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特 集 3. アンチエイジングからサルコペニアを考える Sarcopenia from a perspective of anti-aging Anti-aging Science Vol.7 No.2 2015 2896に対するアンチエイジングとしての 栄養療法,運動療法,薬物療法,お よび二次性サルコペニアに対するリ ハビリテーション栄養について解説 する. 原発性サルコペニア 加齢とともに骨格筋は筋線維の数 が減少し,筋線維自体も萎縮する. 加齢によるサルコペニアで主に萎 縮するのは type 2 筋線維(速筋,白 筋)である.一方,廃用性筋萎縮で は主に type 1 筋線維(遅筋,赤筋)が 萎縮する.廃用性筋萎縮とは異なり, 運動ニューロンと運動単位数が減少 する.骨格筋再生に重要な筋芽細胞 に分化する筋衛星細胞の数も減少し, 筋芽細胞への分化も抑制される. 原発性サルコペニアの確定的な要 因は不明であるが,栄養,身体活 動,ホルモン,炎症など多くの要因 の関与が考えられている.栄養では 蛋白質やビタミン D の摂取量の不 足が,筋肉量減少や筋力低下に関与 している可能性がある.身体活動量 が低下することで筋肉は萎縮しやす く,廃用性筋萎縮を合併することが ある.加齢とともにテストステロ ン,エストロゲン,成長ホルモンと いった同化促進ホルモンの血中濃度 が低下する.高齢者では,炎症性サ イトカインである Interleukin-6 Tumor Necrosis Factor-a の産生が 増加する. 急性筋萎縮の蛋白質分解で重要な ユビキチン-プロテアソーム経路は, サルコペニア時の筋萎縮に関与して いない可能性が高い 2.一方,オー トファジー経路の障害がサルコペニ アに深く関与していると考えられて いる 2.筋肉自身が分泌するマイオ カインもサルコペニアに関与する 3はじめに サルコペニアは進行性,全身性に 認める筋肉量減少と筋力低下であり, 身体機能障害,QOL 低下,死のリ スクを伴うと European Working Group on Sarcopenia in Older People EWGSOP)で定義された 1.以前は 加齢による筋肉量減少をサルコペニ アとしていた.しかし現在の定義で は,筋力低下もしくは身体機能低下 を伴わない筋肉量減少は,前サルコ ペニアでありサルコペニアではない. 加齢のみが原因の場合を原発性 サルコペニア,その他の原因(活動, 栄養,疾患)の場合を二次性サルコ ペニアと分類する(表11.アンチ エイジングからサルコペニアを考え る場合,主なターゲットは原発性サ ルコペニアである.しかし,二次性 サルコペニアを考慮せずにアンチエ イジングの視点のみで対応すると, 逆効果となる場合がある.本稿では ロコモティブシンドロームとサルコ ペニアの関係,原発性サルコペニア Key Words 原発性サルコペニア 二次性サルコペニア サルコペニア肥満 ロコモティブシンドローム リハビリテーション栄養 横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科診療講師  若林 秀隆 Hidetaka Wakabayashi アンチエイジングサイエンスからロコモティブシンドロームを考える 表1 サルコペニアの原因 原発性サルコペニア 加齢の影響のみで,活動・栄養・疾患の影響はない 二次性サルコペニア 活動によるサルコペニア:廃用性筋萎縮,無重力 栄養によるサルコペニア:飢餓,エネルギー摂取量不足 疾患によるサルコペニア 侵襲:急性疾患・炎症(手術,外傷,熱傷,急性感染症など) 悪液質:慢性疾患・炎症(癌,慢性心不全,慢性腎不全,慢性呼吸不全,慢性肝不全, 膠原病,慢性感染症など) 原疾患:筋萎縮性側索硬化症,多発性筋炎,甲状腺機能亢進症など SAMPLE Copyright(c) Medical Review Co.,Ltd.

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特 集特特

3. アンチエイジングからサルコペニアを考えるSarcopenia from a perspective of anti-aging

Anti-aging Science Vol.7 No.2 201528(96)

に対するアンチエイジングとしての栄養療法,運動療法,薬物療法,および二次性サルコペニアに対するリハビリテーション栄養について解説する.

原発性サルコペニアⅡ加齢とともに骨格筋は筋線維の数が減少し,筋線維自体も萎縮する.加齢によるサルコペニアで主に萎縮するのは type 2筋線維(速筋,白筋)である.一方,廃用性筋萎縮では主に type 1筋線維(遅筋,赤筋)が萎縮する.廃用性筋萎縮とは異なり,運動ニューロンと運動単位数が減少する.骨格筋再生に重要な筋芽細胞に分化する筋衛星細胞の数も減少し,筋芽細胞への分化も抑制される.原発性サルコペニアの確定的な要因は不明であるが,栄養,身体活動,ホルモン,炎症など多くの要因

の関与が考えられている.栄養では蛋白質やビタミン Dの摂取量の不足が,筋肉量減少や筋力低下に関与している可能性がある.身体活動量が低下することで筋肉は萎縮しやすく,廃用性筋萎縮を合併することがある.加齢とともにテストステロン,エストロゲン,成長ホルモンといった同化促進ホルモンの血中濃度が低下する.高齢者では,炎症性サイトカインである Interleukin-6やTumor Necrosis Factor-aの産生が増加する.急性筋萎縮の蛋白質分解で重要なユビキチン-プロテアソーム経路は,サルコペニア時の筋萎縮に関与していない可能性が高い2).一方,オートファジー経路の障害がサルコペニアに深く関与していると考えられている2).筋肉自身が分泌するマイオカインもサルコペニアに関与する3).

はじめにⅠサルコペニアは進行性,全身性に認める筋肉量減少と筋力低下であり,身体機能障害,QOL低下,死のリスクを伴うと European Working

Group on Sarcopenia in Older People

(EWGSOP)で定義された1).以前は加齢による筋肉量減少をサルコペニアとしていた.しかし現在の定義では,筋力低下もしくは身体機能低下を伴わない筋肉量減少は,前サルコペニアでありサルコペニアではない.加齢のみが原因の場合を原発性サルコペニア,その他の原因(活動,栄養,疾患)の場合を二次性サルコペニアと分類する(表1)1).アンチエイジングからサルコペニアを考える場合,主なターゲットは原発性サルコペニアである.しかし,二次性サルコペニアを考慮せずにアンチエイジングの視点のみで対応すると,逆効果となる場合がある.本稿ではロコモティブシンドロームとサルコペニアの関係,原発性サルコペニア

Key Words

●原発性サルコペニア●二次性サルコペニア●サルコペニア肥満●ロコモティブシンドローム●リハビリテーション栄養

横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科診療講師 若林 秀隆 Hidetaka Wakabayashi

アンチエイジングサイエンスからロコモティブシンドロームを考える

表 1 サルコペニアの原因

原発性サルコペニア 加齢の影響のみで,活動・栄養・疾患の影響はない二次性サルコペニア 活動によるサルコペニア:廃用性筋萎縮,無重力 栄養によるサルコペニア:飢餓,エネルギー摂取量不足 疾患によるサルコペニア  侵襲:急性疾患・炎症(手術,外傷,熱傷,急性感染症など)  悪液質:慢性疾患・炎症(癌,慢性心不全,慢性腎不全,慢性呼吸不全,慢性肝不全,

膠原病,慢性感染症など)  原疾患:筋萎縮性側索硬化症,多発性筋炎,甲状腺機能亢進症など

SAMPLECopyright(c) Medical Review Co.,Ltd.