Title 会陰部脂肪腫を合併した副陰嚢の1例

Author(s) 紺屋, 英児; 島田, 憲次; 細川, 尚三; 松本, 富美; 栗田, 孝

Citation 泌尿器科紀要 (1996), 42(3): 233-236

Issue Date 1996-03

URL http://hdl.handle.net/2433/115685

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌 尿 紀 要42:233-236,1996 233

会陰部脂肪腫を合併した副陰嚢の1例

大阪府立母子保健総合医療センター(部 長:島 田憲次)

紺屋 英児,島 田 憲次,細 川 尚三,松 本 富美

近畿大学医学部泌尿器科学教室(主 任:栗 田 孝教授)

栗 田 孝

ACCESSORY SCROTUM WITH LIPOMA : A CASE REPORT

Eiji KONYA, Kenji SHIMADA, Shozo HOSOKAWA and FUMi MATSUMOTO

From the Division of Urology, Osaka Medical Centerand Research Institute for Maternal and Child Health

Takashi KURITA

From the Department of Urology, Kinki University School of Medicine

A newborn male infant was referred to our clinic because of anomalies of external genitalia. The infant was born at term after a normal pregnancy and delivery, and was appropriate for gestational age. A tumor mass covered with scrotum-like skin on its tip was noticed in the right side of perineum between the scrotum and anus. The raphe, which ran along the midline at the penis and the normal scrotum, circumscribed the right side of this structure. Both testes had descended into the scrotum. The condition was associated with incomplete penoscrotal transposition. There was no other urological anomaly including lower urinary tract. Histological findings of the tumor indicated

perineal lipoma, and the scrotum-like portion was diagnosed as an accessory scrotum. Thirty-one reported cases of the accessory scrotum including our own were reviewed and discussed.

(Acta Urol. Jpn. 42: 233-236, 1996) Key words : Accessory scrotum, Perineal lipoma

緒 言

泌尿生殖器奇形の中で,陰 嚢の先天異常は比較的稀

であるが,中 でも副陰嚢の報告は非常に少ない.今 回

われわれは,会 陰部脂肪腫と陰茎前位陰嚢を合併した

副陰嚢の1例 を経験 したので報告し,あ わせて発生学

的考察を加えた。

症 例

患者:8カ 月,男 児

初診:1994年3月22日

主訴:会 陰部腫瘤および外陰部異常

家族歴 既往歴:特 記すべ きことなし

現病歴:母 親の妊娠歴にとく'に異常なく,在 胎39週

経膣分娩にて院内出生.出 生体重3,032g.出 生時に

会陰部腫瘤および外陰部の異常が認められたため当科

紹介され,8カ 月時に手術 目的にて入院した.

現症:身 長68.6cm,体 重8.8kgと 発育は正常.

胸部,腹 部に異常所見は認めず.外 陰部は,陰 茎前位

陰嚢を呈 し,左 右の陰嚢内には正常大と思われる精巣

を触知 した.右 陰嚢の尾側にあたる会陰部 には2.0

cm×L5cm大 で陰嚢様外観を呈 した腫瘤が存在 した

(Fig,1).腫 瘤は陰嚢様皮膚のみでな く会陰部正中ま

で膨隆し,脂 肪腫の存在が疑われた.陰 嚢会陰縫線

は,腫 瘤部で右側に回り込んだのち肛門へ続いていた

(Fig.2).肛 門の位置は正常であった.

検査成績:一 般検血,血 液生化学および尿検査では

異常所見は認められなかった.

手術所見:全 身麻酔下にまず,膀 胱尿道鏡検査を行

い下部尿路に異常がないことを確認した.つ いで陰嚢

様皮膚を切除 し,皮 下の脂肪塊を摘出した.腫 瘤内に

精巣および付属器は認められなかった.摘 出した腫瘤

は,全 体で3.8×2.6×1.9cmで あった.

病理組織学的所見:腫 瘤表面は重層扁平上皮で被わ

れ,そ の表皮下の皮下結合織は平滑筋線維で満たされ

てお りTunicadartosと 考えられた.摘 出 した脂肪塊

は組織学的にも脂肪組織 より成ってお り,脂 肪腫 と診

断された(Fig.3).

以上より肉眼的所見とあわせ,会 陰部脂肪腫を合併

した副陰嚢 と診断 した.

術後経過 二術後の状態にはとくに問題なく翌日退院

し,現 在外来にて経過観察中である.

234 泌尿紀要42巻3号1996年

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轟Fig.1.Accessoryscrotumintherightperineum.

Scrotumwaspenoscrotaltransposition

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幅 〆を

Fig.2.Therightsideofaccessoryscrotumwas

circumscribedbytheraphewhichwasnor-

malinpositionatthepenisandtheanter-

10rscrotum.

考 察

陰嚢の先天異常は比較的稀であるが,二 分陰嚢 ・陰

茎前位陰嚢 異所性陰嚢分離症 副陰嚢などは比較的

頻度が高いとされている.こ の内で異所性陰嚢分離症

と副陰嚢 とは用語の用いられ方に混乱があり,副 陰嚢

繍1響瓢避1

鍵難Fig,3,Theperinealtumorunderaccessoryscro-

tumconsistedofnormalmaturefatcells,

を異所性陰嚢 とは別個のものとして会陰部副陰嚢と称

している報告2・3)と,異所性陰嚢分離症のうち会陰部

に存在するものが副陰嚢であるとする意見もある22).

副陰嚢は,1930年 に木村1)が第1例 目を報告 して以来

1995年3月 までに,わ れわれが調べえたかぎり31例の

報告例がある.自 験例で第32例 目の報告例であ り,本

邦では第15例 目になると思われる(Tablel).

合併奇形は自験例を含む32例 の報告例の うち31例

(97%)に み られ(Table2),比 較的多い ものには,

二分陰嚢 陰茎前位陰嚢 ・直腸肛門奇形 尿道下裂

会陰部脂肪腫などがあ り,自 験例において もこのうち

陰茎前位陰嚢および会陰部脂肪腫を合併 していた.特

筆すべきは26例で会陰部脂肪腫の合併を認めたことで

あ り副陰嚢の成因とも関連 して興味深い.森 田ら25)

は副陰嚢が生じる際に,皮 下の脂肪組織が何らかの刺

激を受け脂肪腫 として腫瘤状 に発育してくるものと考

え,程 度の差はあっても必ず脂肪腫 を伴 うとしても過

言ではないとしている.ま たSuleら27)は,副 陰嚢を

脂肪腫の存在するものとしないものとに分け,脂 肪腫

の存在 しないものの68%は 何 も合併奇形がなかったの

に対し,脂 肪腫の存在するものは全例 に合併奇形を認

めたとし,脂 肪腫が存在する場合には下部尿路や直腸

肛門異常などにも注意する必要があると述べている.

副陰嚢の存在部位については正中部が17例,右 側が

4例,左 側が9例 であった.し かし,陰 嚢会陰縫線と

の位置関係 を明記 した報告 は約半数にとどまってい

る.

本症の診断は視診上比較的容易であり,正 常の陰嚢

の他に,陰 嚢壁 と同様の動 きのあるひだを有する過剰

な陰嚢を認めればよい.病 理学的には,今 回の症例の

ごとく表皮下に平滑筋線維を伴 う肉様膜が証明される

ことにある2'3)

副陰嚢の発生学的な成因を考察するにあたり陰嚢の

発生をまとめると次のようになる。左右の尿道搬壁が

癒合 して尿道溝を作 る胎生10～12週 頃に,鼠 径部 に

あったgenitalswelling(生 殖隆起)が 尾側方向へ移動

紺屋,ほ か:会 陰部脂肪腫 副陰嚢 235

Tablcl.Accessoryscrotum

No.Year Author AgeAreaScrota豆

raphe

MasssizeTreatment Associatedanomalies

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

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19

20

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22

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31

32

1930

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1981

1981

1983

1983

1983

1983

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1986

1986

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1987

1987

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1988

1990

1990

1991

1991

1991

1992

1994

1994

1995

KimuraD

Daut2)

N・gan・3)

T・k・y・ ・u4>

Koch5>

Frankenthai6)

Hata7)

Azmy8)

Gupta9)

Tripathilo)

Maeharam

Maeharall)

Redman亘2)

N・9・ ・hiL3)

Matsuii蛋)

Matsuil5>

Yokokawa]6)

S・ylit17)

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C・ ・p・i・'9)

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Rege20)

Masui2i)

Balik22)

Shimotake23)

Ferro24)

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Morita2s}

Spears26)

Sule27)

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Ourcase

2.5m

3m

4m

6y

7m

1正m

4y

4m

7m

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36y

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8m

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Mid

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十

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十

十

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十

十

十

十

十

None

7×2×1Resection

4×4×3Resection

2×1.5×lResection

l.5×L5×1.5None

7×5×3

4×3×2

2.7×2.5>く2.0

3×2×1

3.4×3.6×4.6

2.7×2.6×0.5

3×2×2

3.0

4.5×4.0×3.5

1.5

4×2×2

3.5×2

2.5×2

3.8×2.6XL9

Resection

Rescction

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Resection

Bi丘dscrotum,Analatresiaetc.

Glandularhypospadia

None

None

Hypospadias,Analatresia

None

None

None

Pen・scr・taltransp・siti・n

None

Bifidscrotum,Hypospadias

None

None

Penoscrotaltransposition

None

Bifidscrotum,Hypospadiasetc.

Spinabifida

Becker'snevus

Accessoryear,Simianline

None

Hypospadias

Stenosedanteposedanus

None

Glandularhypospadia

None

Anorectalatresia

Anorectalatresia

Bifidscrotum

Scrotalectopiaetc.

None

None

Penoscrotaltransposition

Table2.Associatedanomalies

直腸肛門異常

二分陰嚢

陰茎前位陰嚢

尿道下裂

停留精巣

重複陰茎

異所性陰嚢分離症

腎欠損

会陰部脂肪腫

な し

8例

6例

6例

6例

2例

1例

1例

1例

26例

1例

(1930～1995)

しlabioscrotalswelling(陰 唇 陰 嚢 隆 起)と な る.男

児 で は やが て陰 茎 の伸 長 と と もに両 側 の 陰唇 陰嚢 隆起

がphallus(生 殖 茎)の 尾 側 正 中 で 癒 合 し陰 茎 と肛 門

の 間 に 陰嚢 が 形 成 され る.そ の 際 に陰 唇 陰嚢 隆起 の尾

側 部 分 が 尾 側 正 中方 向 へ 正常 に移 動 せ ず に取 り残 され

た だ め に副 陰 嚢 が 発 生 す る とい うLammとKaplan

の説が最 も有力とされている28)ま た,陰 唇陰嚢隆

起の二重分割により同側の副陰嚢が発生し,陰 唇陰嚢

隆起の三重発生により正中線上の副陰嚢が生 じるとの

説13)も出されているが,確 定 した発生学的な説明は

ない.さ て,わ れわれの症例における発生学的な関係

を考案すると,自 験例では会陰部正中に脂肪腫が存在

し,陰 嚢会陰縫線は副陰嚢の右側に回り込んでいた.

それに加えて左陰嚢がやや小さいことから,左 の陰唇

陰嚢隆起由来の副陰嚢が脂肪腫の存在により右側へ偏

位したものと推測される.従 って先に示 した副陰嚢報

告例の存在部位は,陰 嚢会陰縫線との位置関係 を考慮

した本来の発生由来を明示 したものではないというこ

とになる.本 症の発生に関しては,脂 肪腫の存在およ

び陰嚢会陰縫線との位置関係に注意 して考える必要が

ある.

本症の治療 としては,外 科的に副陰嚢を切除すれば

よい.こ れまでの報告例32例 中.治 療法の明らかな29

例のうち27例(93%)に 切除術が施行されている.し

236 泌尿紀要42巻3号1996年

かし,会 陰部は癩痕として残 りやす く,皮 膚切開は肛

門を中心とした放射状になるような方向に加える必要

がある.

結 語

8カ 月,男 児にみられた会陰部脂肪腫 と陰茎前位陰

嚢を合併した副陰嚢の1例 を経験したので報告し,若

干の文献的考察を加えた.

なお本論文の要 旨は第150回 日本泌尿器科学会関西地方会

にて報告 した.

文 献

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