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東北メディカル・メガバンク計画の 今後の在り方について 令和2年4月 10 日 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 ライフサイエンス委員会 次世代医療実現のための基盤形成に関する作業部会

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東北メディカル・メガバンク計画の 今後の在り方について

令和2年4月 10 日

科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 ライフサイエンス委員会

次世代医療実現のための基盤形成に関する作業部会

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目次 1. はじめに .................................................................................................................................................. 1 2. これまでの取組 ........................................................................................................................................ 2 3. 今後の在り方に向けての提言 ................................................................................................................... 6

(1)我が国の健常人ゲノムコホート・バイオバンクの在り方について............................................................. 7 (2)東北メディカル・メガバンク計画の今後の在り方について ................................................................... 10

①全体像 .............................................................................................................................................. 10 ②コホート調査 ...................................................................................................................................... 11 ③バイオバンク、データシェアリング .......................................................................................................... 12 ④ゲノム・オミックス解析 ......................................................................................................................... 13 ⑤その他(地域医療支援、遺伝情報等の回付、人材育成等) .............................................................. 13

参考資料1 検討の経緯 参考資料2 東北メディカル・メガバンク計画の事後評価及び今後の在り方に関する検討会 設置要綱 参考資料3 次世代医療実現のための基盤形成に関する作業部会の設置について 参考資料4 科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 ライフサイエンス委員会 次世代医療実現のための

基盤形成に関する作業部会 委員名簿

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1. はじめに

(検討の背景)

ゲノム等に関する解析技術やそれを活用した研究開発の急速な進展により、遺伝要因等による個人ごとの違いを考慮した予防・診断・治療、いわゆる次世代医療の実現への期待が高まっている。次世代医療の実現には、疾患とゲノム情報、遺伝子の発現に関するタンパク質や代謝物の情報、環境要因等の相互関係を解析することが必要であり、大規模なバイオバンクやゲノム情報を備えたコホート(以下「ゲノムコホート」という。)等の研究基盤が必須である。

我が国においては、東日本大震災を契機として、平成 23 年度から「東北メディカル・メガバンク計画」(以下「TMM 計画」という。)を実施してきた。TMM 計画は、被災地住民の健康向上に貢献するとともに、大規模なゲノムコホート研究等を実施し、個別化医療・予防等の東北発次世代医療の実現を目指すものであり、これまでに、15 万人規模の健康情報や生体試料、ゲノム解析データ等を収集・解析し、我が国最大級の健常人ゲノムコホート・バイオバンクを構築してきた。被災地住民・自治体に健康情報を回付するとともに、全国の研究者に試料・情報を提供しており、被災地住民の長期健康支援のみならず、我が国全体の次世代医療の実現に向けた貢献をしてきた。

10年間の計画は予定通り進捗しており、当初予定された事業としては令和2年度で終了予定である一方で、健常人ゲノムコホート・バイオバンクの必要性・重要性については、ゲノム情報を活用した次世代医療の社会実装にむけての取組が本格的に進む中、ますます高まっている。TMM 計画が構築した健常人ゲノムコホート・バイオバンクは、これら社会のニーズに応え得るものであり、我が国の健康・医療分野の研究開発において重要な研究基盤として、科学技術の振興の観点から、内容を精査した上で令和3年度以降の在り方を検討する必要がある。

本作業部会では TMM 計画の 10 年間の成果を評価するとともに、今後の我が国における健常人ゲノムコホート・バイオバンクの在り方を見据え、TMM 計画の令和 3 年度以降の在り方について検討を行った。

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2. これまでの取組

(文部科学省の取組)

文部科学省では、平成 15 年度より「オーダーメイド医療の実現プログラム」として、生活習慣病を中心に 51 疾患、約 27 万人の試料・情報を保有する世界最大級の疾患バイオバンクであるバイオバンク・ジャパン(以下「BBJ」という。)の構築とゲノム解析を進めてきた。平成 30 年度からは「ゲノム研究バイオバンク事業」として、BBJ の利活用を進めており、約 20 万人について最長 9 年間の追跡情報、約 19 万人のアレイ解析データ、1万人の全ゲノム解析データ、1,000人のメタボローム解析データを保有し1 、バイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)等を通じて制限公開又は制限共有している。

また、平成 23 年度から TMM 計画を開始し、合計 15 万人規模の地域住民コホート及び三世代コホートを形成するとともに、健康情報や生体試料、ゲノム解析データ等を収集・解析し、我が国最大級の健常人バイオバンクである「東北メディカル・メガバンク」を構築してきた(成果の詳細については後述)。

更に、平成 28 年度から「ゲノム医療実現推進プラットフォーム事業」を開始し、既存のバイオバンク等を研究基盤・連携のハブとして再構築するとともに、目標設定型の先端ゲノム研究開発を一体的に推進している。AMED 内にゲノム医療研究支援のための体制を構築したほか、バイオバンクの利活用を促進するため、ポータルサイトや我が国のいわゆる「3大バイオバンク」(BBJ、東北メディカル・メガバンク、ナショナルセンター・バイオバンクネットワーク)を中心とした試料・情報の横断検索システムの開発・運用、バイオバンク利活用のためのハンドブック作成等を行っている。先端ゲノム研究開発に関しては、主に多因子疾患を対象として 5 年以内の臨床研究への移行を目指した疾患研究や基盤技術開発を推進するとともに、令和元年度からは既存データを活用した若手研究者による研究を推進し、本分野における若手研究者の育成及び新規参入を促している。

(東北メディカル・メガバンク計画の成果)

本計画は平成 23 年度から令和2年度までの 10 年間を実施期間とし、「東北メディカル・メガバンク計画 全体計画 改訂版」(平成 29 年4月1日 日本医療研究開発機構基盤研究事業部 東北メディカル・メガバンク計画 プログラムスーパーバイザー 榊佳之)(以下「全体 1 「オーダーメイド医療の実現プログラム」以外の事業において解析され、BBJ に蓄積されたデータを含む。なおこれら

については、今後制限公開又は制限共有予定のものを含む。

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計画」という。)に基づき、平成 28 年度までを第1段階、平成 29 年度から令和2年度までを第2段階として段階的に進められた。

令和元年度に日本医療研究開発機構(AMED)で行われた研究課題事後評価も踏まえ、本作業部会で行った事業に対する事後評価においては、本事業は東日本大震災後の創造的復興と個別化医療・予防の実装に向け大きく貢献するものであり、主に以下の観点から、当初の事業目標は十分達成されたと評価された。

「全体計画」に記載されている目標を、事業終了年度である令和2年度までにおおむね達成する見込みである。

本事業で構築されたバイオバンク及び情報基盤等は科学的・技術的意義を有しており、今後の我が国の個別化医療・予防の実装に向けて基盤的な役割を果たすことが期待される。また、被災地域住民の健康管理にも貢献するなど、社会的意義を有している。国際的にも先導的なバイオバンクとなり、本分野で我が国がイニシアチブを獲得していくための不可欠な基盤となるために、国内外の研究者との共同研究をより一層活性化させることや、データシェアリングの在り方を見直す等、バイオバンク・情報基盤の利便性向上には更なる改善が期待されるが、最大約 15 万人分のゲノム情報基盤が構築見込みであり、既に日本人の健常人コントロールとして利活用されていることや、未診断疾患の診断に貢献していることなどから、国のニーズにも合致しており、全体として本事業の必要性は非常に高かった。

プロジェクト全体の進捗管理が AMED の PD・PS・PO やプログラム推進会議の下、適切に行われ、地域医療の復興や次世代医療の実現に資する成果を上げたことから、有効性、効率性も優れていた。

主な成果は以下のとおりである。

《被災地の健康管理等への貢献》 本事業では8万人規模の地域住民コホート(宮城県約5万人、岩手県約3万人)及

び出生コホートである三世代コホート(宮城県約7万人)を形成している。地域住民コホートでは、参加者に結果報告書を返却、必要に応じ緊急受診勧奨を行っているほか、参加者の同意に基づいた自治体への調査結果の提供や参加者を対象とした健康調査報告会を行っている。また、既存の公的データも有効に活用しながら、被災地での増加・深刻化が懸念される疾患に関して比較解析研究を行うなど、既にいくつかの成果を得ており、地域医療に貢献した。

三世代コホートは、出生コホートと家系情報付き三世代コホートの両研究デザインを融合させた世界初の家系情報付き出生ゲノムコホートであり、遺伝要因・環境要因の家族内での類

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似性もしくは異質性を三世代にわたって比較することで、効率的な疾病の原因解明の実現に寄与した。本コホートは世界的にも類を見ない優れた取組であり、健康・医療分野の施策推進の観点からも今後も大きな成果が期待される。

また、沿岸被災地域を中心とした医療機関と東北メディカル・メガバンク機構との間で医師(ToMMo2クリニカルフェロー及び IMM3クリニカルフェロー)を循環させることで地域医療支援を行う循環型医師支援制度を維持・継続し、効率的な病診連携による包括的な地域医療体制の維持と、住民の健康・福祉の維持・向上に貢献した。併せてゲノム医療の研修等も行い、次世代医療に向けた人材育成にも取り組んだ。

《ゲノム医療研究の基盤構築》 本計画では、8,000 人の全ゲノム解析を実施しており、既に 4,700 人分の日本人の全ゲ

ノムリファレンスパネル(4.7KJPN)を公開しており、健常人コントロールとして多数の研究課題にゲノム情報の提供を行った。また、長鎖シークエンス等により、日本人のゲノム解析のひな型となる日本人基準ゲノム配列(JG1)を構築した。更に、オミックス解析を実施し、日本人多層オミックス参照パネル jMorp において 1.5 万人分の血漿中の代謝物の平均や分布情報を、3層オミックス参照パネル iMETHYL において 1,100 人規模のゲノム多型、DNA メチル化情報と遺伝子発現情報の平均や分布情報を公開するなどの成果を挙げている。

また、日本人ゲノム多様性に基づいたマイクロアレイであるジャポニカアレイ®を開発し、その後もバージョンアップを重ね、令和元年にはジャポニカアレイ®NEO を発表した。

更に、ゲノム解析データをはじめとする多様なデータを安全に共有するため、スーパーコンピュータに遠隔アクセスできる体制を全国 22 拠点に構築しており、情報の利活用促進に努めている。

また、バイオバンクの品質や情報セキュリティの国際標準化のため、品質(ISO9001)と情報セキュリティ(ISO27001)についての国際機構(ISO)の認証を取得し、試料の高い品質と厳格なセキュリティの確保に努めている。

《個別化予防や個別化医療の実現に向けた先導モデル》 一般集団の個人への遺伝情報回付に向けては、平成 28 年に開始した家族性高コレステ

ロール血症の遺伝情報回付のパイロット研究について、対象者の拡大を行うとともに、179 名

2 ToMMo: Tohoku University Tohoku Medical Megabank Organization(東北大学東北メディカル・メガバンク機構) 3 IMM: Iwate Medical University Iwate Tohoku Medical Megabank Organization(岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構)

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の参加者に対して結果回付を行い、必要に応じて受診勧奨を行った。また、遺伝情報や結果回付に関わる理解を促進する「いでん講習会」の開催や、f-tree®(医療者入力型家族歴ツール)及び family-t®(患者入力型家族歴ツール)といった家族歴ツールの開発を通して、参加者の遺伝リテラシー向上に努めた。また、被災地での増加・深刻化が懸念されている高血圧、脳梗塞等多くの国民が罹患する一般的な病気に関する疾患リスク予測手法を、iwate polygenic model(iPGM)を用いて構築している。

これらの取組により、個別化医療・予防の実現に向けた先導的なモデルを示している。

《ゲノム医療実現のための環境整備等》 ゲノム医療体制の構築に必要な人材育成として、GMRC(ゲノムメディカルリサーチコーディ

ネーター)やデータマネージャー、認定遺伝カウンセラー®、臨床遺伝専門医、バイオインフォマティシャン等の人材育成を行った。更に、アカデミアにおける地域医療支援とゲノム医療のための知識とスキルを習得するための研修や、バイオインフォマティクス人材育成として血液細胞の3層オミックス(ゲノム、エピゲノム、トランスクリプトーム)解析データを利用する研究課題を実施した。質の高いバイオバンクを構築し、そのための人材やノウハウが蓄積され、一定の成果を挙げた。

広報活動としては、各種印刷物の発行やウェブサイトの運用、展示出展等を行ったほか、地域自治体や他機関との関係構築に向け、協議会等を設置して意見交換を行うなど、TMM計画が行うコホート調査の継続や試料・情報分譲の推進を図っている。

《他の事業や産業界との連携》 AMED のゲノム医療実現推進プラットフォーム事業や革新的がん医療実用化研究事業な

どの他事業とも連携し、本事業で蓄積された試料・情報を活用した疾患研究等に取り組んだ。 また、産業界との連携においては、新たなアドオンコホートや共同研究等を多数実施しており、

成果も少しずつ出始めていることから、今後も更なる波及効果が期待できる。

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3. 今後の在り方に向けての提言

個別化医療・予防等の次世代医療の実現には、疾患とゲノム情報、遺伝子の発現に関するタンパク質や代謝物の情報、環境要因等の相互関係を解析することが必要であり、大規模なバイオバンクやコホート等の研究基盤が必須である。特に健康寿命を延伸するためには発症予防が大切であり、多様な遺伝要因、環境要因の情報が整備された、健常者集団の前向きゲノムコホート研究は危険因子の発見や他の研究で予測された危険因子の検証、発症予防等早期介入ポイントの検証に不可欠である。

各国においても次世代医療実現のための基盤構築が進められている。例えば英国では、2018(平成 30)年 12 月に、Genomics England が難病・がん患者を対象とした 10 万検体の全ゲノム解析を完了した4。また 2006(平成 18)年から UK バイオバンクの構築が進められ、健常人 50 万人分の試料・情報の格納が完了しており、2018(平成 30)年 10 月には英国政府が UK バイオバンクの健常人 50 万検体と国民保健サービス(NHS)における患者 50 万検体の全ゲノム解析を実施すること、今後5年間で 500 万人規模への拡大を目指すこと5を発表した。米国では、2015(平成 27)年にプレシジョン・メディシン・イニシアチブが発表され6、その柱の一つであるコホート研究が All of Us 研究プログラムとして 100 万人以上の参加を目指し、2016(平成 28)年に本格始動した7。また、アジアにおいても、2019(平成 31/令和元)年に香港政府ががんや希少疾患の患者の全ゲノムを解析する新たなプロジェクトに乗り出すことを発表する等8、近年諸外国の取組が急速に進展している。

我が国においても、ゲノム医療協議会等において、ゲノム研究における生活習慣病等多因子疾患への本格的な取組の必要性が議論され始めたところであり、また、「統合イノベーション戦略2019」(令和元年6月閣議決定)、「バイオ戦略 2019~国内外から共感されるバイオコミュニティの形成に向けて~」(令和元年6月統合イノベーション戦略推進会議決定)ほか、多くの提言、答申等が公表され、特に、健常人ゲノムコホート・バイオバンクについて政策的な重要性 4 2012 年後半にキャメロン首相(当時)により 10 万人の全ゲノム解析計画が発表。2018 年 12 月に 10 万人のシークエンスを完了した。https://www.genomicsengland.co.uk/the-uk-has-sequenced-100000-whole-genomes-in-the-nhs/ 5 HM government 「Industrial Strategy Life Sciences Sector deal 2」 (2018 年) https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment̲data/file/768570/life-sciences-sector-deal-2-web-ready-update.pdf 6 2015 年にオバマ大統領(当時)により発表。 https://obamawhitehouse.archives.gov/the-press-office/2015/01/30/fact-sheet-president-obama-s-precision-medicine-initiative 7 https://allofus.nih.gov/ 8 株式会社三菱ケミカルリサーチ「バイオバンク・コホートの動向調査-2018 報告書」(平成 31 年3月)

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が高まっている。 また、日本学術会議からは「提言 ゲノム医療・精密医療の多層的・総合的な推進」(令和

元年7月)が発表され、ゲノム解析規模の拡大や、多層的・統合的なゲノム医療・精密医療研究の推進等が求められている。

産業界においても、健康寿命の延伸の実現に貢献するため、従来の病気の治療を中心とする医療にとどまらず、予防・先制医療の実現をも見据えた研究開発の必要性が指摘されている。前向きゲノムコホート研究は疾患の発症・進行メカニズムの解明に資するものであることから、「Society 5.0 時代のヘルスケア」(平成 30 年3月日本経済団体連合会)において TMM計画等の継続性の担保や規模拡大が、「製薬協 政策提言 2019-イノベーションの追求と社会課題の解決に向けて-」(平成 31 年2月日本製薬工業協会)において TMM 計画の前向きゲノムコホート研究データの基盤整備・拡充と利活用推進等が求められているところである。

(1)我が国の健常人ゲノムコホート・バイオバンクの在り方について

令和 3 年度以降の TMM 計画の在り方を議論するにあたり、その前提として、健常人ゲノムコホート・バイオバンクの必要性、目的を整理することとする。

《必要性》

少子高齢化が進む我が国において、健康寿命の延伸は大きな課題である。「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」(平成 24 年厚生労働省告示第 430 号)においても、生活習慣の改善等を通じて、全ての国民が、ライフステージに応じて健やかに生活できる社会の実現、生活習慣病の予防等による健康寿命の延伸、我が国の主要な死亡原因である生活習慣病への対処において一次予防(生活習慣を改善して健康を増進し、生活習慣病の発症を予防すること)に重点を置いた対策等の必要性が指摘されている。

一方、ゲノム科学、ゲノム医療の観点では、ゲノム等に関する解析技術やそれを活用した研究開発は急速に進展しており、遺伝要因等による個人ごとの違いを考慮した予防・診断・治療は、がん遺伝子パネル検査が保険適用となったことをはじめとして、既に一部実現しつつある。生活習慣病等多因子疾患は、多くの環境要因や遺伝要因を考慮する必要があることから、ゲノム情報を用いた個別化予防・医療が社会実装に至るには、科学的知見の蓄積や技術開発の進展、遺伝情報の回付が個人の行動に及ぼす影響とその効果の検証等が今後更に必要であるが、社会のニーズを踏まえ、実現に向けた取組を加速するべきである。

こうした社会のニーズ及び科学技術の進展を踏まえ、がんや難病のみならず、多くの人が罹患する生活習慣病等多因子疾患を対象として、遺伝子変異・多型と疾患の発症、生活習慣等

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環境要因との関連等から、科学的エビデンスに基づき、ライフステージや個人ごとの違いを考慮した疾患の発症・重症化予防、診断、治療等に資する研究開発を推進することを目指し、これらを実現するための基盤として、ゲノム情報及び対応する詳細かつ追跡可能な健康情報等を保有する健常人集団の試料・情報(健常人ゲノムコホート・バイオバンク)を我が国全体で活用できる形で整備することが不可欠である。

《役割》 健常人ゲノムコホート・バイオバンクの役割は、大きく以下に整理される。また、必要とされる規

模はそれぞれの役割によって異なる。 A) 一般集団における遺伝子変異の頻度パネル B) アレイ解析データから擬似全ゲノム解析を行うためのリファレンスパネル C) 疾患対照研究のコントロール群 D) 生活習慣病等多因子疾患の発症リスクを予測・検証するための前向きコホート

A)、B)については日本人網羅性を持ち、疾患の偏りが少ないことが重要であり、C)、D)については個人ごとの健康情報とゲノム情報が必要である。

《コホート・バイオバンク連携》

上記、A)~C)の役割の重要性が変わるものではないが、今後は、D)の役割がより重要となる。生活習慣病等多因子疾患については、より複雑な遺伝・環境相互作用を検証する必要があるため、サイズの大きな健常人ゲノムコホート・バイオバンクが必要となる。また、それらのデータを収集・解析して活用するためには様々な人材や解析基盤が必要である。更に遺伝情報を回付して行動変容した結果が、その後の健康にどの程度貢献したかを検証することも必要であり、社会実装に向けては、解決すべき技術的・社会的課題が多く残されている。

多因子疾患について有効なポリジェニックリスクスコアを得るためには、数十万人規模以上のゲノムデータが必要とも考えられている。TMM 計画は我が国最大級の健常人ゲノムコホート・バイオバンクであり、中核的な役割を果たすことが期待されるが、単独で必要な試料・情報の規模を確保することや、基盤構築から社会実装までに求められる全ての機能を果たすことは難しい。

海外では、既存のコホート研究とゲノム解析拠点が連携し、一定の条件に合うコホート研究をゲノムコホート化する取組が進んでおり、我が国にも、規模・目的は様々であるが、既に長期に追跡している健常人コホートが複数存在することを踏まえれば、これらが連携することにより必要な規模を確保することが有効な手段になり得る。

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一定の条件に合う、質の担保された国内のコホート・バイオバンクが連携し、更にゲノム情報が追加されることで、他国に比肩する規模の日本人ゲノムデータを活用でき、日本人における希少疾患の原因遺伝子や割合の低い遺伝要因のリスクの推定、健常人コホート・バイオバンクと疾患コホート・バイオバンクとの連携による多因子疾患の発症リスクのより精緻な予測や検証が進むことが見込まれる。

このような連携を加速させるために、国は、過去、未来に渡って追跡が可能な詳細な健康情報等を持つ、質の担保された健常人ゲノムコホート・バイオバンク連携、またその成果の活用のための枠組みを整備するべきである。その際、それぞれ目的があり、質や追跡方法・精度が異なる既存の各コホート・バイオバンクを、質や均一性を担保しながらどのように連携するかに留意が必要である。

また、連携の目的はデータの利活用であり、より多くの関係者や関心を持つ者が連携の枠組みに参加できることが重要である。データの利活用・社会実装にあたっては、人工知能やウェアラブル端末の活用をはじめとして異分野の研究者、企業との連携が今後ますます拡がることが想定される。幅広い利用者、また疾患コホート・バイオバンクも含め、緩やかな繋がりを形成した上で、更に、一定の質が担保され、かつ目的を同一にするコホート間、バイオバンク間が強固に連携できるような仕組みが望ましい。

《推進の枠組み》 大規模なゲノムコホート・バイオバンクは、研究基盤として我が国全体に貢献するものであるた

め、基幹的な部分は公的支援を主とすべき一方で、研究の加速・発展には、複数企業と共同で行う前競争的な領域での連携、個別企業と行うアドオンコホート研究等を組み合わせて、我が国全体の基盤としての中立性・公平性を保ちつつ、民間企業、地方自治体の資金・人材も活用する仕掛け作りが重要である。

また、UK バイオバンクの例をみても、ゲノムコホート・バイオバンクは成果(論文化)の顕在化に長い時間を要する9。事業推進にあたっては、目先の成果数確保にとらわれず、重厚な研究基盤を構築する観点が重要である。

《データシェアリング》

9 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)研究開発戦略センター(CRDS)辻真博フェロー調査(次世代医療実現のための基盤形成

に関する作業部会(第2回)資料2)https://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/n2227̲02.pdf

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研究基盤を構築する目的は、これを利活用して研究成果を創出するためである。国内外の公的な研究機関や民間企業による多様な研究開発や共同研究が行われることが前提であり、個人情報保護法等に留意し、ゲノムデータの漏洩や悪用を防ぎつつ、多様な研究を進める仕組み(技術開発、制度等)が必要である。

更に、今後は国際的なコホート・バイオバンク連携が進むと考えられ、我が国がプレゼンスを発揮していくことが必要である。ゲノムコホートにおいては、ゲノム情報に詳細な健康情報、生活習慣等が紐付けられていることから、参加者(データ提供者)の信頼関係を丁寧に構築する必要があることに留意し、情報セキュリティや倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues: ELSI)に十分配慮しつつ、国内外に対して先導的なデータシェアリングを実現する必要がある。

試料・情報の海外へのシェアリングについては、ゲノム研究において我が国がプレゼンスを発揮できるよう、また試料・情報の利活用が進み結果的に国益に資するとの観点から積極的に行うべきとの意見がある一方で、個人情報保護の観点等から慎重に検討すべきとの意見もある。国として一律の方針は少なくとも現時点ではないが、試料・情報の海外へのシェアリングについては、現行の法令や指針を遵守した上で、個々の研究の計画ごとに、コホート・バイオバンクの目的や参加者の同意の範囲、当該研究の意義・目的から、いずれにしても慎重に判断するべきである。

(2)東北メディカル・メガバンク計画の今後の在り方について

①全体像

TMM 計画はこの 10 年で、地域との強固な信頼関係を築きながら、我が国最大級の健常人ゲノムコホート・バイオバンクを構築し、我が国全体の研究者への供給を目的とした運営体制により、解析基盤等、それを支えるインフラ、ノウハウを蓄積してきた。よって、3.(1)で述べた我が国の健常人ゲノムコホート・バイオバンクの連携の中核として機能することが可能であり、また、これまでのノウハウを活かし、技術面での司令塔的役割を果たすことが期待される。

3.(1)で整理した健常人コホート・バイオバンクの役割において、TMM 計画では A)~C)については既に一定の成果が得られており、D)については本格的な成果が得られるのはこれからである。

以上から、科学技術の観点から内容を精査しつつ、令和3年度以降も本事業の成果を活用することが適当である。

次期事業期間(令和 3 年度からの 10 年間程度)においては、TMM 計画を、我が国最大

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級の健常人ゲノムコホート・バイオバンクとして維持、充実させるとともに、個別化医療・予防等の次世代医療の実現に資する、我が国の健常人ゲノムコホート・バイオバンクの中核として機能させるべきである。その際、健常人ゲノムコホート・バイオバンクの構築やその成果の利活用は、参加者(データ提供者)やその家族と実施機関との信頼関係の上に成り立つものであり、また、自治体等地域との協力が不可欠であることから、TMM 計画がこれまでに築いた、参加者を含む地域住民や自治体等地域との信頼関係を維持し、相互の理解を深めていくことが重要である。

具体的には、以下の方向性を目指す。 多くの人が罹患する生活習慣病等多因子疾患を対象として、遺伝子変異・多型と疾患の

発症、生活習慣等環境要因との関連等から、科学的エビデンスに基づき、ライフステージや個人ごとの違いを考慮した疾患の発症・重症化予防、診断、治療等に資する研究開発及びその成果の社会実装を推進するための基盤となる。

我が国最大級の健常人ゲノムコホート・バイオバンクとして、最も充実した試料・情報を備える。

情報セキュリティや ELSI に十分配慮しつつ、国際的にもプレゼンスを発揮できる先導的なデータシェアリングを実現する。

我が国の健常人ゲノムコホート・バイオバンク連携の中核として、他コホート・バイオバンクに対して、解析基盤、解析技術、バイオバンクの標準化等のノウハウ、人材を提供する。

共同研究を積極的に実施し、個別化予防・医療の実現、ライフコースに沿った課題解決に貢献する研究成果を創出し、バイオバンクが保有する試料・情報を活用した次世代医療・ヘルスケアの社会実装に向けた先行モデルとなる。

②コホート調査

個人の体質や社会的・環境的要因、生活習慣が、加齢によりどのような健康上の問題を引き起こすのかを理解するためには、生活習慣等や健康情報を正しく、かつタイムリーに収集することにより疾患等の発生を把握し、リスク要因とその程度を推測することが必要である。特に小児の疾患や、生活習慣病、認知症の追跡においては、公的情報や書面調査では得られない詳細な健康情報が重要であり、追跡調査及び詳細調査の継続は、震災の長期的な影響の把握という観点のみならず科学的観点からも強く期待される。

追跡期間はより長期にわたり実施することが望ましいが、特に三世代コホート調査は 30 年間追うことにより擬似的に人の一生を追うことができ、ライフコースを俯瞰した疾患研究への貢献が期待されることから、30 年間を目標として継続することの科学的意義が高い。

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一方、投入できる資源は限られることから、次期事業期間に TMM 計画に期待される役割に沿って、各コホート調査において重点的に追跡する対象疾患を検討することが必要である。またその際には、乳幼児健診や学校健診等の公的データや書面調査、対面型調査等の利用可能なソースの同定及び活用、調査票の電子化等による効率化、調査の形態や頻度等の検討が求められる。

③バイオバンク、データシェアリング

《バイオバンク》

我が国最大級の健常人ゲノムコホート・バイオバンクとして、バイオバンクの品質や情報セキュリティが国際標準に照らして妥当である必要がある。現行の TMM 計画では品質と情報セキュリティについての国際機構の認証(ISO9001、ISO27001)を取得し、試料の高い品質と厳格なセキュリティの確保に努めているが、次期事業期間においても同等の品質等を維持すべきである。

更に、事業の長期的な継続を見据え、バイオバンクの運用の効率化等についても具体的な検討が求められる。

《データシェアリング》 ライフステージや個人ごとの違いを考慮した疾患の発症・重症化予防、診断、治療等に資する

研究開発及びその成果の社会実装を推進するための基盤として、国内外の公的な研究機関や民間企業による多様な研究開発や共同研究が行われることが前提であり、個人情報保護法等の法令等や国際潮流を踏まえた上で、より活用される研究基盤となる必要がある。

TMM計画は我が国最大級の健常人ゲノムコホート・バイオバンクとして、参加者(データ提供者)やその家族、地域住民との信頼関係の尊重、個人情報の保護等を前提に国際的にもプレゼンスを発揮できる先導的なデータシェアリングを実現し、多様な研究開発や共同研究を進めるための仕組みを構築するべきである。

事後評価においては、データ基盤としての利便性については、解析データの種類やサイズによってはデータのダウンロードも可能とする等の見直しが期待された一方で、個人情報であるゲノムデータ漏洩のリスクが利用者側に生じる懸念についても指摘された。

今後は、分譲する情報について、どのデータをどのように扱えるかをユーザー視点で分かりやすく整理した上で、遠隔セキュリティエリアの拡大やデータセキュリティ区分の柔軟な運用、国内の他研究拠点とのスーパーコンピュータ連携等によるデータアクセスの利便性向上に早急に努めるとと

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もに、利用者の要望、クラウドコンピューティング等の技術の進展及びこれに伴う技術的課題、国際潮流や我が国における社会の受容性を踏まえ、継続的な検証、見直しを行うことが強く期待される。

《情報基盤の強化》

次世代医療の実現に向け、今後は、大量かつ多様な情報を適切に蓄積しシェアリングするだけでなく、人工知能等を駆使して、保有するビッグデータから新しい知識・知見を引き出す創造的な取り組みが必要である。このような観点からも、TMM 計画で整備されてきた情報基盤が、異分野を含む幅広い研究者や、企業と連携し、知的・創造的な情報基盤として一層強化されることが期待される。

④ゲノム・オミックス解析

科学技術の観点から必要な追跡調査の継続を前提として、ゲノムデータ等基盤的な情報の充実も期待される。

TMM 計画の第2段階までに全ゲノム解析 8000 人、アレイ解析 15 万人が完了見込みであることを踏まえ、第3段階において、基盤として備えるべき情報としては、中間表現型としての有効性が明らかになりつつあるメタボローム解析の大規模化や、世界でも未実施の構造多型のリファレンスパネルの構築、ライフステージに渡る個別化予防の基盤構築に向けたエピゲノム、マイクロバイオーム、汎用性の高いバイオマーカー(炎症マーカー、性ホルモン等)等が挙げられており、国内外の研究動向、利用者のニーズを注視しつつ、試料の戦略的な保存及び活用の観点も踏まえ、優先順位を検討するべきである。

その際、必要とされる全ての解析を TMM 計画単独で実施することは不可能であるため、ノウハウの提供や試料・情報の分譲、共同研究等により、他機関と連携して、試料に情報を付加していくスキームを確立する必要があり、このためにも、上記③(データシェアリング)で述べた、個人情報保護や ELSI の観点を十分配慮しつつ、多様な研究開発や研究を進める仕組みの構築が不可欠である。

⑤その他(地域医療支援、遺伝情報等の回付、人材育成等)

《地域医療支援》 TMM 計画が行ってきた健康調査や医師派遣等の地域医療支援は本作業部会で行った事後

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評価でも高く評価された。令和3年度以降も、復興の状況等を踏まえ、内容を適宜見直しながら、引き続き自治体と連携し、地域医療に貢献することが重要である。コホートを長期に継続する観点からも、参加者を含む地域住民や自治体等地域との信頼関係を維持することが重要である。引き続き、自治体との連携や、地域住民を対象とした講習会等の取組を通じて、参加者のみならず、地域住民、自治体等地域とのコミュニケーションを継続することが必要である。

《遺伝情報等の回付》

生活習慣病等多因子疾患を対象とした個別化医療・予防の社会実装において、将来的にはポリジェニックリスクスコア等の遺伝的リスク情報の個人への回付が必須であるが、ポリジェニックリスクスコアは未だ研究段階であり、回付による行動変容やその効果、医療現場での影響や課題の検証を含め、パイロットスタディにより慎重に知見を積み重ねるべきである。 《人材育成、次世代医療の社会実装に向けての取組等》

我が国の健常人ゲノムコホート・バイオバンクの中核として、大規模プロジェクトであるが故に可能な我が国の個別化予防・ゲノム医療の実現に貢献する人材の育成、輩出を行うべきである。具体的には、臨床遺伝専門医(遺伝医学における臨床・研究を統括する専門の医師)、認定遺伝カウンセラー(臨床遺伝専門医をサポートする遺伝カウンセリングの専門家)、バイオメディカルインフォマティクス人材(コホート調査の企画・運営、バイオバンクの管理・運営、大規模な健康調査・解析情報を適切に管理・運用する生物医学情報の専門家)、ゲノムメディカルリサーチコーディネーター(GMRC、ゲノム医学研究を中心とするインフォームド・コンセント担当者)が挙げられる。更に、これらの人材が活躍し、次世代医療を実現するため、臓器・領域を超えてゲノム・オミックス情報を適切に扱うことのできる診療科横断的な診療体制の構築を先導して実施することが期待される。

また、より良い人材の育成のためには、多くの人が質の高いデータにアクセスしやすい環境を整備することが重要である。特に若手研究者へのデータ提供はその後の TMM のプレゼンスの向上にも資するものであり、積極的に行うべきである。大学院生等がより簡便にデータにアクセスできる仕組みを検討することが必要である。

更に、個別化医療・予防等の次世代医療の社会実装にあたっては、ゲノムに対するリテラシーの向上が必要である。社会全体で遺伝に関する正確な知識を身につける事が必要であり、これまでのノウハウを活かして、参加者のみならず国民全体に対して積極的に情報発信、教育の機会提供・コンテンツ作成等に貢献すべきである。

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4.おわりに 令和元年 7 月から「東北メディカル・メガバンク計画の事後評価及び今後の在り方検討会」に

おいて2回、令和2年1月から「次世代医療実現のための基盤形成に関する作業部会」において3回にわたり、次世代医療に関する国内外の状況を聴取するとともに、TMM 計画の事後評価結果を踏まえ、我が国の健常人ゲノムコホート・バイオバンクの在り方及びその中におけるTMM 計画の今後の在り方を検討してきた。次世代医療の実現における、健常人ゲノムコホート・バイオバンク及びその利活用の意義、必要性を改めて確認した。

健常人ゲノムコホート・バイオバンク等の研究基盤を利活用して得られた研究成果を社会実装に繋げ、次世代医療を実現するには、関係府省、企業、アカデミア等のシームレスな連携が必要である。文部科学省に対しては、関係府省、関係機関と十分に連携しつつ、本提言を踏まえた取組を着実に推進することを期待する。

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検討の経緯

東北メディカル・メガバンク計画の事後評価及び今後の在り方検討会 ○第1回 令和元7月1日

(1)検討会の設置及び検討の進め方について (2)国内の政策動向について (3)東北大学及び岩手医科大学による成果報告及び今後の在り方に関する提案

○第2回 令和元7月 29 日

(1)国内外のゲノム・バイオバンクに関する取組状況について (2)今後の在り方検討の方向性について

次世代医療実現のための基盤形成に関する作業部会 ○第1回 令和 2 年1月 17 日

(1)次世代医療実現のための基盤形成に関する作業部会について (2)東北メディカル・メガバンク計画の取組状況等について (3)事後評価について(非公開)

○第2回 令和 2 年2月 17 日 (1)東北メディカル・メガバンク計画の事後評価について (2)東北メディカル・メガバンク計画の今後の在り方について

○第3回 令和 2 年3月 23 日

(1)次世代医療実現のための基盤形成に関する作業部会の運営について (2)東北メディカル・メガバンク計画の今後の在り方について

参考資料1

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令和元年6月 17 日

文部科学省研究振興局

東北メディカル・メガバンク計画の事後評価及び今後の在り方に関する検討会

設置要綱

1.設置の目的

東北メディカル・メガバンク計画は平成 23年度に開始され、東日本大震災により甚大な被害を受け

た被災地住民に対して健康調査を行い、調査結果の回付等を通じて健康向上に貢献するとともに、15 万

人規模の生体試料、健康情報等が収集されたバイオバンクを構築することで、次世代医療の実現のため

の基盤を形成してきた。

本計画は令和2年度を以て事業終了を迎えるため、本計画の事後評価を行うとともに、構築してきた

研究基盤の有効活用方策や維持発展方策等について検討を行う、「東北メディカル・メガバンク計画の

事後評価及び今後の在り方に関する検討会」(以下「検討会」という。)を設置する。

2.組織等

(1)検討会の委員(以下「委員」という。)は、外部の有識者や専門家で構成する。

(2)検討会に主査を置き、委員の中から文部科学省研究振興局長が指名する。

(3)主査は必要に応じて、副主査を指名することができる。副主査は主査に事故等があるときは、その

職務を代理する。

(4)検討会は、主査が招集する。

(5)検討会は、委員の過半数が出席しなければ開会することができない。

(7)検討会の設置期間は、設置が決定された日から令和3年3月 31 日までとする。 (8)委員の委嘱期間は、委嘱した日から令和3年3月 31日までとする。

(9)主査が必要と認めるときは、オブザーバーとして府省や大学等の関係者の出席を求めることがで

きる。

(10)委員及びオブザーバーは、テレビ会議システムを利用して会議に出席することができる。

3.情報公開

本検討会は個別利害に直結する事項に関わる検討を行うため、会議及び議事については非公開とす

る。ただし、個別利害に直結する事項を除き、本検討会の資料及び議事録を適切な方法で公開すること

ができる。 4.守秘義務 委員は、本検討会において知り得た情報について他に漏らしてはならない。

参考資料2

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5.庶務

検討会に係る庶務は、文部科学省研究振興局ライフサイエンス課において処理する。

6.雑務

この設置要項に定めるものの他、検討会の議事の手続その他検討会の運営に関し必要な事項は、主査が

検討会に諮って定める。

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(別紙)

東北メディカル・メガバンク計画の事後評価及び今後の在り方に関する検討会

委員名簿

岩崎 基 国立がん研究センター 社会と健康研究センター 疫学研究部 部長

岡田 随象 大阪大学大学院 医学系研究科 遺伝統計学 教授

鎌谷 洋一郎 理化学研究所 生命医科学研究センター 統計解析研究チーム

チームリーダー

川崎 浩子 製品評価技術基盤機構 バイオテクノロジーセンター 産業連携推進課

清原 裕 久山生活習慣病研究所 代表理事

菅野 純夫 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 非常勤講師

須田 英子 国立環境研究所 環境リスク・健康研究センター 環境疫学研究室

特別研究員

高木 利久 富山国際大学 教授

JSTバイオサイエンスデータベースセンター センター長

武林 亨 慶應義塾大学医学部・大学院健康マネジメント研究科教授

徳永 勝士 国立国際医療研究センター NCBN 中央バイオバンク長

・ゲノム医科学プロジェクト戸山プロジェクト長

◎中釜 斉 国立がん研究センター 理事長

福嶋 義光 信州大学医学部 教授

横田 博 日本製薬工業協会 研究開発委員会副委員長

第一三共株式会社 研究開発本部 研究統括部 上席調査役

以上 13 名(敬称略、50音順)

◎:主査 下線:女性委員

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次世代医療実現のための基盤形成に関する作業部会の設置について

令和元年10月15日

科学技術・学術審議会

研究計画・評価分科会

ライフサイエンス委員会

1.設置の趣旨

令和2年度に事業終了年度を迎える東北メディカル・メガバンク計画につ

いて、本計画の事後評価を行うとともに、構築してきた研究基盤の有効活用

方策や維持発展方策等に関する重要事項を調査するため、ライフサイエンス

委員会に「次世代医療実現のための基盤形成に関する作業部会」を設置する。

2.調査事項

(1)東北メディカル・メガバンク計画の今後の在り方について

(2)東北メディカル・メガバンク計画に関する事後評価について

(3)その他

3.設置期間

作業部会の設置が決定された日から令和3年2月14日までとする。

参考資料3

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科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 ライフサイエンス委員会

次世代医療実現のための基盤形成に関する作業部会 委員名簿

(敬称略、50音順)

岩 崎 基 国立がん研究センター社会と健康研究センター

疫学研究部長

岡 田 随 象 大阪大学大学院医学系研究科教授

鎌 谷 洋一郎 東京大学大学院新領域創成科学研究科教授

川 﨑 浩 子 製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター

産業連携推進課長

清 原 裕 久山生活習慣病研究所代表理事

菅 野 純 夫 千葉大学未来医療教育研究機構特任教授

東京医科歯科大学難治疾患研究所非常勤講師

須 田 英 子 国立環境研究所環境リスク・健康研究センター特別研究員

高 木 利 久 富山国際大学長

武 林 亨 慶應義塾大学医学部教授

○ 徳 永 勝 士 国立国際医療研究センターゲノム医科学プロジェクト

戸山プロジェクト長

◎ 中 釜 斉 国立がん研究センター理事長

福 嶋 義 光 信州大学医学部特任教授

横 田 博 第一三共株式会社研究開発本部研究開発企画部上席調査役

日本製薬工業協会研究開発委員会副委員長

◎:主査 ○:主査代理

令和2年3月現在

参考資料4