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Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title Author 今井, 華子(Imai, Hanako) 井上, 哲浩( Inoue, Akihiro) Publisher 慶應義塾大学大学院経営管理研究科 Publication year 2020 Jtitle JaLC DOI Abstract Notes 修士学位論文. 2020年度経営学 第3687号 Genre Thesis or Dissertation URL https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=KO40003001-0000202 0-3687 慶應義塾大学学術情報リポジトリ(KOARA)に掲載されているコンテンツの著作権は、それぞれの著作者、学会または出版社/発行者に帰属し、その権利は著作権法によって 保護されています。引用にあたっては、著作権法を遵守してご利用ください。 The copyrights of content available on the KeiO Associated Repository of Academic resources (KOARA) belong to the respective authors, academic societies, or publishers/issuers, and these rights are protected by the Japanese Copyright Act. When quoting the content, please follow the Japanese copyright act. Powered by TCPDF (www.tcpdf.org)

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Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案Sub TitleAuthor 今井, 華子(Imai, Hanako)

井上, 哲浩( Inoue, Akihiro)Publisher 慶應義塾大学大学院経営管理研究科

Publication year 2020Jtitle

JaLC DOIAbstract

Notes 修士学位論文. 2020年度経営学 第3687号Genre Thesis or DissertationURL https://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/detail.php?koara_id=KO40003001-0000202

0-3687

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I

慶應義塾大学大学院経営管理研究科修士課程

学位論文(2020 年度)

論文題名

造花 SPA 企業 P社への ID-POS データ分析に基づく戦略提案

主 査 井上 哲浩 教授

副 査 林 高樹 教授

副 査 山本 晶 准教授

副 査

氏 名 今井 華子

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II

論 文 要 旨

所属ゼミ 井上哲浩研究会 氏名 今井華子

(論文題名)

造花 SPA 企業 P社への ID-POS データ分析に基づく戦略提案

(内容の要旨)

本研究では、造花の SPA 企業である P 社の ID-POS データを用いた顧客分析と戦略提案を

行った。

P 社は専門的商材である花材資材の SPA 企業である。しかし、近年の増収減益の財務状況、

売上の流通チャネルへの依存、社内の DX 推進の遅れなどの全社的課題により、顧客マネジ

メントの強化を求められていた。

本研究では、協同研究の了承の元、P社より ID-POS データの提供を受けた。分析対象とし

たのは2018年 1月 1日から 2019年 12月 31日までの2年分の約 197万レコードの購買デー

タである。これらは、P社の自社小売店舗の売上データである。具体的な分析方法だが、ま

ず分析の準備フェーズでは購買データ、商品マスタ、顧客マスタを用いて、データウェアハ

ウスを構成した。顧客ごとに購買傾向を集計し、購買金額の個人内シェアを算出し、データ

ウェアマートに整えた。変数として主に着目したのは商品分類の中分類である。

分析フェーズでは、顧客のセグメンテーションを行った。まず、顧客を購買金額によって

ランク分けする。動的な優良化顧客を捉えるため、「顧客の購買金額の 2018 年から 2019 年

の変化」に着目し、時間軸を加えた分類を行った。

分析の成果は大きく分けて2つある。一点目が、顧客の中分類別購買金額を元に、因子分

析・クラスター分析の手法を用いて、「アートフラワー購買型セグメント」「ドライフラワー

購買型セグメント」「ディスプレイグッズ型」という3セグメントを見出した点。二点目に、

セグメントごとに顧客の優良化要因とその促進要因を特定した点である。顧客の優良化要因

の特定にロジスティック分析を、顧客優良化の促進要因の特定に重回帰分析を用いた。例え

ば、「アートフラワー購買型セグメント」の優良化要因は、中分類の「フラワー自社」「ドラ

イフラワー」「花器自社」「花器他社」「フラワー他社」であった。さらに、「花器自社」に最

も影響を与える促進要因は「一伝票当たりの購買点数」であった。

分析結果を基に、P 社へ具体的な戦略提案を ROI 計算と共に行った。「まとめ購買のセー

ルスプロモーション」行い、顧客の優良化率を高めようというものである。

本研究を通し、ID-POS データから顧客分析を行い、有用な分析結果を得ることが出来た。

今後の課題は、経営課題解決のための様々なイシューの設定と定性情報の取得である。それ

らによって、さらに有用な仮説立案と戦略提案が出来ると考える。

Page 4: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

III

目次

研究の目的 ........................................................................................................ 1

1.1 研究の背景と問題意識 ............................................................................................. 1

P 社について..................................................................................................... 2

2.1 P 社概要 ................................................................................................................... 2

2.2 製品・商材特性と事業特性 ...................................................................................... 5

2.3 会員類型 .................................................................................................................. 11

2.4 外部環境 ................................................................................................................. 12

2.5 経営課題 ................................................................................................................. 13

先行研究.......................................................................................................... 14

3.1 顧客マネジメント .................................................................................................. 14

3.2 関係性マーケティング ........................................................................................... 15

3.3 関係性マーケティング手法 .................................................................................... 16

使用データについて ....................................................................................... 18

4.1 データ概要 ............................................................................................................. 18

4.1.1 商品カテゴリー中分類 ....................................................................................... 19

4.2 分析フロー ............................................................................................................. 20

4.2.1 準備フェーズ ...................................................................................................... 20

4.2.2 使用変数について ............................................................................................... 21

4.2.3 分析フェーズ ...................................................................................................... 22

4.3 分析方法 ................................................................................................................. 22

4.3.1 因子分析 ............................................................................................................. 22

4.3.2 クラスター分析 .................................................................................................. 24

4.3.3 ロジスティック回帰分析 .................................................................................... 25

4.3.4 重回帰分析 ......................................................................................................... 26

P 社の顧客分析 ............................................................................................... 27

5.1 セグメント ............................................................................................................. 27

5.1.1 顧客のランク分け ............................................................................................... 27

5.1.2 比較グループの変更 ........................................................................................... 39

5.1.3 因子得点によるセグメント分け ......................................................................... 45

5.1.4 顧客のランク分け2 ........................................................................................... 55

5.2 優良顧客化要因の分析 ........................................................................................... 58

5.3 優良顧客化促進要因の分析 .................................................................................... 63

P 社への戦略提案 ........................................................................................... 69

6.1 戦略と戦術の示唆 .................................................................................................. 69

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IV

6.2 研究の限界 ............................................................................................................. 74

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1

研究の目的

本章では、本研究を実施する目的とその意義について整理する。

1.1 研究の背景と問題意識

今回、研究対象とした P 社は筆者の父が共同経営する、造花の SPA 企業である。筆者は

今後事業承継を予定しているため、現在学んでいる経営学の知識を有効に活用としたいと

思い、研究対象とした。

問題意識の最も大きなものとしては、リテールトランスフォーメーションが急速な勢い

で全世界的に進んでいる。デジタルデバイスの普及、消費者の EC 習熟度向上、越境 EC の

拡大などを背景に、EC 市場は拡大の一途をたどっている。2019 年の国内雑貨・家具・イン

テリア領域における EC 化率は 25%、年平均成長率は 8.5%(2014 年から 2019 年)となって

いる。(経済産業省 2019)P 社の売上における Web 関連購買は低くとどまっている一方、

競合の花材資材のオンライン市場は目に見えた急拡大をしている。P 社でも EC サイトの強

化やビックデータの利活用などといった DX 推進の声が高まっているものの、社内での DX

の推進度は低い状態である。

P 社の直営店の顧客の特徴として、本社店舗のある神奈川県の顧客の利用率が高く、店舗

から地理的に離れるほど、利用率が低下する特徴があった。この問題を解決するためにも、

店舗から離れた顧客にも利用してもらえるような、オンライン購買システムの敷設が事業

拡大のためには必須である。最終的には、オンライン購買とオフラインでの購買体験をシー

ムレスに感じてもらえるよう、購買体験を統合的にデザインしていく。すなわち、起点とな

るデータをもとに、個々人の体験を連続的に捉え、それぞれのエンカウンターの機会に 1to1

志向の対応を提供する。オンライン、オフライン両方を連続的な購買体験を顧客に提供し、

他社との差別化を図る。このように、P 社の経営陣には、プロダクトとサービスを一貫した

サービスのパッケージとして消費者に提供することで、他社との差別化を図り、顧客を増や

したいという思いがあった。

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2

P 社について

本章では、研究対象の P 社について、会社概要から経営課題までを整理する。

2.1 P 社概要

P 社は、1969 年に現 K 社長の実家を間借りする形で創業された。はじめは、有り物の造

花のフラワーアレンジメントを町の理髪店や、薬局などにレンタルする事業であった。高度

経済成長期の波に乗り事業は発展し、次の事業として造花などのディスプレイ資材の販売

事業に進出した。1986 年には、自社製造を手掛けるべく、香港に海外法人を設立し、自社

工場の運営を開始した。現在は中国国内に複数の拠点を持ち、年間約 1000 コンテナの製品

を製造している。

現在での事業内容は、大きく4つに分かれる。すなわち、

1.ディスプレイグッズ・造花の生産および輸入・卸販売。

2.商品の企画開発およびディスプレイ提案

3.スクール事業。ディスプレイクリエイターの養成

4.OEM 生産

以上の4つである。造花・ディスプレイ分野に関して、製造販売から、製品を使った施工

サービス、ディスプレイ関連技術者の教育事業と全方位的に事業展開としている点が特徴

である。

数ある事業の中でも中核事業となるのは、製造販売事業である。ホームセンターやスーパ

ー、百円均一ショップなどの小売業者に対して卸販売を行っている。中でも 1980 年代後半

に誕生し、その後訪れるデフレを背景に人気の小売業態となった百円均一ショップへの販

売量は連続して上昇しており、P 社の卸事業の中でも大きな割合を占める。図表 2.1 は 2018

年度の売上構成をチャネル別に集計したものである。63%が対流通販売、37%が自社店舗

関連の販売によるものである。現在、売上の過半数を占めるのは、対流通企業に対する販売

だが、流通業者を通じた販売は利益率が圧迫される傾向にある。

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図表 2.1 チャネル別売上構成

出所:筆者作成。

一方で、自社の直営店を通じた販売では値付けや物流費用の面から、利益率のコントロー

ルが容易である。チャネル別経常利益率を見てみると、直接取引事業は、関連事業がすべて

プラスに転じているのに対して、流通卸事業では、ホームセンター部門において、大きく利

益率を下げてしまっている。流通卸事業では、その時期に販売力のある小売業事業者の業績

に左右されるため、安定的でないのだ。そのため、販売力のある小売事業者をフォローして

いくことは戦略重要だが、小売業態全般のビジネスモデルが変化していく渦中にあり、不確

実性は増している。そのため、より利益の確実性を高めるためにも、自社から直販できるチ

ャネル強化を重要視している。

図表 2.2 チャネル別利益率

出所:筆者作成。

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4

さらに、確実性の点に加え、直営店ではマーケティング施策の幅が広がるため、より積

極的に販売力を高めていける可能性が出てくる。卸事業では最終顧客の顔が見えず、ニー

ズ把握やインサイトの調査が困難なため、最終顧客とのコミュニケーションやユーザーの

ニーズに即した商品開発を行うのに適していない。しかし、直接取り引きのあるユーザー

に対しては、デジタルマーケティングでマーケティングコストを低減しながら、様々なア

プローチが可能だ。例えば、数ヶ月取引履歴がない顧客にのみに値引きのプロモーション

を提示すれば、自社のコストを最小限に抑えながら、休眠顧客化を防ぐことができるだろ

う。

P 社の売上の全体の 37%にあたる直接取引事業の内訳を見ていこう。およそ 80%を占

めるのは、横浜にある本店に紐づく売上である。さらに全体の 23%が完全に BtoB タイプ

の事業の店装支援の事業となっている。この事業では、P 社の営業担当が顧客に対してき

め細かく対応するので、施工を含めた提案サービスである。一方、本店関連の売上のほと

んどは、顧客が自分に必要なものを直接来店もしくは Web/FAX などから購買する顧客層

から来ている。残りの 19%は自社運営1店舗とフランチャイズ 4 店舗とから成る売上であ

る。FC 店舗が本社と契約金を支払い、本社が屋号、資材などを提供するという仕組みで

ある。

図表 2.3 自社直接取引売上内訳

出所:筆者作成。

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2.2 製品・商材特性と事業特性

P 社の主力製品は自社製造している造花である。造花を見慣れない読者も多いと思う。造

花について、簡略に説明したい。造花はその名の通り、生花を模して造られるイミテーショ

ンの花のことである。例えば、赤いバラの花を思い浮かべてほしい。造花の場合、とげのあ

る緑の茎の部分はプラスチック、赤い花びらや、葉は布でできている。それぞれの部品は

別々に作られており、プラモデルのように組み合わせられてできている。実際の製造工程で

はできる限り機械化がされているが、最後の組み合わせの工程は機械化が難しく、現在もほ

とんどが人の手で行われている。

図表 2.4 造花のサンプル写真

出所:フラワーデザイン資材 2019。

造花のパーツとなる、プラスチックや布の形成に欠かせないのが金型である。花の種類は

何千種とあるし、さまざまなサイズに対応するため、結果的に数万種類の型が必要となる。

造花というものが世に登場した当初には一目で造花とわかるチープな作りも多かったが、

今では造花も進化し、生花と見紛う商品が増えている。造花の生産工程は十工程にわかれる。

造花の品質のキーとなるのは、花びらの色を決める捺染過程である。よりリアルな色合いを

出すには、繊細な色づかいやグラデーションの表現など高い染色技術力が求められる。しか

し、布への染色は、気温、湿度などの諸条件に左右されるため、難易度が高い。造花の製造

は、生活雑貨品の中では製造が比較的難しく、高い専門性と経験が求められる領域の製品と

いえる。印刷機を一つ買って、明日から工場をスタートさせようというような気軽な参入は

極めて難しい。そのため、世界的に見ても、他業界より工場数が限られている。とりわけ、

国内競合では大規模製造機能を内製化した企業は他になく、経験を積んだ工場と工員は、P

社の競争優位の一つである。

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なお、造花はアートフラワー、アーティフィシャルフラワーとも呼ばれている。本稿の後

半では、社内の呼び方にならいアートフラワーと呼ぶことが多くなるが、呼び方の違いだけ

であって、まったく同じものである。

図表 2.5 造花の生産工程

出所:P 社 Web ページ。

次に、造花の商品としての特性について見ていく。

造花の特長は以下の通りである。

1. 長い間楽しめる

2. 加工が容易で、アレンジの自由度が高い

3. 衛生的

4. 丈夫で、保存や管理しやすい

5. 大きなアレンジメント、施工やディスプレイに適している。

1 本単位で販売される造花は、1 本だけで使われることは滅多にない。通常、様々な種類

の造花や、グリーンの資材と組み合わせて、アレンジメントを構成する要素となる。生花は

花の大きさや重さで、アレンジメントに制限があるが、造花は人工物なので、アレンジのバ

リエーションが多彩だ。例えば、花を天井から無数に吊り下げたいとか、受付に巨大なモニ

ュメントのようなアレンジメントを作りたい場合、造花であれば、かなり簡単に作ることが

できる。一方、生花で実現しようとすると、水はどのように確保するのか、茎の部分の長さ

が足りなくて、固定ができないなど、解決困難な問題が発生するのが容易に想像出来るであ

ろう。さらに、長期保存が可能、耐久性がある、ドレスを汚すことがないなどの理由から、

ウェディングブーケにも用いられている。アレルギーを引き起こす心配もないので、クリニ

ックや病院などで好んで用いられることもある。

丈夫な作りのため、様々な加工や、繰り返し利用にも耐える。ラメを吹きかけたり、つる

したり、固定したり、作り手が思いのままの表現が出来る。そもそもの造花も、実際にない

色を作り出すことも可能であるし、開発段階から自由度の高い花材であると言えるだろう。

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図表 2.6 造花の使用例1:大型アレンジメント

出所:Instagram アカウント atelier_tamaco。

図表 2.7 造花の使用例 2:ウェディングブーケ

出所:Instagram アカウント Matricaria flowers。

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図表 2.8 造花の使用例 3:壁面グリーンディスプレイ

出所:P 社 Web ページ。

こうして作られたアレンジメントは、一過性で鑑賞される生の花束に比べ、当然ながら半

永久的に楽しむことが可能だ。メンテナンスフリーで長期間楽しむことができる。気に入っ

たらいつまででも飾っておけるし、季節ごとに保管して繰り返し利用することもできる。こ

の特性から、商店のディスプレイなどでは生花より好んで用いられる場合が多い。生花や観

葉植物に比較して、導入・管理コストを大きく削減することが出来る。

自社製の造花の売上シェアは 18%であり(2019 年)社内の全商品を商品群別に分類した

「中分類」の中では全体で 2 位のシェアとなっている。なお、1 位は後ほど触れるドライフ

ラワーのグループである。シェアでは 2 位だが、利益率が最も高く、商品開発から活用提案

までの仕掛けを一連に設計出来る自社製造のフラワー群は、最も重要な商品群である。

P 社の商品でもうひとつ特筆すべき商品は、プリザーブドフラワーである。2019 年の対

売上比でみると、約 27.8%を占める、全商品中のうち、最も大きな売上を上げる重要商品群

である。(厳密にはこのグループには昔からあるタイプのドライフラワーも含められるが、

主な売上はプリザーブドフラワー由来である。)プリザードフラワーは従来タイプのドライ

フラワーのように、実際の生花を乾燥させたものである。異なる点は、特殊な溶液を加工に

用いる点だ。溶液には染色剤も含まれているため、鮮やかな色に着色できる。感触は柔らか

で、リアルな造形が特徴で、3 年ほど楽しめる。1991 年にフランスのヴェルモント社が開

発し、世界に広まった。プリザーブドフラワーフラワーブームが 1990 年代前半にあり、ブ

ーム後も、カテゴリーとして着実な地位を築き、2009 年度の国内末端市場規模は 52 億円

であった。これは花き業界全体の規模の 1 兆円からすると、約 0.5%にと小さく感じるが、

一つの技術の登場が十数年で市場を作り出したという点では特筆に値する。現在では選択

肢も増え、日本のメーカーのもの、コロンビアやエクアドルからの輸入品など様々なメーカ

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ーから販売されている。

株式会社矢野経済研究発行の『フラワー&グリーンビジネス白書 2010 年版』によると

プリザーブドフラワーの特長は、

・長い間美しい花の姿を楽しめる

・生花のようなみずみずしさとソフト感

・色数が豊富でニュアンスカラーも登場

・クラフト的な装飾と相性がよい

などが挙げられる

図表 2.9 プリザーブドフラワーのサンプル写真

出所:フラワーデザイン資材 2019。

造花とプリザーブドフラワーは生花の欠点を補った花材という共通点を持つが、それぞ

れ得意な分野が異なるため、メリットデメリットを整理しておこう。

共通するメリットは、

・長期間楽しめる

・加工が可能である

点である。

プリザーブドフラワーと比較した造花のメリット/デメリットは、

・主役級の花に加えて、サブのグリーンや花を足すことで、材料費を抑えられる

・ステム(茎)が長いので、大型のアレンジメントに適している

・壊れにくいので、レンタルやディスプレイ資材として安心して使用できる

等の点である。

造花と比較したプリザーブドフラワーのメリット/デメリットは、

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・よりリアルな質感を楽しめる

・花の部分のみで、ステムがないため、小さいアレンジメントに適する

・花弁のみで作品を構成するため、材料費が高額になりやすい

・花の種類が限られている(バラ、アジサイ、ガーベラ、ファラリス、モス等が中心)

・繊細な取り扱いが要求される。湿気や直射日光に弱い、色落ちしやすい、壊れやすい。

等の点である。

P 社の主力商品の特性を見てきたが、こうした商品特性から考えられる事業特性をまと

めたのが図表 2.10 である。まず1点目である。商品がフラワーアレンジメント資材を中心

としている以上、趣味利用や、商業施設や住空間でのディスプレイ資材として利用される等、

利用シーンの特殊性が高い。専門商材であるが故、相対的に必要とする人が少なく、市場規

模としては小型である。しかし、ニーズのある顧客は繰り返し購買をする傾向にあるため、

顧客マネジメントが重要になってくるだろう。

2点目は、花材資材の具体的な商品属性に関わる問題である。生花のトレンドの影響を受

ける点、半永久的に繰り返し使用できる点などが、商品開発における差別化可能性を押し下

げている。

3点目は、商品の物理的属性に関したものである。商品自体がかさばる、また組み合わせ

て使うため、品ぞろえの幅を深くとる必要があり、SKU が膨大となる。結果として、陳列コ

スト、在庫管理コスト、物流コストなどが増大する。

図表 2.10 商品特性からみる P 社の事業特性

出所:筆者作成。

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2.3 会員類型

P 社では、会員制をとっており、会員の方のみに販売をしている。会員種別は 3 種類であ

る。「販売を目的として仕入れ」する顧客をブルー会員、「販売を目的としない仕入れ」する

顧客をホワイト会員、個人利用の顧客をアルテミス会員と読んでいる。

ブルー会員は、フラワーアレンジメント教室や、ディスプレイを請け負う施工業者などで、

価格は上代の最大 50%引きになる。ホワイト会員は、レストラン、不動産業者など自社事

業にディスプレイ商材を必要とする事業者で、価格は上代の最大 30%引きになる。アルテ

ミス会員は一般客のため、上代の 10%引き程度で購買ができる。それぞれの対売上比率は、

93%、3%、4%となっている。

図表 2.11 ブルー会員 在住地内訳

出所:筆者作成。

図表 2.12 ブルー会員 業種内訳

出所:筆者作成。

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2.4 外部・内部環境

P 社の内部・外部環境について見ていこう。図表 2.13 は P 社の内部・外部環境に加え、

取りうる戦略を検討した SWOT 分析である。

図表 2.13 クロス SWOT 分析

出所:筆者作成。

これらの種々の要素のうち、最も大きな外部環境変化は EC市場規模の急速な拡大である。

2019 年の段階で雑貨・家具・インテリア領域における EC 化率は 25%、年平均成長率は

8.5%(2014 年から 2019 年)となっている。(経済産業省 2019) 造花資材市場でもオンライ

ンに特化した「はなどんや アソシエ」をはじめ、大小さまざまなオンライン商店が出店し、

取扱量は年々増加している。また、BtoC 市場だけでなく、「ミンネ」「Etsy」などのハンドメ

イドの CtoC オンラインプラットフォームも盛況だ。2017 年度のホビー白書によると、オン

ラインハンドメイド市場は 2014 年の 35 憶円から 2017 年の 165 憶円とおよそ 5 倍に拡大

している。背景には、デジタルのインフラ整備の普及だけでなく、顧客の消費スタイルの変

化がある。ユーザーとして消費するだけだった顧客が、趣味の延長として生産も行うプロシ

ューマ型タイプへと移行しているのだ。働き方改革で副業が推奨されており、収入源の複数

化の手段として選ばれるという側面もあるだろう。

P 社の内部資源を検討した図が、図表 2.14 である。P 社のサプリチェーン上の強みは、製

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造を内製化している点である。

図表 2.14 VRIO 分析

出所:筆者作成。

2.5 経営課題

P 社が早急に取り組むべき財務上の課題として、利益率の改善がある。利益率低下の主な

要因は、売上の約 6 割を占める卸事業における、売上減少による粗利益率の悪化である。国

内の卸事業のマーケットトレンドは、取引先の小売店舗の売り場減少や、国内市場の人口減

少などの原因によって縮小傾向にある。したがって、会社全体の利益率の改善のためには、

売上の約 4 割を占める自社直営店舗販売

を拡大する必要がある。

また、P 社の事業特性であるリピート顧客の重要性にかんがみると、改善には、「自社直

接取引チャネルにおいて、利益率のよい優良顧客の増大」が必要である。一般にパレートの

法則では、上位20%の顧客が売上の80%を生み出していると言われている。さらに、上

位20%の顧客が企業全体の収益の80%を生み出し、その収益の半分は下位30%の利

益性のない顧客へのサービスで失われているという。(Blattberg 2001)顧客の分析を行い、

優良顧客を特定し、適切な経営資源配分を行うことで効率的なマーケティング施策を実行

でき、収益性の改善が見込める。

具体的な顧客分析をどのように進めるかだが、P 社では自社直営店における全購買のデー

タを ID-POS データとして収集している。この内部資源であるデータからデータベースを

作成し、購買データ、購買データを分析することで、改善するためのマーケティング施策へ

の示唆が得られると考える。

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先行研究

本章では、本研究を実施するにあたり、先行研究を整理する。

3.1 顧客マネジメント

企業の戦略において、顧客マネジメントが重要視されてきたのは、世界的には 1970 年代

であるが、日本の実務ベースで広く論じられるようになったのは、1990 年代に入ってから

である。当時、長期に渡る景気の停滞で、供給が需要を上回る自体が生じていた。平たく言

えばそれまでの「作れば売れる」という時代から、消費者の選別眼は厳格化し、マーケティ

ングの良し悪しが業績格差に直結するようになった。流通の主要なチャネルがメーカー系

列店による囲い込みチャネルから、オープンチャネルに中心を移した。専門量販店や総合量

販店の新規参入が相次ぎ、メーカーの商品しか取り扱わなかった系列流通業者も他社商品

を扱わなければいけなくなった。こうした変化は、消費者の商品知識が増え、メーカー系列

店の得意とする、きめ細やかな商品説明等の人的販売サービスへのニーズが減ったことを

背景としている。消費者は、より安く、より深い品揃えの量販店での購買を好むようになっ

ていった。

図表 3.1 消費者の購買性質の変化

出所:池尾、井上(2008)。

こうした流通構造の変化の結果、力を持つようになったのは小売業者であった。図表

3.2 では構造をイメージで図示している。生産者と消費者をつなぐ中間業者である彼らが果

たした役割は大きく分けて 3 点ある。1 点目は生産と消費の間の乖離を埋めたこと。2 点目

は、取引数削減原理による効率改善。3 点目に取引先探索と交渉過程の効率化である。消費

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15

者側から見ると、彼らのような中間業者は探索コストの削減を実現し、利便性向上に大きく

貢献した。しかし、ここでの問題は、量販店の品揃えが同質化してしまえば、顧客はどこで

買っても同じということになってしまうということである。品揃えがほとんど同じでも、顧

客に選んでもらうには、どうしたらよいのか。そうした状況を背景に、顧客のロイヤリティ

を最大化しようという視点が生まれ、関係性マーケティングの概念が生まれてきた。

図表 3.2 流通構造の変化

出所:池尾、井上(2008)。

3.2 関係性マーケティング

関係性マーケティングは、1990 年代後半にネット販売の急成長とともに注目をされ、

アメリカで発展してきた。「顧客と個々の取引をバラバラのものと考えるのではなく、超規

定・安定的な取引関係を持つこと」の重要性を掲げ、ロイヤリティや顧客エクイティ等を論

点とした議論を中心に展開してきた概念である。ペパーズとロジャーズによると、ワン・ト

ゥ・ワンマーケティングの枠組みは以下の 4 点からなっている。

(1) 見込み客と顧客を特定する。

(2) (1)顧客のニーズ (2)自社にとっての顧客価値という観点から顧客を分類する。

(3) 一人ひとりのニーズについての知識を向上させ、さらに強力なリレーションシップを構

築するために、顧客と交流する。

(4) 各顧客に向けて製品、サービス、メッセージをカスタマイズする。

(1)の購買顧客特定のフェーズで、革新的な役割を果たすのが、ID-POS(ID-Point of Sales)

である。POS は小売店の購買情報をデータシステムによって管理する方法で、日本では 1980

年代頃から普及した。レジにおける生産性の向上や、在庫管理、売れ筋商品の分析などマー

ケティング意思決定に有益な情報を収集できるとして、いつ、どこで、何を買ったかという

単発の購買データを扱う。ID-POS データはそれに加え、顧客の個別識別が可能である。そ

のため、顧客単位での購買行動が補足できる。どのくらいの頻度で来店があるか、そして顧

客エクイティの計算も可能にしたのである。

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16

3.3 関係性マーケティング手法

現代の関係性マーケティングにおいて、ID-POS データが大きな役割を果たすことを前節

で言及したが、実際に ID-POS データを用いたマーケティング手法はどのようなものだろう

か。

まず、関係性マーケティングを施行した場合の、顧客側のメリットを確認しよう。(池尾、

井上 2008)によれば、個別対応により顧客の享受するメリットは、ニーズに合った品ぞ

ろえ、買い物候補の提案、併売リストの提示などによる、探索・選択努力の軽減である。ま

た、中間業者の品揃えをすることによって、商品とのマッチングがスムーズ化し、顧客がマ

ッチングへの信頼感を高めることが出来、ひいては中間業者そのものへの信頼感を醸成す

ることが出来る。ただし、購買関与度の高い顧客は、買い回りコストが非常に低いため、探

索・選択コストの軽減が全ての顧客のメリットにならないことには注意が必要だ。

小売業者側では、上述した個別対応を可能にするほかに、顧客ニーズの正確な把握とニー

ズに合った商品調達、すなわち新製品・PB 商品の開発などをスムーズ化が可能だ。

さて、小売業者がどのように顧客の情報と個別購買情報である POS を結び付けるかとい

うと、独自の決済カードやポイントシステムの導入が代表的である。顧客の情報には、年齢、

性別、住所、会員歴、誕生日等のデータが含まれるだろう。一方、POS データには、商品の

カテゴリー、単価、割引率、販売店、販売時間等が含まれる。具体的にこれらの情報を分析

して有用な情報を取り出すことをデータマイニングと呼ぶ。

データマイニングの活用例は多岐にわたる。図表 3.3 は池尾、井上(2008)による活用例

である。どのような分析手法を選ぶかは、マーケティング課題に合わせて変わってくる。

図表 3.3 データマイニングの活用例

出所:池尾、井上(2008)より筆者作成。

同著では、アスクル・データの例を引きながら、データ分析の手順を示している。まず

は、購買履歴を顧客別のデータに変換する。この際、集計期間と商品レベルの設定に注意す

る。さらに、マーケティング課題によって問いを立てていく。ここでは、例えばマーケティ

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17

ング課題を個々の既存顧客の購買金額の維持・拡大とおいてみよう。すると、購買金額の大

きい顧客と小さい顧客の間で何が異なるかを明らかにする必要があるだろう。さらにこの

問いを具体的に考え、仮説を立てる。例えば、「ある顧客の現在の購買行動は、過去に特定

の品目を購買して、満足したり、満足しなかったりした結果である可能性が大きい。」とす

る。それをデータ上で置き換えて考えてみると、「4期において購買金額が大きいのは、3 期

においてどのような特性の購買を行った顧客なのであろうか。」という具体的な問いが立て

られる。この問いをデータ分析の一手法である重回帰で分析しようとすると、4 期における

購買金額を従属変数に、3 期における種々の購買特性を独立変数にし、影響関係を読み取る

ことが出来るのだ。

このように、データマイニングにあたっては、マーケティング課題を立て、それに具体

的な問いと仮説の検証で裏付けを与え、意思決定に役立てるという目的意識が重要になる。

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18

使用データについて

本章では、本研究で使用したデータ概要と分析手法について整理する。

4.1 データ概要

P 社より ID-POS データ、顧客データベース、商品データベースの提供いただいた。

ID-POS データの内訳は、期間が 2018 年 1 月~2019 年 1 月~12 月の 2 年間分である。

購買人数は 2018 年は購買顧客 9904 人、2019 年が 9785 人であった。購買データは 2018

年が 1,003,523 件、2019 年が 971,097 件であった。なお、データの項目は、伝票番号、顧

客 ID コード、商品コード、単価、数量、金額、納品区分、受注方法等となっている。

顧客データベースは、顧客数約 7 万人からなっており、データの項目は顧客 ID コード、

事業タイプ、入会日、住所、会員種別(ブルー/ホワイト/アルテミス)、掛け率等となって

いる。

商品データベースは、商品数約 15 万件からなっており、データの項目は商品コード、単

価、仕入原価、粗利率、中分類コード、小分類コード、スタイルテーマ、カラー等となって

いる。

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19

4.1.1 商品カテゴリー中分類

説明変数として用いた、中分類について説明したい。P 社の全商品を 24 種類に分類した

分類を中分類と読んでいる。さらにその下には小分類項目があるが、小分類だと分類が数百

に及ぶ。分析では大きな方向性を見ていきたいため、中分類を説明変数として使用した。

図表 4.1 商品カテゴリー中分類表

出所:筆者作成。

本研究では、中分類に関連した変数を多数作成・使用している。中分類ごとの購買金額の

合計、購買金額を対数変換したもの、購買金額の分布から基準を定め、ランク分けしたもの、

2018 年から 2019 年にかけての変化量、中分類を使用用途によって作成した合成変数等で

ある。

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20

4.2 分析フロー

分析フローは図表 4.2 のとおりである。なお、フロー全行程において IBM SPSS

Statistics26 を用いて行った。順を追って説明する。

図表 4.2 分析フロー図

出所:筆者作成。

4.2.1 準備フェーズ

これらの3つデータベースを顧客 ID、商品コードでリレーショナルに関連付け、データ

ウェアハウスの構築を行った。データウェアハウスの構成を示したのが図表 4.3 である。次

に、データを顧客 ID ごとに集計した。データウェアハウスの状態だと、購買時の 1 商品あ

たりが 1 ケースとなっていたので、さらに集計をすすめ、1 ケースで一顧客に関するデータ

がまとまるようにした。

顧客に関して集計を行ったデータは、年間購買金額、年間売上頻度、中分類別の売上高と

個人内シェア等である。

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図表 4.3 データウェアハウス構成

出所:筆者作成。

データウェアハウスはレコード数、カラム数共に膨大で、目的の分析を実際にすすめてい

くにはデータ量が多すぎる。そこで、顧客 ID に関する情報が 1 レコードにまとまるように

集計をした。分析に直接かかわらない項目を削除し、分析に必要な変数を作成したりして、

新たにデータマートを作成した。

4.2.2 使用変数について

本研究での分析で使用した説明変数には以下がふくまれる。

・年間購買金額

・年間購買頻度

・中分類売上高

・売上変動額

・中分類顧客内シェア

・1 回あたりの購買点数

・受注方法

・まとめ購買(中分類数種から成る合成変数)

・伝票数

・入会してからの日数

等である。それぞれの分析に対して有効な変数を選択している。複数の候補が存在する場合

有意な結果を得られるよう、探索的に分析を行った。

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22

4.2.3 分析フェーズ

さて、データマートを整え、いよいよ分析に入る。分析の工程は 5 段階に分かれる。

(1)まず、中分類の購買の個人シェアにもとづき、因子分析を行う。因子分析の因子数を検

討し、採用する因子の数値から、因子に名前をつけた。顧客それぞれに、2つの因子の因

子得点を計算した。

(2)次に、因数得点を説明変数に指定し、クラスター分析を行った。数千のデータのクラス

ター分析のため、SPSS の Two Step クラスター分析を用いた。クラスター数の検討検討を

行った。

(3)クラスター別に顧客のランク分けを行い、グループ化を行った。

(4)続いて、ランク別グループの中から2つの顧客グループを選択し、ロジスティック回帰

分析した。

(5)最後に、ロジスティック回帰分析で出来たモデルで有意な結果が出た変数に影響を与え

る要素を突き止めるため、有意な変数に対して、重回帰分析にかけた。

以上が分析のフローである。

4.3 分析方法

当節では、分析で使用した分析手法について説明する。

4.3.1 因子分析

因子分析とは、複数の観測変数の背後に、潜在的に含まれている共通した要因(因子)を

見つけ出すことを目的とした分析手法である。(村瀬、高田、廣瀬 2007)多変量データの情

報を少数の因子で表現して、問題を整理するので、消費者のライフ・スタイルやブランド・

イメージの分析、マーケティングにおけるセグメンテーションなどの幅広い用途で用いら

れてきた。朝野によると、「産業界における因子分析の利用度は極めて高く、利用頻度は多

変量解析全体の 3 割くらいを閉めるのではないか、と思われる。」というほど、便利で多岐

にわたる用途に使いやすい分析方法である。(朝野 2000)

因子分析の基本モデルは、次のように示される。

𝑋 = 𝑎 𝐹 + 𝑎 𝐹 + ・・・ + 𝑎 𝐹 + 𝑎 𝑆 + 𝑎 𝐸

ここで、𝑋 :ケース𝑖に対する変数𝑗に対する観測値

𝐹 :ケース𝑖に対する第𝑚共通因子の因子得点

𝑆 :ケース𝑖に対する特殊因子𝑗の因子得点

𝐸 :ケース𝑖に対する誤差𝑗の因子得点

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𝑎 :変数𝑗に対する第𝑚共通因子の因子負荷量

𝑎 :変数𝑗に対する特殊因子の因子負荷量

𝑎 :誤差𝑒に対する因子負荷量

モデル式で確認できるように、因子分析における観測変数𝑋 は共通因子と特殊因子、誤

差の部分にわけられる。例えば、観測値を個別科目の点数、因子を理数系処理能力と文系処

理能力とすると、式の内訳は以下のようになる。さらに式をイメージ化したものが図表 4.4

である。

数学 I = 理数系処理能力の因子負荷量 ∗ 理数系処理能力の因子得点

+ 文系処理能力の因子負荷量 ∗ 文系処理能力の因子得点

+ 特殊因子の因子負荷量 ∗ 特殊因子の因子得点 + 誤差𝑒に対する因子負荷量

∗ 誤差𝑒に対する因子得点

図表 4.4 因子分析のイメージ

出所:筆者作成。

因子分析は、この基本モデルに従い、以下のような手順で計算される。

(1) 相関行列の計算

(2) 因子負荷量の推定

(3) 因子数の決定

(4) 因子軸の回転

(5) 因子得点の推定

手順は、(村瀬、高田、廣瀬 2007)(朝野 2000)を基に筆者作成。

まずは、(1)相関行列と(2) 因子負荷量の推定について見ていこう。それぞれの因子と、

観測変数の相関行列によって、因子負荷量を測定していく。因子負荷量とは、因子と各変数

の関連の強さ(相関関係 r)のことである。先ほどの例だと、理数系処理能力から個別科目

に伸びる矢印の影響力にあたる。なお、F、S、E などの因子は標準化、すなわち平均0、分

散 1 となっている。観測された変数の値も、同じ人物の科目別得点となるので、これも標準

化されており、相関係数 r を導き出すことが出来る。因子を抽出する方法には最尤法を採用

した。最尤法は、モデルの適合度を最大化するよう要因負荷を求める方法である。

ここでは、因子分析にとって重要な共通性の概念を説明するために、よく使われる主因子

数学 I

物理

地理

国語

第1因子

理数系処理能力

第2因子

文系処理能力

独自因子

独自因子

独自因子

独自因子

𝑒

𝑒

𝑒

𝑒

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24

法を用いて、抽出の手順を説明する。主因子法は、因子負荷量の二乗和(因子寄与)を最大

にするように、反復推定により因子負荷量を求める因子の抽出方法である。固有値とは、回

転前の因子が持つ説明力(全観測変数の分散のうち因子で説明できる分散の量)であって、

この固有値の分散を因子ごとに集計したものを共通性とよぶ。第 j 変数の全分散のうち、共

通因子が寄与(説明)しているかを示している。当然因子数が多ければ多いほど、寄与確率

は高くなるが、因子があまりに多くなってしまうと因子分析自体の意味がなくなってしま

うため、因子の数は一定の数にとどめたい。何個目までを因子として採用するかを判断する

のに役立つのが、固有値の推移を折れ線グラフにしたスクリープロットである。この折れ線

の角度が急になっている部分は、その因子の寄与率が大きいところであり、なだらかになっ

ている部分は寄与率が低い部分である。

次に、手順(4)の因子軸の回転についてである。因子分析において、ある因子に対して影

響が強い変数は、第一因子を 1 軸、第二因子をもう一軸に取った散布図に図示したとき、の

軸に近いところに表示される。より多くの変数が軸の近くに配置されるよう、原点を起点に

因子軸の回転を行う。この回転法には様々な方法があるが、今回採用したのはバリマックス

法である。この手法は 1 軸、2 軸のそれぞれの軸の方向に分散を計測し、それぞれの因子負

荷量の分散が最大化するものをよしとする方法である。

最後に、各レコードに共通因子の得点を算出する(手順(5))この因子得点新たな量的変

数として、分析に使用する。

4.3.2 クラスター分析

クラスター分析とは、観測されたデータを一定のルールに従って分類する手法である。ロ

ジスティック回帰分析も分類の手法であったが、クラスター分析では、商品カテゴリーで花

=1、グリーン=2といったカテゴリー変数でも分類できる点が異なる。売上高やパーセン

テージなど量的に変化する変数だけならば、線形回帰モデルを基にしたロジスティック回

帰分析が適しているが、カテゴリー変数を含む場合は、線形回帰を用いることは適切でない。

クラスター分析とは、SPSS のクラスター分析のコマンドの一つである。具体的には、2

段階の手続きを踏んで、クラスターを算出する。

(1)各ケースを処理する中で複数のプレクラスターを作る。

距離を指標に、あるケースを直前のケースに融合すべきかの判断を1つ1つ行っている。

距離の指標は、間隔尺度/非尺度ならばユークリッド距離。名義尺度・/順位尺度なら対数尤

度(log-likelihood)が用いられる。

(2)(1)で作成したプレクラスターを用いて、通常の階層的なクラスター分析を行う。

クラスター数の決定には、AIC(赤池情報量基準)と BIC(シュワルツのベイズ情報量基準)

がよく用いられる。

AIC の計算方法は、

𝐴𝐼𝐶 = 𝐺 − 2 × 𝑑𝑓

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25

である。尤度比カイ二乗を自由度によって調整した指標である。この値が小さいモデルを最

適として選択する、また、AIC は𝐺 の大きさがクロス表の総度数に影響されることから、BIC

ではそれを調整している。

𝐵𝐼𝐶 = 𝐺 − (lnN) × 𝑑𝑓

AIC と同じく、BIC も値が小さいほど良い。(村瀬、高田、廣瀬 2007)

4.3.3 ロジスティック回帰分析

ロジスティック回帰分析とは、確率を求める数理モデルである。分類に用いられることが

多い。変数 Y の取りうる値によって、Y が特定のカテゴリーに属する確率をモデル化する。

Y の取りうる値は0と1の間の数値である。なぜなら、確率を求めているため、ある事象の

確率が100%以上というのも、0%未満というのもありえないからだ。よって、ロジステ

ィック関数は、常に S 字型の曲線をなす。

ロジスティック関数の基本モデルは、次のように示される。

𝑝(𝑋) =𝑒

1 + 𝑒

上記のロジスティック関数を用いてモデル化する。モデルへの当てはめは最尤法を用い

る。

SPSS におけるロジスティック回帰の変数選択の方法であるが、以下の7つの中から選択

できる。それは、

(1)強制投入法

(2)ステップワイズ法:条件付

(3)ステップワイズ法:尤度比

(4)ステップワイズ法:WALD

(5)変数減少法:条件付

(6)変数減少法:尤度比

(7)変数減少法:WALD

である。これらは大きく3つに大別できる。強制投入法、変数増加法/ステップワイズ法、

変数減少法である。強制投入法はステップワイズ法を実施せず、全独立変数で回帰分析を行

う。変数増加法もしくはステップワイズ法は、最初に目的変数に「単独で」最も寄与してい

る説明変数を探し出して選択し、あとは逐次、変数の追加と除去を繰り返す方法である。変

数減少法は、最初にすべての説明変数を用いたロジスティック回帰を実施して、つぎに、そ

の中で、目的変数に最も寄与していない変数を1つ選び出して除去し、あとは逐次、除去と

追加を繰り返す方法である。減少法と呼んでいるが、実際には減増される。

条件付、尤度比、WALD は追加や除去の基準となる統計量の求め方の違いをあらわす。尤

度比の場合、追加と除去の基準は𝑝値=0.2 である。𝑝<0.2 で追加、𝑝>0.2 で除去される。

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26

また、ここで述べた変数選択の方法は、次項で扱う重回帰分析でも同様の方法で選択可能

である。ただし、条件付・尤度比・WALD の統計基準はロジスティック回帰と COX 回帰の

みで使用される。

4.3.4 重回帰分析

重回帰分析とは、単回帰分析が1つの変数を用いるのに対して、複数の変数を用いて行

う回帰分析である。単回帰分析、重回帰分析の基本モデル(母回帰モデルもしくは母回帰式)

を以下に記す。

単回帰分析 𝑌 = 𝛼 + 𝛽𝑋 + ε

重回帰分析 𝑌 = 𝛼 + 𝛽 𝑋 + 𝛽 𝑋 … + 𝛽 𝑋 + ε

ここで、𝛽は母回帰変数(偏回帰係数)、𝛼は定数項(切片)、εは残差項(誤差項)であ

る。

回帰モデルでは、観察された標本から、これら式のパラメータ(𝛽, 𝛽 , 𝛽 , … , 𝛼)

を推定する。パラメ―タの推定には通常最小二乗法を用いる。この方法では、残差の平方和

が最小になるよう、パラメータの推定が行われる。

仮に、一つの被説明変数𝑌、𝑘この説明変数𝑋 𝑋 , … , 𝑋 からなるデータが N ケース得られ

たとすると、個々のケースの値𝑌を現す式は以下のようになる。(母集団ではなく、標本の

場合は記号𝑎, 𝑏を用いる。)

標本回帰式 𝑌 = 𝑎 + 𝑏 𝑋 + 𝑏𝑋 … + 𝑏 𝑋 + 𝑒

反対に、説明変数から被説明変数の予測値を求める式は次のようになる。

標本予測式 Ý = 𝑎 + 𝑏 𝑋 + 𝑏𝑋 … + 𝑏 𝑋

単回帰と異なる重回帰分析における注意点は、重回帰分析の偏回帰係数が説明変数𝑋同

士の相関に依存するという点である。

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P 社の顧客分析

本章では、どのような分析工程を経て、どのような分析結果を得たかについて述べる。

5.1 セグメント

5.1.1 顧客のランク分け

まず、P 社の顧客分析にあたって、顧客を購買金額別にランク分けした。さらに、今回分

析対象としたいのは静的な優良顧客でなく、動的な優良顧客のため、ランク分けに時間軸を

追加した。すなわち、1年目のランクが2年目にどう変化したのかを含めてランク分けを行

った。それをまとめたのが、図表 5.1 である。縦軸に 2018 年度の購買金額を基準としたラ

ンク分け、横軸に 2019 年度の購買金額を基準としたランク分けをしている。例えば、2018

年の年間購買金額が 10 万円以上 10 万円未満だった顧客のランクは“一般”である。一般

の項目の行には 4 つグループ(セル)があるが、その中のどのグループになるかは、2019

年度に購買した金額による。例えば、その顧客の購買金額が 10 万円以上 1000 万円未満だ

った場合、2019 年のランクは“優良”となる。そうすると、2018 年の一般と 2019 年の優

良がぶつかるセル、つまりグループ 10 に属することになる。図表 5.1 のグループ 10 には、

232 名の顧客が分類されている。

図表 5.1 ランク分け表 2018 年&2019 年連続購買全顧客

出所:筆者作成。

分析では、一般から優良化した顧客群と一般から 2 年目も一般のままだったグループを

Page 33: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

28

比較する。前者を一般優良化群、後者を一般維持群と呼ぶこととする。図表 5.1内の赤枠で

囲まれているのがその2つのグループで、グループ 10 が一般優良化群、グループ 11 が一

般維持群である。分析方法には、ロジスティック回帰分析を用いて、優良化する顧客の特徴

を分析した。

図表 5.2 2018 年&2019 年連続購買 全顧客対象

ロジスティック回帰分析 正誤表

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と一般維持

顧客群(11)である。なおエンコードにより dyG1819 を、11=0 そして 10=1 とした。ま

た独立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、

変数減少法ステップワイズ(WALD)を採用した。

図表 5.3 2018 年&2019 年連続購買 全顧客対象

ロジスティック回帰分析 方程式中の変数

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と一般維持

顧客群(11)である。なおエンコードにより dyG1819 を、11=0 そして 10=1 とした。ま

た独立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、

変数減少法ステップワイズ(WALD)を採用した。

図表 5.2 正誤表によると、正誤の確率が 56.1%と低いこと、図表 5.3 の方程式中の変数の

有意確率が 0.05以上の変数が4個中 2個含まれているため、このモデルを採用しなかった。

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そこで、次に分析に追加したのが、顧客のセグメントをさらなる細分化である。P 社の中

では顧客を商品の用途別に区分したグルーピングを用いて、マーケティング施策を立てて

いる。そこで、筆者も用途別区分を用いて、全顧客を細分化してみることとした。有効な結

果が導出出来れば、実際のマーケティング施策を実施するときに、実務の現場で親和性が高

いのではないかと考えたからだ。

用途別区分には大きく分けて、(1)ディスプレイ、(2)教室、(3)再販と3つに分か

れる。(1)ディスプレイは、商品をディスプレイに用いる施工業者、飲食店、不動産業者

等である。(2)教室はフラワーアレンジメント等の教室である。(3)再販は商品に加工を

加えず、そのまま販売する小売店等である。2019 年に購買した顧客の内訳は(1)ディス

プレイが 2552 人で約 26%、(2)教室が 4695 人で約 51%、(3)再販が 1723 人で約 18%、

その他が 466 人で約 5%となっている。ただし、この区分の注意点は顧客の職種から用途を

予測して大別したものであり、実態を完全に反映しているわけではないということである。

例えば、顧客の登録名が教室であるから、ディスプレイ用途に使っていないとは限らない。

登録名や職種こそ、教室となっていても、実際のところ、企業から大型フラワーアレンジメ

ントの依頼を受け、納品をしている教室の先生方も多い。その場合は、教室とディスプレイ

と 2 つの用途を持っているにもかかわらず、教室に分類にされている。実際には、このよう

な例も高く存在していると推測される。しかし、すべての顧客の実態を逐一把握するのは困

難であるため、意思決定の方向性を判断するために、実務ではこの区分が使用されている。

さて、この区分を用いて、再びの動的優良顧客を特定するためのランク分けを行った。

3つの区分ごとに3つの表を得た(図表 5.4、図表 5.9、図表 5.13)。この時、各グループ

の人数を適正化するため、基準となる購買金額に区分ごとに調整を加えた。ロジスティッ

ク回帰分析をする際、2つの比較するグループの人数が著しく異なると、分析に有意な結

果が得られない可能性が高いためである。図表 5.4 の(1)ディスプレイの場合、図表 5.1

のランク分け表と比較すると、ランク分け基準を Entry の顧客グループの基準を 5 万円未

満から 2 万円未満に、一般の顧客グループの基準を 10 万円以上から 8 万円以上へと変更

している。

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図表 5.4 用途別区分ランク分け表 (1)ディスプレイ

グループ人数適正化のため、Entry を 2 万円未満、一般を 8 万円以上で計算

出所:筆者作成。

行った分析は、2018 年と 2019 年連続購買顧客のうち用途別区分が(1)ディスプレイ

となった顧客を対象とした。その結果を図表 5.5、図表 5.6 にまとめる。

図表 5.5 用途別区分(1)ディスプレイ顧客 対象

ロジスティック回帰分析 正誤表

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と一般維持

顧客群(11)である。なおエンコードにより dyG1819 を、11=0 そして 10=1 とした。ま

た独立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、

変数減少法ステップワイズ(条件付き)を採用した。

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図表 5.6 用途別区分(1)ディスプレイ顧客 対象

ロジスティック回帰分析 方程式中の変数

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と一般維持

顧客群(11)である。なおエンコードにより dyG1819 を、11=0 そして 10=1 とした。ま

た独立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、

変数減少法ステップワイズ(条件付き)を採用した。

図表 5.6 の方程式中の変数の有意確率が 0.05 以上の変数が多数となったため、このモデ

ルを採用しなかった。

新たな変数に 2018 年と 2019 年の中分類別購買金額の変量の変数を作成し、再度ロジス

ティックを行った。

図表 5.7 用途別区分(1)ディスプレイ 対象

ロジスティック回帰分析 正誤表

出所:筆者作成。

Page 37: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

32

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と一般維持

顧客群(11)である。なおエンコードにより dyG1819 を、11=0 そして 10=1 とした。ま

た独立変数は、2018 年中分類別と 2019 年の中分類別購買金額の変量、2018 年購買頻度で

あり、変数選択方法として、変数減少法ステップワイズ(WALD)を採用した。

図表 5.8 用途別区分(1)ディスプレイ顧客 対象

ロジスティック回帰分析 方程式中の変数

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と一般維

持顧客群(11)である。なおエンコードにより dyG1819 を、11=0 そして 10=1 とした。

また独立変数は、2018 年中分類別と 2019 年の中分類別購買金額の変量、2018 年購買頻度

であり、変数選択方法として、変数減少法ステップワイズ(WALD)を採用した。

図表 5.8 の方程式中の変数の有意確率が 0.05 以上の変数が多数となったため、このモ

デルを採用しなかった。

さらに、今度は用途別区分(2)教室について見ていく。図表 5.1 のランク分け表と比較

すると、図表 5.9 ではランク分け基準を、Entry の顧客グループの基準を 5 万円未満から 2

万円未満に、一般の顧客グループの基準を 10 万円以上から 7 万円以上へと変更している。

Page 38: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

33

図表 5.9 用途別区分ランク分け表(2)教室

グループ人数適正化のため、Entry を 2 万円未満、一般を 7 万円以上で計算

出所:筆者作成。

次に、これらの 2018 年と 2019 年連続購買顧客のうち用途別区分が(2)教室の顧客を

対象として、ロジスティック回帰分析を行った。その結果を図表 5.10、図表 5.11 にまとめ

る。

図表 5.10 用途別区分(2)教室 対象

ロジスティック回帰分析 正誤表

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と一般維持

顧客群(11)である。なおエンコードにより dyG1819 を、11=0 そして 10=1 とした。ま

た独立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、

変数減少法ステップワイズ(WALD)を採用した。

Page 39: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

34

図表 5.11 用途別区分(2)教室 対象

ロジスティック回帰分析 方程式中の変数

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と一般維持

顧客群(11)である。なおエンコードにより dyG1819 を、11=0 そして 10=1 とした。ま

た独立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、

変数減少法ステップワイズ(WALD)を採用した。

図表 5.11 で方程式中の変数は、有意確率は 0.05 以下になったものの、図表 5.12 の正誤

確率が 67.1%と低いので、このモデルを採用しなかった。

次に行った分析では、先ほどの分析で使用していた独立変数の 2018 年中分類購買金額

を 2018 年と 2019 年の中分類購買金額の変量に変更して分析した。

Page 40: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

35

図表 5.12 用途別区分(2)教室 対象

ロジスティック回帰分析 正誤表

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と一般維

持顧客群(11)である。なおエンコードにより dyG1819 を、11=0 そして 10=1 とした。

また独立変数は、2018 年中分類別と 2019 年の中分類別購買金額の変量、2018 年購買頻

度であり、変数選択方法として、変数減少法ステップワイズ(条件付き)を採用した。

図表 5.13 用途別区分(2)教室 対象

ロジスティック回帰分析 方程式中の変数

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と一般維

持顧客群(11)である。なおエンコードにより dyG1819 を、11=0 そして 10=1 とした。

また独立変数は、2018 年中分類別と 2019 年の中分類別購買金額の変量、2018 年購買頻

度であり、変数選択方法として、変数減少法ステップワイズ(条件付き)を採用した。

図表 5.12 の正誤確率が 77.4%と低くかったため、このモデルを採用しなかった。

さらに、用途別区分(3)再販について見ていく。図表 5.1 のランク分け表と比較する

と、図表 5.13 ではランク分け基準を、ランク分け基準を Entry の顧客グループの基準を 5

万円未満から 2 万円未満に、一般の顧客グループの基準を 10 万円以上から 7 万円以上へ

と変更している。

Page 41: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

36

図表 5.14 用途別区分ランク分け表(3)再販

グループ人数適正化のため、Entry を 2 万円未満、一般を 7 万円以上で計算

出所:筆者作成。

次に、これらの 2018 年と 2019 年連続購買顧客のうち用途別区分が(3)再販の顧客を

対象として、ロジスティック回帰分析を行った。その結果を図表 5.15、図表 5.16 にまとめ

る。

図表 5.15 用途別区分(3)再販 対象

ロジスティック回帰分析 正誤表

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と一般維持

顧客群(11)である。なおエンコードにより dyG1819 を、11=0 そして 10=1 とした。ま

た独立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、

変数減少法ステップワイズ(条件付き)を採用した。

Page 42: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

37

図表 5.16 用途別区分(3)再販 対象

ロジスティック回帰分析 方程式中の変数

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と一般維持

顧客群(11)である。なおエンコードにより dyG1819 を、11=0 そして 10=1 とした。ま

た独立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、

変数減少法ステップワイズ(条件付き)を採用した。

図表 5.16 方程式の変数の有意確率が 0.05 以上となったので、このモデルを採用しなかっ

た。

次に行った分析では、先ほどの分析で使用していた独立変数の 2018 年中分類購買金額

Page 43: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

38

を 2018 年と 2019 年の中分類購買金額の変量に変更して分析した。その結果を図表 5.17、

図表 5.18 にまとめる。

図表 5.17 用途別区分(3)再販 対象

ロジスティック回帰分析 正誤表

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と一般維持

顧客群(11)である。なおエンコードにより dyG1819 を、11=0 そして 10=1 とした。ま

た独立変数は、2018 年中分類別と 2019 年の中分類別購買金額の変量、2018 年購買頻度で

あり、変数選択方法として、変数減少法ステップワイズ(条件付き)を採用した。

図表 5.18 用途別区分(3)再販 対象

ロジスティック回帰分析 方程式中の変数

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と一般維持

顧客群(11)である。なおエンコードにより dyG1819 を、11=0 そして 10=1 とした。ま

た独立変数は、2018 年中分類別と 2019 年の中分類別購買金額の変量、2018 年購買頻度で

あり、変数選択方法として、変数減少法ステップワイズ(条件付き)を採用した。

図表 5.17 の正誤表より、正誤確率が 68.0%と低いので、このモデルを採用しなかった。。

Page 44: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

39

5.1.2 比較グループの変更

これまでは一般優良化グループ(グループ 10)と一般維持グループ(グループ 11)の比

較をしていきたが、思うような良い結果を得られなかった。そこで、比較グループの変更を

試みた。新しい比較グループでは一般優良化群(グループ 10)と優良維持群(グループ6)

を比較していく。図表 5.19 において、赤枠で囲ってある部分がその 2 グループである。

図表 5.19 用途別区分ランク分け表 (1)ディスプレイ(再掲)

出所:筆者作成。

次に行った分析では、2018 年と 2019 年連続購買顧客のうち用途別区分が(1)ディスプレ

イの顧客を対象とした。さらにその中で、グループ 10 の一般優良化群、グループ 6 の優良

維持群を従属変数としてロジスティック回帰分析を行った。従属変数は一般優良化群を1、

優良維持群を0とエンコードした。独立変数には 2018 年中分類別購買金額、2018 年購買

頻度を用いた。変数の選択方法には、変数減少法ステップワイズ(尤度比)を使用した。そ

の結果を図表 5.20、5.21 にまとめた。

Page 45: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

40

図表 5.20 用途別区分(1)ディスプレイ 対象

新比較グループ選択によるロジスティック回帰分析 正誤表

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と優良維持

顧客群(6)である。なおエンコードにより dyG_1819 を、6=0 そして 10=1 とした。また

独立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、変

数減少法ステップワイズ(尤度比)を採用した。

図表 5.21 用途別区分(1)ディスプレイ 対象

新比較グループ選択によるロジスティック回帰分析 方程式中の変数

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と優良維持

顧客群(6)である。なおエンコードにより dyG_1819 を、6=0 そして 10=1 とした。また

独立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、変

数減少法ステップワイズ(尤度比)を採用した。

図表 5.21 の方程式中の変数では、依然として有意でない変数があるものの、図表 5.20 の

正誤表によると、正誤率が一般優良化群と一般維持群を対象としていた前項と比較して、

80.9%と良好になっている。

続いて、用途別区分ランク分け表(2)教室のセグメントについて見ていく。

Page 46: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

41

図表 5.22 用途別区分ランク分け表 (2)教室(再掲)

出所:筆者作成。

次に、2018 年と 2019 年連続購買顧客のうち用途別区分が(2)教室の顧客を対象とし

た。その結果を図表 5.23、5.24 にまとめた。

図表 5.23 用途別区分(2)教室 対象

新比較グループ選択によるロジスティック回帰分析 正誤表

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と優良維持

顧客群(6)である。なおエンコードにより dyG_1819 を、6=0 そして 10=1 とした。また

独立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、変

数減少法ステップワイズ(WALD)を採用した。

Page 47: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

42

図表 5.24 用途別区分(2)教室 対象

新比較グループ選択によるロジスティック回帰分析 方程式中の変数

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と優良維持

顧客群(6)である。なおエンコードにより dyG_1819 を、6=0 そして 10=1 とした。また

独立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、変

数減少法ステップワイズ(WALD)を採用した。

続いて、用途別区分ランク分け表(3)再販のセグメントについて見ていく。

図表 5.25 用途別区分ランク分け表 (3)再販(再掲)

出所:筆者作成。

次に、2018 年と 2019 年連続購買顧客のうち用途別区分が(3)再販の顧客を対象とし

Page 48: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

43

た。さらにその中で、グループ 10 の一般優良化群、グループ 6 の優良維持群を従属変数と

してロジスティック回帰分析を行った。

図表 5.26 用途別区分(3)再販 対象

新比較グループ選択によるロジスティック回帰分析 正誤表

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と優良維

持顧客群(6)である。なおエンコードにより dyG_1819 を、6=0 そして 10=1 とした。ま

た独立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、

変数減少法ステップワイズ(条件付き)を採用した。

Page 49: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

44

図表 5.27 用途別区分(3)再販 対象

新比較グループ選択によるロジスティック回帰分析 方程式中の変数

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(10)と優良維持

顧客群(6)である。なおエンコードにより dyG_1819 を、6=0 そして 10=1 とした。また

独立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、変

Page 50: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

45

数減少法ステップワイズ(条件付き)を採用した。

以上、3つの用途区分別セグメントをそれぞれに分析を行ってきた。比較グループは一般

優良化顧客と一般維持顧客より、一般優良化顧客と優良維持顧客を比較した方が、総じてよ

り有意な結果が見られた。

しかし、正誤率が 80%台と低いため、顧客の購買データに基づいたセグメントを新たに

導き出してはどうかと考えた。そこで、次項では因子分析を用いたセグメントを作成してい

く。

5.1.3 因子得点によるセグメント分け

前項では、用途別セグメントによる分析を試みたが、充分に優位な結果が見られなかった。

そのため、全顧客に共通する何らかの値を用いて、顧客をセグメントできないかと考えた。

そこで、筆者が注目したのが、個人別シェアである。購買金額のまま、各顧客間を比較しよ

うとすると、年間 200 万円購買する顧客と年間 2 万円しか購買しない顧客を単純に比較す

ることはできない。顧客の年間総合購買金額を 100%として、どの中分類を何%購買してい

るかをあらわす個人内シェアを算出すれば、購買金額が異なる顧客間での比較が可能とな

る。例えば、中分類アートフラワーを 50%くらい購買する顧客は年間購買金額が 200 万円

であろうと、5 万円であろうと、造花を使ったフラワーアレンジメントを主の活動にしてい

る可能性が高い、というように解釈できる。加えて、個人内中分類売上シェアを説明変数に

因子分析を行い、共通因子を抽出した。共通因子の因子得点に基づき、クラスター分析を行

うことで、実際の顧客の購買データにもとづいたセグメントを作成する。

まず、因子分析にあたり、年間購買金額が 300 万円以上の S ランク顧客、2 万円未満の顧

客を分析から除いた。購買金額が極端に多かったり、少なかったりする顧客の購買行動は、

そうでない顧客層と購買スタイルが異なると判断したためである。因子分析は対象の隠れ

た共通因子を見つけ出すという手法であるので、あまりに顧客同士の性質が異なる場合は、

共通因子にノイズが混ざってしまう。実際には、2018 年に購買した 9903 人のうち、46 名

が S ランク顧客、4098 人がエントリー顧客であった。よって、分析対象の年間購買金額 2

万円以上~300 万円の顧客は 5759 人となった。

さらに、全売上額のうち、2.3%以下しかシェアがない中分類は分析対象から除いた。詳

しいシェアの内訳は、図表 5.28 を参照されたい。

Page 51: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

46

図表 5.28 全売上額中に占める中分類別売上シェア

出所:筆者作成。

説明変数を個人内中分類売上シェアとし、因子抽出法は最尤法を用いて因子分析を行っ

た。結果を見ていく。

図表 5.29 のスクリープロットを確認すると、因子数3までは情報の減りが大きく、因子

数4なだらかになっている傾向が見て取れた。因子数2と3で解釈可能性を比較し、因子数

2で十分に説明が可能だと判断したため、因子数2を選択した。

Page 52: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

47

図表 5.29 因子のスクリ―プロット

出所:筆者作成。

図表 5.30 説明された分散の合計

出所:筆者作成。

図表 5.30 で確認すると、第二因子までで 21.7%の説明されている。

回転後の因子行列をあらわしたのが図表 5.31 である。回転にはバリマックス法を用いた。

因子負荷量をもとに、2つの因子の解釈を行った。特に負荷量が大きくなっている値に(±

0.2 以上)色を付けてある。第一因子は、「フラワー自社(.99)」、「フラワー他社」、「ドライ

フラワー(-.55)」の負荷量が大きい。「フラワー自社」と「フラワー他社」はともにアートフ

ラワーのことである。アートフラワーの購買金額が高いと、ドライフラワーの購買金額が低

Page 53: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

48

くなる傾向がある。これらに共通しているのは「フラワーアレンジメント資材としての利用」

である。中でも、アートフラワーの使用を中心に使用するフラワーアレンジメントの購買型

あることから、「アートフラワー資材因子」と名付けた。

第二因子は、「ドライフラワー(.84)」、「ディスプレイ雑貨(他社)(-.38)」、「グリーン

(-.34)」、「クリスマス(-.29)」とあり、資材としてのドライフラワー購買利用が共通項と

してあるので「ドライフラワー資材因子」と名付けた。

図表 5.31 回転後の因子行列

出所:筆者作成。

5.1.4 クラスター分析によるセグメント分け

クラスター分析には SPSS の Twostep 分析を用いた。さらに、クラスターの数を決定する

のに、BIC(シュワルツのベイズ情報量基準)と AIC(赤池情報量基準)を参照した。BIC と

AIC のスクリープロットを図表 5.32、5.33 に示した。

±0.2 以上

Page 54: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

49

図表 5. 32 BIC のスクリ―プロット

出所:筆者作成。

図表 5.33 AIC のスクリ―プロット

出所:筆者作成。

最終的に、クラスター数を 3 個に指定し、先ほど抽出した 2 つの因子「アートフラワー

資材因子」と「ドライフラワー資材因子」の因子得点を変数として、Two-step クラスター

分析を行った。

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

9000

1 2 3 4 5

0

1000

2000

3000

4000

5000

6000

7000

8000

9000

1 2 3 4 5

因子数

情報量

因子数

情報量

Page 55: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

50

図表 5.34 クラスターの品質

出所:筆者作成。

クラスターの品質は“良い”と評価された。

図表 5.35 クラスターの割合

出所:筆者作成。

図表 5.36 クラスター別因子の平均値

出所:筆者作成。

Page 56: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

51

図表 5.36 クラスター別因子の平均値を確認したとこと、入力値である因子の重要度は

2つとも等しく高く、変数選択に問題はなかった。

因子得点の分布と平均値を見ながら、クラスターごとに解釈を行った。図表 5.37 を見る

と、1 つ目のセグメントは、アートフラワー資材因子が相対的に高く、ドライフラワー因子

の因子得点の平均は 0.1 と低い。このことから、このセグメントは主にアートフラワーをフ

ラワーアレンジメント用に購買し、ドライフラワーもわずかではあるが、購買していると解

釈した。すると、このセグメントはアートフラワー主体のフラワーアレンジメントを主にし

ており、時折少量ドライフラワーを組み合わせることがあることから、「アートフラワー購

買型セグメント」と名付けた。

2番目のセグメントはドライフラワー因子が 0.99 と高く、アートフラワー資材因子が-

0.68 であった。このことからこのセグメントは主にドライフラワーによるフラワーアレン

ジメントを行っていると考え「ドライフラワー購買型セグメント」と名付けた。

最後に、3番目のセグメントでは、両因子がどちらもマイナスであった。アートフラワー

もドライフラワーも買わないということになり、主に雑貨を購買している層であると解釈

した。このセグメントを「ディスプレイグッズ型」と名付けた。

次に、各セグメントの基本統計を見て、特徴の理解に努めた。それをまとめたのが、図

表 5.35 から 5.40 である。個人内シェアの平均があるが、アートフラワー購買型セグメント

だと、全購買金額の約 45.5%を占めており、因子得点の解釈と一致している。ドライフラワ

ーも同じようにセグメントの全購買金額の約 51.3%を占めていた。一方、ディスプレイグ

ッズ購買型セグメント顧客は突出して購買される中分類がなく、特定のカテゴリーにかた

よることなく満遍なく購買している。

図表 5.37 アートフラワー購買型セグメントの基本統計

出所:筆者作成。

Page 57: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

52

図表 5.38 アートフラワー購買型セグメントの顧客別中分類売上シェア

出所:筆者作成。

図表 5.39 ドライフラワー購買型セグメントの基本統計

出所:筆者作成。

図表 5.40 ドライフラワー購買型セグメントの顧客別中分類売上シェア

出所:筆者作成。

Page 58: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

53

図表 5.41 ディスプレイグッズ購買型セグメントの基本統計

出所:筆者作成。

図表 5.42 ディスプレイグッズ購買型セグメントの顧客別中分類売上シェア

出所:筆者作成。

クラスター分析によって出来たこれらのセグメントに対して、顧客分類、購買金額による

ランク分けを行った。それによって出来た新しいランク分け表が図表 5.43、図表 5.44、図

表 5.45 である。

Page 59: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

54

図表 5.43 顧客ランク分け表 アートフラワー購買型セグメント

出所:筆者作成。

図表 5.44 顧客ランク分け表 ドライフラワー購買型セグメント

出所:筆者作成。

Page 60: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

55

図表 5.45 顧客ランク分け表 ディスプレイグッズ購買型セグメント

出所:筆者作成。

そして、この段階でこれらランク分けの基準を P 社の経営陣に提示したところ、ランク

分けの基準となる購買金額の幅が広すぎるとのフィードバックを得、ランク分けを再度行

うこととなった。

5.1.5 顧客のランク分けの基準の再選択

P 社からのフィードバックを受け、優良ランクの基準を 15 万円以上 100 万円未満から、

10 万円以上 50 万円未満へと狭めた。ランクは全部で 5 段階とし、それぞれ(1)300 万円以

上、(2)50 万円~300 万円未満、(3)10 万円以上 50 万円未満、(4)5 万円以上 10 万円未満

(5)2 万円未満に分けた。さらに、表に色分けを加え、2 年目に顧客が優良化したのか、ラン

クを維持したのか、もしくはランクが下がったのかがわかりやすいように改良した緑色の

セルはランクアップした顧客群顧客である、一方、赤色のセルはランクダウンした顧客、黄

色のセルは 1 年目のランクを 2 年目も維持した顧客である。ここでは、それぞれ、維持顧

客群、優良化顧客群、離脱顧客群と呼び、全体数をまとめた。2019 年は、約半数にあたる

3385 人がランクを 2 年目も維持している。優良化した顧客群は3つの顧客群のうち最も少

なく、1331 人であった。対して、優良化顧客群の約 1.5 倍にあたる 1954 人がランクを 1 年

目より落としている。

なお、2018 年、2019 年の年間購買顧客がどちらも 9000 人以上なのに対して、この表の

N 数が 6670 人と少ないのは、この表が 2018 年、2019 年の連続購買データを持つ顧客のみ

を対象としているからである。残りの約 3000 人は 2019 年に購買をしなかった、もしくは

2019 年のみ購買した顧客である。

図表 5.46 は新しい顧客ランク基準の元、全顧客をランク分けしたものである。図表 5.47、

Page 61: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

56

5.48、5.49 はぞれぞれ「アートフラワー購買型セグメント」、「ドライフラワー購買型セグメ

ント」、「ディスプレイグッズ購買型セグメント」にランク分けしたものである。

図表 5.46 新顧客ランク分け表 全顧客

出所:筆者作成。

図表 5.47 新顧客ランク分け表 アートフラワー購買型セグメント

出所:筆者作成。

Page 62: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

57

図表 5.48 新顧客ランク分け表 ドライフラワー購買型セグメント

出所:筆者作成。

図表 5.49 新顧客ランク分け表 ディスプレイグッズ購買型セグメント

出所:筆者作成。

Page 63: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

58

5.2 優良顧客化要因の分析

前項では、優良顧客の再定義を行い、優良化顧客群とそうではない維持群を特定した。本

項では、その 2 グループの違いを、ロジスティック回帰分析で分析する。

次の分析では、2018 年と 2019 年連続購買顧客のうち因子分析によるセグメントでアー

トフラワー購買型セグメントとなった顧客を対象とした。その結果を図表 5.50、5.51、5.52

にまとめた。

図表 5.50 新顧客ランク分け アートフラワー購買型セグメント 対象

15G&21G によるロジスティック回帰分析 正誤表

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(21)と優良維

持顧客群(15)である。なおエンコードにより dyG を、15=0 そして 21=1 とした。また

独立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、

変数減少法ステップワイズ(WALD)を採用した。

図表 5.51 新顧客ランク分け アートフラワー購買型セグメント 対象

15G&21G によるロジスティック回帰分析 方程式中の変数

出所:筆者作成。

Page 64: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

59

図表 5.52 新顧客ランク分け アートフラワー購買型セグメント 対象

15G&21G によるロジスティック回帰分析 方程式中の変数のイメージ

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(21)と優良維持

顧客群(15)である。なおエンコードにより dyG を、15=0 そして 21=1 とした。また独

立変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、変

数減少法ステップワイズ(WALD)を採用した。

図表 5.50 の正誤表では、97.7%と高い正解率を示した。図表 5.51 の方程式中の変数では

変数「グリーン」を除く 8 個の変数で有意確率が 0.05 以下だった。本研究では、このモデ

ルを採用した。

続いて行った分析では、2018 年と 2019 年連続購買顧客のうち因子分析によるセグメン

トでドライフラワー購買型セグメントと なった顧客を対象とした。その結果を図表5.53、

5.54、5.55 にまとめた。

図表 5.53 新顧客ランク分けドライフラワー購買型セグメント 対象

15G&21G によるロジスティック回帰分析 正誤表

出所:筆者作成。

Page 65: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

60

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(21)と優良維持

顧客群(15)である。なおエンコードにより dyG を、15=0 そして 21=1 とした。また独立

変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、変数減

少法ステップワイズ(WALD)を採用した。

表 5.54 新顧客ランク分け ドライフラワー購買型セグメント 対象

15G&21G によるロジスティック回帰分析 方程式中の変数

出所:筆者作成。

Page 66: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

61

表 5.55 新顧客ランク分け ドライフラワー購買型セグメント 対象

15G&21G によるロジスティック回帰分析 方程式中の変数のイメージ

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(21)と優良維持

顧客群(15)である。なおエンコードにより dyG を、15=0 そして 21=1 とした。また独立

変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、変数減

少法ステップワイズ(WALD)を採用した。

図表 5.53 の正誤表では、94.1%と高い正解率を示した。図表 5.54 の方程式中の変数では

11 個の変数で有意確率が 0.05 以下だった。本研究では、このモデルを採用した。

続いて行った分析では、2018 年と 2019 年連続購買顧客のうち因子分析によるセグメン

トでディスプレイグッズ購買型セグメントとなった顧客を対象とした。その結果を図表5.56、

5.57、5.58 にまとめた。

図表 5.56 新顧客ランク分け ディスプレイグッズ購買型セグメント 対象

15G&21G によるロジスティック回帰分析 正誤表

出所:筆者作成。

Page 67: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

62

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(21)と優良維持

顧客群(15)である。なおエンコードにより dyG を、15=0 そして 21=1 とした。また独立

変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、変数減

少法ステップワイズ(WALD)を採用した。

図表 5.57 新顧客ランク分け ディスプレイグッズ購買型セグメント 対象

15G&21G によるロジスティック回帰分析 方程式中の変数

出所:筆者作成。

Page 68: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

63

図表 5.58 新顧客ランク分け ディスプレイグッズ購買型セグメント 対象

15G&21G によるロジスティック回帰分析 方程式中の変数のイメージ

出所:筆者作成。

本モデルにおける従属変数はランク分け顧客グループ一般優良化顧客群(21)と優良維持

顧客群(15)である。なおエンコードにより dyG を、15=0 そして 21=1 とした。また独立

変数は、2018 年中分類別購買金額、2018 年購買頻度であり、変数選択方法として、変数減

少法ステップワイズ(WALD)を採用した。

図表 5.56 の正誤表では、98.8%と高い正解率を示した。図表 5.57 の方程式中の変数では

変数「フェイクフード」を除く 9 個の変数で有意確率が 0.05 以下だった。本研究では、こ

のモデルを採用した。

5.3 優良顧客化促進要因の分析

前項では、どのような要因が優良化に必要なのか見た。本項では、顧客の優良化要因を促

進する要素を特定するために、重回帰分析を行った。従属変数は、ロジスティック回帰分析

で特定された、顧客優良化に有意な独立変数である。

アートフラワー購買型セグメントを対象に行った重回帰分析を説明する。当セグメント

では、前項のロジスティック分析において、有意だった独立変数は 8 個だった。その 8 個

の変数について、1つずつ重回帰分析をしていく。重回帰分析で従属変数に指定した変数以

外、前項のロジスティック分析で用いた独立変数をすべて重回帰分析の独立変数とし、重回

帰分析を行う。その結果、重回帰の係数が“マイナス”になったものを抽出して、まとめた

ものが図表 5.59、結果を図示したものが図表 5.60 である。

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64

図表 5.59 アートフラワー購買型セグメント 重回帰分析結果まとめ

出所:筆者作成。

図表 5.60 アートフラワー購買型セグメント

重回帰分析結果 促進要因のイメージ

出所:筆者作成。

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65

分析の結果、アートフラワーセグメントの優良顧客化促進要因は、6 つの要因が見いだせ

た。図表 5.60 の右側列の部分にまとまっている。「フラワー自社」、「購買点数一伝票当た

り」、「中分類 18(送料等)」、ドライフラワー」、「花器他社」である。まず注目したいのが。

「購買点数一伝票当たり」の影響力の大きさを表す係数が―0.851 と 2 位より 2 倍以上の大

きさを持っていることだ。また、「フラワー自社」は2つの中分類に影響力があり、さらに

2つとも比較的影響力が高い。このことから、アートフラワー購買型セグメントの優良化顧

客の促進要因は、自社製のアートフラワー購買に力を入れるべきなのがわかる。一方、この

フラワー自社と負の相関関係にあるのが「ドライフラワー」、「花器他社」である。このカテ

ゴリーは自社製のアートフラワーの購買金額を一時的に減らす作用がある。しかし、ある程

度の量が併売されるのは確かであるので、アートフラワーに最も力を入れつつ。混合アイテ

ムとして「ドライフラワー」」「花器他社」も販売する必要があるだろう。

次に、ドライフラワー購買型セグメントを対象に行った重回帰分析を説明する。当セグメ

ントでは、前項のロジスティック分析において、有意だった独立変数は 11 個だった。その

11 個の変数について、1つずつ重回帰分析をしていく。例えば「フラワー自社」を従属変

数に、そのほかの中分類や、購買点数一伝票当たりといった、前項のロジスティック分析で

用いた独立変数をすべて重回帰分析の独立変数とし、重回帰分析を行う。その結果、重回帰

の係数が“マイナス”になったものを抽出して、まとめたものが図表 5.61、結果を図示した

ものが図表 5.62 である。

図表 5.61 ドライフラワー購買型セグメント 重回帰分析結果まとめ

出所:筆者作成。

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66

図表 5.62 ドライフラワー購買型セグメント

重回帰分析結果 促進要因のイメージ

出所:筆者作成。

分析の結果、ドライフラワーセグメントの優良顧客化促進要因は、5 つの要因が見いだせ

た。図表 5.62 の右側列の部分にまとまっている。「フラワー他社」、「正月」、「グリーン」、

「花器他社」である。まず注目したいのが。「正月」カテゴリーの影響力の大きさである。

促進要因として 2 度登場している事と、影響力を表す係数が最も高い―0.31、3 番目に強い

-0.26 と高い水準である。これについては、筆者はよく理由がわからなかったのだが。P 社

の営業担当に聞いたところ、近年、正月のアレンジメントが大ブームになっており、母の日

よりも盛り上がっている。との情報を得て、腹落ちすることが出来た。

「ドライフラワー」の売上に貢献する促進要因は、グリーン、フラワー他社、花器他社で

ある。よりリアルな表現を志向するドライフラワーのアレンジメントでは、一緒に使われる

副資材もリアルなものが求められる。グリーン、他社製のフラワーなどは自社製造では作れ

ないようなクオリティが高いものが多く、プリザーブドフラワーと相性がいいため、顧客に

選ばれているのではないかとの仮説が導き出された。

最後に、ディスプレイグッズ購買型セグメントを対象に行った重回帰分析を説明する。当

セグメントでは、前項のロジスティック分析において、有意だった独立変数は 9 個だった。

その 9 個の変数について、1つずつ重回帰分析をしていく。例えば「フラワー自社」を従属

変数に、そのほかの中分類や、購買点数一伝票当たりといった、前項のロジスティック分析

で用いた独立変数をすべて重回帰分析の独立変数とし、重回帰分析を行う。その結果、重回

帰の係数が“マイナス”になったものを抽出して、まとめたものが図表 5.63.、結果を図示

したものが図表 5.64 である。

Page 72: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

67

図表 5.63 ディスプレイグッズ購買型セグメント 重回帰分析結果まとめ

出所:筆者作成。

Page 73: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

68

図表 5.64 ディスプレイグッズ購買型セグメント

重回帰分析結果 促進要因のイメージ

出所:筆者作成。

分析の結果、ディスプレイグッズ購買型セグメントの優良顧客化促進要因は、複数の要因

からなっていることがわかった。促進要因は図表 5.64 の右側部分にまとまっている。ぱっ

と見てすぐわかるように、促進要因が他セグメントに比べて、3~4 倍ある。ディスプレイグ

ッズ購買型セグメント顧客の購買パターンがそれだけ多岐にわたっているのか、それとも

顧客はみな同じように複数の促進要因で動いているかどちらかの可能性が高いだろう。

特筆すべきは、フラワー自社が促進要因に入っていないことで、最も利益率がよいカテゴ

リーが促進要因に入らないこのセグメントに対して、どのようなアプローチをとるべきな

のか、検討が必要と思われる。

Page 74: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

69

P 社への戦略提案

本章では、5 章での分析結果を受けた戦略と戦術の示唆研究の限界について述べる。

6.1 戦略と戦術の提案

今回の分析結果、優良顧客化の要因とその促進要因を突き止めることが出来たため、その

結果を用いて、戦略の提案を行う。

推定の結果、P 社においては独立変数の購買額の減少が、優良化確率にプラスの影響を与

え、総売上額を高める可能性を示すことが出来た。以下では、独立変数の中分類別購買額の

減少が、優良化確率をどの程度高め、その結果、どの程度売上および粗利益額貢献につなが

るかを検証していきたい。

「優良化確率」の予測モデルは下記となる。

𝑝(𝑋) =𝑒 ・・・

1 + 𝑒 ・・・

ここで、𝑋 (𝑃 = 1,2,3 …)は商品の中分類別購買金、βは中分類購買金額の係数のパラメ

ータ、っっz

-----𝑒は自然対数である。

さらに、「優良化確率」の各変数の値を予測するモデルは下記となる。

Ý = α + 𝛽 𝑋 + 𝛽 𝑋 … + 𝛽 𝑋

ここで、Ý は商品の中分類別購買金額の予測値、𝑋 (𝑃 = 1,2,3 …)は商品の中分類別購買

金、一伝票あたりの購買点数。一伝票当たりの購買金額、一日当たりの購買点数、一日値の

購買金額、βは変数 X の係数のパラメータ、αは定数項(切片)である。

本項では、上記予測モデルにもとづき、「アートフラワー購買型セグメント」セグメント

において検証を行う。まず、第 5 章でどのような分析結果を得たか、結果をまとめた、図表

6.1 を再掲する。

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70

図表 6.1 新顧客ランク分け アートフラワー購買型セグメント 対象

15G&21G によるロジスティック回帰分析 方程式中の変数のイメージ図(再掲)

出所:筆者作成。

図表 6.2 重回帰分析結果 アートフラワー購買型セグメント

15G&21G によるロジスティック回帰分析 方程式中の変数のイメージ図(再掲)

出所:筆者作成。

検証の流れは次の通りである。現在の優良化確率とシミュレーションの優良化確率を算

出してその2つを比較し、優良化確率から純増売上・純増利益額を予測する。そして、優良

化確率向上のための施策の費用を計算し、ROI を割り出す。

それにあたって、まずは現在の優良化確率を算出する必要がある。そのためには、優良化

要因である中分類別購買金額を具体的に決定する必要がある。顧客ランク分けグループの

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71

「一般優良化顧客群」の購買単価の平均値を元に値を設定した。すると、優良化確率のベー

スとなる線形結合値は、

34.30(切片)-0.00053×5000(ドライフラワー)+-0.00050×1000(花器自社)+-

0.00047×2000(花器他社)+-0.00043×5000(フラワー他社)+-0.00035×30000(フ

ラワー自社)+9373(クリスマス)+9625(グリーン)+6844(FD 資材)+7560(雑貨・

企画品)=0.243705

34.30(切片)-0.00053×5000(ドライフラワー)+-0.00050×1000(花器自社)+-

0.00047×2000(花器他社)+-0.00043×5000(フラワー他社)+-0.00035×30000(フ

ラワー自社)+9373(クリスマス)+9625(グリーン)+6844(FD 資材)+7560(雑貨・

企画品)=0.243705

となり、この線形結合値をロジスティック関数に当てはめると、

𝑝(𝑋) =𝑒 .

1 + 𝑒 .

𝑝(𝑋) = 0.19595

と、現在の「優良化確率」が約 19.6%であることが示された。

検証では、プロモーションにより優良化促進要因「購買点数一伝票当たり」が刺激され、

中分類別購買金額「500 円」となったと仮定する。すると、優良化確率のベースとなる線形

結合値は、

34.30(切片)-0.00053×5000(ドライフラワー)+-0.00050×500(花器自社)+-

0.00047×2000(花器他社)+-0.00043×5000(フラワー他社)+-0.00035×30000(フ

ラワー自社)+9373(クリスマス)+9625(グリーン)+6844(FD 資材)+7560(雑貨・

企画品)=0.312923

となり、この線形結合値をロジスティック関数に当てはめると、

𝑝(𝑋) =𝑒 .

1 + 𝑒 .

𝑝(𝑋) = 0.23834

となり、プロモーションによる「優良化確率」が 23.8%であることが示された。現在の優

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72

良化確率とプロモーションを実行した場合の優良化確率の差は、

𝑝(𝑋) = 0.23834―0.19595

𝑝(𝑋) = 0.04239

となる。 上記により、プロモーションで中分類別購買金額「花器自社」を減少させるこ

とが出来れば、優良化確率を約 4.2%上昇させること出来るということが示された。

次に、この優良化により得られる純増売上および純増利益額を計算する。顧客の優良化確

率上昇による純増売上は、セグメント人数と優良化確率と平均単価の積で求められる。

セグメント人数は、このモデルを得るために行ったロジスティック回帰分析の対象者全

員である。すなわち、一般優良化顧客グループならびに優良維持群、308 人+83 人=388 人

となる。図表 6.3 で該当のセグメントを赤枠で囲った。

図表 6.3 新顧客ランク分け表 アートフラワー購買型セグメント

出所:筆者作成。

次に、一般優良化セグメントの平均単価を記述統計から、77,718 円とした。よって、

純増金額は、

388×0.043×77718=1296647

1,296,647 円となる。さらに、一般優良化セグメントの平均粗利益率 41.3%を用いると、

純増利益額が算出される。つまり、

Page 78: Title 造花SPA企業P社へのID-POSデータ分析に基づく戦略提案 Sub Title …

73

1296647×0.413=535515

となり、純増利益額は 535,515 円と示された。

次に、ROI の費用を計算する。先述のように「花器自社」における購買額を減少させる

ために、中分類「花器自社」の購買金額の促進要因である「購買点数一伝票当たり」という

変数に刺激をあたえる施策を行った。この施策にかかる費用が、ROI の Investment に当た

る。ここでは、「まとめ買いで 2%割引」になるセールスプロモーションを行うとする。プ

ロモ―ション費用は、DM 発送費用と割引にかかる費用を足したものである。

DM の対象者は一般優良化群と優良維持群を合わせた 388 人である。メール、FAX、DM

等で送るセールスレターの平均発送費用を 25 円として、

388×25=9700

となり、DM 発送にかかる合計発送費用は 9,700 円となる。

つぎに、プロモーションの割引費用を計算する。プロモーション全対象者 388 人のうち、

この施策で新たに増加する優良化顧客数は、全対象者のうち優良化確率の差分をかけたも

のであるので、

388×0.043=16.7

となり、四捨五入して、17 人となった。従来の優良化顧客 83 人に新しく優良化する顧客

17 人を足した、合計 100 人が一般優良化顧客セグメントに分類される。このセグメント全

員が割引プロモーションを利用したとする。セグメント平均単価の 2%であるから、

100×77718×0.02=155436

となり、割引費用は、155,436 円と計算された。よって、費用は上記の発送費用と割引費

用を足して、

9700+155436=165136

費用総額は 165,136 円となった。

最後に、純増利益額を費用で割って、ROI 求める。その式を下に記す。

ROI =Return(純増利益額)/ Investment=535,515/165,136=3.46

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74

上記から、プロモーションの ROI は 3.46 と計算され、十分な Return を回収出来る施策で

あることが証明された。

6.2 研究の限界

本節では、本稿の限界について述べる。本稿では、P 社の経営課題を把握し、そのマーケ

ティングに課題に即したデータマイニング分析方法により、優良顧客化の要因とその促進

要因を特定した。そこから、P 社への戦略提案を行った。しかし、経営課題を利益率改善と

おいているにもかかわらず、売上ベースでの分析となっているため、課題解決への貢献が間

接的であった。

また、イシューとすべき問題は「優良顧客化率」以外にも多く存在する。例えば、顧客の

離脱率をあらわすチャーンレート、入会以降の LTV なども経営課題の解決に重要な示唆を

与えるだろう。経営課題に対して、様々な切り口から分析をする余地が残されている。

本稿の打ち手提案の部分では、実務に即した定性情報の不足から、提案のバリエーション

に限りが出てしまった。筆者は、研究中に P 社の実務をよく知る人物にヒアリングを行い、

出来る限り提案が効果的になるようにしたが、さらに顧客の定性的な実情を調査し認識で

きれば、より効果の高い戦略提案が出来ただろう。

最後に、筆者のデータマイニングスキルの不足から、データマイニングの手法が限られて

いる点が挙げられる。

以上を踏まえて、今後はより企業の実情に精通した人物との協業や、筆者自身のデータマ

イニングのスキルセットの向上を課題としたい。

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75

参考文献

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