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中野寛之
京都大学・理学研究科
ブラックホール摂動論入門
弘前大学・宇宙物理学セミナー
2014年12月12日
Regge-Wheeler-Zerilli formalism
イントロ (1)
ブラックホール摂動論:
ブラックホール時空(背景時空として固定)に
摂動を与えた場合の摂動の振る舞いを議論.
• 計量の摂動自身の振る舞いを計算する.
• エネルギー・運動量テンソルを摂動源として
計量の摂動を計算する.
イントロ (2) 計量の摂動自身の振る舞いを計算する
• 摂動 → ブラックホールの安定性
• 計量の摂動 → 重力波
• 減衰振動する準固有振動
(quasinormal mode,QNM,リングダウン)
• ブラックホール時空上の波の伝播
摂動方程式は,スカラー・電磁場・重力場等
に対して用意することが出来る.
(ホーキング輻射のGreybody factor,
プランク分布からずれる.)
イントロ (3)
エネルギー・運動量テンソルを摂動源として
計量の摂動を計算する
• 摂動源として質点を用意
巨体質量ブラックホール=コンパクト天体連星系
(Extreme mass ratio inspiral, EMRI)
イントロ (4)
重力波天文学における重力波波形の計算に活躍
リングダウン重力波:
ブラックホールの質量により地上重力波検出器
(恒星質量程度:KAGRA, LIGO, VIRGO),宇宙
空間重力波検出器(中間質量ブラックホール:
DECIGO,巨大質量ブラックホール:eLISA)の
ターゲット.
イントロ (5)
重力波天文学における重力波波形の計算に活躍
EMRI重力波:
摂動展開のパラメータとして質量比を用いる
ためにブラックホールの質量は大きい必要が
ある.宇宙空間重力波検出器(中間質量ブラッ
クホール:DECIGO,巨大質量ブラックホール
:eLISA)のターゲット.
アインシュタイン方程式と摂動展開 (1)
計量を背景時空の計量と摂動で表す.
シュバルツシルト背景時空
摂動の1次まで考える線形化されたアインシュタイン方程式を導出したい.
アインシュタイン方程式:
注意
この発表では,
物理量に換算する時は,
アインシュタイン方程式と摂動展開 (2)
アインシュタイン方程式:
左辺・右辺それぞれ摂動展開する.
注:背景時空は,真空としている.
の導出が,ややこしい.
アインシュタイン方程式と摂動展開 (3)
の導出
相対論の定義に従って,順に計算.
アインシュタイン方程式と摂動展開 (4)
リッチ(テンソル)まで計算できれば,後もう少し.
アインシュタイン方程式と摂動展開 (5)
線形化されたアインシュタインテンソル
シュバルツシルト時空(真空解)を考えているので,
最終的な線形化されたアインシュタイン方程式
気をつけておきたいこと (1)
線形化されたアインシュタイン方程式
に
を導入すると,
と少しシンプルになる.
気をつけておきたいこと (2)
ここで,計量の摂動をどのような座標で見るか?
→ この自由度がゲージ変換(無限小座標変換)
この自由度を固定するゲージ条件として
(調和ゲージ,Lorenzゲージ)を選ぶと
シンプルだが,この発表では使わない.
気をつけておきたいこと (3)
シュバルツシルトブラックホール時空(球対称)
• 計量の摂動自身に対して方程式を考える.
• Regge-Wheeler-Zerilli formalism
カーブラックホール時空(軸対称)
• 曲率の摂動(ワイルテンソル)に対して議論する.
• Teukolsky formalism
• (計量の摂動自身の定式化は???)
この方程式をどう解くか?
Regge-Wheelerの論文
1957年
Phys. Rev. 108, 1063 (1957).
テンソル球面調和関数展開 (1)
背景時空の球対称性を利用する.
→ 球面調和関数,それを発展させたもの.
正規直交基底(10個)
テンソル球面調和関数展開(2)
スカラー部分((tt), (tr), (rr)成分やトレース部分)
正規化されている.
テンソル球面調和関数展開(3)
ベクトル部分((tA), (rA)成分)Aは角度.
まずは,球面調和関数のgradでベクトルを作る.
テンソル球面調和関数展開(4)
ベクトル部分((tA), (rA)成分)Aは角度.
前のページのものに垂直な方向のベクトルを作る.
テンソル球面調和関数展開(5)
スカラー部分(角度-角度のトレース部分)
角度部分でも,トレース部分はスカラー的.
テンソル球面調和関数展開(6)
テンソル部分(角度-角度のトレースレス部分)
テンソル球面調和関数展開(7)
テンソル部分(角度-角度のトレースレス部分)
テンソル球面調和関数展開(8)
実際の計算と計算チェック.
Zerilliの論文とは違うものを
用意している.
テンソル球面調和関数展開(9)
計量の摂動は,少しいじっている.
もちろん,最初に定義したものでも構わない.
パリティ変換とモードの分離
パリティ変換 に対して,
どのように振舞うかで,方程式系を分離できる.
:even parity
:odd parity
球面調和関数:(-1)^L :even parity
後は,微分の掛かり方と や を考慮する.
単極子,双極子 (L=0, 1) モード
Lが2(四重極子)以上のモードのみを以降は議論.
例えば,L=0, 1モードには,
に対応する成分は存在しない.
(別の取り扱いが,必要となる.)
物理的に意味はある.
• L=0:質量(even)に対応
• L=1:角運動量(odd)・並進運動(even)に対応
Regge-Wheelerの論文で出来なかったこと
• Even parityに対して,マスター方程式を導出することができなかった.
注:マスター方程式:それさえ解けば
他の物理量(計量の摂動)を構築できる.
• 7つの連立変微分(もしくは,フーリエ空間
では常微分)方程式から,うまい関数の
組み合わせを考える必要があった.
13年の時は流れ・・・
Zerilliの論文
1970年
Phys. Rev. D 2, 2141 (1970).
Zerilliの論文の概要 (1)
• RWと使っている手法は同じ.
• テンソル球面調和関数展開.
• Even,odd パリティの分離.
• Even パリティのマスター方程式の導出.
• 摂動源としてエネルギー運動量テンソルの導入.
• 本文4ページ半,AppendixがKまであり
15ページ半.
Zerilliの論文の概要 (2) ゲージ条件として,Regge-Wheelerゲージ
を採用している.
「We have therefore chosen to eliminate those terms which contain
the derivatives of the highest order with respect to the angles.」
----- T. Regge, J. A. Wheeler, Phys. Rev. 108, 1063 (1957).
以下では,オリジナルのものを少し変更して取り扱う.
マスター方程式の導出 (1)
まずは,エネルギー運動量テンソルを
テンソル球面調和関数展開.
Zerilliの論文では,質点を取り扱っている.
質点の位置
4元速度の時間成分
マスター方程式の導出 (2)
10成分を次々と展開していく.(even:7,odd:3)
(続きは次のページ)
マスター方程式の導出 (3)
• Schwarzschild時空では,赤道面のみの軌道に
制限してよい.
• 円軌道・動径運動のみの場合は,
少しシンプルになる.
oddパリティ 計量の摂動3成分+ゲージ1成分
マスター方程式の導出 (4)
次は,線形化されたアインシュタイン方程式を書き下す.
計算チェックとして,
マスター方程式の導出 (5)
次のコンビネーション(wave function)を導入する.
----- C. T. Cunningham, R. H. Price and V. Moncrief, Astrophys. J. 224, 643 (1978).
----- C. O. Lousto, Class. Quant. Grav. 22, S569 (2005) [gr-qc/0501088].
これは,Regge-WheelerやZerilliが導入したものと
という関係がある.
マスター方程式の導出 (6)
Wave functionは,次の波動方程式を満たす.
Regge-Wheeler方程式:
ポテンシャルは,
ソース項は,
マスター方程式の導出 (7)
Regge-Wheelerゲージのもとで,計量の摂動は
wave functionから次のように求められる.(2成分:3-1)
(無限遠方での重力波の議論・計算チェック等に必要.)
evenパリティ 計量の摂動7成分+ゲージ3成分
マスター方程式の導出 (8)
全部で7つの式を次々と書き下していく.
(線形化されたアインシュタイン方程式の7成分)
マスター方程式の導出 (9)
ただ,書き下すしかない・・・.
マスター方程式の導出 (10)
後2つ.
マスター方程式の導出 (11)
計算チェック.
マスター方程式の導出 (12)
次のwave functionを導入する.
----- V. Moncrief, Annals Phys. 88, 323 (1974).
----- C. O. Lousto, Class. Quant. Grav. 22, S569 (2005) [gr-qc/0501088].
これは,Zerilliが導入したものと
という関係がある.
マスター方程式の導出 (13)
Wave functionは,Zerilli方程式:
を満たす.ポテンシャル(oddより複雑)は,
ソース項(oddより複雑)は,
マスター方程式の導出 (14)
Evenパリティの計量の摂動,4(7-3)成分は,
マスター方程式の導出 (15)
一つにまとめると,
Regge-Wheeler (odd) 方程式と Zerilli (even) 方程式:
(マスター方程式)
ゲージ変換と重力波 (1)
波動方程式の形をしていて,
遠く離れたところでの漸近形も求まるが・・・,even
ゲージ変換と重力波 (2)
波動方程式の形をしていて,
遠く離れたところでの漸近形も求まるが・・・,odd
この解は,いったい何なのか?
無限遠方で観測される重力波になっているのか?
ゲージ変換と重力波 (3)
漸近的平坦(AF)なゲージに移って議論する必要がある.
RWゲージは,
消したものは,重力波成分だった・・・.
ゲージ変換と重力波 (4)
計量の摂動に対して,
RWゲージからAFゲージへの変換を考えよう.
計量の摂動のゲージ変換は,
ゲージ変換と重力波 (5)
ゲージ変換に対して,
ベクトル球面調和関数展開で議論する.
• ベクトルポテンシャルを表現する時にも使う.
ゲージ変換と重力波 (6)
計量の摂動は,次のような変換を受ける.(10成分)
ゲージ変換と重力波 (7)
漸近的平坦なゲージの条件を満たすように
ゲージ変換を探すと,最終的に,
無限遠方で生き残る(重力波の)成分が出る.
ゲージ変換と重力波 (8)
上記と角度依存性を合わせると,evenパリティは,
ここで,球面調和関数の性質から,
mモードに対称性がある. →
ゲージ変換と重力波 (9)
さらに,重力波のプラスとクロスモードを合わせると,
spin weighted spherical harmonics
(スピンの重み付き?球面調和関数)で書ける.
ゲージ変換と重力波 (10)
次は,oddパリティに対して計算.
先ほどと同様に,mモードに対称性がある.
(m>0とm=0を計算すればよい.)
ゲージ変換と重力波 (11)
Oddパリティもまた,
同じようなまとめ方をすることができた.
(先ほどと同じ角度依存性)
ゲージ変換と重力波 (12)
Even, oddパリティをまとめると
無限遠方で観測される重力波は,wave functionを用いて
と書ける.
重力波放射によるエネルギー (1)
トランスバース=トレースレスゲージの下では,
(i, j)の縮約に注意すると
重力波波形を代入しよう.
重力波放射によるエネルギー (2)
角度関数の正規直交性やmモードの対称性を使う.
計算の途中式.
最終的に,
何故選んだ?(ゲージ不変量)(1)
Oddパリティのwave functionは
任意のゲージのもとで,
一方,計量の摂動のゲージ変換は,
変換後の計量の摂動をwave functionに代入すると
ゲージ変換部分が消えた.
何故選んだ?(ゲージ不変量)(2)
Evenパリティのwave functionは
任意のゲージのもとで,
変換後の計量の摂動を代入してみると,また消えた!
Chandrasekhar変換 (1)
Even, odd パリティにそれぞれ方程式がある.
(例えばグリーン関数法で)2つも解きたくない.
----- S. Chandrasekhar, The mathematical theory of black holes
Chandrasekhar変換 (2)
Even, odd パリティにそれぞれ方程式がある.
(例えばグリーン関数法で)2つも解きたくない.
----- S. Chandrasekhar, The mathematical theory of black holes
Chandrasekhar変換 (3)
フーリエ変換しておこう.
周波数領域では,
目標は,微分のところを同じ形にしたい!
Chandrasekhar変換 (4)
いつもこのようなことができる訳ではないが・・・.
「We can!」by Chandrasekhar
同じ微分方程式の形にできる.
Regge-Wheeler-Zerilliの解き方 (1)
Mano-Suzuki-Takasugiの方法(周波数空間)
----- S. Mano, H. Suzuki, E. Takasugi, Prog. Theor. Phys. 96, 549 (1996).
----- M. Sasaki, H. Tagoshi, Living Rev. Relativity 6, 6 (2003).
Wave function Xを
と変更して,RW方程式を少し書き換えて,
εの展開として解く.
Regge-Wheeler-Zerilliの解き方 (2)
遅延時間 と先進時間 の座標で解く.
(時間領域)摂動源として,質点のデルタ関数を扱う.
----- C. O. Lousto, Class. Quant. Grav. 22, S543 (2005).
ブラックホール準固有振動 (1)
連星などの合体により最終的にブラックホールが形成される時に放射される重力波であり、ブラックホールを直接観測する方法として利用できる。
右図で,最後の方に見える減衰振動が 準固有振動(quasinormal mode, QNM)である.
ブラックホール準固有振動 (2)
QNM重力波(リングダウン)が分かると,
何が分かるのか?
パラメータ:
• 中心周波数:fc,Q値:Q
(もしくは周波数の実部・虚部)
• 初期時刻・初期位相
• スピンの方向・重力波源の位置
ブラックホール準固有振動 (3) 理論屋として,まず,すべきこと
QNMパラメータの中で,
「中心周波数:fc,Q値:Q」
をブラックホールの性質と関連付ける.
例)カーブラックホール(ここでは、質量:M,スピン:j)
-----
E. Berti, V. Cardoso, C. M. Will,
Phys. Rev. D73, 064030 (2006).
ブラックホール準固有振動 (4)
GR禁止領域
50M_sun
175M_sun
振動数(実部,Hz)
振動数(虚部,Hz)
中村卓史氏による提案.
ブラックホール準固有振動 (5)
一番簡単な評価方法:WKB近似
----- B. F. Schutz and C. M. Will, Astrophys. J. 291, L33 (1985).
ブラックホール準固有振動 (6)
ポテンシャル障壁を持つ1次元
シュレディンガー方程式と似ている!
Region IIではポテンシャルを近似して,厳密解を求める.その後,接続する.
ブラックホール準固有振動 (7)
Regge-Wheeler方程式に使ってみよう.(M=1としている.)
----- B. F. Schutz and C. M. Will, Astrophys. J. 291, L33 (1985).
:スカラー,ベクトル,計量の摂動
準固有振動数:σ
と,ポテンシャルのピークでの振る舞いで書ける.
(r0はポテンシャルのピークの位置.)
ブラックホール準固有振動 (8)
3rd order WKB
S. Iyer, C. M. Will, Phys. Rev. D 35, 3621 (1987).
6th order WKB
R. A. Konoplya, Phys. Rev. D 68, 024018 (2003).
ブラックホール準固有振動 (9)
----- R. A. Konoplya, Phys. Rev. D 68, 024018 (2003).
----- R. A. Konoplya, Phys. Rev. D 68, 024018 (2003).
ブラックホール準固有振動 (10)
まとめ
Regge-Wheeler-Zerilli formalism
ブラックホール摂動論の中で,最もシンプル,でも奥深い.
QNMに関しては、どの精度で計算したいか?
定式化は,静的球対称時空の色んなものに拡張できそう.
----- T. Ono, T. Suzuki, N. Fushimi, K. Yamada, H. Asada, arXiv:1410.6265.