8
はじめに 血球成分除去療法(CAP)は、潰瘍性大 腸炎(UC)に対する安全性の高い治療法 として広く臨床使用されています。一方、 近年、抗TNFα抗体製剤やタクロリムス の登場により難治性UC治療の選択肢は 大きく広がりました。そこで、本セミナー では、これからのUCの治療戦略と、その 中におけるCAPの位置づけ、使用方法に ついて、お二人の講師をお招きしてお話 を伺います。 JDDW2015 ランチョンセミナー54 これからの 潰瘍性大腸炎の治療戦略 福岡大学筑紫病院 消化器内科 平井 郁仁 先生 演 者 滋賀医科大学 消化器内科 安藤 朗 先生 司 会 東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科 竹内 健 先生 演 者 本講演記録は2015年10月に東京で開催された第23回日本消化器関連学会週間におけるランチョンセミナー54での講演内容をもとに作成したものです。 LCAP学術情報

T w õ ~Q G Î wÏ t - 旭化成株式会社 hÏ Opb¬{Tt$"1x Uw TT b`ñ z ^ w RÃw Û r K bUz Q b Vô ¸ pxfz Ís Ýæ¿Ä K b{y^ t5SFBU UP 5BSHFUwßz Q MT zçÓ髽ï

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No.2016.1-0882O201613

はじめに 血球成分除去療法(CAP)は、潰瘍性大腸炎(UC)に対する安全性の高い治療法として広く臨床使用されています。一方、近年、抗TNFα抗体製剤やタクロリムスの登場により難治性UC治療の選択肢は大きく広がりました。そこで、本セミナーでは、これからのUCの治療戦略と、その中におけるCAPの位置づけ、使用方法について、お二人の講師をお招きしてお話を伺います。

JDDW2015 ランチョンセミナー54これからの

潰瘍性大腸炎の治療戦略

福岡大学筑紫病院 消化器内科平井 郁仁 先生演 者

滋賀医科大学 消化器内科安藤 朗 先生司 会

東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科竹内 健 先生演 者

 保険適用が間近になったバイオマーカーとしてカルプロテクチンがあります(表2)。カルプロテクチンは、好中球に含まれているカルシウム結合タンパク質です。海外で既にエビデンスが豊富であること、便中で1週間常温で安定して測定できるというメリットがあり、腸管内の炎症を知るためのバイオマーカーとしてキットの開発につながりました。 実際にカルプロテクチン値が内視鏡評価と相関することも示されています。さらに、臨床的には寛解状態でも、一定レベル以上のカルプロテクチン値を示した症例ではその後再燃することが示されており、再燃予測因子にもなることがわかってきました。 私が留学中に検討した研究結果を紹介します。潰瘍性大腸炎あるいはクローン病の臨床的寛解の患者さんにおいて、定期的にカルプロテクチンを測定し、正常値の5倍を超えた時に、そのままの治療法を続ける場合と、CAPを週1回、計5回治療をした場合の1年後の寛解維持率を見ました。結果、CAP治療群は寛解維持率が有意に高いことが分かりました(図7)。すなわち、難治性の患者さんでは臨床症状が現れてから治療を開始するのではなく、臨床症状が出る前に、いわばボヤの段階をとらえて治療をするということが、新しい治療戦略になるのではないかと考えています。

バイオマーカーを利用したCAPの新しい治療方法

 最後にまとめの表3を示します。本邦のUC患者数は増加しており、特に高齢の方が増えています。このような状況の中、Treat-to-Targetの考え方は今後ますます重要となってきます。CAPは高齢者でも若年者と同様に高い治療効果が得られ、しかも安全性に優れた治療法です。確かにCAPは手技の手間もかかりますし、患者さんの来院の負担もありますが、安全性を優先すべき高齢者では、それを上回るメリットもあります。 さらに、Treat-to-Targetの考え方から、カルプロテクチンというバイオマーカーを用いて潜在的再燃を予測し、CAPで再燃を予防するという新しい治療戦略もみえてきました。適応症例を見極めてCAPをこれからのUC治療の中で再活用することも、Treat-to-Targetを実践するうえで重要と考えます。

Treat-to-TargetによるCAPを用いた新しい治療戦略

カルプロテクチン表2

本講演記録は2015年10月に東京で開催された第23回日本消化器関連学会週間におけるランチョンセミナー54での講演内容をもとに作成したものです。

まとめ表3

●本邦の潰瘍性大腸炎患者は増加しており、 高齢患者も増えている。●“Treat-to-Target”の考え方●血球成分除去療法: 高齢者でも若年者と同様の効果、安全性●バイオマーカーによる潜在的再燃の予測と 血球成分除去療法による再燃予防

Fagerhol MK, Dale l, Andersson T.“A radioimmunoassay for a granulocyte protein as a marker in studies on the turn over of such cells.”Bull Eur Physiopathol Respir 1980;16(Suppl):273-282

好中球細胞質の総蛋白の60%を占めるs100ファミリーに属する36.5kDaのカルシウム結合蛋白であり、リンパ球には存在しない。Dale l, Brandtzaeg P, Fagerhol MK, Scott H; Distribution of a newmyelomonocytic antigen (L1) in human peripheral blood leukocytes.Immunofluorescence and immunoperoxidase staining features incomparison with lysozyme and lactoferrin.Am J Clin Pathol 1985;84: 24-34.

便中カルプロテクチンは常温で7日間安定であり、Elisa法による測定では検体間誤差は14.8%、同一検体での測定誤差は1.9%である。Røseth AG, Fagerhol MK, Aadland E, Schjønsby H; Assessment of theneutrophil dominating protein calprotectin in feces. A methodologic study.Scand J Gastroenterol 1992;27: 793-798.

寛解維持率の比較図7

Sixty patients(age 18-70 years)with IBD in clinical remissionwith fecal calprotectin over 250 μg/g.

Maiden L, Takeuchi K, Bjarnason I, et al. Inflamm Bowel Dis 2008

1.0

0.75

0.5

0.25

00 25 50 75 100 125 150 175 200 225 days

p<0.05Method:Mantel-Haenszel

GROUP  CAP  Unchanged

LCAP学術情報

02

 潰瘍性大腸炎(UC)の治療指針において、血球成分除去療法(CAP)はステロイド抵抗例もしくは依存例の寛解導入療法として推奨されています。これらのいわゆる難治例に対しては、CAP、タクロリムス、抗TNFα抗体製剤、シクロスポリンの4つの中から適切な治療法を選択することとされていますが、CAPに関しては、特に中等症の症例に推奨されること、週2回のインテンシブ治療がより有効であることが明記されています。 図1に当科における難治性潰瘍性大腸炎の治療方針を示します。ステロイド抵抗例については、軽症に近い中等症の症例、高齢者、あるいは全身性の合併症を有する症例に対してCAPを第一選択とすることにしています。ステロイド依存例については、基本的にアザチオプリンなどの免疫調節薬を使用しますが、免疫調節薬不耐例やステロイドフリー寛解が困難な症例においては抗TNFα抗体製剤もしくはCAPを選択しています。一方、難治例以外でのCAPの適応症例としては、高齢者、全身合併症を有する症例、小児などの安全性が最優先される症例が挙げられます(表1)。また、ステロイド禁忌例などステロイドを使用できない、もしくは躊躇する症例に対してはステロイドフリーでの使用も期待できます。

血球成分除去療法(CAP)の安全性の高さを生かした治療戦略

JDDW2015 ランチョンセミナー54 「これからの潰瘍性大腸炎の治療戦略」

03

難治性潰瘍性大腸炎治療 当科の基本方針

福岡大学筑紫病院 消化器内科 平井 郁仁 先生

潰瘍性大腸炎治療における血球成分除去療法の位置づけと使用法

図1

初回CAPの臨床効果図3

難治例以外でのCAPの出番表1

患者背景表2

有意差を認めた患者背景表3

表4

当科施行例の効果と効果予測因子表5

 1996年から2015年までの当科におけるCAPの使用状況と成績をまとめました。解析対象は合計182例272セッションです。表2に主な患者背景を示します。平均の罹病期間は約6年、再燃寛解型が多く、重症度では中等症が全体の約7割を占めました。ステロイド抵抗例、ステロイド依存例がそれぞれ約40%、直前のステロイド併用率は約70%と高く、平均のステロイド使用量は25mg/日、総投与量は約5gでした。平均のSeo indexは約200と重症例が多く、粘膜所見のBlackstoneスコアは平均7で潰瘍が認められる程度の比較的重症の患者さんが多い結果となりました。 臨床効果の判定は、治療後のSeo indexが150以下を寛解、治療前後で40以上低下した場合を軽快、それ以外を無効としました。その結果、寛解は28%(51/182例)、寛解と軽快を合わせた有効が53%(97/182例)でした(図3)。注目していただきたいのは、有害事象で治療を中止した症例は2例のみだった点です。次に、有効と無効の因子を単変量で解析し、統計学的に有意な差を認めたものを表3に示します。有効群では無効群と比べ、ステロイド

総投与量は有意に少なく、治療前のSeo indexは有意に高い結果が得られました。また、有効群では白血球数およびCRPが有意に高い結果となっています。一方、CAPの治療効果の判定時期ですが、有効群では無効群と比べ3回目終了時の血便回数とSeo indexが有意に低い結果が得られました(表4)。したがって、CAPの効果判定としては3回目終了時の血便回数や臨床症状の低下が適しており、その後の効果もある程度予測ができると考えています。これらの結果を表5にまとめました。

当院におけるCAPの治療成績

●安全性が最優先される症例 (高齢者、全身合併症を有する症例、小児など)●ステロイドフリー症例 (ステロイド拒否例、ステロイド禁忌・要慎重投与例など)●他治療不耐症例   ●待機的手術予定例●(併用療法として)他治療の効果不十分例

●中等症以上の再燃寛解型を主な対象とした 初回CAPの短期的有効率は50~60%であった。

●患者背景では、総PSL投与量が少ない症例、 非難治例で有効例が多かった。

●有効群はCAP前の白血球数、CRPおよび 活動指数(Seo index)が有意に高かった。

注) 効果見極めは3回目終了時の反応性で判断

性別(M:F)導入時年齢(歳)罹患期間(月)罹患範囲(左側結腸炎/全結腸炎/ほか)病型(初回発作/再燃寛解/慢性持続)重症度(軽症/中等症/重症/劇症)難治(PSL依存/PSL抵抗/抵抗+依存/非難治)直前PSL使用(ある/なし/不明)直前PSL投与量(mg/日)PSL総投与量(g)Seo indexBlackstone grading scoreMatts score

91:9142.3±18.073.4±82.968/112/221/107/543/128/49/275/78/5/26124(68%)/53/524.7±22.75.0±1.8198.3±39.07.0±1.13.3±0.6

3.8±4.4

225±185

7309±2969

3.0±0.7

11.2±2.2

1.5±1.7

2.0±2.8

160±41

8058±3049

3.2±0.6

10.9±2.0

1.3±2.1

血便回数

Seo index

白血球数(mm3)

Alb(g/dL)

Hb(g/dL)

CRP(mg/dL)

0.003

0.003

0.17

0.13

0.41

0.58

無効群(n=100)

有効群(n=171) P value

n=271

36/25/5

7.5±2.8

188±42

8027±3083

1.9±2.7

37/41/21

3.5±5.4

205±36

9905±3721

4.0±6.0

難治性分類(PSL抵抗/PSL依存/非難治)

PSL総投与量(g)

Seo index

白血球数(mm3)

CRP(mg/dL)

0.04

0.04

0.01

0.002

0.003

無効群(n=66)

有効群(n=97) P value

n=163

n=182

【ステロイド抵抗例】 【ステロイド依存例】

➡ 絶食、Tac劇症例、手術を考慮する重症例

➡ 外科手術PSL総投与量多量、合併症

➡ Tac or 抗TNFαその他の重症例、中等症例

➡ AZA、6-MPPSL減量・離脱困難例

➡ CAP or 抗TNFα

軽症に近い中等症例高齢者、合併症を有する症例

➡ 抗TNFα or CAP

AZA、6-MP不耐例ステロイドフリー寛解困難例

AZA:アザチオプリン、6-MP:ロイケリン抗TNFα:IFX or ADA、CAP:血球成分除去療法

 近年、高齢発症のUC症例が増えています。当院でも2001年以降は、40歳代後半から60歳代前半に2つめの発症のピークを認めています。したがって今後は、若くして発症してから歳をとられた方、高齢になってから発症した方を合わせて、高齢者で治療を必要とするUC症例がますます増えてくると予想されます。その中には、心疾患など全身状態が悪い症例が含まれてきます。 当科で高齢者に対して白血球除去療法(LCAP)を使用し、良好な結果を得た1例を紹介します。70歳男性で、今回の入院の半年前に心筋梗塞を発症した症例です(図2)。ステロイド大量静注が奏功せず、巨大結腸の兆候もみられたため外科手術を検討したのですが、全身状態が悪いことから、まずはLCAPを施行して状態を安定させようと考えました。LCAP施行後、症状が安定したことから、この症例はその2週間後には結腸全摘を行うことができました。このように高齢者、合併症を有する症例はCAPの守備範囲と考えられます。

増加する高齢者UC症例

症例1 70歳 男性 全大腸炎型 初回発作型図2

PSL大量静注 60mg 50 45 40 35

5-ASA 1500mg 2250mg

Ganciclovir 500mg/day 2週間

LCAP

結腸全摘術回腸人工肛門造設術(二期的な手術を選択)

10

5

0

CRP(mg/dL)

Seo index

4月4日 18日 23日 5月1日 11日 15日 24日

絶食TPN開始

CMV-C10(+) (ー)腹満感

顕血便

243 124 135

CAP3回終了時の要因比較

n=182

有害事象での中止例は2例のみ

有効97(53%)

無効66(36%)

寛解51(28%)判定不能

19(10%)

増悪35(19%)

02

 潰瘍性大腸炎(UC)の治療指針において、血球成分除去療法(CAP)はステロイド抵抗例もしくは依存例の寛解導入療法として推奨されています。これらのいわゆる難治例に対しては、CAP、タクロリムス、抗TNFα抗体製剤、シクロスポリンの4つの中から適切な治療法を選択することとされていますが、CAPに関しては、特に中等症の症例に推奨されること、週2回のインテンシブ治療がより有効であることが明記されています。 図1に当科における難治性潰瘍性大腸炎の治療方針を示します。ステロイド抵抗例については、軽症に近い中等症の症例、高齢者、あるいは全身性の合併症を有する症例に対してCAPを第一選択とすることにしています。ステロイド依存例については、基本的にアザチオプリンなどの免疫調節薬を使用しますが、免疫調節薬不耐例やステロイドフリー寛解が困難な症例においては抗TNFα抗体製剤もしくはCAPを選択しています。一方、難治例以外でのCAPの適応症例としては、高齢者、全身合併症を有する症例、小児などの安全性が最優先される症例が挙げられます(表1)。また、ステロイド禁忌例などステロイドを使用できない、もしくは躊躇する症例に対してはステロイドフリーでの使用も期待できます。

血球成分除去療法(CAP)の安全性の高さを生かした治療戦略

JDDW2015 ランチョンセミナー54 「これからの潰瘍性大腸炎の治療戦略」

03

難治性潰瘍性大腸炎治療 当科の基本方針

福岡大学筑紫病院 消化器内科 平井 郁仁 先生

潰瘍性大腸炎治療における血球成分除去療法の位置づけと使用法

図1

初回CAPの臨床効果図3

難治例以外でのCAPの出番表1

患者背景表2

有意差を認めた患者背景表3

表4

当科施行例の効果と効果予測因子表5

 1996年から2015年までの当科におけるCAPの使用状況と成績をまとめました。解析対象は合計182例272セッションです。表2に主な患者背景を示します。平均の罹病期間は約6年、再燃寛解型が多く、重症度では中等症が全体の約7割を占めました。ステロイド抵抗例、ステロイド依存例がそれぞれ約40%、直前のステロイド併用率は約70%と高く、平均のステロイド使用量は25mg/日、総投与量は約5gでした。平均のSeo indexは約200と重症例が多く、粘膜所見のBlackstoneスコアは平均7で潰瘍が認められる程度の比較的重症の患者さんが多い結果となりました。 臨床効果の判定は、治療後のSeo indexが150以下を寛解、治療前後で40以上低下した場合を軽快、それ以外を無効としました。その結果、寛解は28%(51/182例)、寛解と軽快を合わせた有効が53%(97/182例)でした(図3)。注目していただきたいのは、有害事象で治療を中止した症例は2例のみだった点です。次に、有効と無効の因子を単変量で解析し、統計学的に有意な差を認めたものを表3に示します。有効群では無効群と比べ、ステロイド

総投与量は有意に少なく、治療前のSeo indexは有意に高い結果が得られました。また、有効群では白血球数およびCRPが有意に高い結果となっています。一方、CAPの治療効果の判定時期ですが、有効群では無効群と比べ3回目終了時の血便回数とSeo indexが有意に低い結果が得られました(表4)。したがって、CAPの効果判定としては3回目終了時の血便回数や臨床症状の低下が適しており、その後の効果もある程度予測ができると考えています。これらの結果を表5にまとめました。

当院におけるCAPの治療成績

●安全性が最優先される症例 (高齢者、全身合併症を有する症例、小児など)●ステロイドフリー症例 (ステロイド拒否例、ステロイド禁忌・要慎重投与例など)●他治療不耐症例   ●待機的手術予定例●(併用療法として)他治療の効果不十分例

●中等症以上の再燃寛解型を主な対象とした 初回CAPの短期的有効率は50~60%であった。

●患者背景では、総PSL投与量が少ない症例、 非難治例で有効例が多かった。

●有効群はCAP前の白血球数、CRPおよび 活動指数(Seo index)が有意に高かった。

注) 効果見極めは3回目終了時の反応性で判断

性別(M:F)導入時年齢(歳)罹患期間(月)罹患範囲(左側結腸炎/全結腸炎/ほか)病型(初回発作/再燃寛解/慢性持続)重症度(軽症/中等症/重症/劇症)難治(PSL依存/PSL抵抗/抵抗+依存/非難治)直前PSL使用(ある/なし/不明)直前PSL投与量(mg/日)PSL総投与量(g)Seo indexBlackstone grading scoreMatts score

91:9142.3±18.073.4±82.968/112/221/107/543/128/49/275/78/5/26124(68%)/53/524.7±22.75.0±1.8198.3±39.07.0±1.13.3±0.6

3.8±4.4

225±185

7309±2969

3.0±0.7

11.2±2.2

1.5±1.7

2.0±2.8

160±41

8058±3049

3.2±0.6

10.9±2.0

1.3±2.1

血便回数

Seo index

白血球数(mm3)

Alb(g/dL)

Hb(g/dL)

CRP(mg/dL)

0.003

0.003

0.17

0.13

0.41

0.58

無効群(n=100)

有効群(n=171) P value

n=271

36/25/5

7.5±2.8

188±42

8027±3083

1.9±2.7

37/41/21

3.5±5.4

205±36

9905±3721

4.0±6.0

難治性分類(PSL抵抗/PSL依存/非難治)

PSL総投与量(g)

Seo index

白血球数(mm3)

CRP(mg/dL)

0.04

0.04

0.01

0.002

0.003

無効群(n=66)

有効群(n=97) P value

n=163

n=182

【ステロイド抵抗例】 【ステロイド依存例】

➡ 絶食、Tac劇症例、手術を考慮する重症例

➡ 外科手術PSL総投与量多量、合併症

➡ Tac or 抗TNFαその他の重症例、中等症例

➡ AZA、6-MPPSL減量・離脱困難例

➡ CAP or 抗TNFα

軽症に近い中等症例高齢者、合併症を有する症例

➡ 抗TNFα or CAP

AZA、6-MP不耐例ステロイドフリー寛解困難例

AZA:アザチオプリン、6-MP:ロイケリン抗TNFα:IFX or ADA、CAP:血球成分除去療法

 近年、高齢発症のUC症例が増えています。当院でも2001年以降は、40歳代後半から60歳代前半に2つめの発症のピークを認めています。したがって今後は、若くして発症してから歳をとられた方、高齢になってから発症した方を合わせて、高齢者で治療を必要とするUC症例がますます増えてくると予想されます。その中には、心疾患など全身状態が悪い症例が含まれてきます。 当科で高齢者に対して白血球除去療法(LCAP)を使用し、良好な結果を得た1例を紹介します。70歳男性で、今回の入院の半年前に心筋梗塞を発症した症例です(図2)。ステロイド大量静注が奏功せず、巨大結腸の兆候もみられたため外科手術を検討したのですが、全身状態が悪いことから、まずはLCAPを施行して状態を安定させようと考えました。LCAP施行後、症状が安定したことから、この症例はその2週間後には結腸全摘を行うことができました。このように高齢者、合併症を有する症例はCAPの守備範囲と考えられます。

増加する高齢者UC症例

症例1 70歳 男性 全大腸炎型 初回発作型図2

PSL大量静注 60mg 50 45 40 35

5-ASA 1500mg 2250mg

Ganciclovir 500mg/day 2週間

LCAP

結腸全摘術回腸人工肛門造設術(二期的な手術を選択)

10

5

0

CRP(mg/dL)

Seo index

4月4日 18日 23日 5月1日 11日 15日 24日

絶食TPN開始

CMV-C10(+) (ー)腹満感

顕血便

243 124 135

CAP3回終了時の要因比較

n=182

有害事象での中止例は2例のみ

有効97(53%)

無効66(36%)

寛解51(28%)判定不能

19(10%)

増悪35(19%)

JDDW2015 ランチョンセミナー54 「これからの潰瘍性大腸炎の治療戦略」

04 05

粘膜所見の検討図4

複数回施行例における2回目の治療効果図5

 次に、当科の成績からCAPの粘膜治癒効果を検討しました。粘膜治癒の定義はBlackstoneスコアが3点以上低下し、かつ4以下となった場合と定義しました。粘膜治癒としては少し厳しめの判定基準です。その結果、CAP終了後に粘膜治癒が得られたのは17%(31/182例)、内視鏡スコアが評価可能だった症例に限ると24%(31/128例)でした(図4)。この成績は多数例のアダリムマブの解析結果とほぼ同等と言えるでしょう。また、粘膜治癒を得られやすい因子としてはステロイドフリー症例が挙げられました。 次にCAPを複数セッション施行した39例の2セッション目の治療効果を検討しました。有効率は54%(21/39例)と初回治療時とほぼ同等ですが、この2セッション目に有効だった21例の1セッション目の有効率は90%(19/21例)と高い結果でした(図5)。したがって、1セッション目でCAPが有効であった症例であれば、2セッション目以降も効果が十分に期待できると考えられます。

CAPの粘膜治癒効果と再治療例の成績

 LCAPが奏功した症例を紹介します(図6)。30代の男性で全大腸炎型、再燃寛解型でステロイド抵抗例です。重症で全身の合併症はありませんが、サイトメガロウイルスが陽性です。ステロイド大量静注(60mg/日)およびガンシクロビルで2週間加療するも、改善がみられませんでした。そこで、それらの治療にLCAPを追加することにしました。初めの6回目までは週2回のインテンシブで施行したところ、症状がかなり落ち着き、内視鏡所見でも改善が見られました。残りの4回は週1回に変更し、10回終了後にはさらに症状は改善し内視鏡的にも粘膜治癒が得られました。 最後に、これからのUCの治療戦略におけるCAPの役割を考えてみます(表6)。CAPはその安全性の高さを生かすことが重要ですが、適切な症例を選択し、その反応性を早い段階で確認すれば、より有効に使用できると考えています。昨今の難治性UC治療はタクロリムスや抗TNFα抗体製剤が主役になってきていますが、その中でも本当はCAPが適している症例も存在すると思います。今後、患者さんが高齢化する中で、CAPは今以上に重要な役割を果たせる治療法だと考えています。

これからのUC治療におけるCAPの役割症例2 30代 男性 全大腸炎型 再燃寛解型 ステロイド抵抗例図6

これからの潰瘍性大腸炎の治療戦略として表6

東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科 竹内 健 先生“Treat-to-Target”による血球成分除去療法の使い方

 近年、日本における潰瘍性大腸炎(UC)の患者数は増加の一途をたどっており、最新の2013年度の集計では16万人を超えています。かつてUCは希少疾患でしたが、今では決して珍しい病気ではなくなりました。ただ、その多くは軽症例で、当院でも外来で診療可能な患者さんが増えています。しかし、病変範囲としては左側大腸炎型や全大腸炎型の患者さんが多く、経口薬を用いた全身的な治療が必要です。

 一方、近年の特徴としては、患者さんの高齢化や高齢で発症する患者さんが増加していることで、高齢のUC患者さんが増えていることです。現在の治療法はほとんど年齢に関しては考慮されていません。同じ病態、重症度であっても、高齢者の場合、積極的に免疫抑制療法を行うかどうか、ということが新たな課題となっています。なお、海外では60歳以上の高齢者に対して免疫調節薬や抗TNFα抗体製剤はあまり積極的に用いられない傾向があります。理由は発がん、リンパ増殖性疾患、感染症の危険性が高まるとの報告があるためです。

潰瘍性大腸炎症例の動向

CAP前 CAP5回後 CAP10回後

n=182

n=39

検討可能症例のみの粘膜治癒率 : 31/128(24%)

初回治療の反応性

有効31(17%)不明

54(30%)不変

87(48%)

増悪10(5%)

寛解・有効19例

不変2例

有効21(54%)

無効18(46%)

重症 全身合併症なし、CMV:C7HRP、生検とも陽性

LCAP著効例、粘膜治癒達成例

SASP

PSL60 50

2回/週10

0

40 30 25 20 15 10 5mg/dayoff

Ganciclovir

1回/週

4000mg/day

LCAP

200

100

02008.3.9 3.25 3.31 4.13

140

226231

5.14 6.18

内視鏡検査 ① ② ③ 100109

Seo’s AI

排便回数■血便あり■血便なし

CAPは安全かつ効果的な治療法として活用できる。患者の高齢化やハイリスク症例の増加が見込まれ、その役割はより高まると予想される。

CAPを有効に用いるには治療の対象を十分考慮し、反応性を確認しつつ行う必要がある。

CAPによる粘膜治癒については今後さらなる検討が必要である。

(回)

JDDW2015 ランチョンセミナー54 「これからの潰瘍性大腸炎の治療戦略」

04 05

粘膜所見の検討図4

複数回施行例における2回目の治療効果図5

 次に、当科の成績からCAPの粘膜治癒効果を検討しました。粘膜治癒の定義はBlackstoneスコアが3点以上低下し、かつ4以下となった場合と定義しました。粘膜治癒としては少し厳しめの判定基準です。その結果、CAP終了後に粘膜治癒が得られたのは17%(31/182例)、内視鏡スコアが評価可能だった症例に限ると24%(31/128例)でした(図4)。この成績は多数例のアダリムマブの解析結果とほぼ同等と言えるでしょう。また、粘膜治癒を得られやすい因子としてはステロイドフリー症例が挙げられました。 次にCAPを複数セッション施行した39例の2セッション目の治療効果を検討しました。有効率は54%(21/39例)と初回治療時とほぼ同等ですが、この2セッション目に有効だった21例の1セッション目の有効率は90%(19/21例)と高い結果でした(図5)。したがって、1セッション目でCAPが有効であった症例であれば、2セッション目以降も効果が十分に期待できると考えられます。

CAPの粘膜治癒効果と再治療例の成績

 LCAPが奏功した症例を紹介します(図6)。30代の男性で全大腸炎型、再燃寛解型でステロイド抵抗例です。重症で全身の合併症はありませんが、サイトメガロウイルスが陽性です。ステロイド大量静注(60mg/日)およびガンシクロビルで2週間加療するも、改善がみられませんでした。そこで、それらの治療にLCAPを追加することにしました。初めの6回目までは週2回のインテンシブで施行したところ、症状がかなり落ち着き、内視鏡所見でも改善が見られました。残りの4回は週1回に変更し、10回終了後にはさらに症状は改善し内視鏡的にも粘膜治癒が得られました。 最後に、これからのUCの治療戦略におけるCAPの役割を考えてみます(表6)。CAPはその安全性の高さを生かすことが重要ですが、適切な症例を選択し、その反応性を早い段階で確認すれば、より有効に使用できると考えています。昨今の難治性UC治療はタクロリムスや抗TNFα抗体製剤が主役になってきていますが、その中でも本当はCAPが適している症例も存在すると思います。今後、患者さんが高齢化する中で、CAPは今以上に重要な役割を果たせる治療法だと考えています。

これからのUC治療におけるCAPの役割症例2 30代 男性 全大腸炎型 再燃寛解型 ステロイド抵抗例図6

これからの潰瘍性大腸炎の治療戦略として表6

東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科 竹内 健 先生“Treat-to-Target”による血球成分除去療法の使い方

 近年、日本における潰瘍性大腸炎(UC)の患者数は増加の一途をたどっており、最新の2013年度の集計では16万人を超えています。かつてUCは希少疾患でしたが、今では決して珍しい病気ではなくなりました。ただ、その多くは軽症例で、当院でも外来で診療可能な患者さんが増えています。しかし、病変範囲としては左側大腸炎型や全大腸炎型の患者さんが多く、経口薬を用いた全身的な治療が必要です。

 一方、近年の特徴としては、患者さんの高齢化や高齢で発症する患者さんが増加していることで、高齢のUC患者さんが増えていることです。現在の治療法はほとんど年齢に関しては考慮されていません。同じ病態、重症度であっても、高齢者の場合、積極的に免疫抑制療法を行うかどうか、ということが新たな課題となっています。なお、海外では60歳以上の高齢者に対して免疫調節薬や抗TNFα抗体製剤はあまり積極的に用いられない傾向があります。理由は発がん、リンパ増殖性疾患、感染症の危険性が高まるとの報告があるためです。

潰瘍性大腸炎症例の動向

CAP前 CAP5回後 CAP10回後

n=182

n=39

検討可能症例のみの粘膜治癒率 : 31/128(24%)

初回治療の反応性

有効31(17%)不明

54(30%)不変

87(48%)

増悪10(5%)

寛解・有効19例

不変2例

有効21(54%)

無効18(46%)

重症 全身合併症なし、CMV:C7HRP、生検とも陽性

LCAP著効例、粘膜治癒達成例

SASP

PSL60 50

2回/週10

0

40 30 25 20 15 10 5mg/dayoff

Ganciclovir

1回/週

4000mg/day

LCAP

200

100

02008.3.9 3.25 3.31 4.13

140

226231

5.14 6.18

内視鏡検査 ① ② ③ 100109

Seo’s AI

排便回数■血便あり■血便なし

CAPは安全かつ効果的な治療法として活用できる。患者の高齢化やハイリスク症例の増加が見込まれ、その役割はより高まると予想される。

CAPを有効に用いるには治療の対象を十分考慮し、反応性を確認しつつ行う必要がある。

CAPによる粘膜治癒については今後さらなる検討が必要である。

(回)

JDDW2015 ランチョンセミナー54 「これからの潰瘍性大腸炎の治療戦略」

06 07

平成26年度 潰瘍性大腸炎治療指針(内科)図3

 2011年7月から2015年8月までにCAPを実施した156症例の治療成績をレトロスペクティブに解析しました。表1に患者背景を示します。病変範囲では全大腸炎型が約75%、病型では再燃寛解が約90%と大きな割合を占めていました。薬剤は、5-ASA製剤が93%、ステロイド剤が72%、免疫調節薬が15%の症例で併用されていました。

 治療効果の判定は、治療後にpartial Mayoスコアが2以下になった症例を寛解、治療前後でスコアが50%以上低下した症例を有効と定義しました。まず、難治性分類別の有効性ですが、非難治例、ステロイド抵抗例、ステロイド依存例それぞれで約60%前後の有効率を示しましたが、3か月後には10~20%で残念ながら再燃しています(図4)。高齢者と若年者で有効性に違いはみられず、また、有害事象も高齢者で増加することはありませんでした。また、CAP終了後3~6か月後の粘膜治癒率はMayo 0 が16%、Mayo 1以下が44%でした(図5)。 先ほど平井先生からも話がありましたが、初回にCAPが有効であった症例では2回目以降の効果も高いことが、我々のデータでも示されています(図6)。そこで、CAPが有効な患者さんでは維持療法としても有効なのではないかという仮説のもと、現在、CAPTAIN studyという全国多施設の臨床研究が行われています。この結果から、CAPの寛解維持効果が証明されることを期待しています。

当院におけるCAPの治療成績

 UCの従来の治療目標は臨床的な寛解を目指すことでした。しかし、現在ではステロイドを使用せずに粘膜治癒を得ることが我々の治療目標となっています(図1)。粘膜治癒を達成し、その状態を長く保たせることで、入院率や手術率の低下に結びつくとともに、長期的に炎症を抑えることによって発癌のリスクを抑えられるからです。 この目標達成に向けた治療という概念は、“Treat-to-Target”と呼ばれています。種々のリスクファクターから患者さんを層別化し、個々の患者さんに最も適したテーラーメイドの治療法を選択します。さらに、漫然とその治療を続けるのではなく、治療

の効果と安全性を適切にモニタリングして、さらなる治療の最適化を図ります(図2)。 血球成分除去療法(CAP)は本邦で開発された治療法で、安全性に優れた治療法として臨床使用されてきました。現在、当科の鈴木康夫教授が班長を務めている厚生労働省の難治性疾患克服研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班」の「潰瘍性大腸炎治療指針」(図3)では、CAPはステロイド依存例や抵抗例などの難治例に対する治療法として推奨されています。しかし、近年、難治性でより重症のUCに対してはタクロリムスや抗TNFα抗体製剤などが使用されることが多くなってきました。ではこのCAPを、“Treat-to-Target”の考え方の中でどのように活用すれば良いのでしょうか?

目標達成に向けた治療 ”Treat-to-Target”

寛解導入療法

寛解維持療法

軽症

ステロイド依存例 ステロイド抵抗例

中等症

非難治例 難治例

重症 劇症経口剤:5-ASA製剤注腸剤:5-ASA注腸、ステロイド注腸

経口剤:5-ASA製剤坐剤:5-ASA坐剤、ステロイド坐剤注腸剤:5-ASA注腸、ステロイド注腸

5-ASA製剤(経口剤・注腸剤・坐剤) 5-ASA製剤(経口剤・注腸剤・坐剤)免疫調節薬(アザチオプリン・6-MP*)、インフリキシマブ点滴静注**、アダリムマブ皮下注射**

免疫調節薬:アザチオプリン・6-MP*

※中等症で炎症反応が強い場合や上記で改善ない場合は  プレドニゾロン経口投与※さらに改善なければ重症またはステロイド抵抗例へ の治療を行う※直腸部に炎症を有する場合はペンタサ坐剤が有用

※アザチオプリン・6-MP*の併用を考慮する※改善がなければ手術を考慮

中等症:血球成分除去療法・タクロリムス経口・インフリキシマブ点滴静注・アダリムマブ皮下注射重症:血球成分除去療法・タクロリムス経口・インフリキシマブ点滴静注・アダリムマブ皮下注射・   シクロスポリン持続静注療法*

・プレドニゾロン点滴静注※状態に応じ以下の薬剤を併用 経口剤:5-ASA製剤 注腸剤:5-ASA注腸、ステロイド注腸※改善なければステロイド抵抗例の治療を行う※状態により手術適応の検討

・緊急手術の適応を検討

※外科医と連携のもと、状況が許せば 以下の治療を試みてもよい ・ステロイド大量静注療法 ・タクロリムス経口 ・シクロスポリン持続静注療法*※上記で改善なければ手術

※安易なステロイド全身投与は避ける

全大腸炎型

左側大腸炎型直腸

炎型

難治例

*現在保険適用には含まれていない **インフリキシマブ・アダリムマブで寛解導入した場合5-ASA経口剤(ペンタサ錠®、アサコール錠®、サラゾピリン錠®) 5-ASA注腸剤(ペンタサ注腸®) 5-ASA坐剤(ペンタサ坐剤®、サラゾピリン坐剤®)ステロイド注腸剤(プレドネマ注腸®、ステロネマ注腸®) ステロイド坐剤(リンデロン坐剤®)

中村志郎:難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(鈴木班) 平成26年度総括・分担研究報告書 別冊

※(上記で改善しない場合): 血球成分除去療法・タクロリムス経口・ インフリキシマブ点滴静注・アダリムマブ皮下注射 を考慮してもよい

患者背景表1

総症例数

性別

年齢

罹病期間

病変範囲

病型

併用薬

直腸炎型左側大腸炎型全大腸炎型

初回発作再燃寛解慢性持続劇症

免疫調節薬ステロイドステロイド局所TacrolimusInfliximab5-ASA

1例35例120例

10例140例4例2例

24例113例7例6例1例

145例

(口側進展3例)

(不耐・既往6例)(抵抗例39例・依存例67例)

(不耐・アレルギー11例)

156例

34.5歳(13-78)

4.58年(0-29.9)

女性 67例 男性 89例目標達成に向けた治療図2炎症性腸疾患の治療目標図1

患者の層別化

治療の最適化(optimization)

Treat-to-Target ; T2T病態に応じた治療法選択

⬇リスクファクター年齢、病変範囲、ステロイド使用歴、等々…

モニタリング臨床活動性指標、画像、バイオマーカー、等々…

過去の治療目標“臨床的”寛解導入と維持

将来期待される治療目標

⬇現在の治療目標

ステロイドフリーでの寛解維持

⬇ Tailor-made療法

粘膜治癒(Mucosal Healing) Sustained Deep Remission

入院率の低下・手術率の低下 正常な消化機能の維持重篤な合併症や癌発生リスクの軽減

難治性分類別の短期成績(3ヶ月後)図4

CAP前後の内視鏡所見図5 CAP反復使用の有効性(3ヶ月後)図6

100%

90%

80%

70%

60%

50%

40%

30%

20%

10%

0%

■無効■再燃■有効■寛解

非難治例(n=37)

ステロイド抵抗例(n=35)

ステロイド依存例(n=64)

32.4

35.1

18.9

13.5

34.3

34.3

11.4

20.0

21.9

40.6

20.3

17.2

100%

90%

80%

70%

60%

50%

40%

30%

20%

10%

0%

■手術■Mayo 3■Mayo 2■Mayo 1■Mayo 0

CAP前(n=136)

CAP後 3~6ヶ月(n=113)

20

63

17

28

43

95

16

100%

90%

80%

70%

60%

50%

40%

30%

20%

10%

0%

初回治療(n=31)

64.5

2回以降(n=31)

54.8

初回有効例2回目(n=20)

80.0

初回無効例2回目(n=11)

9.1

JDDW2015 ランチョンセミナー54 「これからの潰瘍性大腸炎の治療戦略」

06 07

平成26年度 潰瘍性大腸炎治療指針(内科)図3

 2011年7月から2015年8月までにCAPを実施した156症例の治療成績をレトロスペクティブに解析しました。表1に患者背景を示します。病変範囲では全大腸炎型が約75%、病型では再燃寛解が約90%と大きな割合を占めていました。薬剤は、5-ASA製剤が93%、ステロイド剤が72%、免疫調節薬が15%の症例で併用されていました。

 治療効果の判定は、治療後にpartial Mayoスコアが2以下になった症例を寛解、治療前後でスコアが50%以上低下した症例を有効と定義しました。まず、難治性分類別の有効性ですが、非難治例、ステロイド抵抗例、ステロイド依存例それぞれで約60%前後の有効率を示しましたが、3か月後には10~20%で残念ながら再燃しています(図4)。高齢者と若年者で有効性に違いはみられず、また、有害事象も高齢者で増加することはありませんでした。また、CAP終了後3~6か月後の粘膜治癒率はMayo 0 が16%、Mayo 1以下が44%でした(図5)。 先ほど平井先生からも話がありましたが、初回にCAPが有効であった症例では2回目以降の効果も高いことが、我々のデータでも示されています(図6)。そこで、CAPが有効な患者さんでは維持療法としても有効なのではないかという仮説のもと、現在、CAPTAIN studyという全国多施設の臨床研究が行われています。この結果から、CAPの寛解維持効果が証明されることを期待しています。

当院におけるCAPの治療成績

 UCの従来の治療目標は臨床的な寛解を目指すことでした。しかし、現在ではステロイドを使用せずに粘膜治癒を得ることが我々の治療目標となっています(図1)。粘膜治癒を達成し、その状態を長く保たせることで、入院率や手術率の低下に結びつくとともに、長期的に炎症を抑えることによって発癌のリスクを抑えられるからです。 この目標達成に向けた治療という概念は、“Treat-to-Target”と呼ばれています。種々のリスクファクターから患者さんを層別化し、個々の患者さんに最も適したテーラーメイドの治療法を選択します。さらに、漫然とその治療を続けるのではなく、治療

の効果と安全性を適切にモニタリングして、さらなる治療の最適化を図ります(図2)。 血球成分除去療法(CAP)は本邦で開発された治療法で、安全性に優れた治療法として臨床使用されてきました。現在、当科の鈴木康夫教授が班長を務めている厚生労働省の難治性疾患克服研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班」の「潰瘍性大腸炎治療指針」(図3)では、CAPはステロイド依存例や抵抗例などの難治例に対する治療法として推奨されています。しかし、近年、難治性でより重症のUCに対してはタクロリムスや抗TNFα抗体製剤などが使用されることが多くなってきました。ではこのCAPを、“Treat-to-Target”の考え方の中でどのように活用すれば良いのでしょうか?

目標達成に向けた治療 ”Treat-to-Target”

寛解導入療法

寛解維持療法

軽症

ステロイド依存例 ステロイド抵抗例

中等症

非難治例 難治例

重症 劇症経口剤:5-ASA製剤注腸剤:5-ASA注腸、ステロイド注腸

経口剤:5-ASA製剤坐剤:5-ASA坐剤、ステロイド坐剤注腸剤:5-ASA注腸、ステロイド注腸

5-ASA製剤(経口剤・注腸剤・坐剤) 5-ASA製剤(経口剤・注腸剤・坐剤)免疫調節薬(アザチオプリン・6-MP*)、インフリキシマブ点滴静注**、アダリムマブ皮下注射**

免疫調節薬:アザチオプリン・6-MP*

※中等症で炎症反応が強い場合や上記で改善ない場合は  プレドニゾロン経口投与※さらに改善なければ重症またはステロイド抵抗例へ の治療を行う※直腸部に炎症を有する場合はペンタサ坐剤が有用

※アザチオプリン・6-MP*の併用を考慮する※改善がなければ手術を考慮

中等症:血球成分除去療法・タクロリムス経口・インフリキシマブ点滴静注・アダリムマブ皮下注射重症:血球成分除去療法・タクロリムス経口・インフリキシマブ点滴静注・アダリムマブ皮下注射・   シクロスポリン持続静注療法*

・プレドニゾロン点滴静注※状態に応じ以下の薬剤を併用 経口剤:5-ASA製剤 注腸剤:5-ASA注腸、ステロイド注腸※改善なければステロイド抵抗例の治療を行う※状態により手術適応の検討

・緊急手術の適応を検討

※外科医と連携のもと、状況が許せば 以下の治療を試みてもよい ・ステロイド大量静注療法 ・タクロリムス経口 ・シクロスポリン持続静注療法*※上記で改善なければ手術

※安易なステロイド全身投与は避ける

全大腸炎型

左側大腸炎型直腸

炎型

難治例

*現在保険適用には含まれていない **インフリキシマブ・アダリムマブで寛解導入した場合5-ASA経口剤(ペンタサ錠®、アサコール錠®、サラゾピリン錠®) 5-ASA注腸剤(ペンタサ注腸®) 5-ASA坐剤(ペンタサ坐剤®、サラゾピリン坐剤®)ステロイド注腸剤(プレドネマ注腸®、ステロネマ注腸®) ステロイド坐剤(リンデロン坐剤®)

中村志郎:難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(鈴木班) 平成26年度総括・分担研究報告書 別冊

※(上記で改善しない場合): 血球成分除去療法・タクロリムス経口・ インフリキシマブ点滴静注・アダリムマブ皮下注射 を考慮してもよい

患者背景表1

総症例数

性別

年齢

罹病期間

病変範囲

病型

併用薬

直腸炎型左側大腸炎型全大腸炎型

初回発作再燃寛解慢性持続劇症

免疫調節薬ステロイドステロイド局所TacrolimusInfliximab5-ASA

1例35例120例

10例140例4例2例

24例113例7例6例1例

145例

(口側進展3例)

(不耐・既往6例)(抵抗例39例・依存例67例)

(不耐・アレルギー11例)

156例

34.5歳(13-78)

4.58年(0-29.9)

女性 67例 男性 89例目標達成に向けた治療図2炎症性腸疾患の治療目標図1

患者の層別化

治療の最適化(optimization)

Treat-to-Target ; T2T病態に応じた治療法選択

⬇リスクファクター年齢、病変範囲、ステロイド使用歴、等々…

モニタリング臨床活動性指標、画像、バイオマーカー、等々…

過去の治療目標“臨床的”寛解導入と維持

将来期待される治療目標

⬇現在の治療目標

ステロイドフリーでの寛解維持

⬇ Tailor-made療法

粘膜治癒(Mucosal Healing) Sustained Deep Remission

入院率の低下・手術率の低下 正常な消化機能の維持重篤な合併症や癌発生リスクの軽減

難治性分類別の短期成績(3ヶ月後)図4

CAP前後の内視鏡所見図5 CAP反復使用の有効性(3ヶ月後)図6

100%

90%

80%

70%

60%

50%

40%

30%

20%

10%

0%

■無効■再燃■有効■寛解

非難治例(n=37)

ステロイド抵抗例(n=35)

ステロイド依存例(n=64)

32.4

35.1

18.9

13.5

34.3

34.3

11.4

20.0

21.9

40.6

20.3

17.2

100%

90%

80%

70%

60%

50%

40%

30%

20%

10%

0%

■手術■Mayo 3■Mayo 2■Mayo 1■Mayo 0

CAP前(n=136)

CAP後 3~6ヶ月(n=113)

20

63

17

28

43

95

16

100%

90%

80%

70%

60%

50%

40%

30%

20%

10%

0%

初回治療(n=31)

64.5

2回以降(n=31)

54.8

初回有効例2回目(n=20)

80.0

初回無効例2回目(n=11)

9.1

No.2016.1-0882O201613

はじめに 血球成分除去療法(CAP)は、潰瘍性大腸炎(UC)に対する安全性の高い治療法として広く臨床使用されています。一方、近年、抗TNFα抗体製剤やタクロリムスの登場により難治性UC治療の選択肢は大きく広がりました。そこで、本セミナーでは、これからのUCの治療戦略と、その中におけるCAPの位置づけ、使用方法について、お二人の講師をお招きしてお話を伺います。

JDDW2015 ランチョンセミナー54これからの

潰瘍性大腸炎の治療戦略

福岡大学筑紫病院 消化器内科平井 郁仁 先生演 者

滋賀医科大学 消化器内科安藤 朗 先生司 会

東邦大学医療センター佐倉病院 消化器内科竹内 健 先生演 者

 保険適用が間近になったバイオマーカーとしてカルプロテクチンがあります(表2)。カルプロテクチンは、好中球に含まれているカルシウム結合タンパク質です。海外で既にエビデンスが豊富であること、便中で1週間常温で安定して測定できるというメリットがあり、腸管内の炎症を知るためのバイオマーカーとしてキットの開発につながりました。 実際にカルプロテクチン値が内視鏡評価と相関することも示されています。さらに、臨床的には寛解状態でも、一定レベル以上のカルプロテクチン値を示した症例ではその後再燃することが示されており、再燃予測因子にもなることがわかってきました。 私が留学中に検討した研究結果を紹介します。潰瘍性大腸炎あるいはクローン病の臨床的寛解の患者さんにおいて、定期的にカルプロテクチンを測定し、正常値の5倍を超えた時に、そのままの治療法を続ける場合と、CAPを週1回、計5回治療をした場合の1年後の寛解維持率を見ました。結果、CAP治療群は寛解維持率が有意に高いことが分かりました(図7)。すなわち、難治性の患者さんでは臨床症状が現れてから治療を開始するのではなく、臨床症状が出る前に、いわばボヤの段階をとらえて治療をするということが、新しい治療戦略になるのではないかと考えています。

バイオマーカーを利用したCAPの新しい治療方法

 最後にまとめの表3を示します。本邦のUC患者数は増加しており、特に高齢の方が増えています。このような状況の中、Treat-to-Targetの考え方は今後ますます重要となってきます。CAPは高齢者でも若年者と同様に高い治療効果が得られ、しかも安全性に優れた治療法です。確かにCAPは手技の手間もかかりますし、患者さんの来院の負担もありますが、安全性を優先すべき高齢者では、それを上回るメリットもあります。 さらに、Treat-to-Targetの考え方から、カルプロテクチンというバイオマーカーを用いて潜在的再燃を予測し、CAPで再燃を予防するという新しい治療戦略もみえてきました。適応症例を見極めてCAPをこれからのUC治療の中で再活用することも、Treat-to-Targetを実践するうえで重要と考えます。

Treat-to-TargetによるCAPを用いた新しい治療戦略

カルプロテクチン表2

本講演記録は2015年10月に東京で開催された第23回日本消化器関連学会週間におけるランチョンセミナー54での講演内容をもとに作成したものです。

まとめ表3

●本邦の潰瘍性大腸炎患者は増加しており、 高齢患者も増えている。●“Treat-to-Target”の考え方●血球成分除去療法: 高齢者でも若年者と同様の効果、安全性●バイオマーカーによる潜在的再燃の予測と 血球成分除去療法による再燃予防

Fagerhol MK, Dale l, Andersson T.“A radioimmunoassay for a granulocyte protein as a marker in studies on the turn over of such cells.”Bull Eur Physiopathol Respir 1980;16(Suppl):273-282

好中球細胞質の総蛋白の60%を占めるs100ファミリーに属する36.5kDaのカルシウム結合蛋白であり、リンパ球には存在しない。Dale l, Brandtzaeg P, Fagerhol MK, Scott H; Distribution of a newmyelomonocytic antigen (L1) in human peripheral blood leukocytes.Immunofluorescence and immunoperoxidase staining features incomparison with lysozyme and lactoferrin.Am J Clin Pathol 1985;84: 24-34.

便中カルプロテクチンは常温で7日間安定であり、Elisa法による測定では検体間誤差は14.8%、同一検体での測定誤差は1.9%である。Røseth AG, Fagerhol MK, Aadland E, Schjønsby H; Assessment of theneutrophil dominating protein calprotectin in feces. A methodologic study.Scand J Gastroenterol 1992;27: 793-798.

寛解維持率の比較図7

Sixty patients(age 18-70 years)with IBD in clinical remissionwith fecal calprotectin over 250 μg/g.

Maiden L, Takeuchi K, Bjarnason I, et al. Inflamm Bowel Dis 2008

1.0

0.75

0.5

0.25

00 25 50 75 100 125 150 175 200 225 days

p<0.05Method:Mantel-Haenszel

GROUP  CAP  Unchanged

LCAP学術情報