Upload
others
View
0
Download
0
Embed Size (px)
Citation preview
「トロポニンIの有用性」
東京ベイ浦安・市川医療センター 杉崎 陽一郎 監修 山田 徹
• 症例 70歳男性
主訴 胸部不快感
現病歴
来院当日、夕食後に座位で休んでいたところ、急に
胸から右肩にかけて圧迫感を自覚し、冷汗が出現し
た。30分ほど我慢したが気分不良も伴ったため救急
要請となった。胸痛発症後、3時間で来院された。
• 既往歴 高血圧・高脂血症・糖尿病なし
10年前に前下行枝の陳旧性心筋梗塞
• 生活歴 飲酒なし 喫煙なし アレルギーなし
• 救急外来到着時の現症
vital signs:
BP 140/80mmHg, PR 100/min(整), RR 24/min,
BT36.4℃, SpO2 94%(ambient air)
外観:臥位で会話可能
頭頸部:頚静脈怒張あり
心:S1→S2→S3/S4-、 心尖部で汎収縮期雑音 Levine
3/6
肺:両側下肺野にcrackle+、wheeze-
腹部:平坦・軟、圧痛なし、腸蠕動音正常
四肢:CRT<2sec、下腿浮腫なし
• 救急外来での検査および初期対応
BPは保たれているが、頻脈、呼吸回数の上昇を認め、
胸部不快感は発症後3時間持続している。
末梢ルート確保・採血を看護師に依頼しながら、CXR・
ECG・TTEを施行
・CXR:心拡大、中枢側優位に浸潤影を認める
・ECG:洞調律、HR102、V1-4で異常Q波、ST上昇なし
・TTE:前壁・中隔壁の運動低下、EF35%
陳旧性心筋梗塞の既往があるが冠動脈リスク疾患は
他にない70歳男性
安静時発症の胸部不快感を主訴に救急受診
BPは保たれているが、頻脈・頻呼吸あり
CXRからはうっ血を認め、ECG・TTEからはLAD領域
の虚血性心疾患が疑わしいものの、陳旧性心筋梗塞
との区別が難しい
症例のまとめ
疑問
• ガイドラインでも推奨されているように、胸痛患者には普段からCK・CK-MB・Troponin Iといったバイオマーカーの測定を行っている
• 一方で発症早期には感度が悪いことが報告されている
• 発症早期から感度が高いとされる高感度Troponin Iはどの程度有用なのか?
EBMの実践 5 steps
Step1 疑問の定式化(PICO) Step2 論文の検索 Step3 論文の批判的吟味 Step4 症例への適用 Step5 Step1-4の見直し
①問題の定式化
• P:胸痛で来院、ACSが疑われる70歳男性
• I:Troponin Iの測定
• C:CK/CK-MBの測定
• O:診断精度の向上
診断の論文を検索する
診断精度と研究
診断法の精度を調べるための研究デザインが横断研究
②論文の検索
• PubMedを使用
• ACS / Troponin I / diagnosis で検索
③批判的吟味
JAMA evidence 「Users‘ Guides to the Medical Literature」
を参考に批判的吟味を行った
論文の背景
• トロポニンの測定は急性心筋梗塞の診断において中心的役割を果たしている。
• 心筋梗塞の早期診断・リスク層別化におけるsensitive troponin I assayの有用性を検討
論文のPICO
• P(Patient) 2007年1月から2008年12月に新規の胸痛を呈したドイツの3施設の胸痛外来を受診した連続した1818人
• I(intervention) sensitive Troponin I assay
• C(comparison) Troponin Iを用いないで行った最終診断(詳細は後述)
• O(outcome) Troponin I は急性心筋梗塞の早期診断に有用か
論文のPICO
P(patient) inclusion criteria ①2007年1月から2008年12月 ②新規の胸痛を呈した ③ドイツの3施設の胸痛外来を受診した連続した1818人
exclusion criteria 本文には記載なし Supplementary Appendixに以下の記載あり 4週間以内のmajor surgeryまたは外傷、妊娠、IV drug使用者、 Hb10g/dl未満の貧血.
論文のPICO
• 倫理的配慮の記載もされている
論文のPICO
• I(intervention) sensitive Troponin I assay
• C(comparison) Troponin Iを用いないで行った最終診断(詳細は後述)
論文のPICO
• O(outcome) Troponin I は急性心筋梗塞の早期診断に有用か 急性心筋梗塞におけるsensitive troponin I assayの閾値
1:結果は妥当か
参加患者は診断上のジレンマを呈していたか
• ガイドラインでもバイオマーカーのチェックが推奨されているが、発症早期では感度が悪いため発症早期に感度の高いマーカーが必要とされる
検査を適切かつ独立した参照基準と比較したか
• C(comparison)はreference standard guidelineに準じて症状、心電図変化、バイオマーカー・心カテなどの画像所見を元にCardiologistが診断した
検査と参照基準を解釈する人には 結果は盲検化されていたか
• 最終診断は 「退院時に臨床指標、Lab date、画像所見を基に 2人のTroponin Iの値を知らないCardiologistが診断」 2人の診断が異なった場合は3人目のCardiologistが言及する
対象検査の結果に関わらず 全ての患者に参照基準検査を実施したか
参加者1818人全例にTroponin I assayおよびTroponin Tassayとtraditional myocardial necrosis markersを測定
2:結果は何か
AMI(+) AMI(-)
Tr I>0.04 375 138 513
Tr I<0.04 38 1267 1305
413 1405 1818
DIAGNOSTIC ACCURACY OF THE SENSITIVE TROPONIN I ASSAY
DIAGNOSTIC ACCURACY OF THE SENSITIVE TROPONIN I ASSAY
LR(+)=0.907/1-0.902 =9.25
sensitive Troponin I assay >0.04ng/ml
LR(-)=1-0.907/0.902 =0.10
DIAGNOSTIC ACCURACY OF THE SENSITIVE TROPONIN I ASSAY
ROC curve
④症例への適用
再現性はあるか?
• 10% coefficient (Troponin I)
• 検査者間の一致率は記載なし
自分の患者への適用は?
• 再現性があり、その解釈は本症例 の臨床状況でも適用可能
• 結果によりACSの診断精度が向上
• 診断がつくことにより患者の利益に つながる
⑤step1-4の見直し
まとめ
• Tr IはTr T, CK, CK-MBより診断精度が高い(AUC 0.95)
• 胸痛患者のAMIに対するTr I>0.04ng/mlは感度90.7%、 特異度90.2%
• 胸痛発症後の時間に関わらず、診断精度が高い
• 発症後3時間で、陰性的中率84.1%、陽性的中率86.7%