとの併用により完全房室ブロック,心停止などが発現することがあるため併用禁忌.徐放カプセルの小児に対する安全性は確立していない.

塩酸チクロピジン(パナルジン)

血管手術及び血液体外循環に伴う血栓・塞栓の治療ならびに血流障害の改善

出血している患者,重篤な肝障害のある患者,白血球減少症の患者,塩酸チクロピジンによる白血球減少症や過敏症の既往歴のある患者

血栓性血小板減少性紫斑病,無顆粒球症,重篤な肝障害,汎血球減少症,赤芽球癆,血小板減少症,出血,中毒性表皮壊死症,消化性潰瘍,急性腎不全,間質性肺炎,SLE様症状

経 口 5~7mg/kg/day,分2

成人では1日200~300mg,食後2-3回に分服

ADP受容体阻害によるcAMP濃度上昇プロドラッグ

細粒:10%錠剤:100mg

細粒:1.58士0.03時間錠:1.61士0.04時間

ADP受容体阻害作用は非可逆的であり,効果は血小板寿命期間持続する.ADP惹起血小板凝集で効果を判定する.血栓性血小板減少性紫斑病,無顆粒球症などの重大な副作用が主に投与開始後2カ月以内に発現し,死亡に至る例も報告されているため,投与開始後2ヶ月間は原則として2週に1回来院し,血液検査を行う.

硫酸クロピドグレル(プラビックス)

経皮的冠動脈形成術が適用される急性冠症候群,定定狭心症,陳旧性心筋梗塞

出血している患者(血友病,頭蓋内・消化管・尿路出血など),本剤の成分に対し過敏症の既往のある患者

出血,肝機能障害,黄疸,血栓性血小板減少性紫斑病,間質性肺炎,無顆粒球症,汎血球減少症,胃腸症状,倦怠感,筋痛,頭痛,発疹

経口 1mg/kg/日,分1 (最大投与量75mg/日)0~24カ 月 の 乳 幼 児 は0.2mg/kg/day分1

成人では開始日に1日1回300mgを投与し,その後維持量として1日1回75mgを投与

ADP受容体阻害による cAMP濃度上昇 錠:25mg,75mg 6.9士0.9時間

(75mg)

塩酸チクロピジンの後継として開発されたチエノピリジン系化合物のADP受容体阻害薬.塩酸チクロピジンに比較し,冠動脈イベント発生率は差がないにもかかわらず,肝機能障害や血液障害などの副作用が有意に少なかったとする報告があり,既に塩酸チクロピジンに替わる薬剤として広く使用されている.小児での使用経験は少なく,安全性は確立していない.重大な副作用が発現することがあるため,投与開始後2ヶ月間は2週間に1回程度の血液検査を行う.アスピリンとの併用では出血傾向に注意.

148 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

研究は,ワルファリン単独群(平均0.16mg/kg/日,PT-INR1.5~2.5)とアスピリン,ジピリダモール2剤併用投与群の比較が行なわれ,出血性イベントは抗血小板薬群では認められなかったが,ワルファリン群の20例中5例に重篤ではないが出血性イベントが認められた.血栓

塞栓症の発生については,2剤併用投与群2例に重篤な血栓塞栓症が認められたのに対し,ワルファリン群では認められなかった.この結果から,ワルファリンは出血性イベントのリスクの増加を伴うものの,血栓塞栓症の予防に関しては抗血小板剤より優れると結論されてい

表13 抗凝固薬

一般名(商品名)

心疾患に対する抗血栓薬としての適応

禁忌 主な副作用 投与経路・用量・用法 作用機序 剤形 血中半減期(健康成人) コメント

ワルファリン(ワーファリン)

血栓塞栓症(静脈血栓症,心筋梗塞症,肺塞栓症,脳塞栓症,緩徐に進行する脳血栓症など)の治療および予防

出血している患者,出血する可能性のある患者,重篤な肝障害・腎障害のある患者,中枢神経系の手術又は外傷後日の浅い患者,本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人,骨粗鬆症治療用ビタミンK2製剤を投与中の患者

脳出血や消化管出血などの出血性副作用,皮膚壊死,肝機能障害,黄疸,過敏症

維持投与量の目安12か月未満:0.16mg/kg/日1歳以上 -15歳未満:0.04~0.10mg/kg/日暫定維持量の計算式:0.04×体重(kg)+0.87日本循環器学会のガイドラインでは0.05~0.12mg/kg/日,分1,PT-INRで1.6~2.5を目標とする.(AHAのガイドラインは0.05~0.34mg/kg/日,PT-INRは2.0~2.5を目標とする)

初回投与量を1日1回経口投与した後,数日間かけて血液凝固能検査で目標治療域に入るように用量調節し,維持投与量を決定する.ワルファリンに対する感受性には個体差が大きく,同一個人でも変化することがあるため,定期的に血液凝固能検査を行い,維持投与量を必要に応じて調節すること.抗凝固効果の発現を急ぐ場合には,初回投与時ヘパリン等の併用を考慮し,治療域 INRの確認後2日を経てヘパリンを中止する.成人における初回投与量は,ワルファリンカリウムとして,通常1~5mg1日1回である.効果発現に3~7日を要するため,投与開始5~7日目にPT-INRを測定し投与量の調節を行う.欧米ではTTR: Tagret therapeutic INR range を2.0~3.0に設定して管理されることが多い.わが国ではTTRを欧米より0.5程度低めに設定し,PT- INRを1.6~2.5程度にコントロールすることが多い.その理由は,確立されたエビデンスがあるわけではなく経験的なもので日本人ではその強度で効果が得られており,欧米人と同等の強度では出血の副作用の頻度が高いと考えられたためである.同じPT-INRを維持するのに必要なワルファリンの投与量は年齢によって異なる.

肝臓での還元型ビタミンKの産生を阻害し,ビタミンK依存性凝固因子(Ⅱ・VII・IX・X因子)の生成を阻害.このため,効果発現が遅い.結果としてPIVKA;Pro te in induced by vitamin K antagonists が血中に出現する.

顆粒・細粒:0.2%錠:0.5mg1mg 2mg 5mg

0.5mg:133±42時

1mg:95±27時

5mg:55±12時

先天性proteinCやproteinS欠乏症では,ワルファリン投与導入時に微小血栓による皮膚壊死を生じることがある.多くの薬剤や食品と相互作用を示す.納豆やほうれんそうなどの緑黄色野菜やクロレラなどは,ビタミンKが多く含まれているためワルファリンの効果を減少させる.ビタミンK強化の人工乳ではワルファリン効果は減弱し,母乳栄養児では容易に効果過剰となる.吸収不良症候群や肝不全,長期の抗生剤投与でもビタミンKの欠乏が惹起されるため,ワルファリンの作用が増強される.経口血糖降下薬,ST合剤,H2ブロッカー,PPI,アセトアミノフェン,蛋白同化ステロイド,EM,フルコナゾール,メトロニダゾールなどがワルファリン作用を増強する.肝臓でのワルファリン代謝を促進して抗凝固作用を減弱するものには,リファンピシン,カルバマゼピン,フェノバルビタールなどがある.凝固能が異常に低下する場合の対応として,通常はワルファリンを一時中断するのみでよいが,出血症状が強い場合などはビタミンKを10~30mg静注する.効果発現には約1日を要する.ワルファリンを長期内服している患者のほとんどは安定した用量反応を維持するが,月1回程度の定期的なモニタリングが必要である.

ヘパリンナトリウム(ノボ・ヘパリン,ヘパリンナトリウム注)

血栓塞栓症(静脈血栓症,心筋梗塞症,肺塞栓症,脳塞栓症,四肢動脈血栓塞栓症,手術中・術後の血栓塞栓症など)の治療および予防

<禁忌>出血性血液疾患,僅少な出血でも重大な結果を来すことが予想される患者

<原則禁忌>出血している患者,出血する可能性のある患者,重篤な肝障害や腎障害のある患者,中枢神経系の手術又は外傷後日の浅い患者,本剤の成分に対し過敏症の既往のある患者,ヘパリン起因性血小板減少症 (hepar in- induced thrombocytopenia:;HIT)の既往歴のある患者

ショック,アナフィラキシー様症状,出血,血小板減少,HIT等 に伴う血小板減少・血栓症

点滴静注:当初から維持量10~20単位/kg/時を持続投与する方法と初期に急速飽和量(50単位/kg)を10分以上かけて静注し,その後維持量を持続投与する方法がある.

成人では点滴静注:10,000~30,000単位を5%ブドウ糖注射液や生食,リンゲル液1,000mLで希釈し,最初1分間30滴前後の速度で,続いて全血凝固時間又はAPTTが投与前の2-3倍になれば1分間20滴前後の速度で,点滴静注する間欠静注法:1回5,000~10,000単位を4~8時間ごとに静注.注射開始3時間後から,2~4時間ごとに全血凝固時間又はAPTTを測定し,投与前の2-3倍になるようにコントロール皮下注・筋注法 : 1回5,000単位を4時間ごとに皮下注又は筋注

血液中のアンチトロンビン(AT)と特異的に結合しATの立体構造を変化させ,トロンビンや活性化第Ⅹ因子への結合不活化速度を増加することで強力な抗凝固作用を示す

注1,000単位/mL5・10・50・100mL

およそ40分(5,000単位静注)

ヘパリンの抗凝固作用はATが欠乏した状況下では効果が減弱するため,ATが70%以下のときはAT製剤を併用する必要がある.ヘパリンの影響はPTよりもAPTTに反映されるのでモニタリングは通常APTTを用いる.注射開始3時間後から,2~4時間ごとにAPTTを測定し,投与前の2倍になるように投与量を調整する.ただし,APTT試薬の種類によりヘパリンに対する感受性が異なるため,根拠に裏付けられたものとは言い難い.ヘパリンを大量に使用する時にはAPTTでは測定可能域を超えるため,ACT (Activated Coagulation Time)を用いてモニタリングする.ACTは測定手技,測定に使用した機器により得られる値に大きな差があり注意を要する.静脈内に投与されたヘパリンの血中半減期は約40分と短く,持続的あるいは間欠的に静脈投与を行う必要がある.一方,皮下投与時には最大効果は約3時間後に出現し,約12時間持続するが,皮下投与では持続静脈投与に比較してヘパリンの生物学的利用能が著しく劣る.ヘパリン投与期間は7~10日程度が推奨されるが,その後使用される経口抗凝固薬は,作用発現までの期間を想定しヘパリン中止の5日前から併用する.ヘパリンを過剰投与した場合は,通常ヘパリンを中止するのみで十分であるが,緊急を要する場合は抗ヘパリン作用をもつ硫酸プロタミンあるいはヘパリナーゼを静注し中和する.

149循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

る261)(クラスⅡa, レベルB).術後出血のリスクが特に高い小児,あるいは出血イベントが発現した小児に対しては,抗血小板療法を抗凝固療法の代替療法として行うこともあるが効果は不十分であり一時的な措置に留める.

2)生体弁 生体弁を用いた場合,AHA/ACCとEuropean Society of Cardiology ESCガイドランで異なる管理法が推奨されており,術後の血栓塞栓予防については未だ議論が多い.

一般名(商品名)

心疾患に対する抗血栓薬としての適応

禁忌 主な副作用 投与経路・用量・用法 作用機序 剤形 血中半減期(健康成人) コメント

ワルファリン(ワーファリン)

血栓塞栓症(静脈血栓症,心筋梗塞症,肺塞栓症,脳塞栓症,緩徐に進行する脳血栓症など)の治療および予防

出血している患者,出血する可能性のある患者,重篤な肝障害・腎障害のある患者,中枢神経系の手術又は外傷後日の浅い患者,本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人,骨粗鬆症治療用ビタミンK2製剤を投与中の患者

脳出血や消化管出血などの出血性副作用,皮膚壊死,肝機能障害,黄疸,過敏症

維持投与量の目安12か月未満:0.16mg/kg/日1歳以上 -15歳未満:0.04~0.10mg/kg/日暫定維持量の計算式:0.04×体重(kg)+0.87日本循環器学会のガイドラインでは0.05~0.12mg/kg/日,分1,PT-INRで1.6~2.5を目標とする.(AHAのガイドラインは0.05~0.34mg/kg/日,PT-INRは2.0~2.5を目標とする)

初回投与量を1日1回経口投与した後,数日間かけて血液凝固能検査で目標治療域に入るように用量調節し,維持投与量を決定する.ワルファリンに対する感受性には個体差が大きく,同一個人でも変化することがあるため,定期的に血液凝固能検査を行い,維持投与量を必要に応じて調節すること.抗凝固効果の発現を急ぐ場合には,初回投与時ヘパリン等の併用を考慮し,治療域 INRの確認後2日を経てヘパリンを中止する.成人における初回投与量は,ワルファリンカリウムとして,通常1~5mg1日1回である.効果発現に3~7日を要するため,投与開始5~7日目にPT-INRを測定し投与量の調節を行う.欧米ではTTR: Tagret therapeutic INR range を2.0~3.0に設定して管理されることが多い.わが国ではTTRを欧米より0.5程度低めに設定し,PT- INRを1.6~2.5程度にコントロールすることが多い.その理由は,確立されたエビデンスがあるわけではなく経験的なもので日本人ではその強度で効果が得られており,欧米人と同等の強度では出血の副作用の頻度が高いと考えられたためである.同じPT-INRを維持するのに必要なワルファリンの投与量は年齢によって異なる.

肝臓での還元型ビタミンKの産生を阻害し,ビタミンK依存性凝固因子(Ⅱ・VII・IX・X因子)の生成を阻害.このため,効果発現が遅い.結果としてPIVKA;Pro te in induced by vitamin K antagonists が血中に出現する.

顆粒・細粒:0.2%錠:0.5mg1mg 2mg 5mg

0.5mg:133±42時

1mg:95±27時

5mg:55±12時

先天性proteinCやproteinS欠乏症では,ワルファリン投与導入時に微小血栓による皮膚壊死を生じることがある.多くの薬剤や食品と相互作用を示す.納豆やほうれんそうなどの緑黄色野菜やクロレラなどは,ビタミンKが多く含まれているためワルファリンの効果を減少させる.ビタミンK強化の人工乳ではワルファリン効果は減弱し,母乳栄養児では容易に効果過剰となる.吸収不良症候群や肝不全,長期の抗生剤投与でもビタミンKの欠乏が惹起されるため,ワルファリンの作用が増強される.経口血糖降下薬,ST合剤,H2ブロッカー,PPI,アセトアミノフェン,蛋白同化ステロイド,EM,フルコナゾール,メトロニダゾールなどがワルファリン作用を増強する.肝臓でのワルファリン代謝を促進して抗凝固作用を減弱するものには,リファンピシン,カルバマゼピン,フェノバルビタールなどがある.凝固能が異常に低下する場合の対応として,通常はワルファリンを一時中断するのみでよいが,出血症状が強い場合などはビタミンKを10~30mg静注する.効果発現には約1日を要する.ワルファリンを長期内服している患者のほとんどは安定した用量反応を維持するが,月1回程度の定期的なモニタリングが必要である.

ヘパリンナトリウム(ノボ・ヘパリン,ヘパリンナトリウム注)

血栓塞栓症(静脈血栓症,心筋梗塞症,肺塞栓症,脳塞栓症,四肢動脈血栓塞栓症,手術中・術後の血栓塞栓症など)の治療および予防

<禁忌>出血性血液疾患,僅少な出血でも重大な結果を来すことが予想される患者

<原則禁忌>出血している患者,出血する可能性のある患者,重篤な肝障害や腎障害のある患者,中枢神経系の手術又は外傷後日の浅い患者,本剤の成分に対し過敏症の既往のある患者,ヘパリン起因性血小板減少症 (hepar in- induced thrombocytopenia:;HIT)の既往歴のある患者

ショック,アナフィラキシー様症状,出血,血小板減少,HIT等 に伴う血小板減少・血栓症

点滴静注:当初から維持量10~20単位/kg/時を持続投与する方法と初期に急速飽和量(50単位/kg)を10分以上かけて静注し,その後維持量を持続投与する方法がある.

成人では点滴静注:10,000~30,000単位を5%ブドウ糖注射液や生食,リンゲル液1,000mLで希釈し,最初1分間30滴前後の速度で,続いて全血凝固時間又はAPTTが投与前の2-3倍になれば1分間20滴前後の速度で,点滴静注する間欠静注法:1回5,000~10,000単位を4~8時間ごとに静注.注射開始3時間後から,2~4時間ごとに全血凝固時間又はAPTTを測定し,投与前の2-3倍になるようにコントロール皮下注・筋注法 : 1回5,000単位を4時間ごとに皮下注又は筋注

血液中のアンチトロンビン(AT)と特異的に結合しATの立体構造を変化させ,トロンビンや活性化第Ⅹ因子への結合不活化速度を増加することで強力な抗凝固作用を示す

注1,000単位/mL5・10・50・100mL

およそ40分(5,000単位静注)

ヘパリンの抗凝固作用はATが欠乏した状況下では効果が減弱するため,ATが70%以下のときはAT製剤を併用する必要がある.ヘパリンの影響はPTよりもAPTTに反映されるのでモニタリングは通常APTTを用いる.注射開始3時間後から,2~4時間ごとにAPTTを測定し,投与前の2倍になるように投与量を調整する.ただし,APTT試薬の種類によりヘパリンに対する感受性が異なるため,根拠に裏付けられたものとは言い難い.ヘパリンを大量に使用する時にはAPTTでは測定可能域を超えるため,ACT (Activated Coagulation Time)を用いてモニタリングする.ACTは測定手技,測定に使用した機器により得られる値に大きな差があり注意を要する.静脈内に投与されたヘパリンの血中半減期は約40分と短く,持続的あるいは間欠的に静脈投与を行う必要がある.一方,皮下投与時には最大効果は約3時間後に出現し,約12時間持続するが,皮下投与では持続静脈投与に比較してヘパリンの生物学的利用能が著しく劣る.ヘパリン投与期間は7~10日程度が推奨されるが,その後使用される経口抗凝固薬は,作用発現までの期間を想定しヘパリン中止の5日前から併用する.ヘパリンを過剰投与した場合は,通常ヘパリンを中止するのみで十分であるが,緊急を要する場合は抗ヘパリン作用をもつ硫酸プロタミンあるいはヘパリナーゼを静注し中和する.

150 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

 後方視検討ではあるが生体弁を用いた弁置換術後に抗凝固療法,抗血小板療法を行わずに血栓塞栓症の発症率を検討した研究では術後1年,7年での血栓塞栓症の発症はそれぞれ1.3%,1.5~1.7%であった262).3)Ross手術後 自己肺動脈弁使用の大動脈弁置換術(Ross手術)の場合には年齢,個々の病態により異なるが,周術期から約3か月~1年間,ワルファリンとアスピリンの併用療法が多い.

4)弁形成術後の抗凝固療法 弁形成術の場合は周術期から術後約半年を過ぎれば無投薬とする.僧帽弁形成術後の抗凝固療法は生体弁置換術に準じ,3か月以降はワルファリンを中止可能である.血栓塞栓の危険因子をもつ場合には,ワルファリンをPT-INR2.0~2.5を維持するように,生涯投与する必要がある244).5)ワルファリン併用の注意

<推奨>1. ワルファリン内服時の安定したPT-INR値維持が困難な場合,あるいは血栓塞栓症の発症がワルファリン単独では予防できないと判断されたとき,あるいはワルファリン単独治療中に血栓塞栓症が発症した場合には,アスピリンとワルファリン両剤を併用する(クラスⅡa,レベルB).

2. 抗血小板薬にワルファリンを併用する場合は,出血のリスクが増大する可能性があり注意が必要である(クラスⅡa,レベルB).

 小児において抗血小板薬とワルファリンを併用した場

表14 血栓溶解薬

一般名(商品名) 心疾患に対する抗血栓薬としての適応 禁忌 主な副作用 投与経路・用量・用法 作用機序 剤形 血中半減期

(健康成人) コメント

ウロキナーゼ(ウロキナーゼ)

12万・24万単位:急性心筋梗塞における冠動脈血栓の溶解(発症後6時間以内)

12万・24万単位:出血している患者,2カ月以内に頭蓋内あるいは脊髄の手術又は損傷を受けた患者,頭蓋内腫瘍,動静脈奇形,動脈瘤のある患者,出血性素因のある患者,重篤な高血圧症患者

12・24万単位:脳出血,消化管出血,心破裂,ショック,不整脈

川崎病では10,000単位/kgを30~60分間かけて静注(成人一日最大投与量は96万単位)

成人12万単位 :生食またはブドウ糖注射液を用いて6000単位/mLに溶解し,48~96万単位を2.4万単位/4mL/分で冠動脈内に注入.24万単位:96万単位を生食またはブドウ糖注射液50~200m Lに溶解し,約30分間で静注.

ヒトの尿中に存在するプラスミノゲンアクチベーター.プラスミノゲンのpeptide結合を開裂させて蛋白分解活性を有するプラスミンを生成する.生成したプラスミンがフィブリンを分解することにより血栓および塞栓を溶解する.

注射:1バイアル中6万単位,12万単位,24万単位

12万単位冠動脈内投与:第1相6.8分,第2相4.4時間,

24万単位:第1相5.7分,第2相4.3時間

血栓溶解療法は血栓症の超急性期に行う.梗塞発現後6時間以上を経過している場合は,臨床的な改善が期待できない.循環血液中の線溶活性を亢進させる.フィブリン親和性が低いため,出血の副作用が問題となる.全身投与よりも血栓近傍への局所投与が有用である.投与法は末梢静脈投与と冠動脈内投与がある.

アルテプラーゼ(遺伝子組換えt-PA製剤)(アクチバシン・グルトパ)

急性心筋梗塞における冠動脈血栓の溶解(発症後6時間以内)

出血している患者,出血するおそれの高い患者,重篤な高血圧症の患者,重篤な肝障害のある患者,急性膵炎の患者,本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者

脳出血,消化管出血などの重篤な出血,出血性脳梗塞,ショック,アナフィラキシー様症状,心破裂,心タンポナーデ,血管浮腫,重篤な不整脈

29万 -43.5万 I.U./kg(0.5~ 0.75 mg/kg)を静注.投与量上限は3,480万 I.U.(60mg)まで.総量の10%を1~2分間で急速投与し,その後残りを1時間で点滴静注する.

(ACCPガ イ ド ラ イ ン で は0.1~0.6mg/kg/hour for 6hoursを推奨)

フィブリン親和性が高く,血栓に特異的に吸着し血栓上でプラスミノゲンをプラスミンに転化させ,これがフィブリンを分解し,血栓を溶解する.

注射:1バイアル中600万 I.U.1,200万 I.U.2,400万 I.U.

T1/2α:6.3士2分T1/2β:84.2士48分

フィブリン親和性が高く,ウロキナーゼに比べて出血の副作用が少ない.投与は発症後できるだけ早期に行う.脳出血による死亡例が認められているため,適応患者の選択を慎重に行い,出血性有害事象の発現に十分注意して経過観察を行う.胸部大動脈解離あるいは胸部大動脈瘤を合併している可能性がある患者では適応を十分に検討する.

モンテプラーゼ(遺伝子組換え改変型 t-PA製剤)(クリアクター)

急性心筋梗塞における冠動脈血栓の溶解(発症後6時間以内)

出血している患者,2カ月以内に頭蓋内あるいは脊髄の手術又は障害を受けた患者,頭蓋内腫瘍,動静脈奇形,動脈瘤のある患者,出血性素因のある患者,重篤な高血圧症患者

重篤な出血,心破裂,心室中隔穿孔,心タンポナーデ,心室細動,心室頻拍,ショック

80,000I.U./mLとなるように生食で溶解し,1分間あたり約10mL(800,000I.U.)の注入速度で投与.27,500I.U./kgを静注

改変型 t-PAt-PAの分子構造を改変することにより,半減期が長く,総投与量を減らした急速単回投与が可能となり,出血傾向の危険性がさらに低下

注射:1バイアル中40万 I.U.80万 I.U.160万 I.U.

T1/2α:23.66士5.2分,T1/2β:7.82士0.6時間

発症後できるだけ早期に投与する.本剤により脳出血が起こることがあるため,適用患者の選択を慎重に行うとともに,投与後の患者の出血の有無を十分に確認する.

表15 川崎病冠動脈病変の重症度分類に対する治療の適応●抗血小板薬(アスピリン,ジピリダモール,パナルジン)  ClassⅠ 重症度分類 Ⅳ,Ⅴ  ClassⅡ 重症度分類 Ⅲ  ClassⅢ 重症度分類 Ⅰ,Ⅱ●抗凝固薬(ワルファリン)  ClassⅠ 重症度分類 Ⅳ,Ⅴ  ClassⅡ 重症度分類 Ⅲ  ClassⅢ 重症度分類 Ⅰ,Ⅱ

循環器病の診断と治療に関するガイドライン研究班:川崎病心臓血管後遺症の診断と治療に関するガイドライン(JCS2008年改訂版)より引用

151循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

合の出血のリスクを検討したエビデンスレベルの高い研究は存在しないが,成人と同様,併用によって血栓症の再発や死亡率の減少が期待できる半面,相乗効果によって,鼻出血,歯肉出血,血尿,頭蓋内出血などの出血のリスクが高まることが予想される.併用時にはPT-INRのコントロール値の変更は必要ないが,PT-INR3.5以上では明らかな出血の危険があり,これを下回るまでワルファリンは減量・中止する.併用療法では,患者を適切に選択する必要があり,併用療法を行うことによって期待される効果とそれに伴うリスクを慎重に検討するべきである.また,重大なイベントを避けるには,PT-INRのモニタリングを含めた日々のきめ細やかな管理が成人以上に重要である.

6)アスピリン,ワルファリンの薬物動態 アスピリン,ワルファリンともに小児のデータはないため,成人のデータを示す.①アスピリン ヒトにアスピリンを経口投与したとき,血漿中未変化体濃度は15~25分後に最高値に達し,2時間後に血漿中より消失する.アスピリンの半減期は2.5~7.0時間

と報告されている.アスピリンは胃と小腸から吸収され,その吸収過程及び生体内(主として肝臓)でサリチル酸に加水分解される.サリチル酸の血中濃度半減期は300~650mg投与時は3.1~3.2時間,1g投与時は5時間,2g投与時は9時間と投与量により増加する.サリチル酸はさらに,生体内でグリシン抱合及びグルクロン酸抱合を受け,また,ごく一部は水酸化を受けゲンチジン酸に代謝される.排泄は主としてサリチル尿酸(約75%),グルクロン酸抱合体(約15%),遊離サリチル酸(10%)などとして腎臓から排泄される.通常,48時間尿中に投与量のほぼ全量が排出される.遊離サリチル酸量は極めて変動が大きく,投与量および尿pHに依存する.尿のpH値が下がると血液中へ再吸収される量が増加して排泄速度が減少する.血中濃度の上昇に伴い,サリチル酸代謝能は飽和に達し,全身クリアランスが低下する.毒性用量投与後では,サリチル酸の半減期は20時間を超えるほど延長することがある.近年アスピリンを服薬しているにもかかわらず,血小板機能抑制が十分でないアスピリン抵抗性の存在が指摘されている.②ワルファリン ワルファリンは光学異性体(S-ワルファリン,R-ワ

一般名(商品名) 心疾患に対する抗血栓薬としての適応 禁忌 主な副作用 投与経路・用量・用法 作用機序 剤形 血中半減期

(健康成人) コメント

ウロキナーゼ(ウロキナーゼ)

12万・24万単位:急性心筋梗塞における冠動脈血栓の溶解(発症後6時間以内)

12万・24万単位:出血している患者,2カ月以内に頭蓋内あるいは脊髄の手術又は損傷を受けた患者,頭蓋内腫瘍,動静脈奇形,動脈瘤のある患者,出血性素因のある患者,重篤な高血圧症患者

12・24万単位:脳出血,消化管出血,心破裂,ショック,不整脈

川崎病では10,000単位/kgを30~60分間かけて静注(成人一日最大投与量は96万単位)

成人12万単位 :生食またはブドウ糖注射液を用いて6000単位/mLに溶解し,48~96万単位を2.4万単位/4mL/分で冠動脈内に注入.24万単位:96万単位を生食またはブドウ糖注射液50~200m Lに溶解し,約30分間で静注.

ヒトの尿中に存在するプラスミノゲンアクチベーター.プラスミノゲンのpeptide結合を開裂させて蛋白分解活性を有するプラスミンを生成する.生成したプラスミンがフィブリンを分解することにより血栓および塞栓を溶解する.

注射:1バイアル中6万単位,12万単位,24万単位

12万単位冠動脈内投与:第1相6.8分,第2相4.4時間,

24万単位:第1相5.7分,第2相4.3時間

血栓溶解療法は血栓症の超急性期に行う.梗塞発現後6時間以上を経過している場合は,臨床的な改善が期待できない.循環血液中の線溶活性を亢進させる.フィブリン親和性が低いため,出血の副作用が問題となる.全身投与よりも血栓近傍への局所投与が有用である.投与法は末梢静脈投与と冠動脈内投与がある.

アルテプラーゼ(遺伝子組換えt-PA製剤)(アクチバシン・グルトパ)

急性心筋梗塞における冠動脈血栓の溶解(発症後6時間以内)

出血している患者,出血するおそれの高い患者,重篤な高血圧症の患者,重篤な肝障害のある患者,急性膵炎の患者,本剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者

脳出血,消化管出血などの重篤な出血,出血性脳梗塞,ショック,アナフィラキシー様症状,心破裂,心タンポナーデ,血管浮腫,重篤な不整脈

29万 -43.5万 I.U./kg(0.5~ 0.75 mg/kg)を静注.投与量上限は3,480万 I.U.(60mg)まで.総量の10%を1~2分間で急速投与し,その後残りを1時間で点滴静注する.

(ACCPガ イ ド ラ イ ン で は0.1~0.6mg/kg/hour for 6hoursを推奨)

フィブリン親和性が高く,血栓に特異的に吸着し血栓上でプラスミノゲンをプラスミンに転化させ,これがフィブリンを分解し,血栓を溶解する.

注射:1バイアル中600万 I.U.1,200万 I.U.2,400万 I.U.

T1/2α:6.3士2分T1/2β:84.2士48分

フィブリン親和性が高く,ウロキナーゼに比べて出血の副作用が少ない.投与は発症後できるだけ早期に行う.脳出血による死亡例が認められているため,適応患者の選択を慎重に行い,出血性有害事象の発現に十分注意して経過観察を行う.胸部大動脈解離あるいは胸部大動脈瘤を合併している可能性がある患者では適応を十分に検討する.

モンテプラーゼ(遺伝子組換え改変型 t-PA製剤)(クリアクター)

急性心筋梗塞における冠動脈血栓の溶解(発症後6時間以内)

出血している患者,2カ月以内に頭蓋内あるいは脊髄の手術又は障害を受けた患者,頭蓋内腫瘍,動静脈奇形,動脈瘤のある患者,出血性素因のある患者,重篤な高血圧症患者

重篤な出血,心破裂,心室中隔穿孔,心タンポナーデ,心室細動,心室頻拍,ショック

80,000I.U./mLとなるように生食で溶解し,1分間あたり約10mL(800,000I.U.)の注入速度で投与.27,500I.U./kgを静注

改変型 t-PAt-PAの分子構造を改変することにより,半減期が長く,総投与量を減らした急速単回投与が可能となり,出血傾向の危険性がさらに低下

注射:1バイアル中40万 I.U.80万 I.U.160万 I.U.

T1/2α:23.66士5.2分,T1/2β:7.82士0.6時間

発症後できるだけ早期に投与する.本剤により脳出血が起こることがあるため,適用患者の選択を慎重に行うとともに,投与後の患者の出血の有無を十分に確認する.

152 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

ルファリン)のラセミ体である.ワルファリンは経口投与後,胃と空腸から極めて良く吸収され,血中では90~99%がアルブミンと可逆的に結合し,不活性な状態で循環している. 健康成人男子にワルファリン0.5mg,1mg又は5mgを絶食下単回経口投与した場合の,最高血中濃度到達時間は0.5~1.0時間で,半減期は55~133時間である.ワルファリンカリウムの単回経口投与時の薬物動態パラメータを表17に示す. 近年,ゲノム薬理学によりワルファリン応答性の個人差に関わる影響因子が明らかになり,S-ワルファリンの代謝酵素であるCYP2C9とワルファリンの標的分子であるビタミンKエポキシド還元酵素(VKORC1)の二つの遺伝子多型が最も重要であることが明らかになった.アジア人および白人においては,このCYP2C9とVKORC1の遺伝子多型と年齢,体重(体表面積)という患者背景因子がワルファリン投与量の決定因子であり,これらによりワルファリン維持量の個人差の約60%程度まで説明できると考えられている263),264).この結

果を踏まえて,米国FDAでは2007年にワルファリン添付文書にワルファリン投与量の影響因子として上記遺伝子多型に関する情報を追加し,同時に両遺伝子検査キットを承認したが,そのアルゴリズムや臨床的有用性は現在のところ確立していない.日本人におけるワルファリンの開始・維持量についてもこれらの遺伝子多型と関連させた検討も進んでおり,今後遺伝子多型に基づいたテーラーメイド医療が行われる可能性がある.

図13 川崎病における抗血栓療法のアルゴリズム

冠動脈拡張あるいは冠動脈瘤

所見なし

小動脈瘤または拡大 : 内径 4mm以下の局所性拡大所見, 年長児(5 歳以上)で周辺冠動脈内径の1.5倍未満のもの

アスピリン 30~ 50mg/kg/日,分 3

心エコー検査,選択的冠動脈造影検査等で得られた所見による重症度分類

中等瘤 : 4mm<内径≦8mm年長児(5 歳以上)で周辺冠動脈内径の 1.5倍から 4倍のもの

アスピリン 30~ 50mg/kg/日,分 3+抗血小板薬 : ジピリダモール 2~ 5mg/kg /日,分3や 塩酸チクロピジン 5~ 7mg/kg /日,分 2,あるいは硫酸クロピドグレル 1mg/kg/日,分 1(0~ 24ヶ月の乳幼児は 0.2mg/kg/日,分 1) を追加,あ る い は 抗 凝 固 薬(ワ ル フ ァ リ ン 0.05~0.12mg/kg/日,分 1,PT-INR1.6~ 2.5)を追加 .

Ⅰ. 拡大性変化がなかった群 : 急性期を含め,冠動脈の拡大性変化を認めない症例Ⅱ:急性期の一過性拡大群 : 第 30病日までに正常化する軽度の一過性拡大を認めた症例

アスピリン 3~5mg/kg/day 分 1×3 ヵ月間

所見が消失するまで抗血小板薬(アスピリン 3~5mg/kg/日,分 1 など)を継続

アスピリンなどの抗血小板薬を継続.巨大冠動脈瘤や冠動脈瘤内血栓例には抗凝固薬も併用して継続.

Ⅲ. Regression群 : 第 30病日においても拡大以上の瘤形成を残した症例で,発症後 1年までに両側冠動脈所見が完全に正常化し,かつ V群に該当しない症例

Ⅳ. 冠動脈瘤の残存群 : 冠動脈造影検査で 1年以上,片側もしくは両側の冠動脈瘤を認めるが,かつ V群に該当しない症例Ⅴ . 冠動脈狭窄性病変群 : 冠動脈造影検査で冠動脈に狭窄性病変を認める症例 (a) 虚血所見のない群 : 諸検査において虚  血所見を認めない症例 (b) 虚血所見を有する群 : 諸検査において   明らかな虚血所見を有する症例

巨大瘤 : 8mm<内径年長児(5歳以上)で周辺冠動脈内径の 4倍を超えるもの .

アスピリン 30~ 50mg/kg/日,分 3+急性期に未分画ヘパリンを使用し,抗凝固薬(ワルファリン 0.05~ 0.12mg/kg/日, 分 1 PT-INR1.6~ 2.5)に移行 .

急性心筋梗塞発症あるいは冠動脈の急激な拡大に伴う血栓様エコーの出現

急性期

急性期以降(回復期)

表17  ワルファリンカリウムの単回経口投与時の 薬物動態パラメータ

投与量(mg) 例数 Cmax

(ng/mL) tmax(hr) AUC0-144

(ng・hr/mL) t1/2(hr)

0.5 24 69±17 0.50(1.25-2.00)

1734±321 133±42

1 22 135±32 0.50(0.25-1.00)

3442±570 95±27

5 24 685±173 1.00(0.25-4.00)

21669±38 51

55±12

平均値±標準偏差,tmaxは中央値(最小値ー最大値)医薬品情報インタビューホームより引用

153循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

7)腎機能低下,肝機能低下時の注意

<推奨>1. 重篤な肝機能障害及び腎機能障害をもつ患者へのワルファリン投与は禁忌である(クラスⅠ,レベルC).

2. 腎機能障害の患者へのアスピリン投与は減量の必要はないが慎重に投与する(クラスⅠ,レベルC).

3. アスピリン内服にて肝機能障害を生じる可能性があるため,重篤な肝機能障害がある場合にはアスピリン投与を控える.投与後は肝機能のモニタリングが必須である(クラスⅠ,レベルC).

Ⅲ 高脂血症治療薬

1 疫学

 動脈硬化の発生には,高脂血症(脂質異常症) などの心血管病の危険因子が関連しており,その動脈硬化病変は,小児期・若年期から始まる265).急速な動脈硬化の進展例としては,高LDLコレステロール血症を示す家族性高コレステロール血症(FH)(小児500人中に1人の割合)がある.FHの動脈硬化の進展速度は遺伝的な背景のない高脂血症に比べて早く,それに伴う臓器障害の程度も強いため,高LDL-コレステロール血症に対する治療は動脈硬化予防を目的としたものとなる.小児期にすでに動脈硬化性変化が生じていることは,Bogalusa H e a r t S t u d yや P a t h o l o g i c a l D e t e r m i n a n t s o f Atherosclerosis in Youth(PDAY)などの剖検所見から

表16 弁置換術および弁形成術における抗凝固療法

術式ワルファリン

非ワルファリンPT-INR 2.0~2.5 PT-INR 2.0~3.0

弁置換術(機械弁)A.大動脈弁置換術 低リスク  ・3ヶ月未満  ・3ヶ月以降B.大動脈弁置換術 高リスクC.僧帽弁置換術

classⅠclassⅠ*

classⅠ

classⅠclassⅠ

弁置換術(生体弁)A.大動脈弁置換術 低リスク  ・3ヶ月未満  ・3ヶ月以降B.大動脈弁置換術 高リスク  ・3ヶ月未満  ・3ヶ月以降C.僧帽弁置換術 低リスク  ・3ヶ月未満  ・3ヶ月以降D.僧帽弁置換術 高リスク  ・3ヶ月未満  ・3ヶ月以降

classⅠ

classⅠ

classⅠ

classⅠ

classⅠ

classⅠ

classⅠ

classⅡa

classⅡa

弁形成術  ・3ヶ月未満  ・3ヶ月以降    ・僧帽弁形成術 低リスク    ・僧帽弁形成術 高リスク

classⅠ

classⅠclassⅡa

高リスクは心房細動,血栓塞栓症の既往,左心機能の低下,凝固亢進状態のいずれかを有する場合.低リスクはいずれも有しない場合.*大動脈弁ディスク型一葉弁やStarr-Edwards弁では,PT-INRを2.0~3.0に維持すべきである.循環器病の診断と治療に関するガイドライン.循環器疾患における抗凝固・抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)より引用

154 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

も証明されており,動脈硬化症のリスクの高いFH患者は,小児期からの予防が極めて重要であると考えられている. FHヘテロ接合体患者に対して,小児期においてどのようにスクリーニングをするべきか,いつからどのような治療を開始するべきか,治療の目標をどのように設定するかについては,コンセンサスを得られていない.  ホモ接合体(100に1人)は小児期から黄色腫を呈し,若年性粥状硬化が心血管系を中心に認められ,乳児でも心筋梗塞を起こす.FHホモ接合体に類する疾患として,ARH(常染色体劣性高コレステロール血症)ホモ接合体,βシトステレミアホモ接合体も,同様に小児期から黄色腫や若年性粥状硬化を呈する. 一般の小児でも,生活習慣により特に飽和脂肪やコレステロールの多い食事の摂取,または肥満などに伴って脂質異常を示すが,これらは一般的に薬物療法の適応にはならず,生活習慣の変更にて対応する.

2 定義

 高脂血症とは血清脂質を構成するコレステロール,トリグリセライド(TG)のいずれか,ないし両方が増加した状態である.「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2007年版」では,HDLコレステロール(HDL-C)が低い場合も加えて脂質異常症と命名した.これは高コレステロール血症(高LDL-C血症)が狭心症,心筋梗塞などの冠動脈疾患(CAD)の重要な危険因子であること,HDL-CはCADの負の危険因子であることがこれまでの国内外の成人疫学研究において示されてきたからである.TGに関しては,血清TG が高くなるとリポ蛋白の質的異常として small dense LDLの増加(小児でも見られる)266),レムナントの増加,また血液凝固線溶系の異常やHDL-Cの低下といった動脈硬化に促進的な変化が生じるので,成人では,CAD の重要な危険因子であると考えられている.しかし,小児ではリポプロテインリパーゼ(LPL)活性が欠損する高カイロミクロン血症のように高TGであっても,心血管病を発症しないので,高TGのための膵炎の危険性がなければフィブラート系の薬剤は通常用いられない.

3 小児の病態と臨床的特徴

1 小児高脂血症の判定基準 日本各地で行われた小児生活習慣病予防健診のデータ

をもとにして作成された判定基準を表18に示した267).高コレステロール血症,高LDL-C血症,低HDL-C血症の基準値は成人の基準値と同じであるが,総コレステロール値,LDL-C値の適正域は成人の場合よりも低く,したがって境界域が広く設定されている.また,高TG血症の基準値も低い.小児期においては年齢とともに血清脂質値が変動する.学童期では,相対的にHDL-C値が高い特徴があるため,高コレステロール血症と判定されても,空腹時にTG,HDL-Cとともに再度測定して,LDL-C値を確認すべきである.

2 小児期薬物療法を必要とする疾患�家族性高コレステロール血症

 ホモ接合体は100万人に1人の出現頻度で稀な疾患であるが,小児期に突然死する場合も多い.最も特徴的な外表所見である著明な黄色腫は幼児期には出現する.冠動脈のみならず大動脈弁や大動脈にも病変が出現するため,診断後直ちに心血管病変の検索が行われるべきである.治療としては,スタチンの効果は限定的であり,定期的なLDLアフェレーシスが必要である.早期に開始するほど,大動脈弁上狭窄は軽度となる.LDL受容体活性の欠損程度が治療効果,予後と関連する268).ホモ接合体と症状が類似した疾患に,常染色体劣性高コレステロール血症(ARH), βシトステロール血症がある.ともに,薬物療法が効果的であり,予後が異なることから,確定診断のためのLDL受容体活性検査,遺伝子検査はかかせない. ヘテロ接合体は500人に1人の頻度であり,小児期に診断されることも稀ではない.小児症例ではほとんどがIIa型高脂血症を呈するが,年少時は比較的コレステロール値が低く,経過とともに上昇してくる症例も報告されている.特に,新生児期の血清脂質値は正常の場合も

表18 小児の血清脂質異常の判定基準総コレステロール(mg/dL)      適正域 <190      境界域 190~219      高 値 ≧220LDLコレステロール(mg/dL)      適正域 <110      境界域 110~139      高 値 ≧140トリグリセライ(mg/dL)      高 値 ≧140HDLコレステロール(mg/dL)      低 値 <40

155循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

多く,診断は困難である269).2歳から18歳の1,000例を超える小児例の報告では,LDL-C値が135mg/dL未満の症例は4.3%であり,近親者での心血管疾患既往がある症例ほどLDL-C値は高値を示す270).HDL-C値,TG値は体格や食事などの影響が大きい.心血管疾患は青年期以降に発症することが多いが,頸動脈内膜中膜肥厚はすでに小児期から認められる271).そこで,小児例に対してもスタチンを用いた薬物療法が試みられ,その有効性と安全性が報告されているが272),長期投与に対する評価はまだ十分とはいえない.高脂血症に対する食餌療法に加えて,運動習慣の獲得,禁煙指導,肥満予防などは動脈硬化進展予防のため,小児症例に対してこそ強調されるべきである273). 日本動脈硬化学会編 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療ガイド 2008年版による家族性高コレステロール血症(FH)の診断基準によれば,小児の未治療のLDL-C値が140mg/dL以上,160mg/dL以上,180mg/dL以上になるに従い,診断確度が上がること,又本人の角膜輪や早発性冠動脈疾患の項目は除外項目となる.すなわち,小児のFH,特にヘテロ接合体に関しては,LDL-C値と家族歴で診断されることになる.

3小児期非薬物療法の疾患ー家族性複合型高脂血症,メタボリックシンドローム

①家族性複合型高脂血症

 わが国の小児生活習慣病健診に基づいた調査では,すでに学童の0.4%(成人の約半数)で発症していると思われる274).小児例では IIa型を示すものが多い.高TG血症は肥満度の上昇,年齢経過とともに出現し,small dense LDLを有する症例も増加する.高apoB血症と高脂血症の家族歴が早期診断に有用である266),275).食事療法と肥満の治療,そして生活習慣の改善が効果的である.小児期に動脈硬化性疾患を発症することはなく,薬物療法の必要性は低い.

②メタボリックシンドローム

 小児における暫定診断基準が2006年日本小児科学会の分野別ワークショップにおいて提言された(表19).小児に特徴的なのは臍周囲径の判定基準で,身長の変化を考慮しウエスト身長比が採用されている. わが国の小児での出現頻度は1%前後で,成人と比べかなり少ないが,近年増加していると思われる276).肥満小児を対象とした報告では15%前後に認められる277).

肥満が高度になるほど出現頻度は高くなる274).また,年齢経過とともに発症することも多く,中等症以上の肥満小児は注意深く管理されるべきである. 近年,胎児期,乳児期早期の環境が発症の背景因子として注目されている.これは,メタボリックシンドロームを発症した成人には低出生体重児が多いという疫学的な事実に基づいている.胎内の低栄養状態により,児の代謝特性がプログラミングされ,さらに出生後の急速な発育(catch-up growth)とともに代謝異常が顕性化すると考えられている.概して,臍帯血中の血清脂質は,早産児ではLDL-C値が高く,低出生体重児ではTG値が高くなる.そして,哺乳開始後1ヶ月の新生児の血清脂質であっても在胎週数や出生体重の影響を受けていることが知られている.今後,発症予防の観点からも早産児,低出生体重児の栄養法が再検討されるべきである. 小児期の治療は生活習慣の改善によって行われる.肥満の改善に伴う内臓脂肪の減少が,各診断項目の改善に効果的である.また,肥満小児を対象とした後方視的研究では,魚食習慣と腹囲の減少とに関連性が認められており,治療にも応用できると思われる278).

4 薬物療法の実際(表20)

 [適応][用量][禁忌][副作用(有害事象)][使用上の注意事項]を中心にまとめたが,いずれの高脂血症治療薬もわが国では,小児等に対する安全性は確立していないので,成人に関する知見の結果をまとめた. ホモ接合体治療に関しては,脂質異常症治療ガイド 2008年版に記載されている.これによると,スタチンなどのLDL受容体活性化を標的とする薬物療法には反応しない.プロブコールはホモ接合体でも一定の総コレステロール値低下効果(LDL-CとHDL-Cの低下)があり,またそれ以上に皮膚黄色腫の縮小や消失を認める報

表19 小児メタボリックシンドロームの診断基準

1)臍周囲径≧80cm(男女とも)かつ/またはウエスト身長比≧0.5

2)血清脂質TG≧120mg/dlかつ/またはHDLC<40mg/dl

3)血圧収縮期血圧≧125mmHgかつ/または拡張期血圧≧70mmHg

4)空腹時血糖 ≧100mg/dl

1)を必須項目として,2),3),4)のうち2つ以上

156 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

表20 小児の家族性高コレステロール血症(FH)、ARH, βシトステロール血症への薬物療法

一般名 商品名 作用機序 剤型適応

(小児)(成人)

投与経路・用量・用法(有効血中濃度)小児用量又は成人用量

最大血中濃度Tmax

血中半減期T1/2

主な排泄経路

主な副作用(%) 注意事項・禁忌

コレスチラミン クエストラン 小腸で胆汁酸を吸着し糞便中に排泄 44.4%散

高コレステロール血症小児等に対する安全性は確立していない.高コレステロール血症

経口 1回9g(無水物4g)を水100mLに懸濁し,1日2~3回

吸収されず,糞便排泄

便秘,腹満,AST,ALT上昇,嘔気・嘔吐,食欲不振、腸閉塞

禁忌:完全胆道閉鎖,イオバノ酸による胆嚢・胆管造影中

コレスチミド コレバイン 小腸で胆汁酸を吸着し糞便中に排泄

錠剤:500mg,ミニ83%包

高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

小児等に対する安全性は確立していない.高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

経口 1回1.5g1日2回 吸収されず,糞便排泄

便秘,腹満,AST,ALT上昇,嘔気・嘔吐,腸閉塞,腸穿孔,横紋筋融解症

禁忌:胆道完全閉塞,腸閉塞

プラバスタチン メバロチン HMG-CoA還元酵素の阻害薬,水溶性

細粒:0.5%,1%,錠剤:5mg,10mg

高脂血症,家族性高コレステロール血症小児等に対する安全性は確立していない.高脂血症,家族性高コレステロール血症

経口 1日10mg,1回又は2回分服,重症:20mg/日 1.1時間 2.7時間 肝障害,血小板減少症,末梢神経

障害,横紋筋融解症,ミオパシー

横紋筋融解症が発現しやすいので,腎機能検査異常者へのフィブラート系との併用注意

シンバスタチン リポバスプロドラッグ,HMG-CoA還元酵素の阻害薬,脂溶性

錠剤:5mg,10mg,20mg

高脂血症,家族性高コレステロール血症

小児等に対する安全性は確立していない.高脂血症,家族性高コレステロール血症

経口 1日1回5mg,最高20mg/日 1.4~3.7時間

腹痛,嘔気・嘔吐,AST,ALT,LDH,CK上昇,掻痒,発疹,横紋筋融解症,ミオパシー

禁忌:重篤な肝障害,妊婦,授乳婦,イトラコナゾール,御子ナゾール,アタザナビル,サキナビル投与中

フルバスタチン ローコール HMG-CoA還元酵素の阻害薬,脂溶性

錠剤:10mg,20mg,30mg

高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

小児等に対する安全性は確立していない.高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

経口 1日1回20mgより開始,重症:60mg/日 0.83時間 1.32時間

胃不快感,嘔気,胸やけ,腹痛,膵炎,横紋筋融解症,ミオパシー,肝機能障害,過敏症

横紋筋融解症が発現しやすいので,腎機能検査異常者へのフィブラート系との併用注意,禁忌:重篤な肝障害,妊婦,授乳婦

アトルバスタチン リピトール HMG-CoA還元酵素の

阻害薬,脂溶性 錠剤:5mg,10mg

高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

小児等に対する安全性は確立していない.高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

経口 1日1回10mgより開始,重症:40mg/日まで 0.6~0.9時間 9.4~10.7時間

AST,ALT,γーGPT, CK上昇,胃不快感,便秘,胸やけ,めまい,不眠,頭痛,全身倦怠感,紋筋融解症,ミオパシー,劇症肝炎,肝炎など

禁忌:肝機能障害(急性・慢性肝炎の急性増悪,肝硬変,肝がん,黄疸),妊婦,授乳婦

ピタバスタチン リバロ HMG-CoA還元酵素の阻害薬,脂溶性 錠剤:1mg,5mg

高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

小児等に対する安全性は確立していない.高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

経口 1日1回1~2mg,4mg/日まで 1.7時間 10.5時間

蕁麻疹,紅斑,口内炎,AST,ALT,γーGPT, CK上昇,胃不快感,嘔気,横紋筋融解症,ミオパシー,黄疸,血小板減少症

横紋筋融解症が発現しやすいので,腎機能検査異常者へのフィブラート系との併用注意,禁忌:重篤な肝障害,胆道閉鎖,シクロスポリン投与中,妊婦,授乳婦

ロスバスタチン クレストール HMG-CoA還元酵素の阻害薬,親水性 錠剤:2.5mg,5mg

高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

小児等に対する安全性は確立していない.高脂血症,家族性高コレステロール血症

経口 1日1回2.5mg,10mg/日まで 4~5時間 15.1時間

筋肉痛,掻痒,蕁麻疹,腹痛,便秘,嘔気,無力症,CK上昇,横紋筋融解症,ミオパシー,肝炎,黄疸,過敏症,不動性めまいなど

横紋筋融解症が発現しやすいので,腎機能検査異常者へのフィブラート系との併用注意、禁忌:肝機能低下(急性・慢性肝炎の急性増悪,肝硬変,肝がん,黄疸),妊婦,授乳婦、シクロスポリン投与中

プロブコール ロレルココレステロールの胆汁中への異化排泄促進作用

細粒:50%,錠剤:250mg

高脂血症(家族性高コレステロール血症,黄色腫)

小児等に対する安全性は確立していない.高脂血症(家族性高コレステロール血症,黄色腫)

経口 1回250mg,2回/日,1,000mg/日まで 18時間 56時間

QT延長,不整脈,失神,横紋筋融解症,消化管出血,末梢神経炎,発疹,掻痒,貧血,白血球減少症,肝機能腎機能障害,CK上昇,空腹時血糖,尿酸上昇など

禁忌:重篤な心室不整脈,妊婦

エゼチミブ ゼチーア 小腸でのコレステロール吸収阻害 錠剤:10mg

高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症,ホモ接合体性シトステロール血症

小児等に対する安全性は確立していない.高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症,ホモ接合体性シトステロール血症

経口 1日10mg,1日1回  2.10時間

便秘,下痢,腹痛,悪心嘔吐,AST,ALT,γーGTP 上昇,横紋筋融解症,アナフィラキシ

157循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

一般名 商品名 作用機序 剤型適応

(小児)(成人)

投与経路・用量・用法(有効血中濃度)

小児用量又は成人用量

最大血中濃度Tmax

血中半減期T1/2

主な排泄経路

主な副作用(%) 注意事項・禁忌

コレスチラミン クエストラン 小腸で胆汁酸を吸着し糞便中に排泄 44.4%散

高コレステロール血症小児等に対する安全性は確立していない.高コレステロール血症

経口 1回9g(無水物4g)を水100mLに懸濁し,1日2~3回

吸収されず,糞便排泄

便秘,腹満,AST,ALT上昇,嘔気・嘔吐,食欲不振、腸閉塞

禁忌:完全胆道閉鎖,イオバノ酸による胆嚢・胆管造影中

コレスチミド コレバイン 小腸で胆汁酸を吸着し糞便中に排泄

錠剤:500mg,ミニ83%包

高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

小児等に対する安全性は確立していない.高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

経口 1回1.5g1日2回 吸収されず,糞便排泄

便秘,腹満,AST,ALT上昇,嘔気・嘔吐,腸閉塞,腸穿孔,横紋筋融解症

禁忌:胆道完全閉塞,腸閉塞

プラバスタチン メバロチン HMG-CoA還元酵素の阻害薬,水溶性

細粒:0.5%,1%,錠剤:5mg,10mg

高脂血症,家族性高コレステロール血症小児等に対する安全性は確立していない.高脂血症,家族性高コレステロール血症

経口 1日10mg,1回又は2回分服,重症:20mg/日 1.1時間 2.7時間 肝障害,血小板減少症,末梢神経

障害,横紋筋融解症,ミオパシー

横紋筋融解症が発現しやすいので,腎機能検査異常者へのフィブラート系との併用注意

シンバスタチン リポバスプロドラッグ,HMG-CoA還元酵素の阻害薬,脂溶性

錠剤:5mg,10mg,20mg

高脂血症,家族性高コレステロール血症

小児等に対する安全性は確立していない.高脂血症,家族性高コレステロール血症

経口 1日1回5mg,最高20mg/日 1.4~3.7時間

腹痛,嘔気・嘔吐,AST,ALT,LDH,CK上昇,掻痒,発疹,横紋筋融解症,ミオパシー

禁忌:重篤な肝障害,妊婦,授乳婦,イトラコナゾール,御子ナゾール,アタザナビル,サキナビル投与中

フルバスタチン ローコール HMG-CoA還元酵素の阻害薬,脂溶性

錠剤:10mg,20mg,30mg

高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

小児等に対する安全性は確立していない.高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

経口 1日1回20mgより開始,重症:60mg/日 0.83時間 1.32時間

胃不快感,嘔気,胸やけ,腹痛,膵炎,横紋筋融解症,ミオパシー,肝機能障害,過敏症

横紋筋融解症が発現しやすいので,腎機能検査異常者へのフィブラート系との併用注意,禁忌:重篤な肝障害,妊婦,授乳婦

アトルバスタチン リピトール HMG-CoA還元酵素の

阻害薬,脂溶性 錠剤:5mg,10mg

高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

小児等に対する安全性は確立していない.高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

経口 1日1回10mgより開始,重症:40mg/日まで 0.6~0.9時間 9.4~10.7時間

AST,ALT,γーGPT, CK上昇,胃不快感,便秘,胸やけ,めまい,不眠,頭痛,全身倦怠感,紋筋融解症,ミオパシー,劇症肝炎,肝炎など

禁忌:肝機能障害(急性・慢性肝炎の急性増悪,肝硬変,肝がん,黄疸),妊婦,授乳婦

ピタバスタチン リバロ HMG-CoA還元酵素の阻害薬,脂溶性 錠剤:1mg,5mg

高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

小児等に対する安全性は確立していない.高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

経口 1日1回1~2mg,4mg/日まで 1.7時間 10.5時間

蕁麻疹,紅斑,口内炎,AST,ALT,γーGPT, CK上昇,胃不快感,嘔気,横紋筋融解症,ミオパシー,黄疸,血小板減少症

横紋筋融解症が発現しやすいので,腎機能検査異常者へのフィブラート系との併用注意,禁忌:重篤な肝障害,胆道閉鎖,シクロスポリン投与中,妊婦,授乳婦

ロスバスタチン クレストール HMG-CoA還元酵素の阻害薬,親水性 錠剤:2.5mg,5mg

高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症

小児等に対する安全性は確立していない.高脂血症,家族性高コレステロール血症

経口 1日1回2.5mg,10mg/日まで 4~5時間 15.1時間

筋肉痛,掻痒,蕁麻疹,腹痛,便秘,嘔気,無力症,CK上昇,横紋筋融解症,ミオパシー,肝炎,黄疸,過敏症,不動性めまいなど

横紋筋融解症が発現しやすいので,腎機能検査異常者へのフィブラート系との併用注意、禁忌:肝機能低下(急性・慢性肝炎の急性増悪,肝硬変,肝がん,黄疸),妊婦,授乳婦、シクロスポリン投与中

プロブコール ロレルココレステロールの胆汁中への異化排泄促進作用

細粒:50%,錠剤:250mg

高脂血症(家族性高コレステロール血症,黄色腫)

小児等に対する安全性は確立していない.高脂血症(家族性高コレステロール血症,黄色腫)

経口 1回250mg,2回/日,1,000mg/日まで 18時間 56時間

QT延長,不整脈,失神,横紋筋融解症,消化管出血,末梢神経炎,発疹,掻痒,貧血,白血球減少症,肝機能腎機能障害,CK上昇,空腹時血糖,尿酸上昇など

禁忌:重篤な心室不整脈,妊婦

エゼチミブ ゼチーア 小腸でのコレステロール吸収阻害 錠剤:10mg

高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症,ホモ接合体性シトステロール血症

小児等に対する安全性は確立していない.高コレステロール血症,家族性高コレステロール血症,ホモ接合体性シトステロール血症

経口 1日10mg,1日1回  2.10時間

便秘,下痢,腹痛,悪心嘔吐,AST,ALT,γーGTP 上昇,横紋筋融解症,アナフィラキシ

158 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

告がある.LDLアフェレーシスの絶対適応であり,体外循環施行が可能となる4~6歳が治療開始となる. ヘテロ接合体に関しては,小児期に冠動脈疾患などの動脈硬化症が臨床的に問題となることはない.しかしながら,小児期に冠動脈疾患の危険因子,中でも高LDL-C血症と肥満を有する患者が,成人の後,IMT,冠動脈石灰化,血管内皮機能の低下を示すエビデンスがあることなどから279)-282),小児期におけるリスクの評価とその対応が重要であると考えられる. すべての小児において,10歳時までに1度は血清脂質値を測定してFHのスクリーニングを行い,評価をうけることが望ましい273),283).LDL-C値が140mg/dLを超える例や家族がFHであると診断された例,高コレステロール血症や若年性冠動脈疾患の家族歴のある例については精査が必要である. 10歳以上小児FHヘテロ接合体患者で,6ヶ月から1年の食事療法や生活習慣の改善によってもLDL-C値の低下が十分でない場合,薬物療法が考慮されることになる.小児FHヘテロ接合体患者に対する薬物療法は,LDL-C値を低下させることを目的とする.小児FHヘテロ接合体に対する薬物療法として用いられるのは胆汁酸吸着レジン(コレスチミド,コレスチラミン),スタチン(プラバスタチン,シンバスタチン,フルバスタチン,アトルバスタチン,ピタバスタチン,ロスバスタチン),プロブコールなどであるが,日本においてはいずれの薬剤もoff labelであり小児における安全性が確立されていない.薬物療法の開始時期や薬剤の選択は,LDL-C値やそのほかのリスク(肥満,糖尿病,高血圧)などを考慮にいれながら,個々の症例で判断する.

1 胆汁酸吸着レジン NCEPガイドラインでは,小児FHヘテロ接合体患者に対しての第一選択薬は胆汁酸吸着レジンとされている284).胆汁酸吸着レジンは,小腸内で胆汁酸を吸着して体外に排泄し,腸肝循環を断絶して体内のコレステロールプールを減少する.体内に吸収されないために,胆汁酸吸着レジンは小児に適しているとされる.副作用として,TG値の上昇や腹痛,便秘などの消化管症状の出現,脂溶性ビタミンの吸収阻害,他の薬剤の吸収阻害などがある.胆汁酸吸着レジンのLDL-C値低下効果は約20%であり,単剤で目標値に到達するのは難しい285).

2 HMGCoA還元酵素阻害薬(スタチン)

 スタチンは,コレステロール合成系の律速酵素である

HMGCoA還元酵素を競合的に阻害して細胞内のコレステロールプールを減少し,LDL受容体の活性を上昇することにより,血清LDL-C値を低下させる.LDL-C値低下効果は20~50%であり,スタチンの種類と用量による.小児に対するスタチンの効果および安全性に関する臨床試験の報告があり286)-292),その脂質低下効果と発達,発育を含めた安全性に問題がないことはメタアナリシスでも一定の結論が出ている293).高コレステロール血症の小児に対して,血管内皮機能の改善や IMTの減少に効果があるという報告もある294),295).しかしながら,小児に対する長期の安全性が確立していないことを鑑み,将来の冠動脈疾患進展を予防する効果と,副作用などのリスクとを考慮した上で投薬開始を決断し,副作用の出現には細心の注意をはらう必要がある.IMTなどにより動脈硬化が進行していると評価される例については,積極的な使用が必要である. スタチンの小児への使用は,肝機能障害,ミオパチー,稀ではあるが横紋筋融解症などの副作用の発症に留意する他,成長および性成熟についてもモニターする必要がある.スタチンは基本的には10歳未満の小児に使用すべきではない.国内では使用経験は少なく安全性は確立していないが,海外ではFDAが,プラバスタチンについて「8歳以上の小児及び青年期のヘテロFHの治療のために食事および生活習慣の改善の補助として,十分な食事療法を施行後もLDL-C≧190mg/dLまたはLDL-C≧160mg/dLかつ早発性の冠動脈疾患家族歴または2つ以上の冠動脈疾患危険因子を有する場合に投与」を認可している(表21).アトルバスタチンについては,「10歳から17歳のヘテロFHで食事療法施行後のLDL-Cが190mg/dL以上,あるいはLDL-Cが160mg/dL以上で冠動脈疾患家族歴または2つ以上の冠動脈疾患危険因子を有する場合,投与量は10mg/日を推奨用量とし,最高用量は20mg/日まで,なお用量調節は4週間以上で行う」ことを認可している296).これは,成人ではアトルバスタチン80mg/日を認可している米国における用量であり,使用する場合は慎重を期する必要があり,用量を増加する際も副作用に十分な注意を払う必要がある.女児に対してスタチンを使用する場合,催奇形性の強い薬剤(FDA分類でX)であることを鑑み297),298),妊娠の可能性には特に注意する必要がある.

3 エゼチミブ エゼチミブは,小腸粘膜に存在するNPC1L1と結合して,食事および胆汁由来のコレステロール吸収を阻害することにより,血中LDL-Cを低下する作用を持つ薬物

159循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

である.エゼチミブは,小児に対する安全性のデータはまだないが,スタチンでコントロールが困難な重症例に併用薬として,また,消化管などへの副作用のために良好なコンプライアンスを得るのが難しいレジンに代わる薬剤として,今後,注目に値する薬剤である.

[参考ガイドライン]日本動脈硬化学会編 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2007年版日本動脈硬化学会編 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症治療ガイド 2008年版

Ⅳ 抗不整脈薬

 不整脈治療はカテーテルアブレーション,植え込み型除細動器(ICD)など非薬物療法の普及とともに大きく変化した.薬物治療はそれまでの主導的治療の立場から非薬物治療法の困難な症例に対する治療へと後退することになった.しかし乳幼児期,解剖学的にアプローチが困難な頻脈性不整脈症例や心室細動など,カテーテルアブレーションの適応が困難な不整脈も存在し未だ薬物治療は重要な治療手段と考えられる.小児不整脈の診断と治療のガイドラインは平成22年に発行された299)日本循環器学会の薬物治療300)のガイドラインとの整合性を図り作成した.

1 上室期外収縮

1 治療の適応 基礎心疾患のない場合は概ね予後は良好であり,出現数が少なく無症状の場合には治療・精査の適応はない.頻発性,自覚症状,他の不整脈のトリガーとなる場合に治療を考慮する.原因がある場合にはその治療や誘因の

除去が優先される.

2 薬物治療 基礎心疾患がなく自覚症状が強い症例では第一選択薬としてβ 遮断薬,第二選択薬としてジソピラミド,シベンゾリン,ピルジカイドなどの遅い解離速度を示すNa チャネル遮断薬,第三選択薬としてプロパフェノンやアプリンジンなど中間の解離速度を示すNaチャネル遮断薬が推奨される. 上室期外収縮が他の不整脈(発作性心房細動,心房粗動等)のトリガーとなる場合にも治療の適応となる.心機能が正常の場合,第一選択薬はβ 遮断薬,第二選択薬は遅い解離速度を示すNa チャネル遮断薬,第三選択薬が中間の解離速度を示すNaチャネル遮断薬となる. 軽度心機能低下では第一選択薬はβ 遮断薬,第二選択薬は中間の解離速度を示すNaチャネル遮断薬,第三選択薬は遅い解離速度を示すNaチャネル遮断薬となる.中等度以上の心機能低下がある場合中間の解離速度を示すNa チャネル遮断薬の中から選択する.心不全合併例ではジギタリスや少量のβ 遮断薬も考慮する301).

2 心房細動

1 治療の適応 基礎心疾患のない小児や若年者において心房細動は極めて稀である.心房細動は僧帽弁疾患,心筋症による心不全(とくに肥大型心筋症),右房拡大を伴ったFontan 術後例,甲状腺機能亢進症,高血圧等の基礎疾患を有する患者で心房細動がみられる302),303).心房細動では血行動態の障害と塞栓症が問題となり,小児でも治療の適応となる.

2 薬物治療の実際 心房細動の治療には心室のレートコントロール,洞調律に戻すリズムコントロールおよび抗凝固療法を考慮する.血行動態が破綻して緊急治療が必須の場合は電気的除細動を行う.ただし抗凝固療法が不十分で血栓,塞栓症のリスクがある場合レートコントロールを優先する.

①心室レートコントロール

 デルタ波のある顕性WPW 症候群や,デルタ波のない場合で治療選択が異なる.1)デルタ波のない場合 房室結節伝導の抑制:

表21  カテゴリーリスクに応じた薬物療法開始および目標 LDLコレステロール値

カテゴリー 主要リスクの数

薬物療法開始を検討すべきLDL コレステロール値(mg/dL)

目標 LDLコレステロール値(mg/dL)

中程度リスク 0 190 160高リスク 1つ以上 160 130

薬物療法は,10歳以上の患児について適応を検討する.

160 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

 Caチャネル遮断薬,β遮断薬,ジギタリスを用いる.ジギタリスは活動時の心拍抑制作用は弱く,心機能が良好な場合はCaチャネル遮断薬やβ遮断薬を選択し必要に応じてジギタリスを併用する.心機能低下がある場合はジギタリスが第一選択となる.慢性心不全でカテコラミンが増加しコントロールが不十分な場合は少量のβ 遮断薬の併用も有用である246).急性期にはまず心拍数を90~100/分以下にすることを目標とする.急速な徐拍化が必要な場合は静注薬を用いる.(クラス IIa レベルC)2)WPW 症候群の場合 レートコントロールの標的は副伝導路となり,Na チャネル遮断薬(ピルジカイド・フレカイニド・プロカインアミド等)やKチャネル遮断薬(ニフェカラント・アミオダロン;これらは適応がない)を選択する.急速な徐拍化が必要な場合は静注薬を使用する.房室結節伝導を抑制するジギタリス・Caチャネル遮断薬などは,副伝導路を介する心房からの興奮伝播を促進するため禁忌となる.心房細動から心室細動への移行が危惧されるため予防的には副伝導路に対するカテーテルアブレーションが望ましい.(クラス IIb レベルC) 成人で慢性期のレートコントロールの目標は,安静時心拍数60~80/ 分,中等度の運動時の心拍数90~115/ 分をめざすことが示されている304).新生児・乳幼児では年齢に応じてそれよりも高い心拍数を目標となる.十分なレートコントロールが得られない場合は,他因子(貧血・甲状腺機能亢進症・感染症・痛み・気管支拡張剤用β刺激薬など)の関与を考慮する必要がある.

②リズムコントロール

 基礎心疾患を有さない孤立性心房細動1)発作性心房細動 心房細動の持続が7日以内の発作性心房細動ではNa チャネル遮断薬が停止に効果的.解離速度の遅いNa チャネル遮断薬(ジソピラミド・ピルジカイド・フレカイニド等)の除細動効果が高い.(クラス IIb レベルC)2)持続性心房細動 心房細動が7 日以上持続しリモデリングの進行した心房ではNa チャネル遮断薬の効果が低く,心機能低下例では副作用を呈しやすいといわれている.アミオダロン・ベプリジル・ソタロールなどのmulti-channel blockerが持続性心房細動の停止に効果があることが示されている246).(クラス IIb レベルC)3)基礎心疾患を有する心房細動 基礎心疾患のある場合は,まずその原因を改善する治

療を検討する.

③抗凝固療法

 塞栓症を起こしやすい危険因子を持っている場合は原則ワルファリンを投与する.危険因子には塞栓・血栓症の既往,心不全,弁膜症,Fontan術後,高血圧などがある.PT-INR 2.0~2.5を目標とする.心房細動が48 時間以上持続した症状では血栓塞栓症の回避のために事前の十分な抗凝固療法が必要である.最低3週間以上の十分なワルファリン療法または経食道心エコー検査で左心耳内血栓のないことを確認した後に直ちにヘパリン投与を開始して早期に除細動を行う.除細動後に新たに心房内血栓が形成される可能性があり,除細動後最低4 週間はワルファリンを投与し,4週間洞調律が維持されていれば抗凝固療法を終了してもよい.(クラス IIb レベルC)

3 心房粗動

1 治療

①血行動態が不安定な場合

 血行動態が破綻している場合には,電気的除細動が優先される.(クラス IIa レベルC)

②血行動態が安定している場合

 レートコントロール:房室結節を抑制する薬物(β遮断薬・ジゴキシン・ベラパミル・ジルチアゼム)を投与する.(クラス IIa レベルC) リズムコントロール:第一選択としては心房筋の不応期延長を目的に中等度以上のK チャネル遮断作用を持つ薬物を選択する.静注薬ではプロカインアミド・ニフェカラント,経口薬ではプロカインアミド・ベプリジル・ソタロールなどである.第二選択は峡部緩徐伝導の抑制を目的とし解離速度の遅いNa チャネル遮断薬を用いる.(クラス IIb レベルC)

4 上室頻拍,心房頻拍

1 薬物療法 多くの上室頻脈にカテーテルアブレーションが適応となるが,新生児・乳幼児やアブレーションを希望しない例,アブレーションが不成功に終わると予測される例で

161循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

は抗不整脈薬による発作の予防を行う.薬物治療は発作停止と再発予防に分けて考える必要がある.

①治療標的

1)WPW 症候群(副伝導路)に伴う房室回帰頻拍 副伝導路を標的とする場合:Naチャネル遮断薬やKチャネル遮断薬が有効である.房室結節を標的とする場合:Caチャネル遮断薬,β遮断薬あるいはATP 急速静注が有効である.(クラス IIa レベルC)2)房室結節リエントリー頻拍 ATP急速静注,Caチャネル遮断薬,あるいはβ遮断薬が有効である.(クラス IIa レベルC)3)心房頻拍 自動能亢進,トリガードアクティビティー,マイクロリエントリーなどの機序がある.したがってβ 遮断薬,ATP,Caチャネル遮断薬,Naチャネル遮断薬,Kチャネル遮断薬が用いられる.β遮断薬,Caチャネル遮断薬は頻拍停止に有効な場合もあり第一選択薬である.ただし心機能低下を伴う場合,いずれの薬剤も投与量,投与方法に注意を要する.第二選択薬としては,Naチャネル遮断薬(フレカイニド,プロパフェノン,プロカインアミド,キニジン,K チャネル遮断薬(ソタロール,アミオダロン)が用いられる.頻拍停止効果が得られない場合には心室レートをコントロールする目的でジゴキシン,β遮断薬,Ca チャネル遮断薬を用いる.(クラス IIb レベルC)

②その他の頻拍停止

 血行動態が破綻し,緊急性を要する場合,電気的除細動を行う.循環動態が落ち着いている場合,反射性に迷走神経を緊張させる手技(アイスバッグ法など)を試みる.(クラス IIa レベルC)

③発作予防

① 中等度以上の心機能低下を示し,心電図上頻拍中のP 波がQRS 波の直前に確認される場合(心房頻拍の可能性が高い)・ 陰性変力作用の少ないNa チャネル遮断薬が第一選択となる.したがってβ遮断作用のないNa チャネル遮断薬のうち中間の解離速度を示すプロカインアミド,キニジン,アプリンジンが用いられる.(クラス IIa レベルC)

② 中等度以上の心機能低下を示し,頻拍中のP 波が確認できないかQRS 直後に認められる場合(房室結節リエントリー性頻拍または房室回帰頻拍の可能性が高

い)・第一選択としてジゴキシンが選択される.ただし顕性WPW 症候群を除く.第二選択としてβ 遮断作用のない中間の解離速度を示すNaチャネル遮断薬であるプロカインアミド,キニジン,アプリンジンを用いる.(クラス IIa レベルC)

 ③ 心機能低下は軽度もしくは正常で,頻拍中P 波がQRS の直前に確認される場合(心房頻拍の可能性が高い.心房内リエントリー頻拍,洞結節リエントリー頻拍,fast-slow型房室結節リエントリー頻拍が含まれるがまれである)・ 心房頻拍に対してはK チャネル遮断作用のある薬剤か中間もしくは遅い解離速度を示すNa チャネル遮断薬を用いる.(クラス IIa レベルC)

 ④ 心機能低下は軽度もしくは正常で,頻拍中P 波が確認できないかQRS の直後に確認される場合(房室結節リエントリー頻拍または房室回帰頻拍の可能性が高い)・ジゴキシン,β 遮断薬,ベラパミルが用いられる.第二選択薬としては房室回帰頻拍を考慮し副伝導路の伝導抑制を目的に速い解離速度を示すNaチャネル遮断薬もしくはK チャネル遮断作用のある薬剤(プロカインアミド,キニジン,ジソピラミド,シベンゾリン,ソタロール)か,中間もしくは遅い解離速度を示すNa チャネル遮断薬(ピルジカイニド,フレカイニド,プロパフェノン,アプリンジン)を用いる.(クラス IIa レベルC)

5 心室期外収縮,特発性非持続性心室頻拍

1 治療の適応(1) 失神,めまい,心停止など症状のあるもの.頻拍誘

発性心筋症,心不全などの既往のあるもの.(2) 運動負荷で再現性をもって,心室拍数200 以上の非

持続性心室頻拍が誘発されるもの.または非持続性心室頻拍多形性心室頻拍が誘発されるもの.

(3) 運動とは無関係に心室拍数200以上の非持続性心室頻拍が繰り返しおこるもの.

(4) 多形性心室頻拍が頻回に見られるもの.

162 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

2 薬物治療

①頻拍停止

 右脚ブロック・左軸偏位型:Caチャネル遮断薬静注,効果がなければβ遮断薬や解離の遅いNa チャネル遮断薬(ジソピラミド305),フレカイニド306),307)など)を投与する.(クラス IIa レベルC) 左脚ブロック・下方軸型:β 遮断薬,効果なければCa チャネル遮断薬や,解離速度の遅いNa チャネル遮断薬を投与する.(クラス IIa レベルC) それ以外の心室頻拍:解離速度の速いNa チャネル遮断薬(リドカイン,メキシレチンなど)を投与する. 通常の抗不整脈薬が無効の場合にはアミオダロンやニフェカラントが適応になる.(クラス IIa レベルC)

②頻拍予防

1)右脚ブロック・左軸偏位型 Caチャネル遮断薬やβ遮断薬の投与を優先して行う.有効でなければNaチャネル遮断薬(メキシレチン308)-310)ジソピラミド,フレカイニドなど)を投与する.(クラス IIa レベルC)2)左脚ブロック・右軸偏位下方軸型 β遮断薬,フレカイニド311),312)などのNa チャネル遮断薬を投与する.(クラス IIa レベルC)3)運動誘発性のものや交感神経緊張時に出現するもの β遮断薬313),314),Ca チャネル遮断薬など.(クラス IIa レベルC)4)交感神経緊張とは無関係もしくははっきりしない場合 結合解離速度の遅いNaチャネル遮断薬(slow drug)(ジソピラミド,フレカイニドなど).通常の抗不整脈薬が無効の場合にはアミオダロン,ソタロール,ベプリジルが適応になる.(クラス IIa レベルC)

6 特発性持続性心室頻拍

1 治療の適応 頻拍が原因の症状または心不全を有するものや心機能低下を認めるもの,運動誘発性で心拍数の速いもの. 心室拍数が120/分以下315)または洞調律とほぼ類似の心拍数で基礎心疾患がなく,心機能障害がなければ原則として治療適応にはならない.

2 治療

①頻拍停止

(1) 血行動態が不安定な場合には緊急に電気的除細動を行う.(クラス IIa レベルC)

(2) 血行動態が不安定でなければ解離速度の速いNaチャネル遮断薬(リドカインやメキシレチンなど)を静注する.有効であれば点滴静注を持続する.

(3) 右脚ブロック・左軸偏位型の心室頻拍   Caチャネル遮断薬(ベラパミル)を静脈内投与する.(クラス IIa レベルC)

(4) 左脚ブロック・下方軸型の心室頻拍   ATPの静脈内投与を行い,効果がなければβ 遮断薬,さらに効果がなければNa チャネル遮断薬の投与を行う.(クラス IIa レベルC)

(5) その他の場合   中間型の解離速度を持つNa チャネル遮断薬(intermediate drug)(プロカインアミドなど)や他のNa チャネル遮断薬を静注する.

②頻拍予防

(1) 右脚ブロック・左軸偏位型の心室頻拍   Ca チャネル遮断薬を投与する.効果がなければβ 遮断薬やNa チャネル遮断薬(ジソピラミド305),プロカインアミド,メキシレチン308)-310),フレカイニド306),307)など)も有効な事が多い.(クラス IIa レベルC)

(2) 左脚ブロック・下方軸型の心室頻拍   β遮断薬やCaチャネル遮断薬を投与する.Naチャネル遮断薬(ジソピラミド297),プロカインアミド,フレカイニド306),307),311),312)など)も有効な事が多い.(クラス IIa レベルC)

(3) 運動時や交感神経緊張時に出現するもの   β遮断薬315),316)やCa チャネル遮断薬を投与する.(クラス IIa レベルC)

(4) 難治性の場合   Kチャネル遮断薬(ソタロール317)など)やアミオダロン318)-320),ベプリジルを投与する.(クラス IIa レベルC)

7 多形性心室頻拍

 多形性心室頻拍は頻拍中のQRS 波形に多形性を認める頻拍で,多くは非持続性で自然停止するが,時に心室

163循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

細動に移行する.多形性心室頻拍はQT 延長を伴っている場合と伴っていない場合に分けられる.この区別は,両者の治療法が異なるので重要である321). QT 延長を伴わない多形性心室頻拍は,心筋炎,心不全,ショックなどの心機能低下に伴って起こる場合が多いが,この場合は心室細動への前駆的不整脈といえる.明らかな心疾患を伴わずおこる多形性心室頻拍(特発性)の代表的なものに,Brugada 症候群,カテコラミン誘発多形性心室頻拍(catecholaminergic polymorphic ventricular tachycardia: CPVT)313),314),322)がある.したがってここでは,小児期発症例の多いCPVTの薬物治療について記載する. CPVT は極めて稀な心室頻拍である313),314),322).本症の定義は,① 3 心拍以上,2 種類以上のQRS 波型をもつ心室頻拍がカテコラミンまたは運動負荷で誘発されること,② 電解質異常,心筋症,虚血性心疾患など多形性心室頻拍のおこりうる病態が存在しないこと,③QT 延長症候群,Brugada 症候群などが否定されたものと定義される.

1 CPVTの機序 CPVTは常染色体優性遺伝例では1q42-q43に存在するリアノジン受容体RyR2の遺伝子異常が323),324),常染色体劣性遺伝例では1p11-p13.3に存在するcalsequestrin2(CASQ2)遺伝子異常が発見された325)-328).これらの異常により,筋小胞体から大量のCa2+放出がおこり,遅延後脱分極を機序とする心室頻拍が起こるとされている.

2 治療の適応 CPVT は予後が不良であり,発見された場合全員が治療の適応となる.

3 治療

①頻拍の停止

 多形性心室頻拍,心室細動が持続し, 血行動態が破綻している場合には,まず電気的除細動を行い,直ちに小児二次救命処置(pediatric advanced life support: PALS)に基づいた救命処置を開始する329,330).(クラス IIa レベルC) 反復する場合にはQT延長の有無や他の原因を検索する.他の原因がある場合には原因治療を行う.CPVTに生じる二方向性心室頻拍や多形性心室頻拍の停止にはβ 遮断薬やATP331),ベラパミルを使用する.CPVTで

ない場合にはアミオダロン,ニフェカラントを投与する.(クラス IIb レベルC)

②頻拍の予防

 CPVTの予防にはβ遮断薬(プロプラノロール,アテノロール)314),332),Ca チャネル遮断薬(ベラパミル)314),332),フレカイニド333),334)が使用される.(クラス IIa レベルC)ICD の適応も考えられているが314),322),反対に頻回作動の危険性も報告されている335).そのほか星状神経節ブロックの有効性も報告されている336),337).(クラス IIb レベルC)

8 QT延長症候群

1 薬物治療

①β遮断薬

 小児のQT 延長症候群は運動やストレスが原因で失神が誘発されるものが大部分である.このような場合の第一選択薬がβ 遮断薬である.(クラス IIa レベルC)

②Naチャネル遮断薬(メキシレチン)

 SCN5Aの機能亢進で発症するLQT3では有効と報告されている.(クラス IIa レベルC)

③硫酸マグネシウム

 torsade de pointes(TdP)の急性期治療として有効である.(クラス IIa レベルC)

④ベラパミル

 Ca チャネル遮断薬の使用例の報告は少ない.しかしLQT8(Timothy 症候群)では使用されることが考えられる.

⑤カリウム

 特にLQT2 で血清K を高値に保つことが有効であったとの報告がある.(クラス IIa レベルC)

164 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

9 抗不整脈薬の適応と用量

1 Naチャネル遮断薬

①速い解離速度を示すNaチャネル遮断薬

1)リドカイン 適応疾患;主に心室頻拍(心房筋に対しては作用が弱い)静注薬;1~2 mg/kg緩徐に静注持続静注;1~3mg/kg/ 時(15~50μg/kg/分)

2)メキシレチン適応疾患:主に心室頻拍(心房筋に対しては作用が弱い),またQT延長症候群(特にLQT3)静注薬;2~3mg/kg 緩徐に静注持続静注;0.4~0.6mg/kg/時経口薬:5~10mg/kg/日

②中間の解離速度を示すNaチャネル遮断薬

1)プロカインアミド適応疾患:期外収縮(上室性,心室性),発作性頻拍(上室性,心室性),心房細動,心室不整脈の予防静注薬;5~10 mg/kg 5 分かけて静注持続静注;20~60 μg/kg/分経口薬:30~50 mg/kg/ 日N-アセチルプロカインアミド(NAPA)は,Kチャネル遮断作用を有する.

2)ジソピラミド適応疾患:心房不整脈,心室不整脈や上室頻拍静注薬:1~2 mg/kg 5~20 分かけて静注経口投与:5~10 mg/kg/日抗コリン作用による心房頻拍時の心室レートの上昇や緑内障の悪化,排尿困難,便秘,他に低血糖や無顆粒球症もみられることがある.

3)アプリンジン適応疾患:頻脈性不整脈静注薬:1~1.5 mg/kg,5mg/分かけて静注.経口薬:1~1.5 mg/kg/日CaチャネルとKチャネルの遮断作用と,洞結節細胞の第4 相において過分極内向き電流を抑制する作用を有する.

③遅い解離速度を示すNaチャネル遮断薬

1)フレカイニド適応疾患;頻脈性不整脈(発作性心房細動・粗動,発作性上室性,心室性)静注薬:1~2 mg/kg,100~150 mg/m2 緩徐に静注.経口薬:3~5 mg/kg/日 小児への適応が承認されている. 小児における経口投与での半減期は1~12歳が約8 時間,1 歳未満と12 歳以上では11時間となっている338).強力なNaチャネル遮断作用と,弱いK チャネル遮断作用を有する.

2)ピルジカイニド適応疾患;頻脈性不整脈(上室性及び心室性)静注薬:1~1.5mg/kg,10分かけて静注経口薬:2mg/kg/日純粋なNaチャネル遮断作用のみを有する

2 Caチャネル遮断薬 ベラパミル,ジルチアゼムは主にL 型Ca チャネルをブロックすることを目的に投与される.ベプリジルはCa チャネル遮断薬に分類されているが,L 型Caチャネル抑制効果のみならず,遅延整流K+ 電流の遅い成分(IKs),速い成分(IKr),心房筋に特異的な非常に速い活性化過程を示す遅延整流K+ 電流(IKur),アセチルコリン感受性K+ 電流(IK,ACh),Na 電流抑制など幅広い作用があり,III 群薬に近い性質を持つ.

①ベラパミル 339),340)

適応疾患;心房細動,心房粗動,発作性上室頻拍,頻脈性不整脈成人:静注薬;5 mg を必要に応じ希釈し,5 分以上かけて緩徐に静注する.経口薬;1 回40~80 mg を1 日3 回経口内服.小児:静注薬;0.1~0.2mg/kg 希釈し5 分以上かけて緩徐に静注する.(但し,1回5mgを超えない)経口薬;3~6 mg/kg/日を分3経口内服.

②ジルチアゼム 339),341)

適応疾患;頻脈性不整脈(上室性)成人:静注薬;上室頻拍症の場合,10mgを必要に応じ希釈し,約3分かけて緩徐に静注する.

165循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

小児:静注薬;0.1~0.2mg/kg 希釈し5分以上かけて緩徐に静注する.

③ベプリジル

適応疾患:持続性心房細動,頻脈性不整脈(心室性):他の抗不整脈薬が使用できないか,又は無効の場合 成人:経口薬;50~100 mg/ 日,分2.小児:経口薬;1~2 mg/kg/ 日を分2経口内服. 有効血中濃度は,感度以下でも有効な場合があり,患者の状態にあわせ少量から開始することが好ましい.

[Caチャネル遮断薬使用上の注意,副作用]① 新生児,乳児期には禁忌とされる.ベラパミル,ジルチアゼムは陰性変力作用を有するため心機能の低下を伴う患者には慎重投与が必要である.陰性変力作用を有する他薬剤との併用時にも注意を要する.またCa チャネル遮断薬の過量投与は,完全房室ブロック342),ショック343)や死亡の原因344),345)になりうるので,投薬量,方法について詳細に保護者等に説明を行うと同時に誤飲予防の説明を行う.② 乳児期以降の患者においても心機能の低下した患者には注意を要する.③ グレープフルーツはチトクロームP450 の一種である

CYP3A4 の活性を阻害し血中濃度を上昇させ副作用の発現が高まる.④ ベプリジルの特異的作用は,アミオダロンと同様,陰性変力作用は少ないが,心室筋の IKr,IKsを抑制することによるQT延長に注意する必要がある.ベプリジルによるQT dispersionがβ遮断薬との併用で減少することが報告されておりTdPの発生が抑制される可能性346)がある.

3 Kチャネル遮断薬

①アミオダロン

適応疾患;ほとんどの上室性,心室性頻脈性不整脈に対して有効である可能性があるが,後述のような副作用の問題があり,一般に他の抗不整脈薬が無効な場合や致死的な不整脈に対して用いる薬剤として位置づけられている.小児でも先天性心臓病術後を含む様々な不整脈に対する有効性が報告されている.静注薬:

初期投与量5 mg/kg(30 分以上かけて)または1 mg/kg bolus を5 回まで(5 分以上間隔をあけて),維持量10 mg/kg/日.経口薬:初期投与量は10~20 mg/kg(分1~2),1~2 週間,維持量は5~10 mg/kg(分1~2).有効血中濃度:500~1000 ng/mL.

 Saulら347)の小児を対象としたアミオダロンの効果に関する前方視的研究(対象:日齢30~14.9 歳,中央値1.6歳の小児61例:上室頻拍26例,JET31例,心室頻拍4例)では,効果が出るまでの時間は1 mg/kg,5 mg/kg,10 mg/kgでそれぞれ28.2,2.6,2.1時間(中央値)で初期投与量に比例すると報告され,初期投与量 1 mg/kg では十分な効果が得られないと結論している.副作用は87%に認められ,多い順に,低血圧,嘔吐,徐脈,房室ブロック,吐気であった.アミオダロン投与自体が原因となった可能性のある死亡が2 例あるため,小児では副作用の出現に十分注意すべきである. 以上より,小児の重症頻脈性不整脈に対する静注アミオダロンの投与法は,初期投与量5mg/kgをゆっくり静注し,必要に応じて初期投与量と同量を1~2 回追加し,10~20 mg/kg/日を数日間維持する方法が適切と考えられる. Kチャネル遮断作用は心房筋,心室筋,プルキンエ線維,洞結節,房室結節を含むすべての心筋細胞のAPD,不応期を延長,Na チャネル遮断作用,β 受容体遮断作用,Ca チャネル遮断作用としての性質を合わせ持つ.他の抗不整脈薬にみられない特徴として,心収縮能の抑制が少ないこと,血中濃度の半減期が3~15 週間と極めて長いことがあげられる.ほとんどが肝臓代謝である.副作用は,心外毒性として肺線維症,甲状腺機能障害,角膜沈着,光線過敏,発疹,頭痛,嘔吐などがあり,心電図変化としてはRR,PR,QRS,QT 時間の延長がみられ,TdPの発症がある.

②ソタロール

適応疾患;心室頻拍,アミオダロンと同様である.経口薬:1~2 mg/kg から始め,6 mg/kg まで増量(分2),または2 歳以上の小児に対して体表面積換算で,90~100 mg/m2/日(分2)で開始し,最大250mg/m2/日.新生児および6 歳以上では2mg/kg/日で開始し,目標維持量は4mg/kg/日,新生児を除く6 歳以下の乳幼児では3mg/kg/日で開始し,目標維持量は6mg/kg/日とされている348). 有効血中濃度:800~5,000ng/mL. 心筋の早く活性化される遅延整流K チャネル電流

166 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

(IKr)を抑制してAPD を延長させ,心房筋,心室筋,房室結節,房室副伝導路(順行性,逆行性伝導の両者)の不応期を延長させる.ソタロールはK チャネル抑制に加え II 群(β 受容体遮断薬)としての作用を合わせ持つ. 副作用としては疲労感,めまい,呼吸困難など.催不整脈性は約10%にみられ,徐脈349),最も重篤なものはQT 延長に伴うTdPがある.特に徐脈や低カリウム血症はTdP発症の誘因となるため注意を要する.

③ニフェカラント(シンビット)

適応疾患:先天性心疾患術後の接合部異所性頻拍(JET)に対する有効性などが報告されている350).静注薬:初期投与量0.15~0.3 mg/kg(10 分かけて)    維持量0.2~0.4 mg/kg/時.    有効血中濃度:不明. 純粋な IKr チャネル遮断作用を持つ.難治性の心室頻拍,心室細動に対して高い抑制効果があるとともに,心室細動に対する除細動閾値を低下させることが知られている351). 副作用として問題になるのは III群薬に共通のものとしてQT 延長に起因するTdPや徐脈がある.

4 β受容体遮断薬 β受容体遮断薬にはβ1受容体選択性(心臓選択性)と非選択性がある. β1受容体選択性薬剤としてはアテノロール,メトプロロール,ビソプロロールなど,非選択性としてはプロプラノロール,カルテオロール,ナドロールなどがある.適応疾患:洞性頻拍や異所性心房頻拍のレートの減少,心房細動における房室伝導能の低下による心拍数の減少,房室回帰頻拍,房室結節リエントリー性頻拍の停止・予防を目的として使用されるほか,カテコラミン誘発性多形心室頻拍,トリガードアクティビティーが原因と考えられる右室流出路起源心室性不整脈,先天性QT 延長症候群に対して有効である.

①プロプラノロール

静注薬:0.05~0.1 mg/kgをゆっくり静注.経口薬:1~4 mg/kg/日(分3~4)有効血中濃度:50~100 ng/mL. 小児領域で最も使用頻度の高いβ遮断薬である.副作用としては,心収縮能低下,房室ブロック,低血糖,気管支攣縮,中枢神経症状などがある.中枢神経症状としては抑うつ症,睡眠障害などがある.気管支攣縮や低

血糖の既往がある場合はメトプロロールを,睡眠障害がある場合はアテノロールを使用することが推奨されている.

②アテノロール

経口薬:0.5~2 mg/kg/日(分1)有効血中濃度:200~500 ng/mL. 副作用としては初期に疲労感を訴えることがあるが,投与中止を必要とする例はほとんどない.血液脳関門を通過しないため,中枢神経系の副作用はプロプラノロールよりも少ない.

③ナドロール

経口薬:0.5~2.5 mg/kg/日(分1)有効血中濃度:不明. 血液脳関門をほとんど通過しないため中枢神経系の副作用はプロプラノロールよりも少ない.

④メトプロロール

経口薬:1~2 mg/kg/日(分3)有効血中濃度:50~100 ng/mL. プロプラノロールと同様に血液脳関門を通過し,片頭痛の治療にも用いられる.副作用はプロプラノロールとほぼ同様であるが,頻度は低い.

⑤ランジオロール

静注薬:2.5μg/kg/分で開始,数分ごと倍々にして最大80μg/kg/分.

 推奨薬用量は初期量40μg/kg/分,維持量10μg/kg/分であるが352),3~5μg/kg/分の低用量で開始して漸増する方法でも早期に十分な心拍数低下効果が得られる可能性がある.血圧低下の副作用は少ない.有効血中濃度:不明.わが国で開発されたβ1選択性の高い超短時間作用性β 遮断薬で,術中使用に加えて,2006 年に周術期管理における使用が認められた.小児心臓術後頻脈性不整脈の抑制効果が報告されている353).

⑥ATP

適応疾患:房室回帰頻拍,房室結節リエントリー頻拍(一過性房室伝導抑制),Ca2+依存性のトリガードアクティビティーによる頻脈性不整脈(右室流出路起源心室頻拍,CPVTなど)に有効とする報告もある.静注薬:0.1~0.3 mg/kg を急速静注. 半減期が短く,できるだけ心臓に近い上肢末梢静脈か

167循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

ら,後押しのための生理食塩水などを用いて急速静注する必要があり,末梢循環不全や三尖弁逆流があると十分な効果が得られないことがある. アデノシンの抗頻脈性不整脈作用は,K+電流の透過性を高めてAPD を短縮するとともにL 型Ca チャネルの電流を抑制して,洞結節自動能の低下,房室結節伝導の抑制,心房自動能の抑制作用を発揮する.わが国で用いられるのはATPであるが,ATP は血中に投与されるとすみやかにアデノシンに代謝されて同様の効果を発揮する354).

⑦ジゴキシン

適応疾患:房室回帰頻拍,房室結節リエントリ頻拍など房室伝導抑制を目的に使用される.ジゴキシンは副伝導路の不応期を短縮するため,早期興奮症候群(顕性WPW 症候群)がある場合に心房細動が出現すると偽性心室頻拍,突然死が起こることが懸念されるが355,356),早期興奮症候群の有無にかかわらずジゴキシンの安全性を示す報告もある357),358).静注薬:乳幼児0.04 mg/kg を急速飽和,学童0.03mg/kg を急速飽和(いずれもはじめに半量,つづいて残り半量を2~3回に分けて6~8 時間ごとにゆっくり静注)経口薬:乳幼児0.0075~0.01 mg/kg/日(維持量),学童0.005~0.0075 mg/kg/日(維持量)(分1~2).有効血中濃度:0.5~2.0 ng/mL.ジゴキシンは治療域が狭いため血中濃度のモニターが重要である359).急速飽和が必要でないときは初めから維持量を投与する方が安全性は高い.作用:心筋のNa+/K+ ATPase 活性を抑制し,細胞内Na+ 濃度を上昇させ,その結果生じるNa+勾配がNa+-Ca2+交換系に作用して細胞内Ca2+濃度を上昇させ,心筋収縮性を増強する一方,自律神経を介し,洞結節機能,房室伝導を抑制する.また心房筋のAPD,有効不応期を短縮させる.注意点;T1/2は乳児で20 時間,小児では40 時間である.腎から排泄され,腎機能障害がある場合や腎機能が未熟な低出生体重児では投与量を減量する.副作用;心症状;洞性徐脈,房室ブロック,心房頻拍,心室性不整脈など心以外;悪心,嘔吐,めまい,色覚異常,筋力低下,食指不振,倦怠感などがある.このような症状が見られたときは血中濃度と血清電解質を測定し,特に低カリウム血症の補正を行う.一般に中毒は血中濃度2.0 ng/mL 以上で起きるが,小児(特に新生児)では中毒

発現濃度が成人より高めである.

Ⅴ 降圧薬

1 小児高血圧の一般的治療指標

1 疫学 本邦の血圧健診では小学校高学年から中学生の0.1~1%,高校生の約3%に高血圧が見出される360).一方,米国における小児高血圧の有病率は約2~5%である361).小児,思春期の高血圧の多くは本態性高血圧であり,肥満や家族歴と関連することが多い.二次性高血圧は成人ではまれであるが,小児では成人よりも比較的頻度が高い.低年齢や重度の高血圧では二次性の可能性が高く降圧薬治療が必要となることが多い. 各年齢層の高血圧の原因として代表的なものを示す362)(表22).

2 定義 本ガイドラインでは,小児高血圧の基準値を米国小児高血圧ガイドラインにおける50パーセンタイル身長群の性別・年齢別血圧基準値とした(表23).ただし,低身長または高身長の場合は今回の基準値よりも収縮期で3~5mmHg,拡張期で1~2mmHg異なる場合がある事を考慮すべきである. 血圧は測定値により以下のように定義される363).  ・ 正常血圧:収縮期,拡張期血圧ともに90パーセンタイル未満の場合

  ・ 前高血圧(prehypertension):収縮期,拡張期血圧の一方または両方が90以上から95パーセンタイル未満,または(年齢の90パーセンタイル未満であっても)120/80mmHgを超える場合

  ・ 高血圧(hypertension):収縮期,拡張期血圧の一方または両方が95パーセンタイル以上を日または週を変えて3回以上認められた場合

   ▼ stageⅠ:収縮期,拡張期の一方または両方が95パーセンタイルから99パーセンタイル+5mmHgの範囲内にある場合

   ▼ stageⅡ:収縮期,拡張期の一方または両方が99パーセンタイル+5mmHgを超える場合

 2004年に改訂された米国小児高血圧ガイドラインで

168 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

は,水銀血圧計を用いて測定したNational Health and Nutrition Examination Surveys(NHANES)による過去の血圧データベースに1999~2000年の測定値を追加し,性別・年齢・身長別に50,90,95,99パーセンタイルの血圧を基準値とした363).2009年の欧州小児高血圧治療ガイドラインでも同ガイドラインの基準を採用している364).米国のガイドラインにおける血圧基準値は以下で参照できる.http://www.pediatrichypertension.org/BPLimitsChart.pdf

 一方,本邦における高血圧治療ガイドラインでは,小中学生を対象に自動血圧計を用いて測定し性別・年齢別に95パーセンタイル値を血圧管理用基準として示した360)(表24). 米国小児高血圧ガイドラインにおける高血圧判定基準と薬物治療開始基準と比較して,本邦では自動血圧計での血圧測定である,身長の影響が考慮されていない,血圧値による明確な治療基準が存在しない点が異なる. 今回高血圧に対する薬物治療基準を設定するにあた

表22 各年齢層における高血圧の病因および二次性高血圧の原因疾患 文献362,378,385より一部改編年齢層 病因

新生児期 大動脈縮窄症腎動脈血栓症腎動脈狭窄腎先天奇形

幼児期~6歳 腎実質性疾患大動脈縮窄症腎動脈狭窄

6~10歳 腎実質性疾患腎動脈狭窄本態性高血圧

思春期以降 腎実質性疾患本態性高血圧

腎性高血圧  67~87% 腎血管性高血圧  5~10%腎実質性疾患 線維筋異形成

ネフローゼ症候群 症候性 (ex. NF type 1)低形成腎 血管炎 (ex. 高安病)腎盂腎炎 腎静脈血栓症逆流性腎症 大動脈縮窄症多発性嚢胞腎 腎動静脈瘻溶血性尿毒症候群 その他水腎症 先天性副腎皮質過形成その他の先天奇形 遺伝性の高血圧症内分泌性高血圧  10% (ミネラルコルチコイド過剰症など)糖尿病褐色細胞腫クッシング症候群甲状腺機能亢進症高カルシウム血症

表23 米国小児高血圧ガイドラインにおける50パーセンタイル身長小児の性別・年齢別血圧基準値363)

男児 女児90th 95th 99th 90th 95th 99th

1歳 99/52 103/56 110/64 100/54 104/58 111/65

2歳 102/57 106/61 113/69 101/59 105/63 112/703歳 105/61 109/65 116/73 103/63 107/67 114/744歳 107/65 111/69 118/77 104/66 108/70 115/775歳 108/68 112/72 120/80 106/68 110/72 117/796歳 110/70 114/74 121/82 108/70 111/74 119/817歳 111/72 115/76 122/84 109/71 113/75 120/828歳 112/73 116/78 123/86 111/72 115/76 122/839歳 114/75 118/79 125/87 113/73 117/77 124/8410歳 115/75 119/80 127/88 115/74 119/78 126/8611歳 117/76 121/80 129/88 117/75 121/79 128/8712歳 120/76 123/81 131/89 119/76 123/80 130/8813歳 122/77 126/81 133/89 121/77 124/81 132/8914歳 125/78 128/82 136/90 122/78 126/82 133/9015歳 127/79 131/83 138/91 123/79 127/83 134/9116歳 130/80 134/84 141/92 124/80 128/84 135/9117歳 132/82 136/87 143/94 125/80 129/84 136/91

収縮期 /拡張期血圧(mmHg)身長によって基準値が異なるため、各身長における血圧基準値は文献353を参照.

169循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

り,血圧値による治療基準が設定されている米国の小児高血圧ガイドラインを参考とした.米国ガイドラインの50パーセンタイル身長群における性別・年齢別血圧基準値は,本邦の血圧管理基準である性別・年齢別の95パーセンタイル値と比較して,収縮期はほぼ同様であるが,拡張期は10mmHg以上高値である.今後本邦でも身長や測定方法,治療基準を考慮した大規模な検討が必要と考えられる.

参考)血圧測定法363)

・ 水銀血圧計を用いて聴診法での測定を原則とする.・ 5分以上の安静後,肘を心臓の高さまで挙上し右腕で測定する.・ 上腕周囲長の40%以上の幅でカフは上腕周囲の80%以上を囲む長さとし,カフの幅と長さは1:2以上とする.・ コロトコフ第1音(K1)を収縮期血圧,K5を拡張期血圧とする.K5が0 mmHgでも聴取される場合は再度測定し,同様であればK4を拡張期血圧とする.・ Oscillometric式自動血圧計で90パーセンタイルを超える場合は聴診法にて再検する.・ 白衣高血圧や仮面高血圧の鑑別のため24時間自動血圧測定を用いることが推奨される.欧州小児高血圧ガイドラインには24時間自動血圧測定の基準値が掲載されている363),364).

3 薬物療法の治療方針 本ガイドラインでは以下の項目を薬物治療の適用とする360),363).(1)症候性高血圧(2)二次性高血圧

(3) 高血圧に伴う標的臓器障害(左室肥大や高血圧性眼症,腎瘢痕などの臓器障害)の合併

(4)糖尿病や慢性腎疾患に合併する高血圧(5)非薬物治療(食事・運動療法)後も持続する高血圧(6)重度高血圧(stageⅡ高血圧)・ 前高血圧症(90~95パーセンタイル):非薬物療法より開始し90パーセンタイル以下まで血圧を下げる・ stageⅠで(1)~(4)のいずれも該当しない場合:非薬物療法より開始する.ただし(5)に該当する場合は薬物療法の適応となる.・ stageⅠで(1)~(4)のいずれかに該当する場合:薬物療法と非薬物療法を同時に開始する.・ stageⅡ(6)に該当する場合:非薬物療法とともに薬物療法を同時に開始する.・ 血圧の目標値は,本態性高血圧では95パーセンタイル未満,二次性高血圧では90パーセンタイル未満とする.・ 本態性高血圧では血圧上昇が緩徐である事が多く,食事療法,運動療法などの非薬物療法がより重要となる.・ 薬物は単剤より開始し,血圧をみながら漸増する.最大投与量まで到達または副作用が出現した場合は別な系統の第二選択薬を追加する.薬物はアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I),アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB),β遮断薬,Ca拮抗薬,利尿薬が適応となる(薬品名,使用量はⅣで後述する).・ 重度の症候性高血圧では静注薬を使用(Ⅱで後述する).・ 二次性高血圧は治療法が原疾患によって異なるためⅢで後述する.・ 高血圧の治療方針をアルゴリズムに示す363)(図14).

BMIの基準値は米国CDCの基準で85パーセンタイル未満とし,それ以上を過体重のリスクとして減量指導の適応とした365).

2 重症高血圧の治療

1 定義 重症高血圧とは,2004 NHANES363),366)におけるStageⅡ以上の高血圧であり,かつ急激な上昇により症状を呈しているものを指す367).中でも生命の危険が伴う高血圧は,重篤な臓器障害をきたすため,より早期の介入が必要となる.その重症度により下記のように分類している.・ 高血圧緊急症(Hypertensive Emergency)…急性の臓

表24 本邦における血圧管理用の高血圧基準360)

男子 女子収縮期 拡張期 収縮期 拡張期

小学校1年 107 60 108 602年 112 63 108 603年 114 62 111 614年 116 63 121 665年 117 63 119 666年 119 63 119 65

中学校1年 125 66 126 682年 130 66 126 683年 136 68 128 70

(mmHg)

170 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

器障害を伴い重篤な症状をきたす・ 高血圧切迫症(Hypertensive Urgency)…急性の臓器障害を伴わない・ 高血圧緊急症では,すぐに正常化させなくとも臓器障害を防ぐために速やかな降圧が必要である368).病態的にも,切迫症ではカテコラミンやアンジオテンシンⅡなどが産生され,それに反応してNOやPGI2等の血管拡張成分の産生も起こり血管抵抗に急性の変化をきたす.一方,緊急症では血管内皮での炎症がおこり血管トーヌスの調整が破綻し,臓器血流の増加,動脈のフィブリノイド壊死をきたす.結果として血管透過性が亢進,血管周囲の浮腫とともに凝固系機能も亢進するため,DICを惹起するとされる369).

2 臨床症状 頭蓋内圧亢進に伴う嘔吐・嘔気,頭痛,視覚異常,片麻痺,鼻出血,心不全,呼吸器症状,疲労,意識障害などがあげられる. 緊急症では,脳症やけいれん,視覚異常,脳梗塞・出血,心不全などの臓器障害をきたし,速やかな介入を要

するのに対して,切迫症では嘔気・嘔吐などの症状を呈する程度である.この場合は,数時間かけて血圧のコントロールを目指す370)-372).

3 薬物療法の実際 溢水の所見が明らかである場合は,利尿薬を投与する.また,慢性的に高血圧がある場合,内膜下組織の細胞増生がおこっているため,急激な血圧低下は虚血をきたし,臓器障害を悪化させる可能性がある368).したがって,緊急高血圧管理では,降下速度を予想できるよう薬品は経静脈投与が基本である.降圧剤投与中は,脳梗塞や虚血性脊髄症・視神経症に注意を要する.

①降圧速度

 一般に6~8時間かけて1/4~1/3を降下させ,48時間~72時間かけてゆっくりと90パーセンタイル以下の血圧に調節する370),372),373).脳血流や循環などへの影響を最小限に抑えるため,段階的な降圧を可能とする薬品を選択する.切迫症の中には慢性的に徐々に高血圧が進行した例や降圧薬の内服を継続している例もあるためより

図14 高血圧の治療方針

正常血圧前高血圧高血圧 stageⅠ高血圧 stageⅡ

非薬物療法食事,運動療法

6か月ごとに血圧測定

基礎疾患の検索標的臓器障害の確認

減量指導6か月ごとにモニタリング

3回以上の血圧測定

基礎疾患の検索標的臓器障害の確認

基礎疾患の検索標的臓器障害の確認専門医への紹介を検討

非薬物療法食事,運動療法

薬物療法 減量指導薬物療法減量指導+薬物療法

生活指導

過体重過体重過体重 BMI正常BMI正常 BMI正常

Yes

No

≧95th %

<90th%

or 120/80mmHg

血圧,身長,BMI測定

90-<95th% or 120/80mmHg

90-<95th%

(必要に応じて)

≧95th%持続

(本態性高血圧)

過体重はBMI 85パーセンタイル以上とする(文献359より一部改変)

171循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

緩徐な降圧を要する.

②薬物療法

 本邦では,以下の降圧薬を経静脈的に使用することが多い(class Ⅱa-C).欧米諸国では,ニカルジピンに加え,α/βブロッカーであるラベタロールの静注製剤が第一選択となっている374). ラベタロールは気管支喘息には使用できないものの,心拍出量にはほとんど影響せずに,数分で末梢血管抵抗を下げる降圧薬である.今後,本邦への導入が期待される.本邦では次の薬剤が用いられる.1)緊急症●ニカルジピン(ペルジピンⓇ) 1~3μg/kg/分

[特徴]数分で効果が表れ,数時間で降圧目標に達する.ニトロプルシドよりも持続使用が可能であるうえ,欧米では早産児・新生児にも有効とされる375).

[注意点]反応性の頻脈,顔面紅潮,動悸,低血圧に注意.●ニトロプルシド(ニトプロⓇ) 0.53-10μg/kg/分0.2μg/kg/分ずつ増量(3μg/kg/分以下で持続)

[特徴]数秒単位で効果を発揮し短時間作用型である.動脈,静脈ともに拡張作用を持つ.

[注意点]光により失活,脳血流と脳圧を亢進させる.72時間以上の長期使用や肝・腎機能障害での使用の場合はシアンの上昇に注意し,シアン中毒症状が出現した場合はチオ硫酸塩を併用する.2μg/kg/分以上の投与速度で投与する場合は,総投与量が500μg/kg以上になると体内における解毒処理能力を超えてシアンが生成されることが知られているため注意を要する. 2)切迫症 切迫症と判断され,急速な降圧を要さない場合は,内服薬投与も選択の一つであるが,初期治療では切迫症でもニカルジピンが使われることが多い.二次性の場合はその病態に合わせて経口可能なら早期にその薬品を使用する. その他,以下の薬品が使用可能である.●ニフェジピン(アダラート,セパミットⓇ)0.25~0.5mg/kg/回 経口

[注意点]成人では重症高血圧への使用は脳梗塞と心筋虚血を惹起するため危険とされているが,小児では<0.25mg/kgの少量投与では有効とする報告もある376).しかしながら,現段階ではより調節の容易な薬品が使用可能な場合は推奨されない.(class Ⅱa-C)●ヒドララジン(アプレゾリンⓇ) 0.2~0.6mg/kg/回 静注 4時間毎

[注意点]FDAによる投与量は1.5~3.5mg/kg/日であるが,それ以下での使用を推奨377).反応性が不確定であり,

作用が遷延するなど調節性に欠ける.ニカルジピンに比較して即効性には劣るが,効果が遷延するため少量から投与する.●クロニジン(カタプレスⓇ)0.05~0.1mg/kg/回 経口α2 agonistであるため一時的に血管トーヌスを亢進させ,その後血圧と脈拍が低下する.

[注意点]効果は不確定だが,30~60分で効果が出現し8~24時間持続する.調節性に欠ける.

3 二次性高血圧

定義:様々な原疾患によって生じる高血圧で,代表的な疾患を表22に示す.本ガイドラインでは,1.腎性高血圧~7.遺伝性高血圧を扱う.小児の高血圧における二次性高血圧の割合は報告により5~8割程度となっており,低年齢であるほど二次性高血圧の割合が高くなる.最も多いのが腎性高血圧であり,その他内分泌性の高血圧や腎血管性高血圧などが挙げられる378)(表22).

1 腎性高血圧

①疫学

 腎実質性高血圧は小児の二次性高血圧で一番高頻度であり小児の二次性高血圧の70~80%を占めるとの報告もある378).また小児の慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease : CKD)症例の5割近くが高血圧を合併するとされる379).

②薬物治療の実際

 第一選択としては,蛋白尿減少効果やCKDの進行抑制効果も期待できるACE-IやARBが挙げられる380).ACE-IとARBの併用療法については,蛋白尿の減少効果やCKDの進行の抑制効果の点でより有効だとする報告もあるが381)-383),現時点では一定の見解は得られていない.利尿剤に関しては体液貯留がある症例で使用すべきだが,腎機能障害が進行した症例ではサイアザイド系利尿薬は効果が乏しく,フロセミドの方が好ましい.ACE-IやARBの単剤療法で効果が不十分である場合にはカルシウム拮抗薬の併用が推奨される.β遮断薬は小児の腎性高血圧治療における第2選択薬に位置付けられている380). 降圧目標は各年齢の90パーセンタイル以下とし(表23),本態性高血圧より厳格なコントロールで管理した方が良い380).最近は24時間血圧計による管理も推奨されている.

172 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

2 腎血管性高血圧

①疫学

 5~10%は腎血管性高血圧によるといわれている.成人の腎血管性高血圧では動脈硬化性病変が基盤となるのに対し,小児では,線維筋異形成や神経線維腫症1型,大動脈炎症候群,Williams症候群などが背景にある場合が多い.また新生児期の臍動脈カテーテル留置に伴う腎動脈血栓症の場合もある384).

②薬物療法の実際

 レニン -アンジオテンシン系によらない降圧薬 (Ca拮抗薬,β遮断薬,利尿薬等) による治療に抵抗する事が多く,まずACE-IやARBが考慮される.ただし両側性の腎血管病変がある症例においてはACE-IやARBの使用によるGFRの低下のリスクが高く,その使用は避けるべきである384)-388).また脱水合併時にもGFR低下のリスクが高くなるので注意が必要である. 小児においてはカテーテル治療が可能な症例はその適応が考慮される384).特に,ACE-IやARBによる治療で降圧効果が不十分な場合や副作用で使用しづらい場合は,積極的にカテーテル治療が考慮される.ただし末梢型の場合はその施行は困難である.

3 糖尿病に合併した高血圧

①疫学

 思春期の糖尿病症例は同年代の健常な児に比べ収縮期,拡張期血圧とも高い.特に2型糖尿病症例においては,本態性高血圧の合併が良くみられ,思春期2型糖尿病症例の2~3割が高血圧を合併しているとの報告もある389)-392).

②薬物療法の実際

 小児の糖尿病に合併した高血圧の治療においては,糖尿病性腎症の発症や進行に対する抑制効果も期待できるACE-Iが 第 一 選 択 薬 と し て 用 い ら れ て き たが363),381),389),392),393),近年ARBに関しても小児における有効性と安全が報告されてきており,今後第一選択薬の一つとなりうる.ACE-IとARBの併用療法については,現時点では一定の見解は得られていない.ACE-IやARBのみでは効果が不十分な場合はCa拮抗薬やβ遮断薬が選択される.このうちβ遮断薬に関しては低血糖時に症状をマスクする可能性があるため低血糖のリスク

がある症例では使用を控えるべきであり,さらに一部のβ遮断薬は耐糖能の悪化の報告がある394)-396).降圧目標は腎性高血圧と同様,本態性高血圧より厳格なコントロールを目指すべきである.

4 褐色細胞腫に合併した高血圧

①疫学

 褐色細胞腫に合併した高血圧は小児の高血圧の1%程度を占め,また小児の褐色細胞腫症例の60~90%以上が持続的な高血圧を合併しているといわれている.また小児の褐色細胞腫の40%近くは遺伝的な素因を有するとされている397).

②薬物療法の実際 397)

 褐色細胞腫の治療の根幹は外科手術であるが,術中のリスクを最小限にするため,術前10~14日前からカテコラミンの作用をコントロールするための薬物療法を行う357).小児における術前治療は確立されたものはないが,本邦では初期治療としてα遮断薬のドキサゾシンが使用される事が多い.β遮断薬は頻脈のコントロール目的で使用が考慮されるが,α受容体に対する非競合性の刺激作用を有するため,α遮断薬による治療が適切に行われてから開始すべきである.本邦ではプロプラノロールが使用される事が多い.α遮断薬のみでは十分な血圧コントロールが得られない場合の第二選択としてはCa拮抗薬が挙げられる. 降圧目標は特に小児の場合,明確なものはない.現時点では正常血圧を目標とするのが妥当と思われる. 褐色細胞腫の患者においては慢性的な血管収縮による血管内容量の低下をきたしている場合が多く,必要に応じ術前に塩分や水分の負荷も考慮する.

5 クッシング症候群に合併した高血圧

①疫学

 クッシング症候群の75~80%で高血圧を合併するとされている.小児では下垂体腺腫や副腎腫瘍による内因性は稀であり炎症性疾患などに対する治療や移植後の免疫抑制のための副腎皮質ステロイド薬投与による場合が多い385),398).

②薬物療法の実際

 ACE-IやARB,Ca拮抗薬,サイアザイド系利尿薬等を考慮する360).ミネラルコルチコイド受容体刺激によ

173循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

り低K血症を合併している場合には抗アルドステロン薬が有効である398).

6 先天性副腎皮質過形成に合併した高血圧

①定義・病態

 先天性副腎皮質過形成は副腎におけるステロイドホルモン合成系の酵素の遺伝子異常による疾患であるが,このうち11β水酸化酵素と17α水酸化酵素の異常の場合,副腎でのグルココルチコイド合成のnegative feedbackが破綻した結果,ACTHの分泌亢進により血中DOC濃度の上昇が生じ,Na,体液貯留と高血圧をきたす398).

②薬物療法の実際

 いずれの場合も,グルココルチコイドの補充により高血圧やステロイドの異常状態は正常化する385),398).

7 遺伝性の高血圧

①定義・疫学

 原発性グルココルチコイド抵抗性やグルココルチコイド奏功性アルドステロン症,apparent mineral corticoid Excess Syndrome,Liddle症候群,hypertension exacerbarted by pregnancy等が含まれるが,いずれも稀な疾患である.ミネラルコルチコイド受容体やグルココルチコイド受容体の遺伝子異常,グルココルチコイドの代謝酵素の遺伝子異常等により,ミネラルコルチコイド過剰症状としての高血圧をきたす385,398).

②薬物療法の実際

 ミネラルコルチコイド過剰症状に対して抗アルドステロン薬の投与を行う.また内因性コルチゾルの分泌抑制のためにグルココルチコイド投与を行う事もある.ただし,Liddle症候群では抗アルドステロン薬は無効であり,トリアムテレンが著効する.またhypertension exacerbated by pregnancyにおいては抗アルドステロン薬の投与により高血圧が悪化する事がある385),398).

4 小児高血圧に使用する降圧薬

 降圧薬リストを作成するに当たり,日本や欧米での小児適応のあるものを優先し,欧米のガイドラインや日本の論文で多く採用されているものを追加した(表25).

5 小児期腎不全患者への薬物療法

1 基本的事項 腎不全患者に,腎臓から排泄される薬物を常用量で用いると,薬物の蓄積により副作用の頻度が増大するため,腎機能,薬物の尿中排泄率に応じて薬剤の投与法の変更を行う必要がある.透析中の場合は透析の種類,透析方法,透析時間などにより薬物動態は複雑に変化する.405)-407)なお出生時の糸球体濾過率は成人の約1/5,生後2ヶ月で1/2程度であり生理的に腎機能が低下しているため,保存期腎不全患者と同様の配慮が必要になる.

2 薬物動態と腎機能 薬物動態は①吸収,②分布,③代謝,④排泄によって決まる.腎不全患者では,腎からの排泄低下による影響が最も大きいが,吸収,分布,代謝にも変化をきたし,薬物動態に影響を及ぼすことがある.

①吸収

 経口投与された薬物はその一部が消化管から吸収され,肝臓を通過する際にかなりの割合が代謝を受けた後に血中に移行する.薬物が経口・筋注・直腸内投与など非血管外投与された場合に,生化学的に利用できる量として循環血液中に移行する割合と,生物学的利用速度を合わせてバイオアベイラビリティーといい,消化管からの吸収と肝臓を初回通過したときの代謝率により決まる.一般的に,脂溶性の薬物は消化管からの吸収率は高く,水溶性の薬物は消化管からの吸収率が低い.腎不全患者では,一部の薬物でバイオアベイラビリティーが変化することが知られている.表26にその薬物を示した.

②分布

 吸収された薬物の一部は血漿蛋白に結合して結合型となり,一部は,血漿蛋白に結合せず非結合型として存在する.一般的に,脂溶性の薬物は組織に移行しやすく,その分血中濃度は低くなるので,分布容積は大きい.水溶性の薬物や,蛋白結合率の高い薬物は細胞外液に多く分布しやすく,組織移行性は低い.そのため血中濃度は高くなるので,分布容積は小さくなる.腎不全患者で分布容積が変化する薬物がある.アミノグリコシド系抗菌薬や多くのβラクタム系抗菌薬,多くの抗ウイルス薬などの水溶性薬物の分布容積は,浮腫や腹水のある患者

174 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

表25 降圧薬リスト一般名 商品名 剤形 適応 投与経路・用法・用量 血中濃度 血中半減期 主な副作用(%) 注意事項・禁忌

(規格) 小児 小児薬用量 Tmax T1/2 重大な副作用成人 成人用量(国内での用量) 作用発現時間(静注・

経口)主な排泄経路

カルシウム拮抗薬アムロジピン(クラス I,レベルB)

ノルバスクアムロジン

錠:2.5・5mgOD錠:2.5・5mg

小児 高血圧症(6歳以上) 経口 ・我が国の小児用量:1日1回2.5mg,適宜増減,1日最大5mg・海外:2.5~5mg/日,分1363)あるいは0.06~0.3/mg/kg/日,分1364),399)

(→注意事項を参照)

(健常成人,5mg単回経口) Tmax:7~8時間

(健常成人,5mg単回経口) T1/2:39時間.体重補正した小児でのクリアランスや分布容積は成人と同様 400)

・カルシウム拮抗薬に共通の副作用として,動悸,頭痛,ほてり感,浮腫,歯肉増生や便秘など《重大な副作用》・肝機能障害,白血球減少,血小板減少・ニフェジピン 紅皮症・アムロジン 房室ブロック・ニカルジピン 麻痺性イレウス,低酸素血症,肺水腫,呼吸困難,狭心痛

《注意事項》・アムロジンは,小児への1日5mgを超える投与量の試験は行われていない 363)

・JSH2009では成人の高血圧に対し,ニフェジピン(通常)は急速かつ短期の降圧,血行動態の変化をきたすため,降圧剤としての使用は推奨されない,舌下投与も行うべきではない,としている 360)

・ニフェジピン徐放錠の場合は錠剤のままの服用が必要《禁忌》・妊娠または妊娠の可能性のある婦人

成人 高血圧症,狭心症 1日1回,2.5~5mg,最大投与量10mg/日

主に肝代謝

ニフェジピン(クラスIIa,レベルC)

アダラートセパミット

カプセル:5・10mg細粒:1%10mg/g(1g/包)

小児 なし 経口 ・0.25mg/kg/回 364) ・(高血圧症患者,外国人10mg,経口)Tmax:1時間

・T1/2: α 相:1.03±0.11時間 β相2.61±0.22時間

成人 本態性高血圧,腎性高血圧,狭心症

1回10mg,1日3回(→注意事項を参照)

20~30分 主に肝代謝

ニフェジピン徐放(クラスIIa,レベルC)

アダラート LセパミットR

L錠:10・20mgRカプセル:10・20mgR細粒:2%20mg/g

小児 なし 経口 ・ 開 始 量:0.25~0.5mg/kg/日,1日1~2回 363),364)

・最大:3mg/kg/日,60mg/日まで 363)

・(徐放)(健康成人1 0 m g,2 0 m g) Tmax:3時間

・(徐放)(アダラートL10mg投 与 時 )T1/2:3.51±0.60時間

成人 本態性高血圧,腎性高血圧,狭心症

1回10~20mg,1日2回,最大:60mg/日

0.5~1時間 主に肝代謝

ニカルジピン(クラスIIa,レベルC)

ペルジピン 注:2・10・25mg/2・10・25mL/A

小児 なし 静注 ・1~3μg/kg/min363),364) 健康成人に0.01~0.02mg /kg静脈内投与した場合の血漿中未変化体濃度の半減期は53~60分

成人 手術時の異常高血圧の緊急処置,高血圧性緊急症,急性心不全

・0.5μg/kg/minより開始し,目標値まで血圧を下げ,以後血圧をモニターしながら0.5~6μg/kg/minの速度で投与

2~5分 主に肝代謝

アンジオテンシン受容体拮抗薬ロサルタン(クラス I,レベルB)

ニューロタン 錠:25・50mg 小児 高血圧症(6歳以上,CCr≧30 mL/分/1.73m2)

経口 ・ 開 始 量:0.7mg/kg/日(50mg/日まで),分1363)

・最大:1.4 mg/kg /日(100 mg/日まで)363),364)

(6-16歳,高血圧の小児に≒0.7 mg/kgを連続投与後の活性代謝物)Tpeak:4.1時間

活性代謝物 ; T1/2:5.6±1.2時間

・ARBに共通の重大な副作用として,アナフィラキシー様症状,血管浮腫,肝炎,腎機能低下,低血糖,横紋筋融解,汎血球減少,ショック,失神,高K血症・バルサルタン,カンデサルタンでは,間質性肺炎,無顆粒球症の報告あり

《注意事項》・高K血症や腎機能の悪化を来たすことがあるため定期的に血清K値やCr値を測定すること.・バルサルタンについて,日米の製剤ではbioavailabilityが異なり,日本の製剤の方が約1.6倍血中濃度の上昇が大きいことに注意が必要である.また粉砕・懸濁して投与した場合,錠剤のままの投 与 よ り もCmaxは1.93倍,AUCは1.56倍高値であることを考慮し,剤形を変更する際には投与量に注意が必要・カンデサルタンのFDAの投与量は国内の成人への投与量よりも多く設定されている 399).実際の投与に当たっては国内の成人の最大投与量を超えるべきではない.・イルベサルタンのFDAの投与量は国内の成人への投与量よりも多く設定されており,また4.5 mg/kg/日以下の投与量では降圧効果は認められないと記載されている.実際の投与に当たって

175循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

一般名 商品名 剤形 適応 投与経路・用法・用量 血中濃度 血中半減期 主な副作用(%) 注意事項・禁忌(規格) 小児 小児薬用量 Tmax T1/2 重大な副作用

成人 成人用量(国内での用量) 作用発現時間(静注・経口)

主な排泄経路

カルシウム拮抗薬アムロジピン(クラス I,レベルB)

ノルバスクアムロジン

錠:2.5・5mgOD錠:2.5・5mg

小児 高血圧症(6歳以上) 経口 ・我が国の小児用量:1日1回2.5mg,適宜増減,1日最大5mg・海外:2.5~5mg/日,分1363)あるいは0.06~0.3/mg/kg/日,分1364),399)

(→注意事項を参照)

(健常成人,5mg単回経口) Tmax:7~8時間

(健常成人,5mg単回経口) T1/2:39時間.体重補正した小児でのクリアランスや分布容積は成人と同様 400)

・カルシウム拮抗薬に共通の副作用として,動悸,頭痛,ほてり感,浮腫,歯肉増生や便秘など《重大な副作用》・肝機能障害,白血球減少,血小板減少・ニフェジピン 紅皮症・アムロジン 房室ブロック・ニカルジピン 麻痺性イレウス,低酸素血症,肺水腫,呼吸困難,狭心痛

《注意事項》・アムロジンは,小児への1日5mgを超える投与量の試験は行われていない 363)

・JSH2009では成人の高血圧に対し,ニフェジピン(通常)は急速かつ短期の降圧,血行動態の変化をきたすため,降圧剤としての使用は推奨されない,舌下投与も行うべきではない,としている 360)

・ニフェジピン徐放錠の場合は錠剤のままの服用が必要《禁忌》・妊娠または妊娠の可能性のある婦人

成人 高血圧症,狭心症 1日1回,2.5~5mg,最大投与量10mg/日

主に肝代謝

ニフェジピン(クラスIIa,レベルC)

アダラートセパミット

カプセル:5・10mg細粒:1%10mg/g(1g/包)

小児 なし 経口 ・0.25mg/kg/回 364) ・(高血圧症患者,外国人10mg,経口)Tmax:1時間

・T1/2: α 相:1.03±0.11時間 β相2.61±0.22時間

成人 本態性高血圧,腎性高血圧,狭心症

1回10mg,1日3回(→注意事項を参照)

20~30分 主に肝代謝

ニフェジピン徐放(クラスIIa,レベルC)

アダラート LセパミットR

L錠:10・20mgRカプセル:10・20mgR細粒:2%20mg/g

小児 なし 経口 ・ 開 始 量:0.25~0.5mg/kg/日,1日1~2回 363),364)

・最大:3mg/kg/日,60mg/日まで 363)

・(徐放)(健康成人1 0 m g,2 0 m g) Tmax:3時間

・(徐放)(アダラートL10mg投 与 時 )T1/2:3.51±0.60時間

成人 本態性高血圧,腎性高血圧,狭心症

1回10~20mg,1日2回,最大:60mg/日

0.5~1時間 主に肝代謝

ニカルジピン(クラスIIa,レベルC)

ペルジピン 注:2・10・25mg/2・10・25mL/A

小児 なし 静注 ・1~3μg/kg/min363),364) 健康成人に0.01~0.02mg /kg静脈内投与した場合の血漿中未変化体濃度の半減期は53~60分

成人 手術時の異常高血圧の緊急処置,高血圧性緊急症,急性心不全

・0.5μg/kg/minより開始し,目標値まで血圧を下げ,以後血圧をモニターしながら0.5~6μg/kg/minの速度で投与

2~5分 主に肝代謝

アンジオテンシン受容体拮抗薬ロサルタン(クラス I,レベルB)

ニューロタン 錠:25・50mg 小児 高血圧症(6歳以上,CCr≧30 mL/分/1.73m2)

経口 ・ 開 始 量:0.7mg/kg/日(50mg/日まで),分1363)

・最大:1.4 mg/kg /日(100 mg/日まで)363),364)

(6-16歳,高血圧の小児に≒0.7 mg/kgを連続投与後の活性代謝物)Tpeak:4.1時間

活性代謝物 ; T1/2:5.6±1.2時間

・ARBに共通の重大な副作用として,アナフィラキシー様症状,血管浮腫,肝炎,腎機能低下,低血糖,横紋筋融解,汎血球減少,ショック,失神,高K血症・バルサルタン,カンデサルタンでは,間質性肺炎,無顆粒球症の報告あり

《注意事項》・高K血症や腎機能の悪化を来たすことがあるため定期的に血清K値やCr値を測定すること.・バルサルタンについて,日米の製剤ではbioavailabilityが異なり,日本の製剤の方が約1.6倍血中濃度の上昇が大きいことに注意が必要である.また粉砕・懸濁して投与した場合,錠剤のままの投 与 よ り もCmaxは1.93倍,AUCは1.56倍高値であることを考慮し,剤形を変更する際には投与量に注意が必要・カンデサルタンのFDAの投与量は国内の成人への投与量よりも多く設定されている 399).実際の投与に当たっては国内の成人の最大投与量を超えるべきではない.・イルベサルタンのFDAの投与量は国内の成人への投与量よりも多く設定されており,また4.5 mg/kg/日以下の投与量では降圧効果は認められないと記載されている.実際の投与に当たって

176 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

一般名 商品名 剤形 適応 投与経路・用法・用量 血中濃度 血中半減期 主な副作用(%) 注意事項・禁忌成人 高血圧症,高血圧症

および蛋白尿を伴う2型糖尿病における糖尿病性腎症

1日1回,25~50mg,最大投与量100mg

主に肝代謝.ロサルタンおよび活性代謝物の尿中への排泄は数パーセント.

は国内の成人の最大投与量を超えるべきではない.《禁忌》・重篤な肝機能障害,妊婦又は妊娠の可能性のある婦人(妊娠可能年齢の女性では確実な避妊をすべきである)

カンデサルタン(クラス I,レベルB)

ブロプレス 錠:2・4・8・12mg

小児 高血圧症(1歳以上,C C r ≧ 3 0 m L /min/1.73m2)

経口 《1~6歳未満》(懸濁して投与)・開始量:0.20mg/kg/日,分1,0.05~0.4mg/kg/日,分1~2回 400)

《6~17歳》(錠剤で投与)< 50kg ・開始量:4~8 mg/日,分1,4~16mg/日,分1~2> 50kg ・開始量:8~16 mg/日, 分1, 4~32 mg/日,分1~2(→ 注意事項を参照)

(1-5歳,0.2 mg/kg)Tmax:3.2±1.0時間65)

T1/2:5.7±1.4時間 401)

成人 高血圧症,腎実質性高血圧症,慢性心不全

1日1回,4~8mg,最大投与量12mg.腎実質性および腎障害を伴う場合は2mgから開始し,最大用量8mg401)

主に肝代謝,主に糞中に排泄

バルサルタン(クラス I,レベルB)

ディオバン 錠:20・40・80mg 小児 高血圧症(6歳以上,C C r ≧ 3 0 m L /min/1.73m2)

経口 ・我が国の小児用量:< 35kg1日1回40mg, 適 宜増減,ただし<35kgの場合1日最大40mg・海外:開始量:1.3kg/日(40mgまで),Dose range:1 . 3 ~ 2 . 7 m g / k g / 日(160mg/日まで),分1363)

(→注意事項を参照)

(1歳 -16歳,懸濁して投与 4mg/mL,2.0mg/kg)Tmax:2.0時間

T1/2:3.7~5.3時間

成人 高血圧症 1日1回,40~80mg,最大160mg

主に肝代謝

イルベサルタン(クラス I,レベルB)

アバプロイルベタン

錠:50・100mg 小児 高血圧症(6歳以上,CCr≧30mL/min/1.73m2)

経口 ・6~12歳:75~150 mg/日,13歳以上:150~300 mg/日,1日1回 363),402)

(→注意事項を参照)

(2mg/kg,定常状態)Tmax:(6~12歳 )2.0時 間,(13~16歳)1.5時間 402)

(健常成人に100mg単回投与)T1/2:13.6時間

成人 高血圧症 1 日 1 回,50~100mg,最大投与量200mg

主に肝代謝

アンジオテンシン変換酵素阻害薬カプトプリル(クラス IIa,レベルC)

カプトリル 錠:12.5・25mg 小児 他の治療が無効の高血圧症に限る

経口 ・ 開 始 量:0.3~0.5mg/kg/回,分2~3363),364)

・ 最大:6mg/kg/日 (150mg/日)359)

(健康成人50mg単回 経 口 )Tmax:0.68±0.02時間

(健康成人50mg単回経口 )T1/2:0.43±0.02時間

・ACE-Ⅰに共通の副作用として,咳嗽《重大な副作用》・血管浮腫,高K血症,腎機能低下,膵炎,Stevens-Johnson症候群,中毒性表皮壊死症,天疱瘡様症状・カプトプリル 汎血球減少,無顆粒球症,狭心症,心筋梗塞,うっ血性心不全・エナラプリル ショック,心筋梗塞,狭心症,汎血球減少症,無顆粒球症,血小板減少,間質性肺炎,肝機能障害,肝不全,SIADH)・リシノプリル 溶血性貧血,血小板減少,肝機能障害,SIADH

《注意事項》・高K血症や腎機能の悪化を来たすことがあるため定期的に血清K値やCr値を測定すること・腎障害を有する場合のACEⅠの投与量は半分以下から開始,調節することが望ましい《禁忌》・妊婦又は妊娠の可能性のある婦人.(妊娠可能年齢の女性では確実な避妊をすべきである)

成人 本態性高血圧症,腎性高血圧症,腎血管高血圧症,悪性高血圧症

1回12.5~25mg,1日3回,最大用量1日150mg(腎障害を有する高血圧患者では適宜減量することが望ましい)

腎排泄,尿中への未変化体+代謝物の排泄率は63%(24時間)

エナラプリル(クラス I,レベルB)

レニベース 錠:2.5・5・10mg 小児 高血圧症(1か月以上,CCr≧ 30mL/min/1.73m2)

経口 ・我が国の小児用量:0.08mg/kg/日を分1,適宜増減,1日最大10mg・海外:開始量0.08mg/kg/日(5mg/日まで),最大 0.6mg/kg/日(40mg/日まで),分1~2363),364),403)

(2か月~16歳,0.07~0.14mg/kg,反復投与)活性代謝物 e n a l a p r i l a t のTmax: 3~4時 間67)

(2か月~16歳,0.07~0.14mg/kg,反復投与)T1/2:14時間 403)

177循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

一般名 商品名 剤形 適応 投与経路・用法・用量 血中濃度 血中半減期 主な副作用(%) 注意事項・禁忌成人 高血圧症,高血圧症

および蛋白尿を伴う2型糖尿病における糖尿病性腎症

1日1回,25~50mg,最大投与量100mg

主に肝代謝.ロサルタンおよび活性代謝物の尿中への排泄は数パーセント.

は国内の成人の最大投与量を超えるべきではない.《禁忌》・重篤な肝機能障害,妊婦又は妊娠の可能性のある婦人(妊娠可能年齢の女性では確実な避妊をすべきである)

カンデサルタン(クラス I,レベルB)

ブロプレス 錠:2・4・8・12mg

小児 高血圧症(1歳以上,C C r ≧ 3 0 m L /min/1.73m2)

経口 《1~6歳未満》(懸濁して投与)・開始量:0.20mg/kg/日,分1,0.05~0.4mg/kg/日,分1~2回 400)

《6~17歳》(錠剤で投与)< 50kg ・開始量:4~8 mg/日,分1,4~16mg/日,分1~2> 50kg ・開始量:8~16 mg/日, 分1, 4~32 mg/日,分1~2(→ 注意事項を参照)

(1-5歳,0.2 mg/kg)Tmax:3.2±1.0時間65)

T1/2:5.7±1.4時間 401)

成人 高血圧症,腎実質性高血圧症,慢性心不全

1日1回,4~8mg,最大投与量12mg.腎実質性および腎障害を伴う場合は2mgから開始し,最大用量8mg401)

主に肝代謝,主に糞中に排泄

バルサルタン(クラス I,レベルB)

ディオバン 錠:20・40・80mg 小児 高血圧症(6歳以上,C C r ≧ 3 0 m L /min/1.73m2)

経口 ・我が国の小児用量:< 35kg1日1回40mg, 適 宜増減,ただし<35kgの場合1日最大40mg・海外:開始量:1.3kg/日(40mgまで),Dose range:1 . 3 ~ 2 . 7 m g / k g / 日(160mg/日まで),分1363)

(→注意事項を参照)

(1歳 -16歳,懸濁して投与 4mg/mL,2.0mg/kg)Tmax:2.0時間

T1/2:3.7~5.3時間

成人 高血圧症 1日1回,40~80mg,最大160mg

主に肝代謝

イルベサルタン(クラス I,レベルB)

アバプロイルベタン

錠:50・100mg 小児 高血圧症(6歳以上,CCr≧30mL/min/1.73m2)

経口 ・6~12歳:75~150 mg/日,13歳以上:150~300 mg/日,1日1回 363),402)

(→注意事項を参照)

(2mg/kg,定常状態)Tmax:(6~12歳 )2.0時 間,(13~16歳)1.5時間 402)

(健常成人に100mg単回投与)T1/2:13.6時間

成人 高血圧症 1 日 1 回,50~100mg,最大投与量200mg

主に肝代謝

アンジオテンシン変換酵素阻害薬カプトプリル(クラス IIa,レベルC)

カプトリル 錠:12.5・25mg 小児 他の治療が無効の高血圧症に限る

経口 ・ 開 始 量:0.3~0.5mg/kg/回,分2~3363),364)

・ 最大:6mg/kg/日 (150mg/日)359)

(健康成人50mg単回 経 口 )Tmax:0.68±0.02時間

(健康成人50mg単回経口 )T1/2:0.43±0.02時間

・ACE-Ⅰに共通の副作用として,咳嗽《重大な副作用》・血管浮腫,高K血症,腎機能低下,膵炎,Stevens-Johnson症候群,中毒性表皮壊死症,天疱瘡様症状・カプトプリル 汎血球減少,無顆粒球症,狭心症,心筋梗塞,うっ血性心不全・エナラプリル ショック,心筋梗塞,狭心症,汎血球減少症,無顆粒球症,血小板減少,間質性肺炎,肝機能障害,肝不全,SIADH)・リシノプリル 溶血性貧血,血小板減少,肝機能障害,SIADH

《注意事項》・高K血症や腎機能の悪化を来たすことがあるため定期的に血清K値やCr値を測定すること・腎障害を有する場合のACEⅠの投与量は半分以下から開始,調節することが望ましい《禁忌》・妊婦又は妊娠の可能性のある婦人.(妊娠可能年齢の女性では確実な避妊をすべきである)

成人 本態性高血圧症,腎性高血圧症,腎血管高血圧症,悪性高血圧症

1回12.5~25mg,1日3回,最大用量1日150mg(腎障害を有する高血圧患者では適宜減量することが望ましい)

腎排泄,尿中への未変化体+代謝物の排泄率は63%(24時間)

エナラプリル(クラス I,レベルB)

レニベース 錠:2.5・5・10mg 小児 高血圧症(1か月以上,CCr≧ 30mL/min/1.73m2)

経口 ・我が国の小児用量:0.08mg/kg/日を分1,適宜増減,1日最大10mg・海外:開始量0.08mg/kg/日(5mg/日まで),最大 0.6mg/kg/日(40mg/日まで),分1~2363),364),403)

(2か月~16歳,0.07~0.14mg/kg,反復投与)活性代謝物 e n a l a p r i l a t のTmax: 3~4時 間67)

(2か月~16歳,0.07~0.14mg/kg,反復投与)T1/2:14時間 403)

178 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

一般名 商品名 剤形 適応 投与経路・用法・用量 血中濃度 血中半減期 主な副作用(%) 注意事項・禁忌成人 本態性高血圧症,腎

性高血圧症,腎血管高血圧症,悪性高血圧症

1日1回,5~10mg(増減)(腎障害を有する高血圧患者では2.5mgから開始することが望ましい)

腎排泄.24時間での尿中へのエナラプリラト排泄:58.3~71.4%399)

リシノプリル(クラス I,レベルB)

ロンゲスゼストリル

錠:5・10・20mg 小児 高血圧症(6歳以上,CCr≧ 30mL/min/ 1.73m2)

経口 ・ 我 が 国 の 小 児 用 量:0.07mg/kg/日,分1,適宜増減,1日最大20mg・海外:開始量0.07mg/kg/日(5mg/日 ま で, 最大0.6mg/kg/日(40mgまで),分1(懸濁して投与可)363,364),404)

(6カ月~15歳, 0.1-0.2mg/kg)Tmax:5.0-6.0時間68)

(健常成人に2.5~20mg単回投与)T1/2(α):4.5±1.7時 間,T1/2( β ):33.7±10.3時間 400)

成人 高血圧症,慢性心不全

10~20mg(増減),分1(腎障害を有する高血圧患者では5mgから開始することが望ましい)

腎排泄

ベナゼプリル(クラス I,レベルB)

チバセン 錠:2.5・5・10mg 小児 高血圧症(6歳以上,CCr≧ 30 mL/min/ 1.73m2)

経口 ・開始量:0.2mg/kg/日(10mg/日まで):最大:0.6mg/kg/日(40mg/日まで),分1363)

( 健 常 成 人 に5~10mg単 回 投 与 )Tmax:1.2~1.5時間

(健常成人に5~10mg単回投与)T1/2:3.7~4.0時間

成人 高血圧症 5~10mg,分1(増減)(腎障害を有する高血圧患者では2.5mgから開始することが望ましい)

腎排泄

利尿薬ヒドロクロロチアジド(クラス I,レベルC)

ニュートライド 錠:25mg 小児 高血圧症 経口 ・開始量:1mg/kg /日,最大3mg/kg/日(50mg/日まで),分1363)

(→ 注意事項を参照)

(成人,50mg)Tmax:60~120分

(成人(75mg)T1/2:(α)1.7時 間,T1/2( β )13.1時間

《重大な副作用》サイアザイド系および類似利尿薬に共通な重大な副作用として再生不良性貧血,壊死性血管炎,肺水腫,無顆粒球症,急性腎不全など・ヒドロクロロチアジドでは溶血性貧血,間質性肺炎,SLEの悪化,アナフィラキシー様反応,注毒性表皮壊死症の報告あり・クロルタリドンでは膵炎,急性腎不全(間質性腎炎等)の報告あり

《注意事項》・利尿薬を投与する場合には,投与開始直後およびその後も定期的に電解質をモニターすること・利尿薬はその他の高血圧治療薬の併用薬として有用である・スピロノラクトンやトリアムテレンなどカリウム保持性利尿剤は重度の高K血症を来たすことがあり特にACEIやARBと併用では注意が必要・クロルタリドンは,腎疾患患者において尿毒症を増悪しうるので腎機能低下患者では注意が必要である.・JSH2009では成人の高血圧に対するヒドロクロロチアジド,クロルタリドン,トリアムテレンの投与量として添付文書よりも低用量を推奨している1).実際の投与に当たっては国内の成人の最大投与量を超えるべきではない.《禁忌》・無尿または急性腎不全・ヒドロクロロチアジドやクロルタリドン,フロセマイドでは,体液中のNa,Kが明らかに減少している場合は禁忌・トリアムテレン,スピロノラクトンでは高K血症は禁忌

成人 高血圧症,悪性高血圧,浮腫,月経前緊張症

1回25~100mg, 分1~2回(添付文書)・臨床試験から推奨される用量は1日12.5mg(1/2錠)以下 360)

腎排泄,尿中排泄率70%(4日間)

クロルタリドン(クラス IIa,レベルC)

ハイグロトン 錠:50mg 小児 なし 経口 ・ 開 始 量:0.3mg/kg/日,最大:2mg/kg /日(50mg/日まで),分1~2回 363)

(→ 注意事項を参照)

(成人,50mg)Tmax:13.4時間

( 成 人,50mg)T1/2:血漿中44.1時間

成人 高血圧症,心性浮腫(うっ血性心不全),浮腫(肝性,腎性)

1日1回50~100mg(添付文書)・臨床試験から推奨される用 量 は1日12.5mg以 下(1/4錠)360)

腎 排泄,尿中43.8%,糞中17.5~31.2%

トリアムテレン(クラス IIa,レベルC)

トリテレン カプセル:50mg 小児 なし 経口 ・開始量:1~2mg/kg/日,最大:3~4mg/kg/日(300mg/日まで),2~3回363)

(→ 注意事項を参照)

(成人100~200mg)Tmax:2~4時間

(成人100~200mg)T1/2:100~120分

《重大な副作用》急性腎不全

成人 本態性高血圧症,腎性高血圧症,うっ血性心不全,浮腫(肝性浮,腎性)

1日90~200mg  分2~3(増減)(添付文書)・1日1回,50mg(サイアザイド系との併用が望ましい)360)

腎排泄.尿中への未変化体+活性代謝物の排泄は80%(8時間後)

フロセミド(クラス I,レベルC)

ラシックス 錠:20・40mg細粒:4% 40mg/g注 20・100mg/2・10mL/A

小児 (浮腫のみ小児の適応あり)

経口 ・開始量0.2~2.0mg/kg/回,最大6mg/kg/日,分1~2回 364)

(成人,40mg,普通製剤経口)Tmax:1.7±0.3時間

(成人,40mg,普通製剤経口)T1/2:0.35時間

・主な副作用として,低K血症,高尿酸血症など《重大な副作用》・ショック,アナフィラキシー様症状,再生不良性貧血,汎血球減少症,無顆粒球症,赤芽球癆,水疱性類天疱瘡,難聴,Stevens-Johnson症候群,心室性不整脈,間質性腎炎

静注 (緊急時)・0.5~5mg/回364) ( 成 人,40mg静 注 )T1/2:約0.5時間 

179循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

一般名 商品名 剤形 適応 投与経路・用法・用量 血中濃度 血中半減期 主な副作用(%) 注意事項・禁忌成人 本態性高血圧症,腎

性高血圧症,腎血管高血圧症,悪性高血圧症

1日1回,5~10mg(増減)(腎障害を有する高血圧患者では2.5mgから開始することが望ましい)

腎排泄.24時間での尿中へのエナラプリラト排泄:58.3~71.4%399)

リシノプリル(クラス I,レベルB)

ロンゲスゼストリル

錠:5・10・20mg 小児 高血圧症(6歳以上,CCr≧ 30mL/min/ 1.73m2)

経口 ・ 我 が 国 の 小 児 用 量:0.07mg/kg/日,分1,適宜増減,1日最大20mg・海外:開始量0.07mg/kg/日(5mg/日 ま で, 最大0.6mg/kg/日(40mgまで),分1(懸濁して投与可)363,364),404)

(6カ月~15歳, 0.1-0.2mg/kg)Tmax:5.0-6.0時間68)

(健常成人に2.5~20mg単回投与)T1/2(α):4.5±1.7時 間,T1/2( β ):33.7±10.3時間 400)

成人 高血圧症,慢性心不全

10~20mg(増減),分1(腎障害を有する高血圧患者では5mgから開始することが望ましい)

腎排泄

ベナゼプリル(クラス I,レベルB)

チバセン 錠:2.5・5・10mg 小児 高血圧症(6歳以上,CCr≧ 30 mL/min/ 1.73m2)

経口 ・開始量:0.2mg/kg/日(10mg/日まで):最大:0.6mg/kg/日(40mg/日まで),分1363)

( 健 常 成 人 に5~10mg単 回 投 与 )Tmax:1.2~1.5時間

(健常成人に5~10mg単回投与)T1/2:3.7~4.0時間

成人 高血圧症 5~10mg,分1(増減)(腎障害を有する高血圧患者では2.5mgから開始することが望ましい)

腎排泄

利尿薬ヒドロクロロチアジド(クラス I,レベルC)

ニュートライド 錠:25mg 小児 高血圧症 経口 ・開始量:1mg/kg /日,最大3mg/kg/日(50mg/日まで),分1363)

(→ 注意事項を参照)

(成人,50mg)Tmax:60~120分

(成人(75mg)T1/2:(α)1.7時 間,T1/2( β )13.1時間

《重大な副作用》サイアザイド系および類似利尿薬に共通な重大な副作用として再生不良性貧血,壊死性血管炎,肺水腫,無顆粒球症,急性腎不全など・ヒドロクロロチアジドでは溶血性貧血,間質性肺炎,SLEの悪化,アナフィラキシー様反応,注毒性表皮壊死症の報告あり・クロルタリドンでは膵炎,急性腎不全(間質性腎炎等)の報告あり

《注意事項》・利尿薬を投与する場合には,投与開始直後およびその後も定期的に電解質をモニターすること・利尿薬はその他の高血圧治療薬の併用薬として有用である・スピロノラクトンやトリアムテレンなどカリウム保持性利尿剤は重度の高K血症を来たすことがあり特にACEIやARBと併用では注意が必要・クロルタリドンは,腎疾患患者において尿毒症を増悪しうるので腎機能低下患者では注意が必要である.・JSH2009では成人の高血圧に対するヒドロクロロチアジド,クロルタリドン,トリアムテレンの投与量として添付文書よりも低用量を推奨している1).実際の投与に当たっては国内の成人の最大投与量を超えるべきではない.《禁忌》・無尿または急性腎不全・ヒドロクロロチアジドやクロルタリドン,フロセマイドでは,体液中のNa,Kが明らかに減少している場合は禁忌・トリアムテレン,スピロノラクトンでは高K血症は禁忌

成人 高血圧症,悪性高血圧,浮腫,月経前緊張症

1回25~100mg, 分1~2回(添付文書)・臨床試験から推奨される用量は1日12.5mg(1/2錠)以下 360)

腎排泄,尿中排泄率70%(4日間)

クロルタリドン(クラス IIa,レベルC)

ハイグロトン 錠:50mg 小児 なし 経口 ・ 開 始 量:0.3mg/kg/日,最大:2mg/kg /日(50mg/日まで),分1~2回 363)

(→ 注意事項を参照)

(成人,50mg)Tmax:13.4時間

( 成 人,50mg)T1/2:血漿中44.1時間

成人 高血圧症,心性浮腫(うっ血性心不全),浮腫(肝性,腎性)

1日1回50~100mg(添付文書)・臨床試験から推奨される用 量 は1日12.5mg以 下(1/4錠)360)

腎 排泄,尿中43.8%,糞中17.5~31.2%

トリアムテレン(クラス IIa,レベルC)

トリテレン カプセル:50mg 小児 なし 経口 ・開始量:1~2mg/kg/日,最大:3~4mg/kg/日(300mg/日まで),2~3回363)

(→ 注意事項を参照)

(成人100~200mg)Tmax:2~4時間

(成人100~200mg)T1/2:100~120分

《重大な副作用》急性腎不全

成人 本態性高血圧症,腎性高血圧症,うっ血性心不全,浮腫(肝性浮,腎性)

1日90~200mg  分2~3(増減)(添付文書)・1日1回,50mg(サイアザイド系との併用が望ましい)360)

腎排泄.尿中への未変化体+活性代謝物の排泄は80%(8時間後)

フロセミド(クラス I,レベルC)

ラシックス 錠:20・40mg細粒:4% 40mg/g注 20・100mg/2・10mL/A

小児 (浮腫のみ小児の適応あり)

経口 ・開始量0.2~2.0mg/kg/回,最大6mg/kg/日,分1~2回 364)

(成人,40mg,普通製剤経口)Tmax:1.7±0.3時間

(成人,40mg,普通製剤経口)T1/2:0.35時間

・主な副作用として,低K血症,高尿酸血症など《重大な副作用》・ショック,アナフィラキシー様症状,再生不良性貧血,汎血球減少症,無顆粒球症,赤芽球癆,水疱性類天疱瘡,難聴,Stevens-Johnson症候群,心室性不整脈,間質性腎炎

静注 (緊急時)・0.5~5mg/回364) ( 成 人,40mg静 注 )T1/2:約0.5時間 

180 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

一般名 商品名 剤形 適応 投与経路・用法・用量 血中濃度 血中半減期 主な副作用(%) 注意事項・禁忌成人 悪性高血圧,腎性高

血圧症,本態性高血圧症,うっ血性心不全,浮腫など

経口 ・分1 40~80mg ・経口:1時間以内,・静注:数分以内

一部肝において代謝を受け,肝および腎より排泄

静注or筋注

・1日1回20mg( 増 減 ),最 大 1回 500mg 1日1,000mgまで

スピロノラクトン(クラス IIa,レベルC)

アルダクトンA 錠:25・50mg細 粒:10 % 100mg/g

小児 なし 経口 ・開始量1mg/kg /日,最大3.3mg/kg/日(100mg/日まで),分1~2回 363),364)

( 成 人,100mg)Tmax:2.8時間

(成人,100mg)T1/2:( α )1.8時 間,( β )11.6時間

《重大な副作用》・電解質異常(高K血症,低Na血症,代謝性アシドーシス等),急性腎不全

成人 高血圧症,原発性アルドステロン症,うっ血性心不全,浮腫

1日50~100mg,分服(増減)

肝代謝,肝および腎より排泄

β遮断薬アテノロール(クラス I,レベルC)

テノーミン 錠:25・50mg 小児 高血圧症(12歳以上)

経口 ・開始量0.5~1mg/kg/日,最 大2mg/kg/日(100mg/日まで),分1~2回 363),364)

( 成 人,50mg)Tmax:3.8±0.4時間

( 成 人,50mg)T1/2:10.8±2.7時間

・β遮断薬に共通した主な副作用として,徐脈,めまい,倦怠感など《重大な副作用》・心不全症状の顕在化,悪化,伝道障害,気管支喘息症状の誘発,悪化など

《注意事項》・心拍は用量に依存する・運動機能を低下させる可能性あり・徐放性プロプラノロールの1日1回投与も可能である《禁忌》・気管支喘息,インスリン依存性のDM患者,糖尿病ケトアシドーシスなど

成人 本態性高血圧,狭心症,頻脈性不整脈

1日1回25~50mg, 最 大用量100mg

肝臓でほとんど代謝を受けない.腎排泄

メトプロロール(クラス I,レベルB)

セロケンロプレソール

錠:20・40mg 小児 高血圧症(6歳以上) 経口 ・開始量1~2mg/kg/日,最 大6mg/kg/日(200mg/日まで),分2回 363)

(成人)Tmax:1~2時間

( 成 人,40mg)T1/2:2.8時間

成人 本態性高血圧症,腎実質性高血圧,狭心症,頻脈性不整脈

1日60~120mg,最大量240mg

肝代謝

プロプラノロール(クラス IIa,レベルC)

インデラル 錠:10・20mg 小児 なし 経口 ・開始量1~2mg/kg/日,最大4mg/kg/日,分3359)

(成人,錠20mg経口投与)Tmax:1.5~2時間

(成人,錠20mg経口投与 )T1/2:3.9±0.5時間

成人 本態性高血圧,褐色細胞腫の手術,発作性頻拍の予防など

1日30~60mg,1日3回,最大量1日120mg

肝代謝.ほとんどが代謝体(活性あり)として尿中へ排泄

α遮断薬ドキサゾシン(クラス IIa,レベルC)

カルデナリン 錠: 0 . 5・ 1・ 2・4mg

小児 なし 経口 ・開始量:1mg/日,最大:4mg/日,分1363)

(成人,単回投与)Tmax:1.6~1.7時間

( 成 人, 単 回 投 与 )T1/2:10~16時間

《重大な副作用》・失神,意識喪失,狭心症

《注意事項》・投与初期や増量後,特に初回投与後に低血圧や失神を起こすことがある・PDE5阻害作用を有する薬剤を服用中は低用量から開始し慎重に用量調節を行う

成人 高血圧症,褐色細胞腫による高血圧症

・1日1回1~4mg,最大量8mg(褐色細胞腫では最高用量12mg)

肝代謝.ほとんど糞中へ排泄

プラゾシン(クラス IIa,レベルC)

ミニプレス 錠:0.5・1mg 小児 なし 経口 ・開始量0.05~0.1mg/kg/日, 最 大0.5mg/kg/日,分1363)

(健康成人,2mg経口投与)Tmax:1.2時間

(健康成人,2mg経口投与)T1/2:2時間

成人 本態性高血圧,腎性高血圧,前立腺肥大に伴う排尿障害

1日1.5~6mg,分2~3回 肝代謝.主に糞便中に排泄

中枢性α2アゴニストクロニジン(クラス I,レベルC)

カタプレス 錠:75・150μg 小児 高血圧症(12歳以上)

経口 《通常の管理》・ 12歳以上:開始量0.2mg/日,最大量2.4mg/日,分3363)

《重症高血圧の管理》・ 0.05~0.1mg/回, 合 計

0.8mgまで反復して投与可 363)

(外国高血圧患者,0.3mg経 口 投 与 )Tmax:90分

( 外 国 高 血 圧 患 者,0.3mg経口投与)T1/2:約10時間

《重大な副作用》・幻覚,錯乱

《注意事項》・急に中止した場合にリバウンドによる重度の高血圧をきたす可能性あり

成人 本態性高血圧症,腎性高血圧

1回0.075~0.15mg, 分3回

30~60分 主に腎排泄

181循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

一般名 商品名 剤形 適応 投与経路・用法・用量 血中濃度 血中半減期 主な副作用(%) 注意事項・禁忌成人 悪性高血圧,腎性高

血圧症,本態性高血圧症,うっ血性心不全,浮腫など

経口 ・分1 40~80mg ・経口:1時間以内,・静注:数分以内

一部肝において代謝を受け,肝および腎より排泄

静注or筋注

・1日1回20mg( 増 減 ),最 大 1回 500mg 1日1,000mgまで

スピロノラクトン(クラス IIa,レベルC)

アルダクトンA 錠:25・50mg細 粒:10 % 100mg/g

小児 なし 経口 ・開始量1mg/kg /日,最大3.3mg/kg/日(100mg/日まで),分1~2回 363),364)

( 成 人,100mg)Tmax:2.8時間

(成人,100mg)T1/2:( α )1.8時 間,( β )11.6時間

《重大な副作用》・電解質異常(高K血症,低Na血症,代謝性アシドーシス等),急性腎不全

成人 高血圧症,原発性アルドステロン症,うっ血性心不全,浮腫

1日50~100mg,分服(増減)

肝代謝,肝および腎より排泄

β遮断薬アテノロール(クラス I,レベルC)

テノーミン 錠:25・50mg 小児 高血圧症(12歳以上)

経口 ・開始量0.5~1mg/kg/日,最 大2mg/kg/日(100mg/日まで),分1~2回 363),364)

( 成 人,50mg)Tmax:3.8±0.4時間

( 成 人,50mg)T1/2:10.8±2.7時間

・β遮断薬に共通した主な副作用として,徐脈,めまい,倦怠感など《重大な副作用》・心不全症状の顕在化,悪化,伝道障害,気管支喘息症状の誘発,悪化など

《注意事項》・心拍は用量に依存する・運動機能を低下させる可能性あり・徐放性プロプラノロールの1日1回投与も可能である《禁忌》・気管支喘息,インスリン依存性のDM患者,糖尿病ケトアシドーシスなど

成人 本態性高血圧,狭心症,頻脈性不整脈

1日1回25~50mg, 最 大用量100mg

肝臓でほとんど代謝を受けない.腎排泄

メトプロロール(クラス I,レベルB)

セロケンロプレソール

錠:20・40mg 小児 高血圧症(6歳以上) 経口 ・開始量1~2mg/kg/日,最 大6mg/kg/日(200mg/日まで),分2回 363)

(成人)Tmax:1~2時間

( 成 人,40mg)T1/2:2.8時間

成人 本態性高血圧症,腎実質性高血圧,狭心症,頻脈性不整脈

1日60~120mg,最大量240mg

肝代謝

プロプラノロール(クラス IIa,レベルC)

インデラル 錠:10・20mg 小児 なし 経口 ・開始量1~2mg/kg/日,最大4mg/kg/日,分3359)

(成人,錠20mg経口投与)Tmax:1.5~2時間

(成人,錠20mg経口投与 )T1/2:3.9±0.5時間

成人 本態性高血圧,褐色細胞腫の手術,発作性頻拍の予防など

1日30~60mg,1日3回,最大量1日120mg

肝代謝.ほとんどが代謝体(活性あり)として尿中へ排泄

α遮断薬ドキサゾシン(クラス IIa,レベルC)

カルデナリン 錠: 0 . 5・ 1・ 2・4mg

小児 なし 経口 ・開始量:1mg/日,最大:4mg/日,分1363)

(成人,単回投与)Tmax:1.6~1.7時間

( 成 人, 単 回 投 与 )T1/2:10~16時間

《重大な副作用》・失神,意識喪失,狭心症

《注意事項》・投与初期や増量後,特に初回投与後に低血圧や失神を起こすことがある・PDE5阻害作用を有する薬剤を服用中は低用量から開始し慎重に用量調節を行う

成人 高血圧症,褐色細胞腫による高血圧症

・1日1回1~4mg,最大量8mg(褐色細胞腫では最高用量12mg)

肝代謝.ほとんど糞中へ排泄

プラゾシン(クラス IIa,レベルC)

ミニプレス 錠:0.5・1mg 小児 なし 経口 ・開始量0.05~0.1mg/kg/日, 最 大0.5mg/kg/日,分1363)

(健康成人,2mg経口投与)Tmax:1.2時間

(健康成人,2mg経口投与)T1/2:2時間

成人 本態性高血圧,腎性高血圧,前立腺肥大に伴う排尿障害

1日1.5~6mg,分2~3回 肝代謝.主に糞便中に排泄

中枢性α2アゴニストクロニジン(クラス I,レベルC)

カタプレス 錠:75・150μg 小児 高血圧症(12歳以上)

経口 《通常の管理》・ 12歳以上:開始量0.2mg/日,最大量2.4mg/日,分3363)

《重症高血圧の管理》・ 0.05~0.1mg/回, 合 計

0.8mgまで反復して投与可 363)

(外国高血圧患者,0.3mg経 口 投 与 )Tmax:90分

( 外 国 高 血 圧 患 者,0.3mg経口投与)T1/2:約10時間

《重大な副作用》・幻覚,錯乱

《注意事項》・急に中止した場合にリバウンドによる重度の高血圧をきたす可能性あり

成人 本態性高血圧症,腎性高血圧

1回0.075~0.15mg, 分3回

30~60分 主に腎排泄

182 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

では増加するため,分布容積の変化に応じた投与量設計が必要になる.例えば,分布容積が0.3L/kgの水溶性薬物を体重50kgの患者にピークの血中濃度を10μg/mLになるように初回投与量を算出すると,上記の関係から初回投与量=0.3L/kg×50kg×10mg/L=150mgと算出される.しかし,この患者が浮腫により10kgの体重増加があった場合は,薬物は増加した細胞外液10Lにも分布することから,150mg投与した場合の血中薬物濃度=150mg/(15+10)L=6mg/Lと理論上低くなる.一方,ジゴキシンは腎不全で特異的に分布容積が低下する薬物として知られている.通常の薬物投与に際しては腎不全患者でも初回負荷量を減量する事はないが,分布容積が低下するジゴキシンの場合には通常の負荷量の50~70%に減量する必要がある. また,腎不全患者では,血漿アルブミン値の低下,尿毒素物質の蓄積による薬物-蛋白の結合阻害,アルブミ

ンの構造変化などにより蛋白結合率が低下する.蛋白結合率の変化は薬物の分布容積と非結合型の割合を増加させ,肝臓や腎臓からの排泄に大きく影響するため,腎不全患者での薬物の臨床的な効果を予測することを困難にさせている.ジギトキシン,フェニトイン,バルプロ酸などの蛋白結合率の高い薬物を腎不全患者に投与する場合,総濃度が有効治療範囲内であっても蛋白結合率が低下して,非結合型の割合が高くなるため中毒作用が発現する可能性があり,注意が必要である.腎不全患者では多くの酸性薬物で蛋白結合率が低下する.ジソピラミドやリドカインはアルブミン以外の蛋白(α1-酸性糖蛋白:腎不全患者では健常者の2倍)により強く結合するため,腎不全患者で蛋白結合率が高くなり,総濃度が有効治療域に入っていても十分な効果が得られない事がある.

③代謝と排泄

 脂溶性の薬物は,腎より直接排泄されることが出来ないため,肝臓で水溶性の高い代謝物・抱合体になってから,多くは腎臓から排泄される.代謝物が不活性ならば腎機能が低下していても投与量の変更は不要であるが,代謝物に活性がある場合は投与量の変更が必要になる.例えばジソピラミドの活性代謝物の強力な抗コリン作

一般名 商品名 剤形 適応 投与経路・用法・用量 血中濃度 血中半減期 主な副作用(%) 注意事項・禁忌血管拡張薬ヒドララジン(クラス I,レベルC)

アプレゾリン 錠:10・25・50mg散:10% 100mg/g注:20mg/A

小児 高血圧症 経口 《通常の管理》・開始量0.75mg/kg/日,最 大 7 . 5 m g / k g / 日(200mg/日まで),分3~4回 368),364)

(外国高血圧患者,0.3mg経 口 投 与 )Tmax:90分

( 外 国 高 血 圧 患 者,0.3mg経口投与)T1/2:約10時間

《重大な副作用》・SLE様症状,うっ血性心不全,狭心症発作誘発,麻痺性イレウス,呼吸困難,急性腎不全,溶血性貧血,汎血球減少,多発性神経炎,血管炎,劇症肝炎,重篤な肝障害

《禁忌》・虚血性心疾患,大動脈弁狭窄,心不全など

静注or筋注

《重症高血圧の管理》0.2~ 0.6mg/kg /回( IV bolusの場合4時間毎に投与)364)

成人 本態性高血圧,妊娠中毒症による高血圧症

経口 ・ 1 回 2 0 - 5 0 m g, 3 0 ~200mg/日,分3~4回

・経口:30分・静注:10分

肝代謝.50~80%が尿中へ排泄

静注or筋注

・1回20mgを筋肉内又は徐々に静脈内注射

ニトロプルシド(クラス IIa,レベルC)

ニトプロ 注:6・30mg/2・10mL/A

小児 なし 静注 ・0.5~10μg/kg/分 363) (健常人)血中濃度は投与速度の増加に伴って上昇し,投与終了後は速やかに減少

(健常人)T1/2:約1分.(代謝物としてシアンが生成され速やかにチオシアンに代謝.シアンのT1/2:約12分)

《重大な副作用》・過度の低血圧,リバウンド現象(中止時に急激な血圧上昇等)

《注意事項》・過度の低血圧が急激に現れることがあり,血圧を連続的にモニターしながら慎重に投与すること・本剤の過量投与によりシアン中毒が現れることあり.長期の投与(72時間以上)や腎不全患者への投与,sodium thiosulfateとの併用時にはcyanideのモニターが必要

成人 手術時の低血圧維持,手術時の異常高血圧の救急処置

0.5μg/kg/分で開始し血圧をモニターしながら3μg/kg/分を上限とし投与速度を調節

数秒以内 主に尿中に排泄

注)多くの降圧薬において米国の成人に対する投与量は本邦の約2倍に設定されている.本邦の小児に対する降圧薬の投与量を算出  応・用量設定のある降圧薬はアムロジピン,バルサルタン,エナラプリ,リシノプリルのみである.

する際には本邦の成人用量の上限を超えないように注意が必要である。調べ得た範囲内では本邦における小児高血圧症に対する適

低下する薬物 変化しない薬物 上昇する薬物フロセミドピンドロールクロキサシリンイソニアジド

シメチジンジゴキシンラベタロールST合剤

オクスプレノロールプロプラノロールエリスロマイシン

表26 腎疾患におけるバイオアベイラビリティーの変化

183循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

用・低血糖, アロプリノールの活性代謝物の肝障害,汎血球減少,剥離性皮膚炎,プロカインアミドの活性代謝物の催不整脈作用増強などが腎不全患者で問題となる.水溶性の薬物は,腎排泄が代謝の中心であり,肝臓で代謝を受けずに腎臓から排泄されるため,腎不全患者では減量が必要である.基本的には,ほとんど肝代謝を受けない腎排泄型薬物は腎機能と,薬剤の特性をもとに腎不全患者に対する投与設計ができる.しかし,一部の薬物では経口薬のバイオアベイラビリティーの変化,血漿蛋白や組織蛋白との結合性の変化,組織移行性の変化,代謝物の蓄積による種々の影響を考慮する必要がある.

3 腎不全患者への薬物投与の基本 尿中への活性体の排泄率が高い薬物を腎不全患者に投与すると,血中消失半減期が延長する.よって,その程度に応じて投与間隔を延長させ,有効血中濃度に入るように1回の投与量を設定する.小児腎不全患者に対する至適投与量は,ほとんどの薬物で明確な記載がない.この場合は,健康成人における薬物動態,主に尿中活性体の排泄率,タンパク結合率を参考にして投与量を決定する.薬物によっては糸球体で濾過されるだけでなく,尿細管からの分泌や,再吸収,薬物の荷電や,尿pHが薬

物排泄に影響を及ぼすことがある.通常,薬物の腎クリアランスはGFRと近似していると仮定して投与設計を行う.

①腎不全患者への適正投与の考え方

 腎排泄型の薬剤は薬物の活性体(多くの場合は未変化体)の尿中排泄率および腎機能から適正投与量を推定する事ができる.腎機能の指標として,GFR ,estimated GFR(eGFR),クレアチニンクリアランス(CCr),血清クレアチニン値(SCr)が用いられる.ICHガイドラインE6に腎機能低下の場合の記載が必要とされているにも関わらず,我が国の医薬品添付文書に詳細な腎機能別の投与量が記載されている薬物は少なく,また海外で使用可能な医薬品も含め,慎重投与とされている医薬品が多く見られる(表27).

②尿中排泄率

 活性体の尿中排泄率が40%以上になると腎不全患者で蓄積されやすく,減量が必要になる.注意すべき点は,添付文書で記載されている尿中排泄率は尿中未変化体排泄率と単なる尿中排泄率があり,活性のない代謝物を含んでいるものがあることである.尿中への排泄物が活性

一般名 商品名 剤形 適応 投与経路・用法・用量 血中濃度 血中半減期 主な副作用(%) 注意事項・禁忌血管拡張薬ヒドララジン(クラス I,レベルC)

アプレゾリン 錠:10・25・50mg散:10% 100mg/g注:20mg/A

小児 高血圧症 経口 《通常の管理》・開始量0.75mg/kg/日,最 大 7 . 5 m g / k g / 日(200mg/日まで),分3~4回 368),364)

(外国高血圧患者,0.3mg経 口 投 与 )Tmax:90分

( 外 国 高 血 圧 患 者,0.3mg経口投与)T1/2:約10時間

《重大な副作用》・SLE様症状,うっ血性心不全,狭心症発作誘発,麻痺性イレウス,呼吸困難,急性腎不全,溶血性貧血,汎血球減少,多発性神経炎,血管炎,劇症肝炎,重篤な肝障害

《禁忌》・虚血性心疾患,大動脈弁狭窄,心不全など

静注or筋注

《重症高血圧の管理》0.2~ 0.6mg/kg /回( IV bolusの場合4時間毎に投与)364)

成人 本態性高血圧,妊娠中毒症による高血圧症

経口 ・ 1 回 2 0 - 5 0 m g, 3 0 ~200mg/日,分3~4回

・経口:30分・静注:10分

肝代謝.50~80%が尿中へ排泄

静注or筋注

・1回20mgを筋肉内又は徐々に静脈内注射

ニトロプルシド(クラス IIa,レベルC)

ニトプロ 注:6・30mg/2・10mL/A

小児 なし 静注 ・0.5~10μg/kg/分 363) (健常人)血中濃度は投与速度の増加に伴って上昇し,投与終了後は速やかに減少

(健常人)T1/2:約1分.(代謝物としてシアンが生成され速やかにチオシアンに代謝.シアンのT1/2:約12分)

《重大な副作用》・過度の低血圧,リバウンド現象(中止時に急激な血圧上昇等)

《注意事項》・過度の低血圧が急激に現れることがあり,血圧を連続的にモニターしながら慎重に投与すること・本剤の過量投与によりシアン中毒が現れることあり.長期の投与(72時間以上)や腎不全患者への投与,sodium thiosulfateとの併用時にはcyanideのモニターが必要

成人 手術時の低血圧維持,手術時の異常高血圧の救急処置

0.5μg/kg/分で開始し血圧をモニターしながら3μg/kg/分を上限とし投与速度を調節

数秒以内 主に尿中に排泄

注)多くの降圧薬において米国の成人に対する投与量は本邦の約2倍に設定されている.本邦の小児に対する降圧薬の投与量を算出  応・用量設定のある降圧薬はアムロジピン,バルサルタン,エナラプリ,リシノプリルのみである.

する際には本邦の成人用量の上限を超えないように注意が必要である。調べ得た範囲内では本邦における小児高血圧症に対する適

184 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

表27 腎機能低下時の薬物投与量

薬物 尿中未変化体排泄率腎不全患者への修正 エビデンスレベル

a)成人における治験(海外)b)成人での症例報告c)文献著者の見解

参考文献 日本の添付文章(腎不全への投与)

日本の添付文章(尿中排泄率)GFR(mL/分/1.73m2)

30~50 10~29 <10α2

刺激薬

クロニジン 40~60% 100% 100%(減量の報告あり)

100%(減量の報告あり) b) 405 慎重投与 大部分は未変化体で尿中に45%排

ACE阻害薬

カプトプリル 40~50% 75% 75% 50% a) 405 慎重投与 記載なし

エナラプリル 60%尿中排泄,20%enalapril 75% 75% 50% a) 405 Ccr30mL/min以下またはSCr3mg/dL以上の

場合投与量減量または投与間隔の延長 記載なし

リシノプリル ほぼ100% 50% 50% 25% a) 405 Ccr30mL/min以下またはSCr3mg/dL以上の場合投与量減量または投与間隔の延長 主に尿に未変化体として排泄

アンジオテンシン

レセプター拮抗薬

カンデサルタン 52% 100% 100% 100%(少量より開始) a) 405 過度の降圧により腎機能が悪化するおそれ

があり成人で腎障害のある患者へのデータあり

ロサルタン 12% 100% 100% 100%(少量より開始) a) 405

高カリウム血症,腎機能の悪化のおそれあり,血清クレアチニンが2.5mg/dL以上の場合には,投与量を減らすなど慎重に投与

成人で腎障害のある患者へのデータあり

バルサルタン 13% 100% 100% 100%(少量より開始) b) 405

腎機能障害の悪化のおそれがあり,血清クレアチニン値が3.0mg/dL以上の場合には,投与量を減らすなど慎重に投与

記載なし

抗不整

脈薬 プロカインアミド 50~60% 経口:6~12時間毎 経口:6~12

時間毎%経口:8~24時間毎 c) 405 記載なし 記載なし

β遮断薬

アテノロール 85~100% 最大1mg/kg24時間毎(成人は50mg)

最大1mg/kg48時間毎

最大1mg/kg48時間毎 a) 405 記載なし 記載なし

ビソプロロール 50% 100% 66% 50% c) 405 記載なし 47.8±10.5%外国のデータエスモロール 10%未満 100% 100% 100% a) 405 尿中排泄遅延 1%以下ラベタロール 5%未満 100% 100% 100% a) 405 慎重投与 尿中排泄60% 抱合体で排泄メトプロロール 3~10% 100% 100% 100% a) 405 記載なし 変化体排泄は3~5%

プロプラノロール 1~5%未満100%(内服ではバイオアベイクビティ上昇のため減量)

100% 100% a) 405 記載なし 投与量のほとんどは尿中排泄

血管拡

張薬

ヒドララジン 14% 8時間毎 8時間毎 12~24時間毎 a) 405 代謝排泄の遅延の可能性あり投与量間隔の調節

投与量の50~80%が尿中排泄(未変化体記載なし)

ニトロプルシド 10%以下 100% 100% 100% a)およびc) 405 慎重投与 未変化体尿中排泄ほとんどなしPGE1

製剤 アルプロスタジル 80%は肺を通過中に酸化され

代謝物は尿中排泄 100% 100% 100% c) 406 慎重投与 記載なし

Ca拮

抗薬

アムロジピン 10% 100% 100% 100% 3) 406 慎重投与 記載なしニカルジピン 1%以下 100% 100% 100% 3) 405,407,410 慎重投与 記載なしニフェジピン ほとんどなし 100% 100% 100% 1) 405,407,410 重篤な腎機能障害では慎重投与 未変化体尿中排泄ほとんどなし

強心

配糖体

ジゴキシン 大部分が未変化体で尿中排泄 75% 50%または36時間毎

25%または48時間毎 1) 405 排泄遷延のため中毒を起こす可能性あり 大部分が未変化体で尿中排泄

利尿薬

フロセミド 50~70% 100% 100% 100% 1) 405,407,410 記載なしヒドロクロロチアジド 90% 100% 推奨できない 推奨できない 1) 405 無尿患者で禁忌,重篤な腎臓障害で慎重投与 記載なしスピロノラクトン 10%以下 100% 100% 推奨できない 3) 405 無尿患者で禁忌,重篤な腎臓障害で慎重投与 記載なし

その他の薬

ドブタミン 10%以下 100% 100% 100% 3) 405 記載なし 記載なしドパミン 3% 100% 100% 100% 3) 405 記載なし 記載なしエピネフリン 大部分が代謝物として尿中排泄 100% 100% 100% 3) 405,406,407 記載なし 大部分が代謝物として尿中排泄

ミルリノン 85%以上は未変化体で尿排泄 0.33~0.43μg/kg/分

0.23~0.33μg/kg/分

0.2μg/kg/分 1) 405,406 腎臓機能低下では過量投与に注意 85%以上は未変化体で尿中排泄

抗凝固薬

ジピリダモール 不明 100% 100% 100% 3) 405 記載なし 尿中未変化体なしヘパリン 通常は少量 100% 100% 100~50% 1) 405

ワルファリン ごくわずか 100% 100% 100% 1) 405 記載なし 尿中未変化体はごくわずか

非NSAID アセトアミノフェン 3% 100% 100% 8時間毎(投与間

隔1.5~2倍) 1) 405 記載なし

NSAID アスピリン 2~30% 100% 100% 避ける 2) 405 重篤な腎臓機能障害があるときは禁忌

185循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

薬物 尿中未変化体排泄率腎不全患者への修正 エビデンスレベル

a)成人における治験(海外)b)成人での症例報告c)文献著者の見解

参考文献 日本の添付文章(腎不全への投与)

日本の添付文章(尿中排泄率)GFR(mL/分/1.73m2)

30~50 10~29 <10α2

刺激薬

クロニジン 40~60% 100% 100%(減量の報告あり)

100%(減量の報告あり) b) 405 慎重投与 大部分は未変化体で尿中に45%排

ACE阻害薬

カプトプリル 40~50% 75% 75% 50% a) 405 慎重投与 記載なし

エナラプリル 60%尿中排泄,20%enalapril 75% 75% 50% a) 405 Ccr30mL/min以下またはSCr3mg/dL以上の

場合投与量減量または投与間隔の延長 記載なし

リシノプリル ほぼ100% 50% 50% 25% a) 405 Ccr30mL/min以下またはSCr3mg/dL以上の場合投与量減量または投与間隔の延長 主に尿に未変化体として排泄

アンジオテンシン

レセプター拮抗薬

カンデサルタン 52% 100% 100% 100%(少量より開始) a) 405 過度の降圧により腎機能が悪化するおそれ

があり成人で腎障害のある患者へのデータあり

ロサルタン 12% 100% 100% 100%(少量より開始) a) 405

高カリウム血症,腎機能の悪化のおそれあり,血清クレアチニンが2.5mg/dL以上の場合には,投与量を減らすなど慎重に投与

成人で腎障害のある患者へのデータあり

バルサルタン 13% 100% 100% 100%(少量より開始) b) 405

腎機能障害の悪化のおそれがあり,血清クレアチニン値が3.0mg/dL以上の場合には,投与量を減らすなど慎重に投与

記載なし

抗不整

脈薬 プロカインアミド 50~60% 経口:6~12時間毎 経口:6~12

時間毎%経口:8~24時間毎 c) 405 記載なし 記載なし

β遮断薬

アテノロール 85~100% 最大1mg/kg24時間毎(成人は50mg)

最大1mg/kg48時間毎

最大1mg/kg48時間毎 a) 405 記載なし 記載なし

ビソプロロール 50% 100% 66% 50% c) 405 記載なし 47.8±10.5%外国のデータエスモロール 10%未満 100% 100% 100% a) 405 尿中排泄遅延 1%以下ラベタロール 5%未満 100% 100% 100% a) 405 慎重投与 尿中排泄60% 抱合体で排泄メトプロロール 3~10% 100% 100% 100% a) 405 記載なし 変化体排泄は3~5%

プロプラノロール 1~5%未満100%(内服ではバイオアベイクビティ上昇のため減量)

100% 100% a) 405 記載なし 投与量のほとんどは尿中排泄

血管拡

張薬

ヒドララジン 14% 8時間毎 8時間毎 12~24時間毎 a) 405 代謝排泄の遅延の可能性あり投与量間隔の調節

投与量の50~80%が尿中排泄(未変化体記載なし)

ニトロプルシド 10%以下 100% 100% 100% a)およびc) 405 慎重投与 未変化体尿中排泄ほとんどなしPGE1

製剤 アルプロスタジル 80%は肺を通過中に酸化され

代謝物は尿中排泄 100% 100% 100% c) 406 慎重投与 記載なし

Ca拮

抗薬

アムロジピン 10% 100% 100% 100% 3) 406 慎重投与 記載なしニカルジピン 1%以下 100% 100% 100% 3) 405,407,410 慎重投与 記載なしニフェジピン ほとんどなし 100% 100% 100% 1) 405,407,410 重篤な腎機能障害では慎重投与 未変化体尿中排泄ほとんどなし

強心

配糖体

ジゴキシン 大部分が未変化体で尿中排泄 75% 50%または36時間毎

25%または48時間毎 1) 405 排泄遷延のため中毒を起こす可能性あり 大部分が未変化体で尿中排泄

利尿薬

フロセミド 50~70% 100% 100% 100% 1) 405,407,410 記載なしヒドロクロロチアジド 90% 100% 推奨できない 推奨できない 1) 405 無尿患者で禁忌,重篤な腎臓障害で慎重投与 記載なしスピロノラクトン 10%以下 100% 100% 推奨できない 3) 405 無尿患者で禁忌,重篤な腎臓障害で慎重投与 記載なし

その他の薬

ドブタミン 10%以下 100% 100% 100% 3) 405 記載なし 記載なしドパミン 3% 100% 100% 100% 3) 405 記載なし 記載なしエピネフリン 大部分が代謝物として尿中排泄 100% 100% 100% 3) 405,406,407 記載なし 大部分が代謝物として尿中排泄

ミルリノン 85%以上は未変化体で尿排泄 0.33~0.43μg/kg/分

0.23~0.33μg/kg/分

0.2μg/kg/分 1) 405,406 腎臓機能低下では過量投与に注意 85%以上は未変化体で尿中排泄

抗凝固薬

ジピリダモール 不明 100% 100% 100% 3) 405 記載なし 尿中未変化体なしヘパリン 通常は少量 100% 100% 100~50% 1) 405

ワルファリン ごくわずか 100% 100% 100% 1) 405 記載なし 尿中未変化体はごくわずか

非NSAID アセトアミノフェン 3% 100% 100% 8時間毎(投与間

隔1.5~2倍) 1) 405 記載なし

NSAID アスピリン 2~30% 100% 100% 避ける 2) 405 重篤な腎臓機能障害があるときは禁忌

186 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

のない代謝物の場合は腎不全患者でも減量の必要性はない.例えばニフェジピンの尿中排泄率は70~80%と記載されているが,これらは全て活性のない代謝物であるため,腎不全患者でも減量の必要性はない.経口製剤の場合,吸収率が低い薬剤では,バイオアベイラビリティーを考慮せず尿中未変化体排泄率が記載されているため,吸収率を算定する必要がある.例えば,アシクロビルを1時間で静注した場合,68~76%が48時間以内に未変化体として尿中に排泄される.アシクロビルを経口投与した場合,投与されたアシクロビルの15~30%が血中に取り込まれ,投与されたアシクロビルの12~25%が未変化体のまま尿中に排泄される.添付文書には,経口投与したアシクロビルの12~25%が未変化体として排泄させると記載されているため,内服薬の吸収,代謝を考慮しないと未変化体尿中排泄率が見かけ上低くなる.

③腎機能に応じた投与量,投与間隔の算出

 腎機能障害患者に薬物を投与する場合は,身体所見から細胞外液量の評価を行う.初期投与において浮腫や腹水のある患者ではその増量が必要な場合があり,脱水の患者ではその減量が必要な場合がある.併用薬剤の確認も重要である. 薬物の尿中未変化体排泄率および患者の腎機能から,至適投与量を求める方法としてGiusti-Hayton法がある.投与量推定計算式:Giusti-Hayton法を以下に示す.投与補正係数(R)=1-尿中未変化体排泄率×(1-腎不全患者のCCrまたはGFR/正常のCCr)であり,正常のCCrとして一般的に100を用いることができる. Rを用いた投与設計方式には投与量の変更と投与間隔の変更がある. 投与量の変更は,腎不全患者の投与量=常用量×Rで求められる. 投与間隔の変更は投与間隔=通常投与間隔×1/Rで求められる.小児領域では蓄尿によるCCr測定は困難であり,実際には小児用 Schwartzの予測式によるeGFRが使用されることが多い. 以下にeGFRの計算式を示す.eGFR(mL/min/1.73m2)=k× 身 長(cm)/SCr (mg/dL),k値:2~12歳0.55,13~21歳女性0.55,13~21歳男性0.70.推定式によるGFRは実際の値から乖離しているという報告もあるが,蓄尿を必要とせず,簡便で実用的である.Schwartzの式に用いる血清クレアチニン値は Jaffe法による測定値を用いている.酵素法による測定値は Jaffe法による測定結果より0.1~0.2mg/dL程度低値を示すため,酵素法で

の測定値+0.2mg/dLを Jaffe法による値と仮定して計算する.SCr値が小数点以下一桁で表される場合は誤差を生じる可能性を考慮する.現在小児腎臓病学会で酵素法によるSCrを用いた新しい計算式が検討されている.(正常クレアチニン値は学会ホームページhttp://www.jspn.jp/参照) Giusti-Hayton法による投与量推定計算式には尿中未変化体排泄率が必要になるが,我が国の医薬品添付文書には,尿中未変化体排泄率の記載がない薬物が多く,腎不全患者への薬物の投与量,投与間隔の変更は,海外のガイドラインや治験,各施設のデータから得られた情報をもとに行われている事が多い.表27に主に循環器系に使用する一部の薬物の尿中未変化体排泄率および腎機能別の投与法の変更について記載したが,日本の添付文書のほとんどは腎機能別の投与法の記載がなく,単に慎重投与となっているため投与法変更の参考にできなかった.そこで表27は海外の腎不全患者での薬物代謝や尿中未変化体排泄率のデータを元に作成した.405)-407)

 有効濃度と中毒濃度が接近している有効安全血中濃度が狭い薬剤は,薬物血中濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring: TDM)を行うことが,副作用なしに有効な血中濃度を得るために有用である.

4 腎機能低下により注意が必要な薬剤

①NSAID

 腎不全患者に投与すると腎機能のさらなる悪化を招くことがあるため使用を控える.また,CCrが10mL/min未満の患者には禁忌となっている.NSAIDよる急性腎不全は腎血流低下による腎虚血によりおこり,肝硬変,ネフローゼ症候群,低血圧,脱水状態の患者で発症しやすい.腎機能障害を認めた場合には,直ちに薬剤を中止する.408)

②アセトアミノフェン

 尿中未変化体排泄率は低いが,腎不全患者では高濃度に胆汁排泄された抱合体が腸内細菌にて脱抱合され再び吸収されるため血中濃度が上がりやすい.連続投与する場合は減量が必要になる.409)

③造影剤

 重篤な腎障害がある患者への投与は原則禁忌である.非透析患者における造影剤による腎障害の予防法として,造影剤検査前後12時間に生理食塩水1mL/kg/時を

187循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

輸液する,利尿薬やNSAIDの使用を中止・禁止する,頻回の造影検査を控える,腎機能の厳密なモニターを行うなどが提言されている.透析には造影剤による腎障害を予防する効果は認められないが,造影剤による腎不全やその全身循環管理としての血液濾過や血液透析濾過は腎機能の長期予後や生命予後を改善させる可能性がある.410)

④MRI造影剤

 重篤な腎障害のある患者にガドリニウム(Gd)造影剤を使用した場合に,腎性全身性線維症(Nephrogenic Systemic Fibrosis: NSF)の発症が報告されている.NSFはGd造影剤の投与後に皮膚の腫脹や硬化,疼痛などにて発症する疾患で,進行すると四肢関節の拘縮を生じる.現時点での確立された治療法はなく,死亡例も報告されている.したがって,使用する前には,腎機能を評価すべきである.NSF発症のリスクの高い腎不全患者,特に長期透析患者,GFRが30mL/min/ 1.73m2未満の保存期腎不全患者,急性腎不全患者には 原則としてGd造影剤を使用せず,他の検査法で代替すべきである.GFRが30 mL/min/1.73m2以 上,60mL/min/1.73m2未 満の場合には,Gd造影MRI検査による利益と危険性とを慎重に検討した上で,その使用の可否を決定する必要がある.使用に当たっては必要最少量を投与すべきである.411)

⑤アロプリノール

 腎機能障害のある患者では高い血中濃度が持続するので減量や投与間隔の延長を考慮する.プロベネシドやベンズブロマロンは腎結石や高度の腎障害のある患者では原則禁忌であり,GFR30mL/min以下の患者には無効である.412)

⑥抗菌薬

 多くの抗菌薬は腎排泄であるため,GFR 低下例では薬物の減量が必要である. マクロライド系薬やミノサイクリンは肝排泄のため,腎不全患者での使用法の調節は不要とされている.βラクタム系薬,ニューキノロン系薬は腎機能が中等度に進行した場合に投与量の変更が必要になる.カルバペネム系薬は腎機能低下時にけいれん誘発の危険性が高まるため,より細かい配慮を必要とする.アミノグリコシド薬,グリコペプチド薬は腎機能障害の早期から用法が厳しく制限される.中毒域と治療域の近い薬剤であるため,TDMを行うことが望ましい.腎機能障害がある場合の

減量法として,初回に常用量を投与し,以後は血中濃度半減期ごとに維持量を投与する方法,血中半減期の2~3倍に間隔をあけて,常用量を使用する方法,使用間隔は変えず,腎機能の程度に応じて1回量を調節する方法がある.アミノグリコシドは,急性尿細管壊死を起こすことが知られており,患者の10~20%に発症する.バンコマイシンでは,間質性腎炎が知られており,一般的にトラフ値を10μg/mL以下に保つことが望ましい.重症感染症など,症例に応じて投薬量を調節する.抗真菌薬のアムホテリシンBは腎毒性が高いことが知られている.抗ウイルス薬(ガンシクロビル,アシクロビル)は呂律困難や意識障害などの中枢神経障害,腎障害が出現しやすく,減量が必要である412).また,腎不全患者では,顆粒球減少,汎血球減少などの副作用を起こす可能性があるので注意を必要とする.413)-415)

⑦ジソピラミド・プロカインアミド

 抗不整脈薬であるこれらの薬物は腎不全時に活性代謝物が蓄積しやすい薬物に分類されている.ジソピラミドの活性代謝物であるモノ-N-デアキルジソピラミドは強力な抗コリン作用と血糖降下作用をもち,プロカインアミドの活性代謝物であるN-アセチルプロカインアミドは催不整脈作用を増強させる.

⑧ジゴキシン

 組織移行性が高く , 心筋や骨格筋に高濃度に分布し,その分布容積が大きいため透析で除去されない.そのためより慎重な投与設計が必要になる.尿中排泄率が70%と高い腎排泄型の薬物のため腎不全患者では食欲低下,視覚障害,不整脈などの副作用が生じやすい.ジゴキシンは腎不全患者で分布容積が低下するため,初回負荷量を通常の50~70%に減量する必要がある.ジゴキシンの組織への分布速度は遅く,血中濃度が組織と平衡状態に達するのに6時間程度要するため , TDMのための採血は服用から6~8時間後に行う.クラリスロマイシン,ベラパミルなどのP糖蛋白質阻害薬との併用により血中濃度が上昇するため注意が必要である.

⑨ アンジオテンシン変換酵素阻害薬・アンジオテンシンレセプター拮抗薬

 動脈閉塞や重篤で広範な微小血管変化を伴う腎疾患の場合,これらの薬物がアンシオテンシンの作用を阻害し血行動態を変化させことにより,突然の腎機能低下をもたらすことがある.そのため腎機能をモニターしながら少量から注意深く開始する必要がある.開始後に持続的

188 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

な腎機能低下を来した場合は使用の中止が必要である.

Ⅵ 低血圧治療薬

 昇圧剤が必要となる低血圧症の分類として以下の疾患があげられる.

1 低血圧の分類

(1) 本態性低血圧:病因が認められない低血圧で症候性(二次性)低血圧を除外したもの

(2) 症候性(二次性)低血圧:種々の基礎疾患により二次的に血圧が低下したもの

(3) 起立性低血圧:臥位や座位から起立時に20mmHg以上の収縮期血圧低下を示すもの

 小児において頻度の高い起立性調節障害による低血圧は起立性低血圧に分類される.

2 小児低血圧の定義

 小児低血圧の定義(PALSプロバイダーAHAガイドライン2005準拠)  ・ 正産期新生児(0~28日)   収縮期血圧(mmHg)<60  ・ 生後1~12ヵ月   収縮期血圧(mmHg)<70  ・ 1~10歳   収縮期血圧(mmHg)<70+(2×年齢)  ・ >10歳   収縮期血圧(mmHg)<90 収縮期血圧がこれより10mmHg下降するとショックなど注意を要する

3 昇圧剤

 昇圧剤のほとんどは,その作用機序によりβ受容体刺激作用を介するものとα受容体刺激作用を介するものとに大別される.血圧のみを上昇させたい場合にはα作用を主とするものを選択し,心拍出量増加による昇圧を期待する場合はβ作用を主とする薬剤を選択する.したがって,β受容体刺激作用を介するものは強心剤として使用されることが多い.本態性低血圧や起立性低血圧に使用される昇圧剤は末梢血管への直接作用を期待

したα作用を主とする薬剤となる.塩酸フェニレフリンは蘇生時の循環補助薬として用いられる.その他の薬剤の適応疾患は本態性低血圧,起立性低血圧である. α受容体直接作用による昇圧効果を示す薬剤として小児使用の記載があるものは,①塩酸フェニレフリン,②塩酸ミドドリン,③メシル酸ジヒドロエルゴタミンがあげられる.また,ノルアドレナリンと競合して交感神経機能亢進により昇圧効果を示すメチル硫酸アメジニウムがあげられる.

1 α受容体直接作用● 塩酸ミドドリン midodrine hydrochloride(商品名:

メトリジン)小児適応:国内 承認ありエビデンスレベル:クラス I レベルC

[製剤]錠剤 2mg[用法]経口[用量]本態性低血圧,起立性低血圧[適応]成人,小児とも4mg/日,分2. (成人)最大1日8mg,小児最大1日6mg (小児) 1日 7~9歳:1~2錠,10~12歳:2錠,

13歳以上:2~3錠 /日,分2416)

[薬理] 活性本体をグリシンで修飾したプロドラッグ.選択的α1受容体刺激作用に基づき末梢血管を収縮させる.成人での2mg単回投与時の脱グリシン体(活性本体)のTmax 1.5時間,Cmax 5.3ng/mL,T1/2 2.4時間.

[副作用] 頭痛(0.15%),悪心(0.14%),腹痛(0.13%),めまい・高血圧・動悸・心室性期外収縮・肝機能異常(0.1%未満),その他

[相互作用] 記載なし[禁忌] 甲状腺機能亢進症の患者,褐色細胞腫の患者

● 塩酸フェニレフリン phenylephrine hydrochloride(商品名:ネオシネジン)小児適応:国内未承認/海外 米国,欧州にて承認ありエビデンスレベル:クラス IIa レベルC

[製剤]注 1mg/1mL/A,5mg/1mL/A[用法]皮下注・筋注・点滴静注[用量] (成人) 皮下注・筋注: 1回2~5mg,増減範囲 1~

10mg,            初回量は5mgまで,10~15

分おきに反復投与可     静注  1回0.2mgをそのまま,または10mL

の生食または5%ブドウ糖溶液に希

189循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

釈して静注,増減範囲0.1~0.5mg.     点滴静注  100mLの5%ブドウ糖溶液に対

して0.5~1mgの割合で混注して持続静注

 (小児)0.1~2.0μg/kg/min417)

[適応] 各種疾患・状態に伴う急性低血圧またはショック時の補助治療

[薬理] 選択的α1受容体刺激作用により末梢血管拡張をきたす.Tmax,Cmax,T1/2の記載なし.

[副作用] 頭痛(6.77%),手足のしびれ感・ふるえ感(1.30%),紅斑(0.78%),心悸亢進・徐脈(頻度不明),その他

[相互作用] 本剤の作用増強の危険性:MAO阻害剤,三環系抗うつ剤,分娩促進剤(オキシトシン,エルゴタミン)

[禁忌] 心室性頻拍のある患者,本剤の成分に過敏性の既往のある患者

● メシル酸ジヒドロエルゴタミン dihydroergotamine mesilate(商品名 ジヒデルゴット)小児適応:国内未承認 海外 豪あり エビデンスレベル:クラス I レベルC

[製剤]錠剤1mg[用法]経口[用量] 成人1回1mg,1日3回(適宜増減)     小児 1日7~9歳:2~3錠,10~12歳:3錠,    13歳以上:3錠 /日,分2~3416)

[適応]片頭痛(血管性頭痛),起立性低血圧[薬理] α刺激作用による血管平滑筋収縮作用である

が,α遮断作用もある部分的アゴニストである.

    成人1mg投与にてTmax 2.7±0.6時間,Cmax 0.63±0.12ng/mL,T1/2(β)21±3時間

[副作用] 悪心・嘔吐,食欲不振(2.3%),発疹・掻痒(0.8%),眠気・口渇(1.3%),動悸(0.2%),手指冷感(0.2%)など.長期連用により胸膜,後腹膜または心臓弁の線維症が現れたとの報告あり(頻度不明)

[相互作用]   ・ 本剤は主に代謝酵素CYP3A4で代謝されるので,本酵素の阻害作用を有する薬剤との併用に注意:HIVプロテアーゼ阻害剤,マクロライド系抗菌薬,アゾール系抗真菌薬

  ・ 血圧上昇または血管攣縮が増強されるおそれがある:5-HT1B/1D受容体作動薬,麦角アルカロイド

  ・ プロプラノロール:末梢血管収縮作用が強く現れるおそれがある

[禁忌]   ・ 末梢血管障害,閉塞性血管障害,狭心症,冠動脈硬化症,コントロール不十分な高血圧症,ショック,側頭動脈炎のある患者,重篤な肝機能障害のある患者,敗血症の患者,妊婦または妊娠している可能性のある婦人,授乳婦,本剤の成分または麦角アルカロイドに対し過敏症の既往歴のある患者,心エコー検査により心臓弁尖肥厚,心臓弁可動制限およびこれらに伴う狭窄などの心臓弁膜病変が確認された患者およびその既往のある患者,HIVプロテアーゼ阻害剤,HIV核酸転写酵素阻害剤(エファビレンツ,デラビルジン),マクロライド系抗生物質,アゾール系抗真菌薬,セレトニン受容体(5HT1B/1D)作動薬,麦角アルカロイド投与中の患者.

2 交感神経機能亢進作用● メチル硫酸アメジニウム amezinium metilsulfate(商

品名:リズミック)小児適応:国内未承認/海外 承認なしエビデンスレベル:クラス I レベルC

[製剤]錠剤 10mg[用法]経口[用量] (成人)1日20mg 2回に分服 (小児) 1日7~9歳:0.5錠,10~12歳:0.5~1錠,

13歳以上:1~2錠 /日,分2[適応] 本態性低血圧,起立性低血圧,透析施行時の

血圧低下の改善[薬理] ノルアドレナリンと競合して末梢神経週末に

取り込まれ,ノルアドレナリンの神経終末への再取り込みの抑制と共に,神経終末でノルアドレナリンの不活性化を抑制,交感神経機能を亢進させる.

    成人に10mg1回投与時Tmax 2.7±0.4時間,    Cmax 25.3±1.4ng/mL,T1/2 13.6±2.5時間

[相互作用] 動悸(0.72%),頭痛(0.33%),嘔気・嘔吐(0.33%),ほてり感(0.21%),高血圧(0.27%)

[相互作用] 本剤の作用増強の危険性:ドロキシドパ,ノルアドレナリン

[禁忌] 高血圧症の患者,甲状腺機能亢進症の患者,褐色細胞腫のある患者,狭隅角緑内障の患者,

190 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

残尿を伴う前立腺肥大のある患者

Ⅶ 小児肺高血圧治療薬

1 はじめに

 肺動脈性高血圧症(PAH)の治療においては最近20年間で劇的な進歩がみられる.2004年に米国胸部医師会議(American College of Chest Physicians: ACCP)からエビデンスに基づくPAH診療ガイドラインが発表され418),さらに2007年6月に一部が改変された419).治療の基本をなすのは,抗凝固薬,利尿薬,酸素投与などの一般的支持療法と,PGI2-cAMP経路,一酸化窒素(NO)-cGMP経路(ホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬),エンドセリン(ET)経路阻害(ET受容体拮抗薬)の血管内皮・平滑筋を標的とした3つの特異的治療薬である(図15).小児においては必ずしも十分なエビデンスはないが,成人例での有効性や安全性を参考に臨床応用しているのが現状である.

1 診断と分類 PAHは安静時の平均肺動脈圧≧25mmHgかつ肺動脈楔入圧≦15mmHgと定義される.また肺血管抵抗値≧3woods unit ・m2を用いることもある.2008年の国際会

議で分類が提唱された(Dana Point分類).家族性PAHは遺伝性PAHに包括され,家族内発症に関わらず遺伝子異常(BMPR2 , ALK1など)を有する特発性PAH(IPAH)も含まれる.フランスの疫学データでは,小児PAHの年間発生率は100万人に3.7人とされ,内訳はIPAH(60%),家族性 /遺伝性PAH(10%),先天性心疾患に伴うPAH(CHD-PAH)(24%),結合組織病に伴うPAH(CTD-PAH)(4%),門脈疾患に伴うPAH(2%)と続き,成人とは大きく分布が異なる420).

2 臨床症状 小児でも成人同様,労作時息切れや易疲労性は最も頻度が高い.運動時の失神は小児に多く,浮腫を代表とする右心不全は成人でより多く認められる.病状進行に伴い呼吸困難を最小限にしようと身体活動に自己規制が働く成人と異なり,心拍出量がある程度維持されている小児では過度な運動に伴って呼吸困難や失神を来たす傾向がある421).そのため小児のPAHはしばしば見逃されてしまう.

2 内科治療

1 PAH治療アルゴリズム(図16)(1) 抗凝固療法(ワルファリン)は出血性素因がない

IPAH患者,PGI2投与のために中心静脈カテーテルを留置した患者において推奨.

図15 PAH治療の重要な3つの経路

血管内皮・平滑筋細胞

プロスタサイクリン(PGI2) 経路

一酸化窒素(NO)経路

・血管拡張・平滑筋細胞増殖抑制

・ベラプロスト・エポプロステノール

・NO吸入・シルデナフィル

・NO補充→cGMP↑・PDE5阻害→ cGMP↑

ボセンタン

ETA/B受容体阻害PGI2補充→cAMP↑

・血管拡張・平滑筋細胞増殖抑制

メディエーター :

病態生理 :

薬剤 :

作用機序 :

エンドセリン(ET)経路

PGI2 NO・血管収縮・平滑筋細胞増殖

ET-1

IPAH: idiopathic pulmonary arterial hypertension, CCB: calcium channel blocker

191循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

(2) 急性血管反応性試験“陽性”とはNO吸入やエポプロステノール静注投与後,心拍出量は増加あるいは不変,かつ平均肺動脈圧が≦40mmHgまで少なくとも≧10mmHgの低下と定義

(3) IPAH以外のPAH患者ではCa拮抗薬(CCB)の代わりにPDE5阻害薬,ET受容体拮抗薬,プロスタノイドを第一選択薬として考慮すべき

(4) CCB治療の“効果持続”とは数か月後も正常に近い血行動態で機能分類クラス(FC)I~ IIを維持している症例と定義

(5) 診断初期のPAH治療においては利益と損失を十分考慮すべき

(6) WHOFC-IIIの第一選択薬はボセンタン,シルデナ

フィル,iloprost(我が国未発売),treprostinil(我が国未発売)のいずれか

(7) WHOFC-IVではほとんどの専門家がエポプロステノールを推奨

(8) Add-on療法や併用療法の無作為臨床試験が現在進行中

2 急性血管反応性試験 慢性投与に先立ち,急性負荷試験による血管反応性の評価が推奨されている.そのコンセプトは元来,カルシウム拮抗薬の長期投与有効例が急性の肺血管拡張反応を示すことに基づいてきた.効果の期待できる治療薬が多様化した現在では,個々の症例における反応性の違いに

図16 PAH治療アルゴリズム(Badesch, DB, et al: chest2007を引用,改変)

症候性 PAH

一般的治療:経口抗凝固薬 [B for IPAH, E/C for other PAH],利尿薬,酸素 [E/A]

急性血管反応性試験 [A for IPAH, E/C for other PAH]

経口 CCB [B forIPAH, E/B for Other PAH]

CCBの継続

効果持続

陽性

YesNo

FC Ⅱ FC Ⅲ

・ボセンタン [A]・シルデナフィル [A]・エポプロステノール [A]・Iloprost 吸入 [A]・Treprostinil SC [B]・Treprostinil Ⅳ [C]

・エポプロステノール [A]・ボセンタン [B]・Iloprost 吸入 [B]・シルデナフィル [C]・Treprostinil SC [C]・Treprostinil Ⅳ [C]

FCⅣ

陰性

・シルデナフィル [A]・Treprostinil SC [C]・Treprostinil Ⅳ [C]

プロスタノイド

ボセンタン シルデナフィル

改善なし,or 増悪

心房中隔裂開術and/or 肺移植

Combination therapy?

(文献415より引用,改変)エビデンスレベル A:強く推奨,B:中等度に推奨,C:やや推奨,E/A:専門家の意見のみに基づき強く推奨,E/A:専門家の意見のみに基づき強く推奨,E/B:専門家の意見のみに基づき中等度に推奨,E/C:専門家の意見のみに基づきやや推奨<英文表記の薬剤は我が国未発売>

192 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

より,①最適な血管拡張薬の選択,②開始時用量,増量方法などの検討,③重篤な有害事象や予後の予測判定にも有用と考えられる.WHO機能分類(FC)-III度以下の症例が急性負荷試験の適応となる.高度心不全合併例での心臓カテーテル検査は身体への負担が強く,また血管拡張薬の使用により体血圧低下や心拍出量増加に伴う肺動脈圧上昇を助長し,時には肺高血圧クリーゼを招来させる危険があり相対的禁忌とされる.

①負荷試験の具体的方法

 急性血管反応試験に用いられる薬剤を表28に列記した.通常,右心カテーテル留置下で行われるため,長時間の検査は被験者にとってストレスが大きく,薬剤投与後短時間で効果の判定を行う必要がある.したがって負荷試験に適した薬剤とは,①肺血管選択性があり,②最高血中濃度到達が早く,③半減期が短く,投与中止後は速やかに代謝される,などの特徴を有している.1回の検査で複数の薬剤の急性効果を比較する場合は,先に投与された薬剤の効果が残らないように十分な間隔を設ける(図17). 急性負荷試験は右心カテーテル留置下に100%酸素やNO吸入,静注用PGI2,経口シルデナフィルなどを投与して血行動態の変化を観察する.肺動脈圧を評価する際には必ず体血圧を同時にモニタリングすべきである.

②基準値

 平均肺動脈圧や心係数を測定し,肺血管抵抗および肺体血管抵抗比を算出する.急性負荷試験の際に参考にすべき循環指標を表29に示す.

③診断基準

 反応群(responder)の定義は前値(baseline)に比して,肺動脈圧が20%以上の低下,または肺血管抵抗が20~30%以上低下する症例とするのが一般的である422)-426).さらに体血圧が不変または軽微の低下にとどまること,すなわち肺/体血管抵抗比が不変もしくは改善することを付加条件としていることが多い.また肺動脈圧の低下を伴わずに心拍出量のみが増加した結果,見かけ上肺血管抵抗が低下した症例では必ずしも良好な転帰を辿らないため,判定には注意を要する.

④注意点

 小児では心臓カテーテル検査中に鎮静薬を使用する頻度が高く,時に呼吸抑制を生じる場合があるため,SpO2や血液ガス所見で適切な換気が行われているかを

確認する.静注用PGI2の急性負荷試験では必ずしも肺血管選択性が認められず,肺動脈圧低下に先立って体血圧低下が出現する場合がある.それに関連して脈拍数の増加やSpO2の低下を呈することが多いため,検査中は常に心電図やSpO2モニターをチェックするよう心がける.特に幼少児や心拍出量低下が顕著な症例でその傾向が強いため,急性負荷試験は無理をせず,PAHの病態や治療に精通した経験豊富な施設や医師のもとで施行させるべきである.

⑤治療の基本

 低血圧に注意する.短期的に肺血管拡張を促すのみではなく,長期的に肺血管の組織学的改善を得ること,肺循環と全身循環のバランスを考えた全身管理を目指す.具体的には全身血圧や脈拍数をモニターしながら症例毎に適切な肺血管作動薬を少量から開始する,短期間での急速な増量はしない,心不全や低心拍出に対する末梢循環確保のため利尿薬の過剰投与は避ける.重症例・低心拍出症例ではカテコラミン(ドブタミン,ドーパミン)やPDE3阻害薬(ミルリノン,オルプリノン等)を積極的に併用する.また血漿hANP・BNP(またはNT pro BNP)の測定,6分間歩行テスト,心エコー,心臓カテーテル検査等による定期的な肺血行動態・心機能評価は必須で,治療効果が不十分な症例では早めに治療内容を見直す.

3 小児PAHへの実践的治療

①代表的なPAH治療薬

 以下の薬剤はいずれも小児適応がない.1)ベラプロスト(クラスⅡb,レベルC)

[作用機序]血管内皮細胞表面のPGI2受容体を介して平滑筋細胞内のcAMP濃度を上昇させ血管拡張作用を呈するとともに,血小板凝集抑制・血管平滑筋増殖抑制作用を有する.

[適応]WHOFC-Ⅰ~Ⅱの軽症例が最もよい適応 使用方法:成人で1回1錠(20μg)・1日3回,小児では錠剤を粉砕して1μg/kg/日,分3から開始する.心不全合併や低血圧の症例,乳幼児では半量から開始する.効果不十分な症例では副作用・忍容性に注意しながら成人で1回2~3錠・1日3~4回,小児で3~5μg/kg/日,分3~4まで増量可能である.1錠60μgの徐放製剤は1日2回の内服で1回1~3錠まで増量可能で長期投与には有利である.最大量投与後も改善に乏しい症例やFC-Ⅲ~Ⅳの症例ではエポプロステノールへの切り換えを考

193循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

図17 急性負荷試験のプロトコール一例

室内気 100%酸素

10分 30分 15分 30分

2ng/kg/min

4ng/kg/min

静注 PGI2 経口シルデナフィル

on off

Condition <1>(baseline)

Condition <2> Condition <3> Condition <4> Condition <5>

表28 急性血管反応試験に用いられる薬剤

T max:最高血中濃度到達時間,T 1/2:半減期*我が国ではアデノシン三リン酸二ナトリウム(ATP)

よく使用される薬剤薬剤 投与経路 投与量 T max T 1/2

エポプロステノール 静注

0.5~2ng/kg/min,無反応のとき,10~15分 毎 に1~2ng/kg/min漸増してもよいが,重症例では慎重投与.

速やか 3~5分

酸素 吸入 100%,10L/min,5~15分 〃一酸化窒素 NO 吸入 10~80ppm 〃 15~30秒

その他薬剤 投与経路 投与量 T max T 1/2

アデノシン* 静注50~100μg/kg/minから開始,2分毎に50μg/kg/min漸増し,最大200μg/kg/分

速やか 5~10秒

シルデナフィル 内服 小児:0.5~0.6mg/kg/dose成人:25~50mg/dose 50分 3.3時間

ニフェジピン 内服 成人:10~30mg/dose 20~45分 2~5時間

表29 PAHに対する急性負荷試験時の血行動態評価循環指標 望ましい急性反応 コメント

平均肺動脈圧 20%以上の低下;理想的には40mmHg以下 体血圧の有意な低下を伴わないこと

肺血管抵抗 30%以上の低下;理想的には8U・m2以下

肺動脈圧低下とCO増加の両者を満たすべきで,CO増加のみの時は右心不全を来たす恐れあり

右房圧 不変,または低下 上昇は潜在的な右心不全を意味する

肺動脈楔入圧 不変 上昇は肺静脈閉塞病変や左心不全併存を示唆する

体血圧 不変,または10%未満の低下 有意な体血圧低下例への血管拡張薬の慢性投与は禁忌

心拍出量(CO) 増加 1回拍出量と相関すべきで,心拍数増加によるものであってはならない

心拍数 有意な変化なし 慢性的なHR増加は右心不全の招来につながる動脈血酸素飽和度(SaO2)

上昇 低下は肺疾患または右-左短絡を疑う

肺動脈(混合静脈)血酸素飽和度(SvO2)

上昇 上昇はCO増加と組織酸素化の改善を反映する

(文献418より改変引用)

194 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

慮する.また最近はシルデナフィルやボセンタンなどとの併用療法が比較的早期から検討され,ベラプロスト単剤での大幅な増量は避けられる傾向にある.

[副作用]頭痛やほてり,消化器症状などがあるが,減量にて副作用は軽減することが多く継続中止に至る症例は少ない. 中等度以下の症例では一定の効果が示されている.欧州における12週間の臨床試験(ALPHABET)では6分間歩行距離や自覚症状の有意な改善が認められた427).しかし翌年,米国での1年間の前方視的観察では3~6か月間は有効だが9か月目以降は効果が持続せず,長期効果については否定的な意見が多く428),残念ながら最新の治療アルゴリズムには含まれていない. 2)エポプロステノール(クラスⅠ,レベルC)424, 429)

[作用機序]cAMP増加.[適応]重度例(FC-Ⅲまたは -Ⅳ).しかし,全身低血圧や循環不全を呈する症例では過度な血圧低下(ショック)や換気血流不均衡などを招く恐れがあるため細心の注意を要する. 投与方法:エポプロステノールは半減期が3~5分と短く,持続静脈内投与が必要であること,溶解後のpHがアルカリ性で血管刺激性があるため末梢静脈からの長期投与が困難であることから,中心静脈カテーテルの留置が不可欠となる.薬剤は室温や日光に不安定であるため,調製後は常にアイスパックで冷却状態を保ち,遮光する必要がある.低用量(1~2ng/kg/min)から開始し,副作用や忍容性に注意しながら2~4週の間隔で1ng/kg/minずつ増量していく.増量の上限は定められていないが,開始後2,3年で安定維持量(20~30ng/kg/min)に達することが多い.

[副作用]頭痛,顔面紅潮,下痢など血管拡張薬共通の副作用以外に,顎関節痛(特に最初の咀嚼時)や足底部・踵の痛みなど本剤に特異的な症状がある.これらは用量依存性に増強するが,用量を固定すると軽減する特徴がある.

[注意点]留置カテーテルの脱落・自然抜去,皮下トンネル感染,菌血症,カテーテルの血栓性閉塞,カテーテルの損傷などのトラブルに注意が必要である.万一,種々のトラブルでエポプロステノール注入が中断した場合にはリバウンド現象によるPH急性増悪の危険がある.その場合はすみやかに末梢静脈を確保して薬剤注入を再開する必要があるため,自宅近くの救急対応可能な医療機関との連携が望まれる.3)ボセンタン(クラスⅠ,レベルC)430)

[作用機序]ETファミリー(ET-1, 2, 3)の受容体には

ETAとETBの2つがある.ETAは血管平滑筋に存在し,血管収縮・細胞増殖・細胞遊走などに関与,ETBは血管内皮細胞に存在し,NOやPGI2の産生を介してETAとは逆に血管拡張・細胞増殖抑制など保護的な作用を持つ.PAHの病態ではETBが血管平滑筋にも発現し収縮過剰に関与している.そのためETA・B両受容体をブロックするボセンタンはPAH治療薬として理にかなっている.

[適応]FC-ⅢまたはFC-Ⅳに限るが,FC-Ⅱでも考慮する.薬価が高く,IPAHなど特定疾患以外の成人患者では経済的負担が大きいのが難点である.

[投与方法]成人で1回1錠(62.5mg)・1日2回で開始,1か月以上あけて倍量(250mg/日)まで増量して維持することが推奨されている.しかし欧米人での薬物動態を基礎としており,日本人での検討は少ない.小児は体重10~20kgで1回0.5錠・1日1回,20~40kgで1回0.5錠・1日2回,40kg以上では成人に準じる.他の薬剤と併用する場合は副作用に注意しながらより少量から開始する.

[副作用]頭痛やほてり,ふらつき(浮遊感),筋痛などの他,成人では7~11%に肝機能障害が出現する.小児では3%未満と肝障害は比較的まれである431).投与前には必ず肝機能を確認し,開始後3か月間は原則として2週間に1回,それ以降も月に1回の肝機能検査(AST・ALT・ALP・T-Bilなど)を行うことが望ましい.基準値の3倍以上5倍未満では減量,8倍以上では中止するよう注意喚起されている.肝機能障害の出現時期は数日以内から3か月以降と症例により差が大きく,増量の間隔も十分にあけたほうが無難である.肝機能障害のため一旦減量(中止)後に肝機能が改善して増量(再開)する場合は,より少ない量から十分な間隔を設けて小刻みに増量すべきである.

[相互作用]ボセンタンはシルデナフィルの血中濃度を有意に下げることが報告され,薬剤相互作用の影響を考慮する432).4)シルデナフィル(クラスⅠ,レベルB)433)

[作用機序]PDE5が存在する血管平滑筋においてNO-cGMPの分解や代謝を減少して血管拡張および血小板凝集抑制を増強させる.PDE5は陰茎海綿体のみならず肺組織,血管平滑筋にも多く分布していることから肺血管に選択的な作用が期待できる.欧米では成人PAH患者での臨床試験の有益な結果を経て2005年に承認に至った434).我が国では2008年に承認された.

[適応]FC-ⅡからFC-Ⅳと比較的軽症から重症例まで対象は幅広い.肺血管選択性が高く,換気血流不均衡を助長させないため,呼吸機能低下例にも投与しやすい.

195循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

NO吸入からの離脱を容易にさせる効果も検討され435),新生児領域や開心術周術期においても有用性が高い.さらに肥大した右室でPDE5の発現が亢進しており,シルデナフィルが右心機能を改善させる効果にも注目されている436).

[使用方法]最高血中濃度到達時間(Tmax)が約50分と短いため,急性負荷試験で大まかな効果の予測が可能である.我々は0.5~0.6mg/kgの内服30分後に急性効果を確認している.成人で60mg/日,分3,小児では0.5~1mg/kg/日,分3から投与を開始するのが目安である.小児での忍容性は良好で,海外での治験では成人1回80mg・1日3回の忍容性も確認されているが,小児での用量設定は決まっていない.

[副作用]頭痛やほてり,消化器症状,鼻出血があるが,多くは減量にて軽快する.頻度はまれ(約2%)だが羞明や色覚異常(blue vision)など眼に関する訴えがあり,これは網膜に分布するPDE6へ若干の阻害作用が及ぶためと考察されている.さらにNAION(非動脈炎性前部虚血性視神経症)による失明が勃起不全2,300万人中36人で報告され,糖尿病や高血圧でリスクが高い.眼科的にも発達段階にある新生児・乳幼児における安全性は今後追及していく必要があり,未熟児網膜症など眼科的合併症を持った小児への投与は控えたほうがよいと考えられる.5)カルシウム拮抗薬(クラスⅡb,レベルC) 欧米では急性血管反応性が良好な症例にはCCBが推奨されているが,我が国の実情は異なる.急性血管反応性陽性例は皆無に近く,実際にCCBのみで管理できる症例はほとんど経験されない.安価であるが,CCBの陰性変力作用が懸念され,代替としてベラプロストを投与される機会が多い.最近,Sitbonらは急性試験陽性を示した特発性PAHは全体の13%に過ぎず,CCB単独で1年後もFC-Ⅰ~Ⅱを維持できた頻度はわずか6.8%であったと報告している437).

②実際の薬剤選択

 我が国で使用可能な上記1)~5)の薬剤を前述したPAH治療アルゴリズム(図16)に基づいて投与する.重症度以外に進行度や年齢,社会的・経済的背景,相対的禁忌などを考慮して単独ないし組み合わせて投与する.(1) FC-Ⅱ:まずベラプロストを投与し,経過によりボ

センタンまたはシルデナフィルを追加.その際,肝障害があればボセンタンは避け,網膜症があればシルデナフィルを避ける.

(2) FC-Ⅲ:ベラプロストとボセンタンまたは(and/or)シルデナフィルの併用,進行が早い症例では時期を逸せずベラプロストからエポプロステノールへ切り換える.

(3) FC-Ⅳ: カテコラミンやPDE3阻害薬の併用下でエポプロステノールを少量から慎重に開始,ボセンタンやシルデナフィルを適宜追加する.

3 おわりに

 我が国では1999年にエポプロステノールが承認され,PAHの予後は改善傾向にある.さらに近年,有望な治療薬の臨床使用が可能になり,治療の選択肢が増えたことも事実である.しかし,PAHが難治かつ進行性である疾患に変わりなく,特にFC-Ⅲ~Ⅳの重症例では専門施設による治療開始と慎重な観察が求められる.最大の内科治療にも抵抗を示す症例では肺移植を考慮すべきであり,患者家族へのインフォームドコンセントと適切な時期での移植施設への照会は必須であろう.小児への適応は現在臨床試験中の薬剤が多く,エビデンスに乏しい.成人の報告を参考に使用されており,小児に対してはすべての薬剤が未承認である.

Ⅷ 小児の心筋疾患,心膜疾患治療薬

1 心筋症

1 定義と分類 心筋症は心機能障害を伴う心筋疾患と定義される.小児も成人と同じ定義と分類438)が用いられている(表30). 特定心筋症は原因または全身疾患との関連が明らかな心疾患とされ,虚血性,弁膜性,高血圧性,炎症性(心

定義 心機能障害を伴う心筋疾患

病型分類

1.拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy; DCM)2.肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy; HCM)3.拘束型心筋症(restrictive cardiomyopathy; RCM)4. 不整脈源性右室心筋症(arrhythmogenic right

ventricular cardiomyopathy; ARVC)5.分類不能の心筋症(unclassified cardiomyopathy) 特定心筋症

表30 1995年WHO/ISFC合同委員会による心筋症の定義と病型分類

196 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

筋炎),内分泌・代謝性,過敏・中毒性,周産期心筋症,神経・筋疾患,膠原病などに伴う心筋症が含まれる.

2 疫学 日本小児循環器学会の希少疾病サーベイランス439)によると,平成17年から21年までの5年間に登録された症例数は,拡張型心筋症(DCM)245例,肥大型心筋症(HCM)224例,拘束型心筋症(RCM)41例,不整脈 源 性 右 室 心 筋 症(arrhythmogenic right ventricular cardiomyopathy: ARVC)7例,左室心筋緻密化障害(left ventricular non-compaction: LVNC)162例,Pompe病に伴う心筋症は9例であった(表31).

3 小児の病態と特徴

①拡張型心筋症(DCM)

[病態] 心室の心筋細胞の変性や線維化の結果,左室,右室,あるいは両心室が拡張し,代償性肥大が十分でないことにより心収縮力の低下を来たし心不全を呈する.

[病因] ウイルス性心筋炎との関連性が示唆されるものや家族内発症における遺伝子変異例など,病因は多岐にわたる.

[症状] 乳児では哺乳不良,体重増加不良,多呼吸,顔色不良,活動性の低下,年長児では呼吸困難,動悸,胸部圧迫感,咳嗽,四肢冷感,浮腫,易疲労性などを認め,しばしば心室性や心房性の重篤な不整脈を伴う.

[診察所見] 頚静脈の怒張,肝腫大,浮腫,心尖拍動の外側変位がみられる.胸部聴診では肺うっ血のため湿性ラ音や喘鳴を認める.房室弁逆流に伴う心雑音やⅢ音,Ⅳ音による奔馬調律を聴取する.

[検査所見] 胸部単純X線写真で心拡大,心電図でST-T変化を認め,心エコーでの左室内腔の拡大と駆出率の低下は診断上有用である(クラスⅠ).

[診断と鑑別診断] 新生児や乳児では,心筋炎や心内膜弾性線維症以外に大動脈弁狭窄や大動脈縮窄,Bland-White-Garland症候群などの先天性心疾患との鑑別が必要となる.小児における心筋症診断のフローチャートを図18に示す.

[治療] 治療のフローチャートを図19に示す. 急性心不全に対しては利尿薬,カテコラミン(クラスⅠ,エビデンスレベルC)やPDE3阻害薬(クラスⅡa,レベルC)による治療を行う.慢性期には血管拡張薬ないし心筋保護薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)(クラスⅠ,レベルB),β遮断薬(クラスⅠ,レベルB)),利尿薬(クラスⅠ,レベルC)による治療が主体となる.ジギタリスの有用性も否定されていない(クラスⅡa,レベルC).血栓形成予防のため抗血小板薬,抗凝固薬を併用する.詳細は後述する.

[非薬物療法] 成人の心不全に対する非薬物療法として心臓再同期治療の有効性が示されているが,小児の心不全に対する有効性を示す大規模臨床試験等のエビデンスはない.(クラスⅡb,レベルC)

②肥大型心筋症(HCM)

[病態] 心筋肥大による拡張障害のため心室への流入血液量が減少し,心拍出量の低下を来たす.組織学的には錯綜配列を伴う心筋細胞の不均一な肥大を特徴とする.

[病因] 約半数に家族性が認められ,常染色体優性遺伝を示す.

表31 小児の心疾患と予後(平成21年希少疾患サーベイランス調査結果439)より引用,一部改変)

心筋疾患 平成17~21年の登録数( )は平成21年登録分

平成21年登録分の予後生存 死亡 不明

拡張型心筋症肥大型心筋症拘束型心筋症不整脈源性右室心筋症左室心筋緻密化障害Pompe病急性心筋炎心臓腫瘍収縮性心膜炎

245(38)224(27)

41(6)7(1)

162(21)9(2)

273(45)239(33)

11(0)

302651

192

33310

711020

1220

100000000

197循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

半数以上はサルコメアを構成する心筋収縮関連蛋白の遺伝子異常である.

[症状] 小児期には無症状のことが多く,学校心臓検診が発見の契機となることがある.心室性不整脈による動悸,肺うっ血による呼吸困難,心筋虚血による胸痛を訴えるこ

とがある.初発症状が運動中の失神や突然死のこともある.

[理学的所見] Ⅲ音やⅣ音,左室流出路狭窄,僧帽弁閉鎖不全,右室流出路狭窄に伴う収縮期雑音を聴取することがある.

図18 小児の心筋症診断のフローチャート

学校検診 症状(失神・胸痛等)

一般検診 心電図所見

家族歴,症状,理学所見

心電図,胸部レ線,心エコー図検査

運動負荷テスト,核医学検査,ホルター心電図

心臓カテーテル検査 オプション(心内膜心筋生検,遺伝子検索)

疑い

確定的 可能性あり 否定的

否定 終了

所見がある

種々のリスクがある

所見がない

終了

随時受診

管理・治療

図19 小児の拡張型心筋症治療のフローチャート

拡張型心筋症

症状(-)

不整脈(-)

心機能低下

心電図異常

急性心不全 慢性心不全 不整脈(+)

運動制限(B,Cランク)

ジゴキシン利尿薬

安静

心不全治療(カテコラミン,PDE 3阻害薬(?),利尿薬,抗アルドステロン薬)

抗血栓療法

運動制限( B,Cランク)

心不全治療利尿薬,ACE阻害薬,ARB,β遮断薬

抗血栓療法

運動制限( B,Cランク)

抗不整脈薬(アミオダロン,リドカイン)

植込み型除細動器

抗血栓療法心移植

反応が良好であれば薬物療法継続

198 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

[検査所見] 心電図でST-T変化,左室肥大,異常Q波は高頻度に認められ,上室・心室期外収縮や心室頻拍,心房細動等の不整脈,WPW症候群を認めることがある.心エコーでは左室心筋の肥厚が特徴的で,心室中隔の肥大(ASH:非対称性中隔肥厚)が著明なものが多い(クラスⅠ).左室流出路狭窄のあるものでは僧帽弁前尖の収縮期前方運動(SAM)を認める.

[診断と鑑別診断] 小児における診断のフローチャートを図18に,鑑別すべき二次性心筋症を表32に示す.

[治療] 治療のフローチャートを図20に示す.

[日常生活の管理] 日本学校保健会の学校生活管理指導表(表33)に基づき運動制限を行う.ハイリスク児ではほとんどの運動やスポーツ競技を禁止し,有症状児および閉塞型の患児では中等度および強い運動は禁止する(クラスⅠ,レベルC).

[感染予防] 感染性心内膜炎の罹患率が高くなるので抗菌薬の予防内服が必要である(クラスⅡa,レベルC).

[塞栓症の予防] 心房細動等を合併する場合は心原性塞栓症を起こすことがあるため抗凝固薬の投与が必要で,抗血小板薬を併用することもある(クラスⅠ,レベルC).

[薬物療法] 薬物療法の目的は,生命予後の改善,症状の軽減,合併症の予防にある.表34に薬物療法の適応を示す.詳細は4薬物療法の実際に記載した.

[非薬物療法]ⅰ.手術    中 隔 心 筋 切 除 術(septal myotomy-myectomy:

Morrow procedure)の小児での経験は極めて少なく,長期的成績を含めエビデンスはない.(クラスⅢ)

ⅱ.ペースメーカおよび植込み型除細動器   現時点では小児における効果や適応については十分なエビデンスがない440,441).(クラスⅡa,レベルC)

ⅲ.中隔枝塞栓術(経皮的心室中隔焼灼術)(PTSMA)   小児でのエビデンスは少なく,現時点では推奨されない.(クラスⅢ)

③拘束型心筋症(RCM)

[病態] 一側または両側心内膜の高度の線維性肥厚,あるいは心内膜下心筋間質の高度の線維化により心室壁が硬化し,拡張不全を来たす疾患である.心筋の肥厚は顕著でなく,内腔の拡張や心収縮の低下もない.

[病因] 小児では稀で,発症頻度や遺伝性については不明である.強皮症,アミロイドーシス,サルコイドーシス等の全身性疾患に伴うもの,ムコ多糖症,好酸球増多症,悪

図20 小児の肥大型心筋症治療のフローチャート

肥大型心筋症

症状(-)

不整脈(-)

心機能正常

遺伝子異常(+)

心不全 自覚症状(+)

胸痛

失神

有意の閉塞

不整脈(+)

心房性

心室性

運動制限(Dランク)

無投薬(?)β遮断薬(?)

運動制限( B,Cランク)

心不全治療β遮断薬(?)

運動制限( B,Cランク)

β遮断薬カルシウム拮抗薬(?)ジソピラミド(?)

運動制限( B,Cランク)

抗不整脈薬(ジソピラミド,アミオダロン)

抗血栓療法

199循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

性腫瘍や放射線治療に伴い発症するものがある.[症状] 呼吸困難や浮腫,肝腫大など,静脈圧上昇および肺うっ血に伴う症状が出現する.左房圧の上昇に伴う肺血管疾患は急速に進行することがある.心房細動を来たしやすい.

[理学所見] 静脈圧の上昇に伴う所見を認める.肺高血圧を来たすとⅡ音の肺動脈成分が増強する.

[検査所見] 心電図ではP波の増高,ST低下や陰性T波を認める.心エコー検査は診断に有用で,著明に拡大した心房と心室への拡張期流入血流の異常が決め手となる.(クラスⅠ)

[診断と鑑別診断] 収縮性心膜炎との鑑別は困難であるが重要である.

[治療](図21) 有効な治療法に関するエビデンスはない.対症的に浮腫や胸水の貯留に対して利尿薬(クラスⅡa,レベルC),不整脈に対して抗不整脈薬(クラスⅡa,レベルC),肺高血圧を来たしたものにはPDE3阻害薬が使用される(クラスⅡa,レベルC).海外では特発性のものに心臓移植が行われている(クラスⅡa,レベルC).

④不整脈源性右室心筋症(ARVC)

[病態] 右室心筋に進行性の脂肪化と線維化が生じる疾患で,右室流出路前壁や心尖部,三尖弁下後壁に限局していた

表32 小児で鑑別すべき二次性心筋症

(肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(2007年改訂版)より引用,一部改変)

疾患名 機序・全身症状 心症状Noonan症候群 特異な顔貌,低身長,翼状頚などTurner症候群と

類似の表現型をとる.染色体は正常であるが,疾患遺伝子は12q24.1(PTPN11)にあることが報告されている.

異形成弁による肺動脈弁狭窄,肥大型心筋症,特に中隔肥厚が強い型,心房中隔欠損などがある.

LEOPARD症候群(multiple lentigines syndrome)

首と体幹部の多発性の黒子,軽度の発育不全,眼球隔離,目立つ耳介,中等度の感音性唖,性器異常などの症候群である.責任遺伝子はNoonan症候群と同じ12q24.1 (PTPN11)である.

軽度肺動脈狭窄,肥大型心筋症,特に閉塞型,PQ時間延長をみる.

Pompe病 酸性α -glucosidase欠損のため,グリコーゲンが全身に蓄積する疾患で,乳児型がPompe病と呼ばれる.乳児期前半に発症し,筋力低下のため frog positionをとる.放置すると予後不良で呼吸困難や心不全で死亡する.酵素補充療法が有効である.

著しい心筋肥厚があり,左室はやや拡大する.心電図は特徴的で,著しい高電位差でPQ時間が短い.

Fabry病 α -galactosidase欠損による伴性劣性遺伝の糖脂質 代 謝 異 状 症 で,globotriaosylceramideやgalabiosylceramideが血管内膜,結合織,心臓,腎臓などに蓄積する.Xq22上に遺伝子座があり,その変異が原因である.小児期以降,四肢疼痛,アンギオテラトーマ,関節痛,蛋白尿,角膜混濁などが出現する.

肥大型心筋症が主で,僧帽弁逸脱・閉鎖不全,大動脈弁閉鎖不全などもみる.全身症状がなく心異常だけの例があり,心Fabry病と呼ばれる.

Friedreich's ataxia 進行性家族性の延髄小脳失調症,肥大型心筋症を高頻度に合併する.

肥大型心筋症を高頻度に合併する.

糖尿病母体児(IDM: Infant of Diabetic Mother)

5~30%に心室中隔の非対称性肥厚(ASH)を合併する.流出路狭窄が血行動態的障害となることがある.通常生後1週間くらいで消失する.

von Recklinghausen病 染色体17q11.2上のNF1変異による疾患で,近年はneurofibromatosis 1と呼ばれ,カフェオーレ斑,多発神経線維腫がある.

肺動脈狭窄,ファロー四徴などが主であるが,肥大型心筋症合併の報告がある.

双胎間輸血症候群(twin-to-twin transfusion syndrome: TTTS)

一絨毛膜性双胎で両児の胎盤内血管の吻合によって,一児から他児へ血液の移行が起こる.

受血児では容量負荷から心筋肥厚が起こり,心不全となる.胎内死亡も多く,出生しても治療に抵抗して死亡率が極めて高い.

先天性筋緊張性ジストロフィー

骨格筋萎縮,筋力低下,知能低下,白内障などを有する常染色体性優性遺伝疾患で,染色体19q13.3上のmyotonin protein kinaseをコードする遺伝子のトリプルリピートによる.

伝導系異常,軸偏位などが知られている.心エコー検査を行った11例中7例にASHがあり,うち1例は肥大型心筋症であったという報告がある.

新生児甲状腺機能亢進症,褐色細胞腫

心室壁肥厚をみる.

200 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

ものが右室全体,左室,心室中隔に拡大していく.この病変により頻発する持続性心室頻拍が惹起される.

[病因] 小児の報告は少なく正確な頻度は不明である.家族性のものがあり,リアノジン受容体遺伝子の異常やプラコフィリン2の変異が関与するとの報告がある442).

[症状] 運動誘発性の心室性不整脈,頻発する持続性の心室頻拍により,失神や突然死を来たす.時にDCMのような

心室の収縮機能障害に伴う症状を認める.[理学所見] 頻発する不整脈があり,体静脈のうっ血の所見を呈することがある.

[検査所見] 心電図で左脚ブロック型の心室頻拍,心エコー検査で右室の拡大と収縮および拡張機能低下を認める.組織学的検査での心筋細胞の変性と脂肪化,線維化は診断に有用であるが,心外膜側から病変が進行するので心内膜心

図22 小児の不整脈源性右室心筋症治療のフローチャート

不整脈源性右室心筋症

心不全 不整脈

運動制限( B,Cランク)

心不全治療抗血栓療法等拡張型心筋症に準じた治療

運動制限(A,Bランク)

抗不整脈薬(ジソピラミド,アミオダロン)

カテーテルアブレーション(?)

植込み型除細動器(?)抗血栓療法

図21 小児の拘束型心筋症治療のフローチャート

拘束型心筋症

浮腫・胸水 不整脈 肺高血圧

運動制限( B,Cランク)

利尿薬

運動制限( B,Cランク)

抗不整脈薬(?)

運動制限(A,Bランク)

PDE3阻害薬

心移植(?)

201循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

表33

-1 

学校

生活

管理

指導

表(

小学

生用

202 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

表33

-2 

学校

生活

管理

指導

表(

中学

・高

校生

用)

203循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

筋生検では認められないことがある.(クラスⅠ)[診断と鑑別診断] 頻発する持続性の心室頻拍と心筋組織検査で特徴的な所見が認められれば診断が可能である.乳幼児期に発症するUhl病は本症の最重症型との考え方がある.

[治療](図22) 小児の有効な治療法に関するエビデンスはない.不整脈に対する薬物療法としてβ遮断薬,アミオダロン等のクラスⅢの抗不整脈薬が投与される(クラスⅠ,レベルC).カテーテル焼灼術,植込み型除細動器,手術などの非薬物療法が選択されることがある(クラスⅡa,レベルC)(不整脈治療の項を参照).収縮機能低下に伴う心不全がみられれば,DCMに準じた治療を行う.

⑤分類不能の心筋症

1)左室心筋緻密化障害(LVNC)[病態] 胎生初期の網目様の心筋が緻密な心筋構造になる過程で障害が生じる結果,心筋緻密層が低形成となりスポンジ状の胎児心筋が残存する疾患で,心内膜下への血流供給低下による心筋虚血と菲薄な心筋緻密層による心収縮力の低下が惹起される.

[病因] 高率に家族例が認められる.X連鎖性のものやミトコンドリア遺伝子異常が疑われる家系があり,遺伝的多様性がうかがえる.

[症状] 新生児期,乳児期に重篤な心不全症状で発症する典型例から,徐々にDCM様の症状を呈するもの,学童期に心臓検診で発見されるものまで症状は多彩である.壁在血栓による塞栓症や不整脈を伴うことがある.

[理学的所見] DCM様の所見を呈するものやRCMに類似した所見を示すものがある.

[検査] 心エコー検査による心室壁の著明な肉柱形成と深く切れ込んだ間隙の特徴的な形態が診断に有用である(クラスⅠ).

[治療](図23) DCMと同様に,利尿薬,ACE阻害薬,β遮断薬が主体である(クラスⅠ,レベルC).壁在血栓に対する抗血小板薬や抗凝固療法,不整脈に対する治療も必要となる.RCM様の症状を呈する症例にはRCMに準じた治療が行われるが,有効な治療のエビデンスはない.

表34 小児の肥大型心筋症の治療

(肥大型心筋症の診療に関するガイドライン(2007年改訂版)より引用,一部改変)

* 日本学校保健会による学校生活管理指導表(中学・高校用)に準ずる.**心停止あるいは持続性心室頻拍の既往,肥大型心筋症による突然死の家族歴,運動中の失神

病態 Class Ⅰ Class Ⅱ Class Ⅲ無症状例 一般に薬剤は用いないが,症

例によってはβ遮断薬,Ca拮抗薬を用いる.

ジゴキシン,陽性変力作用薬強い運動*

拡張機能低下例 β遮断薬Ca拮抗薬(レベルC)

ジゴキシン,陽性変力作用薬強い運動*

有症状および閉塞性肥大型心筋症

β遮断薬Ca拮抗薬(レベルC)

ジソピラミド(レベルC) ジゴキシン,陽性変力作用薬強い運動*中隔心筋切除術

突然死のハイリスク群** β遮断薬Ca拮抗薬ジソピラミド(レベルC)植込み型除細動器(レベルC)

ジゴキシン,陽性変力作用薬強い運動*Ca拮抗薬

乳幼児例(心不全をしばしば伴う)

β遮断薬(レベルC) ジゴキシン,陽性変力作用薬強い運動*

拡張相肥大型心筋症 利尿薬,ジゴキシン,血管拡張薬(レベルB)

β遮断薬(レベルB)心移植(レベルB)

ジゴキシン,陽性変力作用薬強い運動*

不整脈合併例 フレカイニド酢酸塩(レベルB)アミオダロンβ遮断薬Ca拮抗薬(レベルC)

植込み型除細動器(レベルC)

ジゴキシン,陽性変力作用薬強い運動*中隔心筋切除術

204 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

2)特定心筋症①Fabry病

[病態] α-ガラクトシダーゼ欠損に起因する糖脂質代謝異常症で,グロボトリアオシルセラミドやガラビオシルセラミドが血管内膜,結合組織,心臓や腎臓等に蓄積する疾患である.

[病因] 伴性劣性遺伝形式をとる.α-ガラクトシダーゼをコードする遺伝子はXq22領域に存在し,その部分欠失をはじめとする多彩な変異を示す.

[症状] 小児・思春期以降に末梢神経症状で発症することが多い.関節痛,蛋白尿,アンギオテラトーマ,角膜混濁等の症状のほか,HCM様の心症状を呈する.HCMの所見のみで他の全身所見を伴わない型があり,心Fabry病と呼ばれる.

[理学的所見] 上記の臨床症状に伴う所見を認める.

[検査] 心電図で左室肥大,心エコーでHCMの所見を認める.白血球中のα-ガラクトシダーゼ酵素活性の測定,心内膜や筋の組織学的検査が診断に有用である.(クラスⅠ)

[治療] α-ガラクトシダーゼ酵素製剤であるアガルシダーゼアルファ(遺伝子組換え)およびアガルシダーゼベータ(遺伝子組換え)を注射する.(クラスⅠ,レベルB)用法・用量 アガルシダーゼアルファ:1回体重kgあたり0.2mgを隔週で点滴静注. アガルシダーゼベータ:1回体重kgあたり1mgを隔週で点滴静注.②Pompe病

[病態] ライソゾーム中の酸性α-グルコシダーゼ欠損に起因する代謝異常症で,グリコーゲンが心臓,骨格筋,肝臓に蓄積する疾患である.

[病因] 常染色体劣性遺伝形式をとり,出生4万人に1人に発症する.酸性α-グルコシダーゼ遺伝子は17q25.2領域に存在し,多彩な変異が報告されている.

[症状] 乳児期早期に筋緊張低下,筋力低下,哺乳力低下,肝腫大,呼吸困難で発症することが多い.心拡大を伴い,

HCM様の心症状を呈する.[診察所見] 筋緊張低下と肝腫大が著明で,心臓についてはHCMの所見を認める.

[検査] 胸部X線では心拡大,心電図で左室肥大とST-T変化,PQ短縮,心エコー検査でHCMの所見を認める.白血球,骨格筋,皮膚培養線維芽細胞の酸性α-グルコシダーゼ酵素活性の測定,心内膜心筋生検や骨格筋の組織学的検査が診断に有用である.(クラスⅠ)

[治療] 酸性α-グルコシダーゼ酵素製剤であるアルグルコシダーゼアルファ(遺伝子組換え)を注射する.(クラスⅠ,レベルB)用法・用量 アルグルコシダーゼアルファ:1回体重kgあたり20mgを隔週で点滴静注.

⑥薬物療法の実際

 心筋病変そのものに対し有効な薬物療法はFabry病やPompe病に対する酵素補充療法しかない.合併する心不全や不整脈,肺高血圧,血栓症に対しては対症療法が行われる(小児の心筋疾患治療に用いられる医薬品の小児適応の有無,用法・容量等については該当する項を参照のこと).1)収縮機能低下に対する治療(DCM等)①ジギタリス ジゴキシンは成人の洞調律の心不全患者に対し心不全による入院を減らすことが明らかにされているが,予後は改善しないと報告されている443).小児の心不全に対する適応が認められている.(クラスⅠ,レベルC)②利尿薬 心不全患者のうっ血に基づく労作時呼吸困難,浮腫などの症状を軽減するために最も有効な薬剤である.海外ではフロセミドがよく使用される(クラスⅠ,レベルB)444)が,低カリウム血症を来たしやすく,ジギタリス製剤併用時にはジギタリス中毒や重症の心室性不整脈を来たすことがあるので,血清カリウム保持作用のあるスピロノラクトンとの併用が望ましい.フロセミドの国内の添付文書には小児の用法・用量の記載がない.③アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I) 小児では大規模臨床試験に基づくエビデンスはない.DCMによる慢性心不全に対しエナラプリル,β遮断薬,抗アルドステロン薬の併用が生存期間を延長するという報告445)(クラスⅠ,レベルB)がある反面,ACE-I単独

205循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

あるいはβ遮断薬との併用は,それまでのジギタリスを主体とする薬物療法に比べ,心臓移植なしに生存する割合を改善していないとの報告140)もあり一定の見解が得られていない(クラスⅡb,レベルC).国内で小児に対する薬事法上の承認が得られているACE-Iはなく,唯一エナラプリルマレイン酸塩が高血圧に対し健康保険償還対象となっている.④アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB) 小児の左室収縮機能低下に基づく慢性心不全に対する有効性に関しては症例報告にとどまり,明確なエビデンスはない(クラスⅡa).国内ではカンデサルタンが成人の慢性心不全に対する適応を有しているが小児への適応はない.⑤β遮断薬 NYHAクラスⅡ~Ⅳで左室駆出率が40%未満の16歳以下のDCM患者を対象とした試験で,カルベジロール0.4~0.8mg/kg/日(最大50mg/日)の投与により12か月後にNYHAクラスと左室駆出率が有意に改善されたという報告がある154)(クラスⅠ,レベルB).しかし,慢性心不全の小児161名を対象としたカルベジロール0.2mg/kg/日(最大12.5mg/日)投与群,0.4mg/kg/日(最大25mg/日)投与群とプラセボ群とのランダム化比較試験においては臨床症状の改善に有意差を認めなかったという報告446)があり(クラスⅢ),小児の左室収縮機能低下に使用した場合の有効性に関する一定の見解は得られていない447).我が国において成人の慢性心不全に対する適応を有するβ遮断薬はカルベジロールとビソプロ

ロールである.⑥抗アルドステロン薬 小児の心不全に対する有効性について,大規模臨床試験に基づくエビデンスはない.スピロノラクトンは小児に対する薬事法上の承認はないが,健康保険償還対象になっている.⑦アミオダロン アミオダロンはメタアナリシスでは成人の不全患者における全死亡率および不整脈死を減少させることが報告されている448)が,小児の心筋疾患に伴う重症心室性不整脈に対する有効性に関するエビデンスは少ない449)(クラスⅡa,レベルB).⑧末消血管拡張薬 硝酸薬およびカルシウム拮抗薬の小児の心不全に対する有効性を示すエビデンスはない.アムロジピンは米国で高血圧に対し小児適応を有しているが,アムロジピン,フェロジピンとも我が国では小児適応がない.降圧剤としてのアムロジピンの米国での小児の用法・用量は6~17歳の小児に対し1日1回2.5~5mgである. 急性心不全や肺高血圧に対しPDEⅢ阻害薬が使用されることがある.しかし,小児ではその有効性を示す臨床試験のデータはなく(クラスⅡa,レベルC),海外でも小児に対する適応はない.⑨経口強心薬 ピモベンダン,デノパミン,ドカルパミン,ベスナリンが成人の経口強心薬として承認されているが,小児に対する適応はなく,有効性に関するエビデンスもない.

図23 小児の心筋緻密化障害治療のフローチャート

心筋緻密化障害

症状(-)

不整脈(-)

心電図異常(+)

遺伝子異常(+)

収縮機能障害による心不全

拘束型心筋症様の症状

肺高血圧

不整脈(+)

運動制限(Dランク)

無投薬(?)β遮断薬(?)

運動制限(B,Cランク)

拡張型心筋症に準じた心不全治療

運動制限(A,Bランク)

拘束型心筋症に準じた治療

運動制限( B,Cランク)

抗不整脈薬(ジソピラミド,アミオダロン)

抗血栓療法

206 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

⑦拡張機能低下に対する治療(肥大型心筋症等) 

1)無症状例 薬物療法の有効性について明らかなエビデンスはない.HCMの小児293名を対象にβ遮断薬やベラパミル,アミオダロンの突然死予防効果について検討した論文では,β遮断薬治療患者76名中7名(9.2%),ベラパミル治療患者46名中4名(8.7%),アミオダロン治療患者30名中6名(20%)が突然死しており,薬物治療を受けなかった群と突然死の発生率に差がなかった441)(クラスⅡb,レベルC).拡張不全に対し小児適応のあるβ遮断薬はない.ベラパミルは頻脈性不整脈に対し小児適応があるが,拡張不全に対する適応はない.2)有症状例 β遮断薬やCa拮抗薬(ベラパミル,ジルチアゼム)が使用されるが,いずれも小児適応はない.Ca拮抗薬は末梢血管拡張作用により左室流出路圧較差を増大させるので,閉塞性肥大型心筋症への使用には注意を要する. 成人の閉塞性肥大型心筋症にはⅠa群の抗不整脈薬(ジソピラミド,シベンゾリン)が適応外ながら用いられる(クラスⅡa).小児においても有症状例や心電図および心エコー検査でハイリスク群とされた症例(肢誘導のQRS電位の合計が10mVを超え,心室中隔厚が正常の190%を超える患者)の突然死について検討した総説では,プロプラノロール,メトプロロールおよびビソプロロールといった脂溶性のβ遮断薬の高用量での投与のみが突然死を予防する上で有効で,さらにジソピラミドの併用が突然死のリスクを軽減したとされている450)が,現時点では一定の見解は得られていない(クラスⅡa,レベルB).ジソピラミドは小児に対する薬事法上の承認はないが,期外収縮,発作性上室頻拍や心房細動等の不整脈に対しては健康保険で償還対象となっている. 左室流出路狭窄を伴うものではβ遮断薬やCa拮抗薬(ベラパミル,ジルチアゼム)が適応外ながら使用される.有症状例と同様,成人においてⅠa群の抗不整脈薬(ジソピラミド,シベンゾリン)のエビデンスレベルはクラスⅡで,小児でも左室流出路狭窄を伴う症例にはβ遮断薬との併用が有効という報告がある450),451)が,明確なエビデンスがない(クラスⅡa,レベルB).さらに,高度な狭窄例に対するACE-I,ARBは成人ではクラスⅢであるが,小児でのエビデンスはない.収縮能低下例に対して小児でも成人同様DCMの治療に準じ,利尿薬,ACE-I,ARBが用いられるが,明確なエビデンスはない. 突然死の予防を目的としたアミオダロンやβ遮断薬,

植込み型除細動器(ICD)の適応について,小児での有効性や安全性に関するエビデンスは極めて少なく,一定の見解は得られていない.(クラスⅡb,レベルC)3)不整脈 小児のHCMに合併する不整脈の薬物療法の適応については明確な基準がない.成人のHCMに合併する不整脈の薬物療法の適応は以下のとおりである.クラスⅠ心拍数が速く,血行動態に影響する心房細動,心房粗動発作性上室頻拍症状のある突然死の危険因子を持った非持続性心室頻拍持続性心室頻拍心室細動クラスⅡ症状のある上室性あるいは心室性期外収縮無症状あるいは血行動態の安定した非持続性心室頻拍クラスⅢ無症状の上室性あるいは心室性期外収縮無症状の徐脈

 成人ではβ遮断薬やCa拮抗薬(ベラパミル,ジルチアゼム),Ⅰa群,Ⅰc群の抗不整脈薬,アミオダロンが使用される.このうち,小児適応を有するものはベラパミルとⅠc群の抗不整脈薬のフレカイニド酢酸塩のみである.フレカイニド酢酸塩の器質的心疾患がある場合の使用には注意を要する.心房細動例ではワルファリンの投与が推奨される. 成人のHCMにおける植込み型除細動器(ICD)の適応は,心室細動および薬物療法抵抗性の持続性心室頻拍(クラスⅠ)であるが,小児では使用できるデバイスに制限があり,エビデンスは乏しい.(クラスⅡb)失神や著しいQOLの低下を伴う薬物療法抵抗性の頻脈性心房細動,Ⅰ型心房粗動,発作性上室性頻拍,持続性心室頻拍などは,成人ではカテーテル焼灼術の適応となり得る. 小児におけるHCMの突然死の予防に関する諸治療の位置づけは以下のとおりである.クラスⅠ 該当なしクラスⅡ  突然死の一次予防目的のβ遮断薬,ジソピラミド,アミオダロンの投与ないし ICD植込み術クラスⅢ 突然死の一次予防目的のCa拮抗薬

207循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

2 心筋炎

1 定義と分類 心筋炎は炎症性細胞の浸潤と心筋細胞の障害により心機能に異常を来たす疾患である.

2 疫学 無症状のものや原因不明の突然死と診断されるものがあるため,正確な頻度は不明である.日本小児循環器学会の希少疾病サーベイランス439)によると,平成17年から21年までの5年間に発症した患者数は273例であった.

3 小児の病態と臨床的特徴

①病態

 発症には,炎症細胞やTリンパ球,炎症性サイトカインなど複雑な免疫応答の関与が考えられている.

②病因

 ウイルス感染によるものが多くを占めるが,あらゆる種類の感染性病原体,ある種の薬剤や全身性疾患が原因となり得る.ウイルスのうち心筋親和性の強いピコルナウイルスが重要で,コクサッキーB群の頻度が高い.エコー,コクサッキーA群,インフルエンザB群,単純ヘルペス,サイトメガロなどに加え,アデノ,パルボB19なども報告されている.

③症状

 あらゆる年齢で発生し,無症状のものから劇症型まで症状は多彩である.刺激伝導系の障害による不整脈(Stokes-Adams発作で発症する完全房室ブロック,異所性自動能亢進による心室頻拍または上室頻拍)と広汎な心筋細胞障害による収縮不全(心不全やショック)を来たす.心筋炎は小児の突然死の重要な原因で,日本小児循環器学会の希少疾病サーベイランス439)によると平成21年度に発症した患者45例のうち12例が死亡している.

④診察所見

 胸部聴診で,洞性頻脈,心音の微弱,奔馬調律を聴取する.完全房室ブロックを伴う例では極度の徐脈となる.

⑤検査所見

 心筋逸脱酵素(特にCK-MB)の上昇,ミオシン軽鎖

- I,トロポニン-T,トロポニン- I,ミオグロビンや脂肪酸結合蛋白(FABP)の上昇は診断に有効である.心電図は房室ブロック,ST-T変化,異常Q波,低電位,脚ブロック,心室期外収縮や心室頻拍など多彩な所見が短時間に変化しながら出現する.心エコー図検査では心室や心房の拡大,壁運動の低下,心嚢液の貯留,一過性心筋肥厚,乳頭筋不全による房室弁逆流がみられる.心臓核医学検査では,急性期に67Ga心筋シンチ,99mTc心筋シンチでの陽性像,111In-抗ミオシン抗体の集積像,急性期から遠隔期にかけての201Tl心筋シンチでの欠損像が病変部位の診断に有用である.MRIでは壁運動が低下した部位で浮腫像と心腔内の血流停滞信号が観察される.ウイルスの分離,ペア血清による4倍以上の抗体価の変化,ウイルスゲノム検索は有用である.心内膜心筋生検で炎症性細胞の浸潤,心筋細胞の融解や変性,断裂,消失,間質の浮腫や線維化を認めることがある(クラスⅠ).

4 薬物療法の実際 治療の基本は安静と心臓の負荷の軽減である.心電図変化のみの症例や軽症例に対しては酸素投与と安静で十分であるが,急激な病状の変化に対応できる体制を整えておく.重症例や劇症型に対しては心不全や不整脈に対する治療と循環動態の管理を行う.治療のフローチャートを図24に示す.

①心不全

 後負荷の軽減,循環容量の減少と低心拍出状態の改善を図る目的で以下の薬物が選択されるが,有効性に関するエビデンスは明らかでない.ジギタリス製剤は頻脈があるときのみ使用を考慮する.1)血管拡張薬  心筋炎で入院した216名の小児患者を対象としたKlugmanらの調査で,PDE3阻害薬(ミルリノン)が投与された97名(44.9%)のうち85名が生存し,12名が死亡した452)が,その有効性については明確になっていない(クラスⅡa,レベルC).硝酸イソソルビド,ACE-Iの有効性を示すエビデンスはない.2)利尿薬  急性期心筋炎に対する利尿薬の有効性を示すエビデンスはない.(クラスⅠ,レベルC)3)強心薬 Klugmanらの報告452)では,216名の小児心筋炎患者に対しエピネフリンが76名に,ドパミンが73名に投与されているが,臨床試験に基づいたエビデンスはなく,

208 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

有効性については明らかでない(クラスⅡa,レベルC).ドパミンは急性循環不全に対し小児適応があるが,その用法・用量は,1~5μg/kg/分(最大20μg/kg/分)で持続静注である.

②不整脈 

 心筋炎に伴う不整脈は致死的となることがあるので以下の治療が行われる.(個々の不整脈に対する治療の詳細は不整脈の項を参照)1)心室期外収縮・心室頻拍 Klugmanらの調査452)では,216名の小児心筋炎患者に対しリドカインは93名に投与され,81名が生存,12名が死亡と報告されている.メキシレチンやアミオダロンについて,我が国では小児に対する適応はなく,有効性に関するエビデンスは明らかでない(クラスⅡa,レベルC).リドカインの成人における用法・用量は1回50~100mg(1~2mg/kg)を1~2分かけて5~10分おきに静注.2)完全房室ブロック  イソプロテレノールの静注や一時的心室ペーシングが行われる449)が,有効性に関するエビデンスは乏しい(クラスⅡb,レベルC).血圧の低下があれば一時的心室ペーシングを開始する(クラスⅡa,レベルC).イソプロテレノールは0.2~1.0mgを等張溶液200~500mLに溶

解し,心拍数又は心電図をモニターしながら注入する.

③抗凝固薬・抗血小板薬 

 低心拍出や不整脈による血栓形成の予防目的で行う.アスピリンとワルファリンを用いる.アスピリンは小児の心筋炎には適応がない.川崎病の解熱後の回復期から慢性期の投与量は,1日1回3~5mg/kgである.ワルファリンの小児の用法・用量は12か月未満0.16mg/kg/日,1歳以上15歳未満0.04~0.10mg/kg/日である.

④その他 

 抗ウイルス薬,ステロイド等の免疫抑制薬,免疫グロブリン,抗サイトカイン薬等が使用されることがあるが,いずれも有効性や安全性に関するエビデンスに乏しい453).劇症型心筋炎の治療としては,早期の心肺補助循環を開始する454).乳幼児では体外膜型人工肺(ECMO)と持続血液浄化装置,学童では経皮的心肺補助装置(PCPS)が使用できる.(クラスⅠ)

3 心外膜炎

1 定義と分類 心外膜炎は病理学的炎症性病変を心外膜に認めるもの

図24 小児の心筋炎治療のフローチャート

心筋炎

症状(-)

不整脈(-)

心機能正常

感染徴候(+)

軽微な心血管症状

軽度の検査の異常

軽症~中等症の心不全

強烈な心不全

不整脈

運動制限無投薬

安静酸素投与無投薬

安静酸素投与心不全治療不整脈治療免疫グロブリン療法(?)免疫抑制療法(?)

安静酸素投与心不全治療不整脈治療抗血栓療法免疫グロブリン療法(?)免疫抑制療法(?)

心肺補助循環一次ペーシング

慢性心不全

不整脈・伝導障害

心移植

心不全治療不整脈治療抗血栓療法

209循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

をいう.感染性のものやリウマチ熱,川崎病のような全身性疾患に伴うものがある.心外膜の病理形態学的特徴から,線維素性,液貯留型,化膿性,線維性,新生物によるもの,肉芽腫性,石灰化,コレステロール心外膜炎に分類されることがある.

2 疫学 日本小児循環器学会の希少疾病サーベイランス439)によると,平成17年から21年までの5年間に報告された収縮性心膜炎の患者数は11例であった.

3 小児の病態と臨床的特徴 以前はリウマチ熱に伴うものや化膿性心外膜炎が多かったが,現在はウイルス性のものや川崎病や膠原病等の全身疾患に伴うものの割合が増えている455).先天性心疾患の手術後にみられる心膜切開症候群も心外膜炎の一つである.収縮性心外膜炎は小児では稀である. 胸痛,心膜摩擦音,心電図変化が従来の三大徴候である.胸痛は前胸部から左肩,背部に放散する突き刺すような鋭い痛みで,仰臥位で増強し,座位や立位,特に前傾位で軽減する.咳嗽,発熱,腹痛,嘔吐,呼吸困難を認めることがある. 診察所見としては心膜摩擦音(friction rub)を聴取する.しかし,心嚢液の貯留が多いと聴取されないことがあり,この場合は心音も減弱する.末梢の脈は脈圧が狭く,血圧測定において奇脈を呈することがある.肝腫大,静脈の怒張を認める. 胸部X線では心嚢液の貯留が多いと“みずがめ”状の心拡大を認めることがある.心電図ですべての誘導の低電位,電気的交互脈,ST上昇を認める(クラスⅡ).心エコー検査が心嚢内液貯留の診断に最も有用である(クラスⅡ).

4 薬物療法の実際 基礎疾患の治療,抗菌薬による治療,必要に応じ心嚢穿刺,心膜切除術を行う.

ⅠⅩ 救急用製剤治療薬

1 心原性ショック

1 疫学 心原性ショックでは原因の如何を問わず心拍出量の低下があり,その多くの場合は心筋収縮力の低下が原因である.成人ではその原因の約80%は急性心筋梗塞で,心原性ショックに陥った場合死亡率も50%以上とされる456),457).小児では先天性心疾患,ウイルス性心筋炎,不整脈,心筋症,薬剤性心筋障害,開心術後心合併症,低血糖をはじめとする代謝異常,など原因はさまざまである.動脈管依存性先天性心疾患では,日齢とともに動脈管が収縮傾向を示すとうっ血性心不全が進行し心原性ショックに至る458).重症大動脈弁狭窄など心室流出路の狭窄性病変のほか,心タンポナーデや緊張性気胸も心原性ショックの原因になり得る(表36). 心肺停止から蘇生に成功した直後には,不安定な循環動態,体循環と肺循環の血管抵抗上昇を伴っており459),次項に定義するような心原性ショックを呈している. 院外心肺停止の小児例は我が国の研究460)でも米国461)

やオランダ462)の研究でも小児人口10万人に対し8.0~9.0人と一致しており,特に1歳未満の乳児に限ればその危険性は数倍高い.小児における院外心肺停止の約3割は心原性とされ460),目撃者bystanderによる心肺蘇生が行われるのはその1/3~1/2程度に過ぎず,しかもその1/3強は人工呼吸を行い得ず胸骨圧迫のみであった460),462),463).乳児の心肺停止後の生命予後は不良であるが,1歳以上の小児ではむしろ成人より良好である461).

重篤な心筋収縮不全

・急性心筋炎・心臓振蘯・敗血症・心筋梗塞(川崎病,BWGなど)

順行性血流の機械的狭窄

・大動脈弁狭窄その他の先天性心疾患  (左心低形成症候群,大動脈縮窄など)・肥大型心筋症・左房粘液種

左室心拍出の障害

・僧帽弁検索断裂・急性大動脈弁閉鎖不全

表36 心原性ショックの原因

文献457より改変して引用

210 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

 院内心肺停止後の予後を検討した前方視的多施設共同研究によれば464),小児は心室細動Vfやpulseless VTの頻度が少なく発見時に心停止であることが多いにも関わらず成人に比し生命予後は2.3倍良好で,神経学的予後も良好であるという.

2 定義 ショックは急性循環不全の結果,組織需要に見合う必要十分な酸素や栄養を供給できない状態と定義され,進行性に代償期,非代償期を経て臓器の不可逆的障害をもた ら す. 低 循 環 血 液 量 性Hypovolemic, 心 原 性Cardiogenic,閉塞性Obstructive,分布性Distributive,解離性Dissociativeの5つに分類される.敗血症性ショックでは炎症性メディエーターにより心筋収縮力の低下を来たし得るので,時に心原性ショックとしての特徴を有することもある465). 心原性ショックとは,循環血液量が維持され心拍数が正常ないし増多していても,心筋収縮不全により1回拍出量が低下し心拍出量が減少した状態である.通常,先天性ないし後天性の心疾患が原因で,アシドージス・低酸素血症・低カルシウム血症などの代謝異常を伴う466). 成人における心原性ショックは「急性心不全により収縮期血圧90mmHg未満もしくは通常より30mmHg以下の血圧低下が見られ,意識障害,乏尿,末梢血管の収縮を伴っている状態」と定義され,低血圧が重要な要因である456).しかし小児は成人に比べ血管収縮と心拍数の増多による代償機構が作用して低血圧に陥りにくく,低血圧が顕在化しないショックもある458),467),468)が,ひとたび低血圧が生じると循環虚脱が急速に進行する.

3 小児の病態と臨床的特徴 ショックの病態生理は,微小循環不全,末梢組織の虚血,バイオマーカー・血管収縮物質・炎症性サイトカイン・一酸化窒素などの分泌と補体の活性化などが複雑に関与する458).微小循環不全は毛細血管血流の分布異常

に特徴づけられ,前毛細血管括約筋と細小動脈の平滑筋収縮をもたらす.その結果,毛細血管床が閉塞し血管内皮の障害が生じ,補体の活性化,血小板や顆粒球の凝集が進行する. ショックの初期症状は頻脈と軽度の頻呼吸,毛細血管充満時間のわずかな遅延,血圧や脈拍数の起立に伴う変化,軽度の易刺激性などで,毛細血管充満時間の遅延は交感神経活性の亢進による内因性カテコラミン分泌増多の現れである.代償機構が破綻すると組織が虚血に陥り血管作動性物質と炎症メディエータの放出により微小循環障害が生じて,脳・腎・心血管系などの機能不全症状が認められる. 乳児では成人に比し心筋収縮力が相対的に弱いため,全身の酸素需要が亢進して心拍出量が増大する時には一回拍出量の増大よりむしろ心拍数の増多に依存する.そのため徐脈時には一回拍出量で代償することがしばしば困難である.逆に頻脈時には,心室充満時間の短縮が心拍出量へ及ぼす影響が比較的少ないため心不全が顕性化しにくい傾向にある458). 循環動態について心血管系と末梢臓器機能の両者を評価する必要がある(表37).心血管系では,皮膚色・皮膚温・心拍数・リズム・血圧などを,末梢臓器機能では脳循環(精神状態)などを評価する.毛細血管充満時間は2秒以下が正常で,延長する場合にはショックが代表的であるが敗血症ショックでは正常であることに注意する.小児のバイタルサインの正常値を表38に示す469). 小児では一旦心停止に至った場合の救命率が低いため,予防・迅速な心肺蘇生の開始・的確な手技と,地域

心血管系 皮膚色皮膚温心拍数リズム血圧脈毛細血管充満圧

末梢臓器機能 脳循環皮膚循環腎循環

精神状態

尿量

表37 小児の二次救命処置(PALS)における循環評価項目(文献469)項目 年齢 正常値 単位呼吸数 < 1歳

1~3歳4~5歳6~12歳13歳~

30~6024~4022~3418~3012~16

/分

心拍数(覚醒時)

< 3か月3ヶ月~2歳2歳~10歳

10歳>

85~205100~19060~14060~100

/分

心拍数(睡眠時)

< 3か月3か月~2歳2歳~10歳

10歳~

80~16075~16060~9050~90

/分

収縮期血圧 日齢0~281~12か月1~10歳10歳>

<60<70

<70+(年齢×2)<90

mmHg

腎機能 乳幼児小児

1.5~21

mL/kg/時mL/kg/時

表38 小児のバイタルサインなどの正常値(文献459,469より改変して引用)

211循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

救急システムへの搬送など救命の連鎖を迅速に行うことが極めて重要である.  かつて心肺蘇生においては“ABC”(Airway, Breathing/ventilation, and Chest compressionもしくはCirculation)が推奨されたが,2010年AHA Guidelines for CPR and ECC では小児においても“CAB”の順で行うことに変更された445).

4 薬物療法の実際 ACCM-PALSガイドラインでは,心原性ショックの治療においてはショックの早期診断と急速輸液が最も重要であると強調している470)(図25). 左室容量負荷を伴う場合や左室充満圧の低下を輸液(必要に応じ輸血)で補正しても血圧低下が続く場合には,カテコラミン投与が行われる.カテコラミンは半減期が2~3分と非常に短く,かつ強力な心筋への陽性変力作用をもつ.その作用は細胞内Ca濃度を上昇させるか感受性を亢進させることにより発揮されるが,先天性心疾患,心臓移植後,気管支肺異形成の患者などでは交感神経感受性が低下していることも多く,効果が不十分な場合いくつかのカテコラミンを併用する必要がある.しかし心原性ショックに対する心血管作動薬は予後を改善するか未だ不明で,不整脈の誘発などにより予後を逆に悪化させることさえ懸念される471).ノルエピネフリンはドパミンより昇圧作用が強いが,その使用による血圧維持が予後改善に有用であることを証明した研究はない. 長年にわたり心肺蘇生後や代謝性アシドージスに際しアルカリ化剤が投与されてきたが,予後が改善するというエビデンスはなく,むしろ病態の悪化さえ懸念される.組織潅流と呼吸が適切であれば炭酸水素ナトリウムなどアルカリ化剤は通常必要ないとされ,したがってアルカリ化剤の投与よりアシドージスの原因となっている病態を改善することに注力するべきである472).同様にショックの小児におけるステロイド療法が有効であるというエビデンスはない.現時点ではカテコラミン投与に不応で副腎不全が強く疑われる症例にのみハイドロコーチゾンの適応があるとされる(クラス II,レベルC).さらに,心肺蘇生後の小児では,明らかな低Ca血症,Ca拮抗薬の過量投与,高Mg血症,低K血症がなければCa製剤の投与は推奨されない459)(クラス III,レベルB).

①酸素(クラスⅠ,レベルB)

 十分な酸素投与を行うことは極めて重要である.気道確保や呼吸状態を評価している間には原則として100%

酸素を投与する.バッグ&マスクで呼吸を補助するのが望ましく,気道狭窄や呼吸運動が不十分な場合には経口挿管を考慮する. 動脈血酸素分圧が65mmHg以上を維持するまで100%酸素投与を続けるべきで,末梢血Hgb ≧10g/dL,上大静脈酸素飽和度>70%を維持できれば予後の改善が期待できる458).室内気でSpO2が94%を上回る場合には換気が十分であるが,これ以下の場合には酸素投与を行う.90%以下では100%酸素を投与する469).

②ドブタミン(クラスⅠ,レベルC)

[適応] ドパミンは選択的β1刺激作用を有するので心原性ショックにおいてまず考慮すべき薬剤である.心原性ショックでは心室充満圧上昇と低心拍出量状態にあるが,ドパミンにより心拍数を増多させずに心拍出量を改善する.

[容量] まず2~5μg/Kg/分の速度で持続点滴する.最高20μg/Kg/分まで増量可能だが,十分な効果が得られない場合エピネフリンを投与する.

[禁忌] 閉塞性肥大型心筋症では左室流出路狭窄を増強させる.

[副作用] 不整脈,血圧の変動(上昇,低下),血清K値低下,狭心痛などが報告されている.血管外に漏出した場合,硬結・壊死を来たすことがある.

[使用上の注意事項] 腎血管拡張作用はまったく期待できないので,尿量減少の場合には用量を下げてドパミンもしくはPDE3阻害剤と併用する.また,β遮断剤との併用は,本剤の効果を減弱させ,α作用が相対的に増強するため末梢血管抵抗の上昇をもたらす可能性がある. 多剤との併用により配合変化・沈殿・混濁などを起こす可能性があり,単独ラインからの投与が望ましい.

③ドパミン(クラスⅡ,レベルC)

[適応] 急速初期輸液により患児の状態が比較的安定はしているものの低血圧から脱していない場合,ドパミンは第一選択薬で,心機能に加え内臓および腎の循環の改善が期待できる.仮に循環血液量低下が改善されていなくても有効性が期待される468).

212 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

[容量] 1~5μg/kg/分で点滴静注を開始し,病態に応じて20μg/kg/分まで増量可. 低用量(2μg/kg/分)では腎血流量を最大50%,Na排泄を最大100%増多させ得る.中等量(5~10μg/kg/分)では心拍出量が増大し,高用量(>10μg/kg/分)では動脈収縮と血圧上昇作用が顕著になる.

 投与開始直後から末梢循環が改善し,尿量の増加,血圧の上昇,四肢冷感の消失などが認められる.

[禁忌] 褐色細胞腫ではカテコラミンを過剰に産生する危険性あり.

[副作用] 不整脈,麻痺性イレウス,四肢末梢虚血,嘔吐などが

意識障害・末梢循環不全の有無評価

気道確保・PALSガイドラインに従った輸液ライン確保

生理的食塩水 20mL/Kg(合計最大 60mL/Kgまで)低血糖・低 Ca血症の補正(適応があれば)抗生剤投与

PICU収容

中心静脈確保Dopamineもしくは Dobutamine開始動脈圧観血的モニタ

エピネフリン・ノルエピネフリン滴下Scv O2Sat >70%

ハイドロコーチゾン投与検討

血圧正常Scv O2Sat < 70%

低血圧Scv O2Sat < 70%

低血圧Scv O2Sat ≧ 70%

3.3 <CI < 6.0 L/分 /m2

ECMO考慮

血管拡張剤追加PDE 3阻害薬+負荷輸液

負荷輸液エピネフリン

負荷輸液ノルエピネフリン

改善

改善

改善

No

No

No

No

Yes

図25 ショック療法のアルゴリズム

213循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

ある.血管外に漏出した場合,硬結・壊死を来たすことがある.

[使用上の注意事項] 多剤との併用により配合変化・沈殿・混濁などをおこす可能性があり,単独ラインからの投与が望ましい.

④エピネフリン(クラスⅡ,レベルC)

[適応] 著しい低血圧や敗血症性ショックを合併する場合に第一選択である.もし急速初期輸液とドパミン投与で効果が不十分な場合,エピネフリンにより血圧を維持し心拍出量を増加させる効果が期待できる.ただし敗血症性ショックいわゆるwarm shockの場合にはノルエピネフリンが推奨される.

[容量] 蘇生目的でボーラス投与する場合は生理的食塩水で10倍 希 釈 し て1回0.1~0.2mL/kg (0.01~0.02mg/kg)を静注する.気管内散布する場合は静注量と同等~倍量投与する. 持続静注する場合は,0.1~1.0μg/kg/分の速度でシリンジポンプを用いて投与する.低用量(0.2μg/kg/分以下)では,エピネフリンは心臓に対しβ1作用,末梢血管に対しβ2作用を示し,その結果骨格筋の血流増多と拡張期血圧の低下をもたらす.中等量(0.3μg/kg/分以上)ではα作用が顕著となった血圧上昇を来たす.

[禁忌] 心室頻拍など致死的不整脈,甲状腺機能亢進症,糖尿病など.

[副作用] 肺水腫,不整脈・頻脈・心停止,血圧異常上昇など.

[使用上の注意事項] 心筋酸素需要を増加させるので,心原性ショックや出血性ショックでは使用を原則として避ける.

⑤PDE 3阻害薬(クラスⅡ,レベルC)

[適応] ミルリノン,アムリノンなどのPDE3阻害薬は,心筋のcAMPaseを抑制作用して陽性変力作用を示すとともに,血管壁にも直接作用して血管平滑筋を弛緩させ後負荷を減弱させる473),474).さらに房室伝導を促進し,冠動脈拡張作用効果も有する.エピネフリンと血管拡張剤が投与されており,かつ循環血液量と血圧に問題がないのに低心拍出量と末梢血管抵抗の上昇が改善せず,ショック状態から離脱できない場合には有効とされる468). 血圧を低下させることがありドブタミンなどとの併用

されることが多い.特に循環血液量が少ない患者では注意する.

[容量] アムリノン:5~10μg/kg/分で点滴静注. ミルリノン:0.25~0.75μg/kg/分で点滴静注.

[禁忌] 閉塞性肥大型心筋症.

[副作用] アムリノン:心室頻拍,頻脈,完全右脚ブロック,低血圧,血小板減少など. ミルリノン:心室頻拍・心室細動など致死的不整脈,血圧低下,腎機能低下,血小板減少など.

[使用上の注意事項] 両薬剤とも開始時にまずボーラス投与が行われていたが,急速静注では血圧低下作用が強いため上記のごとく少量で点滴静注を開始することが推奨される. ともに他剤と配合変化を来たすことがあり,単独ラインからの投与が望ましい. アムリノン:ジアゼパム,フロセミドなどと配合変化が報告され,またブドウ糖・マルトース含有液と同時投与すると24時間以内に配合変化を認める. ミルリノン:排泄は殆ど腎からなので,腎機能低下の患者では過量になりやすく注意する.またジギタリスを併用している場合,ジギタリスの催不整脈性を増強する.

⑥ニトロプルシド(クラスⅡ,レベルC)

[適応] 循環血液量が十分でエピネフリンなどの薬剤により血圧が維持されているのに低心拍出量が改善せず,ショック状態から離脱できない場合には血管拡張剤の併用を考慮する.心筋潅流の改善,左室一回拍出量の増多,心筋酸素消費量の減少などが期待できる.短時間作用型のニトロプルシドなどを少量から開始する.

[用量] 0.1μg/kg/分持続点滴静注で開始する.臨床的に末梢血管抵抗の低下が示唆されるまで漸増する.最大8~10μg/kg/分まで増量可であるが,日本では一般的に3μg/kg/分程度までとされる.

[禁忌] 高度な脳循環障害,甲状腺機能不全,重篤な肝・腎障害,高度の貧血,PDE5阻害薬投与中.

[副作用] 本剤の投与により過度の低血圧が急激に現れることがある.逆に中止後,リバウンド現象が生じ急激な血圧上昇を来たすことがある.また代謝産物として thiocyanate

214 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

(cyanide)が蓄積し,シアン中毒を生じることがある.[使用上の注意事項] 観血的動脈圧の連続モニタリング,心電図に加え血液ガスと酸塩基平衡が常時測定できる環境下で投与する.

⑦急速輸液fluid resuscitation(クラスⅡ,レベルC)

[適応] 典型的な心原性ショックには適応がないが,敗血症性ショックや低循環血液量性ショックの初期治療として急速に大量の輸液を投与する fluid resuscitationは近年の多くの研究で有効性が確立している.しかし心機能の低下した状態で過剰な輸液を行えば,急性肺水腫などを惹起しさらに病状を悪化させる懸念がある. 低循環血液量性ショックや敗血症性ショックにおいて投与すべき液体としてアルブミンなどの膠質液と生理的食塩水やリンゲル液などの輸液製剤いずれが優れているかについては,メタ解析や大規模研究でも一致した見解が得られていない468),475)-479).外傷,低アルブミン血症,敗血症などショックの原因によっても至適輸液製剤が異なる可能性はあるが,現時点ではショックにおける急速初期輸液には生理食塩水が推奨される462),480),481).

[容量] 急速初期輸液を行う場合には,まず生理食塩水もしくはリンゲル液を20mL/kgを5~10分かけてボーラスで投与する.その後も状態により20mL/kg/時の輸液を追加し,最終的には計40~60mL/kg,時にはそれ以上の急速輸液が循環動態の回復に有用な場合がある480),482).小児では,輸液量が過剰になれば肝腫大が認められ臨床的指標になる468).

[禁忌] 肺水腫など急性左心不全が明らかな場合.

[副作用] 膠質液でも生理食塩水でも高Na血症や末梢浮腫など副作用の点でも明らかな差がないとされる462).

[使用上の注意事項]

⑧Glucose(クラスⅠ,レベルC)

[適応] 乳幼児は成人に比しブドウ糖の必要度が高く,グリコーゲン貯蔵量も少ないためエネルギー需要が亢進している.特に小児では経口摂取できずカロリー補給を輸液に依存する場合,低血糖に陥りやすい459),483).低血糖でも高血糖でも生命予後不良と相関があることが報告されているが,至適血糖値は明らかではない484),485).成人では150mg/dL以下が推奨されている.

[容量] 経口禁の場合,維持輸液にブドウ糖を混注し4~6mg/kg/分が必要との意見もあるが明確なエビデンスはない468).

Ⅹ 麻酔薬,鎮静薬,周術期関連薬

 この領域は不明な点も多く詳細は日本麻酔科学会「麻酔薬および麻酔関連薬使用ガイドライン第3版・第3訂(2012.10.31)X.小児麻酔薬」を参照.

1 薬物療法の実際

1 セボフルラン[適応] 全身麻酔の導入および維持である.厚生労働省医療技術評価総合研究喘息ガイドライン版によるEBMに基づいた喘息治療ガイドラインには喘息の急性増悪において追加治療として記載されているが,National Institute of Healthによる喘息の診断・管理ガイドラインではセボフルランを含む吸入麻酔薬を用いた全身麻酔の適応についての記述はみられない.

[用量] 麻酔導入時は,通常5.0%までの濃度で行うことができる.実際には7.0~8.0%で急速導入を行うこともある.維持は,通常他の麻酔薬と併用し患者の臨床徴候を観察しながら最小有効濃度で外科的麻酔状態を維持する.小児の最小肺胞内濃度(MAC: minimum alveolar concentration)は,満期産の0~1か月児で3.3%,1~6ヶ月児で3%,6か月3歳未満で2.8%,3~12歳で2.5%と報告されている486).平均4.3 歳の小児のMACは2.49%である487).成人では約3~5%のセボフルランが,体内で主として肝のCPY2E1を介して代謝される.代謝されたセボフルランは無機フッ素として尿中に排泄される.血中無機フッ素濃度は2時間でピークとなり,48時間で前値に回復する.無機フッ素のT1/2は健常成人で21時間である486).亜酸化窒素,鎮痛薬,α2アゴニスト,硬膜外麻酔の併用はMACを下げる.単独でも筋弛緩作用を持つが,筋弛緩薬との併用によりその作用時間を延長させる.

[禁忌] 悪性高熱症およびその疑いのある患者,本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者.

215循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

[副作用] 重大なものに悪性高熱,横紋筋融解症,ショック,アナフィラキシー様症状がある.本剤の体内代謝産物である血清無機フッ素と,二酸化炭素吸着剤との反応で生じるCompound Aによる腎機能への影響が議論されているが,セボフルレンによる無機フッ素血症およびCompound Aによるヒトでの腎障害を明らかにした報告はない486),488).小児や若年者で痙攣の既往のあるものは痙攣誘発の可能性がある.子宮筋弛緩作用もある.本剤の投与により呼吸が抑制され,心係数,体血管抵抗の低下による血圧低下が見られる.

[使用上の注意点] 吸入麻酔薬の中で気道刺激性が少なく吸入麻酔薬による導入を行う場合に適しているが,血液/ガス分配係数が0.63と小さく吸入濃度増加時の血中セボフルラン濃度の上昇が急激であるため血圧低下,呼吸抑制が起こりやすい.そのため必要に応じて投与の中止等適切な処置を要する.

2 イソフルラン[適応] 全身麻酔の導入および維持である.厚生労働省医療技術評価総合研究喘息ガイドライン版によるEBMに基づいた喘息治療ガイドラインには喘息の急性増悪において追加治療として記載されているが,National Institute of Healthによる喘息の診断・管理ガイドラインではセボフルランを含む吸入麻酔薬を用いた全身麻酔の適応についての記述はみられない. 新生児,乳児,幼児に対しては適応はない.

[用量] 麻酔導入時は,通常,4.0%までの濃度で行うことができる.維持は,通常他の麻酔薬と併用し患者の臨床徴候を観察しながら最小有効濃度で外科的麻酔状態を維持する.小児のMACは,満期産の0~1か月児で1.6%,1~6ヶ月児で1.87%,6~12か月児1.8%,1~5歳で1.6%と報告されている486).成人では1.2または1.8%の本剤を1時間吸入させたときの消失T1/2は第1相T1/2が2.2~2.8分,第2相T1/2が50.2~51.0分であった486).本剤の代謝率は非常に低く成人では平均0.43%が有機および無機フッ素として尿中に排泄される489).亜酸化窒素,鎮痛薬,硬膜外麻酔の併用はMACを下げる.筋弛緩作用を持ち筋弛緩薬との併用によりその作用時間を延長させる.

[禁忌] 悪性高熱症およびその疑いのある患者,悪性高熱症の

家族歴のある患者,本剤または他のハロゲン化麻酔薬に対して過敏症の既往歴のある患者.

[副作用] 重大なものに悪性高熱,横紋筋融解症,ショック,アナフィラキシー様症状,肝機能障害がある.子宮筋弛緩作用がある.本剤の投与により呼吸が抑制される.心収縮力は抑制されるが心拍数の増加で代償され心拍出量は変わらない.体血管抵抗を下げるため血圧は低下する.

[使用上の注意点] 軽度の気道刺激性があり吸入麻酔薬による導入に適さない.

3 亜酸化窒素[適応] 麻酔の導入および維持,鎮痛である.

[用量] 麻酔導入時は,30%以上の酸素と併用し,維持は本剤50~70%の濃度に原則として他の吸入麻酔薬を併用して麻酔を維持する490).強力な鎮痛薬であるが,鎮静・催眠作用は弱く,MACは105~110%である491).そのため本剤のみでは全身麻酔薬としては使用できず,吸入麻酔薬のような他の強力な全身麻酔薬の補助薬として使用される.本剤の吸収は,吸収開始直後は大量に(約1000mL/分)吸収されるが時間の経過とともに急速に減少し,20~30分でほぼ飽和に達し,以後はごくわずかしか吸収されない486).

[禁忌] 特になし.

[副作用] 嘔気・嘔吐,末梢神経障害,長期使用により造血機能障害を起こすことがある.連続吸入は48時間以内にとどめるのが望ましい490).ビタミンB12欠乏症の患者では造血機能障害,神経障害を起こすことがある492).

[使用上の注意点] 高濃度では心筋抑制作用を持つが,同時に交感神経も刺激するため単独使用では血圧の低下は起こりにくい493),494).本剤の血液/ガス分配係数が0.47と窒素のそれ(0.014)と比較して34倍大きいため体内閉鎖腔内圧上昇作用を持つ.そのため,耳管閉塞,気胸,腸閉塞,気脳症等内腔に窒素を含む閉鎖腔を持つ患者への使用には注意を要する495),496).人工心肺の使用等空気塞栓を起こす可能性のある場合も同様である.本剤の投与終了直後に十分な酸素投与がなされないと拡散性低酸素血症を起こすことがある497).投与終了後には純酸素を5分以上投与する498),499).職業的に数年にわたり本剤に暴露さ

216 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

れた女性で自然流産率が高いことが報告されている490).麻酔ガス排出システムを整備することが望ましい.助燃性を持つためレーザー手術には使用しない方が望ましい.

4 フェンタニル[適応] 全身麻酔における鎮痛,局所麻酔における鎮痛の補助,術後疼痛等激しい痛みに対する鎮痛.

[用量] 麻酔導入時に他の静脈麻酔薬と併用,あるいは吸入麻酔薬による全身麻酔や全静脈麻酔において鎮痛薬として使用される.小児の場合,全身麻酔の導入時には1~5μg/kgを静注する.大量フェンタニル麻酔に用いる場合は,通常100μg/kgまで投与できる.全身麻酔の維持には 1~5μg/kg を間欠的に静注する.術後痛には,1~2μg/kgを緩徐に静注後,1~2μg/kg/時で持続静注する.成人では最大鎮痛効果を生じるまでの時間は約5分である500).作用時間は30分~1時間と短いが,反復投与により進行性に蓄積していく501).成人では大部分が肝で水酸化とN-非アルキル化の代謝を受け不活化され,6%が代謝されずに腎から排泄される502).小児の作用時間は成人より短い.

[禁忌] 本剤に対し過敏症の既往のある患者.

[副作用] 心拍数の低下があるためアトロピンなどの迷走神経遮断薬やβ刺激薬が必要となることがある.中等度の平均動脈圧と末梢血管抵抗の減少が小児で報告されている503)が,心筋収縮力の抑制はなく血行動態が不安定な患者にも使用できる486).連用により身体的依存を生じるとされる.退薬症状が発現し得るので1/4~1/2量ずつ,1週間以上かけて漸減する486).脳幹の呼吸中枢を介し,容量依存性に呼吸抑制を生じる.この場合ナロキソンが有効である.単回多量投与により筋硬直を生じるが筋弛緩薬の投与により緩解する.痙攣,気管支痙攣を起こすことがある.身体的依存,嘔気・嘔吐,便秘,尿閉,掻痒を生じる.

[使用上の注意点] 心臓麻酔の導入に用いられることが多いが,導入時の単回多量投与による筋硬直は換気困難をもたらし,予備力の少ない小児では容易に低酸素血症を起こし非常に危険であるため筋弛緩薬の準備など注意して用いることが望ましい.

5 モルヒネ[適応] 麻酔時の補助鎮痛薬,術後疼痛等激しい痛みに対する鎮痛.

[用量] 麻酔薬としては通常0.01~0.03mg/kgを静注する.術後痛に対して単回静注の場合,小児では0.05 ~ 0.2mg/kg,乳児では0.05mg/kg を投与する.持続静注の場合,小児では10~40μg/kg/時,通常20μg/kg/時で投与する.乳児では5~15μg/kg/時で持続投与する. 成人では最大鎮痛効果を生じるまでの時間は約15分である500).肝臓により代謝を受けるが,一部の代謝産物はμオピオイド受容体に作用し,強い鎮痛効果を示す504).大部分がグルクロン酸抱合体として24時間までに約90%が腎臓,約10%が胆道系より排泄される486).

[禁忌] 重篤な呼吸抑制のある患者,気管支喘息発作中の患者,重篤な肝障害のある患者,慢性肺疾患に続発する心不全の患者,痙攣状態(癲癇重積症,破傷風,ストリキニーネ中毒)の患者(脊髄の刺激症状があらわれる),急性アルコール中毒の患者(呼吸抑制を増強する),アヘンアルカロイドに対し過敏症の患者,出血性大腸炎の患者(症状の悪化,治療期間の延長を来たすことがある).[副作用] 脳幹の呼吸中枢を介し,用量依存性に呼吸数の減少と二酸化炭素に対する感受性低下を特徴とする呼吸抑制を生じる.ナロキソンが拮抗する.直接的な心筋抑制はないが,ヒスタミン遊離による末梢血管拡張,中枢作用による交感神経緊張低下,迷走・副交感神経緊張亢進によると思われる徐脈,用量依存性の血圧低下を起こす486).単回多量投与により筋硬直を生じるが筋弛緩薬の投与により緩解する.身体的依存,嘔気・嘔吐,便秘,尿閉,掻痒,眠気を生じる.長期投与により嘔気・嘔吐,眠気には比較的耐性が生じやすいが,便秘には生じない.Oddi括約筋の痙攣により胆道内圧が上昇する505).

[使用上の注意点] 本剤の呼吸抑制のピークは静注後5~10分であるが,鎮痛使用量での分時換気量の減少は約4~5時間持続するため投与後は十分な観察を行う.投与が長期にわたる場合,便秘,嘔気・嘔吐を非常に高頻度に合併する.麻痺性イレウスに進展する危険性もあり緩下剤,制吐剤を予防的投与するのが望ましい486).

217循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

6 レミフェンタニル[適応] 全身麻酔の導入および維持における鎮痛.海外では小児でも広く使われているが我が国では小児は未承認.

[用量] 単回投与した場合,極度の徐脈を呈することがあるため単回投与を避けるのが望ましい.持続静注は0.25~0.5μg/kg/分の速度で開始し,患者のバイタルや手術侵襲などに応じて投与量を調節する.全身麻酔薬,ベンゾジアゼピン系薬剤,バルビツール酸系薬剤等中枢神経抑制作用を有する薬剤との併用で麻酔・鎮静等の作用が増強する506).β遮断剤,カルシウム拮抗剤等心抑制作用を有する薬剤との併用で徐脈,血圧低下等の作用が増強することがある507).高い脂溶性を持つため血液脳関門を速やかに通過し効果部位(脳)濃度と血中濃度が1.5~10分で平衡に達し作用発現が速やかである.代謝は血液・組織内の非特異的エステラーゼで速やかに行われ,かつ代謝産物は効力が低い.そのため血中の除去半減期は8~20分と短時間であり,肝・腎機能に左右されない508),509).分布容積が小さく,再分布が早く,排泄半減期が短いため,持続投与時間に限らずcontext-sensitive half-timeは3~5分と一定している486).T1/2はどの年齢群でも成人と同じである510).

[禁忌] フェンタニル系化合物に過敏症の既往がある患者.本剤は添加物としてグリシンを含むため,硬膜外およびくも膜下への投与はできない.

[副作用] 血圧低下と心拍数の低下があるためアトロピンなどの迷走神経遮断薬やβ刺激薬が必要となることがある.脳幹の呼吸中枢を介し,用量依存性に呼吸抑制を生じる.筋硬直を生じるが筋弛緩薬の投与により緩解する.身体的依存,嘔気・嘔吐,便秘,尿閉,掻痒を生じる.約7~25%の症例にシバリングを生じるとされる511),512).シバリングの薬物治療としてはペチジン,デクスメデトミジン,ケタミンが有効である513),514).

[使用上の注意点] 導入時の筋硬直は換気困難をもたらし,予備力の少ない小児では容易に低酸素血症を起こし非常に危険であるため筋弛緩薬の準備など注意して用いることが望ましい.作用消失が速やかであるため,本剤投与中止前あるいは直後に鎮痛薬を投与し適切な術後疼痛管理を施行する515).BMI25以上の肥満患者では実体重ではなく標準体重を基準にして投与量を決定することが望ましい516).

7 ケタミン[適応] 添付文章では手術,検査および処置時の全身麻酔および吸入麻酔の導入であるが,鎮痛・鎮静効果を併せ持つことから,前投薬,全身麻酔時の鎮痛補助,処置・検査時の鎮静,術後の鎮痛・鎮静にも使用される517).

[用量] 初回,筋注では4~8mg/kg,静注では1~2mg/kgを静注し,初回量と同量または半量を追加投与する.全身麻酔時の鎮痛補助目的には,0.25~0.5mg/kgを静注し,半量を30 分ごとに追加投与,あるいは0.25~0.5mg/kg/hrを持続静注する.筋注した場合は,3~4分で手術可能となり,15~30分前後持続する.静注後は30秒から1分で意識消失し,10~20分前後持続する.前投薬としては5~6mg/kgを経口投与あるいは5~10mg/kgを経直腸投与する.麻薬性鎮痛薬等中枢神経抑制薬との併用で覚醒遅延を起こすことがある.β遮断薬との併用で血圧降下作用が増強することがある.慢性・急性アルコール患者では麻酔効果が不十分なことがある486).ケタミンは,大部分が肝臓においてチトクロームP450により代謝される.排泄相T1/2は3か月以下184.7分,4~12か月65.1分,4歳31.6分とされる486).

[禁忌] 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者.脳血管障害,高血圧,脳圧亢進症および心代償不全の患者.痙攣発作の既往歴のある患者.添付文書では外来患者も麻酔前後の管理が行き届かないため禁忌である.

[副作用] まれに急性心不全を起こすことがある.通常,呼吸抑制は軽度であるが過量投与した場合および静注速度が速い場合には呼吸抑制,無呼吸または舌根沈下が起こることがある.痙攣(喉頭痙攣,声門痙攣または全身痙攣等)が起こることがある.本剤は喉頭痙攣の原因となる口腔内・気道分泌物を増加させるためアトロピンの事前投与が推奨される.15%前後に夢のような状態,幻覚あるいは興奮,錯乱状態等の覚醒時反応が起こるとされる.通常数時間で回復するが,まれに24時間以内に再びあらわれることがある.脳血管の炭酸ガスに対する反応性ならびに脳血流自己調節機序は温存されるが,脳血流は増加し518)20分前後持続する頭蓋内圧上昇作用を示す486).

[使用上の注意点] 本剤による麻酔時には咽喉頭反射が維持されているので,喉頭痙攣を避けるため咽喉頭に機械的刺激を与えない.覚醒時反応を予防するためにはジアゼパム,ドロペ

218 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

リドール等の前投薬を,激しい覚醒時反応に対しては短時間作用型または超短時間作用型バルビツール酸系薬剤の少量投与,あるいはジアゼパム投与を行うことが望ましい.

8 バルビツール酸(チオペンタール,サイアミラール)

[適応] 全身麻酔の導入,局所麻酔薬中毒・破傷風・子癇等に伴う痙攣.

[用量] 麻酔導入には1 歳以上の健康な小児に対しては5~6mg/kgのチオペンタールを静注する.乳児では7~8mg/kgが必要な場合がある.痙攣重積発作には5mg/kgを静注し,さらに必要に応じて2mg/kg/時から持続投与を開始し,脳波で重積状態が消失するのを確認するまで徐々に10mg/kg/hrまで増量する.クマリン系抗凝固剤の抗凝固作用が減弱することがある.肝臓で代謝され,尿あるいは胆汁から排泄される.成人ではチオペンタール3~5mg/kgを投与すると15~20分後に覚醒するが,このとき投与量の18%しか代謝されておらず,血中濃度の低下は再分布による486),519).小児の排泄相T1/2は約6.1時間と成人の約半分である486).

[禁忌] 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者.ショックまたは大出血による循環不全,重症心不全患者,急性間歇性ポルフィリン症患者(酵素誘導によりポルフィリン合成を促進し,症状を悪化させるおそれがある),アジソン病の患者(催眠作用が持続または増強するおそれがある.血圧低下を生じやすい.また本疾患は高カリウム血症を伴うがカリウム値が上昇するおそれがある),重症気管支喘息の患者.

[副作用] アナフィラキシー様症状を起こすことがある.末梢静脈の拡張,心機能の抑制により血圧が低下する.用量依存性の呼吸抑制を生じる.血管外漏出により局所刺激や壊死を起こすことがある.添付文章にある筋注によるrisk benefit ratioは極めて高いと考えられる486).

[使用上の注意点] 乳児では,全身麻酔の導入に必要なチオペンタールの量には個人差が大きい.原則として投与前には絶飲食時間をとる.直腸内投与が,小児に対する検査や処置の麻酔法として1990年以降のいくつかの論文で報告されている486).用量依存性に脳代謝を抑制し,脳血流と頭蓋内圧が低下するため頭蓋内圧の低下を目的として用いら

れることがあるが,バルビツール酸系薬物が外傷性脳損傷の神経学的予後を改善する文献的証拠は得られていない486),520).

9 ミダゾラム[適応] 麻酔前投薬,全身麻酔の導入・維持,集中治療における人工呼吸中の鎮静.

[用量] 低出生体重児,新生児を除く小児の麻酔前投薬としては,0.2~1.0mg/kg(通常0.5mg/kg,最大投与量20mg)を経口投与(1~6 歳),0.2~1.0mg/kg(最大投与量20mg)を注腸(1~6 歳),0.1~0.5mg/kg(通常0.1~0.15mg/kg,最大投与量10mg)を筋注,あるいは0.2~0.3mg/kgを点鼻する.麻酔導入には0.15mg/kgを静注し,必要に応じ初回量の半量~同量を追加投与する.低出生体重児,新生児を除く小児の集中治療室における鎮静には初回投与量0.05~0.2mg/kgを静注する.持続投与は1~2μg/kg/分で行う.低出生体重児,新生児の集中治療室における鎮静は,32週未満で0.5μg/kg/分,32週以上で1μg/kg/分で開始する.他の中枢神経抑制薬との併用やCYP3A4,シトクロムP450を阻害する薬剤との併用によって作用が増強する可能性がある.半減期は未熟児・新生児で長く,1~12歳では成人と同様または低値である486).肝臓で代謝されるが代謝産物は約半分の活性を持つ521).

[禁忌] 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者.急性狭隅角緑内障,重症筋無力症のある患者は症状を悪化させるおそれがある.HIVプロテアーゼ阻害剤およびHIV逆転写酵素阻害剤を投与中の患者は作用が増強する可能性がある.ショックの患者,昏睡の患者,バイタルサインの抑制がみられる急性アルコール中毒の患者.

[副作用] 連用により薬剤耐性,薬物依存を生じる.離脱症状を示すことがあるため,投与中止時は徐々に減量する.低血圧,心室頻拍,呼吸抑制,低換気,気道閉塞,譫妄,不随意運動(間代性痙攣,筋性振戦,ミオクローヌス様発作など),運動亢進を生じることがある.悪性症候群を発症することがある.

[使用上の注意点] 新生児の集中治療時の鎮静のためのミダゾラム持続静注は,安全性についてのデータが不十分でありエビデンスが確立したものではない.低出生体重児および新生児に対して急速静脈内投与後,重度の低血圧および痙攣発

219循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

作が報告されているため急速静脈内投与をしてはならない.6か月未満の小児では,特に気道閉塞や低換気を発現しやすいため,効果をみながら少量ずつ段階的に漸増投与するなどして,呼吸数,酸素飽和度を慎重に観察する.

10 プロポフォール[適応] 全身麻酔の導入および維持. 小児には未承認である.

[用量] 麻酔導入には2~4mg/kgの投与で就眠が得られるが,一般に低年齢であるほど就眠に必要な投与量は増加する(乳児:3.8mg/kg,10~16歳:2.7mg/kg).麻酔維持は3歳から11歳までの小児では,2.5mg/kgのボーラス投与後,最初の15分間に15mg/kg/時,次の15分間に13mg/kg/時,その後の30分間に11mg/kg/時,1時間後から2時間後までの1時間に10mg/kg/時,2時間後から4時間後は9mg/kg/時で投与すると,初期のプロポフォール血中濃度は高めとなるが,時間の経過とともに就眠濃度とされる3μg/mLに収束する. 小児では,薬物動態が異なるためTCI(target controlled infusion) 機能は使用できない.成人では麻酔維持に必要な血中濃度は,患者,麻酔法等にもよるが2~5μg/mLである486).他の中枢神経抑制薬,アルコール,降圧剤,抗不整脈剤(β1遮断剤)などとの併用により,相互に作用(麻酔・鎮静作用,血圧低下作用,徐脈化)を増強させる.作用時間,作用持続時間ともに短く,成人では分布T1/2は2~8分である.ミダゾラム,サイオペンタールに比較してcontext-sensitive half-timeは投与時間による影響が少ない.大部分が肝で抱合を受け,腎より排泄される.代謝産物は不活性で,1%以下が尿中に,2%が糞便中に未変化で排泄される486).肝,腎機能低下症例でも薬物動態に差は認められない522),523).小児(4~12歳)の排泄相T1/2は209分である.[禁忌] 本剤または本剤の成分(ダイズ油,卵黄レシチン)に対し過敏症の既往歴のある患者.妊産婦,小児への長期大量投与.

[副作用] アナフィラキシー,低血圧,呼吸抑制,舌根沈下を生じることがある.重篤な徐脈,徐脈性の不整脈も発生する.本剤は1.0mLあたり約0.1gの脂質を含有するため,脂質代謝障害の患者または脂肪乳剤投与中の患者では血中脂質濃度が上昇する可能性がある.

[使用上の注意点] 投与前には絶飲食時間をとる.早産児や生後1 週間以内の正期産児はプロポフォールクリアランスが低く,反復投与や持続静注の際には蓄積が起こりやすいと考えられるため,投与の是非を含めて慎重な判断が必要である.小児においては,適応のある全身麻酔においても大量のプロポフォール長期使用を発症要因とし代謝性アシドーシス,横紋筋融解,高カリウム血症を伴う心不全を症状とするプロポフォール注入症候群(propofol infusion syndrome; PRIS)524)に特に注意が必要である.これはプロポフォールが細胞内でミトコンドリアの活性を阻害し脂肪酸の酸化が障害されることによるとされる525).小児では人工呼吸中の鎮静目的での使用は禁忌である486),526).

11 デクスメデトミジン[適応] 成人では集中治療における人工呼吸中および離脱後の鎮静.小児への使用は未承認であるがMRIなど検査時の鎮静にも有用である527)-529).

[用量] 通常,小児では初期負荷投与は行わない.至適鎮静レベルが得られるように0.25~1μg/kg/hrで持続投与する.他の中枢神経系抑制剤との併用によって鎮静・鎮痛作用が増強し,血圧低下,心拍数低下,呼吸数低下等の症状が現れるおそれがある.カルシウム拮抗薬,β遮断薬との併用で高度徐脈を呈することがある.肝臓で代謝され成人での排泄相T1/2は2.0時間程度,2歳以上の小児も同等である530).肝機能低下症例ではクリアランスの低下が見られる529).また95%が腎臓から排泄されるため腎機能低下症例では代謝産物の蓄積が起こる可能性がある.そのため肝,腎機能障害の患者では投与量を減量することを考慮する529).

[禁忌] 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者.

[副作用] 低血圧,高血圧,徐脈を起こすことがある.循環血液量低下症例,交感神経緊張状態の症例では高度な血圧低下を示す危険性が高い.心室細動から心停止を起こすこともある.冠動脈攣縮性狭心症を誘発する可能性がある486).

[使用上の注意点] 心拍出量が心拍数に依存している状態の小児(新生児など)では注意が必要である.

220 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

12 ロクロニウム[適応] 成人では全身麻酔時の筋弛緩,気管挿管時の筋弛緩.(新生児,幼児,または小児は慎重投与をされている).[用量] 成人には挿管用量としてロクロニウム臭化物0.6mg/kgを静脈内投与し,術中必要に応じて0.1~0.2mg/kgを追加投与する.成人ではプロポフォール麻酔下でロクロニウム0.6,0.9mg/kgを投与した際の作用発現時間はそれぞれ85秒と77秒である.セボフルラン麻酔下のロクロニウム0.6,0.9mg/kgを投与後の平均作用持続時間は53分と73分である.ロクロニウム0.6mg/kg投与後0.1mg/kgを筋弛緩維持のために追加投与した際の作用持続時間は平均23分である531).0.9mg/kg以上投与する場合は作用時間の延長に注意する486).持続注入により投与する場合は,7μg/kg/minの投与速度で持続注入を開始する.小児では0.6~0.8mg/kgが挿管時に用いられる.成人に作用発現時間が短く,作用持続時間も短い.挿管時の投与用量が多いほど,回復に時間がかかり,特に新生児,乳児では,小児に比しその作用時間は長いが,2 歳以上の小児では成人と比べ回復時間が早いとされる.イソフルラン,セボフルランなど他の吸入麻酔薬,カリウム排泄型利尿薬,アミノグリコシド系,リンコマイシン系,ポリペプチド系などのアシルアミノペニシリン系の抗生物質,MAO阻害薬,プロタミン製剤,β遮断薬,リドカイン,ブピバカイン,メトロニダゾール,カルシウム拮抗薬,シメチジン,マグネシウム製剤,キニジン,キニーネ,リチウム製剤フェニトインにより作用は増強される.カルシウム製剤,カリウム製剤,プロテアーゼ阻害薬や副腎皮質ホルモン薬,抗癲癇薬の長期投与により作用が減弱することがある.スキサメトニウム投与後に投与すると作用が増強するが,本剤投与後にスキサメトニウムを投与すると本剤の作用が増強または減弱する.非脱分極性の他の筋弛緩薬を逐次使用した場合,最初に用いた筋弛緩薬の作用が影響するため,投与順によって作用が減弱あるいは増強する486).ロクロニウムは体内で代謝されずその70%以上は胆汁中に,30%以下が尿中に排泄される532).理論上の代謝産物は17-OH体のみであるが,力価は本剤の1/20であり,ヒトでは検出されない533).肝,腎機能の低下した患者では作用が遷延する.

[禁忌] 本剤の成分または臭化物に対し過敏症の既往歴のある患者.

[副作用] ショック,アナフィラキシー様症状を呈することがある.気管支喘息の患者では喘息発作,気管支痙攣を起こすことがある.筋弛緩作用の遷延,横紋筋融解症の発症の可能性がある. 注射時に疼痛が認められ,小児では80%以上に注入部の逃避反応が見られる534).神経筋疾患の患者ではさまざまな反応を示すため,十分注意して用いる.重症筋無力症,Eaton-Lambert症候群の患者では感受性が極めて高いため反応を見ながら少量より用いる486).作用時間は個体差が大きい486)ため投与時には筋弛緩モニターを用いた客観的評価を考慮する.

[使用上の注意点] 本薬物に特有ではないが,他の非脱分極性筋弛緩薬を長期投与された重症の新生児,乳児に難聴を生じたという報告がある.成人では筋弛緩モニターの使用が推奨されるが,新生児,乳幼児では,通常の状態でもテタニー刺激によって減衰が生じることもあり,新生児,乳幼児における本モニターの有用性は不確実である.

ⅩⅠ 感染性心内膜炎の予防薬・治療薬

1 疫学

 1997年から2001年までに入院した感染性心内膜炎(Infective endocarditis, IE)患者に関して行った日本小児循環器学会の調査研究が報告されている535).134施設で291件の IE症例があり,先天性心疾患(CHD)入院患者数の0.71%(291/41151)を占めた.そのうち成人CHDは29%であった. 従来の IEの発生頻度は,1/4500CHD入院患者から1/1280 CHD入院患者であった536),537).これらの報告と比べ,我が国の発生頻度は高く,世界的に IEの発生頻度が増加していると考えられる537).これはリスクの高い修復術後成人患者が急激に増加していることと,中心静脈ラインを用いた集中管理を要する期間が長い新生児,乳児期の心臓血管手術後患者数の増加によると推測されている535),536).

2 定義

 IEは,心内膜,弁膜や大血管内膜組織が感染し,細

221循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

菌集蔟を含む疣腫(vegetation)が形成され,菌血症,血管塞栓,心障害など多彩な症状を呈する敗血症性疾患である.原因病原体は細菌,真菌,クラミジア,リケッチアあるいはウイルスである.時に致死的なことが多い.発症には,弁膜疾患やCHDに伴う異常血流,人工弁置換術後等人工材料に生じた非細菌性血栓性心内膜炎(nonbacterial thrombogenic endocarditis)が重要とされる.血栓性心内膜炎を有する例で,歯科,耳鼻咽喉科,産婦人科,泌尿器科的処置などにより一過性の菌血症が生じると,血栓性心内膜炎の発生部位に原因菌が付着しさらに,増殖し,疣腫が形成される538).診断にはDuke診断基準が用いられる538).この診断基準はCHDでも有用とされている539),540).

3 小児の病態と特徴

 小児の IEは予防法や抗菌薬の発達にも関わらず,罹病率,死亡率ともに高い541).新生児,乳児例も増加している536),537).生命予後規定因子は,乳児,大きな疣贅(>20mm),心不全,ブドウ球菌感染である542). その特徴を以下に示す536),541).基礎疾患の多くは,CHDである.感染経路の判明例は,歯科処置(全体の12%程度)ついで心臓外科手術(8%)に起因する.左心系よりも右心系 IEの頻度が高い(46% vs 51%)ため,心不全合併,栓塞発生頻度は低い.小児は採血が困難で,血液培養回数が少なく,原因菌が不明なことが多い.真

菌性 IEは成人に比べて少ない.弁輪部感染が少なく心エコーが見やすいことから,経食道エコー法を用いることは少ない.抗生物質治療は副作用が少なく,概ね良好な結果を示す.左心系 IE,機械弁感染は少ないが,右室流出路形成術,大動脈肺動脈吻合術,欠損孔閉鎖術などに用いる人工材料感染が多く,急性期に心臓血管外科手術の適応となることが多い542).

4 薬物療法の実際(表39)

1 レンサ球菌(Streptococcus)属 ペニシリンG(PcG)感受性レンサ球菌属の治療は,ベンジールペニシリン(benzylpenicillin: PcG)が第一選択となる(クラス I,レベルB).血管痛や静脈炎を起こす場合はアンピシリン(ampicillin: ABPC),セフトリアキソン(ceftriaxone: CTRX)も選択可能である(クラス IIa,レベルC)538),540).PcG低感受性株,耐性株である可能性を考慮し,ゲンタマイシン(gentamicin: GM)等のアミノグリコシド系薬の併用を行う(クラスIIa,レベルC)538),540),543).通常レンサ球菌属はアミノグリコシド系薬の感受性が悪いが,臨床的には併用効果が認められる.治療期間は原則PcGなどのβラクタム系薬は4週間,アミノグリコシド系薬は2~4週間とする.S. pneumoniae(肺炎球菌)は,PcG耐性株が多く,セフェム系薬にも耐性を示すことも多い.我が国における

表39 感染性心内膜炎に対する抗菌薬療法

小児の1日投与量(腎機能正常な場合);ペニシリンG:200,000~300,000 u/kg/日,分4~6,ゲンタマイシン:3mg/kg/日,分3,バンコマイシン:30~40mg/kg/日,分2~4セファゾリン:100mg/kg/日,分4,セフトリアキソン:75~100mg/kg/日,分2,アンピシリン:200~300mg/kg/日,分4リポ化アムホテリシンB:3.0~5.0mg/kg/日

起炎菌 抗菌薬 投与期間

レンサ球菌

1.ペニシリンG+ゲンタマイシン2.アンピシリン+ゲンタマイシン3.セフトリアキソン+ゲンタマイシン4.バンコマイシン±ゲンタマイシン

ペニシリンG:   4週間アンピシリン:  4週間セフトリアキソン:4週間ゲンタマイシン: 2週間バンコマイシン: 4週間

ブドウ球菌(メチシリン感受性)

1,セファゾリン±ゲンタマイシン2,バンコマイシン±ゲンタマイシン

セファゾリン: 4~6週間ゲンタマイシン:  2週間バンコマイシン:4~6週間

ブドウ球菌(メチシリン耐性) バンコマイシン±ゲンタマイシン バンコマイシン:4~6週間

ゲンタマイシン: 2 週間

腸球菌 1.アンピシリン+ゲンタマイシン2.バンコマイシン+ゲンタマイシン

アンピシリン:  6 週間ゲンタマイシン:4~6週間バンコマイシン:4~6週間

グラム陰性菌(HACEK) セフトリアキソン±ゲンタマイシン セフトリアキソン:4週間

ゲンタマイシン: 2週間真菌 リポ化アムホテリシンB 6~8週間

222 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

多施設共同研究の結果では,カルバペネム系薬が有効であった544).バンコマイシン(vancomycin: VCM)は,PcG耐性菌やペニシリンアレルギーのある患児に対して,使用可能である540).

2 ブドウ球菌(Staphylococcus)属 S. aureus(黄色ブドウ球菌)はその多くがペニシリナーゼ産生株であるため,PcGやABPCは無効である場合が多い.したがって,メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)であればセファゾリン(cefazolin: CEZ)を用いる(クラス IIa,レベルB).ABPCとクロキサシリン(cloxacilli)との合剤も有効である.治療期間は6週間を原則とする538),540).併用療法は,アミノグリコシド系薬との組み合わせを選択する(クラス IIa,レベルC).MRSAに対しては,VCMが第一選択薬となる.また,テイコプラニン(TEIC)も治療効果があるとされる538),540),545).VCM,TEICを使用する際には,血中濃度を測定し投与量を調整する.リファンピシン(rifampicin: RFP)は黄色ブドウ球菌に対して薬剤感受性が良く,併用効果が期待できるが,自然耐性を生じやすい.S. epidermidis(表皮ブドウ球菌)に対する治療は,黄色ブドウ球菌に準じて行う.

3 Enterococcus(腸球菌) 腸球菌は,比較的頻度が高く,E. faecalisによるものが多い.セフェム系薬は自然耐性を示すため,治療に用いない.PcGに対する感受性も良好でないため,ABPCとアミノグリコシド系薬の併用療法を行う438),540)(クラス IIa,レベルC).ペニシリンアレルギーに対しては,VCMかTEICを用いる.

4 グラム陰性菌(HACEKを含む) 起炎菌として頻度が高いとされるHACEK(Haemophilus, Acinetobacillus, Cardiobacterium, Eikenella, Kingella)に対しては,CTRXとアミノグリコシド系薬との併用を行

う(クラス IIa,レベルC).小児では,H.influenzae(インフルエンザ菌)の頻度が高いが,多剤耐性化が進んでおり540),546),薬剤感受性の結果を参考に,治療薬を選択する.Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)は,院内感染が主体で予後不良であり547),第4世代セフェム系薬とアミノグリコシド系薬との併用が推奨される.

5 真菌 カンジダ属(特にCandida albicans)が占める割合が高い538),540).真菌性 IEの頻度は低いが,難治性で致死率も高い.抗真菌薬は,抗真菌活性の高いアムフォテリシン(amphotericin) Bの脂質製剤(リポ化アンフォテリシン B)を選択する(クラス IIa,レベルC)548).

6 初期治療(エンピリック治療)

 初期治療(エンピリック治療)(表40) 初期治療で大切な点は,広範囲の病原微生物をカバーできる抗菌薬を選択することと,可能な限り起炎菌を推定することである.歯科治療後では,口腔内のレンサ球菌属を推定し,人工弁使用例,心臓手術やカテーテル検査等外科処置後ではブドウ球菌属を推定する535),549),550).また,アトピー性皮膚炎を有するCHD児は,ブドウ球菌による罹患の危険性が高い551).中耳炎,肺炎などが先行し,下気道感染症がある場合には,S. pneumoniae(肺炎球菌)やH. influenzae(インフルエンザ菌)を考慮する.MRSAや メ チ シ リ ン 耐 性S. epidermidis(MRSE),P. aeruginosa(緑膿菌),真菌感染は,周術期や長期間にわたり抗菌薬投与を受けている院内発症例で考慮する.

7 培養陰性例に対する治療(表40) 我が国の IEの調査549)では血液培養陰性は,239例中38例(15.9%)を占めていた.培養陰性例の原因は,診断前の抗菌薬投与により,起炎菌が分離されない症例が

表40 血液培養陰性例(エンピリック感染)に対する抗菌薬療法

小児の1日投与量(腎機能正常な場合);ペニシリンG:200,000~300,000 u/kg/日,分4~6,ゲンタマイシン:3mg/kg/日,分3,バンコマイシン:30~40mg/kg/日 分2~4,セファゾリン:100mg/kg/日,分4,セフトリアキソン:75~100mg/kg/日,分2,アンピシリン:200~300mg/kg/日,分4,リポ化アムホテリシン B:3.0~5.0mg/kg/日

起炎菌 抗菌薬 投与期間血液培養陰性(術後例) バンコマイシン±ゲンタマイシ

ン バンコマイシン:6~8週間ゲンタマイシン: 2 週間

血液培養陰性(非術後例) セファゾリン+ゲンタマイシン±ペニシリンG

セファゾリン:6~8週間ゲンタマイシン:2 週間ペニシリンG: 6~8週間

223循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

多いとされている552).培養陰性例に対しては,患児背景,発症要因,監視培養結果などから推定される起炎菌に対する治療を行い,治療経過により投与薬剤を変更する.効果が充分でない場合には,外科的治療を考慮するとともに,通常の培養法では検出困難な微生物の可能性も考える553).

8 IEの予防 CHDでの発症予防は重要である.IEを予防するためには,①ハイリスク心疾患群,②感染危険率の高い手技・処置,③ IEの予防法を十分に認識することが必要である538),540).2007年に米国心臓協会(AHA)のガイドラインが大きく改訂された554).大きな変更点は,歯科処置の際の抗菌薬の予防的投与を重大な結果を生じる可能性の高い心疾患に限定した点である.具体的な改訂内容は,①歯科処置に伴う菌血症よりも日常的な行為により生じる菌血症の方が IEを発症する可能性が高い,②100%有効な抗菌薬を用いて予防したとしても,IEを防げる実数は非常に少ない可能性がある,③抗菌薬の予防投与は重大な結果を生じる可能性の高い心疾患に限定することが妥当である,④生涯にわたり IEに感染する可能性が高いという理由だけでは予防投薬を行わない.以上である. AHAの大幅な改訂に対して,日本の予防に関する考え方は異なる538),540). 抗菌薬に関連した有害事象の多くは一過性であり,致命的なアナフィラキシーは報告されていない.抗菌薬を非日常的な用量で単回投与することは,歯科医,一般内科医,患者に IEに対する関心を持ってもらう点で重要である.単回投与であり,抗菌薬による耐性菌の発生に

はつながらない. 複雑CHD,中等度から重度CHDは,IEの罹患後に重症化することが多い.さらに,心室中隔欠損など軽症とされる疾患であっても,疣腫形成,全身塞栓などの合併頻度は高く,死亡率も3.8%と決して重症化しにくいとはいえない541). 抗菌薬投与が菌血症を減少させるという研究結果も発表されている555).我が国の全国調査541)では,歯科処置後の発症を12.4%に認め,そのうち心室中隔欠損が46%ともっとも頻度が高い.日本循環器学会の全国調査550)は18%という高い頻度で歯科処置に関連したIEを認めた.日本循環器学会と日本小児循環器学会538),540)は,従来どおりに,中等度リスク群である心室中隔欠損等も抗菌薬の予防投薬を行うことを推奨している.さらに,抗菌薬の予防投与の投与量は,成人患者では,患者の体型などに従い減量を行う主治医の裁量を優先した. IEの予防あるいは重症化防止のためには,単に抗菌薬の予防投与のみでは不十分で,口腔ケアを含む日常の予防に関する注意が非常に重要であり,この点は,AHAだけではなく,我が国のガイドライン538),540)でも強調されている.

9 抗菌薬予防,歯科治療(表41) 米国のガイドライン554)は血中濃度,菌血症の頻度という観点からアモキシシリンの単回経口投与を推奨している(クラス IIa,レベルB).アモキシシリンは消化管からの吸収が他のペニシリン製剤に比較し,良好であり,より高い血中濃度が達成され長く維持される.処置1時間前に投与する.CHD児の口腔内からPcG高度耐性株が28.3%分離されたとの報告がある556).しかし,日本

投与量は,多数例での証拠に基づいていないため,体格,体重に応じて減量可能と思われる.

表41 歯科,口腔,呼吸器の手技,処置に対する抗菌薬予防投与法対象 抗菌薬 投与法

経口投与可能 アモキシシリン 50mg/kg(上限2g)処置1時間前経口 

経口投与不可 アンピシリン 50mg/kg(上限2g)処置30分以内に静注

ペニシリンアレルギーがある場合

1.クリンダマイシン 20mg/kg(上限600mg) 処置1時間前に経口

2. セファレキシンあるいはセファドロキシル

50mg/kg(上限2g) 処置1時間前に経口

3. アジスロマイシンあるいはクラリスロマイシン

15mg/kg(上限500mg)処置1時間前に経口

ペニシリンアレルギーがあり,経口投与不可

1.クリンダマイシン 20mg/kg(上限600mg)処置30分以内に静注

2.セファゾリン3.セフトリアキソン

50mg/kg(上限1g)処置30分以内に静注

224 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

における小児を中心とした全国調査では,ペニシリン低感受性株は少数であった557).日本循環器学会と日本小児循環器学会のガイドライン538),540)も従来どおり,アモキシシリンの単回投与を標準的予防法としている(クラス IIa,レベルB).ペニシリンアレルギーではセファレキシン,セファドロキシル,クリンダマイシンなどが選択肢となる(クラス IIa,レベルC).クラリスロマイシンやアジスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬も選択肢のひとつになるが,マクロライド耐性株の出現に注意が必要である.経口投与が難しい場合には,アンピシリンの静注を行う.

10 抗菌薬予防,上気道・呼吸器(表41) 呼吸器粘膜を扱う手術は菌血症の原因となることがあるため,抗菌薬の予防投与が必要である.扁桃摘出術やアデノイド摘出術,呼吸器粘膜を含む外科手術は,菌血症を惹起するリスクが高い538),540).上気道に対する特定の手技・処置後に発症する IEの起炎菌として最も多いのは口腔内レンサ球菌属であり,予防はレンサ球菌属を考慮して行う.標準的予防法は,アモキシシリンの単回経口投与である(クラス IIa,レベルB).ペニシリンアレルギーではクリンダマイシンが推奨される.

11 抗菌薬予防,消化器,泌尿生殖器,産婦人科

 消化器や泌尿生殖器,産婦人科疾患に対する手術または器具使用後に発症する IEは,ほとんどがEnterococcus faecalisが原因である.したがって,抗菌薬予防投与はE. faecalisを標的に行う558).アモキシシリンやアンピシリン(クラス IIa,レベルC)が,ペニシリンアレルギーに対しては,バンコマイシンが推奨される.

ⅩⅡ 新生児・未熟児の循環作動薬

1 未熟児動脈管開存(PDA)

1 疫学 PDAは機能的には生後10~15時間で閉鎖し,内膜変化により生後5~7日で完全閉鎖するのが通常である559).しかし,早産児では閉鎖遅延傾向があり,動脈管を介する左右短絡で容易に心不全に陥り,その生命予後に影響

を与える.すなわち,心不全状態から全身状態の破綻,脳室内出血(intraventriculr hemorrhage: IVH),壊死性腸炎(necrotizing enterocolitis: NEC),肺出血,腎不全など重大な合併症を招くのみならず,慢性肺疾患(chronic lung disease: CLD)や未熟児網膜症,低栄養など長期予後にも影響をもたらす可能性が指摘されている560).

2 診断指針

①身体所見

 直接的な診断はパルスドプラー,カラードプラーなどの心エコー検査によりなされる.身体所見として①胸部X線による心胸郭比の拡大 ②心雑音 ③心拍数増加 ④脈拍(bounding pulseの有無) ⑤precordial pulsation などが代表的である561).(クラスⅡa)その他,⑥脈圧の開大 ⑦胸部X線上の肺うっ血 ⑧呼吸不全・無呼吸⑨乏尿 ⑩体色不良 ⑪肝腫大 ⑫代謝性アシドーシスなどが挙げられる562).(クラスⅡb)しかし,動脈管径が大きいとかえって心雑音は聴取しない.

②心エコー所見

 心エコーでは,①内径の大きさ(カラードプラーによる血流の幅)②Mモード法による左房/大動脈径の比,③左室拡張期末期径,④パルスドプラーによる短絡の血流パターン,⑤下行大動脈の拡張期血流の途絶または逆流,⑥左右肺動脈拡張期血流速度またはその収縮期血流速度との比などが観察項目としてあげられる.(クラスⅠ)

③治療指針

 プロスタグランディン合成阻害薬,即ちシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害剤(インドメタシン,イブプロフェンなど)による薬物治療が有効であり,外科的結紮術が施行される前に試みられるのが一般的である.日本未熟児新生児学会における「医療の標準化検討委員会」から根拠に基づく診療ガイドラインが作成されている563)

(http://plaza.umin.ac.jp/~ jspn/PDAkirokusyuu.pdf).1)COX阻害剤による薬物学的閉鎖 治療が必要なPDAを症候性PDAと呼ぶ.インドメタシン静注療法は我が国でも未熟児PDAに対して保険適応となり,現在,COX阻害剤による薬物学的閉鎖の主流といえる.使用量・使用方法を表42に示す.その有効性は認められるものの,副作用の発現率は約半数と無視できない.(クラスⅡa)我が国では副作用の発現と

225循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

PDA収縮の効果をみながら2回目以降の投与を決めることを推奨している.投与量について,初回は0.2mg/kgが一般的である.インドメタシンの副作用としては乏尿,時に腎不全,低血糖,出血傾向,消化管出血,時に消化管穿孔,NEC,非抱合型ビリルビンの上昇などがあげられる.インドメタシン静注療法は閉鎖についての有効性はあるものの,早期投与群で合併症が増加すると結論するものから,慢性肺疾患(CLD)罹患率が低下すると結論するものまであり,結果は一定ではない.結論として,COX阻害薬は経過観察に比し,有意に閉鎖率を上昇させ,外科治療の必要性を低下させた一方で,死亡率や精神運動発達には有意差を認めなかったとある564). 症候性未熟児PDAに対する初期治療として,COX阻害薬投与は経過観察(COX阻害薬以外の内科的治療)よりも奨められる563).(クラスⅠ,レベルA) 投与量と投与間隔については1回量0.1~0.2mg/kg 12~24時間毎投与が多い.持続静注(0.4mg/kgを36時間かけて持続投与)と間欠的急速静注(初回0.2mg/kg以後0.1mg/kgを2回12時間毎に急速静注)を比較したsystematic reviewではPDAの治療効果や副作用に差異はないものの,間欠的急速静注の方が,エコーにおいて腎・脳・上腸間膜動脈のドップラー動脈血流速度が一時的に低下するという565).投与回数についてはインドメタシンの3回以内の群と4回以上投与の群を比較した結果,両群で動脈管閉鎖率,再開存率,結紮術施行率に差異はなかった560).以上より症候性未熟児PDAに対するインドメタシンは,0.1~0.2mg/kg/回を12~24時間毎に連続3回までの静脈内投与が奨められる563).(クラスⅠ,レベルB)2)予防的投与 症候化する前の予防的治療と,症候性PDAに対する治療のどちらがより良い予後を得られるかについても議論があるところであり,施設によりそれぞれ治療基準が

設けられているのが現状である.予防投与は症候性PDAの発症,動脈管結紮率,急性期の重度の脳室内出血(IVHのⅢ度・Ⅳ度)などで有意な減少を認め,短期予後に関して有効である566),567).長期的精神発達予後については改善傾向が認められる報告もあり568),より低出生体重のグループにおいては脳性麻痺の減少を示している569).しかし,長期的に神経発達障害の発生に関与せず,後遺症なき生存例の増加には寄与しなかったとの報告もある570). 未熟児PDA予防のための生後早期予防的投与は奨められる.ただし,各施設の症候性PDAや IVHなどの発症率や自施設で結紮術が可能かを踏まえた上で,投与適応を決定することが必要である563).(クラスⅠ ,レベルB)  予防投与を行う場合,生後6時間以内に0.1mg/kg/doseを,6時間の持続静注により投与することが奨められる.閉鎖が得られない場合,24時間毎に3回までの投与を考慮する563).(クラスⅠ,レベルA) 3)外科的結紮術 我が国では結紮術は最終的な治療法である.結紮術可能な施設が限られている現状では早期に結紮術を選択する方法は浸透しにくい.しかし,薬物療法に固執するあまり手術の時期を失することも避けねばならない.手術適応は第一にCOX阻害剤が無効な症例と,次にCOX阻害剤の使用禁忌に相当する場合である.(クラスⅡa)我が国での周産期母子医療センターネットワークの観察研究では,手術件数の多い施設での手術治療ほど退院時死亡を少なくする可能性が報告された571).COX阻害剤と外科的治療との比較では死亡率や慢性肺疾患,壊死性腸炎,重篤な頭蓋内出血に頻度の差はないが,外科治療で気胸と未熟児網膜症の発生頻度が上がるとの報告がある564). 心不全があり,NECや腎不全を合併した状況では,施設毎の手術に関わる総合的リスクを考慮した上で,迅

表42 インダシン静注用®の用法・用量

⑴  投与後に無尿または著明な乏尿が(尿量:0.6mL/kg/時未満)が現れたら腎機能が正常化するまで次の投与は行わないこと

⑵  1回目あるいは2回目の投与でPDAの閉鎖が得られた場合は,以後の投与は行わずに経過を観察しても差し支えない

⑶ 投与終了後48時間以上経過してPDAが閉鎖している場合は追加投与の必要はない

患児の生後時間に応じて下記の用量を12~24時間間隔で通常3回投与する

初回投与の生後時間投与量(mg/kg)

1回目 2回目 3回目生後48時間以内 0.2 0.1 0.1生後2~7日未満 0.2 0.2 0.2生後7日以上 0.2 0.25 0.25

226 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

速に手術決定することを奨める563).(クラスⅡa,レベルC) 可能な限り手術件数が多い施設で治療を行うことが望ましい563).(クラスⅡb,レベルC)

3 適応する際の注意点 近年,欧米において同じくCOX阻害剤であるイブプロフェンの静注療法が注目され,インドメタシンとの比較報告が数々報告されており,同等の閉鎖効果があるとするものが多い.さらに,副作用として腎機能に及ぼす影響がより少ない可能性もある572)-574)(クラスⅡa,レベルC).PDA治療の選択肢を広げる意味で期待が持てるが,現在,イブプロフェンの静注薬は我が国では使用できる状況ではない.

2 新生児・未熟児の低血圧

1 疫学 新生児未熟児においても組織潅流が低下し,主要臓器への血流が保てない低血圧が問題となる575).特に,病的な早産児は自動調節機能が未熟であり,脳血流に影響を与えやすく脳室内出血(IVH)や脳室周囲白質軟化症(PVL)の原因となる576).(クラスⅠ)

2 診断基準 新生児の血圧は一様でなく,在胎週数や体重,カフの幅などさまざまな条件を考慮する.特に在胎週数による差異が大きいため,平均血圧が修正在胎週数より低い場合や収縮期血圧が40mmHg未満を低血圧とする報告が多い577),578).(クラスⅡa)病的新生児においては血圧を観血的に正確に測ることが要求されるが,血圧以外の循環管理指標で血流量をみることが注目されている.血圧と心拍出量との関係は必ずしも正比例しない場合が特に生後24時間以内では多く,これは末梢血管抵抗に左右されるためである579).循環血流量を指標にして循環管理をする方法として,近年,非侵襲的なパルスドプラー法による上大静脈(SVC)の血流測定が注目され,その80%が脳からの還流で,脳の低潅流を鋭敏に示すとされる580).(クラスⅡb)新生児においては出生直後に見られる低血圧の原因は,分娩に関連した出血やショックと,それに起因する心機能不全である.また,生後2日以降の低血圧は早産児に特有な合併症すなわち,NECや敗血症,未熟児PDAに起因することが多くなる.その病態には副腎機能不全が関与し,薬物抵抗性の難治性

低血圧となる場合もある577).

3 新生児未熟児の低血圧の治療 治療法は病態に応じ,容量負荷,カテコラミン,ステロイドなどが中心となる.

①容量負荷

 容量不足による低血圧では生食10~20mL/kg(正常新生児の循環血液量は80mL/kg)がまず推奨される581).(クラスⅡa,レベルB)生食はアルブミンと同等の効果があり,輸血製剤の感染のリスクを考慮しなくても良い582).(クラスⅡb,レベルB)

②カテコラミン

 アドレナリン受容体に結合してα1刺激で末梢血管の収縮,β1刺激で心筋収縮力の増強と心拍数の増加,β2刺激で末梢血管の拡張(気管支の拡張),またドパミン受容体(DA)に結合してその刺激で腎動脈拡張などの作用を有する.一般に低血圧や心収縮力の低下で使用され,新生児領域では最も使用頻度が高い.1)塩酸ドパミン 塩酸ドパミンは低用量(0.5~5μg /kg/分)で腎血流を増加させ(DA作用),中等量(5~10μg /kg/分)で心収縮力を増強させ(β1作用),高用量(10~20μg/kg/分以上)で末梢血管の収縮を来たす(α1作用).一般的には1~5μg /kg/分で使用することが多い578).(クラスⅡa,レベルB)高用量では血圧上昇がみられるが,必ずしも心拍出量や心機能の改善につながらない583).2)塩酸ドブタミン 塩酸ドブタミンはβ1への選択的作用が強く,心収縮力を増強させ,心拍出量が増加するため,収縮不良な心不全に有用である575).DOA同様1~20μg /kg/分で使用することが多い(クラスⅡa,レベルB).高用量で心拍出量やSVC血流量の増加が認められた579).しかし,ドパミンとドブタミンとの比較では新生児期死亡率や脳室周囲白質軟化症や脳室内出血などの神経合併症では有意差はないとの報告がある584).3)塩酸イソプロテレノール 塩酸イソプロテレノールはβ1β2刺激作用が強く,心拍数の増加が著しいため徐脈傾向の心不全(房室ブロックなど)に使用される.力価はDOA,DOBの100倍であり,投与量はDOA,DOBの1/100の0.01~0.2μg /kg/分で使用することが多い(クラスⅡb,レベルC).4)アドレナリン アドレナリンはもっとも強力な内因性カテコラミンで

227循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

ある.心収縮力や心拍出量とともに心拍数の増加も著しい.低用量ではβ刺激作用があり,体血管や肺血管の拡張作用がある半面,高用量ではα作用が強くなり肺血管以上に体血管抵抗の増加を伴う585).新生児領域における systematic reviewは少ない586).新生児仮死に対する新生児蘇生法において推奨されているアドレナリンの用量は,静注で0.01~0.03mg/kg,気管内投与で0.05~0.1mg/kgであり,それぞれ生理的食塩水で10倍希釈して使用する587),588).(クラスⅡa,レベルB)

③ステロイド治療

 新生児未熟児の難治性低血圧には相対的副腎機能不全が介在しているとの評価から,ステロイド補充療法が奏功する場合がある.グルココルチコイドは心筋のアドレナリンレセプターを調節する作用があり,病的新生児で発生するカテコラミンのダウンレギュレーションを改善する作用があるというがその機序は不明な点が多い589). ハイドロコーチゾンは容量負荷やカテコラミンに不応性の難治性低血圧に有効である.通常,正常血圧を保つのにドパミンで15μg /kg/分以上必要な場合にカテコラミン不応性と解釈される590).ハイドロコーチゾンは心機能や臓器血流を改善しなくとも1mg/kgの使用で血圧を上昇させる591).(クラスⅡb,レベルB) ステロイドを使用している新生児では高血糖や易感染性,骨粗鬆症,発育抑制などの副作用の発現に注意が必要である.また,ステロイドとインドメタシンの併用は消化管穿孔のリスクが高くなる590).(クラスⅡb)

3 新生児遷延性肺高血圧

 persistant pulmonary hypertension of the newborn: PPHN(肺高血圧の項参照)

1 病態

 正常児では出生後,第一啼泣とともに肺でのガス交換が始まり,急速に肺血管抵抗と肺動脈圧が低下することで肺循環が成立する.しかし,さまざまな理由で胎児期と同等の肺高血圧が遷延すると,胎児循環と同様に卵円孔または動脈管を介して右左短絡を呈しチアノーゼの原因となる592).発生頻度は1~2/1000出生と言われ,早産児より正期産児,過期産児に多い593).基本病態は肺動脈の小動脈中膜肥厚であり,そのために出生後も肺高血圧が遷延する.低酸素,アシドーシス,エンドセリン-1(ET-1)やトロンボキサンなどの炎症メディエーターが肺血管収縮作用を持つ593).

2 原因疾患 明らかな肺病変を認めない一次性のものと,二次性のものがある.後者では①肺実質病変(胎便吸引症侯群meconium aspiration syndrome: MAS,呼吸窮迫症候群respiratory distress syndorome: RDS,先天性肺炎,気胸,dry lung syndrome)によるもの,②肺血管の発達異常(横隔膜ヘルニアcongenital diaphragmatic hernia: CDH,肺低形成,alveolar capillary dysplasia),③出生時の適応障害や組織潅流異常(重症新生児仮死,低血糖,多血症,低Ca 血症,敗血症)④子宮内での動脈管早期収縮(非ステロイド系抗炎症薬:NSAIDsなどによる)などがある.頻度としては圧倒的に二次性のものが多い578).(クラスⅠ)

3 診断 呼吸障害やチアノーゼは極めて重篤で,呼吸性・代謝性アシドーシスが進行する.人工換気で100%酸素投与でもSpO2やPaO2の上昇が不良となる.PDAレベルでの右左短絡があれば上半身(pre-ductal)に比し下半身(post-ductal)のSpO2がさらに低下する(differential cyanosis)(クラスⅡa).臨床症状に加え,確定診断は心エコーによりチアノーゼ性心疾患を除外した上で,PDAや卵円孔レベルでの右左短絡を証明する(クラスⅠ)578).

4 治療 肺血管抵抗を下げ,かつ体血圧を正常に保つことにつきる.しかし,原疾患そのものの治療とアシドーシスなど破綻した代謝的異常の補正が不可欠であり,呼吸管理も重要となる.

①人工呼吸療法:

 通常の人工換気のほか,過換気療法,特に高頻度振動換気(high frequency oscillation: HFO)が効果的である(クラスⅡb,レベルA).これも過換気によるアルカリ化で肺血管抵抗を減じる効果があり,気胸予防の利点をともなう593).わずかな誘因で肺血管が攣縮することから鎮静を保ち,minimal handlingに努める.場合によってミダゾラムなどの鎮静剤や臭化ベクロニウムなどの筋弛緩剤,フェンタニールなどの麻薬静注も考慮する(クラスⅡb,レベルC).

②体血圧の管理

 相対的に体動脈圧を上げる目的でカテコラミンの持続静注も有効である.また,容量負荷(輸血など)も低血

228 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

圧時に有効である594).(クラスⅡb,レベルC)

③ 一酸化窒素(nitric oxide: NO)吸入療法:(クラスⅠ,レベルA).

 NOの登場はPPHNの治療を飛躍的に向上させた.投

与経路が吸入療法であるため,全身にではなく選択的に肺血管拡張作用をもたらし,もっとも期待できる.2010年より新生児PPHNに対して保険適応となった(表43).実際の使用にあたっては人工呼吸器回路に接続し,吸入NO濃度とNO2濃度をモニターしながら20ppmで開始し,5ppm程度の有効最低量で維持する.メトヘモグロビン血症のチェックは不可欠で,環境汚染としてのNO2のモニタリングも必要である.NO吸入療法導入により,膜型人工肺(ECMO)の使用頻度が減少し595), term/near-termの低酸素性呼吸不全児の死亡率とECMO導入率を減じ,NO吸入療法の有効性が認めてられている596).

④その他の血管拡張薬

 作用機序としては①PGI2-cAMP経路(エポプロステノール),②NO-cGMP経路(NO吸入療法,PDE 5阻害薬 :シルデナフィル),③エンドセリン(ET)経路(ET受容体拮抗薬 :ボセンタン)の3つに分類され,血管内皮や平滑筋をターゲットにしたものが肺高血圧治療薬と言われる578).1)エポプロステノール PGI2は強力な肺血管拡張作用と血管保護作用を有し597),肺動脈性高血圧症においては最も強力な薬剤で,我が国でも小児の使用と長期的な検討がなされ ,その有効性と安全性が認容されている598).しかし,新生児領域での使用経験は少なく,PPHNについては大量療法(30~120ng/kg/分)の有効性を述べた報告がある599).(クラスⅡb,レベルB)使用時の低血圧に対しカテコラミンが必要となる.2)シルデナフィル PDE 5阻害薬であるシルデナフィルは肺動脈性高血圧症治療薬としての認可を得た経口薬であるがPPHNの有効性についての報告もある600).Cochrane DatabaseでもPPHNに対するシルデナフィルはプラセボに比べ救命率が格段に上昇した報告を主体として有効性を述べたが,今後の臨床データの蓄積が必要としている601),602).(クラスⅡb,レベルB)3)ボセンタン ET受容体拮抗薬であるボセンタンも作用機序は異なるものの,シルデナフィルと同様に肺動脈性高血圧症においてはその有用性が認められているが,新生児PPHNでの報告例は少ない.(クラスⅡb,レベルB)4)ミルリノン PDE 3阻害薬であるミルリノンは inodilatorともいわれ,心収縮増強作用と血管拡張作用を併せ持つ.新生児PPHNについての報告は少なく,Cochrane Databaseで

表43  一酸化窒素吸入療法「アイノフロー吸入用800ppm®」の添付文書から抜粋

【効能・効果】新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全【効能・効果に関連する使用上の注意】(1 )本剤は臨床的または心エコーによって診断された,新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全患者にのみ使用すること.

(2 )在胎期間34週未満の早産児における安全性および有効性は確立していない.

(3 )肺低形成を有する患者における安全性および有効性は確立していない.

(4 )先天性心疾患を有する患者(動脈管開存,微小な心室中隔欠損又は心房中隔欠損は除く)における安全性および有効性は確立していない.

(5 )開心術後の肺高血圧クリーゼを来たした患者における安全性および有効性は確立していない.

(6 )重度の多発奇形を有する患者における安全性及び有効性は確立していない.

【用法・用量】・出生後7日以内に吸入を開始し,通常,吸入期間は4日間までとする.なお,症状に応じて,酸素不飽和状態が回復し,本治療から離脱可能となるまで継続する.・本剤は吸入濃度20 ppmで開始し,開始後4時間は20 ppmを維持する.・酸素化の改善に従い,5 ppmに減量し,安全に離脱できる状態になるまで吸入を継続する.【使用上の注意】(1 )本剤は,新生児の呼吸不全治療に十分な経験を持つ医師が使用すること.投与に際しては緊急時に十分な措置ができる医療機関で行うこと.

(2 )本剤の使用によっても酸素化の改善が認められない場合は,体外式膜型人工肺(ECMO)等の救命療法を考慮すること.

(3 )本剤の効果を最大限に発揮するため,十分な呼吸循環管理等を行うこと.

(4 )離脱の際には,吸気中NO濃度,吸気中NO2濃度,PaO2,血中メトヘモグロビン(MetHb)濃度等のモニタリング項目の他,心エコー検査による右-左シャント消失の確認等,血行動態の評価も参考にすること.

【副作用】・国内:新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全患者を対象に実施した臨床試験(INOT12試験9))において,安全性解析対象例11例中,副作用は認められなかった.・海外:新生児遷延性肺高血圧症患者を対象とした臨床試験(CINRGI 10) および INO-01/02試験11))において,安全性解析対象例224例中85例に副作用が認められた.主な副作用は,血小板減少症19例(8.5%),メトヘモグロビン血症15例(6.7%),低カリウム血症10例(4.5%),ビリルビン血症8例(3.6%),痙攣8例(3.6%),無気肺8例(3.6%)および低血圧7例(3.1%)であった.

229循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

もまだ,プロトコール段階である603).(クラスⅡb,レベルC)5)硫酸マグネシウム 硫酸マグネシウムの持つ血管拡張作用がPPHNに対して有効である可能性を説く報告はあるがCochrane Databaseでは確立した使用法としては認められず,推奨はできないとしている604).(クラスⅢ,レベルC)

⑤膜型人工肺(Extracorporeal Membrane  Oxygenation; ECMO)

 以上の治療が無効で低酸素血症が持続する場合に適応となる.人工換気条件として酸素化指標(Oxygenation Index: OI)が35または40以上605),また肺胞─動脈血酸素分圧較差(A-aDO2)600mmHg以上が4時間以上持続するような重症例はECMOを考慮する(クラスⅡb,レベルB).ただし,ECMO回路内のヘパリン化が必要なため,早産児では頭蓋内出血のリスクが高く,在胎週数34週以上であること,体重1,500~1,800g以上,人工換気が7日以内などの条件を満たさないと使用しにくく,マンパワーも必要となる606).(クラスⅡb,レベルB)表44にはNO吸入療法と血管拡張薬, ECMOとの比較を示した.

ⅩⅢ 核医学検査用薬剤,負荷試験薬剤

 核医学検査用薬剤(放射性医薬品)投与で最も重要なことは,被検者の放射線被ばくの問題であり,小児を対象に行う場合には検査の適応および検査のスケジュールを十分に検討するべきである.その上で,核種および投与量を決定し,負荷および安静時の同日複数検査を施行するのであれば投与間隔を決定する.しかし,放射線被ばくを懸念するあまり,過少の薬剤投与によって,結果として不正確な画像診断に至ることは避けなければならない.また,一定の時間を要する画像収集時には,アーチファクトを避けるため確実な体動の抑制が必須である.小児では放射線感受性が高くかつ生殖年齢も長く,核医学検査を含む低線量放射線被ばくでは,小児の特徴を念頭においた薬剤投与計画が重要である.また,検査の目的によって投与量が異なることも特徴である.  核医学検査用負荷試験にはアデノシン,アデノシン三リン酸(以下ATP),ジピリダモール,ドブタミンが用いられ,2011年現在の負荷試験薬剤として国内で承認されているのはアデノシンのみである.

1 小児期核医学検査用薬剤の投与量

 放射線感受性が高い点,生殖年齢を含む余命が長い点,成長過程にあり代謝内分泌機能が成人と大きく異なる点など,慎重かつ計画性を持って使用する.小児薬用量の

表44 NO吸入療法と血管拡張薬,ECMOとの比較利 点 問題点

NO吸入療法アイノベント®

   +アイノフロー®

• 肺血管を選択的に拡張• 全身血圧に影響せず• 低侵襲• 児の体重等の制限なし• 人工呼吸器回路に容易に接続可能

• NO吸入療法副作用

   メトヘモグロビン血症

   吸気NO2濃度の上昇

血管拡張剤(エポプロステノール・プロスタグランジン)

• 静脈内投与(特別な機器は不要)

• 肺血管に対する選択性なし• 体血管拡張による血圧低下

体外膜酸素療法(ECMO)

• 唯一の最終救命治療• 人工換気に伴う肺の圧力損傷を回避できる

• 高い侵襲度• ヘパリンによるリスク• 適用制限

   体重2kg未満

    カニューレ径に不適合な血管径

• 多くの人手と労力

   回路組み立て

   回路維持管理・交換

230 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

目安の設定には,Von Harnackの換算表(成人量と比較して7歳1/2,3歳1/3,1歳1/4量),年齢を基準としたYoungの式は小児投与量=成人投与量×年齢/(年齢+12),体表面積を基準としたCrawfordの式(小児投与量=成人投与量×体表面積/1.73)などが存在する.種々の投与量の算出式が考案されており,それらを表45に

示す.これは臓器分布を利用しての検査であり,臓器重量との関連性を持った投与を考慮しなければならない.したがって,体重を基準とした算出式では,体重当たりの臓器重量は成人よりも小児で多く,過少投与の傾向になる.日本アイソトープ協会医学・薬学部会核医学イメージング規格化専門委員会による核医学イメージングのための小児への放射線医薬品投与量に関する勧告607)によれば,小児投与量=成人投与量×(年齢+1)/(年齢+7)

の式が,計算が簡便な点と過少および過剰投与にならない点で推奨されている .また,2008年の関東小児核医学研究会の小児核医学検査を施行している関東8施設に対するアンケート調査では,推奨式(表45の3)を使用している施設が3施設,表45の1,8,9が各々1施設で,他2施設は体重と身長を適時考慮して算出するという結果であった.・小児への放射線医薬品投与量の一般式,小児投与量=成人投与量×(年齢+1)/(年齢+7) (クラス IIa´)

2 心臓核医学検査用薬剤と放射線被ばく

 国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告によれば,放射線の使用は必ず損失より利益の大きいもののみに使用することとしている.放射線防護と管理が十分に行われている医療放射線被ばくは,低線量放射線被ばくであり

表45 小児の放射性医薬品投与量の算出式1 成人投与量×体重/60または体重/702 成人投与量×年齢/(年齢+12)3 成人投与量×(年齢+1)/(年齢+7)4 成人投与量×(体重/60)2/35 成人投与量×体表面積/1.736 成人投与量×身長/1747 幼小児 成人投与量×(1/4~1/3)年長児 成人投与量×(1/2~2/3)テクネシウム心筋血流製剤150~200μCi/kg

8 生後6か月までは成人投与量の1/4生後4歳までは成人投与量の1/3生後8歳までは成人投与量の1/2生後8歳以上は成人投与量の2/3

9 0~5歳 成人投与量の0.255~10歳 成人投与量の0.5010~15歳 成人投与量の0.7515歳以上 成人投与量の1.00

10 体重別に成人投与量に対する補正係数を作りそれによる

11 各放射線医薬品ごとに体重別投与量の一覧表より読み取る

久田欣一ほか.核医学イメージングのための小児への放射線医薬品投与量に関する勧告.Radioisotopes 1988年37号の628ページ表1から引用改変

表47 小児期心疾患で使用される核医学検査用薬剤一般名 商品名 成人投与量 *2(MBq*3) 分布 排泄 副作用 物理的T1/2 γ線エネルギー 小児に対する安全性

1.心筋血流イメージングTechnetium⊖99m tetrofosmin マイオビュー 185~740 心筋,肝臓,肺 胆道・消化管,腎臓 金属味,動悸 *4 6.01時間 141keV 確立していないTechnetium⊖99m MIBI カーディオライト 370~555 心筋,肝臓,肺 胆道・消化管,腎臓 口内苦味感や金属臭 *5 6.01時間 141keV 確立していないThallium chloride⊖201(Tl-201) 塩化タリウム⊖201 74 腎臓,心筋,肝臓,脾臓 消化管,腎臓 承認前後調査では副作用なし 72.91時間 70.8keV 確立していない2.心筋脂肪酸代謝イメージングI ⊖ 1 2 3 b e t a m e t h y l ⊖ i o d o p h e n y l ⊖pentadecanoic acid(I⊖123BMIPP) カルディオダイン 74~148 心筋,肝臓,筋肉(脂肪酸代謝をしている臓器) 腎臓 異臭(0.43%),味覚異常(0.1%) 13.27時間 159keV 確立していない

3.心臓交感神経機能イメージングI⊖123 metaiodobendzylguanidine(I⊖123 MIBG) ミオMIBG⊖ I 123 111 交感神経終末,カテコールアミン産生細胞 腎臓 ショック,アナフィラキシー0.1%未満 13.27時間 159keV 確立していない4.その他Ga⊖67 citrate クエン酸ガリウム 1.11~1.85/kg 腎臓,肝臓,骨,骨髄 腎臓,肝臓 承認前後調査では副作用なし 3.261日 93.3keV 確立していないFluorodeoxyglucose(F⊖18) FDGスキャン 74~370 脳,心臓 腎臓 発熱,嘔吐,血圧低下 *6 109.8分 0.511MeV 確立していないテクネシウム大凝集人血清アルブミン(Technetium⊖99m MAA)*1 テクネMAA 37~370 肺毛細血管でトラップされる 腎臓 承認前後調査では副作用なし 6.01時間 141keV 確立していない

*1 肺血流シンチグラフィとして使用*2 医療用医薬品添付文書から引用した成人投与量*3 Megabecquerel*4 承認後調査で0.1%未満(承認前では副作用なし)*5 承認前調査で57.0%,承認後調査で20.4%*6 承認前調査で各々0.3%

231循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

確率的影響への配慮が重要である.確率的影響では,組織・臓器障害のしきい値が存在せず,どれだけの医療放射線被ばくであれば100%被検者への損失を生じないという設定が不可能である.そのため診断可能かつ良好な画像作成のために,最小投与量の計画だけでなく,実際にどれだけの放射線被ばくが生じているかの概算量を知らなければならない.また,小児の場合は同様量の投与であっても成人と比較して,放射線被ばくがどれだけ増加しているかを換算する必要がある608),609).表46に心臓検査のための核医学検査用薬剤の標準成人投与量における年齢別実効線量(mSv)を示す.成人に比べ投与量の少ない乳幼児で実効線量が多いことが示されている610).このように小児に対する放射線被ばくは,成人値と異なることを改めて認識しなければならない.心筋血流イメージングに使用する塩化タリウム(以下Tl-201)は,日本循環器学会の心臓核医学検査ガイドライン2010年改訂版611)で虚血性心疾患における虚血の存在診断として

の指針クラス Iであり,心筋血流イメージングでのエビデンスレベルは高いが,テクネシウム心筋血流製剤のTechnetium-99m tetrofosminとTechnetium-99m MIBIの2核種に比べ半減期が非常に長いため実効線量(mSv)が多い.小児におけるTl-201は,その使用利益が放射線被ばくの損失を上回るかを十分に考慮して使用されることが望まれる.・テクネシウム心筋血流製剤による小児の心筋血流イメージング評価(指針クラス IIa´)

3 核医学検査用薬剤の種類

 表47に小児期心疾患で使用される核医学検査用薬剤を示す.小児に特有な薬剤は存在せず,心筋血流イメージング,心筋脂肪酸代謝イメージング,心臓交感神経機能イメージングに使用する薬剤がほとんどを占める.(1)小児の心筋血流イメージングの主な対象は,先天性

表46 年齢別の放射線被ばく量(mSv)*1

核種名 検査方法 標準成人投与量 1歳(成人の1/4量)5歳(成人の1/4量)10歳(成人の1/2量)15歳(成人の3/4量)成人Tc⊖99mTf 安静/負荷 1000MBq 11 6 7 7 8Tc⊖99mTf 安静 555MBq 6 3 4 4 4

Tc⊖99mMIBI 安静/負荷 1000MBq 13 7 9 9 9Tl⊖201 安静/負荷 74MBq 52 32 34 17 16

F⊖18FDG 370MBq 8.8 4.6 6.7 7 7I⊖123MIBG 111MBq 1.9 1 1.4 1.4 1.4Tc⊖99mMAA 185MBq 2.9 1.6 2.1 2.2 2*1実効線量として

近藤千里.小児心血管画像検査に伴う放射線被曝.日本小児循環器学会雑誌2007年23号の438ページTable5から引用改変

一般名 商品名 成人投与量 *2(MBq*3) 分布 排泄 副作用 物理的T1/2 γ線エネルギー 小児に対する安全性1.心筋血流イメージングTechnetium⊖99m tetrofosmin マイオビュー 185~740 心筋,肝臓,肺 胆道・消化管,腎臓 金属味,動悸 *4 6.01時間 141keV 確立していないTechnetium⊖99m MIBI カーディオライト 370~555 心筋,肝臓,肺 胆道・消化管,腎臓 口内苦味感や金属臭 *5 6.01時間 141keV 確立していないThallium chloride⊖201(Tl-201) 塩化タリウム⊖201 74 腎臓,心筋,肝臓,脾臓 消化管,腎臓 承認前後調査では副作用なし 72.91時間 70.8keV 確立していない2.心筋脂肪酸代謝イメージングI ⊖ 1 2 3 b e t a m e t h y l ⊖ i o d o p h e n y l ⊖pentadecanoic acid(I⊖123BMIPP) カルディオダイン 74~148 心筋,肝臓,筋肉(脂肪酸代謝をしている臓器) 腎臓 異臭(0.43%),味覚異常(0.1%) 13.27時間 159keV 確立していない

3.心臓交感神経機能イメージングI⊖123 metaiodobendzylguanidine(I⊖123 MIBG) ミオMIBG⊖ I 123 111 交感神経終末,カテコールアミン産生細胞 腎臓 ショック,アナフィラキシー0.1%未満 13.27時間 159keV 確立していない4.その他Ga⊖67 citrate クエン酸ガリウム 1.11~1.85/kg 腎臓,肝臓,骨,骨髄 腎臓,肝臓 承認前後調査では副作用なし 3.261日 93.3keV 確立していないFluorodeoxyglucose(F⊖18) FDGスキャン 74~370 脳,心臓 腎臓 発熱,嘔吐,血圧低下 *6 109.8分 0.511MeV 確立していないテクネシウム大凝集人血清アルブミン(Technetium⊖99m MAA)*1 テクネMAA 37~370 肺毛細血管でトラップされる 腎臓 承認前後調査では副作用なし 6.01時間 141keV 確立していない

*1 肺血流シンチグラフィとして使用*2 医療用医薬品添付文書から引用した成人投与量*3 Megabecquerel*4 承認後調査で0.1%未満(承認前では副作用なし)*5 承認前調査で57.0%,承認後調査で20.4%*6 承認前調査で各々0.3%

232 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

冠動脈奇形,川崎病冠動脈障害245),心筋症,心筋炎,完全大血管転位スイッチ術後および右室負荷による右室肥大の評価である.テクネシウム心筋血流製剤はTl-201と比較して,放射線被ばくが少量608)であり,乳幼児の小心臓でも明瞭な心筋画像を得られ612),心電図同期心筋血流イメージングを併用して行うことによって心機能評価が可能である613).これらの理由から小児の心筋血流イメージングではテクネシウム心筋血流製剤の有用性が高い.テクネシウム心筋血流製剤では,安静時と負荷(薬物,運動)時の撮像を行うことによって虚血や生存心筋などの評価を行い,両撮像を同日に行う1日法と個々に行う2日法がある.1日法では時間的節約が患者にとって利点であるが,1日2回投与の撮像を行うためには放射線被ばくとアーチファクトを考慮しなければならない.安静時先行1日法の場合,安静時と負荷時の撮像間隔を開けること,安静時画像を打ち消した負荷時の画像を得るために2~3倍量以上のテクネシウム心筋血流製剤を負荷時に投与ことが必要になる.よって,1日総投与量を減量するために先行して行う安静時撮像の投与量を減らし,画質を担保するために撮像時間を延長する.このように治療用薬剤とは異なり,特徴的なことは同様の検査用薬剤で同様の対象疾患であっても検査目的によって投与量が異なることである.また,心筋血流イメージングでは肝臓を中心とした周囲臓器からの画像アーチファクトを生じやすいため,核種投与から撮像までの時間を十分にあける.また,テクネシウム心筋血流製剤による撮像時の背泳ぎスタイル(Monzen体位)が,画像アーチファクトの軽減および核種投与から撮像までの時間短縮を可能にした報告がある614).(2)心筋脂肪酸代謝イメージングでは,I-123 betamethyl-iodophenyl-pentadecanoic acid (I-123BMIPP) が用いられる.Tl-201との2核種同時撮像によって心筋血流と脂肪酸代謝のミスマッチを検出することが可能であり,小児における有用性は左冠動脈肺動脈起始症術前術後615),川崎病重症冠動脈障害616),先天性心疾患617)の報告がある.(3)心臓交感神経機能イメージングでは,I-123 metaiodobendzylguanidine (I-123MIBG)が用いられ,心筋への取り込みおよび心筋からの洗い流し(washout)を心筋と縦隔の取り込み比で算出することによって,評価が可能である.肥大型心筋症618),拡張型心筋症および完全大血管転位のスイッチ術後評価619)などで,心機能異常とwashout比(%WR)や心筋/縦隔比(H/M)などの I-123MIBG指標の異常との関連が報告されている.また,小児期心不全の心事故発生の危険因子として,

遅延像のH/M<1.8または%WR≧48%が目安になるという報告がある620).また,I-123BMIPPや I-123MIBGのヨード標識核医学検査用薬剤投与の前処置として,甲状腺ブロック目的でルゴール液内服が必要である.(4)その他:心筋炎の補助的診断にGa-67 citrateが使用され,川崎病の心筋炎の診断に有効であった報告がある621).しかし,心エコーによる診断で十分なことが多く,放射線被ばくも多いことから,小児期心疾患の診断として推奨されにくい. 心筋梗塞後の生存心筋に関する診断に用いられるFluorodeoxyglucose (F-18)は,ポジトロン製剤として期待される核種であり,川崎病を対象とした小児の報告がある622).しかし,サイクロトロンによる生成が必要で短い半減期の問題点もあり,使用される地域および施設が限定される. 日本循環器学会の心臓核医学検査ガイドライン2010年改訂版611)による小児における核医学検査の検査指針レベルおよびエビデンスレベルを示す.・心筋血流イメージングによる小児の心筋虚血評価(クラス指針 IIa,レベルB)・心筋血流イメージングによる右室圧負荷の推定(クラス指針 I,レベルC)

4 核医学検査用の負荷試験薬剤

 充分な運動負荷がかけられない小児の心筋血流イメージングでは,薬物負荷検査が必要になる.核医学検査に使用される負荷試験薬剤を表48に示す.小児に特有な薬剤は存在せず,アデノシン,ATP,ジピリダモール,ドブタミンを使用する.アデノシンは0.14mg/kg/分を6分間かけて持続点滴静注する623),624)が,本邦で負荷試験薬剤として認められている投与量は0.12mg/kg/分を6分間かけての持続点滴静注方法である625).ATPは0.16mg/kg/分を6分間かけて持続点滴静注する626).ジピリダモールは0.142mg/kg/分を4分間かけて持続点滴静注する627).ドブタミンは5μg/kg/分から投与を開始し,3分ごとに5~10μg/kg/分ずつ増量し,最高40μg/kg/分まで投与する628),629).2012年12月現在で核医学検査用負荷試験薬剤として国内で小児に承認されているのはない. 日本心臓核医学会リスクマネージメント委員会の負荷心筋シンチグラフィに関する安全指針630)によるアデノシン,ATP,ジピリダモール,ドブタミン負荷法の禁忌を表49に示す.禁忌事項については,検査前に同伴家族および主治医にあらかじめ確認する必要がある.成人

233循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

のアデノシン,ATP,ドブタミン負荷法の副作用を表50に示す.成人ではアデノシン,ATP負荷による副作用は,ほてり感等の軽微な症状を含めると全体の80%程度になる.乳幼児に対するアデノシン負荷による副作用の大規模な報告はないが,ほてり感は顔面紅潮として,他の症状は不機嫌,鎮静からの突然の覚醒や説明のつかない頻脈として表現され,副作用の早期発見として被検者の観察が非常に重要である.副作用発現が負荷試験継続による利点を上回ると判断された場合には,負荷試験を直ちに中止するべきである.副作用発現時には拮抗薬としてアミノフィリンがあるが,アデノシン,ATPの半減期が10秒以内と非常に短時間であるため,投与中止のみで症状の多くは消失する625).ジピリダモールの半

減期は約25分と長く,副作用発現時のコントロールが他の負荷試験薬剤と比較して難しいばかりでなく,遅発性の副作用を認める場合があり,撮像後のバイタルサインの確認が必要である.ジピリダモールは小児において安全に施行できる負荷試験薬剤である627)が,高度狭窄を伴う多枝病変の川崎病冠動脈障害例ではジピリダモールによる狭心症発作の報告もある631).ドブタミンの半減期は数分と短時間であり,副作用の多くは投与中止によって消失する.重度の副作用出現時は短時間作用型β遮断薬の静注が有効であると報告されている632).・ アデノシンによる小児の核医学検査負荷試験(クラスIIa´)

表48 核医学検査用負荷試験薬剤一般名 商品名 規格 投与量 *1 T1/2*1 小児に対する安全性 *1

アデノシン アデノスキャン 1バイアル20mL中60mg 0.12mg/kg/分を6分間 10秒未満 確立していないアデノシン三リン酸(ATP)アデホス Lコーワ 1アンプル2mL中10mg 0.16mg/kg/分を6分間 10秒未満 確立していないジピリダモール ペルサンチン静注 1アンプル2mL中10mg 0.142mg/kg/分を4分間 24.6分 確立していないドブタミン ドブトレックス注射液 1アンプル5mL中100mg 3分ごとに5~10μg/kg/

分ずつ増量し,最高40μg/kg/分

3.58分 少量より慎重に開始すること

*1 医療用医薬品添付文書から引用

表49 負荷試験薬剤の禁忌アデノシン,ATP,ジピリダモール負荷法の禁忌

1 薬物治療によっても安定化していない不安定狭心症

2 ペースメーカ治療の行われていない2度あるいは3度房室ブロック

3 ペースメーカ治療の行われていない洞不全症候群あるいは症候性の著しい徐脈

4 QT延長症候群5 高度な低血圧6 代償不全状態の心不全

7 アデノシン,ATP,ジピリダモールに対する過敏症の既往症例

8 喘息等の気管支攣縮性肺疾患のある患者,その既往のある患者あるいはその疑いのある患者

9 ジピリダモール,アミノフィリン製剤,カフェインを含んだ食品を12時間以内に摂取している場合

ドブタミン負荷法の禁忌1 薬物治療によっても安定化していない不安定狭心症

2 閉塞性肥大型心筋症や高度大動脈弁狭窄症などの流出路狭窄

3 ドブタミンに対する過敏症の既往症例

4 頻脈性不整脈,重症不整脈(心室頻拍,心室細動など)の既往

5 コントロール不良の高血圧(>200/110mmHg)6 大動脈解離または大きな大動脈瘤7 β遮断薬服用者8 急性心筋梗塞発症1週間以内

中田智明ほか.負荷心筋シンチグラフィに関する安全指針.心臓核医学2008年38号の8,9ページから引用改変

表50 負荷試験薬剤の副作用アデノシン,ATP負荷法の副作用

1 ほてり感(35~40%)2 胸痛(25~30%)3 呼吸苦(20%)4 めまい感(7%)

5 房室ブロック(8%),2度房室ブロック(4%),完全房室ブロック(1%未満)

6 1mm以上の虚血性ST低下(6%)7 致死的,非致死的を合わせた心筋梗塞(0.1%未満)

ドブタミン負荷法の副作用1 胸痛(31%)2 動悸(29%)3 頭痛(14%)4 ほてり感(14%)5 呼吸苦(14%)6 頻脈性不整脈(8~10%)7 1mm以上の虚血性ST低下(33%)

中田智明ほか.負荷心筋シンチグラフィに関する安全指針.心臓核医学 2008;38:8-9.引用改変

234 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

ⅩⅣ 小児臓器移植の免疫抑制薬

1 疫学

 1997年10月に「臓器の移植に関する法律」が施行され,日本でも脳死での臓器提供による移植が可能になった.しかしながら,脳死臓器提供するには本人の生前の書面による意思表示が必要であったため,15歳未満の脳死臓器提供ができなかった.そのため,15歳以上の小児または成人からしか脳死臓器提供がなかったため,1999年2月に第1例目の脳死臓器提供以来,改正法が施行されるまでに脳死臓器提供は86例あったが,その内20歳未満の小児に対する脳死移植は,肝移植11例,腎移植6例,心移植6例,肺移植3例,小腸移植2例に過ぎない.一方,腎臓は心停止後にも提供可能である.2000年に小児(16歳未満)が優先されるレシピエント選定基準が施行された以後は,年間10例前後の16歳未満の小児腎移植が行われてきた. いずれにせよ死体臓器提供が少ないため,20歳未満の肝移植の62%633)(2009年までの総数から算出),20歳未満の腎移植の89%634)(2001~2007年の総数から算出),18歳未満の肺移植の86%を生体移植(2009年までの総数を文献635)のデータと上記3例から算出)が占めているのが現状である.生体間移植のできない心臓移植では,海外に生きる望みを繋いできた(法改正後18歳未満の海外渡航心臓移植68件). このような現状を打開するために,「臓器の移植に関する法律」の改正法が昨年7月17日に公布され,2010年同日に施行された.改正法では,「本人の意思が不明な場合には,家族の書面による承諾で脳死臓器提供が可能」となり,臓器提供者(ドナー)の年齢制限がなくなるため,国内でも体の小さな子供が心臓移植や肺移植を受けられるようになった. 2011年4月に国内初の15歳未満の脳死臓器提供が行なわれ,10歳の拘束型心筋症の小児に心臓移植が行われた.

1 心臓移植 日本小児循環器学会移植委員会では,現行法施行以来10年以上に渡って,毎年の小児心臓移植適応症例について,評議員に対するアンケートの形で全国調査を行ってきた.その結果から,我が国で心臓移植適応の小児(18

歳未満)は毎年50例(10歳未満は30例)あり,拡張型心筋症(DCM),拘束型心筋症(RCM)が多い636). 2011年1月末までに日本循環器学会で15歳未満の小児90例が移植適応と判定された.その内,ネットワークに登録されたのは16例に過ぎず(国内移植5例,海外移植5例),44例が国内で登録せずに,海外渡航移植している. 1988年から2009年10月末までに78例の小児が海外で心臓移植を受け,法施行後に増加している.渡航先は米国,ドイツ等で,平均8.4歳,男児39例,DCM53例,RCM17例であった.26例がブリッジ症例であった.移植後12例が死亡したが,1,10及び20年生存率は各々97.3,83.3%,および83.3%と非常に良い.また国内で,15歳未満で心臓移植を受けた5例は最長11年で全例生存中である(2011年1月末現在).

2 肺移植 日本小児循環器学会移植委員会では,肺移植についても毎年の小児適応症例について全国調査を行ってきた.その結果から,我が国で肺移植適応の小児(18歳未満)は毎年20~30例あり,肺動脈性肺高血圧,Eisenmenger症候群などの循環器疾患が多く,他に骨髄移植後の閉塞性細気管支炎,嚢胞性線維症,気管支肺異形成症などがある. 2009年末までに18例の18歳未満の小児に生体肺葉移植が行われた635).11歳以下の学童期あるいは幼児期が9例で,最低年齢は4歳11か月であった.原疾患は,肺動脈性高血圧9例,閉塞性細気管支炎7例,肺線維症2例であった.

3 肝臓移植 我が国初の生体肝臓移植が幼児例であったように,我が国の生体肝臓移植の歴史は小児肝臓移植の歴史と言っても過言ではない.その後,提供できる肝臓の領域が拡大されるとともに,生体肝臓移植の適応が拡大した. さまざまな統計から我が国では毎年200~300例の小児が肝臓移植の適応であると報告されており,最近では毎年120例前後の生体肝臓移植と1~2例の脳死肝臓移植が行われている. 2009年末までに2,080例の18歳未満の小児に生体肝臓移植が行われ,ドナーは1,979例が両親ですべて親族である633).原疾患は,胆汁うっ滞性疾患1,507例,急性肝不全178例,代謝性疾患179例,悪性新生物57例,肝細胞性疾患45例などであった.内,270例のABO不適合移植が行われている.1,10及び20年生存率は各々

235循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

87.9,82.2および78.6%で,18歳以上の1,10及び15年生存率各々80.5,65.4および50.6%より有意に良好である.一方,同時期に10例の18歳未満の小児に脳死肝臓移植が行われ,原疾患は胆汁うっ滞性疾患9例,急性肝不全1例であった. 脳死臓器提供においては,摘出した肝臓を分割して2人のレシピエントに移植することも可能で,その片方が小児に移植されることが多く,成人に比して小児の方が短い待機期間で移植されることが多い.

4 腎臓移植 日本小児腎臓病学会の調査によれば,1998~2003年までの6年間における小児(15歳未満)末期腎不全患者数は347例で,発症頻度は100万人当たり3例とされている637).原疾患としては,先天性形成不全腎(低・異型性腎)が37%と最も多く,ついで巣状分節性糸球体硬化症が12%である.ほとんどが導入時期透析療法として腹膜透析を選択しているが,これらの患者の48.6%が透析導入5年以内に腎移植治療へ移行している637).これは,2000年に16歳未満の小児に一律14点の加算がつくようになったため,心停止後腎移植が小児に優先されるようになったことも大きい. 2001~2007年に移植された18歳未満の生体腎移植537例の,1,3及び5年生着率は97.8,95.0および90.4%,18歳未満の心停止後腎移植62例の1,3及び5年生存率は各々95.2,87.8及び79.1%で,各々20~39歳未満の成人と差はなく,40歳以上より有意に良好であった634).

5 小腸移植 2009年末までに小腸移植は15例に17件(脳死6件,生体11件)行われ,18歳以下が12例である.原疾患は,先天性小腸閉鎖,壊死性腸炎,腸管神経節減少症,中腸軸捻転などであった. 2010年8月末までの1及び5年生存率は87及び69%であったが,2003年9月以降の施行例11例が2010年8月現在すべて生存しており,改善傾向を示している638).

2 免疫抑制療法の定義

 臓器移植後の免疫抑制療法を論じる場合,移植早期の導入療法(induction therapy)とその後の維持療法(maintenance therapy)に分けることが重要である.

1 導入療法(induction therapy) 移植後早期には,移植臓器は他己として認識され,そ

れを攻撃する細胞成分や抗体成分が産生される時期であり,いかに移植片(グラフト)を他己として認識させないようにするかが重要である.そのため,維持期に比して大量の免疫抑制薬を使用する.Tリンパ球やインターロイキン2受容体に対する抗体製剤を使用したり,大量のステロイドを使用したりすることが多い.組み合わせは臓器毎に異なるが,カルシニュリン阻害剤(CNI),細胞増殖阻害薬とステロイドの内,2~3の薬を併用するが,移植後早期は大量に投与し,移植後3~6か月に向けて減量する.この間に拒絶反応や感染症が多いので,移植臓器の定期的生検,抗ウイルス薬,抗真菌薬,抗原虫薬などの併用が行われる.そのため,免疫抑制薬との相互作用を良く知ることが重要で,抗菌薬の副作用も熟知しておくことが望ましい.

2 維持療法(maintenance therapy) 移植後6か月が経過すると,拒絶反応,感染症の罹患率も低下し,免疫抑制薬もほぼ一定量に維持できるようになる.その後は,定期的な検査で,拒絶反応,感染症,薬剤の副作用を見ながら徐々に減量していくことが多い.小児は成長障害の問題があるので,可能であればこの時期までにステロイドを中止する.なお,小児は体重増加も考慮して,薬剤の投与量を決めることが重要である.できれば,1月に1度外来で診察し,経過を見ることが望ましい.小児は成人よりも感染症に罹患し易いので,日常生活での管理が重要であり,家族,幼稚園・学校の先生(特に養護教員)との連携が重要である.

3 小児の病態と特徴 欧米において臓器移植は,小児においても末期的臓器不全の外科的治療として確立された治療になりつつある.我が国においても,2010年7月に「臓器の移植に関する法律」の一部を改正する法律が施行され,2011年4月に15歳未満の脳死臓器提供が実施された.これにより,我が国でも胸部臓器において小児移植医療が発展することが期待される. 小児臓器移植後の成績を向上させるには,成人と同様,拒絶反応を有効に抑制・治療するとともに,免疫抑制剤の種々の副作用を可及的に防止することが重要である.免疫抑制療法の基本的方針は成人と大差はない.しかし,身体的・精神的発達を考慮しなければならないこと,悪性腫瘍,時に移植後リンパ増殖性疾患(posttransplant lymphoproriferative disorder: PTLD)の頻度・進行度が高いこと,ワクチン接種,日常生活管理などの感染症予防が重要であること,怠薬(nonadherence)・思春期な

236 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

どの小児特有の精神科的問題など,小児臓器移植に特有の課題も多い639). 免疫抑制薬において成人では,多くの前方視的ランダム研究が行われている.しかし小児においては,世界全体の年間症例総数は450例程度に過ぎず640),施設毎の施行症例数も少ないので,大規模臨床試験で確かめられた免疫抑制薬はない.そのため,施設レベルの臨床経験や,後方視的な多施設研究から得られたデータを元に,下記のようなことが判ってきている. 第一に,成人に比してデータは少ないが,小児においても薬剤動態の研究も徐々に進み,各々の免疫抑制薬で薬剤投与量,薬剤効率,副作用などの個人差を説明できるようになってきた.人種間,民族間の薬剤代謝,効率についても,データが集まりつつある. 第二に,特定の免疫抑制薬の投与法の傾向が明らかになり,拒絶反応の頻度は減少してきている641).世界的には,抗Tリンパ球抗体などによる induction therapyを近年より行うようになってきている(2001年37%から2008年60%に増加640).カルシニュリン阻害剤として,シクロスポリン(CsA)より,タクロリムス(FK)を使用する施設が年々増加している642).維持療法として,一剤療法から,ミコフェノール酸モフェチル(MMF)とCNIの併用が予後,生存率の両面で有効であるという実証が多く見られており,MMFはアザチオプリンより高価であるがより使用されている640),643),644).mammalian target of rapamycin阻害薬(mTOR阻害薬:シロリムス(SRL),エベロリムス(EVL))も併用薬として,その有効性や安全性が認められてきているが,まだ小児では確立されてはいない645).最後に,成長や移植心冠動脈硬化症(TCAV)の面からステロイドを離脱することの有効性が多くの施設で報告されている645)-649).が,今後の検討を要する.また,腎不全やPTLDを合併した症例でCNI非投薬の有効例も報告されてきているが,まだ有効性・安全性ともに確立されてはいない. 第三に,ABO不適合移植,液性拒絶反応,PTLDなどにおいて,Bリンパ球や形質細胞を標的にした治療法にも注目が集まってきている. 第四に,まだ小児肝臓移植の領域に留まっているが,免疫寛容が達成される場合も出てきている. 最後に,もちろん免疫抑制薬のプロトコールの確立は重要であるが,実際の治療にあっては,患児,各々に応じたテーラーメードの治療法が大切である.

3 薬物療法の実際(表51)

 ここでは,小児の臓器移植全般について述べるが,臓器毎にプロトコールは異なるので,心臓移植の投与法・投与量を中心に述べ,参考文献も心臓移植を中心に引用した. 以下の薬剤は免疫抑制効果があるので,特別な場合を除いて,副作用に感染症は含まなかった.

1 導入療法 移植後早期には,ステロイドを大量に投与する.また,近年の世界的傾向としてTリンパ球を標的とするポリクロナール抗体製剤(ウサギまたはウマ抗ヒト胸腺細胞抗体など)や抗サイトカイン受容体モノクローナル抗体(basiliximab and daclizumab)650),651)を使用することが多い.我が国では,いずれの抗体製剤も未承認薬なので,腎機能障害例,HLA感作症例に限って使用されている.マウス抗CD3モノクローナル抗体であるMuromonab(OKT3)は副作用が多く,抗マウス抗体ができて反覆使用ができないなどの問題も多く,今後使用されなくなるであろう(我が国ではすでに販売されなくなった). 抗体製剤を使用することにより,急性拒絶反応の初発を遅らせ,CNIの投与開始を遅らせられるので,移植後早期の腎機能障害を減少することができる652),653).また,遠隔期でのステロイドの離脱を容易にすると考えられている648). 成人において抗体製剤の使用が早期の感染症,遠隔期のTCAV,感染症やPTLDに相関すると報告されている.しかし,2,300人以上の小児心臓移植例での retrospectiveな研究では,抗体製剤が感染症や悪性腫瘍の発症と有意の相関は見られなかった654).なお,抗体製剤の使用が,TCAVの発症予防やグラフト機能や生存率の向上に寄与するか否かは不明である.

①ポリクロナール抗体製剤

1)ウサギ抗ヒト胸腺細胞グロブリン(サイモグロブリン) ウサギから生成されたヒト胸腺細胞に対するポリクロナール抗体で,現時点において小児臓器移植で最も用いられている抗体製剤である.

[適応] 我が国では造血幹細胞移植の移植前後の治療薬として承認されているが,臓器移植は適応外である.腎臓移植は2011年4月に保険適応となったが,他の臓器について

237循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

保険適応になるのは時間がかかるであろう. 臓器移植では,導入療法ならびにステロイド抵抗性の拒絶反応またはグラフト不全を伴う拒絶反応647)の治療薬として使用される.

[用量] 1.5~3.0mg/kg/日を3~7日間,緩徐に静脈内持続投与 (最低6時間以上かける).生理食塩液または5%ブドウ糖注射液500mLで希釈して,中枢ルートから0.22μm膜フィルターを用いて投与することが望ましい655). 主な薬剤相互作用はない. 小児における薬物動態を示す論文はない.国内では,再生不良性貧血の成人で,2.5mg/kg/日投与群(n=6)で,Cmaxは平均119.0(46.7~234.0)μg/mL,半減期は8.1(3.9~14.3)日,3.75mg/kg/日群(n=9)でCmaxは平均173.5(2.0~500.0) μg/mL,半減期は7.8(2.0~16.0)日であった(ジェンザイム社内資料).

[禁忌] 感染症,重度白血球・血小板減少,ウサギ蛋白へのアレルギー歴

[副作用] アナフィラキシー(稀),血清病,発熱,悪寒,筋肉痛,頭痛,発疹,腹痛,白血球・血小板減少を認め,前治療(ステロイド,抗ヒスタミン薬,アセトアミノフェン)を行うことで投与時の副反応は軽減する.

[使用上の注意事項] 白血球数,分画,Tリンパ球分画(特にCD3)をモニタリングするが,これらの値を見ながら投与量を変更するエビデンスはない.血小板数が中等度以上減少したときには減量する.2)ウマ抗ヒト胸腺細胞グロブリン(リンフォグロブリ

ン) ウマから生成されたヒト胸腺細胞に対するポリクロナール抗体で,導入療法よりむしろ難治性の拒絶反応の治療に用いられる.上記のサイモグロブリンの方が,拒絶反応の治療・予防の両面で優れていると報告されている.

[適応] 我が国では再生不良性貧血の治療薬として承認されているが,臓器移植は適応外である.現在,臓器移植の適

表51 小児臓器移植での免疫抑制薬クラスⅠ1. 移植後早期には,カルシニュリン阻害薬(CNI),細胞増殖抑制薬,ステロイドの内,2~3薬を併用し,最初は各薬剤を高用量で投与し,拒絶反応,感染症,薬剤の副作用などを見ながら移植後3~6か月を目標に減量し,維持量にまで下げる(エビデンスレベルC)(成人ではエビデンスレベルA).

2. 細胞増殖抑制薬としてミコフェノール酸モフェティル(MMF)の方が治療を要する拒絶反応の頻度,生存率において,アザチオプリン(AZP)より優れている(エビデンスレベルC)(成人ではエビデンスレベルA).

3. CNI投与時には,トラフなどの血中濃度をモニタリングし,拒絶反応,感染症,薬剤の副作用などを見ながら慎重に投与量を決定する(エビデンスレベルC)(成人ではエビデンスレベルA).

クラスⅡa1. 導入療法として抗胸腺細胞ポリクロナール抗体製剤または抗インターロイキン2受容体抗体などの抗体製剤を使用した方が,移植後急性期の治療を要する拒絶反応の頻度が減少し,腎機能障害を軽減できる(なお,生存率,長期予後への差は出ていない)(エビデンスレベルC)(成人ではクラスⅡb)

2. 成長発達・副作用の面から,早期にステロイドの離脱を図ることが望ましい(なお,あくまでも拒絶反応を注意深く観察することが大切)(エビデンスレベルC)(成人ではクラスⅡb)

3. 小児(特に新生児,乳幼児:特に抗A,B抗体<1:4)には成人よりABO不適合移植の予後が良い(腎,肝,心において)(エビデンスレベルC).

4. mTOR阻害薬とCNIを併用するときには,腎機能障害などの副作用を軽減するためにCNIの目標血中濃度を下げる(エビデンスレベルC)(成人ではエビデンスレベルA).

クラスⅡa´1. 拒絶反応,感染症の頻度・重症度,生存率には明らかな差は出ていないが,美容上の理由で,小児期(特に女児)では,CNIはタクロリムスを第一選択にする(エビデンスレベルC)

2. 移植後遠隔期に腎機能障害,慢性拒絶反応(心臓移植では移植心冠動脈硬化),移植後リンパ急増多症(PTLD)などを発症した際には,mTOR阻害薬への変更は有用である(エビデンスレベルC)(成人でもエビデンスレベルC)

3. グラフト不全を呈するような抗体関連型拒絶反応(antibody mediated rejection)では,血漿交換,抗CD20抗体が有用である(エビデンスレベルC)(成人でもエビデンスレベルC)

クラスⅡb1. de novo症例におけるmTOR阻害薬の使用(エビデンスレベルC)(成人では,クラスⅡa´で,エビデンスレベルB)

クラスⅢ1. 妊娠の可能性がある症例へのMMF投与(催奇性の点から)(エビデンスレベルC)2. 免疫抑制薬投与時の生ワクチンの接種(エビデンスレベルC)

238 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

応が承認される見込みはない.[用量] 10~15mg/kg/日を3~7日間,生理食塩水またはブドウ糖注射液500mLで希釈し,緩徐に中枢ルートから静脈内持続投与 (最低4時間以上かける). 主な薬剤相互作用:なし 小児における薬物動態を示す論文はない.

[禁忌] ウマ蛋白へのアレルギー歴,皮内反応陽性,重度の白血球・血小板減少

[副作用] アナフィラキシー(稀),血清病,腎機能障害,発熱,振戦,筋肉痛,頭痛,発疹,腹痛,白血球・血小板減少を認めるが,前治療(ステロイド,抗ヒスタミン薬,アセトアミノフェン)で投与時の副反応は軽減する.

[使用上の注意] 必ず皮内テストを行うこと.白血球数,分画,Tリンパ球分画(特にCD3)をモニタリングするが,これらの値を見ながら投与量を変更するエビデンスはない.血小板数が中等度以上減少したときには減量する.

②抗インターロイキン2受容体抗体(抗IL2R抗体)

1)Basiliximab(シムレクト;ノバルティスファーマ) 活性化したTリンパ球表面に現われるインターロイキン2受容体α鎖(IL2R: CD25)に対するキメラモノクロナール抗体で,IL2Rを解するシグナルを競合的に阻害し,Tリンパ球の増殖を阻害する.成人656)-659),小児659)共に有効性が証明されている.腎臓移植では広く使用されているが,胸部臓器では成人で有効性が示されているだけで,小児ではまだ有効性は確立されていない.成人の心臓移植において,感染症による死亡,PTLDの発症については,サイモグロブリンより有効であると報告されている658)が,拒絶反応の予防・治療面では劣っていると報告されている656).小児の心臓移植では,移植前にシムレクトを投与してCD25陽性細胞を減少させると,急性拒絶反応が減少すると報告されている659). シムレクト以外に,Daclizumab (ゼナパックス; Roche Laboratories, Nutley, NJ)という抗 IL2Rヒト型モノクローナル抗体製剤もあるが,拒絶反応が減少したが生存率が低下したという報告があること,投与方法がシムレクトより複雑(2週毎に5回静脈投与)であることなどから,心臓移植ではあまり使用されていない.

[適応] 腎臓移植においては成人・小児ともに国内承認薬であるが,他の臓器移植では適応外である.

[用量] 2~15歳児において,移植当日と4日目に,12mg/m2(最大20mg)を 生理食塩液または5%ブドウ糖液で25mL以上に希釈し,20~30分で投与する30分以上かけて静脈内持続投与する. 主な薬剤相互作用:なし 国内の新規幼児・小児生体腎移植患者(6例,年齢1 ~12歳,体重10.4~28.0kg)を対象とした試験において,シムレクトを移植術前2時間以内と移植術4 日後の2回,それぞれ10mgずつ静脈内投与したところ,血清中濃度(ELISA法)は半減期7.1±2.1日(平均±標準偏差)で減衰したが,初回投与日から40~52日(中央値46日)の期間,IL-2受容体を完全抑制(IL-2受容体α鎖(CD25)発現率が3%以下)できる閾値濃度(0.2μg/mL)を上回った(ノバルティスファーマ社内資料).

[禁忌] 成分に対する過敏症の既往

[副作用] B型肝炎の再燃

[使用上の注意] 体重10kg未満の小児に対する使用経験は少ない.

2 維持療法 ほとんどの施設で,維持療法はCNI(CsAまたはFK)をベースにしている.まだ,CNI非投与の安全性は確立されていない.長期に拒絶反応歴がなく,進行性の腎機能障害を認める症例において,遠隔期にCNIを中止する例がある. さまざまな報告(成人)・統計から,CNIと併用する細胞増殖阻害薬としては,AZPよりMMFの方が有効であるとされている.mTOR阻害薬の方がMMFより安全かつ有効であるかどうかは今後の検討を要する.拒絶反応のリスクの低い小児例では,ステロイドを中止することが,有効性・安全性の両面で優れていると報告されている648),649),660)-662).

③カルシニュリン阻害剤(CNI)

1)シクロスポリン(CsA)(サンディミュン・ネオーラル) CsAは真菌の代謝産物でTリンパ球の細胞質内のシクロフィリンに結合し,カルシニュリン脱リン酸化酵素を阻害する.その結果,Tリンパ球の活性化や増殖に中心的な役割のあるサイトカイン(たとえば IL2)の転写を阻害する.従来の製剤は服用しにくく,血中濃度が安定しなかったため,マイクロエマルジョン化した製剤(ネオーラル)が現在用いられている.ジェネリックは血中

239循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

濃度が安定せず,腎臓移植において拒絶反応の頻度が純正のものに比して有意に多かったと報告されている.

[適応] すでに小腸移植を除く,全ての臓器移植で拒絶反応の予防・治療薬として国内承認されている.ネオーラルカプセル(50)のみ小腸移植に未承認である.

[用量] 基本的には経口開始後トラフレベルをモニタリングしながら,4~15mg/kg/日,分2で経口投与する(腎移植,肝移植では投与量はさらに少ない). 移植後などに経口投与できないときには静脈内持続投与するが,腎機能障害の頻度が高い. 主な薬剤との相互作用:CYP3A4/5代謝の誘導または阻害を通じて,多くの薬剤との相互作用を認める.  ・  血中濃度を高める薬剤(CYP3A4代謝阻害):ア

ゾール系抗真菌薬,カルシウム拮抗薬,マクロライド系抗生物質

  ・  血中濃度を低下する薬剤(CYP3A4代謝誘導):アミノ配糖体,アンフォテリシンB,mTOR阻害薬(これらを併用すると腎機能障害を来たしやすい)

 小児における大規模な薬物動態を検討した研究はない.[禁忌] 成分に対する過敏症の既往.なお,腎機能障害などを来たすので,FKとは同時投与しないこと.

[副作用] 腎毒性,高血圧,多毛,歯肉肥厚,高カリウム血症,低マグネシウム血症,高脂血症,振戦,痙攣,脳症

[使用上の注意] 移植時期・拒絶反応・感染症歴に応じて,トラフレベルに応じて投与量を綿密に調整すること(range,50~350ng/mL). C2(投与後2時間目の血中濃度)でモニタリングする方がトラフより有効であるとされる報告(成人)663)があるが,小児では採血のタイミングが困難であり,あまり行われていない. 最近の小児の報告では,一日2回投与より,3回投与の方が,免疫抑制効果・副作用の面で優れているとされており,乳幼児期には3回投与が推奨されている664).2)タクロリムス(FK)(プログラフ) FKは,FK結 合 蛋 白12(FKBP-12) に 結 合 し て,DNA転写やサイトカイン(IL2など)産生に重要な役割を演じているカルシニュリン酵素を阻害する.現在,欧米において小児心臓移植で最も一般的に用いられるCNIである640).美容的な副作用である多毛,歯肉肥厚を改善するのに,CsAからFKへの変更は有効である649),665).

[適応] すでに小腸移植を除く,すべての臓器移植で拒絶反応の予防・治療薬として国内承認されている.

[用量] 基本的には経口開始後トラフレベルをモニタリングしながら,0.05~0.3mg/kg/日,分2で経口投与する. 移植後などに経口投与できないときには静脈内持続投与するが,腎機能障害の頻度が高い. 主な薬剤との相互作用:CsAと同様,CYP3A4/5代謝の誘導または阻害を通じて,多くの薬剤との相互作用を認める.

[禁忌] 成分に対する過敏症の既往.腎機能障害などを来たすので,CsAとは同時投与しないこと.

[副作用] 腎毒性,糖尿病,高血圧,高カリウム血症,低マグネシウム血症,頭痛,感覚異常,振戦,痙攣,脳症.腹部臓器移植では濃度依存性に心筋肥大・心室性不整脈を来たす.

[使用上の注意] 移植時期・拒絶反応・感染症歴に応じて,トラフレベルに応じて投与量を綿密に調整すること(range,5~15ng/mL). FKの代謝酵素や薬剤排出トランスポーターには遺伝的ポリモリフィズムがあるため,投与量,薬剤効率には個人差が多い666)-668). 人種的には,アフリカ系アメリカ人は投与量を多くする必要がある.  ジェネリックは血中濃度が安定せず,使用しないほうが良い.

④細胞増殖阻害薬(Antiproliferative agents)

1)アザチオプリン(AZP)(イムラン) 1960年代から使用されている免疫抑制薬で,T及びBリンパ球内で6-メルカプトプリンに変換し,DNA産生に必要なプリン体の合成を阻害する.非選択的な代謝拮抗薬なので骨髄抑制を起こしやすい669).

[適応] すでに小腸移植を除く,全ての臓器移植で拒絶反応の予防・治療薬として国内承認されている.

[用量] 基本的には経口開始後,1~3mg/kg/日,分2で経口投与する.静脈内持続投与(2~3mg/kg)は稀にしか行わない. アンジオテンシン変換酵素阻害薬との併用で重度貧血

240 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

を来たすことがある.骨髄抑制の作用のある薬剤との併用で骨髄抑制が増強する.アロプリノールは,キサンチン酸化酵素を阻害するためAZPが非活性代謝産物に変換されるのを抑制するので,アロプリノールと併用する際にはAZPの投与量を減らす.

[禁忌] 成分に対する過敏症の既往,骨髄抑制,重度白血球減少

[副作用] 白血球減少,貧血,血小板減少,嘔吐・吐き気,下痢,食指不振,肝毒性,膵炎

[使用上の注意] MMFの方が有効性・安全性で優れている661). AZP代謝の中心的役割を持っているチオプリンSメチル転移酵素の遺伝子異常のある場合には,通常投与量でも致死的な骨髄毒性反応を来たすことがある. 胎盤を通過しないので,催奇性のあるMMFを投与している患者が妊娠する際には,AZPに一時的に変更するのが,一般的である670).2)ミコフェノール酸モフェチル(MMF)(セルセプト) 小児においてもCNIの併用薬として最も繁用される代謝拮抗薬である.MMFは腸管で吸収された後に活性物質であるミコフェノール酸(MPA)に変換され,非競合的かつ可逆的にイノシン一燐酸脱水素酵素(IMDPH)を阻害する.IMDPHは,リンパ球が増殖するときのDNA複製で必須の,グアニンプリン合成de novo経路の重要な酵素であるので,MMFは選択的にTおよびBリンパ球両方の増殖を抑制する.成人のrandomized controlled trialで,MMFはAZPより有意に心臓移植後の生存率が高いと報告されている661).MMFはAZPに比して骨髄抑制は少ないが,消化器症状,特に下痢が多い.

[適応] すでに小腸移植を除く,すべての臓器移植で拒絶反応の予防・治療薬として国内承認されている.

[用量] 経口投与開始後,25~50mg/kg/日又は1,200mg/m2/日,分2(保険上上限は3gあるが,一般的に最大2g分2)で経口投与する. 主な薬剤相互作用として,アルミニウム,マグネシウムを含有する制酸薬はMMFの吸収を低下させる.アシクロビル,ガンシクロビルは,腎排泄におけるミコフェノール酸のグルコン酸抱合に拮抗するためMPAの血中濃度を増加させる.コレスチラミン,シプロフロキサシン,アモキシシリン・クラブラン酸(合剤)は,MPA

の腸肝再循環を阻害するので,MPA血中濃度を低下させる.リファンピシンが肝代謝酵素を誘導することによりMPAの代謝が促進され,MPAの血中濃度が低下する. 国内の小児腎移植患者(生後3か月から18歳以下)にMMFの経口用懸濁剤液600mg/m2を1日2回反復経口投与したときの血漿中MPAの薬物動態パラメータのデータがあり,小児腎移植患者におけるMPAの平均AUC 0~12は,カプセル剤1,000 mg 1日2回の反復経口投与を受けた成人腎移植患者の結果と同様であった(中外製薬社内資料). 欧米の小児腎臓移植の報告では,6歳未満で下痢が多い以外は,成人と薬物動態に余り差はない.アメリカの添付文書でのMMFの投与量は,経口用懸濁剤液の600mg/m2を1日2回投与(最大でも1日量として経口用懸濁剤液2,000mg/10mLまで)が推奨されている.体表面積が1.25 m2~1.50 m2の患者は,カプセル剤750mgを1日2回投与,体表面積が1.50 m2以上の患者は,カプセル剤1,000mg 1日2回投与されることもある671).

[禁忌] 成分に対する過敏症の既往.催奇性が高いので,妊婦または妊娠している可能性のある婦人.白血球減少は相対的禁忌.

[副作用] 吐き気,嘔吐,下痢,腹痛,食指不振などの消化器症状,乳幼児の発育障害,白血球減少,貧血,B型肝炎の再燃,進行性多巣性白質脳症.消化器症状はMPAの腸肝再循環が原因と考えられているが,症状が強い場合には,減量または変薬する.

[使用上の注意] MMFの代謝・排泄は個人差が多い. MPA血中濃度のモニタリング(治療域,2~5 μg/mL)が行われている施設もあるが,その有用性は明らかではない669). AZPとの併用はしないこと. MPDHに遺伝的ポリモルフィズムがあり,MPA,MMFの移送や代謝経路に個人差が多いので,薬剤の有効性や副作用にも個人差が多い672).ヒポキサンチン─グアニン─ホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)欠損症(Lesch-Nyhan症候群,Kelley-Seegmiller症候群)の患者に使用すると,高尿酸血症を増悪させる可能性がある.3)徐放性ミコフェノール酸製剤 (Myfortic)  MyforticはMPAナトリウムの腸溶薬で,MPAの活性型で吸収される.MMFに比較して消化器症状を減らすことで開発されたが,その効果はまだ明らかではな

241循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

い673).[適応] 国内未承認薬である.国内で承認される可能性は少ない. MMFで消化器症状が強いときに,本剤に変更することが推奨されているが,小児領域でMMFより有用とは認められていない.

[用量] 経口投与開始後,800 mg/m2/日,分2(最大720mg分2)で経口投与するが,体表面積1.2m2未満は投与しにくい. 主な薬剤相互作用はMMFと同じである.

[禁忌] 本剤または成分に対する過敏症の既往

[副作用] 主な副作用もMMFと同じで,MMFで消化器症状が強い場合には有用となっているが,消化器症状も認められる.

[使用上の注意] 徐放薬なので小さな子供には適していない

⑤Mammalian target of Rapamycin (mTOR)阻害薬

1)エベロリムス(EVL)(サーティカン) シロリムス(SRL)(Rapamycin, Rapamune; Wyeth-Ayerst Laboratories, Philadelphia, PA) はFKBP-12に 結合するマクロライド系抗生物質で,mTORを阻害し,活性化リンパ球の増殖を阻害する674)が,我が国ではSRLは市販されていない.エベロリムス(EVL)はSRLの誘導体で,心臓移植で適応承認されている. mTOR阻害薬は,拒絶反応を抑制するとともに,遠隔期のTCAVを始めとする各臓器の拒絶反応やグラフトの繊維化を抑制することが,実験的,臨床的に報告されている.成人の randomized controlled trialで,AZP640),674),675)

のみならず,MMFよりTCAVの発症率が低下することが最近報告されている676)が,まだend-pointが短く(約3年),今後の検証が必要である.遠隔期のTCAV,サイトメガロウイルス感染症,PTLDなどで,MMFからの変更が試みられてきている.腎機能障害を来たした場合に,CNIからの変更される例が,小児心臓移植後でも報告されてきている645),677).De novoでの使用について成人では randomized controlled trialが行われている676)が,小児心臓移植でのデータはない. mTOR阻害薬は,心嚢液貯留,創傷治癒遅延などの副作用があるため,移植後早期はCNI,MMF,ステロイドの三薬併用療法を行い,中期遠隔期にMMFをEVLに変更するプロトコールが小児心臓移植施設で試みられつ

つある.[適応] 心臓移植でのみ保険承認されていたが,腎臓も2011年12月に適応が承認された.

[用量] 基本的には経口開始後トラフレベルをモニタリングしながら,1~3mg/m2/日,分2で経口投与する. 主な薬剤相互作用は,CYP3A4.で代謝されるのでCNIと同じである

[禁忌] 本剤または成分に対する過敏症の既往

[副作用] 高脂血症,血小板減少,白血球減少,貧血,関節痛,口内炎,創傷治癒遅延,下腿浮腫,稀に間質性肺炎を認める.de novoで使用した際には,創傷治癒不良・遅延(気管支縫合部の断裂など),心嚢液・胸水の貯留などを認めることが多い.

[使用上の注意] 移植時期・拒絶反応・感染症歴に応じて,トラフレベルに応じて投与量を綿密に調整すること(range,3~10 ng/mL). CNIと併用する際,CNIにおいて標準トラフを目標にすると腎機能障害を来たしやすいので,CNIの目標トラフを低めに設定する.腎機能が発生した時には,CNIを減量するか,CNIをMMFに変更すると,腎機能が改善することが多い. 創傷治癒遅延があるため,EVLを服用している患児が他の疾患(たとえば虫垂炎)で外科的処置が必要な際には,一時的にEVLを中止し,併用薬に応じてCNIか,MMFに変更し,創傷治癒を確認した後,元に戻すことが必要である. ヘルペスウイルスの感染症は減少するが,細菌感染症の頻度は高くなり,RSウイルスなどの持続感染などに注意を要する.

⑥副腎皮質ステロイド

 成人の臓器移植後の維持免疫抑制療法としては,いまだにステロイドは長期に使用されているが,小児期には最初からプレドニンを使用しないか,術後数か月で中止する施設が多い648),660)-662),678).ただし,ドナー特異的な抗体(特に抗HLA抗体)が陽性(virtual or real交差試験陽性)例では,ステロイドは中止しない方が良い.

[適応] すべての臓器移植後の拒絶反応の予防と治療で適応承認されている.

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循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

[用量] 心臓移植では,大動脈遮断解除後,ICU帰室後8時間毎3回はメチルプレドニゾロン2.5mg/kgを静脈内投与する.その後,プレドニンを0.05~0.3 mg/kg/日,分2で,経口又は静脈内投与し,移植後経過(感染症・拒絶反応歴)を見ながら徐々にweaningする. 施設によっては,メチルプレドニゾロンだけで,経口プレドニンを最初から投与しない施設もある. 主な薬剤相互作用として,バルビタール,フェニトイン,リファンピシンなどで作用が増強する.

[禁忌] 本剤に対する過敏症の既往.

[副作用] 糖尿病,浮腫,体重増加,高血圧,高脂血症,創傷治癒不良,骨粗鬆症,無血管性壊死,頭痛,偽脳腫瘍,にきび,発育障害,気分変動,副腎機能不全,筋症,白内障,緑内障,胃潰瘍など

[使用上の注意点] ワクチン接種の効果が少ない. ステロイドを切る反動性の拒絶反応を来たすことがあるので,ゆっくりweaningする. 患者を選択してステロイド無のプロトコールを行うことができるが,その際に移植後早期の拒絶反応の頻度を減らすには,抗体製剤による導入療法が有用である.

4 抗体関連型拒絶反応(antibody mediated rejection: AMR)の治療戦略

 小児心臓移植の候補者の多くは,以前に同種血管・心臓弁の移植を受けていたり,輸血を受けていたり,補助循環が装着されていたりするため,自分以外のHLAに対して感作されている.近年,抗HLA抗体の検出方法は発達したので,AMRという現象が明らかになり,同種片にある抗原に対する抗HLA抗体(たとえばドナー特異的抗体)が,急性拒絶反応,グラフト不全や慢性拒絶反応に関与していることがわかってきた679)-681). ABO不適合移植では,血液型抗体による拒絶反応が発症するので,AMRの予防・治療に準じた免疫抑制療法が行われている.ABO不適合移植は従来生体移植の分野で発展したが,その経験から死体移植でも行われるようになってきている(UNOSでは心臓も).我が国でも,本年から2歳未満で劇症肝炎(point 9点)の場合,ABO不適合脳死臓器提供が可能となった. 移植前に血漿交換やRituximab(リツキサン)を併用

することにより,成人においても腎臓,肝臓のABO不適合移植の生存率が向上した.抗ABO血液型抗体の産生のすくない乳幼児では,そのような前治療なくて,心臓,肝臓,腎臓でABO適合と生存率に差がないことが報告されている682).

1 AMRの予防・治療 抗HLA抗体陽性例,ABO不適合での移植においては,Tリンパ球を枯渇させるような抗体製剤とFK,MMF,ステロイドからなる三薬併用療法を行う.腎移植の文献から,反復して静注用免疫グロブリン製剤(IVIG)を投与することが多い. これ以外に,保険適応にはなっていないが,AMRの予防・治療に有効な薬剤にRituximab(リツキサン)とBortezomib(ベルケイド)がある.我が国では,前者はCD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫,後者は再発性・難治性の多発性骨髄腫で保険適応となっている.

① Rituximab(リツキサン)

 Rituximabは,正常または腫瘍性のBリンパ球の表面にあるCD20に対するキメラ型モノクローナル抗体である.Bリンパ球を枯渇させることで,同種片に対する抗体は減少するが,形質細胞は減らないので,本当のメカニズムは依然不明である.この薬剤は,元来成人の悪性リンパ腫の治療薬として使用されているが,小児のBリンパ球型の難治性PTLDに有効である.慢性関節リウマチや自己免疫疾患にも有用で,ランダム比較試験の結果はないがAMRにも有効例が報告されてきた683).多くは,IVIGと併用されている.

[適応] CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫 . インジウム(111In)またはイットリウム(90Y)イブリツモマブチウキセタン注射液投与の前投与としてのみ国内で保険承認されている. 当面は,AMRの治療薬としてではなく,腎,肝でABO不適合の前治療薬として承認される可能性が高い.

[用量]・ ABO不適合移植   2歳未満は原則,ABO適合移植と同様の免疫抑制薬を投与する682).

   2歳以上,または抗ABO血液型抗体の高い症例(>1:8)では,Rituximabに血漿交換,IVIGを併用する.その際,Rituximabは375 mg/m2 (又は半量)を,移植前に1~2回,緩徐に静脈内投与する(最大1 g/m2)   HLAに感作された場合,リンパ球交差試験陽性例

243循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

での移植も上記に準じて行う.・ AMRの治療   抗胸腺細胞抗体製剤,血漿交換に抵抗性のAMRで使用する.   375mg/m2 (または半量)を1回1~2回,緩徐に静脈内投与する(最大1 g/m2).・ 主な薬剤相互作用は不明.

[禁忌] 本剤および成分,またはマウス蛋白に対する過敏症の既往.

[副作用] 投与時の反応として発熱,悪寒,下痢,発疹,気管支痙攣,血管性浮腫が認められる(初回に多い).他に,粘膜皮膚反応,進行性の多発性白質脳症,B型肝炎の再燃,貧血,白血球減少,血小板現象などがある.

② ボルテゾミブ(ベルケイド)

 本剤はプロテアソーム阻害薬で,再発性・難治性の多発性骨髄腫の治療薬である.抗体を産生する形質細胞を枯渇する点で,AMRの治療薬として期待されている.多くの研究がなされており684),685),血漿交換,IVIGならびにリツキサンなどに反応しない難治性のAMRの治療薬として期待されている.

[適応] 国内では再発性・難治性の多発性骨髄腫の治療薬として承認されている.

[用量] 1.3 mg/m2を,ボーラスで3~5秒かけて静脈内投与する. 2週間毎に4回投与する. 主な薬剤との相互作用:CsAと同様,CYP3A4/5代謝の誘導または阻害を通じて,多くの薬剤との相互作用を認める.アゾール系抗真菌薬は,CYP3A4/5代謝を抑制して,ボルテゾミブの決中濃度を増加させる.

[禁忌] 本剤,ホウ素,マニトールに対する過敏症の既往.

[副作用] 低血圧,心不全,末梢神経障害,胃腸障害,急性呼吸

促拍症候群(ARDS),貧血,血小板減少,白血球減少[使用上の注意] ボルテゾミブ投与30前に,メチルプレドニゾロン5 mg/kg(最大100mg)を前投与する. AMRで本剤が使用されるまでに多剤が使用されており,安全性を評価するのは難しい. AMRに対し,他に有効な治療法がないときに使用する.

5 拒絶反応に対する非薬物療法

1 全身リンパ節照射法(Total lymphoid irradiation: TLI)

 TLIは標準的な治療でも治らないような難治性の細胞性拒絶反応の治療として行われてきた.典型的なTLIは,2週間毎10回にわたり,逆Y字型外套を用いて全身のリンパ組織(リンパ節,脾臓,胸腺など)に照射する686).現在施行例は少なく,遠隔期のPTLDの発生が多い.

2 血漿交換 クロスマッチ陽性例や重度のAMRなどで移植片に対する抗HLA抗体を除去する場合や,ABO不適合臓器移植の際に行われる.一般的に単独では行われず,抗体製剤(サイモグロブリン,リツキサンなど)などと併用される.

3 体外光化学療法(Photopheresis) 光化学療法は,まず血中の白血球を取り出し,その白血球に8-メトキシソラレン(8-SOP)を加えて,紫外線Aを当てて白血球内の8-SOPが活性化させた後,不活性化した白血球を体内に戻す方法である.体外で紫外線を当てるので副作用は少ないが,難治性の拒絶反応での有効例も報告されている687).しかし,機序は解明されておらず,活性化したリンパ球がアポトーシスに陥るとか688),制御Tリンパ球が誘導されるとか報告されている689).

244 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

表52 小児期の心疾患に頻用される薬剤薬剤(一般名) 薬剤(商品名) 適応 禁忌 重篤な有害反応 一般的な用法用量 コメント

Adenosine アデホス,ATP 不整脈の診断上室不整脈の治療

房室ブロック気管支喘息

胸痛呼吸困難気管支れん縮高度徐脈

0.1mg/kg/回を急速静注最大投与量 新生児:0.3mg/kg/回 乳児以降:0.5mg/kg/回

急速静注に心電図によるモニタリングと記録は必須急速静注は心電図に変化が生じるまで徐々に用量を増加させて2分毎に繰り返すことが可能

Alprostadil(prostaglandin E1)

プロスタンディン 新生児における動脈管開存の維持 無呼吸多呼吸低血圧発熱長管骨の骨膜肥厚壊死性腸炎

10ng/kg/分にて点滴静注開始反応に応じて50ng/kg/分まで増量可能

心拍,呼吸,体温のモニタリングが必要無呼吸に対して人工呼吸管理を要することあり

Amiloride 我が国に認可薬なし カリウム保持性の利尿薬 高カリウム血症腎不全

低ナトリウム血症高カリウム血症低血圧

経口200μg/kg,1日2回最大1日量20mg

サイアザイドやループ利尿薬との併用により利尿効果減弱

Amiodarone アンカロン 上室不整脈心室不整脈

徐脈房室ブロック低血圧

徐脈,Torsades de pointes甲状腺機能障害間質性肺炎,肺線維症肺胞出血,ARDS肝機能障害,肝炎角膜色素沈着日光過敏,皮膚脱色神経障害,貧血SIADH

経口 初期量:5mg/kg 1日2~3回,7日間投与後に維持量に減量 維持量:5mg/kg 1日1回,または血中濃度を測定し調節する静注 最初の4時間は25μg/kg/分で投与,その後5~15μg/kg/分に減量 最大1日投与量 1,200mg

副作用の発現を抑えるため長期投与は避けるべき肝機能,甲状腺機能,間質性肺炎,不整脈の悪化,除脈,視力の注意深いモニタリングが必要日光過敏と皮膚脱色は重症であり,日焼け止めが必要 静注投与時は心拍数をモニタリングし,必要に応じて投与量を調整アミオダロンおよび活性代謝物の有効血中濃度:0.6~2.5mg/L

Aspirin アスピリン 低用量:抗血小板作用による血栓予防高用量:川崎病に対する抗炎症

ライ症候群合併の危険性を有するウイルス感染症出血性消化性潰瘍

ライ症候群出血(特に消化管)気管支れん縮

低用量:5mg/kg 1日1回(最大75mg)高用量:20~25mg/kg 1日4回をおよそ14日間,その後低用量に減量

高用量の投与法はリウマチ熱や心膜切開後症候群にも用いられる

Atenolol テノーミン 高血圧上室頻脈心室頻脈

気管支喘息房室ブロック低血圧心機能低下

徐脈心不全気管れん縮房室ブロック末梢血管収縮倦怠感

1~2mg/kg 1日1回内服最大1日投与量 100mg

腎機能・肝機能障害を有する場合は少量より開始する

Captopril カプトリル 心不全高血圧

腎機能障害腎血管障害大動脈縮窄症左室流出路狭窄左室流入路狭窄

低血圧(特に初回投与時)腎機能障害頻脈日光過敏持続する乾性咳嗽

0.1mg/kg 1日3回内服より開始1mg/kg 1日3回内服まで増量可

ACE阻害薬心不全に対して通常はループ利尿薬と合わせて使用するカリウム保持性利尿薬と併用しない初回導入時は注意深い観察を要する通常は入院とし,血圧と腎機能をモニタリングする

Carvedilol アーチスト 心不全 気管支喘息房室ブロック心機能低下

徐脈心不全気管支れん縮房室ブロック末梢血管収縮倦怠感

0.05mg/kg 1日2回内服(最大3.125mg/日まで)より開始2週間ごとに増量し,最終的に0.35mg/kg1日2回内服(最大1日投与量25mg)まで増量可

利尿剤,ACE阻害薬に引き続き追加する第三選択の慢性心不全治療薬小児における長期的な有用性に関するエビデンスはまだない

Clopidogrel プラビックス 低用量アスピリンに代わる抗血小板作用による血栓予防

出血好中球減少

1mg/kg 1日1回内服(最大1日投与量75mg) アスピリンによる治療後の第二選択薬

Digoxin ジゴシン 上室不整脈心不全

房室ブロック腎不全WPW症候群心室頻脈

食欲不振腹痛房室ブロック各種不整脈

経口新生児~5歳:10μg/kg/日5~10歳:6μg/kg/日 最大投与量250μg/日

緊急時には最初の24時間で急速飽和(digitalization)を要する早産児,腎不全症例では投与量を減量心不全における有用性は限定的で第一選択薬として用いられることはまれである静脈投与はあまり行われないジゴシンの有効血中濃度は0.8~2.0μg/L

Dinoprostone(Prostagrandin E2)

プロスタンジンE2 新生児における動脈管の開存(我が国では子宮収縮薬?)

無呼吸多呼吸低血圧発熱長管骨の骨膜肥厚壊死性腸炎

5ng/kg/分にて点滴静注開始反応に応じて20ng/kg/分まで増量可

心拍,呼吸,体温のモニタリングが必要無呼吸に対して人工呼吸管理を要することあり

245循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

薬剤(一般名) 薬剤(商品名) 適応 禁忌 重篤な有害反応 一般的な用法用量 コメントAdenosine アデホス,ATP 不整脈の診断

上室不整脈の治療房室ブロック気管支喘息

胸痛呼吸困難気管支れん縮高度徐脈

0.1mg/kg/回を急速静注最大投与量 新生児:0.3mg/kg/回 乳児以降:0.5mg/kg/回

急速静注に心電図によるモニタリングと記録は必須急速静注は心電図に変化が生じるまで徐々に用量を増加させて2分毎に繰り返すことが可能

Alprostadil(prostaglandin E1)

プロスタンディン 新生児における動脈管開存の維持 無呼吸多呼吸低血圧発熱長管骨の骨膜肥厚壊死性腸炎

10ng/kg/分にて点滴静注開始反応に応じて50ng/kg/分まで増量可能

心拍,呼吸,体温のモニタリングが必要無呼吸に対して人工呼吸管理を要することあり

Amiloride 我が国に認可薬なし カリウム保持性の利尿薬 高カリウム血症腎不全

低ナトリウム血症高カリウム血症低血圧

経口200μg/kg,1日2回最大1日量20mg

サイアザイドやループ利尿薬との併用により利尿効果減弱

Amiodarone アンカロン 上室不整脈心室不整脈

徐脈房室ブロック低血圧

徐脈,Torsades de pointes甲状腺機能障害間質性肺炎,肺線維症肺胞出血,ARDS肝機能障害,肝炎角膜色素沈着日光過敏,皮膚脱色神経障害,貧血SIADH

経口 初期量:5mg/kg 1日2~3回,7日間投与後に維持量に減量 維持量:5mg/kg 1日1回,または血中濃度を測定し調節する静注 最初の4時間は25μg/kg/分で投与,その後5~15μg/kg/分に減量 最大1日投与量 1,200mg

副作用の発現を抑えるため長期投与は避けるべき肝機能,甲状腺機能,間質性肺炎,不整脈の悪化,除脈,視力の注意深いモニタリングが必要日光過敏と皮膚脱色は重症であり,日焼け止めが必要 静注投与時は心拍数をモニタリングし,必要に応じて投与量を調整アミオダロンおよび活性代謝物の有効血中濃度:0.6~2.5mg/L

Aspirin アスピリン 低用量:抗血小板作用による血栓予防高用量:川崎病に対する抗炎症

ライ症候群合併の危険性を有するウイルス感染症出血性消化性潰瘍

ライ症候群出血(特に消化管)気管支れん縮

低用量:5mg/kg 1日1回(最大75mg)高用量:20~25mg/kg 1日4回をおよそ14日間,その後低用量に減量

高用量の投与法はリウマチ熱や心膜切開後症候群にも用いられる

Atenolol テノーミン 高血圧上室頻脈心室頻脈

気管支喘息房室ブロック低血圧心機能低下

徐脈心不全気管れん縮房室ブロック末梢血管収縮倦怠感

1~2mg/kg 1日1回内服最大1日投与量 100mg

腎機能・肝機能障害を有する場合は少量より開始する

Captopril カプトリル 心不全高血圧

腎機能障害腎血管障害大動脈縮窄症左室流出路狭窄左室流入路狭窄

低血圧(特に初回投与時)腎機能障害頻脈日光過敏持続する乾性咳嗽

0.1mg/kg 1日3回内服より開始1mg/kg 1日3回内服まで増量可

ACE阻害薬心不全に対して通常はループ利尿薬と合わせて使用するカリウム保持性利尿薬と併用しない初回導入時は注意深い観察を要する通常は入院とし,血圧と腎機能をモニタリングする

Carvedilol アーチスト 心不全 気管支喘息房室ブロック心機能低下

徐脈心不全気管支れん縮房室ブロック末梢血管収縮倦怠感

0.05mg/kg 1日2回内服(最大3.125mg/日まで)より開始2週間ごとに増量し,最終的に0.35mg/kg1日2回内服(最大1日投与量25mg)まで増量可

利尿剤,ACE阻害薬に引き続き追加する第三選択の慢性心不全治療薬小児における長期的な有用性に関するエビデンスはまだない

Clopidogrel プラビックス 低用量アスピリンに代わる抗血小板作用による血栓予防

出血好中球減少

1mg/kg 1日1回内服(最大1日投与量75mg) アスピリンによる治療後の第二選択薬

Digoxin ジゴシン 上室不整脈心不全

房室ブロック腎不全WPW症候群心室頻脈

食欲不振腹痛房室ブロック各種不整脈

経口新生児~5歳:10μg/kg/日5~10歳:6μg/kg/日 最大投与量250μg/日

緊急時には最初の24時間で急速飽和(digitalization)を要する早産児,腎不全症例では投与量を減量心不全における有用性は限定的で第一選択薬として用いられることはまれである静脈投与はあまり行われないジゴシンの有効血中濃度は0.8~2.0μg/L

Dinoprostone(Prostagrandin E2)

プロスタンジンE2 新生児における動脈管の開存(我が国では子宮収縮薬?)

無呼吸多呼吸低血圧発熱長管骨の骨膜肥厚壊死性腸炎

5ng/kg/分にて点滴静注開始反応に応じて20ng/kg/分まで増量可

心拍,呼吸,体温のモニタリングが必要無呼吸に対して人工呼吸管理を要することあり

246 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

薬剤(一般名) 薬剤(商品名) 適応 禁忌 重篤な有害反応 一般的な用法用量 コメントDipyridamole アンギナール

ペルサンチン低用量アスピリンに代わる抗血小板作用による血栓予防

心不全大動脈弁狭窄症

低血圧頻脈気管支れん縮

2.5mg/kg 1日2回内服12歳以上:100~200mg 1日3回内服

ジピリダモールは虚血性心疾患やステロイド抵抗性ネフローゼに対しても用いられる抗血小板作用はアスピリンと相乗的に作用すると考えられる

Dobutamine ドブトレックス 心拍出量低下時の心収縮増強作用 左室流出路狭窄 頻脈低血圧

2~20μg/kg/分 静脈内持続投与

Dopamine イノバン 低血圧低心拍出量

頻脈不整脈

高血圧頻脈各種不整脈

静注 2~20μg/kg/分 静脈内持続投与 臨床診療において低用量における効果的な血管拡張作用を有するというエビデンスは乏しい

Enalapril レニベース 心不全高血圧

腎不全腎血管障害大動脈縮窄症左室流出路狭窄左室流入路狭窄

低血圧(特に初回投与時)腎機能障害頻脈レイノー症状Stevens⊖ Johnson症候群脱毛症筋れん縮持続する乾性咳嗽

経口で0.1mg/kg/日より開始反応に応じて1mg/kg/日まで増量可

ACE阻害薬心不全に対して通常はループ利尿薬と合わせて使用するカリウム保持性利尿薬と併用しない初回導入時は注意深い観察を要する通常は入院とし,血圧と腎機能をモニタリングする

Epinehrine(Adrenaline) ボスミン 血圧低下 高血圧 頻脈高血圧各種不整脈

静注 0.1μg/kg/分1.5μg/kg/分まで増量可

Esmolol ブレビブロック 上室性頻脈性不整脈や高血圧への緊急治療ファロー四微症の無酸素発作(我が国では未承認)

気管支喘息房室ブロック低血圧心機能低下

徐脈心不全気管支れん縮房室ブロック

初期量:500μg/kg 1~2分かけて緩徐に静注その後25~50μg/kg/分で静脈内持続投与可抵抗例には最大200 μg/kg/分まで増量可

心選択性の高いβ遮断薬低血圧や徐脈を生じた際には減量ファロー四微症の重篤な無酸素発作を改善させるためには高用量が必要(我が国では使用経験なし)

Flecainide タンボコール 心室不整脈WPW症候群における不整脈房室回帰頻拍

心不全房室ブロック低カリウム血症

致死性不整脈の誘発(特に先天性心疾患患者)心機能低下(特にβ遮断薬やカルシウム拮抗薬との併用時)

経口2~3mg/kg 1日2~3回血中濃度により調整静注1回投与量 2mg/kg0.1~0.25mg/kg/時を不整脈消失まで(最大1日投与量 600mg)

緩徐静注時は心電図のモニタリングを行う24時間以上静注を行う場合は血中濃度をモニタリングする(有効血中濃度は200~800μg/L)

Furosemide ラシックス 心不全肺うっ血高血圧症

低カリウム血症低血圧

低ナトリウム血症低カリウム血症低マグネシウム血症腎石灰沈着低血圧難聴(急速静注時)

経口0.5~2mg/kg 1日2~3回(最大1日投与量 12mg/kgまたは80mg/日のいずれか少ないほう)静注0.5~1mg/kg 1日4回まで,または0.1~2mg/kg/時の持続静注

乏尿時はさらに高用量を必要とし,尿量に応じで漸増する

Ibuprofen ブルフェン 早期産児の動脈管開存症(我が国では新生児への適応なし)

肝機能障害肺高血圧出血壊死性腸炎感染

出血(特に頭蓋内)腎機能障害壊死性腸炎

10mg/kg 緩徐に静注2回目(24時間後),3回目(48時間後)の用量は5mg/kg

腎機能障害時は減量する肝機能のモニタリングが必要

Indomethacin インダシン 早期産児の動脈管開存症 腎機能低下感染症出血(特に頭蓋内)壊死性腸炎

頭蓋内出血を含む出血乏尿,無尿体液貯留

30分以上かけて点滴静注生後48時間未満の新生児:200μg/回,12~24時間あけて100μg/回を2回まで追加投与生後2~7日未満の新生児:200μg/回,12~24時間あけて200μg/回を2回まで追加投与生後7日以上の新生児:200μg/回,12~24時間あけて250μg/回を2回まで追加投与

尿量のモニタリングを行い,2回目,3回目の投与は尿量の回復を待ってから行うインドメタシンは心膜切開後症候群の抗炎症薬として用いられる

Isoprenaline プロタノール 徐脈完全房室ブロック

低血圧 低血圧頻脈各種不整脈

0.02μg/kg/分,最大0.5μg/kg/分まで(新生児は最大0.2μg/kg/分まで)

Lidocaine キシロカイン 心室細動心室頻拍

房室ブロック心機能低下肝不全腎不全

中枢神経症状呼吸抑制低血圧徐脈

0.5~1mg/kgを1分以上かけて静脈内投与5分間隔で最大3mg/kgまで繰り返し投与可続けて1~3mg/kg/分にて持続静注

投与中は心電図モニタリングを行う肝機能障害,腎機能障害を認める場合は投与量を減量する

247循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

薬剤(一般名) 薬剤(商品名) 適応 禁忌 重篤な有害反応 一般的な用法用量 コメントDipyridamole アンギナール

ペルサンチン低用量アスピリンに代わる抗血小板作用による血栓予防

心不全大動脈弁狭窄症

低血圧頻脈気管支れん縮

2.5mg/kg 1日2回内服12歳以上:100~200mg 1日3回内服

ジピリダモールは虚血性心疾患やステロイド抵抗性ネフローゼに対しても用いられる抗血小板作用はアスピリンと相乗的に作用すると考えられる

Dobutamine ドブトレックス 心拍出量低下時の心収縮増強作用 左室流出路狭窄 頻脈低血圧

2~20μg/kg/分 静脈内持続投与

Dopamine イノバン 低血圧低心拍出量

頻脈不整脈

高血圧頻脈各種不整脈

静注 2~20μg/kg/分 静脈内持続投与 臨床診療において低用量における効果的な血管拡張作用を有するというエビデンスは乏しい

Enalapril レニベース 心不全高血圧

腎不全腎血管障害大動脈縮窄症左室流出路狭窄左室流入路狭窄

低血圧(特に初回投与時)腎機能障害頻脈レイノー症状Stevens⊖ Johnson症候群脱毛症筋れん縮持続する乾性咳嗽

経口で0.1mg/kg/日より開始反応に応じて1mg/kg/日まで増量可

ACE阻害薬心不全に対して通常はループ利尿薬と合わせて使用するカリウム保持性利尿薬と併用しない初回導入時は注意深い観察を要する通常は入院とし,血圧と腎機能をモニタリングする

Epinehrine(Adrenaline) ボスミン 血圧低下 高血圧 頻脈高血圧各種不整脈

静注 0.1μg/kg/分1.5μg/kg/分まで増量可

Esmolol ブレビブロック 上室性頻脈性不整脈や高血圧への緊急治療ファロー四微症の無酸素発作(我が国では未承認)

気管支喘息房室ブロック低血圧心機能低下

徐脈心不全気管支れん縮房室ブロック

初期量:500μg/kg 1~2分かけて緩徐に静注その後25~50μg/kg/分で静脈内持続投与可抵抗例には最大200 μg/kg/分まで増量可

心選択性の高いβ遮断薬低血圧や徐脈を生じた際には減量ファロー四微症の重篤な無酸素発作を改善させるためには高用量が必要(我が国では使用経験なし)

Flecainide タンボコール 心室不整脈WPW症候群における不整脈房室回帰頻拍

心不全房室ブロック低カリウム血症

致死性不整脈の誘発(特に先天性心疾患患者)心機能低下(特にβ遮断薬やカルシウム拮抗薬との併用時)

経口2~3mg/kg 1日2~3回血中濃度により調整静注1回投与量 2mg/kg0.1~0.25mg/kg/時を不整脈消失まで(最大1日投与量 600mg)

緩徐静注時は心電図のモニタリングを行う24時間以上静注を行う場合は血中濃度をモニタリングする(有効血中濃度は200~800μg/L)

Furosemide ラシックス 心不全肺うっ血高血圧症

低カリウム血症低血圧

低ナトリウム血症低カリウム血症低マグネシウム血症腎石灰沈着低血圧難聴(急速静注時)

経口0.5~2mg/kg 1日2~3回(最大1日投与量 12mg/kgまたは80mg/日のいずれか少ないほう)静注0.5~1mg/kg 1日4回まで,または0.1~2mg/kg/時の持続静注

乏尿時はさらに高用量を必要とし,尿量に応じで漸増する

Ibuprofen ブルフェン 早期産児の動脈管開存症(我が国では新生児への適応なし)

肝機能障害肺高血圧出血壊死性腸炎感染

出血(特に頭蓋内)腎機能障害壊死性腸炎

10mg/kg 緩徐に静注2回目(24時間後),3回目(48時間後)の用量は5mg/kg

腎機能障害時は減量する肝機能のモニタリングが必要

Indomethacin インダシン 早期産児の動脈管開存症 腎機能低下感染症出血(特に頭蓋内)壊死性腸炎

頭蓋内出血を含む出血乏尿,無尿体液貯留

30分以上かけて点滴静注生後48時間未満の新生児:200μg/回,12~24時間あけて100μg/回を2回まで追加投与生後2~7日未満の新生児:200μg/回,12~24時間あけて200μg/回を2回まで追加投与生後7日以上の新生児:200μg/回,12~24時間あけて250μg/回を2回まで追加投与

尿量のモニタリングを行い,2回目,3回目の投与は尿量の回復を待ってから行うインドメタシンは心膜切開後症候群の抗炎症薬として用いられる

Isoprenaline プロタノール 徐脈完全房室ブロック

低血圧 低血圧頻脈各種不整脈

0.02μg/kg/分,最大0.5μg/kg/分まで(新生児は最大0.2μg/kg/分まで)

Lidocaine キシロカイン 心室細動心室頻拍

房室ブロック心機能低下肝不全腎不全

中枢神経症状呼吸抑制低血圧徐脈

0.5~1mg/kgを1分以上かけて静脈内投与5分間隔で最大3mg/kgまで繰り返し投与可続けて1~3mg/kg/分にて持続静注

投与中は心電図モニタリングを行う肝機能障害,腎機能障害を認める場合は投与量を減量する

248 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

ⅩⅤ 小児循環器用薬剤一覧

おわりに

 小児期の新薬の臨床試験は限られており,世界的にも臨床評価ガイドラインが揃っていないため質の高いエビデンスが少ない.そのため成人に適応があっても,小児の特殊性を理由に開発が行われていない薬剤が多い.表

52に国際的に使用されている心血管系の薬剤の処方集についてまとめた.まだ我が国で小児に承認されていないものも一部あるが,世界的に認められている薬剤が多く含まれている.この表は,小児循環器領域では基本であるAndersonのTextbook690)から引用したものである.用量設定は概ね新生児から10歳までを対象にしたものである.これはあくまで目安であり,個々の症例の身体発育,未熟性,人種差,腎機能や肝機能,脱水,発熱の有無,疾患の重症度,合併症,併用薬などにより適宜,担当医がRisk/Benefitを考慮して使用すべきものである.

薬剤(一般名) 薬剤(商品名) 適応 禁忌 重篤な有害反応 一般的な用法用量 コメントLisinopril ゼストリル,ロンゲス 心不全

高血圧腎機能障害腎血管障害大動脈縮窄症左室流出路狭窄左室流入路狭窄

低血圧(特に初回投与時)腎機能障害頻脈脱毛症持続する乾性咳嗽

経口で0.1mg/kg/日より開始反応に応じて0.5~1mg/kg/日まで増量可最大1日投与量 40mg

ACE阻害薬心不全に対して通常はループ利尿薬と合わせて使用するカリウム保持性利尿薬と併用しない初回導入時は注意深い観察を要する通常は入院とし,血圧と腎機能をモニタリングする

Losartan ニューロタン 心不全高血圧

腎機能障害腎血管障害大動脈縮窄症左室流出路狭窄左室流入路狭窄

低血圧(特に初回投与時)低カリウム血症

0.5mg/kg 1日1回内服2mg/kg 1日1回まで増量可

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬ACE阻害薬と同様の薬効であるが,ACE阻害薬に特徴的な乾性咳嗽を認めない腎機能障害,肝機能障害を認める場合は投与量を減量する低血圧のリスクがあるため導入時に注意を要する

Milrinone ミルリーラ 心不全低心拍出量ショック

腎不全低血圧

各種不整脈低血圧

30~45μg/kg/時にて持続静注 陽性変力作用と末梢血管拡張作用を併せ持つPDEⅢ阻害薬低血圧のない場合,最初の1時間で50~75μg/kgを点滴静注腎不全時は投与量を減量する 短期間使用に限る

Norepinephrine(Noradrenaline)

ノルアドレナリン 重篤な血管拡張に伴う二次性低血圧 高血圧 高血圧強い血管収縮および末梢虚血各種不整脈

20~100ng/kg/分にて持続静注最大1μg/kg/分まで増量可

Propranolol インデラル 高血圧上室頻拍心室頻拍ファロー四徴症における無酸素発作

気管支喘息房室ブロック低血圧心機能低下

徐脈心不全房室ブロック末梢血管収縮易疲労感

ファロー四徴症:15~20μg/kgを静注,心電図モニター下で100~200 μg/kgまでゆっくり増量可不 整 脈:0.25~0.5 mg/kg 1日3回 内 服,1mg/kg 1日3回まで増量可心電図モニター下で10~50μg/kgを緩徐に静脈

ベラパミルと併用禁忌 腎機能低下,肝機能低下時は投与量を減量する

Sildenafil レバチオ 肺高血圧 低血圧:冠動脈疾患 呼吸困難頭痛視覚障害持続勃起症

1回0.5mg/kgを4~6時間ごとに内服反応に応じて最大2mg/kgを4時間ごと投与まで増量可

肝機能障害,腎機能障害時は投与量を減量する心臓手術後の肺高血圧症や一酸化窒素吸入療法の離脱にも使用される

Sotalol ソタコール 心房粗動上室頻拍心室頻拍

気管支喘息房室ブロック低血圧心機能低下低カリウム血症低マグネシウム血症QT延長

徐脈心不全気管支れん縮房室ブロック不整脈QT時間延長Torsades de pointes

1mg/kg 1日2回内服,必要に応じて3~4日ごとに増量し,4mg/kg 1日2回内服まで増量可(最大1日投与量160mg)

QT時間のモニタリングを行うQT延長を引き起こす他の薬剤との併用を避ける有効血中濃度は0.04~2.0 mg/L

Spironolactone アルダクトンA カリウム保持性利尿薬(抗アルドステロン薬)

高カリウム血症低ナトリウム血症

高カリウム血症低ナトリウム血症肝機能障害女性化乳房骨軟化症

0.5~1.5mg/kg 1日3回内服 主にループ利尿薬とともに用いられるACE阻害薬と同時に投与するべきではない

249循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

小児期心疾患における薬物療法ガイドライン

付記:保険償還対象薬の追加

 このガイドラインを作成中に,ワルファリン(血栓塞栓症の予防),フレカイニド,プロプラノロール(共に頻脈性不整脈)アムロジピン,エナラプリル,リシノプリル,バルサルタン(共に高血圧)が小児領域で承認された.また厚生労働省保険局から,添付文書の使用上の注意には「小児に対する安全性は確立していない」という記載はあるが,「保険診療において償還対象」と通知のあった医薬品は以下のとおりである.リドカイン(頻脈性不整脈),L-イソプラナリン(徐脈発作),ドパミン塩酸塩(急性循環不全),カンレノ酸カ

リウム(高アルドステロン症に関連する疾患で経口困難時),カプトプリル(高血圧),ジピリダモール(川崎病冠動脈後遺症),ニフェジピン(高血圧),(以上23年9月28日付),塩酸オルプリノン,ミルリノン(共に急性心不全),デノパミン(慢性心不全),アテノロール(頻脈性不整脈:洞性頻脈,期外収縮),塩酸ピルジカイニド(頻脈性不整脈),塩酸メキシレチン(頻脈性不整脈:心室性),塩酸ランジオロール(手術時,手術後の頻脈性不整脈に対する緊急処置),カルベジロール(慢性心不全)(以上24年9月25日付)

薬剤(一般名) 薬剤(商品名) 適応 禁忌 重篤な有害反応 一般的な用法用量 コメントLisinopril ゼストリル,ロンゲス 心不全

高血圧腎機能障害腎血管障害大動脈縮窄症左室流出路狭窄左室流入路狭窄

低血圧(特に初回投与時)腎機能障害頻脈脱毛症持続する乾性咳嗽

経口で0.1mg/kg/日より開始反応に応じて0.5~1mg/kg/日まで増量可最大1日投与量 40mg

ACE阻害薬心不全に対して通常はループ利尿薬と合わせて使用するカリウム保持性利尿薬と併用しない初回導入時は注意深い観察を要する通常は入院とし,血圧と腎機能をモニタリングする

Losartan ニューロタン 心不全高血圧

腎機能障害腎血管障害大動脈縮窄症左室流出路狭窄左室流入路狭窄

低血圧(特に初回投与時)低カリウム血症

0.5mg/kg 1日1回内服2mg/kg 1日1回まで増量可

アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬ACE阻害薬と同様の薬効であるが,ACE阻害薬に特徴的な乾性咳嗽を認めない腎機能障害,肝機能障害を認める場合は投与量を減量する低血圧のリスクがあるため導入時に注意を要する

Milrinone ミルリーラ 心不全低心拍出量ショック

腎不全低血圧

各種不整脈低血圧

30~45μg/kg/時にて持続静注 陽性変力作用と末梢血管拡張作用を併せ持つPDEⅢ阻害薬低血圧のない場合,最初の1時間で50~75μg/kgを点滴静注腎不全時は投与量を減量する 短期間使用に限る

Norepinephrine(Noradrenaline)

ノルアドレナリン 重篤な血管拡張に伴う二次性低血圧 高血圧 高血圧強い血管収縮および末梢虚血各種不整脈

20~100ng/kg/分にて持続静注最大1μg/kg/分まで増量可

Propranolol インデラル 高血圧上室頻拍心室頻拍ファロー四徴症における無酸素発作

気管支喘息房室ブロック低血圧心機能低下

徐脈心不全房室ブロック末梢血管収縮易疲労感

ファロー四徴症:15~20μg/kgを静注,心電図モニター下で100~200 μg/kgまでゆっくり増量可不 整 脈:0.25~0.5 mg/kg 1日3回 内 服,1mg/kg 1日3回まで増量可心電図モニター下で10~50μg/kgを緩徐に静脈

ベラパミルと併用禁忌 腎機能低下,肝機能低下時は投与量を減量する

Sildenafil レバチオ 肺高血圧 低血圧:冠動脈疾患 呼吸困難頭痛視覚障害持続勃起症

1回0.5mg/kgを4~6時間ごとに内服反応に応じて最大2mg/kgを4時間ごと投与まで増量可

肝機能障害,腎機能障害時は投与量を減量する心臓手術後の肺高血圧症や一酸化窒素吸入療法の離脱にも使用される

Sotalol ソタコール 心房粗動上室頻拍心室頻拍

気管支喘息房室ブロック低血圧心機能低下低カリウム血症低マグネシウム血症QT延長

徐脈心不全気管支れん縮房室ブロック不整脈QT時間延長Torsades de pointes

1mg/kg 1日2回内服,必要に応じて3~4日ごとに増量し,4mg/kg 1日2回内服まで増量可(最大1日投与量160mg)

QT時間のモニタリングを行うQT延長を引き起こす他の薬剤との併用を避ける有効血中濃度は0.04~2.0 mg/L

Spironolactone アルダクトンA カリウム保持性利尿薬(抗アルドステロン薬)

高カリウム血症低ナトリウム血症

高カリウム血症低ナトリウム血症肝機能障害女性化乳房骨軟化症

0.5~1.5mg/kg 1日3回内服 主にループ利尿薬とともに用いられるACE阻害薬と同時に投与するべきではない

250 循環器病の診断と治療に関するガイドライン 2012

循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010-2011 年度合同研究班報告)

文  献

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