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富士フイルムグループにおけるSAP® R/3 マイグレーション事例
〒 151-8583 東京都渋谷区代々木 2 丁目 2 番地 1 号 小田急サザンタワー
SQL Server
SAP ERP
Global system
Migration
UNIX® + Oracle から Windows Server® 2003 + Microsoft® SQL Server™ 2005 への移行でグループ全体のシステム共通基盤を確立
最新情報は、 http://www.microsoft.com/japan/business/sap/ をご参照ください。● Microsoft、Windows Serverは、米国 Microsoft Corporation の米国およびその他の国における登録商標または商標です。 ● その他、記載されている会社名および製品名は、各社の商標または登録商標です。● このカタログの内容は 2007年 10 月現在のものです。予告なく内容が変更される可能性がありますのでご了承ください。
©2007 SAP AG. All rights reserved. SAP、R/3 および本書で引用されている SAP製品およびサービスは、関連するロゴを含め、ドイツおよびその他の国々における SAP AGの商標または登録商標です。また、本書で言及されている他の全ての製品名は、それぞれの会社の商標または登録商標です。なお、本書に記載の製品、サービスの一部、画面は開発中のものも含まれており、参考情報として、あるいは各国別に製品仕様が変わる場合があります。SAPの画面、図表等の著作権はSAP AGおよび SAPジャパンに帰属します。
富士フイルム _SAP導入事例 C4-C1
※文中に登場する SAP R/3は SAP ERP 、SAP BW は SAP NetWeaver Business Intelligence (SAP NetWeaver BI) に現在製品名が変更しております。
1965~1980年代
1998~
2007~
1980~1990年代
メインフレーム初期
グループ全体のSAP R/3 システム統合
メインフレーム成熟期 グローバル化 /デジタル化既存システムの手詰まり感
SAP R/3(Windows Server+ SQL Server)
VISION 75(2004年 )
グループ共通のIT インフラ整備
本社基幹系システムの歴史
SAP R/3(UNIX+Oracle)SAP R/3 導入
オープン化
2006 年 10 月に社名から“写真”という 2 文字を取り去り、
さらなる飛躍を目指している富士フイルム株式会社。その
本社基幹系業務を支えている SAP R/3 システム が、2007
年 5 月、64bit 版 Windows Server 2003+SQL Server
2005 へとマイグレーションされた。マイグレーション対象と
なった SAP R/3 システムは、以前はメインフレームで稼働
していた本社基幹系業務システムを、2000 年 10 月に
SAP R/3 に移行したものである。移行プロジェクトは
1998 年にスタートし、2000 年 10 月に FI/CO、その
1 年後の 2001 年 10 月に SD/MM が本番稼働を開始
した。このときプラットフォームとして採用されたのは、UNIX
と Oracle データベースの組み合わせだった。
「メインフレーム システムをオープン化した背景には、1998
年から急速に進んでいたビジネスのグローバル化とデジタル
化があります」と説明するのは、富士フイルムコンピューター
システムで IT インフラ部 担当部長を務める柴田氏。変化の
スピードが速い市場環境に対応するために、連結経営管理
強化とサプライチェーン効率化が重要なテーマとなり、これを
支え得る基幹システムが求められるようになったのだという。
「当時のシステムは、それまでの業務スタイルに密着した
もので、手詰まり感もありました。そこで、会社全体の業務
改革を狙い、R/3 による再構築が選択されたのです。」
当時はまだオープン系プラットフォームとして、Windows
Server は「土俵にも上がっていなかった」と柴田氏は
振り返る。オープン系 OS として基幹系に使えるのは UNIX
しかなく、AIX か SunOS、もしくは HP-UX のいずれかから
選ぶのが、現実的な選択肢だったのだ。
SAP R/3 の導入方法としては、モディフィケーションとアド
オンをできるだけ避けることが前提となった。実際、FI/CO
モジュールはパラメーター設定だけで対応。SD/MM は
2,000 本ほどアドオンを作成したが、これはごく標準的な数字
だといえる。そしてモディフィケーションに至ってはまったく
行われていない。
稼働開始当初のシステム規模は、データ量にして約 150
GB。登録ユーザー数は約 1,500 名である。2004 年には
アーカイブ システムを導入し、データベース上のデータ量
削減に着手。それでもマイグレーションを行った 2007 年 5
月には実データ容量は 600GB に上り、そのための領域と
して 800GB を確保していたという。
それではなぜこのシステムを、Windows Server+SQL
Sevrer へとマイグレーションしたのか。いくつかのきっかけが
あったと柴田氏は説明する。第 1 は老朽化が進んでいた
ハードウェアを刷新すること。第 2 はソフトウェアの保守期間
切れに対応することだ。しかしこれら以上に重要だったの
が、将来を見据えたグループ全体のシステム統合基盤を
作ることだったという。
本社基幹系の SAP R/3 システムを Windows Server + SQL Server へ安定性の向上とコスト削減を同時に実現
「マイグレーションのきっかけはいくつかありますが、最も重要だったのはグループ全体のシステム統合基盤を作ることでした」
「Windows Server ならまったくの新人でも、2~ 3 か月程度トレーニングすればシステム導入、設定が可能。UNIX ならこの倍の期間が必要です」
Windows Server + SQL Server への移行
2006 年 10 月に持株会社体制に移行し、富士フイルムホールディングスの下で
富士フイルムと富士ゼロックスを中心としたグループ経営を展開する富士フイルムグループ。
同社では UNIX と Oracle で動いていた SAP R/3 の本社基幹系システムが、Windows Server + SQL Server へと
マイグレーションされた。既に複数の SAP R/3 システムを Windows Server + SQL Server で構築した実績に基づき、
この組み合わせで十分な信頼性と性能、スケーラビリティが実現できると評価。基幹系の共通プラットフォームに採用されたことにより、
導入、運用コストを大幅に削減。今後はグループ各社の基幹系システムを、このシステムに統合していく計画になっている。
2
グループ全体のシステム統合基盤にWindows Server と SQL Server を選択
その背景には 2004 年に策定された、中期経営計画
「VISION 75」の存在がある。この中期計画では「新たな
成長戦略の構築」「経営全般にわたる徹底的な構造改革」
「連結経営の強化」という基本戦略が掲げられており、これ
らを軸に、イメージング事業全般での抜本的な構造改革と、
経営資源集中による既存成長分野、新規事業分野の拡大を
図ることで、新たな成長軌道を確立することが目指されて
いる。そしてこの目標を達成するために、グループ全体で
共通システムを構築すること、そしてそれによって情報基
盤を強化することが要求されていたのだ。
「基幹システムの SAP R/3 への移行も、システム共通化へ
の重要なステップだったといえます」と柴田氏。経営の可
視化や組織管理のレベル アップ、組織再編への対応など、
多岐にわたる側面で大きな貢献を果たしているという。また
SAP R/3 で社内の“言葉”を共通化することも可能になった。
これによって管理レベルの保証やコミュニケーションの効率
化、人事交流、異動の容易化なども実現しているのである。
当然のことながら“共通化”はプラットフォームにも求めら
れた。富士フイルムでは最終的に、Windows Serverと
SQL Server の組み合わせで統一していくことを決定するが、
その最大の理由はコスト パフォーマンスにあったという。
まず Windows Server を採用したシステムは、サーバー
本体が UNIX より安価なうえ データベースの費用 (購入費、
保守費) も Oracle よりも SQL Server の方が低価格になる。
部品価格も、同じものであれば UNIX 用より Windows 用
の方が安価なうえに Windows Server が動くサーバーは
UNIX サーバーに比べて発熱が少ないため、ハウジング
コストも抑えられるのだという。
柴田氏は「既に信頼性や性能、スケーラビリティの面で、
最大の理由はコスト削減効果技術者確保が容易な点もメリット
それまでのプラットフォームで発生していた問題もマイグレーションで解決
Windows Server と SQL Server の組み合わせは、UNIX
と Oracle の組み合わせに比べてまったく遜色がない」と
指摘する。それならばより低コストでシステム構築、運用が
行える方に統一するのは、当然のことなのである。
もちろん技術者を確保しやすいのも、Windows Server の
大きなメリットだ。Windows Server ならまったくの新人でも、
2~ 3 か月程度トレーニングすれば、システムをきちんと
理解したうえで導入、設定が行えるようになる。「UNIX なら
倍の期間が必要」と柴田氏はいう。
マイグレーション プロジェクトは 2006 年 10 月にスタート。
約 7 か月間の準備期間を経て、2007 年 5 月のゴールデン
ウィーク中に実施された。このマイグレーションによって、
それまでのプラットフォームで発生していた問題も解決できた
という。それでは具体的に、どのような問題が生じていたのか。
ひとつはパフォーマンスの問題だ。並列処理のスループット
は問題なく出るのに、単一処理のスループットが予想よりも
悪いという現象が発生していたのである。また夜間のバッチ
ウィンドウとして 6~ 7 時間用意していたが、半期ごとの
期末処理ではこの時間内に処理が終わらないこともあった。
データベースに起因する問題もあった。バッファ メモリが
不足するというエラーが出ていたのだ。これはデータベースの
コミットのタイミングが悪いと出やすいエラーで、物理メモリを
増やしても解決しない。2000 年に導入してから 7 年間と
いうもの、この問題に悩まされてきたのだ。
現在のシステム構成は図に示すとおり。それまで抱えていた
システム上の問題も解決し、ノー トラブルで安定的に稼働
しているという。
R/3本番機 (DB)×2台16CPU/64GBメモリ
Windows Server 2003 x64Datacenter EditionSQL Server 2005
R/3開発機×1台8CPU/32GBメモリ
Windows Server 2003 x64Enterprise EditionSQL Server 2005
R/3検証機 (DB/AP)×2台8CPU/32GBメモリ
Windows Server 2003 x64Datacenter EditionSQL Server 2005
BW本番機 (DB)×2台8CPU/32GBメモリ
Windows Server 2003 IA64 Enterprise EditionSQL Server 2000
BW本番機 (AP)×4台4CPU/8GBメモリ
Windows Server 2003 IA64 Enterprise Edition
BWテスト機×1台2CPU/8GBメモリ
Windows Server 2003 IA64 Enterprise Edition
BW開発機×1台BWテスト機と同仕様
R/3本番機 (AP)×2台8CPU/32GBメモリ
Windows Server 2003 x64Enterprise Edition
本番系ドメコン×2台
検証系ドメコン×2台
R/3本番バックアップ機
×2台
R/3開発バックアップ機
×1台
BWバックアップ機
×1台
運用監視サーバー×2台
R/3用 ディスク装置テープ ライブラリ装置
BW用 ディスク装置テープ ライブラリ装置
マイグレーション後の本社基幹系システム構成
300GB
R/3(複製)
R/3(複製)
R/3(複製)
R/3(本番)
BW(複製)
BW(開発)
R/3(本番)
クラスタ構成 クラスタ構成
SANスイッチSANスイッチSANスイッチ
システム構築担当
富士フイルムコンピューターシステム株式会社システム事業部 ITインフラ部 担当部長SAP認定 R/3テクニカルコンサルタント
柴田 英樹 氏3
富士フイルム _SAP導入事例 P2-3
4 5
R/3本番機 (DB)×2台32CPU/128GBメモリ
Windows Server 2003 IA64Datacenter EditionSQL Server 2000
R/3本番機 (DB)×2台8CPU/32GBメモリ
Windows Server 2003 x64 Enterprise EditionSQL Server 2005
R/3本番機 (AP)×4台4CPU/16GBメモリ
Windows Server 2003 x64Enterprise Edition
BW検証機×1台R/3検証機と同仕様
BW開発機×1台R/3開発機と同仕様
運用監視サーバー×1台
R/3開発バックアップ機
×1台
R/3本番バックアップ機
×2台
検証系ドメコン×2台
本番系ドメコン×2台R/3開発機×1台
8CPU/32GBメモリWindows Server
2003 IA64Enterprise Edition
R/3本番機 (AP)×8台8CPU/8GBメモリ
Windows Server 2003 IA64Enterprise Edition
運用監視サーバー×1台
R/3検証機 (DB/AP)×2台8CPU/32GBメモリ
Windows Server 2003 IA64Datacenter Edition
SQL Server 2000
BW本番機 (DB)×1台16CPU/64GBメモリ
Windows Server 2003 IA64Datacenter Edition
SQL Server 2000
R/3検証機 (DB/AP)×2台4CPU/16GBメモリ
Windows Server 2003 x64Enterprise Edition SQL Server 2005
R/3開発機×1台4CPU/16GBメモリWindows Server
2003 x64Enterprise Edition
SQL Server 2005
BW本番機 (AP)×8台
R/3本番 APと同仕様
販社 SAP システム構成図 グローバル システム構成図
300GB
R/3(複製)
R/3(複製)
BW(複製)
BW(本番)
R/3(本番)
クラスタ構成 クラスタ構成
クラスタ構成
クラスタ構成
SANスイッチSANスイッチSANスイッチSANスイッチSANスイッチSANスイッチ
R/3(複製)
R/3(複製)
R/3(本番)
本番系ドメコン本番系ドメコン×2台2台
検証系ドメコン検証系ドメコン×2台2台
本番系ドメコン×2台
R/3チェックDB機×1台
BWチェックDB機×1台
検証系ドメコン×2台
R/3バックアップ機×2台
BWバックアップ機×2台 ディスク装置 テープ ライブラリ装置 ディスク装置 テープ ライブラリ装置
2001年 4月32bit Windows Server+OracleでSAP BWを稼働
2004年 11月~SAP R/3で販社システムを構築64bit Windows Server+SQL Serverを採用
2007年 5月本社基幹系の SAP R/3システムを64bit Windows Server+SQL Serverへとマイグレーション
富士フイルムの SAP システムにおけるWindows Server + SQL Server 採用の歴史
Windows Server+SQL Serverで
プラットフォームを標準化
Windows Server+SQL Serverをプラットフォームの選択肢に
2003年 10月SAP BWのWindows Serverを64bit化DBもSQL Serverへ
2006年 5月SAP R/3でグローバル システムを構築64bit Windows Server+SQL Serverを採用
Windows Server+SQL Serverがプラットフォームの“既定路線”に
Windows Server+SQL Serverは基幹系で使えると
評価
富士フイルムグループ全体の共通 IT 基盤に採用され、
2007 年 5 月には本社基幹系 SAP R/3 システムのプラット
フォームにもなった Windows Server+SQL Server。
2000 年の時点では「検討の土俵にも上がってこなかった」
この組み合わせは、いつから「土俵に上がってきた」のだろうか。
それは 2003 年にまでさかのぼる。既に Windows Server
上で稼働していた SAP® BW の環境を、64bit 化した
ことがきっかけだ。
富士フイルムがこの SAP BW の本番稼働を開始したのは
2001 年 10 月。本社基幹系 SAP R/3 の SD/MM の
本番稼働が始まった時と同時期である。
「目的は SAP R/3 のアドオンを最小限に抑えるため」と
柴田氏。アドオンが増える最大の理由は独自帳票の作成に
あったため、この部分を SAP BW に任せることで、アドオン
を削減しようと考えたのだという。また SAP BW ならデータ
分析をセルフ サービス化できるため、多様な切り口で分析を
行ったり、ペーパー レス化を実現できることも大きなメリット
だったという。
この SAP BW のプラットフォームとして最初に採用された
のは、32bit 版の Windows Server と Oracle データ
ベースの組み合わせだった。SAP BW は情報系であると
位置づけられていたため、Windows Server でもいいだろう
と考えたのだという。データベースとしては SQL Server も
検討の対象となった。しかし当時はまだ Oracle の方が実績
が高く、市場でも“マジョリティ (多数派)”だったため、
この組み合わせに落ち着いたのである。
しかし 2003 年頃にはピーク時の性能が悪化。また
Oracle に起因する運用上の問題も少なくなかったという。
これらの問題を解決するため、64bit 化とデータベース製品
変更の検討がスタート。そして 2003 年 10 月に、64bit
Windows Server と SQL Server の組み合わせへとマイグ
レーションされたのだ。
「64bit Windows Server と SQL Server の組み合わせに
することで、それまで出ていた問題はほぼすべて解決しました」
と柴田氏。これがひとつの実績となって、Windows Server
と SQL Server への評価が高まったのだという。「スケー
ラビリティと安定性も期待以上のものでした。これなら基幹
系システムのプラットフォームでも十分使えると考えました」
この後、富士フイルムでは、新たに 2 つの SAP R/3 シス
テムを構築している。「販社システム」と「グローバル シス
テム」と呼ばれるものだ。実はこれらのプラットフォームにも、
64bit Windows Server と SQL Server の組み合わせが
採用されているのである。
複数の SAP R/3 システムで Windows Server + SQL Server を採用信頼性と性能、スケーラビリティを高く評価
「64bit Windows のスケーラビリティと安定性は期待以上。これなら基幹系システムのプラットフォームでも十分使えると判断しました」
「2005 年に検討が始まったグローバル システムでは、Windows Server と SQL Server の採用は前提条件。UNIX を選ぶ理由はもうどこにもありません」
販社システムを Windows で新規構築72,000SAPS の能力を実現
グローバル システム構築ではWindows Server +SQL Serverが前提条件に
まず「販社システム」だが、これは富士フイルムグループの
販社再編に伴って構築されたシステムだ。
以前の富士フイルムには、グループ内の販社 4 社と、特約
店 4社があった。同社は 2003 年にこれらの再編を開始。
まず 2003 年 10 月に販社 2 社を合併し、2004 年 4 月に
残りの 2 社も合併する。さらに 2004 年 10 月には、合併
後の 2 社の販社と特約店 4 社を合併。最終的に 1 社の
販社に統合しているのである。
販社システムの構築はこの再編プロセスと並行して、段階
的に進められていった。まず第 1 ステップとして、2004 年
4 月に合併された販社 2 社のメインフレーム系システムを、
2004 年 11 月に SAP R/3 へと移行。第 2 ステップでは
この SAP R/3 システムに、残り 2 社の販社のうち 1 社の
メインフレーム系システムと、本社の営業システム、特約
店で使用されていたパソコン用業務パッケージを合流させた。
そして第 3 ステップで残り 1 社のメインフレーム系シス
テムを合流させ、2005 年 10 月にひとつの SAP R/3 シス
テムへと統合しているのだ。
このシステムで使用されている SAP モジュールは、FI/CO と SD/
MM。登録ユーザー数は約 1,300 名で、常時 600 名がログ
インしているという。月末月初や期末期初にピークが来る本社
基幹系システムとは異なり、毎日午前中に処理のピークが
来る。特に休み明けの午前中は、処理が集中しやすいという。
このピークに対応するため、72,000SAPS のキャパシティを
確保。実際には約 40,000SAPS の処理量になっている。
「プラットフォームとしては、3 種類の組み合わせが検討対象
となりました」と柴田氏は振り返る。まず第 1 は、2000 年に
本番稼働した本社基幹系 SAP R/3 システムでも使用された、
UNIX と Oracle の組み合わせ。第 2 は Windows Server
と Oracle。そして第 3 が Windows Server と SQL
Server だ。「既にこの時期に、Windows Server と
SQL Server の組み合わせで十分な信頼性と性能、スケー
ラビリティが確保できると評価していました。さらにコスト面も
含めて検討した結果、Windows Server と SQL Server の
組み合わせに決定したのです」
一方、「グローバル システム」は、富士フイルムのワールド
ワイドの共通業務とデータ一元管理を行うことを目的に構築
されたものである。プロジェクトが始まったのは 2005 年 8 月。
2006 年 5 月には本番稼働を開始している。
BW の環境を 64bit Windows へ基幹系でも十分使えると判断
使用されている SAP モジュールは、FI/CO、SD/MM、PP、
WM 、 EH&S。現時点でカバーしている機能は大きく 3つある。
まず第 1 はマスター データのメンテナンス機能。これは 2006
年 5 月に本番稼働を開始した。第 2 はグローバル展開して
いるプロセス系生産会社のシステム機能であり、これは
2006 年 11 月から本番稼働を開始。そして第 3 がグローバル
の人事システムであり、2007 年 1 月から本番稼働している。
登録ユーザー数は約 500 名。今後は中国などの、マルチ
言語の共通システムを追加していく計画だ。
前述のように、ここでもプラットフォームとして Windows
Server と SQL Server が採用されているが、この時はUNIX ・
Oracle は候補に挙がることはなかったという。
「これらの 2 つの新規システムによって、Windows Server
と SQL Server の組み合わせが、基幹系システムでも十分に
使えることが実証されました」と柴田氏。もはや UNIX を
選択する理由はどこにもないという。ただし SAP R/3 を
動かすのであれば、32bit のメモリ空間ではピーク時の
対応が難しいとも指摘。スケーラビリティを確保するので
あれば、64bit 版の採用は必須条件になるだろうという。
しかしその一方で、SAP R/3 以外のシステムであれば、
必ずしも 64bit 版である必要はないとも指摘する。実際に
富士フイルムでは、SAP R/3 以外にも数 100 台のサーバー
が動いているが、これらのほとんどは 32bit 版 Windows
Server だ。システムの要件に合わせて、適材適所でプラット
フォームを選択すればいいのである。
「VISION 75」の策定に伴い、富士フイルムは標準プラット
フォームとして Windows Server を採用することになったが、
それは机上の検討だけで決まったことではない。実システム
における経験に基づいているのだ。この後、本社基幹系
システムが Windows Server と SQL Server にマイグレー
ションされたのも、ごく自然な流れだったといえるだろう。
Windows Server + SQL Server への移行
富士フイルム _SAP導入事例 P4-5
6 7
マイグレーション プロセス
マイグレーション チェックアップグレード
コンバージョンマイグレーション チェックアップ
グレードコンバージョン
既存システムからデータをエクスポート新システムにデータをインポート
SAP R/3をVUP
新システムの動作確認
SAP R/3の64bit対応
50時間
マイグレーションによるコスト削減効果
*サーバー運用費はハード ソフト費、保管費、ヘルプ デスク費
SAPサーバー統合施策を含めたコスト効果導入一時作業費 1/3削減、サーバー運用費 *1/2削減(対個別導入)
項目 定量効果 主な理由
導入一時作業費
ハード ソフト費(保守料込み)
サーバー保管費(電源、スペース、空調)
ヘルプ デスク費(Q&A、メンテナンス、障害対応)
[合計 ]
・Windows技術者の単価が安価
・Windowsサーバー本体価格が安価・ソフト ストレージは大差なし
・Windowsサーバーは省電力、スペース
・Windows技術者、オペレータの単価が安価・DB保守作業など作業項目の軽減
・Windowsサーバー本体のコスト・Windows技術者のコスト
20% 削減
15% 削減
20% 削減
30% 削減
約 25% 削減
弊社は 2000 年から SAP R/3 を基幹システムとして採用していますが、最初の本社導入は大手 SI ベンダ
主導で、UNIX ベースでシステムが構築されました。その後、グループ各社に展開していくにあたっては、低
コスト実現を目的に Windows 化に取り組み、さらに SQL Server の採用と 64bit 化を推進してきました。
この間の安定性は満足できるものだったので、今回、最初に構築した本社系、生産系システムが更新時期を
迎えるにあたり、Windows Server+SQL Server 化と SAP R/3 のバージョン アップを、このゴールデン ウィー
クを利用して同時に実施することにしたのです。
同時移行はリスクが大きいと各方面からアドバイスをいただきましたが、蓄積してきたノウハウと周到な準備により、
トラブルもなく余裕をもって移行できました。特にデータベース移行に関しては、マイクロソフトの優れたツールに
よって驚くほど短時間で完了しました。またサポートも万全でした。
これで国内の全 SAP システムが、Windows Server 化されたことになります。これによってコスト面や運用技術の
一本化が実現できたのはもちろんですが、互換性やサーバー統合の条件が整ったことで、連結対象となる事業や
組織構造の変化にも、迅速柔軟に対応できる基盤が整ったと考えています。
既に UNIX ベースの SAP R/3 システムを保有し、それを
Windows Server にマイグレーションすることを検討して
いる企業も少なくないはずだ。ここで気になるのが、どのよう
にしてマイグレーションを行えばうまくいくのか、ということでは
ないだろうか。
そこで最後に、富士フイルムにおけるマイグレーション プロ
セスを見ていきたい。同社の本社基幹系 SAP R/3 システム
は、マイグレーション時のデータベース容量が 800GB と、
国内最大級である。その成功事例の知識は、マイグレーション
プラン立案の参考になるはずだ。
2006 年 10 月に検討が始まった、本社基幹系 SAP R/3
システムのマイグレーション。その最大の特徴は、マイグレー
ションとバージョン アップが同時に行われたことであろう。
富士フイルムでは 2000 年に SAP R/3 4.0B を導入し、
その後いくつかのホット パッケージ(現在のサービス パッ
ケージ) を当てながら、このバージョンを使い続けてきた。
マイグレーション検討時には既に保守期間が終わっていたが、
それでもこれを使い続けてきたのは、既にアプリケーションが
安定していたため、これ以上パッチを適用する必要はないと
判断したからだという。
しかし今後は本社基幹系システムを、グループ全体の統合
システムにしていく計画になっている。これによってアプリ
ケーションの追加が発生する可能性も否定できない。既に
保守期間が切れているバージョンではなく、新しいバージョン
にすることも重要な課題になったのだ。
「SAP ではマイグレーションとバージョン アップの間を、6 か月
間空けることが推奨されていますが、今回は目標を早く達成
することを優先しました」と柴田氏。「リスクは覚悟でチャ
レンジしたのです」
しかしその一方で、リスクを最小化するための工夫もなされて
いる。SAP R/3 のバージョンを最新のものにするのではなく、
SAP R/3 4.7 Enterprise を選択しているのもその工夫の
ひとつである。
バージョンを一気に最新のものに上げると、SAP BW や
EAI ツールなど、周辺システムへの影響が大きくなる。また
マイグレーション作業にも時間がかかると予想された。しかも
SAP R/3 4.7 Enterprise と最新バージョンとの間で、保守
期間は 2 年しか違わない。それならば、バージョン アップ
の影響が比較的小さいバージョンを選択すればいい。この
ような決断がマイグレーション検討段階で下されたのである。
リスクの最小化に貢献しているのは、バージョン選択の判断
だけではない。マイグレーション計画に十分な時間をかけて
取り組んだことも、重要なポイントだといえるだろう。
柴田氏によれば、マイグレーション計画で重視された課題は、
大きく 4 つあったという。
まず第 1 の課題はダウン タイムの最小化だ。マイグレー
ションの実施タイミングとしては、2007 年のゴールデン
ウィークの 4 連休が想定されていた。しかし当初の計画では、
マイグレーションとバージョン アップ作業に合計 144 時間、
約 6 日間かかると見積もられていたという。このままでは
業務に影響が出てしまう。予備日を考えれば、なんとかして
3 日以内に作業を完了させなければならない。この課題を
解決するために、手順の見直しやチューニング作業、合計
5 回におよぶリハーサルが実施された。これによって最終
的に、ダウン タイムを 50 時間にまで短縮したのである。
第 2 は検証環境の整備。本番データと本番システムを使って
検証を行うことが必須条件となった。SAP R/3 のアドオン
改修も必要になったが、この作業はオフショア開発を採用。
そのための専用環境も用意し、海外からインターネット
VPN でアクセスできるようにしたという。
第 3 は動作検証をどう行うかだ。特に周辺システムとのイン
ターフェイス検証を効率よく行うことが重要課題となった。
そのために行われたのが、時間をかけてシナリオを作成する
ことだった。すべてのパターンを検証するのではなく、より
少ないパターンで必要な検証をカバーできるように、検証シナ
リオが綿密に練り上げられていった。
そして第 4 の課題が、本番移行作業の効率化である。
本番環境を作り上げるには、プラットフォームのマイグレー
ションと SAP R/3 のバージョン アップ作業だけではなく、
EAI 環境の設定やプリンタの設定、シェル スクリプトの
移行も必要だ。プリンタの数は 800 台に上る。シェル スク
リプトも Windows 用にポーティングしなければならない。
「特に重要な役割を果たしたのが、5 回のリハーサルでした」
と柴田氏。机上で計画を作り上げていっても、実際にやって
みると必ずしも計画通りにはいかない。今回も実際にリハー
サルを行うことで、発見された問題が数多くあったという。
綿密な計画がマイグレーション成功の鍵今後はグループ全体の基幹系システムを統合
「目標を早く達成するためマイグレーションとバージョン アップを同時に実施。リスク覚悟でチャレンジしました」
「システム移行ではトラブルが発生しやすいものですが、今回はまったく不安はありませんでした。システムの安定性も以前に比べて高くなっています」
当初はリハーサル回数を 3 回と考えていたが、最終的に
5 回行うことになった。これによって 50 時間で完了する
作業計画が実現できただけではなく、自信をもって本番に
臨むことも可能になったという。
マイグレーション作業は、大きく 4 つの工程で構成されて
いる。まず最初の工程は、OS とデータベースのマイグレー
ション作業。既存システムのデータベースからデータをエクス
ポートし、新規システムへとインポートしていく。第 2 工程は
SAP R/3 のアップグレード。第 3 工程は SAP R/3 の 64
bit へのコンバージョン。そして第 4 工程が動作確認である。
これらの作業工程のうち、最も時間がかかるのがマイグレー
ション作業だ。この時間を短縮するために、データ量の多い
テーブルを洗い出すと共に、複数のテーブルを並列処理する
計画が立てられた。これによって最終的に、この部分の
作業を 22 時間で行うことが可能になった。
今回のマイグレーションでは、ハードウェアから OS、データ
ベース、SAP R/3 に至るまで、新しいものへと移行された。
このようなシステム移行ではトラブルが発生しやすいものだが、
まったく不安はなかったという。「販社システムを統合した時
性能は 3 倍、コストは 25% 削減今後の統合でコスト半減も期待
最大の課題はダウン タイムの最小化リハーサルを重ね 50 時間まで短縮
マイグレーションと VUP をリスク覚悟で同時に実施
には特別監視体制を敷きましたが、今回はまったくその必要
はないと判断しました」と柴田氏。実際にトラブルはまったく
発生せず、安定性も以前に比べて高くなっているという。
その一方で、既に保守の切れていた 4.0B の SAP R/3 を
バージョン アップすることによる効果も得られている。バー
ジョン アップ後、すぐにリリースされた固定資産税制改革パッチ
を適用することができ、新税制にも短期間で対応できるように
なったのだ。マイグレーションによるコスト削減効果も大きかった。
パフォーマンスは以前のシステムに比べて約 3 倍になったが、
導入、運用コストはトータルで 25% 削減されているのだ。
基幹システム統合に向けたプラットフォームの基盤は、これで
整ったと柴田氏はいう。今後はこのシステムに、グループ
各社の基幹系システムを統合していく。2009 年度までには
この統合を完了させ、グループ全体の SAP R/3 システムを、
国内基幹系システム、販社システム、グローバル システムの
3 つに集約する計画だ。これによってサーバー運用コストは、
約半分にまで削減できると期待されているという。
渡辺 道人 氏
富士フイルムコンピューターシステム株式会社代表取締役社長
Windows Server + SQL Server への移行
富士フイルム _SAP導入事例 P6-7