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アガルートアカデミー行政書士試験 総合講義 民法

⑷ 94条2項の類推適用

ア 権利外観法理虚偽の外観作出について帰責性がある者は、当該外観を正当な

理由で信頼した者に対して、外観どおりの責任を負うという理論を「権利外観法理」という。94条2項は、権利外観法理の現れの一つといえる。

そこで、判例は、厳密な意味での虚偽表示にあたらない場合でも、一定の要件を満たすときは、取引の安全を確保するために、94条2項を類推適用する(最判昭45.9.22)。具体的には、①虚偽の外観の存在、②外観作出への帰責性、③虚偽の外観への信頼があれば、虚偽の外観を作出した者は責任を負うことになる。

判例 最判昭45.9.22

Bは、Aの不動産の登記を勝手にB名義にしたうえ、Cに譲渡し登記を移転した。そこで、AがCに対し、登記の抹消登記手続を求めた事案である。なお、Aは、Bが勝手に登記名義を移したことを知りながら、4年間に渡って登記を抹消せずに放置し、その間Aの債務を担保するためにB名義のままその不動産に根抵当を設定していた。

争点

不実の所有権移転登記の経由が所有者の不知の間になされた場合でも、94条2項を類推適用することはできないか。

判旨

不実の所有権移転登記の経由が所有者の不知の間になされた場合でも、「不実の登記のされていることを知りながら、これを存続せしめることを明示または黙示に承認していたとき」は、94条2項が類推適用され、AはCに対して、Bが所有権を取得していないことを対抗できない、と判示した。

判例 最判昭45.11.19

Aは、自己所有の土地をBに売却したが、その際、A・Bが依頼・指示した司法書士が、Bの不注意もあって、Bが当該土地に担保権( Ex �抵当権)を設定したかのような登記を

CHECK

「登記」とは

一定の事項(例えば、不動産の権利の変動)を広く社会に公示するために公開される公簿のこと、またはその公簿に記載をすることをいいます。

第1編 民法総則第6章 意思表示

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行ったところ、その外形を信頼してCがAから所有権を譲り受けた。

争点

真の権利者に帰責性が弱い場合にまで、94条2項を類推適用することができるのか。

判旨

判例は、Bが担保権者であるかのような虚偽の外観はBの意思に基づくものであるとしたうえで、Bは、善意・無過失のCに対して抵当権者ではないということを主張しえないと判示した。

イ 本人が虚偽の外観の作出を承認していない場合本人が虚偽の外観の作出を承認していない場合であっても、自

ら外観作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視しうるほど重い帰責性が本人に認められる場合、94条2項、110条の類推適用により、本人は善意無過失の第三者に対し、実体の不存在を主張できないとした判例がある(最判平18.2.23)。

判例 最判平18.2.23

不動産の所有者Xから当該不動産の賃貸に係る事務や他の土地の所有権移転登記手続を任せられていたAが、Xから交付を受けた当該不動産の登記済証等を利用して当該不動産につきAへの不実の所有権移転登記を了し、AからYに所有権移転登記がなされた。そこでXがYに対して所有権移転登記の抹消登記を請求した事案である。本件では、①特段の理由なく本件不動産の登記済証(俗に言う権利書)を預け、Aのいうままに印鑑登録証明書を交付し、不動産を売却する意思がないにもかかわらず、Aに言われるままにAに本件不動産を売り渡す旨の売買契約書に署名押印した、②AがXの面前で登記申請書にXの実印を押捺したのにその内容を確認することなく、これを見ていたなどの事情があった。

争点

本人が虚偽の外観の作出を承認していない場合であっても、実体の不存在を主張することができないのか。

CHECK

最判昭45.11.19では、第三者に善意・無過失を要求しています。この事案では、真の権利者(所有者)であるBは、所有権保全の仮登記のための書類であると思って司法書士に手続を依頼しており、担保権設定の登記という外観の作出を意図したわけではありません。そこで、真の権利者の帰責性が弱いと考えられることとの均衡上、第三者保護のための要件を加重したのです。

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判旨

上記事情からすると、「Xの帰責性の程度は、自ら外観の作出に積極的に関与した場合やこれを知りながらあえて放置した場合と同視し得るほど重いものというべきである。そして、…Yは、Aが所有者であるとの外観を信じ、また、そのように信じることについて過失がなかったというのであるから、民法94条2項、110条の類推適用により、Xは、Aが本件不動産の所有権を取得していないことをYに対し主張することはできない」とした。

3 錯誤(95条)

⑴ 意義錯誤とは、表意者の意思と表示に不一致があるが、表意者がその

ことを知らない場合である(いわゆる勘違い)。このような場合、表意者保護のため、意思表示は無効とされる(95条本文)。

⑵ 分類錯誤は、①表示上の錯誤、②内容の錯誤、③動機の錯誤に分類さ

れる。

表示上の錯誤

表示行為自体を誤った場合⇒ 10円と言うべきところを100円と言い誤った場合

内容の錯誤

効果意思と表示意思に食い違いがある場合⇒ 1ドルで買うつもりだったが、ドルとポンドが同価値であ

ると誤解し、1ポンドと表示した場合

動機の錯誤

意思表示そのものではなく、意思形成過程としての動機の点に錯誤がある場合。内心的効果意思と表示に不一致はない

⑶ 要件・効果

要件

① 法律行為に錯誤があること

② 錯誤が要素に関するものであること(要素の錯誤)

③ 表意者に重大な過失がないこと

効果 無効

⑷ 要件②について(「要素の錯誤」であること)

ア 要素の錯誤とは要素の錯誤とは、法律行為の重要な部分についての錯誤のこと

をいう。判例は、錯誤がなければ表意者のみならず一般人もその意思表示をしなかったであろうと考えられる場合をいうとしてい


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