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1 The Research of Incubation Center in Silicon Valley Intern, Sunbridge Global Inc. Naoya Muto Dec 3 / 2012

The Research of Incubation Center in Silicon Valley

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The Research of Incubation Center in Silicon Valley

Intern, Sunbridge Global Inc.

Naoya Muto Dec 3 / 2012

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- 概要 インキュベーションとは日本語に訳すと「孵化」を意味する言葉であるが、そ

こから転じて「起業支援」や「起業家育成」という意味で、スタートアップ界

隈で近年よく使われている。アメリカカリフォルニア州のシリコンバレーには、

そのようなスタートアップのビジネスを加速させるための「場」が数多く存在

しており、これらがシリコンバレーの人的生態系サイクルである「エコシステ

ム」において、非常に重要な役割の一つを担っている。今回のレポートではま

ず、アメリカ及びシリコンバレーにおけるベンチャーキャピタル投資市場につ

いての考察を行う。その後シリコンバレーに存在するインキュベーションセン

ターについて、実際に担当者にインタビューを行った結果を基に、各施設の有

する機能やそのビジネスモデルを比較しながら纏めていく。またそのリサーチ

結果を踏まえ、インキュベーションビジネスのトレンド及び今後の可能性につ

いても検討していく。 - キーワード シリコンバレー、インキュベーション、ベンチャーキャピタル、アクセラレー

ター、コワーキングスペース - 調査期間:10/22/2012 – 11/30/2012 - 調査対象 ・ Y combinator ・ 500 Startups ・ RocketSpace ・ InnoSpring ・ Plug and Play Tech

Center ・ nestGSV

・ Hub Ventures ・ I/O Ventures ・ KickLabs ・ Angelpad ・ Startup Monthly ・ Sandbox Suites ・ Hatchery

・ WeWork ・ NextSpace ・ Parisoma ・ Hub Bayarea ・ Citizenspace ・ Founders Den

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1. 米国及びシリコンバレーにおけるベンチャーキャピタル市場の動向 まず、アメリカ国内におけるベンチャーキャピタル市場について見てみる。

PricewaterhouseCoopers/National Venture Capital Association MoneyTree Report(以下MoneyTree Report)によると、 2011年における米国内のベンチャーキャピタルの投資総額は約 294 億ドルであった。リーマン・ショックの影響で 2009年は約 197億ドルまで落ち込んだものの、段々と復調の兆しを見せている。これは日本の 2011年度の数値と比較すると、約 19倍に相当する。また、投資件数に目を向けると 2011年における米国内の投資件数は 3906件で、これは日本の約 4倍に相当する。そのうち、2011年におけるシリコンバレーの投資額、投資件数の割合について見てみると、前者は約 40.9%、後者は約 31.5%であり、また過去5年間の推移を見てみても、この割合にそこまで変化はない。

このことからもシリコンバレーでのベンチャー投資は依然として盛んであるか

が見て取れる。(図表 1,2参照) 【図表 1】米国ベンチャーキャピタル投資の推移とシリコンバレーの割合(投資額)1

1 National Venture Capital Association、PricewaterhouseCoopers社、Tomson Reuters社のデータを基に作成。

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【図表 2】米国ベンチャーキャピタル投資の推移とシリコンバレーの割合(投資件数)2

次に、IT分野3におけるベンチャーキャピタルの投資額を Silicon Valley、New England、NY Metro、Los Angeles/Orange Countryの計4つの地域で比較してみる。(図表 3参照) 2011年におけるシリコンバレーの IT産業における投資額は約 57.3億ドルで、New Englandの約 9.1億ドル、NY metroの約 15.1億ドル、Los Angeles/Orange Countryの約 3.6億ドルと比べても圧倒的に多いのが見て取れる。これは全米のベンチャーキャピタル投資総額のうち、約2割が

シリコンバレーの IT 産業に投入されていることを意味する。また、2012 年度第三四半期における MoneyTree Report の「Largest U.S. Venture Capital Investments」によると、Top10 のうち、シリコンバレーの企業が 4 つを占めている。(図表 4 参照) モバイル決済サービスを提供している Square や、ソフトウェアデベロッパー向けにWebベースのホスティングサービスを提供している GitHubはどちらも San Franciscoから生まれた企業である。昨今、ニューヨークの「シリコンアレー」、ロサンゼルスの「シリコンビーチ」、ボストンの

2 National Venture Capital Association、PricewaterhouseCoopers社、Tomson Reuters社のデータを基に作成。 3 MoneyTree Reportの Industryのうち、Software、IT Services、Media&Entertainmentの合計。

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「ルート 128」等、シリコンバレー以外のハイテク集積エリアが注目されてきているが、やはり IT分野におけるシリコンバレーのプレゼンスは依然として高いと言える。 【図表 3】IT分野における投資額の推移と比較4

【図表 4】Q3 2012における Top Deal Ranking5

4 National Venture Capital Association、PricewaterhouseCoopers社、Tomson Reuters社のデータを基に作成 5 National Venture Capital Association、PricewaterhouseCoopers社、Tomson Reuters社のデータを基に作成

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次に、これらの投資金額が会社の成長段階のうち、どの段階で投入されている

のかを投資件数・投資額でそれぞれ比較していく。(図表 5、6参照) 投資件数ベースで見てみると、主に 2つのことがわかる。まず、Expansionと Later Stageにおける投資件数の割合が年々減少し、逆に Early Stage への投資件数の割合が年々増加しているのが見て取れる。2008 年では、全投資件数のうち、Expansionと Later Stageに占める割合は約 60%と高いものであったが、2012年では約 49%と半分以下に減少している。一方で 2008年における Early Stageに占める割合は約 27%であったが、2009年は約 30%、2010年は約 35%、2011年は約 39%、2012年は約 43%と右肩上がりで増えている。そしてもう一つは、Seed Stage における割合はそこまで変わっていないということである。2012年こそ約 7%の割合に減少したものの、他の 4年間では約 11-12%の割合で落ち着いている。 【図表 5】スタートアップの段階における投資割合の推移(投資件数)6

次に、これを投資金額ベースで見てみると、明らかに Seed Stageにおける投資金額の割合が 2011 年から減っているのがわかる。2008 年ではその割合は約6.4%であったが、2011 年では約 3.6%まで減少している。また、投資件数と同

6 National Venture Capital Association、PricewaterhouseCoopers社、Tomson Reuters社のデータを基に作成。

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様、投資金額ベースで見てみても Early Stage の割合が増えてきていることがわかる。2008年には約 18.9%であった割合が 2011年、2012年では約 29.2%まで増えている。注目したいのは、投資件数ベースでは Seed Stageの投資件数の割合にそこまで変化がないのに対し、投資金額ベースで考えるとその割合が減

少しているということである。これはつまり、Seed Stageのスタートアップ 1社に投資する金額が 5 年前と比べて相対的に減少しているということを意味する。そして、その減少した分の金額が総じて Early Stage にうまく配分されていく仕組みが出来上がっている。この仕組みづくりを担っているのがまさにイ

ンキュベーションセンターであり、その中でも後述する Startup Acceleratorの存在が以前にも増してますます高まってきている。 【図表 6】スタートアップの段階における投資割合の推移(投資金額)7

2. 今年誕生したインキュベーションセンター 次に、2012年に設立されたインキュベーションセンターについて見ていく。今回の調査対象の中では、InnoSpring、Startup Monthly、nestGSVの三つが該当する。InnoSpringは Santa Claraに拠点を構えるインキュベーションセンタ

7 National Venture Capital Association、PricewaterhouseCoopers社、Tomson Reuters社のデータを基に作成。

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ーであり、Tsinghua University Science Park(TusPark)8、Shui On Group9、

Northern Light Venture Capital10、Silicon Valley Bank(SVB)11とのジョイン

トプロジェクトとして 2012年 4月に設立された。InnoSpringの特徴として、シリコンバレーに進出したいと考えている中国のスタートアップまたは中国マ

ーケットでビジネス展開をしようとしているアメリカのスタートアップを対象

としている点が挙げられる。2つ目の Startup Monthly は San Francisco、Redwood Cityを中心に活動しており、シリコンバレー以外でも東海岸のボストンでも展開されている。またアメリカ以外では、イスラエルやロシア、バルト

諸国においても同様のビジネスを展開しているのが新しい。また、同社はプロ

グラムの多様性にも注目したい。年に 3回 2ヶ月間の「Startup Accelerator」というプログラムの他にも「Startup Elevator」という 1週間という短い期間でのプログラムも提供している。nestGSV については後述するのでここでは割愛させて頂く。 3. ビジネスモデルによるカテゴライズ さて、インキュベーションセンターという言葉が持つ意味合いについては諸説

あり、一概にその言葉を定義づけることは難しいが、今回のレポートにおいて

はインキュベーションセンターを次のように定義する。「インキュベーションセ

ンターとは、複数のスタートアップを一つの空間に集め、それらのビジネスを

成長させる何らかの仕組みやサービスを提供している施設の総称である。」この

ように定義した上で、調査対象としたインキュベーションセンターをそのビジ

ネスモデルの違いから以下の三種類にカテゴライズしていく。 - Office Incubator Office Incubatorとは、入居したいテナントに対してオフィススペースをリースし、その賃料によって収益を得るビジネスモデルである。今回の調査対象の中

では、Plug and Play Tech Center12(以下 PnP)、nestGSV13が該当する。PnP

8 http://www.tuspark.com/Index_En.aspx 9 http://www.shuion.com/eng/index.asp 10 http://www.nlightvc.com/en/ 11 http://www.svb.com/ 12 http://www.plugandplaytechcenter.com/ 13 http://www.nestgsv.com/

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は 2006 年に設立されたシリコンバレー最大規模のインキュベーションセンターであり、2012年現在、世界各国から約 300社のスタートアップが入居している。nestGSVは PnPの社員がスピンアウトして設立したインキュベーションセンターで、設立年も 2012年と新しい。2012年 11月現在、約 45社程度のスタートアップが入居している。PnP はオフィススペースがパーテーションで区切られていたが、nestGSVは PnPと比べてオープンスペースが多いのが特徴として挙げられる。これにより、テナント同士のインタラクティブなコミュニケー

ションを促進させる狙いがある。しかし、元 PnPの社員によって作られたこともあり、持っている機能や提供しているサービス等で共通している部分も多い。 - Startup Accelerator Startup Acceleratorとはシード期やアーリーステージのスタートアップに投資し、短期間(3-4ヶ月)のプログラムを提供することによって文字通りビジネスをアクセラレートしていくもので、今回の調査対象の中では、Y combinator14、

500 Startups15、Angelpad16、Kicklabs17、Innospring18、Startup Monthly19、

Hub Ventures20が当てはまる。ビジネスモデルは、投資企業を Exitさせることによるキャピタルゲインの回収である。中でも 2006年にベンチャーキャピタリストの Paul Grahamによって創立された Y combinatorは Acceleratorの草分け的存在であり、Forbesの「Top Startup Incubators And Accelerators」で全米 1位にランキングされている。21また、同ランキングにおいて、Top10にランクインしているAcceleratorのうち実に4つがシリコンバレーから選出されている。(図表 7 参照) 詳しくは後述するが、インキュベーションセンターの中でもこの Acceleratorのモデルが昨今のトレンドになってきている。 14 http://ycombinator.com/ 15 http://500.co/ 16 http://angelpad.org/ 17 http://www.kicklabs.com/ 18 http://www.innospring.net/ 19 http://www.startupmonthly.org/ 20 http://hub-ventures.com/ 21 http://www.forbes.com/sites/tomiogeron/2012/04/30/top-tech-incubators-as-ranked-by-forbes-y-combinator-tops-with-7-billion-in-value/

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【図表 7】Top U.S. Startup Incubators and Accelerators

- Co-working Space Co-working Space のビジネスモデルはメンバーシップ制による会員フィーである。Office Incubatorがオフィススペースをリースするのに対し、Co-working Space は基本的に共有スペースを利用できる権利を付与する、といった違いがある。今回の調査対象の中では、RocketSpace22、Sandbox Suite23、WeWork24、

Hatchery25、Nextspace26、Citizenspace27、pariSoma28、Hub SF29、Founders Den30が該当する。元々Co-working Spaceは入居企業をインキュベートしていくというよりはむしろ、よりよい空間・コミュニティ作りにフォーカスしてい

る傾向が強かった。しかし、頻繁に行われるネットワーキングイベントやピッ

チコンテスト等、スタートアップを成長させる機能を持っていると言えるので、

先ほど述べたインキュベーションの定義には当てはまる。また、昨今では、従

来の Co-working Spaceとしてのビジネスだけでなく、Co-working Spaceという形態を取りながらも一方で Accelerator としての機能を有する施設が誕生し

22 http://www.rocket-space.com/ 23 http://sandboxsuites.com/ 24 http://wework.com/ 25 http://www.hatcherysf.com/ 26 http://nextspace.us/ 27 http://citizenspace.us/ 28 http://www.parisoma.com/ 29 http://bayarea.the-hub.net/ 30 http://www.foundersden.com/

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てきている。(今回の調査対象の中では Hub Ventures、WeWork Labs、RocketSpaceが該当)。上記の理由から、今回のレポートにおいては、広義の意味で Co-working Spaceもインキュベーションセンターの一つとして捉える。 4. 三つのモデル間の比較と考察 さて、次にこれら三つのモデルを比較していく。ビジネスモデルで言えば Office Incubator、Co-working Space は賃料もしくは会員フィーによる収益を上げる「ストック型」のビジネス、Startup Acceleratorは投資先企業の Exitによるリターンによって収益を上げる「フロー型」のビジネスに分類できる。このビジ

ネスモデルの違いが、インキュベーションセンターの有する機能やサービス、

さらには運営側の姿勢に違いを生むと考えられる。まず、対象企業のスクリー

ニングという観点で言えば、一般にストック型ビジネスの場合緩く、フロー型

のビジネスの場合は厳しくなる傾向がある。これは、前者の場合の基本的な収

益源が賃料あるいは会員フィーである以上、収益を最大化する為にはできるだ

け多くのテナントに入居してもらう必要があるからである。実際 PnP では約300 社、Hub SF では 700 名以上もの会員を抱えており、テナントを増やすことがそのまま収益の増加に繋がる。また、上記の理由から Office Incubator、Co-working Spaceは業種をそこまで限定していない。PnPは、iPhone Appから Clean Tech、biotech 等様々な業種のスタートアップが入居しているし、ほとんどの Co-working Spaceはスタートアップだけでなく、フリーランスや個人コンサルタント等も受け入れている。逆にフロー型ビジネスである Startup Acceleratorの場合、収益を最大化する為には投資先企業の企業価値を高め、Exitによるキャピタルゲインを最大化しなければならない。その為、基本的にター

ゲットを Tech系のスタートアップに限定するとともに、プログラムへの参加を希望するスタートアップに対して事前審査を通して厳しいスクリーニングを行

う。また、運営側自身がスタートアップに深くコミットできるように参加企業

の数自体も絞る。Y combinator は受入企業の数も多く 2012 Summer では 82社が採択されていたが、500 Startupsは平均して 20〜30社、Kicklabsは約 10社と Accelerator同士で異なっている。(図表 8参照) また、Accelerator同士が競合になる場合ももちろんあるが、Acceleratorの垣根を超えた協業も盛んに行われている。例えば、Kicklabsは Y combinatorや 500 Startupsの卒業生を投資対象としている。また、500 Startupsは自らのプログラム採択企業に投資す

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るだけでなく、他の Acceleratorプログラム卒業企業に VCとして投資も行なっている。実際に、同社の約 300社のポートフォリオのうち、およそ 50社が他のAccelerator出身企業で、そのうち約 35社が Y combinator出身である。 【図表 8】Accelerator毎のプログラム受入数

また、スクリーニングの違いだけでなく入居後のサポートに関してもストック

型、フロー型で大きく異なる。前者の場合、入居しているスタートアップの数

が多く規模も大きいので、運営側もテナントに対してそこまで深くコミットで

きない。逆に後者の場合は、メンターからのサポートを始め、プログラム参加

者同士のディナー会や専門家を呼んでのトークセッション、VCとのネットワーキングイベント等が最低でも週に 1 回開催される。プログラムはいわば学校のクラスのようなもので、参加を許されたスタートアップは手厚いサービスを享

受することができる。以上のことを考慮すると、スタートアップにとってはや

はりプロジェクトベースの Acceleratorの方が向いていると言える。スタートアップ側も Accelerator プログラムに参加することのメリットを当然理解しており、Y combinatorのプログラムでは約 60-80の枠に対して約 3600社からの応募があったという。また、New Yorkや Boston等で活躍している Acceleratorの TechStarsにおいても、プログラムに参加するためには実に 100倍以上の高倍率を通過しなければならない。このような厳しいスクリーニングをパスする

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のは当然ながら相当難しいが、Acceleratorがスタートアップにとって自身のビジネスをスケールさせられる近道であることは間違いない。ただ、先にも述べ

た通り Office Incubator、Co-working Spaceにおいてもイベントは頻繁に行われるので、他のスタートアップとビジネスにおける協力関係が生まれやすいし、

VCとのネットワーキングも作れることは再度断っておく。 以上が三つのモデル間による比較と考察である。 5. インキュベーションセンターのトレンドと今後の展望 今までの考察結果を踏まえ、インキュベーションセンターのトレンドと今後の

可能性について考えていく。先にも少し述べたが、昨今のインキュベーション

センターのトレンドは「Accelerator」である。先ほど示した Forbesのランキングがそれをうまく反映していると言える。というのも、ランキングの順位が主

に Acceleratorの投資先企業の価値、つまり Exitした場合はその金額、そうでない場合はその会社の現在価値に基づいて決められているからである。もちろ

ん他の要素も考慮に入れられているとはいえ、基本的には Acceleratorの投資先企業がどれくらいファンドレイジングを行ったのか、その比率はどれくらいか、

Exit の比率はどれくらいか等、定量的な会社の価値によってのみ決められている。つまり極端なことを言えば、一番重要なのはどれだけ価値のある企業を輩

出したのかということで、これによってインキュベーターの力量が決まるとい

ってよい。そしてここでいう「価値」とは基本的に定量的な数値によって測ら

れる。実際、Forbes のランキングは Incubator と Accelerator のランキングであったが、Top10にランキングされている企業は全て Acceleratorが占めていた。これは判断基準が上記のものである以上、実際にスタートアップに投資を行な

っていないOffice IncubatorやCo-working Spaceにとってはその定量的な指標が見えづらいことに由来すると考えられる。その為、最近では実際に Office Incubator や Co-working Space としてのビジネス形態を取りながら、同時にAcceleratorとしてのプログラムを提供する動きも見られている。例えば、PnPは既存のオフィスレンタルベースのインキュベーションビジネスの他に、

「Startup Camp31」というアメリカ大学生向けの 10 週間のプログラムを行なっている。対象大学は Harvard や MIT、Stanford といった名門大学で、ワー

31 http://www.plugandplaystartupcamp.com/

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クショップや PnPが抱えるメンターからのコーチング等を受けながら、ビジネスプランのブラッシュアップやプロトタイプの作成を行っていくものである。

また、NY発祥の Co-working SpaceであるWeWorkもシードステージの Tech系スタートアップに限定した「WeWork Labs32」というプログラムを 2011 年から提供し始めている。また、自身で Acceleratorのプログラムを提供する他にも、Acceleratorと連携しながらスタートアップのインキュベーションを行う施設もある。その例として挙げられるのが RocketSpaceである。RocketSpaceは2011年に San Franciscoに設立された比較的新しいインキュベーション施設であり、2012年 11月現在、約 130社のスタートアップが入居している。実際にCEOの方にインタビューをさせて頂いたのだが、当初は 1-2階だけであったオフィススペースも 3 階まで拡大し、さらに現在は隣の棟まで増築が行われている。RocketSpaceは Acceleratorの Kicklabsと提携し、Kicklabsのプログラム参加企業に RocketSpace のオフィススペースを提供している。これにより、Kicklabs側はオフィススペースを利用できるし、RocketSpace側は Acceleratorのノウハウを得ることができる、という両社のシナジー効果を高めることがで

きる。また、他の Co-working Spaceと違う点として、対象企業を「シードファンディングを受けている Tech 系のスタートアップ」に限定し、Y combinatorや 500 Startups等の Acceleratorプログラムの卒業生を積極的に受け入れることによって、入居企業の質を高めている事が挙げられる。これらの理由から

RocketSpace自身も自分たちはCo-working SpaceではなくAcceleratorである、と定義している。代表的な卒業企業としては、靴・アパレルの EC サイトでAmazon に買収された Zappos33や、スマートフォンを使って自分のいる場所に

ハイヤーを呼べるサービスを運営している Uber34等が挙げられる。また、P2P音楽ストリーミングサービスで有名な Sportify35も現在入居している。 以上のように、「Accelerator」が昨今のトレンドであり、この傾向は今後も続いていくと考えられる。インキュベーションセンター側にとっては、自分たちが

この企業を育て上げたという思いを持ちたいし、未来の Googleや Facebookを輩出したいと考えている。一方、スタートアップ側にとっても、輩出企業や Exit

32 http://weworklabs.com/ 33 http://www.zappos.com/ 34 https://www.uber.com/ 35 http://www.spotify.com/us/

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の比率などで自分がどこのインキュベーション施設に入居したいかを判断する。

現状ではスタートアップの数自体も増加傾向にあり、それに伴いインキュベー

ションセンターの数も増加して行く中で、(現在 San Francisco内だけでも約 30以上の Co-working Space が運営されていると言われている ) 単なるCo-working Spaceや Office Incubatorとしてではなく、Acceleratorとしての機能を持ちながら如何にプレゼンスを発揮することができるかが今後の鍵にな

っていくと考えられる。