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SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書 2019 6 経済産業省

SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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Page 1: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

SDGs経営ESG投資研究会

報告書

2019年 6月

経済産業省

1

<目次>

内容 はじめに 3 第一章 SDGs-価値の源泉 10

1 企業にとっての SDGs 10 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」 10 12 SDGsは「未来志向」のツール 11 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」 11 14 日本企業の理念と SDGs 12 15 ベンチャー企業と SDGs 13

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- 13 21 投資家を取り巻く環境変化 14 22 長期的な企業価値の評価と SDGs 16 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 17

3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 19 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 19 32 SDGsと従業員消費者 20 33 「知の総体」としての大学の役割 21 34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ 22

第二章 SDGs経営の実践 23 1 社会課題解決と経済合理性 23

11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く 23 2 重要課題(マテリアリティ)の特定 24

21 重要課題を特定し資源を投入する 24 3 イノベーションの創発 25

31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 25 32 経営者自身が新規事業をリードする 26

4 「科学的論理的」な検証評価 28 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる 28 42 国際標準を積極的に活用する 29

5 長期視点を担保する経営システム 30 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 31

6 「価値創造ストーリー」としての発信 31 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 32

2

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 32 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 33

第三章 政策提言 36 1 国際的なメッセージの発信 36

11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 36 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo 36

2 長期視点の企業経営の推進 37 21 イノベーション「協創」に向けた取組 37 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 38 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 39 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 39

3 投資家による長期投資の促進 40 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 40 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 41 33 長期投資を促す市場構造への見直し 41

4 SDGsを通じた新市場の開拓 41 5 国際的なルールメイキング 42

51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 42 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 42

6 科学的論理的な評価の浸透 43 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 43 62 投資家評価機関の手法の分析整理 43 63 国際標準づくりに向けた対応 44

3

はじめに

背景 2006年に国連が責任投資原則 1を提唱して以降持続可能性を重視する ESG投資 2は急

速な拡大をみせているそのような中2015年の国連サミットにおいてグローバルな社会課題を解決し持続可能な世界を実現するための国際目標である SDGs(持続可能な開発目標Sustainable Development Goals)3が採択された 今や世界中の企業が SDGs を経営の中に取り込もうと力を注いでおり日本において

もSDGsを経営に組み込むことで企業価値を高めるべく先鋭的な取組を進めている大企業ベンチャー企業が多くみられる

日本政府においても2016年 5月に SDGs 推進本部を設置し様々な取組を推進して

おり2018年 6月に取りまとめられた「拡大版 SDGsアクションプラン 2018」の柱の一つとして「SDGs経営推進イニシアティブ」を進め企業の経営戦略等への SDGs の組込みを推進することを盛り込んでいるその後の「SDGsアクションプラン 2019」(2018年12月)「拡大版 SDGsアクションプラン 2019」(2019年 6月)では同イニシアティブを具体化しつつ関連施策を着実に進めることとされている

経済産業省ではこのような昨今の企業における SDGsに係る意識の高まりや国際的な

ESG投資の拡大といった流れを踏まえまた「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体化する観点から2018年 11月に「SDGs経営ESG投資研究会」(以下「本研究会」という)を設置したこれは「伊藤レポート」4以来「価値協創ガイダンス」5という一つ

1 責任投資原則(PRIPrinciples for Responsible Investment)機関投資家の意思決定プロセスに ESG課題を組み込み受益者のために長期的な投資成果を向上させることを目標とした原則 2 ESG投資財務情報だけではなく企業の環境(Environment)社会(Social)ガバナンス(Governance)に関する取組も考慮した投資 3 SDGs(持続可能な開発目標)2001 年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として2015年 9 月の国連サミットで策定された「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」にて記載された2016 年から 2030 年までの国際目標持続可能な世界を実現するための 17 のゴール169 のターゲットから構成され地球上の誰一人として残さない(leave no one behind)ことなどを謳っている特徴として①普遍性②包摂性③参画型④統合性⑤透明性の5点が挙げられる 4 「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト最終報告書(2014年 8 月経済産業省)の通称日本政府における一連のコーポレートガバナンス改革や資本市場改革の土台として包括的な分析を行うとともに資本生産性を高めるための日本型 ROE経営や企業と投資家の対話促進に向けた政策提言を行ったもの 5 「価値協創のための統合的開示対話ガイダンス - ESG非財務情報と無形資産投資 -」(2017 年 5

4

の成果も礎に政府として注力してきた企業と投資家の対話促進やコーポレートガバナンス改革の流れを汲みつつSDGsが企業や投資家その他のステークホルダーにとってどのような意味を持つのかを各論として掘り下げるものでもある 6

本研究会においては日本を代表する大企業やスタートアップの CEO機関投資家大

学の長に加えゲストとして国連機関(UNDP)や国際団体の長GPIF 等の参画も得ながら6回にわたり議論を深めてきたまたここでの議論提言を広め実践につなげていく観点から幅広い経済団体や関係機関関係省庁がオブザーバーとして参加している 研究会では国内外の SDGs経営の先行事例に焦点を当てつついかにして企業が

SDGsを経営に取り込んでいくかまた投資家はどういった観点からそれを評価するのかなどについて委員等の豊富な知見に基づき多岐にわたりかつ深く掘り下げた検討が行われた

本報告書は研究会での議論を取りまとめるとともにこれを通じて見えてきた課題を

克服するための政策的な提言を行うものである

月経済産業省)の略称企業と投資家の共通言語として企業と投資家が情報開示や対話を通じて互いの理解を深め持続的な価値協創に向けた行動を促すことを目的とするガイダンス 6 価値協創ガイダンスにおいても「社会との接点」「戦略」の項目においてSDGs等で示される国際的な社会課題の解決を視野に入れることの重要性に言及している

5

図表 1SDGs実施のための短中期工程表

出所SDGsアクションプラン 2018

図表 2『拡大版 SDGsアクションプラン 2018』のポイント

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2018

6

図表 3『拡大版 SDGsアクションプラン 2019』のポイント

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2019

7

図表 4『拡大版 SDGsアクションプラン 2019』における主要な取組

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2019

図表 5価値協創ガイダンスにおける SDGsへの言及

8

図表 6「SDGs経営ESG投資研究会」各回の議題

9

本報告書の構成 本報告書の構成は以下のとおりである まず第一章では「SDGs―価値の源泉」としてSDGsが企業や投資家その他のス

テークホルダーにとってどのような意味を持つのかを整理している多様なステークホルダーが SDGs をどのようなものとして捉えているかを概観した上で企業が SDGs の各ゴールを達成するためのステークホルダーとの連携の方向性を示しているそのエッセンスは「SDGsは企業と世界をつなぐ共通言語であり同時にビジネスを通じて課題解決を目指す各主体にとっての『価値の源泉』である」ということである 第二章では「SDGs経営の実践」として第一章の認識を踏まえSDGs経営を実践す

るために企業や投資家等が意識すべきポイントを6つの観点(①社会課題と経済合理性②重要課題(マテリアリティ)の特定③イノベーションの創発④「科学的論理的」な検証評価⑤長期視点を担保する経営システム⑥「価値創造ストーリー」としての発信)から整理しているこの中で抽象的な議論となりがちな SDGs を企業のビジネス環境を規定する現実のものとして捉え具体的に経営に組み込む上で重要と考えられる視点を提示している なお第一章第二章においては研究会での委員やゲストの発言を引きつつそこか

ら得られたメッセージを凝縮して示す形をとっているこれは企業や機関投資家大学国際機関等のトップとして最前線で実践を担うリーダーたちの声こそがその課題も含む SDGs経営の本質を捉えようとするものであり本報告書の読者にとっても最も有意義な導きの糸となると考えたことによるまた本報告書にも別添している「SDGs経営ガイド」(2019年 5月)は本研究会での議論をベースとしており本報告書の第一章第二章は同ガイドを補完するものとしても位置づけられている 第三章では研究会における議論の中で見えた 6つの課題(①国際的なメッセージの発

信②長期視点の企業経営の推進③投資家による長期投資の促進④SDGsを通じた新市場の開拓⑤国際的なルールメイキング⑥科学的論理的な評価の浸透)を示しそれらを克服していくための方策について提言を行っている なお本報告書の本文では示しきれなかった参加者からあふれ出た言葉の数々それ

ぞれの「SDGs経営」の理念や実践についても別添(説明資料と議事概要)として本報告書に添付したこうした臨場感あふれるやり取りは今後自ら「SDGs経営」に取り組み支えていこうとする実践者たちにとっての大きなヒントになることを確信している

10

第一章 SDGs-価値の源泉 1 企業にとっての SDGs SDGsという世界共通の言語が未来の市場を照らし出す

SDGs達成のためには世界で年間 5~7兆ドルの投資が必要とも言われるこれはいまだ満たされていない世界のニーズの大きさを物語る 企業にとっての SDGsとは無視することはできない「リスク」を突きつけるものであると同時に未来の市場を創造獲得するための「機会」でもある

図表 7SDGsが生み出す市場

出所UNDP提供資料

〇国連開発計画(UNDP)によればSDGsの野心的な目標を達成するために世界で年間 5~7兆ドルの資金が必要となり投資機会は途上国で1~2兆ドル先進国でも最低 12 兆ドルとも試算される 〇SDGsが達成されるならば労働生産性の向上や環境負荷低減等を通じた外部経済効果を考慮し2030 年までに年間 12兆ドルの新たな市場機会が生まれうるとも言われている

11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」

SDGsは国連総会で合意された 2030年までの世界共通の目標であり世界中の多くのプレイヤーがSDGsを一つの前提条件として活動しているSDGsの目標が示すものは満たされていない世界のニーズすなわち未開拓の巨大な市場であり目標を達成するためには多様なプレイヤーの参画が不可欠である このような中で企業は SDGsを「共通言語」として世界中のステークホルダーとコミ

ュニケーションをしながら同時にSDGsというフレームワークの中で評価されるそんな時代が訪れている

11

Points ESGや SDGsという世界的なフレームワークを用いて日本企業が海外でコミュニケ

ーションすることで日本企業への資金の流入がより促進される好循環が生まれることを期待する

SDGs実現のためには企業の参加が必要不可欠である雇用を生み出しイノベーションを率いる役割を担う存在は企業である資金源としても極めて重要である向こう数年で企業は SDGs に対するベンチマーキングをされ比較をされることになる

2015年に開発アジェンダに合意できたことは以下の点で重要であるまず気候問題やパンデミックなど国境を越えた課題に取り組むための全地球的普遍的なアジェンダ(universal agenda)ができ広く普及したことつまりSDGsは顕著な劇的転換を支える優れたフレームワークとなっており開発の中での「エスペラント語」

12 SDGsは「未来志向」のツール

SDGsは2030年までの世界の「あるべき姿」を示している「今できること」の延長線上に将来を予測するのではなくこの将来の「あるべき姿」から逆算して「今何をすべきか」を考える「バックキャスティング思考」が必要である

SDGsが示す将来の世界のあり方とは何かそこからバックキャストして描ける道筋はどうかそのために必要となる投資やイノベーションは何か単に既存事業に SDGsのラベルを貼ることによる現状肯定ではなくSDGsという「未来志向」のツールを活用して自社の戦略をより一層磨き上げることが求められる

Points SDGsはどこまでいっても未来志向100年先を見据えてこれまで誰も取り組んで

こなかった社会課題に経営者がどのように取り組むかが SDGs 経営の本質 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」 世界全体が SDGs の達成を目指す中これを無視して事業活動を行うことは企業の持

続可能性を揺るがす「リスク」をもたらす一方企業がビジネスを通じて SDGs に取り組むことは企業の存続基盤を強固なものにするとともにいまだ開拓されていない巨大な市場を獲得するための大きな「機会」となり得る

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Points SDGsに取り組まなかった場合の「リスク」として企業の評判が下がる規制が強

化された際に規制に抵触する消費者が商品を購入してくれなくなるといったものがある

以前は ESGやサステナビリティに関する取組を先んじて行うことにより中期的な企業価値が上がり競争力向上につながると考えていたが最近はどの企業も取り組んでいるため取り組まないこと自体がリスクであると見方を変えている

SDGsは挑むべき事業成長の機会として捉えることができる 民間セクターが将来のマーケットを見据える魅力的なツールとして SDGsを捉えてい

ることが重要 新技術や新たなビジネスモデルが生み出す大きな変革の波に一番初めに乗った企業

が市場の成長を牽引することになる SDGsと連呼しなくても広げるためのスモールアーリーサクセスを作ることが必

要ステークホルダーの反応も見ながら小さい単位でトライアルを重ね拡大していくと企業全体の推進力につながるのではないか

これまでは ESGに関する取組は得た利益を使ってやれることをやるといういわゆるコストと見なしていたが今後は投資として捉えて行っていく

EVA経営をベースに置きおよそ 5年間で EVAがプラスになるような投資計画を立てているが今はより長いスパンを見る必要がある部分もありEVA経営の根幹は変えずに EVA全体の考え方を少しアレンジしていく必要がある

14 日本企業の理念と SDGs 近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の精神にも見られ

るように「会社は社会のためにある」と考える日本企業は多い 日本企業にとって SDGsとは決して舶来の未知のものではなく企業理念や社訓を礎

に長らく自ずと意識し実践してきた取組が別の形で具体化されたものといえる Points 「三方よし」のようにSDGsの考え方は多くの日本企業や商慣習と親和性が高い 会社が世のため人のために存在するという考え方は「三方よし」や渋沢栄一の道徳経済合一説にもあるように日本ではもう当たり前の考え方として脈々と受け継がれている欧米から SDGsとか ESGと言われなくても日本企業はその前から社会課題を捉えて現在の成長を実現してきた200年以上続く会社の約半分が日本にあるという事実がこれを証明している

13

SDGs は投資家等を意識しなくとも会社の理念ややるべきことを日本企業の精神で取り組めば結果として投資家からの評価につながるのではないか日本の企業はSDGsという考え方が無かった時代から長い間 SDGs に取り組んできたしかしながら PRが苦手であり実際に海外企業より優れた取組をしていてもそれを発信してこなかった

日本での ESGの盛り上がりは少し特徴がある実は欧米では ESGという用語は投資家や金融のコミュニティ以外ではほとんど知られていない欧米ではウォールストリートジャーナルかファイナンシャルタイムズしか出てこない言葉であるが日本では一般の新聞にも使われているまた教育の現場でも使われ幅広いアプリケーションになりつつあるまたこの 3年半の間に日本の企業においてESGという言葉の認識が拡がっている

15 ベンチャー企業と SDGs 多くのベンチャー企業にとっては企業の設立目的自体が何らかの社会課題の解決を目

指したものである「貧困問題を解決したい」「地球温暖化を食い止めたい」そうしたミッションのもとに設立された企業は会社そのものが SDGsの理念と軌を一にした存在となる Points 大企業の場合は会社を SDGsにどのようにフィットさせるかどのようにフォローするかがテーマになると思うがベンチャー企業の場合は会社の設立ミッションそのものが SDGs と平仄を合わせている事例もある

ベンチャー企業が作るスモールアーリーサクセスは人材獲得と資金調達であるSDGsを意識した IRを行うことで投資家の資金が呼び込めるという成功事例を横展開すればベンチャー企業も活用できる

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- SDGsは「これからも必要とされる会社か」を問いかける 投資判断において投資家が着目するのは過去ではなく将来の企業価値である社会

の価値観が変化する中で投資先の競争力が失われるリスクが存在するのかあるいは長期的持続的な成長が期待できるのかSDGsや ESGの理念は長期的な企業価値を判断するための手がかりである

14

21 投資家を取り巻く環境変化 持続可能性に対する人々の意識が高まる中各国の規制や顧客の選好の変化がESG投

資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている Points お客様の意識向上に後押しされ最近では機関投資家も SDGs や ESGに関する感度を上げている特に欧州の機関投資家の要請でファンダメンタルの運用の中に ESGをインテグレートしている気候や人権等については投資家も対応する動きがあり今後も進むと感じている

欧州投資家は ESGの意識が高い既存の運用に ESGを取り込まなければ契約が取れない選考で落とされるというのが欧州特に北欧ユーロ圏の流れ

パッシブ投資の比率が高まっており企業を持続的に成長させなければ投資家は儲からないそのため投資家は企業に対して長期軸での事業の目的等を明確にして持続的に成長することを求めてくる

欧米での IRでは最初に ESGや SDGsについて質問されることが多い特に欧州系の投資家はセンシティブ

15

図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

16

22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

17

図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

18

ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

19

3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

20

図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

21

企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

22

34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

23

第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

40

ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

41

32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

42

これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

43

ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

44

63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 2: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

1

<目次>

内容 はじめに 3 第一章 SDGs-価値の源泉 10

1 企業にとっての SDGs 10 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」 10 12 SDGsは「未来志向」のツール 11 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」 11 14 日本企業の理念と SDGs 12 15 ベンチャー企業と SDGs 13

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- 13 21 投資家を取り巻く環境変化 14 22 長期的な企業価値の評価と SDGs 16 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 17

3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 19 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 19 32 SDGsと従業員消費者 20 33 「知の総体」としての大学の役割 21 34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ 22

第二章 SDGs経営の実践 23 1 社会課題解決と経済合理性 23

11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く 23 2 重要課題(マテリアリティ)の特定 24

21 重要課題を特定し資源を投入する 24 3 イノベーションの創発 25

31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 25 32 経営者自身が新規事業をリードする 26

4 「科学的論理的」な検証評価 28 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる 28 42 国際標準を積極的に活用する 29

5 長期視点を担保する経営システム 30 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 31

6 「価値創造ストーリー」としての発信 31 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 32

2

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 32 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 33

第三章 政策提言 36 1 国際的なメッセージの発信 36

11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 36 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo 36

2 長期視点の企業経営の推進 37 21 イノベーション「協創」に向けた取組 37 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 38 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 39 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 39

3 投資家による長期投資の促進 40 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 40 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 41 33 長期投資を促す市場構造への見直し 41

4 SDGsを通じた新市場の開拓 41 5 国際的なルールメイキング 42

51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 42 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 42

6 科学的論理的な評価の浸透 43 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 43 62 投資家評価機関の手法の分析整理 43 63 国際標準づくりに向けた対応 44

3

はじめに

背景 2006年に国連が責任投資原則 1を提唱して以降持続可能性を重視する ESG投資 2は急

速な拡大をみせているそのような中2015年の国連サミットにおいてグローバルな社会課題を解決し持続可能な世界を実現するための国際目標である SDGs(持続可能な開発目標Sustainable Development Goals)3が採択された 今や世界中の企業が SDGs を経営の中に取り込もうと力を注いでおり日本において

もSDGsを経営に組み込むことで企業価値を高めるべく先鋭的な取組を進めている大企業ベンチャー企業が多くみられる

日本政府においても2016年 5月に SDGs 推進本部を設置し様々な取組を推進して

おり2018年 6月に取りまとめられた「拡大版 SDGsアクションプラン 2018」の柱の一つとして「SDGs経営推進イニシアティブ」を進め企業の経営戦略等への SDGs の組込みを推進することを盛り込んでいるその後の「SDGsアクションプラン 2019」(2018年12月)「拡大版 SDGsアクションプラン 2019」(2019年 6月)では同イニシアティブを具体化しつつ関連施策を着実に進めることとされている

経済産業省ではこのような昨今の企業における SDGsに係る意識の高まりや国際的な

ESG投資の拡大といった流れを踏まえまた「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体化する観点から2018年 11月に「SDGs経営ESG投資研究会」(以下「本研究会」という)を設置したこれは「伊藤レポート」4以来「価値協創ガイダンス」5という一つ

1 責任投資原則(PRIPrinciples for Responsible Investment)機関投資家の意思決定プロセスに ESG課題を組み込み受益者のために長期的な投資成果を向上させることを目標とした原則 2 ESG投資財務情報だけではなく企業の環境(Environment)社会(Social)ガバナンス(Governance)に関する取組も考慮した投資 3 SDGs(持続可能な開発目標)2001 年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として2015年 9 月の国連サミットで策定された「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」にて記載された2016 年から 2030 年までの国際目標持続可能な世界を実現するための 17 のゴール169 のターゲットから構成され地球上の誰一人として残さない(leave no one behind)ことなどを謳っている特徴として①普遍性②包摂性③参画型④統合性⑤透明性の5点が挙げられる 4 「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト最終報告書(2014年 8 月経済産業省)の通称日本政府における一連のコーポレートガバナンス改革や資本市場改革の土台として包括的な分析を行うとともに資本生産性を高めるための日本型 ROE経営や企業と投資家の対話促進に向けた政策提言を行ったもの 5 「価値協創のための統合的開示対話ガイダンス - ESG非財務情報と無形資産投資 -」(2017 年 5

4

の成果も礎に政府として注力してきた企業と投資家の対話促進やコーポレートガバナンス改革の流れを汲みつつSDGsが企業や投資家その他のステークホルダーにとってどのような意味を持つのかを各論として掘り下げるものでもある 6

本研究会においては日本を代表する大企業やスタートアップの CEO機関投資家大

学の長に加えゲストとして国連機関(UNDP)や国際団体の長GPIF 等の参画も得ながら6回にわたり議論を深めてきたまたここでの議論提言を広め実践につなげていく観点から幅広い経済団体や関係機関関係省庁がオブザーバーとして参加している 研究会では国内外の SDGs経営の先行事例に焦点を当てつついかにして企業が

SDGsを経営に取り込んでいくかまた投資家はどういった観点からそれを評価するのかなどについて委員等の豊富な知見に基づき多岐にわたりかつ深く掘り下げた検討が行われた

本報告書は研究会での議論を取りまとめるとともにこれを通じて見えてきた課題を

克服するための政策的な提言を行うものである

月経済産業省)の略称企業と投資家の共通言語として企業と投資家が情報開示や対話を通じて互いの理解を深め持続的な価値協創に向けた行動を促すことを目的とするガイダンス 6 価値協創ガイダンスにおいても「社会との接点」「戦略」の項目においてSDGs等で示される国際的な社会課題の解決を視野に入れることの重要性に言及している

5

図表 1SDGs実施のための短中期工程表

出所SDGsアクションプラン 2018

図表 2『拡大版 SDGsアクションプラン 2018』のポイント

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2018

6

図表 3『拡大版 SDGsアクションプラン 2019』のポイント

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2019

7

図表 4『拡大版 SDGsアクションプラン 2019』における主要な取組

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2019

図表 5価値協創ガイダンスにおける SDGsへの言及

8

図表 6「SDGs経営ESG投資研究会」各回の議題

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本報告書の構成 本報告書の構成は以下のとおりである まず第一章では「SDGs―価値の源泉」としてSDGsが企業や投資家その他のス

テークホルダーにとってどのような意味を持つのかを整理している多様なステークホルダーが SDGs をどのようなものとして捉えているかを概観した上で企業が SDGs の各ゴールを達成するためのステークホルダーとの連携の方向性を示しているそのエッセンスは「SDGsは企業と世界をつなぐ共通言語であり同時にビジネスを通じて課題解決を目指す各主体にとっての『価値の源泉』である」ということである 第二章では「SDGs経営の実践」として第一章の認識を踏まえSDGs経営を実践す

るために企業や投資家等が意識すべきポイントを6つの観点(①社会課題と経済合理性②重要課題(マテリアリティ)の特定③イノベーションの創発④「科学的論理的」な検証評価⑤長期視点を担保する経営システム⑥「価値創造ストーリー」としての発信)から整理しているこの中で抽象的な議論となりがちな SDGs を企業のビジネス環境を規定する現実のものとして捉え具体的に経営に組み込む上で重要と考えられる視点を提示している なお第一章第二章においては研究会での委員やゲストの発言を引きつつそこか

ら得られたメッセージを凝縮して示す形をとっているこれは企業や機関投資家大学国際機関等のトップとして最前線で実践を担うリーダーたちの声こそがその課題も含む SDGs経営の本質を捉えようとするものであり本報告書の読者にとっても最も有意義な導きの糸となると考えたことによるまた本報告書にも別添している「SDGs経営ガイド」(2019年 5月)は本研究会での議論をベースとしており本報告書の第一章第二章は同ガイドを補完するものとしても位置づけられている 第三章では研究会における議論の中で見えた 6つの課題(①国際的なメッセージの発

信②長期視点の企業経営の推進③投資家による長期投資の促進④SDGsを通じた新市場の開拓⑤国際的なルールメイキング⑥科学的論理的な評価の浸透)を示しそれらを克服していくための方策について提言を行っている なお本報告書の本文では示しきれなかった参加者からあふれ出た言葉の数々それ

ぞれの「SDGs経営」の理念や実践についても別添(説明資料と議事概要)として本報告書に添付したこうした臨場感あふれるやり取りは今後自ら「SDGs経営」に取り組み支えていこうとする実践者たちにとっての大きなヒントになることを確信している

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第一章 SDGs-価値の源泉 1 企業にとっての SDGs SDGsという世界共通の言語が未来の市場を照らし出す

SDGs達成のためには世界で年間 5~7兆ドルの投資が必要とも言われるこれはいまだ満たされていない世界のニーズの大きさを物語る 企業にとっての SDGsとは無視することはできない「リスク」を突きつけるものであると同時に未来の市場を創造獲得するための「機会」でもある

図表 7SDGsが生み出す市場

出所UNDP提供資料

〇国連開発計画(UNDP)によればSDGsの野心的な目標を達成するために世界で年間 5~7兆ドルの資金が必要となり投資機会は途上国で1~2兆ドル先進国でも最低 12 兆ドルとも試算される 〇SDGsが達成されるならば労働生産性の向上や環境負荷低減等を通じた外部経済効果を考慮し2030 年までに年間 12兆ドルの新たな市場機会が生まれうるとも言われている

11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」

SDGsは国連総会で合意された 2030年までの世界共通の目標であり世界中の多くのプレイヤーがSDGsを一つの前提条件として活動しているSDGsの目標が示すものは満たされていない世界のニーズすなわち未開拓の巨大な市場であり目標を達成するためには多様なプレイヤーの参画が不可欠である このような中で企業は SDGsを「共通言語」として世界中のステークホルダーとコミ

ュニケーションをしながら同時にSDGsというフレームワークの中で評価されるそんな時代が訪れている

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Points ESGや SDGsという世界的なフレームワークを用いて日本企業が海外でコミュニケ

ーションすることで日本企業への資金の流入がより促進される好循環が生まれることを期待する

SDGs実現のためには企業の参加が必要不可欠である雇用を生み出しイノベーションを率いる役割を担う存在は企業である資金源としても極めて重要である向こう数年で企業は SDGs に対するベンチマーキングをされ比較をされることになる

2015年に開発アジェンダに合意できたことは以下の点で重要であるまず気候問題やパンデミックなど国境を越えた課題に取り組むための全地球的普遍的なアジェンダ(universal agenda)ができ広く普及したことつまりSDGsは顕著な劇的転換を支える優れたフレームワークとなっており開発の中での「エスペラント語」

12 SDGsは「未来志向」のツール

SDGsは2030年までの世界の「あるべき姿」を示している「今できること」の延長線上に将来を予測するのではなくこの将来の「あるべき姿」から逆算して「今何をすべきか」を考える「バックキャスティング思考」が必要である

SDGsが示す将来の世界のあり方とは何かそこからバックキャストして描ける道筋はどうかそのために必要となる投資やイノベーションは何か単に既存事業に SDGsのラベルを貼ることによる現状肯定ではなくSDGsという「未来志向」のツールを活用して自社の戦略をより一層磨き上げることが求められる

Points SDGsはどこまでいっても未来志向100年先を見据えてこれまで誰も取り組んで

こなかった社会課題に経営者がどのように取り組むかが SDGs 経営の本質 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」 世界全体が SDGs の達成を目指す中これを無視して事業活動を行うことは企業の持

続可能性を揺るがす「リスク」をもたらす一方企業がビジネスを通じて SDGs に取り組むことは企業の存続基盤を強固なものにするとともにいまだ開拓されていない巨大な市場を獲得するための大きな「機会」となり得る

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Points SDGsに取り組まなかった場合の「リスク」として企業の評判が下がる規制が強

化された際に規制に抵触する消費者が商品を購入してくれなくなるといったものがある

以前は ESGやサステナビリティに関する取組を先んじて行うことにより中期的な企業価値が上がり競争力向上につながると考えていたが最近はどの企業も取り組んでいるため取り組まないこと自体がリスクであると見方を変えている

SDGsは挑むべき事業成長の機会として捉えることができる 民間セクターが将来のマーケットを見据える魅力的なツールとして SDGsを捉えてい

ることが重要 新技術や新たなビジネスモデルが生み出す大きな変革の波に一番初めに乗った企業

が市場の成長を牽引することになる SDGsと連呼しなくても広げるためのスモールアーリーサクセスを作ることが必

要ステークホルダーの反応も見ながら小さい単位でトライアルを重ね拡大していくと企業全体の推進力につながるのではないか

これまでは ESGに関する取組は得た利益を使ってやれることをやるといういわゆるコストと見なしていたが今後は投資として捉えて行っていく

EVA経営をベースに置きおよそ 5年間で EVAがプラスになるような投資計画を立てているが今はより長いスパンを見る必要がある部分もありEVA経営の根幹は変えずに EVA全体の考え方を少しアレンジしていく必要がある

14 日本企業の理念と SDGs 近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の精神にも見られ

るように「会社は社会のためにある」と考える日本企業は多い 日本企業にとって SDGsとは決して舶来の未知のものではなく企業理念や社訓を礎

に長らく自ずと意識し実践してきた取組が別の形で具体化されたものといえる Points 「三方よし」のようにSDGsの考え方は多くの日本企業や商慣習と親和性が高い 会社が世のため人のために存在するという考え方は「三方よし」や渋沢栄一の道徳経済合一説にもあるように日本ではもう当たり前の考え方として脈々と受け継がれている欧米から SDGsとか ESGと言われなくても日本企業はその前から社会課題を捉えて現在の成長を実現してきた200年以上続く会社の約半分が日本にあるという事実がこれを証明している

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SDGs は投資家等を意識しなくとも会社の理念ややるべきことを日本企業の精神で取り組めば結果として投資家からの評価につながるのではないか日本の企業はSDGsという考え方が無かった時代から長い間 SDGs に取り組んできたしかしながら PRが苦手であり実際に海外企業より優れた取組をしていてもそれを発信してこなかった

日本での ESGの盛り上がりは少し特徴がある実は欧米では ESGという用語は投資家や金融のコミュニティ以外ではほとんど知られていない欧米ではウォールストリートジャーナルかファイナンシャルタイムズしか出てこない言葉であるが日本では一般の新聞にも使われているまた教育の現場でも使われ幅広いアプリケーションになりつつあるまたこの 3年半の間に日本の企業においてESGという言葉の認識が拡がっている

15 ベンチャー企業と SDGs 多くのベンチャー企業にとっては企業の設立目的自体が何らかの社会課題の解決を目

指したものである「貧困問題を解決したい」「地球温暖化を食い止めたい」そうしたミッションのもとに設立された企業は会社そのものが SDGsの理念と軌を一にした存在となる Points 大企業の場合は会社を SDGsにどのようにフィットさせるかどのようにフォローするかがテーマになると思うがベンチャー企業の場合は会社の設立ミッションそのものが SDGs と平仄を合わせている事例もある

ベンチャー企業が作るスモールアーリーサクセスは人材獲得と資金調達であるSDGsを意識した IRを行うことで投資家の資金が呼び込めるという成功事例を横展開すればベンチャー企業も活用できる

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- SDGsは「これからも必要とされる会社か」を問いかける 投資判断において投資家が着目するのは過去ではなく将来の企業価値である社会

の価値観が変化する中で投資先の競争力が失われるリスクが存在するのかあるいは長期的持続的な成長が期待できるのかSDGsや ESGの理念は長期的な企業価値を判断するための手がかりである

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21 投資家を取り巻く環境変化 持続可能性に対する人々の意識が高まる中各国の規制や顧客の選好の変化がESG投

資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている Points お客様の意識向上に後押しされ最近では機関投資家も SDGs や ESGに関する感度を上げている特に欧州の機関投資家の要請でファンダメンタルの運用の中に ESGをインテグレートしている気候や人権等については投資家も対応する動きがあり今後も進むと感じている

欧州投資家は ESGの意識が高い既存の運用に ESGを取り込まなければ契約が取れない選考で落とされるというのが欧州特に北欧ユーロ圏の流れ

パッシブ投資の比率が高まっており企業を持続的に成長させなければ投資家は儲からないそのため投資家は企業に対して長期軸での事業の目的等を明確にして持続的に成長することを求めてくる

欧米での IRでは最初に ESGや SDGsについて質問されることが多い特に欧州系の投資家はセンシティブ

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図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

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22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

44

63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

45

SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

46

添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 3: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

2

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 32 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 33

第三章 政策提言 36 1 国際的なメッセージの発信 36

11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 36 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo 36

2 長期視点の企業経営の推進 37 21 イノベーション「協創」に向けた取組 37 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 38 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 39 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 39

3 投資家による長期投資の促進 40 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 40 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 41 33 長期投資を促す市場構造への見直し 41

4 SDGsを通じた新市場の開拓 41 5 国際的なルールメイキング 42

51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 42 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 42

6 科学的論理的な評価の浸透 43 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 43 62 投資家評価機関の手法の分析整理 43 63 国際標準づくりに向けた対応 44

3

はじめに

背景 2006年に国連が責任投資原則 1を提唱して以降持続可能性を重視する ESG投資 2は急

速な拡大をみせているそのような中2015年の国連サミットにおいてグローバルな社会課題を解決し持続可能な世界を実現するための国際目標である SDGs(持続可能な開発目標Sustainable Development Goals)3が採択された 今や世界中の企業が SDGs を経営の中に取り込もうと力を注いでおり日本において

もSDGsを経営に組み込むことで企業価値を高めるべく先鋭的な取組を進めている大企業ベンチャー企業が多くみられる

日本政府においても2016年 5月に SDGs 推進本部を設置し様々な取組を推進して

おり2018年 6月に取りまとめられた「拡大版 SDGsアクションプラン 2018」の柱の一つとして「SDGs経営推進イニシアティブ」を進め企業の経営戦略等への SDGs の組込みを推進することを盛り込んでいるその後の「SDGsアクションプラン 2019」(2018年12月)「拡大版 SDGsアクションプラン 2019」(2019年 6月)では同イニシアティブを具体化しつつ関連施策を着実に進めることとされている

経済産業省ではこのような昨今の企業における SDGsに係る意識の高まりや国際的な

ESG投資の拡大といった流れを踏まえまた「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体化する観点から2018年 11月に「SDGs経営ESG投資研究会」(以下「本研究会」という)を設置したこれは「伊藤レポート」4以来「価値協創ガイダンス」5という一つ

1 責任投資原則(PRIPrinciples for Responsible Investment)機関投資家の意思決定プロセスに ESG課題を組み込み受益者のために長期的な投資成果を向上させることを目標とした原則 2 ESG投資財務情報だけではなく企業の環境(Environment)社会(Social)ガバナンス(Governance)に関する取組も考慮した投資 3 SDGs(持続可能な開発目標)2001 年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として2015年 9 月の国連サミットで策定された「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」にて記載された2016 年から 2030 年までの国際目標持続可能な世界を実現するための 17 のゴール169 のターゲットから構成され地球上の誰一人として残さない(leave no one behind)ことなどを謳っている特徴として①普遍性②包摂性③参画型④統合性⑤透明性の5点が挙げられる 4 「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト最終報告書(2014年 8 月経済産業省)の通称日本政府における一連のコーポレートガバナンス改革や資本市場改革の土台として包括的な分析を行うとともに資本生産性を高めるための日本型 ROE経営や企業と投資家の対話促進に向けた政策提言を行ったもの 5 「価値協創のための統合的開示対話ガイダンス - ESG非財務情報と無形資産投資 -」(2017 年 5

4

の成果も礎に政府として注力してきた企業と投資家の対話促進やコーポレートガバナンス改革の流れを汲みつつSDGsが企業や投資家その他のステークホルダーにとってどのような意味を持つのかを各論として掘り下げるものでもある 6

本研究会においては日本を代表する大企業やスタートアップの CEO機関投資家大

学の長に加えゲストとして国連機関(UNDP)や国際団体の長GPIF 等の参画も得ながら6回にわたり議論を深めてきたまたここでの議論提言を広め実践につなげていく観点から幅広い経済団体や関係機関関係省庁がオブザーバーとして参加している 研究会では国内外の SDGs経営の先行事例に焦点を当てつついかにして企業が

SDGsを経営に取り込んでいくかまた投資家はどういった観点からそれを評価するのかなどについて委員等の豊富な知見に基づき多岐にわたりかつ深く掘り下げた検討が行われた

本報告書は研究会での議論を取りまとめるとともにこれを通じて見えてきた課題を

克服するための政策的な提言を行うものである

月経済産業省)の略称企業と投資家の共通言語として企業と投資家が情報開示や対話を通じて互いの理解を深め持続的な価値協創に向けた行動を促すことを目的とするガイダンス 6 価値協創ガイダンスにおいても「社会との接点」「戦略」の項目においてSDGs等で示される国際的な社会課題の解決を視野に入れることの重要性に言及している

5

図表 1SDGs実施のための短中期工程表

出所SDGsアクションプラン 2018

図表 2『拡大版 SDGsアクションプラン 2018』のポイント

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2018

6

図表 3『拡大版 SDGsアクションプラン 2019』のポイント

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2019

7

図表 4『拡大版 SDGsアクションプラン 2019』における主要な取組

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2019

図表 5価値協創ガイダンスにおける SDGsへの言及

8

図表 6「SDGs経営ESG投資研究会」各回の議題

9

本報告書の構成 本報告書の構成は以下のとおりである まず第一章では「SDGs―価値の源泉」としてSDGsが企業や投資家その他のス

テークホルダーにとってどのような意味を持つのかを整理している多様なステークホルダーが SDGs をどのようなものとして捉えているかを概観した上で企業が SDGs の各ゴールを達成するためのステークホルダーとの連携の方向性を示しているそのエッセンスは「SDGsは企業と世界をつなぐ共通言語であり同時にビジネスを通じて課題解決を目指す各主体にとっての『価値の源泉』である」ということである 第二章では「SDGs経営の実践」として第一章の認識を踏まえSDGs経営を実践す

るために企業や投資家等が意識すべきポイントを6つの観点(①社会課題と経済合理性②重要課題(マテリアリティ)の特定③イノベーションの創発④「科学的論理的」な検証評価⑤長期視点を担保する経営システム⑥「価値創造ストーリー」としての発信)から整理しているこの中で抽象的な議論となりがちな SDGs を企業のビジネス環境を規定する現実のものとして捉え具体的に経営に組み込む上で重要と考えられる視点を提示している なお第一章第二章においては研究会での委員やゲストの発言を引きつつそこか

ら得られたメッセージを凝縮して示す形をとっているこれは企業や機関投資家大学国際機関等のトップとして最前線で実践を担うリーダーたちの声こそがその課題も含む SDGs経営の本質を捉えようとするものであり本報告書の読者にとっても最も有意義な導きの糸となると考えたことによるまた本報告書にも別添している「SDGs経営ガイド」(2019年 5月)は本研究会での議論をベースとしており本報告書の第一章第二章は同ガイドを補完するものとしても位置づけられている 第三章では研究会における議論の中で見えた 6つの課題(①国際的なメッセージの発

信②長期視点の企業経営の推進③投資家による長期投資の促進④SDGsを通じた新市場の開拓⑤国際的なルールメイキング⑥科学的論理的な評価の浸透)を示しそれらを克服していくための方策について提言を行っている なお本報告書の本文では示しきれなかった参加者からあふれ出た言葉の数々それ

ぞれの「SDGs経営」の理念や実践についても別添(説明資料と議事概要)として本報告書に添付したこうした臨場感あふれるやり取りは今後自ら「SDGs経営」に取り組み支えていこうとする実践者たちにとっての大きなヒントになることを確信している

10

第一章 SDGs-価値の源泉 1 企業にとっての SDGs SDGsという世界共通の言語が未来の市場を照らし出す

SDGs達成のためには世界で年間 5~7兆ドルの投資が必要とも言われるこれはいまだ満たされていない世界のニーズの大きさを物語る 企業にとっての SDGsとは無視することはできない「リスク」を突きつけるものであると同時に未来の市場を創造獲得するための「機会」でもある

図表 7SDGsが生み出す市場

出所UNDP提供資料

〇国連開発計画(UNDP)によればSDGsの野心的な目標を達成するために世界で年間 5~7兆ドルの資金が必要となり投資機会は途上国で1~2兆ドル先進国でも最低 12 兆ドルとも試算される 〇SDGsが達成されるならば労働生産性の向上や環境負荷低減等を通じた外部経済効果を考慮し2030 年までに年間 12兆ドルの新たな市場機会が生まれうるとも言われている

11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」

SDGsは国連総会で合意された 2030年までの世界共通の目標であり世界中の多くのプレイヤーがSDGsを一つの前提条件として活動しているSDGsの目標が示すものは満たされていない世界のニーズすなわち未開拓の巨大な市場であり目標を達成するためには多様なプレイヤーの参画が不可欠である このような中で企業は SDGsを「共通言語」として世界中のステークホルダーとコミ

ュニケーションをしながら同時にSDGsというフレームワークの中で評価されるそんな時代が訪れている

11

Points ESGや SDGsという世界的なフレームワークを用いて日本企業が海外でコミュニケ

ーションすることで日本企業への資金の流入がより促進される好循環が生まれることを期待する

SDGs実現のためには企業の参加が必要不可欠である雇用を生み出しイノベーションを率いる役割を担う存在は企業である資金源としても極めて重要である向こう数年で企業は SDGs に対するベンチマーキングをされ比較をされることになる

2015年に開発アジェンダに合意できたことは以下の点で重要であるまず気候問題やパンデミックなど国境を越えた課題に取り組むための全地球的普遍的なアジェンダ(universal agenda)ができ広く普及したことつまりSDGsは顕著な劇的転換を支える優れたフレームワークとなっており開発の中での「エスペラント語」

12 SDGsは「未来志向」のツール

SDGsは2030年までの世界の「あるべき姿」を示している「今できること」の延長線上に将来を予測するのではなくこの将来の「あるべき姿」から逆算して「今何をすべきか」を考える「バックキャスティング思考」が必要である

SDGsが示す将来の世界のあり方とは何かそこからバックキャストして描ける道筋はどうかそのために必要となる投資やイノベーションは何か単に既存事業に SDGsのラベルを貼ることによる現状肯定ではなくSDGsという「未来志向」のツールを活用して自社の戦略をより一層磨き上げることが求められる

Points SDGsはどこまでいっても未来志向100年先を見据えてこれまで誰も取り組んで

こなかった社会課題に経営者がどのように取り組むかが SDGs 経営の本質 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」 世界全体が SDGs の達成を目指す中これを無視して事業活動を行うことは企業の持

続可能性を揺るがす「リスク」をもたらす一方企業がビジネスを通じて SDGs に取り組むことは企業の存続基盤を強固なものにするとともにいまだ開拓されていない巨大な市場を獲得するための大きな「機会」となり得る

12

Points SDGsに取り組まなかった場合の「リスク」として企業の評判が下がる規制が強

化された際に規制に抵触する消費者が商品を購入してくれなくなるといったものがある

以前は ESGやサステナビリティに関する取組を先んじて行うことにより中期的な企業価値が上がり競争力向上につながると考えていたが最近はどの企業も取り組んでいるため取り組まないこと自体がリスクであると見方を変えている

SDGsは挑むべき事業成長の機会として捉えることができる 民間セクターが将来のマーケットを見据える魅力的なツールとして SDGsを捉えてい

ることが重要 新技術や新たなビジネスモデルが生み出す大きな変革の波に一番初めに乗った企業

が市場の成長を牽引することになる SDGsと連呼しなくても広げるためのスモールアーリーサクセスを作ることが必

要ステークホルダーの反応も見ながら小さい単位でトライアルを重ね拡大していくと企業全体の推進力につながるのではないか

これまでは ESGに関する取組は得た利益を使ってやれることをやるといういわゆるコストと見なしていたが今後は投資として捉えて行っていく

EVA経営をベースに置きおよそ 5年間で EVAがプラスになるような投資計画を立てているが今はより長いスパンを見る必要がある部分もありEVA経営の根幹は変えずに EVA全体の考え方を少しアレンジしていく必要がある

14 日本企業の理念と SDGs 近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の精神にも見られ

るように「会社は社会のためにある」と考える日本企業は多い 日本企業にとって SDGsとは決して舶来の未知のものではなく企業理念や社訓を礎

に長らく自ずと意識し実践してきた取組が別の形で具体化されたものといえる Points 「三方よし」のようにSDGsの考え方は多くの日本企業や商慣習と親和性が高い 会社が世のため人のために存在するという考え方は「三方よし」や渋沢栄一の道徳経済合一説にもあるように日本ではもう当たり前の考え方として脈々と受け継がれている欧米から SDGsとか ESGと言われなくても日本企業はその前から社会課題を捉えて現在の成長を実現してきた200年以上続く会社の約半分が日本にあるという事実がこれを証明している

13

SDGs は投資家等を意識しなくとも会社の理念ややるべきことを日本企業の精神で取り組めば結果として投資家からの評価につながるのではないか日本の企業はSDGsという考え方が無かった時代から長い間 SDGs に取り組んできたしかしながら PRが苦手であり実際に海外企業より優れた取組をしていてもそれを発信してこなかった

日本での ESGの盛り上がりは少し特徴がある実は欧米では ESGという用語は投資家や金融のコミュニティ以外ではほとんど知られていない欧米ではウォールストリートジャーナルかファイナンシャルタイムズしか出てこない言葉であるが日本では一般の新聞にも使われているまた教育の現場でも使われ幅広いアプリケーションになりつつあるまたこの 3年半の間に日本の企業においてESGという言葉の認識が拡がっている

15 ベンチャー企業と SDGs 多くのベンチャー企業にとっては企業の設立目的自体が何らかの社会課題の解決を目

指したものである「貧困問題を解決したい」「地球温暖化を食い止めたい」そうしたミッションのもとに設立された企業は会社そのものが SDGsの理念と軌を一にした存在となる Points 大企業の場合は会社を SDGsにどのようにフィットさせるかどのようにフォローするかがテーマになると思うがベンチャー企業の場合は会社の設立ミッションそのものが SDGs と平仄を合わせている事例もある

ベンチャー企業が作るスモールアーリーサクセスは人材獲得と資金調達であるSDGsを意識した IRを行うことで投資家の資金が呼び込めるという成功事例を横展開すればベンチャー企業も活用できる

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- SDGsは「これからも必要とされる会社か」を問いかける 投資判断において投資家が着目するのは過去ではなく将来の企業価値である社会

の価値観が変化する中で投資先の競争力が失われるリスクが存在するのかあるいは長期的持続的な成長が期待できるのかSDGsや ESGの理念は長期的な企業価値を判断するための手がかりである

14

21 投資家を取り巻く環境変化 持続可能性に対する人々の意識が高まる中各国の規制や顧客の選好の変化がESG投

資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている Points お客様の意識向上に後押しされ最近では機関投資家も SDGs や ESGに関する感度を上げている特に欧州の機関投資家の要請でファンダメンタルの運用の中に ESGをインテグレートしている気候や人権等については投資家も対応する動きがあり今後も進むと感じている

欧州投資家は ESGの意識が高い既存の運用に ESGを取り込まなければ契約が取れない選考で落とされるというのが欧州特に北欧ユーロ圏の流れ

パッシブ投資の比率が高まっており企業を持続的に成長させなければ投資家は儲からないそのため投資家は企業に対して長期軸での事業の目的等を明確にして持続的に成長することを求めてくる

欧米での IRでは最初に ESGや SDGsについて質問されることが多い特に欧州系の投資家はセンシティブ

15

図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

16

22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 4: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

3

はじめに

背景 2006年に国連が責任投資原則 1を提唱して以降持続可能性を重視する ESG投資 2は急

速な拡大をみせているそのような中2015年の国連サミットにおいてグローバルな社会課題を解決し持続可能な世界を実現するための国際目標である SDGs(持続可能な開発目標Sustainable Development Goals)3が採択された 今や世界中の企業が SDGs を経営の中に取り込もうと力を注いでおり日本において

もSDGsを経営に組み込むことで企業価値を高めるべく先鋭的な取組を進めている大企業ベンチャー企業が多くみられる

日本政府においても2016年 5月に SDGs 推進本部を設置し様々な取組を推進して

おり2018年 6月に取りまとめられた「拡大版 SDGsアクションプラン 2018」の柱の一つとして「SDGs経営推進イニシアティブ」を進め企業の経営戦略等への SDGs の組込みを推進することを盛り込んでいるその後の「SDGsアクションプラン 2019」(2018年12月)「拡大版 SDGsアクションプラン 2019」(2019年 6月)では同イニシアティブを具体化しつつ関連施策を着実に進めることとされている

経済産業省ではこのような昨今の企業における SDGsに係る意識の高まりや国際的な

ESG投資の拡大といった流れを踏まえまた「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体化する観点から2018年 11月に「SDGs経営ESG投資研究会」(以下「本研究会」という)を設置したこれは「伊藤レポート」4以来「価値協創ガイダンス」5という一つ

1 責任投資原則(PRIPrinciples for Responsible Investment)機関投資家の意思決定プロセスに ESG課題を組み込み受益者のために長期的な投資成果を向上させることを目標とした原則 2 ESG投資財務情報だけではなく企業の環境(Environment)社会(Social)ガバナンス(Governance)に関する取組も考慮した投資 3 SDGs(持続可能な開発目標)2001 年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)の後継として2015年 9 月の国連サミットで策定された「持続可能な開発のための 2030 アジェンダ」にて記載された2016 年から 2030 年までの国際目標持続可能な世界を実現するための 17 のゴール169 のターゲットから構成され地球上の誰一人として残さない(leave no one behind)ことなどを謳っている特徴として①普遍性②包摂性③参画型④統合性⑤透明性の5点が挙げられる 4 「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト最終報告書(2014年 8 月経済産業省)の通称日本政府における一連のコーポレートガバナンス改革や資本市場改革の土台として包括的な分析を行うとともに資本生産性を高めるための日本型 ROE経営や企業と投資家の対話促進に向けた政策提言を行ったもの 5 「価値協創のための統合的開示対話ガイダンス - ESG非財務情報と無形資産投資 -」(2017 年 5

4

の成果も礎に政府として注力してきた企業と投資家の対話促進やコーポレートガバナンス改革の流れを汲みつつSDGsが企業や投資家その他のステークホルダーにとってどのような意味を持つのかを各論として掘り下げるものでもある 6

本研究会においては日本を代表する大企業やスタートアップの CEO機関投資家大

学の長に加えゲストとして国連機関(UNDP)や国際団体の長GPIF 等の参画も得ながら6回にわたり議論を深めてきたまたここでの議論提言を広め実践につなげていく観点から幅広い経済団体や関係機関関係省庁がオブザーバーとして参加している 研究会では国内外の SDGs経営の先行事例に焦点を当てつついかにして企業が

SDGsを経営に取り込んでいくかまた投資家はどういった観点からそれを評価するのかなどについて委員等の豊富な知見に基づき多岐にわたりかつ深く掘り下げた検討が行われた

本報告書は研究会での議論を取りまとめるとともにこれを通じて見えてきた課題を

克服するための政策的な提言を行うものである

月経済産業省)の略称企業と投資家の共通言語として企業と投資家が情報開示や対話を通じて互いの理解を深め持続的な価値協創に向けた行動を促すことを目的とするガイダンス 6 価値協創ガイダンスにおいても「社会との接点」「戦略」の項目においてSDGs等で示される国際的な社会課題の解決を視野に入れることの重要性に言及している

5

図表 1SDGs実施のための短中期工程表

出所SDGsアクションプラン 2018

図表 2『拡大版 SDGsアクションプラン 2018』のポイント

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2018

6

図表 3『拡大版 SDGsアクションプラン 2019』のポイント

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2019

7

図表 4『拡大版 SDGsアクションプラン 2019』における主要な取組

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2019

図表 5価値協創ガイダンスにおける SDGsへの言及

8

図表 6「SDGs経営ESG投資研究会」各回の議題

9

本報告書の構成 本報告書の構成は以下のとおりである まず第一章では「SDGs―価値の源泉」としてSDGsが企業や投資家その他のス

テークホルダーにとってどのような意味を持つのかを整理している多様なステークホルダーが SDGs をどのようなものとして捉えているかを概観した上で企業が SDGs の各ゴールを達成するためのステークホルダーとの連携の方向性を示しているそのエッセンスは「SDGsは企業と世界をつなぐ共通言語であり同時にビジネスを通じて課題解決を目指す各主体にとっての『価値の源泉』である」ということである 第二章では「SDGs経営の実践」として第一章の認識を踏まえSDGs経営を実践す

るために企業や投資家等が意識すべきポイントを6つの観点(①社会課題と経済合理性②重要課題(マテリアリティ)の特定③イノベーションの創発④「科学的論理的」な検証評価⑤長期視点を担保する経営システム⑥「価値創造ストーリー」としての発信)から整理しているこの中で抽象的な議論となりがちな SDGs を企業のビジネス環境を規定する現実のものとして捉え具体的に経営に組み込む上で重要と考えられる視点を提示している なお第一章第二章においては研究会での委員やゲストの発言を引きつつそこか

ら得られたメッセージを凝縮して示す形をとっているこれは企業や機関投資家大学国際機関等のトップとして最前線で実践を担うリーダーたちの声こそがその課題も含む SDGs経営の本質を捉えようとするものであり本報告書の読者にとっても最も有意義な導きの糸となると考えたことによるまた本報告書にも別添している「SDGs経営ガイド」(2019年 5月)は本研究会での議論をベースとしており本報告書の第一章第二章は同ガイドを補完するものとしても位置づけられている 第三章では研究会における議論の中で見えた 6つの課題(①国際的なメッセージの発

信②長期視点の企業経営の推進③投資家による長期投資の促進④SDGsを通じた新市場の開拓⑤国際的なルールメイキング⑥科学的論理的な評価の浸透)を示しそれらを克服していくための方策について提言を行っている なお本報告書の本文では示しきれなかった参加者からあふれ出た言葉の数々それ

ぞれの「SDGs経営」の理念や実践についても別添(説明資料と議事概要)として本報告書に添付したこうした臨場感あふれるやり取りは今後自ら「SDGs経営」に取り組み支えていこうとする実践者たちにとっての大きなヒントになることを確信している

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第一章 SDGs-価値の源泉 1 企業にとっての SDGs SDGsという世界共通の言語が未来の市場を照らし出す

SDGs達成のためには世界で年間 5~7兆ドルの投資が必要とも言われるこれはいまだ満たされていない世界のニーズの大きさを物語る 企業にとっての SDGsとは無視することはできない「リスク」を突きつけるものであると同時に未来の市場を創造獲得するための「機会」でもある

図表 7SDGsが生み出す市場

出所UNDP提供資料

〇国連開発計画(UNDP)によればSDGsの野心的な目標を達成するために世界で年間 5~7兆ドルの資金が必要となり投資機会は途上国で1~2兆ドル先進国でも最低 12 兆ドルとも試算される 〇SDGsが達成されるならば労働生産性の向上や環境負荷低減等を通じた外部経済効果を考慮し2030 年までに年間 12兆ドルの新たな市場機会が生まれうるとも言われている

11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」

SDGsは国連総会で合意された 2030年までの世界共通の目標であり世界中の多くのプレイヤーがSDGsを一つの前提条件として活動しているSDGsの目標が示すものは満たされていない世界のニーズすなわち未開拓の巨大な市場であり目標を達成するためには多様なプレイヤーの参画が不可欠である このような中で企業は SDGsを「共通言語」として世界中のステークホルダーとコミ

ュニケーションをしながら同時にSDGsというフレームワークの中で評価されるそんな時代が訪れている

11

Points ESGや SDGsという世界的なフレームワークを用いて日本企業が海外でコミュニケ

ーションすることで日本企業への資金の流入がより促進される好循環が生まれることを期待する

SDGs実現のためには企業の参加が必要不可欠である雇用を生み出しイノベーションを率いる役割を担う存在は企業である資金源としても極めて重要である向こう数年で企業は SDGs に対するベンチマーキングをされ比較をされることになる

2015年に開発アジェンダに合意できたことは以下の点で重要であるまず気候問題やパンデミックなど国境を越えた課題に取り組むための全地球的普遍的なアジェンダ(universal agenda)ができ広く普及したことつまりSDGsは顕著な劇的転換を支える優れたフレームワークとなっており開発の中での「エスペラント語」

12 SDGsは「未来志向」のツール

SDGsは2030年までの世界の「あるべき姿」を示している「今できること」の延長線上に将来を予測するのではなくこの将来の「あるべき姿」から逆算して「今何をすべきか」を考える「バックキャスティング思考」が必要である

SDGsが示す将来の世界のあり方とは何かそこからバックキャストして描ける道筋はどうかそのために必要となる投資やイノベーションは何か単に既存事業に SDGsのラベルを貼ることによる現状肯定ではなくSDGsという「未来志向」のツールを活用して自社の戦略をより一層磨き上げることが求められる

Points SDGsはどこまでいっても未来志向100年先を見据えてこれまで誰も取り組んで

こなかった社会課題に経営者がどのように取り組むかが SDGs 経営の本質 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」 世界全体が SDGs の達成を目指す中これを無視して事業活動を行うことは企業の持

続可能性を揺るがす「リスク」をもたらす一方企業がビジネスを通じて SDGs に取り組むことは企業の存続基盤を強固なものにするとともにいまだ開拓されていない巨大な市場を獲得するための大きな「機会」となり得る

12

Points SDGsに取り組まなかった場合の「リスク」として企業の評判が下がる規制が強

化された際に規制に抵触する消費者が商品を購入してくれなくなるといったものがある

以前は ESGやサステナビリティに関する取組を先んじて行うことにより中期的な企業価値が上がり競争力向上につながると考えていたが最近はどの企業も取り組んでいるため取り組まないこと自体がリスクであると見方を変えている

SDGsは挑むべき事業成長の機会として捉えることができる 民間セクターが将来のマーケットを見据える魅力的なツールとして SDGsを捉えてい

ることが重要 新技術や新たなビジネスモデルが生み出す大きな変革の波に一番初めに乗った企業

が市場の成長を牽引することになる SDGsと連呼しなくても広げるためのスモールアーリーサクセスを作ることが必

要ステークホルダーの反応も見ながら小さい単位でトライアルを重ね拡大していくと企業全体の推進力につながるのではないか

これまでは ESGに関する取組は得た利益を使ってやれることをやるといういわゆるコストと見なしていたが今後は投資として捉えて行っていく

EVA経営をベースに置きおよそ 5年間で EVAがプラスになるような投資計画を立てているが今はより長いスパンを見る必要がある部分もありEVA経営の根幹は変えずに EVA全体の考え方を少しアレンジしていく必要がある

14 日本企業の理念と SDGs 近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の精神にも見られ

るように「会社は社会のためにある」と考える日本企業は多い 日本企業にとって SDGsとは決して舶来の未知のものではなく企業理念や社訓を礎

に長らく自ずと意識し実践してきた取組が別の形で具体化されたものといえる Points 「三方よし」のようにSDGsの考え方は多くの日本企業や商慣習と親和性が高い 会社が世のため人のために存在するという考え方は「三方よし」や渋沢栄一の道徳経済合一説にもあるように日本ではもう当たり前の考え方として脈々と受け継がれている欧米から SDGsとか ESGと言われなくても日本企業はその前から社会課題を捉えて現在の成長を実現してきた200年以上続く会社の約半分が日本にあるという事実がこれを証明している

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SDGs は投資家等を意識しなくとも会社の理念ややるべきことを日本企業の精神で取り組めば結果として投資家からの評価につながるのではないか日本の企業はSDGsという考え方が無かった時代から長い間 SDGs に取り組んできたしかしながら PRが苦手であり実際に海外企業より優れた取組をしていてもそれを発信してこなかった

日本での ESGの盛り上がりは少し特徴がある実は欧米では ESGという用語は投資家や金融のコミュニティ以外ではほとんど知られていない欧米ではウォールストリートジャーナルかファイナンシャルタイムズしか出てこない言葉であるが日本では一般の新聞にも使われているまた教育の現場でも使われ幅広いアプリケーションになりつつあるまたこの 3年半の間に日本の企業においてESGという言葉の認識が拡がっている

15 ベンチャー企業と SDGs 多くのベンチャー企業にとっては企業の設立目的自体が何らかの社会課題の解決を目

指したものである「貧困問題を解決したい」「地球温暖化を食い止めたい」そうしたミッションのもとに設立された企業は会社そのものが SDGsの理念と軌を一にした存在となる Points 大企業の場合は会社を SDGsにどのようにフィットさせるかどのようにフォローするかがテーマになると思うがベンチャー企業の場合は会社の設立ミッションそのものが SDGs と平仄を合わせている事例もある

ベンチャー企業が作るスモールアーリーサクセスは人材獲得と資金調達であるSDGsを意識した IRを行うことで投資家の資金が呼び込めるという成功事例を横展開すればベンチャー企業も活用できる

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- SDGsは「これからも必要とされる会社か」を問いかける 投資判断において投資家が着目するのは過去ではなく将来の企業価値である社会

の価値観が変化する中で投資先の競争力が失われるリスクが存在するのかあるいは長期的持続的な成長が期待できるのかSDGsや ESGの理念は長期的な企業価値を判断するための手がかりである

14

21 投資家を取り巻く環境変化 持続可能性に対する人々の意識が高まる中各国の規制や顧客の選好の変化がESG投

資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている Points お客様の意識向上に後押しされ最近では機関投資家も SDGs や ESGに関する感度を上げている特に欧州の機関投資家の要請でファンダメンタルの運用の中に ESGをインテグレートしている気候や人権等については投資家も対応する動きがあり今後も進むと感じている

欧州投資家は ESGの意識が高い既存の運用に ESGを取り込まなければ契約が取れない選考で落とされるというのが欧州特に北欧ユーロ圏の流れ

パッシブ投資の比率が高まっており企業を持続的に成長させなければ投資家は儲からないそのため投資家は企業に対して長期軸での事業の目的等を明確にして持続的に成長することを求めてくる

欧米での IRでは最初に ESGや SDGsについて質問されることが多い特に欧州系の投資家はセンシティブ

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図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

16

22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

22

34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

23

第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 5: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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の成果も礎に政府として注力してきた企業と投資家の対話促進やコーポレートガバナンス改革の流れを汲みつつSDGsが企業や投資家その他のステークホルダーにとってどのような意味を持つのかを各論として掘り下げるものでもある 6

本研究会においては日本を代表する大企業やスタートアップの CEO機関投資家大

学の長に加えゲストとして国連機関(UNDP)や国際団体の長GPIF 等の参画も得ながら6回にわたり議論を深めてきたまたここでの議論提言を広め実践につなげていく観点から幅広い経済団体や関係機関関係省庁がオブザーバーとして参加している 研究会では国内外の SDGs経営の先行事例に焦点を当てつついかにして企業が

SDGsを経営に取り込んでいくかまた投資家はどういった観点からそれを評価するのかなどについて委員等の豊富な知見に基づき多岐にわたりかつ深く掘り下げた検討が行われた

本報告書は研究会での議論を取りまとめるとともにこれを通じて見えてきた課題を

克服するための政策的な提言を行うものである

月経済産業省)の略称企業と投資家の共通言語として企業と投資家が情報開示や対話を通じて互いの理解を深め持続的な価値協創に向けた行動を促すことを目的とするガイダンス 6 価値協創ガイダンスにおいても「社会との接点」「戦略」の項目においてSDGs等で示される国際的な社会課題の解決を視野に入れることの重要性に言及している

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図表 1SDGs実施のための短中期工程表

出所SDGsアクションプラン 2018

図表 2『拡大版 SDGsアクションプラン 2018』のポイント

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2018

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図表 3『拡大版 SDGsアクションプラン 2019』のポイント

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2019

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図表 4『拡大版 SDGsアクションプラン 2019』における主要な取組

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2019

図表 5価値協創ガイダンスにおける SDGsへの言及

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図表 6「SDGs経営ESG投資研究会」各回の議題

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本報告書の構成 本報告書の構成は以下のとおりである まず第一章では「SDGs―価値の源泉」としてSDGsが企業や投資家その他のス

テークホルダーにとってどのような意味を持つのかを整理している多様なステークホルダーが SDGs をどのようなものとして捉えているかを概観した上で企業が SDGs の各ゴールを達成するためのステークホルダーとの連携の方向性を示しているそのエッセンスは「SDGsは企業と世界をつなぐ共通言語であり同時にビジネスを通じて課題解決を目指す各主体にとっての『価値の源泉』である」ということである 第二章では「SDGs経営の実践」として第一章の認識を踏まえSDGs経営を実践す

るために企業や投資家等が意識すべきポイントを6つの観点(①社会課題と経済合理性②重要課題(マテリアリティ)の特定③イノベーションの創発④「科学的論理的」な検証評価⑤長期視点を担保する経営システム⑥「価値創造ストーリー」としての発信)から整理しているこの中で抽象的な議論となりがちな SDGs を企業のビジネス環境を規定する現実のものとして捉え具体的に経営に組み込む上で重要と考えられる視点を提示している なお第一章第二章においては研究会での委員やゲストの発言を引きつつそこか

ら得られたメッセージを凝縮して示す形をとっているこれは企業や機関投資家大学国際機関等のトップとして最前線で実践を担うリーダーたちの声こそがその課題も含む SDGs経営の本質を捉えようとするものであり本報告書の読者にとっても最も有意義な導きの糸となると考えたことによるまた本報告書にも別添している「SDGs経営ガイド」(2019年 5月)は本研究会での議論をベースとしており本報告書の第一章第二章は同ガイドを補完するものとしても位置づけられている 第三章では研究会における議論の中で見えた 6つの課題(①国際的なメッセージの発

信②長期視点の企業経営の推進③投資家による長期投資の促進④SDGsを通じた新市場の開拓⑤国際的なルールメイキング⑥科学的論理的な評価の浸透)を示しそれらを克服していくための方策について提言を行っている なお本報告書の本文では示しきれなかった参加者からあふれ出た言葉の数々それ

ぞれの「SDGs経営」の理念や実践についても別添(説明資料と議事概要)として本報告書に添付したこうした臨場感あふれるやり取りは今後自ら「SDGs経営」に取り組み支えていこうとする実践者たちにとっての大きなヒントになることを確信している

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第一章 SDGs-価値の源泉 1 企業にとっての SDGs SDGsという世界共通の言語が未来の市場を照らし出す

SDGs達成のためには世界で年間 5~7兆ドルの投資が必要とも言われるこれはいまだ満たされていない世界のニーズの大きさを物語る 企業にとっての SDGsとは無視することはできない「リスク」を突きつけるものであると同時に未来の市場を創造獲得するための「機会」でもある

図表 7SDGsが生み出す市場

出所UNDP提供資料

〇国連開発計画(UNDP)によればSDGsの野心的な目標を達成するために世界で年間 5~7兆ドルの資金が必要となり投資機会は途上国で1~2兆ドル先進国でも最低 12 兆ドルとも試算される 〇SDGsが達成されるならば労働生産性の向上や環境負荷低減等を通じた外部経済効果を考慮し2030 年までに年間 12兆ドルの新たな市場機会が生まれうるとも言われている

11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」

SDGsは国連総会で合意された 2030年までの世界共通の目標であり世界中の多くのプレイヤーがSDGsを一つの前提条件として活動しているSDGsの目標が示すものは満たされていない世界のニーズすなわち未開拓の巨大な市場であり目標を達成するためには多様なプレイヤーの参画が不可欠である このような中で企業は SDGsを「共通言語」として世界中のステークホルダーとコミ

ュニケーションをしながら同時にSDGsというフレームワークの中で評価されるそんな時代が訪れている

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Points ESGや SDGsという世界的なフレームワークを用いて日本企業が海外でコミュニケ

ーションすることで日本企業への資金の流入がより促進される好循環が生まれることを期待する

SDGs実現のためには企業の参加が必要不可欠である雇用を生み出しイノベーションを率いる役割を担う存在は企業である資金源としても極めて重要である向こう数年で企業は SDGs に対するベンチマーキングをされ比較をされることになる

2015年に開発アジェンダに合意できたことは以下の点で重要であるまず気候問題やパンデミックなど国境を越えた課題に取り組むための全地球的普遍的なアジェンダ(universal agenda)ができ広く普及したことつまりSDGsは顕著な劇的転換を支える優れたフレームワークとなっており開発の中での「エスペラント語」

12 SDGsは「未来志向」のツール

SDGsは2030年までの世界の「あるべき姿」を示している「今できること」の延長線上に将来を予測するのではなくこの将来の「あるべき姿」から逆算して「今何をすべきか」を考える「バックキャスティング思考」が必要である

SDGsが示す将来の世界のあり方とは何かそこからバックキャストして描ける道筋はどうかそのために必要となる投資やイノベーションは何か単に既存事業に SDGsのラベルを貼ることによる現状肯定ではなくSDGsという「未来志向」のツールを活用して自社の戦略をより一層磨き上げることが求められる

Points SDGsはどこまでいっても未来志向100年先を見据えてこれまで誰も取り組んで

こなかった社会課題に経営者がどのように取り組むかが SDGs 経営の本質 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」 世界全体が SDGs の達成を目指す中これを無視して事業活動を行うことは企業の持

続可能性を揺るがす「リスク」をもたらす一方企業がビジネスを通じて SDGs に取り組むことは企業の存続基盤を強固なものにするとともにいまだ開拓されていない巨大な市場を獲得するための大きな「機会」となり得る

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Points SDGsに取り組まなかった場合の「リスク」として企業の評判が下がる規制が強

化された際に規制に抵触する消費者が商品を購入してくれなくなるといったものがある

以前は ESGやサステナビリティに関する取組を先んじて行うことにより中期的な企業価値が上がり競争力向上につながると考えていたが最近はどの企業も取り組んでいるため取り組まないこと自体がリスクであると見方を変えている

SDGsは挑むべき事業成長の機会として捉えることができる 民間セクターが将来のマーケットを見据える魅力的なツールとして SDGsを捉えてい

ることが重要 新技術や新たなビジネスモデルが生み出す大きな変革の波に一番初めに乗った企業

が市場の成長を牽引することになる SDGsと連呼しなくても広げるためのスモールアーリーサクセスを作ることが必

要ステークホルダーの反応も見ながら小さい単位でトライアルを重ね拡大していくと企業全体の推進力につながるのではないか

これまでは ESGに関する取組は得た利益を使ってやれることをやるといういわゆるコストと見なしていたが今後は投資として捉えて行っていく

EVA経営をベースに置きおよそ 5年間で EVAがプラスになるような投資計画を立てているが今はより長いスパンを見る必要がある部分もありEVA経営の根幹は変えずに EVA全体の考え方を少しアレンジしていく必要がある

14 日本企業の理念と SDGs 近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の精神にも見られ

るように「会社は社会のためにある」と考える日本企業は多い 日本企業にとって SDGsとは決して舶来の未知のものではなく企業理念や社訓を礎

に長らく自ずと意識し実践してきた取組が別の形で具体化されたものといえる Points 「三方よし」のようにSDGsの考え方は多くの日本企業や商慣習と親和性が高い 会社が世のため人のために存在するという考え方は「三方よし」や渋沢栄一の道徳経済合一説にもあるように日本ではもう当たり前の考え方として脈々と受け継がれている欧米から SDGsとか ESGと言われなくても日本企業はその前から社会課題を捉えて現在の成長を実現してきた200年以上続く会社の約半分が日本にあるという事実がこれを証明している

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SDGs は投資家等を意識しなくとも会社の理念ややるべきことを日本企業の精神で取り組めば結果として投資家からの評価につながるのではないか日本の企業はSDGsという考え方が無かった時代から長い間 SDGs に取り組んできたしかしながら PRが苦手であり実際に海外企業より優れた取組をしていてもそれを発信してこなかった

日本での ESGの盛り上がりは少し特徴がある実は欧米では ESGという用語は投資家や金融のコミュニティ以外ではほとんど知られていない欧米ではウォールストリートジャーナルかファイナンシャルタイムズしか出てこない言葉であるが日本では一般の新聞にも使われているまた教育の現場でも使われ幅広いアプリケーションになりつつあるまたこの 3年半の間に日本の企業においてESGという言葉の認識が拡がっている

15 ベンチャー企業と SDGs 多くのベンチャー企業にとっては企業の設立目的自体が何らかの社会課題の解決を目

指したものである「貧困問題を解決したい」「地球温暖化を食い止めたい」そうしたミッションのもとに設立された企業は会社そのものが SDGsの理念と軌を一にした存在となる Points 大企業の場合は会社を SDGsにどのようにフィットさせるかどのようにフォローするかがテーマになると思うがベンチャー企業の場合は会社の設立ミッションそのものが SDGs と平仄を合わせている事例もある

ベンチャー企業が作るスモールアーリーサクセスは人材獲得と資金調達であるSDGsを意識した IRを行うことで投資家の資金が呼び込めるという成功事例を横展開すればベンチャー企業も活用できる

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- SDGsは「これからも必要とされる会社か」を問いかける 投資判断において投資家が着目するのは過去ではなく将来の企業価値である社会

の価値観が変化する中で投資先の競争力が失われるリスクが存在するのかあるいは長期的持続的な成長が期待できるのかSDGsや ESGの理念は長期的な企業価値を判断するための手がかりである

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21 投資家を取り巻く環境変化 持続可能性に対する人々の意識が高まる中各国の規制や顧客の選好の変化がESG投

資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている Points お客様の意識向上に後押しされ最近では機関投資家も SDGs や ESGに関する感度を上げている特に欧州の機関投資家の要請でファンダメンタルの運用の中に ESGをインテグレートしている気候や人権等については投資家も対応する動きがあり今後も進むと感じている

欧州投資家は ESGの意識が高い既存の運用に ESGを取り込まなければ契約が取れない選考で落とされるというのが欧州特に北欧ユーロ圏の流れ

パッシブ投資の比率が高まっており企業を持続的に成長させなければ投資家は儲からないそのため投資家は企業に対して長期軸での事業の目的等を明確にして持続的に成長することを求めてくる

欧米での IRでは最初に ESGや SDGsについて質問されることが多い特に欧州系の投資家はセンシティブ

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図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

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22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 6: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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図表 1SDGs実施のための短中期工程表

出所SDGsアクションプラン 2018

図表 2『拡大版 SDGsアクションプラン 2018』のポイント

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2018

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図表 3『拡大版 SDGsアクションプラン 2019』のポイント

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2019

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図表 4『拡大版 SDGsアクションプラン 2019』における主要な取組

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2019

図表 5価値協創ガイダンスにおける SDGsへの言及

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図表 6「SDGs経営ESG投資研究会」各回の議題

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本報告書の構成 本報告書の構成は以下のとおりである まず第一章では「SDGs―価値の源泉」としてSDGsが企業や投資家その他のス

テークホルダーにとってどのような意味を持つのかを整理している多様なステークホルダーが SDGs をどのようなものとして捉えているかを概観した上で企業が SDGs の各ゴールを達成するためのステークホルダーとの連携の方向性を示しているそのエッセンスは「SDGsは企業と世界をつなぐ共通言語であり同時にビジネスを通じて課題解決を目指す各主体にとっての『価値の源泉』である」ということである 第二章では「SDGs経営の実践」として第一章の認識を踏まえSDGs経営を実践す

るために企業や投資家等が意識すべきポイントを6つの観点(①社会課題と経済合理性②重要課題(マテリアリティ)の特定③イノベーションの創発④「科学的論理的」な検証評価⑤長期視点を担保する経営システム⑥「価値創造ストーリー」としての発信)から整理しているこの中で抽象的な議論となりがちな SDGs を企業のビジネス環境を規定する現実のものとして捉え具体的に経営に組み込む上で重要と考えられる視点を提示している なお第一章第二章においては研究会での委員やゲストの発言を引きつつそこか

ら得られたメッセージを凝縮して示す形をとっているこれは企業や機関投資家大学国際機関等のトップとして最前線で実践を担うリーダーたちの声こそがその課題も含む SDGs経営の本質を捉えようとするものであり本報告書の読者にとっても最も有意義な導きの糸となると考えたことによるまた本報告書にも別添している「SDGs経営ガイド」(2019年 5月)は本研究会での議論をベースとしており本報告書の第一章第二章は同ガイドを補完するものとしても位置づけられている 第三章では研究会における議論の中で見えた 6つの課題(①国際的なメッセージの発

信②長期視点の企業経営の推進③投資家による長期投資の促進④SDGsを通じた新市場の開拓⑤国際的なルールメイキング⑥科学的論理的な評価の浸透)を示しそれらを克服していくための方策について提言を行っている なお本報告書の本文では示しきれなかった参加者からあふれ出た言葉の数々それ

ぞれの「SDGs経営」の理念や実践についても別添(説明資料と議事概要)として本報告書に添付したこうした臨場感あふれるやり取りは今後自ら「SDGs経営」に取り組み支えていこうとする実践者たちにとっての大きなヒントになることを確信している

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第一章 SDGs-価値の源泉 1 企業にとっての SDGs SDGsという世界共通の言語が未来の市場を照らし出す

SDGs達成のためには世界で年間 5~7兆ドルの投資が必要とも言われるこれはいまだ満たされていない世界のニーズの大きさを物語る 企業にとっての SDGsとは無視することはできない「リスク」を突きつけるものであると同時に未来の市場を創造獲得するための「機会」でもある

図表 7SDGsが生み出す市場

出所UNDP提供資料

〇国連開発計画(UNDP)によればSDGsの野心的な目標を達成するために世界で年間 5~7兆ドルの資金が必要となり投資機会は途上国で1~2兆ドル先進国でも最低 12 兆ドルとも試算される 〇SDGsが達成されるならば労働生産性の向上や環境負荷低減等を通じた外部経済効果を考慮し2030 年までに年間 12兆ドルの新たな市場機会が生まれうるとも言われている

11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」

SDGsは国連総会で合意された 2030年までの世界共通の目標であり世界中の多くのプレイヤーがSDGsを一つの前提条件として活動しているSDGsの目標が示すものは満たされていない世界のニーズすなわち未開拓の巨大な市場であり目標を達成するためには多様なプレイヤーの参画が不可欠である このような中で企業は SDGsを「共通言語」として世界中のステークホルダーとコミ

ュニケーションをしながら同時にSDGsというフレームワークの中で評価されるそんな時代が訪れている

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Points ESGや SDGsという世界的なフレームワークを用いて日本企業が海外でコミュニケ

ーションすることで日本企業への資金の流入がより促進される好循環が生まれることを期待する

SDGs実現のためには企業の参加が必要不可欠である雇用を生み出しイノベーションを率いる役割を担う存在は企業である資金源としても極めて重要である向こう数年で企業は SDGs に対するベンチマーキングをされ比較をされることになる

2015年に開発アジェンダに合意できたことは以下の点で重要であるまず気候問題やパンデミックなど国境を越えた課題に取り組むための全地球的普遍的なアジェンダ(universal agenda)ができ広く普及したことつまりSDGsは顕著な劇的転換を支える優れたフレームワークとなっており開発の中での「エスペラント語」

12 SDGsは「未来志向」のツール

SDGsは2030年までの世界の「あるべき姿」を示している「今できること」の延長線上に将来を予測するのではなくこの将来の「あるべき姿」から逆算して「今何をすべきか」を考える「バックキャスティング思考」が必要である

SDGsが示す将来の世界のあり方とは何かそこからバックキャストして描ける道筋はどうかそのために必要となる投資やイノベーションは何か単に既存事業に SDGsのラベルを貼ることによる現状肯定ではなくSDGsという「未来志向」のツールを活用して自社の戦略をより一層磨き上げることが求められる

Points SDGsはどこまでいっても未来志向100年先を見据えてこれまで誰も取り組んで

こなかった社会課題に経営者がどのように取り組むかが SDGs 経営の本質 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」 世界全体が SDGs の達成を目指す中これを無視して事業活動を行うことは企業の持

続可能性を揺るがす「リスク」をもたらす一方企業がビジネスを通じて SDGs に取り組むことは企業の存続基盤を強固なものにするとともにいまだ開拓されていない巨大な市場を獲得するための大きな「機会」となり得る

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Points SDGsに取り組まなかった場合の「リスク」として企業の評判が下がる規制が強

化された際に規制に抵触する消費者が商品を購入してくれなくなるといったものがある

以前は ESGやサステナビリティに関する取組を先んじて行うことにより中期的な企業価値が上がり競争力向上につながると考えていたが最近はどの企業も取り組んでいるため取り組まないこと自体がリスクであると見方を変えている

SDGsは挑むべき事業成長の機会として捉えることができる 民間セクターが将来のマーケットを見据える魅力的なツールとして SDGsを捉えてい

ることが重要 新技術や新たなビジネスモデルが生み出す大きな変革の波に一番初めに乗った企業

が市場の成長を牽引することになる SDGsと連呼しなくても広げるためのスモールアーリーサクセスを作ることが必

要ステークホルダーの反応も見ながら小さい単位でトライアルを重ね拡大していくと企業全体の推進力につながるのではないか

これまでは ESGに関する取組は得た利益を使ってやれることをやるといういわゆるコストと見なしていたが今後は投資として捉えて行っていく

EVA経営をベースに置きおよそ 5年間で EVAがプラスになるような投資計画を立てているが今はより長いスパンを見る必要がある部分もありEVA経営の根幹は変えずに EVA全体の考え方を少しアレンジしていく必要がある

14 日本企業の理念と SDGs 近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の精神にも見られ

るように「会社は社会のためにある」と考える日本企業は多い 日本企業にとって SDGsとは決して舶来の未知のものではなく企業理念や社訓を礎

に長らく自ずと意識し実践してきた取組が別の形で具体化されたものといえる Points 「三方よし」のようにSDGsの考え方は多くの日本企業や商慣習と親和性が高い 会社が世のため人のために存在するという考え方は「三方よし」や渋沢栄一の道徳経済合一説にもあるように日本ではもう当たり前の考え方として脈々と受け継がれている欧米から SDGsとか ESGと言われなくても日本企業はその前から社会課題を捉えて現在の成長を実現してきた200年以上続く会社の約半分が日本にあるという事実がこれを証明している

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SDGs は投資家等を意識しなくとも会社の理念ややるべきことを日本企業の精神で取り組めば結果として投資家からの評価につながるのではないか日本の企業はSDGsという考え方が無かった時代から長い間 SDGs に取り組んできたしかしながら PRが苦手であり実際に海外企業より優れた取組をしていてもそれを発信してこなかった

日本での ESGの盛り上がりは少し特徴がある実は欧米では ESGという用語は投資家や金融のコミュニティ以外ではほとんど知られていない欧米ではウォールストリートジャーナルかファイナンシャルタイムズしか出てこない言葉であるが日本では一般の新聞にも使われているまた教育の現場でも使われ幅広いアプリケーションになりつつあるまたこの 3年半の間に日本の企業においてESGという言葉の認識が拡がっている

15 ベンチャー企業と SDGs 多くのベンチャー企業にとっては企業の設立目的自体が何らかの社会課題の解決を目

指したものである「貧困問題を解決したい」「地球温暖化を食い止めたい」そうしたミッションのもとに設立された企業は会社そのものが SDGsの理念と軌を一にした存在となる Points 大企業の場合は会社を SDGsにどのようにフィットさせるかどのようにフォローするかがテーマになると思うがベンチャー企業の場合は会社の設立ミッションそのものが SDGs と平仄を合わせている事例もある

ベンチャー企業が作るスモールアーリーサクセスは人材獲得と資金調達であるSDGsを意識した IRを行うことで投資家の資金が呼び込めるという成功事例を横展開すればベンチャー企業も活用できる

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- SDGsは「これからも必要とされる会社か」を問いかける 投資判断において投資家が着目するのは過去ではなく将来の企業価値である社会

の価値観が変化する中で投資先の競争力が失われるリスクが存在するのかあるいは長期的持続的な成長が期待できるのかSDGsや ESGの理念は長期的な企業価値を判断するための手がかりである

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21 投資家を取り巻く環境変化 持続可能性に対する人々の意識が高まる中各国の規制や顧客の選好の変化がESG投

資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている Points お客様の意識向上に後押しされ最近では機関投資家も SDGs や ESGに関する感度を上げている特に欧州の機関投資家の要請でファンダメンタルの運用の中に ESGをインテグレートしている気候や人権等については投資家も対応する動きがあり今後も進むと感じている

欧州投資家は ESGの意識が高い既存の運用に ESGを取り込まなければ契約が取れない選考で落とされるというのが欧州特に北欧ユーロ圏の流れ

パッシブ投資の比率が高まっており企業を持続的に成長させなければ投資家は儲からないそのため投資家は企業に対して長期軸での事業の目的等を明確にして持続的に成長することを求めてくる

欧米での IRでは最初に ESGや SDGsについて質問されることが多い特に欧州系の投資家はセンシティブ

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図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

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22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 7: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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図表 3『拡大版 SDGsアクションプラン 2019』のポイント

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2019

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図表 4『拡大版 SDGsアクションプラン 2019』における主要な取組

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2019

図表 5価値協創ガイダンスにおける SDGsへの言及

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図表 6「SDGs経営ESG投資研究会」各回の議題

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本報告書の構成 本報告書の構成は以下のとおりである まず第一章では「SDGs―価値の源泉」としてSDGsが企業や投資家その他のス

テークホルダーにとってどのような意味を持つのかを整理している多様なステークホルダーが SDGs をどのようなものとして捉えているかを概観した上で企業が SDGs の各ゴールを達成するためのステークホルダーとの連携の方向性を示しているそのエッセンスは「SDGsは企業と世界をつなぐ共通言語であり同時にビジネスを通じて課題解決を目指す各主体にとっての『価値の源泉』である」ということである 第二章では「SDGs経営の実践」として第一章の認識を踏まえSDGs経営を実践す

るために企業や投資家等が意識すべきポイントを6つの観点(①社会課題と経済合理性②重要課題(マテリアリティ)の特定③イノベーションの創発④「科学的論理的」な検証評価⑤長期視点を担保する経営システム⑥「価値創造ストーリー」としての発信)から整理しているこの中で抽象的な議論となりがちな SDGs を企業のビジネス環境を規定する現実のものとして捉え具体的に経営に組み込む上で重要と考えられる視点を提示している なお第一章第二章においては研究会での委員やゲストの発言を引きつつそこか

ら得られたメッセージを凝縮して示す形をとっているこれは企業や機関投資家大学国際機関等のトップとして最前線で実践を担うリーダーたちの声こそがその課題も含む SDGs経営の本質を捉えようとするものであり本報告書の読者にとっても最も有意義な導きの糸となると考えたことによるまた本報告書にも別添している「SDGs経営ガイド」(2019年 5月)は本研究会での議論をベースとしており本報告書の第一章第二章は同ガイドを補完するものとしても位置づけられている 第三章では研究会における議論の中で見えた 6つの課題(①国際的なメッセージの発

信②長期視点の企業経営の推進③投資家による長期投資の促進④SDGsを通じた新市場の開拓⑤国際的なルールメイキング⑥科学的論理的な評価の浸透)を示しそれらを克服していくための方策について提言を行っている なお本報告書の本文では示しきれなかった参加者からあふれ出た言葉の数々それ

ぞれの「SDGs経営」の理念や実践についても別添(説明資料と議事概要)として本報告書に添付したこうした臨場感あふれるやり取りは今後自ら「SDGs経営」に取り組み支えていこうとする実践者たちにとっての大きなヒントになることを確信している

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第一章 SDGs-価値の源泉 1 企業にとっての SDGs SDGsという世界共通の言語が未来の市場を照らし出す

SDGs達成のためには世界で年間 5~7兆ドルの投資が必要とも言われるこれはいまだ満たされていない世界のニーズの大きさを物語る 企業にとっての SDGsとは無視することはできない「リスク」を突きつけるものであると同時に未来の市場を創造獲得するための「機会」でもある

図表 7SDGsが生み出す市場

出所UNDP提供資料

〇国連開発計画(UNDP)によればSDGsの野心的な目標を達成するために世界で年間 5~7兆ドルの資金が必要となり投資機会は途上国で1~2兆ドル先進国でも最低 12 兆ドルとも試算される 〇SDGsが達成されるならば労働生産性の向上や環境負荷低減等を通じた外部経済効果を考慮し2030 年までに年間 12兆ドルの新たな市場機会が生まれうるとも言われている

11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」

SDGsは国連総会で合意された 2030年までの世界共通の目標であり世界中の多くのプレイヤーがSDGsを一つの前提条件として活動しているSDGsの目標が示すものは満たされていない世界のニーズすなわち未開拓の巨大な市場であり目標を達成するためには多様なプレイヤーの参画が不可欠である このような中で企業は SDGsを「共通言語」として世界中のステークホルダーとコミ

ュニケーションをしながら同時にSDGsというフレームワークの中で評価されるそんな時代が訪れている

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Points ESGや SDGsという世界的なフレームワークを用いて日本企業が海外でコミュニケ

ーションすることで日本企業への資金の流入がより促進される好循環が生まれることを期待する

SDGs実現のためには企業の参加が必要不可欠である雇用を生み出しイノベーションを率いる役割を担う存在は企業である資金源としても極めて重要である向こう数年で企業は SDGs に対するベンチマーキングをされ比較をされることになる

2015年に開発アジェンダに合意できたことは以下の点で重要であるまず気候問題やパンデミックなど国境を越えた課題に取り組むための全地球的普遍的なアジェンダ(universal agenda)ができ広く普及したことつまりSDGsは顕著な劇的転換を支える優れたフレームワークとなっており開発の中での「エスペラント語」

12 SDGsは「未来志向」のツール

SDGsは2030年までの世界の「あるべき姿」を示している「今できること」の延長線上に将来を予測するのではなくこの将来の「あるべき姿」から逆算して「今何をすべきか」を考える「バックキャスティング思考」が必要である

SDGsが示す将来の世界のあり方とは何かそこからバックキャストして描ける道筋はどうかそのために必要となる投資やイノベーションは何か単に既存事業に SDGsのラベルを貼ることによる現状肯定ではなくSDGsという「未来志向」のツールを活用して自社の戦略をより一層磨き上げることが求められる

Points SDGsはどこまでいっても未来志向100年先を見据えてこれまで誰も取り組んで

こなかった社会課題に経営者がどのように取り組むかが SDGs 経営の本質 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」 世界全体が SDGs の達成を目指す中これを無視して事業活動を行うことは企業の持

続可能性を揺るがす「リスク」をもたらす一方企業がビジネスを通じて SDGs に取り組むことは企業の存続基盤を強固なものにするとともにいまだ開拓されていない巨大な市場を獲得するための大きな「機会」となり得る

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Points SDGsに取り組まなかった場合の「リスク」として企業の評判が下がる規制が強

化された際に規制に抵触する消費者が商品を購入してくれなくなるといったものがある

以前は ESGやサステナビリティに関する取組を先んじて行うことにより中期的な企業価値が上がり競争力向上につながると考えていたが最近はどの企業も取り組んでいるため取り組まないこと自体がリスクであると見方を変えている

SDGsは挑むべき事業成長の機会として捉えることができる 民間セクターが将来のマーケットを見据える魅力的なツールとして SDGsを捉えてい

ることが重要 新技術や新たなビジネスモデルが生み出す大きな変革の波に一番初めに乗った企業

が市場の成長を牽引することになる SDGsと連呼しなくても広げるためのスモールアーリーサクセスを作ることが必

要ステークホルダーの反応も見ながら小さい単位でトライアルを重ね拡大していくと企業全体の推進力につながるのではないか

これまでは ESGに関する取組は得た利益を使ってやれることをやるといういわゆるコストと見なしていたが今後は投資として捉えて行っていく

EVA経営をベースに置きおよそ 5年間で EVAがプラスになるような投資計画を立てているが今はより長いスパンを見る必要がある部分もありEVA経営の根幹は変えずに EVA全体の考え方を少しアレンジしていく必要がある

14 日本企業の理念と SDGs 近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の精神にも見られ

るように「会社は社会のためにある」と考える日本企業は多い 日本企業にとって SDGsとは決して舶来の未知のものではなく企業理念や社訓を礎

に長らく自ずと意識し実践してきた取組が別の形で具体化されたものといえる Points 「三方よし」のようにSDGsの考え方は多くの日本企業や商慣習と親和性が高い 会社が世のため人のために存在するという考え方は「三方よし」や渋沢栄一の道徳経済合一説にもあるように日本ではもう当たり前の考え方として脈々と受け継がれている欧米から SDGsとか ESGと言われなくても日本企業はその前から社会課題を捉えて現在の成長を実現してきた200年以上続く会社の約半分が日本にあるという事実がこれを証明している

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SDGs は投資家等を意識しなくとも会社の理念ややるべきことを日本企業の精神で取り組めば結果として投資家からの評価につながるのではないか日本の企業はSDGsという考え方が無かった時代から長い間 SDGs に取り組んできたしかしながら PRが苦手であり実際に海外企業より優れた取組をしていてもそれを発信してこなかった

日本での ESGの盛り上がりは少し特徴がある実は欧米では ESGという用語は投資家や金融のコミュニティ以外ではほとんど知られていない欧米ではウォールストリートジャーナルかファイナンシャルタイムズしか出てこない言葉であるが日本では一般の新聞にも使われているまた教育の現場でも使われ幅広いアプリケーションになりつつあるまたこの 3年半の間に日本の企業においてESGという言葉の認識が拡がっている

15 ベンチャー企業と SDGs 多くのベンチャー企業にとっては企業の設立目的自体が何らかの社会課題の解決を目

指したものである「貧困問題を解決したい」「地球温暖化を食い止めたい」そうしたミッションのもとに設立された企業は会社そのものが SDGsの理念と軌を一にした存在となる Points 大企業の場合は会社を SDGsにどのようにフィットさせるかどのようにフォローするかがテーマになると思うがベンチャー企業の場合は会社の設立ミッションそのものが SDGs と平仄を合わせている事例もある

ベンチャー企業が作るスモールアーリーサクセスは人材獲得と資金調達であるSDGsを意識した IRを行うことで投資家の資金が呼び込めるという成功事例を横展開すればベンチャー企業も活用できる

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- SDGsは「これからも必要とされる会社か」を問いかける 投資判断において投資家が着目するのは過去ではなく将来の企業価値である社会

の価値観が変化する中で投資先の競争力が失われるリスクが存在するのかあるいは長期的持続的な成長が期待できるのかSDGsや ESGの理念は長期的な企業価値を判断するための手がかりである

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21 投資家を取り巻く環境変化 持続可能性に対する人々の意識が高まる中各国の規制や顧客の選好の変化がESG投

資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている Points お客様の意識向上に後押しされ最近では機関投資家も SDGs や ESGに関する感度を上げている特に欧州の機関投資家の要請でファンダメンタルの運用の中に ESGをインテグレートしている気候や人権等については投資家も対応する動きがあり今後も進むと感じている

欧州投資家は ESGの意識が高い既存の運用に ESGを取り込まなければ契約が取れない選考で落とされるというのが欧州特に北欧ユーロ圏の流れ

パッシブ投資の比率が高まっており企業を持続的に成長させなければ投資家は儲からないそのため投資家は企業に対して長期軸での事業の目的等を明確にして持続的に成長することを求めてくる

欧米での IRでは最初に ESGや SDGsについて質問されることが多い特に欧州系の投資家はセンシティブ

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図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

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22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 8: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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図表 4『拡大版 SDGsアクションプラン 2019』における主要な取組

出所拡大版 SDGs アクションプラン 2019

図表 5価値協創ガイダンスにおける SDGsへの言及

8

図表 6「SDGs経営ESG投資研究会」各回の議題

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本報告書の構成 本報告書の構成は以下のとおりである まず第一章では「SDGs―価値の源泉」としてSDGsが企業や投資家その他のス

テークホルダーにとってどのような意味を持つのかを整理している多様なステークホルダーが SDGs をどのようなものとして捉えているかを概観した上で企業が SDGs の各ゴールを達成するためのステークホルダーとの連携の方向性を示しているそのエッセンスは「SDGsは企業と世界をつなぐ共通言語であり同時にビジネスを通じて課題解決を目指す各主体にとっての『価値の源泉』である」ということである 第二章では「SDGs経営の実践」として第一章の認識を踏まえSDGs経営を実践す

るために企業や投資家等が意識すべきポイントを6つの観点(①社会課題と経済合理性②重要課題(マテリアリティ)の特定③イノベーションの創発④「科学的論理的」な検証評価⑤長期視点を担保する経営システム⑥「価値創造ストーリー」としての発信)から整理しているこの中で抽象的な議論となりがちな SDGs を企業のビジネス環境を規定する現実のものとして捉え具体的に経営に組み込む上で重要と考えられる視点を提示している なお第一章第二章においては研究会での委員やゲストの発言を引きつつそこか

ら得られたメッセージを凝縮して示す形をとっているこれは企業や機関投資家大学国際機関等のトップとして最前線で実践を担うリーダーたちの声こそがその課題も含む SDGs経営の本質を捉えようとするものであり本報告書の読者にとっても最も有意義な導きの糸となると考えたことによるまた本報告書にも別添している「SDGs経営ガイド」(2019年 5月)は本研究会での議論をベースとしており本報告書の第一章第二章は同ガイドを補完するものとしても位置づけられている 第三章では研究会における議論の中で見えた 6つの課題(①国際的なメッセージの発

信②長期視点の企業経営の推進③投資家による長期投資の促進④SDGsを通じた新市場の開拓⑤国際的なルールメイキング⑥科学的論理的な評価の浸透)を示しそれらを克服していくための方策について提言を行っている なお本報告書の本文では示しきれなかった参加者からあふれ出た言葉の数々それ

ぞれの「SDGs経営」の理念や実践についても別添(説明資料と議事概要)として本報告書に添付したこうした臨場感あふれるやり取りは今後自ら「SDGs経営」に取り組み支えていこうとする実践者たちにとっての大きなヒントになることを確信している

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第一章 SDGs-価値の源泉 1 企業にとっての SDGs SDGsという世界共通の言語が未来の市場を照らし出す

SDGs達成のためには世界で年間 5~7兆ドルの投資が必要とも言われるこれはいまだ満たされていない世界のニーズの大きさを物語る 企業にとっての SDGsとは無視することはできない「リスク」を突きつけるものであると同時に未来の市場を創造獲得するための「機会」でもある

図表 7SDGsが生み出す市場

出所UNDP提供資料

〇国連開発計画(UNDP)によればSDGsの野心的な目標を達成するために世界で年間 5~7兆ドルの資金が必要となり投資機会は途上国で1~2兆ドル先進国でも最低 12 兆ドルとも試算される 〇SDGsが達成されるならば労働生産性の向上や環境負荷低減等を通じた外部経済効果を考慮し2030 年までに年間 12兆ドルの新たな市場機会が生まれうるとも言われている

11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」

SDGsは国連総会で合意された 2030年までの世界共通の目標であり世界中の多くのプレイヤーがSDGsを一つの前提条件として活動しているSDGsの目標が示すものは満たされていない世界のニーズすなわち未開拓の巨大な市場であり目標を達成するためには多様なプレイヤーの参画が不可欠である このような中で企業は SDGsを「共通言語」として世界中のステークホルダーとコミ

ュニケーションをしながら同時にSDGsというフレームワークの中で評価されるそんな時代が訪れている

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Points ESGや SDGsという世界的なフレームワークを用いて日本企業が海外でコミュニケ

ーションすることで日本企業への資金の流入がより促進される好循環が生まれることを期待する

SDGs実現のためには企業の参加が必要不可欠である雇用を生み出しイノベーションを率いる役割を担う存在は企業である資金源としても極めて重要である向こう数年で企業は SDGs に対するベンチマーキングをされ比較をされることになる

2015年に開発アジェンダに合意できたことは以下の点で重要であるまず気候問題やパンデミックなど国境を越えた課題に取り組むための全地球的普遍的なアジェンダ(universal agenda)ができ広く普及したことつまりSDGsは顕著な劇的転換を支える優れたフレームワークとなっており開発の中での「エスペラント語」

12 SDGsは「未来志向」のツール

SDGsは2030年までの世界の「あるべき姿」を示している「今できること」の延長線上に将来を予測するのではなくこの将来の「あるべき姿」から逆算して「今何をすべきか」を考える「バックキャスティング思考」が必要である

SDGsが示す将来の世界のあり方とは何かそこからバックキャストして描ける道筋はどうかそのために必要となる投資やイノベーションは何か単に既存事業に SDGsのラベルを貼ることによる現状肯定ではなくSDGsという「未来志向」のツールを活用して自社の戦略をより一層磨き上げることが求められる

Points SDGsはどこまでいっても未来志向100年先を見据えてこれまで誰も取り組んで

こなかった社会課題に経営者がどのように取り組むかが SDGs 経営の本質 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」 世界全体が SDGs の達成を目指す中これを無視して事業活動を行うことは企業の持

続可能性を揺るがす「リスク」をもたらす一方企業がビジネスを通じて SDGs に取り組むことは企業の存続基盤を強固なものにするとともにいまだ開拓されていない巨大な市場を獲得するための大きな「機会」となり得る

12

Points SDGsに取り組まなかった場合の「リスク」として企業の評判が下がる規制が強

化された際に規制に抵触する消費者が商品を購入してくれなくなるといったものがある

以前は ESGやサステナビリティに関する取組を先んじて行うことにより中期的な企業価値が上がり競争力向上につながると考えていたが最近はどの企業も取り組んでいるため取り組まないこと自体がリスクであると見方を変えている

SDGsは挑むべき事業成長の機会として捉えることができる 民間セクターが将来のマーケットを見据える魅力的なツールとして SDGsを捉えてい

ることが重要 新技術や新たなビジネスモデルが生み出す大きな変革の波に一番初めに乗った企業

が市場の成長を牽引することになる SDGsと連呼しなくても広げるためのスモールアーリーサクセスを作ることが必

要ステークホルダーの反応も見ながら小さい単位でトライアルを重ね拡大していくと企業全体の推進力につながるのではないか

これまでは ESGに関する取組は得た利益を使ってやれることをやるといういわゆるコストと見なしていたが今後は投資として捉えて行っていく

EVA経営をベースに置きおよそ 5年間で EVAがプラスになるような投資計画を立てているが今はより長いスパンを見る必要がある部分もありEVA経営の根幹は変えずに EVA全体の考え方を少しアレンジしていく必要がある

14 日本企業の理念と SDGs 近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の精神にも見られ

るように「会社は社会のためにある」と考える日本企業は多い 日本企業にとって SDGsとは決して舶来の未知のものではなく企業理念や社訓を礎

に長らく自ずと意識し実践してきた取組が別の形で具体化されたものといえる Points 「三方よし」のようにSDGsの考え方は多くの日本企業や商慣習と親和性が高い 会社が世のため人のために存在するという考え方は「三方よし」や渋沢栄一の道徳経済合一説にもあるように日本ではもう当たり前の考え方として脈々と受け継がれている欧米から SDGsとか ESGと言われなくても日本企業はその前から社会課題を捉えて現在の成長を実現してきた200年以上続く会社の約半分が日本にあるという事実がこれを証明している

13

SDGs は投資家等を意識しなくとも会社の理念ややるべきことを日本企業の精神で取り組めば結果として投資家からの評価につながるのではないか日本の企業はSDGsという考え方が無かった時代から長い間 SDGs に取り組んできたしかしながら PRが苦手であり実際に海外企業より優れた取組をしていてもそれを発信してこなかった

日本での ESGの盛り上がりは少し特徴がある実は欧米では ESGという用語は投資家や金融のコミュニティ以外ではほとんど知られていない欧米ではウォールストリートジャーナルかファイナンシャルタイムズしか出てこない言葉であるが日本では一般の新聞にも使われているまた教育の現場でも使われ幅広いアプリケーションになりつつあるまたこの 3年半の間に日本の企業においてESGという言葉の認識が拡がっている

15 ベンチャー企業と SDGs 多くのベンチャー企業にとっては企業の設立目的自体が何らかの社会課題の解決を目

指したものである「貧困問題を解決したい」「地球温暖化を食い止めたい」そうしたミッションのもとに設立された企業は会社そのものが SDGsの理念と軌を一にした存在となる Points 大企業の場合は会社を SDGsにどのようにフィットさせるかどのようにフォローするかがテーマになると思うがベンチャー企業の場合は会社の設立ミッションそのものが SDGs と平仄を合わせている事例もある

ベンチャー企業が作るスモールアーリーサクセスは人材獲得と資金調達であるSDGsを意識した IRを行うことで投資家の資金が呼び込めるという成功事例を横展開すればベンチャー企業も活用できる

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- SDGsは「これからも必要とされる会社か」を問いかける 投資判断において投資家が着目するのは過去ではなく将来の企業価値である社会

の価値観が変化する中で投資先の競争力が失われるリスクが存在するのかあるいは長期的持続的な成長が期待できるのかSDGsや ESGの理念は長期的な企業価値を判断するための手がかりである

14

21 投資家を取り巻く環境変化 持続可能性に対する人々の意識が高まる中各国の規制や顧客の選好の変化がESG投

資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている Points お客様の意識向上に後押しされ最近では機関投資家も SDGs や ESGに関する感度を上げている特に欧州の機関投資家の要請でファンダメンタルの運用の中に ESGをインテグレートしている気候や人権等については投資家も対応する動きがあり今後も進むと感じている

欧州投資家は ESGの意識が高い既存の運用に ESGを取り込まなければ契約が取れない選考で落とされるというのが欧州特に北欧ユーロ圏の流れ

パッシブ投資の比率が高まっており企業を持続的に成長させなければ投資家は儲からないそのため投資家は企業に対して長期軸での事業の目的等を明確にして持続的に成長することを求めてくる

欧米での IRでは最初に ESGや SDGsについて質問されることが多い特に欧州系の投資家はセンシティブ

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図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

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22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 9: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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図表 6「SDGs経営ESG投資研究会」各回の議題

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本報告書の構成 本報告書の構成は以下のとおりである まず第一章では「SDGs―価値の源泉」としてSDGsが企業や投資家その他のス

テークホルダーにとってどのような意味を持つのかを整理している多様なステークホルダーが SDGs をどのようなものとして捉えているかを概観した上で企業が SDGs の各ゴールを達成するためのステークホルダーとの連携の方向性を示しているそのエッセンスは「SDGsは企業と世界をつなぐ共通言語であり同時にビジネスを通じて課題解決を目指す各主体にとっての『価値の源泉』である」ということである 第二章では「SDGs経営の実践」として第一章の認識を踏まえSDGs経営を実践す

るために企業や投資家等が意識すべきポイントを6つの観点(①社会課題と経済合理性②重要課題(マテリアリティ)の特定③イノベーションの創発④「科学的論理的」な検証評価⑤長期視点を担保する経営システム⑥「価値創造ストーリー」としての発信)から整理しているこの中で抽象的な議論となりがちな SDGs を企業のビジネス環境を規定する現実のものとして捉え具体的に経営に組み込む上で重要と考えられる視点を提示している なお第一章第二章においては研究会での委員やゲストの発言を引きつつそこか

ら得られたメッセージを凝縮して示す形をとっているこれは企業や機関投資家大学国際機関等のトップとして最前線で実践を担うリーダーたちの声こそがその課題も含む SDGs経営の本質を捉えようとするものであり本報告書の読者にとっても最も有意義な導きの糸となると考えたことによるまた本報告書にも別添している「SDGs経営ガイド」(2019年 5月)は本研究会での議論をベースとしており本報告書の第一章第二章は同ガイドを補完するものとしても位置づけられている 第三章では研究会における議論の中で見えた 6つの課題(①国際的なメッセージの発

信②長期視点の企業経営の推進③投資家による長期投資の促進④SDGsを通じた新市場の開拓⑤国際的なルールメイキング⑥科学的論理的な評価の浸透)を示しそれらを克服していくための方策について提言を行っている なお本報告書の本文では示しきれなかった参加者からあふれ出た言葉の数々それ

ぞれの「SDGs経営」の理念や実践についても別添(説明資料と議事概要)として本報告書に添付したこうした臨場感あふれるやり取りは今後自ら「SDGs経営」に取り組み支えていこうとする実践者たちにとっての大きなヒントになることを確信している

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第一章 SDGs-価値の源泉 1 企業にとっての SDGs SDGsという世界共通の言語が未来の市場を照らし出す

SDGs達成のためには世界で年間 5~7兆ドルの投資が必要とも言われるこれはいまだ満たされていない世界のニーズの大きさを物語る 企業にとっての SDGsとは無視することはできない「リスク」を突きつけるものであると同時に未来の市場を創造獲得するための「機会」でもある

図表 7SDGsが生み出す市場

出所UNDP提供資料

〇国連開発計画(UNDP)によればSDGsの野心的な目標を達成するために世界で年間 5~7兆ドルの資金が必要となり投資機会は途上国で1~2兆ドル先進国でも最低 12 兆ドルとも試算される 〇SDGsが達成されるならば労働生産性の向上や環境負荷低減等を通じた外部経済効果を考慮し2030 年までに年間 12兆ドルの新たな市場機会が生まれうるとも言われている

11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」

SDGsは国連総会で合意された 2030年までの世界共通の目標であり世界中の多くのプレイヤーがSDGsを一つの前提条件として活動しているSDGsの目標が示すものは満たされていない世界のニーズすなわち未開拓の巨大な市場であり目標を達成するためには多様なプレイヤーの参画が不可欠である このような中で企業は SDGsを「共通言語」として世界中のステークホルダーとコミ

ュニケーションをしながら同時にSDGsというフレームワークの中で評価されるそんな時代が訪れている

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Points ESGや SDGsという世界的なフレームワークを用いて日本企業が海外でコミュニケ

ーションすることで日本企業への資金の流入がより促進される好循環が生まれることを期待する

SDGs実現のためには企業の参加が必要不可欠である雇用を生み出しイノベーションを率いる役割を担う存在は企業である資金源としても極めて重要である向こう数年で企業は SDGs に対するベンチマーキングをされ比較をされることになる

2015年に開発アジェンダに合意できたことは以下の点で重要であるまず気候問題やパンデミックなど国境を越えた課題に取り組むための全地球的普遍的なアジェンダ(universal agenda)ができ広く普及したことつまりSDGsは顕著な劇的転換を支える優れたフレームワークとなっており開発の中での「エスペラント語」

12 SDGsは「未来志向」のツール

SDGsは2030年までの世界の「あるべき姿」を示している「今できること」の延長線上に将来を予測するのではなくこの将来の「あるべき姿」から逆算して「今何をすべきか」を考える「バックキャスティング思考」が必要である

SDGsが示す将来の世界のあり方とは何かそこからバックキャストして描ける道筋はどうかそのために必要となる投資やイノベーションは何か単に既存事業に SDGsのラベルを貼ることによる現状肯定ではなくSDGsという「未来志向」のツールを活用して自社の戦略をより一層磨き上げることが求められる

Points SDGsはどこまでいっても未来志向100年先を見据えてこれまで誰も取り組んで

こなかった社会課題に経営者がどのように取り組むかが SDGs 経営の本質 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」 世界全体が SDGs の達成を目指す中これを無視して事業活動を行うことは企業の持

続可能性を揺るがす「リスク」をもたらす一方企業がビジネスを通じて SDGs に取り組むことは企業の存続基盤を強固なものにするとともにいまだ開拓されていない巨大な市場を獲得するための大きな「機会」となり得る

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Points SDGsに取り組まなかった場合の「リスク」として企業の評判が下がる規制が強

化された際に規制に抵触する消費者が商品を購入してくれなくなるといったものがある

以前は ESGやサステナビリティに関する取組を先んじて行うことにより中期的な企業価値が上がり競争力向上につながると考えていたが最近はどの企業も取り組んでいるため取り組まないこと自体がリスクであると見方を変えている

SDGsは挑むべき事業成長の機会として捉えることができる 民間セクターが将来のマーケットを見据える魅力的なツールとして SDGsを捉えてい

ることが重要 新技術や新たなビジネスモデルが生み出す大きな変革の波に一番初めに乗った企業

が市場の成長を牽引することになる SDGsと連呼しなくても広げるためのスモールアーリーサクセスを作ることが必

要ステークホルダーの反応も見ながら小さい単位でトライアルを重ね拡大していくと企業全体の推進力につながるのではないか

これまでは ESGに関する取組は得た利益を使ってやれることをやるといういわゆるコストと見なしていたが今後は投資として捉えて行っていく

EVA経営をベースに置きおよそ 5年間で EVAがプラスになるような投資計画を立てているが今はより長いスパンを見る必要がある部分もありEVA経営の根幹は変えずに EVA全体の考え方を少しアレンジしていく必要がある

14 日本企業の理念と SDGs 近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の精神にも見られ

るように「会社は社会のためにある」と考える日本企業は多い 日本企業にとって SDGsとは決して舶来の未知のものではなく企業理念や社訓を礎

に長らく自ずと意識し実践してきた取組が別の形で具体化されたものといえる Points 「三方よし」のようにSDGsの考え方は多くの日本企業や商慣習と親和性が高い 会社が世のため人のために存在するという考え方は「三方よし」や渋沢栄一の道徳経済合一説にもあるように日本ではもう当たり前の考え方として脈々と受け継がれている欧米から SDGsとか ESGと言われなくても日本企業はその前から社会課題を捉えて現在の成長を実現してきた200年以上続く会社の約半分が日本にあるという事実がこれを証明している

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SDGs は投資家等を意識しなくとも会社の理念ややるべきことを日本企業の精神で取り組めば結果として投資家からの評価につながるのではないか日本の企業はSDGsという考え方が無かった時代から長い間 SDGs に取り組んできたしかしながら PRが苦手であり実際に海外企業より優れた取組をしていてもそれを発信してこなかった

日本での ESGの盛り上がりは少し特徴がある実は欧米では ESGという用語は投資家や金融のコミュニティ以外ではほとんど知られていない欧米ではウォールストリートジャーナルかファイナンシャルタイムズしか出てこない言葉であるが日本では一般の新聞にも使われているまた教育の現場でも使われ幅広いアプリケーションになりつつあるまたこの 3年半の間に日本の企業においてESGという言葉の認識が拡がっている

15 ベンチャー企業と SDGs 多くのベンチャー企業にとっては企業の設立目的自体が何らかの社会課題の解決を目

指したものである「貧困問題を解決したい」「地球温暖化を食い止めたい」そうしたミッションのもとに設立された企業は会社そのものが SDGsの理念と軌を一にした存在となる Points 大企業の場合は会社を SDGsにどのようにフィットさせるかどのようにフォローするかがテーマになると思うがベンチャー企業の場合は会社の設立ミッションそのものが SDGs と平仄を合わせている事例もある

ベンチャー企業が作るスモールアーリーサクセスは人材獲得と資金調達であるSDGsを意識した IRを行うことで投資家の資金が呼び込めるという成功事例を横展開すればベンチャー企業も活用できる

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- SDGsは「これからも必要とされる会社か」を問いかける 投資判断において投資家が着目するのは過去ではなく将来の企業価値である社会

の価値観が変化する中で投資先の競争力が失われるリスクが存在するのかあるいは長期的持続的な成長が期待できるのかSDGsや ESGの理念は長期的な企業価値を判断するための手がかりである

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21 投資家を取り巻く環境変化 持続可能性に対する人々の意識が高まる中各国の規制や顧客の選好の変化がESG投

資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている Points お客様の意識向上に後押しされ最近では機関投資家も SDGs や ESGに関する感度を上げている特に欧州の機関投資家の要請でファンダメンタルの運用の中に ESGをインテグレートしている気候や人権等については投資家も対応する動きがあり今後も進むと感じている

欧州投資家は ESGの意識が高い既存の運用に ESGを取り込まなければ契約が取れない選考で落とされるというのが欧州特に北欧ユーロ圏の流れ

パッシブ投資の比率が高まっており企業を持続的に成長させなければ投資家は儲からないそのため投資家は企業に対して長期軸での事業の目的等を明確にして持続的に成長することを求めてくる

欧米での IRでは最初に ESGや SDGsについて質問されることが多い特に欧州系の投資家はセンシティブ

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図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

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22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 10: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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本報告書の構成 本報告書の構成は以下のとおりである まず第一章では「SDGs―価値の源泉」としてSDGsが企業や投資家その他のス

テークホルダーにとってどのような意味を持つのかを整理している多様なステークホルダーが SDGs をどのようなものとして捉えているかを概観した上で企業が SDGs の各ゴールを達成するためのステークホルダーとの連携の方向性を示しているそのエッセンスは「SDGsは企業と世界をつなぐ共通言語であり同時にビジネスを通じて課題解決を目指す各主体にとっての『価値の源泉』である」ということである 第二章では「SDGs経営の実践」として第一章の認識を踏まえSDGs経営を実践す

るために企業や投資家等が意識すべきポイントを6つの観点(①社会課題と経済合理性②重要課題(マテリアリティ)の特定③イノベーションの創発④「科学的論理的」な検証評価⑤長期視点を担保する経営システム⑥「価値創造ストーリー」としての発信)から整理しているこの中で抽象的な議論となりがちな SDGs を企業のビジネス環境を規定する現実のものとして捉え具体的に経営に組み込む上で重要と考えられる視点を提示している なお第一章第二章においては研究会での委員やゲストの発言を引きつつそこか

ら得られたメッセージを凝縮して示す形をとっているこれは企業や機関投資家大学国際機関等のトップとして最前線で実践を担うリーダーたちの声こそがその課題も含む SDGs経営の本質を捉えようとするものであり本報告書の読者にとっても最も有意義な導きの糸となると考えたことによるまた本報告書にも別添している「SDGs経営ガイド」(2019年 5月)は本研究会での議論をベースとしており本報告書の第一章第二章は同ガイドを補完するものとしても位置づけられている 第三章では研究会における議論の中で見えた 6つの課題(①国際的なメッセージの発

信②長期視点の企業経営の推進③投資家による長期投資の促進④SDGsを通じた新市場の開拓⑤国際的なルールメイキング⑥科学的論理的な評価の浸透)を示しそれらを克服していくための方策について提言を行っている なお本報告書の本文では示しきれなかった参加者からあふれ出た言葉の数々それ

ぞれの「SDGs経営」の理念や実践についても別添(説明資料と議事概要)として本報告書に添付したこうした臨場感あふれるやり取りは今後自ら「SDGs経営」に取り組み支えていこうとする実践者たちにとっての大きなヒントになることを確信している

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第一章 SDGs-価値の源泉 1 企業にとっての SDGs SDGsという世界共通の言語が未来の市場を照らし出す

SDGs達成のためには世界で年間 5~7兆ドルの投資が必要とも言われるこれはいまだ満たされていない世界のニーズの大きさを物語る 企業にとっての SDGsとは無視することはできない「リスク」を突きつけるものであると同時に未来の市場を創造獲得するための「機会」でもある

図表 7SDGsが生み出す市場

出所UNDP提供資料

〇国連開発計画(UNDP)によればSDGsの野心的な目標を達成するために世界で年間 5~7兆ドルの資金が必要となり投資機会は途上国で1~2兆ドル先進国でも最低 12 兆ドルとも試算される 〇SDGsが達成されるならば労働生産性の向上や環境負荷低減等を通じた外部経済効果を考慮し2030 年までに年間 12兆ドルの新たな市場機会が生まれうるとも言われている

11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」

SDGsは国連総会で合意された 2030年までの世界共通の目標であり世界中の多くのプレイヤーがSDGsを一つの前提条件として活動しているSDGsの目標が示すものは満たされていない世界のニーズすなわち未開拓の巨大な市場であり目標を達成するためには多様なプレイヤーの参画が不可欠である このような中で企業は SDGsを「共通言語」として世界中のステークホルダーとコミ

ュニケーションをしながら同時にSDGsというフレームワークの中で評価されるそんな時代が訪れている

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Points ESGや SDGsという世界的なフレームワークを用いて日本企業が海外でコミュニケ

ーションすることで日本企業への資金の流入がより促進される好循環が生まれることを期待する

SDGs実現のためには企業の参加が必要不可欠である雇用を生み出しイノベーションを率いる役割を担う存在は企業である資金源としても極めて重要である向こう数年で企業は SDGs に対するベンチマーキングをされ比較をされることになる

2015年に開発アジェンダに合意できたことは以下の点で重要であるまず気候問題やパンデミックなど国境を越えた課題に取り組むための全地球的普遍的なアジェンダ(universal agenda)ができ広く普及したことつまりSDGsは顕著な劇的転換を支える優れたフレームワークとなっており開発の中での「エスペラント語」

12 SDGsは「未来志向」のツール

SDGsは2030年までの世界の「あるべき姿」を示している「今できること」の延長線上に将来を予測するのではなくこの将来の「あるべき姿」から逆算して「今何をすべきか」を考える「バックキャスティング思考」が必要である

SDGsが示す将来の世界のあり方とは何かそこからバックキャストして描ける道筋はどうかそのために必要となる投資やイノベーションは何か単に既存事業に SDGsのラベルを貼ることによる現状肯定ではなくSDGsという「未来志向」のツールを活用して自社の戦略をより一層磨き上げることが求められる

Points SDGsはどこまでいっても未来志向100年先を見据えてこれまで誰も取り組んで

こなかった社会課題に経営者がどのように取り組むかが SDGs 経営の本質 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」 世界全体が SDGs の達成を目指す中これを無視して事業活動を行うことは企業の持

続可能性を揺るがす「リスク」をもたらす一方企業がビジネスを通じて SDGs に取り組むことは企業の存続基盤を強固なものにするとともにいまだ開拓されていない巨大な市場を獲得するための大きな「機会」となり得る

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Points SDGsに取り組まなかった場合の「リスク」として企業の評判が下がる規制が強

化された際に規制に抵触する消費者が商品を購入してくれなくなるといったものがある

以前は ESGやサステナビリティに関する取組を先んじて行うことにより中期的な企業価値が上がり競争力向上につながると考えていたが最近はどの企業も取り組んでいるため取り組まないこと自体がリスクであると見方を変えている

SDGsは挑むべき事業成長の機会として捉えることができる 民間セクターが将来のマーケットを見据える魅力的なツールとして SDGsを捉えてい

ることが重要 新技術や新たなビジネスモデルが生み出す大きな変革の波に一番初めに乗った企業

が市場の成長を牽引することになる SDGsと連呼しなくても広げるためのスモールアーリーサクセスを作ることが必

要ステークホルダーの反応も見ながら小さい単位でトライアルを重ね拡大していくと企業全体の推進力につながるのではないか

これまでは ESGに関する取組は得た利益を使ってやれることをやるといういわゆるコストと見なしていたが今後は投資として捉えて行っていく

EVA経営をベースに置きおよそ 5年間で EVAがプラスになるような投資計画を立てているが今はより長いスパンを見る必要がある部分もありEVA経営の根幹は変えずに EVA全体の考え方を少しアレンジしていく必要がある

14 日本企業の理念と SDGs 近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の精神にも見られ

るように「会社は社会のためにある」と考える日本企業は多い 日本企業にとって SDGsとは決して舶来の未知のものではなく企業理念や社訓を礎

に長らく自ずと意識し実践してきた取組が別の形で具体化されたものといえる Points 「三方よし」のようにSDGsの考え方は多くの日本企業や商慣習と親和性が高い 会社が世のため人のために存在するという考え方は「三方よし」や渋沢栄一の道徳経済合一説にもあるように日本ではもう当たり前の考え方として脈々と受け継がれている欧米から SDGsとか ESGと言われなくても日本企業はその前から社会課題を捉えて現在の成長を実現してきた200年以上続く会社の約半分が日本にあるという事実がこれを証明している

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SDGs は投資家等を意識しなくとも会社の理念ややるべきことを日本企業の精神で取り組めば結果として投資家からの評価につながるのではないか日本の企業はSDGsという考え方が無かった時代から長い間 SDGs に取り組んできたしかしながら PRが苦手であり実際に海外企業より優れた取組をしていてもそれを発信してこなかった

日本での ESGの盛り上がりは少し特徴がある実は欧米では ESGという用語は投資家や金融のコミュニティ以外ではほとんど知られていない欧米ではウォールストリートジャーナルかファイナンシャルタイムズしか出てこない言葉であるが日本では一般の新聞にも使われているまた教育の現場でも使われ幅広いアプリケーションになりつつあるまたこの 3年半の間に日本の企業においてESGという言葉の認識が拡がっている

15 ベンチャー企業と SDGs 多くのベンチャー企業にとっては企業の設立目的自体が何らかの社会課題の解決を目

指したものである「貧困問題を解決したい」「地球温暖化を食い止めたい」そうしたミッションのもとに設立された企業は会社そのものが SDGsの理念と軌を一にした存在となる Points 大企業の場合は会社を SDGsにどのようにフィットさせるかどのようにフォローするかがテーマになると思うがベンチャー企業の場合は会社の設立ミッションそのものが SDGs と平仄を合わせている事例もある

ベンチャー企業が作るスモールアーリーサクセスは人材獲得と資金調達であるSDGsを意識した IRを行うことで投資家の資金が呼び込めるという成功事例を横展開すればベンチャー企業も活用できる

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- SDGsは「これからも必要とされる会社か」を問いかける 投資判断において投資家が着目するのは過去ではなく将来の企業価値である社会

の価値観が変化する中で投資先の競争力が失われるリスクが存在するのかあるいは長期的持続的な成長が期待できるのかSDGsや ESGの理念は長期的な企業価値を判断するための手がかりである

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21 投資家を取り巻く環境変化 持続可能性に対する人々の意識が高まる中各国の規制や顧客の選好の変化がESG投

資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている Points お客様の意識向上に後押しされ最近では機関投資家も SDGs や ESGに関する感度を上げている特に欧州の機関投資家の要請でファンダメンタルの運用の中に ESGをインテグレートしている気候や人権等については投資家も対応する動きがあり今後も進むと感じている

欧州投資家は ESGの意識が高い既存の運用に ESGを取り込まなければ契約が取れない選考で落とされるというのが欧州特に北欧ユーロ圏の流れ

パッシブ投資の比率が高まっており企業を持続的に成長させなければ投資家は儲からないそのため投資家は企業に対して長期軸での事業の目的等を明確にして持続的に成長することを求めてくる

欧米での IRでは最初に ESGや SDGsについて質問されることが多い特に欧州系の投資家はセンシティブ

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図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

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22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

44

63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 11: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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第一章 SDGs-価値の源泉 1 企業にとっての SDGs SDGsという世界共通の言語が未来の市場を照らし出す

SDGs達成のためには世界で年間 5~7兆ドルの投資が必要とも言われるこれはいまだ満たされていない世界のニーズの大きさを物語る 企業にとっての SDGsとは無視することはできない「リスク」を突きつけるものであると同時に未来の市場を創造獲得するための「機会」でもある

図表 7SDGsが生み出す市場

出所UNDP提供資料

〇国連開発計画(UNDP)によればSDGsの野心的な目標を達成するために世界で年間 5~7兆ドルの資金が必要となり投資機会は途上国で1~2兆ドル先進国でも最低 12 兆ドルとも試算される 〇SDGsが達成されるならば労働生産性の向上や環境負荷低減等を通じた外部経済効果を考慮し2030 年までに年間 12兆ドルの新たな市場機会が生まれうるとも言われている

11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」

SDGsは国連総会で合意された 2030年までの世界共通の目標であり世界中の多くのプレイヤーがSDGsを一つの前提条件として活動しているSDGsの目標が示すものは満たされていない世界のニーズすなわち未開拓の巨大な市場であり目標を達成するためには多様なプレイヤーの参画が不可欠である このような中で企業は SDGsを「共通言語」として世界中のステークホルダーとコミ

ュニケーションをしながら同時にSDGsというフレームワークの中で評価されるそんな時代が訪れている

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Points ESGや SDGsという世界的なフレームワークを用いて日本企業が海外でコミュニケ

ーションすることで日本企業への資金の流入がより促進される好循環が生まれることを期待する

SDGs実現のためには企業の参加が必要不可欠である雇用を生み出しイノベーションを率いる役割を担う存在は企業である資金源としても極めて重要である向こう数年で企業は SDGs に対するベンチマーキングをされ比較をされることになる

2015年に開発アジェンダに合意できたことは以下の点で重要であるまず気候問題やパンデミックなど国境を越えた課題に取り組むための全地球的普遍的なアジェンダ(universal agenda)ができ広く普及したことつまりSDGsは顕著な劇的転換を支える優れたフレームワークとなっており開発の中での「エスペラント語」

12 SDGsは「未来志向」のツール

SDGsは2030年までの世界の「あるべき姿」を示している「今できること」の延長線上に将来を予測するのではなくこの将来の「あるべき姿」から逆算して「今何をすべきか」を考える「バックキャスティング思考」が必要である

SDGsが示す将来の世界のあり方とは何かそこからバックキャストして描ける道筋はどうかそのために必要となる投資やイノベーションは何か単に既存事業に SDGsのラベルを貼ることによる現状肯定ではなくSDGsという「未来志向」のツールを活用して自社の戦略をより一層磨き上げることが求められる

Points SDGsはどこまでいっても未来志向100年先を見据えてこれまで誰も取り組んで

こなかった社会課題に経営者がどのように取り組むかが SDGs 経営の本質 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」 世界全体が SDGs の達成を目指す中これを無視して事業活動を行うことは企業の持

続可能性を揺るがす「リスク」をもたらす一方企業がビジネスを通じて SDGs に取り組むことは企業の存続基盤を強固なものにするとともにいまだ開拓されていない巨大な市場を獲得するための大きな「機会」となり得る

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Points SDGsに取り組まなかった場合の「リスク」として企業の評判が下がる規制が強

化された際に規制に抵触する消費者が商品を購入してくれなくなるといったものがある

以前は ESGやサステナビリティに関する取組を先んじて行うことにより中期的な企業価値が上がり競争力向上につながると考えていたが最近はどの企業も取り組んでいるため取り組まないこと自体がリスクであると見方を変えている

SDGsは挑むべき事業成長の機会として捉えることができる 民間セクターが将来のマーケットを見据える魅力的なツールとして SDGsを捉えてい

ることが重要 新技術や新たなビジネスモデルが生み出す大きな変革の波に一番初めに乗った企業

が市場の成長を牽引することになる SDGsと連呼しなくても広げるためのスモールアーリーサクセスを作ることが必

要ステークホルダーの反応も見ながら小さい単位でトライアルを重ね拡大していくと企業全体の推進力につながるのではないか

これまでは ESGに関する取組は得た利益を使ってやれることをやるといういわゆるコストと見なしていたが今後は投資として捉えて行っていく

EVA経営をベースに置きおよそ 5年間で EVAがプラスになるような投資計画を立てているが今はより長いスパンを見る必要がある部分もありEVA経営の根幹は変えずに EVA全体の考え方を少しアレンジしていく必要がある

14 日本企業の理念と SDGs 近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の精神にも見られ

るように「会社は社会のためにある」と考える日本企業は多い 日本企業にとって SDGsとは決して舶来の未知のものではなく企業理念や社訓を礎

に長らく自ずと意識し実践してきた取組が別の形で具体化されたものといえる Points 「三方よし」のようにSDGsの考え方は多くの日本企業や商慣習と親和性が高い 会社が世のため人のために存在するという考え方は「三方よし」や渋沢栄一の道徳経済合一説にもあるように日本ではもう当たり前の考え方として脈々と受け継がれている欧米から SDGsとか ESGと言われなくても日本企業はその前から社会課題を捉えて現在の成長を実現してきた200年以上続く会社の約半分が日本にあるという事実がこれを証明している

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SDGs は投資家等を意識しなくとも会社の理念ややるべきことを日本企業の精神で取り組めば結果として投資家からの評価につながるのではないか日本の企業はSDGsという考え方が無かった時代から長い間 SDGs に取り組んできたしかしながら PRが苦手であり実際に海外企業より優れた取組をしていてもそれを発信してこなかった

日本での ESGの盛り上がりは少し特徴がある実は欧米では ESGという用語は投資家や金融のコミュニティ以外ではほとんど知られていない欧米ではウォールストリートジャーナルかファイナンシャルタイムズしか出てこない言葉であるが日本では一般の新聞にも使われているまた教育の現場でも使われ幅広いアプリケーションになりつつあるまたこの 3年半の間に日本の企業においてESGという言葉の認識が拡がっている

15 ベンチャー企業と SDGs 多くのベンチャー企業にとっては企業の設立目的自体が何らかの社会課題の解決を目

指したものである「貧困問題を解決したい」「地球温暖化を食い止めたい」そうしたミッションのもとに設立された企業は会社そのものが SDGsの理念と軌を一にした存在となる Points 大企業の場合は会社を SDGsにどのようにフィットさせるかどのようにフォローするかがテーマになると思うがベンチャー企業の場合は会社の設立ミッションそのものが SDGs と平仄を合わせている事例もある

ベンチャー企業が作るスモールアーリーサクセスは人材獲得と資金調達であるSDGsを意識した IRを行うことで投資家の資金が呼び込めるという成功事例を横展開すればベンチャー企業も活用できる

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- SDGsは「これからも必要とされる会社か」を問いかける 投資判断において投資家が着目するのは過去ではなく将来の企業価値である社会

の価値観が変化する中で投資先の競争力が失われるリスクが存在するのかあるいは長期的持続的な成長が期待できるのかSDGsや ESGの理念は長期的な企業価値を判断するための手がかりである

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21 投資家を取り巻く環境変化 持続可能性に対する人々の意識が高まる中各国の規制や顧客の選好の変化がESG投

資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている Points お客様の意識向上に後押しされ最近では機関投資家も SDGs や ESGに関する感度を上げている特に欧州の機関投資家の要請でファンダメンタルの運用の中に ESGをインテグレートしている気候や人権等については投資家も対応する動きがあり今後も進むと感じている

欧州投資家は ESGの意識が高い既存の運用に ESGを取り込まなければ契約が取れない選考で落とされるというのが欧州特に北欧ユーロ圏の流れ

パッシブ投資の比率が高まっており企業を持続的に成長させなければ投資家は儲からないそのため投資家は企業に対して長期軸での事業の目的等を明確にして持続的に成長することを求めてくる

欧米での IRでは最初に ESGや SDGsについて質問されることが多い特に欧州系の投資家はセンシティブ

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図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

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22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 12: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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Points ESGや SDGsという世界的なフレームワークを用いて日本企業が海外でコミュニケ

ーションすることで日本企業への資金の流入がより促進される好循環が生まれることを期待する

SDGs実現のためには企業の参加が必要不可欠である雇用を生み出しイノベーションを率いる役割を担う存在は企業である資金源としても極めて重要である向こう数年で企業は SDGs に対するベンチマーキングをされ比較をされることになる

2015年に開発アジェンダに合意できたことは以下の点で重要であるまず気候問題やパンデミックなど国境を越えた課題に取り組むための全地球的普遍的なアジェンダ(universal agenda)ができ広く普及したことつまりSDGsは顕著な劇的転換を支える優れたフレームワークとなっており開発の中での「エスペラント語」

12 SDGsは「未来志向」のツール

SDGsは2030年までの世界の「あるべき姿」を示している「今できること」の延長線上に将来を予測するのではなくこの将来の「あるべき姿」から逆算して「今何をすべきか」を考える「バックキャスティング思考」が必要である

SDGsが示す将来の世界のあり方とは何かそこからバックキャストして描ける道筋はどうかそのために必要となる投資やイノベーションは何か単に既存事業に SDGsのラベルを貼ることによる現状肯定ではなくSDGsという「未来志向」のツールを活用して自社の戦略をより一層磨き上げることが求められる

Points SDGsはどこまでいっても未来志向100年先を見据えてこれまで誰も取り組んで

こなかった社会課題に経営者がどのように取り組むかが SDGs 経営の本質 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」 世界全体が SDGs の達成を目指す中これを無視して事業活動を行うことは企業の持

続可能性を揺るがす「リスク」をもたらす一方企業がビジネスを通じて SDGs に取り組むことは企業の存続基盤を強固なものにするとともにいまだ開拓されていない巨大な市場を獲得するための大きな「機会」となり得る

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Points SDGsに取り組まなかった場合の「リスク」として企業の評判が下がる規制が強

化された際に規制に抵触する消費者が商品を購入してくれなくなるといったものがある

以前は ESGやサステナビリティに関する取組を先んじて行うことにより中期的な企業価値が上がり競争力向上につながると考えていたが最近はどの企業も取り組んでいるため取り組まないこと自体がリスクであると見方を変えている

SDGsは挑むべき事業成長の機会として捉えることができる 民間セクターが将来のマーケットを見据える魅力的なツールとして SDGsを捉えてい

ることが重要 新技術や新たなビジネスモデルが生み出す大きな変革の波に一番初めに乗った企業

が市場の成長を牽引することになる SDGsと連呼しなくても広げるためのスモールアーリーサクセスを作ることが必

要ステークホルダーの反応も見ながら小さい単位でトライアルを重ね拡大していくと企業全体の推進力につながるのではないか

これまでは ESGに関する取組は得た利益を使ってやれることをやるといういわゆるコストと見なしていたが今後は投資として捉えて行っていく

EVA経営をベースに置きおよそ 5年間で EVAがプラスになるような投資計画を立てているが今はより長いスパンを見る必要がある部分もありEVA経営の根幹は変えずに EVA全体の考え方を少しアレンジしていく必要がある

14 日本企業の理念と SDGs 近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の精神にも見られ

るように「会社は社会のためにある」と考える日本企業は多い 日本企業にとって SDGsとは決して舶来の未知のものではなく企業理念や社訓を礎

に長らく自ずと意識し実践してきた取組が別の形で具体化されたものといえる Points 「三方よし」のようにSDGsの考え方は多くの日本企業や商慣習と親和性が高い 会社が世のため人のために存在するという考え方は「三方よし」や渋沢栄一の道徳経済合一説にもあるように日本ではもう当たり前の考え方として脈々と受け継がれている欧米から SDGsとか ESGと言われなくても日本企業はその前から社会課題を捉えて現在の成長を実現してきた200年以上続く会社の約半分が日本にあるという事実がこれを証明している

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SDGs は投資家等を意識しなくとも会社の理念ややるべきことを日本企業の精神で取り組めば結果として投資家からの評価につながるのではないか日本の企業はSDGsという考え方が無かった時代から長い間 SDGs に取り組んできたしかしながら PRが苦手であり実際に海外企業より優れた取組をしていてもそれを発信してこなかった

日本での ESGの盛り上がりは少し特徴がある実は欧米では ESGという用語は投資家や金融のコミュニティ以外ではほとんど知られていない欧米ではウォールストリートジャーナルかファイナンシャルタイムズしか出てこない言葉であるが日本では一般の新聞にも使われているまた教育の現場でも使われ幅広いアプリケーションになりつつあるまたこの 3年半の間に日本の企業においてESGという言葉の認識が拡がっている

15 ベンチャー企業と SDGs 多くのベンチャー企業にとっては企業の設立目的自体が何らかの社会課題の解決を目

指したものである「貧困問題を解決したい」「地球温暖化を食い止めたい」そうしたミッションのもとに設立された企業は会社そのものが SDGsの理念と軌を一にした存在となる Points 大企業の場合は会社を SDGsにどのようにフィットさせるかどのようにフォローするかがテーマになると思うがベンチャー企業の場合は会社の設立ミッションそのものが SDGs と平仄を合わせている事例もある

ベンチャー企業が作るスモールアーリーサクセスは人材獲得と資金調達であるSDGsを意識した IRを行うことで投資家の資金が呼び込めるという成功事例を横展開すればベンチャー企業も活用できる

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- SDGsは「これからも必要とされる会社か」を問いかける 投資判断において投資家が着目するのは過去ではなく将来の企業価値である社会

の価値観が変化する中で投資先の競争力が失われるリスクが存在するのかあるいは長期的持続的な成長が期待できるのかSDGsや ESGの理念は長期的な企業価値を判断するための手がかりである

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21 投資家を取り巻く環境変化 持続可能性に対する人々の意識が高まる中各国の規制や顧客の選好の変化がESG投

資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている Points お客様の意識向上に後押しされ最近では機関投資家も SDGs や ESGに関する感度を上げている特に欧州の機関投資家の要請でファンダメンタルの運用の中に ESGをインテグレートしている気候や人権等については投資家も対応する動きがあり今後も進むと感じている

欧州投資家は ESGの意識が高い既存の運用に ESGを取り込まなければ契約が取れない選考で落とされるというのが欧州特に北欧ユーロ圏の流れ

パッシブ投資の比率が高まっており企業を持続的に成長させなければ投資家は儲からないそのため投資家は企業に対して長期軸での事業の目的等を明確にして持続的に成長することを求めてくる

欧米での IRでは最初に ESGや SDGsについて質問されることが多い特に欧州系の投資家はセンシティブ

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図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

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22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 13: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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Points SDGsに取り組まなかった場合の「リスク」として企業の評判が下がる規制が強

化された際に規制に抵触する消費者が商品を購入してくれなくなるといったものがある

以前は ESGやサステナビリティに関する取組を先んじて行うことにより中期的な企業価値が上がり競争力向上につながると考えていたが最近はどの企業も取り組んでいるため取り組まないこと自体がリスクであると見方を変えている

SDGsは挑むべき事業成長の機会として捉えることができる 民間セクターが将来のマーケットを見据える魅力的なツールとして SDGsを捉えてい

ることが重要 新技術や新たなビジネスモデルが生み出す大きな変革の波に一番初めに乗った企業

が市場の成長を牽引することになる SDGsと連呼しなくても広げるためのスモールアーリーサクセスを作ることが必

要ステークホルダーの反応も見ながら小さい単位でトライアルを重ね拡大していくと企業全体の推進力につながるのではないか

これまでは ESGに関する取組は得た利益を使ってやれることをやるといういわゆるコストと見なしていたが今後は投資として捉えて行っていく

EVA経営をベースに置きおよそ 5年間で EVAがプラスになるような投資計画を立てているが今はより長いスパンを見る必要がある部分もありEVA経営の根幹は変えずに EVA全体の考え方を少しアレンジしていく必要がある

14 日本企業の理念と SDGs 近江商人の「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の「三方よし」の精神にも見られ

るように「会社は社会のためにある」と考える日本企業は多い 日本企業にとって SDGsとは決して舶来の未知のものではなく企業理念や社訓を礎

に長らく自ずと意識し実践してきた取組が別の形で具体化されたものといえる Points 「三方よし」のようにSDGsの考え方は多くの日本企業や商慣習と親和性が高い 会社が世のため人のために存在するという考え方は「三方よし」や渋沢栄一の道徳経済合一説にもあるように日本ではもう当たり前の考え方として脈々と受け継がれている欧米から SDGsとか ESGと言われなくても日本企業はその前から社会課題を捉えて現在の成長を実現してきた200年以上続く会社の約半分が日本にあるという事実がこれを証明している

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SDGs は投資家等を意識しなくとも会社の理念ややるべきことを日本企業の精神で取り組めば結果として投資家からの評価につながるのではないか日本の企業はSDGsという考え方が無かった時代から長い間 SDGs に取り組んできたしかしながら PRが苦手であり実際に海外企業より優れた取組をしていてもそれを発信してこなかった

日本での ESGの盛り上がりは少し特徴がある実は欧米では ESGという用語は投資家や金融のコミュニティ以外ではほとんど知られていない欧米ではウォールストリートジャーナルかファイナンシャルタイムズしか出てこない言葉であるが日本では一般の新聞にも使われているまた教育の現場でも使われ幅広いアプリケーションになりつつあるまたこの 3年半の間に日本の企業においてESGという言葉の認識が拡がっている

15 ベンチャー企業と SDGs 多くのベンチャー企業にとっては企業の設立目的自体が何らかの社会課題の解決を目

指したものである「貧困問題を解決したい」「地球温暖化を食い止めたい」そうしたミッションのもとに設立された企業は会社そのものが SDGsの理念と軌を一にした存在となる Points 大企業の場合は会社を SDGsにどのようにフィットさせるかどのようにフォローするかがテーマになると思うがベンチャー企業の場合は会社の設立ミッションそのものが SDGs と平仄を合わせている事例もある

ベンチャー企業が作るスモールアーリーサクセスは人材獲得と資金調達であるSDGsを意識した IRを行うことで投資家の資金が呼び込めるという成功事例を横展開すればベンチャー企業も活用できる

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- SDGsは「これからも必要とされる会社か」を問いかける 投資判断において投資家が着目するのは過去ではなく将来の企業価値である社会

の価値観が変化する中で投資先の競争力が失われるリスクが存在するのかあるいは長期的持続的な成長が期待できるのかSDGsや ESGの理念は長期的な企業価値を判断するための手がかりである

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21 投資家を取り巻く環境変化 持続可能性に対する人々の意識が高まる中各国の規制や顧客の選好の変化がESG投

資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている Points お客様の意識向上に後押しされ最近では機関投資家も SDGs や ESGに関する感度を上げている特に欧州の機関投資家の要請でファンダメンタルの運用の中に ESGをインテグレートしている気候や人権等については投資家も対応する動きがあり今後も進むと感じている

欧州投資家は ESGの意識が高い既存の運用に ESGを取り込まなければ契約が取れない選考で落とされるというのが欧州特に北欧ユーロ圏の流れ

パッシブ投資の比率が高まっており企業を持続的に成長させなければ投資家は儲からないそのため投資家は企業に対して長期軸での事業の目的等を明確にして持続的に成長することを求めてくる

欧米での IRでは最初に ESGや SDGsについて質問されることが多い特に欧州系の投資家はセンシティブ

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図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

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22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 14: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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SDGs は投資家等を意識しなくとも会社の理念ややるべきことを日本企業の精神で取り組めば結果として投資家からの評価につながるのではないか日本の企業はSDGsという考え方が無かった時代から長い間 SDGs に取り組んできたしかしながら PRが苦手であり実際に海外企業より優れた取組をしていてもそれを発信してこなかった

日本での ESGの盛り上がりは少し特徴がある実は欧米では ESGという用語は投資家や金融のコミュニティ以外ではほとんど知られていない欧米ではウォールストリートジャーナルかファイナンシャルタイムズしか出てこない言葉であるが日本では一般の新聞にも使われているまた教育の現場でも使われ幅広いアプリケーションになりつつあるまたこの 3年半の間に日本の企業においてESGという言葉の認識が拡がっている

15 ベンチャー企業と SDGs 多くのベンチャー企業にとっては企業の設立目的自体が何らかの社会課題の解決を目

指したものである「貧困問題を解決したい」「地球温暖化を食い止めたい」そうしたミッションのもとに設立された企業は会社そのものが SDGsの理念と軌を一にした存在となる Points 大企業の場合は会社を SDGsにどのようにフィットさせるかどのようにフォローするかがテーマになると思うがベンチャー企業の場合は会社の設立ミッションそのものが SDGs と平仄を合わせている事例もある

ベンチャー企業が作るスモールアーリーサクセスは人材獲得と資金調達であるSDGsを意識した IRを行うことで投資家の資金が呼び込めるという成功事例を横展開すればベンチャー企業も活用できる

2 投資家にとっての SDGs -SDGs経営と ESG投資- SDGsは「これからも必要とされる会社か」を問いかける 投資判断において投資家が着目するのは過去ではなく将来の企業価値である社会

の価値観が変化する中で投資先の競争力が失われるリスクが存在するのかあるいは長期的持続的な成長が期待できるのかSDGsや ESGの理念は長期的な企業価値を判断するための手がかりである

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21 投資家を取り巻く環境変化 持続可能性に対する人々の意識が高まる中各国の規制や顧客の選好の変化がESG投

資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている Points お客様の意識向上に後押しされ最近では機関投資家も SDGs や ESGに関する感度を上げている特に欧州の機関投資家の要請でファンダメンタルの運用の中に ESGをインテグレートしている気候や人権等については投資家も対応する動きがあり今後も進むと感じている

欧州投資家は ESGの意識が高い既存の運用に ESGを取り込まなければ契約が取れない選考で落とされるというのが欧州特に北欧ユーロ圏の流れ

パッシブ投資の比率が高まっており企業を持続的に成長させなければ投資家は儲からないそのため投資家は企業に対して長期軸での事業の目的等を明確にして持続的に成長することを求めてくる

欧米での IRでは最初に ESGや SDGsについて質問されることが多い特に欧州系の投資家はセンシティブ

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図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

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22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

24

シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 15: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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21 投資家を取り巻く環境変化 持続可能性に対する人々の意識が高まる中各国の規制や顧客の選好の変化がESG投

資という形で機関投資家の投資判断に影響を与えている Points お客様の意識向上に後押しされ最近では機関投資家も SDGs や ESGに関する感度を上げている特に欧州の機関投資家の要請でファンダメンタルの運用の中に ESGをインテグレートしている気候や人権等については投資家も対応する動きがあり今後も進むと感じている

欧州投資家は ESGの意識が高い既存の運用に ESGを取り込まなければ契約が取れない選考で落とされるというのが欧州特に北欧ユーロ圏の流れ

パッシブ投資の比率が高まっており企業を持続的に成長させなければ投資家は儲からないそのため投資家は企業に対して長期軸での事業の目的等を明確にして持続的に成長することを求めてくる

欧米での IRでは最初に ESGや SDGsについて質問されることが多い特に欧州系の投資家はセンシティブ

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図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

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22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 16: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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図表 8ESG投資の拡大 〇UNPRI の署名機関ESGを推進する国連責任投資原則(PRI)の署名機関は年々増加し2019年 3月時点において機関数にして 2300運用規模にして85兆ドルを超えたPRI には年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が 2015年 9月に署名しており2019年 5月時点で日本の署名機関数は 75社第 10 位となっている 〇GSIA による分析世界のサステナブル投資残高は2016年に約 229兆ドルであったが2018 年には約 307兆ドルと拡大日本においても約 05 兆ドルから約 22兆ドルと拡大している

出所UNPRI 公表資料をもとに作成

出所Global Sustainable Investment Alliance「Global Sustainable Investment 2018」より抜粋

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22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 17: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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22 長期的な企業価値の評価と SDGs 投資家が知りたいのは企業の過去ではなく未来における価値である投資先の企業

が語るビジョンは社会の未来像と合致するものなのか―それを測る物差しこそがESGであり SDGsである

Points SDGsの考え方はその企業が今まで必要とされていましたかという観点ではなく

これからも必要とされますかというものである今投資家の目が将来の企業価値にどんどん向いている企業や運用会社とのコミュニケーションにおいて長期の活動をしています長期の投資をしていますという表現ではなかなか具体性がないためにESGという言葉を使っている企業には ESGに関するリスク対応やストラテジーを作ってもらいそれを投資家が評価することが必然的に企業の長期的な企業価値を評価することになると考えている

投資家は企業が示す長期的なビジョンが見たい「これから何をしようとしているのか」というのを見せてもらえれば評価の対象になる

投資家は過去に対して評価をするわけではなく将来の価値評価をする存在と認識している

長期の時間軸の視点をアセットオーナーが持っているので運用会社も長期の視点で企業と接する必要がある

ESGを企業による慈善事業ということではなく将来的な枠組みへの対応力という視点で理解したい世の中の価値観が少しずつ変わる中で企業が今持っている競争力が何らかの形で失われるリスクが存在するのかという点を認識した上で投資を行いたい

SDGsESGとは言うもののやはり業績だけを見ている投資家が非常に多いのも事実

運用会社に出す運用契約を 1年のロールオーバーから 5年以上の複数年契約に変えていこうとしているこれは短期のリターンのために企業の長期的なサステナビリティを犠牲にするようなエンゲージメントや投資行動はして欲しくないということを運用会社に対して明確にするためである

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 18: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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図表 9SDGsと ESG の関係 投資家による ESG投資と民間企業の SDGsへの取組は裏表の関係にある世界最大の機関投資家である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)ではESG 投資と SDGs の関係について民間企業が SDGsに取り組むことで共通価値創造(CSV)を実現し企業価値の持続的な向上を図ることでESG 投資を行う投資家の長期的な投資リターンの拡充につながるものと分析している

出所GPIF ウェブサイト

23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス 学術的なコンセンサスはいまだ得られていないもののSDGs や ESG を積極的に経営に

取り込む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向があることを指摘する研究もある

SDGsに関する取組と企業のパフォーマンスが連動する可能性について企業投資家双方が正しく認識評価し持続的長期的な企業価値向上を促していくことが期待される Points 欧州では ESGの上位 20がコンスタントにパフォーマンスが良い ESGスコアが高

い銘柄は高バリエーションの傾向があり低ボラティリティやクオリティのファクタ要素が高い

ESGや SDGsはパフォーマンスの観点でポジティブ2018年のハーバードの研究で女性がいるベンチャーキャピタルは財務リターンが上昇するという結果が示された

ESG 投資が果たす役割が大きくなる中で資本コストの観点からESG ターゲットを満たす企業は低金利で資金調達が可能となる企業のアジェンダが ESG の理念に合致していなければこれを活用することはできない

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 19: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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ESG 投資を行っている企業の市場価値が必ずしも上昇しない背景としてその投資に対するリターン効果を市場参加者が十分に理解できていないことが考えられる

ESG 経営による企業業績の結果が出てからでないと運用プロフェッショナルが動けないということでは遅い逆に ESGが価格に反映されるような投資行動を行ってもらう必要があると考えている投資家が短期志向であるなど企業も不満を感じることがあると思うが徐々に修正されていくのではないかと感じている企業の方々が安心して自信を持って ESG経営をしていただくためにはやはり ESG経営がプライシングされていくという好循環が必要と思っている

ESG は元々投資家の間で使われ出した用語であり企業の長期的なリスクを判断するための指標として使われてきたオポチュニティーの評価にも使うべきではないかという議論が出ているものの世界中の運用プロフェッショナルのおそらく 100がリスク判断としての活用は合意する一方で機会の評価超過収益のための指標としてはまだまだ多くの人が疑問に思っているという状況が現実であろう

ESG 投資につきパフォーマンスでアルファが出ることの証明はまだ不十分であるESG 評価と企業の収益性の関係については非常に多くの分析があり国によってあるいは見方期間によっては関係があるということが言えるかもしれないが日本については少なくともこの分析期間においては明確な右肩上がりの線は描けない

データベース上の制約がある中でESGと株価リターンの関係について残念ながら少なくとも短期間では超過リターンを生んでいるとは強く言いにくいESGそれぞれのスコアについても同様

ESG活動を始めるにあたり各市場別に ESGのスコアとパフォーマンスの相関を調査してもらったところ日本市場のみ相関がないという結果が出たこれは日本に投資している投資家が ESGを反映した投資を行っていないということの裏返しだったのではないか

図表 10主要な ESG投資インデックス

出所各種公表資料をもとに経済産業省作成

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 20: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」 SDGsは「全員参加」を生み出す

SDGsが示す 17の目標は野心的で普遍的なものであり企業一社の力で達成できるものではないSDGs は多様なプレイヤーの共通言語結節点であり「懸け橋」として企業とステークホルダーたちをつないでいく 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代 今後消費者従業員として投資家としてそして起業家として企業をとり巻くステ

ークホルダーの中心となっていくのがいわゆる「ミレニアル世代」であるミレニアル世代の価値観を捉えることでSDGs経営の意義がより浮かび上がってくる Points 若い人の考え方は「SDGsネイティブ」であり社会課題を解決したいということがネ

イティブにモチベーションのドライバーになっているそのためベンチャー企業が会社の理念が SDGs のメガトレンドにヒットしていることを示すことは採用上の非常に強力なポイントになる

ミレニアル世代の人たちは会社のコミットメントやバリューが以前からどうだったということを詳しく見ているため儲かるというエビデンスがそろってから ESG 経営に振るのでは手遅れ

ミレニアル世代はどのような社会貢献をしているかをビジュアルに感じられない企業ではあまり働きたくないと考えているようだ皆が働く目的消費する目的を求めておりそれを可視化できない企業は投資家の ESG 資金も引き寄せられずミレニアル世代の優秀な人材も採用できないという時代が来ているのではないか

2018年に公開されたコーンフェリーの調査結果によるとミレニアル世代の 76は就職先企業の環境的なコミットメントを重視しておりまた社会的責任の充足を感じられるのであれば給料が減っても構わないと回答したのは 75社会的責任を推進しない企業に就職を希望しないと回答したのは 64という結果であった実際シリコンバレーのユニコーンベンチャーにおいても高い給料を提示しても優秀な人材が確保できないという話もある

2030 年から 2045 年ぐらいに団塊の世代からミレニアル世代への相続のピークが訪れると言われており約 3300兆円試算によっては 4000兆円程度が相続されると言われている彼らの投資行動は彼らの就職先の選択や給与に関する考え方と同様にやはり社会的に価値のある企業に投資をしたい環境に負荷をかけている企業には投資したくないそのためにパフォーマンスが多少落ちても構わないという考え方に基づいている

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 21: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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図表 11ミレニアル世代の価値観

ミレニアル世代(2000年代初頭に成人社会人になる世代)を対象にした調査では「事業の成功は財務上のパフォーマンス以外でも測定されるべきだ」と考える人が 83を占めた「企業が達成すべきこと」に関する質問ではミレニアル世代は「地域社会の改善」や「環境の改善と保護」なども重要と考えている一方雇用主が「収益の創出」や「効率性の追求」などを優先事項と考えていると見ており大きなギャップが見てとれる

出所デロイトトーマツ「2018年 デロイト ミレニアル年次調査」より抜粋

32 SDGsと従業員消費者

SDGs経営を考えるに当たって従業員や消費者を無視することはできないSDGs という共通言語を用いて従業員のエンゲージメントを高められるか消費者をいかに惹きつけられるかが問われている Points 従業員が自分のやっていることが SDGs の 17の目標とどうつながっているのかを認

識することが一番大事でないかと思っているそのため統合報告書に自社の経営課題を SDGs と紐づけて記載し従業員に配っている自分のやっている仕事が世界でどういう風に役に立つのだという意識を持てるようになれば大企業でも加速度的に浸透が進む

人口減少と高齢化による労働力不足は深刻化しており企業にとってとりわけ中小企業にとって従業員が心身共に健康で働けることが重要になっている当社は経産省と東証が共同で選定している健康経営銘柄に 4 年連続で認定いただいているが当社のお客様に対しても健康管理をコアな経営戦略の 1 つとして実践するべきと推奨している健康経営タスクフォースを作り「ホワイト 500」といった健康経営優良法人の認定に向けたお手伝いを多数行っている

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 22: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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企業理念を実践するためにいかに現場と理念を共有し共鳴させていくのかそして経営トップと現場の社員のベクトルを一体化することができるのかという点を社長就任以来日々考え様々な取組にチャレンジしてきた例えば「社長車座」という社長が社員と交流する場を設けたりグローバル全社員が企業理念の実践のための具体的な取組について他の社員の前で宣言し発表することによりお互いを高め合い共鳴する活動を行っている

投資家にとって今までは稼ぐということが大事だったが最近は稼ぎ方に関して意見を持ち始めているこれからは消費者もこのような意識を持ち始めるであろう

33 「知の総体」としての大学の役割

SDGs達成のために不可欠なイノベーションを興しビジネスの力で社会課題を解決していくには「知」の集積が不可欠であるこの観点からまさに「知」を通じてよりよい未来社会への貢献を目指す大学を始めとする教育研究機関は大きな役割を果たし得る Points 知識集約型の社会における価値創造にあたり大学に今ストックされている資源は極

めて重要であるSociety50 や SDGs を実現する際に大学こそがまさにインクルーシブな社会を作るのに必要な価値創造の中心になれるそうした大学の持つ価値を共有した上で産学官民が連携することが求められる

課題解決のためのアイデアを持ち起業したいという学生や若者たちはそのために必要な全ての手段を持っているわけではない一気通貫の知が集積している大学が課題解決をビジネス化していく社会実装していくという活動をエンカレッジできるのではないかと考えている

大企業との連携はこれまで 200 万円以下の小規模なものが多かったが数億円規模のものが実行できるよう学内の体制も整えた大学が SDGsESG の流れの受け皿になり大企業と組織対組織の連携ができる仕組みを作った

デジタル革命はテクノロジーが牽引力になっているので科学技術イノベーションが重要であるが同時に法律面などの社会システムやきちんとお金が回るという意味での経済メカニズムも重要でこの 3つを連携させていかねばならないこの際例えば技術に非常に密着した形での法律の原理的な議論が必要になるなど法学や経済学の分野でもイノベーティブな活動が必要であるこのような連携には大学のようなあらゆる知を創り出す場が必須この仕組みに共感するためのコンセプトが重要でありSDGsは非常に包括的で効果的に活用できそして国際信用性のあるものである

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 23: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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34 「連携」は SDGs経営の重要なカギ SDGsの各目標を達成するためには企業自身の力に加え様々なステークホルダーが有

する視点と資源が必要となるマルチステークホルダーと企業の力が調和したとき課題解決に向けた大きな原動力が生まれる

Points 一企業だけではなく行政あるいは他業界との連携を通して新しい価値を生み出すこ

とが非常に重要 圧倒的に重要なのはイノベーションにおける「連携」社内は当然であるが社外と

の連携に際してはどのような価値観でイノベーションを起こすのかという「波長合わせ」でありそれがないとうまくいかないSDGsというのはこの価値観の波長合わせに非常に有意義ベースが合っているのでその後のコラボに入っていきやすく実際のイノベーションも起こしやすい

経済産業省の J-Startup各社のように大企業 1社では実現できなかった世界をベンチャーの力や知恵を借りることで実現できるという社会になってきている

旧来の営業グループの壁を破って連携していくというビジネスモデルはまさに SDGsの眼目とも重なるところがある中期経営戦略 2021では営業部門を全て組織改編しその上で「新グループミッション」にあるように各部門に SDGsの概念を適用したミッションを与え今後そのミッションをタイムリーに見直していくこととした

各国の国際社会がどのようなメカニズムで協働していくかということを模索することが必要そういった意味で2020 年の東京オリンピックパラリンピックや 2025 年の大阪万博は世界が結束する一つのチャンスである

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 24: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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第二章 SDGs経営の実践 1 社会課題解決と経済合理性 長期的視点で社会課題解決に取り組み経済合理性を創り出す いまだ解決されていない多くの社会課題の存在は先人たちが経済合理性を見出し得な

かった分野がなお残っていることを私たちに知らしめる 視点を変えイノベーションの力をもって未開拓の市場に果敢にアプローチしていくこ

とはまさに SDGsに機会を見出す「SDGs経営」そのものである 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く

SDGsという「課題解決」に焦点を当てた視座は企業にこれまで「経済合理性」という視点だけでは見過ごされていた市場に目を向けさせる契機となる他の企業やアカデミアとも連携しつつ新しい技術やノウハウを動員することで果敢にこのような市場を切り開き課題解決とビジネスを両立させることはまさに「SDGs経営」の体現であるその際長期的な視点を持つことや経営者自身がコミットし情報発信をしていくことが重要な要素となる Points 経済合理性がないことで取り残されてきた社会課題に正面から向き合いテクノロ

ジーで経済合理性を創出している 経済合理性がないと判断され取り残されている市場もありそこには未だ社会課題

が多く残っていたりもするそのような経済合理性のないマーケットに対しては短期的視点ではなく長期的視点を持つことが非常に重要経営者は長期的視点で意志を持って自社の技術だけでは超えられない大きな社会課題に対し他社を巻き込みながら経済合理性を生み出すイノベーションを先導することが世界的に求められている SDGs経営の姿勢なのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究期間が必要であるすぐに儲かるから ESGオポチュニティがあるから SDGsではなく日本企業はもっと長期的な視点で ESGや SDGsを取り込み従業員のエンゲージメントを高めるあるいは地域社会に貢献するのだということをしっかり伝える必要がある

一見経済合理性がないような取組に対しても経済合理性を創り出していくという意志を経営者が発信するところに ESG投資を引き付けることができるのではないか

社長に就任して以来 経済価値社会価値環境価値の三価値同時実現ということを社内に対して言い続けてきた

SDGsESGにおける企業の役割を考えるにあたり前提として企業自体がサステナブルである必要がある当社のサステナビリティを支えているのは事業のダイバーシティと顧客のコミュニティ

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

31

51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 25: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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シリコンバレーの有名な投資家の言葉でprofit is like airというものがある人間にとって空気は生きていくには不可欠だが人間は別に空気を吸うために生きているわけではないこれは企業も同じで利益がないと会社は死んでしまうが利益を上げるために会社があるわけではない

売上や利益が悪いということは社会の役に立てる商品を出していないということであるきちんと消費者視点に立って役に立てているかの指標として売上利益が出てくるとも言える

Society50は言うなればイノベーションを通じて社会課題を解決して価値を創造する社会社会課題の解決と同時に経済的価値も創造するということであり企業にとっては利益を出して事業を通じて SDGsの実現を目指すということ

2 重要課題(マテリアリティ)の特定 自社が有する資源は何かそれをどのように SDGs に結びつけるか 普遍的なゴールが並ぶ SDGs闇雲にその全てを追い求めるのではなく自社の経営資

源を投入して解決すべき社会課題は何なのか自社の競争優位を確保できる市場環境はどのようなものかを問い続けなければならない 21 重要課題を特定し資源を投入する

SDGsは各プレイヤーに 17の目標169のターゲット全てに焦点を当てることを求めているわけではない自社にとっての重要課題(マテリアリティ)を特定し関連の深い目標を見定めることで自社の資源を重点的に投入することができ結果として自社の本業に即した効率的な SDGsへの貢献が可能となる Points 常に SDGsを横に置いて我々がどの項目にどのような形で寄与するのかを考えてい

るそれが長期的な企業価値向上ひいてはグローバルで存在感のある企業へとつながる

SDGsの 17ゴール全てに 1つ 1つ個別に貢献しようとすると難しいように思えるがマテリアリティごとに見ていくと4つ5つのゴールに複合的に取り組むことができるわけで結果的に多くのゴールに取り組んでいることにつながる

設定したマテリアリティを社員あるいは事業会社のトップに共有し我々の予算や行動計画にどう取り込んでいくかを重視している

社員の方向感を揃えるためにはSDGsの 17のゴールのうち自分たちの事業と親和性の高いマテリアリティをどう設定するかが非常に重要である

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 26: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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3 イノベーションの創発 SDGs経営を支えるイノベーションを生み出す これまで解決できなかった社会課題に立ち向かうためには非連続的なイノベーション

を生み出すとともに新規事業をスケールさせていく必要があるトップのコミットメント長期的な研究開発視点オープンイノベーション「出島」による試行錯誤などを通じてイノベーションは加速する 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する 社会課題を解決するためにはイノベーションを通じた新たな技術やビジネスモデルの

創出がカギとなる新規事業に取り組む際に自社の技術だけでは足りなければオープンイノベーションの促進大企業の「出島」におけるベンチャー企業とも連携した試行錯誤など他の企業やアカデミアとも柔軟に連携してイノベーションを「協創」していく発想が必要となるまた非連続的なイノベーションを生み出すためには長期的視座に立った研究開発も重要である Points 持続的な成長の背後にあるのは変化に対する対応力であるそして変化の本質と

いうのは技術革新であると解釈している技術革新が起こることによって豊かな世界ができ経済全体が成長する光の部分がある一方技術革新に乗れた人と乗り切れない人との格差を生み出すという陰の部分もあるその意味において技術革新により社会価値環境価値は再定義されるものといえる

新たな規律倫理観を醸成していくということなしに技術革新だけで終わってしまえばいわゆる地球ベースのエコシステムは成り立たなくなるそのエコシステムの中に地球や人間が含まれるがエコシステムの移り変わりを誘発する一つの起点として技術革新があると捉えている

技術革新をリードする国はその時代を担うリーダーシップを持つということであるが新たな規律や倫理観を持ってイノベーションの陰の部分を解消できなければ持続的な発展はできないということを自覚する必要がある

社会課題に取り組むための新規事業を開発する際にコア技術が足りなければオープンイノベーションでアカデミアと連携したりスタートアップと提携することで新規事業の開発を加速していく取組を進めている

イノベーションで社会課題を解決することは企業にとっても大きなオポチュニティでありビジネスチャンスになるイノベーションにより課題解決に貢献するそうすることで地球もその企業自身もサステナブルになっていく

若い人たちで新規事業を起こす仕組みを作ってはいるがいかに事業としてスケールさせ本当の意味でのイノベーション大きな社会価値にしていくかという点にチャ

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

42

これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 27: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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レンジがあるかつては優秀なエンジニアが上司に隠れて細々と開発した商品が大ヒットにつながるということもあったが今はもはやそういう時代ではないのであろう

当社では30年ほど前から各企業や行政等も含め新しいサービスを提供するための取組を進め今も「オープンイノベーションフィールド」化を進めている

大企業は「出島」で大学発ベンチャーや SDGsネイティブのベンチャー企業と一緒に小さなビジネスを成功させそれをスケールさせていくということが重要大企業とベンチャーの連携によってベンチャーは採用面と資金調達面の成功で認知度が高まるし大企業も「出島」でちょっと大学発ベンチャーと一緒にやってみようとなれば自然とムーブメントとして定着するのではないか

SDGs経営やイノベーションには非常に長い研究開発期間が必要である例えば炭素繊維については1971年に大阪材料研究所で基礎的な研究がスタートしてからボーイングが 787型機で導入するまで丸 30年かかっている

当社は研究開発費をかなり使っているがかつては既存ビジネスの改善に使う割合が高くなりがちで本当の意味で新しいものにチャレンジするために充分に使えていなかった面があるデジタルトランスフォーメーションでもアメリカの企業は古いシステムをやめて大胆に新しいものに変えているが日本企業の投資は既存システムの改善にその多くが回っている傾向がある長期志向で限られたリソースを新しいチャレンジに使えるかが課題

32 経営者自身が新規事業をリードする 企業の中で生まれた社会課題を解決する優れた事業アイデアも経営者のコミットメン

トがなければ推進力を得られず形にならない経営者には可能性のある新たなチャレンジを見極めて自らがその事業をリードしていく役割が求められる Points トップ権限で新規事業を行うことが非常に重要これまではそのような取組がただの

一つの活動として終わってしまっていたのであればSDGsという枠組みを使い事業として会社の次なる柱を生み育てることはできないだろうか

事業を強くすることと収益力を上げて新しいことにチャレンジできる状態にすることの両立が経営者として非常に大事になる当社では新しいことに挑戦して新しい価値を作り出すことは非常に尊いことであり称賛されることであると位置づけられているただしそれを正しく実践し長期的にリターンを生む事業に育てることは非常に難しい芽のある新しいチャレンジをどのように見極めてどのようにリソースを充てていくかという判断をすることが経営者の最も重要な役割である

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

32

61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 28: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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会社の中で一番長期的な視点を持ち将来構想を立てているのが社長であるのでSDGsに関わる取組を通常のフローに従って検討するのではなく社長権限で事業化する仕組みを作れないだろうか取締役会にもこのような判断を後押しするようになってほしい

人材育成という観点から社員自身が成長できるかどうかということがその事業を 継続するための大きな判断基準となっている長期間内容が全く変わらないまま利益 だけがそこそこ出ている事業は聞こえは良いがそこにいる社員の発想が硬直化して しまう可能性も高いビジネスをイノベートしていくことに社員をどう関わらせるか に経営陣は責任を負うべきであり硬直化するような事業はやめてSDGs型の一見 相矛盾するチャレンジングな事業に挑ませることに取り組むことが重要と考えてい る

図表 12「出島」や「2 階建て経営」の実践

〇会社本体と意思決定や評価制度を切り離した「出島」を立ち上げ人材や資金を投入することはイノベーションを促す一つの手法である 〇大企業経営者がイノベーション経営の在り方を議論する Innovation100 委員会においてはイノベーションを興すための行動指針を策定しておりその中で「効率性」と「創造性」を同時並行かつ異なるスタンスで追い求める「2階建て経営」の必要性などを指摘している

出所日本経済団体連合会「 Society 50 -ともに創造する未来- 」(2018年 11月 13日)より抜粋

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 29: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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出所Inovation100委員会レポート

4 「科学的論理的」な検証評価 多面的な視点から全体像を俯瞰し評価と説明を行う 一見SDGsにマイナスの影響を及ぼすように思える企業活動であっても視点を変え

れば別の面でプラスの影響をもたらしていることがある 真の SDGs 経営を実現するためには一面的な印象論感情論に流されない「科学的論理的」な検証が不可欠でありこの価値観が幅広いステークホルダーに共有されることが極めて重要である 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる

SDGsのそれぞれの目標は二律背反ではないエネルギーに係る取組については環境負荷(目標 13ほか)のみならず安定供給効率の改善レジリエンス(目標 7ほか)といった観点からも捉え得るように企業の取組が SDGsのどの目標の達成にどのように寄与するかについては多面的な検証が必要となる この際徹底されるべきは特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な

検証評価でありデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となる またこの「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGs や

ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきものであるところ投資家や評価機関の評価手法の一層の「見える化」も期待される Points 科学的論理的な議論を是非お願いしたいそうした議論を促すには政府や公的機

関の役割は大きい例えば最近海洋プラスチックの問題がよく提起されるが日本では 85のプラスチックを有効利用しているこのうち 60はサーマルリサイクルであり単純焼却ではなくプラスチックを燃焼させ排熱を回収しまたその一部においてタービンを回して蒸気を作って発電しているまたシングルユースの多い

イノベーションを興すための経営陣の5つの行動指針

① 変化を見定め変革のビジョンを発信し断行する ② 効率性と創造性2階建ての経営を実現する ③ 価値起点で事業を創る仕組みを構築する ④ 社員が存分に試行錯誤できる環境を整備する ⑤ 組織内外の壁を越えた協働を推進する

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 30: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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食品のラップ包装をやめようという議論があるがそうすると食品保存が効かずフードロスにつながり結果として多くの食品廃棄物や GHGが出るプラスチックの有用性をこれら全体として評価しなければならない

日本はリサイクルへの関心が高いので「目を引くような議論」に流されることなく科学的論理的な議論を期待したい

事業の中でどうしても環境負荷が高まるような要素もある中で別の取組によって別のプラス要素を実現するようなことは意味があろう

例えば当該事業において生産される製品が長期的に地球環境へ貢献できる一方で当該事業自体によって一定の環境負荷がかかるという二面性があるような事業も存在する

日本は環境問題に限らず課題先進国として多様なイノベーションで社会課題を解決している日本の技術を途上国に移転すればそれで立派な省エネになるわけでありグローバルでどう貢献するかという視点でも評価すべき

各業界における社会貢献の形をライフサイクルで評価していただきたいものづくりでは製造過程で必ず CO₂が出るのでその点だけに焦点を当てるのではなくライフサイクルという視点で効果が評価されるべき

気候変動の課題においても再生可能エネルギーのダイバーシティと企業地域社会コミュニティ一体型での貢献という意味でこの2つがキーワードだと考えている

ESGSDGsを長期の視点で推進したいと考えている10年などある程度長期にわたって企業と対話を続けることで科学的論理的建設的な議論ができるのではないか

企業の SDGs や ESGに関する取組の評価については様々な評価機関の評価が乱立しており必ずしも合理的理由が見出せない評価も存在する評価機関の評価手法をきちんと評価するような仕組みを作ってほしい

42 国際標準を積極的に活用する 「科学的論理的」な検証評価に関する基準が国際的にオーソライズされたものこそ

がいわゆる国際標準である「SDGs 経営」として取り組む新たな事業に関連する重要な国際標準があるのであれば積極的にその標準を確保することで狙える市場を世界中に広げることが可能となる またサステナブル投資 7や SDGs関連投資に関し国際的にその対象を特定するよう

7 EU が検討するサステナブルファイナンスのタクソノミー単一の金融市場の構築に向けてサステナブルファイナンス(SF)を重視する EUは持続可能な発展に資する分野への資金誘導のための施策

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 31: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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な動きもあるところ各企業においては自社のファイナンスに影響を及ぼし得るものとして注意深く対処することが望まれる Points 環境エネルギーというテーマで我々が力を入れる必要があると思っていることは

国際標準化に関してどのようにイニシアティブをとっていくかという点である例えば我々の製品は CO₂削減効果があり非常にエコフレンドリーであるがこのような CO₂削減効果を定量的に示すための的確な規格が存在しなかった新しいカテゴリーで何かやる際には規格づくりにおいてイニシアティブをとることが本当に重要だと感じている

ASC認証(養殖水産物が持続可能で環境や社会的責任に配慮して生産されたことを認証する制度)は非常にとるのが難しい規格であり認証機関の本部とも議論を重ねたがそれでわかったことは認証機関も認証についてのプロトコルを持っていないということこれを踏まえそのプロトコルを一緒に作るところから始めた国際基準に沿って動かないといくら自社の製品サービスがサステナブルであると主張してもそれは確認可能なのかという疑問が残る最初は大変だがグローバルな基準とうまくハーモナイズさせていく必要がある

自国固有の事情について国際社会の理解を得る努力も重要特に欧州では脱石炭論が強いが東日本大震災による電力不足を経験した我が国においてはエネルギー源についてあらゆる選択肢が必要我が国の事情に応じたエネルギーミックスや排出経路に沿った脱炭素化努力につき高い説明能力が求められる

5 長期視点を担保する経営システム 揺らぐことのない経営を実現する

SDGsは長期的な視点で取り組まなければならない 企業のあるべき姿を示す企業理念や存在意義を組織に根付かせそれをしっかりと引き

継ぐ仕組みがあれば経営者が変わったとしても企業は長期的に取組を継続し価値を創造し続けられる

を検討している欧州委員会の SF に関するテクニカル専門家グループ(TEG)は2019 年 6 月に SF に関する「EUタクソノミーレポート」を発表したタクソノミーとは「EUのサステナビリティ方針に合致する経済活動の分類」であり「サステナブルな経済活動」の基準として気候変動緩和や適応などの環境目的に実質的に貢献しているか他の環境目的を著しく害することはないかなど複数の条件が定められているタクソノミーの使用が義務付けられるのは金融機関であるが企業にも間接的な影響が及ぶ可能性がある

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 32: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる 社会課題の解決を存在意義として掲げる日本企業は多い経営者が変わろうともその

ミッションを受け継ぐ「仕組み」があれば安定的な経営の礎となり投資の呼込みにもつながる Points 大事なのは会社を興したときの目的を 100年後まで存続させる長期軸でアイデン

ティティーをしっかり引き継いでいくということ 経営者が変わっても企業理念をど真ん中に据えて伝え続けている会社は日本に結構

多い企業理念は日本企業にとって重要なポイントである 人によって持続させるのではなく仕組みによって持続させていくスタイルは日本企

業の得意なところであると思う経営者が変わっても企業の存続目的意義解決すべき社会課題がぶれないので安心して年金投資家等が投資できるのではないか

企業理念に紐づいた取組でないと海外の従業員含めて展開することはできない特にMampAをした会社の文化は全く異なるため浸透させるために労力や手間を相当かけているいきなり単直に表層的なものを説明して求めても従業員は理解できない

投資家としては良い経営者には長くいて欲しいと思うが逆もまた然りである社外取締役を中心とした指名委員会の設置など経営者をきちんと選ぶ仕組みがあることが重要指名や報酬決定のルールが整っていれば報酬が多くても問題はない

社内外にサステナビリティ経営の本気度を示すため中長期業績連動株式報酬の KPIの一つとして第三者機関のサステナビリティ評価を採用し報酬額と連動させている

15年20 年という時間軸になると企業経営陣も運用機関の担当者も世代交代により変わってしまうそのため過去されてきた投資がどういった形で企業価値の創造に結びついているかを検証するサイクルを運用会社はつくっていく必要があるまたその点に関する情報提供を企業に継続してもらうことも重要

6 「価値創造ストーリー」としての発信 ステークホルダーの理解を得た取組こそが社会課題解決とビジネスの両立を可能にする 企業の価値観やビジネスモデル戦略を踏まえて「SDGs経営」のカタチを示すこと

は各社の「価値創造ストーリー」を提示することにほかならない 企業は「価値創造ストーリー」としての情報開示を行うためにステークホルダーはそ

れを理解するためにそれぞれ不断の努力を重ねることが期待される

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 33: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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61 「価値創造ストーリー」を描き発信する 企業の SDGs に係る取組も個別の取組としてではなくその企業の「価値創造ストー

リー」の中に位置づけて発信する必要があるこの際『価値協創ガイダンス』(2017年 5月経済産業省)は有用な指針となる また短期のビジョンのみならず10年20年といった長期のビジョンが示されるこ

とも併せて重要となる Points 企業は理念やビジョンを実践することによりどのような経営を目指すのかそし

てイノベーションを通じてどのような社会的課題を解決して持続的に企業価値を高めていくのかなどをできるだけ分かりやすいストーリーに仕立てた上で自発的に情報開示をしていくことが重要

企業が SDGs を経営に取り込み投資家が ESG投資を積極的に行っていくためには企業側から投資家側に対して「SDGsに積極的に取り組んでいてそれが競争力の源泉になっているTOPIXや他と比較したときにアウトパフォーマンスする」という仮説やストラテジーできればエビデンスを示したうえで「だから当社への投資を検討してください」と発信していくことがより重要ではないか

企業の SDGs 事例などを伺う際過去に CSR活動として語ってきた事例をそのまま使い回しているケースが散見されるそういう話を幾ら IRで伝えたところで投資家には響かないだろう

企業の方々にお願いしたい点はやはり短期のターゲットとともに長期のビジョンも両立していただきたいということである四半期の見込みどおりに数字を出してくださいというようなことではない2年3年5年という計画は必要であると思う一方で10年20年のビジョンが伝わるようなコミュニケーションを是非お願いしたい

企業は今後SDGsに関する取組で評価されていくことが見込まれる中で『価値協創ガイダンス』は非常に先見の明がある内容となっている

62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する 情報の発信に際しては「誰にどう伝えたいのか」を明確に意識し選ばれたい相手に

最も効率的に伝わるメッセージとして発信する必要がある Points 全ての投資家やステークホルダーに対する共通のメッセージは無く選ばれたい人に

対して一番刺さるメッセージを発信していくべきである

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 34: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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「我々は長期投資家に選ばれたいのでありSense of Purposeマネードリブンではなくミッションドリブンロングタームストラテジー人を起点に価値創造のサイクルは常に回っている」といったような「持続的に我々とつき合っていれば価値が創造される」ということが伝わるメッセージを発信する必要がある

63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ 日本企業はこれまで自社の取組を的確にステークホルダーに伝えることが不得手な

面もあった他方海外には自社の取組を積極的にかつ分かりやすく伝えている企業が数多くある国際的な文脈や様々なステークホルダーの立場を踏まえ的確に情報発信をしフィードバックを受けそれをその後の経営に生かしていくことで更なる価値創造につなげることができる Points 日本企業はとにかく控えめなので情報発信をしていないがこれでは良くない多

様な場を通じてとにかく発信をすることが大事 国内で見る光景と海外から見た光景は異なる国内で見ている光景が脳裏に焼きつ

いているので「このぐらい言えばもう分かるでしょう」と海外の人たちに暗黙に言っていたようなところもあったのではないか海外から見たときにどう映るかという視点も大事で彼らにもわかる軸で発信するということが重要

SDGsの成功事例が日本にあるとは全く思われておらず海外の SDGs関係のカンファレンスや ESG投資家の会合においても日本人は見当たらないSDGsの考え方は当たり前と内心思っている日本人は多いだろうが海外で日本のプレゼンスを上げるためには日本企業が『価値協創ガイダンス』に沿ってトップがコミットしながら社会課題を解決しているということをしっかりと発信していくことが非常に重要

『価値協創ガイダンス』でも記載があったが日本企業全体で経営戦略の中にどこまでこの SDGs 等で提示された社会課題の解決を組み込んでどのように実践しているか明示化できるかということが今国際社会の中で問われているしかし実際は外からは見えづらい今後検討すべき点は経営戦略への組込と開示開示という点では日本企業はあまり得意ではないがSDGsを切り口に企業がそれぞれの立場で考えていくということが有用であり有益である

投資家側としても今の投資が将来的に価値をもたらし企業価値全体の向上に結びつくということを理解するためもっと事業会社と接点を持ち事業会社の企業理念を深く理解しそして今の投資がどういった形でそこに結びついていくのかを描く必要がある

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 35: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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自社の価値創造ストーリーを投資家にしっかり評価してもらい対話エンゲージメントにつなげて常に価値創造のための PDCAを回していくプロセスが重要

投資家としては標準化は定量的にという意味では役に立つかもしれないがむしろ 定性的に判断したいわけであり多数の項目でチェックしていくようなやり方は避け たいむしろ対話の中で「経営として何を考えているか中長期的にどのような効用があるのか」といった点を重視していきたいと考えているインデックス運用で投 資している全社との対話はできないが絞った数百社に対しては企業側が環境エネ ルギー問題についてどう考えているのかを聞いている投資家は投資家として重要だ と思うことを聞き企業側は投資家を忖度せずに大切な方針と思っていることをきち んと伝えることで形式美に陥らない良い対話ができアクティブファンドや ESG タイプのファンドの成功につながっていくのではないか

ESG評価会社間で ESG評価が収斂していない理由として投資家側のノウハウが進んでいない可能性と企業のディスクロージャーが進んでいない可能性の 2点があるESG情報など企業のディスクロージャーが進みそれを運用機関がしっかり評価するその運用機関が ESG情報をしっかり活用してエンゲージメントしていることをアセットオーナーが確認できるようなベースをつくる必要がある

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 36: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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図表 13『価値協創ガイダンス』フレームワーク 〇経済産業省は企業と投資家の対話における共通言語として『価値協創ガイダンス』を 2017年 5 月に策定自社固有の「価値創造ストーリー」を考える上で「戦略」において SDGs等の社会課題解決に対する視点の重要性に言及している 〇また価値協創ガイダンスの趣旨に則って策定された各論に当たる他のガイドライン等と共に「『価値協創ガイダンス』フレームワーク」として企業と投資家の建設的な対話に活用されることが期待される

価値協創ガイダンスポータルサイトhttpswwwmetigojppolicyeconomykeiei_innovationkigyoukaikeiESGguidancehtml

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 37: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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第三章 政策提言 本研究会では「SDGs経営」を実践しその価値を高めていくために今後政府とし

て企業やステークホルダーとともに取り組んでいくべき施策についても多くの示唆があった本章ではそれらの示唆を踏まえた政策展開の方向性を提言として示す

1 国際的なメッセージの発信 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信 研究会の中で日本には旧来近江商人の「三方よし」の精神や渋沢栄一氏の道徳

経済合一説にみられるようなSDGsに通じる企業理念や文化に根差す企業が多いことが重ねて指摘された事実このような企業理念に基づきながらもそれに安住することなく社会課題の解決とビジネスの両立についての不断の努力を重ねている日本企業は多くこのような「SDGs経営の先進事例」とも言える日本企業の取組を世界に発信していくべきという指摘も多く出された 「控えめ」「安全サイド」の情報開示によって世界の機関投資家やステークホルダーか

らは必ずしも見えていない日本企業のリアルな姿を伝えESGも含め海外の機関投資家等が適切に日本企業を評価し安心して投資を行える素地を作っていくことは大きな意味があろう 本研究会の成果として日本企業の「SDGs経営」に関する先進的な取組や投資家に

よる評価の目線ステークホルダーの関わり等をまとめた「SDGs経営ガイド」はそのための重要なツールとなる同ガイドを国内外に広く発信していくことで日本企業の魅力に気づくきっかけを提供し世界中の投資家や消費者ユーザー働く人ファンを惹きつけていく 8 その際今年日本が議長を務める G20関連会合8月に開催される TICAD9月の

国連 SDGsサミットやその関連会合等の機会を捉えて情報発信できるよう関係省庁とも連携して具体的広報戦略を進めるべきである併せて国内外の関係機関とも連携して様々なイベントセミナー等の機会を利用し積極的な情報発信を進めていく 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo

2019年1月のダボス会議において安倍総理がrdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquoを提唱した本研究会においても信頼に基づいてイノベーションの源泉となるデータ流通を促進するというコンセプトを世界の共通認識とすることでSDGs実現に向けた企業のイノベ

8 「SDGs経営ガイド」は日本語英語の両方で経済産業省ウェブサイトに掲載 (日本語版httpswwwmetigojppress2019052019053100320190531003html 英語版httpswwwmetigojpenglishpress20190531_001html)

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 38: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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ーション創出を後押ししていくべきとの指摘がなされた引き続き日本がリードしてこのメッセージの発信と実現に向けた取組を行っていくべきである

2 長期視点の企業経営の推進 21 イノベーション「協創」に向けた取組 (イノベーション経営の推進) 研究会の議論においてイノベーションが SDGs 達成の重要な要素であることは多くの委員に加えシュタイナーUNDP総裁を含むゲストからも幾度となく強調された目まぐるしく移ろう国内外の社会課題の解決を重要な事業機会として捉え新たな市場を作っていくことはイノベーション活動そのものといえるさらに比較的潤沢なリソースを持つ大企業であっても世界の課題をビジネスにつなげて解決していく上で必要な技術やノウハウ人材ネットワーク等のすべてを自前で抱えることは現実的ではない同じ課題に取り組む企業間大企業とスタートアップ大企業と大学研究機関等がそれぞれのビジネスモデルや戦略を明確にした上で新たなビジネスモデルに必要な要素を活用しスピード感を持って連携しながら価値を生み出していくことすなわち協創によるイノベーションこそが「SDGs経営」を実現する鍵である 今後政府としては「価値協創ガイダンス」等のフレームワークも活用し企業がイ

ノベーションを生み出すビジネスモデルや戦略を明確化する動きを応援していくべきであるまたイノベーション経営の試みとして企業本体から意思決定等の権限を独立させた「出島」の活用や成熟事業と新規事業とで異なるマネジメントを行う「二階建て経営」あるいは「両利き経営」の導入等企業の創造的な取組を促す方策を検討すべきである (新たな産学官連携に向けて) デジタル技術の革新によりモノが価値を持つ資本集約型社会から知識やサービスが価

値を持つ「知識集約型社会」へのパラダイムシフトが起きているSDGs達成に向けた「Society 50」のコンセプトはこのようなパラダイムシフトを捉えて社会全体の変革を促す動きを創り出す可能性を秘めている理念を実現していくためには技術のみならず法体系や経済システムの変革を一体的に促していくことが不可欠でありその結節点として高度かつ広範な知識技術人材そして SINET等の情報基盤を持つ「知の総体」たる大学や研究機関には大きな貢献が期待される 産学官連携は大学と産業界が単純な「役割分担」を超え一体的融合的に研究開

発人材育成を行う新たな「産学融合」のステージを迎えている企業が大学や研究機関が持つリソースを活用しつつ時には大学と企業が共同で迅速に JV(出島)を作りながら多様なイノベーションを生み出していくことは「SDGs経営」の重要な柱になり得

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 39: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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るこのためにも政府においては大学が企業等と様々なイノベーションに向けた連携を図りやすい制度環境整備を進めていくことが期待される (長期のリスクマネー供給の拡大) 企業が新規事業やイノベーションを創造していくためにはそれを支えるリスクキャピタルの供給が不可欠であるそのような長期的な資金を供給する投資家に対し価値創造に向けた戦略やストーリーを語りそれを実現していく「対話と価値創造のサイクル」を生み出していくことが第一に重要である「SDGs経営ガイド」や「価値協創ガイダンス」はそれを促す共通言語としても活用できるまた現在検討が進められている上場市場の在り方についてもSDGs経営を通じて成長を目指す企業に対して機関投資家や応援投資家が長期投資をしやすいような方向で進められることが期待される また特に SDGs を実現するためのイノベーションを担うスタートアップに対する資金

供給として民間のベンチャーキャピタルやグロースファンドの投資環境整備や公的ファンドによる資金供給が的確に活用されるよう促すことも重要である 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進 研究開発等の知的資本投資や人材投資環境や社会的資本に対する投資等無形資産投資が企業の価値創造において重要性を増す中で日本企業の GDPに占める無形資産投資の比率は欧米に比べて低い水準にとどまっている 9無形資産への投資はSDGs経営から価値を生み出すための重要な要素であるとともに人材や企業を取り巻く環境コミュニティへの投資はそれ自体 SDGs 達成につながる この点人材についてはリカレント教育の見直しや不断のスキルアップの必要性等を踏まえ企業による人材投資や多様性確保に向けた政策が求められている「人生 100年時代」を見据え企業の健康経営の一環としての「健康投資」の見える化と投資促進もそのような取組の一つである それぞれの無形資産への投資促進に向けた取組を進めつつ「価値協創ガイダンス」や関連するガイダンス(ダイバーシティ 20行動ガイドライン等)も活用しながら統合的に無形資産投資を捉えSDGs経営の実践につながるよう施策を講じていくことが期待される

9 独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ポリシーディスカッションペーパー「無形資産投資と日本の経済成長」参照

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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
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23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進 日本企業の研究開発投資に目を向けると3年以内の事業化が想定されている「既存技術改良型」の研究が 9割程度を占めており飛躍的なイノベーションを生み出す「非連続型研究」はわずか 1~2にとどまるという実態がある10 研究会においては企業が 10年単位の時間をかけて研究開発を積み重ねた結果とし

て革新的な製品や技術を生み出すことができた例(炭素繊維等)を引きながら「非連続型研究」に長期的な視点で取り組むことの重要性が指摘された政府においては研究開発投資について税制改正等により継続的に支援の枠組みを広げている 他方企業は出口寄りの開発を重視せざるを得ない面もあり次世代の産業を生み出す

新たな非連続的な技術シーズの開拓育成は大学や国研等に期待される部分も大きい革新的非連続的なイノベーション創出のためにはこのような研究に携わる人材の確保やそれを支える環境の整備など官民協調による取組を進めることが期待される11 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン) 前記のとおり日本企業は旧来SDGsと親和性の高い企業文化のもとビジネスを通じた社会課題の解決はある種「当然のこと」として行ってきたとの指摘がある他方これまではそのような取組について投資を呼び込むなどの観点から必要な相手に的確に情報発信をすることを十分に行ってこなかったのではないかとの見方もある 研究会においても「SDGs経営」に関する情報発信の必要性は重ねて議論になった実

際にSDGsに関連付けて自社の事業を説明しかつその説明の仕方を相手に応じて柔軟に変えることで投資や人材が確保しやすくなっているという実感も示されたまた企業が時に「長期的なビジョン」として示す中期計画は想定期間が3~5年となっているものが多く投資家の考える「長期」とはズレがある点も指摘された 「SDGs経営」における情報開示の重要性は第2章においても述べたとおりであるこの点は「SDGs経営ガイド」でも強調されているところであり当該ガイドの重要な要素として企業への普及浸透を図っていくことが重要であるこの際「SDGs経営ガイド」のベースとなっており長期的な企業価値創造ストーリーの重要性についても言及し

10 経済産業省「平成 28 年度産業技術調査事業研究開発投資効率の指標の在り方に関する調査(フェーズⅡ)最終報告書」参照 11 この点に関し東京大学の取組が参考になる東京大学はダイキン工業株式会社と「産学協創協定」(協定期間は 2018 年 12月から 10 年間拠出資金は 100 億円規模)を締結するなど学内の「知」を集積して学内外との連携を深め生み出された技術の社会実装を通じてグローバルに課題解決をリードしていくべく「未来社会協創(FSI Future Society Initiative)」を実現しようとしている上記協定の特徴の一つは組織対組織の本格的な人材交流であり東京大学と企業はあらゆる層での人材交流を進め「頭脳知恵経験人脈」をシェアすることで無形資産を活用した価値の協創を目指している

40

ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

41

32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

43

ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 41: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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ている「価値協創ガイダンス」と併せて参照することでその浸透効果を高めながら一体的に普及拡大を図っていくことが期待される この際SDGsを経営に組み込んでいくためには機械的に既存の開示情報に SDGsに

関する情報を追加するのではなく自社がこれまで進めてきた CSR等の取組も含めて企業全体の価値創造に向けた戦略や情報開示のユーザーとの関係を統合的に整理した上で効率的効果的な情報発信につなげていくことが望まれる

3 投資家による長期投資の促進 第1章で触れたとおり世界的に ESG投資が拡大する一方で短期的な業績のみで企業

のパフォーマンスを評価する風潮も依然根強いことが指摘されている 長期的視点による評価投資行動を浸透させていくためには先進的なアセットオーナ

ー等と連携しつつ長期投資を行うための動機付けやそのような投資を行う投資家の意向投資ポリシーが企業側にも伝わるような環境整備を行うことが重要との指摘もされている投資家にとっては(SDGsや ESGを勘案した)長期投資が実際にパフォーマンスにつながることが示されることが重要との見方も示された 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大 前記の通り経済産業省では2017年 5月に「価値協創ガイダンス」を公表し持続

的な企業価値の向上に関心を持つ投資家と企業の対話を促してきた 12また投資家側(ファンドマネージャー)が「価値協創ガイダンスを用いて開示を行う企業に対しては開示の内容を参照し精読咀嚼した上で対話に臨む」ということを趣旨とする「アクティブファンドマネージャー宣言」を発出するなどの取組も進めてきた 投資家に対して長期的な視点からの企業価値評価や投資判断を促していく観点からは

このような宣言の趣旨に対する賛同者を増やしていくことも効果的な方策として考えられる 加えて研究会においてはファンドマネージャーとアセットオーナーの関係性やコミ

ュニケーションの在り方についても指摘があったファンドマネージャーが責任投資レポート等を策定する場合それをアセットオーナーが積極的に活用し評価に役立てていくことが重要というものであるフィデューシャリーデューティに基づき投資判断を行うファンドマネージャーにとってアセットオーナーの投資ポリシーや価値観等が極めて重要な判断基準になると考えられるところ上記宣言等も活用しつつアセットオーナーとの対話を通じた共通認識の醸成を進めていくことも重要である

12 価値協創ガイダンスを使用して開示や投資家との対話を行う企業に対してはその開示資料等において「価値協創ガイダンスロゴマーク」の使用を可能にし同ガイダンスを参照して行う情報開示を明確にできるようにしている

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

43

ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

44

63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

45

SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 42: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等 ESG投資のパフォーマンスについては現状学術上の明確なエビデンスは整理されていないもののSDGsや ESGに積極的に取り組む企業は他社と比べてパフォーマンスが高い傾向にあることは指摘されている 今後ESG投資がリターンにつながることについて学術的な根拠が示されることが期

待されるところであるが政府においても長期投資の経済的リターンや社会的リターンに関して現状どのような分析や検証がされているかを把握した上でこれを整理して体系的に示すことは企業や投資家等にとって有意義と考えられる また研究会においては「よき規範がよき現実エビデンスを作り上げていく」とい

う面があるとの意見も出された投資家にとっては特に欧州において顕著なようにアルファ 13を得ることができるか否かを問題とするまでもなくESGを投資プロセスにインテグレートしていくことが義務になってきているとの指摘もある他方企業側からすれば長期視点で考えれば SDGs経営は必ずアウトパフォームするものでありSDGsは株主を選ぶツールにもなり得るとの指摘もされた

ESG投資のパフォーマンスについてエビデンスを整理していくことと併せてミレニアル世代の価値観が共有されつつあるなどの社会経済の状況変化を踏まえ受託者責任の内実の再整理再構成等投資家の行動を規律する「規範」について改めて検討していく必要も生じているといえよう 33 長期投資を促す市場構造への見直し 前記のとおり現在株式会社東京証券取引所や金融庁において進められている市場構

造の在り方の検討においても機関投資家の長期投資を促し企業の長期成長を支える市場構造への見直しが期待される

4 SDGsを通じた新市場の開拓 SDGsを好機と捉え積極的に経済合理性を見出そうとする企業の取組を後押ししそ

れが投資に結び付く流れを作ることが重要である 研究会ではSDGsという「課題解決」の視点はこれまで「経済合理性」という視点

だけでは見過ごされていた市場に企業の目を向けさせる契機となるという議論があった実際に社会課題の解決という視点に立ちつつフィンテックを取り入れることで

13 パフォーマンスの評価尺度の一つで実現されたポートフォリオのリターンと期待リターンの差あるいはポートフォリオのとったリスクから期待されるリターンに対する超過リターンと定義することができるとされる(出所企業年金連合会ウェブサイト)

42

これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

45

SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

46

添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 43: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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これまで経済合理性がないと判断されていた新興国のオートローン市場において社会課題解決とビジネスを両立させている Global Mobility Service社のような例もある 政府としてもこのような「SDGs経営」を実際に形にしていくビジネス主体を実態

やニーズも踏まえながら効果的効率的にサポートしていくことが求められる例えば新興国におけるビジネス立上げ期において政府間で当該企業の意義や地元での貢献度合いを確認する機会があれば現地でのビジネスは非常にやりやすくなるとの指摘があるまたSDGsという視点とイノベーションを組み合わせる形で新たな市場を獲得するモデルの場合JICAや JBIC等において用意されている既存の支援メニューでは対象とならないケースがあるとの指摘があるところ最新のビジネス実態を踏まえた支援メニューの的確なアップデートも重要な要素と考えられる加えてSDGs経営ガイドの国内外における普及浸透を図るほか外務省が事務局を務める「ジャパン SDGsアワード」といった表彰制度等とも連携しつつ着実に国内外の気運を醸成していくことも重要である なおこのようなサポートの検討に当たってはアジアやアフリカの市場獲得のための

施策あるいはSTI for SDGsプラットフォームの構築といった政府内における他の関連する取組とも連携をとりながら進めることで相乗効果が期待される

5 国際的なルールメイキング 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット 前記のとおり昨今EUにおいて「サステナブルファイナンス」としてサステナブ

ルな経済活動を定義する動きがみられるまた研究会においてシュタイナーUNDP総裁から SDG Impactについての紹介があったように「SDGs」を冠する投資の対象を特定しようとする動きもあるこのような動きは世界各地で各国政府や国際機関シンクタンク等がおのおのそれぞれの狙いをもって進めている傾向がありその全体像や日本経済日本企業に対して与え得る影響は体系的に整理されていない こういったサステナブルファイナンスや SDGs関連投資の国際動向について調査をし

つつ日本にとって大きな影響を持ち得る動きがあれば積極的にアプローチしコンテンツ作りに関与貢献できる状況を創り出していくことが期待される 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開 研究会に際して価値協創ガイダンスに関するアンケート調査を行ったところ「価値

協創ガイダンスの国際的なプレゼンスを高めてほしい」「価値協創ガイダンスと国際的な報告の枠組みを連携させてほしい」という価値協創ガイダンスの「国際展開」に対して期待が寄せられていることが明らかとなった このような実態も踏まえ引き続き国際統合報告評議会(IIRC)や Global Reporting

Initiative(GRI)といった国際的なレポーティングイニシアティブとも連携し価値協創

43

ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

44

63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

45

SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

46

添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 44: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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ガイダンスの国際的なプレゼンスの向上に努めることが重要であるまたサステナブルファイナンスに係る ISO化の動きなどもみられるところ「価値協創ガイダンス」フレームワークを通じて国際標準化の議論に貢献していくことも求められる

6 科学的論理的な評価の浸透 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透 研究会においては特定の価値観や印象論に流されない「科学的論理的」な検証評

価の重要性が指摘されたすなわちデータに基づくとどうかライフサイクルで考えるとどうか代替オプションとの比較においてどうかといった視座が極めて重要となるのではないかということである 例えば環境エネルギー分野における議論においてこの視点での検証分析が重要

な要素となるところ企業による取組にとどまらずそのような視点が国内外のステークホルダーにおいて重視されるよう政府や関係団体も含めて情報発信をしていくことが期待される またその際ライフサイクルを重視する資源循環に係る施策等政府の他の取組とも

緊密に連携することも重要である 62 投資家評価機関の手法の分析整理 研究会においては企業の情報開示と併せて投資家の投資手法や評価機関の評価手法の一層の「見える化」を求める意見特に「科学的論理的」という視点は投資家や評価機関が企業等の SDGsや ESGに係る取組を評価する際の手法においても求められるべきとの意見が示された これは投資家が企業から得られた非財務情報を企業評価や投資行動にどう活かすのかといった点についてのフィードバックがされないことから企業がどういった情報を開示すれば投資を呼び込めるのか的確な分析ができていないとの認識に基づく意見であるまた評価機関によって同一企業の評価が分かれるなど評価手法によって結果に乖離が大きい場合には企業側もそれを適切に咀嚼できず対応コストが大幅に増加する実態があるとの指摘もその背景として存在する このような実態も踏まえつつ投資家や評価機関の手法の一層の見える化が進められるよう各投資家や評価機関の手法を分析整理し体系的に示すことには一定の意義があると考えられる

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

46

添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 45: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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63 国際標準づくりに向けた対応 また研究会では新たな社会課題を解決するビジネスを進める場合には特にISOなどの国際標準を確保することで市場を一気にグローバルに広げることができるとの見方が示された 他方国際標準の獲得にはそもそも専門的技術的な知見が必要となる上に言語面等も含めて多様なハードルが存在するところこのような標準の獲得を目指す企業に対して政府内外の関係機関が連携したきめの細かい支援を行うことも重要であろう

45

SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 46: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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SDGs経営ESG投資研究会 委員名簿

(五十音順敬称略)

座長 伊藤 邦雄 一橋大学大学院 経営管理研究科 特任教授

委員

井阪 隆一 株式会社セブンアイホールディングス

代表取締役社長

出雲 充 株式会社ユーグレナ 代表取締役社長

荻原 亘 野村アセットマネジメント株式会社

執行役員 運用調査副本部長 株式 CIO

垣内 威彦 三菱商事株式会社 代表取締役社長

五神 真 東京大学 総長

齋藤 充 日本通運株式会社 代表取締役社長

澤田 道隆 花王株式会社 代表取締役 社長執行役員

十倉 雅和 住友化学株式会社 代表取締役社長

中島 徳至 グローバルモビリティサービス株式会社 代表取締役社長

永野 毅 東京海上ホールディングス株式会社 取締役社長 グループ CEO

林田 英治 JFEホールディングス株式会社 代表取締役社長

福島 毅 ブラックロックジャパン株式会社 取締役 CIO

山田 義仁 オムロン株式会社 代表取締役社長 CEO

吉田 憲一郎 ソニー株式会社 取締役 代表執行役 社長 兼 CEO

吉田 淳一 三菱地所株式会社 執行役社長

役職は研究会開始時点 オブザーバー 外務省金融庁公益社団法人経済同友会一般社団法人日本経済団体連合会一般社団

法人日本投資顧問業協会株式会社日本取引所グループ独立行政法人日本貿易振興機構一般社団法人 Japan Innovation Network 事務局 経済産業省 経済産業政策局 産業資金課

参考

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応
Page 47: SDGs 経営/ESG 投資研究会 報告書...SDGs に係る意識の高まりや国際的な ESG 投資の拡大といった流れを踏まえ、また、「SDGs経営推進イニシアティブ」を具体

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添付資料 1別添1 SDGs経営ガイド 2別添2 SDGs経営ESG投資研究会 議事要旨(第1回~第 6回) 3別添3 SDGs経営ESG投資研究会 各委員プレゼン資料 4別添4 関連ヒアリングの概要等(海外企業投資家評価機関) 5別添5 価値協創ガイダンス及び SDGsに関するアンケート調査結果

  • はじめに
  • 第一章 SDGs-価値の源泉
    • 1 企業にとってのSDGs
      • 11 SDGsは企業と世界をつなぐ「共通言語」
      • 12 SDGsは「未来志向」のツール
      • 13 SDGs-企業経営における「リスク」と「機会」
      • 14 日本企業の理念とSDGs
      • 15 ベンチャー企業とSDGs
        • 2 投資家にとってのSDGs -SDGs経営とESG投資-
          • 21 投資家を取り巻く環境変化
          • 22 長期的な企業価値の評価とSDGs
          • 23 SDGs経営を行う企業のパフォーマンス
            • 3 マルチステークホルダーとの「懸け橋」
              • 31 「SDGsネイティブ」としてのミレニアル世代
              • 32 SDGsと従業員消費者
              • 33 「知の総体」としての大学の役割
              • 34 「連携」はSDGs経営の重要なカギ
                  • 第二章 SDGs経営の実践
                    • 1 社会課題解決と経済合理性
                      • 11 経済合理性を見出し新たな市場を取りに行く
                        • 2 重要課題(マテリアリティ)の特定
                          • 21 重要課題を特定し資源を投入する
                            • 3 イノベーションの創発
                              • 31 社会課題を解決するイノベーションを「協創」する
                              • 32 経営者自身が新規事業をリードする
                                • 4 「科学的論理的」な検証評価
                                  • 41 「科学的論理的」な検証評価を徹底するさせる
                                  • 42 国際標準を積極的に活用する
                                    • 5 長期視点を担保する経営システム
                                      • 51 SDGs経営を「仕組み」で持続させる
                                        • 6 「価値創造ストーリー」としての発信
                                          • 61 「価値創造ストーリー」を描き発信する
                                          • 62 「選ばれたい人」に刺さるメッセージを発信する
                                          • 63 的確に伝え対話し更なる価値創造へ
                                              • 第三章 政策提言
                                                • 1 国際的なメッセージの発信
                                                  • 11 「SDGs経営ガイド」の策定と発信
                                                  • 12 rdquoData Free Flow with Trust (DFFT)rdquo
                                                    • 2 長期視点の企業経営の推進
                                                      • 21 イノベーション「協創」に向けた取組
                                                      • 22 人材投資健康経営ダイバーシティ経営の推進
                                                      • 23 「非連続」を生む長期的な研究開発投資の推進
                                                      • 24 戦略的な情報開示(SDGs経営と長期ビジョン)
                                                        • 3 投資家による長期投資の促進
                                                          • 31 「アクティブファンドマネージャー宣言」の浸透拡大
                                                          • 32 ESG投資のパフォーマンスの検証整理等
                                                          • 33 長期投資を促す市場構造への見直し
                                                            • 4 SDGsを通じた新市場の開拓
                                                            • 5 国際的なルールメイキング
                                                              • 51 国際的な投資関連動向の調査分析とインプット
                                                              • 52 「価値協創ガイダンス」フレームワークの国際展開
                                                                • 6 科学的論理的な評価の浸透
                                                                  • 61 科学的論理的な評価の徹底と浸透
                                                                  • 62 投資家評価機関の手法の分析整理
                                                                  • 63 国際標準づくりに向けた対応