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5/11/2004 1 章:ロジスティクス・サプライチェーン The Management of Business Logistics 6 th Edition John J. Coyle, Edward J. Bardi and C. John Langley Jr. 第 1 章 ロジスティクス・サプライチェーン . サプライチェーン・マネジメントの発展:概念と定義 . 変革をもたらした外生要因 . サプライチェーンにおける戦略的変化 まとめ 「米国株式会社」は市場占有率を確保し、投資収益を高めるための「新しい」武器を見 つけた。ロジスティクスである。ロジスティクスそのものはこの方面の専門家から見れば 特に目新しいものではなかったけれども、情報技術の飛躍的進歩を目の当たりにした米国 企業の経営者は、製品を差別化し、買い手と売り手の双方にとって取引費用を削減するの に有効なロジスティクスの付加価値創造的側面に注目したのであった。 この新しいロジスティクスの特徴はサプライチェーンを強調する点にある。言い換える と、企業を、最終需要者に製品を提供するサプライチェーン(パイプライン)の構成要素 として認識する点にある。個々のサプライチェーンはメーカーないし流通企業を中心に、 それと取引関係にあるベンダーと顧客から構成される。そして、サプライチェーンの考え 方では、 3 つの当事者がすべてある意味でパートナーとして製品を市場に供給していると考 える。 本書第 1 部はロジスティクス・サプライチェーンに着目する。第 1 章では、ロジスティ クス・サプライチェーンの概要を、サプライチェーン・マネジメントの定義、特性および 重要な考え方の視点から述べる。 第2章ではロジスティクスがもつ特質を中心に述べる。最初に、マクロ経済におけるロ ジスティクスの役割と重要性について考察する。次に、企業(ミクロ)の視点から、ロジ スティクスを企業内部の諸機能との関連を強調して論ずる。最後に、ロジスティクスの目 標に影響する主要な要因の観点から、ロジスティクスを分析する。 第3章と第4章は、ロジスティクス・システムの二つの主要な構成要素である調達シス テム(資材管理と調達)と販売システム(流通チャネルと顧客サービス)について考察す る。これら二つの章はロジスティクス・プロセスについて述べる第二部の基礎となる。 (1)

The Management of Business Logistics3 Lisa M. Ellram and Martha C. Cooper, "Characteristics of Supply Chain Managem ent d th Implications for Purchasing and Logistics Strategy," International

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5/11/2004 第 1章:ロジスティクス・サプライチェーン

The Management of Business Logistics 6th Edition

John J. Coyle, Edward J. Bardi and C. John Langley Jr.

第 1 章 ロジスティクス・サプライチェーン

Ⅰ. サプライチェーン・マネジメントの発展:概念と定義 Ⅱ. 変革をもたらした外生要因 Ⅲ. サプライチェーンにおける戦略的変化 まとめ

「米国株式会社」は市場占有率を確保し、投資収益を高めるための「新しい」武器を見

つけた。ロジスティクスである。ロジスティクスそのものはこの方面の専門家から見れば

特に目新しいものではなかったけれども、情報技術の飛躍的進歩を目の当たりにした米国

企業の経営者は、製品を差別化し、買い手と売り手の双方にとって取引費用を削減するの

に有効なロジスティクスの付加価値創造的側面に注目したのであった。 この新しいロジスティクスの特徴はサプライチェーンを強調する点にある。言い換える

と、企業を、最終需要者に製品を提供するサプライチェーン(パイプライン)の構成要素

として認識する点にある。個々のサプライチェーンはメーカーないし流通企業を中心に、

それと取引関係にあるベンダーと顧客から構成される。そして、サプライチェーンの考え

方では、3つの当事者がすべてある意味でパートナーとして製品を市場に供給していると考える。 本書第 1 部はロジスティクス・サプライチェーンに着目する。第 1 章では、ロジスティクス・サプライチェーンの概要を、サプライチェーン・マネジメントの定義、特性および

重要な考え方の視点から述べる。 第2章ではロジスティクスがもつ特質を中心に述べる。最初に、マクロ経済におけるロ

ジスティクスの役割と重要性について考察する。次に、企業(ミクロ)の視点から、ロジ

スティクスを企業内部の諸機能との関連を強調して論ずる。最後に、ロジスティクスの目

標に影響する主要な要因の観点から、ロジスティクスを分析する。 第3章と第4章は、ロジスティクス・システムの二つの主要な構成要素である調達シス

テム(資材管理と調達)と販売システム(流通チャネルと顧客サービス)について考察す

る。これら二つの章はロジスティクス・プロセスについて述べる第二部の基礎となる。

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5/11/2004 第 1章:ロジスティクス・サプライチェーン

サプライチェーン・マネジメントはロジスティクス・ネットワークを分析・管理するた

めの一つの考え方であり、多くの企業が注目しているところである。その背景にあるのは、

サプライチェーン・マネジメントが費用節約(効率)と顧客サービス改善(効果)のチャ

ンスを与えてくれるのではないかという期待である。それは同時にサプライチェーン・マ

ネジメント提唱者の夢でもある。サプライチェーン・マネジメントの究極の目的は、競争

圧力の高まりと顧客ニーズの急速な変化に応じて、グローバル市場における企業の競争力

を強化することにより、その地位を維持・向上させることである。ロジスティクスがサプ

ライチェーン・マネジメントの中で必要不可欠な役割を担っていることを知っているロジ

スティクス担当者は、機会あるごとにロジスティクスの構造と戦略をもっともふさわしい

ものに変更しようとしている。 個々のサプライチェーンと諸産業にまたがる広い範囲のサプライチェーンがもつ潜在的

な便益は大きい。例えば、米国食料雑貨製造業協会と他の関連グループの推定によれば、

包装・梱包用材料産業において、在庫品がサプライチェーンを辿って最終消費者まで移動す

る速さを増すことによって年間 300億ドル以上の節約が可能である【1。

Ⅰ. サプライチェーン・マネジメントの発展:概念と定義 サプライチェーン・マネジメント=SCMの基本概念と論理的背景は特に目新しいわけではない。基本概念はいくつかの段階を経て今日の姿へと発展してきた。実際、ロジスティ

クス管理者は、長年にわたって、SCM の基礎概念すなわちシステム分析、価値連鎖分析、

総コスト/トレードオフ分析等々の諸概念を利用してきた。

r1 James A. Cooke, "Supply Chain Management 90s Style," T affic Management (May 1992): 57-59.

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1) 第一段階:物的流通 1960 年代と 1970 年代、米国をはじめとする世界の多くの企業は、物流ないし販売ロジスティクス・システムに注目した。かれらは、製品を顧客に効率的に引渡すために、相互

に関係しあう諸活動(輸送、流通、保管、製品、在庫水準、包装とマテハン)を一つのシ

ステムとして管理しようとした。この時代は偉大な挑戦と変革の時代であったが、その荒

波を乗り切るために、企業は物流効率化へと走ったのであった。 2) 第二段階:統合ロジスティクス管理 1970 年代と 1980 年代、企業は調達側面(資材管理)と販売側面(物流)の結合を通して新たな費用節減の機会が得られることを、次第に強く認識しはじめるようになった。調

達側面と販売側面を結合して、これをビジネス・ロジスティクスないし単にロジスティク

ス・システムと称した。当初、こうした結合は、調達輸送と販売輸送を調整する輸送管理

者を一人だけにすることによって、節約可能性を顕在化させた。規制緩和の到来を告げる

1980年以後、流出入輸送の運賃を運送業者と交渉する機会が生まれ、運賃交渉を通して運賃の大幅な引下げとサービスの改善がもたらされた。企業はまた、原料から仕掛在庫をへ

て製品にいたる全プロセスを一つの連続体と見なし、そのことが業務を効率化する良い機

会であることに気づいた。流入ロジスティクスの一部に調達を含めることにより、費用を

大幅に減らす機会が増した。どこから(輸送)どれくらい(在庫量)購入するかの意思決

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定を含む調達プロセスは、調達ロジスティクスに重要な影響を与えた。

3) 第三段階:サプライチェーン・マネジメント 1980 年代と 1990 年代において、ロジスティクス・プロセスの範囲は拡張され、適切な製品の適切な条件・数量・費用・時間での最終顧客への引渡しを実現することと関連する

すべての部門が含まれるにいたった。これにより、最も狭く見ても、ベンダーと流通チャ

ネルが含まれることとなった。この概念は、その後の発展の中で、ロジスティクス・パイ

プラインないしサプライチェーンと呼ばれるようになった。これは、一方でメーカーとサ

プライヤ/ベンダー、顧客、他方で運送企業や営業倉庫企業のようなその他のロジスティ

クス関連企業との間で発展しつつあったパートナーシップ(アライアンス)を前提として

成立するものであった。 サプライチェーン(パイプライン)は、ロジスティクスを一企業の重要なシステムない

し構成要素として管理するという基本的な考え方から自然に発生したものである。しかし

短期的に、サプライチェーンを構成する複数のメンバーがサプライチェーン全体の最適戦

略のもとで行動することは、まことに難しい。なぜならば、彼らの状況が以前より悪化し

て最適から乖離する可能性があるからである。効率的消費者対応(ECR)は、卸売業者、小売業者、最終消費者から成る加工食品産業のサプライチェーン全体を通して、在庫回転

速度を高めようとするものである。ECR を成功させるには、大きい在庫蓄積の原因になっている大手の卸売業者や小売業者の先物買い慣行の大部分を排除しなければならない。影

響を受ける卸売業者と小売業者は、利益の増大につながる販売促進のための期末価格割引

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をよく利用していた。その結果、在庫が過剰になったり、期末の大量一括販売に納品が間

に合うよう短期間に大量の製品を生産するという、非能率な製造パターンが生まれること

になった。ECR は好ましからざる取引慣行の排除を前提として、サプライチェーン全体の効率を高める。 サプライチェーン化による節約の可能性は途方もなく大きい。上述したように、加工食

品産業のECRに関する先駆的な研究の推定によれば、コスト節減額が年間 300 億ドルを上回る。こうした節約は消費者が支払う価格を引下げるのに振り向けることができる【2。

上で紹介した ECRの例は完全なサプライチェーンでなく、メーカーから小売業者までの販売面だけを取り上げたものである。しかしながら、その場合でも多くの同じ性質を持つ

企業が関与しており、彼らは等しく既述の目的実現に努めている。逆に言って、メーカー

と流通チャネルを含む加工食品産業は全体として、サプライチェーン化により節約の実現

に向けて協力しなければならないのである。 サプライチェーン概念のもう一つの特徴は、企業が複数のパイプラインの構成要素であ

るという点である。例えば、鉄鋼メーカーは、自動車、自転車、ファイリング・キャビネ

ット等々の複数製品のサプライチェーンの構成要素である。また、グローバルな意味にお

いて、複数のサプライチェーン(個々の企業でなく)は、究極的消費者に最良の製品を最

良の最終費用で引渡すために競争している。 a) Supply Chain Definitions. サプライチェーンの定義 サプライチェーン概念については後段でもう一度言及するが、ここで、サプライチェー

ンの定義を紹介しておこう: ①サプライヤから究極の顧客にいたるまでの、流通チャネルの全体的な流れを管理する

統合原理(Cooper and Ellram)【3。 ②製品供給パイプラインに価値を追加し、サプライヤから顧客にいたるまでの一連の活

2 Ibid. 3 Lisa M. Ellram and Martha C. Cooper, "Characteristics of Supply Chain Management and the Implications for Purchasing and Logistics Strategy," International Journal of Logistics Management 4, no. 2 (1993): 1-10.

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動を理解し管理する戦略的概念 (Battaglia and Tyndall)【4

③製品やサービスを効率的かつ効果的に生産するために必要な、ベンダーから究極の消

費者にいたるまでのロジスティクス・サービス、変換conversion、およびサービス活動の連続した流れの統合管理(Stenger and Coyle)【5。 [boundary spanning] 境界の拡張

三つの定義すべては、購入者が消費者個人であるか他産業の企業であるかに関係なく、

原材料から最終製品にいたるまでの資材の流れを管理/調整する目的のための、企業横断

的に境界を拡張するサプライチェーンの性質を指摘する。 [processes] プロセス

前段の Becton Dickinsonのプロフィールで指摘したように、効率と付加価値(効果)の役割は、サプライチェーン全体を通じて重要である。諸企業をネットワークとして統合・

調整することは膨大な仕事であるが、サプライチェーン・マネジメントの成功は、製品、

情報、決済という三種類の「流れ」(基本的プロセス)の統合と管理に立脚する(図 1-4参照)。

チャネル構成メンバーの間には製品、情報と決済という3つの基本的な流れが存在する【6。

製品と部品の返品から生ずる逆の流れもあるが、製品と資金は通常 1 方向にだけ流れるのに対して、情報は両方向に流れる。事実、製品の逆の流れは、環境保護との関連で、将来

重要度を増しそうである。 b) Supply Chain Characteristics. サプライチェーンの特性 [visibility] 可視性

サプライチェーン・マネジメントの主要な課題の一つは、パイプライン全体を通して在

t t t

4 A.J. Battaglia and Gene Tyndall, "Implementing World Class Supply Chain Management," 未発表論文 5 Based upon a presentation by A.J. Stenger and J.J. Coyle of Penn State University. 6 R. A. Novack, "Integra ing Logis ics and Manufac uring," 未発表論文, Penn State University.

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庫の可視性を維持し、安全在庫を蓄えたり先物買いのような非最適な取引慣行がもたらす

不確実性を最小化しようと努力することである。ここで、伝統的な企業指向型のロジステ

ィクス・システムと比べたサプライチェーンの基本的な特徴に言及しておこう(表 1-1参照)。表 1-1 の最初の 2 つの項目で記したように、あるサプライチェーンにおいて、在庫は管理から見た場合と流れから見た場合では異なる。 表 1-1 伝統的システムとサプライチェーンの重要な特性の比較 [要素] [伝統的] [サプライチェーン] 在庫管理 個別企業 パイプラインでの調整 在庫フロー 断続 シームレス/可視 コスト管理 企業毎の最小化 到着費用 情報管理の主体 企業 共有 リスク負担 企業 共有 プランニング主体 企業 サプライチェーン化チーム 企業間の関係 個別に費用最小化を目指す企業 到着費用に着目するパートナーシップ 出所:Ellram and Cooper, "Characteristics of Supply Chain Management and the Implications for Purchasing and Logistics Strategy," International Journal of Logistics Management 4, no. 2 (1993). [inventory] 在庫

在庫投資と在庫費用を最小化するためには、サプライチェーンに沿って在庫水準を調整

しなければならない。過去において、サプライチェーンを構成する企業の力の強弱に応じ

て、在庫を“前倒し”や“後送り”することがしばしばあった。例えば、クライスラが調

達部品について JIT 在庫プログラムを導入し始めた頃、クライスラの JIT 納品スケジュールを遵守するために、ベンダーの在庫は大幅に増加した。ベンダーへの在庫押しつけはパ

イプライン全体の在庫投資を少なくするものではなく、単に在庫をパイプラインの前後に

移動させるだけにすぎない。クライスラとベンダーがもつ在庫情報を相互に提供しあって

不確実性を小さくし(可視性を提供する)、さらに生産スケジューリングに関する情報を適

時正確にベンダーに提供することによって、この問題は解決した。需要予測、発注、生産

スケジュール等々に関する情報の共有は不確実性を減じ、安全在庫を少なくする。関係す

る諸企業がそのように重要な情報を共有することは必ずしも容易でない。企業は一般に競

合企業に強い関心を抱くものであるが、そのことは競争優位を低下させかねない。 表 1-1が示しているように、製品の最終到着費用に基づいてサプライチェーンは最適化される【7。到着費用とは、商品が顧客に引き渡されるまでの最終的な総費用である。そこには、

初期購入価格と引渡費用、在庫費用等々の費用が含まれている。 [landed cost] 到着費用

企業は自社に固有の費用だけに目を奪われ、ベンダーや顧客との取引方法が最終製品の

到着費用にどのような影響を及ぼすか、気づいていない場合がある。ベンダーに十分なリ

ードタイム情報を提供しなかったり、顧客に大量購入を要求したりすると、在庫費用が増

i7 C. J. Langley and M. C. Holcomb, "Creating Logistics Customer Value," Journal of Bus ness

Logistics 13, no. 2 (1992): 3-8.

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や、それコストがパイプラインに沿って最終顧客に転嫁される。 [sharing risk] リスクの共有

情報の共有は、特にベンダーやチャネル顧客が競合メーカーとも取引する場合、厄介な

問題になる。なんらかの調整や判断が必要になるかもしれないが、情報の共有は成功する

ための重要な要因である。サプライチェーンによるマネジメントはリスクの共有を必要と

するので、リスクにも大きな関心を払わねばならない。リスクを第三者企業と共有する具

体的な方法の一つは、一定の期間にわたって一定量の取引を保証し、相手企業の取引喪失

リスクを減らすことである。資産への共同投資も、リスクを共有するための方法の一つで

ある。 [supply chain planning] サプライチェーン計画

特に自動車産業を中心とする数多くの産業でサプライチェーン・プランニングはますま

す一般的になりつつある。JITプログラムが成熟して、ベンダーも自動車メーカーに深く取り込まれるようになった。今やベンダーはプラットホーム・デザイン・チームの一員にな

り、モデルの開発局面で専門的知識を提供している。消費者も、顧客アンケート等を通し

て、自動車メーカーを中心とする構図に取り込まれるにいたっている。フォードの Taurusは、顧客調査を通して開発された車である。流通チャンネルの主要な構成要素であるディ

ーラーでさえも、車のデザイン等の顧客サービスと関連した情報の提供を通して、もっと

大きな役割を果たすにいたっている。 [alliances] アライアンス

戦略的アライアンスやパートナーシップといった企業間の新しい関係は、上で述べた共

同プランニングと関連している。これらの関係には、ベンダー、運送業者、チャネル・メ

ンバーと第三者プロバイダーが関わっている。企業はベンダーの数を減らすと同時に、成

功に必要な費用削減と品質向上を実現するために関連諸企業は協働するが、JIT環境はそのような協働関係を緊密化する傾向がある。このような企業間の関係は、これまで成功する

ことも失敗することもあったが、サプライチェーン・アプローチの下で発展していくこと

だろう。 サプライヤ数削減アプローチは運送業者との取引で次第に多く見られるようになり、

win-winの関係を誘発する傾向を生み出した。荷主は、バランスのとれた大量の積荷を運送業者に規則的に割り当てることによる運賃率引下げ努力の結果として、輸送サービスを提

供する運送業者数を劇的に減らしつつある。このアプローチにより、運送業者は費用をカ

ットすることができ、そのことが次に運賃率/販売価格の引下げにつながる。運送業者は

また、高性能な設備の購入などにより、質の良いサービス(信頼性が高い)を与えること

ができるかもしれない。そうすれば、荷主は在庫等の節約をさらに進めることができる。 c) Supply Chain Objectives サプライチェーンの条件 サプライチェーン統合が成功するかどうかは、三つの条件が満たされるか否かにかかっ

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ているように思われる【8。 ◎ サービス水準に関する最終顧客の要求を認識すること ◎ 在庫をサプライチェーン上のどこに配置するか、各地点でどれだけの在庫をストック

しておくかを決めること ◎ サプライチェーンを単一組織 entityとして管理するために、適切な政策と手順を練り

上げること [customer demand] 顧客の需要

第一の条件は自明のようだが、それは時として経営意思決定に際して忘れられてしまう

ことがある。最終消費者の需要は、チャネルを通して在庫を引き寄せる磁石のようなもの

である。メーカーの成功は、消費者が誰で、何を欲しているかを確認し、次にチャネル全

体を通じて、またその立地を通じて、在庫の流れを調整できるか否かにかかっている。 [inventory] 在庫

第二の条件は、誰もが認めるロジスティクス管理の基本的な原則である。つまり、どこ

にどんな在庫をどれだけの数量配置すれば、消費者を満足させ、かつ費用要件を満たすか

というものである。伝統的な経営慣行は、在庫をサプライヤや卸売業者に押し付けたりす

ることによって、自身の在庫を最小化することであった。サプライチェーン・マネジメン

トの視点に立てば、かかる伝統的概念は製造費用を最適化する反面、流通チャネル費用を

準最適化するものである。これは結局メーカーに悪影響を及ぼす。 [coordination] 協調

第三の条件は、ある種の調整メカニズムが政策と手順の形でサプライチェーンの中で作

用することを示している。この調整メカニズムは、メーカーにおける包括的ロジスティク

ス組織の充実発展やリーダーシップを通して実現され、それがサプライチェーンにおろさ

れる。 上述した効果的なサプライチェーン・マネジメントの特徴とその条件の間には、強い相

互関係ないし相乗作用がある。それにもかかわらず、それらは、控え目に言っても非常に

骨の折れる有効性実現のための目標でもある。すべての事例でかかる包括的アプローチを

とることはできない。次節では、上述のロジスティクス管理の発展をもたらした外生的な

要因について述べる。

ON THE LINE Customized Transportation Inc. Pushes Curve in Integrating Customers' Supply Chains

t t ct8 Novack, "Integra ing Logis ics and Manufa uring."

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BMW 社が 4 億ドルを投資して Spartanburg(サウスカロライナ州北西部)で建設中の新工場(318i セダン)では、青スモックの従業員が組立てラインの所定場所に直接自動車部品を引渡すことになろう。 青スモックの従業員は BMW 社の従業員でなく、ジャクソンビルに本拠を置く CSX社の

3PL子会社(Customized Transportation Inc.= CTI)の従業員である。 CTI社の従業員が直接、白スモックの BMW社従業員が作業する 318i組み立て部署(ラインの)まで部品を運ぶことは、クライアント(BMW社)のサプライチェーン統合が新たなレベルに達したことを示している。日本でこのようなやり方は普通であると言われるけ

れども、この BMW 米国工場は、ロジスティクス・サプライヤが荷受場所(フレートドッ

ク)まで持ち込めば終わるのではなく、さらに組立ラインの現場まで入り込む米国初の工

場の一つである。(Ryder Dedicated Logistics が入っているケンタッキー州スプリングフィールドの Saturn工場は別である。) こうした最終段階への移行は、CTI 社が BMW 社に提供しようとするサービスの完全性

と一致する。 1 日あたりの自動車生産台数を 4 台から 300 台まで増やす初期の段階で、Spartanburg工場は欧州(特にドイツ)からの部品供給に頼ることになろう。CTI 社はそうした部品を追跡し、チャールストン港で物的に管理する。そして同港から Spartanburgの工場まで、自家用トラックと営業トラックのうちコストの安いほうを使って、コンテナ輸送する予定

である。 BMW 社は生産台数を増やしている間に、部品調達先を米国内に移す計画である。CTI社は、他の自動車メーカーに対しても自社サービスの品質を保証する「ミルク」または「ル

ープ」輸送方式を採用する予定である。その方式は、多数のサプライヤからタイトなスケ

ジュールでトラックが部品を集荷し、生産計画に必要な数の部品を必要な時に組立工場に

届ける、というものである。 「自動車産業でうまく機能した概念は現在、他の産業からも受け入れられつつある」と、

William C. Bender 氏は言う。同氏は Ryder/P-I-E向け販売・マーケティング担当の筆頭副部長であったが、CTI社の収入が 200万ドル以下で、社員 20人の中の 1人にすぎなかった 1983 年に社長に就任した。「自動車産業は日本を見習わなければならなかったが、他の産業ではその必要性はそれほど強く感じられなかった。フォーチュン 25にランクされる諸企業は現在、トータル・サプライチェーンの視点から経営を行っている。」

CTI社はその調達ロジスティクスによってわずか 2~3ヵ月間で主たる競合企業2社に対して大きな優位を得た、と設備担当ロジスティクス管理者は言う。 「競合他社は品質に着目した」と、このロジスティクス管理者は言う。「20年勤続の従業員と見習従業員の間でミス発生率の差はほとんどない。」 CTI社は 1日あたりトラック 25台分の貨物を施設に納入する。そのほとんどは隣接諸州発である。同社はトレーラートラック 4台を使って、サプライヤ 170社(まもなく 200社

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まで増加する)に 17種類のループ輸送方式のサービスを提供している。CTI社は現在、工場で使用する部品 1,800 個のトータル在庫管理を行っている。この数は今年後半に 2,500個になる予定である。また工場向け計測器の在庫も管理している。CTI 社は回収可能コンテナへの転換もサポートした。CTI 社の戻り荷として二つの物流センターに完製品を納入できる。CTI社による LTL貨物追跡とバー・コーディングは間近に迫っている。 出所::Jack Burge, "Customized Transportation Inc. Pushes Curves in Integrating Customers," Traffic World no. 7, vol. 238 (May 30, 1994): 21-23. Copyright 1994 by Traffic World. Reprinted with permission of The Journal of Commerce, May 30, 1994.

Ⅱ. 変革をもたらした外生要因 一部の人々は 1980 年代を混乱と変革の 10 年と呼んだ。変革は 1970 年代末に始まり、

1990年代に入っても続いた。こうした変革の背景には共通の外生的な力が作用しており、その力がロジスティクスだけでなく企業の他の領域にも影響した。本節では、変革をもた

らしたこうした力の主要なものについて概略する。 1) Changing Nature of the Marketplace 市場の質的変化 [price and quality] 価格と品質

米国の国内市場は 1980年以降大幅に変わったが、変化の兆しはそれ以前からあった。本質的に言って、その変化は、消費者個々人の製品知識がますます豊富になり、価格と品質

に対する要求水準が高まるとともにおきたにちがいない。製品のブランドにこだわる消費

者はもはやいない。消費者は、ブランド名が必ずしも品質を示すというわけではないこと

を学んだ。ブランド名で売られているというだけの理由で、消費者はより高い価格を払っ

てそれを求めようとしない。今日の市場において、消費者は価格と品質のトレードオフに

敏感に反応する。 [time] 時間

変革をもたらした他の要因は、消費者が時間の浪費に耐えられなくなったこと、および

利便性と柔軟性に対する消費者のニーズが高まったことである。後述するように、ビジネ

スにとって時間はさまざまな観点から重要であるが、それは個々の消費者にとっても同じ

である。消費者は遅延に対してますます寛容ではなくなっている。特に企業の非能率が遅

延を引き起こしていると感じた場合にそうである。 利便性と柔軟性のニーズは時間と密接に関係している。消費者は、多忙なスケジュール

の中で都合の良い時間に、できるだけ迅速に商品・サービスを購入することを望んでいる。

消費者に商品・サービスを提供する人々は、極端な場合1日 24時間、週 7日という営業時

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間の延長よってこうした願望に応えねばならなくなった。利便性の向上を求める消費者の

ニーズはまた、製品の包装方法や入手方法について多くの変革をもたらした。ファースト

フード店と銀行に非常に人気がある「ドライブイン」概念は、その一例である。 消費者市場における変化の多くは米国における人口動態の変化に起因している。離婚家

庭や片親家庭の増加は、消費者の迅速性や利便性、柔軟性に対するこだわりと、例外の対

する不寛容の大きな原因である。 こうした消費者市場の質的変化は、ロジスティクスやサプライチェーンと深く関わって

いる。ロジスティクス・サプライチェーンは、変質した市場環境に囲まれた企業に役立つ

ものでなければならない。実際、消費者の要求は、発注サイクルを短縮し、より便利で柔

軟な納品を実現するというサプライチェーン自身の目標と一致している。サプライチェー

ンの目標その他については後節で述べる。ここでは、「サプライチェーンに着目したロジス

ティクスのニーズは、消費者と直接向かい合うよう企業に発せられた要請によって小さく

なった」と言うだけで十分である。 2) 流通チャネルにおける構造と関係の変化 市場における消費者の質的変化は、商品・サービスの流通チャネルに生じた主要な変化

と密接に関連する。流通チャネルには、その大きさや範囲そして包括性において根底から

変化した。それは、ウォルマート効果あるいはマクドナルド効果と一部で称されている。 [large retailers] 大規模小売業者

新しい大規模小売企業は大型化して「規模の経済」を得ようとしてきただけではなく、

サプライチェーンの変更をあおってきた博学の女衒 procurerである。流通チャネルは長年にわたって反動傾向を示してきた(シアーズのような例外がいくらか常にあったけれども)

一方で、メーカー(生産者)はチャネル・メンバーすべてに共通したニーズを満たす先導

役となって、関連システムを開発した。 [proactive] 革新的

しかしながら、ウォルマート、トイザラス、Target、Kmart、マクドナルドのような新しい小売企業が、逆行に異を唱えるチャネル・メンバーとして出現してきた。彼らは革新

的であり、ロジスティクス・システムのカスタマイズという形の変化を求めた。これらの

大規模小売企業はベンダーに大きな期待を抱いた。メーカーでも、大規模小売企業が総売

上げに重要な役割を果たすことから、それへの売上げを増加させるために、カスタマイズ・

ロジスティクス戦略を展開した。 [logistics efficiency] ロジスティクス効率

この議論がもつ興味深い側面は、効率的なロジスティクスがしばしば大規模小売企業が

成功するための重要な要因になるという点である。彼らが日常的に行っている低価格販売

(12)

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5/11/2004 第 1章:ロジスティクス・サプライチェーン

は、ベンダーのシステムと調和のとれた効率的なロジスティクス・システム如何に左右さ

れることがしばしばある。包装・梱包用材料(ウォルマート、Kmart等)やレストラン(マクドナルド等)の部門で有する大型小売企業のパワーや影響力に、他の産業(例えばヘル

スケアおよび金融業務)も注目している。 [technology] 技術

消費者向け製品流通のもう一つの局面はコンピュータ、テレビ、電話を組合せた新しい

流通チャネルがもつ可能性である。ホーム・ショッピング・ネットワークその他多くの事

例がこの分野で起きはじめている。現在、カタログは電話と繋がった CD-ROM化され、直接発注できるようになりつつある。また、こうしたメニュー選択方式は、食料雑貨をはじ

めとする多くの製品に適用可能である。技術は、21 世紀の流通システムに革命を起こすだろう。 流通チャネルは、1980 年代から 1990 年代にかけてロジスティクス・システムに大きな影響を与えた。それは発注サイクルの短縮や特殊なパレット貨物、直接出荷等々を重視す

るサプライチェーン・システムの形成に大きな役割を果たしたと言って間違いない。 3) 経済と市場のグローバリゼーション 米国企業のグローバリゼーションと、国内外の市場における外国競争者からの競争圧力

は、規模の大小を問わずあらゆる企業に影響を与えた。企業のグローバリゼーションは両

刃の剣であり、競争激化の脅威と利益増大の機会を提供してきた。しかしながら、米国企

業はもはやこれまでのような企業でなく、競争力を維持するために組織構造を見直す(リ

エンジニアリング)とともに、JIT在庫管理や総合品質管理、弾力的製造システムといった外国のビジネス慣行を導入することにより、グローバリゼーションに対応してきたことは、

疑う余地のないところである【9。 [complexity] ロジスティクスの複雑化

グローバリゼーションは、仲介者を広い地域で利用した外国での原料と用品の調達およ

び国際市場での特選販売から、国際的な生産サイトや在庫の多段階化および製品輸出を包

摂する総合的国際製造・マーケティング戦略にいたるまで、あらゆる領域で進展している。

サプライチェーンの調達と販売における国際化の進展は、企業のロジスティクスと輸送要

件に強い影響を与えてきたし、これからも与え続けるであろう。サプライチェーンの範囲

と時間が大きくなるとともに、ロジスティクスと輸送は複雑になる。国内輸送システムと

国際輸送企業を調整しなければならない。 [regional trading] 域内貿易

欧州経済共同体と環太平洋諸国に注目が集まっているけれども、同じく地域経済の統合

を目指す北米自由貿易協定をめぐる最近の動きは、米国とカナダ・メキシコとの域内貿易

t9 Donald Bowersox et al., Leading Edge Logistics: Compe itive Positioning for the 1990s (Oak-brook,

IL: Council of Logistics Management, 1990): 12-19.

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5/11/2004 第 1章:ロジスティクス・サプライチェーン

関係が劇的に変化するであろうことを示唆している【10。実際、対カナダ・メキシコ貿易に

おいてすでに多くの変化が起きている。1995年のペソ危機はメキシコとの貿易に悪影響を与えたものの、地域経済の統合は長期的に見て大きな期待が持てる。 西欧諸国の最終的な経済・金融統合により、世界最大の単一市場圏が出現する。GDPの合計は米国のそれを上回る。統合諸国においては国際的輸送アライアンスの結成が必然に

なるだけでなく、新しい国内流通パターンが生まれることになる。多くの米国輸送企業は

すでに、欧州市場全体をカバーするパートナーシップの確立に向けて積極的に動き出して

いる。 [distribution] 流通

製造と貿易に関する国境の障壁を完全に撤廃するという欧州経済共同体の目標は、構成

国に重大な影響を与える。こうした障壁の完全な撤廃は、西欧における流通と輸送パター

ンにも影響する。現在欧州経済共同体の中で事業展開している企業は通常、販売市場とな

るそれぞれの国で別個に工場と倉庫を持つ必要がある。構成国すべてにおける貿易障壁と

関税の撤廃にともない、米国で使われたものと類似しているが、さらに広域化したアプロ

ーチが可能である。つまり、“国”の数が非常に少なくなるので、企業はそれぞれの国に倉

庫を配置する現在の慣行に代えて、一つの国にだけ効率的な大型倉庫を設け、そこから効

率的な長距離輸送ルートをとって数ヵ国に配給することができるようになる。西欧に劇的

な影響を与えそうなこの地域経済統合は、1980年代における米国の経験とよく似たロジスティクス節約の可能性を生むと言えよう【11。 グローバリゼーションは変化の歩調を速め、1990年代の安定期においても変化し続けるだろう。調達 supplies、製造、組立て、包装、保管の外注と関連した意思決定はグローバルな視点に立って行われ、輸送システムは、これらをすべて結びつけるために重要な役割

を果たすことになろう。国内輸送企業と国際輸送企業のパートナーシップやアライアンス

は、ますます大きな役割を果たすであろう。複合一貫輸送のパートナーシップは、特殊な

契約により国内輸送と国際輸送の両方を提供する。荷主は、グローバルな物流の複雑さを

克服した信頼性の高い適時輸送を期待する。グローバルな物流(運用)の諸問題を解決す

るのに役立つ一つの要因は技術である。次節でこれについて検討する。 4) 技術 [expert systems] エキスパート・システム

日々の業務において、データ処理や情報システムほど技術変化の力がはっきりと目に見

えるところはない。ハードウェアの価格破壊とユーザーに優しい低コストソフトウェアの

r

r

10 L. M. Koestar, "NAFTA: A World Class Opportunity," T ansportation and Distribution Management (February 1992) : 42-44. 11 T. B. Gooley, "Countdown to the New Europe," T affic Management 31, no. 9 (August 1992): 32-34.

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5/11/2004 第 1章:ロジスティクス・サプライチェーン

開発は、ロジスティクス統合プロセスと輸送プロバイダーの非常に効果的な電算化を低コ

ストで実現した。 ロジスティクスに関連する諸業務に対するコンピュータ技術進歩の影響は広い範囲に及

んだ。トラック配送計画とスケジューリングのような複雑な仕事は現在、デスクトップ・

コンピュータの利用により非常に日常的な業務になっている。所定の顧客サービス成果を

実現するのに最適な方法を決めるために、ロジスティクス・システム全体のシミュレーシ

ョン・モデルが開発された。新しい戦略を立案するために、ロジスティクス専門家の知識

をモデルに取り込んでシミュレーションし、その結果を実際のデータとつき合わせること

もできる。このようなエキスパート・システムは、資材調達から完製品の顧客引渡しまで

の状態情報と統制情報の結合を請けあうものであるが、そのための巨大なデータベースの

開発と管理が可能になったのはほんの数年前のことである【12。 [information] 情報

情報伝逹に関する技術革命には特に注目するだけの価値がある。電子データ交換(EDI)とバーコードは物流プロセスを効率的・効果的に管理する上で大きな役割を果たしたが、

ベンダー、顧客、輸送企業のシステムを統合する上ではるかに大きな貢献をした【13。 バーコードをはじめとした現在利用可能なシステムは、ロジスティクス統制の改善(具

体的には在庫管理の効率改善など)を目的としてデータ通信と結合されつつある。衛星通

信の発達にともない、荷主や運送業者は、ロジスティクス・サプライチェーンの中にある

個々の荷物の現在位置と今後の予定を正確に知ることができる。運送業者や倉庫業者、特

別なサービス・プロバイダは、ロジスティクス・インフラの整備を通して、はるかに効果

的な情報・管理システムを導入しつつある【14。 ロジスティクスの他の分野でも技術の進歩が広く見られる。高度なコンベヤー・システ

ムや自動化された保管・検索システムの発展にともない、倉庫とターミナルの自動化は急

速に進んだ。なかでも最も重要な進歩はおそらく、統合システムの構築を目的として高度

な通信技術を取り込んだソフトウェア・パッケージの開発であった【15。我々はいま、ビジ

ネスの方法が技術進歩の結果として革命的に変わろうとする時代の出発点にいる。ビジネ

スの分野でその影響を最も大きく受ける分野は、おそらくロジスティクス・プロセスであ

ろう。(通信)技術は効果的なサプライチェーン・マネジメントのための“膠(glue)”である。 [adoption] 新技術の採用

面白いことに、現行の技術は決して広く採用・利用されているわけではない。EDIのよう

t

t rc s

12 E. Short and V. Traman, "Beyond Business Process Redesign," Sloan Management Review 34, no. 1 (Fall 1992): 7-21. 13 Short and Traman, "Beyond Business Process Redesign." 14 R. Bowman, "A Computerized Route to Better Distribution," Dis ribution 91, no. 5 (June 1992): 28-35. 15 R. L. Cook, "Expert Systems in Purchasing," Interna ional Journal of Pu ha ing and MaterialsManagement (Fall 1992) : 20-27.

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5/11/2004 第 1章:ロジスティクス・サプライチェーン

な技術でさえも、主要企業のサプライチェーンに完全な形で導入されていない【16。利用可

能な技術がもつ利点を十分に生かしきれない運送業者についても同じことが言える。利用

できる技術を有効活用しない運送業者は、これからの事業に失敗するであろう。 時々見のがしてしまう技術の興味深い側面は、技術が規模の経済を生み出すということ

である。これは以前には考えつかなかった点である。Schneiderや J.B.ハントのような大規模運送企業は、純粋競争ないし完全競争の市場モデルと類似した市場で事業を拡張するこ

とができた。そのような市場では規模の経済が働かないために、一企業が他の多くの競争

企業より大きくなることができない。J.B.ハントや Schneiderは、業務を効率化するために技術の力を利用した企業の例である。技術の力は効率と効果の前提であり、それらは範囲

と規模における事業拡張を可能とする。 5) 政府の政策と規制緩和 変革をもたらした更なる外生要因は規制緩和と政策の変更であった。これらは、1980年以降の米国輸送システムにおけるバーチャル革命を刺激し、功罪混ざり合った多くの基本

的変革を誘発した。全体としてみると、1980年以降多くの荷主にとって輸送サービスの費用は低下し、品質は向上したと言ってもおそらく間違いない。規制緩和は、航空貨物輸送

分野で 1977 年に始まり、翌年には航空旅客輸送分野に拡大した。1980 年になると鉄道運送業者とトラック運送業者も規制緩和された。それは大きな政治的偉業であった。 [economic regulation] 経済的規制

航空貨物、航空旅客、鉄道、トラックという 4 つの事例すべてにおいて、経済的規制は徹底的に縮小された。輸送企業は市場の動向にすばやく反応して価格とサービスを調節す

ることができるようになった点で、他の事業とよく似てきた。1980年以前の非常に複雑な官僚主義的規制システムは、価格とサービスをわずかに変更する場合でさえも、入念なヒ

アリングを必要とした【17。 経済的規制が大幅に撤廃された反面、安全と環境のような他の部面の規制や統制は逆に

強化された。例えば危険物の輸送など、安全と環境に関連した連邦・州の統制は範囲が拡

張され、より複雑になった。 [reverse logistics systems] リバース・ロジスティクス・システム

混雑と環境汚染に対する関心の高まりによって、プーリングと有料化を含む市街地の交

通量を管理する方法の研究が増加した。廃棄物の削減とリサイクルの促進にも多くの注意

が払われるようになった。メーカーの間では、リサイクルや廃棄物管理を支援するリバー

r

16 M. Magnet, "Winners in the Information Revolution," Fortune 126, no. 12 (November 30, 1992): 110-117. 17 Donald V. Harper, "The Federal Motor Carrier Act of 1980: Review and Analysis," T ansportation Journal (Winter 1981 ) : 30-33.

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ス・ロジスティクス・システムに対する関心が強まってきた。総じて見れば、ロジスティ

クス・システムのデザインと運用に影響する安全・環境関連法と政策は将来もっと多くな

るはずである。 [changes] 変化

規制緩和がもたらした変化の全てをまとめることは、事実上不可能である。一車積み(TL)トラック運送業者のようないくつかのケースで、運送業者の数は大幅に増加した。その反

面、航空会社のような事例では運送業者の数が減少したり、鉄道や積み合わせトラック

(LTL)のように市場集中度が高まったりした。一般運送、契約運送、自家運送の区別ははっきりしなくなった。運送業者は、サービスと価格形成の包括的な戦略のもとで多様性を

増したサービスを提供する。運送業者は 1980年以降劇的に変化し、そのスピードは加速している。通信と金融の分野における規制緩和が、ロジスティクスと輸送に影響を及ぼした

ことにも注目すべきである。技術および関連分野で起きている変化を考えれば、規制緩和

は将来もなおサプライチェーンに影響し続けることだろう。 変革をもたらした要因は他にもあるが、本節で言及した五つの要因がロジスティクスの

日常業務を形成し、1980 年代と 1990 年代にロジスティクスにおけるサプライチェーン化を促した主な駆動力であった。これらの要因は、21 世紀に向けて、ロジスティクス・サプライチェーンの発展に貢献し続けることであろう。 次節では、ロジスティクス組織とサプライチェーンの中で生じた変化のいくつかを簡潔

に述べ、サプライチェーンの発展動学を追加的に洞察する。後の章でこうした変化と戦略

についてさらに詳しく検討する。

Ⅲ.サプライチェーンにおける戦略的変化 米国企業はこの 20年間多くの難問と脅威に直面してきた。企業の一部は革新的な方法で新しい環境に対応しようとはせず、財務面で重大な結果を招くことになった。他方、成功

した企業はより競争的なグローバル環境にさまざまな方法で対応した。 1) スピードと時間

[products] 製品

ほとんどの企業は、時間が市場競争の勝敗を左右する戦略変数であることに気づいた。

最初のうちは、既存製品ラインの新型モデルやまったく新しい製品を導入する場合、リー

ド・タイム短縮という目標のもとで、製品のデザインと製造に着目した。例えば、日本の

自動車産業はデザインと製造を柔軟にする戦略が有利であることを実証し、新型モデルを

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5/11/2004 第 1章:ロジスティクス・サプライチェーン

導入するためのリード・タイムを 50%以上短縮した。米国自動車産業が復活した理由も一つには、日本の場合と同じく、設計時間の短縮と製造の弾力化ということがあった。 [logistics] ロジスティクス

時間短縮を重視する動きは他の領域、特にロジスティクス・サプライチェーン全体にま

で広がった。在庫水準の引下げ、JIT、資材必要量計画と配給必要量計画、在庫の日常業務を重視する現在の姿勢が続く限り、物流パイプラインが QR のニーズに対応できるだけの能力を備える上で、ロジスティクスはますます重要な役割を担うことになろう。時間は競

争優位の主たる源泉として認識されるようになった。発注から納品までのリード・タイム

の短縮は顧客の在庫量と保管費用を削減し、サプライチェーンがもつ付加価値を高める。

迅速で信頼性の高い納品スケジュールを消化する上で、運送業者は主たる役割を果たす。

航空会社にとって、在庫縮小とリード・タイム短縮という荷主のニーズに応えることは、

トラック運送業者との競争に勝利して、輸送量を増やす良い機会でもある。フェデックス

と UPSが一部製品の輸送市場において競争力をもっていることは、既に実証済である。そのような市場は、リード・タイム短縮の影響がサプライチェーン全体の費用削減に浸透す

ることから、企業がサプライチェーンのリード(サイクル)・タイム短縮、ひいては費用削

減/価値追加を求めている市場領域である。 需要が顕在化する前に製品を生産し、倉庫に保管しておく伝統的なプッシュ型システム

からその対立概念であるプル型物流システムへの移行は、サイクル・タイムの改善と密接

に関係する。伝統的な方法は長い生産継続期間と単位費用の引下げを可能にするが、その

一方で在庫費用を大幅に増大させる。現在、QR型製造方式と発注後の(製造)対応が可能なロジスティクス・システムに、大きな関心が集まっている。 2) Quality 品質 [total quality management (TQM)] 総合品質管理

リード・タイムの短縮とともに、製造部門を含む企業の全領域で品質を重視する意義深

い流れがあった。最も重要なのは顧客が知覚する品質であるという理由から、ロジスティ

クス・パイプラインは総合品質管理(TQM)プログラムの大きな焦点になった。輸送のような顧客とじかに接するサービス分野の重要性が認識されるにともなって、この分野に対

する注目度も高まってきた。首尾一貫したサービス水準を求める輸送サービス購入者の期

待はますます高まってきた【18。 時間短縮と品質向上への期待が相乗的に作用する結果、集荷・配達サービスを提供する

運送業者は、ますます狭い“窓”(例えば 30~60 分)に対応せざるをえなくなった。フェデックス、UPS、RPS、CTI 等の輸送企業が重要度を増してきたのは、それら企業がこうした結合傾向にうまく対応できていること示している。しかし、ロジスティクス・システ

ムのあらゆる局面で、適時・高品質・高感度サービスを求める需要者サイドの圧力が感じ

t18 E. S. Muller, "Climb Aboard the Quality Express," Dis ribution 91, no. 2 (February 1992): 34-37.

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5/11/2004 第 1章:ロジスティクス・サプライチェーン

られる。輸送企業は、費用を削減し品質を改善するために、品質ニーズの観点からその内

部システムを分析し、ロジスティクス・サービスのシェア拡大を目指す 3PL企業に転換しつつある。品質を重視するには、連続的な精査と改善の継続的な約束が必要である。顧客

が受け取る品質重視の報酬は費用削減と付加価値増加の形を取る。 3) Asset Productivity 資産の生産性 [inventory] 在庫

1990年代に安定した繁栄を維持するためにロジスティクス・サプライチェーンの形成を推進したもう一つの要因は、資産の生産性に対する関心が荷主の間で高まったことである。

前述したように、資産の生産性を改善するために当初注目したのは、在庫水準の引下げと

在庫回転率の引上げであった。在庫投資は1~2を争うほど大きい流動資産であることが

しばしば見られることから、在庫水準の引下げが費用を大幅に引下げ資本報酬を改善でき

ると判断して、一部の米国企業は在庫費用縮減のために大きな努力を払うこととなった。 [facilities] 施設

在庫縮小や営業倉庫の利用促進を通して自家用倉庫の必要性の小さくしようとする現実

の流れに沿って、倉庫のような固定施設への投資も再検討された。これと同じ発想から、

特に都市間輸送に関して、多くの大企業は自家用トラックを厳格に再評価し、その結果と

して自家用トラックの利用を縮小した【19。 [distribution pipeline] 物流パイプライン

資産の生産性を向上させようとする動きは、内部の在庫だけでなく、パイプライン(サ

プライチェーン)の中にある在庫の削減にも及んだ。ベンダーと買い手はデータを共有し

て、物流パイプライン全体の在庫縮小を共同で手がけることにした。プロクター・アンド・

ギャンブル社とウォルマート社によるこの種の取り組みは業界紙から大きく注目されたが、

この種の取り組みはその他にも多くの事例がある【20。ベンダーと顧客のこうした関係にお

いて、高速で、対応が早く、弾力的な輸送は欠くことのできない要素である。 4) 組織のリエンジニアリング [third parties] サードパーティー

米国企業にはもう一つ、日常業務活動transactional activitiesを最小化し、付加価値活動を重視することを目標として、内部プロセスを評価・再検討する流れが見られた。こうし

たリエンジニアリングの目的は多くの企業において中間管理業務の縮小であった。中間管

i

t19 T. A. Foster, "Service is King for Private Fleets," Distribut on 91, no. 7 (July 1992): 68-72. 20 S. Sherman, "Vendor Patronizing Pays Off for Pillsbury," Modern Ma erials Handling 47, no. 9 (May 1992): 47-49.

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理層をスリム化した後、付加価値を生む中核活動に資源を集中投入するために、物流活動

をアウトソーシングする動きが企業にあらわれた。契約に基づいて一定範囲の流通/ロジ

スティクス・サービスを提供する 3PL企業の出現とその後の発展はこうした流れの結果である。輸送(都市間輸送とカーテージ*)、在庫管理、保管、発注処理、請求書作成等々を

含む一連のロジスティクス・サービスを提案する 3PL企業を設立する運送企業が多くなった。上述したフロリダ州ジャクソンビルのCustomized Transportation (CTI)社のように、例えば自動車産業といった特定のニッチに入り込もうとする運送企業がある一方で、広い

利用者層にサービスを提案するサードパーティ組織を設立する運送企業もある。 *訳者注 cartage=現地での商品輸送のこと。またはカートや荷車、トラックなどによる貨物運送 [carrier reduction] 運送企業の削減

組織関係の質的変化はロジスティクス・サプライチェーンにとって非常に重要である。

そのもう一つの特徴は荷主による運送企業を削減である。これは規制緩和の自然の帰結で

あり、長期、大量、ベンダーの品質保証に依拠した買い手と売り手の win-win の関係を重視する JIT の考え方とも結びついている。荷主が個々に利用する運送企業の削減幅は極めて大がかりで、1,000社以上から 100社以下に削減したケースもあった。win-winの関係はパートナーシップ(P & Gやウォルマートの関係と類似した)である。荷主と運送企業は情報を共有し、win-winの原則に則って運賃を引き下げ、運送企業の効率を向上させる。 5) Customer Satisfaction 顧客満足 [measures of service levels] サービス水準の計測

ロジスティクス・サプライチェーンへの傾斜に影響を与えたもう一つの要因は、ほとん

どの企業が顧客サービス(顧客満足)を重視するようになったことである。サービス水準

の度合いを測る尺度が成果を評価する場合に重要であることは、ずっと以前から知られて

いた。伝統的な尺度は発注納品サイクルの長さ、出荷時間、完全な形で出荷された発注の

割合等々であった。現在、顧客重視の姿勢を示唆するサービス水準尺度が多く用いられる

ようになった。例えば、最優良企業は、指定時間通りに納品された発注の割合、損失や損

傷なく完全に受領された発注の割合、貨物送り状に正確に記載された発注の割合等々の尺

度を利用している。顧客サービス重視がもたらす一つの結果は、輸送サービスにより多く

の注意が払われ、それを提供する輸送企業を顧客サービスを向上させるためのパートナー

と見なすようになったことである。こうした win-win の関係を築く前提として、荷主企業と運送企業のデータ共有がしばしば必要であった。 [value] 価値

顧客満足重視がもつもう一つの局面は超優良企業の顧客サービス水準に見られる。そこ

では、顧客の特殊なニーズに対して柔軟に対応することができる従業員を通した信頼性の

確保は、基本的な必要条件と見なされる。従業員は創造的に行動して、顧客の純利益に好

ましい影響を与える付加価値を高めるよう奨励される。ロジスティクスはこの新しい顧客

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5/11/2004 第 1章:ロジスティクス・サプライチェーン

サービスの時代に重要な役割を果たすことができるし、そうするであろう。成功する企業

は、高品質の安定したサービスを求める顧客のニーズを敏感に受け止め、カスタマイズし

たサービスを提案することができる企業である。これらの企業はその結果として市場にお

ける競争優位を確保することができる。

まとめ ◎ SCMを導入する企業は次第に多くなってきた。その背景には、SCMが大きな費用節約と価値追加の可能性を顧客に保証していることがある。

◎ サプライチェーンの考え方は、物的流通管理と統合ロジスティクス管理の考え方を論理的に拡張したものである。

◎ 第一の段階である物的流通が着目されたのは、製品ラインの拡張、価格の上昇、高価品の生産という米国経済における流れの自然の成り行きであった。

◎ 第二段階のロジスティクス管理は、輸送活動の規制緩和、グローバル競争、外国の供給源への依存性の増大、不振の経済という新しい流れから生まれた。

◎ SCMは、米国経済におけるいくつかの重要な経済・社会的要因によっても形成された:消費者市場の変化、流通チャネルの強化、技術進歩、グローバルビジネス戦略、政府の

経済政策と規制緩和。 ◎ サプライチェーンには種々の定義がなされているが、その本質は、原材料の連続した流れと、ベンダーから最終顧客にいたるまでの関連諸活動の統合的管理にある。

◎ サプライチェーンを効果的に管理するためには、ある種の重要な特性が必要である;在庫のパイプライン調整と継ぎ目のない流れ、顧客に対する到着費用への焦点、情報とリ

スクの共有、サプライチェーン・チームによるプランニングと、強いパートナーシップ

ないしアライアンス。 ◎ サプライチェーンをうまく機能させるには通常、発注サイクル期間の短縮、品質管理、資産生産性の引き上げ、新しい組織アプローチ、顧客満足の重視を含む重要な戦略がと

もなっていなければならない。

研究のための設問 1). 企業は何故、サプライチェーンの視点からロジスティクスを管理することに強く着目

するようになったか?

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5/11/2004 第 1章:ロジスティクス・サプライチェーン

2). サプライチェーン概念は本当に新しいアイデアでない。あなたはこの意見に同意するかしないか?それはどのような理由からか?

3). 企業が物流管理の改善に乗り出すようになった要因は何か。 4). 企業が物的流通から統合化ロジスティクスへと視野を広げるようになった要因は何

か? 5). 本章で言及したサプライチェーンの諸定義を比較しなさい。 6). 伝統的なロジスティクス・システムの重要な特徴をサプライチェーン・ロジスティク

スのそれと比較しなさい。 7). 消費者市場と流通チャネルの変化はいずれも、ロジスティクス・サプライチェーンに

影響を与えた。ロジスティクス・サプライチェーンへの影響に関して、これらの二つ

の要因はどのような点で似ているか?どんな点で異なっているか? 8). 技術の発展はロジスティクスにどのような影響を与えたか? 9). 一部の人々は、グローバリゼーションが SCMを推進させた最も重要な要因であったと

主張する。あなたはこの主張に同意するか?その理由はなにか? 10). SCM概念に対応するために、企業はどのように変化したか?

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