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Hokkaido University of Education Title � : Author(s) �, �; �, Citation �. �, 64(1): 191-205 Issue Date 2013-09 URL http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/6937 Rights

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Hokkaido University of Education

Title学生の「授業記録」と「授業構造図」の作成に関わる調査の一考察 :

「小学校家庭科教育法」での実践事例から

Author(s) 佐々木, 貴子; 東, 輝

Citation 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 64(1): 191-205

Issue Date 2013-09

URL http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/6937

Rights

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北海道教育大学紀要(教育科学編)第64巻 第 1号Journal of Hokkaido University of Education (Education) Vol. 64, No.l

平成 25{Iご 8月August, 2013

学生の「授業記録」と「授業構造図」の作成に関わる調査の一考察

ー「小学校家庭科教育法」での実践事例から一

佐々木貴子・束 輝*

北海道教育大学札幌校家庭科教育学研究宰

勺ヒ海道教育大学札幌校生活環境一仁学研究室

Investigation about students' lesson record

and creation of a lesson construction drawing

-The practice case of“elementary school home economics course teaching methods"一

SASAKI Takako and HIGASHI Akira*

Department of Home Economics, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education

Department of Engineering of Life and Environment, Sapporo Campus, Hokkaido University of Education

概 要

本研究は,学生により実践的な指導力を身につけさせるために,授業記録を活用したプログラムを実施し

その効果と改善点を明らかにすることを目的としている。本稿では「小学校家庭科教育法」において,授業

記録を活用したプログラムとして,小学校の「家庭科」の授業実践をビデオで視聴→「観察記録」を作成→

「授業記録」を作成→「授業構造図」を作成→「学習指導案」を作成する一連の作業の中で,学生の「観察

記録」をとる能力と「授業構造図」を作成する能力を分析・検討し これらの作業を通して得られた知見に

ついて報告するものである。

し問題の所在と研究の目的

教員の職務は,人間の心身の発達にかかわって

おり,その活動は子どもたちの人格形成に大きな

影響を与えるものである。しかし現在,教員をめ

ぐる状況は大きく変化しており,教員の資質能力

が改めて問い直されている。

2005 (平成17)年10月の中央教育審議会(以下,

中教審という)答申「新しい時代の義務教育を創

造する」においては,優れた教師の条件として「教

職に対する強い情熱J 1"教育の専門家としての確

かな力量J 1"総合的な人間力」の 3つの要素が重

要であるとしている。教員養成段階で「教育の専

門家としての確かな力量」を身につけるためには,

教材の本質的理解の基礎や教材解釈の方法論,子

どもの心理や思考様式,授業の構造等を学び,授

191

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佐々木貴[-.束

業の方法論を体得するために,学生が自ら実践し,

課題に気づき,また,課題解決の糸口を求めてい

ける授業過程を組むことが必要である(西之園

2003)。また,生田 (1987) は,教員養成段階で

は「授業を作成する力」の習得が高く,とりわけ

目標の明確化や構造化,教材の開発や活用,解釈

といった指導案の作成に関するスキルの習得につ

いて教育実践の経験が有効に機能していると述べ

ている。

近年,教員養成段階でいかに学生に指導力をつ

けるか,教職に関わる教育方法や学生の学習効果

を探索する研究や教育実習に関する研究が多くみ

られるようになり(大橋2006~米沢2010) ,これ

らの先行研究から,模擬授業や教育実習の場を通

して,学生が教師として授業を実践する力量を形

成していくことが明らかになっている。

一方,小学校教員免許を取得する学生のほとん

どはいわゆるピーク制(全教科にわたって広く履

修するとともに,特定の教科あるいは分野につい

て深く専門的に学ぶこと)によって履修している。

学生が教育実習で行う研究授業は,自身が専門と

する教科で実践する傾向にある。特に,「家庭科」

は全学年で履修する教科とは違い, 5, 6年生の

みに位置づけられているため,その学年を担当し

なければ授業実践することはない。しかし, 5,

6年生を担当したとしても,学生が積極的に家庭

科の授業実践を望まないためか,研究授業で「家

庭科」が実践されることは少ない。学生に「家庭

科」の授業を実践しない理由を尋ねると,「家庭

科の授業をどのように実践してよいかわからな

い」という返答があり,小学校の教科教育法を担

当する教員として,自身の指導法を見直す必要性

に迫られた。

他方,三橋 (1998,1999) は,授業過程の構造

化の研究とそれを活用した授業研究 (1メディア

に託されたメッセージをいかに読むか 算数授業

の仕組みを探る方法を求めて一J,1授業の構造の

解明をめざした授業記録の資料化の方策一新しい

算数・数学教育の実践をめざして」等)を行い,

丈字化された授業記録は授業研究において不可欠

192

なデータとなると述べている。

「授業記録」を基にした先行研究では,重松

(1961)が「教師自身が自分の実践を研究できる

こと,既成の理論によるのではなく,事実をとら

えている自分の立場を反省し,事実から理論を形

成するという明確な意識をもって,教師と子ども

の発言や行動を細大漏らさずありのまま記録し

そこにあらわれた諸事実を結び、つけることを通じ

て,教師と子どもの思考の動きが交互に交渉し

あって進展していく状況を明らかにすること」を

中核的な課題とする授業研究を「授業分析」と命

名した(日比1978)。そして,「授業の記録はそれ

を読んだ場合に,まさにその授業を見ているかの

ように,状況を描きだしていることがまず必要で

ある。……教師や子どもたちの動きがそのまま記

述されており,それを手がかりに各種の解釈が成

立するくらい詳しいものでなければならない」と

指摘している。また,砂沢(1966) は I~授業記

録は何のためにとるか』という問いに対する一つ

の答えとして,「それは授業の構造をつきとめて,

より効果的かっ価値的な授業を創造し,組織化す

るためである』ことをあげなければならいとし,

その記録について「実際に展開された授業の構造

がつきとめられないような記録は,どんなに詳細

をきわめたものであっても意味がなく,役立たな

い」と述べている。また,三橋(1998) は「授業

改善や力量形成,さらに授業の学問的研究を目的

とする授業研究は,まさに授業を再現可能な対象

として授業記録の作成から始まると解釈でき,そ

の授業観察とそれに基づく授業記録の作成という

活動は,授業研究を支える基礎となるものと考え

られる」と述べている。しかし,授業記録を読み,

頭の中で授業の流れや方法についてイメージを持

ち,その枠組みや構造をとらえ,さらにそれを分

析・考察の対象とすることは難しい。そこで,三

橋 (1997) は「授業における教師の学習者への働

きかけ(課題設定・発問),その課題を解決する

学習者のいくつかの考えや活動,そしてその学習

者の考えを比較・対立させながら吟味・検討する

という学習展開の過程を構造化し,視覚化するた

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学生の「授業記録」と「授業構造凶」の作成に関わる調査の今考祭

めの方法として「授業の構造図」を考案した。そ

して,「小学校算数科教育法」の授業において授

業ビデオや授業記録(逐語記録)から「授業過程

の構造図J,i授業の教授方略・意図の構造図」を

作成する指導方法を取り入れた講義を継続して

行っている (1993)。この講義を通して,学生た

ちは算数に必要な指導力を身につけることができ

ると評価している。

家庭科教員養成段階における指導法について

は,高木 (2007a,2007b) が,家庭科教師に求

められる資質能力の枠組みに基づいて家庭科教育

法のプログラムを設計し,学生の模擬授業から授

業の改善を探索する実証的な研究を行っている。

しかし小学校家庭科の指導法として,授業記録

の読解や授業構造図の作成などを基に,学生がど

のように授業構造等を学び,授業方法を体得して

いくかに関する研究はほとんど見当たらなかっ

た。

そこで,本研究は「小学校家庭科教育法J (2

単位)において,学生により実践的な指導力を身

につけさせるために,授業記録を活用したプログ

ラムを実施し,その効果と改善点を明らかにする

ことを目的とする。なお,授業記録を活用したプ

ログラムとは,小学校「家庭科」の授業実践をビ

デオで視聴→「観察記録」を作成→「授業記録」

を作成→「授業構造図」を作成→「学習指導案」

を作成する一連の作業をいう。

本稿では,授業記録を活用したプログラムの効

果と改善点を探るために,学生の「観察記録」を

とる能力と「授業構造図」を作成する能力を分析・

検討しこれらの作業を通して得られた知見につ

いて報告する。

II.方法

1.授業記録を活用したプログラム(図 1)と時

(1) i小学校教員による授業」と「ビデオ記録」

の作成

図1のA枠に示す「小学校教員による授業」と

「ビ、テ守オ記録」の作成に関しては,本プログラム

実施のために筆者が事前に準備した。

1 )小学校教員による授業

小学校教員による授業は,学生が観察をする授

業(以下,観察授業という)となるため,札幌市

立M小学校教諭 Y.T先生の協力を得た。授業

は, 2010 (平成22) 年10月 7日(木),第61回北

海道家庭科教育協会研究大会において, Y.T氏

が第 6学年の児童を対象に,題材「くふうしよう!

季節に合うくらし」を実践したものである。

2) iビデオ記録」の作成と「記述された授業記録」

の作成

「ビデオ記録」は,授業実施日に授業を実施し

たパソコン教室と教室の後ろに設置(固定)した

各々 1台のビデオカメラで撮影し,作成した。

また,事前準備として,観察授業の映像をもと

に,文字起こしをし「記述された授業記録」を作

成した。今回の記録は, T'教師, c子ども,

K:講師とした。

(2) iビデオの視聴」による「観察記録」と「授

業記録」の作成

図 1のB枠に示す「ビデオの視聴」による「観

察記録」と「授業記録」の作成は,「小学校家庭

科教育法」の授業として,それぞれ 1コマ分を使っ

て実施した。

1) iビデオの視聴」による「観察記録」の作成

ビデオを視聴しながら,「観察記録」を作成す

る授業は, 2011年 1月24日(月) 1校時目に実施

した。

学生には規格の記録用紙(教師の行動,学習者

の行動,板書等)を配布し,その用紙に鉛筆(シャー

プベンー等)を用いて,授業中に生じているすべて

の行動を時間的な流れに沿って自由記述する(行

動描写法)ように指示した。なお,この作業を通

して,学生が作成したものを以下,「観察記録」

という。

2) i授業記録」の作成

「観察記録」に補足をして「授業記録」を作成

する授業は, 2011年 1月31日(月) 1校時日に実

193

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佐々木貴[-.束 輝

施した。この授業では,まず始めに,事前に用意 た。

した「記述された授業記録」を学生に配布し,こ

れを基に前時にビデオ視聴をしながら作成した

「観察記録」用紙に,赤字(黒以外の色)で加筆・

修正する作業を行った。この作業を通して,完成

させた「観察記録」を以下,「授業記録」という。

(3) 1"授業構造図」と「学習指導案」の作成

図1のC枠に示す「授業構造図」と「学習指導

案」の作成は最終レポート課題とし,提出は2011

年 2月7日(月)17: 00までとした。

1) 1"授業構造図」の作成

「授業構造図」の作成については,学生が完成

させた「授業記録」を基に,「教師の働きかけ→

反応・応答→対応行動」という教授・学習過程を

読み取り,分節に分けるように指示し,次の手順

を示したプリントを配布した。

ア1"授業記録」を基に,この授業の目標・

内容・方法からキーフレーズ(キーワー

ド,キーセンテンス)を抽出する。

イ.分けられた場面を「ねらい」あるいは「意

味・内容」等に基づいて,教授・学習過

程の遷移過程を図示するために,次の

ルールを言tける。

(a) 時間過程は「上から下へ」を第一原則と

する。

(b) 同じ「ねらいJ 1"意味・内容」の分節内

では「左から右へ」と遷移していく。

(c) 関連する事項聞は線で結び,その関連を

表す。

ウ.教授・学習過程において分けられた場面

のいくつかをまとめて,意味づけができ

るものがあれば,その範囲を点線等で囲

む。

2) 1"学習指導案」を作成

観察授業の授業者になったつもりで,学習指導

案を作成するように指示した。また,レポートに

は,観察授業の長所・短所・改善点と,本プログ

ラムを実施した感想を自由記述するように指示し

194

図1.授業記録を活用したプログラム

2.調査対象と調査内容

調査対象者は,「小学校家庭科教育法CJ (2010

年度後期)を受講した学生50人(男子26人,女子

24人)であり,内訳を表 1に示す。

表 1.調査対象者の内訳去(人)

教育実習 学年 男性 女性 合計

4年生 1 2 経験者

3年生 9 3 12

未経験者 2年生 16 20 36

合計 26 24 50

調査内容は,受講生が作成した次の①~③であ

り,これらの内容を分析対象とした。

① 「観察記録」に加筆・修正をした「授業記

録」

② レポート課題として提出した「授業構造図」

③ 一連の作業に関わる感想(自由記述)

3.分析の方法

(1) 学生の「観察記録」及び「授業記録」作成に

関する能力の分析

録画した授業を観察しながら,学生が授業中に

生じているすべての行動を時間的な流れに沿って

記録(行動描写法)した「観察記録」を基に,記

述された教師・学習者の言語・非言語行動(ただ

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学生の「授業記録」と「授業構造凶」の作成に関わる調査の今考祭

し,あいさつの記述は除く)の「記録量」とその

記録の「正確さ」をみた。なお,「正確さ」につ

いては,以下の 2つの視点で、分析した。

① 正確な記録:学生の作成した記録を判読

し,意味が分かる。

② 不正確な記録:学生の作成した記録だけ

では意味が明瞭にわからないため,事前

に作成した「記述された授業記録」と照

会して,その発言内容(意味)が分かる。

(2) 1"授業記録」を基に作成した「授業構造図」

の分析と判定方法

① 教師の発言や発問の中から,授業の進行に

大きく影響を与えると推測される発言や発

聞を抽出した。

② 抽出した発問のうち 0~2 個以内の欠落が

ある場合は「ほぼ正確J,抽出した発問の

うち 3~4 個の欠落がある場合は「不十

分J,抽出した発問のうち 5個以上の欠落

がある場合は「不正確」とした。なお,抽

出した発聞が2個以内の欠落で,かっ「授

業構造図」作成子111買に従って,時間過程が

「上から下へJ,同じ「ねらいJ 1"意味・内

容」の分節内では「左から右へJ,対峠す

るものは「横に並べるJ,教授・学習過程

において分けられた場面のいくつかをまと

めてその範囲を点線等で囲むことが忠実に

出来ているものを「正確」と判定した。

E 結果と考察

1. 1"観察記録」及び「授業記録」を作成する能力

学生はビデオを視聴しながら,観察授業におけ

る教授・学習行動をどのくらい記録できているか

(記録率)を,観察記録用紙を基に分析・検討し

た。

本研究において観察対象とした授業は,教師の

教授・学習行動が62件,児童は57件,講師は 4件

であり,合わせて123件あった。学生の記録率は,

表2に示す。

表 2.観察記録の平均件数と記録率(全123件)

教師 (62件) 児童 (41件) 講師 (4件)教育実習

正確 不正確 正確 不正確 正確 不正確

20.7 5.8 18.4 1.8 1.6 1.8 経験者

50.1件 (40.8%)

未経験者42.1件 (33.3%)

そこで,ビデオの視聴による記録率と教育実習

経験の有無との関係をみたところ,実習経験のあ

る 3, 4年生は,全123件のうち平均 50.1件

(40.8%) ,実習経験のない 2年生は,平均42.1

件 (33.3%)であり,実習経験のある学生の方が

若干多く記録していることがわかった。

記録件数が最も多かった者は,実習経験のある

4年生で72件 (58.5%)であったのに対し,最も

少なかった者は,実習経験のない 2年生で13件

(10.6%)であった。記録率の低い学生の観察記

録用紙をみると,授業前半は記録がみられたもの

の,後半は全く記録していなかった。その理由は

「観察記録をとることは初めてだ、ったので難しく,

授業を追うので精一杯になった」とあり,後半は

記録するのをやめてビデオ視聴に集中していたこ

とがわかった。

三橋(1998)が実施した同様の調査結果におい

ても,実習経験のある 3年生の方が経験のない 2

年生よりも記録率が若干高かったことを報告して

いるが,本調査も同様の傾向を示した。

一方,教師,児童,講師のいずれの発言記録も,

実習経験のある学生の方が,正確に記録された件

数が高かった。しかし,このことはビデオカメラ

に録画された映像から,教師や児童の発言が読み

取れるか,つまり音声が聞き取り易いか否かに関

係するものと思われる。今回の授業を録画する際,

ビデオカメラは児童の背後から教師を撮るような

状態で,教室の後ろに一台設置した。また,児童

の声を録音するようなマイクの設置もなかったこ

とから,教師の発言に比べて,児童の発言は聞き

195

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佐々木貴[-.束

取りにくかった。そのため,事前に「記述された

授業記録」を作成する際も,何度かテープを巻き

戻して音声を拾い,文字起こしをしている。

学生の感想(自由記述)にも「子どもの声が聞

きづらい」や「子どもの発言内容を聞き取るのが

難しい」があり,一度だけ映像をみて,児童の発

言を記録する作業は難しかったものと思われる。

今後,授業実践をビデオに録画する場合は,ビ

デオカメラの設置場所や台数を考慮する必要があ

る。今回のように教室の後ろに固定した 1台のカ

メラだけで撮影するのではなく,複数台のカメラ

を用意して多面的に撮影する必要が出てくる。例

えば,子どもの発言や表情を撮るためのカメラは

教室の前方に置き,教師の働きかけや板書,掲示

などを記録するカメラは教室後方に置くと考える

と,ビデオカメラは 2~3 台が必要となろう。し

かし,ビデオカメラを設置することにより,子ど

もたちの授業に対する意欲が低下するようなこと

があってはならないため,授業者と十分に話し合

いをした上での設置が必要で、あることを再確認し

た。

一方,対象授業では教師の非言語行動として,

「板書」や「机間支援J I"DVD視聴J1"資料配付」

の行動があった。授業の一環として,外部講師が

児童に DVDを視聴させる場面と,教師が板書す

る姿は映像から確認できる。記録用紙に 'DVD

視聴」を記録した者は,全体の78%(実習経験者

78.6%,未経験者77.8%),1"板書」を記録した者

は全体の68% (実習経験者71.4%,未経験者

66.7%)であり,実習経験の有無に関わらず記録

していた。しかし,「机問支援」と「資料配付」

に関する記録は,ともに全体の40%(実習経験者

は57.1%,50.0%,未経験者は33.3%,36.1%)

であり,これらの記録は経験者の方が多い傾向に

あることがわかった。未経験者にとっては,授業

を観察することで精一杯になり,非言語行動に関

する記録まで、意識が働かなかったのではないかと

考えられる。しかし,学生たちが非言語行動を記

録することの必要性を理解していないことも考え

られるため,今後は非言語行動の意味についても

196

指導する必要性がある。

以上の結果から,録画された映像をみて,授業

を観察しながら,さらに教師や児童の発言を聞き

取り文字で記録していく作業は,学生にとって大

変な労力を要することがわかった。ただ,実習経

験のない 2年生の感想、の中には,「観察記録をと

るのは大変な作業であったが,何度も繰り返して

いくうちにコツがつかめる様になると思うので,

いろいろな場面で、行っていきたい」という積極的

な姿勢もみられた。

今回,実習経験のある学生たちが作成した観察

記録用紙と経験のない学生たちの観察記録用紙を

比べてみてわかったことは,経験のある学生たち

の観察記録用紙は簡潔だということである。つま

り,経験のない学生たちは,教師や児童の言葉を

そのまま丈宇で記録しようとしているのに対し,

経験のある学生たちは観察中にはキーワードのみ

を書き入れて,観察後にキーワードをつなげて文

章にする作業をしていたり,観察中に発言内容を

要約して記録していたりする姿が確認できた。

今後,学生たちに「観察記録」を作成するため

の指導をする際は,すべての発言をそのまま書き

記すのではなく,キーワード,キーセンテンスを

多く記述すること。また,授業中に行われる非言

語行動(教師の動きや表情,児童の挙手や反応な

ども含めて)も記録することなどを事前に指導す

る必要性が示唆された。

三橋(1998) は,記録を多く書いている記録能

力の高い学生の方が正確であるという結果を報告

しているが,近年の学生は授業中にノートをとら

ない傾向にあり,講義終了後に携帯電話のカメラ

機能を使って板書を写して行く姿もみられる。

本調査を通して,改めて講義中に「ノートをと

る」や「メモをする」等の「記録すること」を指

導する必要性が確認できた。

(2) 学生の「授業構造図」を作成する能力

学生は「観察記録」に加筆・修正をして,自身

の「授業記録」を完成させる作業を行った(図 2

-1はていねいに補足している例,図 2-2は

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学生の「授業記録」と「授業構造凶」の作成に関わる調査の今考祭

キーワード,キーセンテンスを補足している例)。

学生はそれを基に,レポート課題である「授業構

造図」を作成し,提出した。

授 業 開 録 NO, 1ー

一一一一一_1_:単草 ふふ立ふ~主 総主之丞H 軽量ゑ一一一一

第11<何 年 1c丸 、7 日 記録宮学今"もト Qぅモバ 旦車」

図2-].ビデオ視聴による「観察記録」の作成(黒字)→補足して「授業記録」の作成(赤字)

授業記録 ?っ/

i己主主 主主 γ"三 笠 援護主一一一一一一一

諸事 一 生→ 11 _jF鈴 " 主 主 持 氏名

盟縦一一 一一一 一一一一 一一一一一一一一一一一一

図2-2.ビデオ視聴による「観察記録」の作成(黒字)→補足して「授業記録」の作成(赤字)

そこで,学生が提出した「授業構造図」を分析・

検討するために,まず観察した授業において進行

に大きく影響を与えると推測される教師の発言

を,「発問(教師が意図的に子どもの中に疑問や

矛盾を起こし授業の方向性を示す働き)J, I確認

(子どもの発言内容に立ち止まって,教師自身や

周りの子どもに共通理解を図る)J, I行動の指示J,

「説明」の 4つに分類した。

「発問」には,①暖かさについてどのようなこ

とがわかったか,②インターネットや本で調べて

どんなことがわかりましたか,③朝の体育館や教

室の温度はどうですか,④みんなの家の温度は,

何度くらいですか,⑤札幌市ではなぜ温度設定

200Cを推奨しているのだろうか(学習課題),⑥

どんな風にくふうしたら理想に近づけそうです

か,自分にできそうなことは何ですか(課題解決

に向けた発問),⑦駒井さんは,この前の冬のシー

ズンは室温何度で過ごされましたか,⑧自分がで

きそうな快適さにはどんなことがありますかの 8

個が抽出できた。

「確認」には,⑨200C設定でやっていけますか,

⑩環境の仕事をしている専門家のお話を聞いて頑

張れますか。⑪駒井さんにお勧めの工夫を教えて

もらいましょう(改善に向けての確認)の 3個が

抽出できた。

「行動の指示」は,⑫札幌市保健所のHPを読

んで下さい,⑬札幌市で200Cに競ってしている理

由を配布した紙に記入して下さい,⑭自分の考え

や予想、を発表して下さいの 3個が抽出できた。

「説明」は,⑮三つの首をあたためる,⑮健康

に過ごせること,快適に暮らせることが大事です

の2個が抽出できた。観察授業では,授業の進行

に大きく影響を与えると推測される教師の発言は

16個あったことになる。

この発聞を分析の方法にしたがって検討した結

果を表 3に示す。「正確」と判断された者は本調

査対象者50人のうち11人 (22%)であり,「ほぼ

正確」は15人 (30%),I不十分」は13人 (26%),

「不正確」は11人 (22%)であった。

「正確」と判断された11人のうち実習経験者は

197

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佐々木貴[-.束 輝

表3.構造図の評価(人) 対象的過程が表わされており,この構造図を基盤

教育正確

ほほ不十分 不正確

実習 正確

4年生 / 1 / 1 経験者

3年生 2 2 4 4

未経験 2年生 9 12 9 6

合計 11 15 13 11

3年生が 2人,経験していない 2年生は 9人で

あった。

実習経験のある 3,4年生が作成した「授業構

造図」は,「正確」や「やや正確」を合わせると

5人 (10%)であるのに対し,経験のない 2年生

では21人 (42%)であり,実習経験のない学生の

方が「授業構造図」をほぼ正確に完成させていた

ことになる。

しかし, 3, 4年生が「授業構造図」を作成で

きなかったわけではない。図 3は,実習経験のあ

る3年生のAさんが作成したものである。 Aさん

は中学校で 5週間の教育実習を経験している。 A

さんが作成した「授業構造図」は,上記の分析結

果では忠実に作成された「正確」と判断されるも

のである。 Aさんが作成した「授業構造図」は,

教師・児童・講師の発言を色別で去し,さらに教

師の児童への働きかけ(発問),その発聞に対す

る児童の考えを比較・対立させながら吟味・検討

するというような学習展開の過程を構造化し,視

覚化しており,わかりやすい。一方,図 4は,同

じく中学校で 5週間の教育実習を経験したBさん

が作成した「授業構造図」である。今回の分析方

法に従うと「不正確」と判定したものである。教

師の発言や児童の応答などは多く省略されてい

る。 Bさんの「授業構造図」は, Aさんに比べる

と,教師や児童の発言内容が簡略化されており,

視覚的にもさびしい。しかし,教師の発言を追っ

ていくと授業の流れや教師がこの授業をどのよう

な目的で実施しようとしたか,つまり教師の意図

を理解することができる。

三橋 (2001) は,「授業構造図」には教師が具

体的にどのような働きかけをしたかという客観的

198

に「授業方略・意図・方法」を考察した図は,「教

授方略・意図の遷移過程とその構造」を表し,教

師の意識的内面的過程の記録を作成することにな

るという。さらに,この「教授方略・意図の遷移

過程とその構造図」は,授業設計において教授方

略を考案し,指導過程を考えるときの拠り所とな

るとともに,授業過程の構造は,授業設計のとき

の授業展開のシミュレーションの手がかりとなる

と考えられるとしている。

つまり, Bさんは今回のレポート課題としての

「授業構造図」作成の評価は「不正確」であった

ものの,決して教授・学習行動が理解できていな

かったわけではないと考える。 Bさんの感想には,

「一つの授業をこのように細かく分析したことは

今まで、なかったため新鮮に感じた。授業構造図を

つくることで,授業者のねらいを考えるきっかけ

となり,自分が授業を行う際にはどのようにする

かなどを考えることにつながった。その過程にお

いて分析した授業の良い点,改善すべき点を考え

ることにもつながったため,自分が授業を行う際

にこの経験を生かすことができるのではないかと

考えた。また,私自身にとっても今まで中学校の

授業ばかりを観察してきたために,今回の経験で

小学校で、の授業実践の具体的なものを見ることが

できたことは大変に重要なことであると感じる」

とあり,中学校での教育実習の経験をふまえて,

「授業方略図」を作成したと推察できる。 Bさん

のように「授業方略図」を作成した 3年生は「不

十分」と「不正確」を合わせると 5人みられた。

よって,教育実習を経験した 3,4年生の大半は,

「授業記録」を基に,「授業構造図」並びに「授

業方略図・意図の遷移過程とその構造図」を作成

する能力を身につけていたことが確認できた。

しかし,教育実習を経験していない 2年生は,

客観的対象的過程を表わすことに終始し,「授業

方略図」の作成にまでには至っていないことが明

らかになった。

次に,「授業構造図」の作成に関わり,学生た

ちの感想(自由記述)を分析・検討した。

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学生の「授業記録」と「授業構造図」の作成に関わる調査の今考察

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199

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学生の「授業記録」と「授業構造凶」の作成に関わる調査の今考祭

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図3. Aさんが作成した「授業構造阿J (1正確」と判定した例)

201

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Bさんが作成した「授業構造園J (1不正確」と判定した例)図4.

202

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学生の「授業記録」と「授業構造凶」の作成に関わる調査の今考祭

経験のない 2年生が作成した「授業構造図」は,

作成手順に従って忠実に書かれているものが多

い。そのため, 2年生は「授業構造図」を作成し

て何を学んだか(感想)を分析した。その結果,「授

業構造図を作成することで,教師の発問と児童の

学習活動との対応関係や,児童同士の発言の関連

性など,授業の様子をみるだけでは見えてこな

かったものが見えてきたJ (20人), I授業の進め

方や先生のねらいがわかり,パズ、ルを解くような

面白さだったJ,I発問や応答には意味があり,導

入からまとめまでいくつかの分岐をしながらも一

定の流れで進んでいる。その中にはキーワードが

存在し,教師は意識的に生徒を課題解決へと導い

ているのだなあと感じたJ,I算数科の授業で学ん

だことだが,授業記録からいかに大事な箇所を選

択できるか,どこで区切られ,重要な発問はどれ

かを理解しながら授業記録を読み進めることが授

業構造図を作成する上で重要であることを今回の

作業でも確認できた」という感想がみられた。

また,「これまで家庭科の授業に対して持って

いたイメージは調理実習や作品づくりであった

が,この作業を通して意識しないところで人間と

しての生活基盤を構成する上で非常に重要な教科

であったということを再認識したJ (3人), I家

庭科の魅力や奥深さ,難しさを改めて知ることが

できたJ (3人)などもあった。

「算数科では,一時間の授業において多くの場

合,課題が一つで明確である。しかし,家庭科は

課題が一つではなく,また一つの課題がとても大

きい。また,算数科では答えは一つであるが,家

庭科では答えが一つではないため,子どもたちの

答えが多様に広がり,理解しづらいJ(2人), I家

庭科は算数科と違って正しい答えが多くあった」

( 3人), I家庭科の授業は,理科や社会,総合な

ど他の授業との関連を強く感じたJ,I家庭科に

限ったことではなく,日頃の学級経営や教科経営

が学習に強く影響を及ぼすことを認識した」など

もみられた。家庭科の授業をどのように実践して

よいかわからない学生に対しては,この作業を通

して授業のイメージを持たせることができたので

はないかと推察できる。

感想の中に「算数科」という言葉が多く出てき

たため,受講生の履修状況を確認したところ, 2

年生36人中31人が本講義と並行して,三橋氏が担

当する「小学校算数科教育法」も受講しているこ

とがわかった。つまり,三橋氏が担当する「小学

校算数科教育法」においても,構造図の作成を学

んでいたことから,忠実に構造図を作成する作業

を行ったものと思われた。

以上のことから,実習経験のない 2年生は「授

業構造図」を作成する作業を通して,授業におけ

る教師の学習者への働きかけや,その課題を解決

する学習者のいくつかの考えや活動,そしてその

学習者の考えを比較・対立させながら,吟味・検

討するような学習展開の過程を構造化し視覚化

することができていることがわかった。さらに,

自分が受けてきた家庭科のイメージから,新たな

家庭科の授業イメージ、を作っていることも確認で

きた。

一方,実習経験のある 3,4年生 (14人)のう

ち数ヶ月前に教育実習を終えた 3年生の感想には

「構造図を作成する作業をするにあたり,実習を

経験しているからこそ出来ることは何か,気付け

ることは何かに着目して作業を行ったが,逆に実

習を経験しているからこそ自身の考え方や先入観

が先走り,作業が難航した」や「教育実習を経験

しているので,この作業を通して自分の授業を振

り返ることもできた。計画と現実のギャップは児

童の実態だけでなく,自分の細かな言動が関わっ

ているのだと反省した」などがあり,実習を経験

しているからこそ,「授業構造図」から「授業方略・

意図の遷移過程」へとつながったものと考えられ

る。

また,「授業記録から授業構造図を作成するこ

とで,授業中に教師と児童との対話で中心となっ

てくる発問や問いかけが何であるかがはっきり

し,この授業で何を教えたかったのかがわかる(授

業者のねらいや意図がみえる)J (7人), I授業が

いかに構造的に作られているかを改めて感じた。

同じ「ねらいj] ~意味・内容』のものを並列に記

203

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佐々木貴[-.束

載することでビデオでは見えなかった部分が見え

てきたJ,1"作業を通して,教師の発言や役割,子

どもの発言の位置づけが明確になり,授業を客観

的に分析しやすくなったJ,1"授業構造図では,時

間の経過や複数ある子どもたちの考えがどのよう

な関係にあるのかがわかりやすい」がみられた。

さらに,「昨年,三橋先生の授業で似たような

作業で教材研究を行う経験をした。今回の教育実

習ではその経験を生かすことができ,多くの先生

方から高い評価を得ることができた」があり,教

育実習でより自信をつけた感想もあり,積極的に

教育実習にのぞんでいた姿を感じ取ることができ

た。

つまり,教育実習中に先輩教員の授業を参観し

たり,自身も指導案を作成して授業実践したりす

ることにより,学生は頭の中で授業の流れを構造

化することが出来るようになったものと考えられ

る。

本研究は,小学校「家庭科」の授業実践をビデ

オに収録し,その映像をみて「観察記録」を作成

→加筆・修正をして「授業記録」を作成→「授業

構造図」の作成までの作業を行うことによって,

学生たちは「家庭科」の授業を作成する力を身に

つけることができるようになったかを考察した。

今回の調査結果をふまえると,授業を作成する力

の一助となったのではないかと考える。ただ,授

業を作成する力は,授業を実践する力とは同義で

はないため,授業実践力を身につけるためには,

現場での実践は欠かせない。しかし,「家庭科の

授業をどのようにしてよいかわからない」という

学生たちには,この作業は有効であったと考えら

れる。

本研究の授業記録を活用したプログラムは,小

学校「家庭科」の授業実践をビデオに収録し,そ

の映像をみて「観察記録」を作成→加筆・修正を

して「授業記録」を作成→「授業構造図」の作成

→「学習指導案」の作成までの作業を一連として

いるが,今回は「学習指導案」の作成能力に関す

る調査は実施していない。今後,「学習指導案」

204

の作成に関わる能力について分析・検討した上

で,本プログラムの効果と改善点を明らかにする

ことが,今後の課題である。

引用文献

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入における PBLチュートリアル教育の試み,三重大

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成に対する教職志望学牛ーと初任者の意識の検討,奈良

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日本家庭科教育学会誌, 49(4), pp. 268-278

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学生の「授業記録」と「授業構造凶」の作成に関わる調査の今考祭

三橋功一(1998):教科教育学における学生の授業研究能

力の向卜をめざした授業観察・記録の方法.教科教育

学研究, 16, pp .135-154

三橋功一 (2001):数学科教育法における先行実践の記録

を活出した授業研究,教科教育学研究, 19, pp.3-21

付記

本研究は科学研究費補助金基盤研究(B)課題番号

22300278 (研究代表者:三橋功一),研究テーマ「授

業記録の読解方略に基づく授業記録改定(授業過

程可視化)の方法の開発J,科学研究費補助金基

盤研究(C)課題番号23531148(研究代表者:佐々木

貴子),研究テーマ「授業記録の読解方略に基づ

く家庭科における授業記録の方法の開発」によっ

て行った。

(佐々木貴子札幌校教授)

(東 輝北海道大学大学院生)

205