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X線分析の進歩 第 41 集(2010)抜刷 Advances in X-Ray Chemical Analysis, Japan, 41 (2010) アグネ技術センター ISSN 0911-7806 (社)日本分析化学会X線分析研究懇談会 © 回折 X 線幅を用いた結晶子サイズの異なる 二酸化チタン粉体混合物の評価 宮内宏哉,北垣 寛,中村知彦,中西貞博,河合 潤 Analysis of Compound Ratios of Titanium Dioxides with Various Crystallite Sizes Using X-Ray Diffraction Broadenings Hiroya MIYAUCHI, Hiroshi KITAGAKI, Tomohiko NAKAMURA, Sadahiro NAKANISHI and Jun KAWAI

Various Crystallite Sizes Using X-Ray Diffraction ...Compound ratios of titanium dioxides with various crystallite sizes were analyzed using their X-ray diffraction broadenings. The

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X線分析の進歩 第 41 集(2010)抜刷Advances in X-Ray Chemical Analysis, Japan, 41 (2010)

アグネ技術センターISSN 0911-7806

(社)日本分析化学会X線分析研究懇談会 ©

回折 X線幅を用いた結晶子サイズの異なる二酸化チタン粉体混合物の評価

宮内宏哉,北垣 寛,中村知彦,中西貞博,河合 潤

Analysis of Compound Ratios of Titanium Dioxides withVarious Crystallite Sizes Using X-Ray Diffraction Broadenings

Hiroya MIYAUCHI, Hiroshi KITAGAKI, Tomohiko NAKAMURA,Sadahiro NAKANISHI and Jun KAWAI

X線分析の進歩 41 75

回折X線幅を用いた結晶子サイズの異なる二酸化チタン粉体混合物の評価

Adv. X-Ray. Chem. Anal., Japan 41, pp.75-84 (2010)

*京都府中小企業技術センター 京都市下京区中堂寺南町134 〒600-8813**京都大学大学院工学研究科材料工学専攻 京都市左京区吉田本町 〒606-8501

回折X線幅を用いた結晶子サイズの異なる

二酸化チタン粉体混合物の評価

宮内宏哉*,**,北垣 寛*,中村知彦*,

中西貞博*,河合 潤**           

Analysis of Compound Ratios of Titanium Dioxides withVarious Crystallite Sizes Using X-Ray Diffraction Broadenings

Hiroya MIYAUCHI*,** , Hiroshi KITAGAKI* , Tomohiko NAKAMURA* ,Sadahiro NAKANISHI* and Jun KAWAI**

*Kyoto Prefectural Technology Center for Small and Medium Enterprises134 Chudoji-minamimachi, Shimogyo-ku, Kyoto 600-8813, Japan

**Department of Materials Science and Engineering, Kyoto UniversitySakyo-ku, Kyoto 606-8501, Japan

(Received 25 November 2009, Revised 25 December 2009, Accepted 30 December 2009)

   Compound ratios of titanium dioxides with various crystallite sizes were analyzed using theirX-ray diffraction broadenings. The good correlation between compound ratios of titanium dioxidesand the pure X-ray diffraction broadenings or estimated crystallite sizes were observed. Althoughthe value of X-ray diffraction broadening and crystallite size was influenced by the receiving slitsize on X-ray diffraction spectrometer, the correlation between compound ratios of titanium dioxidesand crystallite sizes was not influenced. The compound ratio of titanium dioxides with variouscrystallite sizes on a glass plate was evaluated by its X-ray diffraction broadening.[Key words] Crystallite size, X-ray diffraction, Broadening, Titanium dioxide

 回折X線幅を用い,結晶子サイズの異なる 2種類のアナターゼ型二酸化チタン粉体を混合した試料の構成比

率を算出するため,X線回折測定条件による回折X線幅への影響を調べた.結晶子サイズの異なる 2種類のア

ナターゼ粉体を混合した試料について,混合比率と結晶子サイズとの間に相関が確認できた.X線回折測定時

の受光スリット幅の違いにより,装置による回折X線の拡がりの値は変化するが,装置による拡がりの影響を

除去して求めた結晶子サイズと混合比率との相関への影響は見られなかった.回折X線幅から求めた結晶子サ

イズを用いて混合比率算出が可能な,2種類のアナターゼ粉体の回折X線幅の差異については,回折X線幅の

測定変動から検討を行った.回折X線幅から算出した結晶子サイズを用いた,結晶子サイズの異なる 2種類の

アナターゼ粉体の混合比率定量方法を応用して,ガラス板上に塗布されたアナターゼ粉体のそれぞれの結晶子

サイズの重量比率を求めることができた.

[キーワード]結晶子サイズ,X線回折,回折X線幅,酸化チタン

76 X線分析の進歩 41

回折X線幅を用いた結晶子サイズの異なる二酸化チタン粉体混合物の評価

1. 緒 言

 近年,光触媒材料の産業利用が拡大するに従

い,工業製品表面に固定された光触媒材料につ

いて,結晶構造,結晶子サイズなど光触媒特性

に影響が大きい項目を中心に,簡便な評価方法

が求められている.最も広く産業利用されてい

るアナターゼ型二酸化チタン粉体を主成分とす

る光触媒材料では,結晶子サイズが細かいほど

常温での光触媒特性は優れるが,一方で結晶子

サイズが細かいほど固定化及び使用環境での熱

影響により光触媒機能が低下する1).そこで,広

い温度領域で安定した光触媒特性を発揮できる

よう,結晶子サイズの異なるアナターゼ型二酸

化チタン粉体を混合して用いることがある.こ

れら 2種類の二酸化チタン粉体を混合した光触

媒材料の生産プロセス管理及び製品評価におい

ては,原材料の構成比率を把握し管理すること

が重要であり,簡便に材料の構成比率を評価で

きる分析方法が求められている.

 結晶子サイズの異なる 2種類のアナターゼ型

二酸化チタン粉体を混合した試料の構成比率は,

走査電子顕微鏡(SEM)または透過電子顕微鏡

(TEM)による観察から求められる.しかし,

SEMで観察できるのは,複数の結晶子からなる

一次粒子が集合した二次粒子である場合が多く,

またTEMでは結晶子サイズを観察しうるが部分

的な観察に限られ,試料全体の平均的な構成比

率を評価することは困難である.

 二酸化チタンの結晶系の同定は,X線回折法に

より行われている2).また,X線回折測定により

得られた回折X線幅を用いて,結晶子サイズが評

価できることは広く知られている.単一の結晶子

サイズの分散を持ったアナターゼ型二酸化チタン

粉体については,結晶子サイズの違いによる回折

X線幅への影響について既に報告されている3).

 今回の実験では,回折X線幅を用い,結晶子

サイズの異なる 2種類のアナターゼ型二酸化チ

タン粉体を混合した試料の構成比率を定量する

ため,X線回折測定条件による回折X線幅への

影響を調べた.また,2種類のアナターゼ型二酸

化チタン粉体を混合した試料の混合比率に対す

る,回折X線幅及び結晶子サイズの変化を調べ,

定量結果への影響を検討した.更に,回折X線

幅から算出した結晶子サイズを用い,ガラス基

板上に 2種類のアナターゼ型二酸化チタン粉体

を塗布した試料について,アナターゼ粉体の結

晶子サイズ毎の構成比率算出を試みた.

2. 実 験

2.1 供試材

 アナターゼ粉体試料には,石原産業製光触媒

酸化チタンST-01及びST-21,和光純薬工業製酸

化チタン(IV)アナターゼ型,テイカ製光触媒用酸

化チタンAMT-600,関東化学製酸化チタン(IV)

アナターゼ型の5種類を用いた.アナターゼ粉体

試料は,そのまま,あるいは2種類の粉体を任意

の重量比率で混合後に,縦横ともに 20 mm,深

さ0.5 mmの窪みを持つX線回折測定用ガラス試

料板へ充填した.なお,粒径の異なる2種類の粉

体を混合した試料では,ガラス試料板への充填

量により充填される粉体の比率が変わる4)こと

から,ガラス試料板への充填は全て,試料表面

が均一かつ押し固めない程度に充填した.なお,

粉体試料の混合は,結晶性の変化が生じないよ

う,2種類の粉体試料をガラス容器に入れて密閉

し,ガラス容器を十分に振って行った.混合後

の試料は,ガラス試料板への充填及びX線回折

測定を3回繰り返して行い,十分に混合できてい

ることの確認を行った.

X線分析の進歩 41 77

回折X線幅を用いた結晶子サイズの異なる二酸化チタン粉体混合物の評価

 ガラス塗布試料は,エチルアルコール(特級)100

mlの入ったガラスビーカー内に,2種類のアナ

ターゼ試料を各 5 gずつ投入し,マグネチックス

ターラーを用いて十分に攪拌した後,攪拌を止め

て一定時間静置してから,マイクロピペットを用

いて液面の半分の高さから0.4 mlを分取し,35 mm

× 25 mmサイズのガラス板上に滴下した後,60℃

に熱したホットプレート上で乾燥させて作製した.

2.2 X線回折装置

 X線回折装置は,RINT UltimaIII(リガク)を用

いた.光学系は,JIS K 0131に示されている,Cu

管球から発生したCu-Kα線を用いたBrag-Brentano

の集中方式とした.Cu管球の出力は 40 kV,40

mAで用いた.アナターゼの最高強度線である

(101)回折X線を測定することとし,走査範囲は

2θ = 23.5 °~27.0 °,走査ステップは0.005 °とし

た.発散スリット及び散乱スリット幅は 32 °と

し,ソーラースリットは5°を用いた.回折X線

幅への影響が比較的大きいと考えられる受光ス

リット(RS)幅及び計測時間は変化させて評価

した.Cu-Kα線の単色化は,湾曲グラファイト

結晶(曲率半径225 mm)を備えたモノクロメー

タを用いて行った.なお,平板結晶を備えたモ

ノクロメータで単色化した場合,結晶上の回折

点によって回折条件

  λ = 2d sinθ

が異なるため回折X線幅に影響するが,湾曲結晶

を備えたモノクロメータで単色化した場合には,

入射したX線が点集束するため,回折X線幅への

影響は小さくなる5).実際,湾曲結晶を備えたモ

ノクロメータ及びNi箔を用いた2通りの方法で単

色化を行い,Si粉末(NIST SRM 640c)のX線回

折測定を行って回折X線幅を比較したところ,回

折X線幅には有意な差異は見られなかった.

 測定した回折 X線は,解析ソフトMDI JADE

6.0(リガク)を用い,スムージング,バックグ

ランド除去及びKα2除去を行った後,アナター

ゼ(101) 回折X線の半価幅を求め,これを回折X

線幅Bexpとした.スムージング処理は,Savitzky

-Goley法による9点スムージング処理を5から

10回繰り返して行った.Kα2除去は,Kα1:Kα2

比を 2:1として除去した 6).

 結晶の歪が無視できる粉体試料の場合,X線

回折測定により得られた回折X線幅Bexpは,結

晶子による回折X線の拡がり βと装置による回

折X線の拡がりBiとに分けて考えることができ

る7).装置による回折X線の拡がりBiは,数µm

以上の大きなサイズの結晶子を有する試料の回

折X線幅から実測が可能であり,今回はSi粉末

(NIST SRM 640c)の回折X線の半価幅を Biと

した.また,結晶子による回折X線の拡がりβ は,

実測したアナターゼ(101) 回折X線幅Bexp及び装

置による回折X線の拡がり Biを用いて,式

  β = ( Bexp2- Bi

2 )1/2  (1)

から求めた8).結晶子サイズDは,Scherrerの式

  D = Kλ /β cosθ  (2)

を用いて求めた.ここで,Dは結晶子サイズ(Å),

θ は回折角(rad),KはScherrer定数であり0.9と

した.なお,残留応力や不純物の存在により大き

な結晶歪を持つ試料では,結晶歪による回折X線

の拡がりも考慮が必要となる.しかし,今回の実

験の目的は結晶子サイズ別での混合比率の算出

であり,結晶歪の影響を除いて結晶子サイズを

精密に求めることは目的としていない.また,評

価対象とした5種類のアナターゼ粉体試料は高純

度かつ数百Å程度の微細な結晶子サイズを有し

ており,回折X線幅への顕著な影響を及ぼすほど

の結晶歪を持つことは考えにくい.従って,今回

78 X線分析の進歩 41

回折X線幅を用いた結晶子サイズの異なる二酸化チタン粉体混合物の評価

の実験では結晶歪の影響を評価することなく,

式(1)及び(2)をそのまま用いることとした.

2.3 検討項目

・5種類のアナターゼ粉体試料のX線回折測定を

行い,結晶子による回折X線の拡がりβ及び結

晶子サイズDを求める.

・結晶子サイズの異なる 2種類のアナターゼ粉

体を混合した試料について,混合比率と回折

X線幅及び算出した結晶子サイズとの関係に

ついて検討する.

・受光スリット(RS)のスリット幅の違いが,回

折X線幅と結晶子サイズへ及ぼす影響,2種類

のアナターゼ粉体の混合比率と結晶子サイズ

との関係へ及ぼす影響について検討する.

・回折X線強度の違いによる回折X線幅及び結

晶子サイズの測定変動を評価し,結晶子サイ

ズから混合比率を求めることが可能な,2種類

の回折X線幅の差異について検討する.

・回折X線幅から算出した結晶子サイズDを用

い,ガラス板上に塗布された結晶子サイズの

異なる 2種類のアナターゼ粉体の構成比率算

出を試みる.

3. 結果と考察

3.1 回折X線幅及び結晶子サイズ

 5種類のアナターゼ粉体試料(ST-01,ST-21,

Wako,AMT-600,Kanto)の回折X線をFig.1に

示す.ここで,受光スリット(RS)幅は0.10 mm,

計測時間は 1ステップ 10秒とした.各アナター

ゼ粉体試料のアナターゼ(101) 回折 X線幅 Bexp,

結晶子による回折X線の拡がり β及び結晶子サ

イズDをTable 1に示す.試料 1は回折X線ピー

ク高さ及び積分面積が最も低くかつ回折X線幅

Bexpは最も広く,算出した結晶子サイズDは最も

小さかった.一方,試料 5は回折X線ピーク高

さ及び積分面積が最も高くかつBexpは最も狭く,

Dは最も大きかった.試料2と試料3は,Bexp,D

ともに約 2%の差異であった.なお,試料 3(結

晶子サイズ226 Å)及び試料5(558 Å)を,レー

224.0° 24.5° 25.0° 25.5° 26.0° 26.5°

In

tensi

ty /10

3co

un

ts

15

12

9

6

3

0

5

43

2

1

Fig.1 X-ray diffractions of TiO2 anatase samples.

X線分析の進歩 41 79

回折X線幅を用いた結晶子サイズの異なる二酸化チタン粉体混合物の評価

ザー回折式粒径測定装置(SALAD-2000A,島津

製作所)を用いて粒径測定した結果は,各々,

2.76 µm及び0.71 µmとなり,結晶子サイズとの

関係は見られなかった.これは,レーザー回折

式粒径測定などの粒径測定方法により求められ

る粒径は,複数の結晶子が集合した一次粒子,あ

るいは一次粒子が集合した二次粒子の径であり,

結晶子サイズと直接関係していないためである.

3.2 混合試料の回折X線幅及び結晶子サイズと

混合比率

 結晶子サイズ Dが 226 Å及び 558 Åと約 2倍

の差異が確認できた試料3及び5について,試料

3/試料5の重量比が0/100,25/75,50/50,75/25,

Fig.2 X-ray diffractions of mixed 3 and 5 samples. Sample 3/5 ratios are a; 0/100, b; 25/75, c; 50/50, d; 75/25 ande; 100/0.

No. Sample Bexp*1

(10-3rad) β *2

(10-3rad) D*3 (Å)

1 ST-01 (Ishihara) 12.90 12.83 111

2 ST-21 (Ishihara) 6.56 6.42 221

3 TiO2 anatase (Wako Pure Chemical) 6.42 6.28 226

4 AMT-600 (Teika) 5.79 5.64 252

5 TiO2 anatase (Kanto Kagaku) 2.88 2.55 558

*1 full width at half maximum of an anatase (101) diffraction peak *2 pure X-ray diffraction broadening due to crystallites *3 crystallite size

Table 1     Full width at half maximum of anatase (101) diffraction peak(Bexp), pure X-raydiffraction broadening due to crystallites (β ) and crystallite size(D) of TiO2 anatase samples.

2

Inte

nsi

ty /10

3co

un

ts

0

15

12

9

6

3

24.5° 25.0° 25.5° 26.0°

a

b

c

de

80 X線分析の進歩 41

回折X線幅を用いた結晶子サイズの異なる二酸化チタン粉体混合物の評価

100 /0 となるよう混合した試料のアナターゼ

(101)回折X線を Fig.2に示す.ここで,RS幅は

0.10 mm,計測時間は1ステップ10秒とした.試

料 3の比率が増すほど,回折X線ピーク強度が

低下する一方で,回折X線幅が増すことを確認

できた.

 試料 3と 5を混合した試料について,試料 3

の重量比率に対するアナターゼ(101)回折 X線

幅 Bexp及び結晶子サイズDの変化を Fig.3に示

す.なお,ここで式(2)により求められるD は,

混合試料の重量平均した結晶子サイズを示すこ

ととなる 9).なお,装置による回折X線の拡が

りBiは 1.34× 10--3 radであった.試料 3の重量

比率が増えるにつれて,Bexpは直線的に増え,

Dは直線的に減少した.試料 3の重量比率と

Bexp及びDとの相関係数の値は,ともに0.98で

あった.

 次に,試料3及び5の場合と同様に,試料1と

3,試料 1と 5,試料 2と 3,試料 3と 4を混合し

た試料のX線回折測定を行い,各混合試料の混

合比率に対する回折X線幅Bexp及び平均結晶子

サイズDの相関係数を求めた.得られた相関係

数の絶対値を Table 2に示す.

 まず,回折X線幅の差異が比較的小さい 2種

類のアナターゼ粉体試料を混合した IV及びVで

は,混合比率に対するBexpの相関係数は 0.98以

上と高かった.一方,回折X線幅の差異が IV及

びVと比べて大きい 2種類のアナターゼ粉体試

料を混合した I 及び II では,混合比率に対する

Bexpの相関係数は0.94及び0.89と,IV,Vに比べ

D /Å

Prepared ratio of sample

Be

xp /1

0-4

rad

500

3

0

300

100

6

0.00 0.25 0.50 0.75 1.00 0.00 0.25 0.50 0.75 1.00

Prepared ratio of sample

A B

Fig.3 Full width at half maximum of an anatase (101) diffraction peak(Bexp) and crystallite sizes(D) of mixed 3 and5 samples. A; full width at half maximum. B; crystallite sizes.

absolute correlation coefficient No. mixed

sample Bexp*1 D*2

I 1 and 3 0.94 0.99 II 1 and 5 0.89 0.99 III 2 and 3 0.94 0.94 IV 3 and 4 0.99 0.99 V 3 and 5 0.98 0.98

*1 full width at half maximum of an anatase (101) diffraction

peak *2 crystallite size

Table 2     Absolute correlation coefficient between fullwidth at half maximum of an anatase (101) diffractionpeak(Bexp) or crystallite size(D) and prepared ratios ofmixed TiO2 anatase samples.

X線分析の進歩 41 81

回折X線幅を用いた結晶子サイズの異なる二酸化チタン粉体混合物の評価

て低い値となった.これは,回折X線幅の差異

が比較的小さい試料同士では,装置による回折

X線の拡がりBiの影響の違いも小さく,Biの影

響を含んでいる Bexpを用いても,混合比率に対

する直線性が保たれたものと考える.回折X線

幅の差異が比較的大きいI及び IIでは,Biの影響

の違いも比較的大きくなり,Biの影響を含むBexp

と試料混合比率との関係の直線性が低下したと

考えられる.

 次に,結晶子サイズDの場合には,Dと混合

比率との相関係数は,I, II, IV, Vいずれの混合試

料でも,0.98以上の高い値が得られた.Dの算出

においては,式(1)を用いてBexpから装置によ

る回折X線の拡がりBiが既に除去されているた

め,結晶子サイズの差異が比較的大きい場合で

も,試料混合比率とDとの直線性は保たれたと

考えられる.

 また,試料 2と 3を混合した IIIでは,混合比

率に対するBexp及びDの相関係数は共に 0.94で

あり,I, IV, 及びVと比べて低かった.これは,

試料2と3の回折X線幅Bexp及び平均結晶子サイ

ズDの差異が約2%であり,後に検証する測定変

動による回折X線幅の誤差に対し,試料2と3の

Bexp及びDの差異が有意でなかったことが原因

と考える.

3.3 受光スリットによる回折X線幅への影響

 X線回折において,受光スリット(RS)幅を

広げると回折X線強度は増すが,回折X線幅は

広がる.実際のX線回折測定では,必要な角度

分解能が得られる範囲内でできる限りRS幅を広

く設定して,回折X線のSN比を向上,あるいは

X線回折測定に要する時間の短縮を図ることが

一般的である.また,RS幅を変化させると,装

置による回折X線の拡がりBiが変化するため,Bi

の違いによる影響を簡便に評価できる.そこで,

X線回折装置の RS幅を 0.10 mmから 0.30 mm,

0.60 mmに広げ,試料3及び5のアナターゼ(101)

回折X線を測定し,回折X線幅Bexp及び結晶子

サイズDを求めた結果をTable 3に示す.ここで,

RS幅が0.10 mmの時のBiは1.34×10--3 rad,0.30

mmの時は 1.66× 10--3 rad,0.60 mmの時は 2.27

×10--3 radであった.結晶子サイズの大きな試料

5の場合,RS幅を 0.10 mmから 0.60 mmに広

げた時,Bexpの値に約 13%,Dの値には約 17%

の変化が見られた.これは,RS幅が広いほど回

折X線幅Bexpに対する装置起因の回折X線の拡

がりBiの影響が大きくなることが要因と考えら

れ,Bexp及びDの値を求めるためには,RS幅を

適切に設定することが必要であることがわかっ

た.また,試料 3でも,RS幅の違いによってD

値に約 4%の差異が見られており,異なる条件

で測定した回折X線から求めたD値を相互に比

較する場合には,誤差となりうることが示唆さ

れた.

 一方,試料 3/試料 5の重量比が 0/100,25/75,

50/50,75/25,100/0となるよう混合した試料に

sample RS*1 (mm)

Bexp*2 (10-3rad)

D*3 (Å)

0.10 6.42 226 0.30 6.51 223 3 0.60 6.67 218

0.10 2.88 558 0.30 2.98 533 5 0.60 3.26 478

*1 receiving slit size *2 full width at half maximum of an anatase (101) diffraction

peak *3 crystallite size

Table 3     Full width at half maximum of anatase (101)diffraction peak(Bexp) and crystallite sizes(D) for vari-ous receiving slit sizes.

82 X線分析の進歩 41

回折X線幅を用いた結晶子サイズの異なる二酸化チタン粉体混合物の評価

ついて,RS幅を0.10 mm,0.30 mm及び0.60 mm

の3通りでX線回折測定を行い,RS幅毎にDと

試料混合比率との関係を求めた時,いずれも相

関係数は 0.98であった.Dの絶対値をより精度

よく求める場合にはRS幅を適切に設定すること

が必要であるが,Dの絶対値を問題とせず,D値

と試料混合比率との相関のみを問題とし,D値

の変化から試料混合比率を求める場合には,D

の絶対値を求める場合よりもRS幅を広げること

が可能であることが示された.

3.4 計測時間による回折X線幅への影響

 X線回折測定の計測時間を1秒,3秒,5秒,7

秒,10秒と計測時間を変えて,試料 3及び 5の

X線回折測定を 5回ずつ行い,回折X線の強度

の平均値及び回折X線幅Bexpの変動係数を求め

た.その結果をFig.4に示す.回折X線強度が高

いほど Bexpの変動係数は低下したが,試料 3の

回折 X線強度が約 4,500カウント(計測時間を

10秒)の場合でも,0.7%程度の測定変動が観察

された.今回,上記3.2で検討を行った試料2と

3のBexpの差異は約2%であり,X線回折測定及

びデータ処理の繰り返しによるBexpの変動係数

に対して 3倍未満であった.混合するアナター

ゼ粉体試料の回折X線幅及び結晶子サイズから

2種類のアナターゼ粉体の混合比率を求める場

合,X線回折測定及びデータ処理の繰り返しに

よる回折 X線幅の変動係数に対し,3倍以上の

回折X線幅の差異を有することが必要であると

考えられる.なお,回折X線強度の測定変動は,

回折 X線強度(カウント数)の 1/2乗に比例す

ることが知られており,回折X線強度に対する

測定変動を検討することが一般的であるため,

Fig.4においても横軸を回折X線強度(カウント)

とした.また,5回ずつ繰り返して X線回折測

定を行った主な目的は,X線回折測定による回

折X線幅の変動を評価することであったことか

ら,同一試料での単純な繰り返し測定を行って

Fig.4 Coefficient of variation on full width at half maximum of anatase (101) diffraction peaks(Bexp).

Intensity /103 counts

C.V

. of B

exp

/10

-2

2.0

1.5

1.0

0.5

0.0 0 3 6 9 12 15

X線分析の進歩 41 83

回折X線幅を用いた結晶子サイズの異なる二酸化チタン粉体混合物の評価

おり,ガラス試料板への試料の詰め替えは行っ

ていない.

3.5 ガラス塗布試料の構成比率への応用

 アナターゼ型二酸化チタン粉体の主な用途の

一つに,光触媒材料としての利用があり,板な

どの基材の表面に付着・固定させて用いられる.

そこで,光触媒材料の塗布プロセスにおける生

産・品質管理及び製品評価への応用を検討する

ため,2種類のアナターゼ粉体試料を塗布したガ

ラス板試料のX線回折測定及び結晶子サイズ別

の構成比率算出を試みることとした.試料3及び

5を混合して攪拌し,攪拌停止後に一定時間静置

してから塗布したガラス塗布試料について,ア

ナターゼ(101)回折X線の測定を行い,回折X線

幅から結晶子サイズDを求め,Fig.3(B)から求め

た試料 3の比率とDとの関係を用いて,ガラス

板上の試料 3の比率を求めた.その結果をFig.5

に示す.攪拌停止後,分取までの静置時間が長

くなるにつれて,試料3の占める割合が低下した

ことが示されており,光触媒材料の塗布プロセ

スにおける生産・品質管理及び製品評価に利用

しうることが示唆された.

4. 結 論

 5種類のアナターゼ粉体試料の X線回折測定

を行い,回折 X線の装置拡がり Bi及び Scherrer

の式を用いて,各試料の結晶子による回折X線

の拡がり β及び結晶子サイズDを求めることが

できた.結晶子サイズの異なる2種類のアナター

ゼ粉体を混合した試料について,混合比率と結

晶子サイズDとの間に相関が確認できた.X線

回折測定時の受光スリット幅の違いにより,回

折X線の装置拡がりBiの値は変化するが,Biの

影響を除去して求めた結晶子サイズDと混合比

率との相関への影響は見られなかった.X線回

折測定の積算時間が長いほど,回折X線幅の測

定変動は小さくなることが確認できた.また,結

晶子サイズDから混合比率を求めることが可能

な,2種類のアナターゼ粉体の回折X線幅の差異

Fig.5 Estimated ratio of sample 3 on the coated glass samples with sample 3 and 5.

Stationary time /min.

Ra

tio o

f sa

mp

le 3

0.30 0 6 10

0.35

0.40

0.45

0.50

2 4 8

84 X線分析の進歩 41

回折X線幅を用いた結晶子サイズの異なる二酸化チタン粉体混合物の評価

について,回折 X線幅の測定変動から検討を

行った.最後に,今回の粉体構成比率定量方法

を応用して,ガラス板上に塗布されたアナター

ゼ粉体の結晶子サイズ毎の構成比率を求めるこ

とができた.

参考文献

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