11
RDS/RFCC全体最適処理技術開発 出光興産株式会社 ○田中隆三、平松義文、坂倉圭、森田全人、岩井豊彦、三浦裕紀、 田邊亮 1.研究開発の目的 1.1 目的 石油の更なるノーブルユースを目的に、重油直接脱硫( RDS )装置と重油流動 接触分解( RFCC )装置との組合せ、 RDS+RFCC 組合せシステム、の最大活用・ 最大効率運転を目指す技術開発に着手した。克服すべき技術課題として、① RDS 装置にて、更なる重質処理運転促進を狙い、 RDS 装置前段部(ガード)での偏流 を大きく低減する技術開発、② RDS装置とRFCC装置の組合せにおいて、常圧残油 AR )を原料にした際の RFCC によるガソリンや軽油留分等、高付加価値燃料油 への転換効率向上を最大限に発揮可能な技術開発、を設定した。その初年度の取組 として、実機 RDS 装置を模した RDSパイロットにより性状の異なる RDS 生成油で ある脱硫重油( DSAR)を得、その性状とRFCC分解反応性との関係を調べた。さ らに新しい技術取組として、最新の流動解析技術やペトロリオミクス技術の活用・ 展開を試みた。 1.2 目標 (1)重油直接脱硫( RDS )装置の流動反応シミュレーション技術活用に基づく 反応温度偏差改善のための触媒充填(グレーディング)技術の開発により、実機 R DS 装置運転において、最前段(ガード)触媒層水平温度差(Δ T 20 ℃以下維持 を可能とし、1 年間連続運転を達成する。 (2)重油直接脱硫( RDS)装置と重油流動接触分解( RFCC)装置の反応メカニ ズムに立脚した RDS RFCC の全体最適運転を実現するそれぞれの触媒組み合わ せならびに運転条件改善を検討し、実機 RDSRFCC装 置運 転 に て 常 圧 残 油( ARを原料にした際の RFCCによるガソリンや軽油留分等、高付加価値燃料油への転換 効率向上を可能にする技術開発を行う。目安として、 RFCC にて液収率 0.3vol%上(RDSからの脱硫重油( DSAR)を100%通油換算)とする。 1.3 技術開発の期待効果 (1) RDS/RFCC 全体最適処理を達成するために必要な開発実用技術 以下の開発技術を、 RDS/RFCC システムを有する製油現場に適用できるレベル に仕上げる(図1)。 温度偏差改善のための触媒グレーディング技術 RFCC分解向上のためのRDS触媒システム技術 最適 DSAR性状に対応した RFCC反応制御技術

RDS/RFCC全体最適処理技術開発 1.研究開発の目的1...RDS/RFCC全体最適処理技術開発 出光興産株式会社 田中隆三、平松義文、坂倉圭、森田全人、岩井豊彦、三浦裕紀、

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RDS/RFCC全体最適処理技術開発

出光興産株式会社 ○田中隆三、平松義文、坂倉圭、森田全人、岩井豊彦、三浦裕紀、

田邊亮

1.研究開発の目的

1.1 目的

石油の更なるノーブルユースを目的に、重油直接脱硫(RDS)装置と重油流動

接触分解(RFCC)装置との組合せ、RDS+RFCC組合せシステム、の最大活用・

最大効率運転を目指す技術開発に着手した。克服すべき技術課題として、①RDS

装置にて、更なる重質処理運転促進を狙い、RDS装置前段部(ガード)での偏流

を大きく低減する技術開発、②RDS装置とRFCC装置の組合せにおいて、常圧残油

(AR)を原料にした際のRFCCによるガソリンや軽油留分等、高付加価値燃料油

への転換効率向上を最大限に発揮可能な技術開発、を設定した。その初年度の取組

として、実機RDS装置を模したRDSパイロットにより性状の異なるRDS生成油で

ある脱硫重油(DSAR)を得、その性状とRFCC分解反応性との関係を調べた。さ

らに新しい技術取組として、最新の流動解析技術やペトロリオミクス技術の活用・

展開を試みた。

1.2 目標

(1)重油直接脱硫(RDS)装置の流動反応シミュレーション技術活用に基づく

反応温度偏差改善のための触媒充填(グレーディング)技術の開発により、実機R

DS装置運転において、最前段(ガード)触媒層水平温度差(ΔT)20℃以下維持

を可能とし、1年間連続運転を達成する。

(2)重油直接脱硫(RDS)装置と重油流動接触分解(RFCC)装置の反応メカニ

ズムに立脚したRDSとRFCCの全体最適運転を実現するそれぞれの触媒組み合わ

せならびに運転条件改善を検討し、実機RDS+RFCC装置運転にて常圧残油(AR)

を原料にした際のRFCCによるガソリンや軽油留分等、高付加価値燃料油への転換

効率向上を可能にする技術開発を行う。目安として、RFCCにて液収率0.3vol%以

上(RDSからの脱硫重油(DSAR)を100%通油換算)とする。

1.3 技術開発の期待効果

(1) RDS/RFCC全体最適処理を達成するために必要な開発実用技術

以下の開発技術を、RDS/RFCCシステムを有する製油現場に適用できるレベル

に仕上げる(図1)。

① 温度偏差改善のための触媒グレーディング技術

② RFCC分解向上のためのRDS触媒システム技術

③ 最適DSAR性状に対応したRFCC反応制御技術

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図1. RDS/RFCC全体最適処理の開発技術

(2) RFCC得率 0.3vol%UPによる効果(原油種、処理量一定)

当該技術開発は、特殊な設備に頼らず、日本の既存製油所の多くが保有するRD

S/RFCCを最大限に活用することを目的としているため、汎用性が高く横展開が期

待できる。全日本のRDS/(R)FCCユニットに展開できた場合は、500 kL/D 増とな

り、DSARからの値差を9,000 円 /kLとすると、 約15億円 /年のメリットが見込ま

れる。

1.4 課題および検討方法

(1)温度偏差改善のための触媒グレーディング技術の開発

実機RDS装置運転において障害となるリアクター内の圧力差(ΔP)は、特にR

DS最前段(ガード)リアクターで起こることが知られている。その際、ΔP上昇の

予兆として触媒層水平温度差(水平ΔT)が生じ、リアクター内で固化偏流が発生

することが引き金と考えている。実例を図2に示す。この例から、運転に伴う水平

ΔTとΔPの変化から、水平ΔT上昇が固化偏流発生の目安であり、これを一定値以

下に抑えれば問題を回避できると期待される。そこで目標としてRDSガード触媒

層水平ΔT 20 ℃以下維持とした。

水平ΔTが発生し増大する現象は、① 触媒の形状あるいは充填不良等によって

偏流発生、② 触媒層へスケールが流入し、このスケールを核にしてコークが生成・

成長しより偏差を助長する、といった機構を想定している。この仮説を確かめて、

さらには対応策を策定するため、偏流原因の実験的検証を進めると同時にリアクタ

ー内の触媒層における気液の流れを現実ベースで再現できる高度流動解析技術の

開発を行う。

重質油(残油)

①温度偏差改善のための触媒グレーディング技術の開発→ 高性能ガードシステム

による1年安定運転

脱硫重油

ガード触媒システム

②RFCC分解向上のためのRDS触媒システム技術の開発→ RFCC得率向上

重油脱硫装置(RDS)

重油流動接触分解装置(RFCC)

メイン触媒システム

(HDM+HDS)

製品得率増大

(ガソリン等)

分解残渣油

高硫黄重油低減

③最適DSAR性状に対応したRFCC反応制御技術の開発→ ・RFCC得率推定

・製品硫黄分制御

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図2 RDSカードリアクター固化発生例(左)、およびRDS運転に伴う水平ΔTと

ΔPの推移例(右)

(2)RFCC分解向上のためのRDS触媒システム技術の開発

ベンチリアクターを用いRDS装置を模擬した反応評価を行い、触媒システムな

らびに運転条件等がRDS生成油であるDSAR性状に対する影響把握を行う。各種D

SARはRFCC分解性評価装置であるACE-MAT(Advanced Cracking Evaluation

- Micro Activity Test)により、分解率(conversion)や分解ガソリン(FG)等

のRFCC生成油各種選択性を求め液収率に関する情報を得る。これによりRFCC分

解向上のためのRDS触媒システム技術の開発および反応操作変数改善検討に資す

る。

(3)最適DSAR性状に対応したRFCC反応制御技術の開発

JPEC主導によるペトロリオミクス技術を活用し、分子レベルの分析・反応解析

に基づいた最適DSAR性状に対応したRFCC反応制御技術の開発を行う。

2.研究開発の内容

2.1 温度偏差改善のための触媒グレーディング技術の開発

ガードリアクター内の物理現象は物質、熱、反応、相変化、詰まり等の複雑な現

象が混在しており、その定量的な解明は最新のCFD(Computational Fluid Dyn

amics、数値流体力学)解析を用いても困難とされてきた。本開発では、1つのモ

デルでリアクター内の現象をすべてモデリングすることは困難なため、現象毎にミ

クロシミュレータ、マクロシミュレータに分けて高度流動解析技術開発を進めた。

ガードリアクター内固化発生部位 RDS運転日数(一年) RDS運転日数(一年)

Base

Base

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(1)ミクロシミュレータの開発

ガードリアクターは様々な形状、粒径の触媒を層状に積層(グレーディング)し

ており気液の流れの分散性、液中に含まれる微細粒子の捕捉等を試行錯誤的あるい

は経験的知見に基づき行われている。このグレーディングが効果的であれば、充填

層での微細粒子が引き金となる詰まりが抑制され、偏流の回避、温度分布の均一化

が行われ、あるいはより重質な油を処理できる。本開発では、グレーディングを触

媒形状や粒径あるいか充填方法を考慮し、最適な条件を探索するためのシミュレー

タを開発するものである。

具体的には、実際に使用されている触媒形状を厳密にモデル化し、それを実充填

法に近い条件(ソックローディング)で充填解析を行い、それによって、形成され

た充填構造において、気液二相流がどのように形成され、更に、そこに微細粒子が

存在する場合、微細粒子がどのように捕捉されるかを解析する。これにより、触媒

形状、触媒径、触媒濡れ性、触媒充填率等が気液の分散や微細粒子のトラップにど

のように影響するかを明らかにし、効果的なグレーディングを可能にする。

上記の解析モデルを構築するに当たり、計算手法の選定が必要となるが、複雑形

状触媒の充填解析は離散要素法 (DEM:Discrete Element Method)を改良した拡

張DEM法(昨年度、ソフトベンダーCPFD Lab.社と共同開発)を採用。複雑な形

状場での気液二相流解析法として、MPS法(Moving Particle Semi-implicit Me

thod)、VOF法 (Volume Of Fluid)、LBM法(Lattice Boltzmann Method)を

評価し、数値拡散誤差の少ないMPS法を採用した。

また、液相における微細粒子の解析には粒子の付着性を考慮したDEM法を採用

した。本解析は、いくつかの機能を汎用ソフトに導入・拡張し、複数のソフトを連

携させて行っており、汎用のソフトを単に使用するだけでは、このような解析は不

可能である。

さらに解析の信頼性を確認するため、実触媒を用いた水空気系でのコールドモデ

ル実験を行い、液の分散性や充填層における滞留時間を評価した。解析ソフトとし

て、触媒充填解析にはCPFD Lab.社PDを採用、MPS法と微細粒子の捕捉解析はR

-FLOW社のR-FLOWを用いた。

尚、ミクロシミュレータでは、触媒間の流れを高精度に解析するため、計算領域

は数十cmオーダーであり、実装置リアクター全体をモデル化することは現実的で

なく、リアクター全体は次項のマクロシミュレータが担当する。

(2)マクロシミュレータの開発

マクロシミュレータは実リアクターにおいて、偏流が発生し、充填層内で温度分

布や圧力上昇を生じた場合、そのリアクターの詰まり状況やその進展または運転時

の対応策を検討する目的で開発を進めている。

具体的には、水空気系のコールドモデル実験において、液の分散性、二相系の圧

力損失および液ホールドアップを測定し、これらの条件が再現できるようにCFD

で反応器モデリングを行う。この条件において、液、ガスの物性、リアクターサイ

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ズをCFD上で変更し実リアクターの状態を予測するものである。よって、コール

ドモデルで目視した状態とCFDで解析された液の体積率が対応しており、実リア

クターの状態がコールドモデル実験から推察できる。本解析モデルとして、液ガス

を連続体として、粒子層を連続体のポーラスモデルとする方法と液ガスを連続体と

して、粒子層を離散体(DEM法)とする方法が考えられるが、液分散性、圧力損

失、液ホールドアップを再現できる方法は後者の連続体とDEMのカップリング法

でより有効であった。

そこで、コールドモデル実験結果を気液流はVOF法で、粒子はDEM法でモデル

化する。ここでコールドモデル実験では2~5mm径の触媒を用いているが、DE

Mで表現する場合、この粒径で内径約4mの実リアクターを解析すると粒子数が数

十億オーダーとなるため、実験では2cm径の触媒とした。実験結果をCFD結果と

一致させるため液面毛管力係数、気固抗力モデル、粒子内液浸透係数を調整し、粒

径を2cmとして、実リアクターをモデル化した。この際、粒子数は約600万となり、

DEMによる大規模な触媒充填解析を実施した。

2.2 RFCC分解向上のためのRDS触媒システム技術の開発

(1)RDS触媒システムの活性評価

触媒メーカーから提供された市販の脱メタル(HDM)触媒と脱硫(HDS)触媒

を複数種組合せて用いた。組合せは実機RDS装置と同じとなる重量比率で各触媒

ペレットを高圧固定床反応器に充填し、硫化処理した後、中東系原油からの常圧蒸

留残油(AR)を原料油として、水素化反応処理を行った。使用した触媒は、一般

物性や金属担持量から主に脱メタルを行うHDM触媒、脱メタルと脱硫をバランス

良く行うHDM/HDS触媒、および脱硫を主とするHDS触媒の3種類に大別でき、

3種類の触媒は3本の反応管に各々充填して評価を行った。

(2)原料油ならびに生成油の詳細評価(ペトロリオミクス活用)

原料油および生成油の一部は、JPECと連携して詳細組成構造解析を行った。

2.3 RFCC反応制御技術の開発

(1)RDSのシビアリティ変更に対するRFCCへの影響評価

①DSARの分解性評価

(a) 触媒

DSARの分解性評価を行うために、実装置内の状態におけるRFCC触媒活性に近

づけた状態に疑似平衡化した触媒を用いた。ただし、実装置から抜き出した平衡触

媒を使用すると、触媒上に付着した被毒メタル(ニッケル、バナジウム、鉄)の影

響を受け、コーク収率に関して、原料油に起因したコークかがわかりにくくなるた

め、ここではRFCC新触媒(Fresh)を実験室内にてスチーミングして所望の触媒

活性に調整した触媒を用いた。

(b) 原料油

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RDSシステム側の検討により得られたDSARを用いた。ベンチで得られた生成油

を蒸留して343℃より重質留分にカットした後、反応に用いた。

(c) 反応評価

反応評価は、RFCC分解性評価装置にて評価した。この時、分解して生成した油

は、RFCC生成油分析装置にて分析し、分解ガソリン(FG)、分解軽油(LCO)、

分解残さ(CLO)の得率を算出した。生成した分解ガス(H2、C1 – C4)は、マ

イクロガスクロ(GC)を用いて、組成分析を行った。生成コークに関しては、反

応評価後の触媒を焼成し、その排ガスをCOコンバーターを通し、CO(一酸化炭素)

をCO2(二酸化炭素)に転換し、その総流入量からコーク収率を求めた。

3.研究開発の結果

3.1 温度偏差改善のための触媒グレーディング技術の開発

(1)ミクロシミュレータ開発

はじめに実触媒を用いたコールドモデル実験結果を示した。ここで得られた液の

分散状態や液の滞留時間がCFDでも解析できることが必要となる。その後、計算

形状を得るための触媒充填解析、それを用いた気液二相流解析およびその流れ条件

における微細粒子の挙動結果を順に示した。

①コールドモデル実験

CFDの健全性評価ため、コールドモデル実験を実施した。図3に実験結果を示

す。3種類の実触媒をコールドモデルに充填(横20cm×高さ8cm×厚さ1.6cm)し、

中心部のノズルより水を供給し、周辺部より空気を供給した。触媒は上部よりロー

トで落下させて充填することで、いわゆるソック・ローディング(sock loading)

法を模擬した。流量条件は図中に示したが、これは実装置の空塔速度条件に対応す

る。流量はそれぞれデジタル流量計で計測した。流れが定常に達した後、ノズル配

管上流部からトレーサーインクをスパイクして、インクの分散状況と充填層を通過

する時間を計測した。

この結果、インクの分散状況は粒子サイズが細かいCase3で最も広がり、次いで

Case2、Case1の順となった。また、インクの通過時間はCase1とCase2が0.5sec

で通過し、Case3は2.1secで通過することが動画の画像解析から分かった。Case2,

3は棒状の触媒であり、横方向での分散が促進されているが、球形粒子ではそれ

が顕著でないことが分かる。

図3は正面からの図であるが、反対から見た図もほぼ同一であった。

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図3 トレーサーによる充填触媒間の液分散状態確認実験(コールドモデル)

②複雑形状触媒の充填解析

CAD(computer-aided design)ソフトにて触媒形状を厳密に再現して、1個の

触媒粒子のstlファイルを作成する。このファイルを図4のように配置して、振動

を与えながら崩落させ、粒子の充填解析を行った。解析ソフトはPDを用いた。通

常のDEM法は点と面の接触を解析して物体の運動を計算するのに対して、この充

填解析では点と面および構造体が持つ線が点、面、線と接触することを考慮してお

り、複雑な物体での衝突反発の解析が可能となっている。この解析によって得られ

たCase2, 3の計算形状も図中に示す。汎用ソフトでは複雑形状物体を模擬する場

合、結合粒子により表現するが、この場合、粒子の曲面が残るなどの問題がある。

しかしながら、本法では滑らかな面が再現される。異なる形状の触媒を複数積層、

混合させる等様々な応用が可能となる。更に下部よりガスを供給して、流動化させ

るなどの計算も可能である。しかしながら、個々の触媒は線、面、点等多くの情報

を含むため、計算可能な粒子数には限りがあり、それに応じて計算速度も低下する。

Gas

20cm

8cm

Sim. zone

Case1 Case2 Case3

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図4.触媒充填層解析の初期条件と充填結果

③触媒充填層内での気液二相流解析

触媒の充填解析で得られた幾何形状を用いて、気液二相流の計算を行った。計算

手法として、MPS法(汎用ソフトR-FLOWを使用)とVOF法(汎用ソフトPDを使

用)を評価した。計算条件はコールドモデル実験で用いた水流量と空塔速度を合わ

せて計算を行った。いずれの解析でも水の表面張力を考慮して解析を行った。

解析結果として、図5に水投入後2sec時のそれぞれ水の分散状況およびガスの

速度ベクトルを示す。Case1の球状触媒では水はあまり分散せずに落下するのに対

して、断面四つ葉の棒状触媒は水平方向への分散がより顕著となる。更にCase3の

より細かな四つ葉触媒では空隙率が小さくなっており、液の分散もより顕著である。

また、液の充填層内での通過時間を調べると、Case1で0.4sec、Case2で0.5sec、C

ase3で1.5secとなっており、実験での測定結果と概ね一致する。

図5.各触媒充填層内の液の流速分布(Time: 2sec)

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3.2 RFCC分解向上のためのRDS触媒システム技術の開発

(1)温度勾配運転条件が生成油性状に与える影響に関する考察

反応器内の温度プロファイルを変えてベンチ実験を行い、降温パターンである

「前段高負荷ケース」と昇温パターンである「後段高負荷ケース」の生成油を得た。

これらの生成油中について、硫黄分の変化と一般物性から導かれるRFCC反応性指

標との関係を図6に示す。

図6.RDS内の温度負荷を極端に変化させた場合の生成油DSARへの影響

その結果、大きな差ではないが前段高負荷と後段高負荷ケースで、最終生成油D

SAR中の硫黄分が同一の場合でも、RFCC反応性指標にやや差があり、前段高負荷

ケースつまり降温パターンで後段高負荷ケース(昇温パターン)に対してやや優位

性があることを見出した。

3.3 最適DSAR性状に対応したRFCC反応制御技術の開発

(1)DSAR目標硫黄濃度が生成油性状に与える影響の評価

RDS装置の各触媒層への負荷を変更する運転条件変更で、極端に変化させるこ

とで、RFCC反応性指標にやや差があることを見出したが、期待したほど大きなも

のでは無かった。さらに大きなRFCC反応性の向上を狙うため、RDS運転温度を標

準より増加させ(脱硫過酷度アップ)生成油DSAR硫黄分を変化させ、その生成油

性状およびRFCC反応性への影響を調べた。

RDS運転温度を標準(Base)と標準より増加させ(脱硫過酷度アップ)RFCC

反応性指標アップ(指標アップ)を狙った2種のDSARのRFCC反応性を比較評価

した。RFCC反応性指標とDSAR転化率との関係を図7に、RFCC分解選択性とし

て転化率に対する分解ガソリン(FG)得率の関係を図8に示す。

RDS入口 RDS出口

青色: 前段高負荷ケース、 赤色: 後段高負荷ケース

Base

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図7.DSAR転化率とRFCC反応性指標との関係

図8.RFCC分解選択性(FG得率とDSAR転化率との関係)

この結果から、目論見通り指標アップを狙った反応シビアリティアップで目標硫

黄分を標準から低減させたDSARは、標準(Base)に比べ高いRFCC反応性指標を

示すことが確認された。さらに、指標アップのDSARは標準に比べ、FG得率の差

は約3 wt%もあり、RFCC収率アップが十分に期待できるレベルとなった。

以上の結果から、RFCC反応性向上を狙うためには、RFCC反応性指標を向上さ

せるようなRDS運転を行うといった方向性および方法論を定めることができた。

しかしながら、今回実施した目標硫黄分を強制的に低減させるRDS運転を実機RD

Sで実現することは容易ではない。今後、方向性は良いとして、実用的なRDS運転

ができ、かつRFCC液収率アップに繋がるRDS触媒システムの探索を行う。

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4.まとめ

石油の更なるノーブルユースを目的に、重油直接脱硫(RDS)装置と重油流動接触分解

(RFCC)装置との組合せ、RDS+RFCC 組合せシステム、の最大活用・最大効率運転を

目指す技術開発に着手した。その初年度の取組として、実機 RDS 装置を模した RDS パイ

ロットにより性状の異なる RDS 生成油である脱硫重油(DSAR)を得、その性状と RFCC

分解反応性との関係を調べた。さらに新しい技術取組として、最新のペトロリオミクス技

術や高度流動解析技術の活用・展開を試みた。結果として当初設定した課題は計画通り完

遂した。計画・実績対比を一覧として表1に示す。今年度の結果をベースにして、引き続

き次年度以降の技術開発に邁進する。

表1.今年度技術開発 計画と実績一覧

年 月 

 項 目 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月

① 反応温度偏差改善のための 触媒グレーディング技術の開発

高度流動解析、ハード/ソフトの導入と流動現象の解析

② RFCC分解向上のための  RDS触媒システム技術の開発

ベンチを用いたRDSシステム基礎実験(運転条件によるDSAR性状変化把握)

③ 最適DSAR性状に対応した  RFCC反応評価技術の開発

RDSシステム・反応条件のRFCC分解性への影響把握

平成28年度

ハード/ソフトの導入等準備 流動解析トライアル

コールドモデル実験

事前準備 SOR期ベンチ実験 EOR期ベンチ実験

運転条件等が与えるDSAR性状等の影響把握

MAT仕様決定・設計発注 設計内容精査 設計検収済

異なるDSARによるMAT分解活性の影響把握

ペトロ解析(DSAR)5 3 3