Title 副腎腫瘍と考えられた有茎性肝細胞癌の1例

Author(s) 吉村, 一宏; 友岡, 義夫; 前田, 修; 細木, 茂; 黒田, 昌男; 三木,恒治; 宇佐美, 道之; 古武, 敏彦

Citation 泌尿器科紀要 (1989), 35(12): 2131-2133

Issue Date 1989-12

URL http://hdl.handle.net/2433/116773

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌 尿 紀 要352131-2133,1989 2131

副腎腫瘍と考えられた有茎性肝細胞癌の1例

大阪府立成人病セ ンター泌尿器科(部 長:古 武敏彦)

吉 村 一 宏,友 岡 義 夫,前 田 修,細 木 茂

黒 田 昌男,三 木 恒 治,宇 佐 美 道之,古 武 敏 彦

A CASE OF EXOHEPATIC PEDUNCULATED. HEPATOCELLULAR

CARCINOMA SUSPECTED OF ADRENAL TUMOR

Kazuhiro YO3HIMURA, Yoshio TOMOOKA, Osamu MAEDA,

Shigeru SAIKI, Masao KURODA, Tsuneharu MIKI,

Michiyuki USAMI and TO3HIHIKO KOTAKE

From the Department of Urology, the Center for Adult Diseases, Osaka

A case of exohepatic pedunculated hepatocellular carcinoma that was clinically diagnosed as nonfunctioning adrenal tumor is reported. A 66-year-old man was admitted to our hospital for further examination of unstable angina pectoris. Abdominal echogram and CT scan revealed a large tumor in the right retroperitoneal space. Selective right renal arteriography demonstrated that the tumor was fed by the capsular branch of right renal artery and the right adrenal artery. Adrenal function was normal. Preoperative diagnosis of right nonfunctioning adrenal tumor was made. On operation we found that the tumor was pedunculated from the liver and adhered massively to both right kidney and vena cava. The tumor and right kidney were removed. A histopathological examination demonstrated well differentiated hepatocellular carcinoma (Edmond-son's grade II type).

(Acta Urol. Jpn. 35: 2131-2133, 1989)

Key words: Exohepatic pedunculated hepatocellular carcinoma

緒 言

肝細胞癌 の うち肝外性に発育 し有茎性あるいは肝外

発育型肝細胞癌 と呼ばれ ているものは 比 較 的 稀 で あ

る.最 近,わ れわれは副腎腫瘍 と考え られた肝外発育

型有茎性肝細胞癌の1例 を経験 したので報告す る.

症 岨伊

患 者=66歳,男 性

主 訴:胸 痛

家 族 歴 ・既 往歴=特 記 す べ きこ とな し

現 病 歴 ・1988年8月5日,胸 痛 が 出 現 不安 定 狭心

症 と診 断 され 当 セ ンタ ー内科 入 院 した,腹 部 エ コー,

CTに て右 後腹 膜 腫 瘍 を 指摘 され 同年9月13日 当科 紹

介 され た.

入 院 時現 症:身 体 所 見 に異 常 を 認 め な か った.

検査 成 績 赤 沈;1時 間 値27mm,2時 間 値61

mm.血 液一 般;RBC445xIO4/mm3,WBC7,150/

mm3,Hb13.69/d豆,Ht43.3%,Platelet20.8×104/

mm3・ 血 液 化 学;NaI38mEq/l,K4.2mEq/l,CI

IO9mEq/1,Ca9.3mg/d1,iP3.9mg/dl,BUN16

mg/dl,Crn1.Omg/dl,UricAcid6.8mg/dl,TP

6・89/d1,Alb4.19/dl,GOT18u/l,GTP26u/且,

γ一GTP40u/1,LDHI12u/lT.Bilo.5mg/dL血

清 学 的 検査;HBs抗 原 陰 性,α 一fetoprotein陰 性,

CEA陰 性.内 分 泌 学 的 検査;血 中cortisol,renin,

aldosterone,尿 中17-KS,17-OHCS,metane-

phrine,VMAす べ て 正 常範 囲.

腹 部 超音 波 検 査:肝 下 面 に接 し,分 葉状 に描 出 され

る 径 約8cmの 腫 瘍 像 が認 め られ た.

X線 学 的 検 査 排 泄 性 腎 孟造 影 で は 右 腎 孟 に 軽 度

の 変形 を認 め,腹 部CTで 右 腎 上 極 の腹 側 にenhance

され る腫 瘍 を 認 め た(Fig.1).選 択 的 腎 血 管 造 影 で

は 腫瘍 はお もに 右 腎 動脈 被 膜 枝 お よび右 副 腎動 脈 に よ

り支 配 され て お り,こ れ らの 動 脈 は 腫瘍 に よ り伸 展 さ

れ,そ の下 方 に淡 い腫 瘍 陰 影 を 認 め た(Fig.2).大

動 脈 造 影 で は 腹腔 動 脈 枝 に よる 腫 瘍血 管 は み られ なか

った.

2132 泌尿紀要35巻12号1989年

Fig.1. CTscanshowingalargetumorinthe

retroperitonealspace・

Fig.2. Selectiverenalarteriography

rcvealedtumorstain.

Fig.3.Grossviewoftheremovedspecimen.

以上の所見 よ り内分泌非 活性型副腎腫瘍 あるいは腎

被膜腫瘍を疑 い1988年10月12日,手 術 を施 行 した,腫

瘍は肝 お よび下大静脈 と強 く癒着 し,ま た右腎 と一塊

とな ってお り腫瘍のみの摘 出は困難 と判断 し,腫 瘍 と

右腎 とを一塊 として摘出 した.摘 出標 本 で は 腫 瘍 は

7×5×4cm,充 実性 であ り腎上極 と強 く癒着 していた

(Fig.3).右 副腎は腫瘍 に より圧迫 され引 きのば され

て存在 していた.

病理組織学的には,大 型 で類 円型 の核を もつ腫蕩細

胞が シー ト状充実性に 配列 したEdmondsonI型 の

肝細胞癌 で あ り(Fig.4).肝 細胞癌が 肝外性に後腹

膜へ と発育 し腫瘍を形成 した症例 であ る と考 え られ

た,

難鍵Fig.生Microscopicview;welldifferentiated

hepatocellularcarcinoma(Edmondson's

gradeIItype)wasnoted.

術後経過は良好で現在 まで腫瘍の再発,転 移を認め

ず健在である.

考 察

肝外性に発育 した肝細胞癌 は欧米 で数例,本 邦で50

例 あま りの報告をみるにす ぎない比較的稀 な疾患であ

り,市 川 らDは 肝外発育型 肝 細 胞 癌 を,Dectopic

growingtype,皿)pedunculatedtype,皿)protru-

sivetypeに 分類 してお り,自 験例 は後腹膜腔に発育

したpedunculatedtypeの 肝外発 育型肝細胞癌 と考

え られた.

西垣 ら2)の報告に よると,肝 外発 育型肝細胞癌の う

ち臨床的に肝細胞癌 と診断された ものは72.9%で その

ほ とん どがCTお よび 血管造影が 診断の 根拠 となっ

た としてい る.

一般 に肝細胞癌は肝 動脈が栄養血管であ り肝外性に

肝細胞癌が発育 した症例3-17)において も肝動脈に支配

された腫蕩像がえ られた とい う報告が多 くみ られる.

自験例 ではCTお よび 血管造影で 積極的 に肝細 胞癌

吉村,ほ か:副 腎腫瘍 ・有茎性肝細胞癌

を疑 う所見は少な く,む しろ副腎あるいは腎被膜原発

の腫瘍が考え られ 術前診断は困難であ った.し か し,

肝細胞癌の側副血行路の一部 として下横 隔膜動脈,右

腎動脈被膜枝が挙げ られ てお り18),ま た これ らの動脈

が肝外発育型肝細胞癌の栄養血管であ った症例の報告

もあ り19),内分泌非活性 型副腎腫瘍を疑 った場合,鑑

別すべき疾患 の一つである と考 えられた.

治療 としては外科的治療 が主 で,肝 切除が小範囲で

すむため切除 率が高 く一般 の肝細胞癌に比ぺ予後 も良

好である.

結 語

副腎腫瘍 と考え られた肝外発育型有茎性肝細 胞癌の

1例 を若干の文献的考察を加えて報告 した.

なお本論 文の要 旨は 第126回 日本泌尿器科学会関西地方会

にて発 表 した。

文 献

1)市 川 長,今 岡 真義 佐 々木 洋,石 川 治,大

東 弘 明,谷 口健 三,岩 永 剛,石 黒信 吾,和 田

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光三:肝 外 発 育 を 示 した肝 細 胞 癌 の1例.日 内会

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5)中 沢秀 昭,松 本 信 子,外 山久 太 郎,高 橋 唯 郎,柴

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10)今 岡真 義,佐 々木 洋,松 井 征 雄,石 川 治,谷

口健 三,岩 永 剛,青 木 行俊,寺 沢 敏夫 ・有 茎 性

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俊:主 と して肝 外 性 発 育 を 示 し た 巨 大 ヘ バ トー

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芳郎,水 口国雄 有 山 裏:肝 外 に 著 明 な 発 育

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の1例.臼 内 会誌7e:1302,1981

14)二 村 圭子,田 内 胤泰,遠 山 淳 子,石 川 勉,丹 羽

幸 吉,伴 野 辰 雄,水 谷 雅 子,牧 野直 樹,三 村三 喜

男,水 谷弘 和,鎌 田憲 子,石 垣 武 男,今 藍 倍 庸

行:長 期経 過 を た ど った と考 え られ る有 茎 性 肝癌

の1例.日 医 放 線 会誌41=810,1981

15)掘 江 裕,吉 田 裕,今 岡 友 紀,周 防 武 昭,加 藤

誠 一,平 山千 里=有 茎 性 発 育 肝細 胞 癌 の臨 床 的検

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16)荒 川 正博,鹿 毛 政義,磯 村 正,川 野 芳 朗,神 代

正 道,中 島敏 郎,久 保 保 彦:肝 外 に 巨大 な 腫 瘤 を

形 成 した いわ ゆ る有 茎 性 肝 細 胞 癌7例 の検 討 。肝

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17)中 山 宏 幸,坪 内博 仁,有 沢 速 雄,山 下 宣,山 口

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(1989年3月28日 受付)