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ESG投資:持続可能な未来のための 道筋をつける

Setting a Course for a Sustainable Future - BNY Mellon...(Generation Lost)」に関するBNYメロンの独自調査によれば、ミ レニアル世代は、ポートフォリオの平均42%を社会的インパクト投資

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ESG投資:持続可能な未来のための道筋をつける

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著者:マレイケ・ドレイスバック ― リージョナルプロダクトマネージャー、EMEA(欧州・中東・アフリカ地域)ストラテジー&プロダクトマネジメント、BNYメロン

寄稿者:マービン・バーバート ― アセットオーナーセグメント担当責任者、EMEA(欧州・中東・ア フリカ地域)、BNYメロン

フレイザー・プリーストリー ― パフォーマンスおよびリスク担当責任者、EMEA(欧州・中東・アフリカ地域)、BNYメロン

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エグゼクティブサマリー: マイクロソフトの共同創業者兼元会長のビル・ゲイツ氏は、「我々は、今後2年で起こる変化を過大評価し、今後10年で起こる変化を過小評価しがちである」という名言を残しています。10年後自らを振り返る時、私たちはおそらく自分達が皆、サステナブル(持続可能な)投資家になっていることに気付くでしょう。それには10年以上の歳月がかかるかもしれませんが、アセットオーナー、資産運用会社、サービスプロバイダーが既に長期的なシフトの初期段階を目の当たりにしていることは明らかです。投資の長期的なトレンドは長期投資です。財務基準だけでなく環境・社会・企業統治(ESG)要素を考慮した投資活動と成果アセスメントを促進する動きも高まっています。本レポートで示す通り、この新たな投資環境の体制はまだ整備されていません。しかし、私たちは今こそ、投資家が持続可能な将来に向けて計画を立て始めるべき時であると考えます。•アセットオーナーや資産運用会社の間で、人口動態的かつ政治的な勢力の双方からリス クとリターンのプラスの効果に対する正しい認識が高まっていることを背景に、サステ ナブル投資は投資家およびサービスプロバイダーの重要な配慮項目として大いに注目を 集めつつあります。

•サステナブル投資の人気の高まりと並行し、資産運用業界は連携して、投資家がその投資判断 の際、非財務実績を測定しESG原則を投資戦略に組み入れる基準となるグローバルなフレー ムワークを策定しています。

•その一方で、各国政府も、国際連合(UN)の「持続可能な開発目標(SDGs: SustainableDevelopmentGoals)」に対応して、持続可能な金融に関する法的措置 を立案しています。特に注目されるのは、欧州委員会が2018年3月に公表した「持続 可能な成長に向けた金融(FinancingSustainableGrowth)」と題するアクションプラ ンで、サステナブルな活動のためのEUの分類法を確立すること、グリーンな金融商品 に関する基準やEUラベルを作成すること、サステナビリティを組み入れた判断に基づ いて顧客に助言を提供すること、などの項目が含まれています。

•投資の優先順位の調整や効果の測定については、まだ多くの課題が残されていますが、 ツールやデータソースの選択範囲の拡大は、資産運用会社、アセットオーナーがともに、 より高度かつ多様な運用成果を目指し、実現するのに役立っています。

•バリューアラインメント(価値との整合性)戦略に関しては、投資家は価値観や優先順位と合致 しない株式を除外する銘柄検索機能などのコンプライアンスモニタリングサービスを活用して います。

•積極的なESG統合の取り組みを行う際に、投資家は、議決権行使(proxyvoting)や クラスアクションのソリューションを含む、さまざまなエンゲージメント関連サービスに加えて、 投資先企業との引き合いや株式の売却に関するサポートを必要とします。

•投資家が投資戦略を通じて特定のインパクトの実現を目指すなかで、ESG投資はより精 密なものとなっており、適切な投資パフォーマンスを識別し測定するために新たな ツールやソリューションが必要になっています。

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サステナブル投資が主流になる以前は、多くの投資家が短期的な収益性と、より長期的で持続可能なアプローチとの間で葛藤してきました。つい最近まで、サステナブル投資は、専門的なグループ、特定の倫理や宗教的な原則と関連付けられ、しばしばニッチな分野と見なされていました。しかし、この10年の間に短期的な投資姿勢に伴う金融リスク、社会リスク、環境リスクに対する懸念が強まったことによって、サステナブル投資が主流に躍り出ることになりました。さらに、ESG要素を無視すれば、投資の運用成果に悪影響を及ぼしかねないリスクが生じるという認識が高まったことも、サステナブル投資を後押しすることになりました。

サステナブル投資の原則や責任投資原則(PRI:PrinciplesforResponsibleInvestment)1は全面的にまたは部分的にという程度の差こそあれ、アセットオーナーやサービスプロバイダーに受け入られつつあります。ESGは、これまで社会的責任投資を隔離してきた壁を突き破り、より多くの主力投資家がESG投資の3つの柱(価値観に基づく回避スクリーニング、積極的な持続可能性重視の分析、企業エンゲージメントとインパクト投資)を活用しようとしています。最近の調査2によれば、アセットオーナーの84%がESG統合を目指しているか、あるいは、ESG統合を積極的に検討していること、またほぼ同数のアセットオーナーが国連のSDGsの17の目標に合致する投資を追求しようとしていることが示されています。

これはたやすいことではありませんし、即効的な解決策はなく、投資プロセス全体を通じて調整が必要になります。詳細な投資戦略の如何にかかわらず、ESGの原則や目標を組み込むためには、新たな投資の方針、運用ガイドライン、オペレーションおよび銘柄選択基準を設定し、監視するためのスキルとリソースが必要になります。驚くに足らないことでしょうが、70%近くのアセットオーナーが、ESG原則を採用する際の情報不足を最大の課題と見なしています。米国証券アナリスト(CFA)協会の調査によれば、投資運用会社の55%が、「適切な定量的ESGデータ不足」が投資プロセスにおける非財務的情報の使用を制限していると述べています3。

それにもかかわらず、多数のプッシュ要因とプル要因により、ESG投資の勢いは加速しています。その背景には、第一に、サステナブル投資は、リスクおよびリターンにメリットがあり、また社会、環境および企業統治に幅広い恩恵をもたらすという正しい認識が高まっていることがあります。

第二に、今日の多くの投資担当者の投資行動は、利益の追求と同様に、世界を変える願望により動機付けされていることがあります。CFA協会の調査4によれば、ミレニアル世代の78%は、投資する際に少なくとも1つのESG問題を考慮に入れています。「失われた世代(GenerationLost)」に関するBNYメロンの独自調査によれば、ミレニアル世代は、ポートフォリオの平均42%を社会的インパクト投資商品に配分していることが分かっています5。アセットオーナー、資産運用会社およびそのサービスプロバイダーは、スキルや専門知識の向上に出資し、投資戦略を再検討し、商品範囲を拡大することによって、進化する投資担当者の優先事項に対応しています。

第三に、公共セクターのコミットメントにより民間セクターの対応が求められていることがあります。最も画期的な事例としては、国連のSDGsおよび気候変動に関するパリ協定の環境目標があり、いずれも2015年に署名されています。国連のSDGsでは、開発目標を達成するためのグローバルなフレームワークだけでなく、民間セクターの戦略再編成のための明確な焦点が定められています。

2016年における世界のESG資産運用残高は、前年比12%増の22兆8000億米ドル超に達しており6、その半分以上が欧州におけるESG投資となっています。これは、特定のESG目標を達成することを目的とした新たな金融商品の発行や、ESGを考慮し既存のポートフォリオを調整したことによる資産運用残高の増加を反映した結果です。

しかし、最近の概算7によると、2030年までにSDGs目標を達成するためには、年間で合計2兆4000億米ドル規模の公共投資および民間投資が必要となり、それに伴い12兆米ドル規模のビジネス機会が生み出されることが示唆されています8。世界の資産運用残高が84兆9000億米ドル9であることから、これは達成可能であると思われます。しかし、投資を導く動機と機会が十分ではありません、それらに寄与するデータの妥当性や標準化手段が我々には不足しています。

2016年における世界のESG資産運用残高は前年比で12%増の22兆8000億米ドル超に達しており、その半分以上が欧州におけるESG投資となっています6。

1責任投資とは、リスク管理を改善し、持続可能な長期的リターンを上げるために、環境・社 会・企業統治(ESG)要素を投資判断に組み込むことを目指した投資アプローチ です(https://www.unpri.org/pri/what-is-responsible-investment)。2「持続可能なシグナル(SustainableSignals)」:118に及ぶ世界中(半分以上は欧州)の 公的年金基金、企業年金基金、寄付基金、財団法人、政府系投資ファンド(SWF)、 保険会社、その他の大規模アセットオーナーなどを対象にモルガンスタンレーサステ ナブル投資研究所(MorganStanleyInstituteforSustainableInvesting)が実施し た調査(モルガンスタンレー、2018年)。3「投資におけるESG問題に関するグローバルな認識」(CFA協会、2017年5月)4「投資におけるESG問題に関するグローバルな認識」(CFA協会、2017年5月)5「失われた世代~ミレニアル世代を退職後の貯蓄プランに関与させる」(BNYメロン、2015年)。6「2016年度世界のサステナブル投資レビュー」(グローバルサステナブル投資アライアン ス、2017年)7「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030年アジェンダ」(2015年)、 持続可能な開発のための知識プラットフォーム (https://sustainabledevelopment.un.org/post2015/transformingourworld)。8「より良きビジネス、より良き世界 BetterBusiness,BetterWorld)」(ビジネスおよび持続可能開発委員会、2017年)。9https://www.pwc.com/gx/en/industries/financial-services/asset-management/ publications/asset-wealth-management-revolution.html

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新たなフレームワーク非財務情報の業績の測定可能性や比較可能性が恐らくESG投資の成長にとって最大の障害となっています。各種基準は存在しており、タクソノミー(分類法)は策定中であり、法的措置も立案されつつあります。国連のSDGsやパリ協定によって、問題意識や活動レベルは向上していますが、まだやるべきことは沢山残っています。

アセットオーナーや資産運用会社について2006年に、国連が招集したワーキンググループが6つの責任投資原則(PRI)を定義したことを受けて、投資プロセス内でのESGを統合しESGインパクトを測定するための一貫したグローバルなフレームワークを構築する取り組みが始まりました。責任投資原則は、現在では70兆米ドルに相当する投資家に採用されており、また資産運用会社やアセットオーナーのための資産クラス別、地理別、投資機能別のレポート、事例、その他のアドバイスなどによって補強されています。

PRI事務局は今年初めに、アセットオーナーがサステナビリティ要素を十分に考慮した投資戦略を策定する際の参考となる、具体的なガイドライン10を発表しています。また、PRI事務局は、資産運用会社やアセットオーナーがどのようにしてサステナビリティを株式や債券の投資に組み入れるべきなのかに焦点を当てたレポートを発行するとともに、ESG資産運用会社の選択11のための指針を発表しています。ESG資産運用会社の選択に関しては、商品レベルや企業レベルのデータに加えて「投資先企業との建設的な対話」を重視するよう提言しています。また、PRI事務局は、投資家が適切なインパクト投資運用会社およびテーマ型投資を識別する際の参考とするために「インパクト投資の市場マップ(ImpactInvestingMarketMap)」を立ち上げ、共通の定義、基準およびKPI(重要業績評価指標)を提供しています。

PRI事務局は、CFA協会と連携し、株式や債券の事例研究に基づくESG統合に関するベストプラクティスのガイダンスに加えて、南北アメリカにおける投資家の行動、課題、慣行に焦点を当てた、3部構成の地域別レポートの第一弾を最近発表しています。

企業やその投資家について企業のサステナビリティ報告書は、国連のSDGsとまだ完全には一致せず、充分に対応しきれていないかもしれませんが、報告書の件数は増加しています。KPMG12によれば、現在、世界の大企業250社の93%は自社のサステナビリティ業績を報告しています。相対的に規模の小さい企業は、自社ビジネスのESG実績手段の獲得と情報提供能力の整備にまだ時間がかかるでしょう。

サステナビリティ報告書のガイドラインを制定している国際的な非営利団体であるグローバルレポーティングイニシアチブ(GRI)は、1997年以来サステナビリティ報告基準のフレームワークを改善し続けており、現在は、既存のレポートを活用してサステナビリティデータプラットフォームを開発中です。金融安定理事会(FSB:FinancialStabilityBoard)によって設立された気候関連財務ディスクロージャータスクフォース(TCFD:TaskForceonClimate-relatedFinancialDisclosures)は2017年6月に、気候関連のリスクおよび機会を財務報告書にどのように組み込むかについて自主的な提言を行いました。合計86兆米ドルの資産を運用する金融機関を含め、時価総額の合計が6兆6000億米ドルに相当する275社を超える企業が参加しています。さらに100社超に及ぶ大企業13が科学的根拠に基づく目標(SBT:Science-BasedTargets)にコミットし、低炭素経済に向けての自社の進捗状況を追跡しています。

PRI事務局とGRIは、国連グローバルコンパクト(UNGC)と密接に連携して、企業やその他のステークホルダー(利害関係者)のサステナブル経営や、SDGs達成を支援しています。

UNGCは持続可能な開発における民間セクター投資の役割を規規定14定しており、またPRI事務局、GRI、UNGCの3機関は引き続き連携し、SDGsに関する報告の仕方や報告要件を定義しています。最近の出版物では、企業のSDGs達成サポートのインパクトを測定し報告する方法、ビジネス戦略のSDGsへの合致に関するアドバイス、SDGs関連情報開示に対する投資家のニーズに対応するためのメトリクス(指標)が規定されています。

EUの提案 国連のSDGsはまた、各国政府のコミットメントによって加速した法制化の流れを受けて、サステナブル投資のための共通の定義やガイドラインの策定に寄与しています。

欧州委員会(EC)が設置した「持続可能な金融に関するハイレベル専門家グループ(High-LevelExpertGrouponSustainableFinance)」が公表し注目を集めた有力な2つの報告書に続き、欧州委員会は2018年3月8日に「持続可能な成長に向けた金融」と題したアクションプランを公表しました。このアクションプランではi)資本の流れをサステナブル投資に向けさせること、(ii)気候変動、資源の枯渇、環境の悪化、社会課題から来る財務リスクを管理すること、(iii)金融と経済活動における透明性や長期主義を育むこと15、という3つの目的を達成するために、27の計画と作業領域が設定されています。

2018年5月24日に、欧州委員会はアクションプランに挙げられた計画に関する一連の法整備提案の第一弾を発表しました。その提案では以下の目的が掲げられています。

1. 経済活動がどの程度、環境的に持続可能であると考えられるかを 識別するための共通の言語を企業や投資家に提供するために、EU レベルでの分類システムまたはタクソノミー(分類法)を設定するこ とにより、サステナブル投資とは何かを明確にすること。

2.運用会社、機関投資家、保険会社および投資アドバイザーが、顧客 や受益者の利益を最優先する受託者責任の一環として、投資判断 やアドバイザリープロセスにESG要素を確実に組み入れるようにす ること。

3.新たなベンチマークのカテゴリーとして、低炭素ベンチマークおよ びポジティブな炭素へのインパクトに関するベンチマークを設定す ること。

4.投資会社や保険販売業者が、投資家にアドバイスを提供する際に、 適合性評価にサステナビリティに関する選好についても考慮し、 提供される投資商品がクライアントのニーズに合致するようにする こと。

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10「投資戦略の策定方法(HowtoCraftanInvestmentStrategy)」(PRI、2018年) (https://www.unpri.org/asset-owners/investment-strategy)11「資産運用会社の選択に関するアセットオーナー向けガイド:ESGに関する知見を持って、資産運 用会社との関係を強化し、投資成果を向上させる(Assetownermanagerselectionguide: EnhancingrelationshipsandinvestmentoutcomeswithESGInsight)」PRI(2018年 3月)(https://www.unpri.org/asset-owners/assetowner-guide-enhancing-manager- selection-with-esg-in)12KPMGによるCSR(企業の社会的責任)報告に関する調査(2017年)13sciencebasedtargets.org上の「コミットメントからアクションへ(FromCommitmentto Action)」と題するブログ(2018年4月)14「民間セクター投資と持続可能な開発(PrivateSectorInvestmentandSustainable Development)」(UNGC、2015年)(https://www.unglobalcompact.org/library/1181)15ハイレベル専門家グループの報告書、アクションプランおよびアクションプランに関する法的 措置の提案は、欧州委員会のウェブサイト(https://ec.europa.eu/info/business-econo my-euro/banking-andfinance/sustainable-finance_en)で閲覧することができます。

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このように急速に進化する投資環境は、アセットオーナーや資産運用会社が投資戦略や投資商品にESG要素を組み入れることを大きく後押ししています。しかし、個別の機関が複雑かつ不完全なエコシステムを通り抜けてその道筋をたどる前途には多くの課題が待ち受けています。

社会的利益と金銭的利益を組み合わせる 従来、サステナブル投資に関しては、金銭的利益と持続可能性との間には「トレードオフ」の関係があるのではないかという疑問があり、これがアセットオーナーのサステナブル投資への関心を狭める要因となってきました。現在では、ESGを重視しない企業が抱える相対的に高いリスクを部分的に回避し投資判断にESG要素を組み入れ長期的に従来の投資を上回るリターンを得ることができることを示す統計的証拠が存在しています。

2016年に、ドイチェ・アセットマネジメントとハンブルク大学16は、2000件を超える実証的研究を集め、ESG原則は必ずしも利益を低下させるものではないことを証明しました。彼らの分析では、実証的研究の90%においてESGと企業業績との間にネガティブな関係は存在しておらず、圧倒的多数においてポジティブな相関関係があると報告しています。その一方で、米国金融情報サービス大手、モーニングスターの調査17では、サステナビリティ格付けが高いミューチュアルファンド(投資信託)ほどボラティリティ(価格変動性)が低いという統計的に意義深い関係が存在することが判明しています。

公共政策の観点からすれば、ESG要素およびESGリスクを投資判断に組み入れることにメリットがあることは明らかですが、すべての資産運用会社にとって、ESG統合によりどの程度リターンが向上するのかについては議論がまだ続いています。

この議論の中で重要な点は、一つの資産のESG要素に関する情報は今日まだ不完全な状態にあり、恐らく他の資産のESG情報と整合性が取れていない可能性があるということです。つまり、ESG要素のみを重視すると、価格設定や投資配分の偏りを導く可能性があるということを意味しています。

インパクトを測定する 投資のESG適格性を検証する一連の国際基準はまだ確立されていません。したがって、アセットオーナーは、独自の評価方法を持つスペシャリスト(専門家)からの新たなデータソース、格付け機関を含む確立されたデータプロバイダーの新たなツールに加え、定義、原則、フレームワークなどに関する業界レベルの研究を活用しています。

また、国連のSDGsがこの動きに弾みをつけることは明らかですが、SDGsの目標件数(169件)が多いことや、それらすべてが容易に測定できないことから、非財務目標に対する投資パフォーマンスを把握しようとするアセットオーナーの取り組みの焦点が定まっていない状況となっています。大抵の場合、「企業による情報開示やセクター固有のガイダンスの欠如に対処するためにはかなりの量の追加作業が必要とされています」18。GRIとUNGCが連携して、比較可能で効果的なSDGs報告のための「統一したメカニズム」19を成立させている一方で、大半の企業は既存の報告基準を使用しています。

このように流動的な状況下で、専門的なデータプロバイダーや格付け機関は、ポジティブなESG成果より優れた報告能力を理由に潤沢な資金力のある企業への偏重といった不合理な状況に対処するために自社のモデルを進化させています。

投資手法をより洗練された戦略に合わせるアセットオーナーのESG投資優先体質は、資産運用会社、ファンド、資産クラスなどの選択を含む、ESG投資戦術に影響を及ぼすことになるでしょう。広範囲にわたるESG目標と特定のファンドの構成要素との整合性に対しても、定期的な再評価の実施が必要となる可能性がありますが、よりニッチな分野でのESG投資効果を目指す場合には、非常に精密な投資ツールが必要になるでしょう。

資産運用会社は、特定の目的あるいはより広範なESG成果を狙ったファンドを立ち上げていたり、すべての投資商品にESG要素を織り込んでいる事を売り込んでいたりします。リターンやインパクトの観点からすると、ファンド自体、および、ファンド格付け手段共に未熟な状態です。

したがって、ESG投資の初期段階にある資産運用会社は、上場企業のサステナビリティ報告書だけをESG投資にとって十分に詳細で比較可能なものであるとみなし、その結果、株式ベースの戦略についての情報提供が不十分になってしまう可能性があります。特定の投資成果を目指すには、ラベル表示の標準化に関する一層の取り組みが必要です。

投資戦略の選択肢はリテール投資家市場、機関投資家市場双方において広範囲になりつつありますが、目標が精緻化し特定の社会的または環境的な成果の達成がターゲットとなるなか、この選択肢の増加は必ずしも投資家の適切な投資戦略採用を保証するものではありません。テーマ型投資(81%)、インパクト投資(72%)、株主エンゲージメント(80%)20などへのアセットオーナーの注目度においても、サステナブル投資は、広範囲にわたるリソース、スキル、ツールへのアクセスが求められる非常に積極的な取り組みになることが示されています。

81%

72%

80%

テーマ型投資

インパクト投資

株主エンゲージメント

アセットオーナーが注目するサステナブル投資20

16https://www.db.com/newsroom_news/2016/ghp/esg-and-financial-performance aggregated-evidence-from-more-than-200-empirical-studies-en-11363.htm17「サステナビリティ格付けが高いほどリスクが低くなる可能性がある(HigherSustainability RatingsCanMeanLowerRisk)」モーニングスター(2016年10月13日現在)。18GRI/UNGCによる「SDGsに関するビジネスレポーティング(BusinessReportingonthe SDGs)ゴールとターゲットの分析(AnAnalysisoftheGoalsandTargets)」(2018年)。19GRI/UNGCによる「SDGsに関するビジネスレポーティングゴールとターゲットの分析」(2018年)におけるGRI事務局長ティム・モーヒン(TimMohin)氏。20モルガンスタンレーサステナブル投資研究所が実施したアセットオーナーを対象にした調査 2018年)

アセットオーナーおよび資産運用会社にとっての今後の課題

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21ピクテアセットマネジメント(資産運用部門)の調査(https://qz.com/1309419/when-will socially-responsible-investing-become-just-investing/)。22アーンスト・アンド・ヤング(EY):「サステナブル投資:ミレニアル世代の投資家(SustainableInvesting:theMillennialInvestor)」(2017年)。23「グローバルな金融大改革の時期(TimeforaGlobalFinancialMakeover)」―https:// www.project-syndicate.org/commentary/global-finance-and-sustainable- development-by-liu-zhenmin-2018-04。

原則に従い成功を促す新たに策定されたESG投資戦略を実行するなかで、投資結果を確実に優先順位に合致させるために、投資家は3つの主要な支配的アプローチに関するサポートを求めています。

•バリューアラインメント―価値観や優先度に見合わない株式の 除外を求めるアセットオーナーや資産運用会社は、コンプラ イアンスモニタリングサポートとしてスクリーニングツールを使用 するでしょう。

•ESG統合―ESG情報に基づくリスク軽減および収益拡大へ の積極的なアプローチを望む機関投資家は、議決権の代理行 使、クラスアクション対策、投資先企業との対話や株式売却 に関する支援などを含む、確立したエンゲージメント関連 サービスを使用するでしょう。

•テーマ別インパクト―投資家が投資戦略を通じて特定のイ ンパクトを狙うなど、ESG投資がより緻密なものになるなか で、適切な投資機会を識別しそのパフォーマンスを測定する ために新たなツールやソリューションが必要になるでしょう。 これには、国連のSDGsへの貢献など、特定のインパクト評価 基準を満たす商品の能力を含むESG投資商品の分析、運用実 績のレポーティング、ベンチマーキング、モニタリングにおける 代替データセットの使用も含まれます。

ESG関連戦略や要件の進化とともに、BNYメロンは、新たなソリューションを導入し、自社の金融サービスを進化させています。例えば、英国ロンドンのBNYメロン・イノベーションセンターで試作されたデジタルツールは、原投資ポートフォリオ保有者やお客様のESGプロファイル理解にお役立ていただけます。

行動を起こすべき時一般的には依然として「donoharm」という排他的なネガティブスクリーニング手法が使われるでしょうが、一部の推計ではESG資産が2020年までに世界のファンド運用資産の3分の2を構成すると予想されています21。投資家や資産運用会社には、適切な企業行動を示さない企業に意図的に投資し、そのビジネスモデルに適い投資家のESG優先度と合致したESG目標を達成するために、株主という立場を利用して企業と前向きな対話を行う回数を徐々に増やしていき、企業行動に影響を与えるチャンスがあります。サステナブル投資の背後にある政治的な影響力や市場の影響力も強まっています。サステナビリティを重視するミレニアル世代は、2020年までには労働人口の3分の1を占め、約30兆米ドルに及ぶ富を継承することになるでしょう22。同時に、政治的圧力は引き続き高まっており、国連経済・社会問題担当事務次長の劉振民(リュウ・ジェンミン)氏は最近、「金融セクターのショートターミズム(短期主義)が国連のSDGsの取り組みを弱体化させる可能性がある」という警鐘23を発しています。

しかし、数々の証拠は、投資家が次第に長期的変化の必要性を強く感じるようになっていることを示しています。アセットオーナーの投資戦略や資産運用会社の投資商品構成においてESGは有力な検討事項として浸透しつつあります。アセットオーナーは、投資担当者の優先度に基づいて、どのようなメトリクスや投資成果が重要なのかを見極めた上で、ESGへの独自アプローチを選択しなければならないでしょう。投資運用会社は、ESGファンド構築、マーケティング、販売手法に主に重点を置き、法人客が求めるESGソリューションを実行することになるでしょう。また、サービスプロバイダーやインフラプロバイダーも費用対効果が高く意思決定に必要なサポート機能の調整を求められるでしょう。現在整備されつつあるフレームワークやガイドラインは、増大するデータフローへの投資家の理解や評価を深め、ベストプラクティスについてのより幅広いコンセンサス獲得につながるでしょう。お客様の投資戦略の進化に伴い、当社のソリューションも進化していきます。皆様と共に、BNYメロンも長期的視点に立ち、サステナブル投資に取り組んでまいります。

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