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Vol.58 No.3 2016 型肝炎治療€¦ · Vol.58 No.3 2016 Contents 21 特集にあたって 平松 直樹 23 C型肝炎の疫学と自然史 三田 英治 27 C型肝炎に対する抗ウイルス療法の変遷と近未来

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ContentsVol.58 No.3 2016

21 特集にあたって   平松 直樹

23 C型肝炎の疫学と自然史   三田 英治

27 C型肝炎に対する抗ウイルス療法の変遷と近未来   四柳 宏

33 C型肝炎治療ガイドラインを読み解く   平松 直樹

41 プロテアーゼ阻害薬を併用したインターフェロン療法   森川 賢一,坂本 直哉

49 わが国初のインターフェロン・フリー療法──アスナプレビル・ダクラタスビル   鈴木 文孝

55 第2世代インターフェロン・フリー療法──パリタプレビル・オムビタスビル   野村 秀幸

61 ソホスブビルを併用したインターフェロン・フリー療法 ──ソホスブビル・リバビリン,ソホスブビル・レジパスビル   黒崎 雅之,泉 並木

69 DAAに対する薬剤耐性変異の問題点と対策   飯尾 悦子,田中 靖人

75 DAAの薬物相互作用   古庄 憲浩,小川 栄一,村田 昌之

81 C型肝硬変に対する抗ウイルス療法   朝比奈靖浩

87 ウイルス排除後の肝発癌   福田 和人,今井 康陽

取 材フロントページ

9 GLを踏まえ施設環境に応じた抗がん薬曝露対策を   埼玉県立がんセンター(埼玉県北足立郡)

この人に聞く

15 高齢者の安全な薬物療法GL,薬剤師の役割はいかに?   溝神 文博氏(国立長寿医療研究センター薬剤部)

レポート

91 精神症状の背景に神経疾患がある可能性も   第28回日本サイコオンコロジー学会総会(広島県広島市)

薬 事Up-to-Date 102 海外文献紹介   門脇 大介,平田 純生/木村 利美,木村 友絵/谷知 正章

108 ニュースレター   薬剤師数は28万8,151人,2年前に比べ2.9%増/現職副会長の木平,佐藤の2氏が立候補  他

C型肝炎治療の新たな展開 インターフェロン・フリー

時代の幕開け

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Contents

ト ピックス 93 これからはじめるアンチバイオグラムの作り方

──抗菌薬適正使用の第一歩   継田 雅美,細川 泰香,石井 美帆

連 載 3 頑張る薬剤師の挑戦発掘プロジェクト![17]

診療報酬改定および通知文書からみた,薬剤師に突きつけられた医薬品適正使用と 地域医療連携を考える   飯田 純一

111 新連載 病態生理×臨床推論のクリニカルロジック[1] 腹痛のタイプによって病態がわかるってホント?   高橋 良

122 新連載 漢方薬ききめのめきき[1] 認知症およびその周辺症状に対するエビデンス ──釣藤散と抑肝散,抑肝散加陳皮半夏   新井 一郎

139 海外学会見聞録[3] がん ASCO-GI 2015   川上 和宜

143 深読み添付文書[11] 副作用にまつわる情報──つくる,つかう②   野村 香織

149 審査報告書の読み方入門講座[3] 審査報告書を実際に読んで活用する   益山 光一

155 オチる前に読む! 感染症治療のピットフォール[11] 細菌性腹膜炎のピットフォール   長谷川 豊,竹末 芳生

169 病態を正しく見抜く! 臨床検査値ケースファイル 特別編[3](完) 24歳男性 主訴:黄疸,食欲不振,全身倦怠感   村上 純子,太田 翔一,岩田健太郎

177 適応外使用の処方せんの読み方[68] 自己免疫性肝炎   藤原 豊博

183 知っ得! 薬剤師業務に活きるIT・アプリ[26] Web上での文献抄読会 薬剤師のジャーナルクラブ   石川紗耶香

その他 54 書評 曝露対策合同ガイドライン2015年版 99 書評 図解 薬理学 137 書評 これだけは押さえてほしいルール&マナー

181 『調剤と情報』今月号のお知らせ 189 愛読者アンケート&プレゼント 190 次号予告・編集部より

•本誌の年間購読を契約されている方は,ユーザー登録していただくことで,じほうの特設サイト「MagPlus」(http://magplus.jiho.jp/)から2006年~最新号までを無料で見ることができます。•登録方法の詳細はhttp://magplus.jiho.jp/common/registration.html(MagPlusのご利用について)まで。『magplus 登録』で検索しても行けます!

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GLを踏まえ施設環境に応じた抗がん薬曝露対策を 「がん薬物療法における曝露対策合同ガイドライン2015年版」が日本初の総合的な曝露対策の指針として昨年発表されたが,その内容をどれだけ遵守できるかどうかはコストの問題や各施設の置かれた環境に委ねられるのが実情だ。埼玉県立がんセンターは,2013年12月の施設移転を機に通院治療センターと薬剤部を隣接させ,外来・入院双方で効率的ながん薬物療法を実践するとともに,被曝リスクを見極め施設環境にあわせた有効な代替策を行うことで安全性の確保に努めている。

埼玉県立がんセンター (埼玉県北足立郡)

•病床数 503床•診療科 24科•薬剤師数 18名•平均外来患者数 784人 / 日•病床稼働率 66.30%•院外処方せん発行率 90.90%•外来処方せん枚数 8,490枚 / 月•入院処方せん枚数 19,107枚 / 月•抗がん薬調製件数 1,718件 / 月•薬剤管理指導業務算定件数 303件 / 月

病 院 概 要

埼玉県立がんセンター

通院治療センター(ベッド24床,チェア36床 計 60床)の様子。外来の調製枚数(平均)は1,347枚 /月

抗がん薬調製室にはクラスIIタイプB2の安全キャビネットが5台設置され,調製者と鑑査者の2人1組で調製を行う。また,製剤室・病棟にも各々1台ずつ安全キャビネットが配置されている

抗がん薬曝露の不安を訴える患者や家族に対しても配慮する必要があると話す中山氏

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─GL作成の経緯について教えていただけますか? 今回のGLは厚生労働科学研究の研究班が,日本老年医学会のGL作成ワーキンググループを兼ねる形で2013年に作成が始まりました。GLの基本的な構成は2005年版と同じですが,「在宅医療」,「介護施設の医療」,「薬剤師の役割」が新たな項として追加されました。「薬剤師の役割」が設けられたのは,高齢者の薬物療法の現状を踏まえてのことです。高齢者は多疾患を抱えるため多剤併用になりがちで,薬物有害事象の増加や医療費の増大などが懸念されています。そのため処方を常に見直し適正化する必要があるのですが,「他の医師が処方した薬剤は切りにくい」と感じる医師は多く,実際には処方の見直しが十分に行われていません。GL作成の代表者である秋

下雅弘先生(東京大学大学院医学系研究科加齢医学)をはじめGL作成メンバーは,薬剤師が医師と協働しながら処方の見直しを進めていくことに期待をもっています。

─「薬剤師の役割」にある9つのCQは,実際どのようにまとめられたのでしょうか?

 論文データベースから,pharmacist,aging,adverse drug eventなどのキーワードにより論文の一次選択を行い,さらに一次選択論文の抄録を吟味して採択論文を絞り込みました。一次選択論文は115件,採択論文は82件に上ります。採択論文についてはすべて目を通し構造化抄録を作成のうえ,エビデンスの質と推奨度を検討してCQと回答からなるサマリーをまとめました。その結果が9

溝神 文博氏M I Z O K A M I F u m i h i r o

国立長寿医療研究センター薬剤部

 日本老年医学会による『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』が2015年12月に公表された。10年ぶりの改訂となる今回のガイドライン(GL)では,高齢者の処方適正化スクリーニングツールとして「特に慎重な投与を要する薬物」と「開始を考慮するべき薬物」のリストが示されたことが大きなポイントだが,「薬剤師の役割」という項が新たに設けられたことも注目を集めている。 「薬剤師の役割」の項を担当した,GL作成研究班の研究協力者である国立長寿医療研究センター薬剤部の溝神文博氏。100件以上の論文を精査したうえで,高齢者薬物療法を安全に進めるうえで薬剤師が果たすべき役割をクリニカルクエスチョン(CQ)形式でまとめた。GL作成の背景やエビデンスの検討から浮かび上がった薬剤師の役割について話を聞いた。

高齢者の安全な薬物療法GL, 薬剤師の役割はいかに?

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 2016.2(Vol.58 No.3)── 33 (453)

C型肝炎治療の新たな展開──インターフェロン・フリー時代の幕開け

C型肝炎治療ガイドラインを読み解く

日本肝臓学会 「C型肝炎治療ガイドライン」の経緯

 2012年5月,日本肝臓学会より「C型肝炎治療ガイドライン(初版)」が発表された。2013年11月には,難治性のgenotype 1型C型肝炎に対して,インターフェロン(IFN)治療の最終型と考えられる第二世代プロテアーゼ阻害薬であるシメプレビルとペグインターフェロン(Peg-IFN)+リバビリン併用の保険承認にあわせて第2版が発表された。さらに2014年9月,日本初のIFNフリーとなる直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antiviral;DAA)である経口剤ダクラタスビル+アスナプレビルが一般臨床で使用可能となり,第3版が発表された。そして,国内臨床試験で99%のウイルス学的著効(sustained virological response;SVR)を認めた第二世代IFNフリーのソホスブビル+レジパスビル併用療法が保険承認を受けて,2015年9月に第4版が発表された。 本稿では,オムビタスビル+パリタプレビル+リトナビル併用療法を含む,2015年12月に発表された最新のC

型肝炎治療ガイドライン(第4.1版)(以下,本ガイドライン)について概説する。

C型肝炎の治療対象

 初版より第3版まで,C型肝炎に対する抗ウイルス療法の治療対象は「ALT値上昇(30U / L超)あるいは血小板数低下(血小板数15万 / µL未満)のいずれか」を満たしている症例とされていた。しかし第4版では,前述の「ALT値上昇(30U / L超)あるいは血小板数低下(血小板数15万 / µL未満)」の症例はC型肝炎に対する抗ウイルス療法の良い治療適応としている一方で,非代償性肝硬変を除くC型肝炎のすべての症例が抗ウイルス療法の治療対象となった。これは,副作用がほとんどなく100%近いSVR率を有する治療法が市販され,今後,明らかに有効性や安全性が上回る治療法の開発が現時点でないことから,症例によって治療の早急性は異なるが,当面,今後の治療まで待機すべきHCVキャリアがないと考えられることがその理由である。そのなかで「ALT低値

日日

CC

平松 直樹HIRAMATSU Naoki

大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学 准教授

 日本肝臓学会「C型肝炎治療ガイドライン」では,非代償性肝硬変を除くC型肝炎のすべての症例を抗ウイルス療法の治療対象としている。また,C型慢性肝炎・代償性肝硬変に対する治療方針は,genotype 1型では第二世代のIFNフリー治療であるソホスブビル+レジパスビル併用療法(重度腎障害なし)あるいはオムビタスビル+パリタプレビル+リトナビル併用療法(Y93変異なし)をいずれも第一選択とし,genotype 2型ではソホスブビル+レジパスビル併用療法を推奨している。いずれも国内臨床試験において高いSVR率(95%超)を認め,副作用も軽微であった。なお,現時点で非代償性肝硬変に適応がある抗ウイルス療法はなく,ALT上昇例では肝庇護療法を行う。

Key word 日本肝臓学会,C型肝炎治療ガイドライン,治療対象,治療方針,薬剤耐性変異

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112 (532) ──  2016.2(Vol.58 No.3)

学ぶ理由はここにある!!

 日本は米国と並び『CT大国』とよばれています。実に1万2,000台を超える全国導入数で,3位のブラジルの3,000台と比較すると群を抜いているのがわかります。非常に心強く見えるこの数字,医療者である皆さんはこれを「心強い」と素直に感じてしまってはいけません。わが国の医療はCTも含め「検査」に頼りすぎている感が否めません。そこに潜むピットフォールを熟知してこそ,初めて有用な検査になることを再確認しましょう。 King of commonな急性虫垂炎。CT検査の感度はどのくらいだと思いますか? さまざまな報告がありますが,感度の低いものだと50%という報告もあります。しかも,これは熟練した放射線専門医の読影の結果です…。 CT検査に関しての引用です。・ It remains an imperfect test for conditions such as appendicitis and may add little to the clinical assessment.(CT検査は虫垂炎のような病態に対しては臨床的評価に対しさらなる情報を与えるものではない)

・ Modern imaging techniques have made reluctant to explore for this condition; it is not bad medicine to resect a normal appendix when the clinical picture is suggestive.(虫垂炎診断に対するCT検査の必要性は低い。臨床的に虫垂炎であれば正常な虫垂を切除することも考慮すべきだ)

 いかがですか? 「CT検査はそこまであてにならない!」 この言葉を合言葉に腹痛診療をスタートしましょう!

 病棟で出くわす患者の急変や不調の訴え。「これって副作用? 原疾患の増悪? それとも……」。頭がモヤモヤしたままとりあえず医師を呼んだという経験,皆さんにはありませんか? こういうときにまずやるべきは,患者から正しい情報を得て問題点を整理すること。そのために必要な病態生理の知識や「聴く」テクニックを,薬剤師Loveの医師が解説します。これを知れば病棟業務の質もぐっと上がること間違いなしです! (編集部)

新連載第 1 回

高橋  良 TAKAHASHI Ryo昭和大学病院リウマチ・膠原病内科

腹痛のタイプによって病態がわかるってホント?腹痛を訴える患者に出会ったら(前編)

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Evidence of Kampo Medicines新連載

122 (542) ──  2016.2(Vol.58 No.3)

新井 一郎ARAI Ichiro

日本薬科大学漢方薬学分野 教授

 医療用漢方製剤は,この数十年の間で日本の医療のなかにずいぶんと普及しました。現在では,「ふつうの薬」として医療現場で使われています。しかし,医療用漢方製剤は,わが国における臨床経験をもとに承認された薬剤であり,治験を行っていません。1990年代以後のEBMの時代にあって治験を行っていない医療用漢方製剤はレベルの高い臨床エビデンスが不足しており,いまだに「ふつうの薬ではない」との批判も根強くあります。 EBMにおいては,試験デザインにより臨床エビデンスにグレードをつけるのが一般的であり,ランダム化比較試験(RCT)やメタアナリシスでのエビデンスが一番高く評価されます。治験を行っていない医療用漢方製剤についても,1980年代から一部の先駆者がRCTを行ってきましたが,その全貌については明らかになっていませんでした。日本東洋医学会EBM委員会では,この漢方製剤のRCTを網羅的に集め,一つひとつにつき構造化抄録を作成し,アブストラクターのコメントをつけて「漢方治療エビデンスレポート」(Evidence Reports of Kampo Treatment;EKAT)として,2007年から学会のWebサイト(http://www.jsom.or.jp/medical/ebm/er/index.html)で公開しています。現時点での最新版は2012年秋までの漢方のRCTを集めたEKAT 2013と,その後の1年分のRCTを追加したEKAT Appendix 2014です。ここには,漢方製剤の416件のRCTと2件のメタアナリシスが掲載されています。漢方製剤にも「意外とエビデンスがある」と驚かれた方もおられるかもしれません。 EKATは,1つのRCTをA4 1ページにぎゅっと凝縮し,英語論文も日本語で概要がわかるようにし,WebサイトではGoogle検索を設け,目的とするものを探しやすくしているのですが,ご存じない方も多く,残念ながらまだ十分に活用されているとはいえないのが現状です。 本連載では,EKATのなかから,代表的な漢方製剤のRCTをさらに凝縮してご紹介します。当然,エッセンスだけの記述になりますので,臨床試験全体の姿を正しく理解することはできません。本連載で興味をもたれた方は,ぜひともEKATにアクセスいただき,構造化抄録をお読みに

連載開始にあたって

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深読み 添付文書医薬品を正しく理解するために,添付文書に書かれている情報を

掘り下げて解説します

 2016.2(Vol.58 No.3)── 143 (563)

 前回は使用上の注意のうち副作用の記載について紹介するとともに,市販後に安全性情報を収集するための主な制度について紹介しました。患者さんに起こった未知の有害事象は医療機関や薬局で気づいただけでは真に医薬品との因果関係があるとは言いきれません。そもそも「因果関係」とは医薬品と有害事象とのどのような関係を指すのでしょうか。大学や卒後に「因果関係」の評価方法を習ったことがあるでしょうか。それでは行政はどのようにして因果関係があると評価できているのでしょうか。添付文書に記載されている副作用はすべて因果関係があると証明されているのでしょうか。今回はそのような視点から,情報をつくり,つかう,ということを考えてみます。

添付文書に記載されている副作用と因果関係

 副作用については多くの研究者や組織がそれぞれ定義を提案しており,世界保健機関(WHO)では1972年に「有害かつ意図されない医薬品に対する反応で,疾病の予防,診断,治療または身体的機能の修正のためにヒトに通常用いられる量で発現する作用」a)と定義しています。その後,2000年にLancetに発表された定義b)も国際的なファーマコビジランス研究者の間で知られています。いずれも,原因と結果を示唆する言葉で表現されています(表1波線部)。一方,日米EU医薬品規制調和国

際会議(ICH)ではこれが「疑われる」と表現されており(表1太字部分)c),規制上,安全対策措置を検討するために疑い症例を含めて幅広く情報収集しようとする姿勢がうかがえます。 さて,因果関係は,ある事象とある事象との間に生じている原因と結果の関係です。つまり医薬品Aと事象Xとの間に原因と結果の関係があれば,事象Xは医薬品Aを原因とする副作用であるといえます。医薬品Aのほかに事象Xが起きた原因が明確な場合,事象Xは医薬品Aによる副作用ではありません。また,因果関係がはっきりしない場合,事象Xは有害事象であっても副作用とはいえませんし,「副作用の疑い」(suspected adverse

副作用にまつわる情報──つくる,つかう②野村 香織NOMURA Kaori東京慈恵会医科大学

11第 回

表1 さまざまな副作用(adverse drug reaction)の定義

・ Any response to a drug which is noxious and unintended, and which occurs at doses normally used in man for the prophylaxis, diagnosis, or therapy of disease, or for the modifications of physiological function.(WHO, 1972)

・ An appreciably harmful or unpleasant reaction, resulting from an intervention related to the use of a medicinal product, which predicts hazard from future administration and warrants prevention or specific treatment, or alteration of the dosage regimen, or withdrawal of the product.(Edwards and Aronson, 2000)

・ A reaction, in contrast to an event, is characterized by the fact that a causal relationship between the drug and the occurrence is suspected.(ICH, 2008)

a) WHO:International drug monitoring:the role of national centres. Report of a WHO meeting. World Health Organ Tech Rep Ser, 498:1-25, 1972

b) Edwards IR, Aronson JK:Adverse drug reactions:definitions, diagnosis, and management. Lancet, 356:1255-1259, 2000c) ICH:Post-approval safety data management:Definitions and standards for expedited reporting(E2D)

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監修竹末芳生(兵庫医科大学感染制御学 主任教授)編集吉岡睦展(宝塚市立病院 地域医療連携部 地域医療室)

“感染症治療のピットフォール” は,抗菌化学療法認定薬剤師 認定学術集会の「薬剤師抗菌化学療法実践教育プログラム」の実務委員が執筆するものであり,同プログラムで症例検討された内容が中心になっています。これは関西にある虎の巻病院の感染制御チーム(ICT)でのお話です。今年からICTに参加した新人薬剤師君はピットフォール(落とし穴)につまずきそうになりながらも,指導薬剤師と一緒に,医師から受ける感染症治療の相談に日々奮闘していきます。

登場人物

研修医

新人薬剤師

指導薬剤師

 2016.2(Vol.58 No.3)── 155 (575)

ケース1 難易度★☆☆

胆囊炎に尿中排泄型の抗菌薬は無効?患者背景 57歳,女性,主訴:右季肋部痛,職業:専業主婦,既往歴:特記なし,現病歴:昨日から発熱と右季肋部痛で入院が必要なほどの重篤な腹痛があった。入院時発熱があったため一般血液検査,尿検査,尿培養,血液培養2セットを採取した。胸部レントゲンでは腹部にフリーエアがなかった。  白血球 12,000個 / µL,CRP 6.2mg / dL,AST 113U / L,ALT 108U / L,BUN 20.5mg / dL,血清クレアチニン 0.6mg / dL,体温 37.8℃,体重 67kg,血培は2セットとも陰性,アレルギー歴はなかった。

長谷川 豊 HASEGAWA Yutaka神鋼記念病院薬剤室

細菌性腹膜炎のピットフォール第11回