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Journal Club Respiratory-ECMO中の 適切な呼吸器設定とは? LIFEGARDS study2020/3/3 聖マリアンナ医科⼤学病院 秦 ⿓彦

Respiratory-ECMO中の 適切な呼吸器設定とは? - JSEPTIC2020/03/03  · Journal Club Respiratory-ECMO中の 適切な呼吸器設定とは? ~LIFEGARDS study~ 2020/3/3

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  • Journal Club

    Respiratory-ECMO中の適切な呼吸器設定とは?

    ~LIFEGARDS study~

    2020/3/3 聖マリアンナ医科⼤学病院

    秦 ⿓彦

  • 本日の論文

    Am J Respir Crit Care Med 2019;200(8):1002-1012

       ~LIFEGARDS study~ ventiLation management oF patients with Extracorporeal membrane oxygenation for Acute Respiratory Distress Syndrome

  • ARDS ~Berlin定義~

    発症 何らかの侵襲/新しい(新たに悪化した)呼吸器症状から1週間以内

    画像所⾒ 胸⽔、無気肺または⼩結節影のみでは説明のつかない両側浸潤影

    肺⽔腫の原因 ⼼不全や過剰輸液のみでは説明のつかない肺⽔腫疑わしい場合はエコーなど客観的指標を

    酸素化(最低限 5cmH2OのPEEP)

    軽症 :P/F 201~300 中等症:P/F 101~200 重症 :P/F≦100

    JAMA2012;307(23):2526-2533

  • 肺保護戦略とは

    ⼈⼯呼吸器戦略としての肺保護⽔分バランス戦略としての肺保護理学療法戦略としての肺保護(腹臥位)体外循環による肺保護(ECMO)薬物療法による肺保護

    INTENSIVISTVOL.7NO.12015-1ARDSBerlinその後 p27-34

  • 肺保護換気 low tidal strategy

    atelectrauma

    volutrauma

    VILI(Ventilator-induced lung injury)を最⼩限にする

    VT(tidal volume) 6ml/kg Pplat≦30cmH2O

  • 肺保護換気 open lung strategy 適切なPEEP

    〜ARDS network プロトコルに基づいて〜

    〜経肺圧に基づいて〜 NEJM 2008; 359:2095-2104

  • 肺保護換気 lung stress & strain △P(Drivingpressure)=Pplat-PEEP=VT/Crs

    ARDS患者 計3562例⼈⼯呼吸器のデータ予後改善因⼦のモデルを作成さらにvalidationを施⾏

    Pplat⾼値で△Pも⾼値の場合に死亡率上昇

    ⾼PEEPの効果は△Pが低い時のみに認めた

    NEJM 2015;372:747-55

  • 肺保護換気 lung stress & strain

    △P

  • 肺保護換気 lung stress & strain Mechanicalpower 1回換気量に加えてPEEP、吸気流速、呼吸回数もVILI発⽣に関与する、という考えに基づいた指標

    GaSnoniL.Intensive Care Med 2016;42:1567–1575

    Ann Transl Med 2017;5(14):286

    Flow(F)×Resistance(R)

    ①Static Mechanical power  =ΔV×PEEP

    ②Dynamic Mechanical power  =1/2×ΔP ×ΔV  =1/2×ΔV/C ×ΔV  =1/2×ΔV×E ×ΔV  =1/2× E ×ΔV2

    ③Resistive Mechanical power  =F×R×ΔV

    Mechanical power =(①+②+③)×呼吸数 単位:J/min

  • 肺保護換気 lung stress & strain Mechanicalpower = 0.098 × VT × RR × ( Ppeak − 1/2ΔP)

    ΔP Ppeak

    VCVで可視化できる

  • MP>17J/min で 死亡率増加

    Intensive Care Med 2018;44:1914-1922

  • Respiratory ECMO

    1972年 外傷後の呼吸不全(ARDS)に対しHillらが初めて VA ECMO導⼊し救命に成功

    1979年 Zapolら 多施設RCT(VA ECMO)で⽣存率改善⽰せず

    1994年 Morrisら 単施設RCT(ECCO2R)で有効性⽰せず

  • Respiratory ECMO

    2009年 CESAR trialで有効性報告(重度の機能障害のない6カ⽉⽣存率 63% vs 47% p=0.03)

    2009年〜 H1N1インフルエンザのパンデミックに対する有効性の報告相次ぐ

  • 重症ARDS患者早期ECMO導⼊は標準治療群と⽐較して60⽇死亡率の有意な低下を認めなかった

    EOLIA trial

  • EOLIA trialのデータベイズ統計を⽤い事後解析-RR(relatively risk)

  • VV ECMOの導⼊基準①ELSO GL(⼀部抜粋)

    低酸素⾎症死亡率が50%以上で考慮、80%以上の時には導⼊すべきA.  50%の死亡率:FiO2が0.9以上でPaO2/FiO230cmH2Oの設定で行っている免疫抑制状態(Neu≦400/mm3) 頭蓋内出血の既往が最近ある、あるいは出血が拡大している

  • VV ECMOの導⼊基準②NEJM 2011;365:1905-1914

    重度な低酸素⾎症High PEEP(15-20cmH2O)下でもP/F30cmH2O >7days FIO2 >0.8    >7days ⾎管アクセスが限られているECMOの治療メリットが制限される(脳損傷や転移癌)

    相対的禁忌

    絶対禁忌:抗凝固療法ができない

  • ECMOによる肺保護

    MVにおいてプラトー圧(Pplat)を減らせる/呼吸数を減らせる  VILIを最⼩限に抑えることができる

    重症例でMV(mechanical ventilation)サポートを下げる難治例でのrescue therapy を⽬的として使⽤されてきた

  • alveolar strainの制限

    atelectraumaの制限

    reabsorption atelectasisの制限

    overdistensionを避ける

    Lung restultraprotective ventilation (VT10cmH2O)

    FiO2を下げる適切なPEEPを保つ

    経肺圧モニタリング

    CritCare2014;18:203

    ⽬的 ⼿段

  • ECMO中の呼吸器設定

    Med Intensiva 2017;41:491-496

    mode Pplat PEEP RF FiO2 ELSO guides 2017 -

  • 背景のまとめ

    ARDS患者での⼈⼯呼吸器管理では肺保護換気戦略がとられている

    これまでECMO導⼊後の⼈⼯呼吸器管理についてはあまり注⽬されてこなかった

    ECMO導⼊前後の⼈⼯呼吸器設定や補助療法の併⽤については限られた後ろ向き研究の報告しかない

  • 本日の論文

    Am J Respir Crit Care Med 2019;200(8):1002-1012

       ~LIFEGARDS study~ ventiLation management oF patients with Extracorporeal membrane oxygenation for Acute Respiratory Distress Syndrome

  • P ECMO管理された重症ARDS患者I ECMO導⼊前後の⼈⼯呼吸器管理や

    補助療法の情報を収集C - O 6カ⽉後死亡率

    ECMO関連合併症についても調査

    PICO

  • Study design

    10か国、23施設 前向きコホート研究前年度のECMO導⼊例が>15例(medium~high volume)の施設に参加を呼びかけ2014.9~2016.1までの期間内のうち各々の施設で1年間の組み⼊れ時期を設定

  • Pa#ent

    ARDSに対しECMOを導⼊された15歳以上の患者

    Exclusion: -他の施設でECMO導⼊され来院までに48時間以上 経過している場合-終末期の慢性呼吸不全の患者-同意が得られなかった患者

  • 収集データ①年齢性別⼊院⽇、ICU⼊室⽇Immunodeficiencyの原因(あれば)ARDSのリスクファクターECMO導⼊前-併⽤療法(筋弛緩、NO、腹臥位)-⼈⼯呼吸器が始まった⽇-呼吸器設定(モード、PEEP、FiO2、呼吸数、VT、Pplat、Ppeak)-動脈⾎液ガス・採⾎検査の推移

    APACHⅡスコアSOFAスコアRESP(Respiratory Extracorporeal Membrane Oxygenation Survival Prediction)スコアPRESERVE(Predicting dEath for Severe ARDS on VV-ECMO)スコア

  • RESP score

    ELSO registry(2000-2012) ECMO導⼊された重症ARDS患者 2355⼈

    ECMO導⼊前のデータを多変量ロジスティクス解析独⽴して⽣存退院に関連していた項⽬を検索スコアリング化しECMO導⼊前に⽣存率を予測するツールを作成

    Am J Respir Crit Care Med 2014;189:1374-82

  • 年齢免疫抑制状態⼈⼯呼吸器管理の時間原因疾患中枢神経障害肺以外の急性感染症筋弛緩薬or NOの使⽤重炭酸の使⽤⼼肺停⽌PaCO2 PIP(Peak inspiratory pressure) 11項⽬、-22~15点

  • PRESERVE score

    フランスの3つのICU(2008-2012) ARDSでECMO導⼊された患者140⼈多変量ロジスティクス解析により6カ⽉死亡率に関連したECMO導⼊前の因⼦を検索スコアリング化し死亡率を予測

    Intensive Care Med 2013;39:1704-13

  • 年齢BMI 免疫抑制状態腹臥位療法⼈⼯呼吸器管理の⽇数SOFA Pplat、PEEP 8項⽬、0-14点

  • ECMO導⼊後(Day1-28)、離脱から24h後の-MV setting -ABG -輸液バランス-補助療法-ECMO設定-ECMO関連合併症

    ⼈⼯呼吸器からの離脱⽇ICU退室時、病院退院時、ICU⼊室後6Mのvital status

    全てのデータは可能な限り同じ時間(10am、6pm)に収集

    収集データ②

  • Statistical Analyses① 連続性変数の⽐較にpaired Student t testとWilcoxon 順位和検定を⽤いた

    カテゴリー変数の⽐較にχ⼆乗テストまたはFisher exact testを⽤いた

    先⾏研究から6M死亡率との関連が⽰唆され、p≦0.20で死亡率に関連しそうな因⼦で多重ロジスティクス回帰分析を施⾏した 6M死亡率に関連する要素を決定するために時間依存性共変数のCox分析を施⾏

  • Statistical Analyses②

    Sensitivity analysisはPre ECMOとECMO開始2⽇間の⽋損値に対し多重代⼊法で補完したのちに施⾏

    結果は95% CIで⽰し、統計分析はR 3.2.3で施⾏最低300⼈の組み⼊れを計画 medium~high volume施設が年平均で最低15例以上のVV ECMO症例があると想定し最低20施設の組み⼊れを計画6M死亡率は40%と推定

  • Results

  • 予後評価の対象 215⼈

    23施設(10ヶ国)が参加

    対象患者 350⼈

    66%がICUを⽣存退室

  • ECMOセンターの特徴

    年間の平均症例は30例(20-52) Respiratory ECMOは12例(9-27)

  • Age 47±17 APACHEⅡ 24±11 ARDSの原因で多いのは肺炎(細菌性>ウイルス性>誤嚥)Severe ARDS 93% ECMO導⼊まで平均2⽇

    患者背景、ECMO導⼊前の条件

    FiO2 100 PEEP 12 △P 20 Ppeak 32 VT 6.4 (ml/kgIBW)

    pH 7.24 PaCO2 68 SaO2 89 Lac 3 P/F71

  • ECMO weaning 74%ICUを⽣存退室 66% ICU滞在 24⽇(14〜39)6ヶ⽉⽣存率 61%

    全体でのoutcome

  • 40% 69% 71%

    ECMO導⼊前後

    ECMO前 ECMO後

  • ECMO前 ECMO後

    Mechanicalpower26.1±12.7 6.6±4.8

    Drivingpressure(△P)20±7 14±4

  • VT

    RR

    PEEP12±4

    26±8

    6.4 3.7ml/kg

    14±6/min

    11±3cmH2O

    Figure E3

  • VT≦4ml/kg

    8%65%

    △P≦15cmH2O

    34%68%

    Figure2

  • △P≦15cmH2O、TV ≦4ml/kg 45%で達成

    Fig2

    MechanicalPower≦ 17J/kg全体の96%で達成

    △P≦15cmH2O、TV ≦6ml/kg 61%

  • Age、APACHEⅡ、免疫不全は有意差

    6ヶ⽉後の予後でみた患者条件

  • Table1続き

    ⽣存者の⽅がHigh PEEP、RR↓、Cst↑、Vd/Vt↓

  • Table1続き

    ECMO導⼊前の補助療法(有意差なし)筋弛緩:62%、リクルートメント⼿技:37% 腹臥位:26% ⽣存者の⽅が⼈⼯呼吸器管理開始からECMO導⼊までの期間が短い

  • ⽣存者の⽅が -輸液負荷が少ない -ECMO導⼊後の⾃発呼吸数↓

  • Table2続き

    ⽣存者の⽅が -乳酸値が低い -RRTを施⾏していない

  • ECMO中の補助療法(⽣存率に有意差なし) 筋弛緩:51%腹臥位:15%

  • Table3続き

    ECMO中の有害事象は⾮⽣存群で多かった

  • 死亡率を予測するための多変量解析で呼吸器設定に関する因⼦はなし

    ロジスティクス回帰分析

  • 死亡率に関連していたのは年齢、輸液バランス、乳酸値、 RRT、VT低下、△P上昇

    Cox分析

  • Discussion

  • Main findings ECMO前の筋弛緩(62%)と腹臥位(26%)の割合が低かった△P≦15cmH2Oのultra-protective ventilationは広く受け⼊れられていたECMO導⼊後2⽇間の⼈⼯呼吸器の設定と⽣存率に関連はなかったECMO中のVT増加と△P低下は6ヶ⽉後の死亡率改善に関連していた

  • ECMO前の腹臥位と筋弛緩 ARDSへの⼤規模な前向きコホート研究 (LUNG SAFE study)

    重症ARDS患者でECMO導⼊された患者は6.6%  腹臥位施⾏は16%        JAMA 2016;315:788-800 重症例 93%であった本研究で補助療法の施⾏率が低かったのは予想外で、ECMOの経験豊富な施設のみを組み⼊れたため治療適応にバイアスがあった可能性

    挿管からECMO導⼊までの⽇数が遅れるほど6M死亡率が悪化 OR 1.11(95%CI 1.05-1.18 p

  • 年齢、挿管からECMO導⼊までの遅れが予後不良に関与していたことはこれまでの研究と同様               Intensive Care Med 2013;39:1704-13                 Am J Respir Crit Care Med 2014;189:1374-82

    ECMO導⼊のタイミングについてはRCTが望まれるが早期のECMO戦略が有効である可能性が⽰されている  NEJM 2018;378:1965-1975                   JAMA 2018;320:2251-2259

    初回もしくは2回⽬の腹臥位への著効がない場合はVV-ECMOの導⼊を急いだ⽅がいいかもしれない

  • ultra-protective ventilation

    ELCO登録施設へのサーベイランスでVV-ECMO中の⼈⼯呼吸器管理の第⼀の⽬標としてlung restと回答した施設が77%     Ann Am Thorac Soc 2014;11:956-61

    今回の結果(VT≦6ml/kg、△P≦15cmH2O達成が61%)は参加施設でlung rest戦略が広く受け⼊れられていることを裏付けるもの

    多くの患者でpressure-controlled ventilationが⾏われたのは△Pを厳格にコントロールしたいという意図であった可能性がある

  • 6ヶ⽉後の死亡率への関連因⼦ フランスでのH1N1関連ARDSのECMO報告(N=123 死亡率34%) ECMO導⼊初⽇ △P(cmH2O) ⽣存群 13 vs 死亡群16 (p=0.03) 多変量解析でICU死亡率の関連因⼦であったPplat⾼値とも相関     Am J Respir Crit Care Med 2013;187:276-85

    今回の研究ではECMO導⼊2⽇間の⼈⼯呼吸器設定と関連は認めなかった 組み⼊れられた経験豊富なECMOセンターで⽐較的 均⼀なultra-protective ventilation戦略がとられたこ とで説明可能かもしれない

  • 6ヶ⽉後の死亡率への関連因⼦

    治療経過でのVT増加と△Pの低下はCox分析での⽣存率改善と関連していると⽰されたが、⼈⼯呼吸器設定によるものよりコンプライアンス改善に伴う変化を反映している可能性が⾼い

    乳酸⾼値、輸液過剰、頻回のRRTは全てCox分析で予後不良因⼦であることが⽰され、肺以外の臓器不全が予後に与えた影響は⼤きいと推察される

  • limitation

    medium〜high volume ECMOセンターに限定したため患者のセレクションに偏りがある可能性がある

    データの収集時間を事前に決めていたために24h以内の急な変化は収集できていなかった可能性がある

    多くの変数が集められ、多くの⽐較が施⾏されたためtypeⅠのエラーが⽣じた可能性はある

  • Conclusion

    ECMO導⼊前の腹臥位療法の使⽤が少ないECMO後のultra-protective lung ventilationは広く受け⼊れられていた

    ECMO中の呼吸器戦略は予後に影響を与えなかった

    near-apneic ventilationのような更に⼈⼯呼吸器の設定を下げる戦略やECMO管理中の積極的な腹臥位療法など更なる研究が望まれる

  • 私⾒

  • Cohort studyでありエビデンスレベルとしては低い ECMOセンターでの実際の⼈⼯呼吸器管理について知⾒が得られた

    肺保護戦略としてMechanical power

  • 理想的なECMO中の呼吸器設定は?Conventional lung rest がまずすべきこと outcomeの改善は⽰されなかったが、VILIを防ぐためのlung restとして(GLや施設間の差はあるものの)現在の主流(ΔP