8
78 AUTOCAR 12/2012 ROAD TEST No 5064 BMW ACTIVEHYBRID 5 WE LIKE WE DON’T LIKE BMWアクティブハイブリッド5 MODEL TESTED テスト車輌概要 強力なパフォーマンス、アスリートのようなハンドリング、優れた室内の知覚品質と装備 冴えない経済性、バッジが多すぎて野暮ったいディテール、可倒式ではないリヤシート BMWが選択したガソリンエンジンによるハイブリッドパワートレインは、 エグゼクティブサルーンにふさわしいものなのか。そのマッチングを確かめる。 モデル名:アクティブハイブリッド5車両本体価格:850.0万円日本発売時期:2012年3月22日 最高出力:340ps/5800rpm最大トルク:45.9kgm/1000-5000rpm 0-97km/h加速:5.6秒113-0km/h制動距離:45.9m最大求心加速度:0.96G テスト平均燃費:7.6km/ℓ 二酸化炭素排出量:160g/km photo: Stan Papior (スタン・ペイピア) アダプティブヘッドライトは標準装備だ。特 徴的な丸型のキセノンライトには、その向きを クルマの進行方向に向ける機能が備わる。 キドニーグリルのメッキされたスリットは、アク ティブハイブリッド5をほかの5シリーズと区別 するディテールのひとつだ。 ボンネットのなかをのぞいても、隠されたハイブリッドテクノロジーは あまり見えない。唯一、エンジンの上部にある、 “ActiveHybrid”と書 かれた明るいブルーの帯が、このクルマの素性を明らかにしている。 グリルを別にすれば、もっともわかりやすい 視覚的な特徴はこのモデルのカラーである。 欧 州 仕 様 のアクティブ ハイブリッド5 は 、 Blue wa te rメタリックペイントがオーダーでき る、唯一の5シリーズである。

ROAD TEST No 5064 BMW ACTIVEHYBRID 5...78 AUTOCAR 12/2012 ROAD TEST No 5064BMW ACTIVEHYBRID 5 WE LIKE WE DON’T LIKE BMWアクティブハイブリッド5 MODEL TESTED テスト車輌概要

  • Upload
    others

  • View
    3

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: ROAD TEST No 5064 BMW ACTIVEHYBRID 5...78 AUTOCAR 12/2012 ROAD TEST No 5064BMW ACTIVEHYBRID 5 WE LIKE WE DON’T LIKE BMWアクティブハイブリッド5 MODEL TESTED テスト車輌概要

78 AUTOCAR 12/2012

ROAD TEST No 5064ROAD TEST

BMW ACTIVEHYBRID 5

WE LIKE

WE DON’T LIKE

BMWアクティブハイブリッド5

MODEL TESTED ◎テスト車輌概要

強力なパフォーマンス、アスリートのようなハンドリング、優れた室内の知覚品質と装備

冴えない経済性、バッジが多すぎて野暮ったいディテール、可倒式ではないリヤシート

BMWが選択したガソリンエンジンによるハイブリッドパワートレインは、エグゼクティブサルーンにふさわしいものなのか。そのマッチングを確かめる。

●モデル名:アクティブハイブリッド5●車両本体価格:850.0万円●日本発売時期:2012年3月22日●最高出力:340ps/5800rpm●最大トルク:45.9kgm/1000-5000rpm●0-97km/h加速:5.6秒●113-0km/h制動距離:45.9m●最大求心加速度:0.96G●テスト平均燃費:7.6km/ℓ●二酸化炭素排出量:160g/km

photo: Stan Papior(スタン・ペイピア)

●アダプティブヘッドライトは標準装備だ。特徴的な丸型のキセノンライトには、その向きをクルマの進行方向に向ける機能が備わる。

●キドニーグリルのメッキされたスリットは、アクティブハイブリッド5をほかの5シリーズと区別するディテールのひとつだ。

●ボンネットのなかをのぞいても、隠されたハイブリッドテクノロジーはあまり見えない。唯一、エンジンの上部にある、“ActiveHybrid”と書かれた明るいブルーの帯が、このクルマの素性を明らかにしている。

●グリルを別にすれば、もっともわかりやすい視覚的な特徴はこのモデルのカラーである。欧州仕様のアクティブハイブリッド5は、Bluewaterメタリックペイントがオーダーできる、唯一の5シリーズである。

ACJ115_P078-085_roadtest.indd 78 12/10/17 16:25

Page 2: ROAD TEST No 5064 BMW ACTIVEHYBRID 5...78 AUTOCAR 12/2012 ROAD TEST No 5064BMW ACTIVEHYBRID 5 WE LIKE WE DON’T LIKE BMWアクティブハイブリッド5 MODEL TESTED テスト車輌概要

79www.autocar.jp

●欧州ではV型スポークの17インチアルミホイールが標準だが、日本仕様で標準装着となるのが、この18インチの“ストリームライン”ホイールだ。

●BMWはしつこいまでにアクティブハイブリッド5のバッジをボディに取り付けているが、頻繁に開けることになる化石燃料の給油リッドの上にあるバッジは、このクルマの燃費を考えると皮肉に思える。

●L字型のLED式リヤライトが標準だ。これは夜間に見えるBMWの後ろ姿におけるトレードマークとなっている。

●ツインエグゾーストはガソリンエンジン搭載の5シリーズでは標準のアイテムだが、アクティブハイブリッド5のパイプは通常のポリッシュ仕上げではなく、つや消し仕上げになっている。

州での静観ムードをよそに、BMWはこのところ、世界市場向けにガソリンエンジン搭載のハイブリッド車

を売り込んでいる。彼らが欧州マーケットの主流であるディーゼルエンジン車を造っていることを考えると、これは不思議に思えるが、じつは世界最大規模の市場のいくつかにおいては、ディーゼルエンジン車がほとんど閉め出されている。したがって、世界的に見ればガソリンハイブリッド車がとくに重要な意味を持っているのだ。今年、ガソリンエンジンとモーターを搭載した興味深く前例のないBMW製サルーンが、1台のみならず2台も登場してきたのはそ

欧 ういうわけだ。 BMWは、9月に初のハイブリッド3シリーズを投入している。だが今回、われわれのロードテストの焦点はアクティブハイブリッド5に向けられた。このモデルは、ロンドン・オリンピックに供するBMWの低公害車の一環として呼び物にするのにぴったりのタイミングで発表された。3シリーズと5シリーズは、どちらも同じパラレルハイブリッド方式のパワートレインを用いる。これにより、限られた距離ながら排出ガスを出さない電動走行能力と、ディーゼルに匹敵する経済性を兼ね備え、さらにわれわれがBMWに期待する特徴的なパフォーマンスを

 クルマの電動化に対して懐疑的だったBMWが、しぶしぶながらそれを受け入れることになったのは、おそらく2000年代半ばのことだ。2005年、BMWはダイムラー・クライスラー(当時)やGMと、ハイブリッド車の技術を共同開発する契約を結んだ。そして2009年、X6アクティブハイブリッドとアクティブハイブリッド7リムジンのプロダクションモデルを発表する。だが、これらは経済性の点では、ハイブリッド車の水準にあるとはいえなかった。搭載するエンジンはV8で、また電動のみで走行する能力は備えていなかったからだ。

V8エンジンを搭載したアクティブハイブリッド7は、燃費に優れたクルマというわけではなかった。

HISTORY

電動化の転機

BMW ActiveHybrid 5 ROAD TEST ROAD TEST

ACJ115_P078-085_roadtest.indd 79 12/10/17 16:25

Page 3: ROAD TEST No 5064 BMW ACTIVEHYBRID 5...78 AUTOCAR 12/2012 ROAD TEST No 5064BMW ACTIVEHYBRID 5 WE LIKE WE DON’T LIKE BMWアクティブハイブリッド5 MODEL TESTED テスト車輌概要

80 AUTOCAR 12/2012

●アクティブハイブリッド5のエアコンは、高圧バッテリーを動力源としている。これにより、エンジン始動前に、車外から作動させることも可能となる。

●スピードメーターにはバッテリーの充電レベルと、電動だけで走行可能な距離を表示。

●たいていのプレミアムクラスのハイブリッド車と同様に、このクルマも目に見えない技術的な機能に関連する、膨大な量の情報を美しく表示する。

アクティブハイブリッド5はBluetoothで携帯電話と接続できるが、知識の豊富なスマートフォンユーザーは、広範な機能を持つコネクテッドドライブシステムを操作して、機能性を高めたくなるかもしれない。

BMWのプロフェッショナルナビゲーションシステムが標準装備に含まれているが、ひとたびiDriveの独特の操作法に慣れると、これはもっとも優れたGPSナビのひとつとなる。また、このナビは、運転状況を先読みして対応するために、ハイブリッド電子制御システムに接続されている。

このクルマのエンターテインメントの中枢をなすのが、ダッシュボードに組み込まれた10.2インチモニターである。これは標準装備だが、オプションを選択しなければ、その真のポテンシャルは発揮できない。アップグレード版のスピーカーシステムは検討の価値がある。

COMMUNICATIONS

通信システム

ON THE INSIDE

NAVIGATION

GPSナビゲーションENTERTAINMENT

エンターテインメント

ACJ115_P078-085_roadtest.indd 80 12/10/17 16:25

Page 4: ROAD TEST No 5064 BMW ACTIVEHYBRID 5...78 AUTOCAR 12/2012 ROAD TEST No 5064BMW ACTIVEHYBRID 5 WE LIKE WE DON’T LIKE BMWアクティブハイブリッド5 MODEL TESTED テスト車輌概要

81www.autocar.jp

FRONTAピラーは良好な前方視界を約束してくれるが、サルーンの常として、Bピラーが斜め後方の視界を制約している。

HEADLIGHTSアダプティブキセノンヘッドライトは、優秀な配光と照度を備える。

ペダルの配置は全般的に良好である。背の低いドライバーはスロットルペダルが理想的な快適位置よりも若干、右に寄りすぎていると感じるかもしれないが、すねがよほど短くない限り気がつかない。

実現するという。 果たして、このクルマは535dの代わりとなり得るだろうか?

DESIGN&ENGINEERING意匠と技術★★★★★★★★☆☆ BMWアクティブハイブリッド5はただのエコノミーカーではない。それを明確に物語るのが、基本パワープラントだ。現行の535iと同じターボチャージャー付き3.0ℓ6気筒エンジンなのである。モーターによるアシストがなくても、この306psのガソリンエンジンは520iに使われている4気筒エンジンよりも力強く、Eセグメントの車体を引っ張ることができる。無論、520dエフィシェントダイナミクスに搭載されたディーゼルエンジンとは比べものにならないほ

どパワフルだ。 レクサスとインフィニティが学んだのと同じように、BMWはハイブリッドのエグゼクティブサルーンで利益を生むビジネスを立ち上げるには、そのポジショニングに関して野心的にならねばならないことに気づいた。だが、そのために不可欠だったリチウムイオンバッテリーと55psのモーター、それに高圧電気システムは高コストで、アクティブハイブリッド5の価格設定は850万円と高額にせざるを得なかった。大型ガソリンエンジンがこのクルマの価格とポジショニングを正当化するためには、大食いでも必要だと見なされたのだ。 このクルマに求められるのは優れた燃費だけではない。それを考慮して、アクティブハイブリッド5には、ガソリンエンジンとモーターを合わせて340psの最高出力と、45.9kgmの

最大トルクが与えられている。パフォーマンスサルーンと見なすには十分なスペックである。 ハイブリッドシステムのコンポーネンツは見事に組み込まれている。モーターはZF製8段A/Tの直前(通常ならトルクコンバーターが置かれる位置)に設置された。ドライブトレインは2セットの湿式多板クラッチを備えており、ひとつはギヤボックスと後輪間を接続し、もうひとつは60km/h以下でエンジンとトランスミッションを切り離して、モーターが独立して車輪を駆動できるようにする。 モーターには、左右の後輪のあいだに置かれた1.35kWhのリチウムイオンバッテリーから電力が供給される。高圧回路の電圧は317Vで、エアコンの駆動もまかなっている。これによりエンジン停止中も、キャビンとバッテリーの冷却は中断されない。

HOW BIG IS IT? サイズはどれくらい?

VISIBILITY TEST 視認性テスト

WHEEL AND PEDAL ALIGNMENT ステアリングホイールとペダルの配置

●これはオプションのスポーツシートだが、5シリーズのどのモデルにも共通する、快適性とスペースのバランス感覚が備わっている。

●5シリーズは後席に大人が乗ることを考慮して設計されている。ただし、ふたりは快適に過ごせるが、3人ではやや窮屈だ。

●トランクスペースは通常の5シリーズでは520ℓだが、このモデルでは左右のリヤホイールアーチ間に収まるバッテリーのせいで、375ℓに縮小している。

BMW ActiveHybrid 5 ROAD TEST ROAD TEST ROAD TEST

標準的なシート位置での足元スペース:860mm

幅:880-1330mm

奥行き:700mm

高さ:510mm

ACJ115_P078-085_roadtest.indd 81 12/10/17 16:25

Page 5: ROAD TEST No 5064 BMW ACTIVEHYBRID 5...78 AUTOCAR 12/2012 ROAD TEST No 5064BMW ACTIVEHYBRID 5 WE LIKE WE DON’T LIKE BMWアクティブハイブリッド5 MODEL TESTED テスト車輌概要

82 AUTOCAR 12/2012

■発進加速テストトラック条件: 乾燥路面/気温9℃0-402m発進加速: 14.1秒(到達速度:164.8km/h)0-1000m発進加速: 25.3秒(到達速度:212.8km/h)

BMWアクティブハイブリッド5

BMW640d Mスポーツ

■制動距離97-0km/h制動時間:2.60秒

■ドライサーキットBMWアクティブハイブリッド5ラップタイム:1分18秒3

BMW640d Mスポーツ参考タイム:1分16秒8

■ウェットサーキットBMWアクティブハイブリッド5ラップタイム:1分16秒0

BMW640d Mスポーツ参考タイム:1分23秒5

BMWの最新ツインターボディーゼルエンジンを搭載したモデルのなかで、われわれが唯一ロードテストしたことがある640dのタイムを参考にすると、このドライサーキットではアクティブハイブリッド5よりも535dのほうが、極端な差ではないにしても速そうだ。

テクニカルなT2コーナーで持てるパフォーマンスをすべて発揮できるほど、横方向のグリップは十分ではない。

BMWのトレードマークであるバランスのよさのおかげで、T5とT7ではアンダーステアを心配せずにハイスピードを維持できる。

640dのタイムが遅いのは、テストデーの気温が極端に低かったからである。ニュートラルなハンドリングのアクティブハイブリッド5は、冠水した路面で良好な振る舞いを示したが、ダイナミックトラクションコントロールはほとんど効果がなかった。

スピードの出る左コーナーのT6では、高速スタビリティが厳しくテストされる。そこでの5シリーズは、プログレッシブかつ安定していた。

すぐさま反応するモーターのトルクのおかげで、T5とT7のコーナリング中の挙動はたやすくコントロールできた。

INTERIOR室内★★★★★★★★☆☆ 外装に関してはバッジがやや過剰すぎる感があるが、室内にはこれがアクティブハイブリッド5であることを乗員に知らしめる要素は意外なほど少ない。“ActiveHybrid”と書かれたサイドシルのキックプレートとカップホルダーに付いたバッジ以外は見慣れた5シリーズのキャビンと同じで、居心地よい空間である。 標準装備の内容はとても充実している。ダコタレザーのヒーテッドシート、プロフェッショナルマルチメディアGPSナビシステム、10.2インチのフルカラーディスプレイスクリーンなどである。マテリアルのクオリティやフィニッシュ、それに組み付けも良好だ。 さらに好ましいのは、ハイブリッドシステムのコンポーネンツが乗員スペースやエルゴノミクスを犠牲にしていない点である。リチウムイオンバッテリーパックのためにトランクの奥行きがやや短くなり、リヤシートが倒せなくなっているが、レクサスLS600hなどではトランクスペースが著しく失われていることを考慮すれば、これは許容範囲内である。大型のスーツケースやゴルフクラブ、かさばる荷物を積むための広いスペースが確保されているのだ。 黒いパネルの計器類は、通常の5シリーズと同様だ。ひとつだけ違うのはレブカウンターの真下、通常なら燃料残量系がある場所に備わるバッテリーコンディションインジケーターだ。ただし、電動システムが充電中か放電中か、あるいは停止中なのかを知りたいときは、中央に配置されたコントロールディスプレイの“ハイブリッド”モードのほうが使いやすい。

TRACK NOTESサーキットテスト

ON THE LIMIT 限界時の挙動

 全般的な傾向として、ハイブリッド車はわれわれの限界時の挙動確認テストでいい結果を出せない。それはロール剛性が低く、もともと高くはないグリップレベルを補うための、過敏にして解除できないスタビリティコントロールシステムを装備している場合が多いためで、わ

れわれのテストサーキットでは3~4周もしないうちに顎を出してしまう。 だが、アクティブハイブリッド5は例外である。ハードに走らせると、BMWの後輪駆動車が持っているアジャスタビリティ、速さ、安定性を示し、われわれがこれまでのハイブリッド車に感じてきた疎

外感がまったくないのだ。 アクティブハイブリッド5の車重はタイヤとブレーキに大きな負担をかけているが、ドライハンドリングサーキットを10周しても、深刻な問題は発生しなかった。 そして、われわれがテストしてきたほかの多くのハイブリッド車と異なり、このク

ルマはハードに走らせたときにも充電レベルは素晴らしく賢く制御され、過酷な使い方をしたにもかかわらず、サーキットでバッテリーが完全に放電してしまうことはなかった。ただ、ハイブリッド車ゆえの車重の重さが、ボディコントロールに影響を与えることがある。

ACJ115_P078-085_roadtest.indd 82 12/10/17 16:25

Page 6: ROAD TEST No 5064 BMW ACTIVEHYBRID 5...78 AUTOCAR 12/2012 ROAD TEST No 5064BMW ACTIVEHYBRID 5 WE LIKE WE DON’T LIKE BMWアクティブハイブリッド5 MODEL TESTED テスト車輌概要

83www.autocar.jp

PERFORMANCE動力性能★★★★★★☆☆☆☆ われわれがこれまでにテストしたハイブリッドサルーンで、これほど遠慮なしにハイスピードを叩き出すモデルは、このアクティブハイブリッド5がはじめてだ。テスト結果は0 -97km/hが 5 .6 秒、48 -113km/hは 5 .0 秒、0 -402mは14.1秒だった。参考のために記載しておくと、48 -113km/hと0 -402mのタイムはE39型M5が記録した数値とまったく同じである。いうまでもなく、それは13年前、世界最速4ドアの一台だったクルマだ。 では、現代における最新ディーゼルモデルの535dよりも速いのかといえば、そこまでではないというのが実際のところだ。だが、このアクティブハイブリッド5で得られるスピード感は間違いなく535dよりも魅力的で、しかもそれが持続する。モーターはドライバーが右足を踏み込んだ瞬間に反応し、低回転域から病みつきになるような勢いで回りはじめる。そして高回転域では、6気筒ターボがBMWらしい驚異的なスムーズさを発揮する。8段ギヤボックスはオートモードでは賢く、マニュアルモードでは素早くシフトする。通常、ハイブリッド車はドライバーが速く走らせようとしたとき、前進する勢いよりもトランスミッションのスリップのほうが大きい。だが、このモデルは全域を使い切ることができ、ほかの直接的なライバルに比べてはるかに走らせ甲斐がある。 だが、そうした速さや元気さと引き替えに覚悟しなければならない代償がある。経済性だ。 現実的な使用条件において、アクティブハイブリッド5は、燃費に優れたクルマだとはお世

辞にもいえない。われわれは、さまざまな条件下で1500km以上におよぶ距離を走らせたのだが、平均燃費はわずか7.6km/ℓであった。そのスポーティなキャラクターを考慮すればカントリーロードを飛ばすこともあるだろうし、そうしたシチュエーションならばこの数字も多少は正当化できよう。だが、10・15モードで14 .6km/ℓ、JC08モードでも13 .6km/ℓの公称燃費はひどい過大評価に思えてしまう。 充電フェーズは賢く制御されているが、高圧バッテリーのキャパシティは非常に限られており、それも燃費が伸びない一因である。BMWによれば、電力だけで3.2kmを低速走行できる容量を持つというが、われわれの経験では、ほぼフル充電状態でも、1km足らずの高速道路の渋滞で発進と停止を繰り返しただけで充電を使い切ることがあったほどだ。

RIDE&HANDLING乗り心地と操縦安定性★★★★★★★★☆☆ BMW5シリーズは、目隠ししていてもわかるようなドライビングダイナミクスを備えている。現行モデルの重厚でレスポンスに優れたステアリングと強力なボディコントロール、落ち着いたコーナリングマナーは、あらゆる派生車種に共通している。それらがミディアムサイズのBMWをきわめて特徴的で、ほかのどんなサルーンにもまず負けないほどドライビングが魅力的なクルマにしている。 アクティブハイブリッド5のハンドリングも例外ではない。ほかの5シリーズ系モデルと同様、ビジネススーツを着たアスリートのような感覚だ。運動能力のキャラクターは、ほかのクルマなら対応しきれないような大きな試練が与えられた

UNDER THE SKIN 先読みシステムの導入

 アクティブハイブリッド5で、心臓部のハードウェアにおけるエンジニアリングと変わらないくらい素晴らしいのが、その鼓動を制御するソフトウェアである。ハイブリッド車は、さまざまな状況において内燃エンジンと電気モーターのあいだでもっとも経済的な相互作用を実現するため、複雑で高度なマネジメントシステムが必要とされてきた。そして、各メーカーで現在、主流となっているのは、単に受け身で反応するのではなく、先読みをするシステムである。 BMWでは、アクティブハイブリッド5に標準装備されたGPSナビゲーションシステムを、内部のコンピューターに接続するところまできている。これにより、車両の進行に伴って、これからパワートレイン

に与えられるかもしれない要求を、あらかじめ分析するのだ。前方の地形と道路の速度制限に関する情報を得て、ソフトウェアは作動ストラテジーをそれに合わせることができる。たとえば、長い下り坂が近づいていれば、モーターの発電機能を働かせて、速度や燃費に不都合を生じさせずに車載バッテリーを充電させることが可能だと認識するのである。 賢い機能だが、BMWによると、その有効性はナビゲーションデータのクオリティに依存するという。これはつまり、目的地到着の直前にコンビニに立ち寄ってオートカーとチョコレートを買うようなことはせず、あらかじめ計画された500kmのルートをそのままトレースするほうが、燃費的には望ましいということだ。

●アクティブハイブリッドの電気モーターは複雑で高度なエレクトロニクスを用いて、ガソリンエンジンと連携して働く。

●先進のソフトウェアがGPSナビの地形データを活用し、パワートレインへの要求を先読みしてそれに備える。アウディも同様のシステムを用いて、CVTギヤボックスの動作の最適化を補助している。

BMW ActiveHybrid 5 ROAD TEST ROAD TEST ROAD TEST

ハイブリッドゆえの車重増加分で、ボディコントロールには妥協が見られる。

ACJ115_P078-085_roadtest.indd 83 12/10/17 16:25

Page 7: ROAD TEST No 5064 BMW ACTIVEHYBRID 5...78 AUTOCAR 12/2012 ROAD TEST No 5064BMW ACTIVEHYBRID 5 WE LIKE WE DON’T LIKE BMWアクティブハイブリッド5 MODEL TESTED テスト車輌概要

84 AUTOCAR 12/2012

とき、明確に現れる。グリップとダンピングはかなりのレベルで、ハンドリングはバランスが取れており、正確で安定しているうえに繊細だ。比較すると、限界付近では535d Mスポーツのほうがもう少しハードに耐えるが、それが必ずしも速いロードカーとしてより優れていることを意味するわけではないと思えてくる。たとえば日産フーガ・ハイブリッドは、ハンドリングの愉しさなどほとんど得られない。 テスト車両はダイナミックダンピングコントロール(18万8000円のオプション)を装着しており、それがおそらく標準仕様では達し得ない能力の幅をもたらしていた。“スポーツプラス”モードではスポーツサルーンならでは落ち着きとステアリングレスポンスが得られ、“コンフォート”モードでは日常ユースに適したしなやかで快適な乗り心地が得られる。だが、おそらくこれを装備したアクティブハイブリッド5よりも、ベーシックな520dのほうが若干だが乗り心地に優れている。荒れた路面では、ソフトなサスペンションモードだと、ハイブリッド車の増加した重量によって制御しきれず、好ましくないボディの動きが発生する。 けれどこれは、それ以外では優れたハンドリングを見せるなかでの些細な不満である。このクルマは、純粋にドライビングのためだけにガレージから出したいと思う、唯一のハイブリッド車である。

BUYING&OWNING購入と維持★★★☆☆☆☆☆☆☆ 現実的な使用条件における燃費がよくない点は、無視も許容もできない欠点である。BMWは税制上のアドバンテージをアピールするだろう。われわれはこのクラスのトップにジャガーXFに選んでいるが、代わりにアクティブハイブリッド5を買えば、取得税と重量税は免除され、自動車税は50%も節約できる。約42万円という優遇額は魅力的だ。しかし、XFの3.0ℓモデルなら高級グレードでも694万円であり、850万円も出せば5.0ℓモデルでもお釣りがくる。その差を埋め合わせるには、やや説得力に欠けるといわざるを得ない。 リセールバリューは、競合するレクサスとインフィニティのハイブリッド車に比べれば、きわめて良好である。だが、ハイパフォーマンスと低ランニングコストをよりうまく融合させたディーゼルのエグゼクティブサルーンに比べると、さほど大きな差にはなっていない。

0.3sec125kg

■エンジン駆動方式: 縦置き後輪駆動形式: 直列6気筒ターボ, 2979ccブロック/ヘッド: アルミ軽合金ボア×ストローク: φ84.0×89.6mm圧縮比: 10.2:1バルブ配置: 4バルブDOHC最高出力: 306ps/5800rpm最大トルク: 40.8kgm/1200-5000rpm電気モーター: 交流同期式, 55ps, 21.4kgm総合最高出力: 340ps/5800rpm総合最大トルク: 45.9kgm/1000-5000rpm馬力荷重比: 173ps/tトルク荷重比: 23.4kgm/t

■エンジン性能曲線

■今月の数字

■メカニカルレイアウト アクティブハイブリッド5は、前後に長いエンジンと後輪駆動を組み合わせた通常の5シリーズのレイアウトに、うまく適合されている。電気モーターは、通常ならトルクコンバーターが置かれるトランスミッションのベルハウジングに配置されるが、車両後方にマウントされたリチウムイオンバッテリーにより、前後重量配分が均等化されるのだ。

■燃料消費率オートカー実測値 消費率総平均 7.6km/ℓツーリング 11.8km/ℓ動力性能計測時 3.4km/ℓメーカー公表値 消費率市街地 16.4km/ℓ郊外 13.7km/ℓ混合 14.7km/ℓ燃料タンク容量 69ℓ現実的な航続距離 524kmCO₂排出量 160g/km

■発進加速

実測車速mph(km/h) 秒

30 (48) 2.140 (64) 3.150 (80) 4.160 (97) 5.670 (113) 7.180 (129) 8.990 (145) 11.0100 (161) 13.5110 (177) 16.5120 (193) 20.0130 (209) 24.2140 (225) 30.1150 (241) -160 (257) -

■サスペンション前: ダブルウィッシュボーン/コイル+ スタビライザー後:マルチリンク/コイル+スタビライザー

■ステアリング形式: ラック&ピニオン (電動アシスト)ロック・トゥ・ロック: 3.1回転最小回転半径: 6.00m

■ブレーキ前:φ348mm通気冷却式ディスク後:φ345mm通気冷却式ディスク

■中間加速〈秒〉mph (km/h) 2nd 3rd 4th 5th 6th 7th 8th

20-40 (32-64) 2.0 2.8 - - - - -30-50 (40-80) 2.1 2.8 3.5 4.5 6.040-60 (64-97) - 2.9 3.6 4.7 6.1 7.5 10.850-70 (80-113) - 3.0 3.7 4.8 6.4 7.8 10.560-80 (97-129) - 3.3 3.9 5.0 6.6 8.3 11.170-90 (113-145) - - 4.1 5.1 7.0 8.8 12.380-100 (129-161) - - 4.7 5.4 7.3 9.4 13.690-110 (145-177) - - 5.9 5.8 7.7 10.1 -100-120 (161-193) - - 6.3 8.8 - - -110-130 (177-209) - - 7.6 10.4 - - -120-140 (193-225) - - - - - - -130-150 (209-241) - - - - - - -140-160 (193-257) - - - - - - -

■最高速

■シャシー/ボディ構造: スティールモノコック車両重量: 1960/1945kg(実測)抗力係数: 0.28ホイール: 8.0J×18inタイヤ: 245/45R18スペアタイヤ: なし(ランフラット)

■変速機形式:8段オートマティックギヤ比/1000rpm時車速〈km/h〉①4.71/9.3②3.14/13.8③2.11/20.6④1.67/26.1⑤1.29/33.8⑥1.00/43.6⑦0.84/51.8⑧0.67/65.0最終減速比:2.93

■静粛性アイドリング:44dB3速最高回転時:77dB3速48km/h走行時:59dB3速80km/h走行時:61dB3速113km/h走行時:64dB

■安全装備DSC, DTC, CBC, DBCEuro N CAP/ 5つ星乗員保護性能/成人:95%, 子供:83%歩行者保護性能:78%安全補助装置性能:100%

注意事項:馬力荷重比とトルク荷重比の計算にはメーカー公称車両重量を使用しています。 © Autocar 2012. テスト結果は権利者の書面による承諾なしに転用することはできません。

一部バックナンバーは www.autocar.jp に掲載されています。

0-97km/h加速は先々代のE39型M5よりも、この数値分だけ遅い。一方、自動変速に任せた際の48-113km/h加速は、5.0秒でぴったり同じ。

535i SEとアクティブハイブリッド5の、公称車重の差。

ROAD TEST

DATA LOG計測テストデータ

ACJ115_P078-085_roadtest.indd 84 12/10/17 16:25

Page 8: ROAD TEST No 5064 BMW ACTIVEHYBRID 5...78 AUTOCAR 12/2012 ROAD TEST No 5064BMW ACTIVEHYBRID 5 WE LIKE WE DON’T LIKE BMWアクティブハイブリッド5 MODEL TESTED テスト車輌概要

85www.autocar.jp

TOP FIVE

BMW ActiveHybrid 5 ROAD TEST ROAD TEST ROAD TEST

TESTERS’ NOTES●テスターのひと言コメント

SPEC ADVICE●購入にあたっての助言

JOBS FOR THEFACELIFT●マイナーチェンジ時に望むこと

スロットルを微調整して電動のみのモードだけで走ろうとすると、相変わらず苦労する。なぜ、バッテリーから電気を供給可能なあいだはずっとモーターのみで走行できるボタンを付けないのだろうか?

マット・ソーンダース

6気筒ガソリンエンジンがトップエンドでこれほど魅力的なサウンドを発しなければ、経済性は多少よくなるのではないか。このクルマだけは、病みつきになるようなサウンドよりも、騒音のない洗練さを重要視すべきかもしれない。 ニック・キャケット

アクティブハイブリッド5には充実した標準装備が与えられているが、長距離を走る人であれば、オプションのダイナミックダンパーコントロールを選ぶべきだ。これはなめらかな走りのコンフォートモードを選択可能にする。

・ 現実的な使用条件での燃費をもっと高めてほしい。・ 高圧バッテリーの容量を増やしてほしい。もっと電力が持続すれば魅力が高まる。

ROAD TEST No 5064

AUTOCAR VERDICT ●オートカーの結論

★★★★★★☆☆☆☆

BMW ACTIVEHYBRID 5「スポーティなハイブリッド5シリーズだが、 経済性に不備があっては主役にはなれない」

の真にスポーティなハイブリッドサルーンをマーケットに投入するBMWの企ては、うまくいくと思われてい

た。実際にアクティブハイブリッド5を運転してみて、BMWのモデルレンジをハイブリッド化する計画の大きな要素として、ドライビングの愉しみがあることが再確認できた。その点については大きな拍手を贈りたい。 だが、ディーゼルが主流となっている欧州は、このようなクルマにとってむずかしい市場であることがわかった。パフォーマンスは魅力的だが、アクティブハイブリッド5は経済性の点から

見て、スポーティなディーゼルサルーンという選択肢を捨ててまで選びたいモデルではとうていない。ガソリンエンジンの活発さと引き替えと考えれば、1km/ℓ程度の犠牲ならまだ許容できる。だが、7km/ℓ台という燃費ではとても納得できない(535dは12~13km/ℓは走る)。 世界的に見れば、ディーゼルよりハイブリッドを好む国もあるので、このクルマにはもっと大きな展望が開けているだろう。だが、英国をはじめとする欧州市場で関心を集めるには、もっと経済性に優れたハイブリッド車が必要である。

われわれはこう考える

結論

車両価格最高出力最大トルク0-97km/h加速最高速度燃料消費率(混合)車輌重量(公称値)CO₂排出量

甘美でナチュラルなハンドリングを備えたXFは、スポーティディーゼルエグゼクティブカーのナンバーワンだ。

★★★★★★★★★☆

JAGUARXF 3.0D S Premium LxジャガーXF 3.0D S プレミアムLX

邦貨換算約850万円276ps/4000rpm61.1kgm/2000rpm5.9秒(0-100km/h公称)250km/h(リミッター)15.9km/ℓ1810kg169g/km

このレベルではパフォーマンスのパンチに欠けるが、クラッシーなオールラウンダーとしての魅力はある。

★★★★★★★★☆☆

MERCEDES-BENZE350 CDI Sportメルセデス・ベンツE350CDIスポーツ

邦貨換算約760万円265ps/3800rpm63.2kgm/1600-2400rpm6.2秒(0-100km/h公称)250km/h(リミッター)16.7km/ℓ1835kg159g/km

驚くほどスポーティだが、現実的な経済性はよくない。

★★★★★★☆☆☆☆

BMWActiveHybrid 5BMWアクティブハイブリッド5

850.0万円340ps/5800rpm45.9kgm/1000-5000rpm5.6秒250km/h(リミッター)17.6km/ℓ1960kg160g/km

パワートレインは素晴らしいが、ハンドリングが愉しくない。

★★★★★★★★☆☆

BMW535d SEBMW535d SE

邦貨換算約810万円313ps/4400rpm64.2kgm/1500-2500rpm5.5秒(0-100km/h公称)250km/h(リミッター)18.5km/ℓ1800kg142g/km

ドライバーズカーではないが、所有する喜びは得られる。

★★★★★★★☆☆☆

AUDIA6 BiTDI quattro SEアウディA6 BiTDIクワトロSE

邦貨換算約920万円313ps/3900-4500rpm66.2kgm/1450-2800rpm5.1秒(0-100km/h公称)250km/h(リミッター)15.6km/ℓ1790kg169g/km

2nd1st 3rd 4th 5th

ACJ115_P078-085_roadtest.indd 85 12/10/17 16:25