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Web ベースコミュニケーションシステムにおける建築設計教育支援 -協調設計支援及びシステムの検証と提案- 建設工学専攻(修士課程) 505003 飯島 いいじま たか ひろ 建築設計情報研究 指導教員 衣袋 洋一 1.はじめに 建築設計を行うプロセスでは,あるプロジェクトを遂行す るために,法的な制約や施主の要求等,初期条件として既に存 在する情報から,敷地環境から読み取った情報,設計者の提案, エスキス等,プロジェクトの進行と共に随時生成・更新してい く情報まで多種多様な情報を扱っていく必要がある.よって 情報化社会と呼ばれる今日においては,建築設計を「莫大な情 報群を収集,評価,取捨選択,決定といった一連の作業を繰り 返しながら,最適解を模索する高度な編集作業」として捉える ことが出来る.特にグループワークの様に多人数が参加する 建築設計プロセスでは,情報量が一層増し複雑化することか ら,情報の編集作業を行う合意形成過程の重要性が増すと考 えられる. 2.研究背景 1990 年代に始まった情報通信技術の発展とコンピュータ 技術との融合は,メンバー間に存在していた時間と空間のギ ャップを埋めることで,協調設計活動を支援するシステムを 生み出す契機となった.教育的視点から注目した大きな流れ として,MIT の W.J.Mitchell 教授等のグループにより提唱さ れたヴァーチャル・デザイン・スタジオ(以下 VDS)の概念 があげられる.VDS ジオ内で共同作業を行うことを可能にす るというものである.現在 VDS の概念に触発され様々な大学 で遠隔地協調設計研究として行われている.衣袋研究室にお いても,1998年度から継続的な研究・開発が続けられている. 3.研究目的 多数の主体が参加する協調設計は,設計者が設計をまとめ あげていくプロセスだけでなく,様々な主体がお互いにコミ ュニケートし,設計における合意形成をしていくプロセスと して理解できる. 本論は,WLS を用いた協調設計プロセスにおいて,複雑化す る情報群の整理,開示,共有を支援する機能を新たに WLS へ導 入,授業内で実践することで NC の更なる円滑化を図ると共に, 効率の良い NC のあり方について明らかにし設計教育効果を 一層高めることを目的とする. 4.Web Learning Studio 「Web Learning Studio」とは, 「教える教育」から「学ぶ 教育」への転換を図るべく,衣袋研究室において開発された VDS の基本原則である,「いつでも」「だれでも」「どこからで も」,「セキュリティ確保」,「実際の運営の検討」を守り, システムの汎用化が図られているコミュニケーションツー ル・ネットワークコラボレーションツールである. 4.1. 経緯 年度 研究内容 1998 html を主体とした VDS を構築.各学年のホームページ上に html 形 式で図面,テキストをアップロードする. 1999 Microsoft 社の Active Sever Page を導入した VDS.画像ファイルの アップロードを行うだけで Web ページが自動生成される. 2000 外部者参加型設計教育システムとして,管理面,インターフェイス, 閲覧方法など見直しを図る.提案とレスポンスを 1 つの流れに収め, 作品の生成過程が理解しやすいものとなり,個人設計においては一 定の水準に達した. 2001 リアルタイム/非リアルタイム・分散型コラボレーションシステム として,遠隔地間のグループワークをサポートするコミュニケーシ ョンツールのひとつである「チャット」を組み込む. 2002 遠隔地非常勤講師の採用に伴い,コミュニケーション環境,知識の 共有環境,知識の整理/分類環境の充実を図る.必要な機能の洗練 化,再構築を行い,「Web Learning Studio(以下 WLS)」として個人 設計・グループワークを支援するコミュニケーションツールを実現 する. 2003 WLS を利用した新たな教育形態の充実に視点が向けられる.個人設 計では「Web Design office」,グループワークでは「ブレインライ ティング」を実践する. 2004 グループワークにおけるリーダーの必要性に注目し,意思決定との 関係について分析,有効なコラボレーションのあり方を模索. 2005 設計教育プログラムの更なる改善により,NC システムとの連携によ る「設計教育システム」のプロトタイプとして完成したといえる. 4.2. 2005 年度 Web Learning Studio 概要及び特徴 「Web Learning Studio」の特筆すべき特徴として,以下の 7 点が挙げられる. ・思考の連続性 ・ログの有効性 ・汎用システムの構築 ・外部閲覧者と参加者 ・遠隔地非常勤講師 ・管理体制の強化 ・守秘機能 5.Web Learning Studio と支援機能 5.1. 支援機能とは 支援機能とは,建築設計プロセスの各フローにおいて必要 とされる設計行為を,「拡張」「誘導」する機能の総称であり, WLS のサブシステムとして導入される. <設計プロセスにおける設計行為の分類> R.D.Watts の『デザインプロセスモデル及 び,MarvinL.Manheim の『基本‘基本問題解’単位』を参考に, 設計プロセスにおいて必要とされる各設計行為をそれぞれ 「情報の開示」「情報の共有」「情報の整理」「発想」「評価」 へ分類,支援機能との関連を探った. <支援フィロソフィー> WLS へ支援機能を導入することで,設計行為における特定部 分の自動化或いは誘導化が図れ,ネットワークコラボレーシ ョンをより円滑にすることが推測出来る.しかし一方で,主体 はシステムに依存した形で設計を行うことから,支援機能が 主体の創造行為を阻害する恐れもある.特定行為の自動化, 誘導化を推し進めつつも設計主体が意思決定すべき箇所は残 すといった, 双方のバランスを考慮した支援機能の提案, 構築 を行う必要がある. 5.2. 2005 年度支援機能の現状と分類 2005年度 WLSに導入されている支援機能は以下 3つである. ・データベース機能(1999 年度導入) 設計を行う際に有用な情報を提供するために導入. ・Clip 機能(2001 年度導入) 時間の経過と共に膨大な量となっていく情報を,グルー プ内で積極的に共有・整理を行うために導入. ・BW 機能(2002 年度導入) 方針決定・初期イメージ創出等を決定する初期段階にお いて,個人の独自性を生かしつつブレインストーミング の長所を生かした発想支援システムとして導入. 6.本支援機能の提案 6.1. 2005 年度授業形態 成果と問題点 2005 年度,「居住環境デザイン演習」(3 年次・前期)の第 二課題において,新たな教育形態として導入した『Web Design office』及び『フロー型教育』を実施した.また,2004 年度 の反省を踏まえ,個人の発想及び成果を重視し,初期のテーマ の設定までは GW で行テーマから具体的なイメージ作成やそ の後の建築設計,図面作成にする段階から個人で行い,成果物 も各個人で提出させる教育プログラムへ変更して実施された. 問題点として, (1)個人のみ所有する情報及びデータの発生 (2)欠落する画像の発生 (3)決定案の未選出 の 3 点が挙げられた. 6.2. 問題点の考察と本支援機能の提案 上記問題点を,それぞれ建築設計プロセスにおける設計行 為のどの部分に該当するかを分析し 2005 年度 WLS に照らし合 わせる事で,WLS における原因・問題点を抽出する.それらを 技術的に解決するための支援機能を構築・導入を図り問題解 決を目指す.以下に上記項目をそれぞれ分類した表を記す. 問題 該当する設計行為 2005 年度 WLS に おける問題点 導入する 支援機能 具体的解決策 (1) 情報の 開示・共有 インターフェ イスが無い リソース 機能 インターフ ェイスの作

Webベースコミュニケーションシステムにおける建築設計教育 ... · 2007. 1. 15. · Webベースコミュニケーションシステムにおける建築設計教育支援

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Page 1: Webベースコミュニケーションシステムにおける建築設計教育 ... · 2007. 1. 15. · Webベースコミュニケーションシステムにおける建築設計教育支援

Web ベースコミュニケーションシステムにおける建築設計教育支援 -協調設計支援及びシステムの検証と提案-

建設工学専攻(修士課程) 505003 飯島いいじま

貴たか

広ひろ

建築設計情報研究 指導教員 衣袋 洋一

1.はじめに

建築設計を行うプロセスでは,あるプロジェクトを遂行す

るために,法的な制約や施主の要求等,初期条件として既に存

在する情報から,敷地環境から読み取った情報,設計者の提案,

エスキス等,プロジェクトの進行と共に随時生成・更新してい

く情報まで多種多様な情報を扱っていく必要がある.よって

情報化社会と呼ばれる今日においては,建築設計を「莫大な情

報群を収集,評価,取捨選択,決定といった一連の作業を繰り

返しながら,最適解を模索する高度な編集作業」として捉える

ことが出来る.特にグループワークの様に多人数が参加する

建築設計プロセスでは,情報量が一層増し複雑化することか

ら,情報の編集作業を行う合意形成過程の重要性が増すと考

えられる.

2.研究背景

1990 年代に始まった情報通信技術の発展とコンピュータ

技術との融合は,メンバー間に存在していた時間と空間のギ

ャップを埋めることで,協調設計活動を支援するシステムを

生み出す契機となった.教育的視点から注目した大きな流れ

として,MIT の W.J.Mitchell 教授等のグループにより提唱さ

れたヴァーチャル・デザイン・スタジオ(以下 VDS)の概念

があげられる.VDS ジオ内で共同作業を行うことを可能にす

るというものである.現在 VDS の概念に触発され様々な大学

で遠隔地協調設計研究として行われている.衣袋研究室にお

いても,1998 年度から継続的な研究・開発が続けられている.

3.研究目的

多数の主体が参加する協調設計は,設計者が設計をまとめ

あげていくプロセスだけでなく,様々な主体がお互いにコミ

ュニケートし,設計における合意形成をしていくプロセスと

して理解できる.

本論は,WLS を用いた協調設計プロセスにおいて,複雑化す

る情報群の整理,開示,共有を支援する機能を新たに WLS へ導

入,授業内で実践することで NC の更なる円滑化を図ると共に,

効率の良い NC のあり方について明らかにし設計教育効果を

一層高めることを目的とする.

4.Web Learning Studio

「Web Learning Studio」とは, 「教える教育」から「学ぶ

教育」への転換を図るべく,衣袋研究室において開発された

VDS の基本原則である,「いつでも」「だれでも」「どこからで

も」,「セキュリティ確保」,「実際の運営の検討」を守り,

システムの汎用化が図られているコミュニケーションツー

ル・ネットワークコラボレーションツールである.

4.1. 経緯 年度 研究内容

1998 html を主体とした VDS を構築.各学年のホームページ上に html 形

式で図面,テキストをアップロードする.

1999 Microsoft 社の Active Sever Page を導入した VDS.画像ファイルの

アップロードを行うだけで Web ページが自動生成される.

2000

外部者参加型設計教育システムとして,管理面,インターフェイス,

閲覧方法など見直しを図る.提案とレスポンスを 1 つの流れに収め,

作品の生成過程が理解しやすいものとなり,個人設計においては一

定の水準に達した.

2001

リアルタイム/非リアルタイム・分散型コラボレーションシステム

として,遠隔地間のグループワークをサポートするコミュニケーシ

ョンツールのひとつである「チャット」を組み込む.

2002

遠隔地非常勤講師の採用に伴い,コミュニケーション環境,知識の

共有環境,知識の整理/分類環境の充実を図る.必要な機能の洗練

化,再構築を行い,「Web Learning Studio(以下 WLS)」として個人

設計・グループワークを支援するコミュニケーションツールを実現

する.

2003

WLS を利用した新たな教育形態の充実に視点が向けられる.個人設

計では「Web Design office」,グループワークでは「ブレインライ

ティング」を実践する.

2004 グループワークにおけるリーダーの必要性に注目し,意思決定との

関係について分析,有効なコラボレーションのあり方を模索.

2005 設計教育プログラムの更なる改善により,NC システムとの連携によ

る「設計教育システム」のプロトタイプとして完成したといえる.

4.2. 2005 年度 Web Learning Studio 概要及び特徴

「Web Learning Studio」の特筆すべき特徴として,以下の

7 点が挙げられる.

・思考の連続性 ・ログの有効性

・汎用システムの構築 ・外部閲覧者と参加者

・遠隔地非常勤講師 ・管理体制の強化

・守秘機能

5.Web Learning Studio と支援機能

5.1. 支援機能とは

支援機能とは,建築設計プロセスの各フローにおいて必要

とされる設計行為を,「拡張」「誘導」する機能の総称であり,

WLS のサブシステムとして導入される.

<設計プロセスにおける設計行為の分類>

R.D.Watts の『デザインプロセスモデル及

び,MarvinL.Manheim の『基本‘基本問題解’単位』を参考に,

設計プロセスにおいて必要とされる各設計行為をそれぞれ

「情報の開示」「情報の共有」「情報の整理」「発想」「評価」

へ分類,支援機能との関連を探った.

<支援フィロソフィー>

WLS へ支援機能を導入することで,設計行為における特定部

分の自動化或いは誘導化が図れ,ネットワークコラボレーシ

ョンをより円滑にすることが推測出来る.しかし一方で,主体

はシステムに依存した形で設計を行うことから,支援機能が

主体の創造行為を阻害する恐れもある.特定行為の自動化,

誘導化を推し進めつつも設計主体が意思決定すべき箇所は残

すといった,双方のバランスを考慮した支援機能の提案 ,構築

を行う必要がある.

5.2. 2005 年度支援機能の現状と分類

2005年度 WLSに導入されている支援機能は以下3つである.

・データベース機能(1999 年度導入)

設計を行う際に有用な情報を提供するために導入.

・Clip 機能(2001 年度導入)

時間の経過と共に膨大な量となっていく情報を,グルー

プ内で積極的に共有・整理を行うために導入.

・BW 機能(2002 年度導入)

方針決定・初期イメージ創出等を決定する初期段階にお

いて,個人の独自性を生かしつつブレインストーミング

の長所を生かした発想支援システムとして導入.

6.本支援機能の提案

6.1. 2005 年度授業形態 成果と問題点

2005 年度,「居住環境デザイン演習」(3 年次・前期)の第

二課題において,新たな教育形態として導入した『Web Design

office』及び『フロー型教育』を実施した.また,2004 年度

の反省を踏まえ,個人の発想及び成果を重視し,初期のテーマ

の設定までは GW で行テーマから具体的なイメージ作成やそ

の後の建築設計,図面作成にする段階から個人で行い,成果物

も各個人で提出させる教育プログラムへ変更して実施された.

問題点として,

(1)個人のみ所有する情報及びデータの発生

(2)欠落する画像の発生

(3)決定案の未選出

の 3 点が挙げられた.

6.2. 問題点の考察と本支援機能の提案

上記問題点を,それぞれ建築設計プロセスにおける設計行

為のどの部分に該当するかを分析し 2005年度 WLSに照らし合

わせる事で,WLS における原因・問題点を抽出する.それらを

技術的に解決するための支援機能を構築・導入を図り問題解

決を目指す.以下に上記項目をそれぞれ分類した表を記す. 問題

点該当する設計行為

2005 年度 WLS に

おける問題点

導入する

支援機能 具体的解決策

(1)情報の

開示・共有

インターフェ

イスが無い

リソース

機能

インターフ

ェイスの作

Page 2: Webベースコミュニケーションシステムにおける建築設計教育 ... · 2007. 1. 15. · Webベースコミュニケーションシステムにおける建築設計教育支援

(2) 情報の整理 各ページに

関連性が無い

リソース

機能

データを集

約したペー

ジの作成

埋没する

イメージ

サムネイル

機能

イメージの

常時表示

・評価基準が無

・埋没する評価

イメージ

評価機能

・評価基準

を内蔵のイ

ンターフェ

イスを作成

・評価の常

時表示

(3)

同じメディア上で

データを共有化し

ながら特定の基準

に基づき各イメー

ジの評価を行い,

評価結果から決定

案を選出する. ミーティング

後,決定案を

特定しづらい

決定案機能

・決定案の

視覚化

・決定案選

出の誘導

*問題点(3)は「サムネイル機能」,「イメージ評価機能」「決定案

機能」の 3 機能を併用することで解決する.

6.3. 各支援機能の概説

(1) リソース機能

リソースとは,エスキス

図面,参考画像,敷地に関

する情報,スタディーした

データ等といった設計プ

ロセスで作成・参照される

全てのデータを指し,それ

らは設計プロセスを進め

ていくうちに種類と数が

量的に増加・複雑化してい

く.その中にはグループ全

体で共有するというよりも,むしろ自分の発想を支援する「私

的」なデータが存在する.2005 年度 WLS には,リソースを扱

うページが幾つか用意されているが各ページに関連性が無く,

リソース全体を体系的に扱うことが出来ない.よって「プロ

セスの変化を把握しづらい」,「思考の連続性が絶たれる」と

いった問題点が生じている.また,「私的」なデータを掲載す

るためのスペースは用意されておらず,グループ全体でデー

タを共有することが出来ていない.

リソース機能を導入することで,各ページで扱われている

データ郡に関連付けを行いグループメンバー同士でデータの

共有化を促し,設計プロセスや思考の変化を把握することが

出来る.また,「私的」なデータを掲載する余地を与えること

で,個人だけが所有するデータを防止,情報の開示を促す.そ

の他の特徴として,「検索機能」,「時系列による表示」があ

り,それぞれ情報の共有,整理を支援する.

(2) サムネイル機能

2005 年度 WLS に導

入されているチャッ

ト機能は,テキスト

による発言とイメー

ジによる発言が用い

られ,双方は同等の

レベルで扱われ,発

言表示スペース内に

おいて同じ時系列上

で表示されている.

結果,イメージ発言

はミーティングを進

行していくにつれテ

キスト発言と共に発言表示スペースの下部へ埋まってしまい,

過去のイメージ発言にアクセスしづらいという問題が生じて

いる.

サムネイル機能を導入することで,テキストの発言とイメ

ージ発言を表示する場所を分離させ常にイメージが表示出来

る環境を提供する.その結果,個々のイメージを評価しながら

対話する事が可能となり,対話すべき内容も明確化する.

(3) イメージの評価機能

合意形成過程において各メンバーの提案を評価する行為は,

意思決定のための判断基準となる.2005 年度 WLS には,メン

バーの提案を評価する場としてチャットページが提供されて

いるものの,評価基準がミーティング毎に変化してしまい,か

つ,評価に関する情報もミー

ティングを進行していくに

つれて他の情報に埋もれて

しまうことから,各イメージ

を比較・評価しながらミーテ

ィングを行うことが出来ず,

評価が有的に行われていな

いと言える.

イメージの評価機能を導

入することで,各イメージへ統一された評価基準を用いて評

価することが出来る.評価した提案のサムネイルに評価が表

示される.結果,複数の提案をメンバー全員の意思疎通を図り

ながら決定案を絞り込むことが可能となる.

(4) 決定案機能

グループ全員の合意に基づいて決定案を選出することは,

次のステップへ移るための動機となる.協調設計においては,

設計プロセスの中で最も困難な行為であり,かつ重要な行為

でもある.2005 年度 WLS では,ミーティング上でメンバー間

の合意形成が行われ決定案を選出していた.しかし決定案を

視覚化するインエーフェイスが無かったことから,ミーティ

ングを振り返った際にどの提案が決定案であるかが特定しづ

らいという問題があった.決定案機能を導入することで上記

問題点を解決できると共に,決定案選出を誘発する.

7.建築設計授業での実践と検証

7.1. 提案の実践

(1) 2006 年度建築設計リテラシー

上述の各支援機能を WLS へ導入し,2006 年度「建築設計リ

テラシー」(2 年後期 選択)第 8 課題グループワークにおい

て実践した.

7.2. 提案の検証

アンケートや各種分析項目を基に本支援機能の有効性につ

いて検証し,建築設計教育における NC の展開のあり方につい

て考察を行う.(2007 年 1 月 14 日現在で,未だ課題実施期間

中であることからデータの抽出は行えない.本論にて掲載す

ることとする.)

8.新たな展開

8.1. 次期バージョンの開発

第7章の考察及び,過去のエラーやユーザーの要望から導

き出した「One User / One License」「My Page」「スケジュー

ルホーム」といった各種キーワードを基に,次期バージョンの

開発への足掛かりとなるモデルを提案する.

8.2. 講評会

Web ベースコミュニケーションシステムを用いた事例とし

て,ネットワークカメラによるリアルタイム映像配信と,P2P

技術による IP 電話を用いた,研究室と遠隔地アドバーザー間

における同期・非同室で双方向型の環境モデルを提案した.

2005 年度「居住環境デザイン演習」の講評会より実践を重ね,

遠隔地のアドバーザーとのインタラクティブなコミュニケー

ションをとれることを実証した.

9.おわりに

本年度の実践を通して,本支援機能が設計行為の各段階に

おいて有効に作用し,協調設計における NC をより円滑にする

ことが分かった.今後も Web ベース型のコミュニケーション

システムの構築と実践を繰り返していくことで,互いに目的

を共有し,刺激し合えるような教育現場としての環境作りを

目指していく.

<参考文献>

日本建築学会(編):「設計方法Ⅵ 設計方法論」 彰国社 1981

日本建築学会(編):「設計方法Ⅴ 設計方法と設計主体」 彰国社 1989

日本建築学会(編):「建築情報用語辞典」 鹿島出版会 2003

衣袋洋一他:日本建築学会第 20~29 回情報システム技術シンポジウム論文

導入箇所

【リソース機能】

【サムネイル機能・イメージ評価機能・決定案機能】

【評価されたイメージ】

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