9
Purification and Structural Analysis of Metal-chelating Substance in Chlorophyll Degradation クロロフィル分解で働く金属結合物質(MCS)の性質と構造解析 研究計画発表 2007/ 4/ 17 鈴木利幸 クロロフィルは高等植物に普遍的に存在する色素で,光合成の中心となる重要な物質である.また,地球上に存在する最大量の有 機金属化合物でもある. 古い葉が枯れ落ちる際に多くの物質がシンクに転流され再利用されることが知られており,クロロフィルも多くの修飾脱離反応を 経て分解され,ソースとして利用されている. クロロフィルの分解過程を明らかにすることは生化学の基礎代謝過程としての分解機構の解明だけではなく植物のセネセンス ()による葉緑体の分解を知る上でも重要な手がかりとなる.

Purification and Structural Analysis of Metal …R-1)070417/suzuki...MCSの精製・性質決定・構造解析 ↓Cyt c がありえない位置に出現。MCSもこのあたりに出ていた。メーカーカタログのデータ↓

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: Purification and Structural Analysis of Metal …R-1)070417/suzuki...MCSの精製・性質決定・構造解析 ↓Cyt c がありえない位置に出現。MCSもこのあたりに出ていた。メーカーカタログのデータ↓

Purification and Structural Analysis of Metal-chelating Substance in Chlorophyll Degradationクロロフィル分解で働く金属結合物質(MCS)の性質と構造解析

研究計画発表 2007/ 4/ 17 鈴木利幸

クロロフィルは高等植物に普遍的に存在する色素で,光合成の中心となる重要な物質である.また,地球上に存在する最大量の有機金属化合物でもある.

古い葉が枯れ落ちる際に多くの物質がシンクに転流され再利用されることが知られており,クロロフィルも多くの修飾脱離反応を経て分解され,ソースとして利用されている.

クロロフィルの分解過程を明らかにすることは生化学の基礎代謝過程としての分解機構の解明だけではなく植物のセネセンス(老化)による葉緑体の分解を知る上でも重要な手がかりとなる.

Page 2: Purification and Structural Analysis of Metal …R-1)070417/suzuki...MCSの精製・性質決定・構造解析 ↓Cyt c がありえない位置に出現。MCSもこのあたりに出ていた。メーカーカタログのデータ↓

Chlorophyll a

Chlorophyllide a Pheophorbide a

RCC

pFCC

Organic acids

Pyropheophorbide a

NCCs

Methylvinylmaleimide

Methylethylmaleimide

C-E-ringderivative

Hematinicacid

Dipyrroles?

Enzymatic

Cleavage?

NCCs?

Monopyrroles?

Recycle

Ea

rly s

tag

eM

idd

le s

tag

eL

ast sta

ge

① ② ③

Auxiliary reaction?

Reaction steps① Chlorophyllase

N

NN

N

COOCH3O

O O

Mg

N

NN

N

COOCH3O

COOH

Mg

N

NNH

HN

COOCH3O

COOH

N

NNH

HN

O

COOH

N

NNH

HN

COOCH3O

COOH

O

O

N

HNNH

HN

COOCH3O

COOH

O

O

NH

HNNH

HN

COOCH3O

COOH

O

O

NH

O O

NH

O ONH

O O

HO

O

NH

OHC

O

O

H2O,CO2

H2O 2H+ H2O

Phytol Mg2+ COOCH3

O2

H2O

② Metal-chelating substance

③ Pheophorbidase / PDC

⑤ Red Chl catabolite reductase

④ Pheophorbide a oxygenase (PaO)

これまでの研究でクロロフィルは数段階の反応を経て有機酸まで分解されることがわかってきた.その機構については近年分解に関与する酵素の性質や遺伝子が分かり大きく進歩したが,二番目の反応であるMgの脱離機構についてはまだほとんど明らかになっていない.このMgの脱離反応には“Mgデキレターゼ”という酵素が関与することが示唆されてきたが,本来の基質であるクロロフィリドを用いた研究は,基質が不安定なためにほとんど行われてこなかった.

我々の研究室では,Mgの脱離活性の測定においてクロロフィリドの生成系を反応に組み入れることで,その不安定性を除去し測定する方法を開発しており,その方法によって,熱に安定な低分子の物質が機能していることを示してきた.この物質はMetal-chelating substance (MCS)と名づけられている.

Page 3: Purification and Structural Analysis of Metal …R-1)070417/suzuki...MCSの精製・性質決定・構造解析 ↓Cyt c がありえない位置に出現。MCSもこのあたりに出ていた。メーカーカタログのデータ↓

※光合成の緑の本より。チラコイド膜

集光性クロロフィル-タンパク質複合体

クロロフィルa

Page 4: Purification and Structural Analysis of Metal …R-1)070417/suzuki...MCSの精製・性質決定・構造解析 ↓Cyt c がありえない位置に出現。MCSもこのあたりに出ていた。メーカーカタログのデータ↓

MCSの精製・性質決定・構造解析

【背景】クロロフィル分解の2番目の反応のMg脱離を促進する物質(MCS)の正体を探る.Mg脱離活性の高いシロザ(Chenopodium album)からMCSを精製し,構造決定を行う.

【これまで】MCSはMALDI-TOF MSにより分子量は453と決定された.また,構造の一部(アミノ基を持つ,SH基を持たない・繰り返し配列を持つ)・金属結合能・組織

局在性(葉と根)・セネセンスと関連せず恒常的に存在するなど,いくつかの性質も明らかになった.

This study

Metal-chelating substance Phytochelatin Nicotianamine Mugineic acid

Structure Peptide? (γ-Glu-Cys)n-Gly (n = 2-11) C12H21O6N3 C12H20O8N2

Molecular weight M+ = 453 532 (n = 2) 303 320

Binding metal ion Mg, Zn, Ni, Cd Cd, Cu, Ag Fe, Cu, Zn, Mn, Ni Fe, Cu, Zn, Mn

Ellman reaction Negative Positive Negative Negative

Distribution Wide range of plant species and

plant tissues

Wide range of plant species and

plant tissues

Ubiquitously present in higher plants Cereal

Localizasion Leaves and roots Roots and stems Leaves, flowers and seeds Roots, xylem, phloem saps

Function Chlorophyll degradation? Heavy metal detoxification Metal transport to interveinal area Phytosiderophore

Heavy metal detoxification? Development of pistil and anther

Maturation of pollen

Maturation of seeds

Regulation of metal-requiring protein

Known chelators

N NH

OH

COOH

OH

COOH COOH

N NH

NH2

COOHCOOH COOH

NH

HN

O

SH

OH

O

O

n

HN

H

O OH

Chenopodium album

▼【今後】

精製標品をさらに集めてNMR,FT-IR分析を行う. だが、しかしっ!

Page 5: Purification and Structural Analysis of Metal …R-1)070417/suzuki...MCSの精製・性質決定・構造解析 ↓Cyt c がありえない位置に出現。MCSもこのあたりに出ていた。メーカーカタログのデータ↓

MCSの精製・性質決定・構造解析

↓Cyt c がありえない位置に出現。MCSもこのあたりに出ていた。

メーカーカタログのデータ↓

Elution profile of cytochrome c (Superdex peptide)

【最近の出来事】精製に使っていた,FPLCのゲル濾過カラム”Superdex peptide (22万円)”が,壊れていたことが偶然発覚.ピークはひとつに見えても,夾雑物が除ききれていなかったことが判明.

代わりになるかはっきりしないが,低分子量帯の分離ができる”Superdex 30”を購入していただいて実験を継続することにした.

【今後の予定】Superdex 30が届いたので,それをSuperdex peptideのカラムに詰め替えて,MCSの分離を試みる.うまくいけばNMRの準備.足りなければまた抽出.

Page 6: Purification and Structural Analysis of Metal …R-1)070417/suzuki...MCSの精製・性質決定・構造解析 ↓Cyt c がありえない位置に出現。MCSもこのあたりに出ていた。メーカーカタログのデータ↓

クロロフィル分解の中・後期における代謝産物の検出と同定(仮)

【これまでのあらすじ】クロロフィル分解の最終産物を明らかにするため,pyropheophorbide aをクロム酸を用いて分解を行った.

→methyl vinyl maleimide (MVM), methyl ethyl maleimide (MEM), C-E-ring derivative (CED), hematinic acid (HA)が検出された.(図1)

ペルオキシダーゼによる酵素的分解では,未知の加水分解産物(□), CEDの分解産物(○), MVM(●), HA(■)が検出された.(図2)

図1 図2

HA

CED

MEM

MVM

←Pyropheophorbide

*: Cofactor for the enzymatic reaction

*

Suzuki, Y. et al. (1999) 一部改

ところが,高等植物ではpheophorbide a からRCCへと分解が進む.chlorophyll aの分解経路の中間産物であるpheophorbide aを用いて調べる必要がある.

【研究の予定】1.Pheophorbide a をペルオキシダーゼ

により分解し,NCCとモノピロールの検出を試みる.

2.それぞれの分解生成物の量の経時変化を測定し,分解過程を明らかにする.

3.分解産物を,LC-MSで同定する.(または分取してMALDI-TOF MS)

Page 7: Purification and Structural Analysis of Metal …R-1)070417/suzuki...MCSの精製・性質決定・構造解析 ↓Cyt c がありえない位置に出現。MCSもこのあたりに出ていた。メーカーカタログのデータ↓

クロロフィル分解の中・後期における代謝産物の検出と同定(仮)

【背景】クロロフィル分解の中後期に出現する物質を明らかにするため,pheophorbide a をペルオキシダーゼを用いて分解を行う.反応生成物の種類と量の経時変化をHPLCで調べる.

◆Pheophorbide a の調製【方法】

○ホウレンソウの葉から葉柄を取り除き,冷アセトンで色素を抽出.ジオキサン処理とショ糖カラムでchlorophyll a を精製.○Chl a (diethyl ether):12N HCl = 1:1で混合し,低温暗所で1時間 酸処理.(フェオフィチンとフェオホルビドができる)○DEAE Toyopearl 650Mでpheophorbide a を精製.

Purified chlorophyll a

Chl a

Pheide a

Pheo a

Acid treatment

精製したクロロフィルは,Chl a のほかにエピマーと僅かな量のフェオフィチンができていた.

Chl a + epimer : 97.9%Pheo a + epimer : 2.1%

※HPLCの条件は駿河湾組と同じ.以下同様.

酸による金属脱離と加水分解で,Pheide a が生成された.Pheo a や,1%以下の大きさのピークが数多く見られた.(34.7分のピークを除いてすべて同じスペクトルを持つ)

Pheide a : 77.28%Pheide epimer : 10.87%Other Pheide : 0.10%Pheo a : 8.37%Other Pheo : 3.26%

→ DEAEによる精製

【結果】

Page 8: Purification and Structural Analysis of Metal …R-1)070417/suzuki...MCSの精製・性質決定・構造解析 ↓Cyt c がありえない位置に出現。MCSもこのあたりに出ていた。メーカーカタログのデータ↓

Pheophorbide a の調製

DEAEは1983年の小俣らの方法を使用した.

Omata and Murata (1983)

3つの画分をそれぞれHPLCに打ったところ,80%アセトンの画分に綺麗にpheophorbide a が取れていた.

Pheide a : 89.86%Pheide epimer : 9.93%Other Pheide : 0.21% (スペクトルが違うPheide)

→ この画分をpheophorbide a 標品として使用.

Acetone

Pheide a

Pheo a

Acetone:methanol = 10:3

80% acetone/1% ammonium acetate

Elution profiles of DEAE fractions

樹脂はDEAE Toyopearl 650M.カラムサイズは φ2.5 x 1.0 cm.アセトンで平衡化してサンプルをアプライ.

1.アセトンで洗い2.アセトン:メタノール=10:3の液で溶出3.1%酢酸アンモニウムを含む80%アセトンで溶出

各フラクションをHPLCで分析(右図).

Page 9: Purification and Structural Analysis of Metal …R-1)070417/suzuki...MCSの精製・性質決定・構造解析 ↓Cyt c がありえない位置に出現。MCSもこのあたりに出ていた。メーカーカタログのデータ↓

【今後の予定】以下の方法でフェオホルビドの分解を行い,分取・分析を行う.

◆ペルオキシダーゼの反応

Reaction mixture50 mM acetate buffer (pH 5.6)40 μM DCIP1 unit Horseradish peroxidase (type II)20 μM pheophorbide a/0.17% Triton X-10015 μM H2O2

Total 1 ml

Condition分光器内でH2O2を入れて反応開始し,波長665 nmを測定.温度は室温(22°C)

Reaction stop30秒ごとに20μl採取し,40μlのアセトンと混合して反応停止.100μlのジエチルエーテルで抽出したのち遠心し,エーテル相をHPLCに50μlインジェクト.

HPLC(Last stageのモノピロール類の検出)Column: Asahipak ODP-50 (250 x 4.6 mm I.D.)Eluent: acetonitrile-water (25:75, v/v)/100 mM ammonium acetateDetection: 200-400 nm

HPLC(Middle stageのビリルビン様物質の検出)Column: GL-Pack Hypersil ODS 5μm (250 x 4.6 mm I.D.)Eluent: 100 mM K3PO4 buffer (pH 7.0):Methanol (80:20 → 40:60 linear gradient)Detection: 200-400 nm

今後の予定