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森・濱田松本法律事務所 弁護士 棚 橋 「大学が株式を保有することから生じうる論点」

「大学が株式を保有することから生じうる論点」・ A大学は、上場会社であるB社の株式を保有するとともに、B社との間で共研究契約を締結している

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Page 1: 「大学が株式を保有することから生じうる論点」・ A大学は、上場会社であるB社の株式を保有するとともに、B社との間で共研究契約を締結している

森・濱田松本法律事務所

弁護士 棚 橋 元

「大学が株式を保有することから生じうる論点」

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略歴

■経歴■

1990年 東京大学法学部卒業

1992年 弁護士登録、森綜合法律事務所入所

1996年 ハーバード大学法学部大学院卒業

1996年 Davis Polk & Wardwell 法律事務所(ニューヨーク)

で執務

1997年 ニューヨーク州弁護士登録

Wilson Sonsini Goodrich & Rosati法律事務所(パロ

アルト)で執務

現在 森・濱田松本法律事務所パートナー

■主要分野■

国内・海外企業のM&A・再編、プライベート・エクイティ・ファイ

ナンス、国内外企業への投資案件(投資契約、種類株等)。ベ

ンチャー企業等における技術ライセンス、資金調達、株式公開

等のアドバイス。

■主要な役職等■

▸ 京都大学法科大学院非常勤教員(2007年~)

▸ 早稲田大学法科大学院非常勤教員(2005年~)

▸ 文部科学省 国立大学法人評価委員会官民イノベーション

プログラム部会専門委員(2013年~)

▸ 経済産業省 未上場企業が発行する種類株式に関する研究会

委員(2011年)

▸ 社団法人日本証券業協会 新興市場のあり方を考える委員会

委員(2008年~2009年)

▸ 経済産業省 ベンチャー企業の創出・成長に関する研究会委員

(2007年~2008年)

▸ 株式会社産業革新機構 取締役・産業革新委員(2009年~)

▸ 株式会社ひろしまイノベーション推進機構 投資委員会投資

委員 (2011年~)

■論文■

「株式会社法大系」(有斐閣,2013)(共著)、「ベンチャー企業の法務・財務戦略」(商事法務,2010)(共著)、Private equity in Japan:

market and regulatory overview (Practical Law Company, 2014)他多数

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(定義)

・ 株式会社*における出資者である株主の地位を、細分化して割合的地位の形にしたもの

(神田・会社法62頁)

(意義)

・ 会社はなぜ株式を発行するか。

→ 資金調達

・ 1株10,000円で100株発行→100万円が会社に払込まれる。「借入」ではない(「返済義務」はない)。

・ 株式をなぜ引受けるか。

→ 株主たる地位に伴う権利・利益

・ 経済的利益・権利(キャッシュ・フローに関する権利)

・ 会社支配・経営に関する権利(コントロールに関する権利)

株式とは

* 「株式会社」以外の「会社」として、わが国の会社法上は、合同会社、合資会社及び合名会社がある。これらの会社において、株式に相当するものは「持分」と呼ばれる。

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① インカム・ゲイン

・ 剰余金の配当を受領することができる

(例) 1株当たり年10円の配当金。

(但し) (i) 会社において、配当をする旨の決議が必要(→貸付の「利息」とは違う)

(ii) 「分配可能額」(剰余金)が必要

→ 一般にベンチャー企業の場合には、売上自体が僅少で、(利益)剰余金はないことが多い。

② キャピタル・ゲイン

・ 株式を第三者に売却・処分することにより対価を取得する

(例) 1株10,000円で取得し、20,000円で売却すれば、10,000円の譲渡益を得る。

借入であると、元本返済+利息のみ。

・ 非上場会社と上場会社

→ (前者) 譲受人を見付けるのは必ずしも容易ではない

(後者) 取引市場が存在。ベンチャー投資→IPO(株式公開)→保有株式を市場売却

経済的利益・権利

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① 議決権の過半数(50%超)を取得・保有

→ 会社の取締役(=取締役会設置会社の場合、取締役会の構成員)を全員選任することができる* 。

・ 取締役会は、会社の業務執行の「決定」、各取締役の職務執行の「監督」、代表取締役の選解任を行う。

・ 代表取締役及び業務執行取締役は、会社の業務執行を行う。

(⇔「社外取締役」:業務執行を行わず、主として、取締役会の審議・採決のみに参加・関与)

・ (なお)全ての取締役は、「会社」に対して(特定の「株主」ではない)、善管注意義務・忠実義務を負う。

② 議決権の1/3超を取得・保有

→ 株主総会の特別決議事項(=議決権の3分の2以上の賛成が必要な事項)について「拒否権」を有する。

[特別決議事項(例)]

・ 定款変更

・ 合併、株式交換等組織再編

・ 減資、減準備金

・ (非公開会社における)新株発行、新株予約権発行

会社分配・経営に関する権利

* その他、株主総会の普通決議事項(例えば、剰余金配当)を単独で決定することができる。

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③ 議決権*の10%以上を取得・保有(以下「少数株主権」)

・ 会社の解散判決請求権

④ 議決権*の3%以上を取得・保有

・ 会計帳簿の閲覧権

・ 取締役の解任請求権

会社分配・経営に関する権利

* 厳密に言うと、議決権ではなく、発行済株式の10%以上ないしは3%以上の株式を有する株主も、これらの権利を有する(会社が無議決権株式を発行している場合に、意味を有する)。

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1. 寄附及びライセンス対価としての取得

(平成17年3月29日文科省高等教育局長通知)→国立大学法人等宛

・ 寄附及びライセンス対価として株式を取得することは、法律上可能と解される* 。

・ (寄附の場合)国立大学法人等が総株数の過半を占めてはならない。

・ (ライセンス対価の場合)「現金に代えて株式を受入れざるを得ないような場合」

→ ライセンス供与先の企業としては、現金対価を支払うことが困難な大学発ベンチャー企業等を想定。

・ 取得後の留意点

① 換金可能な状態になり次第、可能な限り速やかに売却

② 会社の経営に参加する権利を行使することは、国立大学法人等の範囲を超えるものであり、原則認められない。

(但し、保有する株式比率によっては、権利を行使しないことによって、会社の経営に著しい影響を与える場合があることに十分留意する。)

大学による株式取得

企 業

大 学 寄附

特許等技術ライセンス

株式

株主

国立大学法人法は、「承認TLO」に対する出資及び産業競争力強化法による出資以外については直接言及していない。

なお、上記のとおり株式のみならず、新株予約権(ストック・オプション)についても、寄附及びライセンス対価として国立大学法人等が取得することが許容されている(平成20年7月8日文科省高等教育局長通知)。

*

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2. 現物出資による取得

3. 金銭出資による取得

金銭

株式

(金銭でない)現物 企

株式

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ストック・オプション

ストック・オプション(stock option)とは

・ 法律上は新株予約権。行使することによって、予め定められた価額(行使価額)で、会社の株式(通常は普通株式)を取得できる。

(例) 1株当たりの行使価額5,000円の新株予約権。普通株式1株の市場株価が10,000円のときに行使

すれば、5,000円払い込むことにより、10,000円の価値のもの(普通株式)を入手できる。

株式との差異

・ 行使するまでは株主とならない(株主としての権利はない)。

・ 行使するか否かは、ストック・オプション(新株予約権)保有者の裁量

(→市場株価を見て、キャピタルゲインを得たい時期に、行使して直ちに株式を売却することも可能)

特許等技術ライセンス

新株予約権

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・ 潜在的に大きな経済的リターン

→ 大学の「判断(judgment)」等が歪められないか。

(例) ・ 大学と株式保有先との共同研究等で、客観性・公正性・信頼性が歪められないか、何らかの「無理」

が生じないか(不正データの創出等に至らなくとも)

・ 大学のリソースが、大学の投資先に片寄って投下されることにならないか(リソースの適正配分)

・ 会社の経営判断・利益等に対する大学の影響

→ 大学等の「判断」等が、会社の「経営判断」に影響を与え、またその「利益」を損なうことにならないか

(例) ・ 大学教員が会社の取締役に就任した場合、当該教員は、会社の取締役としては、会社の最善の

利益のために判断する義務を負う(大学の利益を優先させてはならない)。

・ 大学が複数の投資先を有する場合の情報の取扱い

→ 一方の企業の情報を、他方の企業の有利に用いることをしてはならない。

・ 上場株式については、インサイダー取引規制の適用 (次頁以降)

大学が株式保有する場合の論点

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インサイダー取引規制

A大学 B社

(上場会社)

一般株主

・・・

共同研究契約

株式保有

一般株主

・・・ A大学 B社

(上場会社)

共同研究

株式保有

副作用

<例> ・ A大学は、上場会社であるB社の株式を保有するとともに、B社との間で共同研究契約を締結している

・ 共同研究の過程で、B社の医薬品の有力候補物に、想定外の重大な副作用が存することが発見される

・ A大学は保有株式を、B社が当該事実を公表する前に市場で売却

⇒株価が下落する前に、売却・損失回避

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① 概要 上場会社等と特別の関係にある者(=「会社関係者」)が、投資判断に重要な影響を与える情報を

知った場合、その公表前に株式等の取引をすることは禁じられる。

② 規制対象となり得る主体 (「会社関係者」) * (i) 上場会社等の役員等、(ii) 上場会社等の帳簿閲覧権を有する株主、(iii) 上場会社等に対する法

令上の権限を有する者(許認可権限を有する公務員など)、(iv) 上場会社等と契約している者など、

(v) (上記(ii)及び(iv)の会社関係者が法人の場合における)他の役員等**

③ 規制対象となる情報

(一言でいうと)投資判断に影響を与える重要な事実***

④ 規制対象となる取引

上記情報の公表前の株式等の売買その他の取引

* 会社関係者の他に、公開買付け等が行われる場合には、「公開買付者等関係者」が対象となる。また、「会社関係者」又は「公開買付者等関係者」から

情報の伝達を受けた者(一次的な情報受領者に限定されることになる)も、規制対象となる。

** 厳密には、規制対象となるか否かは、③の「規制対象となる情報」をどのような経緯で知ったかによる。例えば、(i) については、

その「職務に関し知ったとき」であり、また、(iv) については、「当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知ったとき」である。

*** 金融商品取引法で具体的に列挙されている。さらに、いわゆる包括条項(バスケット条項)がある。

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④ 規制違反による責任

・ 刑事罰

5年以下懲役/500万円以下の罰金

・ 行政罰(課徴金)

規制対象となる情報の公表日以前6ヶ月以内に自己の計算においてなされた実際の売付

け・買付けの価格と、当該情報が公表された後2週間の最低・最高価格との差額を基準と

して、これに実際の取引量を乗ずることによって算出。

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※ 大学はどのようにして上場株式を保有するか

① 株式保有先である未上場会社が株式上場(IPO)

② 株式保有先である未上場会社が上場会社と株式交換(その他合併等)

未上場会社 上場会社 株式公開

A社株主

未上場会社(A)

株式交換契約

・・・

B社株主

上場会社(B) A社

・・・

B社

A社

旧A社株主

・・・

旧B社株主

B社

100%

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対処方法

開示による対処

・ 株式取得・保有状況の開示

実体的な規制による対処

(例) ・ 一定の比率以上の株式は取得しない。

・ 保有株式につき議決権の行使基準を定める。

インサイダー取引規程の早期制定

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Tel: 03-5223-7733 Fax: 03-5223-7633