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1 「北米を中心とするシェールガス、シェールオイルの最新動向とその影響」 -平成 25 年 7 月 11 日 平成 25 年度技術開発・調査事業成果発表会報告要旨- 一般財団法人 石油エネルギー技術センター 調査情報部 主任研究員 半澤彰 シェールガス、シェールオイルに対する関心は益々高まりつつある。本格的な商業生産の 段階にあるのは、北米の米国、カナダであるが、特に米国での増産のペースは急であり、2012 年 11月以降、世界のエネルギー専門機関による同国の原油、天然ガスの生産予測は上方修正 が相次いでいる。米国のエネルギー情報局(EIA)は、その年次エネルギー見通し (Annual Energy Outlook : AEO)で、2013 年度速報版(Early Release)までは、他の予測 機関と比べて慎重な見方が目立ったが、2013年度最終版(2013年 5月2日完成・発表)では、 生産予測の内最も楽観的なケースでは、原油等液体燃料が純輸出となる可能性に言及するに 至った。その背景の一つとして、米国地質研究所(USGS)が 4 月 30 日に発表したバッケン等 国内シェールオイル可採埋蔵量評価の倍増(前回 2008 年比)があると思われる。 EIAは、その後 6月 10日には、前回(2011年4月)より約 2年ぶりに世界のシェールガス、 シェールオイルの技術的可採埋蔵量の見直しを行い、シェールオイルは 10.8 倍(320 億 B→ 3,450億 B)、シェールガスは 10.2%増(6,622tcf→7,299tcf)へと各々上方修正を行なった。 これは、対象とした国、堆積盆、構造の数を大幅に増やしたことにもよろうが、世界の将来 のエネルギー需給に根本的な影響を与え得るスタディ結果と考えられる。 (出所:EIA) <世界のシェールガス、シェールオイル資源評価(米国を含む42ヵ国)> [2年前との評価対象範囲等の違い]

「北米を中心とするシェールガス、シェールオイル …2 本稿では2013年7月11日成果発表会での報告内容に沿い、以下の通り要旨を述べていく。

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Page 1: 「北米を中心とするシェールガス、シェールオイル …2 本稿では2013年7月11日成果発表会での報告内容に沿い、以下の通り要旨を述べていく。

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「北米を中心とするシェールガス、シェールオイルの最新動向とその影響」

-平成 25 年 7 月 11 日 平成 25 年度技術開発・調査事業成果発表会報告要旨-

一般財団法人 石油エネルギー技術センター 調査情報部 主任研究員 半澤彰

シェールガス、シェールオイルに対する関心は益々高まりつつある。本格的な商業生産の

段階にあるのは、北米の米国、カナダであるが、特に米国での増産のペースは急であり、2012

年 11 月以降、世界のエネルギー専門機関による同国の原油、天然ガスの生産予測は上方修正

が相次いでいる。米国のエネルギー情報局(EIA)は、その年次エネルギー見通し

(Annual Energy Outlook : AEO)で、2013 年度速報版(Early Release)までは、他の予測

機関と比べて慎重な見方が目立ったが、2013 年度 終版(2013 年 5 月 2日完成・発表)では、

生産予測の内 も楽観的なケースでは、原油等液体燃料が純輸出となる可能性に言及するに

至った。その背景の一つとして、米国地質研究所(USGS)が 4月 30 日に発表したバッケン等

国内シェールオイル可採埋蔵量評価の倍増(前回 2008 年比)があると思われる。

EIA は、その後 6月 10 日には、前回(2011 年 4 月)より約 2年ぶりに世界のシェールガス、

シェールオイルの技術的可採埋蔵量の見直しを行い、シェールオイルは 10.8 倍(320 億 B→

3,450 億 B)、シェールガスは 10.2%増(6,622tcf→7,299tcf)へと各々上方修正を行なった。

これは、対象とした国、堆積盆、構造の数を大幅に増やしたことにもよろうが、世界の将来

のエネルギー需給に根本的な影響を与え得るスタディ結果と考えられる。

(出所:EIA)

<世界のシェールガス、シェールオイル資源評価(米国を含む42ヵ国)>

[2年前との評価対象範囲等の違い]

Page 2: 「北米を中心とするシェールガス、シェールオイル …2 本稿では2013年7月11日成果発表会での報告内容に沿い、以下の通り要旨を述べていく。

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本稿では 2013 年 7 月 11 日成果発表会での報告内容に沿い、以下の通り要旨を述べていく。

1.シェールオイル増産と北米原油自給の可能性

2.環太平洋地域の主なシェールガス関連動向

3.北米石油精製産業へのシェールの影響

4.米国の NGL 需給、用途及び輸出-シェール影響下の動向

5.米国石化産業へのシェールの影響

6.日本の石油/エネルギー関連産業への示唆

1.シェールオイル増産と北米原油自給の可能性

1.-1 米国シェールオイルは急増産中

米国のシェールオイル生産は 2012 年中に約 150 万 bpd のレベルに達し、その後も増産が続え

られる。ピーク時 200 万 bpd あったアフリカ原油輸入が 2012 年には 100 万 bpd を割り込む

まで減少している。その分の同原油が西ヨーロッパやアジアに流れていっている。

<米国の主要なシェールオイルの生産状況> <米国のアフリカ原油輸入状況>

(出所:EIA、他)

1.-2 米国の原油純輸入

2005 年のピーク時 10,094 千 bpd あった米国の純原油輸入量も以降はほぼ毎年減少し、2011 年は

8,888 千 bpd、2012 年には 8,432 千 bpd となってきている。この傾向は、シェールオイルの増産に

伴い、今後も更に継続することが予想されている。<米国の原油純輸入量の推移図表>

(百万bpd) (千bpd)

(出所:EIA)

Page 3: 「北米を中心とするシェールガス、シェールオイル …2 本稿では2013年7月11日成果発表会での報告内容に沿い、以下の通り要旨を述べていく。

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1.-3 米国原油生産の将来見通し

2013 年 5 月、EIA はシェール(タイト)オイルの生産見通しに、標準ケース比+2~4百万 bpd

の大幅増産ケースを導入した(下図右)。これに先立ち、前述のように、4月 30 日、USGS[米国地

質研究所]はバッケンのシェールオイルの推定可採埋蔵量評価を前回 2008 年比倍増(36 億 B→74

億 B)した。また同日、サウジのナイミ石油相は講演で、北米シェールを鑑み同国の現行原油生産

能力 1,250 万 bpd を 2040 年まで据置くとした。

(出所:EIA)

1.-4 米国の原油自給の可能性

2013 年 5 月 2 日、 EIA は 2013 年版エネルギー長期見通し(AEO 2013)で原油等液体燃料の

純輸出のケースも有り得るとした。また、2040年で純輸入の場合も 大のケースで消費量の44%

であり、2005 年の 60%は超えないとの見方を示した。

(出所:EIA)

米国原油生産の実績と見通し

米国原油等液体燃料の需給の実績と見通し

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1.-5 北米のシェールオイル生産予測

北米のシェールオイル生産量は 2012 年は約 160 万 bpd。2020 年以降は 200 万~500 万 bpd 或い

はそれ以上と諸説あり。ここでは Nexant 社がピーク生産時約 400 万 bpd と予測。イーグルフォー

ドプレイとバッケンプレイは増加分のそれぞれ 41%と 25%を占めると思われる。パーミアン盆地、

ナイオブララプレイ及びウティカプレイにおける生産量増加も大きく貢献すると思われる。カナ

ダのシェールオイル生産量は 2020 年までに 20 万 bpd 増加して、北米における 2012-2020 年の増

産分の 9%を占めると予想される。

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2020 2025 2030 2035 2040

Thou

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Bakken - U.S. Eagle Ford Niobrara Other U.S. Canada

A02037.001.01-US Charts.xlsx

1.-6 北米原油自給の可能性

複数のエネルギー専門機関の見通しを総合すると、カナダの2040年頃の原油生産は550万bpd。

内オイルサンド系(Dilbit、Syncrude)が 450 万 bpd、在来型原油が 60 万 bpd、シェールオイル

が 40万 bpd である。原油生産 550 万 bpd+輸入 80万 bpd-内需 230 万 bpd=輸出余力 400 万 bpd。

従来は輸出の殆どが米国向けであった。

米国の標準ケースで純輸入は約 700 万 bpd と見込まれるため、カナダから 400 万 bpd、メキシコ

から 2012 年並の約 100 万 bpd 輸入しても 200 万 bpd 不足。⇒EIA 標準ケースでは北米の原油自給

は難しいが、輸入大幅削減の方向は間違いない。

1.-7 北米のシェールオイル増産が世界の原油供給構造を変化させる

2013 年 5 月 14 日、IEA は「2013 MTOMR」を発表。その内容は、北米シェール革命の波及効果が

中心テーマの一つ。2012-2018 年の期間に北米のシェール(タイト)オイルは、NGL 分も合わせ、

非 OPEC 増産の半分以上を占める。先のサウジアラビア、ナイミ石油相の発言にもあるように、世

界の原油生産能力増強は少なくても中期的には北米を中心とする非 OPEC 産油国に集中する。

北米のシェールオイル生産量

(出所:Nexant)

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(出所:IEA、2013 MTOMR)

ただ、イラクの生産能力増強が本格的に実現すると、その増産分をサウジを始めとする OPEC メ

ンバー間でどう吸収していくか注目される。制裁が解けた後のイランの復帰分も同様。他にもブ

ラジル、カスピ海、アフリカ勢等による増産の程度によっては、中国、インド等のアジア、中東

諸国の需要増を吸収しつつ、更に需給が緩和してくる可能性もある。その場合価格への下押し圧

力となるが、深海含む非在来型資源のその時点での開発コストがフロアか。

1.-8 北米シェールオイルに起因する世界の原油フローの予測変化

北米シェールオイルの急増産は、2012 年→2018 年といった中期の原油フローにも変化を生じさ

せる。上記 IEA の「2013 MTOMR」では、下図のようにシェール等で潤う北米向けの原油輸出が、

主要 3ルートの全てで減少する絵を描いている。すなわち、中東からは△100 万 bpd、アフリカか

らは△80 万 bpd、南米からは△30 万 bpd 減るとの予測をたてている。

(出所:IEA、2013 MTOMR)

世界の原油等液体燃料の中期供給増見通し

2012 年→2018 年主要貿易ルートでの原油フローの変化 (百万 bpd)

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2.環太平洋地域の主なシェールガス関連動向

2.-1 北米のシェールガス生産量は 2030 年までに 40 Bcf/d に達するか

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20

40

60

80

100

2010 2015 2020 2025 2030 2035

Canada U.S. Mexico Canada - Shale

Canada - CBM U.S. - Shale U.S. - CBM U.S. - Tight

A02037 Section 8

2.-2 米国のシェールガス生産量は 2030 年までに 33 Bcf/d に達すると予想される

0

5

10

15

20

25

30

35

2012 2015 2018 2021 2024 2027 2030

Barnett Haynesville Eagle Ford Fayetteville

Marcellus Woodford Antrim Other

A02037 Section 8

米国及びカナダのガス生産量予想 ・現在、世界において米国と

カナダのみがシェールガ

スを商業生産している。

・2030年に米国は北米シェー

ルガス生産量の大半(33

Bcf/d)を生産すると思われ

る。

・カナダのシェールガス生産

の大部分は同国西部から

であり、2030年には同国総

ガス生産量の44%を占める

と思われる。

米国のシェールガス生産量予想 ・2030年までに、シェールガ

スは米国の総ガス生産量

の46%を占める可能性があ

り、マーセラスが 大のシ

ェールガス生産ソースと

なる。

・ファイエットビルのシェー

ルガス増産も重要な役割

を果たすと思われる。

・リキッドリッチなシェール

ガスプレイ(例えばイーグ

ルフォード)も、相応の貢

献が期待される。

(出所:Nexant)

(出所:Nexant)

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2.-3 米国はシェールガス増産に牽引され、2020 年頃から天然ガスの純輸出国に

米国は、シェールを含む天然ガスの国内供給量が消費量を超え、余剰分を輸出、2020 年頃から

は純輸出国に転じるとの見通しを持っている。2040 年頃のメキシコ、カナダ向けを除く LNG 輸出

量は、2~4Tcf=約 4,000~8,000 万トン/年くらいの幅で予測されているように見える。

(出所:EIA)

2.-4 米国フリーポートから日本へのLNG輸出決定

2013 年 5 月 18 日(米国時間 17 日正午)、米国政府エネルギー省(DOE)は、日本企業が参画す

る米国フリーポート LNG プロジェクトからの LNG 輸出を承認。日本への LNG 輸出が見込まれる米

国 LNG プロジェクトとしては、初めて輸出許可を取得した。

米国の天然ガス総生量、消費、純輸入(標準ケース) 米国の地域別天然ガス輸出入見通し(標準・楽観ケース)

へも承認済み

(出所:METI)

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<フリーポート LNG 基地写真> <フリーポート LNG プロジェクトの輸出承認概要>

<米国 LNG 輸出関連事項>

・将来の LNG 輸出許可は 4~6Bcf/d(約 3,000~4,500 万トン/年)、 大で 8Bcf/d(約 6,000 万

トン/年)とも云われる。

・モニッツエネルギー省長官は、6月 17、18 日の EIA Energy Conference の席上で「2013 年末

迄に LNG 輸出プロジェクト申請の再評価を終える。責任を負える範囲で可能な限り多く承認」

と言明。また同省幹部も議会証言で「60 日程の間隔で追加の承認をするのが一つの目安」と

の見方を示唆した。

・輸出反対派は、主として、国内天然ガス価格の値上がりを懸念しているとみられる。

2.-5 米国から我が国への LNG 輸入の期待効果

・今後日本が米国以外の相手先とLNGの購入契約を交渉する際、有利な材料となり得る。

・ 2012年、日本は約8,700万トンのLNGを約6兆円で購入。その殆どが原油価格リンクであっ

たと考えられる。

・価格交渉が原則難しい長期既契約分が約5,000万トンあるとして、残り3,700万トンを仮に

全量米国ヘンリーハブ(HH)の天然ガス指標価格リンクで購入できたとすると、また、HH

の価格変動や輸出者マージン、日本のLNG輸入量変動等も考慮せず現状通りとすると、

・現在の日本のLNG調達価格:17$/MMBtu-米国湾岸からのHHリンクLNG日本到着価格:

10$/MMBtu=差額:7 $/MMBtu

7 $/MMBtu×3,700/8,700万トン=約3 $/MMBtu

3 $/MMBtu ÷17 $/MMBtu=約18%

6兆円/年×18%=約1兆円/年

・従って、かなり粗々の概算ではあるが、今後うまくいけば、LNGの調達関係で年間約1兆円

の我が国貿易収支の改善が期待できる?→とらぬ狸の何とかであろうか。。

①輸出量:1.4Bcf/d(LNG換算約1,100万トン/年)

②輸出期間:20年間

③主な付帯条件:

ⅰ)連邦エネルギー規制委員会(FERC)による環境審査、

ⅱ)輸出承認日から7年以内のLNG輸出開始

・他の日本企業関連LNG輸出プロジェクト2件と合せた3プロ

ジェクトで計約1,470万トン/年は、日本のLNG輸入量8,731万

トン(2012年)の約17%

(出所:METI、中部電力、大阪ガス)

(出所:諸資料より筆者概算)

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3.北米石油精製産業へのシェールの影響

3.-1 シェールオイルの増産が北米の原油処理パタンに変革を迫っている

シェールオイル増産は、北米の原油フロー、需給バランス、価格決定力学に多大な影響

を与えつつある。一つには、軽質低硫黄のシェールオイル増産が米国 PADD 毎の原油需給の

ミスマッチを起こしていること。具体的には PADDⅡ(中西部)、Ⅲ(メキシコ湾岸)、Ⅳ(ロ

ッキー山脈)は軽質原油が過剰供給となり、製油所の原油フィード等を更に調整する必要が

あること。これには時間を要しそうである。また、PADDⅠ(東海岸)は、バッケンシェー

ルオイルの受け入れインフラ整備が進みつつあり、今後国内の軽質低硫黄原油の価格を決定

する重要な市場となる可能性が高い。

3.-2 製油所の原油ニーズと入手可能原油のミスマッチをブレンディングで解決できるか?

地域毎、企業毎、製油所毎に事情が異なるため、シェールオイルのような軽質低硫黄原油

の大量流入への対応は、必ずしも一律ではない。対応の代表的なパタンとしては以下がある。

1)これまで輸入してきた軽質原油をシェールオイルと入れ替える。

2)既存の設備を改良、又は軽質原油処理のため追加の設備投資をする。

3)軽質シェールオイルと重質原油を混合して当該製油所処理に適したブレンド原油を作る。

1)は、高価なブレントリンクのアフリカ原油輸入に替えて、国内の安価なバッケンシェー

ルオイル受け入れのインフラ整備を進める PADDⅠが該当する。2)は、バッケンシェールオ

イル処理のための小規模製油所、Dakota Prairie Ref.(投資額 3 億ドル)や Trenton Diesel Ref.

(投資額 2 億ドル)建設計画がある PADDⅡ、イーグルフォードからのシェールオイルやコ

ンデンセートを処理するためバレロやシェブロン・フィリップス・ケミカル等が計画する軽質

原油、コンデンセートの処理能力増強プロジェクトがある PADDⅢが該当する。

<北米の地域別原油需要>

(出所:CAPP、EIA、他)

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3)はバッケンやイーグルフォードのシェールオイルと WCS(Western Canadian Select:

カナダ産の重質原油)やマヤ(メキシコ産の重質原油)等の混合で、例えば ANS(Alaskan North

Slope:アラスカの中質原油)並みの中質原油を作ることを検討する試み。ただ、当然ながら下

図が示すように、シェールオイルや他の軽質原油と WCS、マヤ等の重質原油では、API、硫黄、

蒸留得率が全く異なることが分かる。

実際にシェールオイルと重質の原油をブレンドして作った中質原油は、同程度の API の原油

と比べて、C5 より軽い成分や重油等重い成分の得率が高くなる傾向がある。すなわち、ディー

ゼルやジェットといった中間留分の得率が低くなる傾向があり、製油所のマージン確保が難し

くなるといった問題も指摘されている。これは、元々輸入軽質原油と比べてシェールオイルの

性状は中間留分が少ないことに起因すると考えられる。

米国では軽質よりも重質原油処理用に設計されている製油所が多く、本来であれば必要以上

に供給されるシェールオイル等軽質油を輸出し、製油所が必要とする重質油を輸入等で調達す

ればよい筈だが(シーミンスキーEIA 長官、オダム Shell 社長他、米国の原油輸出を促す要人

の発言は少なくない)、米国は、原油輸出については法制度(“Energy Policy and Conservation

Act 1975”)により原則禁止されている。例外は大統領が国益に基づき特別に輸出を承認する場

合だが、実際は商務省がカナダ東岸向け等に一部原油輸出を承認している。

しかし、現状では殆どの場合原油輸出は難しいため、北米の原油供給システムとロジスティ

クスは、新たな供給に対応するため変貌する必要がある。具体的には、パイプライン、鉄道等

による国内の輸送能力を増強する必要がある。

(出所:IEA、2013 MTOMR)

(出所:IEA、2013 MTOMR)

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3.-3 北米の原油パイプラインと敷設計画

北米は世界でも有数のパイプライン・インフラの先進国である。それが他国と比べてシェー

ル資源の開発のスピードが格段に速いことの理由にも挙げられる。しかし、その北米にしても

シェールやオイルサンドの生産のスピードにパイプラインの建設・整備が間に合わない。環境

に対する影響懸念や地元の先住民の人々からの賛成が得難いことも大きく影響しているもの

と思われる。カナダ西部から米国メキシコ湾へ向かう Keystone XL Pipeline の遅れについて

は政治問題化したとの受けとめ方もなされ、米国でのシェールオイル急増産と併せて行き場を

失ったカナダ産重質原油の価格の低下を招いている。しかし、合計で数百万 bpd の単位での増

産が見込まれる原油及び NGL の効率的な輸送を可能にする手段はパイプラインをおいて他に

はなく、いずれは下図の敷設計画も実現する日が来ることが期待される。

3.-4 そのギャップを埋めるため原油の鉄道輸送が急増

2009 年頃から北米、特に米国で、原油の鉄道輸送が急増し始めた。全米の原油輸送全量に対す

る鉄道輸送の比率は、2009 年 3%→2010 年 7%→2011 年 15%→2012 年 38%と年率 100%を超える伸

び率が続いている。これはノースダコタ州でのバッケン・シェールオイル等、原油生産の急増が

背景にある。パイプラインの建設等では間に合わなかったためである。ノースダコタ州内では既

に過半が鉄道輸送であり、米国全体でも 2013 年 2 月の輸送実績約 80 万 bpd は、国内原油生産の 1

割程度を占める。

鉄道輸送がここまで伸びたのは、一つには鉄道ルート決定の際の地理的な柔軟性である。鉄道

はパイプラインでは輸送できないような場所でも比較的自由に出入りすることができる。また、

上述のようにパイプライン建設では時間的に間に合わないような輸送需要にも柔軟に対応するこ

とができる。

米国、カナダの原油パイプラインと建設計画

(出所:CAPP、他)

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<バッケンからイリノイ州を東に進む原油貨物列車> <北米貨物鉄道網>

下図左はノースダコタ州の原油鉄道輸送量がここ 2~3年で急増したことを表すグラフ、

下図中央は同じく原油の輸送手段別の割合を示すもの。2012 年 9 月時点で鉄道が 5割超となっ

ている。下図右は、同じくパイプラインと対比した原油輸送量の推移と 2014 年までの見通し。

赤色の鉄道輸送量は 2013、14 年とほぼ横這いで 2014 年には僅かにパイプラインの方が上にな

る予測をしている。これは、以下の輸送コストの違いを反映したものかどうか。あるいは生産

量が閾値を超え、パイプライン輸送でないと効率的でなくなるのか。ただ、鉄道でしか運べな

い地域もあるため、シェアは減っても鉄道輸送はなくならないと思われる。

バッケン⇒メキシコ湾岸 [鉄道]18$/B、[パイプライン]12$/B (2013 年 2 月 RBN Energy)

<ノースダコタ州原油鉄道輸送量推移><バッケン等原油の輸送手段><バッケン等原油の輸送能力の推移・見通し>

3.-5 バッケンのシェールオイル生産の大半は現在、東西沿岸地域の製油所に鉄道輸送

Rail Facility Location Capacity

in North Dakota thousand BPD

Bakken Oil Express Dickinson 60

Savage Trenton 60

Hess T ioga 54

Enbridge Berthold 70

Rangeland Epping 80

Muskey Dore 70

U.S. Development Van Hook 35

Total 429

Company

2012年中に完成したノースダコタ州の鉄道施設・バッケンのシェールオイル生産の大半が現在、東西

沿岸地域の製油所に鉄道輸送されている。その背景は

以下の2点:①パイプライン輸送能力が迅速かつ十分

に建設されていないこと、②原油パイプラインが東部

と西部沿岸の製油所を接続していないこと。

・2012年中ノースダコタ州に完成した7ヶ所の新たな

貨車積込施設は、バッケンシェールオイルの鉄道輸送

を大幅に伸ばすことに寄与した。

(出所:Nexant)

(出所:National Geographic News) (出所:Association of American Railroads=AAR )

(出所:North Dakota Pipeline Authority、AAR )

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3.-6 安価な天然ガスが米国製油所におけるコスト優位性の主要因

3.-7 米国製油所の競争力増大により米国からの石油製品輸出が増加

米国製油所の燃料コスト優位性*

(処理原油1バレル当たり$)

-1

0

1

2

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

¹ Relative to Atlantic Basin cracking refineries using

・ 中東及び他の主要市場から離れた地域にある製油所は、低

コストの天然ガス供給を利用できることで歴史的にコス

ト優位性に恵まれていた。

・ 米国の製油所も、天然ガスの増産により天然ガス価格が石

油価格に比べて低下したため、コスト優位性を享受した。

・ カリブ海諸国、南米、欧州西部の多くの製油所は、米国の

競合者が現在購入している天然ガスよりはるかに高コス

トの低硫黄または高硫黄重油を製油所燃料として使用す

る必要がある。

・ 2011年の米国のコスト優位性は処理原油1バレル当たり2

ドル近くあった。これまで石油価格が上昇して米国天然ガ

ス価格が低下する傾向が続いてきたため、このコスト優位

性は過去数年にわたって助長されてきている。

*製油所燃料に高硫黄重油を使用する大西洋周辺地

域の分解型製油所に対して

**このコスト優位性によりカリブ海諸国の2製油所

は恒久的に停止となった。

米国の石油製品輸出量

(千bpd)

米国は2011年に1949年以来初めて石油製品の純輸出国に

なった。輸出量は2009年レベルを87万bpd上回った。2009

年以降の石油製品輸出量のほぼ全てがメキシコ、カナダ、

中南米及び欧州に送られた。アジア太平洋地域への輸出増

加は増加分全体の1%を占めたに過ぎない。輸出増加の主

要な要因は以下の通り:

・カリブ海諸国及び欧州の製油所の恒久的/長期停止

・ブラジルにおける強い製品需要及び限られたエタノール

生産量

・米国の製油所能力増強

・米国製油所の燃料コストを削減した廉価な天然ガス

・国内の非在来型油田(例えばバッケン)及びカナダから

の原油を有利な価格で入手できる機会の増大

・海外のディーゼル需要増加と米国のガソリン需要低下

(出所:Nexant)

(出所:Nexant)

Page 14: 「北米を中心とするシェールガス、シェールオイル …2 本稿では2013年7月11日成果発表会での報告内容に沿い、以下の通り要旨を述べていく。

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3.-8 米国のガソリン輸出量は 2005 年のわずか 124,000 bpd から 2011 年には 479,000 bpd

に増加した。メキシコとブラジルが主な仕向地

0

200

400

600

800

1000

1200

2005 2011 2015 2020 2025 2030 2035 2040

Imports Exports

XLS: A 02037.001.01 Sec 3

3.-9 米国の中間留分輸出量は 2011 年でおよそ 638,000 bpd であった

-400

-200

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400

600

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2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040

XLS: A 02037.001.01 Sec 3

米国のガソリン輸出入量

千bpd ・米国のガソリン輸入量は2007年に117万bpd

でピークに達した。

・輸入量は2011年にはおよそ80万bpdまで低下

し、一方、輸出量は2005年の124,000 bpdか

ら479,000 bpdに増加している。

・メキシコとブラジルが増加したガソリン輸

出の主な仕向地である。

・米国のガソリン輸入量は2040年までに、およ

そ50万bpdまで低下し、一方、輸出量は2015

年に約55万bpdでピークに達した後、40万bpd

前後で横ばいになると予想される。

米国の中間留分純輸出量

千bpd ・ 米国は2008年まで中間留分の純輸入国であり、

平均162,000 bpdの供給不足を抱えていた。

・ 2009年以降、米国は中間留分の国内需要を満た

し諸外国に輸出し始めている。

・ 2011年の中間留分海外輸出量はおよそ638,000

bpdであった。

・ 純輸出量は2040年までにおよそ11万bpdまで低下

する見込みである。

(出所:Nexant)

(出所:Nexant)

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4.米国の NGL 需給、用途及び輸出-シェール影響下の動向

4.-1 米国の NGL 生産はシェールガス生産の増加に伴って増加

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

2005 2010 2011 2012 2015 2020 2025 2030 2035 2040

Thou

sand

Bar

rels

per D

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Ethane Propane Butanes Pentanes+

A02037.001.01-US NGL Charts.xlsx

4.-2 米国のエタン生産量は 2025 年までに約 60 万 bpd(1,200 万トン/年)増加予想

0

200

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600

800

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1,600

1,800

Thou

sand

Bar

rels

per

Day

PADD 1 PADD 2 PADD 3 PADD 4

A02037.001.01-US Charts.xlsx

米国ガスプラントのNGL生産量

百万bpd

・米国のNGL生産量はシェールガスの

増産、国内ガス価格の低下及び非常

に高い石油価格により過去数年に

わたり大幅に増加した。天然ガス価

格が低いことから、現在は もウェ

ットなガス資源の生産に重点が置

かれている。

・2011年に220万bpd前後であった米国

のNGL生産量は2025年に320万bpd以

上にまで増加すると予想される。

地域別米国エタン生産量

千bpd

・米国のエタン生産量は予想されるエタン需

要の増加につれ、2011年の90万bpdから

2025年には150万bpd (3,100万トン/年)に

増加すると予想される。

・北東部及びメキシコ湾岸地域は2025年まで

の米国エタン増産分の90%以上を占める

見込である。

・北東部のエタン生産はマーセラスシェール

からのガスの増産、及び同地域からの新規

エタンパイプラインの建設と共同歩調を

とりながら進められると思われる。

・増産分の一部はカナダと欧州に輸出される

と思われる。

(出所:Nexant)

(出所:Nexant)

Page 16: 「北米を中心とするシェールガス、シェールオイル …2 本稿では2013年7月11日成果発表会での報告内容に沿い、以下の通り要旨を述べていく。

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4.-3 米国の天然ガスからのプロパン生産量は 2025 年までに約 30 万 bpd 増加予想

-150

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-50

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50

100

150

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300

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2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2020 2025 2030 2035 2040

Net T

rad

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Pro

duction

Production Net Trade

A02037.001.01-US NGL Charts.xlsx

4.-4 米国の天然ガスからのブタン生産量は 2025 年までに約 50 万 bpd 増加予想

米国のプロパン生産量及び純輸出量

(千bpd)

・米国の天然ガスからのプロパン生産量は62万bpd

から2025年までに90万bpdまで増加すると予想さ

れる。

・米国の天然ガス及び製油所からの合計プロパン生

産量は2025年までに33万 bpd増加し、123万bpdに

達すると予想される。

・米国はプロパン輸出国になった。燃料としてのプ

ロパンの利用は減少し続けると予想される。

・プロパン脱水素プラントの原料としての利用が唯

一の大幅成長分野であることから、増加した米国

プロパン生産の大部分は輸出される見込み。

・プロパンの輸出は2025年までに25万bpdに近づき、

新たな輸出基地能力増強を要すると思われる。

米国のブタン生産量及び純輸出量

千bpd

・米国の天然ガスからのブタン生産量は2020年に44

万bpd(1,500万トン/年)、2025年までに49万bpd

(1,600万トン/年)に増加すると予想される。

・米国の天然ガス及び製油所からの合計ブタン生産

量は、2020年に50万BPD(1,700万トン/年)を上回

り、2025年までに55万BPD(1,800万トン/年)近く

まで増加すると予想される。

・地域別では、PADD 3は2025年までに米国ブタン生

産増加分の50%以上を占め、PADD 1及び2がそれぞ

れ増加分の1/4を占めると見込まれる。

・米国のブタン取引の現況はおよそ均衡している。

米国のブタン需要が基本的に横ばいと予想される

ことから、ブタン生産増加分の殆どは輸出される

見込みである。

(出所:Nexant)

(出所:Nexant)

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4.-5 NGL の消費分野構成-石化が過半。特にエタンは殆どが石化用

エタンの殆ど全て、プロパンのおよそ 1/3 が石化用、すなわち、エチレンやプロピレン等のオレ

フィン製造に使われる。これらの化合物は、更にプラスティックやその他諸々の製品になって市

場に出ることになる。プロパン消費の 52%は、暖房用や他の燃料としての用途に充てられる。

ブタン、イソブタン、及びナチュラル・ガソリンは、製油所のプロセスで混合材として使われ

ることも多い。シェール由来の廉価な NGL を入手できることが、石化生産者を裨益している状況

が続いているわけだが、米国の石化生産者が国際的に競争力を発揮できるためには、ブレント原

油の価格は、ヘンリーハブで値付けされ Nymex で取引される天然ガスの価格より 7倍以上である

ことが望ましい(米国化学協会:The American Chemistry Council=ACC)。2013 年 3 月時点でこの

比率は 25 倍であった。同じく ACC の 2011 年 5 月の試算では、エタンの生産が 25%増加すると、

米国の石化生産が 328 億ドル増加することになっている。

5.米国石化産業へのシェールの影響

5.-1 エタンは 2025 年までに米国エチレン生産の 73%を占め、ナフサ及び重質原料の割合は 9%

になると思われる

55%46%

65% 68% 70% 73%

27% 32%15% 12% 10% 9%

0%

25%

50%

75%

100%

2000 2005 2011 2015 2020 2025

Ethane Propane Butanes Naphtha & Heavier

We

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t

A01956.001.01_charts-1.xlsx

NGL全体の消費構成 NGLの製品別消費構成

米国のエチレン原料ソース

エチレン生産に占める割合

・エタンはナフサ及び重質原料に代わってエチレン

原料としての利用が着実に増加している。

・原料としてナフサを減らしてエタンを増加させ、

それに必要な操業上の調整を進めている。

・より多くのエタン分解に向けてスチームクラッカ

ーの改造も進行中である。

・エタンベースの新規スチームクラッカーの建設に

より、原料としてのエタン使用量は2025年までに

更に700万トン/年 (32万bpd)増加すると思われ

る。

(出所:Nexant)

(出所:Brookings、Envantage)

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5.-2 世界のエチレン能力は向こう 10 年間で 6,500 万トン/年増加し、能力増強の大半は

アジア及び中東でなされると思われる

0

50,000

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2010 2011 2012 2013 2014 2015 2020 2025

North America South America Western Europe Central Europe

Eastern Europe Middle East Africa Asia PacificA02037.001.01 -US Petchem Charts.xlsx

5.-3 低コストのエタン増産により北米ポリエチレン生産の現在及び将来の競争力が

向上している

・米国のポリエチレン輸出量は、その競争力ゆえ 2015〜2025 年の間に 35%以上の増加が予想

される。

0

200

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1,600

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Ton

Net Raw Materials Net Utilities Fixed Costs Freight Tariff Bagging

A01956.001.01_charts-1.xlsx

世界的なエチレン能力の増強傾向

千トン ・ 中国で誘導体需要の伸びが見込まれるため、

スチームクラッカーの新規開発が多発してお

り、そのほとんどが製油所に統合されている。

・ナフサベースの分解は向こう10年間にわたり、

中国で増強されつつある設備能力の中で、重

要な役割を担い続けていくものと思われる。

・ 欧州西部及び欧州中央部での生産は、引き続

きシェア引き下げの方向での圧力を受けて

いくと予想される。

・ 北米については、シェールガスの大増産にも

かかわらず、世界の設備能力増強に占める割

合は14%程度と思われる。

中国渡しHDPE(高密度ポリエチレン)の2020

年予測キャッシュコスト(含・エチレン部分)

名目米ド /ト

0.0

0.5

1.0

1.5

2.0

2.5

2011 2015 2020 2025

米国の合計ポリエチレン純輸出

(百万トン)

・2020 年までの輸出の緩慢な伸びは、競合力の反映というより

国内需要の増加に起因すると思われる。

(出所:Nexant・他)

(出所:Nexant)

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5.-4 米国産ポリエチレンは競争力を有し中国に輸出される可能性がある

世界的なポリエチレン生産コストの比較から以下が示唆される:

・ 既存の中東生産者は世界で も低コストの供給ソースであり続けると思われる。

・ 将来の中東生産者の競争力は強い状態で推移するものの、既存生産者ほど優勢ではない見込み

である。

・ 北米天然ガス価格に連動してエタン価格が低いカナダ西部も、エチレン及びポリエチレンの競

争力ある生産者で有り続けると予想される。

・ 中国の生産においては生産キャッシュコストが高いが、輸入関税による保護のために国内市場

ではコスト競争力があると見込まれる。

・ 低コストの天然ガス及びエタンをもたらしたシェールガスの劇的な増産を受けて、米国のエタ

ンベースの生産は世界的な競争力のある生産ソースとして浮上している。

・ 米国はより競争力のあるポリエチレン生産に移行しているため、同国のエタン分解による中国

向けHDPEの現在及び将来のコストはアジア各地からのナフサベースのHDPE生産コストを下回

ると予測される。

・ 日本や欧州西部のような高コスト構造の地域にある古くて不利なプラントは、体質が脆弱であ

り、一時操業停止または恒久的な閉鎖が検討される可能性がある。

5.-5 ナフサからエタンへの原料転換がもたらす副産物の生産減

エタンの分解が増えるにつれて、プロピレン、ベンゼン、ブタジエン等副産物の生産が減る

傾向→副産物の価値上昇&各々の需給バランス回復?→新たなビジネス機会となり得るか?

0.0

0.1

0.2

0.3

0.4

2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011

Pr opylene Benzene Butadiene

米国スチームクラッカーの生産量

1エチレン・トン当たりのトン数

<参考>プロピレンの供給において石油精製業のなし得る貢

献は大きい。プロピレンの供給には、3 つのルートがある。製

油所の FCC やコーカーから出て来るもの(73%)、スチームク

ラッカーからのもの(23%)、及びプロピレン製造装置(プロ

パン脱水素(PDH)、メタセシス(Metathesis))(4%)から

目的生産物として生産されるものである。この内製油所から出

てくるものは、その多くが燃料生産に使用されるとはいえ、プ

ロピレン生産全体のおよそ 70%を占め、直接或いは統合された

別の生産設備での処理を経て、より純度の高い石化製品として

市場に出て行く。

石油精製業は、芳香族(Aromatics)の供給にも大きな役割

を担っている。製油所での接触改質(Catalytic Reforming)

は、世界の混合キシレン(Mixed Xylenes)の 2/3 超を供給す

る。ベンゼンもリフォーメート(Reformate)やエチレン生産

から副生するパイガス(Pygas:Pyrolysis Gasoline)が各々

1/3 超ずつ供給する構造となっていることから、芳香族の供給

量を決定する要因は、芳香族の市場自体よりも、寧ろ製油所の

操業、オレフィンの生産、ポリエステルの市況等が重要と考え

られている。

ブタジエン(Butadiene)もエチレンクラッカーの原料がナ

フサからエタンに転換したことにより減少する副産物である。

米国メキシコ湾岸でプロパン脱水素(PDH)装置によるプロピ

レン生産計画が検討されているように、ブタン脱水素によるブ

タジエン生産に対しても新たな関心が生まれつつある。 (出所:Nexant)

Page 20: 「北米を中心とするシェールガス、シェールオイル …2 本稿では2013年7月11日成果発表会での報告内容に沿い、以下の通り要旨を述べていく。

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5.-6 米国でクラッキング原料がより軽質になりつつあり、石油化学及びポリオレフィン

(Polyolefins)産業に長期的な影響を及ぼすと思われる

・ポリエチレン(Polyethylene)

-コスト優位性が生産増加と輸出増加につながると予想される。

・ポリプロピレン (Polypropylene:PP)

-クラッキング副産物としての生産低下からプロピレン供給が減少し、プロピレン及び PP 価格

の若干の上昇につながる。

・ポリスチレン(Polystyrene)

-ひとつにはポリプロピレンの価格低下により、過去 10 年間は生産量が伸び悩んだ。PP 価格

の上昇がポリスチレン需要を刺激する可能性がある。

・ブタジエン誘導体(Butadiene Derivatives)

-原料の軽質化がブタジエン誘導体の供給減少と価格上昇につながる。

・芳香族(Aromatics)

-北米の芳香族(例えば、ベンゼン(Benzene)やパラキシレン(Para-xylene))生産はシェ

ールガス生産量の増加によりマイナスの影響を受けている。米国のエチレン(Ethylene)生

産 1トン当たりのベンゼン生産量は 2007 年から 40%低下した。

・ナフサ(Naphtha)

-上記のように、プロピレンやブタジエンのようにナフサをベースとする石化製品への需要は

根強いため、ナフサ自体への需要が極端に低まることはないと考えられる。

6. 日本の石油/エネルギー関連産業への示唆

6.-1 環太平洋地域シェールガス/オイル開発が日本の石油/エネルギー関連産業に

対して持ち得る示唆は以下の通り

・北米シェールガスの増産は同地域からの LNG 輸出及び同地域の LNG 輸入量の減少をもたらす

ものと思われる。これは世界的な LNG 供給に関する競争の緩和と LNG スポット価格の低下を

意味すると思われる。

・日本及び他のアジアの LNG バイヤーは、予想される北米 LNG 供給量と主としてガスベースの

価格指標をオーストラリア及び中東の売り手との交渉上の戦術として利用できる可能性が

ある。

・カナダのビチューメン及び合成原油の生産者にとって、これらの輸出用にパイプライン能力

が強化されれば、日本及び他のアジア市場に輸出する方が望ましい状況になっている。

・米国シェールオイル生産は、向こう 10 年にわたりシェールオイル生産量の伸びと共に増大

する予想される間接的な恩恵を日本にもたらしている。中国、インド及び欧州の製油所が現

在及び将来にわたって、より多くの西アフリカ産原油を入手できるようになり、これらの市

場向けの中東産原油輸出量が減少しつつある⇒日本はより入手しやすくなった。

・米国産原油の輸出を規制している米国商務省の規則により、この規則が有効である限りは

(米国内外から規則の見直し要請が出ているが)日本または他の極東地域諸国が米国で生産さ

れたシェールオイルを直接的に輸入することは難しい状況である。

・また、アルバータ州内の物流的な制約により、日本または他の極東地域諸国がカナダ産シェ

ールオイルを直接的に輸入することも(生産量も多くはないが)、同様に難しいと思われる。

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・シェールオイルの増産で世界の原油供給構造が変化しつつある。将来日本の製油所で処理す

べき 適原油ミックスにつき、現実的な検討を進めていくことが望ましい。

・米国製油所の競争力増大により、日本の石油会社が西半球のメキシコ及び他の環太平洋市場

に競争力ある石油製品輸出をすることが、より難しくなる可能性がある。⇒要対策

・日本や欧州西部のような高コスト構造の地域にある古くて不利なナフサベースのエチレンプ

ラントは、体質が脆弱であり、一時操業停止または恒久的な閉鎖を検討される可能性がある。

6.-2 日本の石油/エネルギー会社にとっての成長戦略としては以下の可能性あり

以上

・米国及びカナダの LNG プロジェクトへの関与またはヘンリーハブ価格連動の北米産 LNG 購入

・米国から日本へのプロパン輸出入に関与

・米国のシェールガス/シェールオイル生産関連事業へ関与

・プロピレン及びブタジエンの増産に重点を置く

・プロピレン及び代表的なプロピレン誘導体の生産を検討する米国メキシコ湾岸でのプロパン

脱水素(PDH)プロジェクトへの関与

・アロマティクスの生産と輸出に重点を置く