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Title 言語の〈自立〉と社会 : ユーゴスラヴィア(SFRJ)崩壊か ら10年を経て Author(s) 三谷, 惠子 Citation Dynamis : ことばと文化 (2002), 6: 28-44 Issue Date 2002-09-20 URL http://hdl.handle.net/2433/87688 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

Title 言語の〈自立〉と社会 : ユーゴスラヴィ …...地域であり、伝統的にその言語は 「セルビア語(srpski jezik)」 もしくは 「セルビア・

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Title 言語の〈自立〉と社会 : ユーゴスラヴィア(SFRJ)崩壊から10年を経て

Author(s) 三谷, 惠子

Citation Dynamis : ことばと文化 (2002), 6: 28-44

Issue Date 2002-09-20

URL http://hdl.handle.net/2433/87688

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

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DYNAMIS, 6 (2002) , 28-44

言語の〈自立〉と社会― ユ ー ゴス ラ ヴ ィア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を 経 て ―

三谷 惠子

0. は じめ に

現 在 、 セ ル ビア と と も に ユ ー ゴ ス ラ ヴ ィア 連 邦 を構 成 す る ツ ル ナ ゴー ラ2は 、 セ ル ビ

ア 、 ク ロ ア チ ア 、ボ ス ニ ア ・ヘ ル ツ ェ ゴ ヴ ィナ と同 じ くセ ル ビア ・ク ロ ア チ ア 語 の使 用

地 域 で あ り、 伝 統 的 に そ の 言 語 は 「セ ル ビア語(srpski jezik)」 も し く は 「セ ル ビア ・

ク ロ ア チ ア 語(srpskohrvatski jezik)」 と呼 び 慣 わ され て き た 。 そ の 古 都 ツ ェ テ ィ ー

ニ エ で1997年 、 『ツル ナ ゴ ー ラ語 正 書 法 辞 典 』 お よび 『ツル ナ ゴー ラ 語 一 起 源 、 タ イ

ポ ロ ジ ー 、発 展 、 構 造 特 徴 、 機 能 』 と題 され た 書 籍 が 刊 行 され た[Nikcevi�1997(a),

1997(b)1。 「ツ ル ナ ゴ ー ラ 語 」一 旧 ユ ー ゴ連 邦 崩 壊 の 後 、セ ル ビア ・ク ロ ア チ ア 語 は使

用 され る 地 域 に応 じて 『セ ル ビア 語 」 「ク ロ ア チ ア 語 」 「ボ ス ニ ア 語 」 と い う別 々 の 名 称

を持 つ に 至 っ た が 、 そ れ ら に次 ぐ第4番 目の 言 語 の 出現 を 宣 言 す る か の よ うな 表 題 で

あ る。 そ して 『ツル ナ ゴー ラ語 正 書 法 』 で は、 「ツ ル ナ ゴー ラ 語 」 は 「セ ル ビ ア語 と何

ら異 な る 特 別 な 言 語 で は な い 」 と しな が らも、セ ル ビア ・ク ロ ア チ ア 語 標 準語 に 存 在 し

な い3つ の 子 音 音 素/5/,/彡/,/(セ/を 含 む34の 音 素 が あ る と明 記 して い る。 こ こ に は

明 らか に 、新 た な 言 語 規 範 の 形 成 へ の意 図 が伺 え る。 で は な ぜ 、 こ の よ うな こ とが 起 き

た の か 。 本 稿 で は 〈 言 語 の 自立 〉 とい う概 念 を鍵 に、 旧 ユ ー ゴ ス ラ ヴ ィア 連 邦 の言 語 状

況 を 振 り返 り、そ こか ら分 裂 後 の 各 地 の 状 況 をま と め て こ こ に い た る ま で の経 緯 を 明 ら

か に す る。

1. 言語 と社会

言語の通時変化の要因には、同化や異化による音韻の変化、類推や再解釈による形態

素や文法形式の変移 といった言語内的なものと、外的な現象すなわち体制や産業構造、

1本 稿 は2001年12月1日 、法 政大 学にお いて 開催 され たJSEES東 京 大 会 にお け る 口頭発 表に基 づ き

作成 した もので あ る。

2日 本 では イタ リア語経 由 で英語 名 となった 「モ ンテネ グ ロ(黒 山 国)」 が一般 的 だが 本稿 では原語 の名称

Crna Goraを 使用 す る。

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三谷 惠子 29

交通および情報伝達の形態、人口構成、教育や行政、周辺地域 との接触 といった、社会

のあ らゆる局面の変化 とその累積がある。社会の諸相の変化か ら言語が被 る影響の質

や程度にはさまざまな ものがあり、そ うした言語変化の中には一過性のものとして消滅

するものもあろう。 しかし社会変化 とい う要因は早晩、言語運用の実態 に浸透 し、言語

内的な要因 と不可分 となって言語構造の質を変えてい く。

言 語 の あ り方 に 関 与 す る社 会 的要 素 と して 、Fishman(1972)は 「標 準 化(standard-

ization)」 「自立(autonomy)」 「来 歴(historicity)」 「活 力(vitality)」 を 挙 げ て い

る。 これ らの 要 因 は い ず れ も、2節 以 下 で 述 べ る セ ル ビ ア ・ク ロ ア チ ア 語 圏 の 問題 に 関

連 す る の で 、 そ の 内 容 を 念 頭 に 、 本 稿 論 者 の 理 解 す る とこ ろ を以 下 に ま とめ て お く―

(1)「 標準化」一一っの社会共同体には通常、 さまざまな言語変種の話者が暮 らし

ているが、そ ういった多様な言語社会の構成員の共通のコー ドを定めるプロセスが 「標

準化」であり、それによって制定されたコー ドが 「標準語亅である。この共通 コー ドは、

一定の規範体系(標 準語辞書、文法書、正書法辞典などに具現 されるもの)を 持ち、行

政、司法は じめ通信、教育など社会の公的な領域で利用されるコー ドとなる。 その形成

は、権限を依託 された特定の機関を中心に進められるか、マスメディアや言語文化の担

い手(文 学者など)の 活動 を核に求心的に生じることが多いが、政権担 当者の政治的立

場がその過程 に影響を与えることも少なくない。

(2)「 自立」一 ある言語変種が、周辺の他の言語変種 とは異なる〈独立言語〉とな

ることを指向 しそれを獲得するプロセスと、それによって獲得された言語の自立性を意

味す る。言語の 「自立」はしば しば、その言語変種の話者 たちの民族的覚醒や政治的自

立に動機づけられて生じ、社会制度的には上記の 「標準化」によって実現 される。一つ

の社会共同体の中で複数の言語変種が 「自立」を試みた場合には、複数の 「標準語」が

競合す ることになる。

(3)「 来歴」一 ある言語もしくは言語変種がもつ文化の蓄積。 これは言語文化圏さ

らには民族文化圏の形成 とい う概念に投射 される要因である。 どのよ うな言語変種 に

もそれな りの 「来歴aが あると考えれば、その言語変種が 「自立」を志向した時、独自

性の主張すなわち他者 との差異化のために 「来歴」が重要な要因 として注 目されること

は容易に予測できる。歴史的権威付けといえるか もしれない。

(4)「 活 力 」一 「言 語 民族 的活 力ethnolinguistic vitality」 とい う こ と も あ る。 「活

力 」 を 評 価 す る 因 子 と して は 、① 客 観 的 因 子 、② 主 観 的 因 子 、 の 二 つ を考 え る こ とが で

き る―

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30 言 語の く自立 〉 と社会 ―ユー ゴス ラ ヴィア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を経 て ―

①客観的因子:言 語身分(「 国家語」「公用語」といった体制内の位置付け)、言語

人 口、教育の規模 と水準(学 校 ・学級数、教師や児童 ・生徒の数、初等教育から高等教

育 までの どの段階まで整備 されているか)、新聞 ・書籍など出版物の発行部数、メディ

ア状況、識字率など。

②主観的因子一話者の意識、すなわち母語に対する評価、言語集団の一員としての

自覚を持つか否か、積極的に使用するか、など。

上記(1)~(4)の 因子は、相互に密接に関わるもの といえるだろ う。例 えば 「自

立」 とい う因子を中心に考 えれば、「自立」のためには、当該社会に固有の自立的な言

語 コー ド-そ れ によって他の言語変種と差異化 されるような記号のセ ッ ト―の制定す

なわち 「標準化」が必要不可欠な要件であり、「自立」の意義 と正当性 を主張するため

には 「来歴」が重要な要素 となる。また 「活力」は 「自立」を支える基盤 であり、同時

にまた 「自立」によって安定 し増大するものである。

ところで、現実に言語が 「自立」するためには、い くつかの条件が必要 と考えられ

る。それ らは、以下のよ うな社会的条件 と言語的条件にわけることができるだろ う一

(1)社 会的条件

一言語の制度化を支 える 『自立」 した社会の存在

-「 自立」した言語 を自らの言語として受容 し、その話者であるとい う意識をもっ

言語集団(あ るいは民族集団)

(2)言 語的条件

一他 の言語変種 とは異なるコー ドの実態、すなわち、音韻や文法構造、語彙体系な

どのどこかで独 自の特徴を持つ言語 コー ドの存在。

これ らの条件が整った時、言語変種は、我々が通常 「○○語」として認知するような

独立言語になるとい うことができる。

2. 旧ユー ゴ連邦 の言語状況

言語の 自立の基盤 ともいえる言語活力は、前節で言及 した ように、複数の因子によっ

て支えられる。そこでまず、多言語国家 といわれたかつてのユーゴ連邦内の諸言語の活

力が どの ようなものであったのかを、言語身分 と規模 とい う二つの基準に鑑みて振 り

返 ってみたい。表1は 、連邦における言語身分をまとめたもの、また表2は 連邦内の言

語構成を、言語人口と使用面積で示 したものである[Skiljan 30-31]。

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三谷 惠子 31

〈表1>連 邦内諸言語の言語身分

連邦内諸言語の公的地位

公用語 としての地位

連邦公用語

上記に準ず る公用語

共和 国、自治州 レベルの

公的言語

地方 自治体の公的言語

言語名

セ ル ビア ・ク ロア チ ア 、 ス ロ ヴェ ニ ア 、

マ ケ ドニ ア

ア ル バ ニ ア 、 マ ジ ャー ル

トル コ 、 ル シ ン 、 ル ー マ ニ ア 、

ス ロ ヴ ァ キ ア

チ ェ コ、 ブ ル ガ リア、 イ タ リア

ロ マ

民族集団による地位

連邦主要民族語

連邦構成民族語

民族集団の言語

<表2> ユ―ゴスラヴィア連邦(SFRJ)の 言語構成3

言 語 名

セ ル ビア ・ク ロ ア チ ア

ス ロ ヴ ェ ニ ア

ア ル バ ニ ア

マ ケ ドニ ア

マ ジ ヤ ー ル

ロマ

ヴ ラ フ ①

トル コ

ス ロ ヴ ァ キ ア

ル ー マ ニ ア

ブ ル ガ リア

ル シ ン②

イ タ リア

チ ェ コ

ウ ク ラ イ ナ

言 語 人 口

(総 数22,424,711)

16,342,885

1,761,393

1,756,663

1,373,956

409,079

140,618

135-.589 '

82,090

74,033

59,869

37,268

19,413

19,409

16,197

7,058

人 口比

%

72.88

7.85

7.83

6.13

1.82

0.63

0.60

0.37

0.33

0.27

0.17

11'

11'

0.07

0.03

使用範囲

(全体255,804km2)

225,230

20,561

27,429

26,847

18,717

14,065

14,676

5,578

5,414

1,681

1,951

1,278

1,045

631

領 土 比

%

88.09

8,04

10.72

10.50

732

5.50

5.74

2.18

2.12

0.66

0.76

0.50

0.41

025

31981年 の 国勢調査 に依拠 した1988年 版 統計 年鑑(Statisticki godi'snjak)に よ る[Skiljan 30-31]。

使 用面積 は、最 小 行政 単位(日 本 の市町村 に あた る 自治 体)に お い て当該 言語 の話 者 の 占め る割合 が3%を

越 え る場合 に その 地域 を言語 使用領 域 とみ な し算 定 した もの。 従 って合 計の数 値 は実 際の 国 土面積 よ り大 き

くな る。

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32 言語の く 自立 〉 と社会 一ユ ー ゴス ラヴ ィア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を経 て 一

①Vlachは 、言語系統的にはルーマニア語 と同 じく東 ロマ ンス語系に属 し地域的 にはAromanian

と も呼 ばれ る言語 の話者 で、 旧ユー ゴ地域 の ほか、アルバ ニ ア、ブル ガ リア な どバルカ ン各地 に

少数 民族 として居住 す る。 な お、Vlachあ るいはVlaxと い う呼び方 は、 ロマ ニ(Romany)人

に対 す る俗称 として用 い られ るこ ともあ り、両者 が混 同 され る文 脈 もあ る。

②Rusynは 、カル パチ ア地 方を中心 に、 ウクライナ 、ス ロ ヴァキア 、 ヴォイ ヴォデ ィナな ど

に居 住す る東 ス ラヴ系の人 々で ある。 その名 称か ら、キエ フルー シを築 いたル ー シの人 々の末裔

で ある とい う通説が あ るが、史的根拠 があ るわけで はな く、民族的形成 過 程 の明 らかな こ とはわ

か ってい ない。 なお1995年 の時点 で中 ・東 欧 に住む ルシ ン人の総数 はお よそ80万 乃至100万 、

うちお よそ30万 人がセ ル ビア 北部 を中心に 旧ユー ゴ地 域に居住す ると報 告 され てい る[Magosci

22]。 上記 の数値 よ りかな り多 い数が挙 げ られ てい るのは 、母 語 に よる規定 と民族 的 帰属の 不一

致 の現 れ とも理解 で きるが 、同 時に こ うした少数 民族の人 々 の実態把握 が 困難 であ るこ とを示 唆

して い る とも言 えるだ ろ う。

表1に 示 されるように、連邦 レベルの公用語 と定められていたのはセル ビア ・クロア

チア語、スロヴェニア語、マケ ドニア語で、これ らの言語はまた、 「連邦主要民族(ナ

ロー ド)」の言語 とい う意味で 「連邦主要民族語(jezik naroda)」 とも呼ばれた。すべ

て南スラヴ語に属 し、言語コー ドの実質的な近さは、直感的な言い方をすれば、互いの

言語 をまった く学習 した ことのない者同士でもある程度の意思疎通が可能な程 といえ

るだろ う。 しか しこの中で、言語人口が最大のセルビア ・クロアチア語が実質的には連

邦の中心言語であり、言語人口の比率はそのまま、連邦政府の中枢における重要性、特

に連邦議会の運営や連邦軍の指揮系統における使用に反映され、この言語の重要性は他

の言語 とは比較にな らない ものとなっていた。これ ら三言語に準 じて連邦公用語扱い

とされたのがマジャール語 とアルバニア語である。前者はヴォイ ヴォディナ自治州、後

者 はコソヴォ自治州 において多数派 となるハンガリー人 とアルバニア人の使用言語だ

が、どち らも言語系統的に異なる語族、語派に属 し、南スラヴ語話者 との間の意思疎通

は、二言語併用が日常的である地域の者以外には不可能である。アルバニア人とハンガ

リー人は 「連邦構成民族(ナmド ノス ト)」であるため、彼等の言語は 「連邦構成民

族語jezik narodnosti」 と呼ばれた。 また、同 じく連邦構成民族 とい う位置付けにあっ

た諸民族の うち、 トルコ人、ルシン人、ルーマニア人、スロヴァキア人の言語は、法的

にはそれぞれの民族が比較的多く居住す る共和国や 自治州 において公的使用 を認め ら

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三谷 惠子 33

れた言語 とされた。 ここでの公的使用とい うのは、例えば行政文書や学校教育における

使用である。スロヴァキア語とルシン語はスラヴ語に属す るが、南スラヴ語話者 との意

思疎通、容易とは言い難いものである。 さらに連邦構成民族の中のより少数派であるイ

タリア人、ブルガ リア人、チェコ人の言語は、地方 自治体 レベルで公的な使用を認めら

れた言語であった。そ してこれ らの範疇に属 さず、単に 「民族集団」 とされたのがロマ

ニである。 ロマニ人は人 口や使用面積か らすれば トルコ人やスロヴァキア人 より上位

にあったが、どの地域でも法的権利については何の言及もされていなかった。 この状況

はヴラフ人についてもあてはま り、彼等は時にルーマニア人、時にロマニ人と同範疇と

して扱われたようである(以 上の数値資料等についてはBugarski,Skiljan, Kovacec

を参照)。

言語の規模 と身分、そこにコー ドの実質的違いとい う要素 を加 えただけで も、多民

族国家の中に存在 した言語の重層的な構造 と、そこに含まれ る問題―言語権利の問題

が垣間見えるよ うである。た とえばアルバニア語は、言語人 口の上では連邦第3位 で

あり、コソヴォ 自治州においては80%近 い人 口比を占める多数派アルバニア人の言語

である。にもかかわ らずセル ビア共和国全体ではアルバニア人は14%に 過ぎない少数

派であり、アルバニア語は連邦公用語 に準 じる言語 と憲法に定め られているとはいえ、

中央に出れば所詮 は地域語で しかない。一方セル ビア語にはまつた く逆の構 図があて

はまる。共和国のみな らず連邦全体では圧倒的優位に立っ民族であるにも拘わらず、コ

ソヴォ 自治州に住むセル ビア人は 自治州人口の13%ほ どに過ぎず、圧倒的なアルバニ

ア語の前には無力である。 しかもアルバニア人とセル ビア人の意思疎通は、たとえば同

じ南スラヴ語の話者であるセル ビア人 とマケ ドニア人との場合 とは異な り、相手の言語

の学習を前提 としなければ不可能である。 「なぜ我々が彼等のことばに譲歩 しなければ

ならないのか」-こ の不満は双方の側に生 じたのである。マケ ドニアにおけるアルバニ

ア語話者の状況にも、コソヴォの場合 と共通する点がある。連邦全体ではアルバニア

人はマケ ドニア人より多いが、言語身分としてはマケ ドニア語の方が格が上であった。

またマケ ドニアに住むアルバニア人はマケ ドニア人 口の20%ほ どで、少数派 とはいえ

無視できない比率である。彼等の意思疎通もまた、セル ビア人 とアルバニア人 との場合

同様、どちらかが相手に〈譲歩〉しない限り不可能である(マ ケ ドニア語はブルガリア

語、アルバニア語、ルーマニア語 とともにいわゆる 『バルカン言語圏』を形成 し、統語

構造や語形成、語順などにおいて言語類型論的に興味深い相似性を示す。 しか し言語

コー ド自体がアルバニア語と異なる点においてはスロヴェニア語や クロアチア語 とア

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34 言 語 の く 自立 〉 と社会 ―ユー ゴス ラ ヴィア(SFRJ)崩 壊か ら10年 を経 て ー

ルバア語が異なるの と同 じである)。 すべての民族の友愛 と平等を掲げた国家ではあっ

たが、連邦の複雑な状況はこのような錯綜 した言語状況にも現れてお り、これ らの局所

的問題は連邦が消滅 した今 日、新 しい独立国の枠内に引き継 がれて今なお、紛争の火種

として存在する。

連邦崩壊の後、南スラヴ語の中で、スロヴェニアとマケ ドニアの言語はそれぞれ、新

たな独立国家の公用語 となった。スロヴェニア語は、少な くともその標準形式において

他の南スラヴ諸言語 と異なる音韻および文法体系を持つ(ア クセン ト、音素特徴、双数

カテゴリーの存在、名詞や形容詞の屈折形態素の違い、あるいは他の南スラヴ語にある

単純過去時制形の喪失、もともとの未来完了形 に由来する未来時制形など)。 またマケ

ドニア語は第二次大戦後のマケ ドニア共和国の成立とともに 「独立言語」として認めら

れた言語変種だが、標準形においてはブルガ リア語と若干異なる特徴 を持ち、すでに社

会的に自立した言語 と認 められている。 したがって独立国家 になった従来の言語運用

の実際 と、それぞれの言語社会の構成員 として自己規定す る言語意識 の間に亀裂が生じ

ることはなかっただろう。 これに対 し、「セル ビア ・クロアチア語」 とよばれた言語が

使用 された各地域 では、新たな問題―独立国家の誕生にあわせて、言語の 「自立」をい

かに実現 させ るかとい う課題に直面 したのであった。

3. 〈多極 的言語 〉の特徴

3.1 クロス[1967:38]は 、「(ある言語集団の中の)よ り小 さな言語集団が、彼等に

とって伝統的な言語変種を、(自 分達にとって)適 応可能で利用 しやす くするような計

画的統合化 と拡張 という手段を用いて保持 し、全体的同化に抵抗することがある」と述

べ、その具体例 としてセル ビア ・クロアチア語に見られる微妙にして複雑な状況を指摘

した。 この言語 は19世 紀に標準語の形成が試み られはじめた時か ら旧ユーゴ時代の終

焉に至るまで、「セル ビア ・クロアチア語」として一つの理想的な標準語(す なわち一種

類の正書法 と文法規範をもつ)に 収束することはなく、この言語が使用され るそれぞれ

の地域に存在する地域的変種を基にした複数の 「標準形」の複合体であった。具体的に

は、セルビア、クロアチア、ボスニア、ツルナゴーラの各共和国で、基本的にはほぼ同 じ、

しか し少 しずつ異なる標準形式が用いられていた。このようなく多極的言語〉としての

セル ビア ・クロアチア語については、Dmitrieva【19881が 詳 しく論 じ、三谷[1993]

もそれに依拠 しながらセル ビア語とクロアチア語の極性の現れ方 にっいて検討 した。そ

れ らをふまえ、標準語の極性分布のパ ターンをここに簡略に示す と、次のようになる。

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三谷 惠子 35

ある言語形式4を 取 り上げると、それは

― どの地域でも共通 して使用 される形式

特定の地域で使用 され る形式

のどちらかである。 この うち前者をく無極型〉、後者 をく偏極型 〉とすると、形式の

極性分布のパター ンは、両者の組み合わせからおおよそ、以下のような名称で特徴付け

できるものに分けられる:

(1)無 極的分布一すべての地域で共通 して 「標準形」 として用い られる形式がある

(2)排 他的偏極型分布-そ れぞれの地域に他の地域 と異なる形式がある

(3)無 極-偏 極型分布― 無極型の形式があり、同時に、それぞれの地域にそれ と等価の

異なる形式がある

(4)無 極―特定偏極型分布一無極型の形式があり、同時に、特定の地域にのみ、それ と

等価の異なる形式が競合する

(5)複 合偏極型分布 同 じ意味の形式が複数競合 し、地域によってそれ らの偏 りの度

合いが異なる

この うち、形式の圧倒的多数は無極型(1)に 含まれ、すべての地域で共通するもので

あ る。 こ こで 強 調 され な け れ ば な らな い の は、だ か らこ そ 、 そ れ 以 外 の わ ず か な形 式 の

違 い が こ の 言 語 集 団 に属 す る各 地 域 の 話 者 に とっ て 重 要 な 意 味 を 持 ち う る とい う点 で

あ る。(2)の パ ター ンの 例 に は 、未 来 時 制 の形 式(セ ル ビア の 〈hteti+da+現 在 時 制

〉 と ク ロ ア チ ア の 〈htjeti+不 定形 〉)や 、 主 に 外 来 語 の 語 幹 か ら動 詞 を派 生 させ る

派 生 形 態 素 の{-isati}(セ ル ビア)と{-irati}(ク ロ ア チ ア)[HG 376]、(3)の 例 と して

は 、 「劇 場 、 演 劇 」 を表 す 語 彙 に共 通 形 式 と して 外 来 語 のteatarが あ る の に 対 し,偏 極

分 布 す るpozoriste(セ ル ビ ア)―ka,zaliste(ク ロア チ ア)が あ る 、 な ど5が 指 摘 され て

き た。 ま た(4)に は 「~ を 除 い て 」 と い う意 味 の 前 置 詞 に 無 極 分布 す るosimと 偏 極

形 式 のsem(semは セ ル ビア で 主 と して用 い られ る)、(5)に は 「世 紀 」 を表 すv(ij)ek

(セル ビア 、 ツル ナ ゴー ラ で 主 流)-stolje馥(ク ロア チ ア で 主流)が 挙 げ られ る。

3.2.セ ル ビア ・クロアチア語はこのように、微妙な地域的差異が指摘 されてきた言語

であるが、連邦時代の人々の言語運用に実際に地域的な差異はどのように反映されてい

たのだろ うか。電子テクス トが利用可能になった今、本稿では改めてこのことについて

4こ こで い う 「形 式」 には、音 素、形 態素 、形態 統語論 的特徴 、構 文特徴 、語彙 な ど、言語 を特徴づ け る諸

要 素がす べ て含 まれ る。

5teatarはRSHKJ, RHJに は 掲 載 され て い る が 、 Bmdnjakに は 記 載 が な い 。 ま たHCRでteatar

は522位 、 出 現 頻 度0―0042,kazali'ste 422,0.0128だ が 、 pozoristeに 関 して は 記 載 が な い。

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36 言 語の 〈 自立 〉 と社会 一ユー ゴス ラヴィア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を経て ―

調 べ る こ と と した 。 具 体 的 には 、セ ル ビア とク ロア チ ア の 間 で極 性 を持 って 現 れ る と さ

れ て き た語 彙 のペ ア3つ を 選び 、そ れ らが 旧ユ ー ゴ 圏 の セ ル ビア/ツ ル ナ ゴー ラ 、ボ ス

ニ ア 、 ク ロ ア チ ア の3つ の 地 域 の20世 紀 大 衆 文 学 の 中 で ど の よ うに 出現 す る か を コー

パ ス 検 索 した 。 同 時 代 の 日常生 活 を題 材 と した 大 衆 文 学 は 、新 聞 記 事 や 論 説 、歴 史 物 語

な どの テ ク ス トに 比 べ 、 目常 言 語 に近 い 言 語 運 用 が 実 現 され て い る と考 え られ る た め 、

調 査 の 資 料 体 と して 適 切 で あ ろ うと判 断 した。 選 ん だ 語 彙 の ペ ア は 、 上 に 例 示 し た 前

置 詞osimとsem、 「乾 い た」 とい う形 容 詞 のsuh一 とsuv-,そ して 数 の 「千 」 を 表 す

tisu饌とhiljadaで あ る。 これ らの 語 彙 は 、極 性 を も っ て使 用 され る語 彙 で あ る こ と

が従 来 指 摘 され て お り、か つ 、作 品や 作 家 の 個性 に依 存 して極 端 に使 用 頻 度 が 片 寄 る と

い う こ と が 起 こ りに く い 常 用 語 彙 に含 まれ る とい う条 件 を 勘 案 して 選 ん だ もの で あ る。

まず 、HCRで これ ら の語 のデ ー タ を参 照す る と、 osim, suh-, hiljada, tisu饌の 数 値

は以 下 の通 りで あ る(HCRの 資 料 体 は20世 紀 の 詩 、 散 文 、 ジ ャ ー ナ リズ ム テ ク ス ト

な ど100万 語 か ら構 成 さ れ て い る)。 な お 、sem, suv-に つ い て はHCRに は デ ー タが

な い。 これ ら は ク ロ ア チ ア 語 の 変 種 に は 属 さ な い とみ な され て い る た め で あ ろ う。

osim

suh一

順位(100万 語中) 頻度

248位 0.0347

408位 0.0162

hiljada

tisu饌

順位(100万 語 中) 頻度

520位 0.0050

398位 0.0172

ま た 、 選 択 した3組 の 語 彙 が 地 域 的 偏 りを持 つ と い え るか ど うか を 比 較 検 討 す る た

め 、無 極 型 に属 す る と考 え られ る要 素 につ い て もそ の 出現 状 況 を調 べ る こ と と した 。 調

査 対 象 に は 、osim/semな らび にsuh-/suv一 と 同 じ語 彙 範 疇 に 属 し、 か つ それ ぞ れ

に も っ と も近 い 出現 頻 度 を 持 つ 語 彙 とい う条 件 を与 え た 。 そ の 結 果 、HCRの デ ー タ か

ら、 前 置 詞protiv fと 反 対 に」(275位 、頻 度0.0307)と 形 容 詞obi6―an「 ふ つ うの 」

(407位 、 頻 度0.0163)が 適 切 な候 補 と な っ た。

本稿筆者のコーパスは、WWW上 で公開されている南スラヴ文学電子テクス トおよ

びCD版 テクス トから作成 されたものである。資料体のサイズはセル ビア、ボスニア、

クロアチアそれぞれの地域 ごとに32万 ~38万 語(タ イ トル、章題 も含め、単純に出現

語数の総数を数えたもの)、 作家の帰属は出身地ではなく、民族的帰属や作家 としての

主たる活動 の場によって区分した。たとえばKaporは ボスニアの首都サラエ ヴォの生

まれだがベオグラー ドで活動するセル ビア系作家であるため、セル ビア文学に区分 し

た。ツルナゴーラの作家(Lali驍ネ ど)の 帰属は今後改めて問題 となるべき事柄ではあ

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三谷 惠子 37

るが、本稿では とりあえずセルビア文学の範疇に含めた。

そ の 結 果 が 表3で あ る(表 内 の 数 値 は 用 例 数)。

<表3> S;セ ル ビア 系作家 B:ボ スニア系 作家 C=ク ロアチ ア系 作家

資料体語数

S 322500

B 339800

C 379200

計1041500

osim

47

100

36

183

sem

42

0

0

42

protiv

50

86

70

206

suh

0

41

89

130

S--V

50

0

0

51

obit-n

62

77

35

174

hiljada

43

103

54

200

tisu饌

0

0

29

29

ま ずsemとosimの 分 布 を見 る と、ク ロ アチ ア 系 お よび ボ スニ ア 系 作 家 で はosimの 使

用 しか認 め られ な い が 、セル ビア 系 で はsemとosimが 競 合 し、セ ル ビア 人 作 家Kapor

の よ うに同 一 の 作 品 の 中でsemとosimを 併 用 して い る ケ ー ス も あ っ た 。 つ ま りこ の 語

彙 ペ ア は 、 上 記(4)の 無 極 一特 定 偏 極 型 の 分 布 を示 す もの と見 る こ と が で き る。 これ ら

が 地 域 的極 性 を 持 っ て 現 れ る こ とは 、 無 極 型 のprotivが 、 作 品 に よ って 出 現 頻 度 が 異

な っ て はい て も、地 域 レベ ル で は 全 体 に まん べ ん な く分 布 して い る こ と と比 較 して も明

らか で あ ろ う。 ま た 、suh-/suvー は 、語 幹 末 の摩 擦 性 子 音 が 無 声 軟 口蓋 音 か 有 声 唇 歯

音 か とい うだ け の 異 な りで あ る が 、2つ の語 彙 の 分 布 は セ ル ビア 系 作 家 でsuh.が ゼ ロ 、

反 対 に ク ロ ア チ ア 系 でSUV― が ゼ ロ と、 セ ル ビア と ク ロア チ ア で 明 確 な 排 他 的 偏 極 型 の

構 図 を 示 して い る 。 ボ ス ニ ア 系 作 家 の 場 合 もす べ てsuh一 す な わ ち 、 ク ロ ア チ ア と 同 じ

形 式 を 用 い て い る 。 これ も、HCRで 頻 度 の 近 い 形 容 詞{obic-n}が ど の 地 域 の 資 料 体

に もま ん べ ん な く現 れ て い る こ と と比 較 して も 、確 か に排 他 的 偏 極 型 に属 す る と判 断 で

き る。 一 方 、tisu饌‐hiijadaの 組 の 分 布 に は 注 意 す る必 要 が あ る 。 とい うの も 、 若

干 逸 話 め くが 、独 立 後 の ク ロ ア チ ア で 「hiljadaは セ ル ビア 語 、 ク ロ アチ ア 語 はtisu饌」

とい う 『見 解 』 が メデ ィア な どの 一 部 で 出 され 、 「Hiljadu sam ti puta reko da kanes

tisu饌!TISUCA (千)と 言 え っ て 、 HILJADU(千)回 も言 っ た だ ろ う!」 とい う

冗 談 が 聞 か れ た ほ どに 話 題 とな った 語 彙 だ か らで あ る。 しか し資 料 体 のデ ー タ で は 、確

か にtisu饌は ク ロ ア チ ア 系 の作 家 に 限 っ て 用 い られ る語 彙 で は あ る6が 、 hiljadaも 排

除 され て い る わ け で は な い 。 あ き らか に こ の 二 つ の 語 彙 は 、 ク ロ ア チ ア で は 併 用 され 、

一 方hilj adaは 無 極 的 に 分 布 す る。 つ ま り 「ク ロ ア チ ア がtisu饌,セ ル ビ ア がhilj ada」

と い っ た 区 分 の で き る よ うな 語 彙 ペ ア で は な い の で あ る。

6こ の 分布 は現 代語 に 限 られた もの であ る。 セル ビア の古い 文献 た とえ ば14世 紀 の ドゥシ ャ ン法 典 で は

tisu饌が 使 用 され てい る。

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38 言 語 の〈 自立 〉 と社会 一ユー ゴス ラ ヴィア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を経 て 一

上で明 らかに した極性分布の実態から、次のことが確認 され るだろ う。すなわち、

suh-/suv一 の ように、はっきりと地域的な偏 りをもって出現する形式が存在すること

に間違いはない。 しか し、 このような偏 りの大部分は多少な りとも混在的なものであ

り、Kaporのosim/semの 併用に端的に見 られるように、個人言語の内部にも異なる

形式が競合 していることがあるとい う事実 を看過 してはな らないのである。

この事実を先にのべた言語の独立のための条件 と照合 してみれば、独立後の各地域、

特にクロアチア、ボスニア、さらにはツルナゴーラでなぜ、ことさらにそれぞれの言語

変種の違いが強調されその独 自性が主張 されなければならなかったかも理解できるだ

ろう。 ほとん ど違いのない言語が自立するためには、その中に含まれ る微妙な違いを最

大限に強調す る必要がある。 とはいえ、体制は一夜にして転換す ることがあ りそれに応

じて標準語のような制度的な言語にも急激な変容が現れることはあ り得るが、個人言語

の言語運用はそれに即応 して変化するものではない。内戦期のクロアチアで行われた、

政権担 当者 とその立場に賛同する一部のメディアなどによる 「クロアチア語」の多分に

意図的な形成 を振 り返れば、それがしばしば不 自然 さを含み、話者の とまどい、批判や

嘲笑 さえを呼び起こしたことは無理からぬことであった。先の 「千」をめぐる冗談もま

た、慣習に基づく個人言語 と制度的に定められる人為的な言語のずれを笑つたものと見

ることができるのである。

4. 〈ボ ス ニア語 〉の特徴

3節 で示 した コーパス調査の結果の範囲では、ボスニアの地域方言 は 「セル ビア ・ク

ロアチア語」の標準形の中で、ある場合にはセル ビア標準語 と一致 し、別の場合にはク

ロアチア標準語 と一致する という、両者の折衷的な-別 の言い方をすれば、明確な独 自

性 を持たない一言語であるかのようにみえる。 しかも言語の名称には 「ボスニア ・ヘル

ツェゴビナ」の名称の影 さえなく、ボスニアの言語変種は連邦時代、文字 どおり 「名 も

なき」民族言語であった とい う印象さえ得 られ るようで ある7。 これを示す ように、独

立後のボスニアでは実態の伴 ったrtス ニア語Jの 確 立への試みが現れ始めた。その

ために重視 されたのが来歴 である。た とえば、1996年 に刊行 されたハ リロヴィッチの

『ボスニア語正書法辞書』[Halilovi�1996]で は、従来のセル ビア ・クロアチア標準語

7も ち ろん、連 邦 時代 のボ スニ ア の人 々 は 自分達 の言語 を 「セル ビア ・ク ロア チア語 」 と称 す る ことに と

りた てて 問題意 識 を持 っ てはい なか った と思われ る。特 定 の調査 を行 った わ けで はない が 、本稿筆 者が かっ

て言葉 をかわ したボ スニ ア ・ヘ ル ツェゴ ヴィナの人 々 は自分達 の話 して い る言葉 を 「セ ル ビア ・ク ロア チア

語 」、 さもな けれ ば 、 もち ろん 正式 にそ のよ うな名 称の言語 は存在 しないが 「ユ ー ゴス ラヴ ィア語」 など とこ

だわ りな く呼 んで い た。

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三谷 惠子 39

の基準からは 「方言要素」すなわち非標準的とみな されていた トルコ語か らの借用語が

「標準語J要 素として取 り入れ られた。

トル コ語 か らの借 用 語 彙 は、 ボ ス ニ ア の 地 域 変 種 の み な らず 、オ ス マ ン帝 国 の 支 配 下

に長 くあ っ たバ ル カ ン 半 島 の キ リス ト教 徒 社 会 に も浸 透 して い る 。 セ ル ビ ア ・ク ロ ア チ

ア 標 準 語 の 形 成 に 大 き な 役 割 を果 た した セ ル ビア 人 民 俗 学 者 カ ラ ジ ッチV.Karadzi�

に よ っ て19世 紀 は じ め に 刊 行 され た セ ル ビア 語 辞 書(初 版1818年)は 、26000語 を

収 録 す る が そ の うち2500語 が トル コ語 か らの借 用 語 、1851年 の 第2版 で は そ の 数 は

3500に の ぼ る 「Granie 34]。 セ ル ビア ・ク ロア チ ア ・ボ ス ニ ア 語 に含 ま れ る トル コ語

か らの 借 用 語 に は

(1)セ ル ビア ・ク ロア チ ア 語 に 固有 の代 替 表 現 が な く、 標 準 語 の 語 彙 と して 広 く用 い

られ る(bakar銅 、 celik鋼)

(2)イ ス ラ ム 教 徒 社 会 以 外 の地 域 で も使 用 され る か 、 あ るい は 知 られ て い る が 、 類 義

的 な 代 替 表 現 が あ る(騏prija 「橋 」 ―most;avlija「 中庭 」―dvori"steな ど)

(3)ボ ス ニ ア の イ ス ラ ム教 徒 社 会 に特 有 の要 素 で あ る(mahala「(イ ス ラ ム 教 の)教

区 、 地 区 」、sokak 「通 り」)

の3タ イプがあるが、この うちの(2)(3)の 要素を積極的に標準語 として取 り入れ よう

とい う姿勢 をしめ したのが上記のHalilovi驍ナ あった。特に(3)に は、キ リス ト教社会

にはほとんど無縁であ りながらイスラム教社会には必要不可欠な語彙が多 く含まれ、ボ

スニア.ヘ ルツェゴヴィナ全体が即ちイスラム教社会 とい うわけではないに しても、そ

の歴史の中にあるイスラム文化の深い影響によってセル ビアや クロアチアと異なる個

性をもつ国家にとっては、独 自の言語の主張のためにも重要な要素 とみなされたので

ある。

ボ ス ニ ア の 方 言 特 徴 と して注 目す べ き も の に ま た 、h-音 の 挿 入 が あ る。 セ ル ビア ・ク

ロ ア チ ア 語 の標 準 語 の 基 盤 とな った 新 シ ト方 言 で は 、ス ラ ヴ共 通 語 彙 に 元 来 あ った 軟 口

蓋 摩 擦 音 系 の 音 素 の 反 映形[h](声 門 摩 擦 音[h]な い し軟 口蓋 摩 擦 音[xpが 脱 落 す る傾

向 が あ り、例 え ば 「軽 い 」 は*lbgaka>*lagk->dak Cfロ シア 語:1�kij, legk�;ス ロ

ヴ ェ ニ ア語 冠 αh訛,lapko)と な る。 しか しイ ス トラ 半 島 南 西 部 や ドゥ プ ロ ヴ ニ ク 附 近

の 沿 岸 部 、 ツル ナ ゴ ー ラ西 部 、 セ ル ビア 北 東 部 な どの 局 部 的 な 方 言 と、 大 部 分 の ボ ス ニ

ア の 回 教 徒 の 方 言 で は この[h]音 が保 た れ(標 準 形7nek增u 柔 ら か い 」 に 対 して πL劭緬,

frali「 腐 敗 した 」 に対 してtruhli)、 さ らに は 元来[h]が な い位 置 に も音 韻 添 加 が 生 じる

こ とが あ る:rvanje「 格 闘 」 一加"α冗グe。ボ スニ ア 系 作 家 の 作 品― 例 え ばKulenovi驍フ

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40 言語 の〈 自立 〉 と社会 ―ユー ゴス ラヴィア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を経て 一

短 編 小 説 「3つ の帝 国 を経 た 男(Covjek iz tri carevine)」 に は こ の 方 言 特 徴 が 巧 み に

織 り込 ま れ 、 ボ ス ニ ア のイ ス ラム 教 徒 の話 し方 を い き い き と再 現 す る技 法 と な っ て い る

("Fatima, kahvu!「 フ ァテ ィマ!、 コ ホ ヒー!」";Redovi vjernika na njegov poziv

pregibali su se na koljena i mehko tutnje駟 padali po zemlji.「 信 者 た ち の 列 は 彼 の

呼 び 声 に 応 じ て跪 き、 そ ほ っ と 呟 き な が ら地 に伏 した 」)。前 掲 の ハ リ ロ ヴ ィ ッチ も ま

た 、 彼 の 正 書 法 で このh-音 を 含 む 形 を ボ スニ ア 語 の 標 準 形 と して`復 権'さ せ よ う と

して い る 。 ボ ス ニ ア の イ ス ラ ム 教 徒 ス ラ ヴ人 社 会 の 方 言 に この 特 徴 が 保 持 され た の は 、

こ の 音 素 を含 む トル コ 語 とイ ス ラ ム 経 文 化 の語 彙 が15世 紀 以 来 の ボ ス ニ ア の言 語 社 会

に深 く浸 透 した こ と と 関係 す る とい わ れ る([Ivi�96];た だ しイ ス ラ ム 教 徒 社 会 の 方

言 に も こ の 特 徴 の 現 れ な い 変 種 も な い わ け で は な い 。 これ に つ い て は[Graniti 37])。

こ の方 言 特 徴 は 単 に地 域 方 言 と して 偶 然 見 い 出 され る もの で は な く、ボ ス ニ ア の イ ス ラ

ム 教 徒 た ち に と っ て独 自の 民 族 文 化 と不 可 分 の 言 語 特 徴 で あ り、 ま さに 来 歴 の 一 部 をな

す も の な の で あ る。

5. 〈 ツ ル ナ ゴー ラ語 〉-4番 目の言語

1990年 代 にユ ー ゴ ス ラ ヴ ィ ア 社 会 主 義 連 邦 が崩 壊 し 、 ス ロ ヴ ェ ニ ア 、 ク ロ ア チ ア 、

マ ケ ドニ ア 、 ボ ス ニ ア ・ヘ ル ツ ェ ゴ ヴ ィナ が独 立 国 家 とな っ た 後 も 、 ツ ル ナ ゴ ー ラ は

連 邦 に と ど ま り、セ ル ビア と歩 調 を 合 わせ る 道 を選 ん だ よ う に見 え た 。 これ を象 徴 す

る よ うに 、92年 の 憲 法 で 《ツル ナ ゴー ラ人 の言 語 は セ ル ビア 語 で あ る》 と定 め られ た 。

これ に 対 して96年 、 国 際ペ ン ク ラ ブ の ツル ナ ゴー ラ セ ン タ ー が 『憲 法 にお け るツ ル ナ

ゴ ー ラ 語 の 地 位 に つ い て の 宣 言(Deklaracija craogorskog ―P.E.N. centr¢0賜8伽 ηom

Polozaju crnogorskog jezika)を 発 表 した 。 『宣 言 』で は 「今 や す べ て の ス ラ ヴ人 の 中 で 、

自 らの 民 族 名 で そ の使 用 言 語 を呼 ぶ こ とが で き な い の は ツ ル ナ ゴー ラ人 だ け」 で あ り、

独 自の 言 語 文 化 と言 語 運 用 の 実 体 を 持 つ ツル ナ ゴー ラ 人 の 言 語 を 「ツ ル ナ ゴー ラ語 と呼

ん で は な らな い理 由 は 学 術 的 に も政 治 的 に もな い 」 と して 、 ツル ナ ゴ ー ラで の使 用 言 語

の 名 称 を 、 憲 法 で 正 式 に`ツ ル ナ ゴ ー ラ語,と 認 め る よ う訴 え た 。

『宣言』が現れた背景には、ツルナ ゴーラに伝統的である 《常にセル ビアとともに、

しかし従わず》とい う心意気、またユーゴ連邦内でのセル ビア との複雑な政治社会的関

係、そ して、旧ユーゴ諸国が独立 しそれぞれが独 自の民族名 を使用言語の名称に用い始

めたとい う事実が挙げ られ る。本稿冒頭 に述べたV.ニ クチェヴィッチの 『ツルナ ゴー

ラ語正書法辞典 』『ツルナゴーラ語』が現れた背後にあったのはこ うした状況であった。

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三谷 惠子 41

ニ クチ ェ ヴ ィ ッチ の 『ツ ル ナ ゴー ラ 語 正 ・書法 』 で は 「ツ ル ナ ゴー ラ標 準 語 」 の 音 素 は

「34あ る」 と 明 記 され(文 字 は33字)、 これ ま で の 標 準 セ ル ビア ・ク ロア チ ア 語 で は 認

め られ て い な い/S//Z//dz/が 加 え られ て い る。 こ の うち/S//Z/は 、 ツ ル ナ ゴー ラ

南 部 の 方 言 で あ るゼ トーサ ン ジ ャ ック 方 言 、 あ る い は そ こ か ら北 に 隣 接 す る ボ ス ニ ア ・

ヘ ル ツ ェ ゴ ヴ ィ ナ 方 言 に 分 布 す る東 ヘ ル ツ ェ ゴ ヴィ ナ方 言 が 持 つ 音 韻 特 徴 で 、標 準 語 の

硬 口蓋 歯 茎 摩 擦 音(s,z)が や や 口蓋化 す る の を 反 映 した も の と考 え られ る。 っ ま り

標準語の文字 と音素 S/S/ Z/Z/

標準語 /S/・[sutral[・]・[k・ZU]

ゼ トーサ ン ジ ャ ッ ク方 言 [s■[sjutra] [zj]:[kozju]

の[sj][Z'をS, Zで 表 し 、標 準 語 形 に し よ う とい うわ け で 、 sutra「 明 日」 はsutra、

kozu 「ヤ ギ を 」 はko彡uの よ うに な る。 ま た 、/dz/[dz](/c/[ts]に 対応 す る有 声 音)

につ い て は 、 ニ ク チ ェ ヴ ィ ッチ は 文 字3(キ リル 文 字 に は古 教 会 ス ラ ヴ語 テ ク ス トに 見

られ たs〈dzelo>の 文 字)を 当 て 、 この 音 で始 ま る 語 と して は30ra ldzora〕(標 準 語 で

はzorg lzOra]「 夜 明 け」)な どわ ず か に7語 を掲 載 して い る。 確 か に/5//彡/の2つ は 、

ツル ナ ゴー ラ の 地 域 方 言 にお い て あ る程 度 体 系 的 に 分布 す る とい え るか も しれ ず 、音 素

と して 認 め る こ と も で き な い で は な い だ ろ う。 しか し/dz/は 、 実 際 の と こ ろ/Z/[Z/

の 自由 変 音 で あ る と考 え られ 、 音 素 と して認 め る こ とに は 疑 問 が あ る。

い ず れ に して も、 こ う した 地 域 方 言 の 要 素 の 強 調 は 、ハ リロ ヴ ィ ッ チ の ボ ス ニ ア 語 に

お け るh一 音 の 主 張 と同 質 の もの で 、そ こに は 、 単 に名 称 だ け が 異 な るの で は な い とい

う言 語 の 〈独 立 宣 言 〉 と もい え る 意 図 を 見 る こ とが で き る の で あ る。

6. むす び

かつての連邦国家が消滅 し10年 以上の歳月が過ぎた。「セルビア語」「クロアチア語」

「ボスニア語」とい う名称はすでに、旧ユーゴのセル ビア ・クロアチア語圏の社会に定

着 し、それ らの言語の話者である人々に対 して 「セル ビア ・クロアチア語」 とい う名称

を口に しよ うものなら、露骨な嫌悪の表情あるいは冷ややかな視線、 もっとも礼儀正

しい場合でも 「ここにはそのような言語は(も う)な いのです よ」とい う警告を頂戴す

るのが当前 となつた。ハ リロヴィッチやニクチェヴィッチの主張す るよ うな新たな標

準語の基準制定の動 きがそれぞれの地域で本格的になっている様子は今の ところない。

しか し類似の動きがこの先あらわれないとも限らず、現在のユー ゴ連邦の将来 と同じよ

うに、未確定の要素は多々あるように思われる。

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42 言 語の く 自立 〉と社 会 一ユ ー ゴス ラ ヴィア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を経 て ―

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三谷 惠子 43

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44 言 語 のく 自立 〉 と社会 ―ユー ゴス ラ ヴィア(SFRJ)崩 壊 か ら10年 を経 て ―

Abstract

Language Independence and Social Change

Keiko MITANI

After the collapse of Yugoslavia (SFRJ) the new independent republics of

Croatia and Bosnia Hercegovina began to emphasize the authentic existence

of their national languages, Croatian and Bosnian respectively. Even from the

republic of Crna Gora (Montenegro), which stayed in the political framework

of Yugoslavia as an alliance of Serbia, a movement arose to declare "the inde-

pendence of language of Crna Gora (crnogorski ezik)." In this paper the author

first briefly describes language problems in former Yugoslav countries and reex-

amines some characteristic aspects of language variations in Serbia, Croatia and

Bosnia. Based on these facts the author analyses the process of language split

in Serbo-Croatian with reference to sociolinguistic notions of 'independency', 'standardization' , 'historicity' and 'vitality'.