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Title <論文>フランス福祉国家の変容と子どものケア --「 アジ ア化するヨーロッパ」仮説の検討-- Author(s) 落合, 恵美子 Citation 京都社会学年報 : KJS = Kyoto journal of sociology (2016), 24: 17-55 Issue Date 2016-12-25 URL http://hdl.handle.net/2433/219502 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

Title フランス福祉国家の変容と子どものケア …...Kyoto Journal of Sociology XXIV / December 2016 18 落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア

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Title <論文>フランス福祉国家の変容と子どものケア --「 アジア化するヨーロッパ」仮説の検討--

Author(s) 落合, 恵美子

Citation 京都社会学年報 : KJS = Kyoto journal of sociology (2016),24: 17-55

Issue Date 2016-12-25

URL http://hdl.handle.net/2433/219502

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

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京都社会学年報 第24号(2016)

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フランス福祉国家の変容と子どものケア― 「アジア化するヨーロッパ」仮説の検討 ―

落 合 恵美子

「英国病」からの脱却を目指してマーガレット・サッチャーが新自由主義的改革を断行

した 1980 年代以降、ヨーロッパの福祉国家は「削減(retrenchment)」の方向に舵を切っ

たと言われている。その後、「第三の道」もあり、またヨーロッパの様々なタイプの福祉

国家を一括りにすることはできないが、黄金期の福祉国家からの変質が起きたことは誰の

目にも明らかである。他方、アジアに目を転じれば、例外的に出発の早かった日本を別に

すれば、ヨーロッパでの「削減」が行われていたまさにその時期に、アジアの福祉国家建

設は進められてきた。「削減」と「建設」―両地域における対照的な動向は、この分野の

風景を一変させつつある。これまでは差が大きすぎて別世界としか言えなかった両地域に

ついて、比較したり類型化したりして論じることを可能にする共通の地平が生まれつつあ

るのではなかろうか。

筆者は 2000 年代の初めから、東アジアと東南アジアの数か国について、子どもと高齢

者のケアに関する比較研究を行ってきた。その結果、浮かび上がってきたのが、予想を超

える多様なパターンの存在と、それでも共通するいくつかの特徴、すなわち発展途上の

福祉国家を補うように発達したケアの商品化、とりわけ外国人ケアワーカーの雇用と、親

族の果たす役割の大きさであった(落合・山根・宮坂 2007、Ochiai and Molony 2008、

Ochiai 2009)。アジアについての研究に一区切りつけ、グローバルな視野であらためて見

直したとき、福祉国家「削減」後のヨーロッパにおいても、これらとよく似た傾向が生じ

ていることに関心をもった。欧米諸国における外国人ケアワーカーの雇用は「グローバル・

ケア・チェイン」と呼ばれる女性労働者の国際移動を誘発し、また祖父母の役割がヨーロッ

パ各地、特に貧困地区で再認識されていた(Charles, Davies and Harris 2008, Arber and

Timonen 2012)。

ヨーロッパにおける福祉国家の「削減」は、多様なセクターのアクターが福祉を支え合

う現在のアジアのような状況にヨーロッパを近づけるのだろうか。他方、アジアで進む福

祉国家「建設」は、両者の距離をいっそう縮めることになるかもしれない。ならばその先

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア18

には、近未来の人類社会にとって最適の福祉ミックスへの収斂が待っているのだろうか。

「アジア化するヨーロッパ」と「ヨーロッパ化するアジア」という仮説のもと、変わりつ

つある両地域の状況を同じ地平の上で比較検討して人類の未来を見通すというプロジェク

トの着想は、このようにして得られた(1)。 

本稿はこのプロジェクトの一環として「アジア化するヨーロッパ」仮説検討のために

2015 年度にフランスにおいて実施した調査研究の成果の一部である。ヨーロッパ全域を視

野に入れてはいるが、福祉ミックス再編成の具体像を知るためのフィールドワークを中心

的な方法としたため、フランスにおける子どものケアに焦点を絞る。この調査がヨーロッ

パ全体の理解のためにどのような意味をもつのかについては、本稿の最後に考察したい。

1 「アジア化するヨーロッパ」仮説

最初に、「アジア化するヨーロッパ」とはどのような状況を指すのか、定義しておこう。

第一に注目すべきは、福祉国家の「削減」である。その程度は、社会福祉への公的支出

の縮小という財政的変化として測るのが一般的だろう。GDPの規模でコントロールする

必要があるのは言うまでもないが、年金や医療費に大きく影響する人口高齢化の程度でコ

ントロールすることも忘れてはいけない。日本以外のアジア諸国はヨーロッパ諸国に比べ

て高齢化の程度が明らかに低い。図 1は横軸に人口高齢化の程度、縦軸に社会福祉への公

的支出の対 GDP比を示したものである。すると、人口高齢化の程度が同じでも、社会福

祉への公的支出のレベルに違いのあるグループが浮かび上がる。ヨーロッパでも北欧・フ

ランス・ドイツなど第 1グループと、南欧・東欧・イギリスなど第 2グループはレベルが

異なり、合衆国・カナダは後者と同じグループと言える。世界で最も高齢化した国となっ

た日本は、その割に社会支出は抑えられており、第 2グループの下端か、あるいはそれよ

りレベルの低い第 3グループに属すると言えよう。第 3グループは東アジア・東南アジア

諸国および日本が入るように設定したものであり、他にロシアや旧ソ連邦の国々が含まれ

る。この図を用いれば、「アジア化するヨーロッパ」とはヨーロッパ諸国が下方に移動す

ることを指し、反対に「ヨーロッパ化するアジア」とはアジア諸国が上方に移動すること

を指す。人口高齢化の程度が同じでも、社会支出が下がる、もしくは上がるということで

ある。

(1)このプロジェクトはイル・ド・フランス政府に採択され、2015年 4月より 2016年 3月までの 1年間、ブレーズ・パスカル国際研究員(Blaise Pascal Chair)としてフランス社会科学高等研究院にて研究に従事した。

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 19

しかし、それだけだろうか。福祉国家が「削減」されても、人々は生きていかねばな

らない。個人や集団の社会的・経済的・心理的・医療的状態がよいことを welfare, well-

being, wellness と言うとすると、そうした “良き生 ” はさまざまなセクターのさまざまな

アクターに支えられて可能になる。国家以外の福祉の担い手にも注目するのが福祉ミッ

クスという考え方であり、福祉国家ではなく福祉レジームという概念に発展した。福祉レ

ジームを構成するセクターとして国家、市場、家族を想定するのが福祉トライアングル(福

祉三角形)という枠組みであり、これにコミュニティ(あるいはアソシエーション)等を

加えて 4セクターを想定するのが福祉ダイアモンド(福祉四角形)という枠組みである

(Razavi 2007, Razavi and Staab 2012)。本稿では図 2に示したような、福祉ダイアモン

(出典)ILO, Social Security Expenditure Database.

図 1 公的社会支出と人口高齢化

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア20

ドの枠組みを用いることとする。なお、この福祉ダイアモンド図式は、通常のものとは違

うくふうがなされている。通常は「家族」とされるセクターを「家族・親族」と呼び換え

ているのである。ヨーロッパの研究で用いられてきた福祉ダイアモンド図式では、親族の

位置づけが揺れていた。家族に入ることも、コミュニティに入れられることもあった。筆

者らによるアジアのケアレジームの比較研究では、親族の役割の大きさと、家族と親族の

境界の曖昧さがアジア社会の特徴として浮かび上がってきたので、親族は家族セクターに

含めることにしたのである(Ochiai 2009)。本稿ではアジアに使用したのと同じ図式でヨー

ロッパの福祉レジームを分析したい。

では、福祉ダイアモンド図式を用いると、「アジア化するヨーロッパ」とはいかに定義

できるだろうか。図 3は、理念型としての「ヨーロッパ型」の福祉ダイアモンドと、「ア

ジア型」の福祉ダイアモンドを対比したものである。ヨーロッパも一括りにできないのは

図 1でも見たとおりだが、第 1グループばかりでなく第 2グル―プでもアジア諸国を含む

第3グループよりは公的社会支出が多かった。国家セクターの大きなダイアモンドを「ヨー

ロッパ型」の理念型としてよいだろう。それに対して「アジア型」の理念型では他の 3セ

クターが大きい。「家族・親族」セクターでは「親族」の役割が大きい。福祉レジームに

注目すると、4つのセクターのバランスが変化して「アジア型」に近づくのを「アジア化」、

「ヨーロッパ型」に近づくのを「ヨーロッパ化」と定義することとしよう。「アジア化するヨー

図 2 福祉ダイアモンド

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 21

ロッパ」仮説を検証する本稿では、図 3の左図のような福祉ダイアモンドが右図のような

形に変化したかどうかに注目することとしたい。

2 財政面から見た福祉国家

まず、福祉国家「削減」の第一の定義、すなわち財政面の変化を押えるため、サッチャー

が登場した 1980 年以降、ヨーロッパにおける公的社会支出がどのように変化したかを概

観しておこう。OECDの社会支出に関するデータベース(2)を用いるので、参考として合

衆国、日本、韓国も比較に含める。財政面から見て、福祉国家の削減は実際に起きたのだ

ろうか。

公的社会支出総額の対 GDP比を示した図 4を見る限り、スウェーデン以外はほぼ右肩

上がりの趨勢を示しており、明らかな「削減」は見出せない(3)。とはいえ、このグラフ

は高齢化率でコントロールされていない。さらに詳しく費目別の支出を検討していこう。

図 5は公的年金支出等の変化を示したものである。この項目には年金以外に現物支給の

介護サービスなど多種の高齢者向けの支出が含まれている。明らかな上昇が見られるのは

イタリア、フランス、日本であり、それ以外の国では横這いかそれに近い。この期間にす

べての国で人口高齢化は進行したので、上昇していない国では何らかの抑制策がとられた

ということだろう。図 4で見たような公的社会支出総額の上昇は、人口高齢化の単純な結

(2)https://data.oecd.org/socialexp/social-spending.htm( 3)ほとんどの国に共通して見られる 2009 年の上昇はリーマンショックに端を発する金融危機によ

る GDPの減少によるものである。

図 3 ヨーロッパ型福祉ダイアモンドとアジア型福祉ダイアモンド

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(資料)OECD データベース(https://data.oecd.org/socialexp/social-spending.htm)

図 4 公的社会支出の趨勢(1980-2016 年、対 GDP比%)

0

5

10

15

20

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30

35

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8019

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8419

8619

8819

9019

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0020

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1420

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(資料)OECD データベース(https://data.oecd.org/socialexp/social-spending.htm)

*高齢者のためのデイケア、ホームヘルプサービス、施設介護提供のための費用等も含む。

図 5 年金その他高齢者のための社会支出の趨勢(1980-2011 年、対 GDP比%)

0

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 23

果ではない。

図 6は家族と子どもへの公的支出を示したものである。1990 年代までは(大幅な減少が

見られるスウェーデン以外)多くの国で横這いが微減だが、その後は微増に転じ、とりわ

けイギリスと韓国における上昇が大きい。スウェーデンも再上昇している。

家族への公的支出は、さらに現金給付(図 7)と現物支給(図 8)に分けられる。図 7

を見る限り、全体として現金給付は 1990 年代半ばまでは減少傾向、その後はほぼ横這い

である。1980 年代にはフランス、1990 年代にはスウェーデンで一時的増加が見られるが、

いずれも再び減少した。1990 年代末からは、例外的なイギリスにおける伸びが目を引く。

レベルははるかに低いが、日本でも伸びが見られる。これに対して多くの国で 1990 年代

以降大幅に伸びたのが保育園の設置などによる現物支給である(図 8)。水準の高さでは

スウェーデン、フランスが高く(スウェーデンは 1980 年代にはすでに高く、フランスは

1990 年代初めに急増)、2000 年代にはイギリスも追いついた。イギリスは現金給付と現物

支給の両方で家族への公的支出を急増させたことが確認できる。1990 年代に家族支出の現

物支給で最も高位の水準にあったスウェーデンとフランスは 2000 年代には道を分け、ス

ウェーデンがいったん低下した後、再度上昇に転じたのに対し、フランスは下降傾向にあ

る。現物支給では韓国の急追も特筆に値する。わずか 10 年ほどの間に急増させ、いまや

OECDの平均を上回ってしまった。日本の伸びの小ささと対照的である。

(資料)OECD データベース(https://data.oecd.org/socialexp/social-spending.htm)

図 6 家族と子どものための支出の趨勢(1980-2013 年、対 GDP比%)

00.5

11.5

22.5

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア24

(資料)OECD データベース(https://data.oecd.org/socialexp/social-spending.htm)

図 7 家族と子どものための現金給付の趨勢(1980-2013 年、対 GDP比%)

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(資料)OECD データベース(https://data.oecd.org/socialexp/social-spending.htm)

図 8 家族と子どものための現物支給の趨勢(1980-2013 年、対 GDP比%)

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0.5

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 25

このように、1980 年代以降の財政支出に注目すると、ヨーロッパの福祉国家は「削減」

されたとは言えない。しかしその性質は明らかに変化している。明白なのは、福祉国家の

重点が年金から子どもを養育する家族の支援に移ったということである。年金や失業保険

のような消極的社会政策から、幼児教育・保育(ECEC)・ワークライフバランス・積極

的労働市場政策など経済効果を生む積極的社会政策に資源をシフトさせる「社会投資型福

祉国家(social investment welfare state)」(Morel et al. 2012)の方向に転換したと言え

よう。

福祉国家の変質については、福祉供給主体の民営化により、国家は供給者や利用者に補

助金を支払う役割になる「財政福祉(fiscal welfare)」の方向が指摘されている。現物支

給よりも現金給付が中心になることになる。しかし子どもや家族への支出に関するかぎり、

イギリス以外ではこの変化は明らかとは言えない。むしろ国家が子どものケアにますます

直接的に関わるようになっている。ただし本論文で取り上げるフランスでは 1990 年代末

以降、現物支給が低下傾向にあることが注目される。それは保育の現場や親たちにどのよ

うな現実として表れているのだろうか。

3 フランスにおける子どものケア

ここから後はフランスに焦点を絞り、子どものケアがどのように実現されているか、福

祉レジームをつくる 4つのセクターの役割分担にも注意を払いながら見てゆこう。通常の

保育や幼児教育に加え、さまざまな困難を抱えたケースの支援や児童養護まで視野を広げ

たい(4)。経済的格差の拡大とメンタルヘルス問題の拡大、家族形態の変化などの結果と

して、実親による養育に困難をきたすケースが増加しているからである。いまやある社会

の次世代育成について論じるとき、養育困難への対処を視野に入れなくては現実的でない。

(1)「公的保育(formal childcare)」の変容とアシスタントマテルネル

フランスにおける公的保育

フランスの子どもたちは、家庭でのケアの他に、どのようなケアの対象となっているの

だろうか。3-5 歳児について見ると、OECD family database によれば、100%が就学前教

(4)児童養護についての現地調査の一部は、JST RISTEXの支援を受けた「養育者支援によって子どもの虐待を低減するシステムの構築」プロジェクト(代表者黒田公美)の一環として実施した。本稿の筆者落合が所属する Cグループの 2016 年度の研究実施者は、伊藤公雄京都大学教授、安里和晃京都大学准教授、渡辺多恵子日本保健医療大学准教授、村田泰子関西学院大学准教授である。

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア26

育を受けている。フランスが誇る普遍主義的幼児教育機関のエコールマテルネル(École

maternelle「幼稚園」もしくは「保育学校」と訳す)は 1881 年に設立され、義務ではな

いが無料であり、外国人であってもフランスに居住する子どもはみな 3歳になると入園

するものと考えられている。1970 年代に就労する母親の増加に伴い急増した(Letablier

2013)。「エコール」という名称に示されるように、「学校」すなわち教育機関と位置付

けられており、国民教育省(Ministère de l'Éducation nationale, de l'Enseignement

supérieur et de la Recherche)の管轄下にある。移民の子供たちがフランス語を習得する

機会を提供し、国民統合に大きな役割を果たしている(5)。同データベースにより OECD

諸国の 3-5 歳児の就学前もしくは初等教育参加率を比較すると、ヨーロッパの主要国は

90%を超えているが、フランスはそのうちでも最も高い(図 9)。日本は 91.0%で OECD

平均の 83.8%より高いが、有料であり、北西ヨーロッパ諸国の水準には達していない。韓

国(92.2%)は日本を上回っている一方、合衆国の低さ(66.8%)が目を引く。

0-2 歳児については、同データベースによれば、フランスでは 2014 年時点で 51.9%が「公

的保育(formal childcare)」の対象となっている。3歳以上の場合とは異なって有料だが。

この年齢層の「公的保育」利用率は国による違いが大きく、ヨーロッパの中でもかなりの

差があり、フランスはヨーロッパでは中位と言えよう(図 10)(6)。北欧や南欧など社会政

策について通常は地域的まとまりを示す地域も、この点では分散するのが興味深い。たと

えばフィンランドでは長期の育児休業が家庭でのインフォーマルな保育に頼る割合を高め

ている。日本は 30・6%(保育所のみ)で OECD平均を下回っており、保育所入所困難が

社会問題となるのも頷ける。特筆すべきは韓国であり、極低出生率対策として策定された

政策の効果で 0-2 歳児の入所率が急速に上昇し、図 10 に示された施設保育だけで 35.7%

となった。

アシスタントマテルネルの増加

しかし、ここで留意すべき点がある。フランスでも保育所(crèche)入所は競争が激しく、

どうすれば入所できるのかが、妊娠中からの話題である。フランスの保育所入所率は 13%

(5)とはいえ、エコールマテルネルに通う子供たちの構成は地区の住民構成を反映するので、パリ郊外の移民が多く居住する地区では同級生のほとんどが移民の子どもたちとなる場合もある。

(6)「公的保育」に含まれるもの・含まれないものはデータベースの説明によれば以下の通り。Data generally include children using centre-based services(e.g. nurseries or day care centres and pre-schools, both public and private), organised family day care, and care services provided by(paid)professional childminders, and exclude those using unpaid informal services provided by relatives, friends or neighbours. Exact definitions do however differ across countries.

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京都社会学年報 第24号(2016)

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 27

であり、日本の 30.6%よりもかなり低い。日本でのイメージとは異なり、フランスは保育

所が完備された「子育て天国」というわけではない。

では、何が「公的保育利用率」と「保育所入所率」のギャップを埋めているのだろう

か。アシスタントマテルネル(assistante maternelle 「認定保育ママ」と訳すこともあ

る)という日本で言う「保育ママ」のように自分の家で少数の子どもを預かる女性たちが、

(出典)OECD Family Database

図 9 3-5歳児の就学前教育(もしくは初等教育)参加率

0102030405060708090

100

Enrolment rate %100

(出典)OECD Family Database

*韓国については認可された施設保育のみを含む。

図 10 0-2歳児の公的保育利用率

0102030405060708090

100Participation rate %

2014 2006

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア28

0-2 歳児の 19 %の世話をしている(図 11)。共働きのケースに限ると、アシスタントマテ

ルネルが 38%、保育所が 21%であり、フランスの共働きはアシスタントマテルネルによ

り可能になっていると言っても過言ではない。

歴史的に見ると、認可されたアシスタントマテルネルは 1990 年頃から増加を始め、ア

シスタントマテルネルの保育の対象となる子ども数は 30 年間で 8 倍以上になった(図

12)。後述のように以前からインフォーマルに市場価格を受け取って自分の子どもと一緒

に近所の人の子どもを預かる人たちはいたが、それが認可されて公的保育の枠組みに繰り

入れられたのである。1990 年には保育所とエコールマテルネルの早期入学という施設保育

が公的保育の中心だったが、その後、保育所は 30 年間で 1.3 倍の微増に留まり、エコール

マテルネルの早期入学は半分以下に減少した。1990 年代以降のフランスの保育は、3歳未

満児を対象とした施設保育の拡充を抑制し、従来からインフォーマルなかたちで存在した

アシスタントマテルネルを認可制にすることによる公的な「家庭的保育」を促進する方向

に進んだのである。前節に見た2000年代のフランスにおける家族支出の現物支給の減少は、

保育所建設からアシスタントマテルネルへという変化を意味していたようだ。

(資料)Drees, enquète Modes de garde et d’accueil des jeunes enfants, 2013.(出典)L’Accueil du Jeune Enfant en 2014, p.46.

図 11 フランスにおける 3歳未満児の主たる保育者(平日 8-19 時)(単位は%)

010203040506070

3

3

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京都社会学年報 第24号(2016)

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 29

公的責任による質保証

しかしこれをもってフランス国家が保育領域から撤退したとは言えない。アシスタント

マテルネルは「公的保育」に含まれており、公的責任により質保証が行われている。県議

会(Conseil general)が認定されたアシスタントマテルネルのリストが市役所に送られ、

親たちはそこから情報を得てアシスタントマテルネルと個人契約を結ぶ。この点に関して

パリ県(7)のアシスタントマテルネル関係の責任者にお話をうかがうことができた。パリ5、

6、13、14 区の担当者であり、その地域の母子保護センター(La Protection Maternelle

et Infantile=PMI)と社会サービス関係の事務機構が入る「子どもの家(Maison de

l’enfance)」 の社会サービス部門にオフィスをもっている。

   アシスタントマテルネルの認定、訓練、フォローアップを統括している。認定に当

たっては、フランス語能力、家の状態、衛生状態、動機などをチェックして、60 時間

の訓練の後に資格を与える(8)。資格は 5年間有効であり、延長するかどうかをチェッ

クして決定する。認定後のフォローアップはソーシャルワーカーが担当する。1人の

ソーシャルワーカーが 60 人のアシスタントマテルネルを受け持ち、仕事上の問題ば

かりでなく、アシスタントマテルネル自身の家族問題についても相談にのる。借金、

子どもの非行、夫婦の不仲等、アシスタントマテルネルの個人的問題が保育の質に直

(7)パリは行政的に県(Department)と市の両方に位置づけられている。(8)60 時間の訓練は 2004 年に義務化された。

図 12 フランスにおける公的保育の展開(保育者別受入れ子ども数)

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア30

接に影響するからである。5年に 1度の資格延長のための調査の他、個々のアシスタ

ントマテルネルは毎年レポートを提出して 50 項目についての評価を受ける。抜き打

ちの調査を行うこともある。昨年は本人の健康問題、自分の子どもの問題行動などで、

3人のアシスタントマテルネルが資格を喪失した。事故はあったが虐待のケースは無

かった。(2016 年 2 月 15 日 パリ県アシスタントマテルネル責任者)

アシスタントマテルネルの保育の質を向上させ、かつ孤立を防ぐための仕組みも設

けられている。ひとつは「アシスタントマテルネルの交流場所(relais assistantes

maternelles= RAM)」と呼ばれるもので、各区に 1箇所以上設けられた小さな保育所の

ような場所に、一度に 4、5 人のアシスタントマテルネルがそれぞれが世話をしている 3

人の子どもを連れて集まり、幼児教育士(éducateur de jeunes enfants)から運動、読書

などの保育方法についての指導を受ける。各アシスタントマテルネルが月 2回くらい参加

する機会があるのを理想としている。他のアシスタントマテルネルに会える機会でもある

ので、多くは好んで参加している。

もう一つは「家庭的保育所(crèche familiale)」と呼ばれるタイプの保育所であり、親

とアシスタントマテルネルが直接に契約する通常のケースと異なり、ここでは保育所が(す

なわち市が)アシスタントマテルネルを雇用しており、親は保育所と契約する。パリ 13

区の家庭的保育所を訪問し、所長からお話をうかがうことができた。

   ここでは 22 人のアシスタントマテルネルを雇用している。各々のアシスタントマ

テルネルは半日を週 2回、保育所に来て、他のアシスタントマテルネルと交流しつつ

教育士から指導を受ける。子どもがエコールマテルネルに入学する時期が近づくと、

週 4回に増やす。「より親密で家庭的ケア」と「集団的活動」の両方の経験すること

ができるので、小さい子どもには集団的保育所よりも適していると思う。また、月 1

回程度、アシスタントマテルネルの自宅を訪問して衛生面・安全面および教育面(年

齢に合ったおもちゃを使っているかなど)のチェックを行っている。(2016 年 2 月 10

日 家庭的保育所長)

このようにアシスタントマテルネルによる保育の質保証のために、何重にも手厚いサ

ポートと監督の仕組みが作られており、その責任と費用は公的に負担されている。施設保

育から「家庭的保育」に重点が移っても、(地方政府も含めた)国家が「公的保育」を提

供する責任を放棄したわけではなかった。

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京都社会学年報 第24号(2016)

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 31

ケアサービスの政策的市場化

アシスタントマテルネルの発展をヨーロッパ的視野のもとで見直してみると、これはフ

ランス一国の特殊性ではなく、福祉国家の先進地域であった北西ヨーロッパの国々の多く

に共通して見られる一種の「ビジネスモデル」であることがわかる。モレルらによれば、

高学歴の女性の就労を容易にすると同時に低学歴の女性に就労の機会を与える一挙両得の

経済政策として、補助金を投入して家事サービス市場を育成する政策が各国で採用された

(Carbonnier and Morel 2015)。アシスタントマテルネルは親と個人契約を結び、親に直

接雇用され、料金は両者の交渉により決定される。保育所を利用する場合、親の収入によっ

て料金が一律に決められるのとは異なる。まさにケアサービスの市場化である。ただしそ

の費用の一部は家族手当金庫(後述)から支援される。

アシスタントマテルネルという仕事が、子育て中の女性が仕事に復帰するためのよい

きっかけとなることは、筆者によるインタビューでも何度も確認することができた。たと

えば上記の家庭的保育所の所長は次のように語った。

   働いていた工場が閉鎖になり、すでに自分の子どもが 2人いたので、家に居て自分

の子どもと一緒に他人の子の面倒を見ることのできるアシスタントマテルネルになる

しかなかった。その後、看護助手の資格を取り、40 歳で学校に入り直して看護師の資

格を取り、この家庭的保育所の責任ある地位に就くこととなった。(2016 年 2 月 10 日

家庭的保育所長)

不況によって不安定な仕事に就かざるを得ない低学歴の女性がアシスタントマテルネル

になるケースがますます増えていると、前出のパリ県のアシスタントマテルネル関係責任

者は言う。しかし同時に本格的な専門職業化が進んでいると言う。家庭的保育所長の例は、

再教育によりスキルアップして専門的職業に就くという積極的労働市場政策の成功例でも

ある。

アシスタントマテルネルは「ケアサービスの市場化」の例ではある。しかしその様相は、

シンガポールや台湾などのアジア諸国で出会うケアワーカーとは大きく異なっている。ア

シスタントマテルネルは移民 1世や 2世も多いが、多くはフランス国籍を取得しており、

白人系のフランス人も決して少なくない。また労働者としての権利も法的に保障されてお

り、雇用者である親は労働法と労働協約に従わなければならない。「グローバル・ケア・チェ

イン」についての議論からは抜け落ちてしまうタイプのケアワーカーが、ヨーロッパでは

大きな割合を占めていることに注意する必要がある。

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Kyoto Journal of Sociology XXIV / December 2016

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア32

(2)子どものケアを支える多様なアクター

フランスの子どものケアにはアシスタントマテルネル以外にもさまざまなアクターが関

わっている。福祉ダイアモンド図式を念頭に置きながら、どのようなセクターのどのよう

なアクターがそれぞれどのような役割を果たしているのかを見てゆこう。各アクターの実

際の活動については、2015 年から 2016 年に実施したフィールド調査における観察とイン

タビューデータを用いる。前述の筆者ら自身によるアジアにおける先行研究でも、フィー

ルド調査を主要な方法として用いて、政策・制度研究や統計的な政策効果研究では看過さ

れがちな政策以前の慣習の効果や制度の実際の利用の程度、制度や組織間の関係のしかた

などに光を当てるように努めた。フランスにおける本調査においても、できるだけこの方

法を踏襲したいと考えた。フィールド調査は主にパリの 13 区で実施した。13 区は中心部

でも郊外でもなく、中流層の住むアパルトマン、より庶民的な集合住宅、社会住宅、移民

の集住地区が混在している。パリの他の地区、および地方都市のストラスブールとトゥー

ルーズにて実施した調査結果も一部使用する(9)。

図 11 を再び見てほしい。繰り返しになるが、3歳未満児の平日の 8時から 19 時までの

世話をしているのは、最も割合が大きいのは親で 61%、2番目がアシスタントマテルネル

で 19%、3番目が保育所で 13%である。共働きの場合は 1位と 2位が逆転し、アシスタン

トマテルネル 38%、親 27%、保育所 21%である。いずれの場合でもこの 3者が主要なア

クターなのは変わらない。

保育所の多様性

保育所にはいくつもの種類がある(表 1)。「市営保育所(crèche municipale)」とア

ソシアシオン(結社)が運営する「民営保育所、クレッシュアソシアティブ(crèche

associative)」は「集団的保育所(crèche collective)」として括られ、前出のアシスタン

トマテルネルの自宅での保育を組み合わせた「家庭的保育所、クレッシュファミリアル

(crèche familiale)」と対照される。これらの他に、親たちが共同で運営する「親保育所、

クレッシュパランタル(crèche parentale)」もある。これらには市と家族手当金庫(Caisse

d'allocations familiales = CAF)の資金が入っており、「公的保育」と認められている(10)。

(9)2015 年にドイツおよびイギリスにおいてもフィールド調査を実施したが、本論文では扱わない。(10)家族手当金庫とは、フランスの家族政策を実施するための金庫であり、社会保障拠出金(約 6割、

事業者が賃金の 5.4% 相当を拠出)、一般社会拠出金(約 2割、個人の所得に課せられる社会保障目的税)および国庫からの拠出金(約 2割)等を財源とする。国レベルの全国家族手当金庫(CNAF)から各県に設置された家族手当金庫(CAF)へと資金提供し、そこから直接に家族に各種手当を支給したり、自治体による保育施設運営に補助金を出したりする(山田 2010)。

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 33

「私営・企業保育所(crèche privée et d'entreprise)」は企業が経営している。それぞれの

保育所では保育士(puériculteur)、幼児教育士(éducateur de jeunes enfants)、看護師

(infirmier)、 保育助手(auxiliaire de puériculture)などの専門職が働いている。

市営保育所(crèche municipale)

主な職員は地方公務員であり、試験と面接を受けて採用される。保育士、保育助手、幼

児教育士、調理士、清掃係などが働いている。集団的保育所を開設するには、看護師、医師、

表 1 パリ市における保育所の種類

種類市営保育所Crèche municipale

民営保育所Crèche associative

親保育所Crèche parentale

家庭的保育所Crèche familiale

私営保育所Crèche privée et d'entreprise

運営 市営 アソシアシオン 親のアソシアシオン

市営またはアソシアシオン

1 企業または複数の企業またはアソシアシオン

タイプ 施設型 施設型 施設型 施設+自宅型 施設型

対象年齢 2ヶ月半~3歳 2ヶ月半~3歳 2ヶ月半~3歳 2ヶ月半~3歳 2ヶ月半~幼稚園入学まで

助成金

市+ CAF(Caisse d'allocations familiales)

市+ CAF(Caisse d'allocations familiales)

CAF (場合によって+ CMSA : Caisse de la Mutualité Sociale Agricole)

CAF(場合によって+CMSA)

企業(場合によって+CAFまたはCMSA)

管轄

PMI(Protection maternelle et infantile)

PMI(Protection maternelle et infantile)

PMI(Protection maternelle et infantile)

PMI(Protection maternelle et infantile)

 

従事者

puériculteur, éducateur de jeunes enfants, infirmier, auxiliaire de puériculture

puériculteur, éducateur de jeunes enfants, infirmier, auxiliaire de puériculture

親とéducateur de jeunes enfants, puériculteur, 等の専門職

assistante maternelle(在宅時)éducateur de jeunes enfants(保育所)

puériculteur, éducateur de jeunes enfants, infirmier, auxiliaire de puériculture

*徳光直子原案作成 http://www.paris.fr/petite-enfance参照* CAF=家族手当金庫、CMSA=農業社会共済金庫

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア34

助産師などの医療職をチームに入れなければならない。

入所にあたっては、親が入所申請を出し、パリ県が決定する。競争が激しく、希望が通

らないことも多い。妊娠 6カ月から申請できるので、みな早く申請する。選考基準は、共

働き、ひとり親、危険な状態にある子ども(医学的・心理学的問題・障碍、虐待、支援が

必要な親など)が優先される。すでにきょうだいが当該の保育所に通っていたり、双子だっ

たりする場合も優先される。経済的条件は条件にしていないが、多様性を重んじるためさ

まざまな子どもをミックスするという原則がある。保育料は親の収入によって異なり、ラ

ンチとおやつを含めて 1時間 0.9 ユーロから 4.09 ユーロまで。

マルトリートメントの疑いがあれば、各保育所の医師(常勤ではなくとも特定の医師と

契約している)に報告する。それから母子保護センター(PMI)の医師に報告する。PMI

は日本の保健所と児童相談所を合わせたような機能をもち、各区に設置されている。

13 区の市営保育所の例を紹介しよう。移民地区もある 13 区だが、この保育所は専門職

家庭の多い地区にある。

   2カ月半から 3歳半までの 88 人の子どもを預かっている。職員は 30 人。保育助手

が 16 人、教育士が 2人、調理師が 2人、清掃婦が 2人。所長と副所長は看護師であり、

産科の ERや赤十字での勤務経験がある。病気で熱がある子も(インフルエンザでな

ければ)預かる。親たちは休みを取るのがますます難しくなっているから。また 2カ

月半の産休終了後すぐに預ける人が増えている。健康上の理由があれば産休を 28 日

間延長することができるが、延長する人は減っている。仕事を失わないように、早く

仕事に復帰するようになっている。入所後も母乳哺育を続けることもできる、朝夕に

授乳に来るか、母乳を冷蔵庫で預かり職員が与える。そのようにして母乳哺育を 2年

半続けた人もいるが、普通は 1年以内にやめる。(2016 年 2 月 10 日 13 区の市営保

育所長)

民営保育所(クレッシュアソシアティブ)(crèche associative)

市営保育所と同じく集団的保育所であり、市と家族手当金庫から運営資金を得ている。

アソシアシオンが運営するので特色のある運営方針をもち、入所選考は独自の基準で行う

場合もある。赤十字が経営する保育所のように、貧困地区に建設する、養育に困難のある

子どもを優先して預かる等の方針をもつものもある。養育困難とは、障碍、認知的困難、

学習困難、メンタル問題、経済的困難などを含む。

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 35

   30 年前に歌手により設立された Groupe SOS というアソシアシオンは、HIV患者

救済のために設立されたが、困難を抱える子どもにも対象を広げ、さらにふつうの子

どもたちまで拡張した。現在はあらゆる子どもを対象とした保育所、高齢者ケア施設

をもち、フランス以外にも拡大している社会的企業である。フランスでは 4000 人の

従業員を雇用している。

   わたしはこのアソシアシオンのパリの Port de Vauves の保育所で幼児教育士をし

た後、所長になった。その地区の親たちは移民が多く、失業、離婚などさまざまな社

会問題による困難を抱えていた。現在は同じアソシアシオンの別の地区の保育所の所

長をしている。この地区は専門職の人たちが多く、前の地区とは対照的である。Port

de Vauvesの保育所は、土地、建物、経営のすべてがアソシアシオンのものだったので、

どの子どもを受け入れるかは所長と所員が決定した。しかしここの土地と建物はパリ

市のもので組織だけがアソシアシオンなので、受入れる子どもは市が決定する。

   この地区は専門職が多いので、保育所に 10 時間(最長のリミット)預け、そのあ

とはヌヌ(子守)(11)が見て、親は子どもが寝てから帰ってくるというパターンが多い。

Port de Vauvesでは母親はあまり働いておらず、母親が保育所に迎えに来るので、直

接の関わりができて、問題についても直接に話せた。しかしここでは親は迎えに来な

いし、ベビーシッター(12)は伝え忘れるので、レジメを渡して親に知らせる。問題が

あれば親を呼ぶ。親は忙しくとも来る。親は子どもの様子をよく知っており、この保

育所を信頼して任せている。多くの親はこの保育所の質の高さに満足しており、入れ

るのに競争になっている。「質」とは、医療、教育、子どもの社会化など、さまざま

な専門職がいることによる。(2015 年 9 月 14 日 民間保育所長)

長時間の保育ということから、24 時間営業の保育所があるという話になった。航空会社

の社員、警官、病院勤務など、夜間に働いている親が、夜 8時に子どもを保育所に預け、

朝迎えにくる。保育所は工場のようなシフトで対応する。従業員を見つけられず、増えて

いないそうだ。歴史を遡れば、19 世紀の北フランスには、織物工場の労働者のために 24

時間 6日間の保育所があったという。

(11)個人契約の子守かもしれないが、アシスタントマテルネルをヌヌと呼ぶ場合も無いわけではない。(12)アシスタントマテルネルと子守のどちらともとれる。

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア36

親保育所(クレッシュパランタル)(crèche parentale)

親がアソシアシオンを作り家族手当金庫から資金を得て運営する保育所。市が提供する

土地に建設する場合もある。親たちが雇用主となって専門職を雇用し、親も保育に参加す

る。働いていない親が中心となっていたが、今は多くの母親が働いているので、減少傾向

にあると言われる。

珍しい運営方法と思われるので、少し詳しくパリ 13 区の親保育所の例を紹介しよう。

他の保育所に入れないからここにしたという声がある一方で、親が参加する運営方法を高

く評価している人もいる。

   ここは 20 年前に設立された。創立者には一度会ったことがある。(木製のベッドや

遊具を見せながら)子どもたちの親が家具や遊具を手作りしたそうだ。普通の保育所

では親は子どもを送ってきて帰ればいいが、ここでは親は週 5時間の運営業務に携わ

る。保育料は収入による。

   幼児教育士を 4人雇用しており、親が午前に 1人、午後に 2人保育に入る。子ども

は 16 人。1人の教育士に子ども 4人というのはアシスタントマテルネルと同じ比率で

あり、集団的保育所よりいい。料理士と清掃係も雇用している。(2016 年 2 月 4 日 

父親の 1人である保育所長)

   わたしたちはこの保育所のオーナーであり、従業員なんだ。親も週 1回半日保育に

入る。月に 2、3 回は運営会議に参加する。保育所が終わってから夕食後に集まり、

ときには深夜までかかる。うちは木曜の午前に母親が保育に参加し、水曜の夜に父親

が会議に出席している。食材を購入したり、窓を直したりもする。それは疲れるよ。

でも、ここのすばらしいところは、子どもたちの成長を自分で知ることができるとい

うことだ。専門職と親が話し合うのも大事なことだ。それもとても時間がかかるけれ

ど。(親との付き合いは大変よ、とベテランの専門職が横から口を挟んだ。)

   市営保育所はあまり人間的ではない。個人的な関係が無い。ここの専門職の人たち

はすばらしい人たちだ。よく気を配っている。有機栽培の庭も作っている。彼女たち

彼らと一緒に働いてよく知るようになった。完全に信頼している。

   普通の保育所に入れるのが難しかったので、ここを紹介された。ここは入りたい人

が少ないから。妻は「ここはいいが時間がかかり過ぎるので他に移りたい」と探して

いたが、結局見つからず、ここで終わりそうだ。

   週 1回保育に入るのは、フレクシブルな仕事の人でないと難しい。研究者が多く、

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京都社会学年報 第24号(2016)

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 37

ジャーナリストもいる。外国人も多い。

   ここが大変すぎてやめた家族は 1ケースある。2年前にちゃんと仕事をしなかった

家族がいて、よい申請書を書けずに家族手当金庫から補助金を貰えなかった。彼らは

ここを去った。

   ここでやっていくためには、大人も子どもも社会的にうまくやれないといけない。

草の根民主主義の勉強のようなものだ。

   どうやって親になるか、これまで誰も教えてくれなかった。一人目の時は何もわか

らない。ここで専門職から教えてもらった。親仲間からも。Loczyの教育学トレーニ

ングで、子どもたちの攻撃性をどう扱うか、忍耐をどう教えるかなどを学んだ。ここ

に来る前はワークしなかった親たちがワークするようになる。

   ここの子どもたちはみんなの親を知っている。ほかの子たちは自分の子と同じでは

ないが、特別な関係だと思う。

   他の保育所よりも父親たちが関わっている。古典的な保育所では女性中心だが。こ

こは父親が多いので、男性保育士も喜んでいる。(2016 年 2 月 4 日 父親たち)

   市営、民営、私営の保育所からここに移ってきた。ここで働くことにしたのは、

Loczyの教育理念に惹かれたから。親と一緒というしくみもよい。保育所のサイズが

小さくて親密感があるのもよい。給与は市営保育園よりも低いけれど。(2016 年 2 月

4 日 保育士たち)

家庭的保育所(クレッシュファミリアル)(crèche familiale)

パリ市内には 32 カ所の家庭的保育所がある。すでに紹介したように、アシスタントマ

テルネルを保育所が雇用し、親は保育所と契約する。入所希望者は市営保育所と同じく市

役所に申請し、保育料も市営保育所と同じ金額である。子どもは普段はアシスタントマテ

ルネルの自宅で保育されるが、週 2回から 4回、半日ずつ、アシスタントマテルネルと共

に保育所に来て集団保育を経験する。家庭的保育所には比較的低所得の地区で発達の遅い

子どもを引き受ける役割もあることがインタビューからわかった。

   所長は看護師。2人の幼児教育士と 1人の保育助手および 22 人のアシスタントマテ

ルネルを雇用。現在 15 人の子どもを引き受けている。9月には 13 人が卒業するので

その分が空く。所長がベストマッチを考えて埋める。ここに来る親たちはさまざまで、

医師のカップルもいれば、メイドのお母さんもいる。

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Kyoto Journal of Sociology XXIV / December 2016

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア38

   保育所は年齢別で部屋に分かれ、成長すると次の部屋に移る。子どもは保育所では

いつも世話をしてくれているアシスタントマテルネルと離れて他の人に世話をされた

り他の子どもと遊んだりする。母親が子どもに母乳を与えにくることもある。

   保育所での活動は幼児教育士が考える。紙芝居を読む、穴に形の合うスティックを

入れる、窓を開けることで手の発達を促すなど。母親たちのために幼児教育士の指導

のもとアシスタントマテルネルが幼児発達の段階を示す絵を作成して壁に貼った。

   発達の遅い子を積極的に受入れている。喘息の子が多い。集団的保育所では弱い子

は感染しやすいので。未熟児が生まれると医師が家庭的保育所を薦める。早くから社

会性を身に付けさせたいからと嫌がる親もいるが、18-19 カ月までは発達が重要で、

社会性をつけるのはその後でいい。ダウン症の子を受入れたときは、3年ここで見た後、

1年間集団的保育所に通ってから、エコールマテルネルに入学させた。さらに遅れて

いるケースはジャルダンダンファン(後述)に入れる。重い障碍の子は特別な施設に

入れる。

   マルトリートメントのケースは今まで無かった。ただ、3歳の女の子のお尻に手の

跡がつくほど強く叩く父親がいた。父親本人に注意して、PMIの医師から話してもらっ

た。父親は自分の文化ではいいと言ったが、フランスではしないと説明した。

   パリには 32 しか家庭的保育所が無いが、13 区には 3つある。4つ目として集団的

保育所でアシスタントマテルネルを受入れているところがある。13 区には低所得の労

働者層が多いので、需要があると市役所が判断したのだろう。(2016 年 2 月 10 日 13

区の家庭的保育所長)

私営および企業保育所(crèche privée et d'entreprise)

 私営保育所・企業保育所は、私企業かアソシアシオンが設立した集団保育所である。一

部は自社の従業員の子どもを受入れる。市の規則に従い、家族手当金庫からの補助が受け

られる場合は料金も市営保育所に準じるが、そうでない場合は料金を自由に決められる。

私営は料金が高く、富裕層の地区にあるという印象がある。しかし保育所不足の現在、私

営保育所が増加している。次の例は、家族手当金庫からの補助が受けられるタイプの例で

あろう。

   企業が経営する私営保育所で働いて 8年目になる。私営保育所は今まで働いてきた

他の保育所とは違う。利益を出すということに目的がある。子どものためにならない

ようなことを、上司に指示されることがある。違法ではないが最低限の人数で働いて

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京都社会学年報 第24号(2016)

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 39

いる。パンフレットに出している教育プロジェクトはすばらしいが、それをするお金

がない。

   私営保育所での保育士の給与は民営保育所と同じくらい。親が支払う料金は親の収

入によって異なり、市営保育所とほとんど同じ。国からの補助があるからではないか。

(2016 年 2 月 25 日 トゥールーズの保育助手 58 歳)

保育所以外の集団的保育

これまで見てきたような保育所とは異なるが、乳幼児の集団的保育を提供する施設が他

にもある。

一時託児所(halte-garderie)

2 カ月半から 6歳までの子どもを対象としたパートタイムの保育施設である。市営、民

営(アソシアシオン)、私営のいずれもある。主婦に外出など息抜きの機会を与えるため

のフレクシブルな利用を想定して設立された。午前か午後の半日の利用を想定しており、

原則として昼食は出さない。定期的な利用も不定期な利用も可能である。利用料は家庭の

収入と子どもの数により異なり、1時間 80 セントから 4.28 ユーロまでの幅がある。主婦

の多い 15 区など富裕な地区に多い傾向があるが、他の地区にもある。富裕地区とは言え

ない 13 区では需要が落ちているという。

   以前は子どもともっと過ごしたいので半日でいいという人が利用していたが、今は

経済の変化により、1日中預けたい人が増えている。だから半日の一時託児所は空き

があって埋まらない。今ここを利用しているのは、保育所を落ちた人と、仕事を探し

ている人。フルタイムで働いている人は、あとの半日は高いのに子守を雇うなどして

いる。一時託児所は親たちのニーズにもはや合っていないので、違うタイプの保育施

設に転換したいと市に提案しているが、費用がかかるからとまだ認められない。(2016

年 3 月 3 日 13 区の一時託児所長)

幼稚園(ジャルダンダンファン)(jardin d’enfants)

エコールマテルネルと同じく 2歳以上(おもに 3歳以上)の子どもを対象とした幼稚園

(プレスクール)だが、エコールマテルネルが国民教育省管轄の教育機関であるのと異なり、

ジャルダンダンファンは保育所と同じく厚生省(Ministère des Affaires sociales et de la

Santé)管轄の PMIの監督下にある。エコールマテルネルは無料だが、ジャルダンダンファ

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Kyoto Journal of Sociology XXIV / December 2016

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア40

ンは 1カ月 3-16 ユーロを親が支払う必要がある。保育所の 1カ月 200-600 ユーロとは比較

にならないほど低額ではあるが。

1924 年にパリの貧困地域の社会住宅(低所得者向け公共住宅)地区に設置されたのに始

まり、現在パリには 22 カ所のジャルダンダンファンがある(エコールマテルネルの約 10

分の 1)。この背景から、適応や学習に困難を抱えたり家族問題や障碍があったりする子ど

もに適した教育プログラムを実施しており、そのようなケースではエコールマテルネルで

はなくジャルダンダンファンに入園するように勧められる。他方、ジャルダンダンファン

のような教育プログラムがよいと考える親がわざわざ選んで入園させることもある。

   エコールマテルネルでは子どもを学生と見るが、ジャルダンダンファンでは子ども

をまるごと子どもとして見る。エコールマテルネルでは学習と食事などの生活を分離

するが、ジャルダンダンファンでは生活や遊びの中で学ぶ教育プログラムを実施して

いる。食事のときにヨーグルトの数を数える、というように。モンテッソーリ教育を

取り入れている。皆が同じゴールを目指すのではなく、ひとりひとりの達成を大事に

している。

   この園は多様な子どもたちを受入れている。多様な社会的背景の子がおり、10%の

子どもは何らかの困難を抱えている。ジャルダンダンファンでは専門職のチームワー

クが必要。保育助手、心理学者、医師などがいろいろな活動をしている子どもを観察

して判断を下す。PMIの医師や心理学者が月 1回訪問する。

   必要と認めた場合は保育所や PMIの医師が親にジャルダンダンファン入園を勧め

るが、親の協力が得られるとは限らない。家庭での教育が欠けていたため、ジャルダ

ンダンファンでのケアがまだ必要と判断して小学校への入学を後らせるように助言し

たケースでも、「うちの子が馬鹿だと言うのか」と親が怒りだして問題が起きた。専

門家が意見を出し合う総合対策会議を開き、懸念事項収集部(CRIP)に報告した。

母親は子どもをエコールマテルネルに移したが、エコールマテルネルの園長が事情を

知って連絡してきたのでよかった。同じ区内なら連携は容易だが、パリの外に逃亡さ

れると連携は難しい。このケースでは母親自身に心理的な問題があった。母親自身が

難しい子ども時代を送ったので、愛着の絆を作れず、抱いたりキスしたりできなかっ

た。

   ジャルダンダンファンでは親も含めた対応を行っている。子どもにとって親は大切

なので。特別なイベントをしたり、親と教育士が 15 分くらい話し合ったり、相談に

のるようにしている。親子関係の問題は社会経済的背景とは必ずしも関係しない。路

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京都社会学年報 第24号(2016)

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 41

上にいる父親でも娘とよい関係を作っていることはある。(2016 年 2 月 9 日 13 区の

ジャルダンダンファン園長)

個人契約の家庭的・在宅保育

前述のように、1970 年代頃までは、子どもの世話を頼みたい場合、祖母に頼むのでなけ

れば、個人的に契約した知り合い等に有料で頼むのが普通だったという。インタビューの

中でもいくつもの証言が得られた。

   わたしは子どものときに隣りの人に預けられた。親と隣りの人は契約をしていた。

しかしひとりで放っておかれて怖かったことがあったので、母は契約を解消した。

(2015 年 6 月 22 日 ストラスブールの 30 代女性)

   33 歳でパリに移り教師として働き始めてからは、退職した女性が家に来てくれて、

ラクだった。義母や母とその女性が交替で子どもの送り迎えをしてくれた。その女性

とは教会で出会った。お金のためではなく、まだ動けるので面倒を見たいと言ってく

れて、わずかのお金でお願いしていた。のちにその女性とは友達になった。(2015 年

11 月 24 日 パリの 59 歳女性)

1990 年代以降、認定制度が普及して以来、このカテゴリーのアクターは認定されたアシ

スタントマテルネルとなっていった。他方、この枠組みに入らない個人契約の在宅保育も

続いている。

アシスタントマテルネル

制度の概要はすでに述べたので、ここでは 3人のアシスタントマテルネルおよびその経

験者のインタビューから、ケアワーカー自身がこの仕事をどのように見ているかを紹介し

よう。

   バカロレアを受けずにすぐ働いた。勉強したくなかったので。自分は子どもを預か

る仕事がしたかったが、アシスタントマテルネルについての情報は少なく、よい仕事

と思われていなかったので、母に止められた。その後、第 1子を産み、アシスタント

マテルネルに見てもらいながらパートタイムで働いた。第 2子を産んで仕事を辞め、

第 3子出産後 3年まで仕事をしなかった。その後、自宅でアシスタントマテルネルと

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Kyoto Journal of Sociology XXIV / December 2016

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア42

して働き始めた。児童学についての知識が無いと思ったので、40 歳で専門学校に行き、

保育助手の資格を取り、アソシアシオンの民営保育所等で働いた。(2016 年 2 月 25 日

トゥールーズの保育助手 58 歳)

前出の私営保育所で働いているトゥールーズの女性である。彼女が 20 歳前後だった

1970 年代末の世間のアシスタントマテルネルに対するイメージがわかる。その後のこの職

業の確立と保育職の専門職としての確立が彼女の人生の軌跡と重なり合っている。

次のストラスブールの女性は現在もアシスタントマテルネルとして働いている。労働条

件等について何も見ずに一気に語ってくれた。労働者としての権利は保障されているが、

不安定な要素もある。

   自分の母親もアシスタントマテルネルとして働いていた。今はアシスタントマテル

ネルが増えた。20 代の娘の母親は 40 代でまだ就業中なので祖母に頼れなくなったか

ら。この地域には保育所は少なく、隣り村に小さいのが一つあるだけ。この村には託

児所が一つあり、4時に幼稚園が終わったらそこで歌やゲームをする。親が仕事をし

ていたら 4時には迎えられないので、託児所かアシスタントマテルネルかヌヌが必要。

   2004 年からアシスタントマテルネルとして働いている。現在は自宅で 4人の子ども

の面倒を見ている。2人は 3歳未満で 2人は幼稚園。朝 7時半に親たちが連れてくる。

子どもたちには「おばさん(tatie)」と呼ばれている。

   アシスタントマテルネルになるには県議会の許可がいる。家庭の事情(子どもの有

無など)、保育したい子どもの人数・年齢を保育士が調査しに来る。健康診断と予防

注射も義務。保育する子どもの年齢の組合せについての要件はややこしい。2年前か

ら規制が緩和されて 4人まで可となったが、うち 2人はエコールマテルネルに通って

いないとならない。

   この仕事には労働契約があり、労働組合と労働協約(convention collective)もあり、

退職金庫もあり、病休中は国民健康保険庁とアシスタントマテルネル退職金庫から手

当がでる。仕事について質問があれば、県議会のオフィスに電話すればアドバイスを

貰える。

   収入は親から。時給による基本賃金と電気代などの経費を受け取る。法的な上限は

子ども一人当たり 1日 48 ユーロだが、そんなに高い金額は求めない。自分が求める

のは時給 5ユーロ。4ユーロの人もいる。時間が長くなると時給は下がる。1日に 10

時間預ける親もいれば 5時間の親もおり、月によって変動するので、年間を通じて収

入を安定させるのが難しい。

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京都社会学年報 第24号(2016)

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 43

   アシスタントマテルネルが何人か集まり、情報交換をしながらみんなの子どもたち

と一緒に時間を過ごす「アシスタントマテルネルの交流場所(RAM)」という組織も

ある。隣り村の高齢者施設の広い部屋を使って活動している。母の日、父の日、カー

ニバルなどはケーキを持ってきて家族のようにする。(2015年6月22日 ストラスブー

ル郊外の村のアシスタントマテルネル)

最後はパリで働くアルジェリア出身の女性。夫婦と 19 歳の大学生の娘、22 歳と 25 歳の

それぞれビジネスと心理学を修了した息子が同居している「とっても家族(très famille)」

な家で 3人(8カ月、22 カ月、3歳)の子どもを預かっている。ケアワークの経験が長く、

好きだと言う。「大きな家族」のように子どもを預かるという文化的特徴を何度も強調し

ていた。時給はストラスブールの方よりも安い。前の 2人と同様、資格を取ってスキルアッ

プしようとしている。

   17 歳で結婚して、それからずっと働いている。失業したことはない。同僚はよく失

業しているが。高齢者ケアを長く続けた。好きだった。お年寄りは子どもに似ている。

   12年前からアシスタントマテルネルをしている。子どもが育って「この家に“赤ちゃ

ん(bébé)” がいなくなってしまう。どうしよう?」と言っていた夫は、子どもが来

て喜んだ。これまで全部で10人の子どもの面倒を見た。いつも3人の世話をしている。

空きができると PMIがすぐに次を紹介してくるので。今まで途中でやめたのは保育

所に入れた 2人のみで、保育所に入れることになったのに 18 カ月の子どもをここに

残すことにした親もいた。みんな満足しているということ。子どもたちは時間が来て

も帰りたくない。子どもたちにはファーストネームで呼ばれている。夫も含めて大き

な家族みたい。

   毎朝 8時半から夕方 6時半か 6 時 45 分まで預かるが、親の都合によって変更可。

昼食とおやつを出す。夕食をここで食べることはほとんどない。天気がいいといくつ

かの公園、雨だと図書館に併設したプレイセンターに連れてゆく。親の仕事時間がま

ちまちなので大変。教育はしないが、数や色を教え、歌も歌う。

   CAP(Certificate d’Aptitude Professionnelle)の資格試験のために仕事の記録を

厚いファイルにまとめている。この資格があれば幼児教育士として保育所で働ける。

でもアシスタントマテルネルの方が保育所より自由があって好き。1人に 3人の子ど

もなので親密な関係が作れる。親にとったら保育所よりも少し高いが、ここの方がい

いだろう。料金は時給 3.7 ユーロ貰っている。一時託児所なら 0.8 から 4ユーロだが。

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア44

(2016 年 3 月 18 日 パリ 13 区のアシスタントマテルネル アルジェリア出身)

在宅保育(garde à domicile)

親子の自宅で子どもの世話をする在宅保育が 3歳未満児の平日昼間のケアに主たる役割

を果たしている割合は 1%、共働きの場合でも 2%しかない(図 11)。しかし夕方の公園で

は子どもを遊ばせている子守(ヌヌ)と思しき女性たちをかなり見かける。保育所のお迎

えに子守を頼むケースもある。夫婦とも出張のような場合に子守を頼むというケースも聞

く。毎日ではない利用は上記の統計に表れた以上にあると思われる。アフリカ系、フィリ

ピン系、中国系など外国人が多く、知り合いのつてで雇用する。家事全般を引き受けるが、

子守や介護が含まれる場合もあるということのようだ(13)。パリ市の情報サイトを見ると、

在宅保育に携わるケアワーカーを包摂する制度づくりが動いているようだが、本論文では

紹介できない親たちのインタビューに登場したケースを振り返ると、現状では労働許可な

しに働いているケースが多いようだ。子守の経験もあるフィリピン人家事労働者のインタ

ビューを以下に紹介しよう。

   デンマークにいる友達の伯父を訪問するということでヨーロッパに来て、そのまま

いる。仲介のために350000ペソ(7000ユーロ)支払った。フィリピンではオフィスワー

クをしていた。掃除の仕事は何も知らなかった。最初にフィリピン人の子どもの世話

をした。今はユダヤ人家族の大きなお屋敷に住み込んでいる。18 歳と 16 歳の娘のい

る 4人家族。月曜から金曜まで午後 5時間家事をする。マダムがいないときは子ども

たちといるのが仕事。いい人たちだが、ときどき多過ぎるほどの用事をさせる。午前

中は他の家族の家でパートタイムで働いている。月水金は 4人の娘のいるユダヤ人家

族。火木は 80 代の夫婦の家。

   以前にひどい扱いを受けたこともある。「金を払っているんだから何でもしろ」と

言って、ひどいことを言う雇い主もいた。わたしは泣いた。また、妻子が留守のとき

に腰のマッサージをしてくれと夫に言われ、断ったこともある。

   ボス(雇用主)が申告しないので、労働許可を貰えない。自分は申告してほしいが、

ボスは税金を払いたくない。申告するなら税金を(雇用主と本人が)半分ずつ支払お

うと言われたので、断わった。

(13)また、留学生の多いパリでは、フランス語の日常会話の練習を兼ねて、住み込みのオペアとして子どもの世話と教育係をする外国人学生もいる。ドイツ、ロシアなどヨーロッパ系も北米やアフリカ系もいる。

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京都社会学年報 第24号(2016)

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 45

   家族を支えるために仕事をしている。少しでも多く送金したい。特に弟、妹、残し

てきた自分の子どもの教育費のために。(2015年 7月 11日 フィリピン人家事労働者)

労働者としての権利を保障されない働き方が、アジアの外国人労働者とよく似ている。

変容した福祉国家による家事サービス市場の育成は、その枠組に包摂されて権利を保障さ

れるケアワーカーを大量に育成した一方で、そこから排除された層も生み出した。

親族とその擬制

図11によると、平日の昼間、祖父母その他の家族成員が世話をしている3歳未満児は3%、

共働きのケースに限ると 6%である。この数字を見る限りアシスタントマテルネルや保育

所に比べてその役割は小さいように見えるが、そうだろうか。実際はどのような役割を果

たしており、その役割は変化しているのだろうか。

祖父母

1970 年代に公的保育が発達する前は、母親が働くときは祖母に子どもの世話を頼むのが

普通だったという。

現在の祖母(祖父の場合もある)の役割は、保育所のお迎え(祖父母でなければ子守が

来るケースが多いという)、病気で保育所に行けないときの世話、保育所に入れない場合、

および長期休暇のときに子どもを預かることなどがある。フランスでは夏休み 2カ月(7-8

月)の他、秋とクリスマスと 2月と春に 2週間ずつ休暇があるので、親も一部は休暇をと

るが、それ以外のときは祖父母に預けるケースが多い。公的保育や学校の存在を前提に、

補完的役割を果たしていると言えよう。就労する母親が増加していることを反映し、祖父

母の役割はますます大きくなっていると言われる。

以下は折に触れて 7人の孫の面倒を見ている祖母の事例である。祖母自身も教師として

働いている。

   今は働きながら、保育所に迎えに行ったりしている。フランスでは祖母の役割は大

きい。お迎えはだいたい祖母かヌヌ。さきほども息子から電話があり、明日保育所に

迎えに行ってくれないかと言う。明日は仕事があるのでダメ、と断わった。

   アパルトマンの一部屋は孫たちの部屋にしておもちゃを置いている。必要なときに

面倒を見るほか、いとこが来ているときに来ることが多い。祖父母がいとこたちをつ

なぐ役割を果たしている。11 月の休みには、3週間の間、4人の孫が入れ替わりこの

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Kyoto Journal of Sociology XXIV / December 2016

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア46

家にいた。(祖母である本人は仕事があるので)昼間は(退職している)夫が面倒を見た。

とても大変だった。10 歳、7歳はいいのだけれど、3歳が特に大変だった。齢をとっ

てから子どもの面倒を見るのは大変。でも、たとえ疲れても引き受けないとならない。

そうでないと孫たちに知ってもらえない。祖父母から学べることも多いはず。

   病気の時も大変。責任を感じる。40 度の熱が出た 2歳の子を預かったときは、「お

母さんと話したい」と言うので困った。医者に連れてゆくのではなく、家でアスピリ

ンを飲ませ、風呂に入れ(40 度の熱があるなら 39 度の)、タオルも同じくらい温める。

加減が難しい。自分の子でないので全く違う。自分の子なら熱の出たときの反応を知っ

ているので。(2015 年 11 月 24 日 7人の孫のいる 59 歳の女性)

パランとマレーヌ(parrain/marraine)

ゴッドファーザーとゴッドマザー。人類学の用語では「擬制的親族」ということになる。

元来はカトリックの習慣であり、洗礼の時に選ぶ。現在は宗教とは関係ない慣習として一

部の家族で実施されている。自分も姪のパランとしての役割を務めている 20 代の男性に

話を聞いた。

   パラン、マレーヌとは、両親に加えて一生をかけてその子の面倒を見る人。時間を

共に過ごし、特別な関係を作るのが大事。親とは違う。親は距離が近すぎて客観的に

見られないことがあるので、パランとマレーヌが客観的に見る役割を果たす。親とパ

ランのバランスをとることが大事で、たとえば父親が怒りっぽければ穏やかなパラン

を選ぶ。パランとマレーヌの一方は親族から、他方は両親の友達から選ぶことがよく

ある。絆を維持するために選ぶこともある。また家族の中で未婚の人がいたら優先し

て頼む。子どもがいて経験のある人に頼むわけではない。パランになることは、親に

なる前の訓練になる。なんて大変なことなんだ、と。なお、パランはマレーヌと結婚

してはいけない。

   クリスマスプレゼントをあげるだけのパランになってしまうといけない。お誕生日

に電話をするほか、定期的に話す時間をとってどうしているか聞く。困ったことがあっ

たら相談する。親に頼まれて 1週間くらい預かることもある。自分は少なくとも年に

2回会うようにしている。非行に走った場合はパランが責任をとったり助けたりする

こともある。特に親が責任をとらないとき。経済的援助はあまり聞いたことはない。

フランスでは家族より前に国に援助を求めるから。

   パランは親に何か問題があったときのセーフティネットとしての役割を果たす。親

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京都社会学年報 第24号(2016)

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 47

が離婚した場合も、子どもはパランと離婚しないから大丈夫。パランは親の夫婦関係

には介入しないが、子どもとの関係は続く。親が亡くなった場合はパランが一時的に

引き取ることもあるかもしれないが、長期的には無いだろう。そういう子どもは国家

に保護されるから(pupille de la Nation)。その場合も裁判で決まってパランが後見

人になることもある。(2015 年 7 月 13 日 姪のパランになった 20 代男性)

課外活動

ここまでは主に就学前の幼児、ジャルダンダンファン以外は 3歳未満児のケアに焦点を

当ててきた。3歳からは無料のエコールマテルネルにほぼ全入し、子どもは教育の対象と

なってゆくからである。しかし、小学校に上がってからも、学習以外の時間が存在する。

フランスでは夏休みなど休暇も長い。その時間の子どもたちの世話をする多種の課外活動

が発達している。課外活動はアニマトゥール(animateur)と呼ばれる人たちが取り仕切り、

子どもたちの活動の世話をすると同時に安全確保に努める。アニマトゥールの資格(Brevet

d’aptitude aux fonctions d’animateur=BAFA)を得るには、理論編と実地研修を 1週間

ずつ受ける。パリ市の課外活動担当者に制度の概要をうかがった。

   フランスの教育の軸は 2つある。学校での学習は国民教育省の管轄だが、課外活動

は若者スポーツ省の管轄である。課外活動で子どもを預かる組織(アソシアシオンと

学校の学童保育)は、子どもと大人の人数比、資格、未成年保護の観点からしてはい

けないことなどについて、省の規則に従う。

   両親が子どもを監督するものとされているが、パリ市はひとり親が多く、働いてい

る人も多い。かつてのように親が子どもを見られなくなっているので、公的機関がバ

トンタッチする必要が出てきた。学校の昼食時間と学校が終わった後の 16 時半以降

を「新しい教育時間」と名づけられた。

   希望する子どもたち全員を受入れるのがパリ市の特徴。2013 年の改革の時に受け入

れ能力を高めて全員受入れられるようにした。13 万 6500 人の学童のうち、80%が課

外活動に参加している。残りの子どもたちはスポーツクラブに行ったり、アシスタン

トマテルネルの世話になったり、家に帰ったり。7歳以下の子どもをアシスタントマ

テルネルに預けると税免除がある。

   課外活動の料金は親の収入により 10 段階に分かれている。パリでは無料は無い。

最も安いのは 1日 20 サンチーム。支払うことに象徴的な意義がある。

   パリ市には 6700 人のアニマトゥールが働いており、内 3000 人は公務員、3700 人は

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Kyoto Journal of Sociology XXIV / December 2016

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア48

臨時雇用。ボランティアもいる。アニマトゥールは若い女性が多く、コロニー・ド・

バカンスの場合は時給 11 ユーロ 75 サンチーム、1日 9 時間で 111 ユーロ。1980 年代

には教師が学校に残ってアニマトゥールの役割を果たしていた。

   地区アソシアシオン(association de quartier)を作り、親と市がパートナーとなっ

て活動している。活動内容は、①助成金をもらって学校で絵画のアトリエを開くなど

の活動をすることと、②市にしてほしい活動のリストを作成すること。

   貧困地区での特別教育なども実施している。教育士、アニマトゥール、教師を集め

て何ができるか話し合い、集合住宅に集まって 6-11 歳を対象に読み書きを教えるな

ど。(2015 年 9 月 28 日 パリ市の課外活動担当者)

課外活動センター(centre de loisirs)

パリでは各エコールマテルネルもしくは小学校内に課外活動センターを設置している。

3-14 歳の子どもを受け入れる。夏休みその他の学校の休暇、および授業のない水曜日の午

後に開かれる。

夏休み 2カ月(7-8 月)の間、パリの多くの家族はヴァカンスに出かける。ヴァカンス

に行けない家族の子どもたちのために、夏期プログラムを提供している。

   夏は学期中にできなかったような活動を提供する。パリに居てもヴァカンスのよう

なプログラムを提供する。ヴァカンスに行ったような気分になるのが大事。ヴァカン

スに行くのは人権の一部のようなものだから。幼稚園と小学校を一緒に実施しており、

プール、柔道、ボクシング、集団スポーツが多い。パリ郊外のヴァンセーヌの森、サ

ンクルーの森、ブローニュの森にある自然体験空間(Espace Nature) でテントを張

り食事や活動をする日帰りプログラムもある。朝、親などと一緒に来て登録し、あら

かじめインターネットで申し込んだグループに参加する。グループは、幼稚園児では

5人の子どもに 1人の大人、小学生では 8人の子どもに 1人の大人がつく。

   課外活動センターのセンター長はパリ市役所の公務員であり、資格(BAFD)を持っ

ている。アニマトゥールは臨時雇用であり公務員ではない。経費は家族手当金庫から

補助される。

  (2015 年 7 月 16 日 13 区の課外活動センター長)

コロニー・ド・ヴァカンス(林間学校)(colonie de vacances)

宿泊を伴うタイプと伴わないタイプがある。宿泊を伴うタイプのコロニー・ド・ヴァカ

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京都社会学年報 第24号(2016)

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 49

ンスは夏期などに実施する。実施主体は、国、市町村、アソシアシオン、(コロニー・ド・ヴァ

カンス実施を業務とする)民間企業、一般企業内の福祉を扱う部署など。2-3週間のプロ

グラムで(幼児は 1週間も)、他の町を見にゆく、自然に触れるなどのタイプが多い。5-

18 歳の子どもを対象とする。コロニー・ド・ヴァカンスを実施する前に県の担当者に申請

する。どのようなアニマトゥールが必要か、前科のあるアニマトゥールはいないかなどを

審査される。実施にあたっては、アニマトゥールの 80-90%は資格のある人でなければな

らないが、残りは資格が無くてもよい。

宿泊を伴わないタイプは上記の課外活動センターが地域で実施するもの。市町村が運営

する。半公務員(アソシアシオンで勤務しているが給与は国から出る)がフルタイムで年

間を通して担当する。

以下にアニマトゥール経験者のインタビューを紹介しよう。青年期にアニマトゥールを

経験することは、本人にとっても貴重な経験であることが語られる。

   自分も子どもの時にコロニー・ド・ヴァカンスに参加して楽しかった。参加した理

由は夏休みが長かったのと、両親が働いていたから。両親がロマンティックなヴァカ

ンスを取りたかったという理由もあると思う。お母さんが UFCV(Union Française

des Centres de Vacances)―フランスで最大規模のコロニー・ド・ヴァカンスの団体

―のカタログを持ってきて、そこから選んだ。自分はパリに住んでいたので、トゥー

ルーズのアソシアシオンを選んだ。トゥールーズで各地から来る子どもたちと出会う

ことができた。公的なコロニー・ド・ヴァカンスだと、その地域の子どもだけになる。

民間のものはけっこう高くて、自分の参加したところは週700ユーロ。公的資金が入っ

ていなかったからだろう。

   経験した子が大人になって同じ場所で同じ友達と一緒にアニマトゥールになること

がある。自分もアニマトゥールになってロールプレイングゲームのコロニー・ド・ヴァ

カンスを実施した。19 歳から 23 歳まで学生時代の夏休みの仕事として。給料がよく

ないので職業にすることはできない。アニマトゥールについての論文によると、アニ

マトゥールの給料は最低賃金に近く、月 1000 ユーロだそうだ。お金のためではなく

楽しいからしている。(2015 年 7 月 6 日 アニマトゥール経験者の 20 代男性)

   カトリックのアソシアシオンである Association Catholique des Enfants(ACE)

に 8年間は子どもとして参加し、その後 3-4年間アニマトゥールとして参加した。1

年間クラブに属して、夏に 1週間のキャンプを実施する。ボーイスカウトより柔軟で

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Kyoto Journal of Sociology XXIV / December 2016

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア50

リラックスしている。1年間の活動は、2週間 1回くらい会合をして、ゲームをしたり、

(環境問題、ごみ問題、障碍について、などの)議論をしたり、老人ホームを訪問したり。

キャンプでは全国から来た人たちが集まり、遊びや議論、劇をする。アニマトゥール

同士の会でエクアドルに行き、コミュニティの人たちと協力して学校建設の手伝いを

したこともある。

   自分にとって重要な経験だった。学校ではそういう機会は全く無いので。学校には

いじめがあったが、ACEは男性的な体育会系的なものではないので居心地がよかっ

た。学校と家族の間でちょうどいい。その後、チームを率いるようになって、裏側を

知ることができるようになった。アニマトゥール同士のいざこざも乗り越えることが

できた。この経験から二つのことを学んだ。他人を愛するということと、責任を取る

ということ。ボーイスカウト(Scouts de France)にいたら、計画を立てるようになっ

ただろうが、ここでは人の話を聞くことを学んだ。自分はこれが無かったら、ひきこ

もりになっていたかもしれない。(2015 年 7 月 13 日 アニマトゥール経験者の 26 歳

男性)

4 考察

本論文では、福祉国家の「削減」が言われた時代以降のヨーロッパにおいて、「アジア

化するヨーロッパ」と言えるような現象が起きているかという問いを立て、OECD諸国の

財政支出の分析およびフランスにおける子どものケアに関する調査を主要な方法として仮

説の検討を試みた。公的社会支出の減少という財政面から見た福祉国家の「アジア化」は、

西欧および北欧の主要国については見られなかった。むしろ高齢者への年金から子どもを

養育する家族の支援に重点を移す社会投資型福祉国家への変容が見られた。また子どもの

ケアに関する限り、現物支給から現金給付へという転換も起きておらず、現金給付が大幅

に増加したのは自由主義的福祉国家に分類されるイギリスのみであり、イギリスも含めて

ほとんどの国で 1990 年代から 2000 年代を通じて現物支給が増加傾向にある。しかしその

中で、いったんはスウェーデン並みに達したフランスは、2000 年代以降、現物支給の水準

を次第に下げていた。これは保育所建設の抑制とアシスタントマテルネルへの転換を反映

しており、親たちにとっては保育所入所に際しての熾烈な競争、アシスタントマテルネル・

一時託児所・親保育所などの次善の選択、保育所経営側からすれば、より需要のあるタイ

プの保育所への転換の難しさなどを帰結していた。

しかし、フランス国家が子どものケアから撤退しているかと言えば、そんなことはない。

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京都社会学年報 第24号(2016)

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 51

国・県・市および家族手当金庫からの資金があらゆるタイプの保育所(市営保育所、家庭

的保育所はもちろんのこと、アソシアシオンが経営する民営保育所の一部、親保育所のみ

ならず私営・企業保育所の一部まで)に入っており、その場合は料金も親の収入に応じて

定められている。親が雇用者となるアシスタントマテルネルの場合は料金は個人契約によ

り決まるが、一部は家族手当金庫から支援される。国家は子どものケアの費用をかなりの

程度負担しており、料金も規制して、親の経済状態によるケアへのアクセス不平等が生じ

ないように努めている。またさまざまな資格制度による専門職の配置と、母子保護センター

(PMI)による監督と支援により、保育の質保証も公的責任において果たしている。

フランスの子どものケアには国家以外のセクターのアクターもさまざまな形で関わって

いる。まず市場セクターについては、保育所不足のため、利益追求型の私営・企業保育所

が増加している。アシスタントマテルネルはケアサービスの市場化政策の産物である。と

はいえ、前述のように質保証や料金の補填というかたちで、国家により高度に規制された

「準市場」と言うべきであろう。他方、在宅保育の担い手である子守(ヌヌ)には労働許

可が無い者も少なくなく、外国人である場合も多く、料金の規制も補助もなく、保育の質

保証も労働者の保護も行き届かない。ケアサービス市場の政策的形成は、その枠組に包摂

される労働者と排除される労働者を生み出した。もっとも数的には前者が圧倒的に多いの

で(後者の過少推定の可能性を考慮しても)、前者も低賃金であることは否定できないが、

“ 人権も守られない条件で働く外国人家事労働者 ” というアジアにおけるケアの市場化の

イメージとは異なる状況が生まれているということは指摘しておきたい。

家族・親族セクターについては、母親の就労の増加により祖父母の役割が大きくなった

と言われているものの、実際に祖父母が果たしている役割は保育所のお迎えや休暇の世話

など公的保育の補完であった。公的保育が未発達のアジアにおいて祖父母が朝から夕方ま

で、時には夜まで孫の世話を引き受けているのとは異なる。この点についてはヨーロッパ

の中でも国による差があり、福祉国家の弱い南欧ではアジア的な状況があることが明らか

になっている(Herlofson and Hagestad 2012)。なお、家族・親族セクターが子どものケ

アに果たす役割は、育児休業制度など福祉国家の「時間政策」によっても影響を受ける。

この点についてはここまで触れることができなかったので、一言加えておこう。表 2に見

るように、フランスの育休は日本より短く、有償と言っても給与の 18.4%しか補填されな

い。母親に長期の有償休暇を与えることによるケアの家族化政策はとっておらず、むしろ

女性の労働力化を促している。

アソシアシオンは民営保育所や親保育所の経営、コロニー・ド・ヴァカンスの実施など

に携わっている。特色のある運営方針をもてることを強みに、親の参加を可能にしたり、

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Kyoto Journal of Sociology XXIV / December 2016

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア52

貧困地区や養育困難のケースを優先したりしている。

発達の遅い子やなんらかの問題を抱えた子を早く発見して支援することが、フランスの

保育では重視されている。家庭的保育所やジャルダンダンファン、一部の民間保育所はそ

れを一つの使命と位置付けている。それ以外の保育所でも、発見したら母子保護センター

(PMI)に報告する仕組みが確立されている。PMIは保健所と児童相談所の機能を併せも

つような機関であり、産後検診で問題ケースを発見する他、専属の医師・看護師が担当地

域内の保育所・アシスタントマテルネルや母子を監督して相談や通報を受ける。虐待や重

い養育困難などの深刻なケースはさらに懸念事項収集部(CRIP)に回され、個別ケース

ごとに医師、看護師、心理士、ソーシャルワーカーなどの専門職集団が集まって判断し、

必要とされれば行政的保護あるいは児童判事の判断によって司法的保護の対象とされる。

行政的保護や司法的保護を実施する機関の多くがアソシアシオンである。フランスの福

祉関係のアソシアシオンは 100%公的資金によって運営しているのが普通である。母子寮、

乳児院、児童養護施設の他、多様なかたちの施設外支援がある点が日本と違う。司法的

保護のひとつである施設外教育支援(AEMO)、行政的保護である在宅教育援助(AED)、

予防クラブ(prévention spécialisée)、パレナージュ(parrainage)などはほとんどアソ

シアシオンにより運営され、さまざまな専門職が働いている。通常の保育のみでなく、養

育困難を抱えたケースや児童養護の対象となるようなケースまで含めると、フランスの子

どものケアにおいてアソシアシオンの果たしている役割は格段に大きくなる。

以上から、フランスの子どものケアに関するダイアモンドを描いてみたのが以下の図 13

である。変化する以前の左図も変更されている。福祉国家の全盛期であっても、アシスタ

ントマテルネルの前身にあたるインフォーマルなケアワーカーが存在したこと、祖父母と

くに祖母の役割は大きかったことから、市場セクターと家族・親族セクターを図 3より拡

表 2 産休・育休の長さと給与補填率産休(週) 産休給与補填率 育休(週) 育休給与補填率

韓国 12.9 80.2 52.2 30.2スウェーデン 8.6 77.6 51.4 61.1日本 16 67 44 59.9ドイツ 14 100 44 47イタリア 21.7(5 ヵ月) 80 26 30フランス 16 100 26 18.4イギリス 39 30.9 - -

(資料)OECD Family Database

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京都社会学年報 第24号(2016)

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 53

大した。変化後の右図では、国家セクターが拡大し、他の 3セクターと重なって下支えし

ている。福祉国家の変容は他の 3セクターのケア供給者としての役割を拡大させたが、市

場には規制による質保証とケア購入費の一部を補填することで、アソシアシオンには規制

による質保証と補助金を与えることで、家族には公的保育との補完関係を生み出すことで、

福祉国家は他のセクターと「混合」しながらセクター間の調整と資金配分という になる

役割を果たし続けている。

フランスでの調査と並行して、「ヨーロッパ化するアジア」仮説の検討のために、アジ

アの数カ国の比較調査も進めてきた。アジアのいくつかの国では福祉国家建設が進行して

いるものの、国家から他のセクターへの資金配分が少ないということが、目立った特徴だっ

た(Ochiai and Tsuji forthcoming)。すなわちヨーロッパとアジアにおける研究の結論は、

両地域の福祉レジームの間には大きな違いがあり、いくらか歩み寄っているとはいえ、収

斂に向かっているとは言い難い。つまり「アジア化するヨーロッパ」と「ヨーロッパ化す

るアジア」のいずれの仮説も支持できないということが現時点での結論である。

とはいえ、フランスの子どものケアに焦点を当てた本論文は、ヨーロッパの福祉国家の

持続性を過大評価している可能性が強いことを最後に付け加えておきたい。社会投資型の

福祉国家への変容が一般的な傾向であるなら、削減されやすいのは子どもよりも高齢者の

ケアの方であり、また国別に見るとフランスは北欧諸国に次いで福祉国家を維持する志向

が強いからである。特に子どものケアについては、人口減少の心配と共和国イデオロギー

のため、子どもの養育の責任を国家と家族が共に担うという考えが 19 世紀末以来強い

(Letablier 2013)。たとえば自由主義型福祉国家のイギリスの高齢者ケアについてのフィー

ルド調査を行えば、いささか違う光景が見えるのではないだろうか。理論的には「アメリ

図 13 フランスにおける子どものケアダイアモンドの変容

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落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア54

カ化するヨーロッパ」「アメリカ化するアジア」という視角も加えることを次の課題とし

たい。

謝辞 本論文は、イル・ド・フランス政府の招聘により 2015 年 4 月より 2016 年 3 月まで

の 1年間「ブレーズ・パスカル国際研究員(Blaise Pascal Chair)」としてフランス社会

科学高等研究院に滞在し実施した研究プロジェクト “Changing care diamonds in Europe

and Asia: Is Europe becoming Asia?” の成果である。イル・ド・フランス政府、資金の受

入れ先となってくださった ENS財団と資金管理をご担当くださったサンドリーヌ・ゴー

ズさん、および滞在先としてこれ以上ない環境をご提供くださったフランス社会科学高

等研究院/パリ仏日高等研究センター(Centre d’études avancées franco-japonais Paris

=CEAFJP)のセバスチャン・ルシュヴァリエ所長、助手の阿毛香絵さん、臺丸謙さん、

本研究プロジェクトの助手として資料収集、インタビュー先とのコンタクト等の万般をサ

ポートし、インタビューに当たっては通訳の役割も果たしてくださったフランス社会科学

高等研究院大学院生の徳光直子さん、ノア・バーガーさん、フランスにおけるケア研究の

手ほどきをしてくださった CNRSのマリー・テレーズ・ルタブリエ名誉教授、フィール

ド調査をお世話くださったストラスブール大学のサンドラ・シャール先生、ケンブリッジ

大学院生のコスタンティーニ博子さん、INALCO院生のアリーヌ・エニンジェさん、そ

してインタビューに応じてくださった多くの方々にお礼を申し上げたい。

文献

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Family Formation and Kin Relationships, Bristol: Policy Press.Carbonnier, Clément and Nathalie Morel eds., 2015, The Political Economy of Household Services in

Europe, Houndmills: Palgrave Macmillan. DOREES, 2012, L’accueil des jeunes enfants: axe majeur de la politique familiale francaise depuis le

annees 1970, Dossiers Solidarite et Sante 31.Herlofson, Katharina and Gunhild O. Hagestad, 2012, “Transformation of the role of grandparents

across welfare states,” Sara Arber and Virpi Timonen eds., Contemporary Grandparenting, Bristol: The Policy Press, 27-49.

Letablier, Marie-Thérèse, 2013, “The politics of parenting: the meaning of children, the meaning of work in France,” Anne Lise Ellingsæter, An-Magritt Jensen and Merete Lie eds., The Social Meaning of Children and Fertility Change in Europe, Oxon: Routledge.

Morel, Nathalie, Bruno Palier and Joakim Palme eds., 2012, Towards a Social Investment Welfare State?: Ideas, Policies and Challenges, Bristol: Policy Press.

落合恵美子・山根真理・宮坂靖子編, 2007, 『アジアの家族とジェンダー』勁草書房Ochiai, Emiko, 2009, “Care Diamonds and Welfare Regimes in East and South-East Asian Societies:

Bridging Family and Welfare Sociology,” International Journal of Japanese Sociology 18:

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京都社会学年報 第24号(2016)

落合:フランス福祉国家の変容と子どものケア 55

60-78.Ochiai, Emiko and Barbara Molony eds., 2008, Asia's New Mothers: Crafting Gender Roles and

Childcare Networks in East and Southeast Asian Societies, Folkestone: Global Oriental.Ochiai, Emiko and Yuki Tsuji eds., forthcoming, Transforming Familialism, Leiden: Brill.Razavi, Shahra, 2007, The Political and Social Economy of Care in a Development Context, Gender and

Development Programme Paper No. 3. Geneva: UNRISD.Razavi, Shahra and Silke Staab eds., 2012, Global Variations in the Political and Social Economy of

Care: World Apart, New York: Routledge.山田千秀, 2010, 「フランス及びドイツにおける家族政策―海外調査報告」『立法と調査』310 号:3-12 頁

資料

OECD Family database: http://www.oecd.org/els/family/database.htmOECD database on social spending: https://data.oecd.org/socialexp/social-spending.html’Observatoire national de la petite enfance rapport 2015: L’Accueil du Jeune Enfant en 2014, Caisse

nationale des Allocations familiales.

(おちあい えみこ・教授)