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2011 年度 修士論文 今後の学校プールの 有効活用に向けた基礎的研究 A Fundamental Study for the Effective Use of School Swimming Pools 早稲田大学 大学院スポーツ科学研究科 スポーツ科学専攻 スポーツビジネス研究領域 5010A064-4 野本 研究指導教員:作野誠一 准教授

今後の学校プールの 有効活用に向けた基礎的研究3 第2 節 研究目的 現在,学校プールの開放率はそれほど上がっていない.学校プールは地域住民の生活圏

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2011年度 修士論文

今後の学校プールの

有効活用に向けた基礎的研究

A Fundamental Study for the Effective Use of

School Swimming Pools

早稲田大学 大学院スポーツ科学研究科

スポーツ科学専攻 スポーツビジネス研究領域

5010A064-4

野本 創

研究指導教員:作野誠一 准教授

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目 次

第 1 章 序論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

第 1 節 研究の背景 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

第 2 節 研究目的 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

第 2 章 先行研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

第 1 節 水泳・水中運動の効果に関する研究 ・・・・・・・・・・・・・・・ 6

第 2 節 プール施設・学校施設に関する研究 ・・・・・・・・・・・・・・・ 9

第 3 節 学校開放の運営管理に関する研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・ 12

第 3 章 研究方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17

第 1 節 分析視点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 17

第 2 節 用語の定義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 18

第 3 節 研究枞組 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19

第 4 節 現状調査(調査Ⅰ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20

第 1 項 調査概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20

第 2 項 調査項目 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 20

第 5 節 利用者調査(調査Ⅱ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

第 1 項 調査概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

第 2 項 評価グリッド法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21

第 6 節 管理者調査(調査Ⅲ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24

第 4 章 結果及び考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26

第 1 節 現状調査(調査Ⅰ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 26

第 2 節 利用者調査(調査Ⅱ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32

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第 1 項 学校屋外プール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32

第 2 項 学校屋内プール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34

第 3 項 公共プール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 35

第 4 項 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 37

第 3 節 管理者調査(調査Ⅲ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 38

第 1 項 学校屋外プール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 39

第 2 項 学校屋内プール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 40

第 3 項 公共プール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 42

第 4 項 小括 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 43

第 4 節 考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45

第 1 項 学校屋外プール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 45

第 2 項 学校屋内プール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 46

第 3 項 公共プール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48

第 4 項 総合的考察 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 49

第 5 章 結論 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53

第 1 節 要約 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53

第 1 項 学校屋外プール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 53

第 2 項 学校屋内プール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 54

第 3 項 公共プール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 55

第 2 節 実践的示唆 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 56

第 3 節 研究の限界及び課題 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 58

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第 1 章 序論

第 1 節 研究の背景

水泳は,種目別運動・スポーツ実施率の調査において,1994 年~2008 年の調査ですべて

上位 10 位以内に入っている(笹川スポーツ財団,2006,2011).また,東京都の調査で

は,今後行ってみたい運動・スポーツの種目として,27.0%の人が「軽い水泳」をあげてい

る(東京都生活文化スポーツ局,2009).花井ら(2007)は,「体力維持・健康増進の有

効な手段のひとつとして,(中略)水泳・水中運動は,生涯スポーツとしても利点が大き

い.また,健康増進や予防医学的な見地から運動処方としても人気が高い」と述べている.

さらに,鈴木ら(2006)は,水泳や水中運動が健康な生活との間に強い関連があることを

明らかにしている.

以上より,水泳は健康に大きな影響を与え,非常に人気のある生涯スポーツの 1 つであ

るとともに,今後ともニーズの高い種目であると思われる.

現在,プール施設は全国で 35,844 施設あるが,そのうち小・中学校のプール(以下:学

校プール)は 25,988 施設であり,全体の 72.5%を占めている(文部科学省,2010).しか

し,水泳を実施する際に学校のプールを利用する利用者の割合は,水泳実施者の 1.4%とき

わめて低い(笹川スポーツ財団,2000).また,篠邉ら(2008)によると,東京都 23 区

で屋内プールを保有している小学校は22校/860校(2.6%),中学校は18校/408校(4.4%)

であり,さらに,屋内プールを通年開放している小学校は 14 校(全体の 1.6%),中学校

は 11 校(全体の 2.7%)であった.利用状況に関しては,学校利用は約 1 割程度で,ほと

んどが一般開放として地域住民に利用されていた.

これらのデータより,全国にあるプール施設の 7 割以上を占める学校プールがほとんど

利用されていないことが分かる.また,ほとんどの学校が屋外プールを保有しているため,

屋外プールの有効活用の方法を考えることが必要であると考えられる.

尾崎(2008)は,学校開放は地域住民のスポーツ活動にとって,また,地域社会の活性

化にとって重要な位置を占めていると述べている.また,作野(2007)は「生活に密着し

たスポーツ活動を展開するうえで『地域スポーツ資源としての学校』が持つ意味はきわめ

て大きい」と述べている.さらに,東京都(2009)の調査では,子どものスポーツや外遊

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び充実のために,「学校の体育施設の有効活用が必要である」と答えた人が 38.2%,スポ

ーツや運動の振興のために「学校体育施設の整備・開放が必要である」と答えた人が 32.2%

といずれも比較的高い割合を示している.しかし,平成 20(2008)年度の全国の学校プー

ルの開放率は 26.7%であり,平成 13(2001)年度の 25.5%と比較してもあまり向上してい

ない(文部科学省,2010).

学校体育施設の開放は地域にとって重要であり,地域住民から学校体育施設の開放・利

用を望む声は高まっているが,実際に開放している学校は尐ない.学校開放はスポーツ振

興だけでなく,地域の活性化にもつながるため,開放率が増加することが望ましいと考え

られる.

多胡ら(1993)は,学校開放の「現状における課題としては,管理運営の組織整備と施

設整備が大きい」と述べており,運営組織や設備についての検討の必要性を示唆した.ま

た,西出ら(2001)は,一般開放による効果・問題点についてのアンケート調査を行った

結果,学校は「負担とならない管理体制の確立を望んでいる」ことが明らかとなった.

笹野(2003)は「管理体制の不備が溺水者の発見の遅れや人工呼吸,救急車の手配不備

などが憂慮される」とし,夏休みの学校プール開放時にも,プール管理に精通した管理責

任者の配置が必要であると述べた.

これらのように,学校開放では運営管理上の問題が指摘されており,運営組織や設備に

ついて検討が必要であると考えられる.また,学校プール開放時にも管理体制を確立させ

ておく必要があると考えられ,運営管理の検討が必要であると考えられた.

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第 2 節 研究目的

現在,学校プールの開放率はそれほど上がっていない.学校プールは地域住民の生活圏

内に必ずあり,全国にくまなく設置されているにもかかわらず,全く有効に使われていな

い状況である.水泳の人気は高く,今後のニーズも高いレベルで推移すると思われること

から,今後は学校プールをより積極的に開放し,有効に利用する必要があると考える.学

校プール開放の現状をたんに利用状況のみならず,利用者と管理者それぞれの視点から分

析・考察することで,今後の学校プール開放を行う際の留意点さらには課題を示し,学校

プール開放率の向上に貢献しうる基礎資料を得ることが期待される.

そこで本研究では,東京都における学校プール開放のタイプを分類するとともに,学校

プール開放の特性を明らかにし,開放のタイプや特性を考慮した今後の運営管理のあり方

について検討することを目的とする.

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<第 1 章 引用・参考文献>

SSF 笹川スポーツ財団(2006)スポーツ白書-スポーツの新たな価値の発見-.SSF 笹川

スポーツ財団:東京.

笹川スポーツ財団(2011)スポーツ白書-スポーツが目指すべき未来-.笹川スポーツ財

団:東京.

東京都生活文化スポーツ局(2009)スポーツ・運動に関する世論調査.

花井篤子・高澤直哉・上田知行(2007)学内トレーニングモニターを対象とした屋内プー

ル開放とその利用状況-北方圏生涯スポーツとしての水泳・水中運動のニーズに関する検

討-.浅井学園大学短期大学部研究紀要,45:35-42.

鈴木大地・松葉剛・稲葉裕・白石安男(2006)健康関連イベント参加者の生活習慣と健康

状態に関する研究-水中運動の影響を中心に-.順天堂医学,52(3):415-426.

文部科学省(2010)平成 20 年度 体育・スポーツ施設現況調査.

SSF 笹川スポーツ財団(2000)スポーツライフ・データ 2000-スポーツライフに関する調

査報告書-.SSF 笹川スポーツ財団:東京.

篠邉雅仁・渡辺富雄・矢野裕芳・伊奈亮人(2008)一般開放学校屋内プールの現状につい

て(東京都区部の場合)-地域における公共スポーツ施設に関する研究その 13-.学術講

演梗概集 E-1,建築計画 I,各種建物・地域施設,設計方法,構法計画,人間工学,計画基

礎 2008:505-506.

尾崎正峰(2008)地域スポーツと学校開放.一橋大学スポーツ研究,27:27-34.

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作野誠一(2007)地域スポーツ経営研究の課題:環境認識から環境醸成へ.体育・スポー

ツ経営学研究,21:27-32.

多胡進・杉山茂一・原正二郎・木村吉男(1993)都市市街地の学校建築における学校開放

の管理・運営及び今後の可能性-学校開放からみた都市市街地の学校建築の配置計画その 3

-.日本建築学会近畿支部研究報告集,計画系(33):389-392.

西出泰久・廣澤博嗣・村上 公哉(2001)地域交流と環境共生からみた小・中学校の高機能

化に関する研究-(その 1)学校施設の複合化・一般開放の有効性と課題-.学術講演梗概集

D-1,環境工学 I,室内音響・音環境,騒音・固体音,環境振動,光・色,給排水・水環境,

都市設備・環境管理,環境心理生理,環境設計,電磁環境 2001:1081-1082.

笹野英雄(2003)学校プールにおける水質管理の重要性(特集 2 地域開放型プールを視野

に入れたこれからの学校プールづくり).スクールアメニティ,18・19(12・1):44-47.

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第 2 章 先行研究

第 1 節 水泳・水中運動の効果に関する研究

笹川スポーツ財団(2010)の調査では,近年,スポーツ実施者が増加しており,1992 年

には 23.7%であった週 1 回以上のスポーツ実施者が,2010 年には 59.0%となり過去最高と

なった(図 2-1).中でも水泳は,種目別運動・スポーツ実施率の調査(笹川スポーツ財団,

2006,2011)において,1994 年~2008 年の調査ですべて上位 10 位以内に入っている(表

2-1).また,東京都(2009)の調査では,加入しているクラブや同好会でのスポーツや運

動において「軽い水泳」が 12.7%となっており,体操に次いで 2 番目に多かった(表 2-2).

さらに,今後行ってみたい運動・スポーツの種目として,27.0%の人が「軽い水泳」をあげ

ていた(表 2-3).

以上のことより,スポーツ実施者が増加している中で,水泳は長年の間,非常に人気の

高いスポーツであるとともに,今後のニーズも高い種目であると言える.

図 2-1 運動・スポーツ実施率の年次推移(笹川スポーツ財団,2010)

23.7

31.5

40.6

45.4

51.4 49.7

55.4

51.5

56.4 59.0

16.1

21.7

27.8

35.2

40.8 40.0

45.3 41.9

45.5

49.1

0

10

20

30

40

50

60

70

1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010

(%)

(年)

週1回以上

週2回以上

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表 2-1 種目別運動・スポーツ実施率(笹川スポーツ財団,2006,2011)

1994 年 1996 年 1998 年 2000 年 2002 年 2004 年 2006 年 2008 年

1 体操 ボウリング ウォーキング

・散歩

ウォーキング

・散歩 散歩 散歩 散歩 散歩

2 ゴルフ(練) ウォーキング

・散歩 ボウリング

体操

ボウリング

ウォーキング ウォーキング ウォーキング ウォーキング

3 ゴルフ(コ) 体操 体操 体操 体操 体操 体操

4 ジョギング・

ランニング 水泳 ゴルフ(コ) 水泳 ボウリング ボウリング ボウリング ボウリング

5 スキー スキー

水泳

スキー

ゴルフ(練)

釣り 水泳

筋トレ

釣り

筋トレ 筋トレ

6 水泳 ゴルフ(練) 海水浴 釣り ゴルフ(コ) 水泳

7 ソフトボール

ゴルフ(コ)

釣り

ゴルフ(コ)

筋トレ

ゴルフ(コ)

海水浴 水泳 海水浴

8 ボウリング 海水浴 ゴルフ(練) 水泳 ゴルフ(練) ゴルフ(コ)

9 テニス ソフトボール 釣り ハイキング 海水浴 ゴルフ(コ) 海水浴 キャッチボール

10 サイクリング ジョギング・

ランニング ハイキング スキー ゴルフ(練) ゴルフ(練)

キャッチボール

釣り サイクリング

表 2-2 加入しているクラブや同好会

(東京都,2009)

順位 種目 (%)

1 体操 27.5

2 軽い水泳 12.7

3 軽い球技 12.0

4 ダンス 9.9

5 室内運動器具での運動 8.1

表 2-3 今後行ってみたい運動・スポーツ

(東京都,2009)

順位 種目 (%)

1 ウォーキング 46.0

2 体操 34.0

3 軽い水泳 27.0

4 軽い球技 18.3

5 ランニング 13.3

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花井ら(2007)は,「体力維持・健康増進の有効な手段のひとつとして,様々なスポーツ

やレクリエーションの実践が挙げられ,その中でも水泳・水中運動は,年間を通じて季節

を問わず実践可能な運動であり,その特性から生涯スポーツとしても利点が大きい.また,

健康増進や予防医学的な見地から運動処方としても人気が高い」と述べた.小林(2003)

は,健康寿命の延命化を実現できる運動施設の代表格は温水プールであり,疲労回復やス

トレス解消,高血圧症を改善する効果があり,浮力や水圧,水の抵抗などによって,筋力

に応じた効率的な運動ができる.また,世代を超えて,1 人でも楽しめる気軽さをもったス

ポーツとして大きな魅力があると述べており,水泳には多くの人にとって大きな効果や魅

力があることを示唆した.また,有吉ら(2001)は,水泳や水中運動は浮力や水圧といっ

た水の特性が,身体に障害のある人や高齢者にとっても効果的な運動であるとしている.

このように,水泳・水中運動は身体に障害のある人や高齢者にとっても行いやすい運動で

あり,生涯スポーツとしての利点が大きいことが分かる.

鈴木ら(2006)は,水泳や水中運動がどのように生活習慣や健康状態に影響しているか

について,対象者を水中運動群,水中運動以外運動群,運動習慣のない群の 3 群に分けて

調査を行った.心理的要因(健康状態や生活満足など)では水中運動群と水中運動以外運

動群が有意に高く,身体的要因(血圧や血液生化学データ等)では水中運動群が有意に高

い値を示した.また,健康な生活に与える影響について因果モデルを作成し,共分散構造

分析を行った結果,定期的な運動習慣のなかでも,水中運動が健康な生活との間により強

い関連があることが示した.川﨑ら(2003)によると,50~74 歳の男女を対象として 6 ヶ

月弱のスイミング健康増進教室を開講し,2 時間弱のスイミングを中心とするトレーニング

を行った.教室開始前と教室終了後の検査項目を比較した結果,血圧や血液生化学の検査

項目の多くが改善されただけでなく,重心動揺性の改善も見られた.また,飛彈ら(2011)

は水中運動によって,イキイキと活気にあふれた状態やリラックスした状態になった人が

多く,水中運動の効果として精神的ストレスの緩和があることを明らかとした.これらの

ことより,水泳・水中運動は身体の状態を改善して健康な生活へ導くだけではなく,心理

的な面にも大きな影響を持っていることが分かる.

以上のことより,水泳・水中運動は長い間にわたって人気の高いスポーツである.それ

は,心身ともに良い効果があり,多くの人にとって魅力があるためだと考えられる.また,

現在は水泳を行いたいというニーズが多いため,今後,多くの人が生涯スポーツとして水

泳・水中運動を実施していくことが期待される.

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第 2 節 プール施設・学校施設に関する研究

広川(1991)は,体育・スポーツ施設の総数について,昭和 44(1969)年には 148,059

だったが,昭和 60(1985)年には 292,117 と 16 年間で約 2 倍に伸びたものの,「その実感

がわいてこない」や「身近なところに施設がない」などの声があるのも事実であり,特に,

ほとんどの小中学校に建設されたプールは,その利用の度合いが極めて低いとマスコミで

もしばしば取り上げられていると述べた.また,文部科学省(2010)によると,全国に 35,844

施設あるプール施設のうち,学校プールは 25,988 施設で全体の 72.5%を占めており,全国

にあるプール施設のほとんどが学校プールであることが分かる(表 2-4).しかし,水泳を

実施する際に学校のプールを利用する利用者の割合は,水泳実施者の 1.4%ときわめて低い

値を示しており(笹川スポーツ財団,2000),数多くある学校プールがほとんど利用されて

いない状況であることが分かる.

表 2-4 全国のプール施設数(文部科学省,2010)

総計 小学校 中学校 高校等 大学・高専 専修 公共 民間 職場

屋内プール 4,529 347 166 266 121 9 1,800 1,702 118

屋外プール 31,315 18,610 6,865 2,691 344 5 2,512 129 159

計 35,844 18,957 7,031 2,957 465 14 4,312 1,831 277

表 2-5 主として利用する施設(水泳)(笹川スポーツ財団,2000)

利用施設 利用率

公共のスポーツ施設 50.0%

民間のスポーツ施設 43.0%

学校のスポーツ施設 1.4%

職場のスポーツ施設 0.5%

その他 5.2%

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東京都(2009)によると,子どものスポーツや外遊び充実のために「学校の体育施設の

有効活用が必要である」と答えた人が 38.2%,スポーツや運動の振興のために「学校体育

施設の整備・開放が必要である」と答えた人が 32.2%といずれも比較的高い割合を示して

いる.しかし,平成 20(2008)年度の全国の学校プールの開放率は 26.7%となっており,

平成 13(2001)年度の 25.5%と比較してもあまり向上していない(文部科学省,2010).

広川(1990)は,新潟県柏崎市内 23 小学校を対象に,小学校プールの稼働状況を調査し,

その実態を把握した.その結果,プールの大きさは児童数の多尐や校地面積の大小に関わ

らずかなり画一的な傾向にあり,夏休み期間も含め,通常は 1 年間の 4 分の 1 以下の期間

しか稼働していないことが問題であると指摘した.また,森ら(2003)は,「学校のプー

ルの維持にかかる経費に比して,その利用の度合いが尐ない」と述べている.これらのこ

とより,スポーツの振興や充実のために学校体育施設の開放・利用を望む声は高まってい

るが,学校プールは有効に活用できていないと言える.

作野(2007)は「生活に密着したスポーツ活動を展開するうえで『地域スポーツ資源と

しての学校』が持つ意味はきわめて大きい」と述べた.また,尾崎(2008)は,学校開放

は地域におけるスポーツをする場となり,地域住民のスポーツ活動にとって重要な活動基

盤の 1 つであるとともに,スポーツ活動を通じて子どもを含めた地域住民相互の交流の促

進など,地域社会の活性化を図ることができる.この 2 つの観点から,学校開放は地域ス

ポーツ振興にとって重要な位置を占めていると述べた.さらに作野(2010)は,「今後,

身近なスポーツ環境の整備を進めていくには,地域網羅的な学校体育施設の効率的・効果

的な活用が強く求められることになるであろう」と述べた.これらのことより,学校体育

施設は地域のスポーツ環境整備にとって重要な位置にあり,効率的な活用が必要であると

言える.また,小林(2003)は,昨今のプールに求められる機能として「競技用・練習用

プール」,「ウェルネスプール」,「リラクゼーションプール」の 3 つをあげており,学

校プールには「子どものときから水に慣れる」,「地域開放」という点を期待している.

また,「せっかくの施設を学校だけのものとして利用するのではなく,休校日や夜間など,

学校が利用しない時間帯に地域に開放することができれば,社会資産としての施設は,よ

り有効活用できる」と述べている.さらに,森ら(2003)は,学校と社会の「両者が互い

に協力しあい,役割を分担しながら連携していくことで,子どもたちの多様なニーズと生

涯スポーツの基礎の部分の学習がよりすすめられるのではないであろうか」と,学校プー

ルの可能性を示唆した.以上より,学校施設はスポーツ振興だけでなく,地域の活性化に

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とっても重要な場所であり,学校と社会が協力して有効活用を進めていくことが必要であ

ると考えられる.

田丸ら(2001)によると,地域住民のプール建設の要望,学校プールの温水化の要望,

プールの空き時間の有効利用,公共施設の用地取得の問題など様々な要因があるため,近

年では,学校プールを学校施設であると同時に,地域住民に開放する共同利用施設として

建設されるプールが現れはじめたと述べられている.そして,東京都の各市区町村に対し

て電話によるヒアリング調査を実施した結果,東京都の小学校 1,415 校のうちプールを保

有している学校は 1,413 校,中学校は 686 校のうち 675 校であった.そのうち,プールの

地域開放を通年で行っている小学校は 11 校,中学校は 13 校であった.また,篠邉ら(2008)

は,東京都 23 区の区立小・中学校プールの現状,利用状況を把握した. 23 区の小学校 866

校のうちプール保有校は 860 校,中学校は 410 校のうち 408 校であり,ほとんどの学校で

プールを保有していた.また,屋内プールを保有している小学校は 22 校(2.5%),中学

校は 18 校(4.4%)であり,通年開放している小学校は 14 校(全体の 1.6%),中学校は

11 校(全体の 2.7%)となっていた.学校屋内プールの利用状況に関しては,学校利用は

約 1 割程度で,使用していない時間を地域住民に開放するかたちをとっており,ほとんど

が一般開放として地域住民に利用されていた.その利用者は幼児から高齢者・障害者まで

多様なニーズがあり,利用目的も水泳,歩行,レクリエーションと様々であった.これら

のことより,屋内プールを保有する学校はまだまだ尐なく,通年で地域開放を行っている

学校プールもきわめて尐ないことが分かる.また,全ての学校に屋内プールを建設し,地

域開放することは容易ではないだろう.そのため,屋内プールだけではなく,屋外プール

についても地域開放も進めていかなければならないと考えられる.

以上のことより,学校プールは全国にあるプール施設の 7 割以上を占めているが,現在

は有効に活用できておらず,学校施設の開放を望む声が高まっている.そのような状況の

中で,地域スポーツの振興,地域の活性化のために開放されている学校施設はまだまだ尐

なく,学校と社会の協力が求められている.また,近年は屋内プールも建設され始めてい

るが,90%以上の学校はまだ屋外プールを保有しているため,屋外プールの有効活用の方

法を考えることが必要であろう.

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第 3 節 学校開放の運営管理に関する研究

多胡ら(1993)は,学校開放に携わっている学校開放職員への聞き取り記録調査を行い,

学校開放の現状や問題点を明らかにした.学校開放は市民のスポーツ需要に応えるという

意味では一定の効果を上げているが「現状における課題としては,管理運営の組織整備と

施設整備が大きい」と述べており,運営組織や設備についての検討の必要性を示唆した.

また,陳・小松(2007)は,学校開放の運営管理に関する課題として,学校職員に負担が

かかりすぎていること,開放時の管理スタッフの確保・資金面を問題点として指摘し,子

どもの安全問題や学校施設の管理運営などにおいて,学校と地域が協力し合う状況がまだ

見られないと述べた.西出ら(2001)は,学校施設の一般開放による効果・問題点につい

てのアンケート調査を行った.その結果,一般利用者の出入りによる防犯,利用禁止区域

への出入り,ごみの放置など,一般利用者の施設利用に伴う項目が開放整備の問題として

多くあがった.また,運営面での教員の負担の増加も問題としてあがったため,学校は「負

担とならない管理体制の確立を望んでいる」ことが明らかとなった.以上より,学校開放

では運営管理上の問題が指摘されており,運営組織や設備,地域との連携などについて検

討が必要であると考えられる.

笹野(2003)は「管理体制の不備が溺水者の発見の遅れや人工呼吸,救急車の手配不備

などが憂慮される」とし,夏休みの学校プール開放時にも,プール管理に精通した管理責

任者の配置が必要であると述べた.また,小林(2003)は,学校プールを一般開放する場

合,「学外者と生徒の施設計画上の動線分離や利用時間帯の分離,不審者侵入の防止など,

生徒の安全を確保」する必要があることを示唆した.これらのように,学校プール開放時

には,プール管理に精通した責任者の確保や児童生徒の安全確保など,管理体制を確立さ

せておく必要があると考えられる.

学校開放において,陳・小松(2007)は,コミュニティ拠点としての学校整備のために

は,学校を取り巻く地域社会の人々の想いと教育現場の声を取り入れられる体制が重要で

あるとし,趙(1990)は,学校側と地域住民とが計画の段階から管理・運営に至るまで強

力な協力体制を組むことが要件であると述べた.また,斎尾ら(1999)は,公立小・中学

校においては,地域施設としての活用が新たな課題である.そのため,教育委員会と学校

の相互の立場を超えた連携,行政から学校への指導と支援,地域の協力が必要であると述

べた.これらのことより,学校開放の運営を円滑に進めるためには,学校は地域住民との

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13

連携だけでなく,行政との連携や支援が必要であることが考えられる.

以上のことより,学校開放は地域住民への効果はある一方で,運営管理上の問題が多く

指摘されており,学校プール開放においても管理体制の確立が求められているため,運営

管理の検討が必要であると考えられる.また,学校開放の運営組織は地域や行政との連携

も必要であろう.

さらに,これまでに学校プール開放に焦点を当てた研究はあるが,プール利用者および

管理者それぞれを対象にして統合的に分析を加えた研究は見当たらない.

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14

<第 2 章 引用・参考文献>

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SSF 笹川スポーツ財団(2000)スポーツライフ・データ 2000-スポーツライフに関する調

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篠邉雅仁・渡辺富雄・矢野裕芳・伊奈亮人(2008)一般開放学校屋内プールの現状につい

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演梗概集 E-1,建築計画 I,各種建物・地域施設,設計方法,構法計画,人間工学,計画基

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17

第 3 章 研究方法

第 1 節 分析視点

本研究では,学校プールの有効活用について検討するため,東京都内の学校プールがど

のように開放されているのかを調査し,学校プール開放の現状について把握する.

また,学校屋外プール利用者,学校屋内プール利用者,公共プール利用者に評価グリッ

ド法(後述)を用いた調査を行い,それぞれのプール利用者についての評価構造モデルを

作成・比較をすることで,学校プール利用者の特性を明らかにする.施設選択の要因と利

用者の心理面,施設の具体的な状況を明らかにすることで,利用者が持つ評価のメカニズ

ムを構造的に理解するとともに,ニーズの全体像を把握することが期待される.

さらに,学校プール開放の管理者に調査を行い,学校プールがどのように認識され,ど

のようなことを期待して開放しているのかを聞くことで,学校プールの特性を明らかにす

る.ここでは,管理者へのインタビューを通じて,現場の声を把握することが期待される.

最後に,開放の現状と利用者,管理者の両視点から学校プール開放の現状や課題につい

て考察し,開放のタイプや特性を考慮した今後の学校プール開放の運営管理のあり方につ

いて検討する.ここでは,複数の視点から考察を行うことで,実現可能な,また利用者と

管理者の双方にとって良い施設,効率の良い運営方法が検討される.

なお,学校開放時には,行政との連携が必要であるとともに,学校屋外プールや学校屋

内プールの特徴を明らかにするために,公共プールを調査対象として扱うこととした.

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第 2 節 用語の定義

本研究では,学校プール開放のタイプを分類し,それぞれのタイプについて分析・考察

を行った.本節では本研究で用いた用語について定義する.

①学校屋外プール

本研究では,学校屋外プールを「学校施設として建設された屋外プールであるが,夏季

に学校授業以外を目的として開放され,児童生徒や地域住民が利用できるプール」と定義

した.

②学校屋内プール

本研究では,学校屋内プールを「学校施設として建設された屋内プールであるが,1 年を

通して学校授業時以外に開放され,児童生徒や地域住民が利用できるプール」と定義した.

③公共プール

本研究では,公共プールを「学校施設としてのプールではなく,地域住民が自由に利用

でき,市区町村が管理しているプール」と定義した.

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第 3 節 研究枞組

本研究の目的である,今後の学校プール開放の運営管理のあり方について検討するため

の研究枞組として,図 3-1 を設定した.まず,東京都内の学校プールの現状を把握する(調

査Ⅰ).次に,調査Ⅰの結果をもとに調査対象を選定し,利用者への調査によって学校プー

ル利用者の特性を明らかにする(調査Ⅱ).その後,管理者に調査を行い,学校プールの特

性について明らかにする(調査Ⅲ).かかるのちに,3 つの調査の結果から学校プール開放

の現状や課題について考察を行い,開放のタイプや特性を考慮した今後の学校プール開放

の運営管理のあり方について検討及び提言を行う.

図 3-1 研究枞組

調査Ⅰ:現状調査

(第 4 章 第 1 節)

調査Ⅲ:管理者調査

(第 4 章 第 3 節)

学校プールの特性

現状・課題 比較

学校屋外プール

学校屋内プール

公共プール

調査Ⅱ:利用者調査

(第 4 章 第 2 節)

学校プールのあり方

提言・提案

(第 4 章 第 4 節)

利用者の特性

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第 4 節 現状調査(調査Ⅰ)

第 1 項 調査概要

調査Ⅰでは,学校プール開放の現状について調査を行った.学校プール開放は全ての都

道府県,全 6,601 校において実施されている.その中でも,学校プール開放をしている市

区町村数が 34,開放校数は 467 校と,東京都がともに全国で最も多かった(文部科学省,

2010).そのため,同一都道府県内で多くの自治体から学校プールについてのデータを収集

でき,想定されるタイプの学校プールが十分に存在すると考えられた.また,利用者調査,

管理者調査でのデータ収集の可能性を考慮し,本研究では東京都内の学校プールを調査対

象とした.東京都内の各市区町村の学校プール開放担当者に調査への協力を依頼し,質問

紙を E メールで配布・回収した.なお,調査期間は 2011 年 7 月中旬~9 月中旬であった.

第 2 項 調査項目

質問項目は学校名,施設タイプ(屋内プール,屋外プール),開放日数,開放の時間帯(午

前,午後),開放の対象(児童生徒のみ,児童生徒+保護者,地域住民),延べ利用人数,

運営団体(行政,教育委員会,地域住民,民間企業),プログラム(有,無),料金(有料,

無料)とした(巻末資料を参照).

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第 5 節 利用者調査(調査Ⅱ)

第 1 項 調査概要

調査Ⅱでは,プール利用者を対象として調査を行った.調査Ⅰの結果を考慮し,学校屋

内プールと学校屋外プールを保有,一般開放しており,夏季の学校プール利用者が最も多

かった目黒区を調査対象として選定した.調査場所は五本木小学校屋内プール,緑ヶ丘小

学校屋内プール,碑小学校屋内プールとし,当該プールの利用者に対して評価グリッド法

を用いたインタビュー調査を行った.なお,調査期間は 2011 年 11 月中旬の 6 日間であっ

た.

第 2 項 評価グリッド法

評価グリッド法とは,「消費者が持つ評価構造を明らかにし,視覚的に表現することを可

能にする」手法である(瓦ら,2009).評価グリッド法の最大の特徴は「比較評価→その理

由」という形式を採用したことで,回答者のニーズの言語化を容易にしている点である.

第 2 の特徴は,回答者には 100%の回答の自由を確保しつつも,調査自体は一定の手順に従

って進められる点である.したがって,誰が行っても安定した結果を期待できると共に,

インタビュアーの主観の混入も最小限に抑えられるとされる(讃井,2003).

調査手順として第 1 段階では,比較対象物を用いて回答者自身の評価項目を抽出する.

グループ間の評価の差異が生じた理由を聞き出すという便法をとることが多い.そのため

本研究では,「他のプール施設ではなく,そのプールを選択した理由は何ですか」と問いか

け,他のプールとの差異が生じた理由を聞き出すこととした.第 2 段階では,第 1 段階で

抽出されたすべての評価項目について,ラダーリングと呼ばれる関連評価項目の誘導を行

う(讃井,2003).ラダーリングとは,「あるコンストラクトの上位・下位のコンストラク

トを抽出するための技法」である.この技法によって評価項目相互の関連を明らかにする

ことが可能であり,評価のメカニズムを構造的に解明する上で非常に有効である(讃井・

乾,1986).したがって本研究では,上位項目である心理的な項目を誘導するために「あな

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22

たにとって,○○(第 1 段階で抽出した項目)はどのような良い点がありますか」と問い

かけ,下位項目である物理的な項目を誘導するために「○○とは具体的にどのような状態

ですか」と問いかけることとした.

インタビューのとりまとめはそれほど難しくなく,個々のインタビュー記録を整理して

清書することで,その回答者の評価構造モデルが作成される.また,全体像を把握するた

めに,調査対象者全体を単位とした評価構造モデルを作成する.本研究では「施設選択の

要因」を中央に,その要因から得られた上位項目を左に,下位項目を右に表記することで

全体の評価構造モデルを作成した.全体の評価構造モデルは個人の評価構造を重ね合わせ

ることによって得られ,当該商品やプロダクト,サービス等に対する評価視点の広がりと

その構造を示している.さらに各評価項目やその関連の出現度数を検討すれば,これらが

対象集団においてどの程度広く共有されているか,どの程度重視すべきか,おおよその見

当をつけることができるとされる(讃井,2003).

金子ら(2008)は,被験者 20 名(男性 7 名,女性 13 名)を対象に,評価グリッド法を

用いて,図書館の閲覧室の評価に関わる要素をまとめた.得られた項目から評価構造モデ

ルを作成した結果,同じ要因でも利用者によってとらえ方や要求が異なった.また,本が

大量に見える空間の方が好まれており,本が見えることにより様々な精神的要素作用が起

こることを明らかにした.また,丸山ら(1998)は,電子メールを用いた評価グリッド法

の方法の検討,その事例への適用と,適用例を通した手法の検討を行った.電子メールで

は複数回の設問や返答が容易であり,否定的表現の変更や記述内容などへの質問があれば

補足質問を行うことも可能である.評価項目の抽出までを第 1 回目のメール,ラダーリン

グを第 2 回目以降のメールで扱った.ガソリンスタンドの利用者で,電子メールを使用し

ている 18 名(男性 17 名,女性 1 名)を対象に調査を行った結果,電子メールで得られた

回答をもとに全体の評価構造モデルを作成し,利用者がガソリンスタンドを選択する際の

要因を挙げることができた.よって,電子メールでも評価グリッド法を実施することが可

能であることが確認できた.また,利用者がガソリンスタンドを選択する際の要因として,

ガソリン価格,日常経路,営業時間,店舗併設,店員の対応,混雑,その他といった 7 つ

の要因があげられた.北田ら(2010)は,誰でも簡単に回答でき,最も馴染み深いであろ

う質問紙調査による評価グリッド法と,それを適用するための検討を行った.白紙回答を

防ぐために健康だと感じる「行動場面」を 5 つ聞き出し,具体例を記入させた.その後,

行動場面ごとにラダーリングを行うことで白紙回答をなくし,うまくラダーリングが行え

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るようになった.74 名(男性 44 名,女性 30 名)を被験者とし,健康という概念について

質問紙調査を行った結果,カテゴリーを運動,食事,睡眠,入浴,家族,自然,試行,趣

味,仕事,その他の 10 に分類し,評価構造モデルを作成することができた.

以上のように,現在では,評価グリッド法は様々な業界において,様々な調査方法で用

いられている.そのため,本研究の対象者である学校プール利用者に対しても,評価グリ

ッド法を用いての調査は有効であり,評価構造モデルの作成は可能であると判断した.ま

た,調査方法はインタビュー方式を採用した.インタビュー時は,了解を得たうえでレコ

ーダーによって録音しながら調査を行った.

本研究での調査の手順として,第 1 段階では,「そのプールを選択した理由」について,

他の施設との評価の差異から評価項目を得た.第 2 段階では,得られた評価項目に対して,

「あなたにとって,○○はどのような良い点がありますか」,「○○は具体的にどのような

状態ですか」といった問いを投げかけ,上位概念・下位概念をラダーリングによって導き

出した.利用したことのあるプール(学校屋外プール,学校屋内プール,公共プール)に

ついて質問し,回答を得た後,それぞれのプール利用者全体の評価構造モデルを上述の手

順にしたがって作成した.

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第 6 節 管理者調査(調査Ⅲ)

調査Ⅲでは,それぞれのプールの特性を明らかにするために,目黒区のプール管理者に

インタビュー調査(半構造化インタビュー)を行った.インタビュー時は,了解を得たう

えでレコーダーによって録音しながら調査を行った.対象者は,プール管理を担当してい

る目黒区文化・スポーツ担当部スポーツ振興課の A 氏,B 氏,C 氏であった.質問項目は,

それぞれのプール(学校屋外プール,学校屋内プール,公共プール)について,施設の特

徴やねらい,利点や改善点についてであった(質問項目については巻末資料を参照のこと).

なお,調査日時は 2011 年 12 月 2 日であった.

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<第 3 章 引用・参考文献>

文部科学省(2010)平成 20 年度体育・スポーツ施設現況調査.

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グリッド法の現状と課題-.品質,33(3):13-20.

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丸山玄・讃井純一郎・宇治川正人(1998)電子メールを用いた評価グリッド法の開発-魅

力あるガソリンスタンドの条件に関する調査研究-.学術講演梗概集 D-1,環境工学 I,室

内音響・音環境,騒音・固体音,環境振動,光・色,給排水・水環境,都市設備・環境管

理,環境心理生理,環境設計,電磁環境:839-840.

北田修平,大井尚行,高橋浩伸(2010)健康とは何か-評価グリッド法を応用した検討-.

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26

第 4 章 結果及び考察

第 1 節 現状調査(調査Ⅰ)

東京都内の 62市区町村のうち,学校プールの開放を行っている市区町村は 36 であった.

さらに,開放を行っている 36 の市区町村に質問紙を配布した結果,32 の市区町村から回答

を得た.回収率は 88.9%であった.なお,回答はすべて平成 22 年度の実績とした.

各市区町村において学校開放を行っているプール施設数(校数)の一覧を表 4-1 に示す.

東京都内では,308 校が学校プールの開放を行っていた.一番多く開放しているのは町田市

の 43 校で,1 校しか開放していない市区町村もいくつか見られた.このように,市区町村

間で開放校数に大きな差があることが分かる.また,全般的に区部で平均的に多く開放さ

れており,開放に対して積極的な姿勢であると考えられる.施設タイプを見ると,開放さ

れている屋内プールは 46 校,屋外プールは 262 校であった.屋外プールが 8 割以上を占め

ており,学校プール開放のほとんどは屋外プールで行われていることが分かる.

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表 4-1 市区町村ごとの学校プール開放施設数(校数)

市区町村 施設

合計 屋内 屋外

足立区 0 23 23

江戸川区 0 3 3

葛飾区 0 15 15

北区 1 0 1

品川区 4 9 13

渋谷区 2 19 21

新宿区 0 26 26

杉並区 0 17 17

世田谷区 4 9 13

台東区 1 0 1

中央区 2 3 5

千代田区 5 0 5

中野区 2 0 2

練馬区 0 8 8

文京区 4 6 10

港区 8 5 13

目黒区 4 9 13

昭島市 0 4 4

稲城市 0 7 7

青梅市 0 1 1

国立市 0 4 4

国分寺市 0 10 10

多摩市 1 1 2

調布市 1 19 20

西東京市 2 1 3

八王子市 0 12 12

町田市 3 40 43

武蔵野市 1 0 1

奥多摩町 1 0 1

八丈町 0 6 6

青ヶ島村 0 1 1

小笠原村 0 4 4

合計 46(14.9%) 262(85.1%) 308

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表 4-2 より,屋内プールと屋外プールでは,開放期間が基本的に異なることがわかる.ま

た,表 4-3 より,延べ利用人数についても大きな差があった.本研究では,開放のタイプを

分類し,考察を行うことが目的であることから,1 年中利用可能で多くの人が利用する屋内

プールと,夏季のみ利用可能な屋外プールに分類したうえで,施設タイプ別に考察を行う.

表 4-2 施設タイプと開放期間

開放期間

1 年中 夏季のみ 合計

施設 屋内 34 12 46

屋外 0 262 262

合計 34 274 308

表 4-3 延べ利用者数

屋内プール 887,137

屋外プール 126,128

合計 1,013,265

以下では,施設タイプごとにみた開放時間,開放対象,運営団体,プログラム,料金と

の関係について検討する.

表 4-4 は施設タイプと開放時間のクロス表である.屋内プールは 1 日中開放されている

プールがほとんど(93.5%)である.また,屋外プールも 1 日中利用できるプールが多い

(69.1%)ものの,半日しか利用できないプールもかなりみられた(30.9%).

表 4-4 施設タイプと開放時間

開放時間

午前のみ 午後のみ 1 日 合計

施設 屋内 0 3 43 46

屋外 41 40 181 262

合計 41 43 224 308

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表 4-5 は施設タイプと開放対象のクロス表である.屋内プール,屋外プールともに地域住

民が開放対象となっているプールがほとんどであった.多くの学校で,地域住民にプール

を利用する機会が提供されている.屋外プールは「児童生徒のみ」,「児童生徒+保護者」

を対象としているプールも多く(併せて 43.5%),夏休みに子どもたちが泳いだり遊んだり

する場所になっていると考えられる.

表 4-5 施設タイプと開放対象

対象者

児童

生徒のみ

児童生徒

+保護者 地域住民

合計

施設 屋内 1 1 44 46

屋外 85 29 148 262

合計 86 30 192 308

表 4-6 は施設タイプと運営団体のクロス表である.運営については,屋内プールでは民間

企業に委託しているところが多かった(54.3%).地域住民を対象として 1 年中開放してい

るため,常に一定の質を保つ必要からノウハウを持つ民間企業への委託が多くなっている

のではないかと考えられる.また,屋外プールでは,地域住民が中心となって運営してい

る学校が多かった.その学校の PTA やボランティアで運営していると考えられ,行政と学

校,地域住民の間で連携がとれているのだろう.

表 4-6 施設タイプと運営団体

運営団体

市区町村 教育委員会 地域住民 民間企業 合計

施設 屋内 7 7 7 25 46

屋外 26 32 149 55 262

合計 33 39 156 80 308

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表 4-7 は施設タイプとプログラムのクロス表である.屋内プールでは,水泳教室やアクア

ビクスといったプログラムの有無にほとんど差はなかった.プールごとに利用者のニーズ

に合わせて対応しているものと推測される.また,屋外プールではプログラムを行ってい

ないプールがほとんどであった(96.2%).期間限定の開放であり,運営主体が地域住民で

あるため,プログラムが尐なく,場の提供にとどまっているプールが多いのではないかと

考えられる.

表 4-7 施設タイプとプログラム

プログラム

有り 無し 合計

施設 屋内 24 22 46

屋外 10 252 262

合計 34 274 308

表 4-8 は施設タイプと料金のクロス表である.屋内プールは無料が尐なく(23.9%),屋

外プールは無料が多かった(90.1%).屋内プールは温水・空調をはじめとする設備を整え

ており,通年利用が多いことから,施設維持にコストがかかっているため有料にしている

のではないか.これに比べて,屋外プールは比較的コストがかからないことから,無料が

多いのではないかと考えられる.

表 4-8 施設タイプと料金

利用料金

有料 無料 合計

施設 屋内 35 11 46

屋外 26 236 262

合計 61 247 308

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調査Ⅰで得られた結果を要約し,表 4-9 に示す.屋内プールは 1 日中開放され,地域住

民が開放対象となっているところがほとんどであった.また,常に一定の質を保つ必要が

あるために民間企業へ委託し,施設にコストがかかるので有料にしているところが多かっ

た.そして,プログラムの有無についてはほとんど差がなかった.屋外プールについても 1

日中利用できるところが多く,地域住民が開放対象となっているところがほとんどであっ

た.しかし,半日しか利用できないところや児童生徒のみ,児童生徒+保護者を対象とし

ているところもみられた.運営は地域住民が中心となっているところが多く,プログラム

を行っていないところがほとんどであった.また,料金については無料のところが多く,

施設維持に比較的コストがかからないと考えられた.

表 4-9 屋内プールと屋外プールの比較

屋内プール 屋外プール

施設数 46(14.9%) 262(85.1%)

開放期間 1 年中 夏季のみ

開放時間 1 日中 1 日中

開放対象 地域住民 地域住民

運営団体 民間企業 地域住民

プログラム 有り・無し 無し

料金 有料 無料

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第 2 節 利用者調査(調査Ⅱ)

調査Ⅱでは,学校プール利用者の特性を明らかにするために,学校屋内プールの利用者

を対象に,学校屋外プール,学校屋内プール,公共プールについて,評価グリッド法を用

いたインタビュー調査を行った.回答者は 94 名(男性:52 名,女性:42 名)であった.

評価構造モデルの中央に「施設を選択した要因」を示した.また,その要因からのラダー

リングで得られた「心理的な項目」を左に,「物理的な項目」を右に表記した.なお,評価

構造モデルの( )内の数字は回答者数を示している.

第 1 項 学校屋外プール

学校屋外プールについて,18 名(男性:11 名,女性 7 名)の回答が得られた.得られた

回答をもとに,全体の評価構造モデルを作成した(図 4-1).

図 4-1 学校屋外プールの評価構造モデル

学校屋外プールを選択する際の要因として,「近い」,「安い」,「屋外プール」,「子供が通

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っている学校」,「仲間の存在」,「学校施設」,「子供と触れ合える」といった 7 つの要因が

あげられた.その中でも「近い」が 10 人と最も多く,多くの人がプールを自宅からの近さ

で選択していた.しかし,モデルを見ると 10 分圏内からの利用者しかおらず,学校の近く

に住む人にしか利用されていない状況である.また,「近い」という同じ要因でも,「すぐ

行ける」や「時間の節約になる」,「気が楽」など,利用者によってとらえ方に違いが見ら

れた.さらに,「日光に当たる」や「日焼けができる」といった項目や,そこから得られる

「気持ちよい」という感情や「開放感」も評価され,屋外プール特有の項目があげられた.

「友達」や「先生」といった「仲間の存在」も利用の際に必要となっており,そこから得

られる「安心感」や「仲間意識」も利用する要因になっていた.個人で利用するだけでな

く,仲間と一緒に遊びに行く場所となっているのだろう.

また,学校屋外プールを利用したことがない人に対して,学校屋外プールについての意

見を聞いた結果を以下に示す.なお,( )内の数字は回答者数を示している.

・日焼けがいやだ.(11)

・子どもと一緒に行く場所.子どもと一緒であれば行く.(3)

・子どもが遊ぶ場所というイメージがある.(4)

・近くなければ行かない.(4)

・遊具などがないと行かない.(2)

・プログラムがないと行きづらい.(3)

・更衣室,シャワーなどの設備がしっかりと整備されていないといやだ.(7)

・屋外プールは学校の施設というイメージが強く,行きにくい.(3)

・水深が浅すぎる.(3)

・情報があまり入ってこない.(7)

・朝から夜まで利用できれば,時間が空いた時に行ける.(1)

・期間が短いため,予定を合わせづらい.(1)

これらの意見より,学校屋外プールは「子どもが利用する場所である」というイメージ

が強いため,プールを開放するだけでは利用しづらく,遊具やプログラムといった魅力や

きっかけ作りが必要であることが分かる.水深や更衣室などの施設面についても利用を阻

害する要因となっており,改善の必要があるだろう.また,短い期間の限られた時間でし

か利用できないこともマイナスに働いているようである.

以上より,学校屋外プールは近隣の住民のみ,10 分圏内からの利用者しかいない状況で

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あり,家からの距離でプールを選択している人が多かった.また,屋外の特徴である直射

日光や日焼けといった項目が評価されているため,夏季の屋外プールの特徴をアピールし

て情報発信をしていく必要があるだろう.しかし,直射日光や日焼けという項目はマイナ

スのイメージも強く,学校屋外プールの短所にもなっている.また,親子や友達を誘って

利用しやすくするために,プログラムやイベントを実施することも利用者を増加させるた

めに重要なことだろう.また,プログラムやイベントを実施することで,遠くからの利用

者を集めることができるのではないかと考えられる.

第 2 項 学校屋内プール

学校屋内プールについて,53 名(男性:24 名,女性:29 名)の回答が得られた.得ら

れた回答をもとに,全体の評価構造モデルを作成した(図 4-2).

図 4-2 学校屋内プールの評価構造モデル

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学校屋内プールを選択する際の要因として,「近い」,「安い」,「屋内プール」,「施設がき

れい」,「施設が良い」,「学校施設」といった 6 つの要因があげられた.対象者のほとんど

が「近い」という要因をあげているが,学校屋外プールと同様,利用者によってとらえ方

に違いが見られた.また,近ければ「天気や季節」,「化粧」を気にする必要がないため「気

が楽」で,「気軽」に利用できるようであり,近さは重要な要因であると言える.施設まで

の交通手段は徒歩,自転車,バスと多様であり,20 分ほどかけて利用している人もいた.

学校屋外プールと比較すると,より遠くからの利用者がおり,施設までの所要時間や交通

手段に大きな違いが見られた.利用料金も重要な要因の 1 つとなっており,利用料金であ

る 300 円や 150 円を「安い」と感じている人が多かった.家から 20 分以内で行くことがで

き,安く使えることが,気軽に続けられるプールの条件であると言える.また,施設につ

いての項目も多くあげられた.水着 1 枚で利用する場所であるため,水質管理や施設内の

清掃が徹底され,清潔感や快適さが保たれていることが利用者にとって重要になっている.

さらに,学校施設という要因もあがった.自分や子どもが通っていた学校であるため安心

感や親近感があり,利用しやすいようである.これは,学校に併設されたプール特有の項

目であると考えられる.

第 3 項 公共プール

公共プールについて,23 名(男性 17 名,女性 6 名)の回答が得られた.得られた回答

をもとに,全体の評価構造モデルを作成した(図 4-3).

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図 4-3 公共プールの評価構造モデル

公共プールを選択する際の要因として,「近い」,「安い」,「施設が良い」,「施設がきれい」,

「公共の施設」といった 5 つの要因があげられた.他のプールと同様に「近い」という要

因が多くあげられた.利用者は徒歩だけでなく,自転車や車,バスを利用している人も多

かった.また,施設に関する項目も多くあげられ,近さと同様に施設面を重視していると

考えられる.「施設が良い」という同じ要因でも「快適」や「安心感」,「気が楽」など,利

用者によってとらえ方に違いが見られた.プールが広く,50m プールやプールが複数ある

ことも満足感を得るための要因となっている.プールについての項目が多くあがったこと

から,水中ウォーキングをしたい人よりも,より良い施設で快適に泳ぎたいという人が多

く利用しているのではないかと考えられる.「安い」ことも利用の要因となっており,施設

が良く,管理が行き届いている公共施設を 300 円や 150 円で利用できることに満足し,利

用していると考えられる.

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第 4 項 小括

全てのプールにおいて「近さ」と「安さ」が重視されていた.プール利用者は,まず自

宅からの距離と利用料金を確認してからプールを選択・利用していると考えられる.しか

し,「近い」という同じ要因でも,施設によって利用者が施設までかける時間に違いが見ら

れた.学校屋外プールは 10 分圏内からの利用者しかいなかったが,学校屋内プールと公共

プールでは 20 分かけて施設まで行く利用者もいた.施設までの所要時間に違いが見られ,

施設によって,利用者が利用しようと思う距離や時間のとらえ方に大きな違いがあった.

学校屋外プールについては,日光や日焼けという屋外プール特有の項目があげられ,開

放感や気持ちよさが評価されていた.しかし,反対に日焼けを嫌う人も多く,屋外プール

の特徴が阻害要因ともなっていた.また,個人で利用するだけでなく,仲間と一緒に利用

する場所となっているようである.

学校屋内プールでは,水質や施設のきれいさが求められており,学校施設であることが

利用要因としてあがった.施設や機能は公共プールと同じ屋内のプールでも,学校施設で

あることによって,利用者は安心感,親近感を感じるようであった.公共プールでは,プ

ールの広さや数といった施設の良さが求められていたため,より良い施設で快適に泳ぎた

いという人が公共プールを多く利用しているのではないかと考えられる.

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第 3 節 管理者調査(調査Ⅲ)

調査Ⅲでは,学校プールの特性を明らかにするためにプール管理者にインタビュー調査

を行った.対象者は,目黒区文化・スポーツ担当部スポーツ振興課の A 氏,B 氏,C 氏の 3

名であり,調査日時は 2011 年 12 月 2 日であった.表 4-10 に目黒区の概要について示す.

表 4-10 目黒区の概要(2011 年 12 月 1 日現在)

人口 262,667 人 23 区中 13 番目

世帯数 141,633 世帯 23 区中 15 番目

面積 14.70 ㎢ 23 区中 16 番目

人口密度 17,869 人/㎢ 23 区中 6 番目

区立学校数 32 校

(小学校:22 校,中学校:10 校) 23 区中 17 番目

また,目黒区の方針について,インタビュー調査より得られた結果を要約し,以下に示

す.

<区の方針>

目黒区では,区を 5 地区に分けて環境整備を行っている.そのため,区が設置した屋内プ

ールがそれぞれの地区に 1 施設ずつあり,区民が利用できるようになっている.また,現

在,目黒区の財政は非常に厳しい状況になっており,緊急財政対策に取り組んでいる.そ

の中で,プール事業も見直しの対象になっている.そして,学校屋内プールと公共プール

では開放日の減尐や開放時間の短縮,学校屋外プールでは開放日数の減尐といった措置が

取られる予定である.

以上より,目黒区は,相対的に人口は多くないが人口密度が高い住宅街であることがわ

かる.また,区民のために区内に 5 つの屋内プールが整備されており,区内のどこに住ん

でいても,泳ぐ場所が自宅の近くに提供されている.つまり,プールを利用したい人にと

って,環境が整備されている状況であると言える.しかし,現在は財政が厳しい状態にあ

るためプール事業が見直しの対象になってしまっている.効率のよい運営方法を見つけ出

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すことが必要であると考えられる.

第 1 項 学校屋外プール

毎年夏休み中に,一部の区立小・中学校で屋外プールを一般開放しており,区民が利用

できるようになっている.一般開放できるようなプールや更衣室などの設備が整った学校

のプールを開放しており,屋外プールを一般開放しているのは烏森小学校と不動小学校,

鷹番小学校,向原小学校,月光原小学校,八雲小学校,宮前小学校,中根小学校,緑ヶ丘

小学校,第十中学校の全 10 校であった.学校屋外プールの概要は表 4-11 に示す通りであ

る.

表 4-11 学校屋外プールの概要

利用料金 無料

利用時間 10:00~12:00,13:30~15:30,(18:00~20:00)

プールの大きさ 25m×10m(6 コース)

水深 水深 0.9~1.1m,(中学校:1.2~1.5m)

コース割り 学校によって異なる.その場の状況で対応する.

開放日数 10 日間 or 15 日間

プログラム 無し

以下,学校屋外プールについて,インタビュー調査によって得られた結果を要約する.

<運営について>

学校屋外プールの運営は,各学校の学校開放運営委員会が行っている.学校開放運営委

員会は,学校によって多尐異なるが,主に,副校長や体育指導委員,PTA,町会から成る

委員会で,プールや校庭,体育館といった学校施設開放の運営を行っている.学校開放運

営委員会がプール開放を実施するのか,開放日,開放日数を決定し,開放の準備や運営を

行っている.

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<特徴>

・夏休み中の子どもたちの居場所として,子どもたちに向けて開放している.学校施設

の有効活用であり,一般利用者のために配慮はされていない.

・夏休みだけの開放だが,最寄りのプールを無料で利用でき,それなりに人気はある.

・プールに照明が設置されている学校は,夜間も利用できる.

<長所>

・地域住民が主体となって開放しているため,地域と学校の連携が図れている.

・学校施設なので,子どもたちだけで来やすい.

・無料なので,子どもたちだけで来やすい.

<短所>

・開放までの準備に時間と費用がかかる.

・監視員や受付の人を確保するのに苦労している.

・専任の監視員ではないため,監視業務に不安がある.

・トイレなどの設備が汚いときがある.

・開放しなくてはいけないという義務感を感じており,やめるにやめられない.

以上より,主に子どもたちに向けて開放されているため,子どもだけでも行きやすい場

所になっており,夏休みの子どもたちの遊び場,居場所の 1 つとなっているようである.

また,地域住民が主体となって運営しているため,学校と地域の連携が図れており,学校

が地域を,地域が学校を知ることのできる機会となっていた.しかし,地域住民が運営主

体であるため,監視や清掃に不安要素も見られた.また,準備から運営まで運営者にかか

る負担が大きく,苦労しているようである.しかし,毎年ある程度の利用者がいて,その

人たちからの感謝や期待の声を聞くとやめられない状況になっているようであり,運営者

への負担が減るような準備・運営の方法を考える必要があるだろう.

第 2 項 学校屋内プール

緑ヶ丘小学校,碑小学校,五本木小学校の 3 校には,屋内プールが併設されている.こ

れら 3 校では 1 年を通して一般開放されており,地域住民が利用できる.学校屋内プール

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の概要は表 4-12 に示す通りである.

表 4-12 学校屋内プールの概要

利用料金(2 時間) 大人:300 円,子ども・高齢者(65 歳以上)・障害者:150 円

利用時間 9:00~22:00

プールの大きさ 25m×12.5m(6 コース)

水深 1.1m

コース割り ウォーキングコース,遊泳コース,フリーコース

プログラム 有り(水泳指導,アクアビクス,ウォーキング)

貸切利用 有り(全面,半面)

以下,学校屋内プールについて,インタビュー調査によって得られた結果を要約する.

<学校屋内プールができた経緯>

5 地区の環境整備を進めていくなかで,新しくプールを建設する土地がなかった.その

ため,学校の改築時期に合わせて,学校プールを地区プールとして整備した.

<特徴>

・学校教育での利用が優先であり,その時間帯は一般開放していない.それ以外の時間

を一般開放している.

・機能として,学校プールと公共プールが一緒になっているという形.

・運営は民間企業に委託している.

<長所>

・その学校に通う子どもが行きやすい.

・子どもが通う学校,授業で使う場として,親も親近感も持ちやすい.

<短所>

・他の学校に通う子どもが行きづらい.

・夏季に学校利用が増えるため,一般開放できない.

・学校施設として,設備の設置や改修に制限がある.(ジャグジー,自動販売機など)

・運営者や利用者に,学校施設という意識や抵抗感がどこかにあるのではないか.

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以上より,学校施設であるが,1 年を通して地域住民のために開放されており,学校と地

域の共同利用が進んでいると言える.プログラムや貸切利用も行っているため,継続的に

利用している利用者も多いのではないかと考えられる.また,その学校の子どもやその保

護者にとって利用しやすい場所になっており,授業時以外でも気軽に利用できる場所とな

っているようである.しかし,他の学校に通う子どもにとっては学校施設であることが大

きな壁になってしまい,気軽に利用できなくなっている.さらに,学校施設であるという

意識がどこかにあり,遠慮がちになっている利用者もいるのではないかと考えられる.ま

た,夏季にプールを利用したいという人が増加するが,学校の授業が増え,一般開放の時

間が短くなってしまうが,住民の理解を得ることができているため,共同利用ができてい

るのだろう.

第 3 項 公共プール

公共プールは目黒区内に駒場体育館と目黒区民センターの 2 つあり,学校屋内プールと

同じように 1 年間を通して利用が可能である.プールの他にも体育館やトレーニング室な

どの施設が併設されており,同じ場所で様々な運動ができるようになっている.公共プー

ルの概要は表 4-13 に示す通りである.

表 4-13 公共プールの概要

利用料金(2 時間) 大人:300 円,子ども・高齢者(65 歳以上)・障害者:150 円

利用時間 9:00~22:00

プールの大きさ 25m×13m(6 コース)

水深 1.1~1.4m

コース割り 遊泳コース,フリーコース

プログラム 有り(水泳指導,アクアビクス,ウォーキング)

貸切利用 有り(全面,半面)

以下,公共プールについて,インタビュー調査によって得られた結果を要約する.

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<運営について>

駒場体育館や目黒区民センターは指定管理者によって運営されている.しかし,プー

ル施設については,指定管理者からプールの監視業務を他の企業に再委託しており,そ

の委託を受けた企業がプールの監視業務を行っている.

<特徴>

・区民専用の施設として建設された.

・体育館やトレーニング室などの施設が併設されている.

・指定管理者制度であるため,プログラムを組みやすい.

・駐車場がある.

・学校利用などによる制限がない.

以上より,公共プールは水深が尐し深く,ウォーキングコースが無いことから,主に泳

ぐ人のことを考えて運営されていた.また,指定管理者が独自でプログラムを組みやすい

ため,他のプールとの差別化を図ることができるだろう.利用者のニーズに合わせてプロ

グラムを実施する必要である.また,学校授業による利用制限がないため,毎月,毎週と

同じようにプログラムを実施できるとともに,利用者は自分の都合の良い時間にプールを

利用できる.さらに,駐車場があり,体育館やトレーニング室などの施設も併設されてい

るため,遠くからでも利用しやすく,様々なニーズを持った人が,様々なスポーツをする

ために利用する場所となっていると考えられる.

第 4 項 小括

全てのプールで地域住民が利用できるように開放されているが,学校屋外プールは主に

子どもたちの居場所として開放されており,子どもだけでも利用しやすい場所となってい

た.また,学校屋外プールは,地域住民が主体となって運営しているため学校と地域の連

携が取れていたが,運営者への負担が大きいため,負担を減らす方法を考える必要がある.

学校屋内プールについては,学校と地域の共同利用が進んでいた.学校施設なので,そ

の学校に通う子どもやその保護者にとって身近な施設となっていたが,他の利用者にとっ

ては学校施設であることがかえって障害となっている場合も考えられた.

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公共プールは,学校屋内プールと異なり,学校利用による制限がないため,利用者は都

合の良い時間に利用できる.また,プールの他にも体育館やトレーニング室があるため,

水泳に限らず,様々な運動ができる場の 1 つとして提供されていた.

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第 4 節 考察

本節では,ここまでみた調査Ⅰ~Ⅲの結果より,それぞれのプールについて今後の運営

管理のあり方について考察を行う.

第 1 項 学校屋外プール

学校屋外プールについて,調査Ⅰ~Ⅲの結果の要約を表 4-14 に示す.

表 4-14 学校屋外プールについて

項目 結果

調査Ⅰ

開放期間 夏休み期間

開放時間 1 日中

開放対象 地域住民

運営団体 地域住民

プログラム 無し

利用料金 無料

調査Ⅱ 利用の要因 「近い」,「安い」,「屋外プール」,「子供が通っている学校」,

「仲間の存在」,「学校施設」,「子供と触れ合える」

調査Ⅲ

特徴

・子どものことを主に考えて開放している.

・子どもたちの遊び場,居場所になっている.

・最寄りのプールを無料で利用でき,それなりの人気がある.

・照明があれば夜間も利用できる.

長所 ・地域と学校の連携が図れる.

・子どもたちだけで来やすい.

短所

・準備に時間・費用がかかる.

・人の確保が難しい.

・監視業務や清掃に不安がある.

・運営者への負担が大きい.

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施設の問題から,全ての学校屋外プールを開放することは困難であると思われるが,近

隣の学校が開放されることで子どもたちは楽しい時間を過ごすことができ,尐数の学校で

も開放することで施設の有効活用にもなる.区は主に子どものことを主に考えて開放をし

ていたが,利用者も子どもが遊ぶ場所,子どもと一緒に行く場所といったイメージを持っ

ており,区の考えと利用者のイメージは一致していることが分かった.また,利用者には

屋外特有の項目が評価されており,家の近くにある学校屋外プールの開放が求められてい

ることが明らかとなった.実際に学校屋外プールは人気があり,子どもたちにとっての居

場所になっていた.一方で,準備や運営面で運営者への負担の大きさが問題であった.「夏

休み中の開放時にも,プール管理に精通した管理責任者を配置することが必要である」(笹

野,2003)といわれているが,地域住民が主体となって運営しているため,人の確保に苦

労していた.また,水泳指導やアクアビクスといったプログラムの実施も難しいであろう.

しかし,作野(2010)は,学校開放は「場の開放・管理にとどまっており,開放運営委員

会等による独自事業はきわめて低調であること,(中略)必ずしも個人利用のニーズに応え

きれていないこと」を問題視している.そのため,指導者が必要なく,子どもたちが遊べ

るようなプログラム・イベントを実施し,利用者の意見に応える必要があるだろう.実施

することによって学校屋外プールを認識する人が増え,利用者を集めることができると考

えられる.さらに,人の確保では,区でボランティアなどの募集を行い,スタッフが足り

ない学校へ派遣することで効率よく運営でき,運営者の負担も軽減することができるだろ

う.今後は,準備・運営を運営者だけではなく,区が協力することで運営者への負担が軽

減し,効率よく運営できるだろう.

第 2 項 学校屋内プール

学校屋内プールについて,調査Ⅰ~Ⅲの結果の要約を表 4-15 に示す.

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表 4-15 学校屋内プールについて

項目 結果

調査Ⅰ

開放期間 1 年中

開放時間 1 日中

開放対象 地域住民

運営団体 民間企業

プログラム あり

利用料金 有料

調査Ⅱ 利用の要因 「近い」,「安い」,「屋内プール」,「施設がきれい」,

「施設が良い」,「学校施設」

調査Ⅲ

特徴 ・機能として,学校施設に公共プールが併設された形である.

・学校利用が優先.それ以外の時間を一般開放している.

長所 ・その学校に通う子どもや保護者が利用しやすい.

・学校と地域の共同利用ができている.

短所

・他の学校に通う子どもが利用しづらい.

・夏季に学校利用が増え,一般開放の時間が短くなる.

・設備の設置や改修に制限がある.

・学校施設という意識がどこかにある.

学校屋内プールは 1 年を通して開放しているため,学校施設の有効活用ができていた.

また,機能としては公共プールと大きな違いはないが,学校施設であることから利用者は

親近感を持っていたため,近くに住む人たちにとって利用しやすいプールとなっていた.

尾崎(2008)は,「学校開放の利用率の高さは,住民にとって学校が心情的に身近な存在で

あること,居住地から距離的に近いという利便性等々のプラスの諸要因が折り重なってい

る点を反映しているととらえることができる」と述べており,本研究でも先行研究を支持

する結果となった.しかし,学校施設であることによるマイナス面も考えられ,学校施設

であることをあまり感じさせない工夫も必要である.近隣の学校が夏休みに学校屋内プー

ルを利用して授業やイベントを実施したり,プールの名称に学校名を入れないように変更

することによって利用者の印象は変わるのではないだろうか.また,公共プールと同じ機

能を持っているため,ジャグジーやサウナ,自動販売機などの設置を求める利用者もいる

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と考えられるが,学校施設であるため容易に設置できないことへの理解を得る必要もある.

学校教育法第 137 条では「学校教育上支障のない限り,学校には,社会教育に関する施設

を附置し,又は学校の施設を社会教育その他公共のために利用させることができる」とさ

れている.また,社会教育法第 44 条では「学校(国立学校又は公立学校をいう.以下この

章において同じ.)の管理機関は,学校教育上支障がないと認める限り,その管理する学校

の施設を社会教育のために利用に供するように努めなければならない」とされている.学

校施設であるため「学校教育上支障がない限り」とされており,学校利用で一般開放の時

間が制限されてしまうことはやむを得ないことであり,地域住民にその理解を得る必要が

ある.まだ利用したことない人には学校施設であることを強く意識させてはいけないが,

頻繁に来る利用者には多尐の意識付けをしなければならないのではないか.学校屋内プー

ルにはいくつかの制限はあるが,「泳ぐ」というニーズを満たす場所として十分な施設であ

り,初心者に合った施設である.今後は,施設の有効活用のためにも同じような施設が全

国に増えていくことを期待する.

第 3 項 公共プール

公共プールについて,調査Ⅰ~Ⅲの結果の要約を表 4-16 に示す.

利用者は公共プールの施設の良さを評価していた.50mプールがあったり,プールが複

数あることによって,泳ぎやすさや泳ぎがいを求める人たちのニーズを満たす施設になっ

ていた.学校屋内プールと違い,中~上級者のニーズに合った施設であると考えられる.

体育館やトレーニング室といった複数の施設が併設されているため,水泳だけでなく,1 つ

の場所で,安く,様々なスポーツができる場所の 1 つとなっている.公共施設には,水泳

にあまり興味はないが,運動に興味のある人が多く訪れる.その人たちにプールでのプロ

グラムやイベントに関する広報活動を行うことで,公共プールの利用者が増加するだろう.

公共スポーツ施設には,「社会の情勢またはスポーツへのニーズから公共スポーツ施設に対

する様々なサービス(機能)への期待が寄せられている」(石井・石川,2000).そのため,

今後は利用者のニーズを拾う機会を多くし,ニーズに合った施設を作っていくことが求め

られる.多くのニーズを拾い,体育館など他の施設と協力して運営や利用者についての情

報交換を盛んに行うことで,利用者のニーズを満たすとともに,より効率的に運営できる

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だろう.

表 4-16 公共プールについて

項目 結果

調査Ⅰ

開放期間 1 年中

開放時間 1 日中

開放対象 地域住民

運営団体 民間企業

プログラム あり

利用料金 有料

調査Ⅱ 利用の要因 「近い」,「安い」,「施設が良い」,「施設がきれい」,

「公共の施設」

調査Ⅲ 特徴

・体育館やトレーニング室などの施設が併設されている.

・指定管理者制度であるため,プログラムを組みやすい.

・駐車場がある.

・学校利用などによる制限がない.

第 4 項 総合的考察

以上の考察より,学校屋外プール,学校屋内プール,公共プールにはそれぞれ特徴があ

り,その特徴を考慮した運営管理の必要性が明らかとなった.

全てのプールにおいて「近さ」が選択の要因としてあがったが,プールによって施設ま

での所要時間に違いが見られた.学校屋外プールでは 10 分圏内からの利用者しかおらず,

近隣の住民のみの利用にとどまっていたが,学校屋内プールと公共プールでは,より遠く

から,自転車やバスで 20 分かけて利用する人もいた.「近い」という同じ要因だが,施設

によって利用者のとらえ方に大きな違いがあることが明らかとなった.

学校屋外プールは夏季しか利用できないが,子どもたちの遊び場,居場所として開放さ

れており,無料で利用できるため人気がある.また,屋外特有の項目が評価されていたた

め,屋外の特徴をアピールし,情報発信することで一般利用者の興味・関心を引くことが

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できると考えられる.しかし,一般利用者への考慮はされていない施設であるため,一般

利用者向けのプログラム実施は困難であろう.運営面では,地域住民が中心であるため,

学校と地域との距離が近く,連携がとれていた.しかし一方では,運営者への負担の大き

さが問題であるため,行政との連携が不可欠である.現場の運営は地域住民が,人材確保

や広報については行政が中心となって動くことで,運営者への負担が軽減し,効率よく運

営できると考えられる.

学校屋内プールは 1 年中利用できるため,学校施設の有効利用ができていた.また,利

用料金である 300 円や 150 円を安く感じ,利用している人が多かった.さらに,学校施設

であることによって親近感がわき,近隣の住民にとって利用しやすいプールになっていた.

しかし,地域住民にとって,学校施設であることが利用の妨げになっている場合も考えら

れる.近隣の学校との連携や広報などによって,学校施設であるとあまり感じさせないた

めの工夫も必要となる.しかし一方で,学校施設を児童生徒と地域住民が共同利用してい

るという意識付けも重要であり,学校施設であることによる利用時間や設備の制限につい

ても利用者の理解を得る必要がある.利用者に合ったプログラム実施やプール内外に向け

た広報によって,学校施設の有効活用を進めていくことができると考えられる.

公共プールは,施設の良いプールを安い値段で利用できることが評価されていた.泳ぎ

やすさ,泳ぎがいを求めている利用者が多いため,中~上級者向けのプログラムを行うこ

とで利用者のニーズを満たすことができるだろう.子どもや初心者にとっては,気軽に利

用しにくい施設となっていることが示唆されるが,学校屋外プールや学校屋内プールで公

共プールの広報をすることで,泳ぎがいを求めている人や泳ぎが上達した人に対して,公

共プールの利用を促すことができ,利用者は自分に合った施設を選択しやすくなる.また,

夏季になると学校屋内プールの利用制限が増えてしまうため,そういった時期に学校屋内

プール利用者に対して,公共プールの利用を促す必要があるだろう.学校屋外プールや学

校屋内プールと協力することによって,それぞれの利用者に合ったより良い環境を提供す

ることができると考えられる.

以上のように,調査Ⅰ~調査Ⅲで明らかになったそれぞれのプールの長所・短所,共通

点・相違点を図 4-4 に示した.

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図 4-4 それぞれのプール特性

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<第 4 章 引用・参考文献>

笹野英雄(2003)学校プールにおける水質管理の重要性(特集 2 地域開放型プールを視野

に入れたこれからの学校プールづくり).スクールアメニティ,18・19(12・1):44-47.

作野誠一(2010)学校開放事業をめぐる制度的諸問題の検討-総合型地域スポーツクラブ

との関連から-.体育経営管理論集,2:23-30.

尾崎正峰(2008)地域スポーツと学校開放.一橋大学スポーツ研究,27:27-34.

石井康弘・石川亘(2000)スポーツ施設の活用状況と活用促進課題-公共温水プール施設

について-.仙台大学大学院スポーツ科学研究科研究論文集,1:1-7.

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第 5 章 結論

第 1 節 要約

本研究の目的は東京都における学校プール開放のタイプを分類するとともに,学校プー

ル開放の特性を明らかにし,開放のタイプや特性を考慮した今後の運営管理のあり方につ

いて検討することであった.本研究では,プール施設を学校屋外プールと学校屋内プール,

公共プールの 3 つに分類し,利用者と管理者の両視点から分析・考察を行った.その結果,

学校屋外プール・学校屋内プールについての特徴や長所・短所を明らかにし,今後の運営

管理のあり方について検討することができた.学校施設の開放を望む声が高まり,学校と

社会の協力が求められている中,複数の視点から考察し検討できたことは,今後の学校施

設の有効活用の点で有意義であろう.

第 1 項 学校屋外プール

本研究では,学校屋外プールを選択する際の要因として「近い」,「安い」,「屋外プール」,

「子供が通っている学校」,「仲間の存在」,「学校施設」,「子供と触れ合える」といった 7

つの要因があげられた.その中でも近さと答えた人が最も多かったが,近隣の住民のみし

か利用していない状況であった.また,屋外の特徴である直射日光や日焼けといった項目

があげられ,そこから得られる開放感や気持ちよさが評価されていたため,夏季の屋外プ

ールの特徴をアピールし,情報発信をしていく必要があるだろう.しかし,直射日光や日

焼けという項目はマイナスのイメージも強く,短所にもなっていた.

地域住民が中心となって運営し,地域住民を開放対象としているところがほとんどであ

り,学校と地域の連携がとれていた.しかし,準備や運営面で運営者への負担が大きいた

め,組織面,資源面での行政サポートが不可欠である.区との効率的・効果的な協力・連

携によって負担が軽減し,効率よく運営できると考えられる.また,学校施設を無料で利

用できるため,子どもたちの居場所,遊び場となっていた.区は主に子どものことを考え

て開放をしており,利用者も同じように子どもが遊ぶ場所,子どもと一緒に行く場所とい

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うイメージを持っていた.

ほとんどのところでプログラムを行われておらず,場の提供にとどまっていた.プログ

ラムの実施は困難かもしれないが,指導者を必要としないプログラムやイベント(例えば,

水泳記録会や水中運動会など)を開催するだけで学校屋外プールを認識する人が増え,利

用者を集めることができるのではないだろうか.また,個人で利用するだけでなく,仲間

と一緒に利用する場所となっているようであったため,親子や友達を誘いやすいイベント

を実施することで,遠くから利用者を集めることができるのではないかと考えられる.

全ての学校屋外プールを開放することは困難であろうが,近隣の学校が開放されること

で子どもたちは楽しい時間を過ごすことができる.また,尐数の学校でも開放することに

よって,学校施設の有効活用にもなると考えられた.

第 2 項 学校屋内プール

本研究では,学校屋内プールを選択する際の要因として「近い」,「安い」,「屋内プール」,

「施設がきれい」,「施設が良い」,「学校施設」といった 6 つの要因があげられた.学校屋

外プールと同じ「近い」という要因でも,より遠くからの利用者がおり,同じ要因でもと

らえ方に違いが見られた.また,水質や施設のきれいさが求められており,清潔感や快適

さが保たれていることが利用者にとって重要なポイントとなっていた.さらに,学校施設

であるため親近感を感じ,利用者にとって身近な施設となっていたが,他方では学校施設

であることがかえって利用の妨げとなっている場合もあり,学校施設であることをあまり

感じさせない工夫も必要であると考えられた.また,夏季には学校の授業が増え,一般開

放の時間が短くなってしまう.地域住民のニーズが増える時期に利用が制限されてしまう

が,住民の理解を得ることができているため,共同利用が進んでいるのだろうと考えられ

た.

1 年を通して地域住民のために開放されているところがほとんどであり,学校施設の有効

活用,共同利用が進んでいるといえる.また,プログラムや貸切利用も行っているため,

継続的に利用している利用者も多いのではないかと考えられる.学校施設としていくつか

の制限はあるが,「泳ぐ」といったニーズを満たす場所として十分な施設である.今後は,

学校施設の有効活用のためにも同じような施設が増えていくことを期待する.

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第 3 項 公共プール

本研究では,公共プールを選択する際の要因として,「近い」,「安い」,「施設が良い」,「施

設がきれい」,「公共の施設」といった 5 つの要因があげられた.プールの広さや数といっ

た施設の良さが評価されており,施設の良いプールを安い値段で利用できることが評価さ

れていた.より良い施設で快適に泳ぎたいという人が多く利用している施設となっている

と考えられた.そのため,学校屋外プールや学校屋内プールで公共プールの広報をするこ

とで,泳ぎがいを求めている人に対して公共プールの利用を促すことができる.また,利

用者は学校プールと公共プールの違いを把握することができ,自分に合った施設を選択し

やすくなる.また,学校利用による制限がないため,利用者の都合が良い時間に利用でき

る点も大きな特徴といえるだろう.学校屋内プールの利用制限が増えてしまう夏季には,

学校屋内プール利用者に対して,公共プールの利用を促す必要がある.学校屋外プールや

学校屋内プールと協力し,情報交換を盛んに行うことで効率的に運営でき,それぞれの利

用者に合ったより良い環境を提供することができると考えられる.

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第 2 節 実践的示唆

本研究で得られた結果より,学校屋外プールと学校屋外プール,公共プールのそれぞれ

のプールについて実践的示唆を行う.

学校屋外プールは人気があり,近隣の学校が開放されることで子どもたちに遊び場,居

場所を提供することができている.しかし,学校屋外プール開放についての情報があまり

入ってこないという地域住民が多かった.地域住民や利用者に対して魅力やきっかけを作

るためにはプログラムの実施が必要である.また,仲間の存在が利用する要因となってい

たため,水泳記録会や水中運動会といった親子や友達を誘って参加しやすいようなプログ

ラムを実施することが重要なことであると示唆される.このようなプログラムを実施する

ことで地域住民が情報を得ようと思いやすくなり,より多くの,より遠くからの利用者が

見込めるだろう.また,屋外の特徴である直射日光や日焼けといった項目が評価されてい

たため,今後は,学校屋外プールの写真などを用いて夏季の屋外プールの特徴をアピール

し,情報発信をしていく必要がある.開放感がある屋外プールで,仲間と一緒に参加でき

るプログラムがあれば利用者のニーズに応えることができる.プログラムに関しては,地

域住民が運営しているため指導者が必要なく,仲間と楽しく参加できるプログラムや子ど

もたちが遊べるイベントが良いと考えられる.さらに,運営者への負担を軽減するために

は行政との連携が不可欠である.開放への意欲が高い地域住民が運営者になっているが,

受付や監視員などの人の確保の点で苦労していた.そのため,行政がボランティアの募集

を行い,スタッフが足りていない学校へ人を派遣するシステムを構築することで運営者へ

の負担を軽減でき,効率よく運営することができる.行政が募集することで広い地域から

人を集めることができ,人を確保しやすくなるだろう.利用者は家の近くにあり,開放感

が得られる屋外プールを評価して利用している.尐数の学校を短い期間でも,開放してい

くことで地域住民のニーズを満たすことができる.今後は,夏季の屋外プールにしかない

特徴を広報でアピールするとともに,プログラムを実施することで多くの利用者の興味・

関心を引くことが求められている.

学校屋内プールは,学校屋外プールと同じように学校施設であるが,1 年を通して一般開

放できるため,施設の有効活用ができていた.家から 20 分以内にあり,季節や天候を気に

せず行くことができ,気軽に続けられることが利用の要因であったため,全ての学校を屋

内プールにする必要はなく,数校に屋内プールを設置することで全ての地域住民にとって

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利用しやすい環境が整えられる.また,学校施設であることによって安心感や親近感を得

やすく,利用しやすい場所になっている点が特徴である.しかし,他の学校に通う子ども

にとっては気軽に利用することができない場所になっていた.また,学校施設であるとい

う意識がどこかにあり,遠慮がちになっている利用者もいるのではないかと考えられたた

め,学校施設であるとあまり感じさせない工夫も必要である.近隣の学校が授業などで学

校屋内プールを利用することによって,自分たちも気軽に利用してよいプールであると分

かれば,子どもたちの意識は変わるだろう.また,現在は「○○小学校屋内プール」とい

うプールの名称になっているが,学校名を入れない名称に変更することによって,一般の

利用者への印象を尐し変えることができるだろう.学校施設であるという抵抗を減らし,

学校施設であるという安心感・親近感を感じてもらうための工夫が必要である.また,機

能としては公共プールと同じであるが,学校施設であるため,ジャグジーやサウナ,自動

販売機などの設置に制限があること,さらに,学校利用で一般開放の時間が制限されてし

まうが,学校と地域が共同利用しているプールであることへの理解を得る必要がある.利

用したことない人には学校施設であることをあまり感じさせず,一方で,利用者には学校

と地域が共同利用しているプールであるという多尐の意識付けが必要となる.そのため,

プール内とプール外に向けて,それぞれに多尐異なる情報発信が求められている.利用者

は家の近くにあり,親近感のある学校屋内プールを安く利用できることに満足し,評価し

ている.いくつかの制限はあるが,「泳ぐ」といったニーズを満たす場所として十分な施設

であるため,今後,同じような施設が全国に増えていくことを期待する.

公共プールでは,学校屋外プールや学校屋内プールで互いの広報活動をすることで利用

者は,同じようなプール施設でも,それぞれの施設による違いを把握することができ,自

分に合った施設を選択しやすくなるだろう.また,夏季には学校屋内プールの利用制限増

えてしまうため,学校屋内プール利用者を公共プールへ促すといった対応をとる必要もあ

る.さらに,学校屋外プールの情報があまり入ってこない地域住民のために,夏季には学

校屋外プールの広報を増やして発信していく必要があるだろう.学校施設と比較すると,

様々なプログラム実施や設備の設置が可能であるため,今後は,利用者のニーズを把握す

る機会を多くし,学校プールとは多尐異なったプールになることが求められる.学校プー

ルとは異なるプールになることで,利用者の選択肢を増やすことができる.また,学校屋

外プールや学校屋内プールとの協力・連携によって効率的に運営でき,それぞれのプール

利用者を増やすことができるだろう.

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第 3 節 研究の限界及び課題

本研究は,調査対象と研究方法に関わる限界を有する.本研究では,学校屋内プールが

整備されており,都市部の住宅街である目黒区におけるプールの特性や運営管理について

の結果を基に考察を行った.そのため,学校屋内プールが整備されていない地域や住宅街

ではない地域,運営形態が異なる地域では,本研究の結果や考察が妥当であると言うこと

ができない.そのため,本研究は 1 つのモデルケースであることを考慮しなければならな

い.

また,本研究では学校屋内プールの利用者を対象とし,3 つのプールについての評価構造

モデルを作成した.より詳細なニーズを得るためには,実際に学校屋外プールや公共プー

ルでの利用者調査が必要となるだろう.本研究は,仮説の構築に相当するものである.今

後は量的調査による厳密かつ詳細な検証作業が必要であるといえる.

今後の課題としては,プール運営を支える住民組織についてより詳細な分析が必要であ

ると思われる.本研究では,利用者と管理者の両視点から分析・考察し,今後の運営管理

のあり方についての検討・提言を行ってきたが,そのなかで,学校屋外プールの運営をし

ている地域住民への負担が大きく,たいへん苦労していることがわかった.そのため,実

際に運営している地域住民へのインタビュー調査などを行うことによって,より詳細な問

題を浮き彫りにし,より実践的な提案を行うことが望まれる.

また,複数地域での調査が必要であると思われる.本研究では,都市部の住宅街である

目黒区で調査を行い,目黒区の特性を考慮した考察・提言を行った.そのため,全ての地

域に応用できる結果を得られたわけではない.学校屋内プールの無い地域や学校数の尐な

い地域,人口の尐ない地域など複数の地域で調査を行い,それぞれの地域の特性に合った

提言を行うことが望まれる.