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IVR 会誌 Jpn J Intervent Radiol 22, 2007. 2006 11 26 日から 12 1 日まで 米国シカゴのマコーミックプレイスで 開催された Radiologic Society of North America 92 nd Scientific Assenbly and Annual Meeting RSNA)に日本 IVR 2006 年度国際交流促進制度の援助 を受けて参加いたしました。 Vascular/Interventional”のセッショ ンの scientific poster および scientific paper の中から主に塞栓療法に関連し た演題を中心にレビューいたします。 LL-VI2023-H03 : Work-in-Progress : Transarterial Chemoembolization with Drug-eluting Beads(PRECISION TACE) in a Single-Centre Experience HCC に対して DC Beads TM という hydrogel microsphere TAE を行った 初期経験。 DC Beads TM の特徴は biocompatible, hydrophilic, non-resorbable, precisely calibrated という点である。基礎的検 討では抗癌剤の血中濃度がピークに達 する時間は薬剤を動注した場合と同程 度で約 20 分後であるが,血中濃度自 体は動注した場合よりはるかに低値で あるという利点,腫瘍内での薬剤濃度 のピークが約 80 時間後で,その後減 少しプラトーに達するのが約 160 時間 程度後であり,腫瘍床における抗癌剤 の長期の除放効果が期待されるという 利点を有する。粒子径は 100 300 ㎛, 300 500 ㎛,600 700 ㎛,700 900 ㎛の 4 種類がある。この粒子とファル モルビシンを用いた PRECISION TACE pTACE32 例,100700 ㎛の粒子と 40 110 ㎎のファルモルビシンを用い 3F マイクロカテーテルでsuperselective TAE)と従来のゼルフォルムとリピ オドールを用いた conventional TACE cTACE30 例,5 30 ㎖のリピオ ドールと 10 70 ㎎のファルモルビシ ンを用い 3F あるいは 5F カテーテルで selective TAE)の安全性(副作用), 1 ヵ月後,6 ヵ月後の治療効果を比 較している。副作用は発熱が pTACE 取が IL-6 値を有意に上昇させることを 背景に,RFA PEI で治療した肝腫瘍 患者で免疫系,酸化ストレスの状態を 検討している。具体的にはHCC 15 例, 肝転移 10 例の 25 例(RFA 13 例,PEI 12 例)と正常コントロール 7 例を対象 に治療 30 分前,30 分後,1 日後,5 後の 4 回採血し単球の HLA-DR 発現, IL-6TNF tumor necrosis factor), PCT procalcitonin),peroxidase 濃度, antioxidative capacityGlutathione どを比較している。HLA-DR 発現は RFAPEI とも有意に減少し,特に PEI でより高度であった。これは PEI でより感染のリスクが高いことを示 唆している。IL-6 値は 1 日後,5 日後 に有意に上昇し特に PEI で高値を示し た。Peroxidase 濃度は加療により 5 後に有意に上昇を呈した。以上から結 論として経皮的療法後は一過性に免疫 抑制・酸化ストレスが発生し,特にそ の傾向は RFA より PEI で高度であると 述べている。 SSC03-01 Long-term Chemo- embolization Outcomes for Patients with Hepatic Metastases from Neuro- endocrine Tumors 31 例のカルチノイドおよび 15 の膵島腫瘍の肝転移に対して 93 回の TACE を行い長期予後の検討を行っ た。生存率は平均 3.5 年であった。肝 外転移が存在する場合でも TACE によ 16%,cTACE 34%と pTACE で少ない 以外はほぼ同等であった。 一方,治療効果は 1 ヵ月後の CR pTACE 53%,cTACE 78%で有意 pTACE が悪いが,6 ヵ月後では両 者に差がないという結果であった。本 検討は pTACE では副作用が少ないと いう利点はあるが 1 ヵ月後の CR が少 ないという negative な結果であった。 pTACE においては腫瘍サイズを 3 ㎝以 下に限定すると有意に CR が多くなる 点,6 ヵ月以上の長期経過を確認して いない点などを考慮して study design をかえて更に検討する必要があるとし ている。 LL-VI2001-B01 : Transient Immuno- suppression and Oxidative Stress Following Percutaneous Ablation of Liver Tumors 外傷や外科手術,炎症の際には免疫 系の機能変化がみられること,腹腔鏡 下胆嚢摘出術後には血中 IL-6 のレベル が有意に上昇すること,アルコール摂 RSNA2006 参 加 印 象 記 日本 IVR 学会 国際交流促進制度 金沢大学 放射線科 小林 聡 図 オヘア空港の CTA 駅。 今回,空港とダウンタウンの間の移動に電車(CTA ブルーライン)を利用しました。時間はタクシーよ りややかかり,また,空港からホテルまで door to doorではないので天候が悪い場合は不便ですが料 金は片道 2 ドルと激安でした。 9696

RSNA2006 参 加 印 象 記 国際交流促進制度 日本IVR学会IVR 会誌 Jpn J Intervent Radiol 22, 2007. 2006年11月26日から12月1日まで 米国シカゴのマコーミックプレイスで

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Page 1: RSNA2006 参 加 印 象 記 国際交流促進制度 日本IVR学会IVR 会誌 Jpn J Intervent Radiol 22, 2007. 2006年11月26日から12月1日まで 米国シカゴのマコーミックプレイスで

IVR 会誌 Jpn J Intervent Radiol 22, 2007.

 2006年11月26日から12月1日まで米国シカゴのマコーミックプレイスで開催されたRadiologic Society of North America 92nd Scientific Assenbly and Annual Meeting(RSNA)に日本 IVR学会2006年度国際交流促進制度の援助を受けて参加いたしました。 “Vascular/Interventional”のセッションのscientific posterおよびscientific paperの中から主に塞栓療法に関連した演題を中心にレビューいたします。

LL-VI2023-H03 : Work-in-Progress : Transarterial Chemoembolization with Drug-eluting Beads(PRECISION TACE)in a Single-Centre Experience

 HCCに対してDC BeadsTMというhydrogel microsphereでTAEを行った初期経験。 DC BeadsTMの特徴はbiocompatible, hydrophilic, non-resorbable, precisely calibratedという点である。基礎的検討では抗癌剤の血中濃度がピークに達する時間は薬剤を動注した場合と同程度で約20分後であるが,血中濃度自体は動注した場合よりはるかに低値であるという利点,腫瘍内での薬剤濃度のピークが約80時間後で,その後減少しプラトーに達するのが約160時間程度後であり,腫瘍床における抗癌剤の長期の除放効果が期待されるという利点を有する。粒子径は100~300㎛,300~500㎛,600~700㎛,700~900㎛の4種類がある。この粒子とファルモルビシンを用いたPRECISION TACE(pTACE;32例,100~700㎛の粒子と40~110㎎のファルモルビシンを用い3FマイクロカテーテルでsuperselectiveにTAE)と従来のゼルフォルムとリピオドールを用いたconventional TACE(cTACE;30例,5~ 30㎖のリピオドールと10~70㎎のファルモルビシンを用い3Fあるいは5FカテーテルでselectiveにTAE)の安全性(副作用),1ヵ月後,6ヵ月後の治療効果を比較している。副作用は発熱がpTACE

取が IL-6値を有意に上昇させることを背景に,RFAやPEIで治療した肝腫瘍患者で免疫系,酸化ストレスの状態を検討している。具体的にはHCC 15例,肝転移 10例の 25例(RFA 13例,PEI 12例)と正常コントロール7例を対象に治療30分前,30分後,1日後,5日後の 4回採血し単球のHLA-DR発現,IL-6,TNF(tumor necrosis factor),PCT(procalcitonin),peroxidase濃度,antioxidative capacity,Glutathioneなどを比較している。HLA-DR発現はRFA,PEIとも有意に減少し,特にPEIでより高度であった。これはPEIでより感染のリスクが高いことを示唆している。IL-6値は 1日後,5日後に有意に上昇し特にPEIで高値を示した。Peroxidase濃度は加療により5日後に有意に上昇を呈した。以上から結論として経皮的療法後は一過性に免疫抑制・酸化ストレスが発生し,特にその傾向はRFAよりPEIで高度であると述べている。

SSC03-01 Long - t e rm Chemo -embolization Outcomes for Patients with Hepatic Metastases from Neuro-endocrine Tumors

 31例のカルチノイドおよび 15例の膵島腫瘍の肝転移に対して93回のTACEを行い長期予後の検討を行った。生存率は平均3.5年であった。肝外転移が存在する場合でもTACEによ

16%,cTACE 34%とpTACEで少ない以外はほぼ同等であった。 一方,治療効果は1ヵ月後のCRがpTACEで53%,cTACEで78%で有意にpTACEが悪いが,6ヵ月後では両者に差がないという結果であった。本検討はpTACEでは副作用が少ないという利点はあるが1ヵ月後のCRが少ないというnegativeな結果であった。pTACEにおいては腫瘍サイズを3㎝以下に限定すると有意にCRが多くなる点,6ヵ月以上の長期経過を確認していない点などを考慮してstudy designをかえて更に検討する必要があるとしている。

LL-VI2001-B01 : Transient Immuno-suppression and Oxidative Stress Following Percutaneous Ablation of Liver Tumors

 外傷や外科手術,炎症の際には免疫系の機能変化がみられること,腹腔鏡下胆嚢摘出術後には血中 IL-6のレベルが有意に上昇すること,アルコール摂

RSNA2006 参 加 印 象 記

日本 IVR学会国際交流促進制度

金沢大学 放射線科 小林 聡

図 オヘア空港のCTA駅。今回,空港とダウンタウンの間の移動に電車(CTAブルーライン)を利用しました。時間はタクシーよりややかかり,また,空港からホテルまでdoor to doorではないので天候が悪い場合は不便ですが料金は片道2ドルと激安でした。

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Page 2: RSNA2006 参 加 印 象 記 国際交流促進制度 日本IVR学会IVR 会誌 Jpn J Intervent Radiol 22, 2007. 2006年11月26日から12月1日まで 米国シカゴのマコーミックプレイスで

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る症状の改善が多くの場合で得られることから肝外転移や切除不能原発巣の存在はTACEの適応を左右しないとしている。

SSC03-02 Exper imenta l Study on Transarterial Administration of GRGDSP Combined with Transarterial Chemoembolization in Rats with Hepatic Carcinoma

 フィブロネクチンは細胞接着に関与する細胞表面蛋白質で,そのレセプターであるインテグリンと結合し,着床等の癌細胞の転移過程で重要な役割を果たすとされている。そこで,GRGDSPというインテグリンの認識部を競合阻害する合成アンタゴニストを併用したTACEを行うことによりフィブロネクチンの作用を阻害し,肝腫瘍の転移発生や周囲への invasive growthを抑制することができるのではないかという着想から行われた動物実験。ラット肝癌モデルを作成しTACE前とTACE 12日後の比較をしたところ,GRGDSP併用TACE群で腫瘍増大率の低下と肝内転移の出現の低下がみられた。なお,GRGDSPによる副作用・合併症の有無に関する検討はまだなされていないとのことであった。

SSC03-03 Chemoembol iza t ion of Unresectable Hepatocellular Carcinoma with Doxorubicin Loaded Microspheres : A Pilot Study

 前出のDC BeadsTMを使用したイギリスからの報告で,6ヵ月後のCRの率が 27%であり文献的検討にてDC BeadsTMを使用した塞栓術は従来の塞栓療法と比較して遜色ない効果であると結論づけている。

た検討。90日後に画像評価可能であった23例ではstable diseaseが70%,PRが8.7%,PDが22%と短期効果は75%以上と良好な結果が得られ,また副作用としてのビリルビン上昇の頻度も10%以下とわずかであった。

SSC03-07 Radiofrequency Ablation(RFA)afte r Se lect ive In te rna l Radiation Therapy of Hepatic Tumors with Yttrium90 Microspheres-Is It Feasible?

 Minimally invasive therapyを組み合わせることで進行肝腫瘍をCRにできないかという試み。Y90レジン微小球であるSIR-SphereTMを用いたSelective Internal Radiation Therapy(SIRT)を施行した進行肝腫瘍51例のうち,経過観察可能であった46例中5例で腫瘍数が5個以下,腫瘍径4~5㎝以下となりRFAの施行が可能となり残存腫瘍の完全焼灼を行い得た。奏功した症例数が少ないという limitationはあるものの,SIRTとRFAの組み合わせによりCR例を増やせる可能性があると述べている。

SSC03-09 Y t t r i um -90 R ad i o -embolization Therapy for Metastatic Neuroendocrine Tumors to the Liver

 Y90 radioembolization の neuro-endicrine tumorに対する効果の検討。前出のガラス微小球,レジン微小球の両者が対象に含まれている。27例38肝葉に対して radioembolizationを行い,PRあるいはstable diseaseの率は1ヵ月後で右葉92%,左葉86%,3ヵ月後で右葉89%,左葉100%と良好であり肝毒性の発現もわずかであった。

SSC03-04 T ransa r t e r i a l Gene Therapy and Compare with Other Therapies : A Comparative Study in an Animal HCC Model

 p53遺伝子は正常細胞に存在する最も重要ながん抑制遺伝子の一種である。正常細胞では,p53遺伝子がごく低レベルで発現しているが,その発現の活性化が生じると細胞周期の停止もしくはアポトーシス細胞死が起こるとされている。Ad-p53(GendicineTM)は腫瘍細胞上のコクサッキーアデノウイルスレセプターと結合しレセプター介在性の食作用によって腫瘍細胞内に 入り込み,p53遺伝子を過剰発現し複数の抗腫瘍作用の引き金となる。このAd-p53をTACE時に併用することで,よりTACEの効果を高めることができるのではないかという仮説のもとウサギVX2腫瘍に対してTACEを行った検討であるが,Ad-p53注入のみ,Ad-p53+Lipiodol,MMC+Lipiodol,コントロールの4群で比較したところAd-p53+ Lipiodol,MMC+ Lipiodolの2群で有意に腫瘍増加率の低下をみたが2群間には差がなかった。この結果がAd-p53の効果といえるのか,それとも単にLipiodolの効果なのかに関して疑問が残るが “時差ぼけ” で気を失っていたためディスカッションの内容については不明である(申し訳ありません)。

SSC03-05 Yttrium-90 Treatment of Metastatic Breast Carcinoma to the Liver

 Y90の粒子にはガラス微小球とレジン微小球があるが,ガラス微小球であるTherasphereTMを用いて乳癌肝転移患者に対して radioembolizationを行っ