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景気循環論 小巻泰之 vol.2 戦後インフレ

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景気循環論

小巻泰之

vol.2 戦後インフレ

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分析道具の復習:IS-LM分析 IS-LM 曲線

・ 乗数アプローチは財市場の均衡状況を示す。その裏側の金融・資産市場も同時に動く。

・ IS-LM 曲線とは、この2つの関係が同時に決定されている状況を示したもの

(財市場) IS は外生変数 GC +0 を与えたときの r とY との関係を示したもの

( ) ( ) GrICcYY +++= 0 ⇔ ( )( )c

GrICY−

×++=1

10

⇒投資は、金利変動により増減する。金利が低いとき調達コストが低下するため、投資は増加する

(貨幣・資産市場) LM は外生変数M を与えたときの、貨幣市場を均衡させる r とY との関係を示したもの

( )YrM ,= :

⇒マネー需要は金利が上昇すれば減少する。所得が増加すればマネーは増加する

(IS-LM分析) 外生変数である財政支出や貨幣供給の水準が変化したとき、GDPや利子率がどのように影響

を受けるのかをみたもの

IS-LM曲線による考え方

金利水準

実質GDP

IS曲線

LM曲線

財市場の状況を示す

Y=cY+I(r)+G

Yが大きくなる場合、右に動くYが小さくなる場合、左に動く

資産・金融市場の状況を示す

M=L(Y、r)

Mが大きくなる場合、右に動くMが小さくなる場合、左に動く

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分析道具の復習:AD-AS分析

1)総需要 AD

・物価を決定する要因をみるため、物価除きで考える

・財市場: ( ) ( ) griycy ++= ⇔ ( )( )c

griy−

×+=1

1

・資産市場: ( )yrp

M ,=

2)総供給 AS

・ 労働、資本、技術、資源など、その経済で供給可能な財・サービス

・ 労働を除き、長期的な動向で決定。労働のみ短期の動きで決定

(労働市場の決定)

・実質賃金が労働需要・供給を調整

⇒ 実質賃金=名目賃金と企業の販売する財・サービスの価格との比率

・ 実質賃金が伸縮的であれば、労働市場は完全雇用が確保できるも、現実は硬直的

賃金の下方硬直下での需給

物価水準

実質GDP

不完全雇用の部分

総需要曲線

総供給曲線

AD-AS曲線による考え方

物価水準

実質GDP

IS(財市場)とLM(資産市場)で決定。ただし、物価はY軸なので、実質。物価変動以外の要因で動くように定式化

y=c(y)+i(r)+gyが大きくなる場合、右に動く

M/p=L(r、y)M/pが大きくなる場合右に動く

生産活動を支える人、モノ、技術労働市場資本設備技術資源(石油)

改善すると、右に動く

総需要曲線総供給曲線

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1.戦後インフレ

戦後のインフレ状況

0

50

100

150

200

250

300

350

400

1940 1941 1942 1943 1944 1945 1946 1947 1948 1949 1950 1951 1952 1953 1954 1955 (年)

(昭和9-11年=1)

▲150.0%

▲100.0%

▲50.0%

0.0%

50.0%

100.0%

150.0%

200.0%

250.0%

東京小売物価指数

卸売物価指数

日銀券発行高

(出所)日銀「明治以降・本邦主要経済統計」より作成

物資の絶対的不足=供給不足・需要過多 「たけのこ生活」:エンゲル係数(1947年3月:68.9%)

(通貨供給量の膨張) 復員手当ての支払 企業の運転資金の調

達意欲拡大 家計での預貯金払戻

し増大 終戦処理費(占領軍の

占領費用)の増大 ⇒消費財を中心にインフレ

は進行

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1.戦後インフレをAD-AS曲線でみると...

供給不足 →② 国土の荒廃 国富の喪失

需要拡大 →① 財政赤字 住宅需要 復員(600余万人)需要

実質GDPY0 Y1

P0

P

AS1

一般物価水準

AS2

A

C

B

AD0

AD1

Y2

P

戦前の均衡A→戦争→Cへ: 景気悪化・インフレ

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2.インフレへの対応

マネーサプライの抑制 ←確認:MV=PT

戦後のインフレ状況

0

50

100

150

200

250

300

350

400

1940 1941 1942 1943 1944 1945 1946 1947 1948 1949 1950 1951 1952 1953 1954 1955 (年)

(昭和9-11年=1)

▲150.0%

▲100.0%

▲50.0%

0.0%

50.0%

100.0%

150.0%

200.0%

250.0%

東京小売物価指数

卸売物価指数

日銀券発行高

(出所)日銀「明治以降・本邦主要経済統計」より作成

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インフレの理論 MV=PT 貨幣数量説 ・古典派経済学の体系では全ての価格は伸縮的 ・物価水準の絶対的上昇が起こるのは真正インフレの状況であり,しかもそれは

貨幣供給量の増加が原因

マネーサプライ(M2+CD)と名目GDPとの関係

▲15.0%

▲10.0%

▲5.0%

0.0%

5.0%

10.0%

15.0%

20.0%

25.0%

30.0%

5601 6001 6401 6801 7201 7601 8001 8401 8801 9201 9601 200001 200401 200801

(四半期)

(前年比)

マネーサプライ

名目GDP

(注)マネーサプライは1956~66年まではは末残,それ以降は平残,名目GDPは1994年まで68SNA,それ以降93SNA(出所)日本銀行「金融経済統計月報」より作成

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MV=PTの意味

MV=PT; 貨幣量M,流通速度V,物価水準P,取引量T 簡単にいえば,貨幣の使用額=取引額 VとTがあまり変化しないとすれば,MとPは比例関係 (ケンブリッジ方程式) M=kpy; k=1/V(流通速度の逆数),マーシャルのk ここでkを一定とすれば,

物価上昇率は貨幣の増加率と経済成長率との差になる

yy

MM

pp

yy

pp

MM ∆

−∆

=∆

→∆

+∆

=∆

 

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3.対応策:金融緊急措置令(1946年2月17日) 5円以上の日本銀行券を預

金等として強制的預入,封鎖

新銀行券による払い出し(「新円切り替え」)

⇒旧円を担保に渡される新円は世帯主300円,家族一人当たり100円に制限.

銀行に行列する預金者の列 1946年3月4日 大阪・淀屋橋

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Mの急減→インフレの抑制

財政赤字の削減が、遅々として進まず、インフレの減速は一時的なものにとどまった

戦後インフレ・ドッジデフレ

▲50.0%

0.0%

50.0%

100.0%

150.0%

200.0%

250.0%

4708 4712 4804 4808 4812 4904 4908 4912 5004 5008 5012 5104 5108 5112 5204 5208 5212 5304 5308 5312

(前年同月比)

1950年4月▲11.8%

1947年11月193.2%

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インフレの理論(1) 1. インフレの理論的整理

(1) 定義

・ 一般物価水準の持続的な上昇のこと.

・ 相対的な価格体系を一定に保ちつつ,それらの絶対価格水準が同率で比例的に上昇する局面

⇒ 相対価格の変動はインフレではない

参考)インフレと物価水準

・ インフレ率(π )と物価水準( P )の関係は以下のとおり.

・ ( ) tt PP π+=+ 11 ⇒ 11 −= +

t

t

PP

π つまり,物価水準の変化率がインフレ率を意味する.

(2) インフレと利子率の関係 (フィッシャー方程式)

・ たとえば,5%の名目利子率 i で 100 円を1年間預ければ,1年後には 105 円(税金を考慮せず)受取る.

・ 1 年間に 10%のインフレπ が起これば,現在の 100 円は 1 年後に約 90.9 円(1.1

100= 円)となり,利子が付

いても 95.5 円( 05.11.1

100×= 円)にしかならない.100 円に 5%のマイナスの利子率が付くことになる.

・ このように,物価変動の影響を取り除いた利子率のことを実質利子率 r と呼ぶ.名目利子率 i と実質利子率

r との関係は,以下のように表現できる.

π−= ir

・ しかしながら,われわれは過去のインフレ率については知ることができても1年後のインフレ率を知ることは

できない.つまり,1年後の期待インフレ率eπ をもとに実質利子率を評価することになる.

eri π+= (フィッシャー方程式)

⇒ インフレを考える場合,期待インフレ率が重要となる

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インフレの理論(2) ただし,インフレの生成過程ではない

ディマンドプル.インフレ ・総供給を超える総需要の増加(超過需要)により,物価水準の上昇が引き起こ

される状況. ・総需要の増加: 家計の選好シフト(消費性向の上昇など)による消費増加,技

術革新による設備投資の増加,海外景気の好転による輸出増加,拡張的

財政政策,金融緩和政策,等

完全雇用状態では,物価上昇のみが生じる

⇒真性インフレ

実質GDPY0Y1

P0

P

AS0

一般物価水準

AS1

A

C

B

AD1

AD2

Y2

P

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インフレの理論(3)

コストプッシュ・インフレ ・総供給曲線の上方シフトによる物価水準の上昇のこと. ・総供給の変化: 名目賃金率の上昇,原油価格等の一次産品価格の上昇, ITなど生産性の変化

実質GDPY0Y1

P0

P1

AS0

一般物価水準

AS1

AD

A

C

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次回の講義予定

次回は, vol.3 ドッジプラン を検討します.