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riyonenpou2012 - rirc.osaka-u.ac.jp · ラジカルによる固体高分子形燃料電池電解質膜の劣化機構に関する研究・・・・ ・・・7 西嶋茂宏・ 秋山庸子・渡邉

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ま え が き

大阪大学ラジオアイソトープ総合センターの 2012 年度利用年報をお届けします。

この年報は 2012 年 4 月から 2013 年 3 月までの1年間、センターを利用して行な

われた研究の成果を記したものです。吹田本館利用 27 件のうち 17 件の報告、豊

中分館利用 13 件のうち 13 件の報告から成っています。ここに収録されている当

センターを利用した研究が、さらに発展することを願うものであります。

大阪大学には 2013 年 4 月現在で 18 の放射性同位元素等使用施設があり、合計

5,300 名程度の放射線業務従事者が利用しています。当センターの役割の一つは、

学内の放射線等使用施設の安全管理と放射線業務従事者に対する教育訓練の実施

であります。また、当センターには各種の放射線実験設備と装置を整備し、各部

局の共同利用に供することによって放射線関連の研究を推進するという使命もあ

り、本年報に記載されているように、当センターを利用して最先端の基礎および

応用研究が行われています。2010 年度から3期連続して学内の競争的資金である

教育研究等重点推進経費が採択されるなどセンター利用の利便性向上のために努

力しておりますので、今後より多くの共同利用の申請があることを期待しており

ます。

大阪大学は「地域に生き世界に伸びる」をモットーに教育・研究に取り組み、

常に発展し続ける大学を目指しています。当センターも学内共同教育研究施設と

して研究の推進に寄与することにより大学の発展を支えられるよう、施設を充実

させ円滑な運営を図ってまいりますので、皆様方のご協力をお願いいたします。

2013年 4月

大阪大学ラジオアイソトープ総合センター

センター長 岩 井 成 憲

目 次

まえがき・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・i

岩井成憲

小動物用 P E T / M R I一体型撮像装置および小動物用半導体 P E Tの開発・・・・・・・1

畑澤 順

チェルノブイリ放射能汚染地域の生物における生理的・遺伝的蓄積影響のシミュレーショ

ン実験・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

中島裕夫・斎藤 直・本行忠志・藤原智子・岡 幸子・藤堂 剛

心臓における転写因子Runx2の過剰発現は心不全を惹起する・・・・・・・・・・・・・4

中山博之・山下朋美・松尾玲雄・藤尾 慈

植物・土壌の放射性セシウム移行に関する研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

飯田敏行・佐藤文信・池田祐希・崎山朝喜

ラジカルによる固体高分子形燃料電池電解質膜の劣化機構に関する研究・・・・・・・7

西嶋茂宏・秋山庸子・渡邉 岳・仲田有希・誉田義英

L a添加 P b T i O 3中 の構 造 空孔 ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・ ・・9

荒木秀樹・水野正隆

極 限 環 境 微 生 物 由 来 酵 素 の 活 性 測 定 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 1

ヌェン トリ ニャン・金谷栄子・古賀雄一・金谷茂則

無細胞蛋白質合成系システム(PURE system)を用いた翻訳反応の解析・・・・・・・12

曽 我 遥 ・ 内 山 智 也 ・ 太 田 直 樹 ・ 植 田 淳 子 ・ 松 浦 友 亮

植物におけるイソプレノイド生合成フローの増強に向けた代謝工学・・・・・・・・・13

村中俊哉・關 光・小林啓子

工 学 研 究 科 R I 実 験 室 排 水 の γ 線 測 定 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 4

吉岡潤子

Saccharomyces cerevis iaeのα -グルコシドトランスポーターの諸性質に関する研究・16

畠中治代・小野比佐好・馬場健史・福崎英一郎

-ⅲ-

人 工 細 胞 モ デ ル に お け る ゲ ノ ム サ イ ズ の 影 響 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 7

市橋伯一・イン ベイウェン・四方哲也

S t r e p t o c o c c u s m u t a n s情 報 伝 達 タ ン パ ク 質 Vi cK変 異 導 入 に よ る 機 能 解 析 ・ ・ ・ 1 8

岡 島 俊 英 ・ 岩 井 彩 乃

糖 鎖 修 飾 関 連 酵 素 の 活 性 測 定 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 9

藤山和仁・三崎 亮・大橋貴生・梶浦裕之・鈴木伸昭

放 射 性 金 属 錯 体 の 新 規 合 成 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 0

吉村 崇・森本正太郎・山口喜朗

環境放射能測定に関する基礎的検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22

山口喜朗・吉村 崇・柿谷俊輔・張 子見・二宮和彦・高橋成人

篠原 厚

二重ベータ核分光法による中性微子質量および右巻き相互作用の検証・・・・・・・・23

岸本忠史・阪口篤志・吉田 斉・鈴木耕拓・伊藤 豪・角畑秀一

王 偉・武本淳也・W.M.Chan・土井原正明・曾山俊也・中川真奈美

大植健一郎・谷口良徳・盛田義弥・梅原さおり・松岡健次・市村晃一

核医学利用および環境動態追跡のためのRIの製造と分析・・・・・・・・・・・・・・25

篠原 厚・高橋成人・笠松良崇・二宮和彦・小森有希子・稲垣 誠

江口 舞・木野愛子・城山辰己・藤原一哉・張 子見・豊村恵悟

中村宏平・吉田 剛・安田勇輝・林 良彦・清家 萌・森本佳祐

柿谷俊輔・吉村 崇・池田隼人

重核・重元素の核化学的研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27

篠原 厚・高橋成人・吉村 崇・笠松良崇・二宮和彦・小森有希子

稲垣 誠・藤原一哉・横北卓也・江口 舞・木野愛子・城山辰己

張 子見・中村宏平・豊村恵悟・吉田 剛・安田勇輝・林 良彦

清家 萌・森本佳祐・柿谷俊輔

-ⅳ-

ファージ増殖を抑制する宿主因子の解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・29

大塚裕一・齐 丹・仲 健太・アラウネ アブドゥルラヒーム

安居良太・鷲崎彩夏・米崎哲朗

植物細胞機能の解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31

酒井友希・坂本勇貴・高木慎吾

環境中の放射性物質の動的挙動に関する基礎的検討・・・・・・・・・・・・・・・32

福本敬夫・塚原 聡・斎藤 直

洗浄剤を用いた放射性物質汚染土壌の除染技術の開発・・・・・・・・・・・・・・33

野口祐樹・加藤栄一・木田敏之・清水喜久雄・明石 満

損傷DNAの分子認識に関する研究 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35

倉岡 功・山元淳平・栂 達也・高畑千晶・小山智子・亀谷有希子

渋谷敏博・橋本佳和・渡邉 駿・岩井成憲

イオンビーム及びガンマ線による突然変異誘発の解析・・・・・・・・・・・・37

松尾陽一郎・泉 佳伸・清水喜久雄

医学部学生 RI機能系実習・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38

本行忠志・中島裕夫・藤原智子・藤堂 剛

理学部化学系放射化学学生実習・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39

篠原 厚・高橋成人・笠松良崇・二宮和彦

小森有希子・横北卓也・木野愛子・城山辰己・3年次学生83名

理学部物理学実験“放射線測定”・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40

福田光順・三原基嗣・清水 俊・上庄康斗・森田祐介・矢口雅貴

基礎工学部電子物理科学科物性物理科学コース3年次物性実験:放射線測定・・・・・41

美田佳三・3年次学生54名

平成24年度共同利用一覧・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・42

-ⅴ-

小動物用PET/MRI一体型撮像装置および小動物用半導体PETの開発

Development of integrated positron emission tomography/magnetic resonance imaging

system and Si-PM based high resolution PET system for small animals.

( 医学系研究科) 畑澤順

(Graduate School of Medicine) Jun Hatazawa

マウス専用の小動物用PET/MRI一体型撮像装置および小動物用半導体PETを開発し、性能評価および小動物での有

用性を検証するための実験を行った。今年度は、MR部分の高磁場化に取り組み、MRI部分は1.5T永久磁石( 静磁場

用)を導入した。1.5Tの静磁場強度における作動を最適化するために、送受信用RFコイル、撮像コンソール、小動

物用ベッドの改良を行った。従来型PET部分は、MR部分の高磁場化に伴い、位置有感型2層LGSOシンチレータ、光フ

ァイバー、磁場外に設置した光電子増倍管、電子回路、撮像コンソールの改良を行った。

磁場の影響を受けない信号増幅を目指してSi半導体を利用した高分解能PET装置を開発し、1.5T MR装置の静磁

場内での撮像を行った。1.5T MRと組み合わせることが可能であることを確認した。

小動物において、生体内の酸素代謝を測定することは極めて困難であった。小動物用PET装置を用いて、長時間

麻酔、人工呼吸器による呼吸維持、体温・血圧・脈拍保持のもとで撮像するシステムを構築した。15Oガスの供給

は医学系研究科PET分子イメージングセンターのみ可能なので、この技術を移転し、脳血流量、酸素消費量を定量

的に測定した。

発表論文

1. “Quantitative Evaluation of Cerebral Blood Flow and Oxygen Metabolism in Normal Anesthetized Rats: 15O-Labeled Gas Inhalation

PET with MRI Fusion”

Watabe T, Shimosegawa E, Watabe H, Kanai Y, Hanaoka K, Ueguchi T, Isohashi K, Kato H, Tatsumi M, Hatazawa J,

J Nucl Med . Feb , 54(2) , 283-90 (2013).

2. “Performance comparison of high quantum efficiency and normal quantum efficiency photomultiplier tubes and position sensitive

photomultiplier tubes for high resolution PET and SPECT detectors”

Yamamoto S, Watabe H, Kato K, Hatazawa J , Med Phys . Nov , 39(11) , 6900-7 (2012).

3. “Development of a flexible optical fiber based high resolution integrated PET∕MRI system.”

Yamamoto S, Watabe H, Kanai Y, Watabe T, Aoki M, Sugiyama E, Kato K, Hatazawa J,Med Phys. Nov , 39(11) , 6660-71 (2012).

4. “Development of a pixelated GSO gamma camera system with tungsten parallel hole collimator for single photon imaging”

Yamamoto S, Watabe H, Kanai Y, Shimosegawa E, Hatazawa J , Med Phys. Feb , 39(2) , 581(2012).

5. “Simultaneous imaging using Si-PM-based PET and MRI for development of an integrated PET/MRI system.”

Yamamoto S, Watabe T, Watabe H, Aoki M, Sugiyama E, Imaizumi M, Kanai Y, Shimosegawa E, Hatazawa J , Phys Med Biol. Jan 21 ,

57(2) , N1-13 (2012).

6. “Development of a high-sensitivity BGO well counter for small animal PET studies”

Yamamoto S, Watabe H, Kanai Y, Watabe T, Imaizumi M, Shimosegawa E, Hatazawa J, Radiol Phys Technol. Jan , 5(1), 59-62 (2012).

チェルノブイリ放射能汚染地域の生物における 生理的・遺伝的蓄積影響のシミュレーション実験

Chernobyl simulation experiment of physiologic, hereditary influence in mice. (医学系研究科 1、安全衛生管理部 2)中島裕夫 1、斎藤直 2、本行忠志 1、藤原智子 1、岡幸子 1、藤堂 剛 1、

(Dept. Radiation. Biol., Graduate School of Med.1, Dept. for the Administration of Safety and Hygiene 2)

H. Nakajima1, T. Saito2, T. Hongyo1, T. Fujiwara1, S. Oka1, T. Todo1

【目 的】

チェルノブイリ原発事故以来、低レベル放射能汚染地域に生活するヒトへの遺伝的影響が懸念されているが、

ヒトにおいて経世代的影響が現れるには数世代の世代交代が必要であり、結果が明らかになるまでには百年以上

の時間経過が必要である。そこで、世代交代の速いマウスに着目して、低レベル放射能汚染環境下で世代交代を

重ねた野生マウスにおいて遺伝的影響の蓄積があるかどうかを検討することを考えた。しかし、チェルノブイリ

汚染地区では、汚染濃度の異なるところが斑状に存在しているために、それぞれのマウスの生涯被ばく線量の算

定が困難なこと、また、放射能汚染のみならず、工業化、経済の低迷などの要因で化学物質などの環境汚染も進

んでおり、現地野生マウスでの研究では、厳密な放射線影響のみを抽出することが困難であると考えられた。

本研究では、RI 施設内で近交系マウスに放射能汚染地マウスの体内と同レベルになるように 137Cs を長期間経

口的に摂取させることでチェルノブイリ放射能汚染環境を実験室内で再現し、その被ばくによる遺伝的影響、生

理的影響の検出を数世代にわたって試みる。そして、その結果をヒトにおける継世代的影響の短期的シミュレー

ション実験として外挿できるかを検討することが目的である。

また、奇しくも本研究開始 5 年後の東日本大震災で引き起こされた福島第一原発事故により低線量放射線被曝

の継世代的影響が危惧されることとなり、本研究結果をその予測にも資することを目的とする。

【実験方法と結果】

我々が 2007 年より開始した、チェルノブイリ放射能汚染地域棲息マウスの低線量、低線量率長期内部被曝再現

実験において、RI 施設内で 137CsCl 水(100Bq/ml)自由摂取群と通常飼育の対照群の双方とも 13 代以上の世代交

代をさせることに成功した。現在までに、初期世代の 8 ヶ月間 137Cs 水給水によるマウス肝臓細胞 γ-H2AX フォ

ーカス形成の定量による DNA 二本鎖切断への影響、小核試験、環境複合影響を鑑みたウレタン誘発による肺腫

瘍発生率と増殖速度の定量の結果を報告してきたが、今年度は、同腹子から開始した第 10 世代目における 137Cs

水給水群と対照群マウスのウレタン投与後4ヶ月と8ヵ月後の肺腫瘍発生率、増殖速度の比較実験を行うととも

に、137Cs 水給水群第 5 世代目(F5)、第 11 世代目(F11)、対照群第 11 世代目(F11)の肝組織の遺伝子解析とメタ

ボローム解析を開始した。

現在までの遺伝子解析は、137Cs 水給水群(F5、F11)、対照群(F11)の Wwox(第 8 番染色体)の任意 3 か所で

それぞれ 500bp ずつ、Fhit(第 14 番染色体) の任意 3 か所でそれぞれ 500bp ずつ、Uty(Y 染色体)、Zfy-1(Y 染

色体)、Zfy-2(Y 染色体)、mt-Rnr1(ミトコンドリア、) mt-Ts1(ミトコンドリア)、 mt-Ts2(ミトコンドリア)

の任意の場所 500bp ずつを PCR にて増幅、精製後、Dye Terminator 法のより DNA シーケンスを行い、解析ソフ

ト SEQUENCHER(Gene Code 社)にて、アセンブルし参照配列と比較してイントロン(ミトコンドリア遺伝子

ではエクソン)内の多型検出を行った。合計 6000bp 塩基の解析結果では、Uty ならびに Wwox 遺伝子においてリ

ファレンス(NCBI:C57BL/6J 系統マウス)との相違は認められたが、給水群(F5と F11)と対照群(F11)の群間

では、塩基の違いは認められなかった。なお、リファレンスとの相違は、本実験のマウス系統がリファレンス系

統の C57BL/6J ではなく A/J によるための系統差であると考えられた。今後、解析塩基数を順次増す予定である。

メタボローム解析においては、137Cs 水給水群で糖代謝、酸化的ストレスの上昇を示唆する結果が得られている。

検出ピークの階層的クラスタリングによる HeatMap 糖代謝経路図の一部 左上より下に G6P, F6P, F1,6P

グラフ 左より対照、F5, F11

現在は、それぞれの解析の続きを行うとともに、肺腫瘍発生率、増殖速度の比較検討を行うためにウレタン投

与後4ヶ月と8ヵ月後にホルマリン固定したマウス肺組織に発生している肺腫瘍(マウスあたり平均 40~50 個発

生)の各々の長径、短径を計測中である。

【発表論文】

1. “A Molecular Clock Regulates Angiopoietin-Like Protein 2 Expression” T. Kadomatsu, S. Uragami, M. Akashi, Y.

Tsuchiya, H. Nakajima, Y. Nakashima, M. Endo, K. Miyata, K. Terada, T. Todo, Koichi Node, Yuichi Oike. PLOS ONE, Vol. 8,

Issue 2, e57921 ( 2013).

2. 「葉の放射能画像解析から何が読取れるか」、中島裕夫、藤原 守、谷畑勇夫、現代化学 (Chemistry Today), 490

(Jan.1), 34-37 ( 2012).

【口頭発表】

1. “Prevention of Cancer and Radiation Induced Disorders by Active Hexose Correlated Compound, AHCC in Mice and Humans”

T. Nomura, R. Kikuya, S.Adachi, H. Ryo, E. Hatanaka, M. Kaji, K. Yasuda, H. Nakajima, T. Hongyo, D. K.Parida,K.Wakame, 第

20回総合医療機能性食品国際会議(ICNIM)(北海道 2012 年 7月 21日).

2.「アスコルビン酸およびAHCCによる放射線繊維化の抑制」

本行忠志、中島裕夫、日本放射線影響学会第 55回大会 要旨集、pp154、(仙台、2012.9.6~9.8、9.7).

3. “Ascorbic acid and AHCC suppress fibrosis of lung and kidney caused by irradiation”

T. Hongyo, H. Nakajima, 39th Annual Meeting of the European Radiation Research Society. pp238 , Vietri sul Mare, Italy, 15-19,

Oct, (2012).

対照 F5 F11

←増加

←減少

心臓における転写因子Runx2の過剰発現は心不全を惹起する Cardiac-specific overexpression of Runx2 mediates cardiac hypertrophy and dysfunction in mice.

薬学研究科: 中山 博之・山下 朋美・松尾 玲雄・藤尾 慈

Graduate School of Pharmaceutical Sciences:

Hiroyuki Nakayama, Tomomi Yamashita, Reo Matsuo and Yasushi Fujio.

慢性心不全や心筋梗塞に代表される心血管疾患は、先進諸国において死亡原因の第一位を占める。中でも、

心筋梗塞後に発症する慢性心不全は、梗塞後リモデリングと呼ばれる左心室内腔の拡大を伴い、予後が極め

て不良である。慢性心不全は、近年の治療の進歩にもかかわらず、依然として5年生存率が50%の予後不良の

疾患であり新規の薬物療法の開発が望まれる。我々は、慢性心不全の死亡率低下に最も有効な薬物の一つで

あるβ遮断薬の、予後の改善に関連する遺伝子を同定する事を目的に多数の遺伝子多型を解析した。その結

果、骨性サイトカインのひとつであるオステオポンチン(OPN)のプロモーターの-156位G挿入型多型の有無が、

予後と強く相関する事を明らかにした。OPNの遺伝子発現は、Runx2と呼ばれる転写因子により制御されてい

るが、この-156G挿入型の遺伝子多型はグアニン塩基の挿入によりRunx2の結合部位が新たに形成されOPNの

転写活性を亢進させる。以上より心不全症例の病態進行におけるOPNと転写因子Runx2の役割をの解明が必要

であると考え、心筋特異的Runx2過剰発現マウス及び欠損マウスの作製を試みた。Runx2遺伝子欠損マウスの

遺伝子型をラジオアイソトープを用いてサザンブロットにより解析し、相同組み換えの成功を確認した。

過剰発現においては、αMHC プロモーター制御下に Runx2 ( TypeⅠ) の遺伝子を発現させるTGマウスを作

製し、2 ラインを確立した。TG マウスの心筋において Runx2 が過剰発現されている事をウエスタンブロッ

トによりタンパク質レベルで確認した。生後9週齢において高発現のTGマウスは心肥大を呈し、Runx2過剰発

現により心病態が惹起される事が示された。続いて、生後8週齢の雄性TGマウスの心機能を心エコー法によ

り解析した。その結果コントロール群と比較して、TG群では左室拡張末期径、左室収縮末期径の増加、左室

内径短縮率の低下を認め心拡大と収縮機能の低下が示唆された。以上の結果より心臓においてRunx2の機能亢

進が、心不全を惹起する事が明らかとなった。

口頭発表

“Cardiac-specific overexpression of Runx2 mediates cardiac hypertrophy and dysfunction in mice”

Hiroyuki Nakayama, Tatsuto Hamatani, Shohei Kumagai, Kota Tonegawa, Tomomi Yamashita, Yasushi Fu

ji. American Heart Association, Basic Cardiovascular Sciences. Scientific Sessions 2012. New Orl

eans. USA.

植物・土壌の放射性セシウム移行に関する研究

A Study of Radioactive Cesium Transfer in Soil and Plants

工学研究科電気電子情報工学専攻 飯田敏行、佐藤文信、池田 祐希、崎山 朝喜

Graduate School of Engineering, Division of Electrical, Electronic and Information Engineering,

Toshiyuki Iida, Fuminobu Sato, Yuki Ikeda and Tomoki Sakiyama

福島第1原発事故による環境放射能汚染が問題となっており、2年が経過した現在においても森林や河川など除

染作業が進められていない土地が多く残っている。また、放射性セシウムの土壌、植物移行に関する研究は、森林

などの放射能汚染拡大予測や植物を利用した除染作業法の確立に役立つと期待されている。本報告では、セシウム

の植物移行に関して、イメージングプレート(IP)を用いたベータ放射能測定とエネルギー分散型X線分光法(EDX)

によるCs元素分析を行ったので報告する。

図1は、IPで測定されたハツカダイコンのベータ放射能分布の結果である。ハツカダイコン試料は放射性セシウ

ム134Cs(7kBq/ℓ),137Cs(10kBq/ℓ)を含む液肥を用いて水耕栽培で生長させ、蒔種10日後に採取した。試料は採取直

後に電子レンジで乾燥させて水分を取り除き、IPによってベータ放射能分布を測定した。IPの強度分布は天然カリ

ウム中に存在する40Kからのβ線や植物部位の厚みの差異による影響があるものの、子葉の先端に放射性セシウム

が集まっている事が解る。しかし、蒔種3,4週間後におけるIP測定では、ベータ放射能は植物中の特定の領域に集

まっている様子は確認出来なかった。

図2は、133CsCl水溶液(1g/ ℓ,133Csは天然セシウム)を子葉に滴下し、Cs,K濃度分布をEDXで調べた結果である。

蒔種10日後の子葉表面2か所に1μ ℓづつ滴下し、100分後でほとんど乾燥した。子葉は滴下後100、1000分後に採取し

て水洗いし、EDX分析を行った。葉面よりCsが吸収され、徐々に拡散し、葉の先端に集まっている場合も見られる。

同様にK濃度分布も示しているが、葉の先端部は平均に比べてやや濃度が低く、カリウムのイオン濃度勾配などが

セシウムイオンの拡散に関係するのではないかと考えている。

図1 蒔種 10日後のハツカダイコンのイメージングプレート測定結果の一例

また、発芽より133CsCl含有の液肥を用いた水

耕栽培では、液肥中のCs/K比に対して、植物中

では若干上昇することが示され、Kイオンよりも

Csイオンが移行しやすい傾向にあった。ただし、

土壌栽培ではCsは土壌中に留まるために移行率

は低くなり、Cs/K比も低下した。

また、蒔種3週間後の植物部位ごとのCsとKの

濃度分布を調べると、Kは生長している本葉など

に特徴的に集まっているが、Csは根を除いて、

ほぼ均一な分布を示していた。Kは植物生長に必

須な元素であるのに対して、取り込まれたCsは

植物生長に寄与しないため、特定の領域に集ま

ることはないようである。これらの結果につい

ては、葉面吸収の実験結果と合わせて考察を進

めている。

発表論文

1. “A simple method with imaging plates for examination of soil contaminated with radioactive caesium”

N. Zushi, Y. Ikeda, F. Sato, Yushi Kato and Toshiyuki Iida, J. Nucl. Sci. Technol. 49, 663 (2012).

口頭発表

1. 「水耕栽培植物中のセシウム分布測定」

池田祐希、佐藤文信、加藤裕史、飯田敏行、第11回日本放射線安全管理学会学術大会(大阪、2012年12月).

図 2 子葉の葉面に CsCl 滴下し、100,1000 分後の Cs、K 濃度分布

ラジカルによる固体高分子形燃料電池電解質膜の劣化機構に関する研究

Study of Radical-Induced Degradation of Polymer Electrolyte Membrane for Fuel Cell

(大学院工学研究科 環境・エネルギー工学専攻)西嶋茂宏,秋山庸子,渡邉岳,仲田有希

(Graduate School of Engineering) Shigehiro NISHIJIMA,Yoko AKIYAMA,

Gaku WATANABE,Yuki NAKATA

(産業科学研究所)誉田義英

(The Institute of Scientific and Industrial Research) Yoshihide HONDA

現在、燃料電池用電解質膜として主に使用されているのはNafionⓇに代表されるパーフルオロスルホン酸系

電解質膜であるが、この膜は構造中に含むフッ素による環境負荷や、製造コストが高いという問題を抱えて

いる。そこでパーフルオロスルホン酸系電解質膜の代替膜として、炭化水素系電解質膜である SPESK (Sulf

onated Poly(arylene ether sulfone ketone))が開発された。その分子構造を図1に示す。この電解質膜はHiPer F

Cプロジェクトで開発された新しい電解質膜である。

本研究では、電解質膜の劣化要因の中で、運転中に生成することが確認されているラジカルによる劣化に

着目し、それぞれのラジカルによる電解質膜の劣化機構を検討した。試料として、SPESK及びその比較対象

としてNafion-117を用いた。雰囲気制御下でのγ線照射によって、酸化性ラジカルであるOH・と、還元性ラ

ジカルであるH・を生成させ、試料とそれぞれ反応させた。劣化させた電解質膜に対して、プロトン伝導率

測定を行い、各ラジカルによる性能劣化を評価した。その結果を図2と図3にそれぞれ示す。

図1 SPESKの分子構造

図2 SPESKのプロトン伝導率 図3 Nafion-117のプロトン伝導率

水の放射性分解に伴うG値から計算すると、吸収線量が同じである場合のOH・とH・の生成量比は1.7:1

となる。それぞれのラジカルと電解質膜が起こす反応が同じであると仮定すると,同じ吸収線量の場合はO

H・の方が電解質膜をより劣化させると考えられる。しかし、両方の電解質膜において、H・による劣化の方

が顕著であった。またSPESKとNafionを比較すると,SPESKのプロトン伝導率の低下のほうが著しいことが

分かる。このように、SPESKとNafionの間で異なるプロトン伝導率の低下傾向が確認された原因として、そ

れぞれのプロトン伝導メカニズムの違いが挙げられる。

まず,パーフルオロスルホン酸系電解質膜は、側鎖末端のスルホ基によって形成されるクラスター構造に

よるプロトン伝導チャンネルを持つと考えられている。このチャンネル中をオキソニウムイオンやスルホ基

の持つH+が、隣接する水やスルホ基へと移動することで、H+が伝導されていくと考えられている。既往研究

から、Nafionとラジカルの反応は側鎖部分で起こることが明らかになっている。ラジカルと側鎖が反応する

と、側鎖が切断される。しかし、プロトン伝導チャンネルは多くの側鎖が集まって形成されているため、い

くつかの側鎖が流出したとしても、水分を内部に保持したクラスター構造は保たれ、残ったスルホ基とクラ

スター内の水分子によって高いプロトン伝導率が維持されると考えられる。そのため、Nafionは高いラジカ

ル耐性を持っていると推定される。

それに対してSPESKはNafionのように長い側鎖を持っていないため、クラスター構造によるプロトン伝導

チャンネルを形成する可能性は低いと考えられる。SPESKのプロトン伝導は、その分子構造から、親水部の

スルホ基及びその周りの水分子を中心としたプロトンホッピングによるものであると予測される。SPESKは

その構造中に多くのスルホ基を持っていることから、そのプロトン伝導チャンネルはそれらのスルホ基が集

まって形成されると考えられる。従って、スルホ基が流出することによって、プロトン伝導の経路が部分的

に途切れることが考えられる。このような構造では、ラジカルとの反応によるスルホ基の脱離が直接プロト

ン伝導率の低下に繋がるため、Nafionよりもラジカル耐性が低くなったと推察される。

上記の考察を検証するため、陽電子消滅寿命による解析を行った。その結果を表1に示す。Nafionにおい

ては自由体積空孔半径に対応するo-Psの寿命が照射によって減少するのに対し,SPESKにおいては増加して

いる。これは2種の膜における、

親水基近傍の照射による構造変

化の明らかな違いを示すもので

あり、今後引き続き詳細な検討

を行っていく。

表1 SPESKとNafion-117におけるo-Ps消滅寿命とその相対強度

Sample

100kGy 100kGy 1MGy 1MGy(OH・) (H・) (OH・) (H・)

τ3(ns) 1.63 1.69 1.67 2.87 2.85 2.8

I3 (%) 6.60 6.80 7.20 7.96 5.09 4.96

SPESK Nafion117

StatusNot

irradiatedNot

irradiated

La添加PbTiO3中の構造空孔

Positron lifetime study on La-doped PbTiO3

(大学院工学研究科)荒木秀樹、水野正隆

(Graduate school of Engineering) H. Araki and M. Mizuno

はじめに

PbTiO3は、優れた強誘電体であり、反強誘電体 PbZrO3との固溶体 Pb(Zr, Ti)O3として、不揮発性メモリー、

アクチュエータ、センサなどに応用されており、今後も MEMS 分野の様々なデバイスへの応用が期待されている。

Pb(Zr, Ti)O3に La3+を添加すると、電気伝導性、誘電特性などが大きく変化することが報告されており 1)、その原

因は、A サイト(Pb サイト)に空孔が形成されるためではないかと推定されている 2, 3)が、B サイト(Ti サイト)にも

空孔が形成されているとの報告 4-6)もあり、空孔形成挙動について不明な点が多い。そこで、本研究では、La を添

加した PbTiO3の陽電子寿命測定を行い、カチオン空孔の形成サイトについて明らかにしたので報告する。

実験方法

PbO 粉、TiO2 粉、La2O3 粉を秤量し、部分安定化ジルコニア製の乳鉢内でエタノールを加えて混合し、直径

17.2mm のディスクに圧粉した。ディスクは 1323K で 5 時間、大気中で焼鈍を施し、焼結された。陽電子寿命測

定は、22Na 線源を用いて、fast-fast timing coincidence system により室温で行った。

結果および考察

作製した La 添加 PbTiO3試料から得られた陽電子寿命スペクトルには、A サイト(Pb サイト)空孔で消滅したと

考えられる 290ps の陽電子寿命成分だけでなく、それより短い 185ps の陽電子寿命成分も観測された。これは、

B サイト(Ti サイト)空孔で消滅した陽電子の寿命成分であると考えられ 6)、A サイトだけでなく、B サイトにも空

孔が形成されていることが明らかになった。

謝辞 本研究成果は、京都大学大学院工学研究科白井泰治教授との共同研究によるものである。また、本研究の一

部は、研究拠点形成費等補助金「卓越した大学院拠点形成支援補助金」の研究費支援のもとに実施された。ここに

記して謝意を表する。

参考文献

1) F.Kulcsar, J. Amer. Ceram. Soc. 42, 343(1959).

2) R.Gerson and H.Jaffe, J. Phys. Chem. Solids 24, 979(1963).

3) H.Thomann, Z. angew. Phys. 20, 554(1966).

4) D.Hennings and K.H.Haerdtl, Phys. Status Solidi A 3, 465(1970).

5) D.Hennings and G.Rosenstein, Mater. Res. Bull. 7, 1505(1972).

6) R.A.Mackie, A.Pelaiz-Barranco and D.J.Keeble, Phys. Rev. B 82, 024113(2010).

発表論文

1. "Effect of Hydrogen on Vacancy Formation in Sputtered Cu Films Studied by Positron Annihilation S

pectroscopy"

A. Yabuuchi, T. Kihara, D. Kubo, M. Mizuno, H. Araki, T. Onishi and Y. Shirai, Japanese Journal

of Applied Physics, 52, 046501 (2013) .

2. "Structure of La2Ni7 hydride from first-principles calculations"

M. Mizuno, H. Araki and Y. Shirai, Japanese Journal of Alloys and Compounds, (2013) .

3. "Effect of Sn on vacancy formation in LaNi5"

M. Mizuno, H. Araki and Y. Shirai, Solid State Science, (2013) .

他多数

口頭発表

1. 「La添加PbTiO3中の構造空孔」

荒木秀樹、北岡大輔、水野正隆、白井泰治、第49回アイソトープ・放射線研究発表会(東京、2

012年7月).

2. 「NiTiにおけるNi不正位置原子の安定性」

水野正隆、荒木秀樹、白井泰治、日本金属学会2012年秋期(第151回)講演大会(愛媛、2012年9

月).

3. 「NiTiにおけるNi-Ti不正位置原子対の安定性」

水野正隆、荒木秀樹、白井泰治、日本金属学会2013年春期(第152回)講演大会(東京、2013年3

月).

他多数

極限環境微生物由来酵素の活性測定

Enzymatic characterization of enzymes from extremophiles

(工学研究科)ヌエン トリ ニャン、金谷栄子、古賀雄一、金谷茂則

(Fac. of Engineering) Tri-Nhan Nguyen, Eiko Kanaya, Yuichi Koga, and Shigenori Kanaya

通常の生物が生息できないような苛酷な環境下で生息する極限環境生物が生産する酵素は、通常の酵素では機能

し得ないような極限環境下で機能発現していることが多い。このような酵素の極限環境への適応機構は、学術的に

も工学的にも重要であり、様々な極限環境微生物のもつ酵素の極限環境適応機構の研究がなされている。本研究で

は、高温環境のメタゲノムから単離されたLC-9 RNase H を対象として、その酵素学的特性を解析することを目

的とした。

RNase Hは様々な生物種に広く分布する、RNA/DNAハイブリッドのRNA鎖のみを分解するヌクレアーゼである。

LC-9 RNaseHは、枝葉を原料としたコンポストの高温発酵部位由来のメタゲノムからクローニングされたRNaseH

で、アミノ酸配列の解析の結果、RNaseHに特徴的な活性部位の保存モチーフが保存されていないことが明らかと

なった。本酵素がどのような酵素学的特性を持つのか明らかにする目的で基質切断部位の解析を行った。

本酵素の酵素活性測定用の基質として[3H]ATPラベルしたDNA/R

NAハイブリッドを酵素合成した。RNaseHとの反応によって遊離し

た[3H]量を液体シンチレーションカウンターで測定することにより、

基質の分解量定量し酵素活性を測定することができる。さらに、5’

末端をラベルした12bp (5’-c g g a g a u g a c g g-3’)のRNA/

DNAハイブリッドを合成し、37°Cで、15分適切な濃度に希釈した酵

素と反応させた後、7M Urea を含んだ20% Polyacrylamide gelを用

いて反応産物を電気泳動し検出を行った。

この結果、本酵素はpH10で最も強い酵素活性を示した(図1)。

また、MgCl2(黒丸)、とMnCl2 (白丸)に対する濃度依存性を比較

した(図2)。本酵素は大腸菌と同様の金属イオン濃度要求性を示

していることがわかった。

発表論文

1. " Crystal structure of metagenome-derived LC9-RNase H1 with atypical DEDN active site mo

tif'" Tri-Nhan Nguyen, Dong-Ju You, Eiko Kanaya, Yuichi Koga, and Shigenori Kanaya,* FEBS J.

2013 in press

無細胞蛋白質合成系システム(PURE system)を用いた翻訳反応の解析

Analysis of cell-free protein synthesis using the PURE system

(工学研究科)曽我 遥、内山智也、太田直樹、植田淳子、松浦友亮

(Graduate school of Engineering) H. Soga, T. Uchiyama, N. Ohta, A. Uyeda and T. Matsuura

1)自己複製反応の最適化実験手法の確立

複雑な反応を解析するためには、その反応を簡単化するのが 1つの方法である。そのため、自己複製反応の主要

な反応であるタンパク質合成反応の簡単化を行い、従来反応よりも、反応効率を低下させることなく、その構成成

分を 10成分減らすことに成功した。さらに、タンパク質合成反応を構成する 15成分それぞれの濃度を変化させて

定常状態での GFP合成速度を 35S-Met取り込みにより測定した。その結果、3つのグループ、すなわち、濃度変化

がほとんど影響を与えないもの、ミカエリス・メンテン式で表すことができるもの、基質阻害反応様式で表すこと

ができるものに分類されることがわかった。

さらに、15成分のうち、濃度変化がほとんど影響を与えないもの以外の 12成分を用いて、12成分のうちの全て

の2成分の組合せについての相互作用解析を進める目的で、2成分の濃度を同時に変化させた、定常状態での GFP

合成速度を測定した。今後、これをヒル式で fitすることで、2成分間の相互作用の強度を定量し、その結果にあ

わせて、全成分を考慮した数理モデルを構築することで、実験データを予測可能なモデルを確立する予定である。

これにより、自己複製反応の最適化の指針を得ることができる。

2) in vitro 合成膜蛋白質の膜挿入効率の定量化とその応用

機能を保持した状態で膜蛋白質を発現させる有効な手段として、無細胞翻訳系により人工脂質二重膜小胞リポソ

ーム Giant Unilamellar Vesicle (GUV) 内で合成する方法が挙げられる。しかし、膜蛋白質挿入効率や配向性などの

定量的な解析はまだ進められていない。モデル膜蛋白質として大腸菌由来多剤排出トランスポーターである EmrE

を用い、C 末端にプロテアーゼ認識配列を付加し、プロテアーゼ切断の有無により、GUV 内における膜蛋白質の

挿入効率とその配向性を定量することを試みた。EmrE-thrombin 認識配列-Myc-tag が合成されるような遺伝子を構

築し、EmrE-T-Myc を GUV 内で合成、Myc epitope を FCM 及び蛍光顕微鏡により検出し、thrombin 処理により、

濃度依存的に EmrE-T-Myc が切断される事を確認した。35S-Met ラベル、SDS-PAGE 解析により、全合成蛋白質の

約 20% が C 末端側 Myc-tag を GUV 外部に突出させた形で膜に挿入されていることを明らかにした。さらに、膜

から露出している部分全てを切断できる Proteinase K を用いた実験も行い、同様な結果を得ることができた。

発表論文

口頭発表

なし

植物におけるイソプレノイド生合成フローの増強に向けた代謝工学

Metabolic engineering for increasing the metabolic flow of the isoprenoid biosynthesis in plants

(工学研究科)村中俊哉、關 光、小林啓子

(Graduate school of engineering) T. Muranaka, H. Seki and K. Kobayashi

高等植物は、人に有用な様々な二次代謝産物を生合成している。中でもイソプレノイド化合物は、医薬品や健康

食品成分、甘味料、工業素材等に幅広く利用されている。我々は、植物を利用した有用なイソプレノイド化合物増

産を目指して、イソプレノイド生合成の代謝フローの制御について、代謝工学的な解析を行っている。今年度は、

イソプレノイド生合成の鍵酵素について、恒常的に高活性を示す変異酵素を得ることを目的として、in vitro の酵

素活性スクリーニングを開始した。様々な変異を導入した組換え酵素を大腸菌で発現させ、調製した酵素の活性を

14C ラベルされた基質を用いて測定した。その結果、いくつかの高活性酵素の候補を単離することに成功した。

今後はスクリーニングの継続と共に、得られた候補タンパク質についてより詳細な酵素活性変化を調べる予定で

ある。

発表論文

なし

口頭発表

なし

工学研究科RI 実験室排水のγ線測定 Gamma-ray Monitoring of Weast Water from RI (radioisotope) Laboratory in Graduate School of Engineering

(工学研究科)吉岡潤子

(Graduate School of Engineering) J. Yoshioka

1. はじめに

工学研究科 RI 実験室では、平成 15 年度まで非密封の放射性同位元素として主に 59Fe を使用していた。59Fe はβ線

を放出する核種であるので、平成 14 年度まで液体シンチレーションカウンタによる排水中のβ線の計数から 59Fe の放

射能濃度を評価していた。

しかし、59Fe はβ線とともに比較的高いエネルギー(1.099MeV 56.5%、1.292MeV 43.2%)のγ線を放出するので、

より正確に排水中の放射能濃度を評価するためにγ線をカウントすることも必要であると考えた。

そこで、平成 15 年度より、RI センター所有のアロカ社製オートウェルガンマシステム(以下、「γ線計数装置」と

する)を用いて、RI排水中のγ線放出核種放射能濃度の測定を行ってきた。

平成 16 年以降は当 RI 実験室における 59Fe の使用はないが、核燃料(U,Th)を使用していることからあらゆる測定手

段を用いて排水中のモニタリングを行うのが望ましいと考え、平成 24 年度もγ線計数装置で同様の測定を行ったので、

結果を報告する。

2. 測定

試料の調製は、工学研究科 RI 実験室にて行った。貯留槽から取った排水 5cm3 およびバックグラウンドとしての水

道水 5cm3をそのままそれぞれ栄研チューブ 1 号に入れ蓋をしたものを、γ線計数装置にセットし、1 試料(及びバッ

クグラウンド)につき30分測定を行った。

測定条件として、842keV~1517keV のエネルギー範囲にてγ線のカウントを行い、計数効率はいずれも 20%とした。

測定値は、5回測定した平均値を採用した。

3. 結果

排水中の放射能測定結果を、表1及び2に示す。

いずれもバックグラウンドレベルで、科技庁告示(平成 12 年 10 月 23 日)に定められた濃度限度(59Fe; 4.0×10-2

Bq/cm3)を下回っている結果となった。

表1 排水中放射能濃度測定結果(その1)

測定日 H24.5.29

(貯留槽No.1)

H24.5.29

(貯留槽No.2)

H24.5.29

(貯留槽) H24.7.13 H23.7.19

測定エネルギー範囲(keV) 842-1517 842-1517 842-1517 842-1517 842-1517

バックグラウンド計数率(cpm) 57.40 57.40 57.40 58.94 55.04

試料計数値(cpm) 56.60 56.74 57.22 58.87 55.60

正味計数値(cpm) 0 0 0 0 0.56

放射能濃度(Bq/cm3) 0 0 0 0 9.3×10-3

濃度限度に対する割合 0 0 0 0 0.023

表2 排水中放射能濃度測定結果(その2)

測定日 H24.9.20

(貯留槽No.1)

H24.9.20

(貯留槽No.2)

H24.9.20

(貯留槽)

測定エネルギー範囲(keV) 842-1517 842-1517 842-1517

バックグラウンド計数率(cpm) 55.28 55.28 55.28

試料計数値(cpm) 55.68 56.82 55.24

正味計数値(cpm) 0.40 1.54 0

放射能濃度(Bq/cm3) 9.3×10-3 0.026 0

濃度限度に対する割合 0.017 0.064 0

4. 発表論文、口頭発表

なし

Saccharomyces cerevisiaeのα−グルコシドトランスポーターの諸性質に関する研究

Study about characterization of alpha-glucoside transporters in Saccharomyces cerevisiae

(工学研究科)畠中治代、小野比佐好、馬場健史、福崎英一郎

(Grad. Sch. Eng.) H. Hatanaka, H. Ono, T. Bamba, and E. Fukusaki

S.cerevisiae は、マルトースを取り込むトランスポーターとして、MALX1(X=1, 2, 3, 4, 6)を、マルトースとマルト

トリオースの両方を取り込むトランスポーターとして、AGT1 などを持っている。これらの遺伝子はカタボライト

リプレッションを受けるため、グルコースの存在下では発現されない。またこれらのタンパクは細胞膜上に局在し

た後も、グルコース存在下ではすみやかにエンドサイトーシスにより細胞内へ取り込まれ、液胞にて分解される事

(glucose-induced degradation)が知られている。ビールの元となる麦汁は、炭素源として、グルコース、マルトース、

マルトトリオースを含み、主な糖はマルトースである。その発酵では、麦汁中のグルコースが資化された後、マル

トースとマルトトリオースの資化へと、スムーズに移行する事が求められるため、これらのトランスポーターの性

質を知る事は重要である。これまでの研究で、マルトース(α-グルコシド)トランスポーターには glucose-induced

degradation に対する耐性の異なるものがあり、その耐性に影響を及ぼす領域は、Mal61p では、Asp46~Leu50 であ

ることが明らかになっている。マルトースの取り込み形式はプロトンシンポートであり、マルトースと同時にプロ

トンが取り込まれる。トランスポーターの複数の膜貫通領域により構成された基質の通り道には、このプロトンが

通るために、酸性アミノ酸が存在すると考えられる。ヘキソーストランスポーターの立体構造を元に、マルトース

トランスポーターの膜貫通領域を予測し、酸性アミノ酸の有無を調べたところ、Asp161 のみが膜貫通領域のほぼ

中心に存在する酸性アミノ酸であることがわかった。そこで、この Asp161 がマルトーストランスポーターの活性

に必須であるかどうかを確認するため、Asp161 を Ala に置換した変異型マルトーストランスポーター

Mal61p[Ala161]を作製し、その活性を 14C-マルトースを用いて測定した。その結果、Mal61p[Ala161]は、天然型

Mal61p の 5 %程度に取り込み活性が低下した。またα-グルコシドトランスポーター、AGT1 についても同様に考

え、Glu167をAlaに置換したAgt1p[Ala167]を作製した。これについても活性を測定したところ、やはり天然型Agt1p

の 10 %程度まで活性が低下した。従って、Asp161 あるいは Glu167 が、各々Mal61p と Agt1p の活性に重要なアミ

ノ酸であることが明らかになった。glucose-induced degradation に対する耐性の高いトランスポーターを高発現した

酵母は、ある条件下では非常に増殖が遅くなることがある。この原因について、活性のないトランスポーターを発

現した株との比較より、今後調べていく予定である。

発表論文

なし

口頭発表

なし

人工細胞モデルにおけるゲノムサイズの影響

The effect of genome size on the self-replication of an artificial cell model

(情報科学研究科)市橋伯一、イン・ベイウェン、四方哲也

(Information Science and Technology) N. Ichihashi, Bei-Wen Ying, T. Yomo

遺伝情報の複製システムは、生物にとって最も重要な機能のひとつである。この機能を非生物から人工的に構築

することにより、この機能が成立するための十分条件を知ることができる。これまでに我々は、RNA 複製酵素を

コードした人工ゲノム RNA と無細胞翻訳系を用い、人工ゲノム複製システムを構築している。さらにこのシステ

ムを脂質2重膜に封入することにより人工細胞モデルを構築した。しかし、現状でこの人工細胞モデルのゲノムに

は1種類の遺伝子しかコードされていない。この人工細胞モデルがより生命に近づくためには、多くの遺伝子をコ

ードすることで、様々な機能を獲得することが必要である。そこで本研究では、人工ゲノムに新しい遺伝子を導入

しゲノムサイズを大きくすることが、ゲノム複製にどのような影響を与えるのかを検証した。

我々はゲノムサイズの影響をあきらかにするために、同じ機能を持ちながらサイズが大きく異なる遺伝子(β

galactosidase とそのαドメイン)を用いた。αドメインは、galactosidase の C 末端の約 100 アミノ酸からなり、

単独では酵素活性を示さないが、別途精製したωドメイン(N 末端の残りの部分からなる)存在下で galactosidase

活性を発揮する。したがって、反応液中にωドメインを入れておくことにより、サイズが約10倍異なるが同じ機

能を持つゲノムを構築することができる。これらの異なるサイズのゲノムの複製を比較したところ、その複製効率

はサイズに反比例して低下することが分かった。その原因は、ゲノムの拡大に伴い、複製に要する時間が長くなる

ため、そして複製中に停止する可能性が高くなる可能性が考えられる。今後、長いゲノムをもつ人工細胞モデルを

構築するためには、よりプロセッシビティーの高い複製酵素の開発が必要であろう。

発表論文

1. "alpha-complementation in an artificial genome replication system in liposomes."

Nishiyama, K., Ichihashi, N., Matsuura, T., Kazuta, Y. & Yomo, T., Chembiochem 13, 2701-2706 (2012).

Streptococcus mutans情報伝達タンパク質VicKの変異導入による

機能解析

Functional analysis of Streptococcus mutans VicK by site-directed mutagenesis

(産業科学研究所)岡島俊英、岩井彩乃

(ISIR) T. Okajima、 and A. Iwai

二成分情報伝達系(TCS)は、膜結合形センサーヒスチジンキナーゼ(HK)と対応する転写調節因子レスポン

スレギュレーター(RR)から構成される細菌の主要な環境応答‐遺伝子調節機構である。細菌の内膜上に存在す

る HK のセンサードメインが外界からの環境シグナルにより活性化されると、HK の構造変化を通じて細胞内キナ

ーゼドメインが自己リン酸化され、次いで RR へリン酸基が転移する。その結果、活性化した RR が転写因子とし

て働き、環境変化に対応した遺伝子発現を可能にする。また、HK は自分自身および RR の脱リン酸活性も有して

おり、HK と RR のリン酸化レベルを調整している。虫歯の原因菌である Streptococcus mutans では、TCS のひとつ

VicK/VicR(それぞれ HK と RR)が、バイオフィルム形成に関与しており、それによって、S. mutans は歯の表面

に強固に接着することができる。本研究では、VicK において VicR との相互作用に重要と予想される残基に部位特

異的変異導入を行った。得られた変異型 VicK の機能を[γ–32P]ATP を用いて解析することによって、自己リン酸化

能と VicR へのリン酸基転移について、各残基の果たす役割およびそのメカニズムを解明しようとした。

VicK 細胞質内領域は二量体として存在しており、4-helix バンドル構造をもつ二量体化ドメインと、その両側の

ATP 結合ドメインから構成されている。本研究では、VicK の細胞質内領域(残基番号 199-450)に対して、二量

体化ドメインの中心に位置する自己リン酸化部位 His217 周辺残基の 25 ヶ所に変異導入を行い、大腸菌発現系を用

いて変異体を調製した。各変異体の自己リン酸化能を解析するため、[γ–32P]ATP を用いて自己リン酸化アッセイを

行った。その結果、E218A、R220A、D326A、および Q330A 変異体では、自己リン酸化部位 His217 を欠失させた

H217A 変異体と同様に、自己リン酸化能をほとんど示さなかった。自己リン酸化能が低下した変異導入残基は、

二量体化ドメインの His217 近傍(Glu218、Arg220)に加え、ATP 結合ドメイン(Asp326、Gln330)にも位置して

いた。また、Ser225 などの二量体化ドメインの残基を変異させると、自己リン酸化のレベルが増強されることが

判明した。さらに[γ–32P]ATP を用いて、 VicR へのリン酸基転移を調べると、野生型 VicK では 1 分以内の短時間

で VicR へのリン酸基転移が完結し、その後、徐々に脱リン酸反応が起こっていた。自己リン酸化能を有した各変

異体について、VicR へのリン酸基転移を調べると、野生型と同様に全ての変異体でリン酸基転移が迅速に起こっ

ていることがわかった。しかし、T221A や T224A などの変異体では、リン酸基転移が完結した後の脱リン酸反応

がほとんど見られなかった。

これらの結果から、Arg220、Ser225 など二量体化ドメインの自己リン酸化部位 His217 付近に位置する残基は、

自己リン酸化やVicRとの相互作用に重要な役割を果たしていると考えられる。Gln330などHis217から離れたATP

結合ドメインにも自己リン酸化や VicR との相互作用に重要な残基が存在していることも明らかになった。これら

の残基も、VicR との相互作用とリン酸基転移の触媒反応に直接関与するか、あるいはそれらに伴う VicK のコンフ

ォメーション変化に影響しているのかもしれない。

糖鎖修飾関連酵素の活性測定

Analysis of enzyme activities related to glycan modification

(生物工学交際交流センター)藤山和仁、三崎亮、大橋貴生、梶浦裕之、鈴木伸昭

(International Center for Biotechnology) K. Fujiyama, R. Misaki, T. Ohashi, H. Kajiura, N. Suzuki

タンパク質への糖鎖の付加は、タンパク質の分解からの保護、生物学的活性の維持、品質管理など多岐にわたり機

能する重要な翻訳後修飾機構である。しかしながら、糖鎖構造は一定ではなく、また種を超えれば糖鎖修飾に関わ

る酵素の種類も異なる。このように複雑さを極めるタンパク質の糖鎖修飾であるが、すべての糖鎖は小胞体膜状の

ドリコールリン酸上で合成される。この前駆体となるドリコールを合成するには、イソペンテニルピロリン酸(IPP)

を供与体基質に縮合反応を触媒するプレニルトランスフェラーゼの関与が知られている.このプレニルトランスフ

ェラーゼはバクテリアをはじめとする多くの種で遺伝子配列の決定、機能同定が行われているが、植物由来酵素の

機能同定は報告例が少ない。

本研究では植物由来の新規プレニルトランスフェラーゼの機能同定を目指し、その機能解析を行った。まず cDNA

を調製し、プレニルトランスフェラーゼをコードする 5 種類の遺伝子を大腸菌で発現させ組換えタンパク質を調

製した。精製タンパク質と放射能標識した IPP を使用し酵素反応を行い、その反応産物を TLC で分離した。TLC

は Typhoon FLA7000 で解析し生産化合物の同定を行った。

5 種類のうち 3 種類は長鎖のポリプレノールを合成することが明らかとなり、また 2 種類に関しては短鎖のポリプ

レノールを合成することが示唆された。今後さらに詳しい酵素学的諸性質を解析する予定である。

放射性金属錯体の新規合成

Synthesis of New Complexes with Radioactive Metal Ions

(ラジオアイソトープ総合センター,基礎工学研究科 1)吉村 崇、森本正太郎 1、山口喜朗

(Radioisotope Research Center) T. Yoshimura, S. Morimoto, Y. Yamaguchi

ニトリド錯体は金属―ニトリド結合が非常に強い。そのため,ニトリドのトランス位(アキシャル位)の配位子と

金属イオンとの結合は弱く、置換活性である。また条件によって、アキシャル位の配位子が脱離した五配位錯体が

生成することが知られている。我々は、配位数変化による発光の変化や、固体状態の金属錯体上での配位子置換に

よる発光の変化を研究する上で、ニトリド錯体が有効と考えた。本研究では、ニトリドおよびシアニドが配位した

レニウム(V)およびテクネチウム(V)の六配位および五配位錯体の発光を調べた。また、固体状態の五配位錯体と揮

発性有機化合物(VOC)の反応による六配位錯体の生成ならび固体状態の六配位錯体とVOCとの配位子置換反応に

よる発光スペクトル変化について調べた。 【実験】 4 種類の六配位レニウム錯体[ReN(CN)4L]2– (L = MeOH, EtOH, acetone, or MeCN)、1 種類のテク

ネチウム錯体[TcN(CN)4L]2– (L = MeOH)を新たに合成した。また、アキシャル配位子を除去した五配位錯体

[MN(CN)4]2– (M = Re, Tc)も新たに合成した。

【結果と考察】 六配位レニウム(V)およびテクネチウム(V)錯体の発光 六配位レニウム(V)錯体は 296 K、固体

状態で527-548 nm に極大を持つ発光が観測された。また,77 Kにおいて振動構造が発光スペクトルに見られた。

このことによりニトリドレニウム(V)錯体で一般的に観測される dxy ← dπ∗ (dxz, dyz) 遷移に基づく発光と分かっ

た。発光極大値、発光寿命,および発光量子収率は、アキシャル配位子の種類により異なっている。六配位テクネ

チウム(V)錯体では 296 K において [TcN(CN)4(MeOH)]2–で 559 nm に極大を持つ発光が観測された。これらの発

光も dxy ← dπ∗ と帰属した。テクネチウム錯体の発光極大は、同形のレニウム錯体に比べて長波長シフトして

いる。これは、HOMO-LUMO 間のエネルギーギャップがテクネチウムのほうがレニウム比べて小さいためと考

えられる。

五配位レニウム(V)およびテクネチウム(V)錯体の発光 296 Kにおいて五配位レニウム(V)錯体[ReN(CN)4]2–では、

569 nm に極大、720 nm にショルダーをもつ発光が観測された。また、77 K における発光スペクトルには振動構

造が見られず,短波長側の成分が観測されなかった。このように発光スペクトルは六配位錯体と五配位錯体で大き

く異なることが分かった。一方、五配位テクネチウム(V)錯体[TcN(CN)4]2–は、528 nm に発光極大をもち、六配位

テクネチウム(V)錯体とよく似た発光スペクトルを示したことから、発光は dxy ← dπ∗と帰属した。このように、

中心金属イオンが同族同士でもテクネチウムとレニウムでは、発光スペクトルの特徴が異なることが分かった。こ

れは発光励起状態が両錯体同士で異なる可能性を示している。

固体状態における配位子脱離,付加による発光変化 固体状態の五配位レニウム(V)錯体を VOC 蒸気のもとで放置

したところ、それぞれの発光スペクトルは、時間とともに VOC を配位子とする六配位錯体(L = MeOH, EtOH,

acetone, MeCN)のスペクトルに変化した。また、溶媒分子が固体に取り込まれていることを 1H NMR で確認し

た。VOC を配位子とする六配位レニウム錯体(L = MeOH, EtOH, acetone, MeCN)は固体状態で加熱しながら

減圧することで、五配位錯体となるため、この反応は可逆であることが分かった。さらに溶媒分子(MeOH, EtOH,

acetone, MeCN)が配位した六配位レニウム錯体を VOC

蒸気のもとで放置したところ、発光スペクトルは、一部の

錯体を除いて時間とともに VOC を配位子とする六配位レ

ニウム錯体のスペクトルへと変化した。1H NMR により

VOC は、固体に取り込まれ、六配位錯体に配位していた溶

媒分子は、反応完結後では固体中にはほぼ存在しなかった。

このことは、固体状態でアキシャル配位子の置換が起こっ

たことを示唆している。テクネチウム錯体では VOC として

MeOH および acetone を用いた。固体状態の五配位錯体

[TcN(CN)4]2– と MeOH 蒸 気 と の 反 応 で は 、

[TcN(CN)4(MeOH)]2–の発光スペクトルへと変化したこと、減圧することで MeOH が脱離したことから可逆的な

MeOH の結合および解離反応が起きることを確認した。一方、[TcN(CN)4]2–と acetone 蒸気との反応では、反応

が起こらなかった。また、固体状態の六配位錯体[TcN(CN)4(MeOH)]2–と acetone 蒸気の反応では、配位した MeOH

が脱離し、[TcN(CN)4]2–が生成した。これは,テクネチウム錯体では、アキシャル部位に配位子が配位する能力が

レニウム錯体に比べて弱いためと考えられる。

発表論文

1. "Photoluminescence Switching with Changes in the Coordination Number and Coordinating Volatile Organic Compounds in

Tetracyanidonitridorhenium(V) and -technetium(V) Complexes"

H. Ikeda, T. Yoshimura, A. Ito, E. Sakuda, N. Kitamura, T. Takayama, T. Sekine and A. Shinohara, Inorg. Chem., 51, 12065

(2012).

口頭発表

1.”Spectroscopic and Photophysical Properties of Hexarhenium Complex with MLCT Excite State”

T. Yoshimura, S. Ishizaka, T. Kashiwa, A. Ito, E. Sakuda, A. Shinohara, N. Kitamura, IIIrd International Workshop on

Transition Metal Cluster (Benicassim, Spain, September 2012).

2.「サロフェン型配位子をもつウラン(V)錯体の構造変化」

吉村崇、中塚和人、篠原厚、第62回錯体化学討論会(富山、2012年9月).

3. 「シアノ基をもつニトリドレニウム(V)およびテクネチウム(V)錯体の発光特性」

池田隼人、吉村崇、伊藤亮孝、作田絵里、喜多村昇、高山努、関根勉、篠原厚、第24回配位化合物の光化学討論

会(東京、2012年 8月).

M

N

CN

CNNC

NC

M = Tc, Re

in vacuo

L1 vaporM

N

CN

CNNC

NC

M = Tc, Re

L1

Re

N

CN

CNNC

NC L1 vaporRe

N

CN

CNNC

NCL2L1

L2 vapor

Scheme 1.

環境放射能測定に関する基礎的検討

Studies on Environmenta l Radioact iv ity Monitoring

(ラジオアイソトープ総合センター) 山口喜朗、吉村 崇

(Rad io i so top e Res . Cen te r) Y. Yamagu chi , T . Yo sh imu ra (理学研究科 ) 柿谷俊輔、張 子見、二宮和彦、高橋成人、篠原 厚

(Graduate School o f Science) S . Kaki tani , S. Chou, K. Ninomiya , N. Takahashi , A. Shinohara

【目 的】 人工放射性同位元素が地球上で広範囲に分布する原因として、大気圏内核実験や原子

炉、核燃料施設での事故などがあげられるが、現在ではその影響は少なくなってきた。

しかし、 2011年 3月に発生した東北地方太平洋沖地震では、津波の影響で東京電力福島

第一原子力発電所の原子炉が冷却機能を喪失し、環境中に大量の放射性同位元素が放出

される結果となった。これらは物質移動および動植物活動に伴って移動し長期間にわた

り環境を汚染し、なかには動植物内に蓄積されるものもある。

本研究では、原子炉内で大量に発生する 9 0 Srを固相抽出法による簡便かつ迅速な化学

分離法を開発し、エアダスト中の 9 0 Srを極低バックグラウンド液体シンチレーションシ

ステムを用いてチェレンコフ光測定により定量することを目的とした。

【方 法】 エアダス トを吸引 したフィルタ ーを王 水中で加熱し 3M T M社 製 エムポア T M ラドディ

スクを用いて固相抽出した。その後ディスクから Srを溶離し、溶離液を陽イオン交換樹

脂を 通 す こと に よ り 2 1 0 Pbを 除去 し た 。溶 出 液の チ ェ レン コ フ 光 を連 続 測 定し 、 9 0 Yの 成

長曲線を描くことで 9 0 Srの放射能を定量した。

【結 果】

多くの地点のエアダストを吸引したフィルター中の 9 0Srを測定してきたが、日立市の

試料を例にあげると 2011年 4月 9日では 1.5E-03Bq/m 3、 4月 18日では 3.7E-04Bq/m 3、 5月 21

日には 6.3E-05Bq/m 3と 減少傾向 にある こと が分かっ た。ま た、 放射能濃 度の経 時変 化、

採取地依存などについても検討している。

口頭発表

1. "Radioac t ivi ty measurement for ai r -dust and soi l co l lected in eas tern Japan Area a f ter the nuclear accident at the Fukushima Dai ichi Nuclear Power Sta t ion"

Zhang.Z, Ninomiya .K, Igarashi .Y, Sai to .T , Yamaguchi .Y, Yoshimura.T , Tsuruta .H, Watanabe .A, Ki ta .K, Higaki .S, Shinohara .A, Takahashi .N, Kakitani .S, Koj ima.S, NRC-8(Como, I ta ly 2012.9 .16-21) .

2.「液体シンチレーションカウンターによる福島第一原子力発電所由来の放射性ストロン

チウムの定量」張 子見,柿谷俊輔,二宮和彦,高橋成人,山口喜朗,吉村 崇,

齊藤 敬,小島貞男,五十嵐康人,篠原 厚 , 2012 日本放射化学会・第 56 回放射化学

討論会 (東京, 2012.10.3-5).

3.「固相抽出法を用いたエアダストに含まれる放射性ストロンチウムの分析」張 子見,

柿谷俊輔,二宮和彦,高橋成人,山口喜朗,吉村 崇,齊藤 敬,北 和之,鶴田治雄,

桧垣正吾,篠原 厚 , 第 14 回「環境放射能」研究会 (筑波, 2013.2.26-28).

二重ベータ核分光法による中性微子質量および右巻き相互作用の検証

Nuclear and particle physics studied by ultra-rare process nuclear spectroscopy

(理学研究科物理学専攻)岸本忠史、阪口篤志、吉田斉、鈴木耕拓、伊藤豪、

角畑秀一、王偉、武本淳也、W. M. Chan、土井原正明、曾山俊也、中川真奈美、(理学部物理学教室)

大植健一郎、谷口良徳、盛田義弥、(核物理研究センター)梅原さおり、松岡健次、市村晃一

(Graduate School of Science) T. Kishimoto, A. Sakaguchi, S. Yoshida, K. Suzuki, G. Ito, H. Kakubata, W. Wang,

J. Takemoto, W. M. Chan, M. Doihara, T. Soyama, M. Nakagawa, (Faculty of Science) K. Oue, Y. Taniguchi, Y. Morita,

(Research Center for Nuclear Physics) S. Umehara, K. Matsuoka, K. Ichimura

中性微子(ニュートリノ)の放出を伴わない二重ベータ崩壊の測定は、ニュートリノの右巻き相

互作用の検証を行うとともに、そのマヨラナニュートリノ質量の絶対値を得ることができる重要な

実験である。この二重ベータ崩壊は、その半減期は1026-27年以上とされ、非常に稀事象である。し

たがって、バックグラウンドの少ない測

定が必要になる。

数多くある二重ベータ崩壊核の中で、48Ca

は低バックグラウンド測定に適した核とされ

ている。48CaのQββ値は4.27MeVと、バックグ

ラウンドとなる環境放射線(214Biからのβ線や

208Tlからのγ線)のエネルギーよりも高いため

である。我々は、この48Caの二重ベータ崩壊測

定のために、CaF2シンチレータを用いたCAN

DLESシステムを構築した。さらに、二重ベー

タ崩壊測定の高感度化のために、CANDLESシ

ステムにライトパイプシステムを導入した。

本年度は、導入したライトパイプの性能評

価を行った。まず、集光効率の変化について

測定を行った。集光量増加の様子を示したエ

ネルギースペクトルを、図1に示す。図1上

図はライトパイプシステム導入前、図1下図

はライトパイプ導入後のエネルギースペクト

ルである。ライトパイプを導入することで、

α線のピークが1.8倍位置まで移動しており、

集光効率が1.8倍に改善していることがわかる。

また、エネルギー分解能は、2.6MeV領域で、8.

図1:ライトパイプシステム導入前後の集光量の変化。上図

がライトパイプ導入前のエネルギースペクトルで、下図がラ

イトパイプ導入後。α線によるピークが、1.8倍位置に移動し

ていることがわかる。これは、集光効率が1.8倍になっている

ことを示している。

Gain ×1.8

7%(FWHM)まで改善していることを確認した。さらに、集光効率が改善したことで、波形弁別能が向上した。結

果として、α線とγ線の弁別能は、これまでの2.8σ(2.6MeV領域)から、4σに改善し、効果的にバックグラウンド

事象を除去できるようになった。今後、CANDLESシステムを用いてマヨラナニュートリノ質量0.5eVの検証を、

さらなる検出器の高感度化によって、0.1eV以下の領域の検証を行う予定である。

また、48Caのシングルベータ崩壊の測定に向けた各種開発を行っている。本年度は、48Caが崩壊した後の核であ

る48Scを化学手法で濃縮することで、シングルベータ崩壊の測定の感度向上を行う方法について検討した。結果と

して、48Scを効率よく濃縮することに成功した。今後は、さらに測定感度を上げるために、大型化システムについ

て検討を進める。

発表論文

1. "Background reduction using single-photoelectron counting for WIMP search"

I. Ogawa et al, Nucl. Instrum. Meth. A, 705, 1(2013).

2. "Study of 48Ca double beta decay by CANDLES"

I. Ogawa et al, J. Phys. Conf. Ser., 375, 042018(2012).

3. "Search for neutrino-less double beta decay with CANDLES"

S. Umehara et al, AIP Conf. Proc., 1441, 448(2012).

口頭発表

1. “Double beta decay and matter dominated universe”

T. Kishimoto, OU-UM workshop on Basic Science, (マレーシア、2013年02月).

2. “Particle-Nuclear Physics in Osaka University”

T. Kishimoto, OU-RUG joint symposium on Particle-nuclear & condensed matter physics:New

challenges and opportunities, (大阪、2012年11月).

3. “Search for neutrino-less double beta decay by CANDLES”

S. Umehara et al., The 8th China-Japan Joint Nuclear Physics Symposium (CJJNPS2012), (北京、2

012年10月).

4. “CANDLES -- Study of 48Ca double beta decay --”

T. Kishimoto, 2012 Shanghai Particle Physics and Cosmology Symposium (SPCS2012), (上海、

2012年09月).

5. 「CANDLESによる二重ベータ崩壊の研究 (62) -(CANDLES概要) -」

吉田斉 ほか、日本物理学会2012年秋季大会、(京都、2012年09月).

図1.ラットの骨シンチグラム

核医学利用および環境動態追跡のためのRIの製造と分析

RI production and analysis for nuclear medicine use and trace of environmental change

(理学研究科)篠原厚、高橋成人、笠松良崇、二宮和彦、小森有希子、稲垣誠、江口舞、木野愛子、

城山辰己、藤原一哉、張子見、豊村恵悟、中村宏平、吉田剛、安田勇輝、林良彦、清家萌、森本佳

祐、柿谷俊輔(RIセンター)吉村崇(医学系研究科)池田隼人

(Grad.School of Science) A. Shinohara, N. Takahashi, , Y. Kasamatsu, K. Ninomiya, Y. Komori, M. Inagaki, M. Eguchi, A. Kino,

T. Shiroyama, K. Fujihara, S. Cho, K. Toyomura, K. Nakamura, G. Yoshida, Y. Yasuda, Y. Hayashi, M. Seike, K. Morimoto,

S. Kakitani (Radioisotope Research Center) T. Yoshimura (Grad.School of Medicine)H. Ikeda

今日の進んだ医療の現場ではイメージング技術が進歩し、医療診断に不可欠な方法になっている。MRI や PET

等の先端技術を駆使した技術が日常的に使われて威力を発揮している。その中で古くから用いられてきた SPECT

法による Tc-99m シンチグラフィーの方法は最も広く普及しており、イメージング診断の 80%以上を占め、国内

では 1500 を越える医療機関で脳・心肺などの血流検査、癌の骨転移検査等に用いられている。 その Tc-99m は

半減期が短く6時間で、親核の Mo-99 のβ崩壊によって造られるが、Mo-99 は核分裂生成物から分離したものを

海外から輸入している。この海外に依存した体制は、海外の原子炉の運転状況に左右され供給に大きな不安が生じ

ている。

海外依存の体制から脱却するために国内で製造することが必要である。我々は大阪大学核物理研究センターで高

エネルギー陽子の原子核反応による核破砕中性子を用い 100Mo(n,2n)99Mo 反応を利用する方法の開発に成功し、

99Mo-99mTc を製造した。

Mo-99 は大阪大学核物理研究センターのリングサイクロトロンからの 400MeV の陽子による核破砕中性子を用

いて 100Mo(n,2n)99Mo 反応により製造した。 図1に 99Mo-99mTc の製造スキームを示す。リングサイクロトロンからの陽子ビームを直径 18mm のタンタル金属

棒に当て核破砕中性子を発生させる。この周りに天然組成の酸化モリブデンを配置し、中性子照射を行った。 照

射終了後ターゲットを 4 mol/L の NaOH に溶解、生成したテクネチウムをメチルエチルケトン(MEK)に抽出し

た。その後アルカリ溶液を 1 日放置し、再び生成

した 99mTc を MEK 中へ抽出した。MEK を減圧化

で蒸発させた後、少量の生理食塩水に 99mTc を溶

かした。この溶液を市販の骨シンチグラフィー用

のメチレンジホスホン酸(MDP)キットに加え、99mTc-MDP薬剤

を調製した。さらに阪大医学系放射性同位元素等使用施設

にてラットを用い骨シンチグラムを撮影した。得られた骨シンチグラムを図1.に示す。

東京電力福島第一原子力発電所の事故によって、大量の放射性核種が環境中に拡散した。ヨウ素やセシウムなど

の核種は事故直後から数多くの測定が行われ、結果が報告されてきた。一方でこれらの核種と同様に原子炉内で生

成されていているはずの放射性ストロンチウムに関する報告は限られている。放射性ストロンチウムは Sr-89 と

Sr-90 であり、環境試料中における両核種の存在比は当初の事故状況の解明の重要な手掛かりとなる。

Sr-89, Sr-90 はγ線を放出しないβ線放出核種であるため、測定のためには環境サンプルから化学分離によってス

トロンチウムを単離する必要がある。今回、我々は液体シンチレーションカウンターを用いて測定を行った。環境

サンプルに化学前処理を行い、炭酸ストロンチウムとなった試料を酸で溶かして液体の状態にした。これをイオン

交換樹脂でカラム分離することで Sr と Y を分離した。イオン交換樹脂に Y が吸着し、ろ液として Sr のみを含む

測定サンプルが得られる。その後、樹脂から Y-90 を溶出した。低バックグラウンドの液体シンチレーションカウ

ンター(LSC)を用いてそれぞれの試料をチェレンコフ光測定することで Sr-89 および Y-90 の放射能の値が得られ

た。最後に Sr-89 の測定サンプルにシンチレータを加えて、Sr-89,Sr-90 および Y-90 の定量を行い、それぞれの放射

能測定の適合性を評価した。

また福島県福島市、宮城県丸森町、茨城県日立市の各地において、ハイボリュームエアサンプラを用いてエアダ

ストの捕集を行った。各サンプル吸引は 3~4日間行い、総吸引量をおよそ 3000㎥とした。エアダスト捕集材とし

て使用したろ紙、フィルターは同形状に折りたたみ、ポリエチレン袋で密閉し、ゲルマニウム半導体検出器を用い

てガンマ線を測定した。試料中の 134Cs(605 keV)および 137Cs(662 keV)のピーク面積から、大気中の放射性

核種の濃度を求めた。

図2.に宮城県丸森町の測定結果を示す。今回捕集を行った福島県福島市、宮城県丸森町、茨城県

日立市の3地点全てにおいて、134Cs ( 2.062y )および 137Cs ( 30.1y )の存在が確認された。事故当

時は 10-1Bq/m3オーダーと非常に高い濃度を示していたが、2012年7月現在は10- 5Bq/m3オーダー

の放射能が検出されている。また、134Csと 137Csは同様の濃度変化の傾向を示し、その比率はほぼ一

定であった。

口頭発表

1. 「Production of 99Mo-99mTc by us

ing Spallation Neutron」

N. Takahashi, K.Nakai, A. Shinohara ,

J.Hatazawa,M. Nakamura M. Fukuda,

K.Hatanaka, Y. Morikawa, M.

Kobayashi, A. Yamamoto, SNM 2012 Annual Meeting(Maiami、June 9-13, 2012).

2. 「液体シンチレーションカウンターによる福島第一原子力発電所事故由来の放射性ストロンチ

ウムの定量」

張子見、柿谷俊輔、二宮和彦、高橋成人、山口喜朗、吉村崇、齊藤敬、小島貞夫、五十嵐康人、篠原厚、

第 56回放射化学討論会(東京、2012年 10月)

図2. 宮城県丸森町における空気中放射能濃度の推移

重核・重元素の核化学的研究

Research for nuclear chemistry of heavy nucleus and heavy elements

(大学院理学研究科)篠原厚、高橋成人、吉村崇、笠松良崇、二宮和彦、小森有希子、稲垣誠、

藤原一哉、横北卓也、江口舞、木野愛子、城山辰己、張子見、中村宏平、豊村恵悟、吉田剛、

安田勇輝、林良彦、清家萌、森本佳祐、柿谷俊輔

(Grad. School of Science) A. Shinohara, N. Takahashi, T. Yoshimura, Y. Kasamatsu, K. Ninomiya, Y. Komori, M. Inagaki, K.

Fujihara, T. Yokokita, M. Eguchi, A. Kino, T. Shiroyama, S. Cho, K. Nakamura, K. Toyomura, G. Yoshida, and Y. Yasud

a, Y. Hayashi, M. Seike, K. Morimoto, S. Kakitani

原子番号が100番を超える元素を重元素と呼ぶ。これらはすべて人工の放射性元素であり、加速器を用いた

重イオン核融合反応でしか合成することができない。また、その生成率は極めて低く、半減期も数十秒以下

と短いため、化学実験を行うことが非常に困難であり、その化学的性質はいまだほとんど解明されていない。

これら重元素は、価電子に対する相対論効果の影響が強くなり、同族元素間の周期性を逸脱した化学的性質

を示す可能性が指摘されており、非常に興味深い研究対象である。我々の研究グループでは、重元素の化学

的性質の解明に向け、基礎研究及び装置の開発を行っている。

我々はこれまでに重アクチノイド元素である原子番号100–103番元素のHDEHPを用いた抽出挙動を調べる

ことを目的に、同条件下でのランタノイド元素や99番以下の3価アクチノイド元素の抽出挙動を調べてきた。

実際に100及び101番元素の挙動を調べるにまで至っている。しかし、103番元素Lrの抽出実験には自動装置が

必要であるのに対して、その開発がまだなされていない。そこで、今年度は固液抽出装置を用いたLrの抽出

実験を目指して、その基礎実験としてランタノイド元素のHDEHP樹脂を用いた固液抽出実験を行った。測定

にはセンター内のICP-MSを用いた。結果として溶媒抽出と同様の抽出定数のイオン半径依存性が得られた。

104番以降の元素は超アクチノイド元素と呼ばれ、その化学的性質はほとんど解明されていない。我々は、1

04番元素Rfと105番元素Dbの化学実験を目指し、溶媒抽出挙動と沈殿挙動を調べるための新規の実験手法や

装置の開発を行っている。今回は、抽出における化学反応が速いと期待できる固液抽出をバッジ法で自動で

繰り返し行う自動装置の開発を行った。そして、その装置を用いて実際に理化学研究所にて加速器と連結し

たオンライン実験を行い、Rfの同族元素ZrとHfの抽出挙動を調べ、装置のRf抽出実験への適用性を確認した。

また、Dbの同族元素であるNbやTa, Paを用いた基礎的な抽出実験も行った。水酸化物沈殿作成実験に関して

もZr, HfやThのトレーサーを用いて基礎実験を進めると同時に、迅速沈殿試料作成装置の開発も進めてきた。

106番元素Sgに対しては、溶媒抽出装置とそれと連結した迅速α線測定を目的とした液体シンチレーション

検出装置の開発を進めている。今回は、実際に同族元素であるMoとWの放射性トレーサーを理化学研究所で

合成し、様々な実験条件下で溶媒抽出を行うことにより、Sgの実験条件の検討を行った。また、液体シンチ

レーション測定装置の開発もできたため、理化学研究所にて実際にDbやその同族元素を用いたイオン交換実

験を行い、その性能を確認した。

発表論文

1. “Solvent extraction of Zr and Hf from hydrochloric acid using tributylphosphate for the extraction of eleme

nt 104, rutherfordium”

Y. Kasamatsu, Y. Kikutani, A. Kino, Y. Komori, T. Yokokita, T. Yoshimura, N. Takahashi, and A. Shinoh

ara, Radiochim. Acta (2013) in press.

2. “New result in the production and decay of an isotope, 278113, of the 113th element”

K. Morita, K. Morimoto, D. Kaji, H. Haba, K. Ozeki, Y. Kudou, T. Sumita, Y. Wakabayashi, A. Yoneda,

K. Tanaka, S. Yamaki, R. Sakai, T. Akiyama, S. Goto, H. Hasebe, M. Huang, T. Huang, E. Ideguchi, Y.

Kasamatsu, K. Katori, Y. Kariya, H. Kikunaga, H. Koura, H. Kudo, A. Mashiko, K. Mayama, S. Mitsuoka,

T. Moriya, M. Murakami, H. Murayama, S. Namai, A. Ozawa, N. Sato, K. Sueki, M. Takeyama, F. Toka

nai, T. Yamaguchi, and A. Yoshida, J. Phys. Soc. Jpn. 81, 103201 (2012).

口頭発表

1. “Development of a liquid scintillation detection system for aqueous chemistry of seaborgium”

Y. Komori, T. Yokokita, A. Kino, K. Nakamura, K. Toyomura, H. Kikunaga, K. Tsukada,Y. Nagame, Y. K

asamatsu, T. Yoshimura, N. Takahashi, and A. Shinohara, 8th International Conference on Nuclear and Ra

diochemistry (Komo, Italy, Sep. 2012).

2. “Extraction behavior of Mo(VI), Mo(V), W(VI), and W(V) from HCl solutions by Aliquat 336”

T. Yokokita, K. Ooe, Y. Komori, Y. Kikutani, A. Kino, K. Nakamura, Y. Kasamatsu, N. Takahashi, T. Yo

shimura, K. Takamiya, and A. Shinohara, 8th International Conference on Nuclear and Radiochemistry (Kom

o, Italy, Sep. 2012).

3. “Extraction of Zr and Hf using TBP and TIOA for the chemistry of element 104 Rf”

Y. Kasamatsu, A. Kino, Y. Kikutani, Y. Komori, T. Yokokita, K. Nakamura, N. Takahashi, T. Yoshimura,

and A. Shinohara, 8th International Conference on Nuclear and Radiochemistry (Komo, Italy, Sep. 2012).

ファージ増殖を抑制する宿主因子の解析

Host factors suppressing phage propagation

(理学研究科生物科学)大塚裕一、齐 丹、仲健太、アラウネ•アブドゥルラヒーム、安居良太、

鷲崎彩夏、米崎哲朗

(Graduate School of Science) Y. Otsuka, D. Qi, K. Naka, A. Alawneh, R. Yasui, A. Washizaki,

T. Yonesaki

トキシンと RNase LS

大腸菌がもつトキシン—アンチトキシン系の一種である RnlA-RnlB は T4ファージの感染後に、RnlB の分解と

RnlA の遊離により活性化された RNase LS が T4ファージの mRNA を分解することによって遺伝子発現を抑制

する。このような抗ファージ効果をもつ RNase LS の活性には RnlA 以外に RNase H1 も必要であること、RNase

H1 が RnlA と複合体を形成することは明らかとなっていた。過去の解析から、RnlA は P100 分画に存在するこ

とが知られているので、RNase H1 の細胞内分布を調べたところ、RnlA 非存在下では RNase H1 は殆どが S100

分画に検出された。しかし、RnlA 存在下では 50%以上が P100 分画に見いだされた。一方、RnlB の存在下では

RnlA の 50%以上が S100 分画に検出された。これらのことから RNase LS は P100 分画に存在すること、RNase

H1 は P100 にリクルートされること、RnlB は RnlA が P100 にリクルートされるのを抑制すること、が明らかと

なった。

T4 が誘導する宿主 mRNA の分解

T4 が感染した直後から大腸菌 mRNA の急速な分解が開始する。lpp mRNA を対象とした解析から、この分解

は 5’一リン酸に依存しない、内部切断型の RNase E 活性によって開始されることがわかった。さらに、生じた中

間体を分解する 5’一リン酸依存型活性は T4 の del6 変異体では低下した。したがって、del6 が欠失している8個

の遺伝子のいずれかがこの活性を促進する効果をもつことが示唆された。

YfjK と YfjL によるファージ抑制効果

機能未知蛋白質である YfjK と YfjL の高発現下では、T4、T7およびλファージの増殖が抑制されることがわ

かった。この広汎なファージ増殖抑制効果はを理解するために T4ファージにしぼって調べたところ、オペロンを

なす yfjK と yfjL が共に必要であることがわかった。YfjKL の標的を知るために、両蛋白質の高発現下で増殖可能

な T4ファージ変異体を単離したところ、原因遺伝子は DNA 複製に働くヘリカーゼ遺伝子であった。そこで、T

4の DNA 複製を調べたところ、YfjKL の高発現下では殆ど起こらないことが判明した。

T4 が O157 株で増殖できない理由

T4ファージは大腸菌 B 株や K-12 株では増殖できるが、O157 株では増殖できない。その理由を明らかにする

ために T4の吸着能を調べたところ、 K-12や B株と異なりO157株には吸着できないことがわかった。これは、

表面リセプターである LPS と OmpC の構造にみられる違いが原因であると考えられる。そこで、K-12 株への吸

着機構を参考にして、O157 株の LPS を改変することによって T4の吸着を可能にした。さらに DNA 注入が起き

ていることも確認できた。しかし、ファージ増殖はみられなかったので、さらに詳しく調べたところ T4の遺伝子

発現や DNA 複製が起きていなかった。このことから O157 株では K-12 株や B 株がもたない T4の増殖を抑制す

る仕組みが存在すると思われる。

口頭発表

1.「病原性大腸菌 O157 株が持つ Type I トキシン-アンチトキシンシステム z3289-sRNA1 の解析」

大塚裕一 米崎哲朗 第9回大腸菌研究会(滋賀 長浜 2012年6月).

2.“Toxin-Antitoxin systems in Escherichia coli 0157 and Bacteriophage T4 infection”

大塚裕一 米崎哲朗 World Congress of Microbes 2012(中国 広州 2012年7月).

3.“Relationship between Toxin-Antitoxin systems in Escherichia coli and Bacteriophage T4 infection”

大塚裕一 古賀光徳 米崎哲朗 第86回日本細菌学会(千葉 幕張 2013年3月).

4.“Rapid Degradation of Escherichia coli mRNAs Induced by Bacteriophage T4 Infection”

齐丹、大塚裕一、米崎哲朗 35回日本分子生物学会(福岡、2012年12月).

5.「RNase LS活性に必要な成分の同定」

仲 健太、古賀 光徳、大塚 裕一、米崎 哲朗、第9回 21世紀大腸菌研究会 (滋賀、2012年6月).

6.「大腸菌RNase HIはRNase LS活性を促進する」

仲 健太、古賀 光徳、大塚 裕一、米崎 哲朗、第35回 日本分子生物学会 (福岡、2012年12月).

7.「大腸菌YfjLとYfjKはDNA複製を阻害することによりT4ファージ増殖を抑制する」

安居良太、大塚裕一、米崎哲朗、第4回ファージ研究会(群馬、2012年9月).

8.「大腸菌O157株におけるT4ファージ吸着不能の原因解明」

鷲崎彩夏、大塚裕一、米崎哲朗 第9回 21世紀大腸菌研究会 (滋賀、2012年6月).

9.「大腸菌O157株におけるT4ファージ吸着不能の原因解明」

鷲崎彩夏、大塚裕一、米崎哲朗 第4回 ファージ研究会 (群馬、2012年9月).

10.「腸管出血性大腸菌O157株におけるT4ファージ増殖不能の原因解明」

鷲崎彩夏、大塚裕一、米崎哲朗 第35回 日本分子生物学会年会 (福岡、2012年12月).

植物細胞機能の解析

Analysis of plant cellular functions

(理学研究科)酒井友希、坂本勇貴、高木慎吾

(Graduate School of Science) Y. Sakai, Y. Sakamoto, and S. Takagi

淡水産の単子葉植物オオセキショウモにおいて、原形質流動の光誘発、葉緑体光定位運動などの光受容体

として機能すると予想される青色光受容蛋白質フォトトロピンの遺伝子クローニングに取り組んだ。フォト

トロピン 1(phot1)タイプ、phot2 タイプの遺伝子各々の全長配列を決定し、VgPHOT1、VgPHOTO2 と命名

した。VgPHOT1 は 975 アミノ酸、 VgPHOTO2 は 909 アミノ酸からなる蛋白質をコードし、いずれも、N 末

端側に発色団フラビンモノヌクレオチドの結合部位である 2 つの LOV(light, oxygen, voltage)ドメインと C

末端の Ser/Thr キナーゼドメインとを保存していた。また、各々の遺伝子に特徴的な配列も特定した。オオ

セキショウモ葉から調製した膜画分に存在するフォトトロピン様蛋白質について、シロイヌナズナの phot1、

phot2に対する 2種類の抗体を用いた免疫ブロッティングおよび in vitroリン酸化アッセイでは、phot1タイプ、

phot2 タイプの識別ができていなかった。そこで、大腸菌に発現させた組換え蛋白質について免疫ブロッテ

ィングを行なったところ、上記のどちらの抗体も VgPHOT1 のみを認識し、やはり決着がつかなかった。今

後、組換え蛋白質を用いた光反応解析および in vitro リン酸化アッセイにより、この点を明らかにしたい。

発表論文

1. "LITTLE NUCLEI 1 and 4 regulate nuclear morphology in Arabidopsis thaliana"

Y. Sakamoto and S. Takagi, Plant and Cell Physiology 54, in press (2013).

2. 「ストロボスコープ型遠心顕微鏡による運動現象の解析」

高木慎吾、Plant Morphology 24, 5 (2012).

口頭発表

1.「葉緑体分布パターン決定における二酸化炭素の役割」

高木慎吾、石田泰浩、新学術領域研究第 6 回班会議(東京、2012 年 5 月).

2.「シロイヌナズナにおける細胞核形態を維持する LINC の解析」

坂本勇貴、高木慎吾、日本植物学会第 76 回大会(姫路、2012 年 9 月).

3. "Phototropin2-dependent co-localization of mitochondria with chloroplasts in Arabidopsis thaliana mesophyll cells"

M.S. Islam and S. Takagi、平成 24 年度近畿植物学会(奈良、2012 年 11 月).

4.「アクチン結合ドメインを持つキネシン様タンパク質遺伝子欠損シロイヌナズナの表現型解析」

光武翔、安原裕紀、高木慎吾、2013年生体運動研究合同班会議(広島、2013年1月).

5.「植物ビリンは葉緑体アンカーに関与するか」

高木慎吾、第 15 回植物オルガネラワークショップ(岡山、2013 年 3 月).

6.「シロイヌナズナ葉肉細胞における核光定位運動への葉緑体の関与」

田中怜、岩渕功誠、西村いくこ、高木慎吾、第 54 回日本植物生理学会年会(岡山、2013 年 3 月).

環境中の放射性物質の動的挙動に関する基礎的検討

Radiochemical Study of Radionuclides in Enviroment

(理学研究科1、安全衛生管理部2) 福本敬夫1、塚原聡1、斎藤直2

(Grad. Sch. of Science and Dep. of Safety and Hygiene) T. Fukumoto, S. Tsukahara, and T. Saito

福島原発事故より2年が経過し、原発から大量に飛散した放射性物質がその後、環境中においてどのように移動・蓄

積しているかを調べることは極めて重要である。これまでの研究・調査は主として、飛散した放射性物質がどのように

拡散していったか、どの地点に大量に蓄積しているかといった水平方向の分布の測定が行われてきたが、2年経った今

日、降り注いだ放射性物質がどれほど地中に潜っていったか、すなわち垂直方向の分布を調べることも重要である。そ

こで今回、福島県浪江町の三ヶ所(根岸、下加倉、田尻地区)より土壌をサンプリングし、放射性セシウムの垂直方向

の分布がどうなっているかを測定した。測定はGe半導体検出器を用いて、主に 134,137Csを測定し、比較のため 40Kの

測定も行った。また合わせて、その土壌で採れた農作物に関しても測定を行い、農作物への放射性セシウムの移行状況

も調べた。

三つのデータを比較すると、それぞれに異なった特徴がみられた。最も汚染が大きい下加倉地区においては、深さ6

cmほどまでセシウムはほぼ均等に潜り込んでいるが、7 cmを越えると1/10以下となっていた。次に汚染の大きい根

岸地区においては、深さ 3 cm を越えると汚染は 1/10 以下となっているが、急激な減少はみられず、ほぼ均等に深さ

方向に分布していた。また、三つの地点で最も汚染が小さかった田尻地区においては、深さ方向への減少は緩やかで、

10 cmほどまで続き、それ以下となるとほとんど見られなかった。このように汚染の水平分布に関しては同レベルの汚

染地区でありながら、深さ方向への分布に違いがみられたのは、その土地の土壌の性質が大きく寄与しているものと思

われる。これより、汚染の垂直方向への影響を考慮する際は、水平方向の汚染レベルと合わせてその土地の土壌の状態

も加味した研究が必要と思われる。

測定結果(Bq / kg) 測定結果(Bq / kg) 測定結果(Bq / kg)131-I 134-Cs 137-Cs 131-I 134-Cs 137-Cs 131-I 134-Cs 137-Cs

上部 0 29,200 62,100 0 7,580 1,620 0 5,790 11,500土壌 0~1cm 0 36,800 78,800 0 13,600 29,100 0 4,850 9,620土壌 1~2cm 0 41,600 88,000 0 16,400 34,300 0 3,710 7,440土壌 2~3cm 0 45,400 96,200 0 11,400 23,900 0 4,860 9,860土壌 3~4cm 0 36,100 76,300 0 3,620 7,790 0 1,200 2,380土壌 4~5cm 0 25,000 52,700 0 1,880 3,890 0 3,330 6,820土壌 5~6cm 0 28,900 61,900 0 1,640 3,360 0 1,480 2,810

土壌 6~7cm 0 12,700 26,900 0 803 1,690 0 1,730 3,390

土壌 7~8cm 0 3,490 7,480 0 1,260 2,650 0 1,370 2,770土壌 8~10cm 0 1,640 3,480 0 1,650 3,400 0 2,160 4,300土壌 10~12cm 0 91 213 0 1,700 3,530 0 324 652土壌 12~14cm 0 23 66 0 1,240 2,590 0 5 20土壌 14cm以下 0 26 79 0 1,400 3,000 0 6 22

(表) 浪江町における土壌中の放射性物質の垂直分布

下加倉地区 根岸地区 田尻地区

口頭発表

1.「放射性セシウムによる農作物の汚染状況」

福本敬夫、2012年度エントロピー学会春研究会(大阪、2012年5月).

2.「放射性セシウムの土壌中の垂直分布に関して」

福本敬夫、2012年度エントロピー学会秋研究会(東京、2012年11月).

洗浄剤を用いた放射性物質汚染土壌の除染技術の開発

Development of decontamination technology of radioactive material contaminated soil

by detergent

(工学研究科)野口祐樹、加藤栄一、木田敏之、清水喜久雄、明石満

(Graduate School of Engineering) Y. Noguchi, E. Kato, T. Kida, K. Shimizu, and M. Akashi

【緒論】

東京電力福島第一原子力発電所の事故により環境中に大量の放射性物質が放出され、その処理が課題となってい

る。特に放射性セシウム(セシウム134、セシウム137)は、福島県および近隣都県の深刻な土壌汚染を引き起こした。

放射性セシウムは、生体内での振る舞いがカリウムやルビジウムに似ているために体内に吸収され易く、放射線に

よる内部被爆を引き起こす。またセシウム137の半減期は約30年と長く、長期間に渡って有害性が持続するため、

汚染土壌から放射性セシウムを早急に除去し、管理区域内で隔離・保管することが安全・安心な社会構築のために

必要である。

そこで本研究では放射性物質汚染土壌中に含まれている放射性セシウムを除去するために、温和な条件で効果的

に放射性セシウムを除去できる洗浄剤を開発し、汚染土壌を用いて性能評価を実施した。また汚染土壌の洗浄によ

り発生した汚染水から放射性セシウムを除去可能な高分子吸着剤を開発し、高分子吸着剤の性能評価を実施した。

【方法】

1.洗浄剤と高分子吸着剤の作製

洗浄剤は、弱酸性水溶液もしくは水にアルカリ土類金属や分散剤などを溶解して作製した。また高分子吸着剤は、

シクロデキストリンをテレフタル酸クロリドなどの酸塩化物で架橋して作製した。

2.性能評価方法

ガラス容器に放射性物質汚染土壌と洗浄を加えた後、24時間撹拌した。撹拌終了後、濾過と水洗浄により土壌を

回収し、土壌中の放射性セシウム濃度を線量測定装置(EMF211)で測定した。また汚染土壌の洗浄により発生した

汚染水を高分子吸着剤で充填したシリンジに流し、洗浄剤を回収した。回収した洗浄剤の放射性セシウム濃度は、

線量測定装置(EMF211)で測定した。

【結果と考察】

環境適合性洗浄剤を用いた汚染土壌から放射性セシウム除去能と、高分子吸着剤を用いた汚染水からの放射性セ

シウム吸着能について評価した結果を示す。

1.土壌中の放射性セシウムと放射性セシウムの除去方法

汚染土壌中では、放射性セシウムはセシウムイオンの形で主に層状になったケイ酸塩鉱物(2:1型層状ケイ酸

塩鉱物)の層と層の間にある空孔に強く吸着されている。こ

の2:1型層状ケイ酸塩鉱物は、ケイ酸と酸素からなるシー

ト(ケイ素四面体シート)が、アルミニウムと酸素からなるシ

ート(アルミニウム八面体シート)を挟んだ構造をもつ層を

一単位とし、これらの層が積み重なってできている(Figure

1)。そこで汚染土壌から放射性セシウムを除去するために層状ケイ酸塩鉱物の層間に存在する空孔とセシウムイオ

ン間の相互作用を弱め、より電荷の大きなアルカリ土類金属イオンで放射性セシウムイオンと置き換えることを考

えた。

2.汚染土壌からの放射性セシウム除去能

上記の考えに基づき【方法】で記した洗浄剤を作製し、汚染土壌からの放射性セシウム除去実験を実施した。除

去実験により得られた放射性セシウム除去能の結果をTable 1に記す。

洗浄剤は上記の効果により、20℃下で汚染土壌を洗浄すると、放射

性セシウムを86%除去することができた。また温度を上げて30℃や4

0℃で洗浄すると、除去率90%以上となることを確認した。これは温

度を上げることでアルカリ土類金属イオンがセシウムイオンに衝突

する回数が増加し、置換が起こりやすくなるためであると考えられる。

3.汚染水からの放射性セシウム吸着能

汚染土壌の洗浄で発生した汚染水から放射性セシウムを吸着除去するために、【方法】で記した高分子吸着剤を

作製し、汚染水の無害化実験を実施した。無害化実験により得られ

た放射性セシウム吸着能の結果をTable 2に記す。いずれのシクロデ

キストリンポリマーを使用しても、放射性セシウムの吸着能が90%

以上を記した。

【結論】

本研究で使用した洗浄剤は温和な条件下で放射性セシウム除去が可能であることから、多量の汚染土壌を除染す

るための方法として効果的であると考えられる。また高分子吸着剤を使用することで汚染水の処理が可能となるこ

とから、効果的な除染システムの構築が可能であると考えられる。

【口頭発表】

1.「環境適合性洗浄剤を用いた放射性物質汚染土壌の除染技術の開発」 野口祐樹、加藤栄一、

木田敏之、清水喜久雄、明石満、第21回環境化学討論会(愛媛、2012年7月).

2.「放射性物質汚染土壌の効果的な除染技術の開発」野口祐樹、加藤栄一、木田敏之、清水喜久雄、 明石満、

日本放射線安全管理学会 第11回学術大会(大阪、2012年12月) .

損傷DNAの分子認識に関する研究

Studies on molecular recognition of damaged DNA

(基礎工学研究科)倉岡 功、山元淳平、栂 達也、高畑千晶、小山智子、亀谷有希子、渋谷敏博、

橋本佳和、渡邉 駿、岩井成憲

(Graduate School of Engineering Science) I. Kuraoka, J. Yamamoto, T. Toga, C. Takahata, T. Oyama,

Y. Kametani, T. Shibutani, Y. Hashimoto, S. Watanabe, and S. Iwai

当研究室では損傷を有する DNA とそれに作用するタンパク質に関する研究を行っており、DNA 断片を32P で

標識してタンパク質の結合や酵素反応を解析するためにラジオアイソトープ総合センターを利用している。今年

度は、ヌクレオチド除去修復(NER)における基質鎖長の最適化、ERCC1–XPF 複合体ならびに FEN1 による

DNA 異常末端の修復、TC シクロブタンピリミジンダイマーの化学的に安定なアナログに対する損傷乗り越え複

製、5-メチルシトシンおよびその酸化体に対する DNA ポリメラーゼや修復タンパク質の作用、タンパク質の結

合により DNA に誘起される折れ曲がり構造の検出に関する研究を行った。

まず NER の基質については、この修復を蛍光により検出するためのプローブを開発しようとしており、その

ためには基質となる最小鎖長を求める必要がある。損傷の 5’側については以前に必要鎖長を決め、一昨年から 3’

側について検討しているが、細胞抽出液の失活等の問題から研究が進まなかった。これまでは内部のリン酸ジエ

ステル部分を32P で標識した基質を作製してゲル電気泳動により断片を直接検出していたが、今年度は NER によ

り切断された断片を相補鎖とハイブリダイズさせて [α-32P]dCTP と DNA ポリメラーゼで標識するという間接的

検出法や CHO 細胞抽出液を用いた従来法を試みた。

昨年度までに ERCC1-XPF 複合体が 3’末端にホスホチロシル基が付加した DNA を切断することを明らかにし

たが、除去反応について基質の構造や1本鎖 DNA に結合するタンパク質の効果などを詳細に調べ、鎖切断後の

伸長と再結合反応を行う酵素を加えて試験管内で修復の全過程を構築することに成功した。一方、5’-ホスホチロ

シル DNA については、昨年度 XPG タンパク質により切断されることを示した。しかし、DNA ポリメラーゼと

DNA リガーゼを加えた系で修復を調べると XPG による修復はほとんど検出されず、その代わりに FEN1 を用い

た場合に修復が効率的に起こることが明らかになった。

紫外線により隣接したピリミジン塩基間に架橋が形成されるが、そのような紫外線損傷の一つがシクロブタン

ピリミジンダイマー(CPD)である。塩基がシトシンの場合には CPD の形成により芳香環との共鳴安定化がなく

なるためアミノ基が加水分解されやすくなるので、例えば TC の配列に生じる CPD に対する損傷乗り越え複製の

研究を行うことができなかった。そこで、シトシンと同じ塩基対形成能をもつと考えられる 5,N4-ジメチルシトシ

ンを使った CPD アナログを挿入したオリゴヌクレオチドを合成し、DNA ポリメラーゼηによるヌクレオチドの

取込みを調べた。その結果、G の他に T もある程度効率的に取り込まれるが、T が取り込まれた場合にはそれ以

降の鎖伸長が阻害されることが明らかになった。

DNA 中のシトシンの 5 位がメチル化されることにより遺伝子発現が制御されるが、5-メチルシトシン(mC)

は酸化を受けて除去されることが報告されている。そこで昨年度、5 位にヒドロキシメチル基、ホルミル基、カ

ルボキシ基が付いたシトシン(hmC, fC, caC)を有するオリゴヌクレオチドを合成し、それらに対するチミン

DNA グリコシラーゼ(TDG)の切断反応を調べた。今年度はそれぞれの修飾シトシンが鋳型となった場合の

DNA 合成を複数の DNA ポリメラーゼを用いて調べ、昨年度に切断が検出された fC および caC の TDG による認

識機構を解明するための実験を行った他、ミスマッチを認識する MutS が特に caC・G 塩基対を有する DNA に強

く結合することを明らかにした。

当研究室では、シスプラチン付加体の形成による折れ曲がり構造に依存して2本鎖間にジスルフィド結合が形

成される DNA を開発し、それを応用して塩基欠落部位を有する DNA には動的な構造変化が生じていることを示

した。この方法を用いれば、タンパク質の結合により誘起される DNA の折れ曲がり構造を検出・固定化するこ

とができると考えられ、連続したタンパク質の結合における DNA 認識機構の解明に利用できることが期待され

る。そこで、TATA 結合タンパク質(TBP)により折り曲げられた DNA 中でのジスルフィド結合の形成を調べる

ことにしたが、その前に合成した DNA に TBP が結合することを32P 標識したオリゴヌクレオチドを用いてゲル

電気泳動により確認した。

発表論文

1. "Effects of 5',8-cyclodeoxyadenosine triphosphates on DNA synthesis"

N. Kamakura, J. Yamamoto, P. J. Brooks, S. Iwai and I. Kuraoka, Chem. Res. Toxicol., 25, 2718–2724

(2012).

2. "Effects of DNA lesions on the transcription reaction of mitochondrial RNA polymerase: implications for

bypass RNA synthesis on oxidative DNA lesions"

N. Nakanishi, A. Fukuoh, D. Kang, S. Iwai and I. Kuraoka, Mutagenesis, 28, 117–123 (2013).

3. “Strand breakage of (6–4) photoproduct-containing DNA at neutral pH and its repair by the ERCC1–XPF

protein complex”

N. Arichi, J. Yamamoto, C. Takahata, E. Sano, Y. Masuda, I. Kuraoka and S. Iwai, Org. Biomol. Chem., in

press (2013).

口頭発表

1. 「DNA修復反応を検出するための蛍光プローブの開発」

岩井成憲、第34回日本光医学・光生物学会(神戸、2012年7月).

2. 「FEN1とERCC1-XPFの協調による3’-ホスホチロシル一本鎖DNA切断の修復活性」

高畑千晶、岩井成憲、倉岡功、第35回日本分子生物学会年会(福岡、2012年12月).

3. 「5’-ホスホチロシルDNAのFEN1タンパク質による修復」

亀谷有希子、岩井成憲、倉岡功、第35回日本分子生物学会年会(福岡、2012年12月).

4. 「5-formylcytosineと5-carboxycytosineはDNA合成に影響を与える」

渋谷敏博、岩井成憲、倉岡功、第35回日本分子生物学会年会(福岡、2012年12月).

イオンビーム及びガンマ線による突然変異誘発の解析

Molecular biological analysis of mutation caused by carbon ion beam and gamma-ray

(ラジオアイソトープ総合センター)松尾陽一郎、泉佳伸、清水喜久雄

(Radioisotope Research Center) Y. Matuo, Y. Izumi and K. Shimizu

1. はじめに 高 LET のイオンビームは、生物資源の開発やガン治療分野において大きな成果を挙げている。

我々はこれまでに、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)の URA3 遺伝子の突然変異誘発に着目し、高 LET のイオン

ビーム照射によって CG:TA トランスバーションや一塩基欠失・挿入などの変異が誘発されることを報告してきた

(図 1)。一方で、アラビドプシスなどの植物を対象とした研究では、イオンビーム照射によって大領域(100 - 1000 bp)

の欠失や挿入が起こると報告されている。我々は出芽酵母において大領域の欠失を検出するために、CAN1 遺伝子

(原形質膜でのアルギニン透過酵素活性に関与)に注目した。出芽酵母に炭素、ヘリウムイオンビーム、ガンマ線を

照射した場合の CAN1 遺伝子の大領域の欠失を PCR 法により分析した。

2. 実験 出芽酵母 S288c に、日本原子力研究開発機構イオン照射研究施設(TIARA)において炭素イオンビー

ム(18.3 MeV /u、LET: 107 keV/μm)を照射した。また、放射線医学総合研究所 HIMAC のヘリウムイオンビーム(150

MeV/u, LET: 2.4 keV/μm)、大阪大学産業科学研究所のコバルト 60 によるガンマ線(LET : 0.2keV/μm)を照射した。

吸収線量はいずれも 100 Gy とした。照射した S288c に対し、L-canavanine (SIGMA)を 1.0 %含む培地を用い、CAN1

遺伝子の変異体(can1)を選択した。炭素イオンビーム、ヘリウムイオンビーム及びガンマ線の照射によって得られ

た can1 をそれぞれ 100 サンプル無作為抽出し、コロニーから DNA を精製した。図 2 に示す 4 種のプライマーを

用い、CAN1 遺伝子領域を増幅した。

3.結果 炭素イオンビーム照射によって獲得した can1 変異体 100 サンプルのうち 1 サンプルでは、PCR によ

る増幅に違いが見られた。図 3 に、この can1 サンプルにおける PCR の結果を示す。プライマー(A・C)及び(B・

C)の組み合わせでは CAN1 遺伝子領域が増幅されず、プライマーC を含む領域が部分的に欠失していることが示唆

された。この can1 サンプルと、変異していない S288c について、プライマーの組み合わせ(A・D)によって増幅さ

れるフラグメントの長さを比較したところ、can1 では対照と比較して、約 1 kbp 短いことが示された。この結果は、

CAN1 遺伝子領域が約 1 kb にわたって欠失していることを示すものである。ヘリウムイオンビーム及びガンマ線照

射では同様な大領域の欠失変異は確認されなかった。これは植物の系などで報告されている、高 LET の炭素イオ

ンビームにより大領域の欠失変異が起こりやすいという特徴と一致するものである。

GC : TA

Transversi

on

41%

OthreTrans

version

27%

Transitions

14%

Deletion

16%

Insertion

2%

図2 CAN1遺伝子領域の欠失を評価するための PCR プライマー(A、B、C、D)の位置ならびに増幅されるフラグメントの長さを示す模式図。矢印はプライマーの位置と方向、四角はコード領域、黒線は非コード領域を示す。

図 3 炭素イオン照射によって得た can1変異株におけるCAN1遺伝子領域の PCR 増幅パターン。 図 1 炭素イオンビーム照射での

URA3 遺伝子突然変異のパターン

医学部学生 RI機能系実習

Training course of handling radioisotopes for medical students

(医学系研究科・放射線基礎医学) 本行忠志、中島裕夫、藤原智子、藤堂剛

(Fac. of Medicine) T. Hongyo, H. Nakajima, T. Fujiwara, T. Todo

医学部では、3 年次学生を対象に、生理学を中心とした後期機能系実習を行っている。その一環として、放

射線基礎医学担当の、「RI の安全取扱い」と「放射線の生物作用」の 2 実習項目が組み込まれている。9 時

から 17 時までの実習を 2 日間、これを 1 サイクルとして、今年度は、平成 23 年 10 月 9 日から 10 月 25 日ま

で、計 6 サイクル行った。学生数は、16~18 名ずつ、計 118名であった。卒業後、非密封 RI を扱う機会が多

いため、非密封 RI の安全取扱いを主としている。

「RI の安全取扱い」の実習については、まず、基礎編として、RI の物理学的性質を学習させている。32P

水溶液を与え、半減期、測定効率を考慮して適度に希釈させ、測定試料を作らせる。これを使って、1)吸収

板を用いた最大エネルギーの測定、2)距離と計数値の関係、3)計数値の統計的バラツキ、の 3 課題を GM

カウンターで行う。次に、応用編として、3H、32P、51Cr を使った模擬汚染試料による汚染検査の実習を行う。

既知濃度の上記 3 核種をステンレス板に塗りつけて試料とし、スメア濾紙で拭き取り、GM カウンター、ガ

ンマーカウンター、液体シンチレーションカウンターで測定し、測定効率、拭き取り効率を理解させるとと

もに、核種による測定器の選択、非密封 RI の安全取扱い、廃棄物の処理方法、管理区域の意義を学ばせてい

る。

「放射線の生物作用」の実習は、細胞の間期死についてのものである。マウスに X 線を照射し、次の日に

胸腺、脾臓を剔出してそのリンパ球数を数えることにより、照射線量と間期死の関係を理解させる。マウス

の実習は医学部動物実験施設で行っている。

理学部化学系放射化学学生実習

Practica1 Program of Radiochemistry in Chemical Experiments 1 for Chemistry Students

(大学院理学研究科化学専攻)篠原厚、高橋成人、笠松良崇、二宮和彦

小森有希子、横北卓也、木野愛子、城山辰己

(理学部化学科)3年次学生 83名

(Department of Chemistry, Graduate School of Science) A. Shinohara, N. Takahashi, Y. Kasamatsu, K. Ninomiya , Y. komori,

T. Yokokita, A. Kino, T. Shiroyama

(Department of Chemistry, Faculty of Science) 3rd undergraduate students

理学部化学科 3年次学生対象の必修科目として、化学実験 1(分析化学、放射化学、物理化学)のうち放射化学の実

習を 4月 12日から 5月 30日までの期間行った。学生は 6つの班(1班 14名、2班 14名、3班 14名、4班 14名、

5班14名、6班 13名)に分かれて 2班ずつ交替で、豊中分館、実習棟講義室、3Fの測定実習室と放射化学実習

室にて 6日間の放射化学学生実習を受けた。実習の具体的な内容を以下に記す。尚、実習に際しては放射線作業従

事者の資格を満たすために、これらのカリキュラムに先立って、2 年生時に 6 時間半の R1 の安全取扱いに関する

講習を行った。

第一日:実習棟 2階の講義室にて学生が実習する課題Ⅰ、Ⅱの実験内容の説明、管理区域への入退出方法、RI取扱

に関する注意等を受けた後 2班に分かれて 3階の実習室へ入り実習を始めた。

第二日目以降: 課題Ⅰ、Ⅱの実習を行った。

第 4日目には課題の交替を行った。

課題 Iの内容:GM計数管と Ge検出器を用いた放射線測定

測定実習室にて 2名 1組で密封線源を用いて放射線の測定実験を行った。市販の GM計数管を用いて、計数管のプ

ラトー特性、分解時間を調べた。また Sr-90 を用いてβ線の最大エネルギー測定などを行った。Ge 検出器のネル

ギー分解能の測定、Ge スペクトロメーターのエネルギー較正を行った。さらに課題として与えられた未知線源に

ついてGM計数管を用いたエネルギー吸収法によるβ線のエネルギー測定とGe検出器によるγ線スペクトルの測定

より未知核種の同定を行った。

課題Ⅱの内容:化学分離法とγ線測定法による核種の確認

放射化学実習室にて 2名 1組で非密封 RIを用いて化学分離、放射線測定の実験をおこなった。Mn-54と Cs-137の

混合溶液から、沈殿法を用いて各アイソトープを分離し、その放射能純度と化学収率を NaI(T1)検出器とマルチチ

ャンネルアナライザーを用いたガンマ線スペクトロメトリーによって求めた。また Mn-54除去後の溶液からイオン

交換分離で Ba-137mおよび Cs-137をそれぞれ分離し、Ba-137m(半減期 2.55分)の減衰と成長を NaI(T1)検出器で

測定し、得られた減衰、成長のグラフより半減期を求めた。

実習終了後、無機液体、可燃物、難燃物等の放射性廃棄物の処理を行った。実験器具、実験着のモニター、実験室

床面のスミアーテストを行い、汚染がないことを確かめ実験を終了した。

理学部物理学実験”放射線測定”

A Practical program of experimental physics for students:

"Radiation detection and measurement"

(理学研究科物理)福田光順、三原基嗣、清水俊、上庄康斗、森田祐介、矢口雅貴

(Fac. of Science) M. Fukuda, M. Mihara, S. Shimizu, Y. Kamisho, Y. Morita, M. Yaguchi

平成24年度理学部物理学科3年生および生物科学科生命理学コース3年生の一部を対象とした、実験

物理学実習「放射線測定」が、豊中分室実習棟内の物理系実習室にて年度を通して行なわれた。

実習の目的は、

1. 放射線の測定方法、および測定装置に関する一般的技術を習得する。

2. 放射線を測定することによって、放射線が物質内の原子と行なう相互作用に対する理解を深める。

3. 放射線のエネルギー、強度等を測定することにより、放射線の種類や性質について理解を深める。

ということにある。

実習は、3種類の実験装置を用いて行なわれ、内容は以下のとおりである。

(1) GM計数管

i) プラトー特性の測定

ii) ポアソン分布の測定

iii) 分解時間の測定

iv) γ線吸収係数の測定(Al, Fe, Pb)

v) 永久磁石によるβ線エネルギースペクトルの測定

(2) NaI(Tl) シンチレーション・カウンター

i) 137Cs, 60Co, 22Na のパルスハイト・スペクトルの測定

ii) スペクトルのエネルギー較正

iii) 未知試料(54Mn, 133Ba, 152Eu)の核種の同定及び強度の測定

iv) 鉛板によりコンプトン散乱されたγ線のエネルギーと角度の関係の測定

(3) Si 半導体検出器

i) 241Am のα線スペクトルの測定

ii) バイアス電圧とパルスハイト、ピーク幅の関係の測定

iii) Al 薄膜内のエネルギー損失による膜厚の測定

一回の実験参加者は8〜10名であり、通常2名ずつが1組となって、それぞれが上記の3テーマを4

週間、延べ7日間にわたり実習した。平成24年度内に実習を受けた学生総数は79名であり、実習の総時

間数は約240時間であった。

基礎工学部電子物理科学科物性物理科学コース3年次物性実験:放射線測定

Laboratory Work in Solid State Physics for Students: Radiation Measurement

(基礎工学研究科物性物理工学領域)美田佳三

(基礎工学部物性物理科学コース) 3年次学生54名

(Graduate School of Engineering Science) Y. Mita

(Department of Electronics and Materials Physics, School of Engineering Science) 3rd Grade Undergraduate Students

例年通り平成24年度も基礎工学部物性物理工学科3年生を対象とした物性実験のテーマのひとつとして「放

射線測定」をラジオアイソトープセンター豊中分館において行った。一回の実験参加者は6人程度でこれを二

つのグループに分けて以下のテーマのうちどちらかを担当し放射線の特性や放射線検出器の動作原理、さら

に物質と放射線の相互作用について学習した:

(1)ガイガー=ミュラー管の製作と特性評価

まず代表的な放射線検出器であるガイガー=ミュラー(GM)管を作成する。構造は単純であり金属製の筒に

絶縁されたタングステンワイヤーを通して銅箔の窓を接着すれば完成である。これにQガスを流し印加電圧

を上げていくとあるところで急激に放射線の計測が始まる。その後はしばらくカウント値は電圧の増加に非

常に鈍感な領域(プラトー領域)が続いた後グロー放電が起こり計測不能となる。この印加電圧とカウント

値の関係を60Coと133Baの二種類の線源について調べGM管の動作原理を学習する。

(2)シンチレーション検出器によるガンマ線のエネルギースペクトルと強度測定

このテーマはさらに二つに分かれる:

・ シンチレーション検出システムで137Cs, 60Co, 133Ba, 22Na, 241Amの五つおよび88Y, 54Mn, 57Coの中からど

れかひとつの合計6種類の線源から出るガンマ線のエネルギースペクトルを調べる。観測されたピークの

ピクセル位置を物理定数表などで調べたエネルギー値と対応させることにより使用したシンチレーショ

ン検出器の校正曲線を作成する。また、現在では上記の線源のうち88Y, 54Mn, 57Coからはほとんど放射線

が出ないがその理由について考察する。

・ 上記の線源のうち適当なものを選びそれから放出されたガンマ線をアルミニウム板を透過させる。アル

ミ板の枚数を0から7枚まで変えたときのスペクトルを測定し板の枚数(=厚さ)の増加による減衰の変

化の様子からアルミニウムの放射線吸収計数を求める。ガンマ線のエネルギー値を複数選ぶことにより

吸収計数のエネルギー依存性を知ることができる。その特性が生じる理由を考察する。

平成24年度は合計54人の学生が実験に参加した。実験中の学生の被爆線量は半導体式デジタル線量計でモニ

ターしたが結果はいずれのケースも検出限界以下であった。

平成24年度共同利用一覧吹田本館

共同利所属部局 利用申請者 研 究 題 目

用者数

医 学 畑澤 順 22 11C、18Fおよび124I標識放射性医薬品とPET/MRIによるラット・マウスのイメージングの基礎的検討

〃 本行 忠志 103 医学部後期機能系実習

〃 中島 裕夫 5 チェルノブイリ放射能汚染地域の生物における生理的・遺伝的蓄積影響のシミュレーション実験

〃 細井 理恵 6 有機廃液の焼却

薬 学 岡田 欣晃 6 転写関連タンパク質の機能解析研究

〃 岡本 晃典 1 液シン廃液焼却に伴う作業

〃 吉岡 靖雄 1 ナノマテリアルの有効性・安全性評価に向けた体内動態解析

〃 中山 博之 5 放射性同位元素を用いた遺伝子型判定・生化学的解析

工 学 飯田 敏行 8 植物・土壌の放射性セシウム移行に関する研究

〃 西嶋 茂宏 5 陽電子消滅法によるソフトマテリアルの評価

〃 荒木 秀樹 17 陽電子消滅による材料研究

〃 古賀 雄一 8 極限環境微生物由来酵素の活性測定

〃 松浦 友亮 5 PURE systemを用いた翻訳反応の解析

〃 杉山 峰崇 3 酵母ストレス応答遺伝子の機能解析

〃 關 光 3 植物の代謝に関する研究

〃 吉岡 潤子 1 工学研究科RI実験室排水のγ測定

〃 小野 比佐好 2 キシロース資化組換え酵母のメタボローム解析

情報科学 イン ベイウェン 14 Qβレプリカーゼを用いた翻訳、RNA複製反応の解析

産 研 多根 正和 2 金属および金属間化合物における拡散

〃 岡島 俊英 3 各種情報伝達タンパク質の自己リン酸化およびリン酸基転移の速度論的解析

〃 堂野 主税 3 放射性標識核酸を用いたトレーサー実験

蛋 白 研 西尾 チカ 1 液シン廃液の焼却

交 流 セ 仁平 卓也 6 放線菌オートレギュレーターリセプターの研究

〃 藤山 和仁 6 糖鎖修飾関連酵素の活性測定

安全衛生 山本 仁 2 低障壁イオン伝導固体高分子電解質の開発

R I セ 吉村 崇 6 放射性金属錯体の新規合成

〃 山口 喜朗 1 環境放射能測定に関する基礎的検討

平成24年度共同利用一覧豊中分館

共同利所属部局 利用申請者 研 究 題 目

用者数

理 学 岸本 忠史 18 二重ベータ核分光法による中性微子質量及び右巻き相互作用の検証

〃 篠原 厚 23 核医学利用および環境動態追跡のためのRIの製造と分析

〃 〃 29 重核・重元素の核化学的研究

〃 〃 91 化学実験のうち放射化学の実習

〃 米崎 哲朗 10 大腸菌/T4ファージにおけるmRNA分解と制御

〃 福田 光順 90 物理学実験“放射線測定”

〃 高木 慎吾 2 植物細胞機能の解析

〃 福本 敬夫 3 環境中の放射性物質の動的挙動に関する基礎的検討

工 学 木田 敏之 3 放射性物質吸着除染技術の開発

基礎工学 岩井 成憲 16 損傷DNAの分子認識に関する研究

〃 美田 佳三 62 基礎工学部電子物理科学科物性物理科学コース3年次物性実験

R I セ 吉村 崇 4 放射性金属錯体の新規合成

〃 清水喜久雄 3 放射線による出芽酵母の突然変異誘発の解析